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特開2024-171218有機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171218
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/18 20230101AFI20241204BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20241204BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20241204BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20241204BHJP
   H10K 101/40 20230101ALN20241204BHJP
   H10K 101/20 20230101ALN20241204BHJP
【FI】
H10K50/18
H10K50/16
H10K50/15
H10K85/60
H10K101:40
H10K101:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088178
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】森本 京
(72)【発明者】
【氏名】垣添 勇人
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC21
3K107DD58
3K107DD66
3K107DD71
3K107DD74
3K107DD78
3K107FF00
(57)【要約】
【課題】素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供すること。
【解決手段】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極、陰極、および発光層を含む少なくとも一層の有機層を有するものであり、さらに、陽極と発光層の間に、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料を含む電子障壁層を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極の間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極と前記発光層の間に、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料を含む電子障壁層を有する、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極の間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記発光層の間に、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含む正孔障壁層を有する、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記陰極と前記発光層の間に、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含む正孔障壁層をさらに有する、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電子障壁材料の電気双極子モーメントと前記正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和が3.00D未満である、請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記電子障壁材料の電気双極子モーメントと前記正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和が2.00D未満である、請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記電子障壁材料がカルバゾール環を含む、請求項1および3~5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記電子障壁材料がジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環を含む、請求項1および3~5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記電子障壁材料がベンゾフロ縮合カルバゾール環またはベンゾチエノ縮合カルバゾール環を含む、請求項1および3~5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記電子障壁材料がカルバゾール環と、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環とを含む、請求項1および3~5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記カルバゾール環と、前記ジベンゾフラン環または前記ジベンゾチオフェン環とが、置換もしくは無置換のフェニレン基で連結している、請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記置換もしくは無置換のフェニレン基が、置換もしくは無置換のm-フェニレン基である、請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記置換もしくは無置換のフェニレン基が、置換もしくは無置換のp-フェニレン基である、請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記フェニレン基とは別に、前記カルバゾール環、前記ジベンゾフラン環および前記ジベンゾチオフェン環のうちの少なくとも1つの環に置換もしくは無置換のアリール基が結合している、請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記発光層に遅延蛍光材料を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極の間に陽極側から電子障壁層、発光層および正孔障壁層を順に含む有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法であって、
前記電子障壁層が、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料を含み、
前記正孔障壁層が、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含むように設計する、有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法。
【請求項16】
複数種の材料の電気双極子モーメントをデータとして格納したデータベースから、電気双極子モーメントが3.08D未満である材料を検索し、前記検索でヒットした材料の群の中から、有機発光素子に用いる電子障壁材料を選択する工程と、
前記データベースから、電気双極子モーメントが6.51D未満である材料を検索し、前記検索でヒットした材料の群の中から、有機発光素子に用いる正孔障壁材料を選択する工程と、
前記工程で選択した前記電子障壁材料と前記正孔障壁材料を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を設計する工程を含む、請求項15に記載の設計方法。
【請求項17】
陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極の間に陽極側から電子障壁材料を含む電子障壁層、発光層および正孔障壁材料を含む正孔障壁層を順に含む有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法であって、
前記電子障壁材料の電気双極子モーメントと前記正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和が3.00D未満となるように設計する、有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法。
【請求項18】
複数種の材料の電気双極子モーメントをデータとして格納したデータベースから、電気双極子モーメントの和が3.00D未満になる2種類の材料を検索し、前記検索でヒットした材料の組み合わせの群の中から、有機発光素子に用いる電子障壁材料と正孔障壁材料を選択する工程と、
前記工程で選択した前記電子障壁材料と前記正孔障壁材料を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を設計する工程を含む、請求項17に記載の設計方法。
【請求項19】
請求項15~18のいずれか1項に記載の方法を実施するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子、その設計方法、および、その設計方法を実施するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の発光効率を高める研究が盛んに行われている。その中には、電子障壁層や正孔障壁層を用いて発光効率を向上させた有機エレクトロルミネッセンス素子に関する研究も見受けられる。ここで、電子障壁層および正孔障壁層は、発光層に存在する電子や正孔が発光層の外側に拡散することを阻止するための層であり、発光層での電子と正孔の再結合の確率が高くして発光効率の向上を図ろうとするものである。
例えば、こうした有機エレクトロルミネッセンス素子の電子障壁層の材料として、下記化合物を用いることが提案されている(特許文献1参照)
【0003】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2023/053835A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、ジベンゾフリル基とジフェニルカルバゾリル基を有する化合物を電子障壁層の材料に用いることが提案されている。しかし、本発明者らが、この電子障壁材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子について特性を評価したところ、素子寿命に改善の余地があることが判明した。
【0006】
そこで、本発明者らは、電子障壁層や正孔障壁層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、電子障壁層や正孔障壁層に電気双極子モーメントが特定の範囲内にある化合物を用いることにより、素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供できることを見いだした。本発明はこうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。
【0008】
[1] 陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極の間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陽極と前記発光層の間に、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料を含む電子障壁層を有する、有機エレクトロルミネッセンス素子。
[2] 陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極の間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陰極と前記発光層の間に、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含む正孔障壁層を有する、有機エレクトロルミネッセンス素子。
[3] 前記陰極と前記発光層の間に、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含む正孔障壁層をさらに有する、[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[4] 前記電子障壁材料の電気双極子モーメントと前記正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和が3.00D未満である、[3]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[5] 前記電子障壁材料の電気双極子モーメントと前記正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和が2.00D未満である、[3]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[6] 前記電子障壁材料がカルバゾール環を含む、[1]および[3]~[5]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[7] 前記電子障壁材料がジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環を含む、[1]および[3]~[6]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[8] 前記電子障壁材料がベンゾフロ縮合カルバゾール環またはベンゾチエノ縮合カルバゾール環を含む、[1]および[3]~[7]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[9] 前記電子障壁材料がカルバゾール環と、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環とを含む、[1]および[3]~[8]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[10] 前記カルバゾール環と、前記ジベンゾフラン環または前記ジベンゾチオフェン環とが、置換もしくは無置換のフェニレン基で連結している、[9]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[11] 前記置換もしくは無置換のフェニレン基が、置換もしくは無置換のm-フェニレン基である、[10]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[12] 前記置換もしくは無置換のフェニレン基が、置換もしくは無置換のp-フェニレン基である、[10]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[13] 前記フェニレン基とは別に、前記カルバゾール環、前記ジベンゾフラン環および前記ジベンゾチオフェン環のうちの少なくとも1つの環に置換もしくは無置換のアリール基が結合している、[10]~[12]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[14] 前記発光層に遅延蛍光材料を含む、[1]~[13]のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[15] 陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極の間に陽極側から電子障壁層、発光層および正孔障壁層を順に含む有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法であって、前記電子障壁層が、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料を含み、前記正孔障壁層が、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含むように設計する、有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法。
[16] 複数種の材料の電気双極子モーメントをデータとして格納したデータベースから、電気双極子モーメントが3.08D未満である材料を検索し、前記検索でヒットした材料の群の中から、有機発光素子に用いる電子障壁材料を選択する工程と、前記データベースから、電気双極子モーメントが6.51D未満である材料を検索し、前記検索でヒットした材料の群の中から、有機発光素子に用いる正孔障壁材料を選択する工程と、前記工程で選択した前記電子障壁材料と前記正孔障壁材料を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を設計する工程を含む、[15]に記載の設計方法。
[17] 陽極、陰極、および前記陽極と前記陰極の間に陽極側から電子障壁材料を含む電子障壁層、発光層および正孔障壁材料を含む正孔障壁層を順に含む有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法であって、前記電子障壁材料の電気双極子モーメントと前記正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和が3.00D未満となるように設計する、有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法。
[18] 複数種の材料の電気双極子モーメントをデータとして格納したデータベースから、電気双極子モーメントの和が3.00D未満になる2種類の材料を検索し、前記検索でヒットした材料の組み合わせの群の中から、有機発光素子に用いる電子障壁材料と正孔障壁材料を選択する工程と、
前記工程で選択した前記電子障壁材料と前記正孔障壁材料を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を設計する工程を含む、[17]に記載の設計方法。
[19] [15]~[18]のいずれか1項に記載の方法を実施するためのプログラム。
【発明の効果】
【0009】
本発明にしたがって電気双極子モーメントが特定の範囲内にある電子障壁材料や正孔障壁材料を用いることにより、素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。また、本発明の設計方法によれば、素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電子障壁材料の電気双極子モーメントとLT95の関係を示すグラフである。
図2】正孔障壁材料の電気双極子モーメントとLT95の関係を示すグラフである
図3】有機エレクトロルミネッセンス素子の発光強度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本願において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本願において「からなる」とは、「からなる」の前に記載されるもののみからなり、それ以外のものを含まないことを意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の一部または全部は重水素原子(H、デューテリウムD)に置換することができる。本明細書の化学構造式では、水素原子はHと表示しているか、その表示を省略している。例えばベンゼン環の環骨格構成炭素原子に結合する原子の表示が省略されているとき、表示が省略されている箇所ではHが環骨格構成炭素原子に結合しているものとする。本明細書にて「置換基」という用語は、水素原子および重水素原子以外の原子または原子団を意味する。一方、「置換もしくは無置換の」「置換されていてもよい」という表現は、水素原子が重水素原子または置換基で置換されていてもよいことを意味する。また、本発明における「透明」とは、可視光の透過率が50%以上であることをいい、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは99%以上である。可視光の透過率は紫外・可視分光光度計により測定することができる。
【0012】
<有機エレクトロルミネッセンス素子>
以下において、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の第1構成と第2構成についてそれぞれ説明する。
第1構成の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極、陰極、および陽極と陰極の間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、陽極と発光層の間に、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料を含む電子障壁層を有する。
本発明における「電子障壁層」は、発光層に存在する電子が、発光層よりも陽極側の層に拡散することを阻止できる層を意味する。電子障壁層を有することにより、発光層中に電子が滞留し易くなり、電子と正孔(キャリア)の再結合の確率を高めることができる。
本発明では、こうした電子障壁層に用いる電子障壁材料の電気双極子モーメントを3.08D未満に規定する。電気双極子モーメントは、分子中における電荷の偏り度合を示すものである。この値が大きいほど電荷の偏り度合いが大きいことを意味する。「電気双極子モーメント」は、量子化学計算B3LYP/6-31G*の分子軌道計算により求める。
本発明では、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料、すなわち、電荷の偏り度合が比較的小さい電子障壁材料を用いることにより、発光強度の経時変化が抑えられ、素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。これは、以下の理由によるものと推測される。
すなわち、電子障壁層は、陽極側から電子障壁層に注入された正孔を発光層側に輸送して発光層に注入する機能も担う。ここで、電子障壁層から発光層への正孔注入は、電子障壁材料の電気双極子モーメントが大きいほど進みやすい傾向があり、キャリア再結合領域の位置はより陰極側になる。一方、電子障壁層を有する素子の連続駆動では、駆動時間が累積するにつれて電子障壁材料が徐々に劣化し、その分子サイズや荷電状態に変化をきたす。このとき、電気双極子モーメントが元々大きい電子障壁材料は、こうした分子サイズや荷電状態の変化に起因した電気双極子モーメントの変化の度合いが大きいため、その影響を受けてキャリア再結合領域の位置も大きくシフトし、発光特性の経時変化も大きいと考えられる。これに対して、本発明では、電気双極子モーメントが3.08D未満の電子障壁材料を用いているため、駆動時間の累積によって電子障壁材料がある程度劣化しても、その電気双極子モーメントの変化の度合いが小さい。そのため、キャリア再結合領域が大きく変動せず、発光強度の経時変化も小さく抑えられると推測される。
【0013】
第1構成の有機エレクトロルミネッセンス素子は、さらに、陰極と発光層の間に、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含む正孔障壁層を有することが好ましい。
本明細書中における「正孔障壁層」は、発光層に存在する正孔が、発光層よりも陰極側の層に拡散することを阻止できる層を意味する。電子障壁層とともに正孔障壁層を設けることにより、発光層中に電子と正孔が共に滞留し易くなり、電子と正孔の再結合の確率をより高くすることができる。そして、この正孔障壁層の材料として、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を用いると発光強度の経時変化がより確実に抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の素子寿命をより向上させることができる。電子障壁層と正孔障壁層を設ける構成では、電子障壁材料の電気双極子モーメントと正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和が3.00D未満であることが好ましく、2.00D未満であることがより好ましい。電気双極子モーメントの和が3.00D未満になる材料の組み合わせとして、後掲の実施例で使用している化合物EB1と化合物HB1~HB4のいずれかの組み合わせ、化合物EB2と化合物HB1~HB4のいずれかの組み合わせ、化合物EB3と化合物HB1~HB4のいずれかの組み合わせ、化合物EB5と化合物HB3またはHB4の組み合わせ、化合物EB6と化合物HB1~HB4のいずれかの組み合わせを挙げることができる。電気双極子モーメントの和が2.00D未満になる材料の組み合わせとして、化合物EB1と化合物HB2~HB4のいずれかの組み合わせ、化合物EB2と化合物HB2~HB4のいずれかの組み合わせ、化合物EB3と化合物HB3またはHB4の組み合わせ、化合物EB6と化合物HB2~HB4の組み合わせを挙げることができる。ここで、化合物EB1~EB3、EB5、EB6は電子障壁材料であり、化合物HB1~HB4は正孔障壁材料である。ただし、本発明で採用しうる電子障壁材料と正孔障壁材料の組み合わせは、これらの具体例により限定的に解釈されることはない。
【0014】
次に、本発明の第2構成の有機エレクトロルミネッセンス素子について説明する。第2構成の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極、陰極、および陽極と陰極の間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、陰極と発光層の間に、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含む正孔障壁層を有する。
正孔障壁層および電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料の説明については、上記の第1構成で必要に応じて設けられる「正孔障壁層」についての記載を参照することができる。第2構成の有機エレクトロルミネッセンス素子は、正孔障壁材料の電気双極子モーメントが比較的小さいことにより、正孔障壁材料の劣化に起因したキャリア再結合領域のシフトが小さく抑えられると考えられ、長い素子寿命を示す。
第2構成の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と発光層の間に、電子障壁層を有していてもよいし、有していなくてもよい。電子障壁層を有する場合、その材料には、公知の電子障壁材料の中から適宜選択して用いることができる。
【0015】
以下において、本発明の第1構成で用いる電子障壁材料、および、本発明の第1構成および第2構成で用いる正孔障壁材料について詳細に説明する。
【0016】
(電子障壁材料)
本発明の第1構成では、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料を用いる。電子障壁材料の電気双極子モーメントは、好ましくは2.20D未満であり、より好ましくは1.25D未満であり、さらに好ましくは1.00D未満である。
本発明で用いる電子障壁材料は、電気双極子モーメントが3.08D未満であるとともに、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギーの絶対値が発光層の材料よりも小さいことが好ましい。これにより、発光層に存在する電子が、発光層よりも陽極側の層へ拡散することを効果的に阻止することができる。具体的には、電子障壁材料のLUMOのエネルギーの絶対値は、発光層のLUMOのエネルギーの絶対値と下記の関係を満たすことが好ましい。
|LUMO|EB<|LUMO|EM-α
式において、|LUMO|EBは、電子障壁材料のLUMOのエネルギーの絶対値を表し、|LUMO|EMは、発光層の材料のLUMOのエネルギーの絶対値を表し、単位はそれぞれeVである。αは0.64以上の数を表し、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.94以上である。発光層が発光材料のみからなる場合、発光材料のLUMOのエネルギーの絶対値が|LUMO|EMに該当し、発光層が複数の材料を含む場合、電子伝導を担っている材料のLUMOのエネルギーの絶対値が|LUMO|EMに該当する。例えば発光層が発光材料(遅延蛍光材料)とホスト材料を含む場合、発光材料(遅延蛍光材料)のLUMOのエネルギーの絶対値が|LUMO|EMに該当する。
本明細書中において、LUMOのエネルギーは、測定対象の材料を含む薄膜の吸収ピーク端から電子エネルギーを算出し、大気中において光電子収集分光法で算出したHOMOのエネルギーとの差を計算することにより求められる。
【0017】
本発明で用いる電子障壁材料は、例えばカルバゾール環を含む化合物群の中から選択することができる。電子障壁材料が含むカルバゾール環は、別の環が縮合して縮合多環構造を形成していてもよい。カルバゾール環に縮合する環の説明と好ましい範囲、具体例については、下記の一般式(1)のR11とR12等が互いに結合して形成する環状構造についての記載を参照することができる。以下の説明では、別の環が縮合していないカルバゾール環を「非縮合カルバゾール環」といい、別の環が縮合しているカルバゾール環を「縮合カルバゾール環」ということがある。縮合カルバゾール環の好ましい例として、ベンゾフロ縮合カルバゾール環およびベンゾチエノ縮合カルバゾール環を挙げることができる。ベンゾフロ縮合カルバゾール環において、ベンゾフロ構造の縮合位置は、カルバゾール環の1,2-位、2,3-位、3,4-位のいずれであってもよい。ベンゾチエノ縮合カルバゾール環において、ベンゾチエノ構造の縮合位置は、カルバゾール環の1,2-位、2,3-位、3,4-位のいずれであってもよい。
カルバゾール環を含む化合物の例として、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。本発明の一態様では、下記一般式(1)で表される化合物群の中から電子障壁材料を選択する。
【0018】
【化2】
【0019】
一般式(1)において、R1aは置換基を表し、R11~R18は各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。R11~R18は互いに同一であっても異なっていてもよい。
1aが表す置換基は、好ましくは置換もしくは無置換のアリール基であり、より好ましくは置換もしくは無置換のフェニル基である。アリール基およびフェニル基の置換基の好ましい例として、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環を含む基や非縮合カルバゾール環を含む基を挙げることができ、置換もしくは無置換のジベンゾフリル基、置換もしくは無置換のジベンゾチエニル基であることが好ましい。ジベンゾフリル基は、ジベンゾフラン-1-イル基、ジベンゾフラン-2-イル基、ジベンゾフラン-3-イル基、ジベンゾフラン-4-イル基のいずれであってもよく、好ましくはジベンゾフラン-2-イル基である。ジベンゾチエニル基は、ジベンゾチオフェン-1-イル基、ジベンゾチオフェン-2-イル基、ジベンゾチオフェン-3-イル基、ジベンゾチオフェン-4-イル基のいずれであってもよく、好ましくはジベンゾチオフェン-2-イル基である。ジベンゾフリル基およびジベンゾチエニル基の置換基として、下記の置換基群Bの基を挙げることができ、好ましくは置換もしくは無置換のアリール基(置換基は、例えば置換基群Bの基)であり、より好ましくは炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基である。本発明の好ましい一態様では、R1aは、置換もしくは無置換のジベンゾフラン-2-イル基で置換されたフェニル基であり、より好ましくは置換もしくは無置換のアリール基で置換されたジベンゾフラン-2-イル基で置換されたフェニル基であるか、無置換のジベンゾフラン-2-イル基で置換されたフェニル基である。また、本発明の好ましい一態様では、R1aは、置換もしくは無置換のジベンゾチオフェン-2-イル基で置換されたフェニル基であり、より好ましくは置換もしくは無置換のアリール基で置換されたジベンゾチオフェン-2-イル基で置換されたフェニル基であるか、無置換のジベンゾチオフェン-2-イル基で置換されたフェニル基である。
11~R18が採りうる置換基として、下記の置換基群Bの基を挙げることができ、好ましくはアリール基(例えば炭素数6~10)およびカルバゾリル基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基である。本発明の一態様では、R11~R18は水素原子、重水素原子、炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基である。本発明の好ましい一態様では、R13およびR16の一方が炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基であり、他方が水素原子または重水素原子である。本発明のより好ましい一態様では、R11~R18のうち、R13およびR16の一方のみが炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基であり、残りが水素原子または重水素原子である。本明細書中における「炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基」は、例えば2つ以上のアリール基を単結合で連結した構造を有する基であり、具体例としてビフェニル基やターフェニル基が挙げられる。
11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR17、R17とR18は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。互いに結合して形成する環状構造は芳香環であっても脂肪環であってもよく、またヘテロ原子を含むものであってもよく、さらに環状構造は2環以上の縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。形成される環状構造の例として、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イミダゾリン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、シクロヘキサジエン環、シクロヘキセン環、シクロペンタエン環、シクロヘプタトリエン環、シクロヘプタジエン環、シクロヘプタエン環、フラン環、チオフェン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノリン環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環などを挙げることができ、特に好ましいのは、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環である。一般式(1)で表される基に含まれる環の数は3~5の範囲内から選択してもよく、5~7の範囲内から選択してもよい。
【0020】
一般式(1)で表される化合物の好ましい例として、下記一般式(2)~(7)のいずれかで表される化合物を挙げることができる。
【0021】
【化3】
【0022】
一般式(2)~(7)において、R2a~R7aは置換基を表し、R21~R80は各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。R21~R80は互いに同一であっても異なっていてもよい。R2a~R7aが表す置換基の好ましい範囲と具体例については、上記の一般式(1)のR1aについての記載を参照することができる。R21~R80が採りうる置換基として、下記の置換基群Bの基を挙げることができ、好ましいのは炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基である。X~Xは、酸素原子または硫黄原子を表す。本発明の一態様では、X~Xは酸素原子である。本発明の一態様では、X~Xは硫黄原子である。
本発明の好ましい一態様では、一般式(2)で表される化合物群の中から電子障壁材料を選択する。ここでは、R28およびR29の少なくとも一方が炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基であることが好ましく、R28が炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基であることがより好ましい。R21~R30のうち、炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基であるものを除いた残りは、水素原子または重水素原子であることが好ましい。
【0023】
一般式(1)で表される化合物の例として、下記式で表される化合物も挙げることができる。下記式は、一般式(1)のR1aを除いた構造(置換もしくは無置換の非縮合カルバゾリル基、置換もしくは無置換の縮合カルバゾリル基)を具体的に表したものであるが、本発明で採用しうる置換もしくは無置換の非縮合カルバゾリル基、置換もしくは無置換の縮合カルバゾリル基はこれらの具体例により限定的に解釈されることはない。下記式において、Rは置換基を表す。Rが表す置換基の好ましい範囲と具体例については、上記の一般式(1)のR1aについての記載を参照することができる。
【0024】
【化4】
【0025】
電子障壁材料が分子内に含むカルバゾール環の数は、1つであっても2つ以上であってもよい。電子障壁材料が分子内に2つ以上のカルバゾール環を含むとき、それらのカルバゾール環は、別の環の縮合の有無、縮合している別の環の種類が互いに同一であっても異なっていてもよい。本発明の一態様では、分子内に1つのカルバゾール環を含む化合物群の中から電子障壁材料を選択する。本発明の一態様では、分子内に2つ以上のカルバゾール環を含む化合物群の中から電子障壁材料を選択し、好ましくは、分子内に2つまたは3つのカルバゾール環を含む化合物群の中から電子障壁材料を選択する。本発明の好ましい一態様では、分子内に1つのベンゾフロ縮合カルバゾール環または1つのベンゾチエノ縮合カルバゾール環を含む化合物群の中から電子障壁材料を選択する。
【0026】
本発明で用いる電子障壁材料は、例えばジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環を含む化合物群の中から選択することもできる。本明細書中における「ジベンゾフラン環」および「ジベンゾチオフェン環」には、縮合カルバゾール環内に含まれる「ジベンゾフラン環」(ジベンゾフラン単位)、「ジベンゾチオフェン環」(ジベンゾチオフェン単位)は含まれない。したがって、例えばベンゾフロ縮合カルバゾール環内に含まれるジベンゾフラン単位や、ベンゾチエノ縮合カルバゾール環内に含まれるジベンゾチオフェン単位は、ここでの「ジベンゾフラン環」、「ジベンゾチオフェン環」に該当しない。
ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環を含む化合物の例として、下記一般式(8)で表される化合物を挙げることができる。本発明の一態様では、下記一般式(8)で表される化合物群の中から電子障壁材料を選択する。
【0027】
【化5】
【0028】
一般式(8)において、R81~R88は各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表し、R81~R88の少なくとも1つは置換基である。R81~R88の少なくとも1つは置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましく、置換もしくは無置換のフェニル基であることがより好ましい。アリール基およびフェニル基の置換基の好ましい例として、カルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)を含む基を挙げることができる。カルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)を含む基のカルバゾール環の説明については、上記の「カルバゾール環を含む化合物」の「カルバゾール環」についての記載を参照することができる。カルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)を含む基の例としては、上記の一般式(1)~(7)のいずれかで表される構造の、R1a~R7a、Rにおける「置換基」を「結合位置」に置き換えた1価の基を挙げることができる。
本発明の一態様では、一般式(8)のR81がカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)を含む基で置換されたフェニル基である。本発明の一態様では、一般式(8)のR82がカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)を含む基で置換されたフェニル基である。本発明の好ましい一態様では、一般式(8)のR83がカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)を含む基で置換されたフェニル基である。本発明の一態様では、一般式(8)のR84がカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)を含む基で置換されたフェニル基である。R81~R88のうち、カルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)を含む基で置換されたフェニル基であるものを除いた残りは、全てが水素原子または重水素原子であってもよいし、少なくとも1つが置換基であってもよい。置換基として、下記の置換基群Bの基を挙げることができ、好ましくは置換もしくは無置換のアリール基(置換基は、例えば置換基群Bの基)、より好ましくは炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基である。本発明の好ましい一態様では、一般式(8)のR83がカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)を含む基で置換されたフェニル基であり、R86が炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基である。
【0029】
電子障壁材料が分子内に含むジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環の数は、1つであっても2つ以上であってもよい。本発明の一態様では、分子内に1つのジベンゾフラン環を有する化合物群の中から電子障壁材料を選択する。本発明の一態様では、分子内に2つ以上のジベンゾフラン環を有する化合物群の中から電子障壁材料を選択し、好ましくは、分子内に2つまたは3つのジベンゾフラン環を有する化合物群の中から電子障壁材料を選択する。本発明の一態様では、分子内に1つのジベンゾチオフェン環を有する化合物群の中から電子障壁材料を選択する。本発明の一態様では、分子内に2つ以上のジベンゾチオフェン環を有する化合物群の中から電子障壁材料を選択し、好ましくは、分子内に2つまたは3つのジベンゾチオフェン環を有する化合物群の中から電子障壁材料を選択する。
【0030】
本発明で用いる電子障壁材料は、好ましくはカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環とを分子内に含む化合物群の中から選択する。カルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)の説明については、上記の「カルバゾール環を含む化合物」の「カルバゾール環」についての記載を参照することができる。化合物の例としては、例えば一般式(1)~(7)で表される化合物のうち、R1a~R7a、Rがジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環を含む基で置換されたフェニル基であるものを挙げることができ、一般式(8)で表される化合物のうち、R81~R88の少なくとも1つがカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)を含む基で置換されたフェニル基であるものも挙げることができる。
電子障壁材料がカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環を分子内に含むとき、分子内に含まれる各環の数は、それぞれ1つであっても2つ以上であってもよい。
本発明の好ましい一態様では、電子障壁材料は、1つのカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、1つのジベンゾフラン環を分子内に含む。本発明の一態様では、電子障壁材料は、2つ以上のカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、1つのジベンゾフラン環を分子内に含み、好ましくは2つまたは3つのカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、1つのジベンゾフラン環を分子内に含む。本発明の一態様では、電子障壁材料は、1つのカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、2つ以上のジベンゾフラン環を分子内に含み、好ましくは1つのカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、2つまたは3つのジベンゾフラン環を分子内に含む。本発明の一態様では、電子障壁材料は、2つ以上のカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、2つ以上のジベンゾフラン環を分子内に含み、好ましくは2つまたは3つのカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、2つまたは3つのジベンゾフラン環を分子内に含む。
本発明の好ましい一態様では、電子障壁材料は、1つのカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、1つのジベンゾチオフェン環を分子内に含む。本発明の一態様では、電子障壁材料は、2つ以上のカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、1つのジベンゾチオフェン環を分子内に含み、好ましくは2つまたは3つのカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、1つのジベンゾチオフェン環を分子内に含む。本発明の一態様では、電子障壁材料は、1つのカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、2つ以上のジベンゾチオフェン環を分子内に含み、好ましくは1つのカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、2つまたは3つのジベンゾチオフェン環を分子内に含む。本発明の一態様では、電子障壁材料は、2つ以上のカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、2つ以上のジベンゾチオフェン環を分子内に含み、好ましくは2つまたは3つのカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、2つまたは3つのジベンゾチオフェン環を分子内に含む。
【0031】
本発明で用いる電子障壁材料は、より好ましくはカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環とが、置換もしくは無置換のフェニレン基で連結している構造を有する化合物群の中から選択する。フェニレン基は、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基のいずれであってもよい。好ましくは1,3-フェニレン基(m-フェニレン基)または1,4-フェニレン基(p-フェニレン基)であり、より好ましくは1,3-フェニレンである。フェニレン基の置換基としては、下記置換基群Bの基を挙げることができ、好ましくは炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基である。カルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)におけるフェニレン基への結合位置は、N位(カルバゾール環における9位)であることが好ましい。また、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環におけるフェニレン基への結合位置は1~4位のいずれであってもよいが、2位であることが好ましい。また、カルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環とが、置換もしくは無置換のフェニレン基で連結している構造では、フェニレン基とは別に、カルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)、ジベンゾフラン環およびジベンゾチオフェン環のうちの少なくとも1つの環に置換もしくは無置換のアリール基が結合していることが好ましく、少なくともカルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)に置換もしくは無置換のアリール基が結合していることがより好ましい。置換もしくは無置換のアリール基は、好ましくは置換基群Bの基で置換されていてもよいアリール基(例えば炭素数6~30)であり、より好ましくは炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基である。
カルバゾール環(非縮合カルバゾール環または縮合カルバゾール環)と、ジベンゾフラン環またはジベンゾチオフェン環とが、置換もしくは無置換のフェニレン基で連結している化合物の好ましい例として、下記一般式(9)で表される化合物を挙げることができ、より好ましい一態様として、下記一般式(10)で表される化合物を挙げることができる。
【0032】
【化6】
【0033】
一般式(9)、(10)において、R11~R18、R21~R30、R81、R82、R84~R88は各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。R11~R18の説明については、上記の一般式(1)のR11~R18についての記載を参照することができ、R21~R30の説明については、上記の一般式(7)のR21~R30についての記載を参照することができ、R81、R82、R84~R88の説明については、上記の一般式(8)のR81、R82、R84~R88についての記載を参照することができる。R101は重水素原子または置換基を表し、n101は0~4のいずれかの整数を表す。XおよびXは酸素原子または硫黄原子を表す。本発明の一態様では、XおよびXは酸素原子である。本発明の一態様では、XおよびXは硫黄原子である。XまたはXを有する縮合環基(ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基)は、フェニレン基の3位または4位に結合していることが好ましく、3位に結合していることがより好ましい。
一般式(9)で表される化合物では、R11~R18、R81、R82、R84~R88の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましく、一般式(10)で表される化合物では、R21~R30、R81、R82、R84~R88の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましい。一般式(9)および(10)における置換もしくは無置換のアリール基は、好ましくは置換基群Bの基で置換されていてもよいアリール基(例えば炭素数6~30)であり、より好ましくは炭素数6~10のアリール基、または炭素数6~10のアリール基の2つ以上を組み合わせた基からなる群より選択される基である。
本発明の好ましい一態様では、電子障壁材料は一般式(9)で表され、R11~R18の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアリール基である化合物である。ここでは、R13およびR16の一方が置換もしくは無置換のアリール基であり、他方が水素原子または重水素原子であることが好ましく、R11~R18のうち、R13およびR16の一方のみが置換もしくは無置換のアリール基であり、残りが全て水素原子または重水素原子であることがより好ましい。
本発明の一態様では、電子障壁材料は一般式(9)で表され、R81、R82、R84~R88の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアリール基である化合物である。ここでは、R86が置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましく、R11~R18のうち、R86のみが置換もしくは無置換のアリール基であり、残りが全て水素原子または重水素原子であることがより好ましい。
本発明の好ましい一態様では、電子障壁材料は一般式(10)で表され、R21~R30の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアリール基である化合物である。ここでは、R28およびR29の少なくとも一方が置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましく、R28が置換もしくは無置換のアリール基であることがより好ましい。また、R21~R30のうち置換もしくは無置換のアリール基であるものを除いた残りは、水素原子または重水素原子であることが好ましい。
本発明の一態様では、電子障壁材料は一般式(10)で表され、R81、R82、R84~R88の少なくとも1つが置換もしくは無置換のアリール基である化合物である。ここでは、R86が置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましく、R11~R18のうち、R86のみが置換もしくは無置換のアリール基であり、残りが全て水素原子または重水素原子であることがより好ましい。
【0034】
以下に、電子障壁材料として用いうる化合物の具体例を挙げるが、本発明で電子障壁材料に用いることができる化合物はこれらの具体例により限定的に解釈されることはない。
【0035】
【化7】
【0036】
(正孔障壁材料)
本発明の好ましい一態様では、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を用いる。正孔障壁材料の電気双極子モーメントは、好ましくは2.00D未満であり、より好ましくは1.00D未満であり、特に好ましくは0.50D未満である。
本発明で用いる正孔障壁材料は、電気双極子モーメントが6.51D未満であるとともに、HOMOのエネルギーの絶対値が発光層の材料よりも大きいことが好ましい。これにより、発光層中の正孔が、該発光層よりも陰極側の層へ拡散することを効果的に阻止することができる。具体的には、正孔障壁材料のHOMOのエネルギーの絶対値は、発光層のHOMOのエネルギーの絶対値と下記の関係を満たすことが好ましい。
|HOMO|EM+α<|HOMO|HB
式において、|HOMO|HBは、正孔障壁材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギーの絶対値を表し、|HOMO|EMは、発光層の材料のHOMOのエネルギーの絶対値を表し、単位はそれぞれeVである。αは-0.13以上の数を表し、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.37以上である。発光層が発光材料のみからなる場合、発光材料のHOMOのエネルギーの絶対値が|HOMO|EMに該当し、発光層が発光材料とホスト材料を含む場合、ホスト材料のHOMOのエネルギーの絶対値が|HOMO|EMに該当する。
本明細書中において、HOMOのエネルギーは、大気中における光電子収集分光法で求められる。
【0037】
本発明で用いる正孔障壁材料は、例えば6員環の窒素含有芳香族ヘテロ環(以下、「窒素含有芳香族ヘテロ6員環」という)を含む化合物群の中から選択することができる。窒素含有芳香族ヘテロ6員環の例として、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環を挙げることができる。トリアジン環は、1,2,3-トリアジン環、1,2,4-トリアジン環、1,3,5-トリアジン環のいずれであってもよく、好ましいのは1,3,5-トリアジン環である。
【0038】
窒素含有芳香族ヘテロ6員環を含む化合物の例として、下記一般式(11)で表される化合物を挙げることができる。本発明の一態様では、一般式(11)で表される化合物群の中から正孔障壁材料を選択する。
【0039】
【化8】
【0040】
一般式(11)において、R91~R93は各々独立に置換基を表し、A~Aは各々独立にNまたはC(R94)を表し、R94は水素原子、重水素原子または置換基を表す。A~Aの少なくとも1つはNである。R91~R93は互いに同一であっても異なっていてもよい。一般式(11)で表される構造がR94を複数有するとき、複数のR94は互いに同一であっても異なっていてもよい。
91~R93が表す置換基は、好ましくは置換もしくは無置換のアリール基であり、より好ましくは置換もしくは無置換のフェニル基である。アリール基およびフェニル基の置換基として、置換基群Aや置換基群Dの基を挙げることができ、好ましくはベンゼン環を2個以上含む縮合環(以下、「縮合芳香環」という)を含む基である。縮合芳香環の説明については、下記の「ベンゼン環を2個以上含む縮合環(縮合芳香環)を含む化合物」における「縮合芳香環」についての記載を参照することができる。縮合芳香環を含む基の例として、縮合芳香環から1つの水素原子を除いた1価の基や、2つ以上の縮合芳香環を単結合で連結した連結構造から1つの水素原子を除いた1価の基を挙げることができる。また、下記の「縮合芳香環を含む化合物の例」を表す各式の、Rにおける「置換基」を「結合位置」に置き換えた1価の基を、縮合芳香環を含む基の具体例として挙げることができる。
本発明の一態様では、R91~R93のうちの1つが縮合芳香環基を含む基で置換されたフェニル基であり、残りの2つが無置換のフェニル基である。本発明の好ましい一態様では、X~XがNであって、R91~R93のうちの1つが縮合芳香環基を含む基で置換されたフェニル基であり、残りの2つが無置換のフェニル基である。本発明の一態様では、R91~R93のうちの2つが縮合芳香環基を含む基で置換されたフェニル基であり、残りの1つが無置換のフェニル基である。本発明の好ましい一態様では、X~XがNであって、R91~R93のうちの2つが縮合芳香環基を含む基で置換されたフェニル基であり、残りの1つが無置換のフェニル基である。
【0041】
正孔障壁材料が分子内に含む窒素含有芳香族ヘテロ6員環の数は、1つであっても2つ以上であってもよい。正孔障壁材料が分子内に2つ以上の窒素含有芳香族ヘテロ環を含むとき、それらの窒素含有芳香族ヘテロ環は互いに同一であっても異なっていてもよい。本発明の一態様では、分子内に1つの窒素含有芳香族ヘテロ6員環を含む化合物群の中から正孔障壁材料を選択する。本発明の一態様では、分子内に2つ以上の窒素含有芳香族ヘテロ6員環を含む化合物群の中から正孔障壁材料を選択し、好ましくは、分子内に2つまたは3つの窒素含有芳香族ヘテロ6員環を含む化合物群の中から正孔障壁材料を選択する。
【0042】
本発明で用いる正孔障壁材料は、例えばベンゼン環を2個以上含む縮合環(縮合芳香環)を含む化合物群の中から選択することもできる。
縮合芳香環はベンゼン環のみを構成環とするものであってもよいし、ベンゼン環以外の環を構成環として含むものであってもよい。縮合芳香環を構成するベンゼン環以外の構成環は、芳香環および脂肪環のいずれであってもよく、ヘテロ原子を含むものであってもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子または硫黄原子であることが好ましい。縮合芳香環が含むベンゼン環の数は2~5であることが好ましく、例えば2または3を選択することができる。縮合芳香環を構成している環の数は、2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。縮合芳香環の具体例として、ナフタレン環、フルオレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環を挙げることができる。
正孔障壁材料が分子内に含む縮合芳香環の数は、1つであっても2つ以上であってもよい。正孔障壁材料が分子内に2つ以上の縮合芳香環を含むとき、それらの縮合芳香環は互いに同一であっても異なっていてもよい。2つ以上の縮合芳香環は、例えば単結合で連結した連結構造をとることができる。連結する縮合芳香環の数は、好ましくは2~5つ、より好ましくは2つまたは3つである。好ましい連結構造の例として、ナフタレン環とアントラセン環が単結合で連結した構造が挙げられる。本発明の一態様では、分子内に1つの縮合芳香環を含む化合物群の中から正孔障壁材料を選択する。本発明の一態様では、分子内に2つ以上の縮合芳香環を含む化合物群の中から正孔障壁材料を選択し、好ましくは、分子内に2つまたは3つの縮合芳香環を有する化合物群の中から正孔障壁材料を選択する。本発明の好ましい一態様では、ナフタレン環とアントラセン環が単結合で連結した構造を有する化合物群の中から正孔障壁材料を選択する。
【0043】
縮合芳香環を含む化合物の例として、下記式で表される化合物を挙げることができる。本発明の一態様では、下記式で表される化合物群の中から正孔障壁材料を選択する。下記式において、Rは置換基を表す。Rが表す置換基は、好ましくは置換もしくは無置換のアリール基であり、より好ましくは置換もしくは無置換のフェニル基である。フェニル基の置換基は、窒素含有芳香族ヘテロ6員環を含む基(例えば窒素含有芳香族ヘテロ6員環から水素原子を1つ除いた1価の基)や、上記の縮合芳香環を含む基(例えば縮合芳香環から水素原子を1つ除いた1価の基)であることが好ましい。窒素含有芳香族ヘテロ6員環の説明については、上記の窒素含有芳香族ヘテロ6員環を含む化合物における「窒素含有芳香族ヘテロ6員環」についての記載を参照することができる。下記式における縮合芳香環、Rが採りうる縮合芳香環を含む基および窒素含有芳香族ヘテロ6員環を含む基の少なくとも1つの水素原子は置換基で置換されていてもよい。置換基として、置換基群Aや置換基群Dの基を挙げることができ、縮合芳香環基を含む基や、縮合芳香環を含む基で置換されたフェニル基であることが好ましい。
【0044】
【化9】
【0045】
本発明で用いる正孔障壁材料は、好ましくは窒素含有芳香族ヘテロ6員環と、縮合芳香環とを分子内に含む化合物群の中から選択する。窒素含有芳香族ヘテロ6員環の説明については、上記の窒素含有芳香族ヘテロ6員環を含む化合物における「窒素含有芳香族ヘテロ6員環」についての記載を参照することができ、縮合芳香環の説明については、上記のベンゼン環を2個以上含む縮合環(縮合芳香環)を含む化合物における「縮合芳香環」についての記載を参照することができる。化合物の例としては、上記の一般式(11)で表される化合物のうち、R91~R93が置換もしくは無置換のフェニル基であって、R91~R93の1つまたは2つにおけるフェニル基の置換基が、縮合芳香環を含む基であるものを挙げることができる。
本発明の一態様では、正孔障壁材料は、1つの窒素含有芳香族6員環と1つの縮合芳香環を分子内に含む。本発明の一態様では、正孔障壁材料は、1つの窒素含有芳香族6員環と2つ以上の縮合芳香環を分子内に含み、より好ましくは、1つの窒素含有芳香族6員環と2つまたは3つの縮合芳香環を分子内に含む。
【0046】
本発明で用いる正孔障壁材料は、より好ましくは窒素含有芳香族ヘテロ6員環に縮合芳香環が置換もしくは無置換のフェニレン基で連結している構造を有する化合物群の中から選択する。縮合芳香環が置換もしくは無置換のフェニレン基で連結する数は、1つの窒素含有芳香族ヘテロ6員環に対して1つまたは2つであることが好ましい。フェニレン基は、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基のいずれであってもよい。好ましくは1,3-フェニレン基または1,4-フェニレン基である。また、窒素含有芳香族ヘテロ6員環の環骨格構成炭素原子の少なくとも1つには、縮合芳香環を連結するフェニレン基とは別に、置換もしくは無置換のフェニル基が結合していることが好ましく、無置換のフェニル基が結合していることがより好ましい。
窒素含有芳香族ヘテロ6員環に縮合芳香環が置換もしくは無置換のフェニレン基で連結している構造を有する化合物の例として、下記一般式(12)で表される化合物を挙げることができる。
【0047】
【化10】
【0048】
一般式(12)において、R101~R115は各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表し、R101~R115の少なくとも1つは、縮合芳香環を含む基である。置換基としては、置換基群Aや置換基群Dの基を挙げることができる。縮合芳香環を含む基の縮合芳香環の説明については、上記の「ベンゼン環を2個以上含む縮合環(縮合芳香環)を含む化合物」における「縮合芳香環」についての記載を参照することができる。縮合芳香環を含む基の例として、縮合芳香環から1つの水素原子を除いた1価の基や、2つ以上(好ましくは2つまたは3つ)の縮合芳香環を単結合で連結した連結構造から1つの水素原子を除いた1価の基を挙げることができる。また、上記の「縮合芳香環を含む化合物の例」として示した各式のRを「結合位置」に置き換えた1価の基を、縮合芳香環を含む基の具体例として挙げることができる。
本発明の一態様では、正孔障壁材料は、一般式(12)で表され、R101~R105の少なくとも1つが縮合芳香環を含む基である化合物であり、好ましくはR102およびR103の少なくとも一方が縮合芳香環を含む基であり、より好ましくはR102およびR103の一方のみが縮合芳香環を含む基である。R101~R115のうち縮合芳香環を含む基を除いた残りは、全て水素原子または重水素原子であることが好ましい。
本発明の一態様では、正孔障壁材料は、一般式(12)で表され、R101~R105の少なくとも1つと、R106~R110の少なくとも1つが縮合芳香環を含む基である化合物であり、好ましくはR102およびR103の少なくとも一方と、R107およびR108の少なくとも一方が縮合芳香環を含む基であり、より好ましくはR102およびR103の一方のみと、R107およびR108の一方のみが縮合芳香環を含む基である。R101~R115のうち縮合芳香環を含む基を除いた残りは、全て水素原子または重水素原子であることが好ましい。
【0049】
以下に、正孔障壁材料として用いうる化合物の具体例を挙げるが、本発明で正孔障壁材料に用いることができる化合物はこれらの具体例により限定的に解釈されることはない。
【0050】
【化11】
【0051】
本明細書において「アルキル基」は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。また、直鎖部分と環状部分と分枝部分のうちの2種以上が混在していてもよい。アルキル基の炭素数は、例えば1以上、2以上、4以上とすることができる。また、炭素数は30以下、20以下、10以下、6以下、4以下とすることができる。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デカニル基、イソデカニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基を挙げることができる。置換基たるアルキル基は、さらにアリール基で置換されていてもよい。
「アルケニル基」は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。また、直鎖部分と環状部分と分枝部分のうちの2種以上が混在していてもよい。アルケニル基の炭素数は、例えば2以上、4以上とすることができる。また、炭素数は30以下、20以下、10以下、6以下、4以下とすることができる。アルケニル基の具体例として、エテニル基、n-プロペニル基、イソプロペニル基、n-ブテニル基、イソブテニル基、n-ペンテニル基、イソペンテニル基、n-ヘキセニル基、イソヘキセニル基、2-エチルヘキセニル基を挙げることができる。置換基たるアルケニル基は、さらに置換基で置換されていてもよい。
「アリール基」および「ヘテロアリール基」は、単環であってもよいし、2つ以上の環が縮合した縮合環であってもよい。縮合環である場合、縮合している環の数は2~6であることが好ましく、例えば2~4の中から選択することができる。環の具体例として、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、キノリン環、ピラジン環、キノキサリン環、ナフチリジン環を挙げることができ、これらが縮合した環であってもよい。アリール基またはヘテロアリール基の具体例として、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基を挙げることができる。アリール基の環骨格構成原子数は6~40であることが好ましく、6~20であることがより好ましく、6~14の範囲内で選択したり、6~10の範囲内で選択したりしてもよい。ヘテロアリール基の環骨格構成原子数は4~40であることが好ましく、5~20であることがより好ましく、5~14の範囲内で選択したり、5~10の範囲内で選択したりしてもよい。「アリーレン基」および「ヘテロアリール基」は、アリール基およびヘテロアリール基の説明における価数を1から2へ読み替えたものとすることができる。
【0052】
本明細書において「置換基群A」とは、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシ基(例えば炭素数1~40)、アルキルチオ基(例えば炭素数1~40)、アリール基(例えば炭素数6~30)、アリールオキシ基(例えば炭素数6~30)、アリールチオ基(例えば炭素数6~30)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールオキシ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールチオ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、アシル基(例えば炭素数1~40)、アルケニル基(例えば炭素数1~40)、アルキニル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、アリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、ヘテロアリールオキシカルボニル基(例えば炭素数1~40)、シリル基(例えば炭素数1~40のトリアルキルシリル基)、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を意味する。
本明細書において「置換基群B」とは、アルキル基(例えば炭素数1~40)、アルコキシ基(例えば炭素数1~40)、アリール基(例えば炭素数6~30)、アリールオキシ基(例えば炭素数6~30)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ヘテロアリールオキシ基(例えば環骨格構成原子数5~30)、ジアリールアミノ基(例えば炭素原子数12~20)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を意味する。
本明細書において「置換基群C」とは、アルキル基(例えば炭素数1~20)、アリール基(例えば炭素数6~22)、ヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~20)、ジアリールアミノ基(例えば炭素原子数12~20)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を意味する。
本明細書において「置換基群D」とは、アルキル基(例えば炭素数1~20)、アリール基(例えば炭素数6~22)およびヘテロアリール基(例えば環骨格構成原子数5~20)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を意味する。
本明細書において「置換基群E」とは、アルキル基(例えば炭素数1~20)およびアリール基(例えば炭素数6~22)からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を意味する。
本明細書において「置換基」や「置換もしくは無置換の」と記載されている場合の置換基は、例えば置換基群Aの中から選択してもよいし、置換基群Bの中から選択してもよいし、置換基群Cの中から選択してもよいし、置換基群Dの中から選択してもよいし、置換基群Eの中から選択してもよい。
【0053】
本明細書において、化合物の最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)は、下記の手順により求めた値である。ΔESTはES1-ET1を計算することにより求めた値である。
(1)最低励起一重項エネルギー(ES1
測定対象化合物の薄膜もしくはトルエン溶液(濃度10-5mol/L)を調製して試料とする。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とする。この発光スペクトルの短波側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とする。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
後述の実施例における発光スペクトルの測定は、励起光源にLED光源(Thorlabs社製、M300L4)を用いて検出器(浜松ホトニクス社製、PMA-12マルチチャンネル分光器 C10027-01)により行った。
(2)最低励起三重項エネルギー(ET1
最低励起一重項エネルギー(ES1)の測定で用いたのと同じ試料を、液体窒素によって77[K]に冷却し、励起光(300nm)を燐光測定用試料に照射し、検出器を用いて燐光を測定する。励起光照射後から100ミリ秒以降の発光を燐光スペクトルとする。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とする。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0054】
[有機エレクトロルミネッセンス素子の全体構成]
以下に、本発明の第1構成および第2構成の有機エレクトロルミネッセンス素子の全体構成について説明する。
本発明が適用される有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極、陰極、および、陽極と陰極の間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有するものである。
本発明の第1構成における有機層は、発光層の他に、陽極と発光層の間に配置した電子障壁層を含み、該電子障壁層は、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料を含む。第1構成の有機エレクトロルミネッセンス素子は、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料、すなわち電気双極子モーメントが比較的小さい電子障壁材料を電子障壁層が含むことにより、発光強度の経時変化が抑えられ、長い素子寿命を示す。本発明の一態様では、電子障壁層は、陽極と発光層に間に、発光層に隣接して設けられる。本発明の第1構成における有機層は、発光層と電子障壁層のみからなるものであってもよいし、発光層と電子障壁層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。第1構成の好ましい一態様では、有機層は、さらに陰極と発光層の間に配置した正孔障壁層を含み、該正孔障壁層は、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含む。本発明の一態様では、正孔障壁層は、陰極と発光層の間に、発光層に隣接して設けられる。本発明の第1構成における有機層は、さらに他の有機層を有していてもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。
本発明の第2構成における有機層は、発光層の他に、陰極と発光層の間に配置した正孔障壁層を含み、該正孔障壁層は、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含む。第2構成の有機エレクトロルミネッセンス素子は、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料、すなわち電気双極子モーメントが比較的小さい正孔障壁材料を電子障壁層が含むことにより、発光強度の経時変化が抑えられ、長い素子寿命を示す。本発明の一態様では、正孔障壁層は、陰極と発光層に間に、発光層に隣接して設けられる。本発明の第2構成における有機層は、発光層と正孔障壁層のみからなるものであってもよいし、発光層と正孔障壁層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子障壁層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。
本発明の第1構成および第2構成において、正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。
本発明の第1構成および第2構成の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極、陰極、および、有機層(少なくとも発光層、電子障壁層および正孔障壁層の少なくとも一方)、を支持する基板を有していてもよい。この場合、基板は、陽極の発光層と反対側に配置していてもよいし、陰極の発光層と反対側に配置していてもよい。また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、大半の光が基板と反対側から放出されるトップエミッション方式の素子であってもよいし、大半の光が基板側から放出されるボトムエミッション方式の素子であってもよい。ここで、「大半の光」とは、素子から放出される光の量の60%以上の光であることを意味する。
【0055】
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。第1構成で用いる電子障壁材料および正孔障壁材料、第2構成で用いる正孔障壁材料の説明については、上記の(電子障壁材料)および(正孔障壁材料)の欄の記載を参照することができる。
【0056】
基材:
いくつかの実施形態では、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は基材により保持され、当該基材は特に限定されず、有機エレクトロルミネッセンス素子で一般的に用いられる、例えばガラス、透明プラスチック、クォーツおよびシリコンにより形成されたいずれかの材料を用いればよい。
【0057】
陽極:
いくつかの実施形態では、有機エレクトロルミネッセンス装置の陽極は、金属、合金、導電性化合物またはそれらの組み合わせから製造される。いくつかの実施形態では、前記の金属、合金または導電性化合物は高い仕事関数(4eV以上)を有する。いくつかの実施形態では、前記金属はAuである。いくつかの実施形態では、導電性の透明材料は、CuI、酸化インジウム・スズ(ITO)、SnOおよびZnOから選択される。いくつかの実施形態では、IDIXO(In-ZnO)などの、透明な導電性フィルムを形成できるアモルファス材料を使用する。いくつかの実施形態では、前記陽極は薄膜である。いくつかの実施形態では、前記薄膜は蒸着またはスパッタリングにより作製される。いくつかの実施形態では、前記フィルムはフォトリソグラフィー方法によりパターン化される。いくつかの実施形態では、パターンが高精度である必要がない(例えば約100μm以上)場合、当該パターンは、電極材料への蒸着またはスパッタリングに好適な形状のマスクを用いて形成してもよい。いくつかの実施形態では、有機導電性化合物などのコーティング材料を塗布しうるとき、プリント法やコーティング法などの湿式フィルム形成方法が用いられる。いくつかの実施形態では、放射光が陽極を通過するとき、陽極は10%超の透過度を有し、当該陽極は、単位面積あたり数百オーム以下のシート抵抗を有する。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは10~1,000nmである。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは10~200nmである。いくつかの実施形態では、陽極の厚みは用いる材料に応じて変動する。
【0058】
陰極:
いくつかの実施形態では、前記陰極は、低い仕事関数を有する金属(4eV以下)(電子注入金属と称される)、合金、導電性化合物またはその組み合わせなどの電極材料で作製される。いくつかの実施形態では、前記電極材料は、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム-銅混合物、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-アルミニウム混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム-アルミニウム混合物および希土類元素から選択される。いくつかの実施形態では、電子注入金属と、電子注入金属より高い仕事関数を有する安定な金属である第2の金属との混合物が用いられる。いくつかの実施形態では、前記混合物は、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-アルミニウム混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム-アルミニウム混合物およびアルミニウムから選択される。いくつかの実施形態では、前記混合物は電子注入特性および酸化に対する耐性を向上させる。いくつかの実施形態では、陰極は、蒸着またはスパッタリングにより電極材料を薄膜として形成させることによって製造される。いくつかの実施形態では、前記陰極は単位面積当たり数百オーム以下のシート抵抗を有する。いくつかの実施形態では、前記陰極の厚は10nm~5μmである。いくつかの実施形態では、前記陰極の厚は50~200nmである。いくつかの実施形態では、放射光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極および陰極のいずれか1つは透明または半透明である。いくつかの実施形態では、透明または半透明のエレクトロルミネッセンス素子は光放射輝度を向上させる。
いくつかの実施形態では、前記陰極を、前記陽極に関して前述した導電性の透明な材料で形成されることにより、透明または半透明の陰極が形成される。いくつかの実施形態では、素子は陽極と陰極とを含むが、いずれも透明または半透明である。
【0059】
発光層:
いくつかの実施形態では、前記発光層は、陽極および陰極からそれぞれ注入された正孔および電子が再結合して励起子を形成する層である。いくつかの実施形態では、前記層は光を発する。
いくつかの実施形態では、発光材料のみが発光層として用いられる。いくつかの実施形態では、有機エレクトロルミネッセンス素子の光放射効率を向上させるため、前記発光材料において発生する一重項励起子および三重項励起子を、前記発光材料内に閉じ込める。いくつかの実施形態では、前記発光層中に発光材料に加えてホスト材料を用いる。いくつかの実施形態では、前記ホスト材料は有機化合物である。いくつかの実施形態では、前記有機化合物は励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーを有し、その少なくとも1つは、発光材料のそれらよりも高い。いくつかの実施形態では、発光材料中で発生する一重項励起子および三重項励起子は、発光材料の分子中に閉じ込められる。いくつかの実施形態では、前記一重項および三重項の励起子は、光放射効率を向上させるために十分に閉じ込められる。いくつかの実施形態では、高い光放射効率が未だ得られるにもかかわらず、前記一重項励起子および三重項励起子は十分に閉じ込められず、すなわち、本発明で使用できる光放射効率の高いホスト材料は、特に限定されない。いくつかの実施形態では、本発明の素子の発光層中の発光材料において、光放射が生じる。いくつかの実施形態では、放射光は蛍光および遅延蛍光の両方を含む。いくつかの実施形態では、放射光は燐光を含む。いくつかの実施形態では、放射光は蛍光を含むが遅延蛍光を含まない。いくつかの実施形態では、前記放射光は、ホスト材料からの放射光を含む。いくつかの実施形態では、前記放射光は、ホスト材料からの放射光からなる。いくつかの実施形態では、前記放射光は、発光材料からの放射光と、ホスト材料からの放射光とを含む。いくつかの実施形態では、TADF分子とホスト材料とが用いられる。いくつかの実施形態では、TADFは補助ドーパントである。いくつかの実施形態では、発光層は1つ以上の発光材料および1つ以上のホスト材料と共にアシストドーパントを含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、ホスト材料を用いるとき、前記発光層に含まれる発光材料の量は0.1重量%以上である。いくつかの実施形態では、ホスト材料を用いるとき、前記発光層に含まれる発光材料の量は1重量%以上である。いくつかの実施形態では、ホスト材料を用いるとき、前記発光層に含まれる発光材料の量は50重量%以下である。いくつかの実施形態では、ホスト材料を用いるとき、前記発光層に含まれる発光材料の量は20重量%以下である。いくつかの実施形態では、ホスト材料を用いるとき、前記発光層に含まれる発光材料の量は10重量%以下である。
いくつかの実施形態では、前記発光層のホスト材料は、正孔輸送機能および電子輸送機能を有する有機化合物である。いくつかの実施形態では、前記発光層のホスト材料は、放射光の波長が増加することを防止する有機化合物である。いくつかの実施形態では、前記発光層のホスト材料は、高いガラス転移温度を有する有機化合物である。
【0061】
ある実施形態では、発光層は2種類以上の構造が異なるTADF分子を含む。例えば、励起一重項エネルギー準位がホスト材料、第1TADF分子、第2TADF分子の順に高い、これら3種の材料を含む発光層とすることができる。このとき、第1TADF分子と第2TADF分子は、ともに最低励起一重項エネルギー準位と77Kの最低励起三重項エネルギー準位の差ΔESTが0.3eV以下であることが好ましく、0.25eV以下であることがより好ましく、0.2eV以下であることがより好ましく、0.15eV以下であることがより好ましく、0.1eV以下であることがさらに好ましく、0.07eV以下であることがさらにより好ましく、0.05eV以下であることがさらにまた好ましく、0.03eV以下であることがさらになお好ましく、0.01eV以下であることが特に好ましい。発光層における第1TADF分子の含有量は、第2TADF分子の含有量よりも多いことが好ましい。また、発光層におけるホスト材料の含有量は、第2TADF分子の含有量よりも多いことが好ましい。発光層における第1TADF分子の含有量は、ホスト材料の含有量よりも多くてもよいし、少なくてもよいし、同じであってもよい。ある実施形態では、発光層内の組成を、ホスト材料を10~70重量%、第1TADF分子を10~80重量%、第2TADF分子を0.1~30重量%としてもよい。ある実施形態では、発光層内の組成を、ホスト材料を20~45重量%、第1TADF分子を50~75重量%、第2TADF分子を5~20重量%としてもよい。ある実施形態では、第1TADF分子とホスト材料の共蒸着膜(この共蒸着膜における第1TADF分子の含有率=A重量%)の光励起による発光量子収率φPL1(A)と、第2TADF分子とホスト材料の共蒸着膜(この共蒸着膜における第2TADF分子の含有率=A重量%)の光励起による発光量子収率φPL2(A)が、φPL1(A)>φPL2(A)の関係式を満たす。ある実施形態では、第2TADF分子とホスト材料の共蒸着膜(この共蒸着膜における第2TADF分子の含有率=B重量%)の光励起による発光量子収率φPL2(B)と、第2TADF分子の単独膜の光励起による発光量子収率φPL2(100)が、φPL2(B)>φPL2(100)の関係式を満たす。ある実施形態では、発光層は3種類の構造が異なるTADF分子を含むことができる。本発明の化合物は、発光層に含まれる複数のTADF化合物のいずれであってもよい。
【0062】
ある実施形態では、発光層は、ホスト材料、アシストドーパント、および発光材料からからなる群より選択される材料で構成することができる。ある実施形態では、発光層は金属元素を含まない。ある実施形態では、発光層は炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択される原子のみから構成される材料で構成することができる。あるいは、発光層は、炭素原子、水素原子および窒素原子からなる群より選択される原子のみから構成される材料で構成することもできる。
【0063】
発光材料には、TADF分子(遅延蛍光材料)、遅延蛍光を放射しない蛍光材料、または燐光材料を用いることができる。本明細書中において、「蛍光材料」とは、20℃で発光を観測したとき、燐光の発光強度よりも蛍光の発光強度の方が高い発光材料であり、「燐光材料」とは、20℃で発光を観測したとき、蛍光の発光強度よりも燐光の発光強度の方が高い発光材料である。また、「遅延蛍光材料」とは、20℃で発光寿命が短い蛍光と、発光寿命が長い蛍光(遅延蛍光)の両方が観測される材料である。通常の蛍光(遅延蛍光ではない蛍光)は、発光寿命がnsオーダーであり、燐光は、通常、発光寿命がmsオーダーであるため、蛍光と燐光とは発光寿命により区別することができる。また、有機金属錯体以外の発光性の有機化合物は、通常蛍光材料または遅延蛍光材料である。
蛍光材料としては、アントラセン誘導体、テトラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、クリセン誘導体、ルブレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、スチルベン誘導体、フルオレン誘導体、アントリル誘導体、ピロメテン誘導体、ターフェニル誘導体、ターフェニレン誘導体、フルオランテン誘導体、アミン誘導体、キナクリドン誘導体、オキサジアゾール誘導体、マロノニトリル誘導体、ピラン誘導体、カルバゾール誘導体、ジュロリジン誘導体、チアゾール誘導体、金属(Al,Zn)を有する誘導体等を用いることが可能である。これらの例示骨格には置換基を有してもよいし、置換基を有していなくてもよい。また、これらの例示骨格どうしを組み合わせてもよい。
【0064】
TADF分子としては、公知のTADF分子を用いることができる。好ましいTADF分子として、WO2013/154064号公報の段落0008~0048および0095~0133、WO2013/011954号公報の段落0007~0047および0073~0085、WO2013/011955号公報の段落0007~0033および0059~0066、WO2013/081088号公報の段落0008~0071および0118~0133、特開2013-256490号公報の段落0009~0046および0093~0134、特開2013-116975号公報の段落0008~0020および0038~0040、WO2013/133359号公報の段落0007~0032および0079~0084、WO2013/161437号公報の段落0008~0054および0101~0121、特開2014-9352号公報の段落0007~0041および0060~0069、特開2014-9224号公報の段落0008~0048および0067~0076、特開2017-119663号公報の段落0013~0025、特開2017-119664号公報の段落0013~0026、特開2017-222623号公報の段落0012~0025、特開2017-226838号公報の段落0010~0050、特開2018-100411号公報の段落0012~0043、WO2018/047853号公報の段落0016~0044に記載される一般式に包含される化合物、特に例示化合物であって、遅延蛍光を放射しうるものが含まれる。また、ここでは、特開2013-253121号公報、WO2013/133359号公報、WO2014/034535号公報、WO2014/115743号公報、WO2014/122895号公報、WO2014/126200号公報、WO2014/136758号公報、WO2014/133121号公報、WO2014/136860号公報、WO2014/196585号公報、WO2014/189122号公報、WO2014/168101号公報、WO2015/008580号公報、WO2014/203840号公報、WO2015/002213号公報、WO2015/016200号公報、WO2015/019725号公報、WO2015/072470号公報、WO2015/108049号公報、WO2015/080182号公報、WO2015/072537号公報、WO2015/080183号公報、特開2015-129240号公報、WO2015/129714号公報、WO2015/129715号公報、WO2015/133501号公報、WO2015/136880号公報、WO2015/137244号公報、WO2015/137202号公報、WO2015/137136号公報、WO2015/146541号公報、WO2015/159541号公報に記載される発光材料であって、遅延蛍光を放射しうるものを好ましく採用することができる。なお、この段落に記載される上記の公報は、本明細書の一部としてここに引用する。これらのTADF分子はアシストドーパントとして用いてもよい。
【0065】
本発明においてTADF分子として用いる好ましい化合物を挙げるが、本発明で用いることができるTADF分子は以下の化合物により限定的に解釈されるものではない。以下の化合物においてt-Buはtert-ブチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【化12】
【0066】
本発明では、発光材料として下記一般式(13)で表される化合物を採用することもできる。
【化13】
【0067】
一般式(13)において、XおよびXは、一方が窒素原子であり、他方がホウ素原子である。R~R26、A、Aは、各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11、R11とR12、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR17、R17とR18、R18とR19、R19とR20、R20とR21、R21とR22、R22とR23、R23とR24、R24とR25、R25とR26は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。ただし、Xが窒素原子であるとき、R17とR18は互いに結合して単結合となりピロール環を形成し、Xが窒素原子であるとき、R21とR22は互いに結合して単結合となりピロール環を形成する。ただし、Xが窒素原子であって、RとRおよびR21とR22が窒素原子を介して結合して6員環を形成し、R17とR18が互いに結合して単結合を形成しているとき、R~Rの少なくとも1つは置換もしくは無置換のアリール基であるか、RとR、RとR、RとR、RとR、RとRのいずれかが互いに結合して芳香環または複素芳香環を形成している。また、Xがホウ素原子で、Xが窒素原子であり、RとR、R17とR18が互いに結合してホウ素原子を含む環状構造を形成している場合、その環状構造は5~7員環であり、6員環である場合はRとR、R17とR18が互いに結合して-B(R32)-、-CO-、-CS-または-N(R27)-を形成している。R27は水素原子、重水素原子または置換基を表す。
一般式(13)の詳細および好ましい範囲、ならびに一般式(13)に含まれる化合物の具体例については、本明細書の一部としてここに引用するWO2022/270354A1の段落0006~0128を参照することができる。
【0068】
一般式(13)で表される化合物の中で、特に下記一般式(13a)で表される化合物は優れた特性を有するため好ましく採用することができる。
【化14】
【0069】
一般式(13a)において、R~R14、R16、R19~R31、A、Aは、各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11、R11とR12、R13とR14、R19とR20、R20とR21、R22とR23、R23とR24、R24とR25、R25とR26、R27とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。一般式(13a)のR~R14、R16、R19~R26、A、Aの説明と好ましい範囲については、一般式(13)の対応する記載を参照することができ、また、一般式(13a)のR27~R31の説明と好ましい範囲については、一般式(13)のR~R12の対応する記載を参照することができる。
好ましくは、一般式(13a)のR~R14、R16、R19~R31、A、Aは、各々独立に水素原子、重水素原子またはアルキル基を表し、また、Rはアルキル基で置換されていてもよいアリール基であってもよく、その場合はR27~R31の少なくとも1個、好ましくは2個以上はアルキル基を表す。より好ましい一態様では、R~R12、R22~R26のうちの2個以上、好ましくは4個以上、例えば6個以上はアルキル基であり、例えばR、R10、R12、R22、R24、R26がアルキル基である。ここでいうアルキル基は、例えばメチル基、イソブチル基、tert-ブチル基であり、例えばイソブチル基である。別のより好ましい一態様では、R27~R31の少なくとも1個、好ましくは2個以上、例えば3個はアルキル基であり、例えばR28、R30がアルキル基であったり、R27、R29、R31がアルキル基であったりしてもよい。ここでいうアルキル基は、例えばメチル基、イソブチル基、tert-ブチル基であり、例えばイソブチル基であり、例えばtert-ブチル基である。さらに別のより好ましい一態様では、Rは少なくとも1個、好ましくは2個以上、例えば3個のアルキル基で置換されたアリール基である。例えば、メチル基、イソブチル基またはtert-ブチル基で置換されたフェニル基を挙げることができ、R27~R31で置換されたフェニル基に関する上記の説明や好ましい範囲を参照することもできる。Rは水素原子または重水素原子であることも好ましい。さらに別のより好ましい一態様では、R、R、R~R、R13、R14、R16、R19~R21、A、Aは、各々独立に水素原子または重水素原子である。なお、この段落でいうアルキル基とアリール基は、それぞれ少なくとも1つの水素原子が重水素原子で置換されていてもよい。
以下において、一般式(13a)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明で用いることができる一般式(13a)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されることはない。
【化15】
【0070】
本発明では、発光材料として、上記一般式(13)のXがN、XがBで、R12とAが互いに結合してーO-またはーS-で表される連結基を形成し、R26とAが互いに結合してーO-またはーS-で表される連結基を形成している構造を有する化合物も好ましく用いることができる。このような条件を満たす化合物を、一般式(13b)の化合物と称する。一般式(13b)のR~R11、R13~R25の少なくとも1個は置換基であり、例えばそのような置換基として置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基を挙げることができる。好ましい一態様では、置換位置はR、R、R、R15、R20、R23からなる群より選択される1個以上、好ましくは2個以上、例えば4個以上で、6個であってもよく、これら以外は水素原子または重水素原子であってもよい。
以下において、一般式(13b)の化合物の具体例を挙げるが、本発明で用いることができる一般式(13b)の化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されることはない。
【化16】
【0071】
本発明では、発光材料として下記一般式(14)で表される化合物を採用することもできる。
【化17】
【0072】
一般式(14)において、Ar1は環状構造を表し、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、またはフェナントレン環を表す。Dは下記一般式(15)で表される基を表す。Aはシアノ基、フェニル基、ピリミジル基、トリアジル基およびアルキル基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基(ただし置換アルキル基は除く)を表す。mは1または2であり、nは0、1または2である。mが2であるとき、2つのDは同一であっても異なっていてもよい。nが2であるとき、2つのAは同一であっても異なっていてもよい。R~Rは、各々独立に水素原子、重水素原子、または、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基およびシアノ基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を表す。RとR、RとRは互いに結合してベンゼン環、ナフタレン環およびピリジン環からなる群より選択される環状構造を形成してもよく、形成された環状構造はアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基およびシアノ基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基で置換されていてもよい。
【化18】
一般式(15)において、R~R15は、各々独立に水素原子、重水素原子または置換基を表す。RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。Xは単結合、酸素原子または硫黄原子を表す。*は結合位置を表す。
一般式(14)の詳細および好ましい範囲、ならびに一般式(14)に含まれる化合物の具体例については、本明細書の一部としてここに引用するWO2022/168956A1の段落0006~0057を参照することができる。
【0073】
一般式(14)で表される化合物の中で、特に下記一般式(14a)で表される化合物は優れた特性を有するため好ましく採用することができる。
【化19】
【0074】
一般式(14a)において、R~R38は、各々独立に水素原子、重水素原子、または、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基およびシアノ基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基を表す。RとR、RとR、RとR、RとR10、R10とR11、R12とR13、R13とR14、R14とR15は互いに結合して環状構造を形成していてもよい。一般式(14a)のR~R15の説明と好ましい範囲については、一般式(14)の対応する記載を参照することができ、また、一般式(14a)のR16~R38は、好ましくは各々独立に水素原子、重水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。
好ましくは、一般式(14a)のR~R38の少なくとも1個、好ましくは5個以上、例えば10個以上は重水素原子である。例えば、R23~R27、R30~R34の少なくとも1個、好ましくは5個以上、例えば10個は重水素原子である。より好ましくは、R~R、R11~R38は、各々独立に水素原子、重水素原子またはアルキル基であり、例えば水素原子または重水素原子である。さらに好ましい一態様では、R10は水素原子または重水素原子である。さらに好ましい一態様では、R10はアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基およびシアノ基からなる群より選択される1つの基または2つ以上を組み合わせた基であり、例えばシアノ基である。なお、一般式(14a)の説明におけるアルキル基とアリール基は、それぞれ少なくとも1つの水素原子が重水素原子で置換されていてもよい。
以下において、一般式(14a)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明で用いることができる一般式(14a)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されることはない。
【化20】
【0075】
いくつかの実施形態では、ホスト材料は下記の化合物からなる群より選択される。
【化21】
【0076】
注入層:
注入層は、電極と有機層との間の層である。いくつかの実施形態では、前記注入層は駆動電圧を減少させ、光放射輝度を増強する。いくつかの実施形態では、前記注入層は、正孔注入層と電子注入層とを含む。前記注入層は、陽極と発光層または正孔輸送層との間、並びに陰極と発光層または電子輸送層との間に配置することがきる。いくつかの実施形態では、注入層が存在する。いくつかの実施形態では、注入層が存在しない。
以下に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0077】
【化22】
【0078】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【化23】
【0079】
障壁層:
障壁層は、発光層に存在する電荷(電子または正孔)および/または励起子が、発光層の外側に拡散することを阻止できる層である。いくつかの実施形態では、電子障壁層は、発光層と正孔輸送層との間に存在し、電子が発光層を通過して正孔輸送層へ至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、正孔障壁層は、発光層と電子輸送層との間に存在し、正孔が発光層を通過して電子輸送層へ至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、障壁層は、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止する。いくつかの実施形態では、電子障壁層および正孔障壁層は励起子障壁層を構成する。本明細書で用いる用語「電子障壁層」または「励起子障壁層」には、電子障壁層の、および励起子障壁層の機能の両方を有する層が含まれる。
【0080】
正孔障壁層:
正孔障壁層は、電子輸送層として機能する。いくつかの実施形態では、電子の輸送の間、正孔障壁層は正孔が電子輸送層に至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、正孔障壁層は、発光層における電子と正孔との再結合の確率を高める。本発明の第1構成の好ましい一態様、および、本発明の第2構成の有機エレクトロルミネッセンス素子では、正孔障壁層は電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含む。本発明の一態様では、正孔障壁層は、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料のみからなる。本発明の一態様では、正孔障壁層に含まれる電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料は1種類である。本発明の一態様では、正孔障壁層に含まれる電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料は2種類以上である。本発明の第1構成の一態様では、正孔障壁層は電気双極子モーメントが6.51D以上の正孔障壁材料を含んでいてもよく、電子輸送層について前述したのと同じ材料で構成されていてもよい。
以下に、第1構成の有機エレクトロルミネッセンス素子において、正孔障壁層に用いることができる化合物例を挙げる。
【0081】
【化24】
【0082】
電子障壁層:
電子障壁層は、正孔を輸送する。いくつかの実施形態では、正孔の輸送の間、電子障壁層は電子が正孔輸送層に至ることを阻止する。いくつかの実施形態では、電子障壁層は、発光層における電子と正孔との再結合の確率を高める。本発明の第1構成の有機エレクトロルミネッセンス素子では、電子障壁層は電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料を含む。本発明の第1構成の一態様では、電子障壁層は、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料のみからなる。本発明の第1構成の一態様では、電子障壁層に含まれる電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料は1種類である。本発明の第1構成の一態様では、電子障壁層に含まれる電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料は2種類以上である。本発明の第2構成の一態様では、電子障壁層は電気双極子モーメントが3.08D以上の電子障壁材料を含んでいてもよく、正孔輸送層について前述したのと同じ材料で構成されていてもよい。
以下に、第2構成の有機エレクトロルミネッセンス素子において、電子障壁材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0083】
【化25】
【0084】
励起子障壁層:
励起子障壁層は、発光層における正孔と電子との再結合を通じて生じた励起子が電荷輸送層まで拡散することを阻止する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、発光層における励起子の有効な閉じ込め(confinement)を可能にする。いくつかの実施形態では、装置の光放射効率が向上する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、陽極の側と陰極の側のいずれかで、およびその両側の発光層に隣接する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層が陽極側に存在するとき、当該層は、正孔輸送層と発光層との間に存在し、当該発光層に隣接してもよい。いくつかの実施形態では、励起子障壁層が陰極側に存在するとき、当該層は、発光層と陰極との間に存在し、当該発光層に隣接してもよい。いくつかの実施形態では、正孔注入層、電子障壁層または同様の層は、陽極と、陽極側の発光層に隣接する励起子障壁層との間に存在する。いくつかの実施形態では、正孔注入層、電子障壁層、正孔障壁層または同様の層は、陰極と、陰極側の発光層に隣接する励起子障壁層との間に存在する。いくつかの実施形態では、励起子障壁層は、励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーを含み、その少なくとも1つが、それぞれ、発光材料の励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーより高い。
【0085】
正孔輸送層:
正孔輸送層は、正孔輸送材料を含む。いくつかの実施形態では、正孔輸送層は単層である。いくつかの実施形態では、正孔輸送層は複数の層を有する。
いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は、正孔の注入または輸送特性および電子の障壁特性のうちの1つの特性を有する。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は有機材料である。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は無機材料である。本発明で使用できる公知の正孔輸送材料の例としては、限定されないが、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導剤、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導剤、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリルアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導剤、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリンコポリマーおよび導電性ポリマーオリゴマー(特にチオフェンオリゴマー)、またはその組合せが挙げられる。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料はポルフィリン化合物、芳香族三級アミン化合物およびスチリルアミン化合物から選択される。いくつかの実施形態では、正孔輸送材料は芳香族三級アミン化合物である。以下に正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0086】
【化26】
【0087】
電子輸送層:
電子輸送層は、電子輸送材料を含む。いくつかの実施形態では、電子輸送層は単層である。いくつかの実施形態では、電子輸送層は複数の層を有する。
いくつかの実施形態では、電子輸送材料は、陰極から注入された電子を発光層に輸送する機能さえあればよい。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はまた、正孔障壁材料としても機能する。本発明で使用できる電子輸送層の例としては、限定されないが、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アゾール誘導体、アジン誘導体またはその組合せ、またはそのポリマーが挙げられる。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はチアジアゾール誘導剤またはキノキサリン誘導体である。いくつかの実施形態では、電子輸送材料はポリマー材料である。以下に電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物の具体例を挙げる。
【0088】
【化27】
【0089】
さらに、各有機層に添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0090】
【化28】
【0091】
有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示したが、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。
【0092】
デバイス:
いくつかの実施形態では、発光層はデバイス中に組み込まれる。例えば、デバイスには、OLEDバルブ、OLEDランプ、テレビ用ディスプレイ、コンピューター用モニター、携帯電話およびタブレットが含まれるが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態では、電子デバイスは、陽極、陰極、および当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を有するOLEDを含む。
いくつかの実施形態では、本願明細書に記載の構成物は、OLEDまたは光電子デバイスなどの、様々な感光性または光活性化デバイスに組み込まれうる。いくつかの実施形態では、前記構成物はデバイス内の電荷移動またはエネルギー移動の促進に、および/または正孔輸送材料として有用でありうる。前記デバイスとしては、例えば有機発光ダイオード(OLED)、有機集積回線(OIC)、有機電界効果トランジスタ(O-FET)、有機薄膜トランジスタ(O-TFT)、有機発光トランジスタ(O-LET)、有機太陽電池(O-SC)、有機光学検出装置、有機光受容体、有機磁場クエンチ(field-quench)装置(O-FQD)、発光燃料電池(LEC)または有機レーザダイオード(O-レーザー)が挙げられる。
【0093】
バルブまたはランプ:
いくつかの実施形態では、電子デバイスは、陽極、陰極、当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を含むOLEDを含む。
いくつかの実施形態では、デバイスは色彩の異なるOLEDを含む。いくつかの実施形態では、デバイスはOLEDの組合せを含むアレイを含む。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、3色の組合せ(例えばRGB)である。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、赤色でも緑色でも青色でもない色(例えばオレンジ色および黄緑色)の組合せである。いくつかの実施形態では、OLEDの前記組合せは、2色、4色またはそれ以上の色の組合せである。
いくつかの実施形態では、デバイスは、
取り付け面を有する第1面とそれと反対の第2面とを有し、少なくとも1つの開口部を画定する回路基板と、
前記取り付け面上の少なくとも1つのOLEDであって、当該少なくとも1つのOLEDが、陽極、陰極、および当該陽極と当該陰極との間の発光層を含む少なくとも1つの有機層を含む、発光する構成を有する少なくとも1つのOLEDと、
回路基板用のハウジングと、
前記ハウジングの端部に配置された少なくとも1つのコネクターであって、前記ハウジングおよび前記コネクターが照明設備への取付けに適するパッケージを画定する、少なくとも1つのコネクターと、を備えるOLEDライトである。
いくつかの実施形態では、前記OLEDライトは、複数の方向に光が放射されるように回路基板に取り付けられた複数のOLEDを有する。いくつかの実施形態では、第1方向に発せられた一部の光は偏光されて第2方向に放射される。いくつかの実施形態では、反射器を用いて第1方向に発せられた光を偏光する。
【0094】
ディスプレイまたはスクリーン:
いくつかの実施形態では、本発明の発光層はスクリーンまたはディスプレイにおいて使用できる。いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物は、限定されないが真空蒸発、堆積、蒸着または化学蒸着(CVD)などの工程を用いて基材上へ堆積させる。いくつかの実施形態では、前記基材は、独特のアスペクト比のピクセルを提供する2面エッチングにおいて有用なフォトプレート構造である。前記スクリーン(またマスクとも呼ばれる)は、OLEDディスプレイの製造工程で用いられる。対応するアートワークパターンの設計により、垂直方向ではピクセルの間の非常に急な狭いタイバーの、並びに水平方向では大きな広範囲の斜角開口部の配置を可能にする。これにより、TFTバックプレーン上への化学蒸着を最適化しつつ、高解像度ディスプレイに必要とされるピクセルの微細なパターン構成が可能となる。
ピクセルの内部パターニングにより、水平および垂直方向での様々なアスペクト比の三次元ピクセル開口部を構成することが可能となる。更に、ピクセル領域中の画像化された「ストライプ」またはハーフトーン円の使用は、これらの特定のパターンをアンダーカットし基材から除くまで、特定の領域におけるエッチングが保護される。その時、全てのピクセル領域は同様のエッチング速度で処理されるが、その深さはハーフトーンパターンにより変化する。ハーフトーンパターンのサイズおよび間隔を変更することにより、ピクセル内での保護率が様々異なるエッチングが可能となり、急な垂直斜角を形成するのに必要な局在化された深いエッチングが可能となる。
蒸着マスク用の好ましい材料はインバーである。インバーは、製鉄所で長い薄型シート状に冷延された金属合金である。インバーは、ニッケルマスクとしてスピンマンドレル上へ電着することができない。蒸着用マスク内に開口領域を形成するための適切かつ低コストの方法は、湿式化学エッチングによる方法である。
いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、基材上のピクセルマトリックスである。いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、リソグラフィー(例えばフォトリソグラフィーおよびeビームリソグラフィー)を使用して加工される。いくつかの実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、湿式化学エッチングを使用して加工される。更なる実施形態では、スクリーンまたはディスプレイパターンは、プラズマエッチングを使用して加工される。
【0095】
デバイスの製造方法:
OLEDディスプレイは、一般的には、大型のマザーパネルを形成し、次に当該マザーパネルをセルパネル単位で切断することによって製造される。通常は、マザーパネル上の各セルパネルは、ベース基材上に、活性層とソース/ドレイン電極とを有する薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、前記TFTに平坦化フィルムを塗布し、ピクセル電極、発光層、対電極およびカプセル化層、を順に経時的に形成し、前記マザーパネルから切断することにより形成される。
OLEDディスプレイは、一般的には、大型のマザーパネルを形成し、次に当該マザーパネルをセルパネル単位で切断することによって製造される。通常は、マザーパネル上の各セルパネルは、ベース基材上に、活性層とソース/ドレイン電極とを有する薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、前記TFTに平坦化フィルムを塗布し、ピクセル電極、発光層、対電極およびカプセル化層、を順に経時的に形成し、前記マザーパネルから切断することにより形成される。
【0096】
本発明の他の態様では、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイの製造方法を提供し、当該方法は、
マザーパネルのベース基材上に障壁層を形成する工程と、
前記障壁層上に、セルパネル単位で複数のディスプレイユニットを形成する工程と、
前記セルパネルのディスプレイユニットのそれぞれの上にカプセル化層を形成する工程と、
前記セルパネル間のインタフェース部に有機フィルムを塗布する工程と、を含む。
いくつかの実施形態では、障壁層は、例えばSiNxで形成された無機フィルムであり、障壁層の端部はポリイミドまたはアクリルで形成された有機フィルムで被覆される。いくつかの実施形態では、有機フィルムは、マザーパネルがセルパネル単位で軟らかく切断されるように補助する。
いくつかの実施形態では、薄膜トランジスタ(TFT)層は、発光層と、ゲート電極と、ソース/ドレイン電極と、を有する。複数のディスプレイユニットの各々は、薄膜トランジスタ(TFT)層と、TFT層上に形成された平坦化フィルムと、平坦化フィルム上に形成された発光ユニットと、を有してもよく、前記インタフェース部に塗布された有機フィルムは、前記平坦化フィルムの材料と同じ材料で形成され、前記平坦化フィルムの形成と同時に形成される。いくつかの実施形態では、前記発光ユニットは、不動態化層と、その間の平坦化フィルムと、発光ユニットを被覆し保護するカプセル化層と、によりTFT層と連結される。前記製造方法のいくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、ディスプレイユニットにもカプセル化層にも連結されない。
【0097】
前記有機フィルムと平坦化フィルムの各々は、ポリイミドおよびアクリルのいずれか1つを含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記障壁層は無機フィルムであってもよい。いくつかの実施形態では、前記ベース基材はポリイミドで形成されてもよい。前記方法は更に、ポリイミドで形成されたベース基材の1つの表面に障壁層を形成する前に、当該ベース基材のもう1つの表面にガラス材料で形成されたキャリア基材を取り付ける工程と、インタフェース部に沿った切断の前に、前記キャリア基材をベース基材から分離する工程と、を含んでもよい。いくつかの実施形態では、前記OLEDディスプレイはフレキシブルなディスプレイである。
いくつかの実施形態では、前記不動態化層は、TFT層の被覆のためにTFT層上に配置された有機フィルムである。いくつかの実施形態では、前記平坦化フィルムは、不動態化層上に形成された有機フィルムである。いくつかの実施形態では、前記平坦化フィルムは、障壁層の端部に形成された有機フィルムと同様、ポリイミドまたはアクリルで形成される。いくつかの実施形態では、OLEDディスプレイの製造の際、前記平坦化フィルムおよび有機フィルムは同時に形成される。いくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、障壁層の端部に形成されてもよく、それにより、当該有機フィルムの一部が直接ベース基材と接触し、当該有機フィルムの残りの部分が、障壁層の端部を囲みつつ、障壁層と接触する。
【0098】
いくつかの実施形態では、前記発光層は、ピクセル電極と、対電極と、当該ピクセル電極と当該対電極との間に配置された有機発光層と、を有する。いくつかの実施形態では、前記ピクセル電極は、TFT層のソース/ドレイン電極に連結している。
いくつかの実施形態では、TFT層を通じてピクセル電極に電圧が印加されるとき、ピクセル電極と対電極との間に適切な電圧が形成され、それにより有機発光層が光を放射し、それにより画像が形成される。以下、TFT層と発光ユニットとを有する画像形成ユニットを、ディスプレイユニットと称する。
いくつかの実施形態では、ディスプレイユニットを被覆し、外部の水分の浸透を防止するカプセル化層は、有機フィルムと無機フィルムとが交互に積層する薄膜状のカプセル化構造に形成されてもよい。いくつかの実施形態では、前記カプセル化層は、複数の薄膜が積層した薄膜状カプセル化構造を有する。いくつかの実施形態では、インタフェース部に塗布される有機フィルムは、複数のディスプレイユニットの各々と間隔を置いて配置される。いくつかの実施形態では、前記有機フィルムは、一部の有機フィルムが直接ベース基材と接触し、有機フィルムの残りの部分が障壁層の端部を囲む一方で障壁層と接触する態様で形成される。
【0099】
一実施形態では、OLEDディスプレイはフレキシブルであり、ポリイミドで形成された柔軟なベース基材を使用する。いくつかの実施形態では、前記ベース基材はガラス材料で形成されたキャリア基材上に形成され、次に当該キャリア基材が分離される。
いくつかの実施形態では、障壁層は、キャリア基材の反対側のベース基材の表面に形成される。一実施形態では、前記障壁層は、各セルパネルのサイズに従いパターン化される。例えば、ベース基材がマザーパネルの全ての表面上に形成される一方で、障壁層が各セルパネルのサイズに従い形成され、それにより、セルパネルの障壁層の間のインタフェース部に溝が形成される。各セルパネルは、前記溝に沿って切断できる。
【0100】
いくつかの実施形態では、前記の製造方法は、更にインタフェース部に沿って切断する工程を含み、そこでは溝が障壁層に形成され、少なくとも一部の有機フィルムが溝で形成され、当該溝がベース基材に浸透しない。いくつかの実施形態では、各セルパネルのTFT層が形成され、無機フィルムである不動態化層と有機フィルムである平坦化フィルムが、TFT層上に配置され、TFT層を被覆する。例えばポリイミドまたはアクリル製の平坦化フィルムが形成されるのと同時に、インタフェース部の溝は、例えばポリイミドまたはアクリル製の有機フィルムで被覆される。これは、各セルパネルがインタフェース部で溝に沿って切断されるとき、生じた衝撃を有機フィルムに吸収させることによってひびが生じるのを防止する。すなわち、全ての障壁層が有機フィルムなしで完全に露出している場合、各セルパネルがインタフェース部で溝に沿って切断されるとき、生じた衝撃が障壁層に伝達され、それによりひびが生じるリスクが増加する。しかしながら、一実施形態では、障壁層間のインタフェース部の溝が有機フィルムで被覆されて、有機フィルムがなければ障壁層に伝達されうる衝撃を吸収するため、各セルパネルをソフトに切断し、障壁層でひびが生じるのを防止してもよい。一実施形態では、インタフェース部の溝を被覆する有機フィルムおよび平坦化フィルムは、互いに間隔を置いて配置される。例えば、有機フィルムおよび平坦化フィルムが1つの層として相互に接続している場合には、平坦化フィルムと有機フィルムが残っている部分とを通じてディスプレイユニットに外部の水分が浸入するおそれがあるため、有機フィルムおよび平坦化フィルムは、有機フィルムがディスプレイユニットから間隔を置いて配置されるように、相互に間隔を置いて配置される。
【0101】
いくつかの実施形態では、ディスプレイユニットは、発光ユニットの形成により形成され、カプセル化層は、ディスプレイユニットを被覆するためディスプレイユニット上に配置される。これにより、マザーパネルが完全に製造された後、ベース基材を担持するキャリア基材がベース基材から分離される。いくつかの実施形態では、レーザー光線がキャリア基材へ放射されると、キャリア基材は、キャリア基材とベース基材との間の熱膨張率の相違により、ベース基材から分離される。
いくつかの実施形態では、マザーパネルは、セルパネル単位で切断される。いくつかの実施形態では、マザーパネルは、カッターを用いてセルパネル間のインタフェース部に沿って切断される。いくつかの実施形態では、マザーパネルが沿って切断されるインタフェース部の溝が有機フィルムで被覆されているため、切断の間、当該有機フィルムが衝撃を吸収する。いくつかの実施形態では、切断の間、障壁層でひびが生じるのを防止できる。
いくつかの実施形態では、前記方法は製品の不良率を減少させ、その品質を安定させる。
他の態様は、ベース基材上に形成された障壁層と、障壁層上に形成されたディスプレイユニットと、ディスプレイユニット上に形成されたカプセル化層と、障壁層の端部に塗布された有機フィルムと、を有するOLEDディスプレイである。
【0102】
<有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法>
次に、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の第1設計方法および第2設計方法について説明する。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の第1設計方法は、陽極、陰極、および陽極と陰極の間に陽極側から電子障壁層、発光層および正孔障壁層を順に含む有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法であって、電子障壁層が、電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料を含み、正孔障壁層が、電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料を含むように設計する。
本発明の第1設計方法によれば、発光強度の経時変化が小さくて素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子を設計することができる。
電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料の説明と好ましい範囲、具体例については、上記の(電子障壁材料)の欄の記載を参照することができる。電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料の説明と好ましい範囲、具体例については、上記の(正孔障壁材料)の欄の記載を参照することができる。また、具体的な電子障壁材料および正孔障壁材料の電気双極子モーメントの数値については、実施例の欄を参照することができる。有機エレクトロルミネッセンス素子の構成については、上記の[有機エレクトロルミネッセンス素子の全体構成]の欄の記載を参照することができる。
【0103】
本発明の第1設計方法の一態様では、複数種の材料の電気双極子モーメントをデータとして格納したデータベースから、電気双極子モーメントが3.08D未満である材料を検索し、検索でヒットした材料の群の中から、有機発光素子に用いる電子障壁材料を選択する工程と、データベースから、電気双極子モーメントが6.51D未満である材料を検索し、検索でヒットした材料の群の中から、有機発光素子に用いる正孔障壁材料を選択する工程と、選択した電子障壁材料と正孔障壁材料を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を設計する工程を含む。
【0104】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の第2設計方法は、陽極、陰極、および陽極と陰極の間に陽極側から電子障壁材料を含む電子障壁層、発光層および正孔障壁材料を含む正孔障壁層を順に含む有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法であって、電子障壁材料の電気双極子モーメントと正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和が3.00D未満となるように設計する。
本発明の第2設計方法によれば、発光強度の経時変化が小さくて素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子をより確実に設計することができる。
電気双極子モーメントが3.08D未満である電子障壁材料の説明と好ましい範囲、具体例については、上記の(電子障壁材料)の欄の記載を参照することができる。電気双極子モーメントが6.51D未満である正孔障壁材料の説明と好ましい範囲、具体例については、上記の(正孔障壁材料)の欄の記載を参照することができる。また、具体的な電子障壁材料および正孔障壁材料の電気双極子モーメントの数値については、実施例の欄を参照することができる。電気双極子モーメントの和が3.00D未満になる材料の組み合わせの具体例については、上記の<有機エレクトロルミネッセンス素子>の欄に記載された組み合わせを参照することができる。有機エレクトロルミネッセンス素子の構成については、上記の[有機エレクトロルミネッセンス素子の全体構成]の欄の記載を参照することができる。
【0105】
本発明の第2設計方法の一態様では、複数種の材料の電気双極子モーメントをデータとして格納したデータベースから、電気双極子モーメントの和が3.00D未満になる2種類の材料を検索し、検索でヒットした材料の組み合わせの群の中から、有機発光素子に用いる電子障壁材料と正孔障壁材料を選択する工程と、工程で選択した電子障壁材料と正孔障壁材料を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を設計する工程を含む。
【0106】
本発明の第2設計方法の好ましい一態様では、電子障壁層が、電気双極子モーメントが2.20D未満である電子障壁材料を含み、正孔障壁層が、電気双極子モーメントが2.00D未満である正孔障壁材料を含み、電子障壁材料の電気双極子モーメントと正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和が3.00D未満となるように設計する。
本発明の第2設計方法の好ましい一態様では、複数種の電子障壁材料の電気双極子モーメントをデータとして格納したデータベースから、電気双極子モーメントが2.20D未満である電子障壁材料を検索する工程と、複数種の正孔障壁材料の電気双極子モーメントをデータとして格納したデータベースから、電気双極子モーメントが2.00D未満である正孔障壁材料を検索する工程と、検索でヒットした電子障壁材料と正孔障壁材料の中から電気双極子モーメントの和が3.00D未満になる電子障壁材料と正孔障壁材料の組み合わせを検索し、検索でヒットした材料の組み合わせの群の中から、有機発光素子に用いる電子障壁材料と正孔障壁材料を選択する工程と、工程で選択した電子障壁材料と正孔障壁材料を用いて有機エレクトロルミネッセンス素子を設計する工程を含む。
この態様によれば、発光強度の経時変化が小さくて素子寿命が長い有機エレクトロルミネッセンス素子をさらに確実に設計することができる。
【0107】
<プログラム>
本発明のプログラムは、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の第1設計方法および第2設計方法の少なくとも一つの方法を実施するためのプログラムである。
プログラムを構成する工程については、上記の<有機エレクトロルミネッセンス素子の設計方法>の欄の記載を参照することができる。
本発明のプログラムは、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の第1設計方法および第2設計方法のいずれか一つの方法を実施するためのプログラムであってもよいし、第1設計方法および第2設計方法の両方を実施するためのプログラムであってもよい。
本発明のプログラムは、コンピューターで読み込み可能な記録媒体に格納することができる。また、本発明によれば、本発明のプログラムを格納した、読み込み可能な記録媒体を提供することができる。
【実施例0108】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光性能の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR-3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行った。
【0109】
(実施例1)
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度5.0×10-4Paで積層した。まず、ITO上にHATCNを10nmの厚さに蒸着して正孔注入層を形成した。次に、NPDを厚さ30nmに蒸着して第2正孔輸送層を形成し、その上に、TrisPCzを10nmの厚さに蒸着して第1正孔輸送層を形成した。続いて、化合物EB1を厚さ5nmに蒸着して電子障壁層を形成した。次に、化合物H1と化合物T1を異なる蒸着源から共蒸着し、40nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、化合物H1と化合物T1の濃度は、順に65重量%、35重量%とした。次に、HBを10nmの厚さに蒸着して正孔障壁層を形成し、その上に、HBとLiqを異なる蒸着源から共蒸着して厚さ30nmの電子輸送層を形成した。この時、HBとLiqの濃度は、順に70重量%、30重量%とした。さらに、Liqを厚さ2nmに蒸着して電子注入層を形成し、その上に、アルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着して陰極を形成することにより、有機エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)とした。
【0110】
(実施例2~4、比較例1)
化合物EB1の代わりに、表1に示す化合物を電子障壁材料として用いること以外は、実施例1と同様の手順で有機エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)を作製した。
【0111】
実施例1~4および比較例1で作製した有機エレクトロルミネッセンス素子を25.2mA/cmで駆動して、電圧、外部量子効率(EQE)および寿命(LT95)を測定した結果と、電子障壁層に使用した化合物のHOMOエネルギーの絶対値、LUMOエネルギーの絶対値および電気双極子モーメントを表1に示し、その電気双極子モーメントを横軸、LT95を縦軸にしてプロットしたグラフを図1に示す。ここで、LT95は、発光強度が駆動開示時の95%になるまでの時間である。表1において、電圧、EQEおよびLT95は、比較例1で測定された値に対する百分率で表した。図1中の「EB1」等は、各実施例で用いた電子障壁材料の化合物番号である。
【0112】
【表1】
【0113】
図1に示すように、電子障壁材料の電気双極子モーメントが3.08D未満である実施例1~4のEL素子は、電子障壁材料の電気双極子モーメントが3.08Dを超える比較例1のEL素子に比べて長い素子寿命を示した。特に、電子障壁材料の電気双極子モーメントが1.25D未満である実施例1、2のEL素子は、比較例1のEL素子の2倍以上の素子寿命が得られた。このことから、電子障壁材料の電気双極子モーメントを3.08D未満、好ましくは1.25D未満に規定することにより、EL素子の寿命を顕著に改善できることが確認された。
また、電子障壁材料のHOMOエネルギーが異なる実施例1~4の各EL素子で発光特性に大きな差がなかったことから、HOMOエネルギーに係るキャリアバランスやキャリア移動度の影響は小さいと考えられ、電気障壁材料の電気双極子モーメントを小さくしたことが素子寿命の向上に大きく寄与したことが示唆された。
【0114】
(実施例5~8、比較例2)
化合物EB1の代わりにPTCzを電子障壁材料として用い、HBの代わりに表2に示す化合物を正孔障壁材料として用いること以外は、実施例1と同様の手順で有機エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)を作製した。
【0115】
実施例5~8および比較例2で作製した有機エレクトロルミネッセンス素子について、電圧、外部量子効率(EQE)および寿命(LT95)を測定した結果と、正孔障壁層に使用した化合物のHOMOエネルギーの絶対値、LUMOエネルギーの絶対値および電気双極子モーメントを表2に示し、その電気双極子モーメントを横軸、LT95を縦軸にしてプロットしたグラフを図2に示す。表2において、電圧、EQEおよびLT95は、比較例2で測定された値に対する百分率で表した。図2中の「HB1」等は、各実施例で用いた正孔障壁材料の化合物番号である。
【0116】
【表2】
【0117】
図2に示すように、正孔障壁材料の電気双極子モーメントが6.51D未満である実施例5~8のEL素子は、正孔障壁材料の電気双極子モーメントが6.51Dを超える比較例2のEL素子に比べて長い素子寿命を示した。特に、電気双極子モーメントが0.50D未満である実施例7、8のEL素子は、比較例2のEL素子の1.7倍以上の素子寿命が得られた。このことから、正孔障壁材料の電気双極子モーメントを6.51D未満、好ましくは2.00D未満や1.00D未満、特に好ましくは0.50D未満に規定することにより、EL素子の寿命を改善できることが確認された。
また、正孔障壁材料のLUMOエネルギーが異なる実施例5~8の各EL素子で発光特性に大きな差がなかったことから、LUMOエネルギーに係るキャリアバランスやキャリア移動度の影響は小さいと考えられ、正孔障壁材料の電気双極子モーメントを小さくしたことが素子寿命の向上に大きく寄与したことが示唆された。
【0118】
(実施例9、10)
化合物T1の代わりに化合物T2を発光材料として用い、化合物EB1の代わりに、表3に示す化合物を電子障壁材料として用い、HBの代わりに表3に示す化合物を正孔障壁材料として用いること以外は、実施例1と同様の手順で有機エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)を作製した。
【0119】
実施例9、10で作製した有機エレクトロルミネッセンス素子について、電圧、外部量子効率(EQE)および寿命(LT95)を測定した結果と、電子障壁層および正孔障壁層に使用した各化合物のHOMOエネルギーの絶対値、LUMOエネルギーの絶対値および電気双極子モーメントを表3に示す。また、各素子の発光の減衰曲線を図3に示す。表3において、電圧、EQEおよびLT95は、実施例9で測定された値に対する百分率で表した。
【0120】
【表3】
【0121】
図3に示すように、電子障壁材料の電気双極子モーメントと正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和が3.00D未満である実施例10のEL素子は、その電気双極子モーメントの和が3.00Dを超える実施例9のEL素子(電気双極子モーメントの和の発明における比較基準)に比べて発光強度の経時変化が抑えられていた。このことから、電子障壁材料の電気双極子モーメントと正孔障壁材料の電気双極子モーメントの和を3.00D未満に規定することにより、発光強度の経時変化をより抑制できることが確認された。
【0122】
【化29】
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明では、電子障壁材料や正孔障壁材料の電気双極子モーメントを規定することにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の素子寿命を向上させることができる。そのため、本発明によれば、実用性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
図1
図2
図3