(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017122
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】アルカリ剤
(51)【国際特許分類】
C01F 5/08 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
C01F5/08
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119560
(22)【出願日】2022-07-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 直人
(72)【発明者】
【氏名】荒瀬 隆
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛明
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB06
4G076BA39
4G076BA46
4G076BD02
4G076CA02
4G076CA26
4G076CA28
4G076CA40
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】適度な溶出速度を有し、長期にわたって安定した効果を発揮可能なアルカリ剤を提供する。
【解決手段】本発明に係るアルカリ剤は、結晶子径が80~300nm、BET比表面積が0.1~1.2m2/gであって、MgO含有率が95.0質量%以上である酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする。
(MgO含有率は、蛍光X線測定にて検出されたMg,Ca,Si,Fe,Alの5元素を、それぞれMgO、CaO、SiO2、Fe2O3、Al2O3に変換した際の含有率(質量%)合計を100としたときの値である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶子径が80~300nm、BET比表面積が0.1~1.2m2/gであって、MgO含有率が95.0質量%以上である酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とするアルカリ剤。
(MgO含有率は、蛍光X線測定にて検出されたMg,Ca,Si,Fe,Alの5元素を、それぞれMgO、CaO、SiO2、Fe2O3、Al2O3に変換した際の含有率(質量%)合計を100としたときの値である。)
【請求項2】
前記酸化マグネシウム粒子は、下記式(1)で表されるS/M比が、0.004~0.040である請求項1記載のアルカリ剤。
S/M=XRF(S)/XRF(M) (1)
(XRF(S)およびXRF(M)は、それぞれ、蛍光X線測定にて検出されたMg,Ca,Si,Fe,Alの5元素を、それぞれMgO、CaO、SiO2、Fe2O3、Al2O3に変換した際の含有率(質量%)合計を100としたときのSiO2含有率およびMgO含有率である。)
【請求項3】
前記酸化マグネシウム粒子は、50%体積累積粒径(D50)と結晶子径との比(D50/結晶子径)が、100~600である請求項1記載のアルカリ剤。
【請求項4】
前記酸化マグネシウム粒子は、下記式(2)で表される溶出速度試験値Xが、0.00035以下である請求項1記載のアルカリ剤。
X=m/t (2)
(上記式(2)中、mは、MgO懸濁液のpHを3に維持する溶出試験の(終点における硫酸mol/MgOmol)であり、tは、滴定時間(s)である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水質や土壌等の環境を、アルカリ性に改質・維持する材料(アルカリ剤)が必要とされる場面がある。このようなアルカリ剤は、肥料、塗料等においても用いられる。例えば、特許文献1には、酸化マグネシウムまたは酸化カルシウムによる土壌改質効果を、母材やpH調整剤との併用により抑制した土壌改質材が記載されている。また、特許文献2には、特定組成を有する鋼材の表面に、アルカリ金属濃縮領域を有する非水溶性塗膜を形成した塗装鋼材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-044110号公報
【特許文献2】特開2015-151571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
環境改質という目的から、改質効果の発生源となるアルカリ剤は適度な溶出速度を有し、長期にわたって効果を維持することが期待される。しかしながら、アルカリ剤自体の溶出速度についてはこれまで特に着目されておらず、十分な検討が行われていない。
【0005】
そこで本発明は、適度な溶出速度を有し、長期にわたって安定した効果を発揮可能なアルカリ剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルカリ剤は、結晶子径が80~300nm、BET比表面積が0.1~1.2m2/gであって、MgO含有率が95.0質量%以上である酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適度な溶出速度を有し、長期にわたって安定した効果を発揮可能なアルカリ剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者ら鋭意検討の結果、結晶子径およびBET比表面積が所定範囲内であって、所定量の酸化マグネシウムを含有する酸化マグネシウム粒子が、適度な溶出速度を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0009】
本発明のアルカリ剤には、結晶子径およびBET比表面積が所定範囲内に規定された酸化マグネシウム粒子(MgO粒子)が含有される。MgO粒子においては、95質量%以上を酸化マグネシウムが占め、不純物が存在することもできる。
【0010】
本発明におけるMgO粒子の結晶子径は80~300nmである。結晶子径が80~300nmの範囲内であることによって、適度な溶出性を確保することができる。MgO粒子は、結晶子径が小さいほど、溶出が速くなる傾向にある。MgO粒子の結晶子径は、好ましくは85~275nmであり、より好ましくは90~250nmである。結晶子径は、XRDパターンにおけるMgO(002)面ピークを解析ソフトで処理することにより得られた値である。一般に、一つの粒子は複数の単結晶で構成された多結晶体であり、結晶子径は多結晶体中の単結晶の大きさの平均値を示している。
【0011】
後述するように、本発明におけるMgO粒子は、マグネシウム化合物を焼成してなるマグネシア焼結体から得られ、その際の焼成温度によって結晶子径を制御することができる。マグネシアは、原料となるマグネシウム化合物の熱分解により生じる場合が多く、微細な結晶が発生した後に焼成温度に応じて結晶成長が進行する。MgO粒子の結晶子径は、不純物含有量による調整も可能である。Si等は、結晶成長を促進する傾向があり、特に、MgO含有率99質量%以下のマグネシア焼結体では結晶成長が促進されやすい。さらに、マグネシア焼結体を粉砕してMgO粒子の結晶子径を減少させることも可能である。
【0012】
また、MgO粒子は、BET比表面積が0.1~1.2m2/gに規定される。これによって、適度な溶出性を確保することができる。MgO粒子のBET比表面積は、好ましくは1.0m2/g以下、より好ましくは0.8m2/g以下、さらに好ましくは0.6m2/g以下である。また、MgO粒子のBET比表面積は、0.15m2/g以上が好ましく、0.25m2/g以上がより好ましい。
【0013】
MgO粒子のBET比表面積は、マグネシア焼結体の焼成温度により制御することができる。焼成温度が高いほど、BET比表面積は小さくなる傾向にある。また、焼成されたマグネシア焼結体を粉砕することで、BET比表面積を増大させることも可能である。加えて、焼成および/または粉砕されたマグネシア焼結体を分級することによって、任意のBET比表面積を有する粒子を主体とする粒子を選別することもできる。
【0014】
本発明におけるMgO粒子は、結晶子径およびBET比表面積が所定範囲内であることに加えて、MgO含有率が95質量%以上であるので、適度な速度でアルカリを溶出し、長期にわたって安定した効果を発揮することができる。MgO含有率は、MgO粒子中の99.0質量%以下であることが好ましく、95.5~98.5質量%であることがより好ましく、96.0~98.0質量%であることがさらにより好ましい。
MgO粒子中のMgO含有率は、蛍光X線測定にて検出されたMg,Ca,Si,Fe,Alの5元素を、それぞれMgO、CaO、SiO2、Fe2O3、Al2O3に換算した際の含有率(質量%)合計を100としたときのMgOの含有率である
【0015】
アルカリ溶出速度の測定には、50mgのMgO粒子を100mLのイオン交換水に分散させたMgO懸濁液と、0.05mol/Lの硫酸とを用いる。電位差自動滴定装置を用い、硫酸を滴下することでMgO懸濁液のpHを3に維持し、pH維持に要した硫酸消費量を求める。具体的には、下記式(2)で表される溶出速度試験値Xで評価することができる。
X=m/t (2)
(上記式(2)中、mは、MgO懸濁液のpHを3に維持する溶出試験の(終点における硫酸mol/MgOmol)であり、tは、滴定時間(s)である。)
こうして得られる溶出速度試験値Xが0.00035以下であれば、適度な溶出速度を有し、長期間作用を発揮することができる。溶出速度試験値Xは、0.00025以下がより好ましく、0.00020以下がさらに好ましい。溶出速度試験値Xの下限は特に限定されないが、0.00003以上が好ましく、0.00005以上がより好ましく、0.00010以上がさらに好ましい。
【0016】
MgO粒子は不純物として、例えばCa,Si,Fe,Al等を含有することができる。不純物に関しては、下記式(1)で表されるS/M比で評価することができる。
S/M=XRF(S)/XRF(M) (1)
XRF(S)およびXRF(M)は、それぞれ、蛍光X線測定にて検出されたMg,Ca,Si,Fe,Alの5元素を、それぞれMgO、CaO、SiO2、Fe2O3、Al2O3に換算した際の含有率(質量%)合計を100としたときのSiO2含有率(S)およびMgO含有率(M)である。
【0017】
(S/M比)が、0.004~0.040の場合には、安定性が向上し、粉砕分級の際に表面に多くの負荷を受けた場合でも、耐湿性を維持する傾向にある。マグネシア焼結体の焼成時に形成される異相(Si-Mg化合物)が、吸湿等による変質の内部浸透を遅らせるものと推測される。(S/M比)は、0.006~0.035が好ましく、0.007~0.020がより好ましい。
【0018】
MgO粒子の50%体積累積粒径(D50)は、1~200μmであることが好ましい。D50がこの範囲内であることによって、適度な溶出速度を発揮することができる。焼成温度が高いほど、D50は増大する傾向にある。また、焼成されたマグネシア焼結体を粉砕することで、D50を減少させることも可能である。加えて、焼成および/または粉砕されたマグネシア焼結体を分級することによって、D50を任意の範囲に調整することもできる。MgO粒子のD50は、10~150μmであることがより好ましく、20~100μmであることがさらに好ましい。
【0019】
MgO粒子は、50%体積累積粒径(D50)と結晶子径との比(D50/結晶子径)が、100~600の範囲内であることが好ましい。(D50/結晶子径)が小さいほど、結晶構造の破断面を粒子表面に露出する可能性が高まり、耐湿性等の安定性が低下すると考えられる。100~600の範囲内であれば、耐湿性を向上させることができる。(D50/結晶子径)は、150~550が好ましく、200~500がより好ましい。
【0020】
MgO粒子の耐湿性は、加湿試験における質量増加率から評価することができる。温度50℃湿度85%の雰囲気中に120時間保持した際、質量増加率が2%以下であることが好ましい。質量増加率は、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のアルカリ剤は、マグネシア焼結体を粉砕し、必要に応じて分級することで得ることができる。
マグネシア焼結体は、例えば、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム化合物を焼成して得ることができる。水酸化マグネシウムとしては、海水中のマグネシウム塩と水酸化カルシウムとの反応で沈殿したものなどを使用することができる。炭酸マグネシウムとしては、マグネサイト鉱石などを使用することができる。
【0022】
マグネシウム化合物の焼成は、大気中、1300~2800℃で行うことが好ましい。1300℃未満の場合には、結晶子径は所定範囲より小さく、BET比表面積は所定範囲より大きくなる傾向にあり、過度な溶出速度を有する材料となりやすい。一方、2800℃を超えると、結晶子径が所定範囲より大きく、BET比表面積が所定範囲より小さくなる傾向にあり、アルカリ剤としての機能が不十分な材料となりやすい。焼成温度は、1400~2400℃がより好ましい。焼成時間は、10分間~10時間とすることが好ましい。
【0023】
MgO含有率を含むMgO粒子中の成分含有量は、マグネシア焼結体を焼成する際に調整することができる。具体的には、焼成原料となるマグネシウム化合物の選択、および、Si等の不純物に対応する添加物の使用により制御することができる。製造効率を考慮すると、原料となるマグネシウム化合物中の不純物量を参照し、マグネシウム化合物の選択と組み合わせにより調整することが好ましい。
【0024】
Si含有量は、任意の添加剤により調整することができる。添加剤は特に限定されないが、例えば、シリカフューム、珪砂、ケイ酸ナトリウム等が挙げられる。マグネシウム化合物としては、流通品を用いることも可能だが、公知の手段を用いて成分調整したマグネシウム化合物を作製してもよい。なお、所定の条件を満たすマグネシア焼結体を入手可能な場合には、それを用いてもよい。
【0025】
マグネシア焼結体が粗大粒を多く含む場合には、粉砕により扱いやすい粒径とすることができる。粉砕装置としては、例えば、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ジョークラッシャー、衝撃式破砕機などの破砕装置、ディスクミル、転動ボールミル、振動ボールミル、ピンミル、ビーズミル、ジェットミル、サイクロンミルなどの粉砕装置等が挙げられる。こうした装置は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
粉砕後、分級を行うことにより、粗粉および/または微粉を取り除いて、好ましい粒度分布とすることができる。分級方法は特に限定されず、振動篩、風力分級機、サイクロン式分級機などを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
マグネシア焼結体に対し、必要に応じて、上述したような粉砕および/または分級の処理を施して、所定の粒径に調整することができる。粉砕工程と分級工程は、マグネシア焼結体に応じて適宜組み合わせることができ、順番および回数は特に制限されない。分級工程と粉砕工程とは、いずれを先に実施してもよく、粉砕工程を経たマグネシア焼結体に分級工程を実施した後、さらに粉砕工程を実施することもできる。
【0028】
採用するマグネシア焼結体の粒径が既に所望の性状を充足する場合は、粉砕工程および分級工程を実施することなく使用してもよい。
結晶子径、BET比表面積、およびMgO含有率の条件を備えたMgO粒子であれば、本発明のアルカリ剤として有効に用いることができる。適度な溶出速度を有し、長期にわたって安定した効果を発揮可能であるので、本発明の材料は、アルカリ剤として好適に用いることができる。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではなく、また、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0030】
<酸化マグネシウムの製造>
原料のマグネシウム化合物としては、海水と消石灰の反応により得られた水酸化マグネシウムを用意した。水酸化マグネシウムにおける成分含有量は、消石灰からの不純物、不純物除去工程の有無、および添加剤により決定される。
水酸化マグネシウムを焼成してマグネシア焼結体を作製し、粉砕および分級を組み合わせて実施例および比較例となるMgO粒子を製造した。MgO粒子を製造に当たっては、結晶子径およびBET比表面積が表1の値となるように、焼結温度、および粉砕・分級を制御した。焼成温度、および粉砕・分級の有無は表1に示す通りである。粉砕1では衝撃式破砕機およびサイクロンミル、分級は篩別および風力選別、粉砕2ではサイクロンミルを用いた。
【0031】
得られたMgO粒子について、結晶子径、BET比表面積、含有成分、および体積累積粒径を求めた。それぞれの評価方法は、以下のとおりである。
【0032】
<結晶子径>
まず、X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製 NEW D8 ADVANCE)を用い、以下の条件にてXRDパターンを求めた。
X線源:CuKα(Niフィルター)
管電圧:40kV
管電流:40mA
検出器:1次元半導体高速検出器 LynxEye
発散スリット:0.30度
ステップサイズ:0.015度
計数時間:0.65秒/ステップ
得られたXRDパターンについて、解析ソフト(ブルカー・エイエックスエス社製 DIFFRAC.EVA V.3.2)を用いて、結晶子径を算出した。XRDパターン中のMgO(002)面ピークを指定し、半値幅に基づく結晶子径として計算された値を用いた。
【0033】
<BET比表面積>
比表面積計(ユアサイオニクス株式会社製、モノソーブ)を用いて、前処理として180℃で10分間脱気後、BET1点法にて測定した。
【0034】
<含有成分の測定>
MgO粒子の含有成分は、四ホウ酸リチウムを融材としたガラスビード法を用いて、蛍光X線分析装置(リガク製Supermini 200)により測定した。検出された特性X線の定量分析には、耐火物協会標準物質蛍光X線分析用マグネシア質耐火物(JRRM401-410)から作成した検量線を用いた。
【0035】
蛍光X線測定にて検出されたMg,Ca,Si,Fe,Alの5元素を、それぞれMgO、CaO、SiO2、Fe2O3、Al2O3に変換した際の含有率(質量%)合計を100としたときのSiO2含有率およびMgO含有率を、それぞれXRF(S)およびXRF(M)とした。こうして得られたXRF(S)およびXRF(M)を用いて、下記式(1)によりS/M比を求めた。
S/M=XRF(S)/XRF(M) (1)
得られた結果を、結晶子径およびBET比表面積とともに下記表1にまとめる。
【0036】
<体積累積粒径(D50)>
レーザー回折式粒度分布測定装置(MICROTRAC MT3300EX マイクロトラック・ベル(株)製)により、波長780nmのレーザー光を用い、3回の繰り返し測定の平均として体積基準の粒度分布を求め、50%体積累積粒径D50を得た。
得られた結果を、D50/結晶子径とともに下記表2にまとめる。
【0037】
【0038】
【0039】
実施例のMgO粒子は、いずれも結晶子径が80~300nm、BET比表面積が0.1~1.2m2/g、MgO含有率が95質量%以上である。これに対し、比較例1のMgO粒子は、結晶子径が80nm未満であり、比較例2,3のMgO粒子は、BET比表面積が1.2m2/gを超えている。
【0040】
実施例および比較例のMgO粒子について、溶出性および耐湿性を評価した。それらの方法を以下に示す。
【0041】
<溶出速度試験>
まず、50mgのMgO粒子を100mLのイオン交換水に分散して、MgO懸濁液を調製した。電位差自動滴定装置(京都電子工業製、AT-510型)を用い、MgO懸濁液を撹拌しつつ0.05mol/Lの硫酸を滴下することでMgO懸濁液のpHを3に保持し、pH維持に要した硫酸消費量(CS(1))(硫酸mol/MgOmol)を求めた。測定の終点は、測定開始から1時間経過、もしくは硫酸消費量から懸濁液中のMgO全量を消費したと判定される時点とし、測定開始~終点までの時間を滴定時間(s)とした。
イオン交換水100mLについて同様に測定し、ブランクの硫酸消費量(CS(0))(硫酸mol/MgOmol)を求めた。酸化マグネシウム懸濁液の終点時間における硫酸消費量(CS(1))(硫酸mol/MgOmol)から、ブランクでの終点時間における硫酸消費量(CS(0))(硫酸mol/MgOmol)を差し引き、酸化マグネシウム粉末による(終点における硫酸mol/MgOmol)を求めた。
こうして得られた(終点における硫酸mol/MgOmol)をmとし、滴定時間(s)をtとして、下記式(2)により溶出速度試験値Xを算出する。
X=m/t (2)
溶出速度試験値Xが0.00035以下であれば、適度な溶出速度を備えている。
【0042】
<耐湿性試験>
20gのMgO粒子をガラス製秤量瓶に収容して秤量し、温度50℃及び湿度85%の恒温恒湿槽中で120時間保持した。その後、恒温恒湿槽から取り出し、MgO粒子の質量(M(1))を秤量し、保持前のMgO粒子の質量(M(0))を用いて下記式により重量増加率を求めた。質量増加率が2%以下であれば、十分な耐湿性を備えている。
質量増加率=((M(1)-M(0))/M(0))×100(%)
得られた結果を、溶解速度試験値とともに下記表3にまとめる。
【0043】
【0044】
実施例のMgO粒子は、結晶子径が80~300nm、BET比表面積が0.1~1.2m2/gの範囲内であるので、適度な溶出速度を有している。これに対し、MgO粒子は、結晶子径が80nm未満と小さい比較例1、BET比表面積が1.2m2/gを超えている比較例2,3では、溶出速度が過剰に早くなる。結晶子径およびBET比表面積の一方の要件を備えない場合には、長期にわたって機能を発現することができない。