(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171220
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】ダイオードおよび光電変換装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/329 20060101AFI20241204BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20241204BHJP
H01L 31/06 20120101ALI20241204BHJP
【FI】
H01L29/88 F
H01L29/06 601N
H01L31/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088181
(22)【出願日】2023-05-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.公開日:令和4年9月9日、arXiv:2209.04248 論文、コーネル大学 2.開催日:令和4年9月20日~23日、開催場所:東北大学川内北キャンパス(宮城県仙台市青葉区川内41)、2022年第83回応用物理学会秋季学術講演会 3.公開日:令和5年2月27日、Appl.Phys.Lett.122,093502(2023) 論文、米国物理学協会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050、「光波発電を用いた赤外光エネルギー利用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】清水 信
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ゼン
(72)【発明者】
【氏名】湯上 浩雄
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251AA20
5F251DA01
5F251DA02
5F251FA06
(57)【要約】
【課題】電気抵抗が低く、高い整流特性を有するダイオードを提供する。
【解決手段】本発明のダイオード100は、第一金属層101と、第二金属層102と、第一金属層101と第二金属層102との間に挟まれた第一絶縁体層103と、を備えるMIM型の積層構造を有するダイオードであって、第一絶縁体層103と第一金属層101との間で、第一絶縁体層103の表面に沿って、互いに離間して分布する複数の金属ナノ粒子104と、金属ナノ粒子104と第一金属層101との間で、金属ナノ粒子104を覆う第二絶縁体層105と、をさらに備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一金属層と、第二金属層と、前記第一金属層と前記第二金属層との間に挟まれた第一絶縁体層と、を備えるMIM型の積層構造を有するダイオードであって、
前記第一絶縁体層と前記第一金属層との間で、前記第一絶縁体層の表面に沿って、互いに離間して分布する複数の金属ナノ粒子と、
前記金属ナノ粒子と前記第一金属層との間で、前記金属ナノ粒子を覆う第二絶縁体層と、をさらに備えることを特徴とするダイオード。
【請求項2】
前記積層構造の積層方向と直交する方向において、前記金属ナノ粒子の粒径は、前記第一絶縁体層の厚みの0.5倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のダイオード。
【請求項3】
隣接する前記金属ナノ粒子間の距離は、前記金属ナノ粒子の粒径の0.5倍以上、10倍以下であることを特徴とする請求項2に記載のダイオード。
【請求項4】
前記積層方向からの平面視において、前記金属ナノ粒子の合計面積が、前記第一絶縁体層の面積の0.03倍以上、0.79倍以下であることを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載のダイオード。
【請求項5】
前記第二絶縁体層の厚みは、前記金属ナノ粒子の粒径の0.3倍以上、1倍以下であることを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載のダイオード。
【請求項6】
請求項1または2のいずれかに記載のダイオードを備えることを特徴とする光電変換装置。
【請求項7】
前記ダイオードが、前記積層構造の積層方向において、前記第一金属層から前記第一絶縁体層までを貫通し、前記第二金属層の内部まで到達する凹部を有することを特徴とする請求項6に記載の光電変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオードおよび光電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
整流作用を有する電子部品として、ダイオードが知られている。p型半導体とn型半導体を接合させたpn接合ダイオード、金属と半導体を接合させたショットキーダイオードは、マイクロ波等の電磁波に応答し、整流を行う素子として広く用いられているが、1012Hzを超える高周波数の光に応答することが難しい。一方、絶縁体を挟んで二種類の金属を接合させたMIMダイオードは、1012Hzを超える高周波数の光に対して応答可能であるため、光の周波数で動作するレクテナ等の光電変換装置(特許文献1)に適用することができる。レクテナは、アンテナとダイオードで構成され、アンテナで電磁波を吸収し、それに伴って発生する電場の内部振動を、ダイオードで整流する機能を有する。
【0003】
しかしながら、MIMダイオードでは、電気抵抗を下げることと整流特性を向上させることがトレードオフの関係にあり、両方を同時に実現させることが難しい。例えば、MIMダイオードの電気抵抗を低くするためには、絶縁体を薄くする必要があるが、絶縁体を薄くすると、トンネルバリアのエネルギーバンド形状の非対称性が低くなり、整流特性が下がってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、電気抵抗が低く、高い整流特性を有するダイオード、および、そのダイオードを備えた光電変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0007】
(1)本発明の一態様に係るダイオードは、第一金属層と、第二金属層と、前記第一金属層と前記第二金属層との間に挟まれた第一絶縁体層と、を備えるMIM型の積層構造を有するダイオードであって、前記第一絶縁体層と前記第一金属層との間で、前記第一絶縁体層の表面に沿って、互いに離間して分布する複数の金属ナノ粒子と、前記金属ナノ粒子と前記第一金属層との間で、前記金属ナノ粒子を覆う第二絶縁体層と、をさらに備える。
【0008】
(2)上記(1)に記載のダイオードにおいて、前記積層構造の積層方向と直交する方向において、前記金属ナノ粒子の粒径は、前記第一絶縁体層の厚みの0.5倍以下であることが好ましい。
【0009】
(3)上記(1)または(2)のいずれかに記載のダイオードにおいて、隣接する前記金属ナノ粒子間の距離は、前記金属ナノ粒子の粒径の0.5倍以上、10倍以下であることが好ましい。
【0010】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一つに記載のダイオードにおいて、前記積層方向からの平面視において、前記金属ナノ粒子の合計面積が、前記第一絶縁体層の面積の0.03倍以上、0.79倍以下であることが好ましい。
【0011】
(5)上記(1)~(4)のいずれか一つに記載のダイオードにおいて、前記第二絶縁体層の厚みは、前記金属ナノ粒子の粒径の0.3倍以上、1倍以下であることが好ましい。
【0012】
(6)本発明の一態様に係る光電変換装置は、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載のダイオードを備える。
【0013】
(7)上記(6)に記載の光電変換装置において、前記ダイオードが、前記積層構造の積層方向において、前記第一金属層から前記第一絶縁体層までを貫通し、前記第二金属層の内部まで到達する凹部を有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電気抵抗が低く、高い整流特性を有するダイオード、および、そのダイオードを備えた光電変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るダイオードの断面図である。
【
図2】同実施形態において、順方向バイアスを加えたダイオードの各層のエネルギー準位を示すグラフである。
【
図3】同実施形態において、逆方向バイアスを加えたダイオードの各層のエネルギー準位を示すグラフである。
【
図4】(a)~(c)同実施形態のダイオードの製造過程における断面図である。
【
図5】(a)同実施形態のダイオードの製造過程における断面図である。(b)(a)の一部を拡大した図である。
【
図6】(a)同実施形態のダイオードの製造過程における断面図である。(b)(a)の一部を拡大した図である。
【
図7】(a)同実施形態の製造方法により、得られるダイオードの断面図である。(b)(a)の一部を拡大した図である。
【
図8】同実施形態のダイオードを備えた光電変換装置の斜視図である。
【
図9】
図8の光電変換装置のうち、ダイオードを含む断面を拡大した図である
【
図10】(a)実施例1に係るダイオードの断面の画像である。(b)(a)の画像のうち、金属ナノ粒子の近傍を拡大した画像である。
【
図11】実施例1、比較例1に係るダイオードの電流・電圧特性を示すグラフである。
【
図12】実施例1、比較例1に係るダイオードの整流特性を示すグラフである。
【
図13】実施例1に係るダイオードの電流・電圧特性を示すグラフである。
【
図14】実施例1に係るダイオードの整流特性を示すグラフである。
【
図15】実施例1、比較例1に係るダイオードの電流密度と非対称性の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態に係るダイオード、および光電変換装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
(ダイオード)
図1は、本発明の一実施形態に係るダイオード100の断面図である。ダイオード100は、第一金属層101と、第二金属層102と、第一金属層101と第二金属層102との間に挟まれた第一絶縁体層103と、を備えるMIM型の積層構造を有する。さらに、ダイオード100は、第一絶縁体層103と第一金属層101との間に、複数の金属ナノ粒子104とそれらを覆う第二絶縁体層105とを備える。
【0018】
第一金属層101、第二金属層102の材料は、カーボンやTi、Au、Co、Ni、Se、Cu等の金属、あるいはそれらの金属化合物を主成分として含む材料から選択することができる。第一金属層101、第二金属層102の材料は、第一金属層101の仕事関数が、第二金属層102の仕事関数より大きくなるように選択されることが好ましい。例えば、二つの材料Ti、Ptが選択される場合には、Tiが第一金属層101の材料に用いられ、Ptが第二金属層103の材料に用いられてもよい。第一金属層101全体の材料構成と、第二金属層103全体の材料構成とは、一致してもよいし、一致しなくてもよい。
【0019】
第一絶縁体層103は、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等、より具体的には、TiO2、SiO2等から、第一金属層101および第二金属層102の仕事関数より小さい電子親和力を有するように選択された、絶縁体の材料からなる。第一絶縁体層103は、第一金属層101と第二金属層102との間において、トンネル電流のみが流れる程度の厚みを有する。
【0020】
複数の金属ナノ粒子104は、第一絶縁体層103と第一金属層101との間で、第一絶縁体層103の表面に沿って(好ましくは接して)、互いに離間して分布する。第一金属層101と第二金属層102の間に電圧を印加した場合、金属ナノ粒子104の近傍に電場が集中して発生する。
図1では、電場が集中する様子を電気力線Eで表現している。金属ナノ粒子104の近傍で電気力線Eが密集した状態になる。
【0021】
金属ナノ粒子104の形状は、特に限定されることはなく、球状に近い形状であってもよいが、電場集中効果を高める観点から、球状とは異なる非対称な形状(例えば所定の方向に細長い形状等)であれば好ましい。積層構造の積層方向Lと直交する方向M(
図1では横方向)において、金属ナノ粒子104の粒径104dは、第一絶縁体層103の厚み103tの0.5倍以下であることが好ましく、0.2倍以下であればより好ましく、例えば、1nm以上、5nm以下であってもよい。金属ナノ粒子104の粒径104dは、第一絶縁体層103の厚み103tの0.01倍以上であってもよい。
【0022】
金属ナノ粒子の粒径104dは、第一絶縁体層の厚み103tより小さ過ぎると、第一絶縁体層103との界面が平坦な状態に近づき、金属ナノ粒子104による電場集中の効果の及ぶ範囲が狭くなってしまう。反対に、金属ナノ粒子の粒径104dが、第一絶縁体層の厚み103tの0.5倍より大きいと、金属ナノ粒子104近傍の電場の集中が弱くなってしまう。
【0023】
本実施形態での粒径104dは、積層方向Lからの平面視において、金属ナノ粒子104が分布する領域全体、例えば第一絶縁体層の表面103aの領域全体で平均したものとする。各金属ナノ粒子104の形状および大きさは、ばらついていてもよいが、ばらつきは小さいほど好ましい。例えば、粒径104dのばらつきは、粒径104dの平均値に対して30%以下であれば好ましい。
【0024】
隣接する金属ナノ粒子104間の距離104rは、金属ナノ粒子104の粒径の0.5倍以上、10倍以下であれば好ましく、2倍以上、4倍以下であればより好ましく、例えば、4nm以上、40nm以下であってもよい。
【0025】
金属ナノ粒子104間の距離が、粒径104dの1倍より小さいと、平坦な状態に近づき、電場集中の効果が得られにくくなる。反対に、金属ナノ粒子104間の平均距離が粒径104dの10倍より大きいと、第一絶縁体層103との界面が平坦な領域が拡大し、全体として電場集中の効果が弱まってしまう。
【0026】
距離104rは、積層方向Lからの平面視において、金属ナノ粒子104が分布する領域全体で平均したものとする。各距離104rは、ばらついていてもよいが、ばらつきは小さいほど好ましい。例えば、距離104rのばらつきは、各距離104rの平均値に対して30%以下であれば好ましい。
【0027】
積層方向Lからの平面視において、金属ナノ粒子104の合計面積は、第一絶縁体層101の面積の0.03倍以上、0.79倍以下であることが好ましく、0.09倍以上、0.20倍以下であればより好ましい。
【0028】
第二絶縁体層105は、金属ナノ粒子104と第一金属層101との間で、金属ナノ粒子104を覆う薄膜である。第二絶縁体層105の厚みは、第一金属層101と金属ナノ粒子104の間でトンネル電流が流れる程度の厚みであり、金属ナノ粒子の粒径104dの0.3倍以上、1倍以下であることが好ましく、例えば、0.9nm以上、3nm以下であってもよい。
【0029】
第二絶縁体層105が薄すぎると、金属ナノ粒子104間が第一金属層101で埋まった状態になり、第一絶縁体層の表面103aに沿って広がる金属層のようになってしまうため、電場集中効果が起きなくなる。また、第二絶縁体層105が、金属ナノ粒子の粒径104dの1倍より厚いと、第一金属層101と金属ナノ粒子104の間でのトンネル確率が下がり、トンネル電流が減ってしまう。
【0030】
第一金属層101と第二金属層102は、互いに異なる金属材料からなるため、両層の仕事関数差に伴って、第一絶縁体層103のトンネルバリアのエネルギーバンド形状が非対称となる。仕事関数が大きい第一金属層101側のトンネルバリアのエネルギーバンドが、仕事関数が小さい第二金属層102に比べて高くなる。その結果として、第一金属層101側から第二金属層102側に向かう一方向のみに、電流が流れる整流効果が得られる。
【0031】
図2は、第一金属層101と第二金属層102との間に順方向バイアスを加えた場合、すなわち、第二金属層102側に対して第一金属層101側の電位が高くなるように、両層の間に電圧を印加した場合における、各層のエネルギー準位を示すグラフである。グラフの横軸が積層方向Lにおける座標zを示し、グラフの縦軸はエネルギー準位(eV)を示している。
【0032】
第一金属層101と第一絶縁体層103との間に、金属ナノ粒子104が分布していない従来のMIM型ダイオードでは、トンネルバリアのエネルギーバンドが、第一金属層101側第二金属層102側に向かって、破線で示す直線に沿って減少する。一方、金属ナノ粒子104が分布している本実施形態のMIM型ダイオードでは、トンネルバリアのエネルギーバンドが、第一金属層101側から第二金属層102側に向かって、実線で示す下に凸の曲線に沿って減少する。第一金属層101側では、トンネルバリアのエネルギーバンドの傾きが、従来の場合に比べて急峻になり、積層方向Lにおいてトンネルバリアが薄くなるため、トンネル電流が流れやすくなる。
【0033】
図3は、第一金属層101と第二金属層102との間に逆方向バイアスを加えた場合、すなわち、第二金属層102側に対して第一金属層101側の電位が低くなるように、両層の間に電圧を印加した場合における、各層のエネルギー準位を示すグラフである。グラフの横軸、縦軸は、
図2と同様である。
【0034】
第一金属層101と第一絶縁体層103との間に、金属ナノ粒子104が分布していない従来のMIM型ダイオードでは、トンネルバリアのエネルギーバンドが、第一金属層101側から第二金属層102側に向かって、破線で示す直線に沿って減少する。この直線の傾きは、順バイアスがかかった場合に比べて緩やかである。一方、金属ナノ粒子104が分布している本実施形態のMIM型ダイオードでは、トンネルバリアのエネルギーバンドが、第一金属層101側から第二金属層102側に向かって、実線で示す上に凸の曲線に沿って、一旦増加してから減少する。第一金属層101側では、トンネルバリアのエネルギーバンドの傾きが、従来の場合に比べて緩やかになり、積層方向Lにおいてトンネルバリアが厚くなるため、トンネル電流が流れにくくなる。
【0035】
(ダイオードの製造方法)
ダイオード100の製造方法は、主に、第二金属層102を形成する工程と、第一絶縁体層103を形成する工程と、金属ナノ粒子104を形成する工程と、第二絶縁体層105を形成する工程と、第一金蔵層101を形成する工程と、を順に有する。
図4~7は、ダイオード100の各製造工程における断面図である。
【0036】
まず、
図4(a)に示すように、一面106aに接着層107が形成された基材106を準備し、接着層107の上に、スパッタリング法等の公知の成膜法を用いて、一様な厚みを有する第二金属膜(不図示)を形成する。接着層107の材料としては、例えばTiが用いられる。
【0037】
次に、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて、
図4(b)に示すように、第二金属膜のうちダイオードを構成する第二金属層102となる部分を残し、それ以外の部分を除去する。
【0038】
次に、ALD法を用いて、
図4(c)に示すように、第二金属層102、接着層107、および基材106の露出面を覆う第一絶縁体膜103Aを形成する。
【0039】
次に、原子堆積法(ALD法)を用いて、
図5(a)に示すように、第一絶縁体膜の表面103aに沿って、互いに離間して分布する複数の金属ナノ粒子104を形成する。
図5(b)は、金属ナノ粒子104が分布する領域の一部Rを拡大した図である。ALD法における成膜初期段階においては、金属が第一絶縁体膜の表面103a上で島状に成長する。成膜をさらに続けると、成長した島同士が繋がり始めるが、繋がり始める前に、成膜を終了する。
【0040】
次に、ALD法を用いて、
図6(a)に示すように、金属ナノ粒子104および第一絶縁体層103の露出面を覆う第二絶縁体膜105Aを形成する。
図6(b)は、金属ナノ粒子104が分布する領域の一部を拡大した図である。
【0041】
次に、スパッタリング法等の公知の成膜法を用いて、第二絶縁体膜105Aの露出面を覆う第一金属膜(不図示)を形成する。続いて、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて、ダイオードを構成する第一金属層101、第二絶縁体層105、金属ナノ粒子104、および第一絶縁体層103となる部分を残し、それ以外の部分を除去することにより、
図7(a)に示すように、本実施形態のダイオード100が完成する。第一金属層101、第二金属層102は、電極として使用するため、それぞれ積層構造と直交する方向Mに延在させ、電源と接続する部分を設けている。
図7(b)は、金属ナノ粒子104が分布する領域の一部を拡大した図である。第一金属層101が、第二絶縁体層105の露出面全体を覆うとともに、窪んでいる部分を埋め込んでいる。
【0042】
以上のように、本実施形態のダイオード100は、MIM型のダイオードであって、二つの金属層のうち仕事関数が大きい第一金属層101と第一絶縁体層103の間に、複数の金属ナノ粒子104を備えている。そのため、ダイオード100の両端に電圧を印加した際に、金属ナノ粒子104の近傍に電場が集中し、トンネルバリアのエネルギーバンド形状が変化する。具体的には、順方向バイアス電圧を加えた場合、第一金属層101側ではトンネルバリアのエネルギーバンドの傾きが急峻になり、トンネルバリアが薄くなるため、トンネル電流が流れやすくなる。反対に、逆方向バイアス電圧を加えた場合、第一金属層101側ではトンネルバリアのエネルギーバンドの傾きが緩やかになり、トンネルバリアが厚くなるため、トンネル電流が流れにくくなる。したがって、本実施形態のダイオード100によれば、順方向電流に対する電気抵抗を低くするとともに、逆方向電流に対する電気抵抗を高めることができ、高い整流特性を実現することができる。
【0043】
本実施形態のダイオード100は、MIM型のダイオードであり、1012Hzを超える高周波数の光に対して応答可能であるため、光の周波数で動作するレクテナ等の光電変換装置に備えるダイオードとして適用することができる。レクテナは、アンテナとダイオードで構成され、アンテナで電磁波を吸収し、それに伴って発生する電場の内部振動を、ダイオードで整流する機能を有する。ダイオード100を、このレクテナのダイオードとしてもよい。
【0044】
図8は、特開2021-111721号公報で開示されている光電変換装置(レクテナ)の斜視図である。光電変換装置10は、一方の面から深さ方向に凹む凹部108を複数有している。凹部108の側壁は、底面側から、第二金属層102、第一絶縁体層103、第一絶縁体層101を、順に積層したMIM型のダイオードの構造を有する。ここでは、第一金属層101の一部を積層構造の外に引き出し、電源と接続する部分を設けている。
【0045】
図9は、この光電変換装置を構成するダイオードとして、本実施形態のダイオードを適用した場合に、ダイオードを含む断面を拡大し、電磁波が入射している状態を示す図である。
図9に示す積層構造は、本実施形態のダイオード100に対し、積層方向Lにおいて第一金属層101から第一絶縁体層103までを貫通し、第二金属層102の内部まで到達する凹部108を形成することによって得られる。第一絶縁体層103と第一金属層101との間に、本実施形態の金属ナノ粒子104と第二絶縁体層105を備えていること以外は、元のダイオードの構成と同様である。
【0046】
光電変換装置100は、開口型のアンテナ(キャビティアンテナ)構造を有しており、光の入射経路が電極で遮蔽されないため、光結合率を高く維持することができ。その結果として、高い発電効率を得ることができる。また、凹部108内の空間は、積層方向Lと垂直な全ての方向において側壁で囲まれているため、凹部108に入射した全偏光を閉じ込めて定在波を形成することができ、この定在波が誘起する電流量を大きくすることができる。さらに、光電変換装置100は、低抵抗かつ高整流特性を実現する本実施形態のダイオードを備えることにより、凹部108内の定在波から誘起される電流を効率よく流すことができる。
【実施例0047】
以下、実施例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0048】
(実施例1)
上記実施形態のダイオードを作製した。各層の構成を次のように設計した。
・第二金属層の構成材料:Pt
・第二金属層の厚み:70(nm)
・第一絶縁体層の構成材料:TiO2
・第一絶縁体層の厚み:5.5(nm)
・第一金属層の構成材料:Pt
・第一金属層の厚み:70(nm)
・金属ナノ粒子の構成材料:Pt
・金属ナノ粒子の平均粒径:3(nm)
・金属ナノ粒子間の平均距離:8.5(nm)
・第二絶縁体層の構成材料:TiO2
・第二絶縁体層の厚み:1(nm)
【0049】
図10(a)は、作製したダイオードの断面のTEM画像である。積層方向Lの金属ナノ粒子104の厚み(粒径)がほぼ揃っており、積層方向Lと直交する方向Mのサイズはランダムであることが分かる。
【0050】
図10(b)は、この断面のうち金属ナノ粒子104の近傍を拡大した画像である。隣接する金属ナノ粒子104間、金属ナノ粒子104と第一金属層101との間が、第二絶縁体層105で電気的に絶縁されていることが分かる。
【0051】
(比較例1)
金属ナノ粒子104と第二絶縁体層105を備えていないこと以外は、実施例1と同様のダイオードを作製した。
【0052】
実施例1、比較例1のダイオードについて、順方向、逆方向の電流・電圧特性のシミュレーションおよび測定を行った。
図11は、その結果を示すグラフである。グラフの横軸は電圧(V)を示し、グラフの縦軸は電流密度(A/m
2)を示す。
【0053】
シミュレーション結果を比較すると、比較例1の順方向電流に比べて、実施例1の順方向電流が大きくなっていることが分かる。これは、金属ナノ粒子104の近傍の電場集中により、トンネルバリアが薄くなり、トンネル電流が流れやすくなるためであると考えられる。測定結果がシミュレーション結果と一致していることから、この考え方が正しいことが分かる。
【0054】
実施例1、比較例1のダイオードについて、整流特性のシミュレーションおよび測定を行った。
図12は、その結果を示すグラフである。グラフの横軸は電圧(V)を示し、グラフの縦軸は電流密度の非対称性を示す。電流密度の非対称性は、順方向の電流密度I
+と、逆方向の電流密度I
-の比(I
+/I
-)として定義される。
【0055】
シミュレーション結果を比較すると、比較例1に比べて、実施例1の非対称性が大きくなっていることが分かる。これは、金属ナノ粒子近傍の電場集中により、順方向バイアスを加えた場合のトンネルバリアが薄くなり、反対に逆方向バイアスを加えた場合のトンネルバリアが厚くなることで、電流の流れやすさの差が大きくなるためであると考えられる。測定結果がシミュレーション結果と一致していることから、この考え方が正しいことが分かる。
【0056】
実施例1の構成で、金属ナノ粒子間の距離(ARE)を0、1、1.25、2として、順方向、逆方向の電流・電圧特性、および非対称性のシミュレーションを行った。
図13は、電流・電圧特性のシミュレーション結果を示すグラフである。グラフの横軸、縦軸は、
図11と同様である。
図14は、非対称性のシミュレーション結果を示すグラフである。グラフの横軸、縦軸は、
図12と同様である。AREは、金属ナノ粒子の直径に対する、隣接金属ナノ粒子中心間距離の比を意味している。
【0057】
金属ナノ粒子間の距離が大きくなるにつれて、順方向電流が増加し、反対に逆方向電流が減少しており、その結果として、非対称性が大きくなることが分かる。この結果から、金属ナノ粒子間の距離が、ダイオードの抵抗を低くし、整流特性を向上させる上で、有効なパラメータであることが分かる。
【0058】
図15は、実施例1、比較例1で得られるダイオードの電流密度とその非対称性の測定結果と、ダイオード特性に影響するパラメータを変えて行ったシミュレーション結果と、を比較するグラフである。グラフの横軸は電流密度(A/m
2)を示し、グラフの縦軸は電流密度の非対称性を示す。
【0059】
比較例1の構成で絶縁体層の厚みを4nm、5nm、6nm、7nmとした場合のシミュレーション結果が、三角プロットで示されている。この結果から、絶縁体層を薄くするほど電流が流れやすくなるが、整流特性は変わらないことが分かる。
【0060】
比較例1の構成で、二つの金属層の仕事関数差を0.2eV、0.4eV、0.6eV、0.8eV、1.0eVとした場合のシミュレーション結果が、菱形プロットで示されている。この結果から、仕事関数差を大きくすると、電流が流れやすくなるとともに、整流特性が向上する傾向が見られるが、向上に限界があることが分かる。
【0061】
実施例1の構成で、AREを0、1、1.5、2、2.5とした場合のシミュレーション結果が、丸形プロットで示されている。この結果から、実施例1の構成であれば、金属ナノ粒子間の距離を調整することにより、仕事関数差の調整で得られる整流特性をはるかに上回る、高い整流特性が得られることが分かる。