(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171224
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】パウチ容器
(51)【国際特許分類】
B65D 30/02 20060101AFI20241204BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241204BHJP
B65D 77/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B65D30/02
B65D65/40 D
B65D77/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088186
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140958
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100137888
【弁理士】
【氏名又は名称】大山 夏子
(72)【発明者】
【氏名】若林 裕樹
【テーマコード(参考)】
3E064
3E067
3E086
【Fターム(参考)】
3E064AB23
3E064BA26
3E064BA36
3E064BA55
3E064BB03
3E064BC09
3E064BC18
3E064BC20
3E064EA07
3E064FA04
3E064HM01
3E064HS04
3E064HS07
3E067AA03
3E067AB96
3E067AC01
3E067BA12A
3E067BB14A
3E067BB15A
3E067BB25A
3E067BC07A
3E067CA04
3E067CA16
3E067CA24
3E067EA06
3E067EB27
3E067EE40
3E067FA01
3E067FC01
3E067GA18
3E067GD07
3E086AA23
3E086AD01
3E086BA15
3E086BA33
3E086BB01
3E086BB51
3E086BB74
3E086BB77
3E086BB85
3E086CA29
(57)【要約】
【課題】ポリエチレンを含む内層の経年劣化を抑制する。
【解決手段】過酸化水素を含有する内容液を保持するパウチ容器であって、測定温度180℃の動的粘弾性測定にて測定された10rad/sの複素粘度Aと、0.1rad/sの複素粘度Bとの比B/Aが2.5以下であるポリエチレンを内層に含む、パウチ容器。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を含有する内容液を保持するパウチ容器であって、
測定温度180℃の動的粘弾性測定にて測定された10rad/sの複素粘度Aと、0.1rad/sの複素粘度Bとの比B/Aが2.5以下であるポリエチレンを内層に含む、パウチ容器。
【請求項2】
前記0.1rad/sの複素粘度Bと、前記10rad/sの複素粘度Aとの差B-Aは、5000Pa・s以下である、請求項1に記載のパウチ容器。
【請求項3】
前記ポリエチレンの破断歪は、400%以上である、請求項1又は2に記載のパウチ容器。
【請求項4】
前記ポリエチレンの分子量分布Mw/Mnは、9以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のパウチ容器。
【請求項5】
前記ポリエチレンは、メタロセン触媒によって重合されたポリエチレンである、請求項1~4のいずれか一項に記載のパウチ容器。
【請求項6】
前記パウチ容器は、スタンディングパウチである、請求項1~5のいずれか一項に記載のパウチ容器。
【請求項7】
前記内容液の容量は、1200mL超である、請求項1~6のいずれか一項に記載のパウチ容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パウチ容器に関する。
【背景技術】
【0002】
液体洗剤、漂白剤、柔軟剤、又はシャンプーなどのトイレタリー用品の詰め替え用容器として、スタンディングパウチ等のパウチ容器が用いられている。このようなパウチ容器は、熱圧着によるシール性に優れたポリエチレンを内層に含む積層フィルムで構成される(下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、合成樹脂の使用量を削減するために、様々な製品の詰め替え容器としてパウチ容器がさらに採用されるようになってきている。
【0005】
しかしながら、パウチ容器が過酸化水素を含む内容液を保持する場合、パウチ容器の内層が過酸化水素から発生する活性酸素によってダメージを受け、経年で劣化することがあった。
【0006】
特に、消費者の買いだめによる長期的な保管、又は店舗での在庫の長期的な保管などが行われる場合、パウチ容器の破袋を防止するために内層の経年劣化を抑制することが望まれる。
【0007】
本発明は、過酸化水素を含む内容液を保持するパウチ容器において、ポリエチレンを含む内層の経年劣化を抑制することが可能な技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点は、過酸化水素を含有する内容液を保持するパウチ容器であって、測定温度180℃の動的粘弾性測定にて測定された10rad/sの複素粘度Aと、0.1rad/sの複素粘度Bとの比B/Aが2.5以下であるポリエチレンを内層に含む、パウチ容器に関する。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、過酸化水素を含む内容液を保持するパウチ容器の内層の経年劣化を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るパウチ容器を模式的に示す説明図である。
【
図2】
図1に示すパウチ容器を構成する積層フィルムの積層構造を模式的に示す説明図である。
【
図3】直鎖状高分子の動的粘弾性測定の代表的な結果を示すグラフ図である。
【
図4】実施例1に係るポリエチレンの貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’の測定結果を示すグラフ図である。
【
図5】実施例2に係るポリエチレンの貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’の測定結果を示すグラフ図である。
【
図6】比較例1に係るポリエチレンの貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’の測定結果を示すグラフ図である。
【
図7】実施例1、2、及び比較例1に係るポリエチレンの複素粘度η
*の測定結果を示すグラフ図である。
【
図8】GPCの校正に用いたポリスチレンの校正曲線を示すグラフ図である。
【
図9】実施例2に係るポリエチレンの分子量分布の測定結果を示すグラフ図である。
【
図10】比較例1に係るポリエチレンの分子量分布の測定結果を示すグラフ図である。
【
図11】強度測定においてポリエチレンシートを打ち抜く形状を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<パウチ容器>
まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の実施形態が適用されるパウチ容器について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るパウチ容器1を模式的に示す説明図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係るパウチ容器1は、積層フィルム10を胴部材及び底部材とするスタンディングパウチである。パウチ容器1は、複数の積層フィルム10をシール部2にて貼り合わせることで構成される。例えば、パウチ容器1は、2枚の積層フィルム10からなる胴部材と、内側にV字形状に折れ曲げられた積層フィルム10からなる底部材とをサイドシール部2Aと、ボトムシール部2Bとで熱圧着によって貼り合わせることで構成されてもよい。
【0014】
また、パウチ容器1には、パウチ容器1に保持された内容液を外部に排出するための注ぎ口であるスパウト3が設けられる。スパウト3は、スクリュー栓4が取り付けられることで閉じられる。なお、スパウト3は、パウチ容器1に設けられなくともよい。
【0015】
パウチ容器1には、過酸化水素を含む内容液が充填される。パウチ容器1に保持される内容液の過酸化水素の濃度は、例えば、1質量%以上5質量%以下であってもよい。パウチ容器1に保持される内容液は、例えば、漂白剤である。
【0016】
パウチ容器1に保持される内容液の容量は、特に限定されないが、容器の効率性の観点から1200mL超であってもよく、好ましくは1500mL超であってもよく、より好ましくは1800mL超であってもよく、さらに好ましくは2000mL超であってもよい。すなわち、パウチ容器1は、1回の詰め替え量(例えば、500mL~1000mL)を超える複数回の詰め替え量の内容液を保持することが可能な大型パウチ容器であってもよい。パウチ容器1に保持される内容液の容量の上限は、特に限定されないが、例えば、3500mLであってもよい。
【0017】
本実施形態に係るパウチ容器1は、
図2に示す構造の積層フィルム10にて構成される。
図2は、
図1に示すパウチ容器1を構成する積層フィルム10の積層構造を模式的に示す説明図である。
【0018】
図2に示すように、積層フィルム10は、ポリエチレンを含む内層11と、基材となる外層12とを積層した積層フィルムである。
【0019】
内層11は、パウチ容器1の内容液と接する内面側の層である。内層11は、熱圧着によるシール性を高めるために、ポリエチレンを含んで構成される。具体的には、内層11は、パウチ容器1の内側に保持された内容液に含まれる過酸化水素による内層11の経年劣化を抑制するために、後述する特性を有するポリエチレンを含んで構成される。内層11の厚みは、例えば、50μm~250μmであってもよい。
【0020】
外層12は、パウチ容器1の外面側の層である。外層12は、パウチ容器1に対する物理的な衝撃からパウチ容器1を保護するために耐衝撃性を有する材料で構成される。例えば、外層12は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、又はナイロンを含んで構成されてもよい。好ましくは、外層12は、一軸延伸ポリプロピレン、二軸延伸PET、又は二軸延伸ナイロンを含んで構成されてもよい。外層12の厚みは、例えば、3μm~50μmであってもよい。
【0021】
また、外層12は、複数層の積層構造にて設けられてもよい。具体的には、外層12は、PET又はナイロンを含む複数層の積層構造にて設けられてもよい。例えば、外層12は、外側からPET層、及びナイロン層の2層を積層した構造にて設けられてもよく、外側からPET層、PET層、及びナイロン層の3層を積層した構造にて設けられてもよい。
【0022】
<背景>
近年、合成樹脂等の使用量を削減するために、トイレタリー用品の詰め替え用のパウチ容器1では、容器を大型化することで複数回の詰め替えが可能な容量の内容液を保持することが検討されている。
【0023】
しかしながら、大型化されたパウチ容器1は、1回分の詰め替え容量のパウチ容器よりも内容液を保持した状態で長期間保管されるため、内容液に含まれる過酸化水素による内層11へのダメージが顕在化することがあった。具体的には、パウチ容器1の内層11が過酸化水素から発生する活性酸素によってダメージを受けることで、長期の経年によってパウチ容器1が破袋したり、内層11がひび割れしたりすることが考えられる。また、1回分の詰め替え容量のパウチ容器であっても、消費者の買いだめによる長期的な保管、又は店舗在庫の長期的な保管などによって、同様に、経年劣化によるパウチ容器1の破袋、及び内層11のひび割れの可能性が考えられる。
【0024】
特に、大型化されたパウチ容器1は、内容液の荷重によるパウチ容器への負荷が大きく、破袋時に多量の内容液が漏出する可能性があるため、パウチ容器1の内層11の経年劣化を抑制することがより望まれる。
【0025】
本実施形態は、上記事情を一着眼点として創作された。本実施形態に係るパウチ容器1は、過酸化水素から発生する活性酸素に対してより分解しにくい構造のポリエチレンで構成された内層11を含む。これによれば、パウチ容器1は、内層11の経年劣化をより抑制することが可能である。以下、このような本実施形態に係るパウチ容器1の内層11に含まれるポリエチレンについて説明する。
【0026】
なお、内層11は、ポリエチレンに加えて、ポリエチレン以外の樹脂が配合されていてもよい。このような場合であっても、本発明は、同様に、パウチ容器1の内層11の経年劣化を抑制することが可能である。
【0027】
<ポリエチレン>
(特徴)
上述したように、過酸化水素を含む内容液を保持するパウチ容器1の内層11の経年劣化を抑制するためには、過酸化水素から発生する活性酸素に対してより分解しにくい構造を有するポリエチレンで内層11を構成することが重要となる。
【0028】
ここで、ポリエチレンの主要構造となる炭化水素鎖の化学結合の結合強度を検討すると、炭素に結合した水素の結合解離エネルギーは、炭素の炭素置換数が多くなるほど小さくなる。したがって、3級炭素は、より炭素置換数が少ない2級炭素よりもラジカル化しやすいため、活性酸素などの攻撃によってより容易にラジカル化し、分解される可能性がある。
【0029】
このような3級炭素は、ポリエチレンの炭化水素鎖の分岐の起点に存在するため、より分岐が多い構造のポリエチレンほど、分岐の起点となる3級炭素が活性酸素によって攻撃されやすく、経年によって劣化しやすいと考えられる。したがって、より分岐が少なく、分岐の起点となる3級炭素が少ない直鎖状のポリエチレンほど、活性酸素による攻撃に耐性を有し、経年劣化を抑制すると考えられる。
【0030】
ポリエチレン等の高分子の直鎖又は分岐の構造を示す特性としては、例えば、粘弾性特性が挙げられる。粘弾性特性は、ばねのように変形のエネルギーを貯蔵する弾性と、内部で変形のエネルギーを損失させる粘性とを合わせた特性であり、高分子の溶融体に顕著にみられる特性である。
【0031】
具体的には、高分子の溶融体は、固体に較べて自由体積が広いためポリマー間の凝集力が弱い。そのため、高分子の溶融体は、与えられた外力を熱エネルギーとして物体の運動(流動)に消費すると共に、ポリマー間の絡み合いによって内部エネルギー(弾性エネルギー)として貯蔵する。これにより、高分子の溶融体は、ポリマーの流動による粘性と、ポリマー間の絡み合いによる弾性とを有する粘弾性特性を示すことができる。高分子の溶融体の各ポリマーの運動及び絡み合いは、ポリマーの分子量及び分岐構造に影響されるため、高分子の溶融体の粘弾性特性を測定することで、高分子の分岐構造の多寡を評価することができる。
【0032】
粘弾性特性の測定は、例えば、試料(高分子の溶融体)に周期的に変形(ひずみ)を与え、変形によって生じる応力及び位相差を検出することで行われる。このような粘弾性特性の測定は、動的粘弾性測定とも称される。動的粘弾性の測定は、例えば、レオメータを用いることで行うことができる。動的粘弾性測定により、試料の貯蔵弾性率(弾性項)、損失弾性率(粘性項)、及び複素粘度(粘度項)を求めることができる。
【0033】
ここで、直鎖状高分子の溶融体の複素粘度の角周波数依存性を
図3に示す。
図3は、直鎖状高分子の動的粘弾性測定(角周波数依存)の代表的な結果を示すグラフ図である。
【0034】
図3に示すグラフ図の横軸の角周波数は、試料に周期的に与えた変形の周波数であり、物体の弾性における緩和時間に相当し、物体の粘性における流動の速度に相当する。
図3に示すように、高分子の溶融体では、複素粘度は角周波数が低くなるほど上昇する。
【0035】
しかしながら、直鎖状高分子の溶融体では、ポリマー間のずれが生じやすく流動性が高いため、複素粘度は、角周波数が低い領域で増加率が極めて小さい平坦領域FAを形成し、最終的に一定値となる。これは、緩和時間が十分に長い領域では、流動性が高い直鎖状高分子の溶融体は、一定値の粘度(ゼロせん断粘度)を有する粘性体として振る舞うためである。一方で、分岐構造が多い高分子では、分岐構造が互いに絡み合うため、ポリマー間のずれが生じにくく流動性が低くなる。このため、分岐構造が多い高分子の溶融体では、複素粘度は、角周波数が低い領域で平坦領域FAを形成せず、角周波数が低くなるほど単調に上昇するようになる。
【0036】
したがって、高分子の溶融体は、動的粘弾性測定にて測定された複素粘度の低角周波数側に平坦領域FAが形成されるか否かを規定することで、分岐構造の多寡を特定することができる。
【0037】
一例として、複素粘度の平坦領域FAは、低角周波数側の2点における複素粘度の比が閾値以下であることにて規定することができる。具体的には、本実施形態に係るパウチ容器1の内層11に含まれるポリエチレンは、測定温度180℃の動的粘弾性測定にて測定された10rad/sの複素粘度Aと、0.1rad/sの複素粘度Bとの比B/Aが2.5以下であってもよい。なお、比B/Aの下限は特に限定されないが、例えば、比B/Aは1以上であってもよい。比B/Aが1である場合、複素粘度のグラフは、0.1rad/s~10rad/sの範囲で完全に平坦となる。
【0038】
他の例として、複素粘度の平坦領域FAは、低角周波数側の2点における複素粘度の差が閾値以下であることにて規定することができる。具体的には、本実施形態に係るパウチ容器1の内層11に含まれるポリエチレンは、測定温度180℃の動的粘弾性測定にて測定された10rad/sの複素粘度Aと、0.1rad/sの複素粘度Bとの差B-Aは、5000Pa・s以下であってもよい。なお、差B-Aの下限は特に限定されないが、例えば、差B-Aは0Pa・s以上であってもよい。差B-Aが0Pa・sである場合、複素粘度のグラフは、0.1rad/s~10rad/sの範囲で完全に平坦となる。
【0039】
内層11に含まれるポリエチレンが上記特性を満たす場合、ポリエチレンの構造中に含まれる分岐構造が十分に少なくなる。したがって、後述する実施例で示されるように、パウチ容器1は、過酸化水素から発生した活性酸素によって内層11が経年で劣化することを抑制することができる。
【0040】
また、パウチ容器1の内層11に含まれるポリエチレンの破断歪は、400%以上であってもよい。なお、ポリエチレンの破断歪の上限は特に限定されないが、例えば、ポリエチレンの破断歪は1000%以下であってもよい。
【0041】
内層11に含まれるポリエチレンが上記特性を満たす場合、パウチ容器1は、内層11の強度をより高めることができる。したがって、後述する実施例で示されるように、パウチ容器1は、パウチ容器1の破袋、及び内層11のひび割れをより抑制することができる。ポリエチレンの破断歪は、例えば、引張強度試験機にて測定することが可能である。
【0042】
さらに、パウチ容器1の内層11に含まれるポリエチレンの分子量分布Mw/Mnは、9以下であってもよい。なお、ポリエチレンの分子量分布Mw/Mnの下限は特に限定されないが、例えば、分子量分布Mw/Mnは1以上であってもよい。分子量分布Mw/Mnが1である場合、ポリエチレンは、単一の分子量のポリマーで構成されることになる。
【0043】
内層11に含まれるポリエチレンが上記特性を満たす場合、ポリエチレンは、分子量分布がより狭く、ポリマーの均一性がより高くなるため、強度が安定すると共に、劣化しやすい低分子量ポリエチレンの存在比率がより低くなると予想される。したがって、パウチ容器1は、内層11の強度をより高めることができるため、後述する実施例で示されるように、パウチ容器1の破袋、及び内層11のひび割れをより抑制することができる。ポリエチレンの分子量分布Mw/Mnは、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィ(Gel Permeation Chromatography: GPC)にて測定することが可能である。
【0044】
(合成方法)
分岐構造が少ない直鎖状のポリエチレンは、種々の方法を用いて合成することができる。例えば、分岐構造が少ない直鎖状のポリエチレンは、遷移金属触媒を用いた配位イオン重合によって合成することができる。遷移金属触媒は、例えば、チーグラーナッタ触媒又はメタロセン触媒である。特に、メタロセン触媒を用いることで、分岐構造がより少ない直鎖状のポリエチレンを合成することが可能である。
【0045】
さらに、上記の遷移金属触媒を用いて、各種条件を調整してエチレン及びα-オレフィン(プロテン、ブテン、又はペンテン)を共重合することで、パウチ容器1の内層11の構成材料として好適な結晶化度及び融点を有するポリエチレンを合成することが可能である。ポリエチレンの融点は、積層フィルム10のシール特性を確保する観点から、90℃~140℃であることが望ましい。ポリエチレンの結晶化度及び融点は、共重合におけるエチレンの含有量を調整することで、制御することが可能である。
【0046】
<作用効果>
以上にて説明した本発明の一実施形態によれば、パウチ容器1は、過酸化水素水から発生する活性酸素に耐性を有する直鎖状のポリエチレンで内層11が構成されるため、過酸化水素を含む内容液を保持する際の経年劣化を抑制することができる。特に、1200mL超の内容液を保持可能なように大型化されたパウチ容器1は、経年劣化を抑制可能なポリエチレンで内層11を構成されることで、より安定して長期保管することが可能である。
【0047】
このような直鎖状のポリエチレンでは、動的粘弾性測定の複素粘度のグラフにおいて、低角周波数側に変化率が極めて小さい平坦領域FAが形成される。一例として、平坦領域FAは、測定温度180℃の動的粘弾性測定にて測定された10rad/sの複素粘度Aと、0.1rad/sの複素粘度Bとの比B/Aが2.5以下であることで特定されてもよい。他の例として、平坦領域FAは、測定温度180℃の動的粘弾性測定にて測定された10rad/sの複素粘度Aと、0.1rad/sの複素粘度Bとの差B-Aは、5000Pa・s以下であることで特定されてもよい。
【0048】
また、本実施形態に係るパウチ容器1の内層11を構成するポリエチレンの破断歪は、400%以上であってもよい。このような場合、パウチ容器1は、内層11の強度をより高めることで、パウチ容器1の破袋、及び内層11のひび割れをより抑制することができる。
【0049】
さらに、本実施形態に係るパウチ容器1の内層11を構成するポリエチレンの分子量分布Mw/Mnは、9以下であってもよい。このような場合、パウチ容器1は、内層11の強度をより高めることができるため、パウチ容器1の破袋、及び内層11のひび割れをより抑制することができる。
【実施例0050】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下に示す材料、工程、及び手順は、あくまで一例であり、本発明の範囲が以下に示す実施例に限定されるわけではない。
【0051】
(実施例1)
メタロセン触媒を用いて各種条件を調整してエチレン及びプロテンを共重合させたポリエチレンを内層に含む積層フィルムを用意した。積層フィルムの層構成は、内層側からポリエチレンシーラント150μm/ナイロン15μm/PET12μmである。次に、積層フィルムを用いて、横200mm×高さ315mm、及び底部材の折り曲げ長さ60mmのスパウト付きスタンディングパウチを作製した。さらに、作製したスタンディングパウチに過酸化水素2質量%、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤5質量%を含有する内容液1300mLを仕込み入れ、スタンディングパウチの上部を熱圧着にてシールした。これにより、実施例1に係るパウチ容器を作製した。
【0052】
(実施例2)
メタロセン触媒を用いて各種条件を調整してエチレン及びプロテンを共重合させたポリエチレンを内層に含む積層フィルムを用意した。積層フィルムの層構成は、内層側からポリエチレンシーラント180μm/ナイロン15μm/PET12μm/PET12μmである。次に、積層フィルムを用いて、横255mm×高さ340mm、及び底部材の折り曲げ長さ70mmのスパウト付きスタンディングパウチを作製した。さらに、作製したスタンディングパウチに過酸化水素2質量%、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤5質量%を含有する内容液2000mLを仕込み入れ、スタンディングパウチの上部を熱圧着にてシールした。これにより、実施例2に係るパウチ容器を作製した。
【0053】
(比較例1)
各種条件を調整して高圧及び高温下でエチレンを共重合させたポリエチレンを内層に含む積層フィルムを用意した。積層フィルムの層構成は、内層側からポリエチレンシーラント150μm/PET12μm/ナイロン15μmである。次に、積層フィルムを用いて、横160mm×高さ270mm、及び底部材の折り曲げ長さ40mmのスパウト付きスタンディングパウチを作製した。さらに、作製したスタンディングパウチに過酸化水素2質量%、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル界面活性剤5質量%を含有する内容液800mLを仕込み入れ、スタンディングパウチの上部を熱圧着にてシールした。これにより、比較例1に係るパウチ容器を作製した。
【0054】
(粘弾性測定)
実施例1、2、及び比較例1に係るパウチ容器の内層に含まれるポリエチレンを下記の方法で取り出し、粘弾性測定の試料として調製した。
【0055】
具体的には、まず、実施例1、2、及び比較例1に係るパウチ容器をカッター等にて5cm角の大きさに切り出し、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100gと共にスクリュー管に投入することで、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させた。スクリュー管を40℃環境下で2週間保存し、ポリエチレンシーラントを他のPET又はナイロン等と分離させた。さらに、ポリエチレンシーラントを取り出し、水洗いした後、乾燥させた。乾燥後のポリエチレンシーラントを粘弾性測定の試料とした。
【0056】
粘弾性測定は、以下の測定機器及び測定条件を用いて行った。
測定機器:レオメータMCR702e(アントンパール)
測定治具:パラレルプレート20mm,ギャップ0.5mm
測定温度:180℃
測定モード:周波数分散 角周波数0.1rad/s~1000rad/s
測定項目:貯蔵弾性率G’,損失弾性率G’’,複素粘度η*
【0057】
まず、レオメータのチャンバオーブン内を180℃に加温し、測定プレート上の測定皿に上記で調製した試料をセットした。試料が十分に軟化溶融したことを確認した後、測定治具のパラレルプレートを測定皿との間が上記ギャップ(0.5mm)となるように試料の上にセッティングした。なお、その際に、測定皿と測定治具との間からあふれ出た試料は除去した。チャンバオーブン内及び試料の温度が測定温度(180℃)で安定したことを確認した後、上記測定モードで粘弾性を測定した。
【0058】
実施例1に係るポリエチレンの貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’の測定結果を
図4に示し、実施例2に係るポリエチレンの貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’の測定結果を
図5に示す。比較例1に係るポリエチレンの貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’の測定結果を
図6に示す。また、実施例1、2、及び比較例1に係るポリエチレンの複素粘度η
*の測定結果を
図7に示す。
【0059】
また、粘弾性測定結果から算出される実施例1、2、及び比較例1に係るポリエチレンの10rad/sにおける複素粘度A、0.1rad/sにおける複素粘度B、複素粘度の比B/A、及び複素粘度の差B-Aを以下の表1に示す。
【0060】
【0061】
(分子量分布測定)
実施例1、2、及び比較例1に係るパウチ容器の内層に含まれるポリエチレンを下記の方法で取り出し、分子量分布測定の試料として調製した。
【0062】
具体的には、まず、実施例1、2、及び比較例1に係るパウチ容器の内層に含まれるポリエチレンシーラントを粘弾性測定と同様の方法で取り出し、水洗いした後、乾燥させた。その後、乾燥させたポリエチレンシーラント40mgにGPC測定用の移動相20mLを加えて145℃で振とうし、ポリエチレンシーラントを溶解させた。さらに、溶解液を孔径が1.0μmの焼結フィルタで熱ろ過し、ろ液を分子量分布測定の試料とした。
【0063】
分子量分布測定は、以下の測定機器及び測定条件を用いて高温GPC法にて行った。
カラム:TSKgel(登録商標)GMH6-HT×2本+TSKgelGMH6-HTL×2本、内径7.5mm×長さ300mm(東ソー)
温度:140℃
移動相:o-ジクロロベンゼン(0.025質量%BHT含有)
流量:1.0mL/min 注入量0.4mL
検出器:示差屈折計(RI)
カラム校正:単分散ポリスチレン(TSKgel標準ポリスチレン:東ソー)
分子量校正:相対的校正法(ポリスチレン換算)
装置:HLC-8321GPC/HT型 高温ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー)
解析ソフト:Empower3(日本ウォーターズ)
【0064】
また、GPCの校正に用いたポリスチレンの校正曲線を
図8に示し、ポリスチレンの校正曲線テーブルを以下の表2に示す。
【0065】
【0066】
実施例2に係るポリエチレンの分子量分布の測定結果を
図9に示し、比較例1に係るポリエチレンの分子量分布の測定結果を
図10に示す。また、分子量分布の測定結果から算出される実施例1、2、及び比較例1に係るポリエチレンの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、及びピークトップ分子量(Mp)を以下の表3に示す。
【0067】
【0068】
(強度測定)
実施例1、2、及び比較例1に係るパウチ容器の内層に含まれるポリエチレンを下記の方法で取り出し、強度測定の試料として調製した。
【0069】
具体的には、まず、実施例1、2、及び比較例1に係るパウチ容器の内層に含まれるポリエチレンシーラントを粘弾性測定と同様の方法で取り出し、水洗いした後、乾燥させた。その後、乾燥させたポリエチレンシーラントを180℃に加温した180μmのスペーサを有するホットプレス機にセットして20MPaで加圧し、180μm厚のシートを得た。さらに、プレスした180μm厚のシートを打ち抜き刃にて
図11で示す形状に切り出し、強度測定の試料とした。
【0070】
図11は、強度測定においてポリエチレンシートを打ち抜く形状を示す説明図である。
図11で示す形状の各寸法は、以下のとおりである。
l
3:150mm
l
2:108mm
l
1:60mm
r(半径):60mm
b2:20mm
b1:10mm
h(厚み):180μm
【0071】
強度測定は、以下の測定機器及び測定条件を用いて行った。
測定機器:AG-X ロードセル5kN(島津製作所)
測定治具:エアーチャック付きロードセル
測定モード:引張強度試験 引張速度50mm/min
測定項目:最大応力,破断歪
【0072】
実施例1、2、及び比較例1に係るポリエチレンの強度測定の結果を以下の表4に示す。
【0073】
【0074】
(経年劣化の評価)
実施例1、2、及び比較例1に係るパウチ容器を65℃環境下で3か月保管することで、経年劣化の程度を評価した。保管後の実施例1、2、及び比較例1に係るパウチ容器から内容液を取り出した後、内層のポリエチレンシーラントの状態を目視にて観察し、ひび割れ、液漏れ、及びラミネート剥がれ等の有無を確認した。評価結果を以下の表5に示す。
【0075】
【0076】
(総合評価)
以上の実施例1、2、及び比較例1に係るポリエチレンの測定結果、及びパウチ容器の評価結果を以下の表6にまとめて示す。
【0077】
【0078】
上記表6に示すように、実施例1、2に係るポリエチレンは、測定温度180℃の動的粘弾性測定にて測定された10rad/sの複素粘度Aと、0.1rad/sの複素粘度Bとの比B/Aが2.5以下であるため、経年によるパウチ容器のひび割れ、液漏れ、及びラミネート剥がれを抑制できることがわかる。また、実施例1、2に係るポリエチレンは、破断歪が400%以上であり、強度が高いため、経年によるパウチ容器のひび割れ、液漏れ、及びラミネート剥がれを抑制できることがわかる。さらに、実施例1、2に係るポリエチレンは、分子量分布Mw/Mnが9以下であるため、経年によるパウチ容器のひび割れ、液漏れ、及びラミネート剥がれを抑制できることがわかる。
【0079】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。