(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171225
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】見積取得システム及び見積取得プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 30/0601 20230101AFI20241204BHJP
【FI】
G06Q30/0601 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088187
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】関本 稜介
(72)【発明者】
【氏名】池田 弘行
(72)【発明者】
【氏名】酒井 理佐
(72)【発明者】
【氏名】井手 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】藪井 謙
【テーマコード(参考)】
5L030
5L049
【Fターム(参考)】
5L030BB55
5L049BB55
(57)【要約】
【課題】容易に見積を取得することができる見積取得システム及び見積取得プログラムを提供する。
【解決手段】実施形態に係る見積取得システムは、クラスタリング部と前処理部とモデル式構築部とクラスタ特定部とモデル式適用部とを含む。クラスタリング部は、複数の過去案件を複数のクラスタにクラスタリングする。モデル式構築部は、クラスタのそれぞれについて第1及び第2モデルを構築する。第1モデルは、仕様情報とコストに関する値との相関関係を表す。第2モデルは、コスト構造を表す。クラスタ特定部は、見積対象案件に類似する過去案件が属するクラスタを特定する。モデル式適用部は、見積対象案件の仕様情報に基づいて、クラスタ特定部が特定したクラスタについての第1及び第2モデルのうちの一方のモデルを選択し、選択したモデルに基づいて、見積対象案件の見積項目に関する値を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の過去案件を、前記複数の過去案件のそれぞれに関する仕様情報に基づいて、複数のクラスタにクラスタリングするクラスタリング部と、
前記複数の過去案件に関する複数の過去案件情報に対して前処理を行う前処理部と、
前記前処理が行われた複数の過去案件情報に基づいて、前記複数のクラスタのそれぞれについて第1モデルと第2モデルとを構築するモデル式構築部であって、前記複数の過去案件情報のそれぞれは、前記仕様情報と、複数の見積項目を含むコストの値の情報と、を含み、前記第1モデルは、前記仕様情報と、前記コストに関する値と、の相関関係を表し、前記第2モデルは、前記複数の見積項目に関する値同士の関係に対応するコスト構造を表す、モデル式構築部と、
見積対象案件の仕様情報に基づいて、前記複数のクラスタのうち、前記見積対象案件に類似する過去案件が属するクラスタを特定するクラスタ特定部と、
前記見積対象案件の前記仕様情報に基づいて、前記クラスタ特定部が特定したクラスタについての前記第1モデル及び前記第2モデルのうちの一方のモデルを選択し、選択したモデルに基づいて、前記見積対象案件の見積項目に関する値を算出するモデル式適用部と、
を備える見積取得システム。
【請求項2】
前記前処理部は、前記複数の過去案件情報のそれぞれの前記コストの値を、前記複数の過去案件情報のそれぞれに基づいて正規化する、請求項1に記載の見積取得システム。
【請求項3】
前記前処理部は、前記複数のクラスタのそれぞれにおいて、前記複数の過去案件における、前記複数の見積項目のそれぞれに関する値の平均値を算出し、前記平均値に応じて前記複数の見積項目をソートする、請求項2に記載の見積取得システム。
【請求項4】
前記モデル式構築部は、前記複数のクラスタのそれぞれにおいて、前記前処理部が前記複数の見積項目をソートした順と、前記複数の見積項目のそれぞれに関する値の前記平均値と、の関係により前記第2モデルを構築する、請求項3に記載の見積取得システム。
【請求項5】
前記第1モデルは、複数の見積モデルを含み、
前記複数の見積モデルのそれぞれは、前記複数の過去案件の前記仕様情報と、前記複数の見積項目のそれぞれに関する値と、の相関関係を表し、
前記モデル式適用部は、前記見積対象案件の前記仕様情報に基づいて、前記複数の見積モデルのうち前記複数の見積項目の1つに対応した見積モデルと前記第2モデルとの一方のモデルを選択し、選択したモデルに基づいて、前記見積対象案件の前記複数の見積項目の前記1つに関する値を算出する処理を、前記複数の見積項目のそれぞれについて行う、請求項1または2に記載の見積取得システム。
【請求項6】
前記複数の過去案件のそれぞれの前記仕様情報は、複数の仕様項目の情報を含み、
前記複数の見積モデルは、第1見積項目に対応した第1見積モデルを含み、
前記第1見積モデルは、前記複数の仕様項目のうちの少なくとも一部である第1仕様部分と、前記複数の過去案件の前記第1見積項目に関する値と、の相関関係を表し、
前記モデル式適用部は、
前記見積対象案件の前記仕様情報が、前記第1仕様部分に含まれる全ての仕様項目を含む場合、前記第1見積モデルを選択し、前記第1見積モデルに前記見積対象案件の前記仕様情報を適用して前記見積対象案件の前記第1見積項目に関する値を見積り、
前記見積対象案件の前記仕様情報が、前記第1仕様部分に含まれる少なくとも一部の仕様項目を含まない場合、前記第2モデルを選択し、前記第2モデルに基づいて、前記見積対象案件の前記第1見積項目に関する値を見積もる、請求項5に記載の見積取得システム。
【請求項7】
複数の過去案件を、前記複数の過去案件のそれぞれに関する仕様情報に基づいて、複数のクラスタにクラスタリングする処理と、
前記複数の過去案件に関する複数の過去案件情報に対して前処理を行う処理と、
前記前処理が行われた複数の過去案件情報に基づいて、前記複数のクラスタのそれぞれについて第1モデルと第2モデルとを構築する処理であって、前記複数の過去案件情報のそれぞれは、前記仕様情報と、複数の見積項目を含むコストの値の情報と、を含み、前記第1モデルは、前記仕様情報と、前記コストに関する値と、の相関関係を表し、前記第2モデルは、前記複数の見積項目に関する値同士の関係に対応するコスト構造を表す、処理と、
見積対象案件の仕様情報に基づいて、前記複数のクラスタのうち、前記見積対象案件に類似する過去案件が属するクラスタを特定する処理と、
前記見積対象案件の前記仕様情報に基づいて、特定したクラスタについての前記第1モデル及び前記第2モデルのうちの一方のモデルを選択し、選択したモデルに基づいて、前記見積対象案件の見積項目に関する値を算出する処理と、
を、コンピュータに実行させる、見積取得プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、見積取得システム及び見積取得プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
製品やプラント等の受注時には費用の見積が顧客に提示される。例えば、太陽光発電システムのような大型プラントでは事業採算性を検討するために検討初期段階で概算見積を顧客に提示する。このような見積を算出するために、コンピュータなどの演算処理装置を利用した見積取得システムが提案されている。
例えば特許文献1は、見積対象案件の仕様情報を基に、テキストマイニングを用いて工事実績データベースから類似案件の工事実績を抽出し、抽出した工事実績に対して重回帰分析を行うことにより、仕様情報を説明変数、各見積項目の工数を目的変数とした関数を求め、この関数から求めた工数にあらかじめ定義したレートを乗ずることで見積を算出する方法が記載されている。
例えば特許文献2は、過去に用いられた部材の型式をクラスタリングし、クラスタごとに仕様情報を説明変数、見積結果を目的変数とする見積モデルの構築を行い、見積対象で用いられる部材の型式から見積案件に類似した案件が属するクラスタを特定し、特定したクラスタのモデル式に仕様情報を入力することで見積を算出する見積取得装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-099476号公報
【特許文献2】特開2019-101681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、容易に見積を取得することができる見積取得システム及び見積取得プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る見積取得システムは、クラスタリング部と前処理部とモデル式構築部とクラスタ特定部とモデル式適用部とを含む。前記クラスタリング部は、複数の過去案件を、前記複数の過去案件のそれぞれに関する仕様情報に基づいて、複数のクラスタにクラスタリングする。前記前処理部は、前記複数の過去案件に関する複数の過去案件情報に対して前処理を行う。前記モデル式構築部は、前記前処理が行われた複数の過去案件情報に基づいて、前記複数のクラスタのそれぞれについて第1モデルと第2モデルとを構築する。前記複数の過去案件情報のそれぞれは、前記仕様情報と、複数の見積項目を含むコストの値の情報と、を含む。前記第1モデルは、前記仕様情報と、前記コストに関する値と、の相関関係を表す。前記第2モデルは、前記複数の見積項目に関する値同士の関係に対応するコスト構造を表す。前記クラスタ特定部は、見積対象案件の仕様情報に基づいて、前記複数のクラスタのうち、前記見積対象案件に類似する過去案件が属するクラスタを特定する。前記モデル式適用部は、前記見積対象案件の前記仕様情報に基づいて、前記クラスタ特定部が特定したクラスタについての前記第1モデル及び前記第2モデルのうちの一方のモデルを選択し、選択したモデルに基づいて、前記見積対象案件の見積項目に関する値を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態に係る見積取得システムを例示する模式的ブロック図である。
【
図2】
図2は、案件の情報を説明する模式的概念図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る見積取得システムの処理手順を例示するフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態に係る見積取得システムにおける処理を例示する説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る見積取得システムにおける処理を例示する説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る見積取得システムにおける処理を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図面は模式的または概念的なものであり、必ずしも現実のものと同一とは限らない。本願明細書と各図において、既に説明したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
図1は、実施形態に係る見積取得システムを例示する模式的ブロック図である。
図1に表したように、見積取得システム100は、入力装置11、出力装置12、演算装置20及び記憶装置30を含む。
【0009】
記憶装置30は、複数の過去案件に関する複数の過去案件情報31を記憶する。なお、案件とは、例えば、ものの製造や建設をいう。案件という範囲は、ものやサービスを提供することを含んでもよい。さらに、記憶装置30は、複数の過去案件を複数のクラスタに分類したクラスタ情報32、及び、複数の過去案件のそれぞれにかかったコストをモデル化したモデル式のモデル式情報33を記憶する。
【0010】
記憶装置30は、具体的には、例えばROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)といった記憶装置である。より具体的には、記憶装置30は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含み得る。記憶装置30は、コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体を含んでいてもよい。また、例えば、記憶装置30は、見積取得システム100(演算部)によって実行される見積取得プログラムを記憶する。
【0011】
演算装置20は、記憶装置30と通信可能に構成される。演算装置20は、演算部27と、表示部26と、を含む。演算部27は、後述する処理を実行する機能ブロック(クラスタリング部21、前処理部22、モデル式構築部23、クラスタ特定部24及びモデル式適用部25)を含む。これにより、演算部27は、記憶装置30に記憶された過去案件情報31、クラスタ情報32及びモデル式情報33に基づいて、見積対象の案件にかかるコストの値を見積もる。
【0012】
クラスタリング部21は、過去案件の仕様情報をクラスタリングする。前処理部22は、過去案件の実績情報に対して前処理を行う。モデル式構築部23は、クラスタリング部21で分類したクラスタごとに、前処理部22で前処理が行われた実績情報から、見積項目全体のコスト構造を表すモデル(後述する第2モデル)と、過去案件の仕様情報の入力に対して見積結果を出力するモデル(後述する第1モデル)と、を構築する。クラスタ特定部24は、見積対象案件の仕様情報を基に、クラスタリング部21で分類したクラスタから見積対象案件に類似する案件が属するクラスタを特定する。モデル式適用部25は、クラスタ特定部24が特定したクラスタのモデル式構築部23が構築したモデル式から、見積対象案件の仕様情報に合わせてモデル式を選択し、見積対象案件の仕様情報を入力して見積を算出する。表示部26は、モデル式適用部25が算出した見積結果を表示する。
【0013】
具体的には、例えば演算部27は、CPU(Central Processing Unit)等を含む演算回路である。演算部27は、見積取得システム100の各機能を制御する制御部を含んでもよい。演算部27は、記憶装置30に記憶された見積取得プログラムを読み出して実行し、後述する各種処理をソフトウエアにより実現するように構成され得る。表示部26は、演算部27による見積結果を表示する表示装置(例えば液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイなど)である。
【0014】
入力装置11及び出力装置12は、演算装置20及び記憶装置30と通信可能に構成される。入力装置11は、見積取得システム100に過去案件情報や見積対象案件の情報などの各種情報を入力する入力手段である。具体的には、入力装置11は、例えば、タッチパネルなどのセンサ、または、マウスやキーボードなどのユーザインターフェースである。または、入力装置11は、情報を外部の記憶装置やネットワークから受信するための通信モジュールや入力端子でもよい。出力装置12は、見積結果を外部に出力する装置である。出力装置12は、例えば見積結果を外部装置やネットワークに送信するための通信モジュール又は出力端子でもよい。
【0015】
図2は、案件の情報を説明する模式的概念図である。
ここでは、一例として、太陽光発電システムの設置(建設)を、過去案件Pとして想定している。
図2の例では、複数の過去案件Pとして、第1過去案件P1、第2過去案件P2、及び第3過去案件P3が図示されている。記憶装置30に記憶されている各過去案件情報は、各過去案件Pに関する情報である。例えば、複数の過去案件情報は、第1過去案件P1に関する第1過去案件情報、第2過去案件P2に関する第2過去案件情報、第3過去案件P3に関する第3過去案件情報を含む。
【0016】
各過去案件Pの各過去案件情報は、仕様情報SIと、コストの値の情報CIと、を含む。例えば、第1過去案件P1に関する第1過去案件情報は、第1仕様情報SI1と、第1過去案件のコストの値の情報CI1と、を含む。同様に、第2過去案件情報は、第2仕様情報SI2と、第2過去案件のコストの値の情報CI2と、を含む。第3過去案件情報は、第3仕様情報SI3と、第3過去案件のコストの値の情報CI3と、を含む。
【0017】
ある案件の仕様情報は、例えば当該案件における要求仕様を表す情報である。例えば、第1過去案件情報に含まれる第1仕様情報SI1は、第1過去案件P1における要求仕様を表す。仕様情報SIは、複数の仕様項目(所定のN個の仕様項目)の情報を含む。
図2では、複数の仕様項目として、太陽光発電システムを設置する設置場所、太陽光発電システムを設置する場所の降雪量(例えば所定の期間における平均降雪量)、及び太陽光発電システムを設置する場所の地盤の固さの3つの仕様項目を例示している。なお、実施形態においては、過去案件情報の仕様情報SIに含まれる仕様項目の数(N)は、3つに限らず任意の数でよい。
【0018】
各仕様項目の情報は、パラメータ(数値)によって表現することができる。仕様項目が設置場所の場合には、設置場所を表すパラメータとして、例えば平地を1、ゴルフ場を2、山地を3のように、離散的な値を適宜定義してもよい。仕様項目が降雪量の場合には、パラメータは、雪の深さ(cm)のように連続的な値でもよい。または、降雪量が少ない場合を1、降雪量が多い場合を2のように、離散的な値を適宜定義してもよい。各仕様項目の情報は、数値として入力してもよいし、演算部27が必要な情報を抽出して数値化してもよい。
【0019】
このように、過去案件Pの仕様情報SIは、所定のN個の仕様項目に対応したN個のパラメータ(仕様値)の組合せで表現される。つまり、過去案件Pの仕様情報SIは、N次元空間上の点に対応するデータである。
【0020】
ある過去案件Pのコストの値の情報CIは、当該過去案件Pにおいて、実際にかかったコストの値(実績値)である。コストの値は、見積対象案件においては、見積対象となる値であり、例えば費用(金額)である。ただし、実施形態は、費用を見積もるだけでなく、期間やその他の物品の量などを見積もるものであってもよい。コスト(見積項目)は、仕様情報と相関性を有し、仕様情報によって変化する値を有するものあればよい。
【0021】
コストは、見積対象案件において見積対象となる、複数の項目(以下、便宜上「見積項目」と称する)を含む。コストの値の情報には、各見積項目の値の情報が含まれる。各見積項目の値は、例えばコストの値の内訳である。過去案件Pのコストの値の情報CIにおいては、各見積項目の値は、各見積項目に実際に要した値(実績値)である。
【0022】
図2の例では、例えば、見積項目1は、ある機器に関する費用であり、見積項目2は、造成工事に関する費用であり、見積項目3は、基礎工事に関する費用であり、見積項目4は、架台工事に関する費用である。見積項目は、上記に限らず、特定の材料や加工の費用であってもよく、案件に応じて適宜設定できる。見積項目の数は、4に限らず、n個(nは2以上)でよい。
【0023】
図3は、実施形態に係る見積取得システムの処理手順を例示するフローチャートである。
図4~
図6は、実施形態に係る見積取得システムにおける処理を例示する説明図である。
【0024】
例えば、処理手順を開始する前提として、過去案件Pの全仕様情報(全仕様項目の情報)と実績値(全見積項目の値)が完成された状態で記憶装置30 (過去案件情報)に保存されている。
【0025】
図3に表したようにステップS101において、過去案件情報の全仕様情報の中からモデル式構築に必要な仕様情報(例えばN個の仕様項目の情報)を抽出する。例えば、モデル式構築に必要な仕様情報は、あらかじめ定義しているものとする。仕様情報を抽出する過去案件情報は、過去案件の実施時期などを考慮してユーザが選択することもできる。
【0026】
その後、クラスタリング部21は、選出した過去案件の1種類以上の仕様情報(仕様項目)に基づいてクラスタリングを行う。具体的には、例えば、
図3に表したステップS102において、選択した過去案件情報から抽出した仕様情報を用いて過去案件のクラスタリングを行う。クラスタリングを行う際のアルゴリズムとして、例えばk-means法やウォード法など公知のものをユーザが選択することができる。また、クラスタ数は任意の数をユーザが選択することもできる。また、エルボー法などの公知の手法を用いてクラスタ数決定の参考にしても良い。また、x-means法など公知の手法を用いてクラスタ数を自動決定しても良い。クラスタリングの結果得られたクラスタの数、各案件の属するクラスタなどの情報(クラスタ情報32)は、記憶装置30に保存する。各クラスタに属する各案件の実績値を記憶装置30(過去案件情報31)より取得する。
【0027】
例えば、
図4に表したように、クラスタリング部21は、複数の過去案件Pを、複数の過去案件Pのそれぞれに関する仕様情報SIに基づいて、複数のクラスタCkにクラスタリングする。つまり、クラスタリング部21は、全仕様項目の少なくとも一部の情報(1個以上(例えばN個)の仕様項目の情報)に基づいて、複数の過去案件Pを、複数のクラスタCkにクラスタリングする。なお、kは、クラスタの番号を表す1~Kの整数である。つまり、複数のクラスタCkは、第1クラスタC1~第KクラスタCKを含む。
【0028】
各クラスタCkには、複数の過去案件Pが分類されている。言い換えると、複数の過去案件Pは、クラスタCkに属する第mk過去案件Pkmkを含む。なお、mkは、k番目のクラスタCkに属する過去案件Pの番号を表す1~Mkの整数である。
【0029】
具体的には、第1クラスタC1(GroupA)には、第1過去案件P11~第M1過去案件P1M1が分類されている。同様に、第2クラスタC2(GroupB)には、第1過去案件P21~第M2過去案件P2M2が分類されている。同様に、第KクラスタCK(GroupC)には、第1過去案件PK1~第MK過去案件PKMKが分類されている。
【0030】
その後、前処理部22は、例えば、選出した過去案件の実績情報をコスト変動に最も影響するパラメータで正規化し、クラスタリング部21で分類したクラスタごとに、各見積項目の実績値の平均値と標準偏差とを算出し、平均値の値で見積項目のソートを行う。例えば、
図3に表したステップS103において、各案件の各見積項目の実績値を、コスト変動に対して最も影響のあるパラメータで正規化する。例えば太陽光発電事業においては発電規模を表す発電容量がコスト変動に対して最も影響が大きいため、発電容量で実績値を正規化する。クラスタごとに、各案件の正規化した実績値を用いて各見積項目の平均値μと標準偏差σとを算出する。その後、クラスタごとに見積項目を平均値μで昇順または降順にソートする。
【0031】
すなわち、例えば前処理部22が、各過去案件情報のコストの値(各見積項目の値)を、各過去案件情報に基づく基準値で正規化する。各基準値は、各過去案件Pのコストの値の大きさを表す指標値でもよい。例えば、各基準値は、各過去案件Pの仕様情報SIの少なくとも1つの仕様項目の情報に基づいてもよい。具体的には、上述したように、それぞれの過去案件Pにおいて、発電容量(ワット)を基準値としてもよい。例えば、ある過去案件Pの各見積項目の値(実績値)を、当該過去案件Pの発電容量(基準値)で除することで、当該過去案件Pの各見積項目の値を正規化する。
【0032】
または、各基準値は、各過去案件Pのコストの値に基づいてもよい。例えば、それぞれの過去案件において、複数の見積項目のうち最も大きい値を有する見積項目の値を、基準値としてもよい。または、例えば、それぞれの過去案件Pにおいて、所定の見積項目の値を基準値としてもよい。
【0033】
より具体的には、例えば、
図4のように、第1クラスタC1の第1過去案件P
11の各見積項目の値を、第1基準値で正規化する(例えば第1基準値で除する)。この第1基準値は、第1過去案件P
11の第1過去案件情報に基づき、例えば第1過去案件情報の仕様項目のパラメータ、または、コストの値の情報CI1に基づく。
【0034】
同様に、第1クラスタC1の第2過去案件P12~第M1過去案件P1M1のそれぞれの各見積項目の値を、第2基準値~第M基準値のそれぞれで正規化する。第2基準値~第M基準値のそれぞれは、第2過去案件P12~第M1過去案件P1M1のそれぞれの過去案件情報に基づく。
【0035】
前処理部22は、第2クラスタC2~第KクラスタCKに分類された各過去案件Pにおいても、第1クラスタC1と同様に、各見積項目の値を、その過去案件Pの過去案件情報に基づく基準値で正規化する。
【0036】
なお、正規化は、各値を基準値で除するだけでなく、その他の方法を用いてもよい。例えば、各過去案件Pにおいて、複数の見積項目の値の最大値を1とし、最小値を0とする正規化や、複数の見積項目の平均値を0とし標準偏差を1とする正規化を行ってもよい。また、実施形態において、正規化などの前処理は、必ずしも実行しなくてもよく、省略することも可能であり、必要に応じて行ってもよい。
【0037】
そして、
図4に表した第1クラスタC1における処理を例とって説明を続けると、前処理部22は、第1クラスタC1に含まれるM
1個の過去案件Pの第1見積項目の平均値(すなわち、第1過去案件P
11の正規化された見積項目1の値、第2過去案件P
12の正規化された見積項目1の値・・・及び、第M
1過去案件P
1M
1の正規化された見積項目1の値、の平均値)を算出する。また、前処理部22は、第1クラスタC1に含まれるM
1個の過去案件Pの第1見積項目の標準偏差を算出する。同様に、前処理部22は、第1クラスタC1において、第2~第n見積項目のそれぞれの平均値と標準偏差とを算出する。
【0038】
さらに、前処理部22は、第1クラスタC1において、算出した平均値が大きい順(または小さい順)に複数の見積項目をソートするソート処理を行う。例えば、
図4の右側に例示したグラフGr2においては、正規化実績値(正規化された見積項目の値の平均値)が小さい順に、グラフの左側から複数の見積項目が並べられている。
【0039】
言い換えれば、ソート処理は、平均値が大きい順(または小さい順)に複数の見積項目のそれぞれに1~nの番号(数値)を付与する処理である。例えば、第1クラスタC1において、複数の見積項目のうちで平均値が1番大きい見積項目に1、平均値が2番目に大きい見積項目に2、・・・平均値がn番目に大きい見積項目にnといったように、各見積項目に、平均値の大きい順(または小さい順)に1~nの数値を付与する。ソート処理において、各見積項目には、各見積項目の平均値の大きさ(小ささ)の順を表す1~nのいずれかの数値が付与される。
例えば、
図4に例示したグラフGr2のように、見積項目の平均値をソートした順にプロットしたグラフから、コスト構造を表す見積モデルM102を構築する。見積項目の平均値をソートすることにより、コスト構造を表すモデル式の次数を下げることができる。
【0040】
前処理部22は、第2~第Kクラスタにおいても、同様の処理を行う。すなわち、前処理部22は、複数のクラスタCkのそれぞれにおいて、複数の過去案件Pにおける、複数の見積項目のそれぞれに関する値の平均値と標準偏差とを算出し、その平均値に応じて当該複数の見積項目をソートする。
【0041】
このように、前処理部22は、クラスタCkにおいて、複数の過去案件P(第1過去案件Pk1~第Mk過去案件PkMk)の正規化された第1見積項目の値の平均値及び標準偏差、複数の過去案件Pの正規化された第2見積項目の値の平均値及び標準偏差・・・、複数の過去案件Pの正規化された第n見積項目の値の平均値及び標準偏差、を算出する。前処理部22は、クラスタCkにおいて、平均値が大きい順(または小さい順)に複数の見積項目のそれぞれに1~nの番号を付与するソート処理を行う。
【0042】
その後、モデル式構築部23は、クラスタリング部21で分類したクラスタにおいて、それぞれの見積項目で、仕様情報を説明変数、見積結果を目的変数としたモデル式を構築する。例えば、
図3に表したステップS104において、見積項目ごとにコスト変動に影響する仕様情報(仕様項目)を1つ以上定義する。各クラスタに含まれる各案件の見積項目ごとに定義した仕様情報と正規化した実績値を取得し、正規化した実績値を目的変数、仕様情報を説明変数として重回帰分析により各見積項目のコストを推定する見積モデルM101(
図4参照)を構築する。
【0043】
すなわち、例えば、モデル式構築部23は、複数の過去案件Pのそれぞれに関する複数の過去案件情報に基づいて、複数のクラスタCkのそれぞれについて第1モデルM1(例えば複数の見積モデルM101)を構築する。あるクラスタCkの第1モデルM1は、当該クラスタCkの過去案件Pの仕様情報と、コストに関する値と、の相関関係を表すモデルである。すなわち、例えば、第1クラスタC1についての第1モデルM1は、第1クラスタC1の複数の過去案件Pの仕様情報と、第1クラスタC1の複数の過去案件Pのコストに関する値と、の相関を表す。第1モデルM1は、仕様情報を入力としてコストに関する値を見積結果として出力するモデルである。
【0044】
なお、実施形態において「コストに関する値」(見積項目に関する値)とは、最終的な見積対象である金額や期間などといったコストの値(見積項目の値)に、所定の変換処理をした値である。この例では、「コストに関する値」は、上述のように正規化されたコストの値である。ただし、正規化などの変換処理を省略する場合は、コストに関する値は、正規化などの変換がされていないコストの値でもよい。
【0045】
具体的には、
図4の例において、第1モデルM1(複数の見積モデルM101)は、第1見積モデルM1011~第n見積モデルM101n、のn個の見積モデルを含む。第1見積モデルM1011~第n見積モデルM101nのそれぞれは、第1見積項目(見積項目1)~第n見積項目(見積項目n)のそれぞれに対応する。
【0046】
図4に表したように、第1見積モデルM1011は、N個の仕様項目のうちの少なくとも一部(第1仕様部分と称する)の情報と、複数の過去案件Pの第1見積項目に関する値(正規化実績値)と、の相関関係を表す。
図4の例では第1仕様部分は、1つの仕様項目である。仕様値V1は、その1つの仕様項目のパラメータの値である。第1見積モデルM1011は、仕様値V1と、複数の過去案件Pの第1見積項目に関する値と、の相関関係を表す。
【0047】
同様に、第n見積モデルM101nは、N個の仕様項目のうちの少なくとも一部(第n仕様部分と称する)の情報と、複数の過去案件Pの第n見積項目に関する値(正規化実績値)と、の相関関係を表す。
図4の例では、第n仕様部分は2つの仕様項目である。仕様値VN-1及び仕様値VNのそれぞれは、その2つの仕様項目のそれぞれのパラメータの値である。第n見積モデルM101nは、2つの仕様値VN-1、VNと、複数の過去案件Pの第n見積項目に関する値と、の相関関係を表す。
【0048】
一例として、第kクラスタの第j見積モデルM101j(jは1~nの整数)は、
ykj=akj1xkj1+akj2xkj2+・・・ (1)
のようなモデル式で表すことができる。ここで、ykjは、第j見積項目に関する値である。xkj1、xkj2・・・は、第j仕様部分(N個の仕様項目のうちの少なくとも一部)に含まれる各仕様項目の仕様値である。akj1、akj2・・・は、定数である。第j仕様部分に含まれる仕様項目は、N個の仕様項目から適宜定められる。第j仕様部分に含まれる仕様項目の数は、1~Nの適宜の数である。各見積モデルは、教師有り学習などの機械学習により導出されてもよい。なお、モデル式は1次多項式には限らず、例えば、モデル式の次数は2次以上でもよい。
【0049】
また、モデル式構築部23は、クラスタリング部21が分類したクラスタにおいて、それぞれの見積項目の平均値をソートした順にグラフにプロットし、回帰分析によりクラスタのコスト構造を表すモデル式を構築する。例えば、
図3に表したステップS104においては、ステップS103で各クラスタの見積項目ごとに求めた正規化した実績値の平均値μの値をソートした順にグラフにプロットし、実績値の平均値μを目的変数、見積項目を説明変数として回帰分析によりクラスタのコスト構造を表す見積モデルM102(
図4参照)を構築する。平均値μで見積項目をソートすることで、ソートを行う前に比較して構築する見積モデルの次数を下げることができる。
【0050】
すなわち、例えば、モデル式構築部23は、複数の過去案件Pのそれぞれに関する複数の過去案件情報に基づいて、複数のクラスタCkのそれぞれについて第2モデル(見積モデルM102)を構築する。あるクラスタCkの見積モデルM102は、当該クラスタCkに属する複数の過去案件Pにおけるコスト構造を表す。例えば、第1クラスタC1についての第2モデルは、第1クラスタC1の複数の過去案件Pにおけるコスト構造を表す。コスト構造は、複数の見積項目に関する値同士の関係を示す。
【0051】
すなわち、例えば、
図4に表したのグラフGr2のように、第1クラスタC1についての見積モデルM102は、第1クラスタC1に関する上述のソート処理によって複数の見積項目のそれぞれに付与された数値(大きさ順を示す番号)と、第1クラスタC1における複数の見積項目のそれぞれに関する値の平均値と、の相関関係を表す。
【0052】
一例として、第kクラスタの見積モデルM102は、
yk=αkx2+βkx+γk (2)
のようなモデル式で表すことができる。xは、ソート処理によって見積項目に付与された数値である。ykは、x番目の見積項目に関する値(平均値)である。αk、βk、γkは、定数である。見積モデルは、教師有り学習などの機械学習により導出されてもよい。モデル式は2次式には限らず、例えば、モデル式の次数は1次でもよいし、3次以上でもよい。
【0053】
また、クラスタ特定部24は、見積対象案件の1種類以上の仕様情報(仕様項目)に基づいてクラスタリングを行い、クラスタリング部21にてクラスタリングされたクラスタから見積対象案件が属するクラスタを特定する。具体的には、例えば、
図3に表したステップS105において、見積対象案件の仕様情報を用いてクラスタリングを行い、見積対象案件が属するクラスタを特定する。見積対象案件の仕様情報は、例えば入力装置11を用いてユーザが入力する。入力する見積対象案件の仕様情報は、ステップS102で抽出した仕様情報に対して不足していても良い。仕様情報が不足している場合は,不足している仕様情報に事前に設定している(デフォルト)値を当てはめ、その値を用いてクラスタリングを行ってもよい。
【0054】
すなわち、見積対象案件の仕様情報は、所定のN個の仕様項目のうちの少なくとも一部の仕様項目の情報を含む。見積対象案件の仕様情報は、前述した過去案件Pと同様に、N個全ての仕様項目の情報を含んでもよいし、N個の仕様項目のうち一部の仕様項目の情報のみを含んでもよい。このように、見積対象案件の仕様情報は、N個の仕様項目のうちの一部の仕様項目の情報を含まない、不足した情報であってもよい。
【0055】
例えば、
図5に表したように、クラスタ特定部24は、N個の仕様項目から形成されたN次元空間内において、見積対象案件の仕様情報を表す点EPと、各クラスタCkの重心と、の間の距離Lk(例えばユークリッド距離)を算出する。すなわち、クラスタ特定部24は、点EPと第1クラスタC1の重心との距離L1、点EPと第2クラスタC2の重心との距離L2・・・及び、点EPと第KクラスタCKの重心との距離LKを算出する。そして、クラスタ特定部24は、点EPからの距離が最も短い重心を有するクラスタCkを特定する。
【0056】
このようにして、クラスタ特定部24は、見積対象案件の仕様情報に基づいて、複数のクラスタCkのうち、見積対象案件に類似する過去案件が属するクラスタ(見積対象案件が属するクラスタ)を特定する。
【0057】
さらに、モデル式適用部25は、見積対象案件の仕様情報に基づいて、モデル式構築部23が構築したモデル式から適当なモデルを選択し適用することで見積を算出する。具体的には、例えば、
図3に表したステップS106において、ステップS105で入力した見積対象案件の仕様情報に対して、ステップS104で構築したモデル式を適用して見積を算出する。適用するモデル式の判断は、各見積項目に対して行う。例えば、ステップS105で入力した仕様情報がステップS104で構築した見積モデルM101の説明変数を充足する場合は、当該見積モデルM101を適用して見積を算出する。例えば、ステップS105で入力した仕様情報がステップS104で構築した説明変数を充足しない場合は、見積モデルM102を適用して見積を算出する。
【0058】
このように、モデル式適用部25は、見積対象案件の仕様情報に基づいて、クラスタ特定部24が特定したクラスタについての第1モデル(見積モデルM101)及び、当該クラスタについての第2モデル(見積モデルM102)のうちの一方のモデルを選択し、選択したモデルに基づいて、見積対象案件の見積項目に関する値を算出する。
【0059】
すなわち、モデル式適用部25は、第1~第n見積項目のうちの1つの見積項目に対応した見積モデルM101(第1モデル)と、見積モデルM102と、の一方のモデルに基づいて、当該1つの見積項目に関する値を算出する処理を行う。モデル式適用部25は、この処理を、複数の見積項目のそれぞれについて行う。
【0060】
図6は、モデル式適用部25における、見積項目b1~見積項目b10に関する値の算出を例示している。なお、見積項目b1~見積項目b10は、それぞれ、第1~第n見積項目のいずれかである。
図6において、ドットのハッチングのバーは、見積項目の値が見積モデルM101に基づいて算出されたことを表す。斜線のハッチングのバーは、見積項目の値が見積モデルM102に基づいて算出されたことを表す。
【0061】
例えば、見積項目b1に対応した見積モデルM101は、N個の仕様項目のうちの少なくとも一部(見積項目b1の仕様部分と称する)の情報を入力として、見積項目b1に関する値を見積もるモデルである。
図6の例は、見積対象案件の仕様情報が、見積項目b1の仕様部分に含まれる全ての仕様項目に関する情報を含んでいる場合である。言い換えれば、見積対象案件の仕様情報は、見積項目b1に対応した見積モデルM101の説明変数を充足している。この場合、
図6に表したように、見積モデルM101に基づいて、見積項目b1に関する値が見積もられる。
【0062】
例えば、見積項目b4に対応した見積モデルM101は、N個の仕様項目のうちの少なくとも一部(見積項目b4の仕様部分と称する)の情報を入力として、見積項目b4に関する値を見積もるモデルである。
図6の例は、見積対象案件の仕様情報が、見積項目b4の仕様部分に含まれる少なくとも一部の仕様項目に関する情報を含まない場合である。言い換えれば、見積対象案件の仕様情報は、見積項目b4に対応した見積モデルM101の説明変数を充足しない。この場合、
図6に表したように、見積モデルM102に基づいて、見積項目b4に関する値が見積もられる。例えば、上述のソート処理で見積項目b4に付された数値(大きさ順を示す番号)を、見積モデルM102のモデル式に適用する。
【0063】
このように、例えば、第1見積モデルM1011は、N個の仕様項目のうちの少なくとも一部である第1仕様部分と、複数の過去案件の第1見積項目に関する値と、の相関関係を表す。モデル式適用部25は、見積対象案件の仕様情報が、第1仕様部分に含まれる全ての仕様項目を含む場合、第1見積モデルM1011を選択し、第1見積モデルM1011に見積案件の仕様情報を適用して見積対象案件の第1見積項目に関する値を見積る。一方、見積対象案件の仕様情報が、第1仕様部分に含まれる少なくとも一部の仕様項目を含まない場合、モデル式適用部25は、見積モデルM102(第2モデル)を選択し、見積モデルM102に基づいて、見積対象案件の第1見積項目に関する値を見積もる。
【0064】
なお、このようにして見積もられた値は、所定の変換処理(例えば上述の正規化)が適用された値である。ステップS106においては、最終的な金額などの値を算出するため、所定の変換処理が適用された値を、適宜、逆に変換してもよい。例えば、上述のように前処理部22が発電容量で正規化した場合には、見積もられた値(正規化された値)に、見積対象案件の発電容量を掛ければよい。
【0065】
実施形態に係る見積取得システムの効果について説明する。
上述したように、実施形態においては、クラスタごとに第1及び第2モデルの2つのモデルを構築する。そして、見積対象案件の仕様情報に応じて、見積対象案件に類似する過去案件が属するクラスタについての第1及び第2モデルのうち、一方のモデルを選択して、選択したモデルに基づいて見積項目に関する値を算出する。このように、第1及び第2モデルの一方のモデルに基づいて見積を算出することで見積結果を得ることができるため、容易に見積を取得することが可能となる。例えば、第1モデル及び第2モデルの他方での見積が困難な場合であっても、見積結果を得ることができる。また、例えば、見積対象案件の仕様情報などに応じて、より適したモデルを選択して見積結果を得てもよい。
【0066】
例えば、製品やプラントの検討初期段階においては仕様が曖昧な状態で見積を行うこともあり、その場合は見積担当者の経験や知識に基づいた見積が行われるため、担当者によって見積結果にばらつきが生じたり、見積条件が複雑な場合には見積算出までに多くの時間が掛かったりすることがある。そこで、コンピュータなどの演算処理装置を利用した、参考例の見積算出システムが提案されている。参考例の見積算出システムにおいては、見積対象案件の仕様情報を基に類似する過去の実績情報を取得し、取得した実績情報を基に仕様情報を説明変数としたモデル式を構築し、モデル式に見積対象の仕様情報を入力することで見積を算出する。しかし、入力する見積対象案件の仕様情報がモデルの説明変数となる仕様情報を充足していない場合には見積を算出することが困難である。
【0067】
これに対し、実施形態においては、例えば、仕様情報に基づき各案件を複数のクラスタに分類し、クラスタごとに、各見積項目それぞれのコストを推定するモデル式(見積モデルM101)と、クラスタの全見積項目のコスト構造を表すモデル式(見積モデルM102)と、を構築する。見積対象案件の仕様情報を基に、類似する案件が属するクラスタを特定し、見積対象案件の仕様情報が見積モデルM101の説明変数を充足する場合は、見積モデルM101のモデル式を、不足する場合には見積モデルM102のモデル式を適用する。これにより、例えば、見積段階において仕様情報が不足する項目も含めて定量的かつ効率的な見積が可能となる。例えば、仕様情報が不足する場合でも過去の実績に基づいた定量的な概算見積を算出することや、見積算出までの工数を削減することができる。
【0068】
また、実施形態においては、前処理部22は、複数の過去案件情報のそれぞれのコストの値を、複数の過去案件情報のそれぞれに基づいて正規化する。これにより、例えば、複数の過去案件の規模が互いに異なるような場合でも、複数の過去案件のデータをまとめて扱いやすく、モデルを構築することができる。さらに、前処理部22は、上述したように、複数の見積項目を平均値に応じてソートする。これにより、モデル式の次数を低くすることができる。例えば、モデル式構築部23は、各クラスタCkにおいて、前処理部22が複数の見積項目をソートした順と、前記複数の見積項目のそれぞれに関する値の前記平均値と、の関係をグラフにプロットして、回帰分析により、前記第2モデルを構築する。これにより、モデル式の次数を低くすることができる。
【0069】
また、実施形態においては、見積項目ごとにモデルの選択の判断を行い、見積結果を算出する。すなわち、例えば、モデル式適用部25は、見積対象案件の仕様情報に基づいて、複数の見積項目の1つに対応した見積モデルM101と、見積モデルM102と、の一方のモデルを選択する。そして、モデル式適用部25は、選択したモデルに基づいて、複数の見積項目の当該1つに関する値を算出する。モデル式適用部25は、この処理を各見積項目について行う。これにより、見積項目ごとに、より適したモデルで見積もることができる。
【0070】
実施形態によれば、例えば見積対象案件の仕様情報を入力することで自動で類似案件のグループに分類することができる。また、入力する仕様情報の状況によって適用するモデル式を切換えることで、例えば見積初期段階において仕様情報が不足する場合においても、見積の算出を可能とする。
【0071】
なお、
図6の例は、見積対象案件の仕様情報が、見積項目b6に対応した見積モデルM101の説明変数を充足している場合である。
図6の見積項目b6に一点鎖線で表したバーは、見積項目b6に対応した見積モデルM101に基づいて算出した、見積項目b6の見積値を例示している。ここで、
図6の例のように、見積モデルM101に基づく見積値が、クラスタの傾向と異なる場合は、当該見積値を外れ値として処理し、見積モデルM102に基づいて見積値を算出してもよい。
【0072】
例えば、見積モデルM102に基づいて算出した見積項目の見積値と、見積モデルM101に基づいて算出した当該見積項目の見積値と、の差の大きさが所定値よりも大きい場合、見積モデルM101に基づく見積値を外れ値とする。この所定値は、例えば、前処理部22で算出した当該見積項目の標準偏差σに基づいて定めることができ、例えば3σである。
【0073】
また、見積項目の標準偏差σや標本数に基づいて、当該見積項目に対応した見積モデルM101の信頼度を算出してもよい。例えば標準偏差σが小さいほど信頼度は高く、標本数が大きいほど、信頼度は高い。その信頼度に基づいて、当該見積モデルM101に基づく当該見積項目の見積値について、適宜、外れ値判定を行ってもよい。例えば信頼度が所定値よりも低い見積モデルM101に基づく見積項目の見積値を外れ値と判定する。見積モデルM101に基づく見積項目を外れ値と判定した場合は、当該見積項目については、見積モデルM102に基づく見積値を採用してもよい。
【0074】
なお、実施形態において説明した機能ブロックなどの各構成要素は、機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示したように構成されていなくてもよい。複数の機能ブロックの一部又は全部を、適宜、集約してもよいし、各機能ブロックを複数に分割してもよい。各機能ブロックの一部を他のブロックに移してもよい。実施形態の各構成要素は、機能的又は物理的に適宜、分散または統合されてもよい。
【0075】
また、実施形態は、上述のフローチャートにおいて説明した見積取得方法を、コンピュータに実行させる見積取得プログラムであってもよい。見積取得システム100は、見積取得プログラムに基づいて、上述の各処理を実行する。但し、実施形態に係る見積取得方法の一部又は全部は、プログラムを必要としないハードウェアの動作に基づいて実行してもよい。
また、プログラムは、上述の方法をコンピュータに実行させるためのプログラムの形態(コンピュータに設けられた形態)に限ることなく、コンピュータに読み取り可能な記録媒体の形態であってもよい。記録媒体としては、例えば、CD-ROM(-R/-RW)、光磁気ディスク、HD(ハードディスク)、DVD-ROM(-R/-RW/-RAM)、FD(フレキシブルディスク)、フラッシュメモリ、これらに類する記録媒体、及び、その他各種ROM、RAM等を用いることができる。コンピュータまたは組み込みシステムが読み取り可能な記録媒体であれば、その記憶形式は何れの形態であってもよい。コンピュータは、この記録媒体からプログラムを読み込み、このプログラムに基づいてプログラムに記述されている指示をCPUで実行させれば、上述した実施形態と同様な動作を実現することができる。もちろん、コンピュータがプログラムを取得する場合または読み込む場合はネットワークを通じて取得または読み込んでもよい。
また、記録媒体からコンピュータや組み込みシステムにインストールされたプログラムの指示に基づきコンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)や、データベース管理ソフト、ネットワーク等で動作するMW(ミドルウェア)などが実施形態を実現するための各処理の一部を実行してもよい。
さらに、実施形態における記録媒体は、コンピュータあるいは組み込みシステムと独立した記録媒体に限らず、LANやインターネット等により伝達されたプログラムをダウンロードして記憶または一時記憶した記録媒体も含まれる。また、記録媒体は1つに限らず、複数の記録媒体から実施形態における処理が実行される場合も、実施形態における記録媒体に含まれる。記録媒体の構成は何れの構成であってもよい。
なお、実施形態におけるコンピュータまたは組み込みシステムは、記録媒体に記憶されたプログラムに基づき、実施形態における各処理を実行するためのものであって、パーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータ等の1つからなる装置、あるいは、複数の装置がネットワーク接続されたシステム等の何れの構成であってもよい。
また、実施形態におけるコンピュータとは、パーソナルコンピュータに限らず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイクロコンピュータ等も含み、プログラムによって実施形態における機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0076】
実施形態は、以下の構成を含んでもよい。
(構成1)
複数の過去案件を、前記複数の過去案件のそれぞれに関する仕様情報に基づいて、複数のクラスタにクラスタリングするクラスタリング部と、
前記複数の過去案件に関する複数の過去案件情報に対して前処理を行う前処理部と、
前記前処理が行われた複数の過去案件情報に基づいて、前記複数のクラスタのそれぞれについて第1モデルと第2モデルとを構築するモデル式構築部であって、前記複数の過去案件情報のそれぞれは、前記仕様情報と、複数の見積項目を含むコストの値の情報と、を含み、前記第1モデルは、前記仕様情報と、前記コストに関する値と、の相関関係を表し、前記第2モデルは、前記複数の見積項目に関する値同士の関係に対応するコスト構造を表す、モデル式構築部と、
見積対象案件の仕様情報に基づいて、前記複数のクラスタのうち、前記見積対象案件に類似する過去案件が属するクラスタを特定するクラスタ特定部と、
前記見積対象案件の前記仕様情報に基づいて、前記クラスタ特定部が特定したクラスタについての前記第1モデル及び前記第2モデルのうちの一方のモデルを選択し、選択したモデルに基づいて、前記見積対象案件の見積項目に関する値を算出するモデル式適用部と、
を備える見積取得システム。
(構成2)
前記前処理部は、前記複数の過去案件情報のそれぞれの前記コストの値を、前記複数の過去案件情報のそれぞれに基づいて正規化する、構成1に記載の見積取得システム。
(構成3)
前記前処理部は、前記複数のクラスタのそれぞれにおいて、前記複数の過去案件における、前記複数の見積項目のそれぞれに関する値の平均値を算出し、前記平均値に応じて前記複数の見積項目をソートする、構成2に記載の見積取得システム。
(構成4)
前記モデル式構築部は、前記複数のクラスタのそれぞれにおいて、前記前処理部が前記複数の見積項目をソートした順と、前記複数の見積項目のそれぞれに関する値の前記平均値と、の関係により前記第2モデルを構築する、構成3に記載の見積取得システム。
(構成5)
前記第1モデルは、複数の見積モデルを含み、
前記複数の見積モデルのそれぞれは、前記複数の過去案件の前記仕様情報と、前記複数の見積項目のそれぞれに関する値と、の相関関係を表し、
前記モデル式適用部は、前記見積対象案件の前記仕様情報に基づいて、前記複数の見積モデルのうち前記複数の見積項目の1つに対応した見積モデルと前記第2モデルとの一方のモデルを選択し、選択したモデルに基づいて、前記見積対象案件の前記複数の見積項目の前記1つに関する値を算出する処理を、前記複数の見積項目のそれぞれについて行う、構成1~4のいずれか1つに記載の見積取得システム。
(構成6)
前記複数の過去案件のそれぞれの前記仕様情報は、複数の仕様項目の情報を含み、
前記複数の見積モデルは、第1見積項目に対応した第1見積モデルを含み、
前記第1見積モデルは、前記複数の仕様項目のうちの少なくとも一部である第1仕様部分と、前記複数の過去案件の前記第1見積項目に関する値と、の相関関係を表し、
前記モデル式適用部は、
前記見積対象案件の前記仕様情報が、前記第1仕様部分に含まれる全ての仕様項目を含む場合、前記第1見積モデルを選択し、前記第1見積モデルに前記見積対象案件の前記仕様情報を適用して前記見積対象案件の前記第1見積項目に関する値を見積り、
前記見積対象案件の前記仕様情報が、前記第1仕様部分に含まれる少なくとも一部の仕様項目を含まない場合、前記第2モデルを選択し、前記第2モデルに基づいて、前記見積対象案件の前記第1見積項目に関する値を見積もる、構成5に記載の見積取得システム。
(構成7)
複数の過去案件を、前記複数の過去案件のそれぞれに関する仕様情報に基づいて、複数のクラスタにクラスタリングする処理と、
前記複数の過去案件に関する複数の過去案件情報に対して前処理を行う処理と、
前記前処理が行われた複数の過去案件情報に基づいて、前記複数のクラスタのそれぞれについて第1モデルと第2モデルとを構築する処理であって、前記複数の過去案件情報のそれぞれは、前記仕様情報と、複数の見積項目を含むコストの値の情報と、を含み、前記第1モデルは、前記仕様情報と、前記コストに関する値と、の相関関係を表し、前記第2モデルは、前記複数の見積項目に関する値同士の関係に対応するコスト構造を表す、処理と、
見積対象案件の仕様情報に基づいて、前記複数のクラスタのうち、前記見積対象案件に類似する過去案件が属するクラスタを特定する処理と、
前記見積対象案件の前記仕様情報に基づいて、特定したクラスタについての前記第1モデル及び前記第2モデルのうちの一方のモデルを選択し、選択したモデルに基づいて、前記見積対象案件の見積項目に関する値を算出する処理と、
を、コンピュータに実行させる、見積取得プログラム。
【0077】
実施形態によれば、容易に見積を取得することができる見積取得システム及び見積取得プログラムが提供できる。
【0078】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
11:入力装置
12:出力装置
20:演算装置
21:クラスタリング部
22:前処理部
23:モデル式構築部
24:クラスタ特定部
25:モデル式適用部
26:表示部
27:演算部
30:記憶装置
31:過去案件情報
32:クラスタ情報
33:モデル式情報
100:見積取得システム
C1:第1クラスタ
C2:第2クラスタ
CI、CI1~CI3:コストの値の情報
CK:第Kクラスタ
Ck:クラスタ
Gr2:グラフ
L1、L2、LK、Lk:距離
M1:第1モデル
M101:見積モデル
M1011:第1見積モデル
M101j:第j見積モデル
M101n:第n見積モデル
M102:見積モデル
P:過去案件
P1~P3:第1~3過去案件
P11~P1M1:第1~第M1過去案件
P21~P2M2:第1~第M2過去案件
PK1~PKMK:第1~第MK過去案件
Pk1~Pkmk:第1~第mk過去案件
S101~S106:ステップ
SI:仕様情報
SI1~SI3:第1~第3仕様情報
V1、VN、VN-1:仕様値
b1~b10:見積項目