(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171229
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】金属錯塩色素
(51)【国際特許分類】
C07F 15/06 20060101AFI20241204BHJP
C07D 471/04 20060101ALI20241204BHJP
C07F 15/00 20060101ALI20241204BHJP
C07F 9/52 20060101ALI20241204BHJP
H01G 9/20 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C07F15/06 CSP
C07D471/04 112T
C07F15/00 A
C07F15/00 E
C07F9/52
H01G9/20 113B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088192
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000106139
【氏名又は名称】サンアプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 智幸
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 慶彦
【テーマコード(参考)】
4C065
4H050
【Fターム(参考)】
4C065AA04
4C065AA19
4C065BB09
4C065CC01
4C065DD02
4C065EE02
4C065HH01
4C065JJ01
4C065KK01
4C065LL01
4C065PP01
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB99
(57)【要約】
【課題】太陽光を吸収して電子を励起させる作用を有し、且つ溶剤溶解性に優れる新規の金属錯塩色素を提供する。
【解決手段】本発明の金属錯塩色素は、金属カチオンと含窒素芳香族複素環構造を有する配位子を含むカチオン性金属錯体と、下記式(a-1)で表されるアニオンとを含む。式中、Rfはフルオロアルキル基を示し、mは1~6の整数を示す。
前記金属カチオンとしては、Ru、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、Mn、及びZnから選択される金属のカチオンが好ましい。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属カチオンと含窒素芳香族複素環構造を有する配位子を含むカチオン性金属錯体と、下記式(a-1)で表されるアニオンと、を含む金属錯塩色素。
【化1】
(式中、Rfはフルオロアルキル基を示し、mは1~6の整数を示す)
【請求項2】
前記金属カチオンが、Ru、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、Mn、及びZnから選択される金属のカチオンである請求項1に記載の金属錯塩色素。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属錯塩色素を含む光増感剤。
【請求項4】
光電極を備える光電変換素子であって、
前記光電極は、半導体粒子の表面に、請求項1又は2に記載の金属錯塩色素が吸着した構成を有する、光電変換素子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の金属錯塩色素を含む可視光レドックス触媒。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の金属錯塩色素を含むドーパント。
【請求項7】
陽極と陰極の間に、請求項6に記載のドーパントを含む発光層を備える発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の金属錯塩色素、前記金属錯塩色素を含む光増感剤、可視光レドックス触媒、ドーパント、光電変換素子、並びに発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能なエネルギー生産システム構築の観点から、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換するための光電変換素子や、太陽光エネルギーを利用してラジカル反応を行うための可視光レドックス触媒に注目が集まっている。
【0003】
前記光電変換素子は、導電性基板上に、色素を吸着させることにより可視光応答性が付与された半導体粒子が付着した構成を有するアノード、カソード、及び電解質を構成要素として含む。そして、前記アノードは、導電性基板の上に半導体微粒子を含むペーストを塗布し、焼成したのち、色素溶液に浸漬し、乾燥させる方法によって製造するのが一般的である。
【0004】
前記色素溶液に使用する色素は、太陽光を吸収して電子を励起させ、励起電子を半導体へと移行させることで、半導体に可視光応答性を付与する化合物であり、ピリジン配位子やピラゾール配位子を有する金属錯体カチオンのPF6塩が知られている(特許文献1)。
【0005】
また、可視光レドックス触媒は、近傍の電子供与体から電子を受け取り、受け取った電子を、太陽光を吸収して励起させ、電子受容体へと供与する、一連の電子移動によって、ラジカル反応を進行させる化合物であり、トリス(2,2’-ビピリジン)ルテニウムビス(ヘキサフルオロホスフェート)、ビス(2-フェニルピリジン)(4,4’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビピリジン)イリジウム(ヘキサフルオロホスフェート)等の金属錯体カチオンのPF6塩が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-168450号公報
【特許文献2】特開2016-102090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記金属錯体カチオンのPF6塩は溶剤溶解性が低いことが問題であった。
【0008】
すなわち、前記金属錯体カチオンのPF6塩を、光電変換素子に使用する場合には、半導体微粒子の表面に色素を均一に吸着させることが困難であり、色素が厚く吸着した部分や薄く吸着した部分が生じることになり、所期のエネルギー変換効率が得られなかった。それは、色素が厚く吸着した部分では、励起状態の電子を効率よく半導体微粒子に到達させることができないため(言い換えると、効率よく電荷移動を行うことが困難なため)であり、色素が薄く吸着した部分は電子を効率よく励起させることが困難であり、電荷生成量が減少するためである。
【0009】
また、前記金属錯体カチオンのPF6塩を、可視光レドックス触媒として使用し、太陽光エネルギーを利用したラジカル反応を液相にて行う場合には、反応系内に触媒を均一に存在させることが困難であるため、所期の反応促進効果は得られなかった。
【0010】
従って、本発明の目的は、太陽光を吸収して電子を励起させる作用を有し、且つ溶剤溶解性に優れる新規の金属錯塩色素を提供することにある。
本発明の他の目的は、溶剤溶解性に優れる光増感剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、溶剤溶解性に優れる可視光レドックス触媒を提供することにある。
本発明の他の目的は、エネルギー変換効率に優れた光電変換素子を提供することにある。
本発明の他の目的は、ホスト材料に優れた導電性を付与する機能を有するドーパントを提供することにある。
本発明の他の目的は、エネルギー変換効率に優れた発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、金属カチオンに含窒素芳香族複素環が配位した構成を有する金属錯体カチオンと、下記式(a-1)で表されるアニオンとを含む金属錯塩色素は、太陽光を吸収して電子を励起させる作用を有すること、金属錯体カチオンとPF6
-との塩に比べ溶剤溶解性が顕著に向上することを見いだした。
本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、金属カチオンと含窒素芳香族複素環構造を有する配位子を含むカチオン性金属錯体と、下記式(a-1)で表されるアニオンとを含む金属錯塩色素を提供する。
【化1】
(式中、Rfはフルオロアルキル基を示し、mは1~6の整数を示す)
【0013】
本発明は、また、前記金属カチオンが、Ru、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、Mn、及びZnから選択される金属のカチオンである前記金属錯塩色素を提供する。
【0014】
本発明は、また、前記金属錯塩色素を含む光増感剤を提供する。
【0015】
本発明は、また、光電極を備える光電変換素子であって、
前記光電極は、半導体粒子の表面に、前記金属錯塩色素が吸着した構成を有する、光電変換素子を提供する。
【0016】
本発明は、また、前記金属錯塩色素を含む可視光レドックス触媒を提供する。
【0017】
本発明は、また、前記金属錯塩色素を含むドーパントを提供する。
【0018】
本発明は、また、陽極と陰極の間に、前記ドーパントを含む発光層を備える発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金属錯塩色素は、太陽光を吸収して電子を励起させる作用を有する。そして、溶剤溶解性に優れる。
そのため、前記金属錯塩色素を溶剤に溶解して、半導体微粒子の表面に塗布すれば、半導体微粒子の表面に前記金属錯塩色素を薄く且つ均一に吸着させることができるので、エネルギー変換効率に優れた光電変換素子が得られる。
また、前記金属錯塩色素を、液相反応において可視光レドックス触媒として使用すれば、反応系内に可視光レドックス触媒を均一に存在させることができるので、ラジカル反応を効率よく進行させることができる。
また、前記金属錯塩色素をドーパントとして使用してホストにドープすれば、ホストに優れた導電性を付与することができる。
以上の通り、前記金属錯塩色素を使用すれば、太陽光エネルギーを電気エネルギー又は化学エネルギーに効率よく変換することができる。そのため、前記金属錯塩色素は、持続可能なエネルギー生産システム構築において非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[金属錯塩色素]
本発明の金属錯塩色素は、金属カチオンと含窒素芳香族複素環構造を有する配位子を含むカチオン性金属錯体と、式(a-1)で表されるアニオンとを含む。
【0021】
前記金属錯塩色素は前記アニオンを有するため溶剤への溶解性に優れ、常温常圧下における溶剤への溶解量は、アニオンがPF6
-である以外は同じ構成を有するPF6塩の溶解量の、例えば5重量倍以上、好ましくは10重量倍以上、特に好ましくは15重量倍以上、最も好ましくは20重量倍以上である。
【0022】
前記金属錯塩色素は前記アニオンを有するため溶剤への溶解性に優れ、常温常圧下において、溶剤100重量部に溶解する前記金属錯塩色素量は、例えば2重量部超、好ましくは3重量部以上、更に好ましくは4重量部以上、特に好ましくは5重量部以上、最も好ましくは10重量部以上、とりわけ好ましくは15重量部以上である。尚、上限値は例えば30重量部である。
【0023】
前記溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等の脂肪酸エステル;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のC1-3アルキレングリコールモノC1-5アルキルエーテルモノC1-5アルキルエステル;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの鎖状または環状エーテル等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
また、前記金属錯塩色素は可視光線(波長400~800nmの光線)を効率よく吸収して、電子を励起させる作用を有する。
【0025】
(アニオン)
前記アニオンは、下記式(a-1)で表される。下記式中、Rfはフルオロアルキル基を示し、mは1~6の整数を示す。
【化2】
【0026】
前記フルオロアルキル基は、アルキル基に結合する水素原子の少なくとも1つがフッ素原子に置換された基である。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0027】
前記フルオロアルキル基の炭素数は、例えば1~5、好ましくは1~3、特に好ましくは2~3、最も好ましくは2である。
【0028】
前記フルオロアルキル基としては、なかでもパーフルオロアルキル基(=アルキル基に結合する全ての水素原子がフッ素原子に置換された基)が好ましい。
【0029】
従って、前記フルオロアルキル基は、フルオロC1-5アルキル基が好ましく、フルオロC1-3アルキル基がより好ましく、フルオロC2-3アルキル基が特に好ましく、フルオロエチル基が最も好ましい。
【0030】
また、前記フルオロアルキル基は、パーフルオロC1-5アルキル基が更に好ましく、パーフルオロC1-3アルキル基が更に好ましく、パーフルオロC2-3アルキル基が更に好ましく、パーフルオロエチル基が更に好ましい。
【0031】
前記mは1~6の整数を示し、好ましくは1~5の整数、更に好ましくは2~4の整数、特に好ましくは2又は3である。
【0032】
(カチオン性金属錯体)
前記カチオン性金属錯体は、配位中心となる金属カチオンと、含窒素芳香族複素環構造を有する配位子を有する化合物である。前記カチオン性金属錯体は、含窒素芳香族複素環構造を有する配位子以外にも他の配位子を有していても良い。
【0033】
前記金属カチオンを構成する金属としては、6配位中心となる金属イオンが好ましい。
【0034】
前記金属カチオンを構成する金属としては、例えば、Ru、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、Mn、Zn等が挙げられる。なかでも、優れた可視光応答性を示す点において、Ru、Co、Ir等の第8~10族元素が好ましい。
【0035】
前記配位子には単座配位子と多座配位子が含まれる。本発明においては、安定性に優れる点において多座配位子(例えば、2~3座配位子)が好ましい。
【0036】
前記カチオン性金属錯体は、好ましくは、配位中心となる金属カチオンと、同一又は異なる含窒素芳香族複素環構造を有する2座配位子を3個有する化合物、又は配位中心となる金属カチオンと、同一又は異なる含窒素芳香族複素環構造を有する3座配位子を2個有する化合物である。
【0037】
前記含窒素芳香族複素環構造を有する配位子は、ヘテロ原子として窒素原子を含有する芳香族複素単環(以後、「含窒素芳香族複素単環」と称する場合がある)をその構造内に含む配位子であり、窒素原子以外にも他のヘテロ原子(例えば、酸素原子、リン原子、硫黄原子等)を含有していても良い。前記配位子が含有するヘテロ原子の数は、例えば1~5個、好ましくは1~3個である。
【0038】
前記配位子としては、下記に示される、含窒素芳香族複素単環を含む縮合環及び結合環が例示できる。
1.含窒素芳香族複素単環の2個以上が縮合してなる縮合環であって、その構造内に芳香族炭化水素単環を含まない縮合環1
2.1個以上の含窒素芳香族複素単環と1個以上の芳香族炭化水素単環が縮合してなる縮合環2
3.含窒素芳香族複素単環、前記縮合環1、及び前記縮合環2から選択される2個以上が単結合又は連結基を介して結合した結合環1
4.含窒素芳香族複素単環又は前記縮合環1又は前記縮合環2と、芳香族炭化水素単環又は芳香族炭化水素単環の2個以上が縮合してなる縮合環3が単結合又は連結基を介して結合した結合環2
【0039】
前記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基(例えば、C1-5アルキレン基)、カルボニル基(-CO-)、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-CONH-)、カーボネート結合(-OCOO-)、及びこれらが複数個連結した基が挙げられる。
【0040】
前記配位子としては、特に、下記に示される、含窒素芳香族複素単環を含む縮合環及び結合環が好ましい。
5.同一又は異なる2個の含窒素芳香族複素単環が1個の芳香族炭化水素単環を介して縮合してなる縮合環4
6.同一又は異なる2個の含窒素芳香族複素単環が単結合を介して結合した結合環3
7.1個の含窒素芳香族複素単環と1個の芳香族炭化水素単環が単結合を介して結合した結合環4
【0041】
前記含窒素芳香族複素単環としては、例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環等の6員環等が挙げられる。
【0042】
前記芳香族炭化水素単環としては、ベンゼン環が挙げられる。
【0043】
前記含窒素芳香族複素単環及び芳香族炭化水素単環には、置換基が1個又は2個以上結合していても良い。前記置換基としては、例えば、C1-5アルキル基、ハロゲン原子、C1-5アルコキシ基、カルボキシ基、ハロC1-5アルキル基、C1-5アルキルチオ基等が挙げられる。
【0044】
前記金属錯塩色素は、好ましくは下記式(c-1)又は(c-2)で表されるカチオン性金属錯体と、下記式(a-1)で表されるアニオンとの塩である。
【化3】
(式中、Mは金属を示す。L1~L5は、同一又は異なって配位子を示す。nは1~3の整数を示す。Rfはフルオロアルキル基を示し、mは1~6の整数を示す)
【0045】
L1~L3としては、例えば、下記式(L-1)~(L-9)で表される配位子や、下記式中の含窒素芳香族複素単環及び/又は芳香族炭化水素単環に、他の含窒素芳香族複素単環及び/又は芳香族炭化水素単環が縮合した配位子や、他の含窒素芳香族複素単環及び/又は芳香族炭化水素単環が単結合を介して結合した配位子が挙げられる。下記式中の含窒素芳香族複素単環及び芳香族炭化水素単環や、前記環に結合或いは縮合する他の含窒素芳香族複素単環及び芳香族炭化水素単環には置換基が結合していても良い。置換基としては前記と同様の例が挙げられる。
【化4】
【0046】
L4~L5としては、例えば、下記式(L-10)~(L-16)で表される配位子や、下記式中の含窒素芳香族複素単環及び/又は芳香族炭化水素単環に、他の含窒素芳香族複素単環及び/又は芳香族炭化水素単環が縮合した配位子や、他の含窒素芳香族複素単環及び/又は芳香族炭化水素単環が単結合を介して結合した配位子が挙げられる。下記式中の含窒素芳香族複素単環及び芳香族炭化水素単環や、前記環に結合或いは縮合する他の含窒素芳香族複素単環及び芳香族炭化水素単環には置換基が結合していても良い。置換基としては前記と同様の例が挙げられる。
【化5】
【0047】
[光増感剤]
本発明の光増感剤は、前記金属錯塩色素を含む。
【0048】
前記光増感剤は、前記金属錯塩色素以外にも他の色素を含有していても良いが、前記光増感剤に含まれる、色素成分全量において、前記金属錯塩色素が占める割合は、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上、とりわけ好ましくは99.9重量%以上である。前記光増感剤は、前記金属錯塩色素のみからなるものであっても良い。
【0049】
前記光増感剤は、可視光を吸収して電子を励起させ、その励起電子を半導体に渡すことによって半導体に可視光応答性を付与する物質であり、例えば、色素増感太陽電池等の光電変換素子に可視光応答性を付与する用途に使用される。
【0050】
また、前記光増感剤は、可視光を吸収して電子を励起させ、その励起電子により光レドックス触媒反応(例えば、励起電子の移動により誘起されるラジカル反応)を促進する効果を付与する物質であり、例えば、可視光レドックス触媒として使用される。
【0051】
[金属錯塩色素の製造方法]
前記前記金属錯塩色素は、例えば、金属カチオンと含窒素芳香族複素環構造を有する配位子を含むカチオン性金属錯体のPF6塩に、M(Rf)mPF6-mを反応させて塩交換を行うことにより製造することができる。前記Mはアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)を示す
【0052】
金属カチオンと含窒素芳香族複素環構造を有する配位子を含むカチオン性金属錯体のPF6塩とM(Rf)mPF6-mのモル比(前者/後者)は、例えば1/3~1/1、好ましくは1/2~1/1である。
【0053】
前記反応は、溶剤の存在下で行うことができる。前記溶剤としては、例えば、水、酢酸エチル、ジクロロメタン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
反応終了後は、得られた反応生成物を、一般的な分離精製処理(例えば、沈殿、洗浄、濾過等)に付しても良い。
【0055】
[光電変換素子]
本発明の光電変換素子は、半導体粒子の表面に前記金属錯塩色素が吸着した構成を有する光電極を備える。
【0056】
光電変換素子は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を備えた素子であり、例えば、色素増感太陽電池、光検出器、光センサ、撮像素子(携帯電話やスマートフォン等のモバイル機器に搭載される小型カメラ、デジタルカメラなどに利用される)等が含まれる。
【0057】
(色素増感太陽電池)
色素増感太陽電池は、光電極(アノード)と、対電極(カソード)と、両電極間に保持された電解質とを備える。そして、前記光電極は、半導体粒子の表面に、本発明の金属錯塩色素が吸着した構成を有する。
【0058】
前記光電極は、例えば、導電性基板上に、金属錯塩色素が吸着した半導体粒子が付着した構成を有する。
【0059】
前記導電性基板は、基板自体が導電性を有しているものであってもよいし、基板上に導電層を形成することによって基板に導電性を持たせたものであってもよい。前記基板としては、例えば、ガラス基板、プラスチック基板、金属板等が挙げられる。また、前記導電層としては、例えば、酸化インジウムスズ(Indium-Tin-Oxide:ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(Fluorine doped Tin Oxide:FTO)、インジウム-亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)、酸化スズ(SnO2)等の透明材料で構成された導電層が挙げられる。
【0060】
前記半導体粒子を構成する半導体材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウム等が挙げられる。
【0061】
前記対電極は、例えば、基板と、炭素材料を含む触媒層とを有する。前記炭素材料としては、例えば、活性炭、グラファイト等が挙げられる。
【0062】
前記電解質層は、液状、ゲル状、又は固体状の電解液で構成される。そして、前記電解液は、酸化還元対と分散媒を含む。
【0063】
前記酸化還元対は、支持電解質とハロゲン分子との組み合わせであり、前記支持電解質としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等のヨウ化物;臭化ナトリウム、臭化カリウム、テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド、イミダゾリウムブロマイド等の臭素化合物が挙げられる。前記ハロゲン分子は、ヨウ素分子、臭素分子等である。
【0064】
支持電解質とハロゲン分子との組み合わせとしては、ヨウ化物とヨウ素分子との組み合わせ、臭素化合物と臭素分子との組み合わせが好ましい。
【0065】
前記分散媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル;ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム、ヨウ化ブチルメチルイミダゾリウム等のイオン液体等が挙げられる。
【0066】
(光電変換素子の製造方法)
前記光電変換素子の製造方法は、例えば、半導体粒子の表面に前記金属錯塩色素を含む溶液を塗布し、乾燥させる工程を含む。
【0067】
前記光電変換素子の製造方法は、好ましくは、下記工程1,2を含む。
工程1:導電性基板上に半導体粒子を固定する
工程2:導電性基板上に固定された半導体粒子に前記金属錯塩色素を含む溶液を塗布し、乾燥させる
【0068】
(工程1)
前記工程1は、導電性基板の上に半導体粒子を固定する工程である。半導体粒子を固定する方法としては特に制限がないが、例えば、導電性基板の上に半導体微粒子を含むペーストを塗布し、焼成する方法が挙げられる。本工程を経て、半導体粒子が固定された導電性基板が得られる。
【0069】
ペーストの塗布厚みは、例えば1~100μmである。
【0070】
(工程2)
前記工程2は、工程1を経て得られた、半導体粒子が固定された導電性基板の半導体粒子表面に、前記金属錯塩色素を含む溶液を塗布し、乾燥させることで、前記半導体粒子表面に前記金属錯塩色素を吸着させる工程である。本工程を経て、金属錯塩色素が吸着した半導体粒子が固定された導電性基板が得られる。
【0071】
前記金属錯塩色素を含む溶液としては、前記列挙した前記金属錯塩色素が良好な溶解性を示す溶剤から選択される1種の溶剤又は2種以上の混合溶剤に、前記金属錯塩色素を溶解したものを使用することが好ましい。
【0072】
前記金属錯塩色素を含む溶液の塗布方法は、特に制限がなく、前記溶液を印刷法により塗布しても良いし、ディスペンスにより塗布しても良い。さらに、前記溶液中に半導体粒子が固定された導電性基板を浸漬させる方法で塗布しても良い。
【0073】
前記半導体粒子表面に吸着させる金属錯塩色素の厚みは、例えば1~50μmである。金属錯塩色素の厚みは、溶液中の金属錯塩色素濃度、溶液の塗布量、金属錯塩色素を含む溶液への浸漬時間等を調整することにより、コントロールできる。
【0074】
金属錯塩色素の厚みが前記範囲を上回ると、金属錯塩色素において生成した励起電子の半導体粒子への移動(=電荷移動)が困難となる傾向がある。一方、金属錯塩色素の厚みが前記範囲を下回ると、電子を効率よく励起させることが困難となり、電荷生成量が減少する傾向がある。
【0075】
本発明の金属錯塩色素は溶剤溶解性に優れるため、半導体粒子の表面に、均一に且つ所望の厚みで前記金属錯塩色素を吸着させることができる。そのため、可視光照射により効率よく電荷を生成し、生成した電荷を速やかに移動させることができるので、エネルギー変換効率に優れたが光電変換素子が得られる。
【0076】
[可視光レドックス触媒]
本発明の可視光レドックス触媒は、前記金属錯塩色素を含む。
【0077】
前記可視光レドックス触媒は、前記金属錯塩色素以外にも他の色素を含有していても良いが、前記可視光レドックス触媒に含まれる色素成分全量において、前記金属錯塩色素が占める割合は、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上、とりわけ好ましくは99.9重量%以上である。前記可視光レドックス触媒は、前記金属錯塩色素のみからなるものであっても良い。
【0078】
前記可視光レドックス触媒は、基質の一電子酸化と一電子還元の両方に対して活性を示す。
【0079】
前記可視光レドックス触媒は、紫外線照射を必要とせず、よりマイルドな条件、つまり可視光照射により、励起電子を生成し、生成した励起電子を他の分子に移動させることで、ラジカル種を生成して、ラジカル反応を促進する効果を示す。
【0080】
照射する光の波長は、例えば400~800nm、好ましくは400~600nmである。
【0081】
前記可視光レドックス触媒は、気相反応はもちろん、溶剤溶解性に優れるため液相反応においても、優れたラジカル反応促進効果を発揮することができる。
【0082】
前記液相反応に使用する溶媒としては、前記列挙した前記金属錯塩色素が良好な溶解性を示す溶剤から1種又は2種以上を選択して使用することが好ましい。
【0083】
前記可視光レドックス触媒は、例えば、水(H2O)を分解して水素ガス(H2)を生成する反応等において有用である。
【0084】
[ドーパント]
本発明のドーパントは、前記金属錯塩色素を含む。前記ドーパントをホスト材料にドープすれば、ホスト材料に優れた導電性を付与することができる。
【0085】
前記ドーパントは、前記金属錯塩色素以外にも他の色素を含有していても良いが、前記ドーパントに含まれる色素成分全量において、前記金属錯塩色素が占める割合は、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上、とりわけ好ましくは99.9重量%以上である。前記ドーパントは、前記金属錯塩色素のみからなるものであっても良い。
【0086】
[発光素子]
本発明の発光素子は、陽極と陰極の間に、前記金属錯塩色素(若しくは、金属錯塩色素を含有するドーパント)を含む発光層を備え、前記発光層が電気エネルギーにより発光する。発光素子には、トップエミッション型とボトムエミッション型が含まれる。
【0087】
発光層は、ホスト材料で構成された薄膜に、前記ドーパントをドープさせることにより製造することができる。前記ホスト材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体(例えば、mCBP)、ピレン誘導体、クリセン誘導体、トリアリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ナフタセン誘導体等が挙げられる。
【0088】
陽極としては、正孔を有機層に効率よく注入できる透明又は半透明材料が好ましく、例えば、ITOガラス等が挙げられる。
【0089】
陰極としては、電子を効率よく発光層に注入できる物質であれば良く、例えば、アルミニウム、銀、マグネシウム等が挙げられる。
【0090】
前記発光素子は、陽極と陰極の間に、発光層以外の層(例えば、電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、正孔注入層等)を有していても良い。
【0091】
前記発光素子としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子が挙げられる。
【0092】
前記発光素子は、電気エネルギーを光エネルギーに変換する機能を備えた素子であり、例えば、表示装置(例えば、ディスプレイ、スマートグラス、ヘッドマウントディスプレイ、スマートコンタクト等)、照明装置等の発光デバイス(ウェアラブルデバイスを含む)に利用される。
【0093】
以上、本発明の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。
【実施例0094】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0095】
実施例1(金属錯塩色素の調製)
100mLの三角フラスコに、トリス(1,10-フェナントロリン)コバルト(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)(東京化成工業(株)社製)0.9g及びジクロロメタン30gを投入し、攪拌分散させた。
次いで、反応系内に、トリフルオロトリ(ペンタフルオロエチル)ホスファートカリウム塩1.5gをイオン交換水30gで溶解して得られた水溶液を投入し、室温で3時間ゆっくりと攪拌し、その後、静置した。
上層(水層)を除去し、下層(ジクロロメタン層)をイオン交換水20gとメタノール10gの混合溶液で水洗を3回行った。水洗後、ジクロロメタンを減圧除去した。
これにより、トリス(1,10-フェナントロリン)コバルト(II)ビス[トリフルオロトリ(ペンタフルオロエチル)ホスファート]1.4gを得た。
【0096】
実施例2(金属錯塩色素の調製)
トリス(1,10-フェナントロリン)コバルト(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)に代えて、トリス(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)を使用した以外は実施例1と同様にして、トリス(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)ビス[トリフルオロトリ(ペンタフルオロエチル)ホスファート]1.4gを得た。
【0097】
実施例3(金属錯塩色素の調製)
トリス(1,10-フェナントロリン)コバルト(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)に代えて、トリス(2,2’-ビピリジン)コバルト(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)を使用した以外は実施例1と同様にして、トリス(2,2’-ビピリジン)コバルト(II)ビス[トリフルオロトリ(ペンタフルオロエチル)ホスファート]を得た。
【0098】
実施例4(金属錯塩色素の調製)
トリス(1,10-フェナントロリン)コバルト(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)に代えて、トリス[4-tert-ブチル-2-(1H-ピラゾール-1-イル)ピリジン]コバルト(II)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを使用し、トリフルオロトリ(ペンタフルオロエチル)ホスファートカリウム塩に代えて、トリフルオロトリ(ノナフルオロブチル)ホスファートカリウム塩を使用した以外は実施例1と同様にして、トリス[4-tert-ブチル-2-(1H-ピラゾール-1-イル)ピリジン]コバルト(II)ビス[トリフルオロトリ(ノナフルオロブチル)ホスファート]を得た。
【0099】
実施例5(金属錯塩色素の調製)
トリス(1,10-フェナントロリン)コバルト(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)に代えて、(2,2’-ビピリジン)ビス[2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-C2,N]イリジウム(III)ビス(ヘキサフルオロホスファート)を使用し、トリフルオロトリ(ペンタフルオロエチル)ホスファートカリウム塩に代えて、テトラフルオロジ(ペンタフルオロエチル)ホスファートカリウム塩を使用した以外は実施例1と同様にして、トリス[2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-C2,N]イリジウム(III)[テトラフルオロジ(ペンタフルオロエチル)ホスファート]を得た。
【0100】
実施例1~5で得られた金属錯塩色素、及び比較例1~5として下記金属錯塩色素について、下記方法で溶剤溶解性を評価した。尚、比較例1~5では、試薬をそのまま使用した。結果を下記表にまとめて示す。
【0101】
比較例1:トリス(1,10-フェナントロリン)コバルト(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)、東京化成工業(株)社製
比較例2:トリス(1,10-フェナントロリン)ルテニウム(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)、東京化成工業(株)社製
比較例3:トリス(2,2’-ビピリジン)コバルト(II)ビス(ヘキサフルオロホスファート)、東京化成工業(株)社製
比較例4:トリス[4-tert-ブチル-2-(1H-ピラゾール-1-イル)ピリジン]コバルト(II)ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、東京化成工業(株)社製
比較例5:(2,2’-ビピリジン)ビス[2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-C2,N]イリジウム(III)ビス(ヘキサフルオロホスファート)、東京化成工業(株)社製
【0102】
(溶剤溶解性評価)
溶液中に溶解した前記金属錯塩色素の濃度を指標に、前記金属錯塩色素の溶剤溶解性を評価した。
より詳細には、前記金属錯塩色素0.1gを試験管にとり、25℃温調下で溶剤(酢酸エチル、THF、PGMEA、又はアセトニトリル)0.4gを加えた。この時点で前記金属錯塩色素が完全に溶解した場合は、金属錯塩色素濃度を20重量%以上とした。
前記時点で金属錯塩色素が溶解しない場合、前記溶剤を0.1~0.5gずつ、前記金属錯体塩が完全に溶解するまで加え、完全に溶解したときの金属錯体塩濃度を求めた。
また、前記溶剤を10g加えても、金属錯塩色素が完全に溶解しない場合は、金属錯塩色素濃度を1%未満とした。
【0103】
【0104】