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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171243
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】フィルムコーティング錠
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20241204BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20241204BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241204BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
A61K31/496
A61K9/28
A61K47/02
A61P3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088215
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】三鴨 睦
(72)【発明者】
【氏名】大礒 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】堤 雄洋
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA44
4C076BB01
4C076CC21
4C076DD28
4C076DD29
4C076DD38
4C076DD41
4C076EE12
4C076EE38
4C076FF36
4C086AA01
4C086AA10
4C086BC50
4C086GA07
4C086GA10
4C086GA12
4C086GA13
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA03
4C086ZC35
(57)【要約】
【課題】テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態が維持されたフィルムコーティング錠を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るフィルムコーティング錠は、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と軽質無水ケイ酸とを含む素錠がフィルムコーティングにより被覆されているフィルムコーティング錠である。素錠は、素錠の重量を100重量%とすると、1重量%以上の軽質無水ケイ酸を含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と軽質無水ケイ酸とを含む素錠がフィルムコーティングにより被覆されているフィルムコーティング錠であって、
上記素錠の重量を100重量%とすると、1重量%以上の軽質無水ケイ酸を含んでいる、フィルムコーティング錠。
【請求項2】
上記素錠は、上記素錠の重量を100重量%とすると、10重量%以下の軽質無水ケイ酸を含んでいる、請求項1に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項3】
上記素錠は、直打錠剤である、請求項1に記載のフィルムコーティング錠。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルムコーティング錠が、包装材で包装されている包装医薬品であり、
上記包装材の透湿度は、1g/m/24hr以下である、包装医薬品。
【請求項5】
上記包装材は、乾燥用部材をさらに備えている、請求項4に記載の包装医薬品。
【請求項6】
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と軽質無水ケイ酸とを含む素錠がフィルムコーティングにより被覆されているフィルムコーティング錠の製造方法であって、
上記素錠の全重量に対して1重量%以上の軽質無水ケイ酸を配合する工程を有する、製造方法。
【請求項7】
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と軽質無水ケイ酸とを含む素錠がフィルムコーティングにより被覆されているフィルムコーティング錠において、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質を維持する方法であって、
上記素錠の全重量に対して1重量%以上の軽質無水ケイ酸を配合する配合工程を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコーティング錠に関する。
【背景技術】
【0002】
テネリグリプチンは、化学名を{(2S,4S)-4-[4-(3-メチル-1-フェニル-1H-ピラゾール-5-イル)ピペラジン-1-イル]ピロリジン-2-イル}(1,3-チアゾリジン-3-イル)メタノンという化合物であり、2型糖尿病の治療薬として利用されている。日本国では、テネリグリプチンの臭化水素酸塩水和物を有効成分とする医薬品が上市されている。
【0003】
上述の医薬品において、テネリグリプチン臭化水素酸塩は結晶の形態を取っている。これとは別に、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩を有効成分とする医薬品の研究開発も進められている。このような医薬品においては、テネリグリプチン臭化水素酸塩を結晶化させず、非晶質を維持する技術が重要となる。これは、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩に特有の特性を維持したり、医薬品としての品質を確実に担保する必要があったりするためである。例えば、特許文献1は、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持する成分を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-070260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩を含有する医薬製剤を開発するにあたり、本発明者らが検討したところ、素錠にフィルムコーティングを施す際に、テネリグリプチン臭化水素酸塩が結晶化してしまうという課題が新たに判明した。
【0006】
本発明の一態様は、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態が維持されたフィルムコーティング錠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明には、下記の態様が含まれる。
<1>
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と軽質無水ケイ酸とを含む素錠がフィルムコーティングにより被覆されているフィルムコーティング錠であって、
上記素錠の重量を100重量%とすると、1重量%以上の軽質無水ケイ酸を含んでいる、フィルムコーティング錠。
<2>
上記素錠は、上記素錠の重量を100重量%とすると、10重量%以下の軽質無水ケイ酸を含んでいる、<1>に記載のフィルムコーティング錠。
<3>
上記素錠は、直打錠剤である、<1>または<2>に記載のフィルムコーティング錠。
<4>
<1>~<3>のいずれかに記載のフィルムコーティング錠が、包装材で包装されている包装医薬品であり、
上記包装材の透湿度は、1g/m/24hr以下である、包装医薬品。
<5>
上記包装材は、乾燥用部材をさらに備えている、<4>に記載の包装医薬品。
<6>
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と軽質無水ケイ酸とを含む素錠がフィルムコーティングにより被覆されているフィルムコーティング錠の製造方法であって、
上記素錠の全重量に対して1重量%以上の軽質無水ケイ酸を配合する工程を有する、製造方法。
<7>
非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と軽質無水ケイ酸とを含む素錠がフィルムコーティングにより被覆されているフィルムコーティング錠において、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質を維持する方法であって、
上記素錠の全重量に対して1重量%以上の軽質無水ケイ酸を配合する配合工程を有する、方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態が維持されたフィルムコーティング錠が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について、以下に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する各構成に限定されない。本発明は、特許請求の範囲に示した範囲で種々に変更できる。本発明の技術的範囲は、本明細書に開示されている複数の技術的手段を適宜組合せて得られる実施形態または実施例にも及ぶ。このとき、複数の技術的手段は、複数の実施形態または実施例にわたって開示されていてもよい。
【0010】
本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0011】
〔1.フィルムコーティング錠〕
本発明の一態様に係るフィルムコーティング錠は、素錠がフィルムコーティングにより被覆されている構造を取る。素錠には、テネリグリプチン臭化水素酸塩および軽質無水ケイ酸が含まれている。テネリグリプチン臭化水素酸塩は、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。
【0012】
[1.1.素錠]
テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物の結晶には、粉末X線回折測定においてピークが存在する。結晶性のテネリグリプチン臭化水素酸塩水和物の結晶が有しているピークは、例えば、2θ=5.5°±0.2°、13.4°±0.2°および14.4°±0.2°である(日本国特許第4,208,938号を参照)。このようなピークが認められないテネリグリプチン臭化水素酸塩は、非晶質であると言える。
【0013】
素錠における軽質無水ケイ酸の含有量は、素錠の重量を100重量%とすると、1重量%以上である。軽質無水ケイ酸の含有量が上記の範囲であれば、素錠のフィルムコーティングに起因するテネリグリプチン臭化水素塩の結晶化を防止できる。
【0014】
一実施形態において、素錠における軽質無水ケイ酸の含有量の下限は、1.5重量%以上、2重量%以上、2.5重量%以上、3重量%以上、3.5重量%以上、4重量%以上、4.5重量%以上、5重量%以上、5.5重量%以上、6重量%以上、6.5重量%以上、7重量%以上、7.5重量%以上、8重量%以上、8.5重量%以上、9重量%以上、9.5重量%以上または10重量%以上であってもよい。一実施形態において、素錠における軽質無水ケイ酸の含有量の上限は、10重量%以下、9.5重量%以下、9重量%以下、8.5重量%以下、8重量%以下、7.5重量%以下、7重量%以下、6.5重量%以下、6重量%以下、5.5重量%以下、5重量%以下、4.5重量%以下、4重量%以下、3.5重量%以下、3重量%以下、2.5重量%以下、2重量%以下または1.5重量%以下であってもよい。
【0015】
一実施形態において、素錠は、直打錠剤である。本明細書において、「直打錠剤」とは、直接打錠法(直打法)により得られる錠剤を表す。直接打錠法とは、原料末を造粒せずに打錠して錠剤を成形する製造方法である。造粒していない原料末と造粒した添加剤とを混合して共に打錠する製造方法も、直接打錠法の範疇に含まれる。
【0016】
素錠は、上述した以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、酸味料、発泡剤、甘味剤、香料、着色剤、緩衝剤、光安定化剤が挙げられる。
【0017】
賦形剤の例としては、D-マンニトール、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウム、D-ソルビトール、乳糖、白糖、デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、アラビアゴム、デキストリン、プルラン、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムが挙げられる。
【0018】
崩壊剤の例としては、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドンが挙げられる。上述した中では、デンプングリコール酸ナトリウム、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドンが好ましく、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドンがさらに好ましい。このような崩壊剤を配合すると、保管後におけるフィルムコーティング剤の特性変化(崩壊性、溶出性などの変化)を低減でき、またテネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質を維持できる。
【0019】
界面活性剤の例としては、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が挙げられる。
【0020】
結合剤の例としては、ヒプロメロース、アラビアゴム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0021】
酸味料の例としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸が挙げられる。
【0022】
発泡剤の例としては、重曹が挙げられる。
【0023】
甘味剤の例としては、スクラロース、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンが挙げられる。
【0024】
香料の例としては、レモン、レモンライム、オレンジ、メントールが挙げられる。
【0025】
着色剤の例としては、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化チタン、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用青色3号が挙げられる。
【0026】
緩衝剤の例としては、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニンまたはその塩、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸、ホウ酸またはその塩が挙げられる。
【0027】
滑沢剤の例としては、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウムが挙げられる。
【0028】
[1.2.フィルムコーティング]
フィルムコーティングの組成は、特に限定されない。フィルムコーティングは、本技術分野で通常に用いられるコーティング剤を含んでいてもよい。このようなコーディング剤の例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、マクロゴール(マクロゴール6000など)、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、タルク、酸化チタンが挙げられる。
【0029】
フィルムコーティングは、コーティング剤以外にも、着色剤などの成分を含んでいてもよい。着色剤の例としては、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄が挙げられる。
【0030】
[1.3.フィルムコーティング錠の特性]
フィルムコーティング錠の水分値は、特に限定されない。フィルムコーティング錠の水分値の下限は、通常は0.1質量%以上であり、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、さらに好ましくは0.4質量%以上であり、特に好ましくは0.5質量%以上である。フィルムコーティング錠の水分値の下限は、通常は12質量%以下であり、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下である。本明細書において、水分値は、カールフィッシャー法に基づいて測定した値である。
【0031】
フィルムコーティング錠の硬度は、目的により適宜調整できる。フィルムコーティング錠の硬度は、例えば、20~300Nが好ましい。
【0032】
〔2.包装医薬品〕
本発明の一態様は、上述のフィルムコーティング錠を含んでいる包装医薬品である。包装医薬品においては、フィルムコーティング錠が包装材で包装されている。包装材は、フィルムコーティング剤を直接包装する一次包装材であってもよいし、一次包装材の外からさらに包装する二次包装材であってもよい。包装材の具体的な形態は、特に限定されない。一次包装の例としては、PTP包装、ストリップ包装、ビン充填、アルミ包装が挙げられる。二次包装の例としては、ピロー包装が挙げられる。
【0033】
PTP包装の材料の例としては、樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネートなど)、金属(アルミニウムなど)が挙げられる。これらの材料は、1種類のみを用いてもよいし、複数種類を組合せて用いてもよい。材料の組合せの例としては、ポリ塩化ビニルとポリ塩化ビニリデンとの積層体、ポリ塩化ビニルとポリクロロトリフルオロエチレンとの積層体が挙げられる。公知の方法によりポケットを設けた樹脂シートを成形し、当該ポケットに錠剤を収容した後、アルミニウム箔で蓋をすれば、錠剤をPTP包装できる。
【0034】
包装材の透湿度は、低い方が好ましい。一実施形態において、包装材の透湿度は、1g/m/24hr以下が好ましく、0.5g/m/24hr以下がより好ましい。包装材の透湿度は、第十八改正日本薬局方の水蒸気透過性試験第2法により測定する。包装医薬品が一次包装材および二次包装材を備えている場合は、一次包装材および二次包装材で包装された状態において透湿度を測定する。透湿度が上記の範囲である包装材は、防湿性に優れるアルミピローと同等以上の防湿性である。この観点において、包装医薬品は、一次包装材およびアルミピローの組合せを備えていることが好ましい。
【0035】
包装材の透湿度を低くすることにより、フィルムコーティング錠を長期間にわたり保存した後であっても、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持できる。
【0036】
一実施形態において、包装材は、乾燥用部材を備えている。乾燥用部材とは、フィルムコーティング錠が収容されている空間の湿分を捕捉する部材であり、典型的には乾燥剤である。乾燥用部材は、包装材とは別々の部材であってもよいし、包装材の一部に組込まれていてもよい。乾燥剤の例に即すると、乾燥剤が収容されている容器は、包装材と別々であってもよいし、包装材と一体化していてもよいし、包装材を構成する材料が乾燥剤を含んでいてもよい。乾燥用部材を構成する成分の例としては、ゼオライト、シリカゲル、酸化カルシウム、塩化カルシウム、酸化マグネシウムが挙げられる。これらの成分は、1種類のみを用いてもよいし、複数種類を組合せて用いてもよい。
【0037】
包装材が乾燥用部材を備えていると、テネリグリプチンの類縁物質の発生をより一層低減できる。
【0038】
一実施形態において、包装材は、脱酸素剤を備えている。脱酸素剤の例としては、鉄系の脱酸素剤(鉄粉など)、有機系の脱酸素剤(アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、ヒドロキノン、カテコールなど)が挙げられる。脱酸素剤は、1種類のみを用いてもよいし、複数種類を組合せて用いてもよい。また、乾燥剤および脱酸素剤を組合せて用いてもよい。乾燥剤および脱酸素剤を組合せた製品の例としては、ファーマキープ(登録商標)(三菱ガス化学株式会社)が挙げられる。
【0039】
一実施形態において、フィルムコーティング錠は、ガラス製またはプラスチック製のボトルに充填されている。プラスチック製ボトルの材料の例としては、PTP包装用の樹脂として上記に例示したものが挙げられる。一実施形態において、フィルムコーティング錠は、アルミ包装により1回分ごとに分包されていてもよい。アルミ包装は、アルミピローによって二次包装されていてもよい。アルミピローには、上述した乾燥剤および/または脱酸素剤がさらに収容されていてもよい。
【0040】
〔3.フィルムコーティング錠の製造方法〕
本発明の一態様に係るフィルムコーティング錠の製造方法によれば、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と軽質無水ケイ酸とを含む素錠がフィルムコーティングにより被覆されているフィルムコーティング錠を製造できる。この製造方法は、素錠の全重量に対して1重量%以上の軽質無水ケイ酸を配合する工程を有する。素錠における軽質無水ケイ酸の配合量が上記の範囲であることにより、素錠にフィルムコーティングを施した後においても、テネリグリプチン臭化水素酸塩を非晶質状態に維持できる。素錠における軽質無水ケイ酸の配合量の例は、〔1〕節に記載の通りである。
【0041】
素錠は、錠剤を製造する一般的な錠剤の製造方法により製造できる。錠剤の製造方法の例としては、直接圧縮法(直打法またはセミ直打法)、顆粒圧縮法(乾式顆粒圧縮法または湿式顆粒圧縮法)が挙げられる。このうち直打法は、造粒工程を有さないので、コスト面が有利である。一実施形態においては、直打法により素錠を製造する。本発明の一実施形態に係る製造方法によれば、直打法により製造される素錠であっても、フィルムコーティングを施す際にテネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持できる。
【0042】
フィルムコーティングは、錠剤をコーティングする一般的な方法により形成できる。例えば、コーティング剤を含んでいる溶液を素錠にスプレーした後、乾燥させることにより、フィルムコーティングを形成させることができる。
【0043】
素錠を打錠するときの打錠圧力は、素錠の組成または形状により適宜調整できる。打錠圧力は、例えば、3~16kNが好ましい。
【0044】
〔4.テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持する方法〕
本発明の一実施形態に係るテネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持する方法は、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩と軽質無水ケイ酸とを含む素錠がフィルムコーティングにより被覆されているフィルムコーティング錠に適用される。この方法は、素錠の全重量に対して1重量%以上の軽質無水ケイ酸を配合する配合工程を有する。素錠における軽質無水ケイ酸の配合量が上記の範囲であることにより、素錠にフィルムコーティングを施した後においても、テネリグリプチン臭化水素酸塩を非晶質状態に維持できる。素錠における軽質無水ケイ酸の配合量の例は、〔1〕節に記載の通りである。
【実施例0045】
〔実施例1〕
フィルムコーティングに起因するテネリグリプチン臭化水素酸塩の結晶化に対して、素錠に含まれる軽質無水ケイ酸が及ぼす影響を検討した。具体的な手順は、次の通りである。なお、実施例1を含む下記の実施例で使用したテネリグリプチン臭化水素酸塩は、いずれも非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩無水物である。
1. 表1の「素錠」の欄に記載の各材料を混合した。
2. 得られた混合物を、直径:8.5mm、高さ:4.1mmの円柱状に直接打錠し、素錠を得た。打錠圧は、8kNとした。
3. 表1の「コーティング」の欄に記載の各材料を、精製水に溶解または分散させた。このようにして、コーティング液を得た。
4. 素錠にコーティング液をスプレーし、乾燥させた。このようにして、フィルムコーティング錠を得た。
5. 素錠およびフィルムコーティング錠を粉砕して、得られた粉末をXRD解析した。XRDの測定には、粉末X線回折装置(D8 ADVANCE、Bruker)を用いた。測定条件は、X線:Cu-Kα線、管電圧:40kV、管電流:40mA、測定範囲:2θ=4.0°~8.0°、スキャンスピード:1sec/step、ステップサイズ:0.01°とした。測定したスペクトルにピークが認められない場合を、非晶質状態と判定した。
【0046】
実施例1で使用した各成分の詳細は、次の通りである。
・D-マンニトール:Pertec M100(MERCK)
・トウモロコシデンプン:顆粒コンスTM(日本コーンスターチ株式会社)
・軽質無水ケイ酸:アドソリダー-101(フロイント産業株式会社)
・ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体:POVACOAT Type F(大同化成工業株式会社)
・酸化チタン:酸化チタンFG(フロイント産業株式会社)
・タルク:タルカンハヤシ(林化成株式会社)
【0047】
【表1】
【0048】
[結果]
結果を表1に示す。素錠の重量を100重量%とすると、素錠における軽質無水ケイ酸の含有率は、比較例1では0.25重量%であり、実施例1では5重量%であった。実施例1に係る製剤では、フィルムコーティングを施す前後のいずれにおいても、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質が維持された。一方、比較例1に係る製剤では、フィルムコーティングを施した後において、テネリグリプチン臭化水素酸塩が結晶化していた。この結果から、一定量以上の軽質無水ケイ酸を素錠に配合することにより、フィルムコーティングに起因してテネリグリプチン臭化水素酸塩が結晶化する現象を防止できることが示唆される。
【0049】
〔実施例2、3〕
テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態の維持に対して、包装材が及ぼす影響を検討した。具体的な手順は、次の通りである。
1. 実施例1で作製したフィルムコーティング錠を、次の2種類の方法で包装した。
・方法A:ポリ塩化ビニルフィルムおよびアルミニウム箔から構成されるPTPシート(PVC成形シート、成形シート製造:大和化成工業株式会社、成形前PVCシート製造:三菱ケミカル株式会社)にフィルムコーティング錠を収容した。さらに、アルミニウム・ポリエチレンラミネートフィルム製のアルミチャック袋(ラミジップ、株式会社生産日本社)にPTPシートを収容し、フィルムをシールして、袋充填品とした。
・方法B:方法Aにおいて、アルミチャック袋内に3gのゼオライト(MSセラム-W3G、株式会社東海化学工業所)を一緒に収容した。
2. 40℃75%RHの環境下において、2週間、1箇月間、2箇月間または3箇月間保存した。
3. 保存後のフィルムコーティング錠を粉砕して、得られた粉末をXRD解析した。解析方法および判定基準は、実施例1に説明した通りである。
【0050】
【表2】
【0051】
結果を表2に示す。方法Aおよび方法Bで使用されている包装材の透湿度は、次の通りである。
・ポリ塩化ビニルフィルム(PTPシートの構成部品):4.7g/m/24hr
・アルミチャック袋:0.5~1g/m/24hr
【0052】
方法Aおよび方法Bとも、透湿度が最も低いアルミチャック袋の中にPTPシートが収容されている。そのため、アルミチャック袋の内部は、湿度がかなり低い状態になっていると考えられる。したがって、方法Aおよび方法Bにおけるフィルムコーティング錠に対する防湿効果は、実質的にはアルミチャック袋による防湿効果であると見做せる。
【0053】
方法Bに含まれているゼオライトは乾燥用部材であり、具体的には乾燥剤である。
【0054】
表2から分かるように、方法Aおよび方法Bのいずれで包装しても、少なくとも3箇月間にわたり、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持できた。このことから、透湿度の低い包装材で包装すれば、長期間にわたりテネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持できることが示唆される。
【0055】
〔実施例4、5〕
テネリグリプチンの類縁物質の発生に対して、包装材が及ぼす影響を検討した。具体的な手順は、次の通りである。
1. 実施例2、3と同様に、方法Aまたは方法Bで包装されたフィルムコーティング錠を作製した。
2. 40℃75%RHの環境下において、2週間、1箇月間または3箇月間保存した。
3. 保存後のフィルムコーティング錠に含まれている総類縁物質の量を定量した。分析には、液体クロマトグラフィーを利用した。
【0056】
【表3】
【0057】
結果を表3に示す。方法Bに含まれているゼオライトは乾燥用部材であり、具体的には乾燥剤である。表3から分かるように、方法Aと方法Bとでは、方法Bの方が総類縁物質の発生量をより一層低減できた。このことから、包装材に乾燥用部材を備えることにより、テネリグリプチンの安定性をより一層向上できることが示唆される。
【0058】
〔実施例6~10〕
テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態の維持に対して、配合する崩壊剤の種類が及ぼす影響を検討した。そのために、実施例1~5とは異なり、トウモロコシデンプン以外の崩壊剤を使用した。具体的な手順は、次の通りである。
1. 実施例1と同様の手順によって、フィルムコーティング錠を作製した。
2. 作製直後のフィルムコーティング錠の一部を粉砕して、得られた粉末をXRD解析した。解析方法および判定基準は、実施例1に説明した通りである。
3. 実施例2の方法Aと同様に、フィルムコーティング錠の残部をPTPシートに主要紙、PTPシートをアルミチャック袋にさらに収容した。これにより、包装医薬品を製造した。
4. 4種類の保存条件において包装医薬品を保存した(表4を参照)。
5. 保存後のフィルムコーティング錠を粉砕して、得られた粉末をXRD解析した。解析方法および判定基準は、実施例1に説明した通りである。
【0059】
実施例6~10において使用した各成分の詳細は、下記の通りである。
・D-マンニトール:Pertec M100(MERCK)
・クロスポビドン:Kollidon CL-F(BASF)
・デンプングリコール酸ナトリウム:プリモジェル(DFEファーマ株式会社)
・クロスカルメロースナトリウム:Ac-Di-Sol(DuPont)
・低置換度ヒドロキシプロピルセルロース:LH-21(信越化学工業株式会社)
・カルメロース:NS-300(ニチリン化学工業株式会社)
・軽質無水ケイ酸:アドソリダー-101(フロイント産業株式会社)
・ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー:Kollicoat IR(BASF)
・酸化チタン:酸化チタンFG(フロイント産業株式会社)
・タルク:タルカンハヤシ(林化成株式会社)
【0060】
【表4】
【0061】
[結果]
表4から分かるように、実施例6~10に係るフィルムコーティング錠は、高温条件下においても、高湿度条件下においても、テネリグリプチン臭化水素酸塩の非晶質状態を維持できた。このことから、本発明の一実施形態に係るフィルムコーティング錠には、種々の種類の崩壊剤を利用できることが示唆される。
【0062】
〔処方例1~5〕
本発明の一実施形態に係るフィルムコーティング錠を、下記表5に記載の組成により調製してもよい。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、非晶質のテネリグリプチン臭化水素酸塩を含んでいる医薬などに利用できる。