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特開2024-17126ガス産生菌の検出方法、及びガス産生菌の検出キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017126
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ガス産生菌の検出方法、及びガス産生菌の検出キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20240201BHJP
   C12M 1/16 20060101ALI20240201BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240201BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12M1/16
C12M1/34 B
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119566
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】711012903
【氏名又は名称】翠川 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100201710
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 佑佳
(72)【発明者】
【氏名】翠川 裕
(72)【発明者】
【氏名】森田 明美
(72)【発明者】
【氏名】福▲崎▼ 智司
(72)【発明者】
【氏名】松井 宏樹
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB02
4B029CC03
4B029EA20
4B029FA01
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QR75
4B063QS40
4B065AA26X
4B065AC14
4B065BC31
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】ガス産生菌の有無を目視にて簡便に判定することが可能な技術を提供すること。
【解決手段】本発明では、栄養源を含む寒天培地に対象の菌を接種する接種工程と、前記接種工程の後、前記寒天培地の上面に非抗菌性素材からなる薄板を配置する配置工程と、前記配置工程の後、前記対象の菌を増殖させる増殖工程と、前記増殖工程の後、前記寒天培地の亀裂の有無を確認する確認工程と、を少なくとも行い、前記確認工程において、前記寒天培地に亀裂があった場合は、ガス産生菌と判定する、ガス産生菌の検出方法などを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養源を含む寒天培地に対象の菌を接種する接種工程と、
前記接種工程の後、前記寒天培地の上面に非抗菌性素材からなる薄板を配置する配置工程と、
前記配置工程の後、前記対象の菌を増殖させる増殖工程と、
前記増殖工程の後、前記寒天培地の亀裂の有無を確認する確認工程と、
を少なくとも行い、
前記確認工程において、前記寒天培地に亀裂があった場合は、ガス産生菌と判定する、ガス産生菌の検出方法。
【請求項2】
栄養源を含む寒天培地と、
非抗菌性素材からなる薄板と、
を少なくとも有する、ガス産生菌の検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス産生菌の検出方法、及びガス産生菌の検出キットに関する。より詳しくは、ガス産生菌の有無を目視にて簡便に判定することが可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌群(Coliform)とは、法律で定められている菌群であり、グラム陰性の無芽胞桿菌で、48時間以内に乳糖を分解して酸とガスを生ずる全ての好気性又は通性嫌気性の細菌である。大腸菌群は、ふん便汚染又は腸管系病原菌の汚染指標菌として最も一般的に用いられている菌群であり、大腸菌群の名称は、水道水と食品衛生学的領域で用いられる。
【0003】
大腸菌・大腸菌群は、飲料水、水道水、飲食品等の安全性を確保するために、検体より検出されないことが重要な検査項目である。大腸菌・大腸菌群が検出された検体は、安全性が保証されない。ここで、大腸菌・大腸菌群の検出における重要な点として、乳糖等のエネルギー源存在下で菌が産生する有機酸及びガスを検出することが挙げられる。一般的に、菌は大腸菌をはじめ、その多くがガスを産生する性質を持っている。この性質を利用し、従来、ダーラム管と液体培地とを用いることで、大腸菌群の検出が行われてきた。しかしながら、従来技術は作業が煩雑であり、より簡便化された技術の開発が求められてきた。
【0004】
これに対し、例えば、特許文献1には、培養容器に液体培地を注入すること、該培地よりも大きい比重を有し、かつ該液体培地及び微生物の侵入を許す気泡拘束空隙を有し、且つ導電性素材を付帯せしめられているガス検出体の少なくとも一つを沈めておくこと、該液体培地に被検物試料を混入したのち、所望の条件下に培養すること、ガス検出体の浮上の有無を目視または渦電流センサによって検出すること、を特徴とするガスの産生の有無を一つの指標とする微生物の検査方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04-79896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した通り、従来、ガスを産生する菌が存在することが知られてはいたものの、ガス産生菌の有無を簡便に検出する技術の開発は未だ十分とは言えず、特に、目視にて簡便に判定できるような手法は、飲料水、水道水、飲食品等の安全性を確認する上で非常に有用であることから、その開発が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明では、ガス産生菌の有無を目視にて簡便に判定することが可能な技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、栄養源を含む寒天培地に対象の菌を接種する接種工程と、前記摂取工程の後、前記寒天培地の上面に非抗菌性素材からなる薄板を配置する配置工程と、前記配置工程の後、前記対象の菌を増殖させる増殖工程と、前記増殖工程の後、前記寒天培地の亀裂の有無を確認する確認工程と、を少なくとも行い、前記確認工程において、前記寒天培地に亀裂があった場合は、ガス産生菌と判定する、ガス産生菌の検出方法を提供する。
【0009】
また、本発明では、栄養源を含む寒天培地と、非抗菌性素材からなる薄板と、を少なくとも有する、ガス産生菌の検出キットも提供する。
【0010】
なお、本明細書において、「ガス産生菌」とは、ガス産生能を有する菌のことをいい、産生されるガスの種類は特に限定されない。また、本明細書において、「非抗菌性」とは、菌の増殖を抑制しない、又は菌を除去しない(殺菌しない)性質をいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガス産生菌の有無を目視にて簡便に判定することが可能な技術となる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る検出キットを示す図面代用写真である。
図2】実験例1の結果を示す図面代用写真である。
図3】実験例2の結果を示す図面代用写真である。
図4】実験例3の結果を示す図面代用写真である。
図5】従来技術である、ダーラム管と液体培地とを用いた大腸菌群の検出の様子を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
1.ガス産生菌の検出方法
本発明に係る検出方法は、接種工程と、配置工程と、増殖工程と、確認工程と、を少なくとも行う。また、必要に応じて、その他の工程を行ってもよい。
【0015】
図5は、従来技術である、ダーラム管と液体培地とを用いた大腸菌群の検出の様子を示す図面代用写真である。図5に示した検出方法では、発酵管に液体培地である乳糖ブイヨン培地を入れて高圧蒸気滅菌し、滅菌後、急冷して、ダーラム管(小ガラス管)内に気泡の無い発酵管を選定する。次いで、該発酵管に菌を接種して培養後、ダーラム管内に気泡があれば、接種した細菌はガス産生能があると判定する。
【0016】
より具体的には、図5は、ダーラム管の開口部を下にして入れた乳糖ブイヨン培地であって、大腸菌を37℃で24時間培養した結果を示しており、図5のAは、乳糖ブイヨン培地を入れた培養前の発酵管の状態を示し、図5のBは、大腸菌を接種し、37℃で24時間培養した後の発酵管の状態を示している。大腸菌・大腸菌群を検出する場合、乳糖ブイヨン培地等の液体培地を用い、大腸菌汚染が疑われる検体を本培地に接種し、37℃で24時間培養した結果、(i)液体培地の色が菌由来の酸の産生に基づくpH低下によって変化していることを目視にて確認し、且つ、(ii)菌由来のガスがダーラム菅等の小ガラス管内に産生されるのを目視にて確認した場合に、ガス産生が「陽性」であると認める。
【0017】
このように、ダーラム管と液体培地とを用いた検出方法は、大腸菌・大腸菌群によるガスの産生を検出する場合、発酵管等の容器内に、例えば、上述したダーラム菅を入れる必要がある。また、ダーラム管の開口部を下にして空気を抜くには、高温高圧滅菌をする必要がある。更には、液体培地は移動に際して液体がこぼれる恐れがある上、ガス産生能の検出に際しては、ダーラム菅内を常に液体培地で満たして空気を遮断し続ける作業も必要となる。該作業中には、輸送中の振動等により、液体培地中の溶存酸素が微少の気泡となり、ダーラム管内に滞留するリスクもある。そして、特に、ガラス製ダーラム管は高価であり、洗浄の手間もかかる。したがって、ダーラム管と液体培地を用いた検出方法では、作業が煩雑であり、また、ガスの産生が少ない菌については、その培養後における判定を誤るリスクが高い。
【0018】
これに対し、本発明では、液体培地ではなく非液体培地である寒天培地を用いるため、液体がこぼれる恐れがなく、高温高圧滅菌も不要であり、また、簡便な手法により菌のガス産生能を検出することが可能であるため、熟練を要しない。そのため、河川水、海水、地下水、雨水、飲料水、水道水、飲食品等や、飲料水、飲食品等に接触する器具若しくは医療機器又はこれらに用いられる各種部品等における、ガス産生菌の検出を、簡便、迅速且つ高精度に行うことができる。
【0019】
以下、本発明に係る検出方法の各工程について詳細に説明する。
【0020】
(1)接種工程
接種工程は、栄養源を含む寒天培地に対象の菌を接種する工程である。
【0021】
本発明において、対象の菌としては特に限定されず、本発明に係る検出方法では、細菌、真菌等を含めたあらゆる菌を対象とすることができる。また、本発明では、多くの菌種を含む、所謂「菌群」と呼ばれるものも対象とすることができる。本発明では、これらの中でも特に、細菌及び/又は真菌を対象の菌とすることが好ましい。具体的には、例えば、サルモネラ属、シトロバクター属、プロテウス属、エドワージエラ属、クロストリジウム属等に属する菌;大腸菌;Escherichia coli、Citrobacter、Klebsiella、Enterobacter、Proteus等の多くの菌種を含む大腸菌群;乳酸菌;ブドウ球菌等が挙げられ、これら1種又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0022】
寒天培地は、栄養源を含み、対象となっている菌を増殖させるものであれば特に限定されない。栄養源も特に限定されず、通常培地に用いられる従来公知の栄養源が挙げられる。具体的には、例えば、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、有機成分、無機成分等が挙げられる。なお、培地に含有される栄養源の種類や濃度等は、当業者により適宜設定されてよい。
【0023】
炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、白糖、廃糖蜜、澱粉、澱粉加水分解物(例えば、デキストリン等)、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸等の有機酸類、エタノール、グリセロール(グリセリン)、粗グリセロール等のアルコール類、レシチン等の脂肪酸類等が挙げられ、これら1種又は2種以上を自由に組み合わせて用いてよい。
【0024】
窒素源としては、例えば、クエン酸鉄アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレア等が挙げられ、これら1種又は2種以上を自由に組み合わせて用いてよい。
【0025】
リン酸源としては、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマー等が挙げられ、これら1種又は2種以上を自由に組み合わせて用いてよい。
【0026】
硫黄源としては、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸等が挙げられ、これら1種又は2種以上を自由に組み合わせて用いてよい。
【0027】
有機成分や無機成分としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、亜鉛、マンガン、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物;等が挙げられ、これら1種又は2種以上を自由に組み合わせて用いてよい。
【0028】
本発明ではこれらの中でも特に、栄養源として炭素源が含まれていること好ましく、炭素源の中でも特に、糖類及び/又は有機酸類が含まれていること好ましく、糖類の中でも特に、グルコース、ラクトース、スクロース、及び白糖からなる群より選ばれるいずれか1種以上が含まれていること好ましい。また、本発明では、栄養源として炭素源の他、窒素源も含まれていることが好ましく、窒素源の中でも特に、ペプトンが含まれていることが好ましい。
【0029】
また、本発明では、従来公知の寒天培地を用いることもできる。具体的には、例えば、DHL(Desoxycholate-hydrogen sulfide-lactose)寒天培地、標準寒天培地、デソキシコレート寒天培地、X-SAL寒天培地、MLCB(Mannitol lysine crystal violet brilliant green)寒天培地、SS-SB(Salmonella-Shigella Sucrose Bromcresolpurple)寒天培地等が挙げられる。これら従来公知の寒天培地を用いることで、コスト削減に繋がる。
【0030】
本発明ではこれらの中でも特に、寒天培地としてDHL寒天培地又は標準寒天培地を用いることが好ましい。なお、本工程における寒天培地は、市販のものを使用してもよい。
【0031】
(2)配置工程
配置工程は、前記接種工程の後、前記寒天培地の上面に非抗菌性素材からなる薄板を配置する工程である。寒天培地の上面を非抗菌性素材からなる薄板で覆うことで、嫌気性条件を付与することができる。薄板で覆う範囲は、寒天培地の上面の一部又は全部のいずれであってもよい。
【0032】
本発明において、非抗菌性素材は、上述した定義に当てはまるものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、非抗菌性金属、繊維、木、紙等が挙げられる。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(例えば、ポリエチレンテレフタラート等)等の熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセタール等が挙げられ、これら1種又は2種以上を自由に組み合わせて用いてよい。
【0034】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、オレフィン系モノマーと該オレフィン系モノマーと共重合し得るモノマーとの共重合体等が挙げられ、これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0035】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂等が挙げられ、これら1種又は2種以上を自由に組み合わせて用いてよい。
【0036】
非抗菌性金属としては、例えば、アルミニウム、鉄、チタン、スズ、クロム、タングステン等があげられ、これら1種又は2種以上を自由に組み合わせて用いてよい。また、これらの金属を1種又は2種以上を含む合金であってもよい。
【0037】
繊維としては、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、非抗菌性金属繊維、ポリベンズアゾール樹脂繊維等が挙げられ、これら1種又は2種以上を自由に組み合わせて用いてよい。
【0038】
本発明ではこれらの中でも特に、非抗菌性素材として熱可塑性樹脂及び/又は非抗菌性金属が好ましく、熱可塑性樹脂の中でも特に、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、及びポリエステル系熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれるいずれか1種以上が好ましく、金属の中でも特に、アルミニウムが好ましい。
【0039】
本発明では、薄板の形態は特に限定されず、例えば、板状、フィルム状、シート状等にすることができる。また、本発明において、薄板は、空気を通さない性質を有していることが好ましい。具体的には、例えば、非抗菌性素材からなる薄板の厚みの下限値を、0.01mm以上(好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.08mm以上)に設定することで、空気を遮断することができる。厚みの上限値は、特に限定されないが、例えば、1mm以下、0.8mm以下、0.5mm以下、又は0.3mm以下とすることができる。
【0040】
更に、本発明において、薄板は、透視性又は透明性を有する素材からなることが好ましい。これにより、確認工程での検査が容易となる。
【0041】
なお、本工程における非抗菌性素材からなる薄板は、市販のものを使用してもよく、例えば、OHP(overhead projector)フィルム(OHPシート)等が挙げられる。
【0042】
本発明では、薄板の大きさや形状も特に限定されず、用いる寒天培地の大きさに応じて、当業者により適宜設計されてよい。具体的には、例えば、一辺が1~10cm(好ましくは3~8cm、より好ましくは4~6cm)の略正方形、長辺又は短辺が1~10cm(好ましくは3~8cm、より好ましくは4~6cm)の略長方形、直径1~10cm(好ましくは3~8cm、より好ましくは4~6cm)の略円形、長径又は短径が1~10cm(好ましくは3~8cm、より好ましくは4~6cm)の略楕円形等が挙げられる。
【0043】
(3)増殖工程
増殖工程とは、前記配置工程の後、前記対象の菌を増殖させる工程である。
【0044】
対象の菌を増殖させる条件(例えば、培養時間、培養温度等)としては特に限定されず、当業者により適宜設定されてよい。具体的には、例えば、細菌では、37℃で6時間、又は37℃で24時間若しくはそれ以上培養する条件等が挙げられ、真菌では、25℃(室温下)で1週間以上培養する条件等が挙げられる。
【0045】
(4)確認工程
確認工程とは、前記増殖工程の後、前記寒天培地の亀裂の有無を目視にて確認する工程である。本発明では、本工程における判定を、肉眼で行うことができることを特徴とする。
【0046】
本発明では、上述した増殖工程において、寒天培地の上面を非抗菌性素材からなる薄板により蓋をしているため、対象の菌がガス産生菌であった場合には、ガスが培地内に留まることにより寒天に亀裂が生じる。したがって、確認工程において、前記寒天培地に亀裂があった場合には、対象の菌がガス産生菌である(ガス産生陽性)と判定することができ、一方で、前記寒天培地に亀裂が無かった場合には、対象の菌がガス産生菌ではない(ガス産生陰性)、すなわち、ガスを産生しない菌(ガス非産生菌)であると判定することができる。
【0047】
2.本発明に係る検出方法の用途
本発明に係る検出方法は、例えば、河川水、海水、地下水、雨水、飲料水、水道水、飲食品等や、飲料水、飲食品等に接触する器具若しくは医療機器又はこれらに用いられる各種部品等における安全性の確保といった用途で用いることができる。
【0048】
3.本発明に係る検出キット
図1は、本発明に係る検出キットを示す図面代用写真である。図1のAは、非抗菌性素材からなる薄板であるOHPフィルムを示し、図1のBは、DHL寒天培地を示し、図1のCは、DHL寒天培地の上面の一部をOHPフィルムで覆った状態を示している。本発明では、図1に示すように、栄養源を含む寒天培地と、非抗菌性素材からなる薄板と、を少なくとも有する、ガス産生菌の検出キットも提供する。
【0049】
上述した本発明に係る検出方法を用いれば、ガス産生菌又はガスを産生しない菌に関する、検出キットや検出デバイス等が提供できる。これにより、ガス産生菌やガスを産生しない菌を新たな生物資源として活用することもできる。
【実施例0050】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0051】
<実験例1>
本実験例1では、通常通りに培養した場合と、OHPフィルムをDHL寒天培地に配置した上で培養した場合とで培養結果を比較した。
【0052】
従来公知の腸内細菌用検出培地であるDHL寒天培地20mLを用い、直径10cmの円形シャーレに塩化ナトリウムの添加されていない寒天培地を作製した。次いで、図2のAに示すシャーレでは、DHL寒天培地に対して大腸菌をサイコロの五の目のように5カ所に接種して、37℃で24時間培養した。一方で、図2のBに示すシャーレでは、DHL寒天培地に対して大腸菌をサイコロの五の目のように5カ所に接種し、その上部にOHPフィルム(サイズ:辺径5cmの略正方形、厚さ:0.1mm)を被せ、部分的に空気を遮断した上で培養した。
【0053】
図2のAでは、24時間培養後に現れた赤色のコロニーが確認された。一方で、図2のBでは、寒天培地の中央にOHPフィルム片を配置した上で、24時間培養して生じた亀裂が確認できた。これは、本来は好気性の条件下で菌を培養するDHL寒天培地に対し、空気を遮断するOHPフィルムを被せた結果、菌自体は増殖したものの発酵によって生じたガスが培地外に放出されず、産生されたガスが完全に培地内に閉じ込められたことによって生じたと考えられる。したがって、菌の産生するガスは、OHPフィルムにより部分的に外気への流出が遮断されたことで寒天培地に亀裂を生じさせ、可視化されることが確認された。
【0054】
以上のことから、OHPフィルムをDHL寒天培地の上面に配置したことで、大腸菌が産生したガスにより寒天培地に亀裂が発生しており、大腸菌はガス産生能がある(ガス産生陽性)と判定できることが分かった。したがって、本発明に係る検出方法を用いることで、対象の菌を、ガス産生菌であると正確に判定できることが確認された。
【0055】
<実験例2>
本実験例2では、主に飲料水等の一般細菌を検出する培地である標準寒天培地を使用し、通常通りに培養した場合と、OHPフィルムを標準寒天培地に配置した上で培養した場合とで培養結果を比較した。
【0056】
標準寒天培地20mLを用い、直径10cmの円形シャーレに寒天培地を作製した。通常通りに培養した場合と、OHPフィルムを標準寒天培地に配置した上で培養した場合とで培養結果の比較については、使用した培地を標準寒天培地とした以外は、上述した実施例1と同様とした。
【0057】
なお、標準寒天培地は、通常、乳及び乳製品、一般食品中の生菌数測定に用いられる。特に、水質基準では、生菌数が「水道水1mL中に100個以下であること」と定められている。
【0058】
図3のAは、通常通りに培養した場合を示す。一方で、図3のBは、ОHPフィルムを標準寒天培地に配置した上で培養した場合を示しており、24時間培養後、標準寒天培地を用いた場合においても大腸菌は、DHL寒天培地を用いた場合と同様に、OHPフィルムを被せたことで、菌がガスを産生する気温において寒天培地に亀裂の発生が認められた。したがって、主に飲料水等の一般細菌を検出する培地である標準寒天培地を用いた場合においても、対象の菌によるガスの産生を可視化できることから、本発明に係る検出方法の汎用性が高いことが示唆された。
【0059】
<実験例3>
本実験例3では、サルモネラ菌を接種した場合について検討した。具体的には、液体培地である乳糖ブイヨン培地を準備し、サルモネラ菌を接種した。同時に、DHL寒天培地を準備し、通常通りに培養した場合と、OHPフィルムを標準寒天培地に配置した上で培養した場合とで培養結果を比較した。
【0060】
より具体的には、発酵管に乳糖ブイヨン培地を適量添加し、高圧蒸気滅菌し、滅菌後、急冷して、ダーラム管(小ガラス管)内に気泡の無い発酵管を選定した。次いで、該発酵管にサルモネラ菌を接種したもの(図4のA参照)と、接種後37℃で24時間培養後したもの(図4のB参照)を用意した。
【0061】
DHL寒天培地を準備し、通常通りに培養した場合と、OHPフィルムをDHL寒天培地に配置した上で培養した場合とで培養結果の比較については、使用した菌をサルモネラ菌とした以外は、上述した実施例1と同様とした。
【0062】
図4のA及びBに示すように、サルモネラ菌を培養した前後で、乳糖ブイヨン培地の色が緑色(図4のA参照)又は青色(図4のB参照)に変化するものの、ダーラム管内に気泡は確認されなかった。したがって、サルモネラ菌には、ガス産生能がないことが分かった。
【0063】
図4のCは、通常通りに培養した場合を示す。一方で、図4のDは、ОHPフィルムをDHL寒天培地に配置した上で培養した場合を示しており、24時間培養後においても、大腸菌のように寒天培地に亀裂が認められなかった。したがって、本発明に係る検出方法を用いた場合においても、サルモネラ菌には、ガス産生能が無い(ガス産生陰性)と判定できることが分かった。
【0064】
以上のことから、サルモネラ菌を用いた場合は、乳糖ブイヨン培地では、ダーラム管内にガスが確認されず、本発明に係る検出方法を用いた場合においても、ガスの産生が認められなかった。したがって、本発明に係る検出方法を用いることで、対象の菌を、ガスを産生しない菌(ガス非産生菌)であると正確に判定できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る検出方法を用いれば、主として大腸菌・大腸菌群などの増殖の過程で産生するガスを、目視にて簡便且つ高精度で検出することができる。菌が、河川水、海水、地下水、雨水、飲料水、水道水、飲食品等や、飲料水、飲食品等に接触する器具若しくは医療機器又はこれらに用いられる各種部品等を汚染していることを確認することは、食品衛生や水道水衛生を確保する上で必要な検査である。したがって、本発明に係る検出方法は、幅広い分野での活用が期待できる。また、本発明に係る検出方法を用いて、ガス産生菌又はガスを産生しない菌に関する検出キットや検出デバイス等を提供することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5