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特開2024-171284硫化物絶縁体材料および硫黄系絶縁体材料の製造方法
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  • 特開-硫化物絶縁体材料および硫黄系絶縁体材料の製造方法 図1
  • 特開-硫化物絶縁体材料および硫黄系絶縁体材料の製造方法 図2
  • 特開-硫化物絶縁体材料および硫黄系絶縁体材料の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171284
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】硫化物絶縁体材料および硫黄系絶縁体材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/314 20060101AFI20241204BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
H01L21/314 A
H01L21/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023098120
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】523221016
【氏名又は名称】上野 智雄
(72)【発明者】
【氏名】上野 智雄
【テーマコード(参考)】
4M106
5F058
【Fターム(参考)】
4M106CA14
5F058BA01
5F058BA09
5F058BA20
5F058BC20
5F058BF41
(57)【要約】
【課題】電子部品における半導体装置内の、微細化、立体構造化の進む金属や半導体など、導電性物質部分を覆い絶縁性を確保するための絶縁体材料および製造方法。
【解決手段】任意の導電性物質に対して作成可能な、良好な絶縁性を有する硫化物絶縁体材料およびその製造方法は、電子備品における半導体装置内の微細化、立体構造化の進む金属や半導体などの導電性物質部分を覆い、絶縁性を確保するための技術を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TDS分析法(Thermal Desorption Spectroscopy:昇温脱離分析法)において確認できる、少なくとも200℃以上の耐熱性を有する硫化物固体絶縁体材料。
【請求項2】
金属や半導体基板などの導電性物質と接して形成された際、導電性物質表面での酸化などを含む化学的な反応をすることなく固体状態で形成される、前記硫化物固体絶縁体材料。
【請求項3】
請求項1または2において、少なくとも硫酸を含んだ溶液に侵すことで形成されることを特徴とする、硫化物固体絶縁体材料。
【請求項4】
請求項1または2において、少なくとも硫酸を含んだ溶液に侵すことで形成されることを特徴とする、成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物絶縁体材料および硫黄系絶縁体材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体特性を利用した近年の半導体装置を含む電子部品は、その高集積化、高性能化のために、電流の導通・非導通を制御する半導体部分だけでなく、そこに接続される配線金属も含めた導電性物質部分のすべてが、微細化、立体構造化の一途をたどっている。
【0003】
電子部品内の電流が流れるこれら導電性物質部分は、ショート防止のため、高い絶縁性を有する材料を用いてその周りを覆うことが必要であり、微細化、立体構造化された半導体部分や配線金属部分などの導電性物質部分の周りを適切に覆うための絶縁体材料およびその製造方法の開発が急がれている。
【0004】
一般に、金属や半導体など電子部品内の任意の導電性物質に対して、その周りを覆う材料として、これまで、シリコン酸化物や、シリコン窒化物、あるいは、ゲルマニウム酸化物や酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、などの材料が広く用いられてきたが、その多くは、特許文献1に示すような、大気中、あるいは、低圧力下の気相中で、半導体装置の材料となる常温または加熱された各種基板上に、原料ガスを供給して製造するものが一般的である。
【0005】
これらの手法を用いて作成された絶縁物は、その作成時における下地基板の温度に、その絶縁特性が大きく影響される。この改善策として、溶液を使った絶縁性材料の作成方法が提案されている。特許文献2には、半導体基板表面に対し、酸化性を有する薬品によって酸化処理を行うことで酸化膜を形成し、基板表面を安定化させた上でその後の気相中での酸化により良質な絶縁膜を作成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-018490号公報
【特許文献2】特開平09-092639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶液を使って作成する絶縁性材料は、通常、半導体や金属などの導電性物質自体を酸化させるなどの化学的な反応を伴って形成されるため、これら半導体や金属の種類によって、その生成物が異なり、それぞれの絶縁性が異なる、という課題がある。一方で、溶液に含まれる成分のみを用いて作成する絶縁性材料は、充分な絶縁体特性を得るために、一般に300℃以上程度の基板温度、もしくは、作成後の焼成温度、を必要とすることが多い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
硫化物は、その化学的性質として、酸素原子と同様、最外殻にs軌道に2個、p軌道に4個の価電子を有している。したがって、硫黄原子が酸素原子と結合した、三酸化硫黄(無水硫酸:SO3)や二酸化硫黄(亜硫酸ガス:SO2)などの物質が化学的に容易に作成可能であるが、これらの物質は常温で気体であることが多く、その沸点は、ほぼ室温程度以下であり、化学的に安定な相として知られているα-SO3でも、融点は高くても60℃程度であることが知られており、半導体装置内の絶縁性物質として、ある膜厚以上を有する固体状態で利用することはほぼ不可能とされていた。
【0009】
本開示の一態様にかかる硫化物絶縁体材料は、金属や半導体などの導電性を有する物質上に、それら導電性物質との化学的な反応をすることなく固体状態で形成され、200℃程度の温度に昇温しても絶縁性を保ちつつ、固体状態を維持したまま存在可能であることが示されている。この硫化物絶縁体材料は、作成された後のTDS分析(Thermal Desorption Spectroscopy:昇温脱離分析)において、400℃以上に加熱することで、SOおよびSO2に対応した質量数(48および64)を発生しながら昇華により消失するものであり、その程度の温度範囲までであれば、半導体装置内の導電性物質の周りを適切に覆う絶縁性物質として、固体状態で活用することが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硫化物絶縁膜材料およびその製造方法は、半導体や金属などの微細化、立体構造化された任意の導電性物質の周りを覆う絶縁性材料を、70℃~130℃程度のプロセス温度で作成することが可能であり、たとえば立体構造を有する導電性物質と、近接して配置される他の導電性物質の間の予期せぬ漏れ電流を防止することが可能となる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】硫化物絶縁体材料の耐熱性調査を実施する際に用いた構造を示すための説明図である。
図2】導電性基板と接して形成された硫化物絶縁体材料の、導電性基板表面での反応の有無の調査を実施する際に用いた構造を示すための説明図である。
図3】硫化物絶縁体材料の絶縁性調査を実施する際に用いた構造を示すための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して本発明の実施例について説明する。ただし、ここに示す実施例は発明を実施するための形態の一例に過ぎず、趣旨から逸脱することなくその形態をさまざまに変更しうることは当業者であれば用意に理解される。よって、本発明は記載された実施例の形態に限定して解釈されるものではない。
【実施例0013】
図1は、本発明である硫化物絶縁体材料の耐熱性調査を実施する際に用いた構造を示す説明図であり、半導体や金属などの任意の導電性物質101に対し、本発明の上記硫化物絶縁体材料102によって周りを覆った構造の断面図である。
【0014】
常温で固体状態を維持している硫化物絶縁体材料102の、耐熱性を調査するため、TDS分析法(Thermal Desorption Spectroscopy:昇温脱離分析法)を実施した。それによれば、上記硫化物絶縁体材料102を含んだ図1に示す構造全体を超高真空中で加熱することで、昇華によりSOおよびSO2に対応した質量数(48および64)をもつ物質が当該超高真空中に放出されるが、400℃を超える温度領域まで、上記硫化物絶縁体材料102が導電性物質101の周りに残存していることが示された。
【実施例0015】
図2は、導電性基板と接して形成された本発明である硫化物絶縁体材料の、導電性基板表面での反応の有無の調査を実施する際に用いた構造を示す説明図であり、導電性物質の一例であるp型シリコン基板103に接して、本発明の上記硫化物絶縁体材料104が形成された構造の断面図である。
【0016】
一般に、接する導電性物質との酸化反応などの化学的な反応を伴って形成される絶縁体材料の場合、それに接する導電性物質から、XPS分析によるケミカルシフトが観測されるが、上記図2に示すp型シリコン基板103から得られる光電子の結合エネルギーは、本発明である硫化物絶縁体材料との化学的な反応を示すものは得られなかった。
【0017】
図3は、本発明である硫化物絶縁体材料の絶縁性調査を実施する際に用いた構造を示すための説明図であり、導電性物質の一例であるp型シリコン基板103に接して、本発明の上記硫化物絶縁体材料104が形成され、それに接する形で上部金属電極105を形成された構造の断面図である。
【0018】
図3の構造に対し、p型シリコン基板103と上部金属電極105の間に3ボルトの電圧を印加したところ、本発明である硫化物絶縁体材料104に流れるリーク電流密度は、少なくとも1.0E-5(A/cm2)台よりも良好な値を示すことが示されている。なお、このリーク電流密度が得られた際の硫化物絶縁体材料104のEOT(等価酸化膜膜厚)は、2.7nmであった。
【実施例0019】
図1に示した構造は、本発明である硫化物絶縁体材料の耐熱性調査を実施する際に用いたものであり、半導体や金属などの任意の導電性物質101に対し、本発明の上記硫化物絶縁体材料102によって周りを覆った構造の断面図である。この硫化物絶縁体材料102は、導電性物質101を80℃に加熱した市販の96%硫酸(H2SO4+H2O)に10分間浸すことで導電性物質101の周りを覆った形で作成したものである。
【実施例0020】
図2に示した構造は、導電性基板と接して形成された本発明である硫化物絶縁体材料作成の際の、導電性基板表面での反応の有無、および、上記硫化物絶縁体材料の絶縁性の調査を実施する際に用いたものであり、p型シリコン基板103の表面の一部を80℃に加熱した市販の96%硫酸(H2SO4+H2O)に15分間浸すことでp型シリコン基板103の表面の一部に本発明の上記硫化物絶縁体材料104を形成することが可能である。
図1
図2
図3