(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171289
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】電動制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/42 20060101AFI20241204BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B60T8/42
B60T13/138 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114583
(22)【出願日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2023087676
(32)【優先日】2023-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柿添 健太
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB29
3D048BB31
3D048CC05
3D048HH18
3D048HH26
3D048HH50
3D048HH58
3D048HH66
3D048HH68
3D048QQ16
3D048RR06
3D048RR35
3D246BA02
3D246GA10
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3D246GB37
3D246HA03A
3D246HA44A
3D246HA45A
3D246HC01
3D246JA12
3D246JB53
3D246LA04Z
3D246LA15Z
3D246LA33Z
3D246LA63Z
3D246LA73Z
(57)【要約】
【課題】操作フィーリングを一定に保ちつつ、遮断弁の動作音の発生を抑制する。
【解決手段】電動制動装置は、リザーバタンク10とホイールシリンダ11を接続する接続路12を連通状態と遮断状態とに切替える遮断弁21と、接続路12における遮断弁21とホイールシリンダ11との間の部分である主流路12Aに接続された電動シリンダ23と、制御部33と、を備える。制御部33は、遮断弁21により主流路12Aを遮断させた状態で電動シリンダ23により主流路12Aにブレーキ液を吐出させることによりホイールシリンダ11内にブレーキ液圧を発生させる。加えて制御部33は、電動シリンダ23による主流路12Aからのブレーキ液の吸引によりホイールシリンダ11内に発生しているブレーキ液圧が大気圧まで低下した後も、遮断弁21による主流路12Aの遮断状態を維持している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバタンクとホイールシリンダとを接続する接続路に設けられ、前記接続路を連通状態と遮断状態とに切替える遮断弁と、前記接続路における前記遮断弁と前記ホイールシリンダとの間の部分である主流路に接続され、電気モータの駆動に応じてシリンダ内のピストンが直線運動することで、前記主流路へのブレーキ液の吐出、及び前記主流路からの前記ブレーキ液の吸引が可能である電動シリンダと、を備えており、前記遮断弁により前記主流路を遮断させた状態で前記電動シリンダにより前記主流路に前記ブレーキ液を吐出させて前記ホイールシリンダ内にブレーキ液圧を発生させる電動制動装置であって、
前記電動シリンダによる前記主流路からの前記ブレーキ液の吸引により前記ホイールシリンダ内に発生しているブレーキ液圧が大気圧まで低下した後も、前記遮断弁による前記主流路の遮断状態を維持する制御部を備えている
電動制動装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ホイールシリンダ内に発生しているブレーキ液圧が大気圧まで低下されており、かつ前記遮断弁による前記主流路の遮断状態が維持されている状態で、前記主流路から前記ブレーキ液を吸引する方向に前記電動シリンダを駆動させる引き戻し制御を実行する請求項1に記載の電動制動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記引き戻し制御において、前記電動シリンダにより上昇した前記ホイールシリンダ内のブレーキ液圧に応じて前記主流路から前記ブレーキ液を吸引する方向への前記電動シリンダの駆動量を変更する請求項2に記載の電動制動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ホイールシリンダ内に発生しているブレーキ液圧が大気圧まで低下されており、かつ前記遮断弁により前記主流路が遮断されている状態から、前記遮断弁を一時的に開弁し前記電動シリンダを駆動することで、前記ブレーキ液圧と前記ピストンの位置との関係を調整する調整制御を行う請求項1に記載の電動制動装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記ブレーキ液圧と前記ピストンの位置との関係が、予め設定した関係から外れた際に前記調整制御を実施する請求項4に記載の電動制動装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記ブレーキ液圧と前記ピストンの位置との関係が、前記電動シリンダの作動前後で既定値以上変化した際に前記調整制御を実施する請求項4に記載の電動制動装置。
【請求項7】
前記接続路のうち前記リザーバタンクと前記遮断弁との間の部分に、操作部材の操作に応じて前記ブレーキ液を給排するマスタシリンダを更に備え、
前記制御部は、前記操作部材が操作される蓋然性が既定の閾値よりも低い場合、前記調整制御を実行する
請求項4~請求項6の何れか一項に記載の電動制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動シリンダが発生した液圧をホイールシリンダに伝達して車輪に制動力を発生する電動制動装置が記載されている。この電動制動装置では、電動シリンダ、ホイールシリンダ間の液圧回路とリザーバタンクとが、電磁式の遮断弁を介して接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような電動制動装置において、遮断弁が開弁された状態では、電動シリンダが吐出したブレーキ液がリザーバタンクに戻されるように液圧回路が構成されていることが考えられる。こうした構成の電動制動装置では、制動要求に応じた電動シリンダの加圧動作を開始前に遮断弁を閉弁する必要がある。操作フィーリングを一定に保つためには、このときの遮断弁の動作速度を高くする必要がある。この理由は次の通りである。遮断弁の動作速度が遅いと、ブレーキペダルの操作に応じてマスタシリンダのブレーキ液が遮断弁を介してホイールシリンダに流入してしまう。そして、その結果、操作フィーリングが変化してしまう。しかしながら、遮断弁の動作速度を高くすると、遮断弁の動作音が大きくなってしまうため、乗員に違和を感じさせる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する電動制動装置は、リザーバタンクとホイールシリンダとを接続する接続路に設けられ、前記接続路を連通状態と遮断状態とに切替える遮断弁と、前記遮断弁と前記ホイールシリンダとの間の主流路に接続され、電気モータの駆動に応じてシリンダ内のピストンが直線運動することで、前記主流路へのブレーキ液の吐出、及び前記主流路からの前記ブレーキ液の吸引が可能である電動シリンダと、を備えており、前記遮断弁により前記主流路を遮断させた状態で前記電動シリンダにより前記主流路に前記ブレーキ液を吐出させて前記ホイールシリンダ内にブレーキ液圧を発生させる電動制動装置であって、前記電動シリンダによる前記主流路からの前記ブレーキ液の吸引により前記ホイールシリンダ内に発生しているブレーキ液圧が大気圧まで低下した後も、前記遮断弁による前記主流路の遮断状態を維持する制御部を備えている。
【発明の効果】
【0006】
操作フィーリングを一定に保ちつつ、遮断弁の動作音の発生が抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】電動制動装置の第1実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図2】上記電動制動装置の制御部が実行する制動制御ルーチンのフローチャートである。
【
図3】ピーク値と引き戻し量との関係を示すグラフである。
【
図4】制動力発生中の電動制動装置の状態を模式的に示す図である。
【
図5】制動終了時の電動制動装置の状態を模式的に示す図である。
【
図6】引き戻し制御中の電動制動装置の状態を模式的に示す図である。
【
図7】ノックバック発生時の電動制動装置の状態を模式的に示す図である。
【
図8】液圧とキャリパピストン前進量との関係を示すグラフである。
【
図9】電動制動装置の第2実施形態において制御部が実行する制動制御ルーチンの一部を示すフローチャートである。
【
図10】第2実施形態の電動制動装置における制動解除時の制御態様の一例における、(a)はブレーキ液圧の推移を、(b)はねじストロークの推移を、(c)は遮断弁の開閉状態の推移を、それぞれ示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、電動制動装置を具体化した第1実施形態を
図1~
図8に従って説明する。本実施形態の電動制動装置は、車両の車輪に制動力を発生する装置として構成されている。
【0009】
<電動制動装置の構成>
図1に示すように、本実施形態の電動制動装置は、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク10と、ブレーキ液圧の供給に応じて車輪に制動力を発生するホイールシリンダ11と、を備えている。また、電動制動装置は、リザーバタンク10とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路である接続路12を備えている。以下の説明では、接続路12に沿ってホイールシリンダ11に近づく側を接続路12の下流側と記載する。また、接続路12に沿ってリザーバタンク10に近づく側を接続路12の上流側と記載する。
【0010】
ホイールシリンダ11は、車両の車輪に設けられたキャリパ13の内部に設けられている。ホイールシリンダ11の内部には、キャリパピストン14が直動自在に収容されている。ホイールシリンダ11には、キャリパピストン14の側面に弾性接触するシール部材15が設置されている。キャリパ13には、2つの摩擦材16、17が設置されている。2つの摩擦材16、17は、車輪と共に回転する回転体であるブレーキロータ18を挟み込むように配置されている。キャリパピストン14は、ホイールシリンダ11へのブレーキ液圧の供給に応じて、ブレーキロータ18に向けて摩擦材16に押圧を加える。これにより、ブレーキロータ18が2つの摩擦材16、17により挟持される。このときのブレーキロータ18と摩擦材16、17との間の摩擦により、車輪に制動力が発生する。
【0011】
接続路12には、ブレーキペダル19の踏込みに応じてブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ20が設けられている。マスタシリンダ20、操作部材としてのブレーキペダル19の操作に応じてブレーキ液を給排する。接続路12におけるマスタシリンダ20よりも下流側の部分には、常開式の遮断弁21が設置されている。すなわち、マスタシリンダ20は、接続路12のうちリザーバタンク10と遮断弁21との間の部分に設置されている。接続路12は、遮断弁21の開弁時には、リザーバタンク10とホイールシリンダ11とを連通する連通状態となる。また、接続路12は、遮断弁21の閉弁時には、リザーバタンク10とホイールシリンダ11とを遮断する遮断状態となる。すなわち、遮断弁21は、接続路12を連通状態と遮断状態とに切替える弁である。
【0012】
さらに、接続路12におけるマスタシリンダ20と遮断弁21との間の部分には、電磁駆動式のカット弁22Aを介してストロークシミュレータ22が接続されている。ストロークシミュレータ22は、スプリングで支持されたプランジャを内蔵している。カット弁22Aは、遮断弁21の開弁時には閉弁される。そのため、遮断弁21の開弁時には、ブレーキペダル19の踏込みに応じてマスタシリンダ20が発生したブレーキ液圧がホイールシリンダ11に供給される。遮断弁21の閉弁時には、マスタシリンダ20とホイールシリンダ11とが遮断されるとともに、カット弁22Aが開弁される。このとき、ストロークシミュレータ22は、内蔵するプランジャの移動により、マスタシリンダ20が吐出したブレーキ液の流れを吸収すると同時に、ブレーキペダル19の踏込みに対する反力を発生する。
【0013】
以下の説明では、接続路12における遮断弁21とホイールシリンダ11との間の部分を、主流路12Aと記載する。主流路12Aには、電動シリンダ23が接続されている。電動シリンダ23は、給電により動作してブレーキ液圧を発生する。電動シリンダ23には、直動自在にピストン25が収容されたシリンダ24が設けられている。そして、シリンダ24の内部には、ブレーキ液が導入される液室26がピストン25により区画形成されている。液室26は、接続路12に連通されている。液室26の容積は、シリンダ24内でピストン25が直動することで変化する。以下の説明では、シリンダ24内でのピストン25の直動方向のうち、液室26の容積が減少する方向を前進方向F、液室26の容積が増大する方向を後退方向Rと記載する。
【0014】
電動シリンダ23は、アクチュエータ27と直動変換機構28とを備えている。アクチュエータ27は、電力の供給を受けて回転力を発生する。アクチュエータ27は、例えば電気モータと、電気モータの回転を減速する減速機構と、により構成される。直動変換機構28は、アクチュエータ27の回転を受けて回転する回転部材29を備えている。また、直動変換機構28は、回転部材29の回転に応じて、前進方向F及び後退方向Rに直動する直動部材30を備えている。直動変換機構28の例は、ボールねじ機構や台形ねじ機構である。直動部材30は、前進方向Fに移動することで、ピストン25と接触する。そして、直動部材30は、ピストン25と接触した状態で更に前進方向Fに移動することで、ピストン25に押圧を加える。これにより、ピストン25が液室26内のブレーキ液に押圧を加えることで、電動シリンダ23は主流路12Aにブレーキ液を吐出する。直動部材30の直動方向は、アクチュエータ27の回転方向により切り替わる。以下の説明では、直動部材30を前進方向Fに移動させる方向へのアクチュエータ27の回転駆動を、同アクチュエータ27の前進駆動と記載する。また、直動部材30を後退方向Rに移動させる方向へのアクチュエータ27の回転駆動を、同アクチュエータ27の後退駆動と記載する。
【0015】
また、電動シリンダ23には、スプリング31と、ストッパ32と、が設けられている。スプリング31は、液室26内に設置されている。そして、スプリング31は、ピストン25からの前進方向Fの押圧に対して圧縮反力を発生する。ストッパ32は、シリンダ24内の既定の位置でピストン25と接触して、その位置よりも後退方向Rへのピストン25の移動を禁止する。以下の説明では、ストッパ32と接触するピストン25の移動位置を初期位置と記載する。
【0016】
以上のように電動シリンダ23は、アクチュエータ27内の電気モータの駆動に応じてシリンダ24内を直線運動するピストン25を備えている。そして、電動シリンダ23は、シリンダ24内をピストン25が直線運動することで、主流路12Aへのブレーキ液の吐出、及び主流路12Aからのブレーキ液の吸引が可能である。
【0017】
さらに、本実施形態の電動制動装置は、制御部33を備えている。制御部33は、ブレーキ制御用の電子制御ユニットである。制御部33には、ストロークセンサ34及び液圧センサ35が接続されている。ストロークセンサ34は、ブレーキペダル19の踏込み量であるペダルストロークSTを検出するセンサである。液圧センサ35は、主流路12A内のブレーキ液の圧力であるブレーキ液圧Pを検出するセンサである。液圧センサ35が検出するブレーキ液圧Pは、ホイールシリンダ11内のブレーキ液圧を示している。また、遮断弁21が閉弁しているときには、液圧センサ35が検出するブレーキ液圧Pは、電動シリンダ23が発生しているブレーキ液圧を示す。
【0018】
制御部33は、遮断弁21の通電をオン・オフすることで、遮断弁21を開閉している。遮断弁21の開弁時には、カット弁22Aが閉弁されるため、ブレーキペダル19の踏込みに応じてマスタシリンダ20が発生したブレーキ液圧Pがホイールシリンダ11に供給される。一方、遮断弁21の閉弁時には、マスタシリンダ20がホイールシリンダ11から切り離される。制御部33は、遮断弁21を閉弁するとともにカット弁22Aを開弁した状態で、ストロークセンサ34によるペダルストロークSTの検出結果等に基づき、電動シリンダ23の駆動制御を行うことで、バイワイヤ方式による制動制御を実施する。
【0019】
<バイワイヤ方式の制動制御>
続いて、
図2及び
図3を参照して、バイワイヤ方式による制動制御の詳細を説明する。
図2には、制御部33が実行する制動制御ルーチンのフローチャートを示す。なお、制御部33は、制動制御ルーチンに入る前、かつドライバ操作がないときに初期化処理を実施する。初期化処理は、下記のように行われる。初期化処理に際して制御部33は、遮断弁21が開弁した状態で、電動シリンダ23のピストン25を初期位置から制御初期位置に進めるように電動シリンダ23を駆動する。そして、制御部33は、この電動シリンダ23の駆動後に遮断弁21を閉弁する。制御初期位置は、ピストン25を初期位置から一定量進めた位置である。こうした初期化処理を実施しない場合には、制動制御ルーチンの開始時に、液圧が既に大気圧よりも高くなっている場合、すなわち液圧を封じ込めている場合がある。初期化処理は、こうした場合にも、制動制御ルーチンの開始時の液圧を大気圧まで下げることができるようにするために実施される。そして、制御部33は、バイワイヤ方式による制動制御の開始に応じて本ルーチンを開始する。初期化処理の実施により、本制動制御の開始時には、電動シリンダ23のピストン25は制御初期位置に位置され、かつ遮断弁21は閉弁した状態となっている。また、後述の前回引き戻し量及びピーク値にはそれぞれ、初期値として0が設定されている。
【0020】
制御部33は、バイワイヤ方式による制動制御を開始すると、まずステップS100において、ペダルストロークSTが既定値X1以上であるか否かを判定する。既定値X1には、制動要求有りと判定するペダルストロークSTの閾値より小さい正の値が設定されている。ペダルストロークSTが既定値X1未満の場合(NO)、制御部33は、既定の制御周期Tが経過した後に、再びステップS100の判定を実施する。
【0021】
ペダルストロークSTが既定値X1以上の場合(S100:YES)、制御部33はステップS110において、制動要求の有無を判定する。制御部33は、ペダルストロークSTが、上記既定値X1よりも大きい既定値X2以上の場合に、制動要求有りと判定している。
【0022】
制御部33は、制動要求無しであると判定した場合(NO)には、ステップS120において、前回引き戻し量の分の前進駆動をアクチュエータ27に指令する。そして、制御部33は、上記制御周期Tが経過した後に、再びステップS100の判定を実施する。なお、ステップS120の処理が実施される場合、すなわちペダルストロークSTが既定値X1以上、かつ既定値X2未満の場合は、制動力を発生するには至らない、軽いブレーキペダル19の踏込みが行われている場合である。
【0023】
一方、制御部33は、制動要求有りと判定した場合(S110:YES)には、ステップS130において、ペダルストロークST等に基づき、目標液圧を算出する。目標液圧は、電動シリンダ23に発生させるブレーキ液圧Pの目標値である。なお、制御部33は、目標液圧が設定されている場合には、本ルーチンとは別のルーチンにおいて、液圧センサ35が検出するブレーキ液圧Pを目標液圧に近づけるように電動シリンダ23のアクチュエータ27の駆動制御を行っている。
【0024】
続いて制御部33は、ステップS140において、液圧センサ35が検出している現在のブレーキ液圧Pが、記憶中のピーク値を超えているか否かを判定する。そして、制御部33は、現在のブレーキ液圧Pがピーク値を超えている場合(YES)には、ステップS150において、ピーク値の値を現在のブレーキ液圧Pに置き換えた後、ステップS160に処理を進める。一方、制御部33は、現在のブレーキ液圧Pがピーク値以下の場合(NO)には、ステップS150をスキップして、ステップS160に処理を進める。ピーク値は、今回の制動力の発生中に電動シリンダ23により上昇したホイールシリンダ11内のブレーキ液圧Pの最大値を表わしている。
【0025】
ステップS160に処理を進めると、制御部33は、上記制御周期Tが経過した後に、制動要求が解除されたか否かを判定する。具体的には、制御部33は、ペダルストロークSTが既定値X2未満となったか否かを判定する。制動要求が解除されていない場合(NO)には、制御部33は、上記ステップS130~S160の処理を再度実行する。
【0026】
一方、制動要求が解除された場合(YES)には、制御部33はステップS170において、大気圧を目標液圧の値として設定する。そして、制御部33は、ブレーキ液圧Pが大気圧以下に低下すると(S180:YES)、ステップS190に処理を進める。
【0027】
ステップS190において制御部33は、ピーク値に基づき、引き戻し量を算出する。そして、制御部33は次のステップS200において、引き戻し量分の後退駆動をアクチュエータ27に指令する。制御部33は、こうしたアクチュエータ27の後退駆動を、ペダルストロークSTが0の状態が既定時間以上継続していることを条件に指令している。また、制御部33は、このときのアクチュエータ27の後退駆動の速度を、既定の速度に固定している。
【0028】
その後、制御部33は、ステップS210において、ピーク値の値を0にリセットするとともに、ステップS190で算出した引き戻し量を前回引き戻し量の値として記憶する。そして、制御部33は、上記制御周期Tが経過した後にステップS100に処理を戻す。
【0029】
図3には、ステップS190で制御部33が算出する引き戻し量と、その算出に用いるピーク値との関係を示す。制御部33は、ピーク値が大きいほど、大きい値を引き戻し量の値として算出している。
【0030】
なお、ステップS120での前進駆動の指令、及びステップS200での後退駆動の指令に基づくアクチュエータ27の駆動には、複数の制御周期Tを要する場合がある。そして、それら指令に基づくアクチュエータ27の駆動が完了する前に、制動要求が発生する場合がある。そうした場合、制御部33は、それらの指令をキャンセルする。そして、制御部33は、ステップS110で制動要求有りと判定した場合の処理を実施することで、要求に応じた制動力を発生するように電動制動装置を制御する。
【0031】
<第1実施形態の作用効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
制御部33は、バイワイヤ方式による制動制御中、遮断弁21への通電を維持している。そのため、制動制御中の主流路12Aは、リザーバタンク10から遮断されている。
【0032】
図4に、制動中の電動制動装置の状態を示す。ブレーキペダル19が踏み込まれてペダルストロークSTが既定値X2以上となると、制御部33は、電動シリンダ23のアクチュエータ27の前進駆動を指令する。これにより、ピストン25が液室26内のブレーキ液を押圧することで、電動シリンダ23はブレーキ液圧Pを発生する。電動シリンダ23が発生したブレーキ液圧Pは、ホイールシリンダ11に伝達される。伝達されたブレーキ液圧Pにより、キャリパピストン14が摩擦材16を押圧する。これにより、ブレーキロータ18が2つの摩擦材16、17により挟持される。このときのブレーキロータ18と摩擦材16、17との間に生じる摩擦により、車輪に制動力が発生する。
【0033】
図5に、制動終了時の電動制動装置の状態を示す。制御部33は、ペダルストロークSTが既定値X1未満となると、制動要求が解除されたと判定する。そして、制御部33は、液圧センサ35が検出するブレーキ液圧Pが大気圧に低下するまで、電動シリンダ23のアクチュエータ27の後退駆動を指令する。
【0034】
その後、ペダルストロークSTが0の状態が既定時間以上、継続すると、制御部33は、制動終了時の位置よりも更に後退方向Rへのアクチュエータ27の駆動を指令する。以下の説明では、こうした制動終了後のアクチュエータ27の後退駆動を行う制御を、引き戻し制御と記載する。制御部33は、ホイールシリンダ11内に発生しているブレーキ液圧Pが大気圧まで低下しており、かつ遮断弁21による主流路12Aの遮断状態を維持されている状態で、引き戻し制御を実行している。そして、制御部33は、引き戻し制御において、主流路12Aからブレーキ液を吸引させる方向に電動シリンダ23を駆動させている。
【0035】
本実施形態の電動制動装置では、引き戻し制御のため、制動終了後に電動シリンダ23のアクチュエータ27を駆動している。引き戻し制御のため、電動制動装置が制動終了後に動作音を発すると、乗員が違和を感じる虞がある。これに対して、本実施形態の電動制動装置の制御部33は、引き戻し制御におけるアクチュエータ27の後退方向Rへの駆動速度を既定の速度に固定している。この固定した速度は、乗員に違和を感じさせない大きさに動作音が留まるアクチュエータ27の上限速度以下の速度に設定されている。そのため、制動終了後の引き戻し制御でのアクチュエータ27の動作音を、乗員に違和を与えない程度の大きさに抑えられる。
【0036】
図6に、引き戻し制御中の電動制動装置の状態を示す。引き戻し制御が行われると、電動シリンダ23の直動変換機構28の直動部材30は、制動終了時の位置よりも後退方向Rに移動する。これにより、電動シリンダ23のピストン25は、制動終了時の位置よりも後退方向Rへの移動が許容された状態となる。このときの電動シリンダ23、ホイールシリンダ11間の液圧回路は遮断弁21の閉弁により閉塞されている。そのため、ホイールシリンダ11のキャリパピストン14は、電動シリンダ23のピストン25と連動して移動する状態となっている。よって、上記引き戻し制御により、キャリパピストン14は、制動終了時の位置よりも、摩擦材16から離間する方向への移動が許容された状態となる。
【0037】
制御部33は、引き戻し制御を終了すると、再び制動が要求されるまで、電動シリンダ23の駆動を停止する。このように制御部33は、非制動時には、ブレーキ液圧Pを発生しない動作位置にピストン25が位置した状態で電動シリンダ23を待機させる。
【0038】
車両の走行中、ブレーキロータ18に振れや変位により、キャリパピストン14がブレーキロータ18により押し戻されることがある。この現象をノックバックという。ノックバックは、激しいコーナリング時や悪路走行時に発生することがある。引き戻し制御を行わない場合には、キャリパピストン14がノックバックにより押し戻されたときに、電動シリンダ23のピストン25は後退できない。そのため、ノックバック中、摩擦材16へのブレーキロータ18の押し付けによる引き摺りが生じてしまう。
【0039】
一方、制動終了後に遮断弁21を開弁しておけば、キャリパピストン14の後退により押し出されたブレーキ液をリザーバタンク10に逃がせるため、ノックバック時の引き摺りの発生を抑制できる。しかしながら、そうした場合には、リザーバタンク10に戻されたブレーキ液の分、主流路12A、電動シリンダ23、及びホイールシリンダ11の内部に存在するブレーキ液の総量が減少してしまう。そのため、次回の制動時の応答性が低下してしまう。
【0040】
図7に、ノックバックが発生した際の本実施形態の電動制動装置の状態を示す。上記のように本実施形態の電動制動装置では、制動終了後に引き戻し制御を行うことで、電動シリンダ23のピストン25が後退方向Rへの移動が許容された状態となる。そのため、ノックバックによりホイールシリンダ11から押し出されたブレーキ液を、ピストン25が後退方向Rに移動して電動シリンダ23に吸収することで、引き摺りの発生を抑制できる。このときにも、主流路12A、電動シリンダ23、及びホイールシリンダ11の内部に存在するブレーキ液の総量は変化しないため、次回の制動時の応答性の低下も抑えられる。
【0041】
なお、引き戻し制御を行った場合には、行わなかった場合よりも、アクチュエータ27の動作位置が後退方向Rの位置となる。そのため、次回の制動開始まで、引き戻し制御を行ったままの状態を維持すると、制動開始に要するアクチュエータ27の前進駆動の量が多くなる。そしてその分、制動時の応答性が低下する。これに対して、本実施形態の電動制動装置では、制御部33は、ペダルストロークSTが既定値X1(<X2)以上となった時点で、先の引き戻し制御での引き戻し量と等しい量のアクチュエータ27の前進駆動を指令する。これにより、制動開始時のアクチュエータ27の動作位置が、引き戻し制御の終了時よりも前進方向Fの位置となる。そのため、引き戻し制御に伴う制動時の応答性の低下が抑えられる。
【0042】
以上のように制御部33は、電動シリンダ23による主流路12Aからのブレーキ液の吸引によりホイールシリンダ11内に発生しているブレーキ液圧Pが大気圧まで低下した後も、遮断弁21による主流路12Aの遮断状態を維持している。こうした本実施形態の電動制動装置では、制動毎に遮断弁21を動作させる必要がないため、遮断弁21が動作音を発生する頻度が低くなる。したがって、本実施形態の電動制動装置には、乗員に違和を感じさせる可能性がある遮断弁21の動作音の発生が抑える効果がある。
【0043】
(引き戻し制御のアクチュエータ27の引き戻し量について)
図8に、制動中のブレーキ液圧Pのピーク値がP1の場合、同ピーク値がP1よりも大きいP2の場合のそれぞれにおける、制動開始から制動終了までの期間のブレーキ液圧P、及びキャリパピストン14の前進量の推移を示す。
図8に示すように、制動が終了してホイールシリンダ11のブレーキ液圧Pが大気圧に低下しても、キャリパピストン14は制動開始時の位置まで戻り切らない。制動終了時のキャリパピストン14の位置は、制動開始時よりも前方の位置となる。
【0044】
以下の説明では、制動開始時と制動終了時とのキャリパピストン14の前進量の差をヒステリシスと記載する。キャリパピストン14の前進量のヒステリシスは、制動中のブレーキ液圧Pのピーク値が大きいほど、大きくなる。例えば
図8の場合、ピーク値がP2のときのヒステリシスH2は、ピーク値がP1のときのヒステリシスH1よりも大きくなる。そのため、引き戻し量を一定とした場合には、引き戻し制御後のアクチュエータ27の直動部材30の位置が、ピーク値が大きい場合には小さい場合よりも前進方向Fの位置となる。引き戻し制御後の直動部材30の位置が前進方向Fの位置となるほど、許容可能なキャリパピストン14の後退量が小さくなる。そして、許容可能なキャリパピストン14の後退量が減少することで、ノックバック時の引き摺り抑制効果が減じてしまう。
【0045】
これに対して、本実施形態の電動制動装置において制御部33は、制動力の発生中、電動シリンダ23により上昇したホイールシリンダ11のブレーキ液圧Pのピーク値を記憶している。そして、制御部33は、直前の制動力発生時のピーク値に基づいて引き戻し制御の引き戻し量を決定している。引き戻し量は、引き戻し制御におけるアクチュエータ27の後退方向Rへの駆動量を表している。
図3に示したように、制御部33は、ピーク値が大きいほど、大きい値を引き戻し量の値として決定している。そのため、直前の制動時のブレーキ液圧Pのピーク値に拘わらず、ノックバック時の引き摺り抑制効果を維持できる。
【0046】
(第2実施形態)
電動制動装置を具体化した第2実施形態を、
図9及び
図10を併せ参照して説明する。本実施形態の電動制動装置は、
図1に示す第1実施形態のものと同様の構成とされている。本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0047】
なお、以下の説明における「ねじストロークSN」は、アクチュエータ27の駆動量を表す。より詳細には、ねじストロークSNの値は、初期化処理においてピストン25を制御初期位置に駆動したときの直動部材30の位置からの、直動部材30の前進方向Fへの駆動量を表している。
【0048】
図9に、本実施形態の電動制動装置において制御部33が実行する制動制御ルーチンの処理の一部を示す。本実施形態の電動制動装置の制御部33は、
図2のステップS180において「YES」と判定された場合に、
図9の処理を開始する。すなわち、
図9のフローチャートは、本実施形態の電動制動装置において、制動要求の解除後にブレーキ液圧Pが大気圧まで低下したときより開始される処理を示している。なお、制御部33は、
図9の処理中であっても、ブレーキペダル19が踏まれて制動要求が発生した場合には、その時点で
図2のステップS130に処理を進める。
【0049】
図9の処理に移行すると、制御部33はステップS300において、現在のねじストロークSNの値を、解除時ストロークSN0の値として記録する。解除時ストロークSN0は、制動要求の解除後にブレーキ液圧Pが大気圧まで低下したときのねじストロークSNの値を表している。
【0050】
その後、制御部33は、次の条件(A)、条件(B)のいずれかが成立した場合に処理をステップS330に進める。条件(A)は、制動要求が解除されてからの経過時間である制動解除後時間が既定の時間TX以上であること(S310:YES)である。条件(B)は、アクセル・オン、すなわちアクセルペダルが踏まれていること(S320:YES)である。これら条件(A)、(B)の成立は、制動要求の解除後、ブレーキペダル19が操作される蓋然性が既定の閾値よりも低い状況になったことを表している。
【0051】
ステップS330に処理を進めると、制御部33は、調整制御を実行するか否かを判定する。具体的には、制御部33は、ステップS330において、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係が、予め設定した関係から外れているか否かを判定する。また、制御部33は、ステップS340において、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係が、電動シリンダ23の作動前後で既定値以上変化しているか否かを判定する。そして、制御部33は、上記関係が予め設定した関係から外れている場合(S330:YES)、又は電動シリンダ23の作動前後で上記関係が既定値以上変化した場合(S340:YES)に処理をステップS350に進めて調整制御を実行する。
【0052】
ステップS330の判定について説明する。本実施形態では、解除時ストロークSN0が既定値S1以上、かつ既定値S2以下の場合を、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置とが予め設定した関係にある場合としている。よって、ステップS330において制御部33は、解除時ストロークSN0が既定値S1未満の場合、又は既定値S2を超過する場合に、上記関係が予め設定した関係から外れていると判定する。既定値S1には、ピストン25が初期位置よりも前進方向F、かつ制御初期位置よりも後退方向Rに位置するときのねじストロークSNの値が設定されている。既定値S2は、ピストン25の最大前進位置から必要前進量を引き、その引いた値から余裕代を引いた値が設定されている。最大前進位置は、電動シリンダ23におけるピストン25の駆動範囲の前進方向Fにおける限界となる位置を表している。必要前進量は、ブレーキ液圧Pを大気圧から制動中の要求最大圧まで上昇するために必要な前進方向Fへのピストン25の駆動量を表している。
【0053】
次にステップS340の判定について説明する。
図9に記載の「SNZ」は、前回の制動時における解除時ストロークSN0の値である前回解除時ストロークを表している。ステップS340において制御部33は、前回の制動時と今回の制動時との解除時ストロークSN0の値の変化幅(=|SNZ-SN0|)を求めている。そして、制御部33は、その変化幅が既定値SX以上の場合に、電動シリンダ23の作動前後で上記関係が既定値以上変化していると判定している。
【0054】
調整制御を実行する場合の制御部33はまずステップS350において、遮断弁21を開く。続いて、制御部33は、ステップS360において、制御初期位置へのピストン25の駆動をアクチュエータ27に指令する。そして、制御部33は、制御初期位置へのピストン25の駆動が完了すると(S370:YES)、遮断弁21を閉じる(S380)。本実施形態では、ステップS350~S380における処理が、調整制御のための処理に対応している。
【0055】
調整制御を完了すると、制御部33は、ステップS390に処理を進める。調整処理を実行しない場合(S330:NO、かつS340:NO)の制御部33は、ステップS350~S380をスキップしてステップS390に処理を進める。ステップS390において、制御部33は、今回の制動時の解除時ストロークSN0の値を前回解除時ストロークSNZの値として記録する。そして、制御部33は、
図2のステップS190に処理を進めて、引き戻し制御を実行する。
【0056】
<第2実施形態の作用及び効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
図10に、本実施形態の電動制動装置における調整制御の実施態様の一例を示す。
図10(a)はブレーキ液圧Pの推移を、
図10(b)はねじストロークSNの推移を、
図10(c)は遮断弁21の開閉状態の推移を、それぞれ示している。
【0057】
図10では、時刻t1にブレーキ液圧Pが大気圧まで低下している。
図10の場合、この時点のねじストロークSN、すなわち解除時ストロークSN0は、既定値S2を超えている。この場合の制御部33は、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係が、予め定められた関係から外れていると判定する。一方、制御部33は、ブレーキ液圧Pが大気圧まで低下された時刻t1から既定の時間TXが経過した時刻t2に、ブレーキペダル19が操作される蓋然性が既定の閾値よりも低いと判定する。そして、制御部33は、その時刻t2に調整制御を開始する。具体的には、制御部33は、時刻t2に遮断弁21を開くとともに、制御初期位置へのピストン25の駆動をアクチュエータ27に指令する。この場合には、後退方向Rへのピストン25の駆動が指令される。
【0058】
本実施形態の場合、ピストン25が制御初期位置に位置するときの値を「0」とするように、ねじストロークSNが定義されている。よって、
図10では、ねじストロークSNの値が0となった時刻t3に、ピストン25が制御初期位置に到達している。制御部33は、この時刻t3に遮断弁21を閉じることで調整制御を終了する。遮断弁21が開かれたときの主流路12Aは、リザーバタンク10と連通している。そのため、調整制御の結果、ピストン25が制御初期位置に位置するときのブレーキ液圧Pが大気圧となるように、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係が調整される。
【0059】
制御部33は、調整制御を終了した時刻t3より、引き戻し制御を開始する。具体的には制御部33は、制動中のブレーキ液圧Pのピーク値に応じて設定された引き戻し量分の後退方向Rへの駆動をアクチュエータ27に指令する。
図10の場合、その後の時刻t4に引き戻し制御が完了している。
【0060】
図10では、解除時ストロークSN0が既定値S2を超えている場合について説明した。制御部33は、解除時ストロークSN0が既定値S1未満の場合も、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係が予め定められた関係から外れていると判定して調整制御を実施する。調整制御において、
図10では時刻t2にて後退方向Rへのピストン25の駆動を指令して、ピストン25を制御初期位置まで移動させていた。これに対して、解除時ストロークSN0が既定値S1未満の場合、時刻t2にて前進方向Fへのピストン25の駆動を指令して、ピストン25を制御初期位置まで移動する点が、
図10の場合とは異なる。その以外の動作は
図10と同様である。
【0061】
以上のように本実施形態の電動制動装置は、初期化処理において、ピストン25が制御初期位置に位置されたときのブレーキ液圧Pが大気圧となるように、電動シリンダ23、主流路12A、及びホイールシリンダ11内のブレーキ液量が調整される。そして、電動制動装置は、ピストン25を制御初期位置から前進方向Fに駆動することで、ホイールシリンダ11に供給されるブレーキ液圧Pを大気圧から上昇させている。
【0062】
こうした電動制動装置では、初期化処理の実施後に、摩擦材16、17の摩耗やブレーキ液の熱膨張等により、ピストン25の位置とブレーキ液圧Pとの関係が変化することがある。そしてその結果、ピストン25を初期位置まで後退させても、ブレーキ液圧Pが大気圧まで低下しなくなったり、最大前進位置までピストン25を前進させてもブレーキ液圧Pが要求最大圧に到達しなくなったり、する可能性がある。
【0063】
これに対して本実施形態の電動制動装置における制御部33は、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係を調整する調整制御を行う。制御部33は、ホイールシリンダ11内に発生しているブレーキ液圧Pが大気圧まで低下されており、かつ遮断弁21により主流路12Aがリザーバタンク10から遮断されている状態で調整制御を開始する。そして、制御部33は、遮断弁21を一時的に開弁している間に電動シリンダ23を駆動することで、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係を調整するように調整制御を実施する。具体的には、制御部33は、遮断弁21が開かれた状態でピストン25を制御初期位置まで駆動した後、遮断弁21を閉じることで、調整制御を実施する。こうした調整制御の実施後は、初期化処理の実施後と同様に、ピストン25が制御初期位置に位置するときのブレーキ液圧Pが大気圧となるように、電動シリンダ23、主流路12A、及びホイールシリンダ11内のブレーキ液量が調整される。
【0064】
なお、制御部33は、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係が、予め設定した関係から外れた際に調整制御を実施している。また、制御部33は、電動シリンダ23の作動前後で、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係が既定値以上変化した際に調整制御を実施している。こうした場合、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係のずれが大きくなって、制動力を適切に制御できない状態に近づいた場合に限定して調整制御が実施される。そのため、調整制御の実施頻度を抑えて、同制御の実施に伴う電力消費を低減できる。
【0065】
調整制御の実行中に、ブレーキペダル19が操作される場合がある。ブレーキペダル19が操作されると、マスタシリンダ20が作動して、主流路12Aのブレーキ液量が変化する。そのため、調整制御の実行中にブレーキペダル19が操作されると、同制御によるブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係の調整の精度が低下する。これに対して本実施形態の電動制動装置における制御部33は、ブレーキペダル19が操作される蓋然性が既定の閾値よりも低い場合に調整制御を実行している。より詳しくは、制御部33は、制動要求の解除後、既定の時間TX以上が経過した場合、又はアクセルペダルが踏まれている場合に、ブレーキペダル19が操作される蓋然性が既定の閾値よりも低いと判定している。そのため、調整制御によるブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係の調整の精度が向上する。
【0066】
(解除時ストロークSN0について)
図9のステップS330及びステップS340では、解除時ストロークSN0を用いて調整制御を実行するか否かの判定を行っている。解除時ストロークSN0は、制動要求の解除後、ブレーキ液圧Pが大気圧まで低下されたときのピストン25の位置に対応している。
【0067】
一方、上述のように、制動前後のキャリパピストン14の位置にはヒステリシスが存在している。これと同様に、制動前後の電動シリンダ23のピストン25の位置にもヒステリシスが発生する。そして、それらのヒステリシスは、制動中のブレーキ液圧Pのピーク値が大きいほど、大きくなる。こうしたヒステリシスを考慮することで、ステップS330及びステップS340の判定精度を向上できる。具体的には、
図9のステップS300において、下記の態様で解除時ストロークSN0の値を設定することで、上記判定精度の向上が可能となる。ステップS300において制御部33は、制動中のブレーキ液圧Pのピーク値に基づき、制動前後の電動シリンダ23のピストン25の位置のヒステリシスを算出する。そして、制御部33は、現在のねじストロークSNの値からヒステリシスを引いた値を、解除時ストロークSN0の値として設定する。
【0068】
(ブレーキ液の粘度の影響について)
調整制御では、遮断弁21を開いて主流路12A、リザーバタンク10間のブレーキ液の給排を許容した状態でピストン25を駆動することで、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係を調整している。こうした調整制御での遮断弁21を介した主流路12A、リザーバタンク10間のブレーキ液の給排がスムーズに行われる場合には、調整制御の開始から終了までブレーキ液圧Pはほぼ大気圧に維持される。ただし、ブレーキ液の粘度が高い場合には、調整制御中の遮断弁21を介した主流路12A、リザーバタンク10間のブレーキ液の給排がスムーズに行われない。そのため、ピストン25が制御初期位置に到達した時点では、ブレーキ液圧Pが大気圧から乖離している場合がある。ブレーキ液圧Pが大気圧から乖離した状態で遮断弁21を閉じて調整制御を終了すると、上記関係が適切に調整されなくなる。そのため、ブレーキ液の粘度がある程度よりも高い場合には、制御初期値へのピストン25の駆動完了後も、遮断弁21の開弁を保持することが望ましい。そして、そうした遮断弁21の開弁保持の時間は、ブレーキ液の粘度が高いほど、長くすることが望ましい。
【0069】
(他の実施形態)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0070】
・第2実施形態では、制動要求の解除後、既定の時間TX以上が経過した場合、又はアクセルペダルが踏まれている場合に、ブレーキペダル19が操作される蓋然性が既定の閾値よりも低いと判定していた。こうした判定の条件は、適宜に変更してもよい。また、ブレーキペダル19が操作される蓋然性の高低に拘わらず、調整制御を実行してもよい。
【0071】
・ブレーキ液圧Pが大気圧まで低下されており、かつ遮断弁21により主流路12Aの遮断状態が維持されている場合において、調整制御、引き戻し制御の順に実行するのであれば、任意のタイミングから調整制御の実行を開始してもよい。
【0072】
・
図9のステップS330では、解除時ストロークSN0が既定値S1未満の場合、又は既定値S2を超過する場合に、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係が、予め設定した関係から外れていると判定していた。また、
図9のステップS340では、前回の制動時と今回の制動時との解除時ストロークSN0の値の変化幅(=|SNZ-SN0|)が既定値SX以上であるか否かを判定している。そして、これにより、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係が、電動シリンダ23の作動前後で既定値以上変化しているか否かを判定している。これらの判定を、上記以外の態様で行うようにしてもよい。
【0073】
・第2実施形態では、ブレーキ液圧Pとピストン25の位置との関係が、予め設定した関係から外れた場合、又は同関係が電動シリンダ23の作動前後で既定値以上変化した場合に調整制御を実行していた。それらのいずれかの場合にのみ、調整制御を実行するようにしてもよい。また、それらのいずれとも関わりなく、調整制御を実行するようにしてもよい。
【0074】
・第2実施形態の電動制動装置を、引き戻し制御を実行しない構成としてもよい。
・上記実施形態では、制動要求が解除されたときの電動シリンダ23のアクチュエータ27の後退駆動を、ブレーキ液圧Pが大気圧に低下したときに停止していた。このときの後退駆動の停止時期を、ブレーキ液圧P以外のパラメータに基づき決定するようにしてもよい。ブレーキ液圧P以外のパラメータの例としては、電動シリンダ23のピストン25の進み量が挙げられる。例えば、制動要求が解除されたときに制御部33が、制動開始時の位置からのピストン25の進み量が0となるまでアクチュエータ27の後退駆動を行わせるようにしてもよい。ピストン25の進み量は、シリンダ24内でのピストン25の位置を計測する位置センサを電動シリンダ23に設置したり、制動開始後のアクチュエータ27の駆動量から計算したり、することで求められる。
【0075】
・上記実施形態において制御部33は、制動開始に先立って、前回の引き戻し制御での引き戻し量分のアクチュエータ27の前進駆動を指令していたが、同指令を実施しないようにしてもよい。
【0076】
・上記実施形態では、引き戻し制御での引き戻し量を、直前の制動力発生時に電動シリンダ23により上昇したホイールシリンダ11のブレーキ液圧Pのピーク値に基づき決定していた。引き戻し量を、ピーク値以外のパラメータに基づいて決定したり、固定した値としたり、してもよい。ホイールシリンダ11のブレーキ液圧Pのピーク値以外のパラメータとしては、ホイールシリンダ11の進み量が挙げられる。ホイールシリンダ11の進み量は、キャリパピストン14の位置を計測する位置センサをホイールシリンダ11に設置したり、主流路12Aに流速計を設置してその流速の計測値から推定したり、することで求められる。
【0077】
・
図2の制動制御ルーチンでは、ステップS210にてピーク値を0にリセットしていた。ピーク値を0にリセットするタイミングは、ステップS210に限られない。例えば、キャリパピストン14の位置が戻されたと推測されることをトリガにピーク値をリセットしてもよい。トリガの例としては、タイヤが回転したとき、タイヤに横力が発生したとき、などが挙げられる。ブレーキロータ18は正確に均一面でないため、ブレーキロータ18の回転時に摩擦材16経由でキャリパピストン14を押し戻す。そのため、タイヤが回転したときにキャリパピストン14の位置が戻されたと推測できる。
【0078】
・上記実施形態では、引き戻し制御でのアクチュエータ27の後退方向Rへの駆動速度を固定していたが、駆動速度を可変とするようにしてもよい。その場合にも、アクチュエータ27の動作音が、乗員に違和を感じさせない大きさに留まるように、駆動速度を一定の速度以下に制限することが望ましい。
【0079】
・制動終了後、引き戻し制御を開始する前に一時的に遮断弁21を開弁してもよい。その場合にも、遮断弁21を閉弁状態で電動シリンダ23を待機させ、制動終了まで遮断弁21の閉弁を維持すれば、制動開始時の応答性を確保できる。
【0080】
・制動終了後に引き戻し制御を実施しないようにしてもよい。
・制御部33は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアなどの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。専用のハードウェアとしては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0081】
(付記事項)
[付記1]前記制御部は、前記引き戻し制御において前記主流路から前記ブレーキ液を吸引する方向への前記電動シリンダの駆動量を、直前の制動時のブレーキ液圧のピーク値が大きい場合には、同ピーク値が小さい場合よりも大きくする請求項2又は3に記載の電動制動装置。
【0082】
[付記2]前記電動シリンダは、前記アクチュエータによる回転部材の回転を直動部材の直動に変換する直動変換機構と、前記直動部材の直動に応じてシリンダ内を直動するピストンと、前記シリンダと前記ピストンとにより区画された液室と、を備えるとともに、前記ピストンが直動に応じて、前記液室に導入されたブレーキ液に押圧を加えることで液圧を発生するように構成されている請求項2~請求項4、及び付記1のいずれかに記載の電動制動装置。
【符号の説明】
【0083】
10 リザーバタンク
11 ホイールシリンダ
12 接続路
12A 主流路
13 キャリパ
14 キャリパピストン
15 シール部材
16、17 摩擦材
18 ブレーキロータ
19 ブレーキペダル
20 マスタシリンダ
21 遮断弁
22 ストロークシミュレータ
23 電動シリンダ
24 シリンダ
25 ピストン
26 液室
27 アクチュエータ
28 直動変換機構
29 回転部材
30 直動部材
31 スプリング
32 ストッパ
33 制御部
34 ストロークセンサ
35 液圧センサ