(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171300
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】光束制御部材および金型
(51)【国際特許分類】
G02B 3/08 20060101AFI20241204BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20241204BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20241204BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
G02B3/08
B29C33/42
G02B3/00 Z
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023193673
(22)【出願日】2023-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2023087773
(32)【優先日】2023-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井澤 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 悠生
(72)【発明者】
【氏名】大島 智
【テーマコード(参考)】
2H149
4F202
【Fターム(参考)】
2H149AA24
2H149AB01
2H149DA02
2H149DA12
2H149DB22
2H149FA05Y
2H149FA08Y
2H149FA10Y
2H149FA13Y
2H149FD01
2H149FD46
4F202AG05
4F202AG26
4F202AH75
4F202AH77
4F202AR12
4F202AR13
4F202CA09
4F202CA11
4F202CA30
4F202CB01
4F202CK12
(57)【要約】
【課題】複数の位相制御面を含むボルテックス面を有する光束制御部材であって、リング状の強度分布の光を適切に形成できる光束制御部材を提供すること。
【解決手段】本発明の光束制御部材は、中心軸を中心とする螺旋形状を有し、かつ前記中心軸を中心として放射状に分割された複数の位相制御面と、前記複数の位相制御面のうち隣接する2つの位相制御面の端部同士をそれぞれ接続する複数の段差面と、を含むボルテックス面を有する。前記複数の段差面の上辺は、前記ボルテックス面の中心部で交わっている。側面視において、前記ボルテックス面の中心部から外周部に向かう曲線は、前記ボルテックス面の前記中心部に変曲点を有する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心とする螺旋形状を有し、かつ前記中心軸を中心として放射状に分割された複数の位相制御面と、前記複数の位相制御面のうち隣接する2つの位相制御面の端部同士をそれぞれ接続する複数の段差面と、を含むボルテックス面を有し、
前記複数の段差面の上辺は、前記ボルテックス面の中心部で交わっており、
側面視において、前記ボルテックス面の中心部から外周部に向かう曲線は、前記ボルテックス面の前記中心部に変曲点を有する、
光束制御部材。
【請求項2】
前記複数の段差面のそれぞれの上辺の延長線と前記中心軸との最短距離、および前記複数の段差面のそれぞれの下辺の延長線と前記中心軸との最短距離は、いずれも5μm以下である、請求項1に記載の光束制御部材。
【請求項3】
前記複数の位相制御面の数は、前記ボルテックス面のトポロジカルチャージ数と同数である、請求項1に記載の光束制御部材。
【請求項4】
前記複数の位相制御面は、同じ形状を有する、請求項1に記載の光束制御部材。
【請求項5】
前記複数の位相制御面は、同じ高さ範囲に配置されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の光束制御部材。
【請求項6】
光束制御部材を成形するための金型であって、
前記光束制御部材は、中心軸を中心とする螺旋形状を有し、かつ前記中心軸を中心として放射状に分割された複数の位相制御面と、前記複数の位相制御面のうち隣接する2つの位相制御面の端部同士をそれぞれ接続する複数の段差面と、を含むボルテックス面を有し、
前記複数の段差面の上辺は、前記ボルテックス面の中心部で交わっており、
側面視において、前記ボルテックス面の中心部から外周部に向かう曲線は、前記ボルテックス面の前記中心部に変曲点を有する、
金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光束制御部材、および光束制御部材を成形するための金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量のデータを、光通信を用いて高速で送受信するために、マルチモード光ファイバを備えた通信装置および通信システムが使用されている。マルチモード光ファイバは、光が通るコアの径がシングルモード光ファイバよりも大きいため、より多くの光を通すことができる。このようなマルチモード光ファイバを用いた光通信では、光ファイバの端面で反射されて光源に向かって光が戻る後方反射が問題となる。光源に反射光が戻ると、光源の出力が変動してしまう戻り光雑音と呼ばれる現象が発生してしまうからである。
【0003】
この問題を改善するための手段として、ボルテックスレンズや螺旋位相板などと称される光学素子を用いることが知られている(例えば特許文献1)。ボルテックスレンズ(螺旋位相板)とは、螺旋形状の位相制御面と、位相制御面の端部を接続する段差面とを含むボルテックス面を有する光学素子(光束制御部材)である。ボルテックスレンズに、中心部分の強度が高いガウス分布を有する光(ガウシアンビーム)を通過させると、中心部分の強度が顕著に低下した、リング状の強度分布を有する光(ボルテックスビーム)に変換される。特許文献1には、マルチモード光ファイバに入射させる光を、ボルテックスレンズを用いて生成されたリング状の強度分布の光とすることで、後方反射された光が光源に到達しにくくなることが記載されている。
【0004】
非特許文献1および非特許文献2には、ボルテックスレンズと同様の機能を有する螺旋状位相マスクを用いた光通信が開示されている。非特許文献1および非特許文献2では、空間光変調器を用いて螺旋状位相マスクを実現している。非特許文献1では、トポロジカルチャージ数lが+4、+8、-8、+16の位相マスクを用いている。非特許文献2では、トポロジカルチャージ数lが1、2、3、4の位相マスクを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jian Wang, et al., "Terabit free-space data transmission employing orbital angular momentum multiplexing", Nature Photonics, Vol. 6, pp. 488-496.
【非特許文献2】Zikun Wang, "Efficient Recognition of the Propagated OrbitalAngular Momentum Modes in Turbulences With the Convolutional Neural Network", IEEE Photonics Journal, Vol. 11, 7903614.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記非特許文献1および非特許文献2に開示されているように、様々なトポロジカルチャージ数の位相マスクが知られている。そこで、本発明者は、様々なトポロジカルチャージ数のボルテックスレンズを製造することを試みた。
図1A~Cは、トポロジカルチャージ数lがそれぞれ異なる位相パターンの例を示す図であり、
図1D~Fは、
図1A~Cに示される位相パターンを有する、その中心部がつぶれておらず、リング状の適切な強度分布の光を形成できるボルテックス面の形状を示す図である。具体的には、
図1Dは、
図1Aに示される位相パターン(l=1)を有するボルテックス面の形状を示す図であり、
図1Eは、
図1Bに示される位相パターン(l=2)を有するボルテックス面の形状を示す図であり、
図1Fは、
図1Cに示される位相パターン(l=4)を有するボルテックス面の形状を示す図である。
【0008】
レンズなどの光学素子を金型を用いて製造する場合、金型の光学面を成形する面は、切削加工で形成されるのが一般的である。そこで、本発明者は、ボルテックスレンズを成形するための金型のボルテックス面を成形する面(以下「ボルテックス面成形面」と称する)を切削加工で形成した。このようにして得られた金型を用いて上記
図1E、Fに示されるボルテックス面(l≧2)を有するボルテックスレンズを製造したところ、ボルテックス面の中心部がつぶれてしまった。このようなボルテックスレンズでは、意図しない中心部の形状に起因して、リング状の強度分布の光を適切に形成することができなかった。
【0009】
本発明の目的は、複数の位相制御面を含むボルテックス面を有する光束制御部材であって、リング状の強度分布の光を適切に形成できる光束制御部材を提供することである。また、本発明の別の目的は、上記光束制御部材を成形するための金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の光束制御部材、および光束制御部材を成形するための金型に関する。
【0011】
[1]中心軸を中心とする螺旋形状を有し、かつ前記中心軸を中心として放射状に分割された複数の位相制御面と、前記複数の位相制御面のうち隣接する2つの位相制御面の端部同士をそれぞれ接続する複数の段差面と、を含むボルテックス面を有し、前記複数の段差面の上辺は、前記ボルテックス面の中心部で交わっており、側面視において、前記ボルテックス面の中心部から外周部に向かう曲線は、前記ボルテックス面の前記中心部に変曲点を有する、光束制御部材。
[2]前記複数の段差面のそれぞれの上辺の延長線と前記中心軸との最短距離、および前記複数の段差面のそれぞれの下辺の延長線と前記中心軸との最短距離は、いずれも5μm以下である、[1]に記載の光束制御部材。
[3]前記複数の位相制御面の数は、前記ボルテックス面のトポロジカルチャージ数と同数である、[1]または[2]に記載の光束制御部材。
[4]前記複数の位相制御面は、同じ形状を有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の光束制御部材。
[5]前記複数の位相制御面は、同じ高さ範囲に配置されている、[1]~[4]のいずれか一項に記載の光束制御部材。
[6]光束制御部材を成形するための金型であって、前記光束制御部材は、中心軸を中心とする螺旋形状を有し、かつ前記中心軸を中心として放射状に分割された複数の位相制御面と、前記複数の位相制御面のうち隣接する2つの位相制御面の端部同士をそれぞれ接続する複数の段差面と、を含むボルテックス面を有し、前記複数の段差面の上辺は、前記ボルテックス面の中心部で交わっており、側面視において、前記ボルテックス面の中心部から外周部に向かう曲線は、前記ボルテックス面の前記中心部に変曲点を有する、金型。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リング状の強度分布の光を適切に形成できる、複数の位相制御面を含むボルテックス面を有する光束制御部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1A~Cは、トポロジカルチャージ数が異なる位相パターンの例を示す図であり、
図1D~Fは、
図1A~Cに示される位相パターンを有するボルテックス面の形状を示す図である。
【
図2】実施の形態に係る金型の構成を示す断面図である。
【
図4】
図4Aは、従来の切削工具を用いて金型を製造する様子を示す斜視図であり、
図4Bは、実施の形態に係る切削工具を用いて金型を製造する様子を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図1Dに示されるボルテックス面を有するボルテックスレンズの試作品におけるボルテックス面の中心付近の写真である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る金型(ボルテックス面成形面)の写真である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る金型(ボルテックス面成形面)の写真である。
【
図8】
図8は、実施の形態に係る光束制御部材の製造方法のフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る光束制御部材の斜視図である。
【
図10】
図10Aは、実施の形態に係る光束制御部材の平面図であり、
図10Bは、実施の形態に係る光束制御部材の正面図、右側面図、背面図および左側面図であり、
図10Cは、
図10AのB-B線およびC-C線の断面図である。
【
図11】
図11は、実施の形態に係る光束制御部材におけるボルテックス面の中心付近の写真である。
【
図12】
図12Aは、中心部がつぶれたボルテックス面を有する光束制御部材から出射された光の強度分布を示す図であり、
図12Bは、実施の形態に係る光束制御部材から出射された光の強度分布を示す図である。
【
図13】
図13A、Bは、トポロジカルチャージ数lが4の光束制御部材のボルテックス面を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(金型およびその製造方法)
まず、本発明の一実施の形態に係る金型100について説明する。
図2に示されるように、金型100は、本発明の一実施の形態に係る光束制御部材200を成形するために用いられる。
【0016】
図2および
図3A、Bは、金型100の構成を示す図である。
図2に示されるように、金型100は、上型101および下型102を有する。上型101および下型102によって、キャビティ120およびゲート121が形成される。
図3A、Bでは、金型100のうち、ボルテックス面成形面110を含む駒(下型102)のみを示している。
図3Aは、金型100(下型102)の底面図であり、
図3Bは、
図3Aに示すA-A線の断面図である。
図3A、Bでは、ゲート121を省略している。
【0017】
図3A、Bに示されるように、金型100は、ボルテックス面成形面110およびキャビティ120を有する。
【0018】
ボルテックス面成形面110は、光束制御部材200のボルテックス面210を成形する面である。この後説明するように、光束制御部材200のボルテックス面(光渦生成面とも称される)210は、光束制御部材200の中心軸CA2を中心とする螺旋形状を有し、かつ中心軸CA2を中心として放射状に分割された複数の位相制御面211と、複数の位相制御面211のうち隣接する2つの位相制御面211の端部同士をそれぞれ接続する複数の段差面212とを含む(
図9参照)。ボルテックス面成形面110は、ボルテックス面210に相補的な形状を有しており、金型100の中心軸CA1を中心とする螺旋形状を有し、かつ中心軸CA1を中心として放射状に分割された複数の位相制御面成形面111と、複数の位相制御面成形面111のうち隣接する2つの位相制御面成形面111の端部同士をそれぞれ接続する複数の段差面成形面112とを含む。なお、本明細書において「放射状に分割する」とは、平面視したときに複数の分割線が一点から放射状に延在するように対象を分割することを意味する。分割することで生成された領域は、扇形状である。
【0019】
複数の位相制御面成形面111は、それぞれ光束制御部材200の位相制御面211を成形するための面である。光束制御部材200の複数の位相制御面211は、それぞれ光束制御部材200の中心軸CA2を中心とする螺旋形状を有するため(
図9参照)、金型100の複数の位相制御面成形面111は、それぞれ金型100の中心軸CA1を中心とする螺旋形状を有する。複数の位相制御面成形面111の数は、光束制御部材200の複数の位相制御面211の数と同じである。
図3Aに示す例では、ボルテックス面成形面110は、4つの位相制御面成形面111を含んでいる。これらの複数(4つ)の位相制御面成形面111は、金型100の中心軸CA1を中心として回転対称(4回対称)となるように配置されている。したがって、複数(4つ)の位相制御面成形面111は、同じ形状を有し、かつ同じ高さ範囲に配置されている。ここで、金型100における高さとは、中心軸CA1に沿う方向における位置を意味する。
【0020】
複数の段差面成形面112は、それぞれ光束制御部材200の段差面212を成形するための面である。光束制御部材200の複数の段差面212は、隣接する2つの位相制御面211の端部同士をそれぞれ接続するため(
図9参照)、金型100の複数の段差面成形面112は、隣接する2つの位相制御面成形面111の端部同士をそれぞれ接続する。また、光束制御部材200の複数の段差面212は、それぞれ光束制御部材200の中心軸CA2から外縁まで径方向に延在する平面であるため(
図7参照)、金型100の複数の段差面成形面112は、それぞれ金型100の中心軸CA1から外縁まで径方向に延在する平面である。複数の段差面成形面112の数は、光束制御部材200の複数の位相制御面211の数および金型100の複数の位相制御面成形面111の数と同じである。本実施の形態に示す例では、ボルテックス面成形面110は、4つの段差面成形面112を含んでいる。これらの複数(4つ)の段差面成形面112は、金型100の中心軸CA1を中心として回転対称(4回対称)となるように配置されている。したがって、複数(4つ)の段差面成形面112は、同じ形状を有し、かつ同じ高さ範囲に配置されている。なお、以下の説明では、段差面成形面112の辺のうち、光束制御部材200の段差面212の上辺に対応する辺を段差面成形面112の上辺とし、光束制御部材200の段差面212の下辺に対応する辺を段差面成形面112の下辺とする。光束制御部材200は、光源からの光を入射させるか、または内部を進行した光を外部に出射させるための第1面220と、第1面220で入射した光を外部に出射させるか、光を入射させるためのボルテックス面(第2面)210とを有する(
図10B、C参照)。本明細書では、光束制御部材200の第1面220側(光源側)を下方向とし、光束制御部材200のボルテックス面210側を上方向とする(
図10B、C参照)。したがって、光束制御部材200の段差面212の上辺は、光束制御部材200の段差面212の下辺よりも、第1面220(光源側の面)から離れている。
【0021】
前述の
図1Fは、好ましいボルテックス面210の例を示している。
図1Fに示されるように、周方向において2つの段差面212間に位置する位相制御面211は、なだらかに連続する面であることが好ましく、鏡面であることがより好ましい。
【0022】
従来の一般的な加工方法と同様に、金型100のボルテックス面成形面110を同心円状に切削加工を行うことで形成すると、円環状の加工痕が形成されてしまう。その結果、光束制御部材200のボルテックス面210にも、円環状の加工痕が形成されてしまう。この加工痕は、ボルテックス面210の外周部だけでなく中心部にも形成されてしまう。このようにボルテックス面210の中心部に加工痕が形成されてしまった場合、複数の段差面212のそれぞれの上辺は、ボルテックス面210の中心部で交わらない。このようなボルテックス面210の中心部に加工痕がある光束制御部材200では、意図しない加工痕に起因して、リング状の強度分布の光を適切に形成することができない。
【0023】
そこで、本実施の形態では、金型100のボルテックス面成形面110を放射状に切削加工を行うことで形成する。この場合、
図3Aに示すように、ボルテックス面成形面110の外周部では、放射状の加工溝(加工痕)113がわずかに形成されることがある。これに対し、ボルテックス面成形面110の中心部114では、加工領域が重なって同じ領域が繰り返し加工されるため、加工溝113が消失する。したがって、ボルテックス面成形面110の中心部114は、略鏡面となる。また、複数の段差面成形面112の上辺は、ボルテックス面成形面110の中心部114で交わる。このため、光束制御部材200のボルテックス面210の中心部214も略鏡面となるとともに、複数の段差面212の上辺がボルテックス面210の中心部で交わり、リング状の強度分布の光を適切に形成することができる。なお、本明細書において、ボルテックス面成形面110の中心部114とは、ボルテックス面成形面110(金型100)の中心軸CA1から、ボルテックス面成形面110の半径の1/10の距離までの範囲を意味する。同様に、本明細書において、ボルテックス面210の中心部214とは、ボルテックス面210(光束制御部材200)の中心軸CA2から、ボルテックス面210の半径の1/10の距離までの範囲を意味する。
【0024】
また、金型100のボルテックス面成形面110を放射状に切削加工を行う場合に、従来の一般的な切削工具(バイト)130を用いると、
図4Aに示されるように、段差面成形面112の上端(段差面成形面112の上辺に対応する部分)において、位相制御面成形面111と段差面成形面112との境界が曲面(R面)112Rとなってしまう。このため、段差面成形面112の上辺の位置と段差面成形面112の下辺の位置とが水平方向において大きくずれてしまい、段差面成形面112の上辺および下辺の少なくとも一方は、金型100の中心軸CA1から離れてしまう。その結果、従来の一般的な切削工具130で形成された金型100を用いて光束制御部材200を製造すると、
図5に示されるように、光束制御部材200の段差面212の上辺の延長線と光束制御部材200の中心軸CA2との最短距離、および光束制御部材200の段差面212の下辺の延長線と光束制御部材200の中心軸CA2との最短距離の少なくとも一方は、7μm以上となる。すなわち、設計上は中心軸CA2から放射状に延在するはずの段差面212が、中心軸CA2から離れた位置に形成されてしまう。このような光束制御部材200では、意図しない段差面212の形状に起因して、リング状の強度分布の光を適切に形成することができない。なお、
図5では、段差面212と中心軸CA2との関係を見やすくするために、段差面212が1つのボルテックス面210を示している。
【0025】
そこで、本実施の形態では、金型100のボルテックス面成形面110を放射状に切削加工を行う場合に、両側に曲面形状(R形状)の刃先を有する従来の切削工具130の代わりに、一方の側に垂直形状の刃先を有する本実施の形態に係る切削工具を用いることとした。このようにすることで、
図4Bに示されるように、段差面成形面112の上端において、位相制御面成形面111と段差面成形面112との境界が曲面(R面)112Rとなってしまうことを抑制できる。このため、段差面成形面112の上辺の位置と段差面成形面112の下辺の位置とが水平方向においてずれることが抑制され、段差面成形面112の上辺および下辺が、金型100の中心軸CA1から離れてしまうことも抑制される。その結果、複数の段差面成形面112のそれぞれの上辺の延長線と金型100の中心軸CA1との最短距離、および複数の段差面成形面112のそれぞれの下辺の延長線と金型100の中心軸CA1との最短距離は、いずれも0μm以上5μm以下となる。本実施の形態に係る切削工具で形成された金型100を用いて光束制御部材200を製造すると、光束制御部材200の複数の段差面212のそれぞれの上辺の延長線と光束制御部材200の中心軸CA2との最短距離、および光束制御部材200の複数の段差面212のそれぞれの下辺の延長線と光束制御部材200の中心軸CA2との最短距離は、いずれも0μm以上5μm以下となる(
図11参照)。すなわち、複数の段差面212が、設計通り中心軸CA2から放射状に延在するように形成される。
【0026】
本実施の形態に係る金型100は、例えば、所定の点を中心として金型母材を放射状に切削してボルテックス面成形面110を形成することで製造されうる。このとき、上記の本実施の形態に係る切削工具を用いることが好ましい。
【0027】
金型母材を構成する材料は、特に限定されず、公知の材料から適宜選択されうる。金型母材を構成する材料の例には、鋼材、亜鉛合金、アルミニウム合金が含まれる。耐久性の観点からは、金型母材は鋼材を含むことが好ましい。
【0028】
たとえば、切削加工によりボルテックス面成形面110を形成する際には、金型母材の一主面において、螺旋の中心となる点を定め、上記中心に向けて放射状に切削すればよい。逆に、金型母材の一主面において、螺旋の中心となる点を定め、上記中心から放射状に切削してもよい。いずれの場合であっても、螺旋の中心に向けて放射状に配置された複数の溝113がボルテックス面成形面110の外周部に形成されることがある。
【0029】
位相制御面成形面111を形成する際には、1つの溝113に対して、螺旋の回転方向において隣接する溝の深さがより深くまたはより浅くなるように、工具の先端の高さを変えて切削する。たとえば、平面視したときに、隣接する溝どうしのなす角が0.2°となるように、時計回りの方向に順に溝を切削する場合、形成された1つの溝に対して、時計回りに0.2°進んだ位置に上記溝の深さよりも深い溝または浅い溝が形成されるように切削する。これを連続して所定の角度範囲(例えば90°)行うことで、位相制御面成形面111が金型母材の主面に形成される。螺旋の回転方向は任意で決定することができ、上記回転方向に合わせて工具の先端の高さを変えて切削すればよい。
【0030】
段差面成形面112を形成する際には、垂直形状の刃先が段差面成形面112側に位置するように上記の本実施の形態に係る切削工具を配置して切削する(
図4B参照)。これにより段差面成形面112が金型母材の主面に形成される。なお、段差面成形面112は、中心軸CA1に平行であってもよいが、中心軸CA1に対してわずかに傾斜していてもよい(抜きテーパー)。
【0031】
このようにして形成されたボルテックス面成形面110では、複数の位相制御面成形面111は、それぞれ、凹曲面であり、かつ側面透過視において、ボルテックス面成形面110の中心部114から外周部に向かう曲線が、ボルテックス面成形面110の中心部114に変曲点を有する。すなわち、中心軸CA1を含む断面において、位相制御面成形面111の断面である曲線は、ボルテックス面成形面110の中心部114に変曲点を有する。より具体的には、中心軸CA1を含む断面において、ボルテックス面成形面110の中心部114以外の領域では、位相制御面成形面111は、中心軸CA1に近づくほど傾きが小さくなる(中心軸CA1に対して垂直に近くなる)が、ボルテックス面成形面110の中心部114では、位相制御面成形面111は、中心軸CA1に近づくほど傾きが大きくなる(中心軸CA1に対する角度が小さくなる)部分を含む。ただし、ボルテックス面成形面110の中心部114であっても、段差面成形面112のごく近傍においてはこの限りではない。したがって、
図3Bでは、位相制御面成形面111が変曲していることは示されていない。
【0032】
図6は、上記のように製造された金型100(ボルテックス面成形面110)の写真である。
図7は、ボルテックス面成形面110の中心部を拡大(1000倍)した写真である。上記のように、金型100のボルテックス面成形面110を放射状に切削加工して形成することで、ボルテックス面成形面110の中心部114を略鏡面とすることができる。また、ボルテックス面成形面110の中心部114に連続して切削工具を押し当てることなくボルテックス面成形面110を加工するため、ボルテックス面成形面110の中心部に大きな加工痕(つぶれ)が形成されるのを抑制することができる。さらに、一方の側に垂直形状の刃先を有する本実施の形態の切削工具を用いることで、段差面成形面112の上端において、位相制御面成形面111と段差面成形面112との境界が曲面(R面)112Rとなってしまうことを抑制できる。したがって、複数の段差面成形面112のそれぞれの上辺は、ボルテックス面成形面110の中心部114で交わる。また、複数の位相制御面成形面111は、それぞれ、凹曲面であり、かつ側面透過視において、ボルテックス面成形面110の中心部114から外周部に向かう曲線が、ボルテックス面成形面110の中心部114に変曲点を有する。さらに、複数の段差面成形面112のそれぞれの上辺の延長線と金型100の中心軸CA1との最短距離、および複数の段差面成形面112のそれぞれの下辺の延長線と金型100の中心軸CA1との最短距離は、いずれも0μm以上5μm以下となる。
【0033】
(光束制御部材およびその製造方法)
図8は、本実施の形態に係る光束制御部材200の製造方法のフローチャートである。
【0034】
図8に示すように、本実施の形態に係る光束制御部材200は、例えば、(1)上記の金型100のキャビティ120に成形材料を注入する工程(工程S10)と、(2)キャビティ120内の成形材料を固化させる工程(工程S20)と、(3)固化させた成形材料を金型100から離型して取り出す工程(工程S30)と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0035】
まず、金型100のキャビティ120に成形材料を注入する(工程S10)。たとえば、上記の金型100を固定側金型として使用し、固定側金型と対向するように配置された可動側金型と型閉めした後、成形材料注入口から成形材料を注入する。
【0036】
本実施の形態では、成形材料として樹脂材料を用いることができる。樹脂材料の種類は、使用する光に対して透光性を有する材料から適宜選択されうる。樹脂材料の例には、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂(EP)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、環状オレフィン・コポリマー(COC)が含まれる。
【0037】
次いで、キャビティ120に注入された成形材料を固化させる(工程S20)。たとえば、キャビティ120に熱可塑性樹脂を注入した場合は、熱可塑性樹脂を冷却して固化させればよい。また、キャビティ120に熱硬化性樹脂を注入した場合は、キャビティ120内の樹脂を加熱して固化(硬化)させればよい。
【0038】
最後に、工程S20で固化された成形材料を、上記金型100から離型して取り出す(工程S30)。
【0039】
以上の手順により、金型100のボルテックス面成形面110の形状を反転させたボルテックス面210を有する光束制御部材200を製造することができる。以下、光束制御部材200について説明する。
【0040】
図9および
図10A~Cは、本実施の形態に係る光束制御部材200を示す図である。
図9は、光束制御部材200の斜視図であり、
図10Aは、光束制御部材200の平面図であり、
図10Bは、光束制御部材200の正面図、右側面図、背面図および左側面図であり、
図10Cは、
図10AのB-B線およびC-C線の断面図である。
【0041】
図9および
図10A~Cに示されるように、光束制御部材200は、ボルテックス面210および第1面220を有する。
【0042】
ボルテックス面(光渦生成面)210は、中心軸CA2を中心とする螺旋形状を有し、かつ中心軸CA2を中心として放射状に分割された複数の位相制御面211と、複数の位相制御面211のうち隣接する2つの位相制御面211の端部同士をそれぞれ接続する複数の段差面212とを含む。ボルテックス面210を通過する光は、円周方向において位相差を持ち、かつリング状の強度分布を有する光に変換される(
図12B参照)。本実施の形態では、
図10Aに示されるように、ボルテックス面210(位相制御面211)は、金型100の複数の加工溝113に対応する複数の凸条213も含む。なお、
図9および
図10Bでは、複数の凸条213を省略している。
【0043】
複数の位相制御面211は、それぞれ光束制御部材200の中心軸CA2を中心とする螺旋形状を有する。ここで、螺旋形状は、滑らかに連続する螺旋形状であってもよいし、階段状の螺旋形状であってもよい。位相制御面211の数は、特に限定されない。本実施の形態では、ボルテックス面210は、ボルテックス面210のトポロジカルチャージ数lと同数の複数(4つ)の位相制御面211を含んでいる。これらの複数(4つ)の位相制御面211は、中心軸CA2を中心として回転対称(4回対称)となるように配置されている。したがって、複数の位相制御面211は、同じ形状を有し、かつ同じ高さ範囲に配置されている。ここで、光束制御部材200における高さとは、中心軸CA2に沿う方向における位置を意味する。
【0044】
複数の位相制御面211は、それぞれ、凸曲面であり、かつ側面視において、ボルテックス面210の中心部214から外周部に向かう曲線が、ボルテックス面210の中心部214に変曲点を有する。すなわち、中心軸CA2を含む断面において、位相制御面211の断面である曲線は、ボルテックス面210の中心部214に変曲点215を有する。より具体的には、中心軸CA2を含む断面において、ボルテックス面210の中心部214以外の領域では、位相制御面211は、中心軸CA2に近づくほど傾きが小さくなる(中心軸CA2に対して垂直に近くなる)が、ボルテックス面210の中心部214では、位相制御面211は、中心軸CA2に近づくほど傾きが大きくなる(中心軸CA2に対する角度が小さくなる)部分を含む(
図10B参照)。ただし、ボルテックス面210の中心部214であっても、段差面212のごく近傍においてはこの限りではない。したがって、
図10Cでは、位相制御面211が変曲していることは示されていない。
【0045】
複数の段差面212は、隣接する2つの位相制御面211の端部同士をそれぞれ接続する。本実施の形態では、複数の段差面212は、それぞれ中心軸CA2から外縁まで径方向に延在する平面である。複数の段差面212の上辺は、ボルテックス面210の中心部214で交わっている。段差面212の数は、位相制御面211の数と同じである。たとえば、ボルテックス面210が2つの位相制御面211を含む場合、ボルテックス面210は2つの段差面212を含み、それぞれの段差面212は、互いに隣接する2つの位相制御面211の端部同士を接続する。本実施の形態に示す例では、ボルテックス面210は、4つの段差面212を含んでいる。これらの複数(4つ)の段差面212は、中心軸CA2を中心として回転対称(4回対称)となるように配置されている。したがって、複数(4つ)の段差面212は、同じ形状を有し、かつ同じ高さ範囲に配置されている。
【0046】
複数の段差面212の合計高さは、ガウシアン光をどのようなボルテックス光に変換するかに関係するトポロジカルチャージ数lに応じて適宜設定されうる。トポロジカルチャージ数をl、ボルテックス面210を通過する光の波長をλ、光束制御部材200の材料と周辺の媒質(例えば空気)との光の波長λにおける屈折率の差をΔnとしたとき、複数の段差面212の合計高さdは、以下の式(1)から求めることができる。複数の段差面212の合計高さdは、付与したいトポロジカルチャージ数lに応じて設定され、例えば1μm以上10μm以下である。
d=l×λ/Δn (1)
【0047】
複数の凸条213は、金型100の複数の加工溝113が転写されたパターンである。
図10Aに示すように、複数の凸条213は、ボルテックス面210において、中心軸CA2から放射状に配置されている。そのため、複数の凸条213は、それぞれ、中心軸CA2に近づくほど、隣接する凸条213との間隔が狭くなり、最終的には重なる。これに伴い、隣接する凸条213間に形成される溝についても、中心軸CA2に近づくほど浅くなる。したがって、凸条213の高さは、中心に近づくほど低くなる。これにより、ボルテックス面210の中心部214は、略鏡面となる。ここで「凸条213の高さ」とは、凸条213の絶対的な高さ(例えば第1面220に対する高さ)を意味するのではなく、凸条213の両側にある溝の底に対する高さを意味する。
【0048】
本実施の形態に係る光束制御部材200は、上記本実施の形態に係る金型100を用いて製造されうる。前述のとおり、本実施の形態に係る金型100では、複数の段差面成形面112の上辺は、ボルテックス面成形面110の中心部114で交わっており、複数の段差面成形面112のそれぞれの上辺の延長線と金型100の中心軸CA1との最短距離、および複数の段差面成形面112のそれぞれの下辺の延長線と金型100の中心軸CA1との最短距離は、いずれも0μm以上5μm以下である。したがって、本実施の形態に係る光束制御部材200でも、複数の段差面212の上辺は、ボルテックス面210の中心部214で交わっており、複数の段差面212のそれぞれの上辺の延長線と光束制御部材200の中心軸CA2との最短距離、および複数の段差面212のそれぞれの下辺の延長線と光束制御部材200の中心軸CA2との最短距離は、いずれも0μm以上5μm以下である。すなわち、段差面212が、設計通り中心軸CA2から放射状に延在するように形成される。
【0049】
図11は、本実施の形態に係る光束制御部材200におけるボルテックス面210の中心付近の写真である。ここでは、段差面212と中心軸CA2との関係を見やすくするために、段差面212が1つのボルテックス面210を示す。
図11において、段差面212の上辺および下辺が中心軸(螺旋の中心)から離れていないことがわかる(
図5と比較参照)。
図11に示される例では、段差面212の上辺の延長線と光束制御部材200の中心軸CA2との最短距離、および光束制御部材200の段差面212の下辺の延長線と光束制御部材200の中心軸CA2の最短距離は、いずれも1μm以下であった。
【0050】
図12Aは、
図5に示されるような中心部がつぶれたボルテックス面210を有する光束制御部材200から出射された光の強度分布を示す図であり、
図12Bは、本実施の形態に係る光束制御部材200から出射された光の強度分布を示す図である。いずれの図も、光束制御部材200の焦点位置における光の強度分布を示している。
図12Bに示されるように、本実施の形態に係る光束制御部材200は、所期のリング状の強度分布を有する光を生成することができる。
【0051】
本実施の形態に係る光束制御部材200のボルテックス面210は、n回対称(nは2以上の整数)であることが好ましく、nは、ボルテックス面210のトポロジカルチャージ数lと同じ数であることが好ましい。たとえば、トポロジカルチャージ数lが4である場合、
図9および
図10Aに示されるように、ボルテックス面210は、4回対称、すなわち同一形状の4つの位相制御面211および同一形状の4つの段差面212を含むことが好ましい。これら4つの位相制御面211および4つの段差面212は、同じ高さ範囲に配置される。このようにすることで、光束制御部材200内における厚みの差が小さくなるため、金型100の切削加工時および光束制御部材200の成形時の応力歪みが抑制され、光束制御部材200の成形精度が向上する。
【0052】
図13A、Bは、トポロジカルチャージ数lが4の光束制御部材200のボルテックス面210を示す平面模式図である。
図13Aに示されるボルテックス面210は、1つの位相制御面211および1つの段差面212を含む。一方、
図13Bに示されるボルテックス面210は、4つの位相制御面211および4つの段差面212を含む。ここで、
図13A、Bに示されるように、ボルテックス面210をA~Dの4つの領域に分けたとする。
図13Aに示されるボルテックス面210では、領域Aは、0~2πの位相差ΔΦに対応し、領域Bは、2~4πの位相差ΔΦに対応し、領域Cは、4~6πの位相差ΔΦに対応し、領域Dは、6~8πの位相差ΔΦに対応する。
図13Aに示されるボルテックス面210では、領域Aと領域Dの間にのみ段差面212が存在し、この段差面212の高さは、例えば5.2μm(=1.3μm×4)である。一方、
図13Bに示されるボルテックス面210では、領域A~Dは、いずれも0~2πの位相差ΔΦに対応する。
図13Bに示されるボルテックス面210では、領域Aと領域Bの間、領域Bと領域Cの間、領域Cと領域Dの間、および領域Dと領域Aの間に段差面212がそれぞれ存在し、これらの段差面212の高さは、例えばそれぞれ1.3μm(合計高さは5.2μm)である。したがって、
図13Aに示される光束制御部材200では、段差面212に隣接する部分の厚みの差が5.2μmもあるのに対し、
図13Bに示される光束制御部材200では、段差面212に隣接する部分の厚みの差がわずか1.3μmである。このように、
図13Bに示される光束制御部材200では、光束制御部材200内における厚みの差が小さくなるため、金型100の切削加工時および光束制御部材200の成形時の応力歪みが抑制され、光束制御部材200の成形精度が向上する。
【0053】
(効果)
以上のように、本実施の形態では、金型100のボルテックス面成形面110を放射状に切削加工を行うことで形成することで、ボルテックス面成形面110の中心部114を略鏡面とすることができる。また、ボルテックス面成形面110の中心部114に連続して切削工具を押し当てることなくボルテックス面成形面110を加工するため、ボルテックス面成形面110の中心部114に大きな加工痕(つぶれ)が形成されるのを抑制することができる。さらに、一方の側に垂直形状の刃先を有する本実施の形態の切削工具を用いることで、段差面成形面112の下端において、位相制御面成形面111と段差面成形面112との境界が曲面(R面)112Rとなってしまうことを抑制できる。その結果、本実施の形態に係る光束制御部材200は、所期のリング状の強度分布を有する光を生成することができる。
【0054】
(変形例)
なお、上記実施の形態では、ボルテックス面210を1つ有する光束制御部材200について説明したが、本発明に係る光束制御部材は、複数のボルテックス面210を有するレンズアレイであってもよい。
【0055】
また、本発明に係る光束制御部材は、ボルテックス面(第2面)210が入射面として機能し、第1面220が出射面として機能する光束制御部材であってもよいし、第1面220が入射面として機能し、ボルテックス面(第2面)210が出射面として機能する光束制御部材であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、リング状の強度分布の光を適切に形成できる光束制御部材を提供することができる。本発明に係る光束制御部材は、例えば光通信などに有用である。
【符号の説明】
【0057】
100 金型
101 上型
102 下型
110 ボルテックス面成形面
111 位相制御面成形面
112 段差面成形面
112R 曲面
113 加工溝
114 ボルテックス面成形面の中心部
120 キャビティ
121 ゲート
130 従来の切削工具
200 光束制御部材
210 ボルテックス面(第2面)
211 位相制御面
212 段差面
213 凸条
214 ボルテックス面の中心部
215 位相制御面の変曲点
220 第1面
CA1 金型の中心軸
CA2 光束制御部材の中心軸