(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171321
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】電極用触媒の製造方法及び電極用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 37/04 20060101AFI20241204BHJP
B01J 35/45 20240101ALI20241204BHJP
B01J 35/58 20240101ALI20241204BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20241204BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20241204BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20241204BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20241204BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20241204BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20241204BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20241204BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20241204BHJP
D06M 10/00 20060101ALI20241204BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20241204BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20241204BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20241204BHJP
【FI】
B01J37/04 102
B01J35/45 ZNM
B01J35/58 J
B01J37/34
B01J37/03 Z
B01J23/42 M
B22F9/24 E
B22F1/054
H01M4/88 K
H01M4/90 M
H01M4/88 C
H01M4/96 M
D06M10/00 B
B82Y30/00
B82Y40/00
B22F1/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024073444
(22)【出願日】2024-04-30
(31)【優先権主張番号】202310618266.1
(32)【優先日】2023-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】宇坂 修
(72)【発明者】
【氏名】松森 裕史
(72)【発明者】
【氏名】小茂田 宏章
【テーマコード(参考)】
4G169
4K017
4K018
4L031
5H018
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC16A
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5H018AA01
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5H018HH10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い触媒活性を実現できる電極用触媒の製造方法及び電極用触媒を提供する。
【解決手段】金属ナノワイヤを合成するナノワイヤ合成工程と、金属ナノワイヤをカーボン担体に担持させる担持工程を有し、担持工程は、カーボン担体と金属ナノワイヤを含む第1懸濁液中で、金属ナノワイヤをカーボン担体の粒径と同等又はそれよりも短い短繊維に切断しつつ、カーボン担体に付着させて行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノワイヤを合成するナノワイヤ合成工程と、
前記金属ナノワイヤをカーボン担体に担持させる担持工程と、を有し、
前記担持工程は、前記カーボン担体と前記金属ナノワイヤとを含む第1懸濁液中で、前記金属ナノワイヤを前記カーボン担体の粒径と同等又はそれよりも短い短繊維に切断しつつ、前記カーボン担体に付着させて行う、電極用触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の電極用触媒の製造方法であって、前記担持工程は、
前記金属ナノワイヤと、前記カーボン担体と、溶媒とを混合して前記第1懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、
前記第1懸濁液に超音波ホモジナイザーを通じて超音波を印加して前記金属ナノワイヤを切断しつつ前記カーボン担体に付着させる短繊維化工程と、
を有する、電極用触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の電極用触媒の製造方法であって、前記第1懸濁液は、界面活性剤を含む、電極用触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の電極用触媒の製造方法であって、
前記ナノワイヤ合成工程は、
前記金属ナノワイヤの前駆体と保護剤とを含む混合液を反応させることで金属原子がワイヤ状に繋がった前記金属ナノワイヤを析出させる反応工程と、
析出した前記金属ナノワイヤを乾燥させることなく保存溶媒に分散させて保存する保存工程と、を有し、
前記担持工程には、前記保存溶媒に分散された前記金属ナノワイヤを使用する、
電極用触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の電極用触媒の製造方法であって、
前記ナノワイヤ合成工程は、前記混合液を、120℃の温度で1時間以上反応させて行う、電極用触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の電極用触媒の製造方法であって、前記ナノワイヤ合成工程は、前記混合液を流動させつつ行う、電極用触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項5記載の電極用触媒の製造方法であって、前記ナノワイヤ合成工程において、前記前駆体は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、錫(Sn)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、及びバナジウム(V)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)の中から選ばれる少なくとも1つの元素を含む金属塩である、電極用触媒の製造方法。
【請求項8】
金属ナノワイヤと、
前記金属ナノワイヤを担持するカーボン担体と、を備え、
前記金属ナノワイヤの平均長さは、前記カーボン担体の平均粒径と同等又はこれよりも小さい、電極用触媒。
【請求項9】
請求項8記載の電極用触媒であって、前記金属ナノワイヤが付着した前記カーボン担体は、前記金属ナノワイヤと、前記カーボン担体と、溶媒と、を混合した混合液に、超音波ホモジナイザーを通じて超音波を印加することにより、前記金属ナノワイヤを短繊維化させつつ前記カーボン担体に分散させた構造を有する、電極用触媒。
【請求項10】
請求項8記載の電極用触媒であって、
前記金属ナノワイヤは液相中で合成された後に、乾燥されることなく前記カーボン担体及び溶媒に混合される、電極用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルの電極に好適な電極用触媒の製造方法及び電極用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、水電解装置、及び各種センサ等の電気化学セルの電極において、酸素還元反応は、比較的速度が遅い反応として知られている。このような酸素還元反応を素早く行わせるために貴金属等の活性金属を担体(例えば、カーボン)に担持させた触媒が用いられている。
【0003】
例えば、特開2005-216661号公報(特許文献1)は、燃料電池用の触媒として、白金を炭素担体に担持させた触媒を開示する。また、Li et.al(Science, 2016, vol.354, Issue.6318, pp.1414-1419)(非特許文献1)は、白金を直径数ナノメートルのワイヤ状に形成した白金ナノワイヤの合成方法について報告する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Li et.al(Science, 2016, vol.354, Issue.6318, pp.1414-1419)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の白金ナノワイヤの合成量を増加させて、カーボン担体に担持させて触媒化させると、十分な触媒活性が得られないことが判明した。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下の開示の一観点は、金属ナノワイヤを合成するナノワイヤ合成工程と、前記金属ナノワイヤをカーボン担体に担持させる担持工程と、を有し、前記担持工程は、前記カーボン担体と前記金属ナノワイヤとを含む第1懸濁液中で、前記金属ナノワイヤを前記カーボン担体の粒径と同等又はそれよりも短い短繊維に切断しつつ、前記カーボン担体に付着させて行う、電極用触媒の製造方法にある。
【0009】
別の一観点は、金属ナノワイヤと、前記金属ナノワイヤを担持するカーボン担体と、を備え、前記金属ナノワイヤの平均長さは、前記カーボン担体の平均粒径と同等又はこれよりも小さい、電極用触媒にある。
【発明の効果】
【0010】
上記観点の電極用触媒の製造方法及び電極用触媒は、高い触媒活性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態(実施例1)に係る電極用触媒の電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る電極用触媒の製造方法のナノワイヤ合成工程の説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る電極用触媒の製造方法の担持工程の説明図である。
【
図4】
図4は、実施例1の電極用触媒の金属ナノワイヤの長さの分布の測定結果を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1の電極用触媒及び比較例1の電極用触媒について、RDE法により質量活性比を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示されるように、本実施形態の電極用触媒10は、カーボン担体12の表面に短繊維化された金属ナノワイヤ14を分散させて担持させた構造を有する。このような電極用触媒10は、燃料電池又は水電解装置等の電気化学セルの電極に好適に用いられる。
【0013】
カーボン担体12は、金属ナノワイヤ14を担持できる炭素材料であれば、特に限定されない。カーボン担体12は、例えば、CA250(商品名:電気化学工業株式会社製)、OSAB(商品名:電気化学工業株式会社製)、バルカン(商品名:Cabot社製)、ケッチェンブラック(商品名:ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製)、ノーリット(商品名:Norit社製)、ブラックパール(商品名:Cabot社製)、アセチレンブラック(商品名:Chevron社製)、VGCF(商品名:レゾナック社製)等の炭素材を使用できる。また、カーボン担体12は、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノウォール、カーボンナノファイバー等で構成されてもよい。
【0014】
カーボン担体12は、担持工程で使用される溶液中において、粒子状に分散している。本明細書においてカーボン担体12の粒径は、カーボン担体12の溶液中で測定される粒径である。溶液中では、複数のカーボン担体12が凝集体として1つの粒子を構成する場合があり、本明細書においてカーボン担体12の粒径には、カーボン担体12の凝集体としての粒径が含まれ得る。
【0015】
金属ナノワイヤ14は、構成元素は、任意の金属元素から、目的に応じて適宜選択され得る。金属ナノワイヤ14は、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、錫(Sn)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、又はバナジウム(V)等の卑金属元素から構成され得る。また、金属ナノワイヤ14は、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、又はオスミウム(Os)等の貴金属元素から構成され得る。上記の元素は、単独又は他の元素との化合物を含んでもよく、又は上記に列挙された元素を2種以上含有又は併用して構成されてもよい。また、金属ナノワイヤ14は、上記の元素のいくつかを組み合わせた合金で構成されてもよい。
【0016】
一般に、金属ナノワイヤ14は、直径が1nm~10nm程度であり、金属原子がワイヤ状に繋がった構造を有する。金属ナノワイヤ14の長さは、材料の種類又は製造方法によって異なるが、一般的に、数100nm~数μm程度である。金属ナノワイヤ14は、その全長が直径よりも長いため、細長いワイヤ形状を有している。金属ナノワイヤ14は、例えば、合成後よりも長さが短く、短繊維化された状態でよい。金属ナノワイヤ14は、カーボン担体12の表面に担持できる長さまで短繊維化されていることが好ましい。なお、合成された金属ナノワイヤ14の長さが短い場合には、短繊維化は不要である。電極用触媒10での金属ナノワイヤ14の長さの平均値は、カーボン担体12(又はその凝集体)の粒径と同等以下の値とすることが好ましい。
【0017】
金属ナノワイヤ14は、合成の過程で発生する金属粒子14aを含んでもよい。金属粒子14aは、金属ナノワイヤ14の端部に位置する。金属粒子14aは、金属ナノワイヤ14の端部において金属が塊状に析出して形成される。
【0018】
以上の本実施形態の電極用触媒10は、以下の電極用触媒の製造方法により製造される。
【0019】
電極用触媒の製造方法は、
図2に示されるナノワイヤ合成工程と、
図3に示される担持工程とを有する。担持工程は、ナノワイヤ合成工程の後に行われる。
図2に示されるように、ナノワイヤ合成工程(反応工程)は、まず、金属ナノワイヤ14の前駆体と、グルコースと、オクタデセン(溶媒)とオレイルアミンとを投入する原料投入工程(ステップS1)が行われる。
【0020】
金属ナノワイヤ14の前駆体は、上記の金属元素の塩(金属塩)が用いられる。前駆体は、ナノワイヤ合成工程の混合液との反応において金属に還元される物質が使用される。
【0021】
ナノワイヤ合成工程において、オレイルアミンは、還元剤及び安定化剤として機能する。すなわち、オレイルアミンは、高温で電子供与体となり前駆体の白金又はニッケルを還元する。また、オレイルアミンは、生成した金属粒子14aの表面を覆うことで金属粒子14aの成長を抑制し、粒子成長をナノサイズに止める。グルコースは、前駆体の還元剤として機能する。グルコースに代えて、ポリオールを用いることもできる。ポリオールとしては、ヘキサデカンジオール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール又はステアリルグリコール等がある。
【0022】
次に、上記の混合液をスターラー等で攪拌する工程が行われる(ステップS2)。その後、混合液を超音波でさらに均一に分散させる処理が行われる(ステップS3)。次に、混合液に、保護剤と、触媒とを添加する工程が行われる(ステップS4)。保護剤は、例えばポリビニルピロリドン(PVP)である。ポリビニルピロリドンは、分子内のCO結合基を複数有する。ポリビニルピロリドンのCO結合基は、析出した金属に吸着することで、鎖状に延びるポリビニルピロリドンの分子が金属の周囲を取り囲む。これにより、金属が塊状に成長するのを妨げ、金属がワイヤ状に成長する。触媒は、金属のワイヤの成長を促すために添加される。触媒は、例えばタングステン(W)錯体、クロム(Cr)錯体又はモリブデン(Mo)錯体等でよい。
【0023】
次に、保護剤及び触媒が添加された混合液を、所定温度に徐々に昇温させる工程が行われる(ステップS5)。この工程は、混合液の温度が所定温度(例えば120℃)に到達するまで行われる。
【0024】
その後、所定温度(例えば、120℃)に所定時間保持して、金属ナノワイヤ14を成長(加熱)させる工程(ステップS6)が行われる。反応温度は、例えば、110℃~140℃とすることができる。反応温度が低温になると、反応時間を長く要し、収量が減少する傾向にある。
【0025】
ステップS6の反応時間は、収量を増加させる観点から、1時間以上とすることが好ましい。反応時間は、例えば、8時間以上であってもよい。反応時間が長くなるほど、合成される金属ナノワイヤ14の長さが長くなる。
【0026】
次に、混合液を徐々に冷却する冷却工程(ステップS7)が行われる。混合液が室温に戻されると、冷却工程が終了する。なお、上記のステップS5~ステップS7の工程は、混合液を攪拌(流動)しながら行われてもよい。混合液の適度な攪拌は、金属ナノワイヤ14の収量増加をもたらす。
【0027】
次に、金属ナノワイヤ14の洗浄工程が行われる(ステップS8)。洗浄工程は、ろ過等の方法で金属ナノワイヤ14を抽出した後、例えば、アセトン、シクロヘキサン及びエタノールを含む溶媒で金属ナノワイヤ14を洗浄して行われる。洗浄工程は、複数回繰り返し行われてもよい。
【0028】
次に、金属ナノワイヤ14を遠心分離して回収する工程(ステップS9)が行われる。この工程により、金属ナノワイヤ14から、前駆体及び触媒等の残渣がさらに取り除かれる。
【0029】
上記の工程で得られる金属ナノワイヤ14は、周囲をポリビニルピロリドンで囲まれた状態で合成され得る。複数の金属ナノワイヤ14を取り囲むポリビニルピロリドンは、互いに非極性基が相互作用することで疎水結合する。そのため、金属ナノワイヤ14は、ポリビニルピロリドンを介して複数本が束状に凝集した状態で、溶媒中に分散する。このような金属ナノワイヤ14を乾燥させてしまうと、金属ナノワイヤ14の凝縮がさらに進み、金属ナノワイヤ14の分散性が悪くなり、カーボン担体12への分散が困難となる。
【0030】
そこで、金属ナノワイヤ14に保存溶媒を添加する保存工程(ステップS10)が行われる。この保存工程は、金属ナノワイヤ14に保存溶媒を添加して金属ナノワイヤ14の乾燥を防ぐ。保存溶媒は、例えば、エタノールである。さらに、保存溶媒及び金属ナノワイヤ14に超音波を印加することで、金属ナノワイヤ14を保存溶媒中に均一に分散させる処理が行われる。
【0031】
その後、金属ナノワイヤ14は、保存溶媒に分散された状態で、担持工程(
図3)に利用される。
【0032】
図3に示されるように、担持工程では、まず、カーボン担体12と分散溶媒と、金属ナノワイヤ14とを混合した第1懸濁液(金属ナノワイヤ分散液)を調製する懸濁液調製工程(ステップS11)が行われる。金属ナノワイヤ14は、保存溶媒とともに分散溶媒に投入される。一実施例として、金属ナノワイヤ14は、触媒重量の30重量%の量が投入される。金属ナノワイヤ14の投入量は、この例に限定されず、50重量%の量が投入されてもよい。
【0033】
分散溶媒は、例えば、エタノールとシクロヘキサンとを含む溶媒である。特に限定されないが、分散溶媒は、金属ナノワイヤ14の分散性を向上させるための分散剤を含んでもよい。分散剤としては、例えば陽イオン界面活性剤等の界面活性剤を用いることができる。分散剤としてのオレイルアミンは、ポリビニルピロリドンで束状に凝集した金属ナノワイヤ14を効率的に分散できて好適である。
【0034】
次に、第1懸濁液を超音波ホモジナイザーで処理する短繊維化工程(ステップS12)が行われる。短繊維化工程では、第1懸濁液に超音波ホモジナイザーを通じて超音波が印加される。これにより、束状の金属ナノワイヤ14が分離され、さらに分離された金属ナノワイヤ14が短く短繊維化される。金属ナノワイヤ14の長さは、超音波ホモジナイザーの周波数及び出力に応じた値となる。短繊維化された金属ナノワイヤ14は、カーボン担体12の表面に分散した状態で付着し、電極用触媒10が生成される。
【0035】
超音波ホモジナイザーで処理を行わない場合には、束状に形成された金属ナノワイヤ14の分散が進まず、カーボン担体12に金属ナノワイヤ14を担持することができず、十分な触媒活性が得られない。
【0036】
次に、第1懸濁液から電極用触媒10を取り出すべく、遠心分離工程(ステップS13)が行われる。遠心分離処理により、第1懸濁液は、電極用触媒10を含む沈殿層と上澄み層とに分離される。上澄み層(分散溶媒)を取り除き、沈殿層を回収することで、濃縮された電極用触媒10の懸濁液が得られる。
【0037】
次に、濃縮された電極用触媒10の懸濁液を減圧乾燥させる乾燥工程(ステップS14)が行われる。乾燥工程により、電極用触媒10から溶媒が取り除かれる。
【0038】
その後、電極用触媒10に付着した有機物を取り除くべく、焼成工程(ステップS15)が行われる。焼成工程は、例えば3%程度の水素ガスを含む不活性ガスによる還元雰囲気の下で行われる。焼成工程は、200℃~500℃、より好ましくは250℃以上の温度での加熱処理を含む。
【0039】
以上に説明した工程により、本実施形態の電極用触媒10が製造される。
【0040】
(実施例1)
本実施例は、白金のみからなる金属ナノワイヤ14を合成して、カーボン担体12に担持させた。ナノワイヤ合成工程の混合液の仕込み組成は、白金(II)アセチルアセトナート(Pt(acac)2)が18.17mmol、グルコースが22.5mmol、ポリビニルピロリドン(PVP)が0.225mmol、ヘキサカルボニルタングステン(W(CO)6)が0.15mmol、1-オクタデセンが30ml、オレイルアミンが45mlである。
【0041】
上記の仕込み組成の混合液に対して、攪拌しつつ120℃で3時間反応させる工程(
図2のステップS6)が行われた。この工程により、実施例1に係る金属ナノワイヤ14が生成された。その後、実施例1の金属ナノワイヤ14に対し、担持工程が行われた。
【0042】
担持工程の第1懸濁液の仕込み組成は、カーボン担体12(バルカンXCシリーズ)が9630mg、金属ナノワイヤ14が107mg、エタノールが200ml、シクロヘキサンが200ml、オレイルアミンが20mlである。第1懸濁液は、超音波ホモジナイザーで60分処理された。以上の処理により、本実施例の電極用触媒10が得られた。
【0043】
本実施例の電極用触媒10に対して、透過電子顕微鏡を用いた評価が行われた。評価の結果、
図4に示されるような金属ナノワイヤ14の長さの分布が得られた。実施例1の金属ナノワイヤ14の平均長さは29.4nmであった。金属ナノワイヤ14の平均長さは、カーボン担体12の粒径(平均値)と同等以下となった。
【0044】
(比較例1)
比較例1は、実施例1と同様の方法で製造された金属ナノワイヤ14を超音波ホモジナイザーで短繊維化せずカーボン担体12に接触させて得られた電極用触媒である。
【0045】
次に、実施例1の電極用触媒10及び比較例1の電極用触媒について、RDE法により触媒活性の測定が行われた。結果は、
図5に示される。なお、
図5は、従来の白金微粒子をカーボン担体12に担持させた触媒(以下、触媒(Pt/C)と表記する)の質量活性比を1とした場合の、質量活性比の相対値を示す。この値が1よりも大きい場合には、触媒(Pt/C)よりも白金の質量当たりの触媒活性が高いことを示す。
【0046】
図5に示されるように、比較例1の電極用触媒では、金属ナノワイヤ14が十分に分散されず、触媒(Pt/C)よりも低い触媒活性しか得られない結果となった。これに対し、実施例1の電極用触媒10は、触媒(Pt/C)に対して、1.7倍の触媒活性が得られ、高い触媒活性が得られることが確認できた。
【0047】
上記した開示に関し、さらに以下の付記が開示される。
【0048】
(付記1)
一観点は、金属ナノワイヤ(14)を合成するナノワイヤ合成工程と、前記金属ナノワイヤをカーボン担体(12)に担持させる担持工程と、を有し、前記担持工程は、前記カーボン担体と前記金属ナノワイヤとを含む第1懸濁液中で、前記金属ナノワイヤを前記カーボン担体の粒径と同等又はそれよりも短い短繊維に切断しつつ、前記カーボン担体に付着させて行う、電極用触媒の製造方法にある。この電極用触媒の製造方法は、束状に凝集した金属ナノワイヤを効果的に分散させることができるため、高い触媒活性を有する電極用触媒を製造できる。
【0049】
(付記2)
上記の電極用触媒の製造方法であって、前記担持工程は、前記金属ナノワイヤと、前記カーボン担体と、溶媒とを混合して前記第1懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、前記第1懸濁液に超音波ホモジナイザーを通じて超音波を印加して前記金属ナノワイヤを切断しつつ前記カーボン担体に付着させる短繊維化工程と、を有してもよい。この電極用触媒の製造方法は、金属ナノワイヤを効果的に短繊維化できる。
【0050】
(付記3)
上記の電極用触媒の製造方法であって、前記第1懸濁液は、界面活性剤を含んでもよい。この電極用触媒の製造方法は、束状に凝集した金属ナノワイヤを効果的に分散させることができる。
【0051】
(付記4)
上記の電極用触媒の製造方法であって、前記ナノワイヤ合成工程は、前記金属ナノワイヤの前駆体と保護剤とを含む混合液を反応させることで金属原子がワイヤ状に繋がった前記金属ナノワイヤを析出させる反応工程と、析出した前記金属ナノワイヤを乾燥させることなく保存溶媒に分散させて保存する保存工程と、を有し、前記担持工程には、前記保存溶媒に分散された前記金属ナノワイヤを使用してもよい。上記の電極用触媒の製造方法は、合成された金属ナノワイヤを乾燥させないことで、担持工程における金属ナノワイヤの分散性を高めることができる。
【0052】
(付記5)
上記の電極用触媒の製造方法であって、前記ナノワイヤ合成工程は、前記混合液を、120℃の温度で1時間以上反応させて行なってもよい。この電極用触媒の製造方法は、金属ナノワイヤを高い収量で生産できる。
【0053】
(付記6)
上記の電極用触媒の製造方法であって、前記ナノワイヤ合成工程は、前記混合液を流動させつつ行ってもよい。この電極用触媒の製造方法は、金属ナノワイヤの収量をさらに高めることができる。
【0054】
(付記7)
上記の電極用触媒の製造方法であって、前記ナノワイヤ合成工程において、前記前駆体は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、錫(Sn)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、及びバナジウム(V)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、及びオスミウム(Os)の中から選ばれる少なくとも1つの元素を含む金属塩であってもよい。この電極用触媒の製造方法は、高い触媒活性を発揮する電極用触媒を製造できる。
【0055】
(付記8)
別の観点は、金属ナノワイヤと、前記金属ナノワイヤを担持するカーボン担体と、を備え、前記金属ナノワイヤの平均長さは、前記カーボン担体の平均粒径と同等又はこれよりも小さい、電極用触媒である。この電極用触媒は、高い触媒活性を発揮する。
【0056】
(付記9)
上記の電極用触媒であって、前記金属ナノワイヤが付着した前記カーボン担体は、前記金属ナノワイヤと、前記カーボン担体と、溶媒と、を混合した混合液に、超音波ホモジナイザーを通じて超音波を印加することにより、前記金属ナノワイヤを短繊維化させつつ前記カーボン担体に分散させた構造を有してもよい。この電極用触媒は、触媒活性に優れる。
【0057】
(付記10)
上記の電極用触媒であって、前記金属ナノワイヤは液相中で合成された後に、乾燥されることなく前記カーボン担体及び溶媒に混合されてもよい。この電極用触媒は、束状に凝集した金属ナノワイヤが少なく、触媒活性に優れる。
【0058】
なお、本発明は、上記した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0059】
10…電極用触媒 12…カーボン担体
14…金属ナノワイヤ 14a…金属粒子