(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171324
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】汎用手技トレーニング装置
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20241204BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024082246
(22)【出願日】2024-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2023088248
(32)【優先日】2023-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】709002772
【氏名又は名称】株式会社ファソテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】竹内 淳一
(72)【発明者】
【氏名】安楽 武志
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昌巳
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032CA03
2C032CA06
(57)【要約】
【課題】内視鏡下手術とロボット支援下手術の何れにも対応可能でき、かつ、多様な部位や術式に対応できる汎用手技トレーニング装置を提供する。
【解決手段】身体の一部を模擬したシミュレータとしての胸腔シミュレータ2、台座部としての台座3、及び、臓器モデルを固定する臓器モデル固定具としての肺モデル固定具4で構成され、台座3上に、胸腔シミュレータ2及び肺モデル固定具4を取り付けてトレーニングを行う。台座3は、台座本体30、取付部31及び滑り止め部材32から成る。取付部31は、第1の取付部及び第2の取付部として機能する。胸腔シミュレータ2は、枠部5、胸腔部6及び嵌合部21から成る。枠部5及び胸腔部6はシミュレータ本体、嵌合部21は、第1の固定部として機能する。肺モデル固定具4は右肺を模擬した臓器モデルを取付可能な固定具であり、縦隔部、支持部及び嵌合部から成る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体の一部を模擬した立体的形状のシミュレータと、
臓器モデルを固定する臓器モデル固定具と、
取付部を有する平板状の台座部を備え、
前記シミュレータは、身体の一部を模擬したシミュレータ本体と、前記台座部に固定する第1の固定部を有し、
前記臓器モデル固定具は、臓器モデルを取り付ける臓器モデル固定具本体と、前記台座部に固定する第2の固定部を有し、
前記台座部は、第1及び第2の固定部を取り付ける第1及び第2の取付部を有し、
前記臓器モデルを取り付けた前記臓器モデル固定具と前記シミュレータを前記台座部に固定した状態下で、前記シミュレータ本体にて模擬された身体の一部と前記臓器モデルの3次元的位置関係が解剖学的に再現されることを特徴とする汎用手技トレーニング装置。
【請求項2】
前記シミュレータは、胸腔の左右何れかを模擬した胸腔シミュレータであり、前記臓器モデル固定具は、前記胸腔に対応する左右何れかの肺モデルを固定する肺モデル固定具であることを特徴とする請求項1に記載の汎用手技トレーニング装置。
【請求項3】
前記シミュレータ本体は、
肋骨部、胸骨部及び胸椎部から成り、胸腔の左右何れかを模擬した胸腔部と、
前記肋骨部の一部を支持する頭側支持部及び尾側支持部、前記胸椎部を支持する胸椎支持部、及び前記胸骨部を支持する胸骨支持部から成り、前記胸腔部を支持する支持部、
を備え、
前記尾側支持部の最大高さは、前記尾側支持部が支持する肋骨部の最大高さより低いことを特徴とする請求項2に記載の汎用手技トレーニング装置。
【請求項4】
前記シミュレータ本体は、
肋骨部、胸骨部及び胸椎部から成り、胸腔の左右何れかを模擬した胸腔部と、
前記肋骨部の一部を支持する頭側支持部及び尾側支持部、前記胸椎部を支持する胸椎支持部、及び前記胸骨部を支持する胸骨支持部から成り、前記胸腔部を支持する支持部、
を備え、
前記頭側支持部の最大高さは、前記頭側支持部が支持する肋骨部の最大高さより低いことを特徴とする請求項2に記載の汎用手技トレーニング装置。
【請求項5】
第1の固定部は2つ、第2の固定部は1つで構成され、
また、第1の取付部は2つ、第2の取付部は1つで構成され、
第1の取付部に第1の固定部を取り付け、第2の取付部に第2の固定部を取り付けることを特徴とする請求項2に記載の汎用手技トレーニング装置。
【請求項6】
前記シミュレータ本体は、
肋骨部、胸骨部及び胸椎部から成り、胸腔の左右何れかを模擬した胸腔部と、
前記肋骨部の一部を支持する頭側支持部及び尾側支持部、前記胸椎部を支持する胸椎支持部、及び前記胸骨部を支持する胸骨支持部から成り、前記胸腔部を支持する支持部、
を備え、
前記尾側支持部は、前記胸椎支持部に接続される背側部材と、前記胸骨支持部に接続される胸側部材、から成り、
前記胸側部材は、前記胸側部材の一部がヒンジ部を介して開閉可能に前記背側部材と接続され、又は、前記胸側部材の一部が脱着可能に前記背側部材と接続され、ることを特徴とする請求項2に記載の汎用手技トレーニング装置。
【請求項7】
前記尾側支持部は、前記胸椎支持部又は前記背側部材と前記胸側部材を接続する梁部材を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の汎用手技トレーニング装置。
【請求項8】
前記胸骨支持部と前記胸側部材は、前記胸腔部の鳩尾に相当する位置の近傍に間隙を設けて接続されることを特徴とする請求項6又は7に記載の汎用手技トレーニング装置。
【請求項9】
前記胸側部材の内、前記肋骨部を支持する部位は、接続部材として分離して前記肋骨部に固定され、開閉可能な前記胸側部材の一部と嵌合させて固定し得ることを特徴とする請求項6又は7に記載の汎用手技トレーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下手術のトレーニングや学習用のシミュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、胸腔鏡下手術のトレーニングや学習用として、人の体型や質感を再現し、人の身体に対する手術環境を模擬できるシミュレータが開発されている(例えば、特許文献1を参照。)。
上記特許文献1に開示された胸腔シミュレータは、少なくとも肋骨を模擬した人体骨格モデルと、人体骨格モデルを収納するケーシングとから成る装置であり、ケーシングの肋骨部分に開孔部が設けられ、横隔膜の部分が開閉でき、人体骨格モデルの肋骨内部に臓器モデルを収納できる構成となっている。これによれば、効果的に胸腔鏡下手術の手技トレーニングを行うことが可能である。そして、上記特許文献1のシミュレータへの臓器モデルの取り付け方法としては、例えば、係合部が設けられた把持部材を用いるとしている。特許文献1のシミュレータは、仰臥位でのトレーニングを前提としている。
【0003】
一方、側臥位でのトレーニングを可能とする技術として、胸腔シミュレータを傾けた状態で、臓器モデルを安定的に固定でき、取り付け、取り外し及び位置調整が容易な臓器モデル固定具が知られている(特許文献2を参照)。これは、少なくとも背骨と胸骨と肋骨を模擬した人体骨格モデルを備える胸腔シミュレータに対し、臓器モデルの姿勢を固定する固定具であり、これによれば、側臥位でのトレーニングにおいて、適切な角度で臓器モデルを固定できるとする。
【0004】
特許文献1のシミュレータでは、臓器モデルは係合部が設けられた把持部材を用いてシミュレータ自体に取り付けるものである。また、特許文献2の臓器モデル固定具についても、胸腔シミュレータに直接取り付けるものである。したがって例えば特許文献1のシミュレータの一部に仕様変更が生じた場合には、把持部材の取付部位についても新しく作製する必要が生じる。同様に例えば、特許文献2に開示される胸腔シミュレータの一部について仕様変更が生じた場合には、臓器モデル固定具の取付部位についても新しく作製する必要が生じる。
【0005】
近年盛んに実施されているロボット支援下手術では、人の手による内視鏡下手術とは異なり、人が操作しないようなポート・角度で鉗子等を挿入する場合があるため、従来のシミュレータでは、シミュレータの一部に鉗子等が干渉してしまい、適切なトレーニングが行えないという問題がある。また、ロボット支援下手術に用いるロボットは複数種類存在し、ロボットの種類に応じて、ポートの位置や、鉗子等の挿入角度が異なることがある。そのような多様なニーズに全て対応した1つのシミュレータを提供するのは、困難であるのが実情である。
したがって、複数種類のロボットによるロボット支援下手術に対応したシミュレータを提供するためには、各ロボットの仕様に対応したシミュレータを提供する必要がある。
しかしながら、複数種類のロボットに対応すべく、複数種類のシミュレータを、より人体に近い状態に再現しようとすると、作製コストがかかり過ぎるという問題がある。
【0006】
また、従来の手技トレーニング用のシミュレータは、胸腔を再現したものや、腹腔を再現したもののように、特定の用途に限られるものが多かった。
しかしながら、幅広い手術の対象部位や術式に対応した汎用性の高いトレーニング装置が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開パンフレットWO2015/151503号
【特許文献2】国際公開パンフレットWO2020/080318号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の手技トレーニング用のシミュレータでは、まず腹腔や胸腔を精巧に再現したシミュレータを作製し、作製されたシミュレータに合わせて臓器モデル固定具が設計されていた。そのため、シミュレータに取り付ける臓器モデル固定具は、シミュレータの形状等の仕様による制限の範囲内で設計する必要があった。また、トレーニングを行うためにはシミュレータ自体も安定的に保持する必要があるため、更に別途シミュレータを支持する専用の固定具も必要であった。
【0009】
しかしながら、そもそもトレーニング装置として重要なことは、シミュレータの設計をベースに考えることではなく、トレーニングの目的や内容を第一に検討し、当該トレーニングの目的を達成するために最も適切な形状等のシミュレータや、臓器モデル固定具を設計することにある。そしてその際には、1)多様な術式に対応できること、2)人の手による手技トレーニングだけでなくロボット支援下手術のトレーニングにも対応できること、3)ロボット支援下手術についても多様なロボットに対応できることが必要である。
本発明者らは鋭意検討の結果、シミュレータや臓器モデル固定具を安定的に支持する部材を設け、かかる部材に直接シミュレータや臓器モデル固定具を取り付け固定することで、多様なトレーニングに対応できるとの知見を得た。
かかる状況に鑑みて、本発明は、内視鏡下手術とロボット支援下手術の何れにも対応可能でき、かつ、多様な部位や術式に対応できる汎用手技トレーニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明の汎用手技トレーニング装置は、身体の一部を模擬した立体的形状のシミュレータと、臓器モデルを固定する臓器モデル固定具と、取付部を有する平板状の台座部を備え、シミュレータは、身体の一部を模擬したシミュレータ本体と、台座部に固定する第1の固定部を有し、臓器モデル固定具は、臓器モデルを取り付ける臓器モデル固定具本体と、台座部に固定する第2の固定部を有し、台座部は、第1及び第2の固定部を取り付ける第1及び第2の取付部を有し、臓器モデルを取り付けた臓器モデル固定具とシミュレータを台座部に固定した状態下で、シミュレータ本体にて模擬された身体の一部と臓器モデルの3次元的位置関係が解剖学的に再現される。
【0011】
一般に、シミュレータに臓器モデル固定具を取り付ける構成では、臓器モデル固定具を安定的に固定し、かつ取付け・取外しを容易にするために、シミュレータ側と臓器モデル固定具側の双方について固定機構を工夫する必要があり、それは作製コストの増加につながる。
そこで、シミュレータに臓器モデル固定具を取り付けるのではなく、台座部にシミュレータと臓器モデル固定具をそれぞれ取り付けることにより、シミュレータと臓器モデル固定具の固定機構を設ける必要がなくなる。すなわち、シミュレータは台座部の取付部に適合した固定部を備えればよく、また、臓器モデル固定具についても台座部の取付部に適合した固定部を備えればよい。
【0012】
また、シミュレータと臓器モデル固定具を別々に取り付ける構成とすることにより、シミュレータと臓器モデル固定具を個別に設計でき、設計の自由度が高まる。したがって、シミュレータについてはロボットの種類に応じて複数種類のシミュレータを用意し、臓器モデル固定具については1種類の臓器モデル固定具を用いるといったことも可能である。また、シミュレータや臓器モデル固定具について、トレーニングに必要となる部位のみをリアルに再現し、トレーニングに影響の少ない部位については削除したりデフォルメしたりすることが容易となる。
なお、シミュレータ本体にて模擬された「身体の一部」とは、例えば胸腔シミュレータの場合には、肋骨、胸骨又は胸椎などのことである。
【0013】
第1又は第2の固定部は、1つである必要はなく、2つ以上で構成されてもよい。同様に、第1又は第2の取付部についても、1つである必要はなく、2つ以上で構成されてもよい。また、第1の取付部に第1の固定部を取り付け、第2の取付部に第2の固定部を取り付けるといった対応関係は必須ではなく、第1の取付部に第2の固定部を取り付け、第2の取付部に第1の固定部を取り付けてもよい。したがって例えば、台座部に第1の取付部が2つ、第2の取付部が1つ設けられ、シミュレータに第1の固定部が2つ、臓器モデル固定具に第2の取付部が1つ設けられる場合には、第1の取付部に第1の固定部を取り付け、第2の取付部に第2の固定部を取り付ける。これに対して、台座部に第1の取付部が2つ、第2の取付部が1つ設けられ、シミュレータに第1の固定部が1つ、臓器モデル固定具に第2の取付部が2つ設けられる場合には、第1の取付部に第2の固定部を取り付け、第2の取付部に第1の固定部を取り付ける。このように、シミュレータや臓器モデル固定具の形状等に合わせて、多様な取付方法を採用できる。
【0014】
本発明の汎用手技トレーニング装置において、シミュレータは、胸腔の左右何れかを模擬した胸腔シミュレータであり、臓器モデル固定具は、胸腔に対応する左右何れかの肺モデルを固定する肺モデル固定具であることが好ましい。
胸腔全体ではなく胸腔の左右何れかを模擬したシミュレータとすることで、トレーニングに必要となる部位のみをリアルに再現でき、作製コストを低減できる。例えば、右肺の上葉切除、中葉切除、下葉切除、又は縦郭リンパ節郭清術を行う場合には、右の胸腔を模擬した胸腔シミュレータと、右肺モデルを固定する肺モデル固定具を台座部に取り付けることでトレーニングが可能である。これに対して、左肺の上葉切除、下葉切除、又は縦郭リンパ節郭清術を行う場合には、左の胸腔を模擬した胸腔シミュレータと、左肺モデルを固定する肺モデル固定具を台座部に取り付けることでトレーニングが可能である。
【0015】
本発明の汎用手技トレーニング装置において、シミュレータ本体は、肋骨部、胸骨部及び胸椎部から成り、胸腔の左右何れかを模擬した胸腔部と、肋骨部の一部を支持する頭側支持部及び尾側支持部、胸椎部を支持する胸椎支持部、及び胸骨部を支持する胸骨支持部から成り、胸腔部を支持する支持部を備え、尾側支持部の最大高さは、尾側支持部が支持する肋骨部の最大高さより低いことが好ましい。
尾側支持部の最大高さが、尾側支持部が支持する肋骨部の最大高さより低いことにより、ロボット支援下手術において、尾側の低い角度から鉗子等を挿入する場合に、鉗子等が尾側支持部に干渉せず、効果的なトレーニングが可能となる。
【0016】
本発明の汎用手技トレーニング装置において、シミュレータ本体は、肋骨部、胸骨部及び胸椎部から成り、胸腔の左右何れかを模擬した胸腔部と、肋骨部の一部を支持する頭側支持部及び尾側支持部、胸椎部を支持する胸椎支持部、及び胸骨部を支持する胸骨支持部から成り、胸腔部を支持する支持部を備え、頭側支持部の最大高さは、頭側支持部が支持する肋骨部の最大高さより低いことが好ましい。
頭側支持部の最大高さが、頭側支持部が支持する肋骨部の最大高さより低いことにより、ロボット支援下手術において、頭側の低い角度から鉗子等を挿入する場合に、鉗子等が頭側支持部に干渉せず、効果的なトレーニングが可能となる。
【0017】
本発明の汎用手技トレーニング装置において、第1の固定部は2つ、第2の固定部は1つで構成され、また、第1の取付部は2つ、第2の取付部は1つで構成され、第1の取付部に第1の固定部を取り付け、第2の取付部に第2の固定部を取り付けることが好ましい。胸腔シミュレータを2箇所で固定することにより、安定的に固定できる。また、肺モデル固定具を1箇所で固定することにより、脱着が容易となる。
【0018】
本発明の汎用手技トレーニング装置において、シミュレータ本体は、肋骨部、胸骨部及び胸椎部から成り、胸腔の左右何れかを模擬した胸腔部と、肋骨部の一部を支持する頭側支持部及び尾側支持部、胸椎部を支持する胸椎支持部、及び胸骨部を支持する胸骨支持部から成り、胸腔部を支持する支持部、を備え、尾側支持部は、胸椎支持部に接続される背側部材と、胸骨支持部に接続される胸側部材、から成り、胸側部材は、胸側部材の一部がヒンジ部を介して開閉可能に背側部材と接続され、又は、胸側部材の一部が脱着可能に背側部材と接続されることでもよい。
尾側支持部の一部が、開閉可能又は取付け・取外し可能な構造とされることにより、ロボット支援下手術において、尾側の低い角度から鉗子等を挿入する場合に、鉗子等が尾側支持部に干渉せず、より効果的なトレーニングが可能となる。開閉可能又は脱着可能とされる胸側部材の一部は、打掛錠や螺子等の公知の留め具を用いて、背側部材と係合することが好ましい。胸側部材と背側部材の固定部位は、固定時の安定性を向上するために、嵌合して固定し得る構造であることが好ましい。胸側部材の一部が、開放され又は取り外された状態では、当該胸側部材は、支持する肋骨部の一部の支持状態が解除されてもよい。かかる場合、支持状態が解除される肋骨部は、第十肋骨部であることが好ましい。これにより、第十肋骨部近傍に大きな空間が形成され、鉗子等の挿入の自由度が向上し、多様なトレーニングに対応可能となる。
【0019】
本発明の汎用手技トレーニング装置において、尾側支持部は、胸椎支持部又は背側部材と胸側部材を接続する梁部材を更に備えることでもよい。梁部材を備えることにより、胸側部材の一部が、開放され又は取り外された状態であっても、背側部材と胸側部材の安定性が向上し、胸腔部を安定的に支持できる。梁部材は、シミュレータ本体の底部において、肺モデル固定具と干渉しない位置に設けられる。
【0020】
本発明の汎用手技トレーニング装置において、胸骨支持部と胸側部材は、胸腔部の鳩尾に相当する位置の近傍に間隙を設けて接続されることでもよい。鳩尾に相当する位置の近傍に間隙が設けられることにより、身体の一部をより正確に再現でき、ロボット支援下手術において、尾側の低い角度から鉗子等を挿入する場合に、鉗子等が尾側支持部に干渉せず、より効果的なトレーニングが可能となる。
【0021】
本発明の汎用手技トレーニング装置において、胸側部材の内、肋骨部を支持する部位は、接続部材として分離して肋骨部に固定され、開閉可能な胸側部材の一部と嵌合させて固定し得ることでもよい。胸側部材の内、肋骨部に固定する部位のみを分離することにより、胸側部材の一部が、開放され又は取り外された際に、より多くの間隙を設けることができ、多様な角度から鉗子等を挿入することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の汎用手技トレーニング装置によれば、内視鏡下手術とロボット支援下手術の何れにも対応可能でき、かつ、多様な部位や術式に対応できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1の汎用手技トレーニング装置の斜視図
【
図2】実施例1の汎用手技トレーニング装置の外観図(1)
【
図3】実施例1の汎用手技トレーニング装置の外観図(2)
【
図4】実施例1の汎用手技トレーニング装置の外観図(3)
【
図14】実施例1の汎用手技トレーニング装置の使用フロー
【
図18】肺モデル取付後の汎用手技トレーニング装置の外観図(1)
【
図19】肺モデル取付後の汎用手技トレーニング装置の平面図
【
図20】実施例1の汎用手技トレーニング装置と比較例の胸腔シミュレータの比較説明図
【
図21】実施例1の胸腔シミュレータへの医療器具の挿入イメージ図(1)
【
図22】実施例1の胸腔シミュレータへの医療器具の挿入イメージ図(2)
【
図23】比較例の胸腔シミュレータへの医療器具の挿入イメージ図
【
図25】実施例2の胸腔シミュレータの頭側から見た斜視図
【
図26】実施例2の胸腔シミュレータの尾側から見た斜視図
【
図27】実施例2の胸腔シミュレータの正面図及び背面図
【
図30】実施例2の胸腔シミュレータの右側面図及び左側面図
【
図31】実施例2の尾側支持部の開放状態を示す正面図
【
図32】実施例2の尾側支持部の開放状態を示す斜視図
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0025】
図1~4は、実施例1の汎用手技トレーニング装置の外観図であり、
図1は斜視図、
図2(1)は正面図、
図2(2)は背面図、
図3(1)は平面図、
図3(2)は底面図、
図4(1)は右側面図、また
図4(2)は左側面図を示している。
図1に示すように、汎用手技トレーニング装置1は、身体の一部を模擬したシミュレータとしての胸腔シミュレータ2、台座部としての台座3、及び、臓器モデルを固定する臓器モデル固定具としての肺モデル固定具4で構成され、台座3上に、胸腔シミュレータ2及び肺モデル固定具4を取り付けてトレーニングを行うものである。
【0026】
台座3は、台座本体30、取付部31及び滑り止め部材32から成る。
図2(1)及び(2)に示すように、取付部31は、取付部(31a~31c)で構成され、本実施例では取付部(31a,31b)は第1の取付部として機能し、取付部31cは第2の取付部として機能する。
図3(2)に示すように、滑り止め部材32として、台座本体30の裏面に6つの滑り止め部材(32a~32f)が設けられている。滑り止め部材(32a~32f)はゴム素材で形成され、トレーニング時において胸腔シミュレータ2や肺モデル固定具4を安定的に支持する。
【0027】
胸腔シミュレータ2は、支持部としての枠部5、胸腔部6及び嵌合部21から成る。枠部5及び胸腔部6はシミュレータ本体、嵌合部21は、第1の固定部として機能する。枠部5の材質は、カーボン粉末入りナイロン素材である。胸腔部6の材質は、ウレタンである。嵌合部21の材質は、カーボン粉末入りナイロン素材である。
図5~9は、実施例1の胸腔シミュレータの外観図であり、
図5は斜視図、
図6(1)は正面図、
図6(2)は背面図、
図7は平面図、
図8は底面図、
図9(1)は右側面図、また
図9(2)は左側面図を示している。
図1に示す枠部5は、
図5,7,8に示すように、頭側支持部51、尾側支持部52、胸椎支持部53及び胸骨支持部54から成り、頭側支持部51と胸椎支持部53、頭側支持部51と胸骨支持部54、尾側支持部52と胸椎支持部53、又は尾側支持部52と胸骨支持部54が、各端部において接続されている。
嵌合部21は2つの嵌合部で構成される。すなわち
図8に示すように、胸椎支持部53の底部には嵌合部21aが設けられ、胸骨支持部54の底部には嵌合部21bが設けられる。
図9(1)及び(2)に示すように、嵌合部(21a,21b)には凹部7bが設けられ、台座3への取付け・取外しや固定が容易な構造となっている。
【0028】
図5,7,8に示すように、
図1に示す胸腔部6は、肋骨部60、胸椎部61及び胸骨部62から成り、肋骨部60は、第一肋骨部6a、第二肋骨部6b、第三肋骨部6c、第四肋骨部6d、第五肋骨部6e、第六肋骨部6f、第七肋骨部6g、第八肋骨部6h、第九肋骨部6i、第十肋骨部6j、第十一肋骨部6k、第十二肋骨部6lから成る。
図7に示すように、第四肋骨部6d、第五肋骨部6e、第六肋骨部6f、第七肋骨部6g、第八肋骨部6h、第九肋骨部6i、第十肋骨部6j、第十一肋骨部6k及び第十二肋骨部6lの一端は胸椎部61に接合される。第一肋骨部6a、第二肋骨部6b、第三肋骨部6c、第四肋骨部6d、第五肋骨部6e、第六肋骨部6f、第七肋骨部6g、第八肋骨部6h、第九肋骨部6i及び第十肋骨部6jの一端は胸骨部62に接合される。
【0029】
図6(1)に示すように、第十肋骨部6j、第十一肋骨部6k又は第十二肋骨部6lの他端は、それぞれ接続部(52a~52c)において留め具7を用いて尾側支持部52と接続固定される。そして、
図6(1)又は
図9(2)に示すように、尾側支持部52の最大高さH
2は、尾側支持部52が支持する第十肋骨部6j、第十一肋骨部6k又は第十二肋骨部6lの最大高さH
1より低く設けられる。これにより、尾側から鉗子等の医療器具を挿入する際において、挿入角度の自由度が向上する。
また、
図6(2)に示すように、第一肋骨部6a、第二肋骨部6b又は第三肋骨部6cの他端は、それぞれ接続部(51a~51c)において留め具7を用いて頭側支持部51と接続固定される。そして、
図6(2)又は
図9(1)に示すように、頭側支持部51の最大高さH
4は、頭側支持部51が支持する第一肋骨部6a、第二肋骨部6b又は第三肋骨部6cの最大高さH
3より低く設けられる。これにより、頭側から鉗子等の医療器具を挿入する際において、挿入角度の自由度が向上する。
【0030】
図10~12は、実施例1の肺モデル固定具の外観図であり、
図10は斜視図、
図11(1)は正面図、
図11(2)は底面図、
図12(1)は右側面図、また
図12(2)は左側面図を示している。
図10に示す肺モデル固定具4は右肺を模擬した臓器モデルを取付可能な固定具であり、縦隔部41、支持部42及び嵌合部43から成る。縦隔部41と支持部42、支持部42と嵌合部43はそれぞれ接続固定されている。縦隔部41、支持部42及び嵌合部43の材質は、カーボン粉末入りナイロン素材である。
表面が平板状の縦隔部41は、右肺を模擬した臓器モデルを取付け可能である。
図11(1)又は(2)に示すように、支持部42又は嵌合部43に対して、縦隔部41が左方に幅広に設けられるのは、臓器モデル固定後に、肺モデル固定具4を台座3に取り付けた際の臓器モデルと胸腔シミュレータの解剖学的な位置関係を考慮したことによる。
図12(1)又は(2)に示すように、嵌合部43には計4つの凹部7bが設けられ、台座3への取付け・取外しや固定が容易な構造となっている。嵌合部43は、第2の固定部として機能する。
【0031】
図13は、肺モデルの斜視図を示している。
図13に示す肺モデル8は、上葉切除術、中葉切除術、下葉切除術又は縦郭リンパ節郭清術を行う際に、側臥位となった状態での右肺を模擬した肺葉切除モデルであり、肺葉部81、上葉部82、中葉部83及び下葉部84から成る。
肺葉部81は、術中の右肺の下部をデフォルメしたものであり、上葉部82、中葉部83及び下葉部84は、術中の右肺の上部をより詳細に再現したものである。何れも肺のスポンジのような質感を忠実に再現しており、電気メスを含むエネルギーデバイスやステイプラーなど一連の器械操作が可能である。なおここでは図示しないが肺モデル8は、気管支、静脈、動脈、リンパ節、神経及び胸膜についても再現されている。
【0032】
ここで実施例1の汎用手技トレーニング装置の使用方法について説明する。
図14は、実施例1の汎用手技トレーニング装置の使用フローを示している。
図14に示すように、まず、肺モデル固定具4に肺モデル8を取付ける(ステップS01)。
図15は、肺モデルの取付説明図であり、(1)は取付前、(2)は取付後の状態を示している。
図15(1)に示すように、肺モデル固定具4の縦隔部41の表面上に肺モデル8を取付ける。縦隔部41の表面は肺モデル8の底面全体を覆うことのできる面積を有しており、肺モデル8を安定的に支持できる。
【0033】
次に、台座3に肺モデル固定具4を取付ける(ステップS02)。
図16は、肺モデル固定具の取付説明図を示している。
図16に示すように、取付部31cには複数の凸部7aが設けられている。したがって、台座3に肺モデル固定具4を取り付ける際には、取付部31cに上方から嵌合部43を嵌合した上で、矢印11aの方向にスライドすることで、凹部7b(
図12参照)が凸部7aと係合し、容易に固定することができる。なおこれとは逆に、台座3から肺モデル固定具4を取り外す際には、矢印11bの方向にスライドすることで、凹部7bと凸部7aの係合状態を解除でき、容易に上方に取り外すことができる。
【0034】
台座3に肺モデル固定具4を取付けた後、台座3に胸腔シミュレータ2を取付ける(ステップS03)。
図17は、胸腔シミュレータの取付説明図であり、(1)は取付前、(2)は取付後の状態を示している。
図17(1)に示すように、台座3に胸腔シミュレータ2を取り付ける際には、台座3の上方から取付部(31a,31b)に矢印11cの方向に嵌合部(21a,21b)を嵌合した上で、矢印11dの方向にスライドすることで、嵌合部(21a,21b)の凹部7b(
図9参照)が取付部(31a,31b)の凸部7a(
図16参照)と係合し、容易に固定することができる。なおこれとは逆に、台座3から胸腔シミュレータ2を取り外す際には、矢印11eの方向にスライドすることで、凹部7bと凸部7aの係合状態を解除でき、容易に矢印11fの方向に取り外すことができる。
【0035】
図17(2)に示すように、台座3に肺モデル固定具4及び胸腔シミュレータ2を取り付けた後、鉗子等を挿入してトレーニングを行う(ステップS04)。
図18及び
図19は、肺モデル取付後の汎用手技トレーニング装置の外観図であり、
図18(1)は正面図、
図18(2)は背面図、
図19は平面図を示している。
図18及び19に示すように、肺モデル固定具4に肺モデル8を取り付け、かつ台座3に胸腔シミュレータ2及び肺モデル固定具4を固定した状態において、胸腔シミュレータ2において模擬された肋骨部60、胸椎部61及び胸骨部62と、肺モデル固定具4に取り付けられた肺モデル8の3次元的位置関係が解剖学的に再現されている。このように、胸腔シミュレータ2と肺モデル固定具4を直接固定するのではなく、台座3を介して固定することにより、トレーニングの目的や内容に合わせてシミュレータや固定具を個別に設計できる。また、当該トレーニングに必要な部位については精巧に再現し、不要な部位については部位をデフォルメし、若しくは再現しないといったことも容易にできる。
【0036】
図20は、実施例1の汎用手技トレーニング装置と比較例の胸腔シミュレータの比較説明図であり、(1)は実施例1の汎用手技トレーニング装置、(2)は比較例の胸腔シミュレータを示している。
図20(2)に示すように、比較例の胸腔シミュレータ100は、胸腔全体を再現したシミュレータであり、肋骨部600の内側に肺モデル固定具400を取り付けてトレーニングを行うものである。胸腔シミュレータ100では右胸腔に当たる部位A
1と左胸腔に当たる部位A
2の双方を再現するため、肺モデル固定具400を設計する際には、胸腔シミュレータ100の形状や仕様に適合させる必要がある。これに対して、
図20(1)に示すように、実施例1の汎用手技トレーニング装置1では、右胸腔に当たる部位A
1のみが再現されている。これは、例えば右肺の肺葉切除術のトレーニングを行う場合であれば、本来は右胸腔が正確に再現されていればよく、左胸腔については大幅にデフォルメしたり、削除したりしてもよいからである。
【0037】
また、
図20(2)では台座等は図示していないが、胸腔シミュレータ100では頭側支持部501や尾側支持部502を支持するための専用の固定具が必要となる。胸腔シミュレータ100を専用の固定具に取り付ける場合、頭側支持部501や尾側支持部502が胸腔シミュレータ2における嵌合部(21a,21b)と同様の役割を果たすことになるため、固定具に安定的に固定できるだけの高い強度が、頭側支持部501及び尾側支持部502に求められる。そのため例えば、胸腔シミュレータ100の尾側支持部502の厚みT
2は、胸腔シミュレータ2の尾側支持部52の厚みT
1よりも、大きく設けられている。しかしながら、ロボット支援下手術では、人の手による内視鏡下手術とは異なり、人が操作しないようなポート・角度で鉗子等を挿入する場合があるため、尾側支持部502の厚みT
2が大きく設けられると、尾側支持部502に鉗子等が干渉してしまい、適切なトレーニングが行えないという問題がある。
【0038】
胸腔シミュレータへの医療器具の挿入イメージについて、人の手による場合とロボットアームによる場合の違いや、実施例1の胸腔シミュレータへ挿入する場合と比較例の胸腔シミュレータへ挿入する場合の違いについて、
図21~23を参照しながら説明する。
図21及び
図22は、実施例1の胸腔シミュレータへの医療器具の挿入イメージ図であり、
図21は斜視図、
図22は左側面図を示している。それぞれ(1)は人の手による医療器具の挿入イメージ、(2)はロボットアームによる医療器具の挿入イメージを示している。また、
図23は、比較例の胸腔シミュレータへの医療器具の挿入イメージ図であり、(1)は頭側からの斜視図、(2)は左側面図を示している。
【0039】
人の手により医療器具を挿入する場合について、
図21(1)では、第四肋骨部6dと第五肋骨部6eの間すなわち第四肋間の位置に鉗子9aを挿入し、第七肋骨部6gと第八肋骨部6hの間すなわち第七肋間の位置に鉗子9bを挿入している。また、第六肋骨部6fと第七肋骨部6gの間すなわち第六肋間の位置にトロカール12aを挿入している。トロカール12a内には別途、内視鏡などを挿入する。
ロボットアームにより医療器具を挿入する場合について、
図21(2)では、第七肋骨部6gと第八肋骨部6hの間すなわち第七肋間の位置にはトロカール12bを挿入し、トロカール12b内に鉗子9cを挿入している。第八肋骨部6hと第九肋骨部6iの間すなわち第八肋間の位置にはトロカール12cを挿入している。トロカール12c内には別途、内視鏡などを挿入する。第九肋骨部6iと第十肋骨部6jの間すなわち第九肋間の位置にはトロカール12dを挿入し、トロカール12d内に鉗子9dを挿入している。また、第十肋骨部6jと第十一肋骨部6kの間すなわち第十肋間の位置にはトロカール12eを挿入している。トロカール12e内には別途、内視鏡などを挿入する。
【0040】
図22(1)に示すように、人の手により医療器具を挿入する場合は、矢印(11g,11h)のように、比較的垂直に近い方向から鉗子等が挿し込まれるのに対して、
図22(2)に示すように、ロボットアームにより医療器具を挿入する場合は、矢印(11i,11j)のように、比較的水平に近い方向から鉗子等が挿し込まれることがある。
したがって、
図23(1)又は(2)に示すように、比較例の胸腔シミュレータ100を用いてロボット支援下手術のトレーニングを行う場合、例えば第九肋骨部600iと第十肋骨部600jの間すなわち第九肋間の位置に鉗子9eを挿入すると、部位A
3において尾側支持部502に鉗子9eが干渉してしまい、スムーズにトレーニングが行えなくなる。
【0041】
これに対して、実施例1の胸腔シミュレータ2では、
図20(1)に示すように、尾側支持部52の厚みT
1が小さく設けられ、かつ
図6(1)又は
図9(2)に示すように、尾側支持部52の最大高さH
2は、尾側支持部52が支持する第十肋骨部6j、第十一肋骨部6k又は第十二肋骨部6lの最大高さH
1より低く設けられるため、挿入角度の自由度が高く、尾側支持部52に鉗子が干渉することを防止できる構造となっている。また、尾側支持部の幅についても、
図20(1)に示す尾側支持部52の幅W
1の方が、
図20(2)に示す尾側支持部502の幅W
2よりも狭く設けられ、上方向だけでなく左右方向についても挿入角度の自由度が高い構造となっている。