(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171326
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】燃料電池用撥水層の製造方法、燃料電池用撥水層及びそれを用いた燃料電池用ガス拡散層
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20241204BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20241204BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20241204BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241204BHJP
【FI】
H01M4/88 H
H01M4/86 H
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M8/1004
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084227
(22)【出願日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2023199432
(32)【優先日】2023-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023087753
(32)【優先日】2023-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 哲賜
(72)【発明者】
【氏名】神谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩
(72)【発明者】
【氏名】秋元 裕介
(72)【発明者】
【氏名】米倉 弘高
(72)【発明者】
【氏名】柴田 幸弘
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB03
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE05
5H018EE18
5H018EE19
5H018HH01
5H018HH05
5H018HH08
5H018HH09
5H126AA02
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】分散剤を使用せずに、高い剥離強度を有する撥水層を作製することが可能な燃料電池用撥水層の製造方法を提供すること。
【解決手段】特定の親水性カーボン粒子の粉末(A)と特定のフッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が特定の割合である混合粉末を、乾式成膜法により成膜して混合粉末層を形成する成膜工程と、
前記混合粉末層を特定の圧力で加圧して圧密化する圧密工程と、
前記圧密化後の混合粉末層を、特定の温度で焼成することにより、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層を得る撥水層形成工程と、
を含むことを特徴とする燃料電池用撥水層の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と平均粒子径が0.01~50μmのフッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)と前記粉末(B)との総量に対して17~40質量%である混合粉末を、乾式成膜法により成膜して混合粉末層を形成する成膜工程と、
前記混合粉末層を0.2~5MPaの条件で加圧して圧密化する圧密工程と、
前記圧密化後の混合粉末層を、前記フッ素系熱可塑性樹脂の融点に対して-60℃~+85℃の範囲内の温度で焼成することにより、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層を得る撥水層形成工程と、
を含むことを特徴とする燃料電池用撥水層の製造方法。
【請求項2】
分散剤を使用しないことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素系熱可塑性樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー及びポリビニリデンフルオライトからなる群から選択される少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【請求項4】
前記成膜工程において、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材の前記表面に、前記混合粉末を成膜することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【請求項5】
平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と平均粒子径が0.01~50μmのフッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)と前記粉末(B)との総量に対して17~40質量%である混合粉末の焼成物からなる撥水層であり、
前記焼成物が、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)との混合接合体からなるものであることを特徴とする燃料電池用撥水層。
【請求項6】
多孔質基材と、前記多孔質基材の表面上に積層された請求項5に記載の燃料電池用撥水層とを備えることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【請求項7】
前記多孔質基材が、前記撥水層中の前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有し、前記表面上に前記撥水層が積層されていることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の燃料電池用ガス拡散層中の前記撥水層と電解質膜電極接合体中の触媒層とを、フッ素系界面活性剤を介して接合して、前記ガス拡散層と前記電解質膜電極接合体とを備える燃料電池用の電解質膜電極ガス拡散層接合体を得ることを特徴とする燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体の製造方法。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の燃料電池用ガス拡散層と電解質膜電極接合体とを備えており、
前記ガス拡散層中の撥水層と前記電解質膜電極接合体中の触媒層とがフッ素系界面活性剤を介して接合されていることを特徴とする燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用撥水層の製造方法、燃料電池用撥水層及びそれを用いた燃料電池用ガス拡散層に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、通常、電解質膜の両面に触媒層を含む電極が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位として備える。ここにおいて、電極は、一般に、ガス拡散層と触媒層の二層構造をとる。このようなガス拡散層は、電極反応の反応場である触媒層に対して、反応ガス及び電子を供給するために利用されることから、従来より、ガス透過性と、水の管理が可能となるような特性(例えば撥水性)とを有することが求められている。そのため、ガス拡散層には、一般に、カーボンペーパー、カーボンクロス等の多孔質基材と、かかる多孔質基材の表面に積層された撥水層とを備えるものが利用されている。
【0003】
このような燃料電池用の撥水層の製造方法として、例えば、特開2021-2444号公報(特許文献1)には、球形化黒鉛からなる第1粒子と、前記第1粒子よりも粒径が小さい微粒状のカーボンを含む第2粒子と、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性高分子とを備え、かつ、前記第1粒子の表面に、前記撥水性高分子を介して前記第2粒子が結合している造粒体を調製する工程と、粉体塗装装置を用いて基材表面に前記造粒体を塗工する工程と、得られた塗膜を熱処理する工程とを備える方法が開示されている。
【0004】
また、特開2010-33895号公報(特許文献2)には、導電性炭素粒子、非ポリマー系フッ素材料、フッ素系樹脂、分散剤及び水を含有し、かつ非ポリマー系フッ素材料が前記水中に分散状態で存在しているペースト組成物を、燃料電池用導電性多孔質基材表面に塗布する工程、並びに前記ペースト組成物を乾燥及び焼成する工程を備えた、ガス拡散層の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-2444号公報
【特許文献2】特開2010-33895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で製造された撥水層は、撥水性高分子と球形化黒鉛や微粒状のカーボンとの親和性が低いため、剥離強度(撥水層自身の膜強度と基材に対する接合強度)が必ずしも十分なものではなかった。また、特許文献2に記載のガス拡散層の製造方法では、ペースト組成物を調製する際に分散剤を使用しているため、前記ペースト組成物を塗布した後に、前記分散剤を分解除去するための加熱設備が必要であり、また、前記分解除去により発生するCO2による環境問題やエネルギー効率の点で改良の余地があった。さらに、特許文献2に記載の方法において、分散剤を使用しなかった場合には、多孔質基材表面にペースト組成物を成膜することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、分散剤を使用せずに、高い剥離強度(撥水層自身の膜強度と基材に対する接合強度)を有する撥水層を作製することが可能な燃料電池用撥水層の製造方法、この方法により得られた、基材に対して高い剥離強度を有する燃料電池用撥水層、及びこの撥水層を備える燃料電池用ガス拡散層を提供することを目的とする。また、本発明は、このようなガス拡散層と電解質膜電極接合体とが高い接合強度で接合された燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、親水性カーボン粒子の粉末(A)とフッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)とを特定の割合で含む混合粉末を、乾式成膜法により成膜することにより混合粉末層を形成し、前記混合粉末層を特定の圧力で加圧して圧密化し、圧密化した前記混合粉末層を特定の温度で焼成することによって、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)との混合接合体からなり、高い剥離強度を有する撥水層が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者らは、フッ素系界面活性剤を用いることによって、前記撥水層と電解質膜電極接合体の触媒層とを高い接合強度で接合できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0010】
[1]平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と平均粒子径が0.01~50μmのフッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)と前記粉末(B)との総量に対して17~40質量%である混合粉末を、乾式成膜法により成膜して混合粉末層を形成する成膜工程と、
前記混合粉末層を0.2~5MPaの条件で加圧して圧密化する圧密工程と、
前記圧密化後の混合粉末層を、前記フッ素系熱可塑性樹脂の融点に対して-60℃~+85℃の範囲内の温度で焼成することにより、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層を得る撥水層形成工程と、
を含む、燃料電池用撥水層の製造方法。
【0011】
[2]分散剤を使用しない、[1]に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【0012】
[3]前記フッ素系熱可塑性樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー及びポリビニリデンフルオライトからなる群から選択される少なくとも一種の樹脂である、[1]又は[2]に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【0013】
[4]前記成膜工程において、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材の前記表面に、前記混合粉末を成膜する、[1]~[3]のうちのいずれか一項に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【0014】
[5]平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と平均粒子径が0.01~50μmのフッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)と前記粉末(B)との総量に対して17~40質量%である混合粉末の焼成物からなる撥水層であり、
前記焼成物が、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)との混合接合体からなるものである、燃料電池用撥水層。
【0015】
[6]多孔質基材と、前記多孔質基材の表面上に積層された、[5]に記載の燃料電池用撥水層とを備える、燃料電池用ガス拡散層。
【0016】
[7]前記多孔質基材が、前記撥水層中の前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有し、前記表面上に前記撥水層が積層されている、[6]に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【0017】
[8][6]又は[7]に記載の燃料電池用ガス拡散層中の前記撥水層と電解質膜電極接合体中の触媒層とを、フッ素系界面活性剤を介して接合して、前記ガス拡散層と前記電解質膜電極接合体とを備える燃料電池用の電解質膜電極ガス拡散層接合体を得る、燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体の製造方法。
【0018】
[9][6]又は[7]に記載の燃料電池用ガス拡散層と電解質膜電極接合体とを備えており、
前記ガス拡散層中の撥水層と前記電解質膜電極接合体中の触媒層とがフッ素系界面活性剤を介して接合されている、燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分散剤を使用せずに、高い剥離強度(撥水層自身の膜強度と基材に対する接合強度)を有する燃料電池用撥水層及びこの撥水層を備える燃料電池用ガス拡散層を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の電解質膜電極ガス拡散層接合体の一実施態様の断面を示す模式図である。
【
図2】実施例及び比較例で用いた親水性カーボン粒子と疎水性カーボン粒子をそれぞれ水(メタノール濃度:0質量%)に加えた際の分散状態を示す写真である。
【
図3】実施例4及び8、比較例4及び5で得られた撥水層の剥離強度を示すグラフである。
【
図4】焼成温度と撥水層の剥離強度との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例4及び実施例14で得られたカーボンペーパーと撥水層との積層体の剥離強度試験後の剥離面を示す光学写真(上段:実施例4、下段:実施例14)である。
【
図6】粒子の配合比(親水化CB粒子/樹脂粒子)と撥水層の剥離強度との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例4で得られた撥水層表面のSEM-EDS像(元素マッピング像)を示す電子顕微鏡写真である。
【
図8】実施例8で得られた撥水層表面のSEM-EDS像(元素マッピング像)を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
〔燃料電池用撥水層の製造方法〕
本発明の燃料電池用撥水層の製造方法は、
平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と平均粒子径が0.01~50μmのフッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)と前記粉末(B)との総量に対して17~40質量%である混合粉末を、乾式成膜法により成膜して混合粉末層を形成する成膜工程と、
前記混合粉末層を0.2~5MPaの条件で加圧して圧密化する圧密工程と、
前記圧密化後の混合粉末層を、前記フッ素系熱可塑性樹脂の融点に対して-60℃~+85℃の範囲内の温度で焼成することにより、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層を得る撥水層形成工程と、
を含む方法である。以下、各工程を分けて説明する。
【0023】
(成膜工程)
本発明にかかる成膜工程は、前記粉末(A)と前記粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して17~40質量%である混合粉末を乾式成膜法により成膜する工程であり、これにより混合粉末層が形成される。
【0024】
前記粉末(A)は、平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子により構成される粉末である。このような親水性カーボン粒子としては、例えば、カーボン粒子の表面に水酸基やカルボキシル基等の親水性基を有するものが挙げられ、カーボン粒子に公知の親水性処理(オープンコロナ放電処理、水蒸気酸化処理、酸処理等)を施すことにより得ることができる。カーボン粒子の「親水性」や「疎水性」等の特性は、いわゆる、Methanol Wettability法(落合満、エアロゾル研究、1990年発行、vol.5、P.32-P.43参照)により評価することができる。具体的には、水(メタノール濃度:0質量%)及びメタノール濃度の異なるメタノール水溶液を準備し、水及び各濃度のメタノール水溶液にカーボン粒子を静かに加え、数十回軽く振った場合に、水又はメタノール水溶液中にカーボン粒子が分散する際のメタノール濃度(カーボン粒子が分散する水溶液のうち、メタノール濃度が最も低いものにおけるメタノールの濃度:水の場合は0となる)を求め、このメタノール濃度が2質量%未満である場合には、そのカーボン粒子は「親水性」であると評価し、他方、前記メタノール濃度が2質量%以上である場合(メタノール濃度が2質量%以上のメタノール水溶液にカーボン粒子を加えた場合に、メタノール水溶液中にカーボン粒子が分散する場合)には、そのカーボン粒子は「疎水性」であると評価する。
【0025】
前記親水性カーボン粒子の平均粒子径としては、0.002~50μmであることが必要であり、0.002~30μmであることが好ましく、0.002~10μmであることがより好ましく、0.002~1μmであることが更に好ましい。前記親水性カーボン粒子の平均粒子径が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、ガス拡散性が向上するため、発電性能が向上し、他方、前記親水性カーボン粒子の平均粒子径が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、電子抵抗が低減するため、発電性能が向上する。なお、前記親水性カーボン粒子の平均粒子径は、粒度分布測定装置を用いて測定したり、電子顕微鏡により無作為に選択した500個の粒子の粒子径を測定して平均化したりすることにより、求めることができる。また、本発明においては、平均粒子径が前記範囲内にある親水性カーボン粒子として、市販品を使用することができる。
【0026】
前記粉末(B)は、平均粒子径が0.01~50μmのフッ素系熱可塑性樹脂粒子により構成される粉末である。このようなフッ素系熱可塑性樹脂粒子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点:327℃)粒子、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP、融点:260℃)粒子、ポリビニリデンフルオライト(PVDF、融点:151~178℃)粒子等が挙げられる。これらのフッ素系熱可塑性樹脂粒子は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらのフッ素系熱可塑性樹脂粒子の中でも、親水性カーボンブラックの表面官能基との何らかの相互作用により剥離強度が向上するという観点から、PTFE、FEPが好ましい。
【0027】
前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径としては、0.01~50μmであることが必要であり、0.01~40μmであることが好ましく、0.01~30μmであることがより好ましい。前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、前記混合粉末中の樹脂粒子の分散性がより高くなり、最終的に得られる撥水層において、前記親水性カーボン粒子と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子とがより均一に分散された状態となるため、燃料電池の発電性能が向上する。なお、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、粒度分布測定装置を用いて測定したり、電子顕微鏡により無作為に選択した500個の粒子の粒子径を測定して平均化したりすることにより、求めることができる。また、本発明においては、平均粒子径が前記範囲内にあるフッ素系熱可塑性樹脂粒子として、市販品を使用することができる。
【0028】
前記混合粉末は、前記粉末(A)と前記粉末(B)とを含むものである。このような混合粉末において、前記粉末(B)の含有量は、前記粉末(A)と前記粉末(B)との総量に対して、17~40質量%であることが必要であり、20~30質量%であることが好ましい。前記粉末(B)の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、剥離強度が向上し、他方、前記粉末(B)の含有量が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、剥離強度が向上するとともに、撥水層の電子抵抗が燃料電池用途への利用が困難となるほど増大することがなく、より利便性の高い撥水層を形成することが可能となる。
【0029】
また、前記混合粉末には、得られる撥水層の機能及び本発明の効果を阻害しない範囲で、前記粉末(A)及び前記粉末(B)以外の他の成分からなる粉末を含んでいてもよい。
【0030】
さらに、前記混合粉末においては、前記粉末(A)の平均粒子径に対する前記粉末(B)の平均粒子径の比率([前記粉末(B)の平均粒子径]/[前記粉末(A)の平均粒子径])が、0.01/0.002~50/50であることが好ましく、0.01/0.002~40/30であることがより好ましい。前記平均粒子径の比率が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、撥水層の剥離強度がより向上する傾向にあり、他方、前記平均粒子径の比率が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、撥水層の剥離強度がより向上する傾向にある。
【0031】
前記混合粉末は、前記粉末(A)と前記粉末(B)と、必要に応じて他の成分からなる粉末とを、所定の割合となるように混合することによって得ることができる。これらの粉末の混合方法としては特に制限はなく、例えば、市販の撹拌機を用いて攪拌混合する方法等、前記粉末(A)と前記粉末(B)と、必要に応じて他の成分からなる粉末とを、十分に均一に分散混合することが可能な公知の方法を適宜採用することができる。また、攪拌条件も特に制限はなく、適宜設定することができる。
【0032】
本発明にかかる成膜工程においては、前記混合粉末を乾式成膜法により成膜して前記混合粉末からなる層(混合粉末層)を形成する。前記混合粉末を乾式成膜法で成膜することによって、得られる混合粉末層においては、成膜前の前記混合粉末中の前記粉末(A)と前記粉末(B)との均一な分散状態が維持される。
【0033】
前記乾式成膜法としては特に制限はなく、例えば、静電スクリーン印刷法、静電塗装法等の公知の乾式成膜法を適宜採用することができるが、静電スクリーン印刷法が好ましく、所望の粒径を有する混合粉末をより容易に塗工(成膜)でき、しかも塗工後に得られる混合粉末層の厚みを所望の厚みに、より容易に調整できることから、塗膜を形成する被成膜基材(ガス拡散層用の多孔質基材等)の上方にスクリーンを配置し、前記スクリーン上に前記混合粉末を配置した後、押圧部材(スキージ等)を用いて前記混合粉末を前記スクリーンに擦り込むことにより、前記混合粉末を塗工して成膜する静電スクリーン印刷法がより好ましい。なお、前記乾式成膜法として前記静電スクリーン印刷を採用する場合、スクリーン(メッシュ)の種類や電圧の大きさ等の各種の成膜条件は、製造する撥水層の設計等に応じて適宜設定すればよく、公知の静電スクリーン印刷法で採用している条件を適宜採用することができる。
【0034】
前記成膜工程において、前記混合粉末を成膜する被成膜基材は、目的とする用途に応じて適宜選択することができ、特に制限はないが、例えば、最終的に撥水層を形成した後に得られる基材と撥水層との積層体をガス拡散層として使用する場合には、前記被成膜基材として、ガス拡散層用多孔質基材を用いることが好ましい。このような多孔質基材としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等が挙げられる。
【0035】
また、前記成膜工程においては、前記被成膜基材として、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材(例えば、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂で表面処理されたカーボンペーパー等)を用い、この多孔質基材の前記表面に前記混合粉末を成膜することが好ましい。これにより、得られる撥水層の強度が最も高くなる焼成温度と、前記撥水層と前記多孔質基材との界面強度が最も高くなる焼成温度とを一致させることができ、最終的に得られる撥水層と多孔質基材との接合強度を大幅に向上させることが可能となる。
【0036】
さらに、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材において、前記樹脂の被覆量としては、前記多孔質基材全体(被覆された樹脂量を含む)に対する前記樹脂の含有量で、1~20質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。前記樹脂の被覆量が前記下限未満になると、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材を用いる効果が十分に得られない傾向にあり、他方、前記樹脂の被覆量が前記上限を超えると、電子抵抗が高くなる傾向にある。
【0037】
また、前記成膜工程において、得られる混合粉末層の膜厚としては、5~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましい。前記混合粉末層の膜厚が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、最終的に形成される撥水層の排水性が更に向上し、燃料電池の発電性能が更に向上する傾向にあり、他方、前記混合粉末層の膜厚が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、最終的に形成される撥水層の電子抵抗が低減されるため、燃料電池の発電性能が更に向上する傾向にある。
【0038】
(圧密工程)
本発明にかかる圧密工程は、前記混合粉末層を0.2~5MPa(好ましくは0.3~4.5MPa、より好ましくは0.4~4MPa、更に好ましくは0.5~3.5MPa)の条件で加圧して圧密化する工程である。前記圧力が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、より効率よく圧密化できるとともに、前記親水性カーボン粒子同士の接触性が向上して電子抵抗が更に低くなり、所望の設計の構造体を製造することが可能となり、他方、前記圧力が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、多孔質基材を構成するカーボン繊維の破壊を十分に防止でき、圧密化の際に構造体の特性が十分に維持されるため、撥水層の剥離強度及び燃料電池の発電性能の両者が更に向上する。さらに、前記上限以下の圧力で圧密化することによって、圧密化後の前記混合粉末層においては、圧密化前の前記混合粉末層中の前記粉末(A)と前記粉末(B)との均一な分散状態が維持され、また、前記粉末(A)を構成する前記親水性カーボン粒子及び前記粉末(B)を構成する前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子が、原料として用いた粒子の平均粒子径を維持している。
【0039】
前記混合粉末層を加圧する際の加圧時間としては、10~600秒間が好ましく、20~300秒間がより好ましい。前記加圧時間が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、前記親水性カーボン粒子同士の接触性が更に向上して電子抵抗が更に低くなり、撥水層の剥離強度及び燃料電池の発電性能の両者が更に向上する傾向にあり、他方、前記加圧時間が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、多孔質基材を構成するカーボン繊維の破壊を十分に防止でき、圧密化の際に構造体の特性が十分に維持されるため、撥水層の剥離強度及び燃料電池の発電性能の両者が更に向上する傾向にある。さらに、前記上限以下の加圧時間で圧密化することによって、圧密化後の前記混合粉末層においては、圧密化前の前記混合粉末層中の前記粉末(A)と前記粉末(B)との均一な分散状態が維持される傾向にあり、また、前記粉末(A)を構成する前記親水性カーボン粒子及び前記粉末(B)を構成する前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子が、原料として用いた粒子の平均粒子径を維持する傾向にある。
【0040】
前記混合粉末層を加圧する方法としては特に制限はなく、例えば、平板プレス、ロールプレス等の公知の加圧方法(プレス方法)を適宜採用することができる。前記混合粉末層を加圧する際の温度条件についても特に制限はない。さらに、本発明においては、前記混合粉末層を加圧する方法として、加熱しながら加圧(プレス)を行う、ホットプレスを採用してもよい。
【0041】
このようにして圧密化された前記混合粉末層の厚みや空隙率等の条件は、最終的に得られる撥水層が所望の特性を有するように(例えば、BET比表面積が5m2/g~50m2/gとなるように)、前記粉末(A)及び前記粉末(B)の種類等に応じて適宜設定すればよく、これに応じて、圧密化する際の圧力、加圧時間、加圧温度等の加圧条件を適宜調整すればよい。
【0042】
(撥水層形成工程)
本発明にかかる撥水層形成工程は、前記圧密化後の前記混合粉末層を、前記フッ素系熱可塑性樹脂の融点に対して-60℃~+85℃(好ましくは-45℃~+85℃、より好ましくは-30℃~+80℃、更に好ましくは+10℃~+75℃、特に好ましくは+30℃~+70℃)の範囲内の温度で焼成する工程であり、これにより、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層が得られる。前記焼成温度が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、樹脂の溶融又は軟化により親水性カーボンブラックの表面官能基との間に何らかの相互作用が形成されるため、撥水層の剥離強度が向上する。特に、被成膜基材として、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材を用いた場合には、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と前記多孔質基材の表面の樹脂とが同じ焼成温度で溶融又は軟化するため、撥水層と多孔質基材との接合強度が大幅に増大する。他方、前記焼成温度が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、前記親水性カーボン粒子や前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の揮発や分解等による撥水層の重量減少を伴う構造崩壊がより確実に防止されるため、撥水層の剥離強度が向上する。さらに、前記上限以下の温度で焼成することによって、前記混合接合体においては、焼成前の前記混合粉末層中の前記粉末(A)と前記粉末(B)との均一な分散状態が維持され、また、前記粉末(A)を構成する前記親水性カーボン粒子及び前記粉末(B)を構成する前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子が、原料として用いた粒子の平均粒子径を維持している。
【0043】
前記焼成時の焼成時間としては特に制限はないが、例えば、1~120分間が好ましく、1~60分間がより好ましい。前記焼成時間が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、樹脂の溶融又は軟化により親水性カーボンブラックの表面官能基との間に何らかの相互作用が形成されるため、撥水層の剥離強度が向上する傾向にある。特に、被成膜基材として、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材を用いた場合には、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と前記多孔質基材の表面の樹脂とが同じ焼成時間で溶融又は軟化するため、撥水層と多孔質基材との接合強度が大幅に増大する傾向にある。他方、前記焼成時間が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、撥水層製造時のエネルギー効率が更に向上する傾向にある。さらに、前記上限以下の時間で焼成することによって、前記混合接合体においては、前記粉末(B)が熱分解されることなく、焼成前の前記混合粉末層中の前記粉末(A)と前記粉末(B)との均一な分散状態が維持される傾向にあり、また、前記粉末(A)を構成する前記親水性カーボン粒子及び前記粉末(B)を構成する前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子が、原料として用いた粒子の平均粒子径を維持する傾向にある。
【0044】
前記焼成時のガス雰囲気としては特に制限はなく、例えば、酸素を含んだ酸化性ガス雰囲気であっても、窒素等の不活性ガス雰囲気であってもよいが、コストの低減や作業性の向上の観点から、空気雰囲気が好ましい。また、前記焼成時の圧力条件としては特に制限はないが、コストの低減や作業性の向上の観点から、大気圧(常圧)が好ましい。
【0045】
このような焼成に用いられる加熱手段としては特に制限はなく、例えば、熱風炉、電気炉等の公知の加熱炉が挙げられる。
【0046】
このように、前記圧密化後の前記混合粉末層を焼成することによって得られる撥水層は、前記粉末(A)と前記粉末(B)とが互いに接合した混合接合体からなるものである。
【0047】
前記撥水層の膜厚としては特に制限はないが、5~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましい。前記撥水層の膜厚が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、触媒層と基材の間に撥水層をより確実に挟持することができるため、撥水層の剥離強度が更に向上する傾向にあるとともに、電子抵抗が低減するため、発電性能が更に向上する傾向にある。他方、前記撥水層の膜厚が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、電子抵抗が更に低減されるため、発電性能が更に向上する傾向にある。
【0048】
〔燃料電池用撥水層〕
本発明の燃料電池用撥水層は、
平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と平均粒子径が0.01~50μmのフッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)と前記粉末(B)との総量に対して17~40質量%である混合粉末の焼成物からなる撥水層であり、
前記焼成物は、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)との混合接合体からなるものである。
【0049】
ここで、本発明の燃料電池用撥水層を構成する、「親水性カーボン粒子」、「粉末(A)」、「フッ素系熱可塑性樹脂粒子」、「粉末(B)」、「混合粉末」、及び「混合接合体」は、前記本発明の燃料電池用撥水層の製造方法において説明したものと同様のものである(その好適な条件も同様である)。
【0050】
本発明の燃料電池用撥水層は、前記粉末(A)と前記粉末(B)と混合粉末の焼成物からなるものであり、前記焼成物は、前記粉末(A)と前記粉末(B)とが互いに接合した混合接合体からなるものである。
【0051】
前記混合粉末において、前記粉末(B)の含有量は、前記粉末(A)と前記粉末(B)との総量に対して、17~40質量%であることが必要であり、20~30質量%であることが好ましい。前記粉末(B)の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、撥水層の剥離強度が向上し、他方、前記粉末(B)の含有量が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、撥水層の剥離強度が向上するとともに、撥水層の電子抵抗が燃料電池用途への利用が困難となるほど増大することがなく、より利便性の高い撥水層を形成することが可能となる。本発明の燃料電池用撥水層においては、このような前記混合粉末における前記粉末(B)の含有量が前記混合粉末の焼成物においても維持されている。
【0052】
本発明の燃料電池用撥水層の膜厚としては特に制限はないが、5~100μmが好ましく、5~50μmがより好ましい。前記撥水層の膜厚が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、触媒層と基材の間に撥水層をより確実に挟持することができるため、撥水層の剥離強度が更に向上する傾向にあるとともに、電子抵抗が低減するため、発電性能が更に向上する傾向にある。他方、前記撥水層の膜厚が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、電子抵抗が更に低減されるため、発電性能が更に向上する傾向にある。
【0053】
また、前記燃料電池用撥水層においては、BET比表面積が5m2/g~100m2/gであることが好ましく、10~50m2/gであることがより好ましい。BET比表面積が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、ガス拡散性が向上し、発電性能が更に向上する傾向にあり、他方、BET比表面積が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、構造体の強度が高くなり、撥水層の剥離強度が更に向上する傾向にある。
【0054】
さらに、前記燃料電池用撥水層においては、細孔容量が0.01~0.2cm2/gであることが好ましく、0.01~0.1cm2/gであることがより好ましい。細孔容量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合に比べて、ガス拡散性が向上し、発電性能が更に向上する傾向にあり、他方、細孔容量が前記上限以下である場合には、前記上限を超える場合に比べて、構造体の強度が高くなり、撥水層の剥離強度が更に向上する傾向にある。
【0055】
なお、燃料電池用撥水層のBET比表面積及び細孔容量は以下の方法により求めることができる。すなわち、先ず、測定対象である燃料電池用撥水層を液体窒素温度(-196℃)に冷却して窒素ガスを所定の圧力で導入し、定容量式ガス吸着法又は重量法によりその平衡圧における窒素吸着量を求める。次に、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧における窒素吸着量を求める。次いで、得られた窒素吸着量を平衡圧に対してプロットすることにより窒素吸着等温線を得る。その後、得られた窒素吸着等温線からBET等温吸着式により燃料電池用撥水層の比表面積を求める。また、前記窒素吸着等温線のP(吸着平衡圧)/P0(飽和蒸気圧)=0.95における窒素吸着量から算出することで、燃料電池用撥水層の細孔容量を求める。なお、測定対象である燃料電池用撥水層が、多孔質基材等に積層させた状態である場合には、その積層体から撥水層を削り出して測定することにより、BET比表面積及び細孔容量を求めることができる。
【0056】
このような本発明の燃料電池用撥水層は、例えば、前記本発明の燃料電池用撥水層の製造方法により、効率よく製造することができる。このような本発明の燃料電池用撥水層は、例えば、燃料電池のガス拡散層に使用する撥水層として特に有用である。
【0057】
〔燃料電池用ガス拡散層〕
本発明の燃料電池用ガス拡散層は、多孔質基材と、前記多孔質基材の表面上に積層された前記本発明の燃料電池用撥水層とを備えるものである。
【0058】
前記多孔質基材としては、燃料電池用ガス拡散層に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等が挙げられる。前記多孔質基材の厚みは、燃料電池において採用できる厚みであれば特に制限はなく、適宜設定することができ、通常、100~300μmである。
【0059】
また、前記多孔質基材としては、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材(例えば、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂で表面処理されたカーボンペーパー等)が好ましい。前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも有する多孔質基材の前記表面に、前記本発明の燃料電池用撥水層と積層することによって、撥水層と多孔質基材との接合強度が大幅に向上する。
【0060】
また、本発明の燃料電池用ガス拡散層は、前記多孔質基材と、前記多孔質基材の表面上に積層された前記本発明の燃料電池用撥水層とを備えるものであれば、それ以外の構成(例えば、前記多孔質基材や前記撥水層以外のその他の層)や特性(例えば、ガス拡散層全体としてのBET表面積や細孔容量等の条件)は特に限定されない。
【0061】
このような本発明の燃料電池用ガス拡散層は、このような多孔質基材の表面上に、例えば、前記法発明の燃料電池用撥水層の製造方法により、前記本発明の燃料電池用撥水層を積層することによって製造することができる。このような本発明の燃料電池用ガス拡散層は、例えば、燃料電池の電極に使用するガス拡散層として特に有用である。
【0062】
〔燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体の製造方法〕
本発明の燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体の製造方法は、前記本発明の燃料電池用ガス拡散層中の撥水層と電解質膜電極接合体中の触媒層とを、フッ素系界面活性剤を介して接合して、前記ガス拡散層と前記電解質膜電極接合体とを備える電解質膜電極ガス拡散層接合体を得る方法である。
【0063】
(フッ素系界面活性剤)
前記フッ素系界面活性剤としては特に制限はなく、例えば、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸等の分子内にパーフルオロアルキル基とカルボキシル基やスルホン酸基等の親水性基とを有する公知のフッ素系界面活性剤を用いることができる。
【0064】
(電解質膜電極接合体)
前記電解質膜電極接合体(MEA)としては特に制限はなく、燃料電池に用いられる従来公知の電解質膜電極接合体を用いることができ、例えば、
図1に示すような、電解質膜1を2枚の触媒層(電極)2a及び2bで挟持した構造を有する電解質膜電極接合体3が挙げられる。
【0065】
前記電解質膜としては特に制限はなく、例えば、末端にスルホン酸基を有するフッ素系樹脂からなる固体電解質膜等が挙げられる。
【0066】
前記触媒層としては特に制限はなく、例えば、白金等の貴金属が担持された触媒層等が挙げられる。
【0067】
(接合工程)
接合工程は、前記本発明の燃料電池用ガス拡散層中の撥水層と前記電解質膜電極接合体中の触媒層とを、フッ素系界面活性剤を介して接合する工程である。この接合工程においては、先ず、前記ガス拡散層中の撥水層の表面を、前記フッ素系界面活性剤を用いて表面処理し、前記撥水層の表面に前記フッ素系界面活性剤を付着させる。表面処理の方法としては特に制限はなく、例えば、前記ガス拡散層中の撥水層の表面に前記フッ素系界面活性剤を塗布又は噴霧して乾燥する方法等が挙げられる。また、液状の前記フッ素系界面活性剤の液面に前記撥水層の表面が接触するように、前記フッ素系界面活性剤に前記ガス拡散層を浮かべた後、乾燥してもよい。
【0068】
前記ガス拡散層の質量に対する前記界面活性剤の担持量の割合(フッ素系界面活性剤の担持率)としては、5~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。前記フッ素系界面活性剤の担持率が前記下限未満になると、十分な接合強度が得られない傾向にあり、他方、前記フッ素系界面活性剤の担持率が前記上限を超えると、コストが増加する傾向にある。
【0069】
また、前記撥水層表面の単位面積あたりの前記フッ素系界面活性剤の担持量としては、1.5~10mg/cm2が好ましく、2~7mg/cm2がより好ましい。前記フッ素系界面活性剤の担持量が前記下限未満になると、十分な接合強度が得られない傾向にあり、他方、前記フッ素系界面活性剤の担持量が前記上限を超えると、コストが増加する傾向にある。
【0070】
次に、前記フッ素系界面活性剤で表面処理された前記ガス拡散層と前記電解質膜電極接合体とを、ガス拡散層中の撥水層のフッ素系界面活性剤で処理された表面と電解質膜電極接合体の一方の触媒層(電極)の表面とが当接するように、重ね合わせ、必要に応じて、加圧して圧密化することによって、前記ガス拡散層と前記電解質膜電極接合体と接合された電解質膜電極ガス拡散層接合体が得られる。
【0071】
加圧方法としては特に制限はなく、例えば、平板プレス、ロールプレス等の公知の加圧方法(プレス方法)を適宜採用することができる。また、加熱しながら加圧する、ホットプレスを採用してもよい。
【0072】
加圧条件は特に制限はないが、例えば、圧力としては、0.2~5MPaが好ましく、1~4MPaがより好ましく、加圧時間としては、1~15分間が好ましく、0.1~10分間がより好ましく、温度としては、60~200℃が好ましく、80~180℃がより好ましい。このような条件で加圧することによって、前記ガス拡散層と前記電解質膜電極接合体とをより高い接合強度で接合することが可能となる。
【0073】
〔燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体〕
本発明の燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体は、前記本発明の燃料電池用ガス拡散層と電解質膜電極接合体とを備えており、前記ガス拡散層中の撥水層と前記電解質膜電極接合体中の触媒層とがフッ素系界面活性剤を介して接合されているものである。
【0074】
ここで、本発明の燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体を構成する、「電解質膜電極接合体」、「触媒層」、及び「フッ素系界面活性剤」は、前記本発明の燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体の製造方法において説明したものと同様のものである(その好適な条件も同様である)。
【0075】
本発明の燃料電池用電解質膜電極ガス拡散層接合体の構造としては特に制限はないが、例えば、
図1に示すような、電解質膜1を2枚の触媒層(電極)2a及び2bで挟持した構造を有する電解質膜電極接合体3と、多孔質基材4と撥水層5とが積層されたガス拡散層6とを備えており、触媒層2aと撥水層5とがフッ素系界面活性剤層7を介して接合された構造が挙げられる。
【実施例0076】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用したカーボン粒子(以下、「CB粒子」とも表記する)、フッ素系熱可塑性樹脂粒子、多孔質基材を以下に示す。
【0077】
(CB粒子)
・親水性カーボン粒子(西村黒鉛株式会社製、商品名:親水性黒鉛 MC2、平均粒子径:4nm(0.004μm)、表1では、かかるCB粒子の種類を単に「親水性」と表記する)。
・疎水性カーボン粒子(デンカ社製、商品名:デンカブラック Li400、平均粒子径:4nm(0.004μm)、表1では、かかるCB粒子の種類を単に「疎水性」と表記する)。
【0078】
なお、前記CB粒子の「親水性」及び「疎水性」は、いわゆる、Methanol Wettability法(落合満、エアロゾル研究、1990年発行、vol.5、P.32-P.43参照)により評価した。具体的には、水(メタノール濃度:0質量%)及びメタノール濃度の異なるメタノール水溶液を準備し、水及び各濃度のメタノール水溶液に各実施例で用いるCB粒子を静かに加えて数十回軽く振った場合のCB粒子の分散の有無を目視により確認して、CB粒子が分散する際のメタノール濃度を求めること(水又はメタノール水溶液に対する分散性を確認すること)により評価した(水面又はメタノール水溶液面に浮いているCB粒子を完全に濡らすのに必要なメタノール濃度(質量%)を尺度として用いて、親水性又は疎水性といった特性を評価した。なお、CB粒子が分散する際のメタノール濃度の数値が低いほど親水性が高いものと判断できる)。評価に際しては、CB粒子が分散した水溶液中のメタノール濃度が、2質量%未満である場合(Methanol Wettability:<2)に、そのCB粒子を「親水性」の粒子と評価し、他方、メタノール濃度が2質量%未満のメタノール水溶液に対してCB粒子が分散せず、2質量%以上のメタノール水溶液に対してCB粒子が分散する場合(Methanol Wettability:≧2)には、そのCB粒子は「疎水性」の粒子と評価した。このような評価方法を採用したところ、前記親水性カーボン粒子はメタノール濃度が0質量%の水に分散した。他方、前記疎水性カーボン粒子はメタノール濃度が2質量%未満のメタノール水溶液には分散せず、メタノール濃度が2質量%のメタノール水溶液に分散した。かかる評価の結果として、前記親水性カーボン粒子と前記疎水性カーボン粒子をそれぞれ水(メタノール濃度:0質量%)に加えた際の状態を示す写真を
図2に示す。
図2の写真の左側が親水性カーボン粒子を水に加えた場合の写真であり、これにより親水性カーボン粒子が水に分散した状態となっていることが確認できる。これに対して、
図2の写真の右側が疎水性カーボン粒子を水に加えた場合の写真であり、この場合には、粒子が水に浮いて水中に全く分散していないことが確認できる。
【0079】
(フッ素系熱可塑性樹脂粒子)
・パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(ダイキン工業株式会社製、商品名:ネオフロン FEP NCX-11、平均粒子径:15μm、融点:260℃。以下、「FEP」と表記する)。
・ポリテトラフルオロエチレン(株式会社喜多村製、商品名:KTL-500F、平均粒子径:0.2μm、融点:327℃。以下、「PTFE」と表記する)。
【0080】
(多孔質基材)
・PTFEで表面処理したカーボンペーパー(株式会社ケミックス製、商品名:TGP-H-060H、PTFE含有量:5質量%、膜厚:約200μm程度。以下、「PTFE-CP」と表記する)。
・FEPで表面処理したカーボンペーパー(株式会社ケミックス製、商品名:TGP-H-060H、FEP含有量:5質量%、膜厚:約200μm程度。以下、「FEP-CP」と表記する)。
【0081】
(実施例1~10及び比較例1~5)
表1に示す種類のCB粒子と表1に示す種類のフッ素系熱可塑性樹脂粒子とを、表1に示す配合比(質量基準の配合比)で、撹拌機(テスコム電機株式会社製、商品名:OML-2)を用いて、20,000回転で5分間混合して、混合粉末を得た。得られた混合粉末を、表1に示す種類の多孔質基材(カーボンペーパー)の表面上に、静電スクリーン印刷法(乾式成膜法)により塗工して成膜し、混合粉末層を形成した。なお、前記静電スクリーン印刷法として、静電スクリーン印刷装置(ベルク工業社製、商品名:T-1)と、スクリーンメッシュ(ベルク工業社製、商品名:静電スクリーン)とを使用し、カーボンペーパーとスクリーンメッシュとの間に16kVの電圧を印加させた状態で、スクリーンメッシュ上に前記混合粉末を載せてスキージで擦ることでメッシュからカーボンペーパー上に前記混合粉末を落下させて成膜する方法を採用した。
【0082】
次いで、前記カーボンペーパーの表面上に積層させた前記混合粉末層を、平板プレス機を用いて圧力3MPaで1分間加圧して圧密化した。圧密化後の混合粉末層を、電気炉を用いて、常圧、表1に示す温度で30分間加熱して焼成し、カーボンペーパー上に、CB粒子とフッ素系熱可塑性樹脂粒子とからなる撥水層を形成し、カーボンペーパーと前記撥水層との積層体(燃料電池用ガス拡散層)を得た。
【0083】
(比較例6~7)
表1に示す種類のCB粒子と表1に示す種類のフッ素系熱可塑性樹脂粒子と水とを、表1に示す配合比(質量基準の配合比)で、撹拌機(株式会社シンキー製、商品名:あわとり練太郎 ARE310)を用いて、2000回転で1分間混合して、親水性CB粒子とPTFE粒子とを含有するペーストを得た。得られたペーストを、表1に示す種類の多孔質基材(カーボンペーパー)の表面上に、アプリケータ(BEVS INDUSTRIAL株式会社製、商品名:BEVS)を用いて塗布し、ペースト層を形成した。
【0084】
次いで、前記カーボンペーパーの表面上に積層させた前記ペースト層を、室温で約1日間風乾した後、電気炉を用いて、常圧、表1に示す温度で30分間加熱して焼成した。比較例6においては、カーボンペーパー上に、親水性CB粒子とPTFE粒子とからなる撥水層を形成することを試みたが、カーボンペーパー上から親水性CB粒子が崩れ落ち、撥水層を形成することができなかった。比較例7においては、カーボンペーパー上に、CB粒子とフッ素系熱可塑性樹脂粒子とからなる撥水層が形成され、カーボンペーパーと前記撥水層との積層体(燃料電池用ガス拡散層)を得た。
【0085】
<剥離強度>
実施例及び比較例で得られたカーボンペーパーと撥水層との積層体について、電動計測スタンド(株式会社イマダ製、商品名:MX2-500N-L-FA)を用いて、撥水層の90度剥離試験を行い、カーボンペーパーに対する撥水層の剥離強度(単位:N/m)を測定した。その結果を表1及び
図3に示す。
【0086】
【0087】
表1に示したように、乾式成膜法により成膜した撥水層において、CB粒子として親水性のものを用いた場合(実施例1~15)には、CB粒子として疎水性のものを用いた場合(比較例4~5)に比べて、剥離強度に優れていることがわかった。特に、
図3に示したように、CB粒子とフッ素系熱可塑性樹脂粒子の配合比が同一であり、フッ素系熱可塑性樹脂粒子の種類が同一であり、多孔質基材の種類が同一であり、焼成温度が同一である撥水層(実施例4と比較例4、実施例8と比較例5)を対比すると、親水性CB粒子を用いた場合(実施例4及び8)には、疎水性CB粒子を用いた場合(比較例4及び5)に比べて、剥離強度が顕著に向上することがわかった。
【0088】
<撥水層の剥離強度の焼成温度依存性>
表1に示した結果に基づいて、撥水層の剥離強度を、焼成温度に対してプロットした。その結果を
図4に示す。
図4に示したように、撥水層の剥離強度は焼成温度に依存することがわかった。具体的には、フッ素系熱可塑性樹脂粒子としてFEP粒子を用いた場合、撥水層の剥離強度が向上するという観点から、焼成温度としては、200~345℃(FEPの融点に対して-60℃~+85℃)の範囲内の温度を設定する必要があり、215~345℃(FEPの融点に対して-45℃~+85℃)の範囲内の温度を設定することが好ましく、230~340℃(FEPの融点に対して-30℃~+80℃)の範囲内の温度を設定することがより好ましく、270~335℃(FEPの融点に対して+10℃~+75℃)の範囲内の温度を設定することが更に好ましく、290~330℃(FEPの融点に対して+30℃~+70℃)の範囲内の温度を設定することが特に好ましいことがわかった。一方、ある一定以上の剥離強度があれば良い場合には、それを満たすできるだけ低温での焼成を行うことでエネルギーを削減することが可能である。
【0089】
また、
図4に示したように、同じ焼成温度で比較すると、多孔質基材として、フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂(FEP)と同じ樹脂(FEP)で表面処理したカーボンペーパー(FEP-CP)を用いた場合(実施例11~15)には、異なる樹脂(PTFE)で表面処理したカーボンペーパー(PTFE-CP)を用いた場合(実施例1~5)に比べて、剥離強度が高くなることが確認された。
【0090】
<剥離面の目視観察>
カーボンペーパーと撥水層との積層体の剥離強度試験後の剥離面を目視により観察した。一例として、
図5に、実施例4及び実施例14で得られたカーボンペーパーと撥水層との積層体の剥離強度試験後の剥離面の光学写真を示す。
図5の上段に示したように、多孔質基材として、フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂(FEP)と異なる樹脂(PTFE)で表面処理したカーボンペーパー(PTFE-CP)を用いた場合(実施例4)には、撥水層の凝集破壊(黒色部分)のほかに、所々、撥水層と多孔質基材との界面破壊(白色部分)が観察された。一方、
図5の下段に示したように、多孔質基材として、フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂(FEP)と同じ樹脂(FEP)で表面処理したカーボンペーパー(FEP-CP)を用いた場合(実施例14)には、撥水層と多孔質基材との界面破壊は見られず、撥水層の凝集破壊(黒色部分)のみが観察された。
【0091】
以上の結果から、フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と同じ樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材を用いることによって、前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子を構成する樹脂と多孔質基材の前記表面の樹脂とを同じ焼成温度で溶融又は軟化させて多孔質基材の前記表面に撥水層を形成することができるため、剥離面において、撥水層と多孔質基材との界面破壊が抑制され、撥水層の凝集破壊のみとなり、その結果、剥離強度が高くなったと考えられる。
【0092】
<撥水層の剥離強度の粒子配合比(親水化CB粒子/樹脂粒子)依存性>
表1に示した結果に基づいて、多孔質基材に対する撥水層の剥離強度を、粒子配合比(親水化CB粒子/樹脂粒子)に対してプロットした。その結果を
図6に示す。
図6に示したように、フッ素系熱可塑性樹脂粒子の含有量が増大するにつれて撥水層の剥離強度が向上することがわかった。具体的には、フッ素系熱可塑性樹脂粒子としてFEP粒子又はPTFE粒子を用いた場合、前記粉末(B)の含有量を、前記粉末(A)と前記粉末(B)との総量に対して、撥水層の剥離強度が向上するという観点からは、17質量%以上に設定する必要があり、20質量%以上に設定することが好ましいことがわかった。
【0093】
<電子顕微鏡観察>
実施例及び比較例で得られたカーボンペーパーと撥水層との積層体において、前記撥水層の表面を、走査電子顕微鏡(SEM、株式会社日立ハイテク製、商品名:Regulus8230)を用い、加速電圧3kVの条件でSEM観察するとともに、元素検出器(EDS、Bruker製、商品名:QUANTAXFlatQUAD)を用いて、元素マッピングを行い、SEM-EDS像(元素マッピング像)を得た。一例として、
図7に、実施例4で得られた撥水層表面のSEM-EDS像を、
図8に、実施例8で得られた撥水層表のSEM-EDS像を示す。
図7及び
図8において、炭素原子は青色(白黒写真では黒色)、フッ素原子は赤色(白黒写真では暗灰色)で示されている。
【0094】
図7及び
図8に示したように、前記SEM-EDS像において、炭素原子及びフッ素原子が均一に分散して分布していることから、前記撥水層において、親水性CB粒子とフッ素系熱可塑性樹脂粒子とが均一に分散していることが確認された。
【0095】
また、
図7及び
図8に示したSEM-EDS像に基づいて、炭素原子の割合とフッ素原子の割合を求めた。その結果を実測値として表2に示す。また、表2には、混合粉末における親水性CB粒子とフッ素系熱可塑性樹脂粒子との配合比から算出した炭素原子の割合とフッ素原子の割合を理論値として示した。
【0096】
【0097】
表2に示したように、炭素原子及びフッ素原子の割合の実測値は、理論値との差が3%程度であり、炭素原子及びフッ素原子の含有量は、焼成等を施しても、ほとんど変化しないことが確認された。
【0098】
以上の結果から、親水性カーボン粒子の粉末(A)とフッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)とを特定の割合で含む混合粉末を、乾式成膜法により成膜することにより混合粉末層を形成し、前記混合粉末層を特定の圧力で加圧して圧密化し、圧密化した前記混合粉末層を特定の温度で焼成することによって、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記フッ素系熱可塑性樹脂粒子の粉末(B)との混合接合体からなり、高い剥離強度を有する撥水層が得られることが確認された。
【0099】
下記の実施例で使用した界面活性剤及び電解質膜電極接合体を以下に示す。
【0100】
(界面活性剤)
・フッ素系界面活性剤(AGCセイミケミカル株式会社製、商品名:サーフロンS-231、性状:液状、有効成分濃度:30%)。
【0101】
(電解質膜電極接合体)
・電解質膜電極接合体(電解質膜材質:ナフィオン等のフッ素樹脂系の高分子膜、触媒層(電極)材質:直径50nm程度のカーボン粒子に、主に直径数nmの白金触媒を担持させた白金担持カーボン)
【0102】
(実施例16)
先ず、実施例13で作製した燃料電池用ガス拡散層をフッ素系界面活性剤に、ガス拡散層中の撥水層の表面とフッ素系界面活性剤の液面とが接触するように、約20秒間浮かべた。その後、ガス拡散層を取出し、終夜風乾した後、25℃で2時間真空乾燥して、撥水層の表面がフッ素系界面活性剤で処理されたガス拡散層を得た。
【0103】
このフッ素系界面活性剤で表面処理されたガス拡散層における界面活性剤の担持率及び撥水層表面の単位面積あたりの界面活性剤の担持量を以下のようにして求めた。すなわち、界面活性剤での表面処理前後のガス拡散層の質量を測定し、前記表面処理前後のガス拡散層の質量差を界面活性剤の担持量とし、これを前記表面処理前のガス拡散層の質量で除して、ガス拡散層の質量に対する界面活性剤の担持量の割合(界面活性剤の担持率)[単位:質量%]を求めた。また、前記表面処理前後のガス拡散層の質量差(界面活性剤の担持量)をガス拡散層中の撥水層の表面積で除して、撥水層表面の単位面積あたりの界面活性剤の担持量[単位:g/m2]を求めた。それらの結果を表3に示す。
【0104】
次に、前記フッ素系界面活性剤で表面処理されたガス拡散層と電解質膜電極接合体とを、ガス拡散層中の撥水層のフッ素系界面活性剤で処理された表面と電解質膜電極接合体の一方の触媒層(電極)の表面とが当接するように、重ね合わせた後、平板プレス機を用いて圧力3MPa、温度130℃で5分間加圧して圧密化し、電解質膜電極ガス拡散層接合体を得た。
【0105】
<接合強度>
実施例で得られた電解質膜電極ガス拡散層接合体について、電動計測スタンド(株式会社イマダ製、商品名:MX2-500N-L-FA)を用いて、電解質膜電極接合体の90度剥離試験を行い、剥離強度(単位:N/m)を測定し、これを接合強度とした。その結果を表3に示す。
【0106】
【0107】
表3に示したように、ガス拡散層中の撥水層と電解質膜電極接合体の触媒層(電極)とをフッ素系界面活性剤を介して接合することによって、ガス拡散層と電解質膜電極接合体とが高い接合強度で接合できることがわかった(実施例16)。
【0108】
また、フッ素系界面活性剤を介して接合した電解質膜電極ガス拡散層接合体(実施例16)の剥離試験後の剥離面を観察したところ、ガス拡散層中の多孔質基材の表面が見られたことから、ガス拡散層中の多孔質基材と撥水層との界面で剥離したことがわかった。この結果から、表3に示したフッ素系界面活性剤を介して接合した電解質膜電極ガス拡散層接合体(実施例16)の接合強度は、ガス拡散層中の多孔質基材と撥水層との界面で接合強度であり、ガス拡散層中の撥水層と電解質膜電極接合体の触媒層(電極)との接合強度は、更に高い値であることが示唆された。
以上説明したように、本発明によれば、分散剤を使用せずに、高い剥離強度を有する燃料電池用撥水層及びこの撥水層を備える燃料電池用ガス拡散層を作製することが可能となる。したがって、本発明の燃料電池用撥水層の製造方法は、分散剤を使用せずに燃料電池用撥水層を作製することができることから、分散剤を分解除去するための加熱設備が不要であり、分散剤の分解除去により発生するCO2による環境問題やエネルギー効率が改良された、燃料電池用撥水層の製造方法として有用であり、燃料電池用ガス拡散層を構成する拡散層を製造するための方法として好適に利用できる。
また、本発明によれば、フッ素系界面活性剤を用いることによって、本発明のガス拡散層と電解質膜電極接合体とを高い接合強度で接合することが可能となる。したがって、本発明の電解質膜電極ガス拡散層接合体の製造方法は、多孔質基材と撥水層と触媒層(電極)とが強固に接合した電解質膜電極ガス拡散層接合体の製造方法として有用である。