(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171327
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】歯付プーリ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/38 20060101AFI20241204BHJP
F16H 55/48 20060101ALI20241204BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F16H55/38 A
F16H55/48
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084889
(22)【出願日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023087669
(32)【優先日】2023-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】青木 啓貴
【テーマコード(参考)】
3J031
4F206
【Fターム(参考)】
3J031AA01
3J031BB01
3J031BC02
3J031BC05
3J031CA04
4F206AD03
4F206AD18
4F206AD24
4F206AG03
4F206AG26
4F206AH12
4F206AR12
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF05
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】芯金と樹脂部とで構成された歯付プーリにおいて、生産性を維持したまま、歯部の寸法精度と、芯金に対する樹脂部の接合強度とを共に確保できる歯付プーリを提供する。
【解決手段】歯付プーリ1は、有底円筒状の芯金11と、インサート成形により、芯金11の外側部分を形成する、歯部121を含む樹脂部12とを備え、芯金11は、歯部121に対向する外周面に、深さが0.2mm以上芯金11の厚みの半分以下、且つ、平均径が0.2mm以上3.5mm以下のピンホール状の多数の凹部113が、分散して形成されており、樹脂部12の一部は、多数の凹部113に入り込んだ状態で固化している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状の芯金と、
インサート成形により、前記芯金の外側部分を形成する、歯部を含む樹脂部と、を備え、
前記芯金は、前記歯部に対向する外周面に、深さが0.2mm以上前記芯金の厚みの半分以下、且つ、深さ方向に直交する方向に沿った平均の長さである平均幅が0.2mm以上3.5mm以下のピンホール状の多数の凹部が、分散して形成されており、
前記樹脂部の一部は、前記多数の凹部に入り込んだ状態で固化している、歯付プーリ。
【請求項2】
前記凹部は、前記深さが0.2mm以上前記芯金の厚みの1/3以下、且つ、前記平均幅が0.5mm以上3mm以下である、請求項1に記載の歯付プーリ。
【請求項3】
有底円筒状の芯金と、インサート成形により、前記芯金の外側部分を形成する、歯部を含む樹脂部とを備えた歯付プーリの製造方法であって、
板材を円板状に打ち抜いて、円板状のブランク材を形成する第1プレス工程と、
前記ブランク材の、前記芯金の前記歯部に対向する外周面に対応する部分に、塑性加工により、所定深さのピンホール状の多数の凹部を、分散して形成した、板状の芯金前駆体を形成する第2プレス工程と、
前記芯金前駆体から、絞り成形により、有底円筒状の前記芯金を形成する第3プレス工程と、
前記芯金をインサート部材として金型内に配置し、前記樹脂部を構成する樹脂を溶融状態で前記金型内に充填し、前記樹脂が前記多数の凹部に入り込んだ状態で固化させた歯付プーリを形成するインサート成形工程とを含む、歯付プーリの製造方法。
【請求項4】
前記第2プレス工程において、
前記凹部は、前記塑性加工により、当該凹部の深さ方向に直交する方向に沿った断面が円形になるように形成される、請求項3に記載の歯付プーリの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の電動パワーステアリングに使用される歯付プーリ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の電動化シフトが加速する中、電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering system)装置の採用が拡大している。
この電動パワーステアリング装置には、例えば、特許文献4の
図1~
図2に示されるように、電動モータ(18)の駆動力を操舵機構(12)に伝動する減速装置として、電動モータ(18)のモータ軸(18a)に接続する駆動側歯付プーリ(31)、操舵機構内のラック軸(13)に係合するボールナット(42)に接続する従動側歯付プーリ(32)、および両プーリに巻き掛けられる歯付ベルト(33)からなるベルト伝動機構(30)が用いられている。
【0003】
当該ベルト伝動機構においては、更なる軽量化のために、歯付プーリ(特に従動側)を対象に、樹脂化(樹脂プーリへの置き換え)が進みつつある。
【0004】
この点、EPS装置内のベルト伝動機構(減速装置)において、特許文献4の
図2及び
図6に示されるように、小径側の駆動プーリ(31)は、電動モータの軸(18a)に固定されるだけのため円筒状でよいが、大径側の従動プーリ(32)は、ボールナット(42)に一端側(
図2中の右側)から被さり突き当たる態様で固定(ボルト止め)されるために、底部を有する有底円筒状に構成する場合がある。
そのため、EPS装置内のベルト伝動機構用の歯付プーリの樹脂化にあたっては、軽量化メリットがより大きい、従動側歯付プーリ(従動プーリ)が対象とされる。
【0005】
(樹脂プーリの基本構造について)
通常、有底円筒状の歯付プーリ(従動プーリ)を樹脂化する(樹脂プーリにする)場合、強度及び寸法精度の要求仕様を満たすよう、歯部を含む外側部分を合成樹脂で形成した樹脂部とし、その内側部分を有底円筒状の芯金(金属)で補強して、両者を一体に組み合わせた構造にする。
【0006】
(樹脂プーリの製造方法について)
当該歯付プーリ(樹脂プーリ)の製造方法としては、強度及び寸法精度を高めるために、予め作製した芯金をインサート部材として金型内に配置した態様で射出成形又は圧縮成形し、芯金に対して樹脂部を一体に形成する方法(所謂インサート成形)が一般的である。
【0007】
(樹脂プーリの制約について)
芯金と樹脂部とにより歯付プーリを構成する場合、芯金に対して樹脂部が周方向および軸方向にずれる(相対移動する)のを防止する必要がある。つまり、芯金に対する樹脂部の、周方向の回り止め手段および軸方向の抜け止め手段を適切に設け、芯金に対する樹脂部の接合強度を確保する必要がある。
【0008】
(芯金に対する樹脂部の接合強度を確保するための設計手法)
芯金に対する樹脂部の接合強度を確保するためには、通常、芯金の外周面に、周方向に対して交差する方向に延在する部分[周方向の回り止め手段(以下、回り止め)]、ならびに軸方向に対して交差する方向に延在する部分[軸方向の抜け止め手段(以下、抜け止め)]、つまり芯金の外周面に、凸状及び/又は凹状となる部分を有する構成に歯付プーリを設計する必要がある。
【0009】
(更なる制約)
その一方で、EPS装置内のベルト伝動機構においては、更なる軽量化、静粛化、および低コスト化の要求が高まっており、歯付プーリの樹脂化にあたっては、芯金の板厚および樹脂部(特に歯部の最薄部分である歯溝部)の厚みを共に薄く(例えば共に厚さ2mm程度まで薄く)設計しても、芯金に対する樹脂部の接合強度を確保できるとともに、歯部の寸法精度を確保する(音振性能を確保するために、歯部の外径寸法等を寸法公差内に収め、歯付プーリと歯付ベルトとの噛み合いを良好に保つ)必要がある。
【0010】
即ち、EPS装置向けの歯付プーリ(樹脂プーリ)をインサート成形により製造するに際して、特別な事情として、(1)芯金の歯部に対向する外周面の形状(凸状及び/又は凹状となる部分を有する構成)が歯部の寸法精度に悪影響を及ぼしてはならないという課題、(2)顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じる使用環境下でも、芯金に対する樹脂部の接合強度を確保しなければならないという課題、(3)これらの課題の解決のために製造の手間(別工程)が増しコストアップに繋がるような特別な設計は避けたいという課題に対応する必要がある
【0011】
この点、特許文献1~3には、上記課題に対応すべく、芯金に対する樹脂部の接合強度を確保した樹脂プーリが開示されている。特許文献1~3の内容を表1にまとめた。
【0012】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2022-109432号公報
【特許文献2】特開2011-214680号公報
【特許文献3】実開平2-107862号公報
【特許文献4】特開2020-044854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1には、歯部に対向する、芯金(特許文献1の
図10)の外周面の一端部に軸方向から見て多角形の凸状部(外向きフランジD)を設けることで、芯金に対する樹脂部の接合強度の確保、歯部の精度の確保、および製造コストの抑制を実現できる歯付プーリ(特許文献1の
図8)が開示されている。
【0015】
しかし、発明者らの検証によれば、特許文献1の構成では、芯金に対する樹脂部の接合強度を確保できると考えられるものの、芯金の歯部に対向する外周面の一端部のみに凸状部分を設ける構成のため、インサート成形(特に射出成形)時に、溶融樹脂の流動が該凸状部分で顕著に変化してしまう(つまり流路厚みが局所的に減少することに起因し、内部圧力が局所的に増加してしまう)。そのため、樹脂が固化後、該凸状部分に対向する歯部の外径(歯先径)が顕著に増加してしまうといった、歯部の寸法精度に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0016】
また、特許文献2~3には、芯金の外周面の全体に、ごく微小な凹部や窪み部や、歯車状の凹凸部を施す構成が開示されている。
【0017】
しかし、特許文献2の解決手段(ごく微小な凹部や窪み部)では、顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じる環境下で使用された場合、樹脂部の熱膨張が芯金よりも顕著に(例えば径で0.1mm程度、径方向片側で0.05mm程度)大きくなることが影響し、凹部が最大0.0数mm程度の深さでは、凹部によるアンカー効果が完全に失われ、芯金に対する樹脂部の接合強度が確保できなくなる懸念がある。また、凹部(窪み部)の加工は、芯金の本(プレス加工)工程とは別工程のため、製造の手間が増える懸念がある。
【0018】
また、特許文献3の解決手段(歯車状の凹凸部)では、歯付プーリに適用した場合、凹凸の高さが大きいと(例えば5mmだと)、凹凸が周方向に等間隔で配置されていても、凹部に対向する歯部の表面がひける(窪みとなる)懸念がある。また、特許文献3に記載の
図1のように凹凸部を歯車状に形成した場合、回り止めはできるが抜け止めができない懸念がある。
【0019】
このように、特許文献1~3の構成では、上記課題(特別な事情)を十分に解決することができない。
【0020】
そこで、本発明は、EPS装置向けの従来の歯付プーリ(特許文献1~3)を検証した結果、以下の改良ポイント1~3を見出した。
【0021】
(改良ポイント1)
歯部(特に最薄部分である歯溝部)の厚みを薄く(例えば厚さ2mm程度まで薄く)設計した場合、芯金の歯部に対向する外周面に、例えば凸状(径方向外方に突出した形状)の、回り止めおよび抜け止めを局所的に設けると、溶融樹脂の流動が局所的に変化してしまう。つまり、凸状部分を局所的には設けていない構成と比較し、インサート成形(特に射出成形)時に、歯部に対向するキャビティ(流路)部分において、溶融状態で流動する溶融樹脂の流路厚み(キャビティの径方向寸法)が局所的に減少することに起因し、溶融樹脂の内部圧力が局所的に増加してしまう。
【0022】
そのため、樹脂が固化後、歯部の外径(歯先径)が局所的に(例えば約0.05mm)増加してしまい、歯部の寸法精度を確保する(歯部の外径寸法を寸法公差内に収め、歯付プーリと歯付ベルトとの噛み合いを良好に保つ)ことができなくなる虞がある。
万一、歯先径が所定(例えば基準寸法に対し±0.05mm)の寸法公差外の歯部を有する歯付プーリがEPS装置のベルト伝動機構(減速装置)に使用されると、歯付プーリと歯付ベルトとの噛み合い、ひいては静粛性(音振性能)の確保に支障をきたすと考えられる。
【0023】
(改良ポイント2)
使用環境として、顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じた場合、樹脂部と芯金の材料間の線膨張係数に差があるほど、樹脂部の熱膨張が芯金よりも顕著に(例えば径で0.1mm程度)大きくなることが影響し、芯金に対する樹脂部の接合強度が確保できなくなる虞がある。
したがって、顕著な温度変化が生じる使用環境下でも、芯金に対する樹脂部の接合強度を確保しなければならないと考えられる。
【0024】
(改良ポイント3)
上記改良ポイント1~2を実施するためには製造コストが増大する虞がある。製造の手間(別工程)が増すことに繋がるような特別な設計は避け、生産性を維持できるのが望ましいと考えられる。
【0025】
以上の技術的な改良ポイント1~3から、本発明では、芯金と樹脂部とで構成された歯付プーリにおいて、生産性を維持したまま、歯部の寸法精度と、芯金に対する樹脂部の接合強度とを共に確保できる歯付プーリを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、有底円筒状の芯金と、
インサート成形により、前記芯金の外側部分を形成する、歯部を含む樹脂部と、を備え、
前記芯金は、前記歯部に対向する外周面に、深さが0.2mm以上前記芯金の厚みの半分以下、且つ、深さ方向に直交する方向に沿った平均の長さである平均幅が0.2mm以上3.5mm以下のピンホール状の多数の凹部が、分散して形成されており、
前記樹脂部の一部は、前記多数の凹部に入り込んだ状態で固化していることを特徴とする、歯付プーリである。
【0027】
上記構成によれば、芯金と樹脂部とで構成された歯付プーリにおいて、芯金に対する樹脂部の回り止めおよび抜け止めとなるピンホール状の凹部が、芯金の歯部に対向する外周面に、多数に分散して形成されており、局所的には形成されていない(
図3参照)。
そのため、歯部(特に歯部の溝部)の厚みを薄く(例えば2mm程度まで薄く)設計した場合でも、芯金をインサート部材として、インサート成形(特に射出成形)する際に、歯部に対向する金型のキャビティ部分の溶融樹脂の流動(特に流路厚みや内部圧力)が局所的に変化せずに保たれることで、歯部の寸法精度(特に歯先径の精度)を確保し易くすることができる。
また、凹部の深さが0.2mmを下回ると、顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じる使用環境下で、樹脂部の熱膨張が芯金よりも顕著に(例えば径方向に0.1mm程度)大きくなることが影響し、アンカー効果が乏しくなり、芯金に対する樹脂部の接合強度を確保できない場合がある。
一方、凹部の深さが芯金の厚みの半分を上回ると、凹部が塑性加工(プレス加工)により形成される場合、過度に大きい塑性変形を受けることとなり、凹部に対向する芯金の内周面が膨らむ場合がある。
また、凹部の平均幅(径)が0.2mmを下回ると、凹部が塑性加工(プレス加工)により形成される場合、凹部を形成するためのピン状の金型部材の耐久強度を確保できない場合がある。また、凹部によるアンカー効果も乏しくなり、芯金に対する樹脂部の接合強度を確保できない場合がある。
一方、凹部の平均幅が3.5mmを上回ると、インサート成形(特に射出成形)後、凹部に対向する歯部の外表面がひける(窪む)場合がある。
そこで、ピンホール状の凹部は、深さが0.2mm以上芯金の厚みの半分以下、且つ、深さ方向に直交する方向に沿った平均の長さである平均幅が0.2mm以上3.5mm以下としている。
これにより、顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じる使用環境下で、樹脂部と芯金の材料間の線膨張係数の差により、樹脂部の熱膨張が芯金よりも顕著に(例えば径で0.1mm程度)大きくても、凹部によるアンカー効果が失われることなく、芯金に対する樹脂部の接合強度を確保することができる。
また、ピンホール状の凹部の形成は、製造の手間(別工程)が増すことに繋がるような特別な設計を施す必要はなく、生産性を維持したまま、上記回り止めおよび抜け止め(多数の凹部)を形成できることで、製造コストが増大するのを抑制できる。
つまり、上記構成によれば、芯金と樹脂部とで構成された歯付プーリにおいて、生産性を維持したまま、歯部の寸法精度と、芯金に対する樹脂部の接合強度とを共に確保できる。
【0028】
また、本発明は、上記歯付プーリにおいて、前記凹部は、前記深さが0.2mm以上前記芯金の厚みの1/3以下、且つ、前記平均幅が0.5mm以上3mm以下であることを特徴としてもよい。
【0029】
上記構成によれば、顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じる使用環境下で、樹脂部と芯金の材料間の線膨張係数の差により、樹脂部の熱膨張が芯金よりも顕著に(例えば径で0.1mm程度)大きくても、凹部によるアンカー効果が失われることなく、歯部の寸法精度と、芯金に対する樹脂部の接合強度とを、より高いレベルで確保することができる。
【0030】
また、本発明は、有底円筒状の芯金と、インサート成形により、前記芯金の外側部分を形成する、歯部を含む樹脂部とを備えた歯付プーリの製造方法であって、
板材を円板状に打ち抜いて、円板状のブランク材を形成する第1プレス工程と、
前記ブランク材の、前記芯金の前記歯部に対向する外周面に対応する部分に、塑性加工により、所定深さのピンホール状の多数の凹部を、分散して形成した、板状の芯金前駆体を形成する第2プレス工程と、
前記芯金前駆体から、絞り成形により、有底円筒状の前記芯金を形成する第3プレス工程と、
前記芯金をインサート部材として金型内に配置し、前記樹脂部を構成する樹脂を溶融状態で前記金型内に充填し、前記樹脂が前記多数の凹部に入り込んだ状態で固化させた歯付プーリを形成するインサート成形工程とを含むことを特徴としている。
【0031】
上記方法によれば、円板状のブランク材(平板)の段階で塑性加工(プレス加工)し、所定深さのピンホール状の多数の凹部を形成してから、絞り成形により、有底円筒状の芯金を形成することができる。そのため、回り止めおよび抜け止め機能を果たす多数の凹部を芯金の外周面全体に比較的容易に形成することができる。
さらに、芯金の製造にかかる一連のプレス加工、即ち、打抜き成形により円板状のブランク材を形成する第1プレス工程と、ピンホール状の多数の凹部が分散した板状の芯金前駆体を形成する第2プレス工程と、絞り成形により板状の芯金前駆体から有底円筒状の芯金を形成する第3プレス工程とは、次々と流れてくるワークに対して所定のプレス型(上下1組)を用いてプレス成形するのみである(つまり全体として1つのプレス工程で済む)。
したがって、回り止めおよび抜け止め機能を果たす多数の凹部を形成するために、製造の手間(別工程)が増すのを抑制できる。
しかも、塑性加工のため、機械(切削)加工のように金属繊維組織を切断することがないため、機械加工で芯金を製造する場合と比較し、凹部の強度を含め、芯金の強度が低下するのを抑制できる。また、加工速度や生産効率を高め、かつ材料ロスを少なく(歩留まりをよく)できるため、機械加工を必要最低限にしてコストの削減を図ることができる。
【0032】
本発明は、上記歯付プーリの製造方法の前記第2プレス工程において、
前記凹部は、前記塑性加工により、当該凹部の深さ方向に直交する方向に沿った断面が円形になるように形成されることを特徴としてもよい。
【0033】
上記方法によれば、凹部に対する応力集中を避けることができ、また、第2プレス工程におけるブランク材への凹部の加工が比較的容易になる。
【発明の効果】
【0034】
本発明(芯金の歯部に対向する外周面の全体に所定の凹部が多数分散した態様に形成)によれば、芯金の歯部に対向する外周面に、回り止めおよび抜け止めが局所的には形成されていないので、歯部(特に歯溝部)の厚みを薄く(例えば2mm程度まで薄く)設計した場合でも、インサート成形(特に射出成形)時に、歯部に対向するキャビティ(流路)部分の溶融樹脂の流動(特に流路厚みや内部圧力)が局所的に変化せずに保たれることで、歯部の寸法精度(特に歯先径の精度)を確保し易くでき(課題(1)への対応)、顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じ、樹脂部の熱膨張が芯金よりも顕著に(例えば径で0.1mm程度)大きくなる使用環境下でも、芯金に対する樹脂部の接合強度を確保でき(課題(2)への対応)、製造の手間(別工程)が増すことに繋がるような特別な設計をすることなく、生産性を維持したまま、回り止めおよび抜け止めを形成でき、製造コストが増大するのを抑制できる(課題(3)への対応)。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本実施形態に係るボールナットおよび歯付プーリ(従動側歯付プーリ)の分解斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る歯付プーリの斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る歯付プーリの断面図である。
【
図4】本実施形態に係る歯付プーリを構成する芯金及び樹脂部の分解斜視図である。
【
図6】本実施形態に係る芯金の一部断面斜視図である。
【
図7】(a)第1プレス工程の説明図である。(b)第2プレス工程の説明図である。
【
図8】(c1)第3プレス工程(絞り成形前)の説明図である。(c2)第3プレス工程(絞り成形後(トリミング前))の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(実施形態)
本実施形態に係る歯付プーリ1は、自動車の電動パワーステアリング装置のベルト伝動機構に使用される。
具体的には、ベルト伝動機構は、電動モータの駆動力を操舵機構に伝動する減速装置であり、電動モータのモータ軸に接続する駆動側歯付プーリ(不図示)、操舵機構内のラック軸(不図示)に係合するボールナット20(
図1参照)に接続する従動側歯付プーリ10、および、両プーリに巻き掛けられる歯付ベルト(不図示)からなる。そして、歯付プーリ1は、このベルト伝動機構の従動側歯付プーリ10に使用される(
図1参照)。
なお、歯付プーリ1の回転軸方向(以下、軸方向)の開口部側を一端側、底部側を他端側としている。
【0037】
(歯付プーリ1)
歯付プーリ1(従動側歯付プーリ10)は、
図1~
図3に示すように、外周面に歯部121が設けられており、ボールナット20に他端側から挿入された状態で、ボールナット20にボルト21によって固定されている。
駆動側歯付プーリと歯付プーリ1(従動側歯付プーリ10)との間に巻き掛けられるベルトは、内周面に歯部が設けられた歯付ベルト(タイミングベルト)である。
これにより、電動モータの回転は、駆動側歯付プーリ、歯付ベルトおよび歯付プーリ1(従動側歯付プーリ10)を介してボールナット20に伝達される。
【0038】
歯付プーリ1は、
図4に示すように、底部を形成する底板111を含む有底円筒状に形成された芯金11と、芯金11の外側部分を構成し、歯部121を含む樹脂部12とから構成されている。
【0039】
歯付プーリ1の歯部121は、図示しない歯付ベルト(タイミングベルト)の歯部と噛み合う。
歯部121は、静粛性(音振性能)を確保するため、歯部121が軸方向に対して斜めに配置されたはす歯としている。
【0040】
歯付プーリ1は、
図1に示すように、ボールナット20に他端側から被さり(芯金11の内周面がボールナット20の外周面と係合し)、芯金11の内底面がボールナット20の他端側面に当接する態様で、4本のボルト21を介してボールナット20に固定(ボルト止め)されている。これにより、歯付プーリ1(従動側歯付プーリ10)とボールナット20との同軸性が確保されるように構成されている。
【0041】
歯付プーリ1の樹脂部12には、軸方向の歯付ベルトの移動を規制するためのフランジ部122が形成されている。フランジ部122は、歯部121の歯先よりも径方向外方へ全周に渡って突出している。本実施形態の歯付プーリ1は、フランジ部122が歯部121の軸方向どちらか一方の端部(本実施形態では他端側)に一体形成されている片フランジ付きプーリとしている。
なお、歯付プーリ1としては、フランジ部が歯部121の一端側および他端側にそれぞれ一体形成されている両フランジ付きプーリとしてもよい。
【0042】
(芯金11)
芯金11は、他端側に、底部を形成する底板111を有する、有底円筒状に形成されている。
底板111には、複数(本実施形態では周方向等分4個)の軸方向に貫通する取付穴112が形成されている(
図5参照)。これらの取付穴112にボルト21が挿通されて、歯付プーリ1がボールナット20に固定(ボルト止め)される。
芯金11は、主に生産性を確保する観点から、圧延鋼板、高張力鋼板などの鋼板(厚さ2mm程度)を後述する方法でプレス加工したものが使用される。
【0043】
(芯金11の外周面:回り止めおよび抜け止め)
芯金11の、樹脂部12の歯部121に対向する外周面の全体には、
図4~
図6に示すように、回り止めおよび抜け止めとして、深さが0.2mm以上芯金11の厚みの半分以下のピンホール状の凹部113が多数均一に分散した態様で形成されている。
なお、凹部113は、樹脂部12の歯部121に対向する外周面の全体に分散されていれば、不均一に分散されていてもよいが、強度及び寸法精度の観点からは、本実施形態のように均一に分散されていることが好ましい。
【0044】
凹部113の深さ(
図10参照)は、0.2mm以上芯金11の厚みの半分以下(例えば、芯金11の厚み(外周部分)が1.6mmの場合0.8mm以下)であり、好ましくは0.2mm以上芯金11の厚みの1/3以下(例えば、芯金11の厚み(外周部分)が1.6mmの場合0.5mm以下)である。
凹部113の深さが0.2mmを下回ると、顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じる使用環境下で、樹脂部12の熱膨張が芯金11よりも顕著に(例えば径方向に0.1mm程度)大きくなることが影響し、アンカー効果が乏しくなり、芯金11に対する樹脂部12の接合強度を確保できない場合がある。
一方、凹部113の深さが芯金11の厚みの半分を上回ると、凹部113が塑性加工(プレス加工)により形成される場合、過度に大きい塑性変形を受けることとなり、凹部113に対向する芯金11の内周面が膨らむ場合がある。
【0045】
凹部113の断面形状(凹部113の深さ方向に直交する方向に沿った断面の形状)は、制限はなく、円形、楕円形、長円形、三角形、矩形、多角形、その他特殊な形状でもよい。加工容易性や応力集中を避ける観点からは、円形が好ましい。また、凹部113の断面形状は、深さ方向に一様でも、例えば、先細り状に変化していてもよく、底に近い部分だけが尖った形状にしてもよい。また、底の隅部が面取りされた形状になっていてもよい。
【0046】
凹部113の平均径(凹部113の深さ方向に直交する方向に沿った断面を円形に置き換えた場合の直径、
図10参照)は、0.2mm以上3.5mm以下、好ましくは0.5mm以上3mm以下である。
凹部113の平均径が0.2mmを下回ると、凹部113が塑性加工(プレス加工)により形成される場合、凹部113を形成するためのピン状の金型部材の耐久強度を確保できない場合がある。また、凹部113によるアンカー効果も乏しくなり、芯金11に対する樹脂部12の接合強度を確保できない場合がある。
一方、凹部113の平均径が3.5mmを上回ると、インサート成形(特に射出成形)後、凹部113に対向する歯部121の外表面がひける(窪む)場合がある。
特に、凹部113が、深さが0.2mm以上芯金11の厚みの1/3以下、且つ、平均径(平均幅)が0.5mm以上3mm以下の場合、顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じる使用環境下で、樹脂部12と芯金11の材料間の線膨張係数の差により、樹脂部12の熱膨張が芯金11よりも顕著に(例えば径で0.1mm程度)大きくても、凹部113によるアンカー効果が失われることなく、歯部121の寸法精度と、芯金11に対する樹脂部12の接合強度とを、より高いレベルで確保することができる。
【0047】
凹部113の数は、芯金11の、樹脂部12の歯部121に対向する外周面の全体に、凹部113が分散した態様に形成される限りにおいて、多数である。「多数」とは、目視で数えることができる程度に多い数のことであり、無数よりは遥かに少ない数(例えば数百個)のことである。凹部113の数は、主に、芯金11の大きさ(外径、幅)、凹部113の配置(配置間隔)、および凹部113によるアンカー効果(芯金11に対する樹脂部12の接合強度)に依存する。
【0048】
凹部113の配置(配置間隔)は、芯金11の、樹脂部12の歯部121に対向する外周面の全体に、多数の凹部113が分散した態様に形成される限り、換言すると、多数の凹部113が局部的に(局部的に密な偏った態様に)は形成されない限りにおいて、任意であるが、凹部113が周方向および軸方向に等間隔に配置されることが好ましい。これにより、多数の凹部113が分散した態様に形成することを確実なものとすることができる。また、多数の凹部113は、全体として、千鳥状に配置されていてもよい。
【0049】
凹部113が周方向および軸方向に等間隔に配置される場合、その配置間隔(ピッチ)は、主に、芯金11に対する樹脂部12の接合強度との兼ね合いから、凹部113の大きさ(平均径)が大きいほど大きめに、凹部113の大きさ(平均径)が小さいほど小さめに設定する。
【0050】
なお、凹部113の断面形状および配置間隔が多少いびつ(設計値に対し、いびつに狭まる又はいびつに広がる)になっていてもよく、凹部113の断面形状が深さ方向にいびつになっていてもよい。これは、芯金11をプレス加工で製造する場合、絞り成形をして、板状の状態から有底円筒状に芯金11を形成する過程で、曲げや引張りなどの応力が作用し、凹部113の断面形状および配置間隔が多少いびつになる可能性があるためであるが、凹部113の平均径(断面を円形に置き換えた場合の直径)、ならびに凹部113の配置間隔が上記例示の範囲である限り支障はない。
【0051】
(芯金11の底板111)
芯金11に対する樹脂部12の接合強度をより充分に確保する観点からは、芯金11の外周面のみならず、芯金11の底板111にも回り止めが形成されていてもよい。
なお、通常の設計手法として、芯金11の底板111に軸方向と平行な方向に延びる凸部及び/又は凹部を形成しても、回り止め機能は有するが、抜け止め機能は有しない。
【0052】
芯金11の底板111は、樹脂部12の歯部121に対向していない部分であるため、芯金11の底板111に施す回り止めが歯部121の寸法精度に影響することはまずないと考えられる。そのため、芯金11の底板111に施す回り止めの態様は、凹部113の態様と同様にする必要はなく、通常の設計手法でよい。例えば、回り止め機能に加え、更なる軽量化のため、芯金11の底板111の、取付穴112と取付穴112との間に抜き穴(不図示)をそれぞれ設け(例えば、周方向等分4個)、樹脂部12を構成する樹脂が抜き穴の内部に入り込むように構成してもよい。
【0053】
(樹脂部12)
樹脂部12は、芯金11の外側部分を構成し、歯部121およびフランジ部122を形成している。芯金11の外周面のみならず、芯金11の底板111をも覆うことにより、樹脂部12の強度及び剛性を高くすることができる。
また、樹脂部12を構成する樹脂の一部は、芯金11の外周面に形成された各々の凹部113の内部に入り込んだ状態で固化している。
【0054】
歯付プーリ1を軽量化する場合、樹脂部12についても、歯部121(特に歯溝部)の厚み、および芯金11の底板111の被覆部分の厚みをともに製造に支障をきたさない範囲内で極力(例えば2mm程度まで)薄く設計する。
【0055】
芯金11の底板111を覆う底部123には、芯金11の底板111に設けられた取付穴112および取付穴112の周囲の底板111の他端面を軸方向に露出させる切欠き124を設ける。本実施形態では、芯金11の底板111に有する4箇所の取付穴112に対して、取付穴112よりも直径が大きい同心円状の切欠き124(4箇所)が設けられている。これにより、切欠き124は、電動パワーステアリング装置のボールナット20に歯付プーリ1がボルト止めされる際に、ボルト21の頭部の端面(おねじ側の端面)が芯金11の外底面に当接(着座)し、かつボルト21の頭部と樹脂部12との干渉を防止する座ぐりとして機能する。
【0056】
(樹脂部12の材質)
樹脂部12の材質は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよいが、主にインサート成形(特に射出成形)でのサイクル時間を短縮し、歯付プーリ1の生産性を確保する観点から、熱可塑性樹脂とするのが好ましい。
【0057】
ただし、エンジンの放熱の影響で、120℃程度まで雰囲気温度が上昇することを考慮し、耐熱性等に優れる熱可塑性のエンジニアリングプラスチックをプーリ材料として用いるのがよい。さらに、歯付プーリ1の使用条件において、十分な剛性と耐久性を付与するために、エンジニアリングプラスチックに分類される合成樹脂にガラス繊維などを配合するのがよい。
【0058】
エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド(ポリフェニレンエーテルとも称する)、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、又は、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)等が挙げられる。
これらのなかでも、ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下PPSと略す)は、耐熱性、機械的特性、寸法安定性、難燃性、成形性等に優れるため、本用途に好適である。
樹脂部12を構成する樹脂を熱硬化性樹脂とする場合は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等から選択できる。
【0059】
上記構成によれば、芯金11と樹脂部12とで構成された歯付プーリ1において、芯金11に対する樹脂部12の回り止めおよび抜け止めとなるピンホール状の凹部113が、芯金11の、樹脂部12の歯部121に対向する外周面に、多数均一に分散して形成されており、局所的には形成されていない(
図3参照)。
そのため、歯部121(特に歯部121の溝部)の厚みを薄く(例えば2mm程度まで薄く)設計した場合でも、芯金11をインサート部材として、インサート成形(特に射出成形)する際に、歯部121に対向する金型のキャビティ部分の溶融樹脂の流動(特に流路厚みや内部圧力)が局所的に変化せず、比較的均一に保たれることで、歯部121の寸法精度(特に歯先径の精度)を確保し易くすることができる。
また、ピンホール状の凹部113は、深さが0.2mm以上芯金11の厚みの半分以下である。
そのため、顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じる使用環境下で、樹脂部12と芯金11の材料間の線膨張係数の差により、樹脂部12の熱膨張が芯金11よりも顕著に(例えば径で0.1mm程度)大きくても、凹部113によるアンカー効果が失われることなく、芯金11に対する樹脂部12の接合強度を確保することができる。
また、ピンホール状の凹部113の形成は、製造の手間(別工程)が増すことに繋がるような特別な設計を施す必要はなく、生産性を維持したまま、上記回り止めおよび抜け止め(多数の凹部113)を形成できることで、製造コストが増大するのを抑制できる。
つまり、上記構成によれば、芯金11と樹脂部12とで構成された歯付プーリ1において、生産性を維持したまま、歯部121の寸法精度と、芯金11に対する樹脂部12の接合強度とを共に確保できる。
【0060】
(その他の実施形態)
前述したように、歯付プーリ1としては、フランジ部が歯部121の一端側および他端側にそれぞれ一体形成されている両フランジ付きプーリとしてもよい(不図示)。この場合、公知の方法で形成できる。例えば、詳細は省くが、本実施形態の歯付プーリ1で採用している片フランジ付きプーリの一端側の樹脂部12(フランジ部122が形成されていない側の樹脂部)と、樹脂部12と同様の樹脂材料を用いて別途作製するフランジ部材とをそれぞれ互いに軸方向に凹凸嵌合する態様に構成したうえで、この凹凸嵌合した状態(軸方向および径方向の位置決めを行った状態)で、例えば超音波溶着により両者を接合することで、両フランジ付きプーリとすることができる。
【0061】
(歯付プーリ1の製造方法:芯金11の製造方法)
芯金11は、多数の凹部113の形成を含め、主に生産性を確保する観点から、下記に記載する、一連の塑性加工(プレス加工)にて、有底円筒状に形成する。
なお、芯金11の底部に施す、複数の取付穴112(更に、取付穴112と取付穴112との間に抜き穴を設ける場合には抜き穴)は、第1プレス工程(打抜き成形)で同時に打ち抜いてもよいが、寸法精度を確実に確保するために、第3プレス工程(絞り成形)に続く後処理工程(第4プレス工程)にて打ち抜いてもよい。
【0062】
(1)第1プレス工程(
図7(a)参照)
まず、打抜き成形により、ブランク材を形成する。
具体的には、コイル状に巻回された板材(鋼板製の帯状の素材)を引き出しつつ、円板状に打ち抜いて、ブランク材を形成する。
【0063】
(2)第2プレス工程(
図7(b)参照)
塑性加工により、凹部113付きの芯金前駆体を形成する。
具体的には、板状のままブランク材に対して塑性加工(プレス加工)し、芯金11の、樹脂部12の歯部121に対向する外周面に対応する外周面部分(環状部分)の全体に、所定深さのピンホール状の凹部113が多数均一に分散した態様に形成された、板状の芯金前駆体を形成する。
【0064】
本実施形態では、塑性加工により形成される凹部113は、凹部113の深さ方向に直交する方向に沿った断面が円形になるように形成される。
この場合、凹部113に対する応力集中を避けることができ、また、第2プレス工程におけるブランク材への凹部113の加工が比較的容易になる。
【0065】
(3)第3プレス工程(
図8(c1)、
図8(c2)参照)
絞り成形により、板状の芯金前駆体から、有底円筒状の芯金11を形成する。
芯金前駆体(ワーク)は、絞り成形時(パンチのダイ内への押込みにより、ホルダーで押さえられた部分を含め芯金前駆体が徐々にダイ内へ引き込まれる際)に、芯金前駆体(ワーク)にシワ等の欠陥が生じるのを防ぐことができる程度に、ホルダー(押さえ)とダイとの間で挟圧保持される。
絞り成形の結果、引張り(引き伸ばし)方向の応力が作用する、芯金11の外周面部分の板厚は、底板111の板厚よりも若干薄めに形成される。
【0066】
(4)第4プレス工程(不図示)
通常、第3プレス工程(絞り成形)の後の処理(第4プレス工程)としての下記プレス加工を第3プレス工程に続けて行う。これにより、芯金11の製造にかかる一連の塑性加工(プレス加工)が終了し、芯金11(インサート部材)が完成する。
余肉部分(
図8(c2)参照)のトリミング(切り落とし)加工
取付穴112(更に、取付穴112と取付穴112との間に抜き穴を設ける場合には抜き穴)の加工(打ち抜き)
仕上げ(寸法精度確保のための面押し)加工
【0067】
上記いずれの工程も、相対的に近接離間する上下一対の型を使用して行われる。
ただし、第3プレス工程(絞り成形)については、プレス加工(絞り成形)時に、芯金前駆体(ワーク)に対して無理な曲げや引張りなどの応力が作用し、芯金前駆体にシワや破断等の欠陥が生じるのを抑制するため、例えば、1つの上下一対の型で行う絞り角度を制限しつつ、複数の型で、順々に(複数回に分けて芯金前駆体を順送しつつ)絞り成形を行う方式としてもよい。
【0068】
なお、
図8は、第3プレス工程(絞り成形)の説明図であるが、絞り成形前の状態(最初の絞り成形を行う直前の状態)(
図8(c1))と、絞り成形後の状態(最後の絞り成形を行った直後の状態)(
図8(c2))のみを示している。
【0069】
上記方法によれば、円板状のブランク材(平板)の段階で塑性加工(プレス加工)し、所定深さのピンホール状の多数の凹部113を形成してから、絞り成形により、有底円筒状の芯金11を形成することができる。そのため、回り止めおよび抜け止め機能を果たす多数の凹部113を芯金11の外周面全体に比較的容易に形成することができる。
さらに、芯金11の製造にかかる一連のプレス加工、即ち、打抜き成形により円板状のブランク材を形成する第1プレス工程と、ピンホール状の多数の凹部113が均一に分散した板状の芯金前駆体を形成する第2プレス工程と、絞り成形により板状の芯金前駆体から有底円筒状の芯金11を形成する第3プレス工程とは、次々と流れてくる芯金前駆体(ワーク)に対して所定のプレス型(上下1組)を用いてプレス成形するのみである(つまり全体として1つのプレス工程で済む)。
したがって、回り止めおよび抜け止め機能を果たす多数の凹部113を形成するために、製造の手間(別工程)が増すのを抑制できる。
しかも、塑性加工のため、機械(切削)加工のように金属繊維組織を切断することがないため、機械加工で芯金11を製造する場合と比較し、凹部113の強度を含め、芯金11の強度が低下するのを抑制できる。また、加工速度や生産効率を高め、かつ材料ロスを少なく(歩留まりをよく)できるため、機械加工を必要最低限にしてコストの削減を図ることができる。
【0070】
(歯付プーリ1の製造方法:樹脂部12の形成方法)
インサート成形により、樹脂部12の形成を行う。
具体的には、予め芯金11をインサート部材として金型内に配置して、樹脂部12を構成する樹脂を溶融状態で金型のキャビティ内に充填し、樹脂が各々の凹部113の内部に入り込んだ状態で固化させた歯付プーリ1を形成する(インサート成形工程)。
【0071】
なお、有底円筒状に樹脂部12を形成する場合、通常、成形不良(ウェルド等)の発生を抑制するため、金型のキャビティへ通じるゲート(流入孔)は、底部123の他端面側(他端側)に設け(ゲート位置は例えば底部123他端面の外周寄り周方向等分複数箇所)、キャビティ内に入った溶融樹脂が、底部123のキャビティ内を流動し、底部123およびフランジ部122を有する樹脂部12を形成していくとともに、歯部121を構成する筒状のキャビティ内(芯金11の外周面上の空間)を軸方向を主体に他端側(底部側)から一端側(開口側)へ流動し、歯部121を形成していく。
【0072】
インサート成形は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよく、射出成形でも圧縮成形でもよいが、サイクル時間を短縮し、歯付プーリ1の生産性を確保する観点からは、熱可塑性樹脂を用いた射出成形とするのが好ましい。
【実施例0073】
本発明においては、芯金11と樹脂部12とで構成された歯付プーリ1において、生産性を維持したまま、歯部121の寸法精度と、芯金11に対する樹脂部12の接合強度(実使用環境相当の雰囲気温度120℃下)とを共に確保する必要がある。
そこで、本実施例では、実施例1~20および比較例1~13に係る歯付プーリ(以下、各供試体)を作製し、外観・寸法検査、破壊試験、および分解検査を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0074】
[使用材料]
芯金:冷間圧延鋼板(SPCC)(JIS G 3141:2005準拠品)
樹脂部:PPS樹脂(ポリプラスチックス株式会社製 ジュラファイド(登録商標)6150T73)
【0075】
[歯付プーリの製造]
芯金は、各供試体で、上記使用材料と同じ鋼板を用いることは共通であるが、芯金の製造方法に関しては以下の要領で作製した。
実施例1~20、比較例4~13については、「回り止めおよび抜け止め」を含め、上記実施形態に記載の方法に準じ、一連のプレス加工にて芯金を作製した。
比較例3については、「回り止めおよび抜け止め」を設けない構成とするため、上記実施形態に記載の方法のうち、第2プレス工程(凹部の加工)を省いた以外は、実施例1と同じく一連のプレス加工にて芯金を作製した。
比較例1については、比較例3と同じ芯金を比較例3と同じ方法で作製したあと、「回り止めおよび抜け止め」をショットブラストにて形成し、芯金を作製した。
比較例2については、「回り止めおよび抜け止め」を含め、機械加工にて芯金を作製した。
【0076】
樹脂部は、各供試体で共通で、上記使用材料と同じ熱可塑性樹脂、同じ射出成形金型を用いて、上記実施形態に記載の方法に準じ、公知のインサート成形(射出成形)にて形成した。
キャビティへ通じるゲート(流入孔)は、底部の他端面(外周寄り部分:
図2に示すゲート痕の位置)に対応するキャビティ壁に(周方向等分4箇所)設けた。射出成形条件(温度、圧力、時間、等)は、計量値(の微調整)を除き、各供試体で同条件とした。
【0077】
[作製した歯付プーリ(供試体)]
(形状・寸法)
実施例1は、
図2~
図6、比較例2は
図9のものである(実施例2~20、比較例1、比較例3~13は不図示)。
【0078】
(各供試体で共通)
片フランジ付き歯付プーリとし、底部(他端部)から径方向外方へ全周に渡って突出する、高さ(歯部の歯先~フランジ外周面)2mmのフランジ部を1個有する構成とした。底部には、切欠き(座ぐり)付きの取付穴(芯金の底板に4箇所)が形成されているが、回り止め(抜き穴等)は形成されていない。
【0079】
歯部:はす歯(歯ピッチ2mm、歯数103、歯高さ0.9mm)、歯溝部(歯部の最薄部分)の厚み2.2mm、歯部の総厚(歯高さ+歯溝部厚み)3.1mm
歯部の外径(歯先径)諸元:基準寸法65.11mm、公差±0.05mm
歯部の幅(軸方向長さ):28.5mm
芯金:外径58.9mm、幅31.4mm、厚み(板厚)1.8mm(底板)/1.6mm(外周部分)
底部:樹脂部の厚み1.4mm
プーリ幅(軸方向長さ):32.8mm
【0080】
(各供試体で相違)
(回り止めおよび抜け止め)
各供試体の構造上の違いは、「回り止めおよび抜け止め」(対象部位:芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面)の構成、ならびに「回り止めおよび抜け止め」の有無のみで、その他の部分に差異はない。
【0081】
(実施例1~20、比較例4~13)
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体に、ピンホール状の凹部を多数均一に分散した態様に形成(樹脂部を構成する樹脂が凹部の中に入り込んだ状態で固化)させた。
【0082】
(凹部の設計(狙い))
(実施例1)
深さ0.5mm[芯金厚み(外周部分)の約1/3]
平均径1mmの円形断面
深さ方向に沿った断面は矩形(底は平坦で、隅に面取りなし)
凹部の配置間隔は周方向、軸方向ともに5mm
凹部の数は合計222個(軸方向6個×周方向37列(多数))
【0083】
(実施例1~4、比較例4~5)
表3に記載のとおり、実施例1(凹部の平均径1.0mm)をベースに、凹部の深さ0.5mmを0.1mmから0.9mmまで変量した以外は、実施例1と同じ構成とした。
【0084】
(比較例1)
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体に、ショットブラストにより、梨地状の小さな凹部(窪み部)を多数分散した態様に形成(樹脂部を構成する樹脂が窪み部の中に入り込んだ状態で固化)させた。
凹部の大きさは、平均径、深さともに0.05mm程度であった。
凹部の配置間隔は平均で0.1mm程度であった。
【0085】
(比較例2)
図9のように、芯金の歯部に対向する外周面の一端部(開口側)に、径方向外向きに全周に渡って突出する、軸方向から見て多角形の凸状部(16角形の外向きフランジ(特許文献1の
図10のDに相当))を1個形成させた。
凸状部の寸法は、高さ(芯金の外周面~凸状部外周)最小0.5mm(各辺部)、最大1.1mm(各頂部)、幅2mm
【0086】
(比較例3(ブランク))
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面を、回り止めおよび抜け止め手段(凸状及び/又は凹状となる部分)が全く無い平坦無垢に形成させた。
【0087】
(実施例2、5~8、比較例6~7)
表4に記載のとおり、実施例2(凹部の深さ0.2mm)をベースに、凹部の平均径1.0mmを0.1mmから4.0mmまで変量した以外は、実施例2と同じ構成とした。
【0088】
(実施例3、9~12、比較例8~9)
表5に記載のとおり、実施例3(凹部の深さ0.3mm)をベースに、凹部の平均径1.0mmを0.1mmから4.0mmまで変量した以外は、実施例3と同じ構成とした。
【0089】
(実施例1、13~16、比較例10~11)
表6に記載のとおり、実施例1(凹部の深さ0.5mm)をベースに、凹部の平均径1.0mmを0.1mmから4.0mmまで変量した以外は、実施例1と同じ構成とした。
【0090】
(実施例4、17~20、比較例12~13)
表7に記載のとおり、実施例4(凹部の深さ0.8mm)をベースに、凹部の平均径1.0mmを0.1mmから4.0mmまで変量した以外は、実施例4と同じ構成とした。
【0091】
[歯付プーリの評価:項目、方法、基準]
各供試体(実施例、比較例)について、本願課題を解決し得る歯付プーリが得られたかどうかを見極めるために、製造品質(外観、寸法(歯先径))、芯金に対する樹脂部の接合強度(回転トルク、抜け強度)(120℃下)、および生産性(製造の手間(別工程)の有無)を検証した。
【0092】
[外観・寸法検査]
(試験方法)
製造品質を見極めるため、作製後の歯付プーリ(供試体)について、各部の外観(特に、「回り止めおよび抜け止め」の加工に伴う外観異常がないか)を目視にて検査するとともに、歯部の寸法精度を確保し歯付ベルトとの噛み合いを良好に保つ観点から、最も重要な寸法である「歯先径」(歯部の外径)を諸元どおり常温下で所定の寸法公差内に収まっているかを検査した。歯先径は、3次元座標測定機(株式会社東京精密製DuraMax(登録商標))を用い、各供試体とも、軸方向の3箇所[歯部の一端部(開口側)、歯部の中央、歯部の他端部(底部側)]を常温下で測定した。
【0093】
(判定基準)
外観(特に「回り止めおよび抜け止め」の加工に伴う外観)に異常がないことに加え、歯先径が軸方向3箇所とも基準寸法65.11に対し±0.03mmの寸法公差内である場合は、歯付プーリの製造品質に優れると評価し、a判定とした。
外観(特に「回り止めおよび抜け止め」の加工に伴う外観)に異常がないことに加え、歯先径が軸方向3箇所とも基準寸法65.11に対し±0.03mmの寸法公差内ではないが±0.04mmの寸法公差内である場合は、歯付プーリの製造品質が良好であると評価し、b判定とした。
外観(特に「回り止めおよび抜け止め」の加工に伴う外観)に異常の兆候が認められた場合、及び/又は、歯先径が軸方向3箇所とも基準寸法65.11に対し±0.04mmの寸法公差内ではないが±0.05mmの寸法公差内である場合は、歯付プーリの製造品質が許容範囲内であると評価し、c判定とした。
外観(特に「回り止めおよび抜け止め」の加工に伴う外観)に異常が認められた場合、及び/又は、歯先径が1箇所でも所定(基準寸法65.11に対し±0.05mm)の寸法公差外である場合は、歯付プーリの製造品質を確保できないと評価し、d判定とした。
本用途での実使用に対する適正(歯付プーリの製造品質)の観点から、a~c判定のいずれかの歯付プーリを合格レベルとした。
【0094】
[破壊試験]
(試験方法)
「回り止めおよび抜け止め」を設けることによって、顕著な(例えば100℃程度の)温度変化が生じる実使用環境下でも、芯金に対する樹脂部の接合強度が確保されているかを見極めるため、さきの外観・寸法検査で外観に異常が認められた供試体は除く各歯付プーリ(供試体)に対して、「回転トルク」および「抜け強度」の2つの評価項目について測定を行った。
【0095】
(回転トルク)
回り止めの効果をみるため、芯金に対して樹脂部が周方向にずれる時のトルクを測定した。
(測定方法)
内部温度を約120℃に保持した恒温槽内に歯付プーリ(供試体)を3時間放置後、治具にて樹脂部を固定(回転不能に把持)した状態で、芯金(中央穴部)に相対回転不能に取り付けたシャフトの先端に接続したトルクレンチを回転させて、芯金が回り始める(芯金-樹脂部間で滑る)時のトルク(Nm)を測定した。
【0096】
(抜け強度)
抜け止めの効果をみるため、芯金に対して樹脂部が軸方向にずれる時の力を測定した。
(測定方法)
恒温槽付きの万能試験機(最大荷重容量50kN)を用いて、内部温度を約120℃に保持した恒温槽内に歯付プーリ(供試体)を3時間放置後、下方の受け台に樹脂部を固定(軸方向下方に移動不能に支持)した状態で、圧縮試験モード(押下速度5mm/分)で軸方向上方から芯金を押圧し、芯金が抜け始める時の荷重(kN)を測定した。
【0097】
なお、歯付プーリ(供試体)において、実使用下(雰囲気温度120℃下)での、樹脂部と芯金の熱膨張量の差の推定値は、以下のとおりである。
芯金の金属材料(SPCC)の線膨張係数(α):13.7E-6
樹脂部の樹脂材料(PPS)の線膨張係数(β):3.00E-5
温度変化量(Δt):100℃(120℃-20℃)
芯金と樹脂部の界面径(芯金の外径)(d):58.9mm
上記界面径dに対する、各々の熱膨張量、ならびに各々の熱膨張量の差は、以下のとおりである。
芯金の熱膨張量:0.081mm(=α×Δt×d)
樹脂部の熱膨張量:0.177mm(=β×Δt×d)
樹脂部と芯金の熱膨張量の差:径で約0.10mm、径方向片側で約0.05mm
【0098】
(判定基準)
実使用に対する安全率をみて、「回転トルク」が180Nm以上で、かつ「抜け強度」が9kN以上である場合は、歯付プーリの接合強度(芯金-樹脂部間)(雰囲気温度120℃下)に優れると評価し、a判定とした。
実使用に対する安全率をみて、「回転トルク」が150Nm以上180Nm未満で、かつ「抜け強度」が7kN以上9kN未満である場合は、歯付プーリの接合強度(芯金-樹脂部間)(雰囲気温度120℃下)が良好であると評価し、b判定とした。
実使用に対する安全率をみて、「回転トルク」が120Nm以上150Nm未満で、かつ「抜け強度」が5kN以上7kN未満である場合は、歯付プーリの接合強度(芯金-樹脂部間)(雰囲気温度120℃下)が許容範囲内であると評価し、c判定とした。
「回転トルク」が120Nm未満、及び/又は、「抜け強度」が5kN未満である場合は、歯付プーリの接合強度(芯金-樹脂部間)(雰囲気温度120℃下)を確保できないと評価し、d判定とした。
本用途での実使用に対する適正(芯金に対する樹脂部の接合強度(雰囲気温度120℃下))の観点から、a~c判定のいずれかの歯付プーリを合格レベルとした。
【0099】
[分解検査]
(試験方法)
生産性(製造の手間(別工程)の有無)を見極めるため、歯付プーリ(供試体)を分解し、芯金の外周面(特に回り止めおよび抜け止め)の構造、ならびに芯金の製造方法を確認した。
【0100】
(判定基準)
「回り止めおよび抜け止め」の形成が、製造の手間(別工程)が増すことに繋がらず(特別な設計に該当せず)、生産性を維持でき、製造コストが増大するのを抑制できると認められる場合は、歯付プーリの生産性を確保できると評価し、a判定とした。
「回り止めおよび抜け止め」の形成が、製造の手間(別工程)が増すことに繋がり(特別な設計に該当し)、生産性を維持できず、製造コストが増大するのを抑制できないと認められる場合は、歯付プーリの生産性を確保できないと評価し、b判定とした。
本用途での実使用に対する適正(歯付プーリの生産性)の観点から、a判定の歯付プーリを合格レベルとした。
【0101】
(総合判定)
本課題を解決し得る歯付プーリとしての総合的な判定(ランク付け)の基準は、上記3つの評価項目[製造品質、芯金に対する樹脂部の接合強度(雰囲気温度120℃下)、生産性]における判定の結果から、以下の通りとし、Cランク以上を合格とした。
ランクA:上記の評価項目で、すべてa判定であった場合は、実用上全く問題ないものと判断し、最良のランクとした。
ランクB:生産性がa判定で、かつ、それ以外の上記2つの評価項目[製造品質、芯金に対する樹脂部の接合強度(雰囲気温度120℃下)]で、c判定、d判定はないが、1つでもb判定があった場合は、実用上問題ないが、やや劣るランクとした。
ランクC:生産性がa判定で、かつ、それ以外の上記2つの評価項目[製造品質、芯金に対する樹脂部の接合強度(雰囲気温度120℃下)]で、d判定はないが、1つでもc判定があった場合は、実用上問題ないが、ランクBよりもやや劣るランクとした。
ランクD:生産性がb判定の場合、および/または、それ以外の上記2つの評価項目[製造品質、芯金に対する樹脂部の接合強度(雰囲気温度120℃下)]で、1つでもd判定があった場合は、本課題を解決するには不充分なランク(不合格)とした。
【0102】
(検証結果および考察)
検証結果を表2~表7に示す。
【0103】
(「回り止めおよび抜け止め」の構成を変更した比較)
【表2】
【0104】
(実施例1、比較例1~3)
芯金の歯部に対向する外周面に「回り止めおよび抜け止め」を有するか有さないかを含め、「回り止めおよび抜け止め」の構成を変更し、比較した。
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体にピンホール状の凹部が多数均一に分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」(深さ0.5mm、平均径1mm、配置間隔5mm、数多数(222個))を有する場合(実施例1)は、所定(合格レベル)の、製造品質、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)、および生産性を確保できた(総合判定でもランクA)。
【0105】
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体に凹状部(窪み部)が多数分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」を有するが、深さ0.05mm、平均径0.05mm、配置間隔0.1mm、数多数の構成である場合(比較例1)は、製造品質はa判定であったが、雰囲気温度120℃下では、樹脂部の熱膨張が芯金よりも顕著に(径方向片側で0.05mm程度)大きくなり、凹部によるアンカー効果がほぼ失われたためか、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)がd判定となり、さらに凹部の形成工程(ショットブラスト)が芯金本体の製造工程と別工程であると考えられるため、生産性もb判定(総合判定はランクD)となった。
【0106】
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の一端部に多角形(16角形)の凸状部が径方向外方に全周に渡って突出した態様の「回り止めおよび抜け止め」(高さ0.5~1.1mm、数1個)を有する場合(比較例2)は、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)、および生産性はa判定であったが、一端部の歯先径が許容公差の上限を超えてしまい、製造品質がd判定(総合判定でもランクD)となった。
【0107】
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面に「回り止めおよび抜け止め」を全く有しない場合(比較例3)は、製造品質および生産性はa判定であったが、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)がd判定(総合判定でもランクD)となった。
【0108】
以上の結果から、所定(合格レベル)の、製造品質、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)、および生産性を確保できる、という点で、芯金の歯部に対向する外周面の全体にピンホール状の凹部(深さは0.5mmが好適な範囲のひとつ)が多数均一に分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」を有する歯付プーリが好適と云える。
【0109】
(実施例1をベースに、「回り止めおよび抜け止め」の深さを変量した比較)
【表3】
【0110】
(実施例1~4、比較例4~5)
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体にピンホール状の凹部が多数均一に分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」を有する歯付プーリにおいて、実施例1の歯付プーリ(凹部の、平均径1mm、配置間隔5mm、数222個)をベースにして、深さ0.5mmを変量し、比較した。
凹部の深さが大きくなるほど、凹部によるアンカー効果が増すためか、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)が大きくなる傾向が見られた。
【0111】
実施例1に対して、凹部の深さを0.8mm(芯金厚みの半分)まで大きくした実施例4では、凹部が塑性加工(プレス加工)により形成される際に、やや大きい塑性加工を受けたためか、凹部に対向する芯金の内周面の外観に異常(膨らみ)の兆候が認められ、製造品質がぎりぎり合格レベル(c判定)となり、ランクCであった。
さらに、凹部の深さを0.9mm(芯金厚みの半分強)まで大きくした比較例5では、凹部が塑性加工(プレス加工)により形成される際に、過度に大きい塑性変形を受けたためか、凹部に対向する芯金の内周面が膨らむ外観上の異常が発生し、製造品質がd判定となり、ランクDとなった。
【0112】
一方、実施例1に対して、凹部の深さを0.3mmまで小さくした実施例3では、実施例1と同等にランクAとなった。
さらに、凹部の深さを0.2mmまで小さくした実施例2では、凹部によるアンカー効果がやや失われたためか、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)がやや小さくなり(b判定)、ランクBであった。
さらに、凹部の深さを0.1mmまで小さくした比較例4では、凹部によるアンカー効果が顕著に失われたためか、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)が顕著に小さくなり(d判定)、ランクDであった。
【0113】
(実施例2をベースに、「回り止めおよび抜け止め」の平均径を変量した比較)
【表4】
【0114】
(実施例2、5~8、比較例6~7)
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体にピンホール状の凹部が多数均一に分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」を有する歯付プーリにおいて、実施例2の歯付プーリ(凹部の、深さ0.2mm、配置間隔5mm、数222個)をベースにして、平均径1.0mmを変量し、比較した。
実施例2に対して、凹部の平均径を3.0mmまで大きくした実施例7では、実施例2と同等にランクBであったが、凹部の平均径が3.5mm(実施例8)まで大きくなると、インサート成形(射出成形)後、凹部に対向する歯部の外表面の外観に異常(ひけ)の兆候が認められ、製造品質がぎりぎり合格レベル(c判定)となり、ランクCであった。
さらに、凹部の平均径が4.0mm(比較例7)まで大きくなると、凹部に対向する歯部の外表面がひける(窪む)外観上の異常が発生し、製造品質がd判定となり、ランクDとなった。
一方、凹部の平均径を0.5mmまで小さくした実施例6では、実施例2と同等にランクBであったが、凹部の平均径が0.2mm(実施例5)まで小さくなると、凹部によるアンカー効果が乏しくなったためか、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)がぎりぎり合格レベル(c判定)となり、ランクCであった。
さらに、凹部の平均径が0.1mm(比較例6)まで小さくなると、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)が小さくなりすぎ(d判定)、ランクDとなった。
【0115】
(実施例3をベースに、「回り止めおよび抜け止め」の平均径を変量した比較)
【表5】
【0116】
(実施例3、9~12、比較例8~9)
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体にピンホール状の凹部が多数均一に分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」を有する歯付プーリにおいて、実施例3の歯付プーリ(凹部の、深さ0.3mm、配置間隔5mm、数222個)をベースにして、平均径1.0mmを変量し、比較した。
実施例3に対して、凹部の平均径を3.0mmまで大きくした実施例11では、実施例3と同等にランクAであったが、凹部の平均径が3.5mm(実施例12)まで大きくなると、インサート成形(射出成形)後、凹部に対向する歯部の外表面の外観に異常(ひけ)の兆候が認められ、製造品質がぎりぎり合格レベル(c判定)となり、ランクCであった。
さらに、凹部の平均径が4.0mm(比較例9)まで大きくなると、凹部に対向する歯部の外表面がひける(窪む)外観上の異常が発生し、製造品質がd判定となり、ランクDとなった。
一方、凹部の平均径を0.5mmまで小さくした実施例10では、凹部によるアンカー効果がやや失われたためか、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)がやや小さくなり(b判定)、ランクBであった。また、凹部の平均径が0.2mm(実施例9)まで小さくなると、凹部によるアンカー効果がさらに乏しくなったためか、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)がぎりぎり合格レベル(c判定)となり、ランクCであった。
さらに、凹部の平均径が0.1mm(比較例8)まで小さくなると、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)が小さくなりすぎ(d判定)、ランクDとなった。
【0117】
(実施例1をベースに、「回り止めおよび抜け止め」の平均径を変量した比較)
【表6】
【0118】
(実施例1、13~16、比較例10~11)
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体にピンホール状の凹部が多数均一に分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」を有する歯付プーリにおいて、実施例1の歯付プーリ(凹部の、深さ0.5mm、配置間隔5mm、数222個)をベースにして、平均径1.0mmを変量し、比較した。
実施例1に対して、凹部の平均径を3.0mmまで大きくした実施例15では、実施例1と同等にランクAであったが、凹部の平均径が3.5mm(実施例16)まで大きくなると、インサート成形(射出成形)後、凹部に対向する歯部の外表面の外観に異常(ひけ)の兆候が認められ、製造品質がぎりぎり合格レベル(c判定)となり、ランクCであった。
さらに、凹部の平均径が4.0mm(比較例11)まで大きくなると、凹部に対向する歯部の外表面がひける(窪む)外観上の異常が発生し、製造品質がd判定となり、ランクDとなった。
一方、凹部の平均径を0.5mmまで小さくした実施例14では、凹部によるアンカー効果がやや失われたためか、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)がやや小さくなり(b判定)、ランクBであった。また、凹部の平均径が0.2mm(実施例13)まで小さくなると、凹部によるアンカー効果がさらに乏しくなったためか、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)がぎりぎり合格レベル(c判定)となり、ランクCであった。
さらに、凹部の平均径が0.1mm(比較例10)まで小さくなると、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)が小さくなりすぎ(d判定)、ランクDとなった。
【0119】
(実施例4をベースに、「回り止めおよび抜け止め」の平均径を変量した比較)
【表7】
【0120】
(実施例4、17~20、比較例12~13)
芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体にピンホール状の凹部が多数均一に分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」を有する歯付プーリにおいて、実施例4の歯付プーリ(凹部の、深さ0.8mm、配置間隔5mm、数222個)をベースにして、平均径1.0mmを変量し、比較した。
実施例4に対して、凹部の平均径を3.0mmまで大きくした実施例19では、実施例1と同様に、凹部に対向する芯金の内周面の外観に異常(膨らみ)の兆候が認められ、ランクCであった。
凹部の平均径が3.5mm(実施例20)まで大きくなると、インサート成形(射出成形)後、さらに、凹部に対向する歯部の外表面の外観に異常(ひけ)の兆候も認められ、ランクCであった。
さらに、凹部の平均径が4.0mm(比較例13)まで大きくなると、凹部に対向する歯部の外表面がひける(窪む)外観上の異常が発生し、製造品質がd判定となり、ランクDとなった。
一方、凹部の平均径を0.5mmまで小さくした実施例18では、実施例4と同等にランクCであったが、凹部の平均径が0.2mm(実施例17)まで小さくなると、凹部によるアンカー効果が乏しくなったためか、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)もぎりぎり合格レベル(c判定)となり、ランクCであった。
さらに、凹部の平均径が0.1mm(比較例12)まで小さくなると、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)が小さくなりすぎ(d判定)、ランクDとなった。
【0121】
(表3~7の結果まとめ)
実施例1~20のように、所定(合格レベル)の、製造品質、芯金に対する樹脂部の接合強度(120℃下)、および生産性を確保できるという点で、深さが0.2mm以上芯金厚みの半分以下[芯金厚み(外周部分)が1.6mmの場合は0.8mm以下]で、かつ、平均径(断面を円形に置き換えた場合の直径)が0.2mm以上3.5mm以下の凹部が、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体に多数均一に分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」を有する歯付プーリが好ましい態様と云える。
また、深さが0.2mm以上芯金厚みの1/3以下[芯金厚み(外周部分)が1.6mmの場合は0.5mm以下]で、かつ、平均径(断面を円形に置き換えた場合の直径)が0.5mm以上3mm以下の凹部が、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体に多数均一に分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」を有する歯付プーリが最も好適な(バランスのとれた)態様と云える。
【0122】
(得られた効果)
以上の全検証結果(表2~7)から、実施例1~20の歯付プーリは、課題(1)~(3)に対応し、芯金の、樹脂部の歯部に対向する外周面の全体に、深さ0.2mm以上芯金厚みの半分以下で、かつ、平均幅が0.2mm以上3.5mm以下のピンホール状の凹部が多数均一に分散した態様の「回り止めおよび抜け止め」を形成し、当該芯金をインサート部材として、インサート成形して、樹脂部の一部が当該多数の凹部に入り込んだ状態で固化している歯付プーリとすることで、生産性を維持したまま、歯部の寸法精度と、芯金に対する樹脂部の接合強度とを共に確保し易くできることが確認できた。