(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171350
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】動力伝達装置および産業機械
(51)【国際特許分類】
F16H 13/08 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
F16H13/08 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088280
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】ニデックドライブテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】岡村 暉久夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 仁
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA01
3J051BA03
3J051BB06
3J051BD02
3J051BE04
3J051FA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バックラッシを低減できる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】動力伝達装置は、入力シャフト、太陽ローラ、リング、遊星ローラ、遊星シャフト、遊星軸受、キャリア、および弾性部材を備える。前記遊星軸受の内径は、前記遊星シャフトの外径よりも大きい。駆動が停止した状態において、遊星軸受の内周面の軸方向一端部は、遊星シャフトの外周面の一部である第1接触部と接触し、遊星軸受の内周面の軸方向他端部は、遊星シャフトの外周面の一部であり、遊星軸を基準とする周方向の位置が第1接触部と異なる第2接触部と接触する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸に沿って配置された入力シャフトと、
前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、
前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、
前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、
前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、
前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、
前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、
を備え、
前記リングは、
前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1リングと、
前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2リングと、
を有し、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材
をさらに備え、
前記遊星軸受の内径は、前記遊星シャフトの外径よりも大きく、
駆動が停止した状態において、
前記遊星軸受の内周面の軸方向一端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部である第1接触部と接触し、
前記遊星軸受の内周面の軸方向他端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する、動力伝達装置。
【請求項2】
中心軸に沿って配置された入力シャフトと、
前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、
前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、
前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、
前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、
前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、
前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、
を備え、
前記リングは、
前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1リングと、
前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2リングと、
を有し、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材
をさらに備え、
前記遊星ローラの内径は、前記遊星軸受の外径よりも大きく、
駆動が停止した状態において、
前記遊星ローラの内周面の軸方向一端部は、前記遊星軸受の外周面の一部である第1接触部と接触し、
前記遊星ローラの内周面の軸方向他端部は、前記遊星軸受の外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置であって、
前記遊星軸から前記遊星ローラと前記第1リングとの接触点までの径方向の距離をRA、前記遊星軸から前記遊星ローラと前記第2リングとの接触点までの径方向の距離をRBとして、
RA≠RB
を満たす、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3に記載の動力伝達装置であって、
0.005≦|RA-RB|/RA≦0.05
を満たす、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置であって、
前記中心軸から前記遊星ローラと前記第1リングとの接触点までの径方向の距離である第1距離と、前記中心軸から前記遊星ローラと前記第2リングとの接触点までの径方向の距離である第2距離と、が異なる、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置であって、
前記第1接触部と前記第2接触部とは、前記遊星軸を基準として、略点対称に配置される、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置であって、
前記遊星ローラは、
外周面の軸方向一端部に配置され、前記軸方向の一方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第1テーパ面と、
外周面の軸方向他端部に配置され、前記軸方向の他方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第2テーパ面と、
を有し、
前記遊星ローラと前記第1リングとの接触点は、前記第1テーパ面上に配置され、
前記遊星ローラと前記第2リングとの接触点は、前記第2テーパ面上に配置される、動力伝達装置。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置であって、
前記第1リングは、
前記軸方向の一方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第1傾斜面
を有し、
前記第2リングは、
前記軸方向の他方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第2傾斜面
を有し、
前記遊星ローラと前記第1リングとの接触点は、前記第1傾斜面上に配置され、
前記遊星ローラと前記第2リングとの接触点は、前記第2傾斜面上に配置される、動力伝達装置。
【請求項9】
中心軸に沿って配置された入力シャフトと、
前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、
前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、
前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、
前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、
前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、
前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、
を備え、
前記太陽ローラは、
前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1太陽ローラと、
前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2太陽ローラと、
を有し、
前記第1太陽ローラおよび前記第2太陽ローラの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材
をさらに備え、
前記遊星軸受の内径は、前記遊星シャフトの外径よりも大きく、
駆動が停止した状態において、
前記遊星軸受の内周面の軸方向一端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部である第1接触部と接触し、
前記遊星軸受の内周面の軸方向他端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する、動力伝達装置。
【請求項10】
中心軸に沿って配置された入力シャフトと、
前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、
前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、
前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、
前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、
前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、
前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、
を備え、
前記太陽ローラは、
前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1太陽ローラと、
前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2太陽ローラと、
を有し、
前記第1太陽ローラおよび前記第2太陽ローラの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材
をさらに備え、
前記遊星ローラの内径は、前記遊星軸受の外径よりも大きく、
駆動が停止した状態において、
前記遊星ローラの内周面の軸方向一端部は、前記遊星軸受の外周面の一部である第1接触部と接触し、
前記遊星ローラの内周面の軸方向他端部は、前記遊星軸受の外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する、動力伝達装置。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の動力伝達装置であって、
前記遊星軸から前記遊星ローラと前記第1太陽ローラとの接触点までの径方向の距離をRA、前記遊星軸から前記遊星ローラと前記第2太陽ローラとの接触点までの径方向の距離をRBとして、
RA≠RB
を満たす、動力伝達装置。
【請求項12】
請求項11に記載の動力伝達装置であって、
0.005≦|RA-RB|/RA≦0.05
を満たす、動力伝達装置。
【請求項13】
請求項9または請求項10に記載の動力伝達装置であって、
前記中心軸から前記遊星ローラと前記第1太陽ローラとの接触点までの径方向の距離である第3距離と、前記中心軸から前記遊星ローラと前記第2太陽ローラとの接触点までの径方向の距離である第4距離と、が異なる、動力伝達装置。
【請求項14】
請求項9または請求項10に記載の動力伝達装置であって、
前記遊星ローラは、
外周面の軸方向一端部に配置され、前記軸方向の一方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第1テーパ面と、
外周面の軸方向他端部に配置され、前記軸方向の他方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第2テーパ面と、
を有し、
前記遊星ローラと前記第1太陽ローラとの接触点は、前記第1テーパ面上に配置され、
前記遊星ローラと前記第2太陽ローラとの接触点は、前記第2テーパ面上に配置される、動力伝達装置。
【請求項15】
請求項9または請求項10に記載の動力伝達装置であって、
前記第1太陽ローラは、
前記軸方向の一方側へ向かうにつれて徐々に拡径する第1傾斜面
を有し、
前記第2太陽ローラは、
前記軸方向の他方側へ向かうにつれて徐々に拡径する第2傾斜面
を有し、
前記遊星ローラと前記第1太陽ローラとの接触点は、前記第1傾斜面上に配置され、
前記遊星ローラと前記第2太陽ローラとの接触点は、前記第2傾斜面上に配置される、動力伝達装置。
【請求項16】
請求項1、請求項2、請求項9、および請求項10のいずれか一項に記載の動力伝達装置であって、
前記遊星シャフトは、
前記遊星軸受に接触するとともに、径方向に移動可能な可動片
を有する、動力伝達装置。
【請求項17】
請求項1、請求項2、請求項9、および請求項10のいずれか一項に記載の動力伝達装置を備えた、産業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置および産業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの回転運動を減速して出力する動力伝達装置が知られている。従来の動力伝達装置については、例えば、特開2015-148261号公報に記載されている。当該公報の減速機は、太陽ローラと、太陽ローラの周囲に配置された遊星ローラと、固定リングとを有する。遊星ローラは、太陽ローラの周囲において、自転しながら公転する。遊星ローラの公転の回転速度は、太陽ローラの回転速度よりも遅い。したがって、遊星ローラの公転を、減速後の出力として取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の動力伝達装置では、加工精度の限界などにより、各部品の間に隙間が生じる。そして、それらの隙間により、動力伝達装置にバックラッシが生じる場合がある。例えば、遊星ローラと、遊星ローラを支持するシャフトとの間に、隙間が存在すると、当該隙間によりバックラッシが生じる。バックラッシは、特に停止時などの低負荷の状態において、がたつきを生み、動力伝達装置の動作の精度を低下させる原因となり得る。
【0005】
本発明の目的は、バックラッシを低減できる動力伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明は、動力伝達装置であって、中心軸に沿って配置された入力シャフトと、前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、を備え、前記リングは、前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1リングと、前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2リングと、を有し、前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材をさらに備え、前記遊星軸受の内径は、前記遊星シャフトの外径よりも大きく、駆動が停止した状態において、前記遊星軸受の内周面の軸方向一端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部である第1接触部と接触し、前記遊星軸受の内周面の軸方向他端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する。
【0007】
第2発明は、動力伝達装置であって、中心軸に沿って配置された入力シャフトと、前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、を備え、前記リングは、前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1リングと、前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2リングと、を有し、前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材をさらに備え、前記遊星ローラの内径は、前記遊星軸受の外径よりも大きく、駆動が停止した状態において、前記遊星ローラの内周面の軸方向一端部は、前記遊星軸受の外周面の一部である第1接触部と接触し、前記遊星ローラの内周面の軸方向他端部は、前記遊星軸受の外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する。
【0008】
第3発明は、動力伝達装置であって、中心軸に沿って配置された入力シャフトと、前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、を備え、前記太陽ローラは、前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1太陽ローラと、前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2太陽ローラと、を有し、前記第1太陽ローラおよび前記第2太陽ローラの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材をさらに備え、前記遊星軸受の内径は、前記遊星シャフトの外径よりも大きく、駆動が停止した状態において、前記遊星軸受の内周面の軸方向一端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部である第1接触部と接触し、前記遊星軸受の内周面の軸方向他端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する。
【0009】
第4発明は、動力伝達装置であって、中心軸に沿って配置された入力シャフトと、前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、を備え、前記太陽ローラは、前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1太陽ローラと、前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2太陽ローラと、を有し、前記第1太陽ローラおよび前記第2太陽ローラの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材をさらに備え、前記遊星ローラの内径は、前記遊星軸受の外径よりも大きく、駆動が停止した状態において、前記遊星ローラの内周面の軸方向一端部は、前記遊星軸受の外周面の一部である第1接触部と接触し、前記遊星ローラの内周面の軸方向他端部は、前記遊星軸受の外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する。
【発明の効果】
【0010】
第1発明または第3発明によれば、遊星シャフトと遊星軸受との間の隙間に起因する動力伝達装置のバックラッシを低減できる。
【0011】
第2発明または第4発明によれば、遊星軸受と遊星ローラとの間の隙間に起因する動力伝達装置のバックラッシを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る動力伝達装置の縦断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のA-A線における動力伝達装置の横断面図である。
【
図4】
図4は、遊星ローラの一部分と、第1リングおよび第2リングの断面と、を示した図である。
【
図5】
図5は、入力シャフト、太陽ローラ、遊星ローラ、および遊星シャフトと、第1リング、第2リング、およびキャリアの断面とを示した図である。
【
図6】
図6は、遊星軸を含み、かつ、径方向に対して垂直な断面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る動力伝達装置の、遊星軸を含み、かつ、径方向に対して垂直な断面図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る動力伝達装置の、入力シャフト、太陽ローラ、遊星ローラ、遊星シャフト、および弾性部材と、リングおよびキャリアの断面とを示した図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係る動力伝達装置の、遊星軸を含み、かつ、径方向に対して垂直な断面図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態に係る動力伝達装置の、遊星軸を含み、かつ、径方向に対して垂直な断面図である。
【
図11】
図11は、第1変形例に係る動力伝達装置の横断面図である。
【
図12】
図12は、第1変形例に係る遊星シャフトの分解斜視図である。
【
図13】
図13は、第3変形例に係る動力伝達装置の縦断面図である。
【
図14】
図14は、第3変形例に係る動力伝達装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
<1.ロボットについて>
図1は、動力伝達装置1を備えた産業機械100の概要図である。産業機械100は、例えば、工業製品の製造ラインにおいて、部品の搬送、加工、組立等の作業を行う、いわゆる産業用ロボットである。
図1に示すように、産業機械100は、ベースフレーム101、アーム102、モータ103、および動力伝達装置1を備える。
【0015】
アーム102は、ベースフレーム101に対して、回動可能に支持されている。モータ103および動力伝達装置1は、ベースフレーム101とアーム102との間の関節部に、組み込まれている。モータ103に駆動電流が供給されると、モータ103から回転運動が出力される。また、モータ103から出力される回転運動は、動力伝達装置1により減速されて、アーム102へ伝達される。これにより、ベースフレーム101に対してアーム102が、減速後の速さで回動する。
【0016】
産業機械100は、動力伝達装置1を備えるため、後述するメカニズムによって、バックラッシを低減した産業機械100を実現できる。
【0017】
<2.動力伝達装置について>
続いて、上記の動力伝達装置1について、より詳細に説明する。以下では、動力伝達装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0018】
<2-1.第1実施形態>
図2は、第1実施形態に係る動力伝達装置1の縦断面図である。
図3は、
図2のA-A線における動力伝達装置1の横断面図である。
図3では、図面の煩雑化を避けるため、断面を示すハッチングが省略されている。この動力伝達装置1は、入力シャフト20に入力される第1回転速度の回転運動を、第1回転速度よりも遅い第2回転速度の回転運動に減速して出力する減速機である。
【0019】
図2および
図3に示すように、動力伝達装置1は、入力シャフト20、太陽ローラ30、リング40、遊星ローラ50、遊星シャフト60、遊星軸受70、キャリア80、および弾性部材90を備える。本実施形態の動力伝達装置1は、ケーシング10をさらに備える。
【0020】
ケーシング10は、上述したベースフレーム101に固定される。ケーシング10は、第1ケーシング11および第2ケーシング12を有する。第1ケーシング11は、中心軸X1に対して略垂直な板状である。第1ケーシング11は、入力シャフト20の周囲から、径方向外方へ向けて広がる。第2ケーシング12は、板状の端壁部121と、筒状の周壁部122とを有する。端壁部121は、後述するキャリアシャフト82の周囲から、径方向外方へ向けて広がる。周壁部122は、端壁部121の外周部から、軸方向一方側へ向けて延びる。
【0021】
周壁部122の軸方向一方側の端部は、第1ケーシング11に固定されている。入力シャフト20の一部、太陽ローラ30、リング40,遊星ローラ50、遊星シャフト60、遊星軸受70、およびキャリア80の一部は、第1ケーシング11および第2ケーシング12により構成されるケーシング10の内部空間に収容される。
【0022】
入力シャフト20は、中心軸X1に沿って配置される。入力シャフト20の形状は、軸方向に延びる柱状である。入力シャフト20と第1ケーシング11との間には、入力軸受21が配置されている。これにより、入力シャフト20は、ケーシング10に対して回転可能に支持される。入力軸受21には、例えば、ボールベアリングが使用される。ただし、入力軸受21は、ボールベアリング以外の軸受であってもよい。
【0023】
入力シャフト20は、モータ103の出力軸に接続される。モータ103を駆動させると、モータ103から出力される駆動力により、入力シャフト20が、中心軸X1を中心として、減速前の第1回転速度で回転する。
【0024】
太陽ローラ30は、入力シャフト20とともに、中心軸X1を中心として回転する。すなわち、入力シャフト20が第1回転速度で回転すると、太陽ローラ30も第1回転速度で回転する。太陽ローラ30は、入力シャフト20に固定されている。ただし、入力シャフト20と太陽ローラ30とが、単一の部材で形成されていてもよい。太陽ローラ30は、中心軸X1を中心とする円筒状の外周面を有する。
【0025】
リング40は、太陽ローラ30の径方向外方に配置される。リング40は、第1リング41および第2リング42を有する。第1リング41および第2リング42は、それぞれ、中心軸X1を中心とする環状の部材である。第1リング41および第2リング42は、後述する遊星軸X2よりも径方向外方に位置する。第1リング41は、第2リング42よりも、軸方向一方側に配置される。第1リング41の一部分は、遊星ローラ50よりも軸方向一方側に配置される。第2リング42の一部分は、遊星ローラ50よりも軸方向他方側に配置される。
【0026】
第1リング41は、第1ピン43を介して、第1ケーシング11に接続される。第1ピン43は、第1リング41および第1ケーシング11に、軸方向に挿入される。これにより、ケーシング10に対する第1リング41の周方向の回転が防止される。ただし、第1リング41は、ケーシング10に対して、軸方向に僅かに移動可能となっている。
【0027】
第2リング42は、第2ピン44を介して、第2ケーシング12に接続される。第2ピン44は、第2リング42および第2ケーシング12に、軸方向に挿入される。これにより、ケーシング10に対する第2リング42の周方向の回転が防止される。ただし、第2リング42は、ケーシング10に対して、軸方向に僅かに移動可能となっている。
【0028】
遊星ローラ50は、太陽ローラ30およびリング40に接触する。
図3に示すように、本実施形態の動力伝達装置1は、3つの遊星ローラ50を有する。3つの遊星ローラ50は、太陽ローラ30の径方向外方に配置される。3つの遊星ローラ50は、周方向に間隔をあけて配置される。各遊星ローラ50は、中心軸X1と平行な遊星軸X2を中心とする円筒状の外周面を有する。各遊星ローラ50の外周面は、太陽ローラ30の外周面と接触する。また、各遊星ローラ50の外周面の軸方向一端部は、第1リング41と接触する。また、各遊星ローラ50の外周面の軸方向他端部は、第2リング42と接触する。
【0029】
ただし、動力伝達装置1が有する遊星ローラ50の数は、2つまたは4つ以上であってもよい。
【0030】
遊星シャフト60は、中心軸X1と平行な遊星軸X2に沿って配置される。遊星シャフト60の形状は、軸方向に延びる柱状である。
図3に示すように、本実施形態の動力伝達装置1は、3本の遊星シャフト60を有する。各遊星ローラ50は、中央に貫通孔53を有する。貫通孔53は、遊星ローラ50を軸方向に貫通する。遊星シャフト60の軸方向一端部は、貫通孔53に挿入される。遊星シャフト60の軸方向他端部は、キャリア80に支持される。
【0031】
遊星軸受70は、遊星シャフト60と遊星ローラ50との間に配置される。
図2に示すように、本実施形態では、1つの遊星ローラ50に対して、遊星軸受70として、2つの軸受が配置されている。遊星軸受70を構成する2つの軸受は、軸方向に間隔をあけて配置される。各軸受には、例えばボールベアリングが使用される。遊星軸受70の内輪は、遊星シャフト60の外周面に接触する。遊星軸受70の外輪は、遊星ローラ50の内周面に接触する。これにより、遊星ローラ50が、遊星シャフト60に対して回転可能に支持される。すなわち、遊星ローラ50が、遊星軸X2を中心として回転可能に支持される。なお、遊星軸受70は、ボールベアリング以外の軸受であってもよい。
【0032】
キャリア80は、リング40と遊星シャフト60の相対回転を出力する。キャリア80は、太陽ローラ30および遊星ローラ50よりも、軸方向他方側に配置される。キャリア80は、キャリアホイール81およびキャリアシャフト82を有する。キャリアホイール81は、中心軸X1を中心とする略円板状である。遊星シャフト60の軸方向他端部は、キャリアホイール81に形成された孔に挿入される。キャリアシャフト82は、キャリアホイール81から、中心軸X1に沿って、軸方向他方側へ延びる。
【0033】
キャリアホイール81と入力シャフト20との間には、中間軸受83が配置される。キャリアシャフト82と第2ケーシング12との間には、出力軸受84が配置される。これにより、キャリア80は、ケーシング10および入力シャフト20に対して、回転可能に支持される。中間軸受83および出力軸受84には、例えば、ボールベアリングが使用される。ただし、中間軸受83および出力軸受84は、ボールベアリング以外の軸受であってもよい。
【0034】
キャリア80は、中心軸X1を中心として回転する。したがって、キャリア80に支持された遊星シャフト60と、遊星シャフト60に支持された遊星ローラ50も、キャリア80とともに、中心軸X1を中心として回転する。これにより、遊星ローラ50が、太陽ローラ30の周りを公転可能となっている。
【0035】
弾性部材90は、第1リング41および第2リング42の少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する。本実施形態では、第1ケーシング11と第1リング41との間に、弾性部材90が配置されている。本実施形態では、軸方向に弾性変形可能な部材である。弾性部材90は、例えば、皿ばねである。ただし、皿ばねに代えて、コイルばねやゴムなどを使用してもよい。弾性部材90は、自然長よりも軸方向に圧縮されている。したがって、弾性部材90は、第1リング41を、常に、第2リング42へ向けて軸方向に押圧する。これにより、遊星ローラ50の径方向外側の端部が、第1リング41と第2リング42との間に挟まれる。
【0036】
図4は、遊星ローラ50の一部分と、第1リング41および第2リング42の断面と、を示した図である。
図4に示すように、遊星ローラ50は、第1テーパ面51を有する。第1テーパ面51は、遊星ローラ50の外周面の軸方向一端部に配置される。第1テーパ面51は、軸方向に対して傾斜する。具体的には、第1テーパ面51は、軸方向の一方側へ向かうにつれて、徐々に縮径する。遊星ローラ50と第1リング41との接触点PAは、第1テーパ面51上に配置される。
【0037】
また、
図4に示すように、第1リング41は、第1傾斜面411を有する。第1傾斜面411は、軸方向に対して傾斜する。具体的には、第1傾斜面411は、軸方向の一方側へ向かうにつれて、徐々に縮径する。遊星ローラ50と第1リング41との接触点PAは、第1傾斜面411上に配置される。
【0038】
このように、遊星ローラ50と第1リング41との接触箇所に、第1テーパ面51および第1傾斜面411の少なくともいずれか一方を設ければ、弾性部材90により第1リング41と遊星ローラ50との間に生じる軸方向の押圧力が、径方向内方へ向かう法線力に変換される。これにより、遊星ローラ50が太陽ローラ30へ向けて押圧される。その結果、遊星ローラ50と太陽ローラ30とが、径方向に接触した状態に維持される。
【0039】
また、
図4に示すように、遊星ローラ50は、第2テーパ面52を有する。第2テーパ面52は、遊星ローラ50の外周面の軸方向他端部に配置される。第2テーパ面52は、軸方向に対して傾斜する。具体的には、第2テーパ面52は、軸方向の他方側へ向かうにつれて、徐々に縮径する。遊星ローラ50と第2リング42との接触点PBは、第2テーパ面52上に配置される。
【0040】
また、
図4に示すように、第2リング42は、第2傾斜面421を有する。第2傾斜面421は、軸方向に対して傾斜する。具体的には、第2傾斜面421は、軸方向の他方側へ向かうにつれて、徐々に縮径する。遊星ローラ50と第2リング42との接触点PBは、第2傾斜面421上に配置される。
【0041】
このように、遊星ローラ50と第2リング42との接触箇所に、第2テーパ面52および第2傾斜面421の少なくともいずれか一方を設ければ、弾性部材90により第2リング42と遊星ローラ50との間に生じる軸方向の押圧力が、径方向内方へ向かう法線力に変換される。これにより、遊星ローラ50が太陽ローラ30へ向けて押圧される。その結果、遊星ローラ50と太陽ローラ30とが、径方向に接触した状態に維持される。
【0042】
太陽ローラ30が第1回転速度で回転すると、太陽ローラ30と遊星ローラ50との間の摩擦により、遊星ローラ50が、遊星軸X2を中心として自転する。また、遊星ローラ50は、第1リング41および第2リング42とも接触しているため、第1リング41および第2リング42と遊星ローラ50との間の摩擦により、上記の自転に伴い、第1リング41および第2リング42に沿って公転する。すなわち、遊星ローラ50は、遊星軸X2を中心として自転しつつ、中心軸X1を中心として公転する。中心軸X1を中心とする遊星ローラ50の公転速度は、第1回転速度よりも遅い第2回転速度となる。
【0043】
また、遊星ローラ50は、遊星シャフト60を介してキャリア80に接続されている。このため、遊星ローラ50が公転すると、キャリア80も、遊星ローラ50の公転と同じ第2回転速度で、中心軸X1を中心として回転する。その結果、キャリア80から、減速された第2回転速度の回転運動を取り出すことができる。
【0044】
本実施形態の動力伝達装置1では、遊星軸受70の内径が、遊星シャフト60の外径よりも大きい。具体的には、遊星軸受70の内輪の内径が、遊星シャフト60の外径よりも、僅かに大きい。このため、遊星軸受70および遊星ローラ50は、遊星シャフト60に対して傾斜することが可能となっている。
【0045】
図5は、入力シャフト20、太陽ローラ30、遊星ローラ50、および遊星シャフト60と、第1リング41、第2リング42、およびキャリア80の断面とを示した図である。
図5に示すように、この動力伝達装置1は、遊星軸X2から遊星ローラ50と第1リング41との接触点PAまでの径方向の距離をRA、遊星軸X2から遊星ローラ50と第2リング42との接触点PBまでの径方向の距離をRBとして、RA≠RBを満たす。具体的には、RAとRBとが、0.005≦|RA-RB|/RA≦0.05を満たすことが望ましい。
【0046】
また、RA≠RBであるため、中心軸X1から遊星ローラ50と第1リング41との接触点PAまでの径方向の距離である第1距離RCと、中心軸X1から遊星ローラ50と第2リング42との接触点PBまでの径方向の距離である第2距離RDと、も異なる。具体的には、RCとRDとが、0.0025≦|RC-RD|/RC≦0.025を満たすことが望ましい。
【0047】
図6は、遊星軸X2を含み、かつ、径方向に対して垂直な断面図である。なお、
図6では、図の煩雑化を避けるため、断面を示すハッチングを一部省略している。上述の通り、第1リング41、遊星ローラ50、および第2リング42には、弾性部材90による軸方向の押圧力が、常に作用している。したがって、接触点PAにおいては、遊星ローラ50と第1リング41が常に接触し、接触点PBにおいては、遊星ローラ50と第2リング42が常に接触している。ただし、上記の距離RAと距離RBが異なることから、接触点PA,PBにおいて、速度差による周方向の相対滑りが生じる。この滑りにより、
図6のように、接触点PA,PBには、常に、周方向の互いに反対向きの接線力FA,FBが生じる。
【0048】
特に、遊星軸X2から遊星ローラ50と第1リング41との接触点PAまでの径方向の距離RAと、遊星軸X2から遊星ローラ50と第2リング42との接触点PBまでの径方向の距離RBと、中心軸X1から遊星ローラ50と第1リング41との接触点PAまでの径方向の距離である第1距離RCと、中心軸X1から遊星ローラ50と第2リング42との接触点PBまでの径方向の距離である第2距離RDと、が上記の関係を満たすことにより、より最適な接線力FA,FBが発生する。
【0049】
この接線力FA,FBにより、遊星ローラ50および遊星軸受70を、遊星軸X2に対して傾斜させるスキュー力SA,SBが発生する。このため、遊星軸受70および遊星ローラ50は、遊星シャフト60に対して、中心軸X1を基準とする周方向に傾斜する。すなわち、
図6のように、遊星軸受70の内周面の軸方向一端部は、遊星シャフト60の外周面の一部である第1接触部CAと接触し、遊星軸受70の内周面の軸方向他端部は、遊星シャフト60の外周面の一部であり、遊星軸X2を基準とする周方向の位置が第1接触部CAと異なる第2接触部CBと接触する。これにより、遊星シャフト60と遊星軸受70との間の隙間が除去される。このとき、遊星シャフト60に作用するスキュー力SAおよびスキュー力SBは、互いに偶力の関係にある。
【0050】
駆動が停止した状態においても、第1リング41、遊星ローラ50、および第2リング42には、弾性部材90による軸方向の押圧力が、作用する。このため、駆動が停止した状態においても、上記のスキュー力SA,SBは残る。したがって、駆動が停止した状態においても、遊星軸受70の内周面の軸方向一端部は、遊星シャフト60の外周面の一部である第1接触部CAと接触し、遊星軸受70の内周面の軸方向他端部は、遊星シャフト60の外周面の一部であり、遊星軸X2を基準とする周方向の位置が第1接触部CAと異なる第2接触部CBと接触する。これにより、遊星シャフト60と遊星軸受70との間の隙間が除去される。その結果、遊星シャフト60と遊星軸受70との間の隙間に起因する動力伝達装置1のバックラッシを低減できる。
【0051】
図6に示すように、遊星軸受70の内周面の軸方向一端部は、遊星シャフト60の第1接触部CAと、中心軸X1を中心とする周方向に接触する。また、遊星軸受70の内周面の軸方向他端部は、遊星シャフト60の第2接触部CBと、中心軸X1を中心とする周方向に接触する。一方、遊星軸受70と遊星シャフト60は、中心軸X1を中心とする径方向には接触しない。このため、弾性部材90による上述した法線力は、遊星シャフト60ではなく太陽ローラ30に作用する状態が維持される。
【0052】
また、上述した接触点PAにおける接線力FAの反力は、第1リング41が受ける。この反力により、第1リング41と第1ピン43との間の径差による隙間、および、第1ピン43と第1ケーシング11の間の径差による隙間が、除去される。その結果、第1リング41と第1ピン43との間の隙間、または、第1ピン43と第1ケーシング11の間の隙間に起因する動力伝達装置1のバックラッシも低減できる。
【0053】
また、上述した接触点PBにおける接線力FBの反力は、第2リング42が受ける。この反力により、第2リング42と第2ピン44との間の径差による隙間、および、第2ピン44と第2ケーシング12の間の径差による隙間が、除去される。その結果、第2リング42と第2ピン44との間の隙間、または、第2ピン44と第2ケーシング12の間の隙間に起因する動力伝達装置1のバックラッシも低減できる。
【0054】
第1接触部CAと第2接触部CBとは、遊星軸X2を基準として、略点対称に配置される。すなわち、第1接触部CAと第2接触部CBとは、遊星軸X2を基準として互いに反対側に配置され、かつ、遊星ローラ50の軸方向の中央を基準として互いに反対側に配置される。これにより、上記のスキュー力SA,SBが作用した際に、遊星ローラ50を、中心軸X1を基準とする周方向に、安定的に傾けることができる。
【0055】
<2-2.第2実施形態>
続いて、動力伝達装置1の第2実施形態について説明する。
図7は、第2実施形態に係る動力伝達装置1の、遊星軸X2を含み、かつ、径方向に対して垂直な断面図である。なお、以下では、上記の第1実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0056】
図7に示すように、第2実施形態の動力伝達装置1では、遊星ローラ50の内径が、遊星軸受70の外径よりも大きい。具体的には、遊星ローラ50の内径が、遊星軸受70の外輪の外径よりも、僅かに大きい。このため、遊星ローラ50は、遊星シャフト60および遊星軸受70に対して、傾斜することが可能となっている。
【0057】
この第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、弾性部材90の押圧力と、RA≠RBの関係により、接触点PA,PBにおいて、接線力FA,FBが生じる。ただし、第2実施形態では、接線力FA,FBにより生じるスキュー力SA,SBによって、遊星シャフト60および遊星軸受70に対して、遊星ローラ50が、中心軸X1を基準とする周方向に傾斜する。すなわち、
図7のように、遊星ローラ50の内周面の軸方向一端部は、遊星軸受70の外周面の一部である第1接触部CAと接触し、遊星ローラ50の内周面の軸方向他端部は、遊星軸受70の外周面の一部であり、遊星軸X2を基準とする周方向の位置が第1接触部CAと異なる第2接触部CBと接触する。これにより、遊星軸受70と遊星ローラ50との間の隙間が除去される。このとき、遊星シャフト60に作用するスキュー力SAおよびスキュー力SBは、互いに偶力の関係にある。
【0058】
駆動が停止した状態においても、第1リング41、遊星ローラ50、および第2リング42には、弾性部材90による軸方向の押圧力が、作用する。このため、駆動が停止した状態においても、上記のスキュー力SA,SBは残る。したがって、駆動が停止した状態においても、遊星ローラ50の内周面の軸方向一端部は、遊星軸受70の外周面の一部である第1接触部CAと接触し、遊星ローラ50の内周面の軸方向他端部は、遊星軸受70の外周面の一部であり、遊星軸X2を基準とする周方向の位置が第1接触部CAと異なる第2接触部CBと接触する。これにより、遊星軸受70と遊星ローラ50との間の隙間が除去される。その結果、遊星軸受70と遊星ローラ50との間の隙間に起因する動力伝達装置1のバックラッシを低減できる。
【0059】
<2-3.第3実施形態>
続いて、動力伝達装置1の第3実施形態について説明する。
図8は、第3実施形態に係る動力伝達装置1の、入力シャフト20、太陽ローラ30、遊星ローラ50、遊星シャフト60、および弾性部材90と、リング40およびキャリア80の断面とを示した図である。なお、以下では、上記の第1実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0060】
図8に示すように、第3実施形態の動力伝達装置1では、太陽ローラ30が、第1太陽ローラ31と、第2太陽ローラ32とを有する。第1太陽ローラ31および第2太陽ローラ32は、入力シャフト20とともに、中心軸X1を中心として回転する。すなわち、入力シャフト20が第1回転速度で回転すると、第1太陽ローラ31および第2太陽ローラ32も、第1回転速度で回転する。ただし、第1太陽ローラ31は、入力シャフト20に対して、軸方向に僅かに移動可能となっている。
【0061】
また、本実施形態の動力伝達装置1は、1つのリング40を有する。リング40は、太陽ローラ30の径方向外方に配置される。リング40は、中心軸X1を中心とする環状の部材である。リング40は、図示を省略したピンを介して、ケーシング10に接続される。これにより、ケーシング10に対するリング40の周方向の回転が防止される。
【0062】
遊星ローラ50は、太陽ローラ30およびリング40に接触する。遊星ローラ50の外周面は、リング40の内周面と接触する。また、遊星ローラ50の外周面の軸方向一端部は、第1太陽ローラ31と接触する。また、遊星ローラ50の外周面の軸方向他端部は、第2太陽ローラ32と接触する。
【0063】
弾性部材90は、第1太陽ローラ31および第2太陽ローラ32の少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する。本実施形態では、入力軸受21と第1太陽ローラ31との間に、弾性部材90が配置されている。弾性部材90は、軸方向に弾性変形可能な部材である。弾性部材90は、例えば、皿ばねである。ただし、皿ばねに代えて、コイルばねやゴムなどを使用してもよい。弾性部材90は、自然長よりも軸方向に圧縮されている。したがって、弾性部材90は、第1太陽ローラ31を、常に、第2太陽ローラ32へ向けて軸方向に押圧する。これにより、遊星ローラ50の径方向内側の端部が、第1太陽ローラ31と第2太陽ローラ32との間に挟まれる。
【0064】
遊星ローラ50は、第1テーパ面51を有する。第1テーパ面51は、遊星ローラ50の外周面の軸方向一端部に配置される。第1テーパ面51は、軸方向に対して傾斜する。具体的には、第1テーパ面51は、軸方向の一方側へ向かうにつれて、徐々に縮径する。遊星ローラ50と第1太陽ローラ31との接触点PAは、第1テーパ面51上に配置される。
【0065】
第1太陽ローラ31は、第1傾斜面311を有する。第1傾斜面311は、軸方向に対して傾斜する。具体的には、第1傾斜面311は、軸方向の一方側へ向かうにつれて、徐々に拡径する。遊星ローラ50と第1太陽ローラ31との接触点PAは、第1傾斜面311上に配置される。
【0066】
このように、遊星ローラ50と第1太陽ローラ31との接触箇所に、第1テーパ面51および第1傾斜面311の少なくともいずれか一方を設ければ、弾性部材90により第1太陽ローラ31と遊星ローラ50との間に生じる軸方向の押圧力が、径方向外方へ向かう法線力に変換される。これにより、遊星ローラ50がリング40へ向けて押圧される。その結果、遊星ローラ50とリング40とが、径方向に接触した状態に維持される。
【0067】
遊星ローラ50は、第2テーパ面52を有する。第2テーパ面52は、遊星ローラ50の外周面の軸方向他端部に配置される。第2テーパ面52は、軸方向に対して傾斜する。具体的には、第2テーパ面52は、軸方向の他方側へ向かうにつれて、徐々に縮径する。遊星ローラ50と第2太陽ローラ32との接触点PBは、第2テーパ面52上に配置される。
【0068】
第2太陽ローラ32は、第2傾斜面321を有する。第2傾斜面321は、軸方向に対して傾斜する。具体的には、第2傾斜面321は、軸方向の他方側へ向かうにつれて、徐々に拡径する。遊星ローラ50と第2太陽ローラ32との接触点PBは、第2傾斜面321上に配置される。
【0069】
このように、遊星ローラ50と第2太陽ローラ32との接触箇所に、第2テーパ面52および第2傾斜面321の少なくともいずれか一方を設ければ、弾性部材90により第2太陽ローラ32と遊星ローラ50との間に生じる軸方向の押圧力が、径方向外方へ向かう法線力に変換される。これにより、遊星ローラ50がリング40へ向けて押圧される。その結果、遊星ローラ50とリング40とが、径方向に接触した状態に維持される。
【0070】
本実施形態の動力伝達装置1では、遊星軸受70の内径が、遊星シャフト60の外径よりも大きい。具体的には、遊星軸受70の内輪の内径が、遊星シャフト60の外径よりも、僅かに大きい。このため、遊星軸受70および遊星ローラ50は、遊星シャフト60に対して傾斜することが可能となっている。
【0071】
図8に示すように、この動力伝達装置1は、遊星軸X2から遊星ローラ50と第1太陽ローラ31との接触点PAまでの径方向の距離をRA、遊星軸X2から遊星ローラ50と第2太陽ローラ32との接触点PBまでの径方向の距離をRBとして、RA≠RBを満たす。具体的には、RAとRBとが、0.005≦|RA-RB|/RA≦0.05を満たすことが望ましい。
【0072】
また、RA≠RBであるため、中心軸X1から遊星ローラ50と第1太陽ローラ31との接触点PAまでの径方向の距離である第3距離RCと、中心軸X1から遊星ローラ50と第2太陽ローラ32との接触点PBまでの径方向の距離である第4距離RDと、も異なる。具体的には、RCとRDとが、0.0025≦|RC-RD|/RC≦0.025を満たすことが望ましい。
【0073】
図9は、第3実施形態に係る動力伝達装置1の、遊星軸X2を含み、かつ、径方向に対して垂直な断面図である。なお、
図9では、図の煩雑化を避けるため、断面を示すハッチングを一部省略している。上述の通り、第1太陽ローラ31、遊星ローラ50、および第2太陽ローラ32には、弾性部材90による軸方向の押圧力が、常に作用している。したがって、接触点PAにおいては、遊星ローラ50と第1太陽ローラ31が常に接触し、接触点PBにおいては、遊星ローラ50と第2太陽ローラ32が常に接触している。ただし、上記の距離RAと距離RBが異なることから、接触点PA,PBにおいて、速度差による周方向の相対滑りが生じる。この滑りにより、接触点PA,PBには、常に、周方向の互いに反対向きの接線力FA,FBが生じる。
【0074】
特に、遊星軸X2から遊星ローラ50と第1太陽ローラ31との接触点PAまでの径方向の距離RAと、遊星軸X2から遊星ローラ50と第2太陽ローラ32との接触点PBまでの径方向の距離RBと、中心軸X1から遊星ローラ50と第1太陽ローラ31との接触点PAまでの径方向の距離である第3距離RCと、中心軸X1から遊星ローラ50と第2太陽ローラ32との接触点PBまでの径方向の距離である第4距離RDと、が上記の関係を満たすことにより、より最適な接線力FA,FBが発生する。
【0075】
この接線力FA,FBにより、遊星ローラ50および遊星軸受70を、遊星軸X2に対して傾斜させるスキュー力SA,SBが発生する。このため、遊星軸受70および遊星ローラ50は、遊星シャフト60に対して周方向に傾斜する。すなわち、
図9のように、遊星軸受70の内周面の軸方向一端部は、遊星シャフト60の外周面の一部である第1接触部CAと接触し、遊星軸受70の内周面の軸方向他端部は、遊星シャフト60の外周面の一部であり、遊星軸X2を基準とする周方向の位置が第1接触部CAと異なる第2接触部CBと接触する。これにより、遊星シャフト60と遊星軸受70との間の隙間が除去される。このとき、遊星シャフト60に作用するスキュー力SAおよびスキュー力SBは、互いに偶力の関係にある。
【0076】
駆動が停止した状態においても、第1太陽ローラ31、遊星ローラ50、および第2太陽ローラ32には、弾性部材90による軸方向の押圧力が、作用する。このため、駆動が停止した状態においても、上記のスキュー力SA,SBは残る。したがって、駆動が停止した状態においても、遊星軸受70の内周面の軸方向一端部は、遊星シャフト60の外周面の一部である第1接触部CAと接触し、遊星軸受70の内周面の軸方向他端部は、遊星シャフト60の外周面の一部であり、遊星軸X2を基準とする周方向の位置が第1接触部CAと異なる第2接触部CBと接触する。これにより、遊星シャフト60と遊星軸受70との間の隙間が除去される。その結果、遊星シャフト60と遊星軸受70との間の隙間に起因する動力伝達装置1のバックラッシを低減できる。
【0077】
図9に示すように、遊星軸受70の内周面の軸方向一端部は、遊星シャフト60の第1接触部CAと、中心軸X1を中心とする周方向に接触する。また、遊星軸受70の内周面の軸方向他端部は、遊星シャフト60の第2接触部CBと、中心軸X1を中心とする周方向に接触する。一方、遊星軸受70と遊星シャフト60は、中心軸X1を中心とする径方向には接触しない。このため、弾性部材90による上述した法線力は、遊星シャフト60ではなくリング40に作用する状態が維持される。
【0078】
第1接触部CAと第2接触部CBとは、遊星軸X2を基準として、略点対称に配置される。すなわち、第1接触部CAと第2接触部CBとは、遊星軸X2を基準として互いに反対側に配置され、かつ、遊星ローラ50の軸方向の中央を基準として互いに反対側に配置される。これにより、上記のスキュー力SA,SBが作用した際に、遊星ローラ50を、中心軸X1を基準とする周方向に、安定的に傾けることができる。
【0079】
<2-4.第4実施形態>
続いて、動力伝達装置1の第4実施形態について説明する。
図10は、第4実施形態に係る動力伝達装置1の、遊星軸X2を含み、かつ、径方向に対して垂直な断面図である。なお、以下では、上記の第3実施形態との相違点を中心に説明する。第3実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0080】
図10に示すように、第4実施形態の動力伝達装置1では、遊星ローラ50の内径が、遊星軸受70の外径よりも大きい。具体的には、遊星ローラ50の内径が、遊星軸受70の外輪の外径よりも、僅かに大きい。このため、遊星ローラ50は、遊星シャフト60および遊星軸受70に対して、傾斜することが可能となっている。
【0081】
この第4実施形態においても、第3実施形態と同様に、弾性部材90の押圧力と、RA≠RBの関係により、接触点PA,PBにおいて、接線力FA,FBが生じる。ただし、第4実施形態では、接線力FA,FBにより生じるスキュー力SA,SBによって、遊星シャフト60および遊星軸受70に対して、遊星ローラ50が、中心軸X1を基準とする周方向に傾斜する。すなわち、
図10のように、遊星ローラ50の内周面の軸方向一端部は、遊星軸受70の外周面の一部である第1接触部CAと接触し、遊星ローラ50の内周面の軸方向他端部は、遊星軸受70の外周面の一部であり、遊星軸X2を基準とする周方向の位置が第1接触部CAと異なる第2接触部CBと接触する。これにより、遊星軸受70と遊星ローラ50との間の隙間が除去される。このとき、遊星シャフト60に作用するスキュー力SAおよびスキュー力SBは、互いに偶力の関係にある。
【0082】
駆動が停止した状態においても、第1太陽ローラ31、遊星ローラ50、および第2太陽ローラ32には、弾性部材90による軸方向の押圧力が、作用する。このため、駆動が停止した状態においても、上記のスキュー力SA,SBは残る。したがって、駆動が停止した状態においても、遊星ローラ50の内周面の軸方向一端部は、遊星軸受70の外周面の一部である第1接触部CAと接触し、遊星ローラ50の内周面の軸方向他端部は、遊星軸受70の外周面の一部であり、遊星軸X2を基準とする周方向の位置が第1接触部CAと異なる第2接触部CBと接触する。これにより、遊星軸受70と遊星ローラ50との間の隙間が除去される。その結果、遊星軸受70と遊星ローラ50との間の隙間に起因する動力伝達装置1のバックラッシを低減できる。
【0083】
<3.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。以下では、種々の変形例について、上記の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、上記の実施形態と同等の部分については、重複説明を省略する。
【0084】
<3-1.第1変形例>
図11は、第1変形例に係る動力伝達装置1の横断面図である。
図12は、第1変形例に係る遊星シャフト60の分解斜視図である。
図11および
図12の例では、遊星シャフト60が、可動片62を有する。具体的には、遊星シャフト60が、シャフト本体61と、一対の可動片62とを有する。
【0085】
シャフト本体61は、キャリア80に支持される。一対の可動片62は、シャフト本体61の、周方向における両側に配置される。可動片62は、シャフト本体61に対して、径方向に移動可能となっている。また、可動片62は、遊星軸受70に接触する。シャフト本体61と遊星軸受70の内輪との間には、径方向の隙間が存在する。
【0086】
弾性部材90により発生する上述した法線力は、シャフト本体61ではなく、可動片62に作用する。これにより、シャフト本体61を押圧することなく、遊星ローラ50を、太陽ローラ30またはリング40へ向けて、押圧することができる。したがって、遊星ローラ50を、太陽ローラ30またはリング40に対して、より安定的に接触させることができる。
【0087】
<3-2.第2変形例>
図13は、第2変形例に係る動力伝達装置1の縦断面図である。上述した実施形態の各図では、遊星軸X2から遊星ローラ50と太陽ローラ30の接触点までの距離と、遊星軸X2から遊星ローラ50とリング40の接触点までの距離とが、略同一であった。これに対し、
図13の例では、遊星軸X2から遊星ローラ50と太陽ローラ30の接触点までの距離よりも、遊星軸X2から遊星ローラ50とリング40の接触点までの距離の方が、短い。このようにすれば、動力伝達装置1の減速比を、より大きくすることができる。すなわち、減速後の第2回転速度を、より小さくすることができる。
【0088】
上述した実施形態では、遊星軸受70として、ボールベアリングを使用していた。これに対し、
図13の例では、遊星軸受70として、ニードルベアリングを使用している。このようにすれば、遊星軸X2から遊星ローラ50とリング40の接触点までの距離を、より短くしやすい。したがって、動力伝達装置1の減速比を、より大きくしやすい。
【0089】
このような構造においても、上記の実施形態と同様に、スキュー力SA,SBによって、遊星シャフト60に対して、遊星ローラ50を、中心軸X1を基準とする周方向に傾斜させることにより、遊星シャフト60と遊星軸受70との間の隙間、または、遊星軸受70と遊星ローラ50との間の隙間が除去される。その結果、当該隙間に起因する動力伝達装置1のバックラッシを低減できる。
【0090】
<3-3.第3変形例>
図14は、第3変形例に係る動力伝達装置1の縦断面図である。上記の実施形態では、リング40がケーシング10に接続され、遊星シャフト60がキャリア80に接続されていた。これに対し、
図14の例では、遊星シャフト60がケーシング10に接続され、リング40がキャリア80に接続されている。
【0091】
図14の例では、太陽ローラ30の回転により遊星ローラ50が自転すると、遊星ローラ50とリング40との間の摩擦により、リング40が、中心軸X1を中心として回転する。中心軸X1を中心とするリング40の回転速度は、第1回転数よりも遅い第2回転速度となる。そして、リング40はキャリア80に接続されているため、リング40とともにキャリア80も、第2回転速度で、中心軸X1を中心として回転する。その結果、キャリア80から、減速された第2回転速度の回転運動を取り出すことができる。
【0092】
このような構造においても、上記の実施形態と同様に、スキュー力SA,SBによって、遊星シャフト60に対して、遊星ローラ50を、中心軸X1を基準とする周方向に傾斜させることにより、遊星シャフト60と遊星軸受70との間の隙間、または、遊星軸受70と遊星ローラ50との間の隙間が除去される。その結果、当該隙間に起因する動力伝達装置1のバックラッシを低減できる。
【0093】
<3-4.他の変形例>
上記の実施形態の動力伝達装置1は、ロボットの関節に使用されていた。しかしながら、動力伝達装置1は、ロボット以外の産業機械に使用されてもよい。例えば、動力伝達装置1は、アシストスーツ、無人搬送台車、天体望遠鏡などの他の産業機械に使用されてもよい。
【0094】
<4.総括>
本技術は、以下の構成をとることが可能である。
【0095】
(1)中心軸に沿って配置された入力シャフトと、前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、を備え、前記リングは、前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1リングと、前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2リングと、を有し、前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材をさらに備え、前記遊星軸受の内径は、前記遊星シャフトの外径よりも大きく、駆動が停止した状態において、前記遊星軸受の内周面の軸方向一端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部である第1接触部と接触し、前記遊星軸受の内周面の軸方向他端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する、動力伝達装置。
【0096】
(2)中心軸に沿って配置された入力シャフトと、前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、を備え、前記リングは、前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1リングと、前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2リングと、を有し、前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材をさらに備え、前記遊星ローラの内径は、前記遊星軸受の外径よりも大きく、駆動が停止した状態において、前記遊星ローラの内周面の軸方向一端部は、前記遊星軸受の外周面の一部である第1接触部と接触し、前記遊星ローラの内周面の軸方向他端部は、前記遊星軸受の外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する、動力伝達装置。
【0097】
(3)(1)または(2)に記載の動力伝達装置であって、前記遊星軸から前記遊星ローラと前記第1リングとの接触点までの径方向の距離をRA、前記遊星軸から前記遊星ローラと前記第2リングとの接触点までの径方向の距離をRBとして、RA≠RBを満たす、動力伝達装置。
【0098】
(4)(3)に記載の動力伝達装置であって、0.005≦|RA-RB|/RA≦0.05を満たす、動力伝達装置。
【0099】
(5)(1)から(4)までのいずれか1つに記載の動力伝達装置であって、前記中心軸から前記遊星ローラと前記第1リングとの接触点までの径方向の距離である第1距離と、前記中心軸から前記遊星ローラと前記第2リングとの接触点までの径方向の距離である第2距離と、が異なる、動力伝達装置。
【0100】
(6)(1)から(5)までのいずれか1つに記載の動力伝達装置であって、前記第1接触部と前記第2接触部とは、前記遊星軸を基準として、略点対称に配置される、動力伝達装置。
【0101】
(7)(1)から(6)までのいずれか1つに記載の動力伝達装置であって、前記遊星ローラは、外周面の軸方向一端部に配置され、前記軸方向の一方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第1テーパ面と、外周面の軸方向他端部に配置され、前記軸方向の他方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第2テーパ面と、を有し、前記遊星ローラと前記第1リングとの接触点は、前記第1テーパ面上に配置され、前記遊星ローラと前記第2リングとの接触点は、前記第2テーパ面上に配置される、動力伝達装置。
【0102】
(8)(1)から(7)までのいずれか1つに記載の動力伝達装置であって、前記第1リングは、前記軸方向の一方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第1傾斜面を有し、前記第2リングは、前記軸方向の他方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第2傾斜面を有し、前記遊星ローラと前記第1リングとの接触点は、前記第1傾斜面上に配置され、前記遊星ローラと前記第2リングとの接触点は、前記第2傾斜面上に配置される、動力伝達装置。
【0103】
(9)中心軸に沿って配置された入力シャフトと、前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、を備え、前記太陽ローラは、前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1太陽ローラと、前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2太陽ローラと、を有し、前記第1太陽ローラおよび前記第2太陽ローラの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材をさらに備え、前記遊星軸受の内径は、前記遊星シャフトの外径よりも大きく、駆動が停止した状態において、前記遊星軸受の内周面の軸方向一端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部である第1接触部と接触し、前記遊星軸受の内周面の軸方向他端部は、前記遊星シャフトの外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する、動力伝達装置。
【0104】
(10)中心軸に沿って配置された入力シャフトと、前記入力シャフトとともに前記中心軸を中心として回転する太陽ローラと、前記太陽ローラの径方向外方に配置される、前記中心軸を中心とする環状のリングと、前記太陽ローラおよび前記リングに接触する遊星ローラと、前記中心軸と平行な遊星軸に沿って配置された遊星シャフトと、前記遊星シャフトと前記遊星ローラとの間に配置された遊星軸受と、前記リングと前記遊星シャフトの相対回転を出力するキャリアと、を備え、前記太陽ローラは、前記遊星ローラの外周面の軸方向一端部と接触する第1太陽ローラと、前記遊星ローラの外周面の軸方向他端部と接触する第2太陽ローラと、を有し、前記第1太陽ローラおよび前記第2太陽ローラの少なくとも一方を、他方へ向けて軸方向に押圧する弾性部材をさらに備え、前記遊星ローラの内径は、前記遊星軸受の外径よりも大きく、駆動が停止した状態において、前記遊星ローラの内周面の軸方向一端部は、前記遊星軸受の外周面の一部である第1接触部と接触し、前記遊星ローラの内周面の軸方向他端部は、前記遊星軸受の外周面の一部であり、前記遊星軸を基準とする周方向の位置が前記第1接触部と異なる第2接触部と接触する、動力伝達装置。
【0105】
(11)(9)または(10)に記載の動力伝達装置であって、前記遊星軸から前記遊星ローラと前記第1太陽ローラとの接触点までの径方向の距離をRA、前記遊星軸から前記遊星ローラと前記第2太陽ローラとの接触点までの径方向の距離をRBとして、RA≠RBを満たす、動力伝達装置。
【0106】
(12)(11)に記載の動力伝達装置であって、0.005≦|RA-RB|/RA≦0.05を満たす、動力伝達装置。
【0107】
(13)(9)から(12)までのいずれか1つに記載の動力伝達装置であって、前記中心軸から前記遊星ローラと前記第1太陽ローラとの接触点までの径方向の距離である第3距離と、前記中心軸から前記遊星ローラと前記第2太陽ローラとの接触点までの径方向の距離である第4距離と、が異なる、動力伝達装置。
【0108】
(14)(9)から(13)までのいずれか1つに記載の動力伝達装置であって、前記遊星ローラは、外周面の軸方向一端部に配置され、前記軸方向の一方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第1テーパ面と、外周面の軸方向他端部に配置され、前記軸方向の他方側へ向かうにつれて徐々に縮径する第2テーパ面と、を有し、前記遊星ローラと前記第1太陽ローラとの接触点は、前記第1テーパ面上に配置され、前記遊星ローラと前記第2太陽ローラとの接触点は、前記第2テーパ面上に配置される、動力伝達装置。
【0109】
(15)(9)から(14)までのいずれか1つに記載の動力伝達装置であって、前記第1太陽ローラは、前記軸方向の一方側へ向かうにつれて徐々に拡径する第1傾斜面を有し、前記第2太陽ローラは、前記軸方向の他方側へ向かうにつれて徐々に拡径する第2傾斜面を有し、前記遊星ローラと前記第1太陽ローラとの接触点は、前記第1傾斜面上に配置され、前記遊星ローラと前記第2太陽ローラとの接触点は、前記第2傾斜面上に配置される、動力伝達装置。
【0110】
(16)(1)から(15)までのいずれか1つに記載の動力伝達装置であって、前記遊星シャフトは、前記遊星軸受に接触するとともに、径方向に移動可能な可動片を有する、動力伝達装置。
【0111】
(17)(1)から(16)までのいずれか1つの記載の動力伝達装置を備えた、産業機械。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、動力伝達装置および産業機械に利用できる。
【符号の説明】
【0113】
1 動力伝達装置
10 ケーシング
11 第1ケーシング
12 第2ケーシング
20 入力シャフト
21 入力軸受
30 太陽ローラ
31 第1太陽ローラ
32 第2太陽ローラ
40 リング
41 第1リング
42 第2リング
43 第1ピン
44 第2ピン
50 遊星ローラ
51 第1テーパ面
52 第2テーパ面
60 遊星シャフト
61 シャフト本体
62 可動片
70 遊星軸受
80 キャリア
81 キャリアホイール
82 キャリアシャフト
83 中間軸受
84 出力軸受
90 弾性部材
100 産業機械
311 第1傾斜面
321 第2傾斜面
411 第1傾斜面
421 第2傾斜面
PA 接触点
PB 接触点
CA 第1接触部
CB 第2接触部
FA 接線力
FB 接線力
SA スキュー力
SB スキュー力
X1 中心軸
X2 遊星軸