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特開2024-171354ひずみゲージ、ひずみ測定装置およびひずみ測定方法
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  • 特開-ひずみゲージ、ひずみ測定装置およびひずみ測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171354
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ひずみゲージ、ひずみ測定装置およびひずみ測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/24 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G01B7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088294
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸聖
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 唯
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 忠義
(72)【発明者】
【氏名】荒井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】増本 博
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA25
2F063EC09
2F063EC27
(57)【要約】
【課題】実用性の向上を図りうるひずみゲージを提供する。
【解決手段】ひずみゲージの基板1の一方の主面に形成された抵抗体2を構成するナノグラニュラー構造膜が、一般式L100-a-b-cabc(L:1種以上の非磁性金属元素または磁性金属元素、M:Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素、F:フッ素、O:酸素、12.0≦a≦33.0、17.0≦b≦70.0、0≦c≦1.0、50.0≦a+b+c≦90.0)により表わされる組成を有し、かつ、Lで表わされる平均粒径1.0~5.0nmの金属粒子がMのフッ化物またはフッ化物および酸化物からなる絶縁性マトリックスに平均粒子間隔0.2~0.6nmで分布したナノグラニュラー構造膜により構成されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と前記基板の表面に形成された抵抗体とを備えているひずみゲージであって、前記抵抗体が、一般式L100-a-b-cabc(L:Pt、Au、AgおよびCuから選択される1種以上の非磁性金属元素、M:Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素、F:フッ素、O:酸素、12.0≦a≦33.0、17.0≦b≦70.0、0≦c≦1.0、50.0≦a+b+c≦90.0)により表わされる組成を有し、かつ、Lで表わされる平均粒径1.0~5.0nmの金属粒子がMのフッ化物またはフッ化物および酸化物からなる絶縁性マトリックスに平均粒子間隔0.2~0.6nmで分布したナノグラニュラー構造膜により構成されているひずみゲージ。
【請求項2】
基板と前記基板の表面に形成された抵抗体とを備えているひずみゲージであって、前記抵抗体が、一般式L100-a-b-cabc(L:Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の磁性金属元素、M:Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素、F:フッ素、O:酸素、12.0≦a≦33.0、17.0≦b≦70.0、0≦c≦1.0、50.0≦a+b+c≦90.0)により表わされる組成を有し、かつ、Lで表わされる平均粒径1.0~5.0nmの金属粒子がMのフッ化物またはフッ化物および酸化物からなる絶縁性マトリックスに平均粒子間隔0.2~0.6nmで分布したナノグラニュラー構造膜により構成されているひずみゲージ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のひずみゲージと、前記ひずみゲージを含むブリッジ回路を構成する回路構成要素と、前記ひずみゲージに磁場を印加するための磁石と、を備えているひずみ測定装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のひずみゲージを対象物に取り付ける工程と、前記ひずみゲージに磁石を用いて磁場を印加する工程と、前記ひずみゲージの電気抵抗の変化に応じて前記対象物におけるひずみ態様を検出する工程と、を含んでいるひずみ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物のひずみを測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化物マトリックスにナノメーターサイズの金属粒子が分散しているナノグラニュラー構造膜が変形されることに応じて、当該金属粒子の間隔が変化してナノグラニュラー構造膜の電気伝導度が変化する現象が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】S.Kaji, G.Oomi, S.Mitani, S.Takahashi, K.Takanashi,and S.MaekawaPhys. Rev. B68,054429 (2003)
【非特許文献2】S.Mitani,S.Takahashi,K.Takanashi,K.Yakushiji,S.Maekawa,and H.FujimoriPhys. Rev. Lett.81,2799 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記現象は液体ヘリウム温度に近い極低温において発現するため、当該現象を用いた製品等の実用化は困難である。
【0005】
そこで、本発明は、実用性の向上を図りうるひずみゲージを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様のひずみゲージは、
基板と前記基板の表面に形成された抵抗体とを備えているひずみゲージであって、 前記抵抗体が、一般式L100-a-b-cabc(L:Pt、Au、AgおよびCuから選択される1種以上の非磁性金属元素、M:Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素、F:フッ素、O:酸素、12.0≦a≦33.0、17.0≦b≦70.0、0≦c≦1.0、50.0≦a+b+c≦90.0)により表わされる組成を有し、かつ、Lで表わされる平均粒径1.0~5.0nmの金属粒子がMのフッ化物またはフッ化物および酸化物からなる絶縁性マトリックスに平均粒子間隔0.2~0.6nmで分布したナノグラニュラー構造膜により構成されている。
【0007】
本発明の第2態様のひずみゲージは、
基板と前記基板の表面に形成された抵抗体とを備えているひずみゲージであって、前記抵抗体が、一般式L100-a-b-cabc(L:Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の磁性金属元素、M:Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素、F:フッ素、O:酸素、12.0≦a≦33.0、17.0≦b≦70.0、0≦c≦1.0、50.0≦a+b+c≦90.0)により表わされる組成を有し、かつ、Lで表わされる平均粒径1.0~5.0nmの金属粒子がMのフッ化物またはフッ化物および酸化物からなる絶縁性マトリックスに平均粒子間隔0.2~0.6nmで分布したナノグラニュラー構造膜により構成されている。
【0008】
(発明の効果)
本発明の第1態様および第2態様のそれぞれのひずみゲージによれば、抵抗体を構成するナノグラニュラー構造膜が変形することにより、当該ナノグラニュラー構造膜を構成する金属粒子の間隔が変化する。これにより、粒子間のトンネルバリアの厚さが変化し、電気伝導性が変化する。この際に、トンネルバリアを成すマトリックス物質のバンドギャップが高い場合において、膜全体の電気抵抗率が高まり、室温においても非特許文献1における低温領域と同程度の高い電気抵抗率が発揮され、常温であっても非特許文献2におけるハイオーダートンネリングによる電気伝導が実現し、ひずみゲージのゲージ率の向上、ひいてはその実用性の向上が図られている。
【0009】
さらに、本発明の第2態様のひずみゲージでは、ナノグラニュラー構造膜を構成する金属粒子が磁性金属粒子であるため、非特許文献1および2におけるトンネル型磁気抵抗効果(TMR)が生じる。さらに、ひずみゲージにひずみが印加されることにより、ナノグラニュラー構造膜の変形に応じた金属粒子の間隔の変化によってTMRの発現態様が相違する。非特許文献1および2に示される従来の材料では、ハイオーダートンネリングは液体ヘリウム温度に近いごく低温でしか生じないが、本発明の第2態様のひずみゲージによれば室温においてハイオーダートンネリングが生じるために、常温であっても磁場の存在下でのTMRの変化に基づくゲージ率のさらなる向上、ひいてはその実用性のさらなる向上が図られている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1態様および第2態様の実施形態としてのひずみゲージの構成説明図。
図2】抵抗体の微細構造に関する説明図。
図3】本発明の第1態様の抵抗体の原子比率a+b+cとひずみゲージのゲージ率との関係に関する説明図。
図4】本発明の第2態様の原子比率a+b+cとひずみ印加によるTMR比の変化との関係に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1に示されている本発明の実施形態としてのひずみゲージは、基板1と、抵抗体2と、を備えている。
【0012】
基板1は、ガラス、石英ガラス、表面が酸化されたSiウェハー、エポキシ樹脂などの可撓性を有する絶縁性材料により構成され、例えば略矩形板状に形成されている。また基板1は、金属により構成され、その少なくとも一方の主面にポリイミド、Al23などの酸化物、MgF2などのフッ化物、エポキシ樹脂などの絶縁性薄膜が形成されていてもよい。基板1の一方の主面には、ひずみゲージ(抵抗体2)の位置および姿勢の目標となる基準マーク12(センターマークなど)が設けられている。
【0013】
抵抗体2は、基板1の一方の主面に形成され、所定のゲージパターンを有するナノグラニュラー構造膜により構成されている。例えば、図1に示されているように、抵抗体2は、一方のゲージタブ20から他方のゲージタブ20まで、遠位折り返しタブ22および近位折り返しタブ24において折り返しながら基板1の長手方向に略直線状に延在している複数の直線部分21を備えている。一対のゲージタブ20のそれぞれに一対のゲージリード4のそれぞれが接続されている。抵抗体2のゲージパターンはさまざまに変更されていてもよい。
【0014】
図2に模式的に示されているように、ナノメーターサイズの金属粒子Q1が絶縁性マトリックスQ2に略均一に分散して配置されているナノグラニュラー構造膜により抵抗体2が構成されている。ナノグラニュラー構造膜の厚さは、例えば0.1~10.0μmである。
【0015】
ナノグラニュラー構造膜は、一般式L100-a-b-cabc(L:1種以上の金属元素、M:Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素、F:フッ素、O:酸素、12.0≦a≦33.0、17.0≦b≦70.0、0≦c≦1.0、50.0≦a+b+c≦90.0)により表わされる組成を有している。金属粒子Q1は、平均粒径1.0~5.0nmであり、Mのフッ化物またはフッ化物および酸化物からなる絶縁性マトリックスQ2に平均粒子間隔0.2~0.6nmで分布している。
【0016】
第1実施形態では、金属粒子Q1は、Pt、Au、AgおよびCuから選択される1種以上の金属粒子である。
【0017】
抵抗体2を覆うように基板1の一方の主面に絶縁性の保護層または保護フィルム(例えば、SiO2、Al23など)が設けられていてもよい。
【0018】
(製造方法)
ひずみゲージを構成する抵抗体2は、スパッタ法またはRFスパッタ成膜装置が用いられて基板1の一方の主面に成膜される。Pt、Au、AgおよびCuのうち少なくとも1種以上の非磁性金属元素のターゲットと、Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素のフッ化物(またはフッ化物および酸化物)のターゲットと、が同時にスパッタされる。抵抗体2の組成は、基板1に対向するターゲット上に配置されるPt、Au,AgあるいはCuチップの面積の比率、個数などにより調整される。これにより、ナノメーターサイズの金属粒子がフッ化物からなるマトリックス中に分散したナノグラニュラー構造膜が得られる。
【0019】
スパッタ成膜に際しては、ArガスまたはArおよびO2(0.1~10%)の混合ガスが用いられる。膜厚のコントロールは成膜時間を加減することによって行い、約0.3~5.0[μm]に成膜する。なお、基板は間接水冷され、あるいは、100~800[℃]の温度範囲の任意の温度に制御され、成膜時のスパッタ圧力は1~60[mTorr]に制御され、スパッタ電力は50~350[W]の範囲で調節される。
【0020】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態としてのひずみゲージは、本発明の第1実施形態としてのひずみゲージと同様に、基板1と、抵抗体2と、を備えている(図1参照)。また、ナノメーターサイズの金属粒子Q1が絶縁性マトリックスQ2に略均一に分散して配置されているナノグラニュラー構造膜により抵抗体2が構成されている(図2参照)。ナノグラニュラー構造膜の厚さは、例えば0.1~10.0μmである。
【0021】
ナノグラニュラー構造膜は、一般式L100-a-b-cabc(L:1種以上の金属元素、M:Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素、F:フッ素、O:酸素、12.0≦a≦33.0、17.0≦b≦70.0、0≦c≦1.0、50.0≦a+b+c≦90.0)により表わされる組成を有している。金属粒子Q1は、平均粒径1.0~5.0nmであり、Mのフッ化物またはフッ化物および酸化物からなる絶縁性マトリックスQ2に平均粒子間隔0.2~0.6nmで分布している。
【0022】
第2実施形態では、金属粒子Q1は、Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の磁性金属粒子である点で、第1実施形態と相違している。
【0023】
第2実施形態のひずみゲージは、第1実施形態のひずみゲージと同様の方法にしたがって製造される。
【0024】
(実施例)
基板1として縦10~50mm、横10から50mm、厚さ0.5~1.0mmのSiO2(合成石英)または無アルカリガラス基板が採用された。基板1の一方の主面に組成式L100-a-b-cabcで表される組成を有する抵抗体2として、図1に示される構成で、厚さ1.0~3.0μmのナノグラニュラー薄膜が形成された。これにより、実施例のひずみゲージが作製された。
【0025】
表1には、第1実施形態にしたがって作製された実施例1~10のひずみゲージを構成するナノグラニュラー薄膜の構成および当該ひずみゲージのゲージ率がまとめて示されている。表1には、比較例1のひずみゲージを構成するナノグラニュラー薄膜の構成および当該ひずみゲージのゲージ率も併せて示されている。
【0026】
【表1】
【0027】
図3には、実施例1~10および比較例1のそれぞれのひずみゲージに磁場が印加されていない状況での抵抗体2のa+b+cとひずみゲージのゲージ率との関係が、各実施例の該当数番の丸付き数字および黒丸で示されている。図3から、抵抗体2のa+b+cが70.0付近にある実施例1、2のひずみゲージが最も高いゲージ率を示すことがわかる。a+b+cが60.0~80.0の範囲であることが好ましく(実施例1、2、3、6、7および10参照)、a+b+cが50.0未満(比較例1参照)または90.0を超える場合は、従来材料であるCu-Ni合金などのゲージ率と同等かそれ以下であり好ましくない。
【0028】
表2には、第2実施形態にしたがって作製された実施例11~20のひずみゲージを構成するグラニュラー薄膜の構成および当該ひずみゲージにおいて、ひずみ印加無しとひずみを印加した場合のTMR比がまとめて示されている。TMR比は、1Tの磁場印加状態において測定された。ひずみの印加は、図1のひずみゲージを幅50mm、長さ180mm、厚さ1mmのステンレス製の起歪体に接着し、起歪体の長辺の一方の端を支持しその反対の端を5mm押し込むことでひずみゲージが湾曲された。この際、ひずみゲージには圧縮応力が作用する構成としたが、引張応力を加えることによっては、TMR比の変化量の大きさは圧縮歪を印加した場合と同じであるが、符号が反転する。
【0029】
【表2】
【0030】
図4には、実施例11~20のそれぞれのひずみゲージに磁場が印加されている状況において、抵抗体2のa+b+cと当該抵抗体2にひずみが印加されていな状態(歪無)でのTMR比との関係が各実施例の該当数番の丸付き数字で示されている。図4には、実施例11~20のそれぞれのひずみゲージに磁場が印加されている状況において、抵抗体2のa+b+cと当該抵抗体2にひずみが印加された状態(歪有)でのTMR比との関係が、当該丸付き数字に近接する「×」プロットにより示されている。図4において一部の「×」プロットは、丸付き数字に隠れて表示されていない。
【0031】
歪無のTMR比と歪有のTMR比の差は1%以上であり、換算されるゲージ率は20以上で、従来材料であるCu-Ni合金などのゲージ率に比べて非常に大きい。大きなTMR比を示す組成域であるa+b+cが50.0~90.0の範囲であることが好ましく(実施例11~20参照)、65.0~85.0の範囲であることがより好ましく(実施例11、12、14、16、17および18参照)、68.0~80.0の範囲であることがさらに好ましい(実施例11、12、16および17参照)。a+b+cが50.0未満または90.0を超える場合は、TMRは発現しないか非常に小さく好ましくない。
【符号の説明】
【0032】
1‥基板
12‥基準マーク
2‥抵抗体
20‥ゲージタブ
21‥直線部分
22‥遠位折り返しタブ
24‥近位折り返しタブ
4‥ゲージリード
Q1‥金属粒子
Q2‥絶縁性マトリックス。
図1
図2
図3
図4