(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171356
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】おから由来の天然氷結晶制御剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20241205BHJP
A23L 3/37 20060101ALI20241205BHJP
A23L 11/00 20210101ALN20241205BHJP
【FI】
C09K3/00 102
A23L3/37 A
A23L11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088301
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】516289753
【氏名又は名称】河原 秀久
(72)【発明者】
【氏名】河原 秀久
【テーマコード(参考)】
4B020
4B022
【Fターム(参考)】
4B020LB24
4B020LG07
4B020LK19
4B020LP03
4B020LP13
4B022LB01
4B022LB09
4B022LJ04
4B022LJ08
(57)【要約】
【課題】食品分野、畜産分野、化成品分野(コンクリート、道路、熱交換器など)、ライフサイエンス分野(冷凍細胞保存、組織及び臓器未凍結保存)を含む様々な分野で応用が可能であり、安全性及び生産性、価格制の面で優れた過冷却促進活性(抗氷核活性)、氷再結晶化抑制活性及び昇華抑制活性の三つの機能性活性を含む氷結晶制御剤を提供し、応用利用し、産業界での事業化に貢献すること。
【解決手段】おから熱水抽出エキスを含有する氷結晶制御剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
おから抽出物より得られる氷結晶制御剤。
【請求項2】
少なくとも過冷却促進活性、氷再結晶化抑制活性、昇華抑制活性の何れか一つを含む剤である、請求項1に記載の氷結晶制御剤。
【請求項3】
少なくとも過冷却促進活性、氷再結晶化抑制活性、昇華抑制活性の何れか二つを含む剤である、請求項1に記載の氷結晶制御剤。
【請求項4】
過冷却促進活性、氷再結晶化抑制活性及び昇華抑制活性を含む剤である、請求項1に記載の氷結晶制御剤。
【請求項5】
常圧下で熱水抽出によって調製される剤である、請求項1又は請求項2に記載の氷結晶制御剤。
【請求項6】
熱水抽出されたエキスで分子量14,000以上の成分が活性物質である、請求項5に記載の氷結晶制御剤。
【請求項7】
熱水抽出されたエキスで分子量100,000以上の成分が活性物質である、請求項5に記載の氷結晶制御剤。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の活性物質がタンパク質である氷結晶制御剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過冷却促進活性、氷再結晶化抑制活性、昇華抑制活性を有する氷結晶制御剤に関する。より詳しくは、おからから抽出されたエキスに含有する氷結晶制御剤である。
【背景技術】
【0002】
一般に、水は融点(0℃)以下の温度で凝固(氷核形成)するが、異物が全く含まれていない純水は-39℃まで凝固(氷核形成)しない。このように、融点以下の温度まで冷却しても水が凝固(氷核形成)しない現象は過冷却現象と呼ばれている。この過冷却現象は、水の温度が低下すると、水分子の持つ運動エネルギーが減少し、水と氷となるために必要な氷の種である氷核を発生させるために必要且つ十分な活性化エネルギーが得られないことが原因となっている。
【0003】
過冷却促進物質として知られている物質は、例えば、香辛料成分のオイゲンポール(非特許文献1)、台湾檜の成分であるヒノキチオールー鉄(非特許文献2)、針葉樹であるカツラの細胞内に存在するケンフェロール‐7-グルコシド(非特許文献3)等の低分子化合物、Acinetobacter calcoaceticus由来のタンパク質(非特許文献4)、Bacillus thuringien sis由来の多糖(非特許文献5)等の高分子化合物が報告されている。しかし、これら抗氷核活性物質は、水に含まれる氷核活性による過冷却点の上昇を低下させる機能が高く、ヨウ化銀等の氷核活性を示す異物による過冷却点の上昇を低下させることは、細菌に比べて活性が低く、加えて、これら化合物は、安全性や生産性、価格性の問題から、食品分野や化成品分野での利用が困難となっていた。
【0004】
本出願人は、食品分野での利用を考慮して種々の検討した結果、餡粕エキスに含まれる低分子ペプチド(特許文献1)、日本酒エキスの抽出物(特許文献2)、コーヒー豆から抽出された芳香族炭化水素構造とカルボキシル基を有する化合物(特許文献3)、グルコースとグリシンの反応したメラノイジン(特許文献4)、アミノ酸であるチロシンのトリペプチド(特許文献5)、核酸であるアデニンの重合体(特許文献6)等を利用する過冷却促進物質を提案している。
【0005】
氷再結晶化抑制活性を有する代表的な天然物質として、生物が有する不凍タンパク質と不凍多糖などである。不凍タンパク質は、一部の生物(魚、植物、昆虫など)が低温下で生息するための生き残る戦略のために機能している(非特許文献6)。これら不凍タンパク質としての機能としては、タンパク質自身が氷結晶に結合することによって、氷結晶の成長を完全に抑止し、それによって0℃における氷結晶が成長する温度を低下させる能力(熱ヒステレシス活性)と、冷凍の長期保存における氷再結晶化を抑制する氷結晶抑制活性の2つの機能がある(非特許文献7)。これらの不凍タンパク質の機能には、過冷却促進活性及び昇華抑制活性をもたない。
【0006】
冷凍食品の長期保存における品質劣化の原因は、昇華現象による水分量の軽減である。この水分量の低下によって、デンプン加工食品はデンプン老化が起きてしまう。この昇華現象を制御できる昇華抑制活性を有する製剤が必要となる。しかしながら、昇華抑制活性を有する製剤に関する特許もない状態である。
【0007】
おからは、豆腐製造時に生産される副産物(年間70万トン)である。総生産量の内1%は食品として販売されているが、大部分は廃棄されているのが現状である。この要因として、冷凍保存しないと腐敗しやすいことがあり、おからを生産している企業において再利用する技術が求められている。
【0008】
おからは、低カロリーで、しかも植物性でありながら良質なタンパク質を含む食材として知られている。大豆由来であるので大豆成分に含まれる脂肪代謝や脳の活性化に働くレシチン、老化や生活習慣病の予防に効果のあるサポニン、骨粗しょう症や乳がん等に効果のある大豆イソフラボンなどが含まれている。これら成分は、水への溶解性は低い化合物である。水可溶性として、おからの中に含まれる大豆多糖類が多様な機能があることは報告されている(非特許文献8、9)。しかしならが、おからの熱水抽出エキスが過冷却促進作用や氷再結晶化抑制活性があることは、今まで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許5322602
【特許文献2】特許5608435
【特許文献3】特許6423998
【特許文献4】特許6963225
【特許文献5】特許6704143
【特許文献6】特許6826730
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】H. Kawahara et al, J. Antibact. Antifung. Agents, 24,95-100, 2006
【非特許文献2】H. Kawahara et al, Biosci. Biotech. Biochem., 64, 2651-2656, 2000
【非特許文献3】Kasuga J. et al, Cryobiology, 60, 240-243, 2010
【非特許文献4】H. Kawahara et al, Biocontrol Sci., 1, 11-17, 1996
【非特許文献5】Y. Yamashita et al, Biosci. Biotech. Biochem., 66, 948-954, 2002
【非特許文献6】Waters KR Jr. et al, J Comp. Physiol. B, 181, 631-640,2011
【非特許文献7】不凍タンパク質の機能と応用、監修:津田栄 シーエムシー出版 2018年
【非特許文献8】中村彰宏、日本食品科学工学会誌 第58巻 第11号 頁559-566 2011
【非特許文献9】中村彰宏、応用糖質科学、第4巻、第3号 頁228-2332014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、食品分野を含む様々な分野で応用が可能であり、安全性、生産性及び価格性の面で優れた過冷却促進活性、氷再結晶化抑制活性、昇華抑制活性を有する氷結晶制御剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、意外にも、おからの熱水抽出液に過冷却促進作用、氷再結晶化抑制作用及び昇華抑制活性があることを見出して、本発明を完成した。すなわち、本発明の氷結晶制御剤は、以下の通りである。
(1)おから抽出物より得られる。
(2)少なくとも過冷却促進活性、氷再結晶化抑制活性、昇華抑制活性の何れか一つを含む剤である。
(3)常圧下で熱水抽出によって調製される剤である。
(4)熱水抽出されたエキスで分子量14,000以上の成分が活性物質で、好ましくは分子量100,000以上の成分が活性物質である。
(5)さらに前記活性物質がタンパク質である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の過冷却促進剤は、おからを熱水抽出することにより得られる天然エキスであり、生産性や安全性の面で優れている。さらに、得られたエキスは、氷再結晶化抑制活性を有している。両方の活性を有したエキスの場合、冷凍食品における凍結時と保存時の氷結晶を制御することができ、より品質良く冷凍食品を保存することができる。食品分野では、例えば、氷点下で凍結させずに生のままチルド食品を保存することが可能となり、また、水の凝固点(氷核形成点)がより低いために、凍結時の氷結晶をより小さくなることで冷凍食品の劣化を防い で品質を向上させることが可能になる。さらに、冷凍保存時の氷結晶の巨大化(再結晶化)を妨げることによって、食品の物理的損傷を妨げ、解凍時のドリップの軽減などが可能になる。農業分野では、例えば、寒冷地での遅霜、早霜時の農作物の凍結耐性を向上させることもできる。医療分野では、移植用および実験用の臓器および組織を安定的に保存することが可能になり、また医療用又は実験用等の細胞を安定的に保存することが可能になる。畜産分野では家畜の細胞や臓器を、漁業分野では、魚の精子や受精卵を安定的に保存することが可能なる。さらに、環境分野では、道路、車両、看板、コンクリートや航空機等における氷付着を軽減することが可能になる。これ以外にも、凍結に関わる様々な応用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1. おから
豆腐は、水に浸した大豆を摩り潰し、得られた摩砕大豆を煮沸し、大豆蛋白を抽出して「呉」を得、この呉から固形分のおからを分離して豆乳を得、得られた豆乳を冷却した後、ニガリ(苦汁)などの凝固剤(通常は水溶液として用いる)を混合して豆乳とニガリとの混合物を得、この混合物を加熱して大豆蛋白を凝固させることにより、造られている。この製造でできるおからは、豆腐大豆蛋白又は豆乳を製造する際に副生される澱物であり、またおからの利用として、家畜の飼料として65%、肥料として25%、その他で10%の利用率になっている。その10%のほとんどのもの(9%)は、廃棄されており、年間6万トンは廃棄されている。近時豆乳が健康飲料として脚光をあびるに到り、その生産も急速に増加し、廃棄されたおからの新規用途開発が要望されている。おからは、原料、製造方法の差によってその組成が異なっているが、基本成分として、水分75.5%、タンパク質6.1%、脂質3.6%、炭水化物13.8%(内食物繊維11.5%)、灰分1.0%である。
おから中に含まれる機能性成分の一つとして、女性ホルモンと似た働きをする大豆イソフラボンであるダイゼイン(分子量254)とゲニステイン(分子量270)がある。これらイソフラボンは、骨粗しょう症の予防や乳がんの予防に効果があるとされている。さらに、大豆サポニンは、アディポネクチンの分泌を促進する作用があり、アディポネクチンは肥満の原因となる脂肪の燃焼を促し、脂肪の蓄積を予防する効果が期待できる。大豆サポニンは、ソヤサポゲノールBというアグリコンに糖が3つ配糖した構造を取っている。そのため、乳化活性も有している。その化合物の分子量は配糖数で異なるが、3糖の場合には分子量962ぐらいである。最後にサポニンと同様に機能性があるのは、大豆レシチンである。グリセロリン脂質の一つであり、狭義ではホスファチジルコリンであったが、広義として、他のリン脂質を含む製品としてレシチンの名称が利用されている。レシチンは、認知症予防や肝臓での脂質代謝をあげて脂肪肝を防ぐなどの健康効果が期待でき、特に、LDLコレステロールを下げる働きがあり、動脈硬化の予防効果が期待できる。
おからの成分の健康や栄養に効果のある機能性成分については多く知られているが、おからを利用した場合での食品への物性に対する効果としては、いくつか挙げられている。おから成分中に含まれる食物繊維(11.5%)によって、その硬さであったり、製品中の保水量が増加し、食感がおから未使用の場合よりも柔らかくなったりする。
【0015】
2.氷結晶制御剤
おからの熱水抽出エキスは、優れた氷結晶制御活性を有する。本発明のおから熱水抽出エキスを含有する氷結晶制御活性は、例えば、氷核の形成を阻害することで、水の過冷却状態を保ち、氷の形成を遅らせる過冷却促進活性と、氷核を形成し、微小な氷結晶を形成後、その成長を抑制する氷再結晶化抑制活性、さらに長期冷凍保存時に機能する昇華抑制活性を含んでいる。
本発明の氷結晶制御剤は、食品分野を含む様々な分野で応用が可能であり、おからを調理したものは卯の花として食されているので、安全性の面で優れている。また、本発明の氷結晶制御剤は、豆腐製造における副産物である一部未利用資源となっているおからを、熱水抽出で簡便に調製可能であるので、生産性の面でも優れている。食品分野では、例えば、寒冷地での農作物の凍結耐性を向上させたり、さらに、冷凍食品では、冷凍保存時におきる氷結晶の巨大化による組織破壊を軽減し、解凍後のドリップ発生量を抑制、解凍後でも食感を維持させたりすることができる。さらに、冷凍食品の長期保存時におきる昇華現象による加工食品中の水分の軽減の抑制することもできる。医療分野では、移植用又は実験用等の臓器や組織を安定に保存することが可能になり、さらに細胞を安定に保存することが可能になる。畜産分野では、家畜の細胞、臓器、精子及び受精卵を安定に保存することが可能である。さらに、環境(化成品)分野では、道路などの不凍剤、道路の標識、熱交換器、航空機の主翼などの氷付着を軽減することが可能になる。これ以外にも、様々な応用が可能になる。
【0016】
本発明の氷結晶制御剤は、用途に応じて適した使い方がなされる。例えば、食品分野では、本発明の氷結晶制御剤を含むエキスを適した濃度で、冷凍食品の原材料に添加して適用することができる。場合によっては、食材や加工食品に適した濃度に希釈した水溶液を噴霧して適用することもできる。医療分野及び畜産分野では、本発明の氷結晶制御剤を含む水溶液を調製して、適用することができる。環境(化成品)分野では、道路などの凍結防止においては、本発明の氷結晶制御剤を含む水溶液を調製して、そのまま散布して適用することができる。さらに、看板や熱交換器などの用途においては、本発明の氷結晶制御剤を含む水溶液を調製して、別の接着能を有する製剤との併用によって、噴霧で適用することができる。
【実施例0017】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
氷結晶制御効果のうち、過冷却活性(抗氷核活性)、氷再結晶化抑制活性と昇華抑制活性は、下記の通りの方法で評価した。
【0018】
試験例1. 過冷却促進活性(抗氷核活性)の評価
評価試料のタンパク質濃度が1.0 mg/mLとなるように50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈した。その希釈液をそれぞれ500μL用意した。一方で、ヨウ化銀濃度が10 mg/mLとなるように、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた水溶液500μLを用意した。それぞれの評価用のサンプルを、上記2つの水溶液を混合することによって調製した。また、ブランクサンプルを、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)500μLと上記のヨウ化銀溶液500μLとを混合することによって調製した。
【0019】
過冷却促進活性は、Valiの小滴凍結法によって測定した。コールドプレート冷却装置(TCP-12、三和製作所)の銅版の上にアルミホイルを置き、シリコングリースを薄く塗布させた後、その表面に各評価用サンプル及びブランクサンプルを10μLずつ30箇所に滴下する。その後、毎分1.0℃の速度で温度を低下させて、30個の小滴の50%が凍結する温度をT50とする。各サンプルの上記小滴凍結時の温度をSampleT50とし、ブランクサンプルの上記小凍結時の温度をBlankT50とする。そして、過冷却促進活性値(抗氷核活性値)ΔT50(℃)を、下記式によって求めた。
ΔT50(℃)= BlankT50-SampleT50
【0020】
試験例2. 氷再結晶化抑制活性の評価
評価試料のタンパク質濃度が1.0 mg/mlとなるように脱イオン水で希釈した。さらに、脱イオン水で調製した60%(w/v)ショ糖水溶液 を用意し、各々100μLずつ混合し、最終ショ糖濃度が30%(w/v)となるように調製した。また、ブランクサンプルは、脱イオン水100μLと60%(w/v)ショ糖水溶液100μLを混合して調製した。
【0021】
氷再結晶化抑制活性は、シュークロースサンドイッチ法によって測定した。温度制御可能な顕微鏡システム(温度制御装置 KL-600P リンカム社製、位相差顕微鏡 BX50 オリンパス社製)に、上記混合液の1μLをカバーガラス2枚で挟んで、サンプルステージに固定した。液体窒素を用いて、1分間当たり100℃の速度で、-40℃まで急速冷凍させ、微小な氷結晶を形成させた。その後、-6℃まで温度を上昇させ、0時間の氷結晶写真を撮影した。-6℃で30分間維持させ、30分後に再結晶を起こさせた氷結晶写真を撮影した。1サンプルで3回の撮影を行い、ブランクとして脱イオン水を用いた。
【0022】
30分後に撮影した画像の数値化(一定面積における氷結晶1個当たりを見かけの面積pixel)を行った。数値化は無料画像解析ソフトImage Jを用いて行った。
500×500pixelの大きさにトリミング機能を用いて、評価サンプル毎の3枚の画像の同じ位置から切り抜いた。切り抜いた画像中の氷結晶は、黒く塗りつぶし、その面積pixel数を算出した。その面積を氷結晶の個数で割り、氷結晶1個当たりの面積の平均値を算出した。氷再結晶化抑制活性(RI活性)値を、下記式によって求めた。
サンプルの氷結晶1個当たりの見かけの面積(pixel)/ ブランク(脱イオン水)の氷結晶1個当たりの見かけの面積(pixel)
【0023】
試験例3. 昇華抑制活性の評価
昇華抑制活性は、エキス溶液と脱イオン水を凍結乾燥機で2時間昇華させた前後の重量を測定することによって計測した。小型凍結乾燥機は、東京理化器械製FD-1000を使用した。エキス溶液及び脱イオン水の各1.2mlは、クライオチューブ2ml容(Simport製)に入れた。重量を測定した後、液体窒素存在下で急速凍結させた。凍結後、凍結乾燥機にセッティングし、2時間凍結乾燥(昇華)させた。各試験チューブを取り出し、室温にて解凍させた。解凍後に重量を測定し、重量の減少量から昇華抑制(%)を算出した。
【0024】
実施例1
おから(湿重量)250gを2L容ポリ容器に入れ、水道水1,000mL を追加し、20%(w/v)とし、攪拌混合した。オートクレーブ装置(SN200、ヤマト科学社製)で100℃、ないしは90~99℃でもよい、30分間、ないしは25~35分でもよい、熱処理した。処理後に、常温まで室温に放置した。得られた熱水抽出物は、試験用篩(目開き106μm)で漉し、残渣とろ液を分離した。ろ液はさらに、No.2およびNo.5Cの濾紙で吸引ろ過した。最終ろ過後のろ液を抽出エキスIとした。
【0025】
実施例2
おから(湿重量)250gを家庭用鍋(内径28cm)に入れ、水道水1,000mLを追加し、20%(w/v)とし、攪拌混合した。鍋に蓋をして、クッキングヒーター(IH)で強火で5分加熱し、沸騰したところを確認した後、とろ火設定に変更して30分(約99℃)加熱した。処理後に、常温まで室温に放置した。得られた熱水抽出物は、試験用篩(目開き106μm) で漉し、残渣とろ液を分離した。ろ液はさらに、No.2およびNo.5Cの濾紙で吸引ろ過した。最終ろ過後のろ液を抽出エキスIIとした。
【0026】
実施例1および2で得られた抽出エキスIおよびIIは、タンパク質量及びポリフェノール量を測定した。タンパク質量は、BCAタンパク質アッセイ法(ThermoFisehr製)で測定した。ポリフェノール量は、フォーリン地オカルト法で、標準物質は没食子酸を使用した。
【0027】
試験例3.過冷却促進活性(抗氷核活性)と氷再結晶化活性(RI活性)の試験
実施例1及び実施例2で調製した抽出エキスI及びIIについてのタンパ
ク質量、ポリフェノール量を測定した後、タンパク質1mg/mlに調製した。抽出エキスI及びIIの両活性の測定の結果は、以下の表1に記載する。
【0028】
【0029】
表1に示すように、両実施例においても、過冷却促進活性(抗氷核活性)及び氷再結晶化抑制活性を有していた。両実施例のうち、実施例2の抽出効率と過冷却促進活性が高い結果から、実施例2、つまり、鍋抽出で実施する方が最適であると判断した。
【0030】
実施例3及び4
過冷却促進活性(抗氷核活性)及び氷再結晶化抑制活性に関与している物質が、どのくらいの分子量の化合物で、抽出エキス中のどの成分であるかを決定するために、まず初めに、透析チューブを用いて、実施例2の抽出エキスの分子量分画をした。分画分子量100,000以上では、透析チューブ(スペクトラム社製100kDa、31mm)、分画分子量14,000以上では、透析チューブ(富士フィルム和光純薬社製 サイズ36mm)を使用した。各々、実施例3(分画エキスIII)及び実施例4(分画エキスIV)とした。分離した各分画サンプルおよび実施例2の抽出エキスIIは、タンパク質量、ポリフェノール量及び糖量を測定し、比較した。糖量は、フェノール硫酸法により測定し、標準物質はグルコースを使用した。
【0031】
実施例2,3及び4で調製した抽出エキスII、分画エキスIIIおよびIVについてのタンパク質量、ポリフェノール量及び糖量を測定した(表2)後、タンパク質1mg/mlに調製した抽出エキスII、III及びIVの両活性の測定結果は、以下 の表3に記載する。
【0032】
【0033】
表2のように、実施例4における分画分子量14,000以上において、実施例2の各成分であるタンパク質量は79%、ポリフェノール量は66%、糖量は10%が分画されている。ポリフェノールがタンパク質量と同じような挙動を示しているのは、大豆ポリフェノールであるダイゼイン、ゲニステインが、タンパク質に吸着して実施例4のエキスに分画されていると判断した。
【0034】
【0035】
表3に示すように、過冷却促進活性(抗氷核活性)においては、実施例2の分画なしの抽出エキスの1.6℃の活性に対し、実施例3及び4において、1.7℃の活性を示した。この結果から、過冷却促進活性(抗氷核活性)の活性成分は分子量100,000以上であると判断できた。特に、氷再結晶化抑制活性の結果から、本発明の氷結晶制御剤は、分子量100,000以上の高分子成分であると判断できる。しかしながら、この高分子活性成分が表2に示した成分のどの成分であるかどうかを確認する必要があり、最も可能性のあるタンパク質の除去作用が過冷却促進活性(抗氷核活性)および氷再結晶化抑制活性に影響するかどうかを検討する。
【0036】
試験例4.タンパク質分解処理し、透析したエキスの成分量及び両活性の測定
実施例2で調製された抽出エキスII5.0mlに、このエキス中のタンパク質量の50分の1量に値する量のアルカラーゼ(メルク社製 126741, 2.995 U/ml)300μlを加え、60℃で2時間処理する。分画分子量100,000以上の透析チューブ(スペクトラム社製100kDa、31mm)を用いて、2時間2回と16時間の透析をし、分解物およびアルカラーゼを除去し、分子量100,000のみとした(実施例5)。得られた透析液は、タンパク質量、ポリフェノール量及び糖量を測定し、タンパク質量1mg/mlに調製した後、過冷却促進活性(抗氷核活性)と氷再結晶化抑制活性(RI活性)を測定する。
【0037】
実施例5
実施例5において、タンパク質を分解処理し、調製した分子量100,00以上の画分についてのタンパク質量、ポリフェノール量及び糖量を測定した(表4)後、実施例2においてタンパク質1mg/mlとなるように希釈する倍率と同じ条件で調製したタンパク質を分解処理し、透析した実施例5のエキスの両活性の測定結果を実施例3の両活性と比較したものを、以下の表5に記載する。
【0038】
【0039】
表4に示したように、アルカラーゼ処理によって、分画エキスIIIのタンパク質成分が分解され、低分子化されたタンパク質分解物は、分子量カット100,000以上の透析処理により除去されている。そのため、実施例5のタンパク質量は0となった。このタンパク質に吸着していたと思われる(一般に、ポリフェノールはタンパク質に吸着する性質がある)ポリフェノール(ダイゼイン、ゲニステイン)も同様の透析処理により除去されている。さらに、糖タンパク質として存在している糖成分も除去されている。
【0040】
【0041】
試験例5.実施例3及び5の昇華抑制活性の確認
表5に示すように、過冷却促進活性(抗氷核活性)においては、実施例3においては1.7℃の活性であったものが、アルカラーゼ処理し、透析した実施例5のエキスにおいては、0.3℃まで低下した。この結果から、過冷却促進活性(抗氷核活性)の活性成分はタンパク質であると判断できた。さらに、氷再結晶化活性に関連する成分もまた、実施例5の同じ処理により、著しい活性低下を示し、RI値が0.72となり、ほぼ(表5)。これらの結果から、本発明の氷結晶制御剤は、分子量100,000以上で、活性成分はタンパク質であると判断できた。
【0042】
過冷却促進活性(抗氷核活性)及び氷再結晶化抑制活性は、分子量100,000以上のタンパク質であることが判明した。冷凍食品の長期保存で必ず発生する昇華現象が起きて、食品の水分含量が減少し、デンプン加工食品のデンプン老化現象が起きてしまう。確認できている過冷却促進活性(抗氷核活性)と氷再結晶化抑制活性の機能と昇華抑制活性の併用により、より冷凍食品の品質改善が期待できる。そこで、昇華抑制活性についても検討を行った。そこで、 実施例2及び実施例3のタンパク質量1mg/mlに調製した抽出エキスIIおよびIIIの昇華抑制活性を測定した結果は、以下の表6に示した。
【0043】
【0044】
表6に示すように、昇華抑制活性においては、実施例2においては、16.3%の抑制活性を示した。過冷却促進活性(抗氷核活性)及び氷再結晶化抑制活性が、分子量100,000以上のタンパク質を含んでいる実施例3の分画エキスIIIの昇華抑制活性は7.9%であった。この結果から、タンパク質を主とする分子量100,0000の成分が、3つの活性が機能して冷凍食品の長期保存における品質を安定化させることができる氷結晶制御剤の主成分である。