(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017136
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ロボットハンド
(51)【国際特許分類】
B25J 15/10 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
B25J15/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119584
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ ウソク
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707ES06
3C707EU12
3C707HS27
3C707HT04
(57)【要約】
【課題】ロボットハンドの外力に対する耐性を向上させると共に、大きさや重量の増大を抑制する。
【解決手段】ロボットハンド1は、アーム2に取り付けられる掌部4と、掌部4から延びる複数の指部5とを有し、掌部4と複数の指部5とを接続する複数の第1接続部15が、掌部4の甲側の面を凸のアーチ状にする向きに湾曲して配置される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットハンドであって、
アームに取り付けられる掌部と、
前記掌部から延びる複数の指部とを有し、
前記掌部と複数の前記指部とを接続する複数の第1接続部が、前記掌部の甲側の面を凸のアーチ状にするべく湾曲線上に配置されるロボットハンド。
【請求項2】
前記掌部が前記アームに接続される第2接続部を構成する接続部材を有し、
前記接続部材が、前記掌部の前記甲側の面を凸にする向きに湾曲するアーチ状に形成される請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記掌部は、前記接続部材と複数の前記指部とを連結する複数のリンクと、複数の前記第1接続部を前記湾曲線上に配置するべく複数の前記リンクを連結する少なくとも1つのばねとを更に有する請求項2に記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記接続部材は、前記第2接続部を構成する基部と、前記基部から軸線方向の両側に張り出す1対の張出部とを備え、前記張出部の少なくとも一方に複数の前記リンクが接続される請求項3に記載のロボットハンド。
【請求項5】
前記少なくとも1つのばねが、複数の前記リンクの長手方向の中間部を連結する湾曲した板ばねを含む請求項4に記載のロボットハンド。
【請求項6】
前記掌部は5本の前記リンクを有し、
前記少なくとも1つのばねが、中間に位置する3本の前記リンクを連結する主板ばねと、前記張出部の前記一方に接続された端部に位置する2本の前記リンクを連結する端部板ばねとを含む請求項4又は5に記載のロボットハンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボットハンドに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットアームなどのエンドエフェクタとして用いられるロボットハンドには、関節を折り曲げるための折り曲げ機構が用いられた複数の指部を備える多指ロボットハンドが公知である(例えば、特許文献1)。特許文献1の多指ロボットハンドは、ヒューマノイド型のロボットの手として用いられてよく、手首部と、基部と、5本の指部(親指、人差し指、中指、薬指、小指)とを備えている。手首部は、多指ロボットハンドをロボットアームなど他の装置に取り付ける際にジョイントとして用いられる。基部は、多指ロボットハンドの指部が取り付けられる部位であり、例えば掌部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ロボットハンドの指部以外の部位の具体的構成は開示されていない。ロボットハンドの掌部は、設計の簡単さや部品の加工性等を優先して、平面構造となっている場合が多い。掌部が平面構造となっている場合、一般的に、指部は互いに平行に掌部に取り付けられる(特許文献1の
図1参照)。ロボットハンドがこのような構成とされると、外力が小指や人差し指、親指のように端に配置された指部に集中して作用し易い。
【0005】
ここで、外力に対する耐性(耐破損性能)を向上させるために、指部やそれを支持する掌部に十分な剛性を与えることが考えられる。しかしながら、掌部や指部に十分な剛性を与えるためには、掌部を厚くし、指部を太くする必要があり、各部が大型化すると共に各部の重量が大きくなってしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、ロボットハンドの外力に対する耐性を向上させると共に、大きさや重量の増大を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、ロボットハンド(1)であって、アーム(2)に取り付けられる掌部(4)と、前記掌部から延びる複数の指部(5)とを有し、前記掌部と複数の前記指部とを接続する複数の第1接続部(15)が、前記掌部の甲側の面を凸のアーチ状にするべく湾曲線上に配置される。
【0008】
この態様によれば、掌部が複数の第1接続部によって甲側の面を凸のアーチ状に形成されるため、掌部の外力に対する耐性が向上する。よって、掌部を厚くする必要がなく、掌部の大型化及び重量化を抑制することができる。
【0009】
上記の態様において、前記掌部(4)が前記アーム(2)に接続される第2接続部(20)を構成する接続部材(8)を有し、前記接続部材が、前記掌部の前記甲側の面を凸にする向きに湾曲するアーチ状に形成されるとよい。
【0010】
この態様によれば、掌部のアームに接続される側の部分も甲側の面を凸のアーチ状に形成されるため、掌部の外力に対する耐性がより向上する。よって、掌部の大型化及び重量化を抑制することができる。
【0011】
上記の態様において、前記掌部(4)は、前記接続部材(8)と複数の前記指部(5)とを連結する複数のリンク(9)と、複数の前記第1接続部(15)を前記湾曲線上に配置するべく複数の前記リンクを連結する少なくとも1つのばね(17、18)とを更に有するとよい。
【0012】
この態様によれば、複数のリンクが少なくとも1つのばねを介して互いに変位することができるため、外力が作用したときに複数のリンクの弾性変形によって外力のピーク値が緩和される。したがって、掌部の外力に対する耐性がより向上する。
【0013】
上記の態様において、前記接続部材(8)は、前記第2接続部(20)を構成する基部(21)と、前記基部から軸線方向の両側に張り出す1対の張出部(22)とを備え、前記張出部の少なくとも一方に複数の前記リンク(9)が接続されるとよい。
【0014】
この態様によれば、張出部の遊端側に接続されたリンクは、張出部の基端側(基部側)に接続されたリンクの支持剛性よりも低い支持剛性を有するため、外力による衝撃を効果的に吸収する。したがって、外力が入力し易い張出側(遊端側)のリンクに作用する外力による衝撃が軽減される。
【0015】
上記の態様において、前記少なくとも1つのばねが、複数の前記リンク(9)の長手方向の中間部を連結する湾曲した板ばね(17、18)を含むとよい。
【0016】
この態様によれば、簡単な構成によって複数のリンクに所定の剛性又は弾性を与えることができる。
【0017】
上記の態様において、前記掌部(4)は5本の前記リンク(9A~9E)を有し、前記少なくとも1つのばねが、中間に位置する3本の前記リンク(9B~9D)を連結する主板ばね(17)と、前記張出部(22)の前記一方に接続された端部に位置する2本の前記リンク(9D、9E)を連結する端部板ばね(18)とを含むとよい。
【0018】
この態様によれば、主板ばねのばね定数と端部板ばねのばね定数とを個別に設定することができるため、ロボットハンドの剛性の調整が容易である。
【発明の効果】
【0019】
以上の態様によれば、ロボットハンドの外力に対する耐性を向上させると共に、大きさや重量の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図7】実施形態に係るロボットハンドの作用の説明図
【
図8】実施形態に係るロボットハンドの掌部の構造を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るロボットハンド1の実施形態を、図面を参照して説明する。以下では、
図1及び
図3に示される基準形態のロボットハンド1について
図1及び
図3中に示す方向を用いながら説明する。
【0022】
図1~
図3に示すように、実施形態に係るロボットハンド1は、アーム2の先端に取り付けられる。アーム2は、例えば2脚歩行式の人間型ロボットの胴体に支持される多リンク機構であってく、人型ロボットの左腕に相当する。基準形態において、アーム2は前方に向けて延びている。図にはアーム2の先端部分のみが示されている。
【0023】
ロボットハンド1は人間型ロボットの左手を構成する。ロボットハンド1は、アーム2に取り付けられる掌部4と、掌部4から延びる5本の指部5(5A~5E)とを有している。基準形態における掌部4の上面は人間型ロボットの手の甲側の面に相当し、掌部4の下面は人間型ロボットの手の平の面に相当する。掌部4及び指部5(5A~5E)の各関節部は対応するアクチュエータによって駆動される。
【0024】
本実施形態では、動力源の動力をワイヤ6によって伝達するワイヤ駆動式のアクチュエータが用いられている。掌部4及び指部5の各関節部は、2本のワイヤ6によって双方向に回転駆動されてよい。具体的には、駆動源がモータによって構成され、駆動源が一方のワイヤ6を引っ張ることによって関節が一方向に回転駆動され、駆動源が他方のワイヤ6を引っ張ることによって関節が他方向に回転駆動されるとよい。或いは、各関節が駆動源により一方向に回転駆動され、ばねなどの付勢力によって他方向に回転駆動されるように構成されてもよい。
【0025】
掌部4は、アーム2の先端に連結部材7を介して回動可能に接続された接続部材8と、接続部材8に結合された5本の中手リンク9(9A~9E)とを備えている。連結部材7は、アーム2の先端に上下方向の軸線周りに回動可能に取り付けられている。連結部材7は、左右方向の軸線周りに回動可能に接続部材8を支持する関節部材である。接続部材8は人型ロボットの手根骨に相当する。5本の中手リンク9(9A~9E)は人型ロボットの中手骨に相当する。連結部材7、接続部材8及び中手リンク9は、樹脂によって構成されていてもよく、金属などによって構成されていてもよい。
【0026】
5本の中手リンク9は、接続部材8から前方斜め右下へ向けて延出する第1中手リンク9Aと、接続部材8から前方へ延出する概ね互いに平行な4本の第2中手リンク9B~第5中手リンク9Eとを有している。第1中手リンク9Aは第2中手リンク9B~第5中手リンク9Eよりも短い。第3中手リンク9Cは第1中手リンク9A~第5中手リンク9Eの中で最も前方の位置まで延びている。第1中手リンク9A~第5中手リンク9Eはそれらの先端が前方に凸になる向きに湾曲して配置されるように長さを設定されている。
【0027】
5本の指部5は、第1中手リンク9A~第5中手リンク9Eの先端に概ね左右方向の軸線周りに回動可能に連結された第1指部5A~第5指部5Eを有している。第1指部5A~第5指部5Eは人間型ロボットの親指、人差し指、中指、薬指、小指の5本の指に相当する。各指部5は、掌部4側から順に接続された基節リンク11、中節リンク12及び末節リンク13を有している。基節リンク11、中節リンク12及び末節リンク13は、樹脂によって構成されていてもよく、金属などによって構成されていてもよい。
【0028】
第1指部5Aにおいては、基節リンク11は対応する第1中手リンク9Aの先端に概ね上下方向の軸線周りに回動可能に接続されている。中節リンク12は対応する基節リンク11の先端に概ね上下方向の軸線周りに回動可能に接続されている。末節リンク13は対応する中節リンク12の先端に概ね上下方向の軸線周りに回動可能に接続されている。基節リンク11と対応するリンクとの接続部は、掌部4と各指部5とを接続する第1接続部15を構成する。第1接続部15は人型ロボットのMP関節に相当する。
【0029】
第2指部5B~第4指部5Dにおいては、基節リンク11は対応する中手リンク9の先端に概ね左右方向の軸線周りに回動可能に接続されている。中節リンク12は対応する基節リンク11の先端に概ね左右方向の軸線周りに回動可能に接続されている。末節リンク13は対応する中節リンク12の先端に概ね左右方向の軸線周りに回動可能に接続されている。基節リンク11と対応するリンクとの接続部は、掌部4と各指部5とを接続する第1接続部15を構成する。
【0030】
第3指部5Cにおいて、これらのリンクの軸線は略左右に延在している。第2指部5Bにおいて、これらのリンクの軸線は、第3指部5Cから遠い側が下がる向きに傾斜している。第4指部5D及び第5指部5Eにおいても、これらのリンクの軸線は、第3指部5Cから遠い側が下がる向きに傾斜している。第4指部5D及び第5指部5Eのリンクの軸線は、第3指部5Cから遠いほど大きく傾斜している。つまり、第5指部5Eのリンクの軸線の傾斜角は、第4指部5Dのリンクの軸線の傾斜角よりも大きい。また、第1指部5Aのリンクの軸線の傾斜角は、第2指部5Bのリンクの軸線の傾斜角よりも大きい。
【0031】
第2中手リンク9B~第4中手リンク9Dは、主板ばね17によって互いに連結されている。主板ばね17は、上下方向の厚み及び前後方向の幅を有し、左右方向に延在しており、第2中手リンク9B~第4中手リンク9Dの上面に沿って配置されている。主板ばね17は、平面視で前方に凸になる向きに湾曲しており、第2中手リンク9B~第4中手リンク9Dの長手方向の中間部に結合されている。
【0032】
第4中手リンク9D及び第5中手リンク9Eは、端部板ばね18によって互いに連結されている。端部板ばね18は、上下方向の厚みを有し、前後及び左右方向に延在しており、第4中手リンク9D及び第5中手リンク9Eの上面に沿って配置されている。端部板ばね18は、平面視でV字形状をしており、V字の屈曲部が第5中手リンク9Eの長手方向の中間部に結合され、両端部が主板ばね17の左端の前後にて第4中手リンク9Dに結合されている。端部板ばね18の直線部の幅は、主板ばね17の幅の1/2程度とされている。
【0033】
図3に示すように、掌部4と各指部5とを接続する5つの第1接続部15は、水平面に対して上向きに凸の湾曲する湾曲線上に配置されている。これにより、掌部4の甲側の面は掌部4の先端側において凸のアーチ状になっている。また、第1中手リンク9A~第5中手リンク9Eの接続部材8に対する接続部も、水平面に対して上向きに凸の湾曲する湾曲線上に配置されている。これにより、掌部4の甲側の面は掌部4の基端側において凸のアーチ状になっている。
【0034】
図4は接続部材8の背面図である。
図2及び
図4に示すように、接続部材8は、アーム2に接続される第2接続部20を連結部材7と協働して構成する基部21と、基部21から左右に張り出す1対の張出部22(22A、22B)と、基部21から前方に張り出す前方張出部23とを有している。第2接続部20は人型ロボットの手首関節に相当する。基部21は、連結部材7(
図2)を挟むように左右方向に間隔を空けて配置された円環板状からなる1対の軸受部24と、両軸受部24を連結する連結片25とを有している。1対の張出部22は、右側の軸受部24から右方に張り出す第1張出部22Aと、左側の軸受部24から左方に張り出す第2張出部22Bとを有している。第1張出部22A及び第2張出部22Bは、基部21から基部21の軸線方向の両側に張り出している。前方張出部23は1対の軸受部24に架け渡されるように設けられている。
【0035】
第1張出部22A及び第2張出部22Bは遊端に向けて下方へ湾曲している。第1張出部22Aは、第2張出部22Bに比べて大きな幅を有し、第2張出部22Bよりも強く湾曲している。第1張出部22Aの基端側(基部21側)には第2中手リンク9Bを取り付けるための1つの取付部26が設けられ、第1張出部22Aの遊端側には第1中手リンク9Aを取り付けるための2つの取付部26が設けられている。前方張出部23には第3中手リンク9Cを取り付けるための1つの取付部26が設けられている。第2張出部22Bの基端側(基部21側)には第4中手リンク9Dを取り付けるための1つの取付部26が設けられ、第2張出部22Bの遊端側には第5中手リンク9Eを取り付けるための1つの取付部26が設けられている。
【0036】
図5は主板ばね17の背面図である。
図5に示すように、主板ばね17は左右方向に対して上に凸になる向きに湾曲している。これにより、
図3に示すように、第2中手リンク9B~第4中手リンク9Dの3つの第1接続部15が水平面に対して上向きに凸の湾曲形状に配置される。主板ばね17の両端部及び中間部には、第2中手リンク9B~第4中手リンク9Dに結合されるべき3つの結合部27が設けられている。
【0037】
図6は端部板ばね18の背面図である。
図6に示すように、端部板ばね18は左右方向に対して上に凸になる向きに湾曲している。
図3に示すように、端部板ばね18が第4中手リンク9D及び第5中手リンク9Eに結合されることにより、第2中手リンク9B~第5中手リンク9Eの4つの第1接続部15が水平面に対して上向きに凸の湾曲形状に配置される。端部板ばね18の両端部及び屈曲部には、第4中手リンク9D及び第5中手リンク9Eに結合されるべき3つの結合部27が設けられている。
【0038】
図1及び
図2に示すように、第1中手リンク9A及び第2中手リンク9B間には板ばねは設けられていない。代わりに、第1中手リンク9Aは、
図4に併せて示すように、2つの取付部26において接続部材8の第1張出部22Aに取り付けられる。これにより、第1中手リンク9Aの接続部材8に対する支持剛性が確保される。
【0039】
次に、このように構成されたロボットハンド1の動作及び効果について説明する。
【0040】
図3を参照して説明したように、掌部4と5本の指部5とを接続する5つの第1接続部15は、掌部4の甲側の面を凸のアーチ状にするべく湾曲線上に配置されている。このように、掌部4が複数の第1接続部15によって甲側の面を凸のアーチ状に形成されることにより、掌部4の外力に対する耐性が向上する。よって、掌部4を厚くする必要がなく、掌部4の大型化及び重量化が抑制される。
【0041】
すなわち、
図7に示すように、ロボットハンド1の掌部4は、複数の第1接続部15によって甲側の面を凸のアーチ状に形成されることにより、横中手骨アーチ31を形成する。これにより、複数の第1接続部15があたかも深横中手骨靭帯32によって連結されているように挙動する。例えば、端部に位置する第1中手リンク9Aや第5中手リンク9Eに衝撃荷重が加わったときに、それらの中手リンク9の変位によって掌部4が衝撃を吸収する。よって、衝撃荷重が加わった中手リンク9の破損が抑制され、掌部4の外力に対する耐性が向上する。
【0042】
また
図4に示すように、第2接続部20を構成する掌部4の接続部材8は、掌部4の甲側の面を凸にする向きに湾曲するアーチ状に形成されている。このように、掌部4のアーム2に接続される側の部分も甲側の面を凸のアーチ状に形成されることにより、掌部4の外力に対する耐性がより向上する。よって、掌部4の大型化及び重量化が抑制される。
【0043】
すなわち、
図7に示すように、ロボットハンド1の掌部4は、接続部材8によって甲側の面を凸のアーチ状に形成されることにより、横手根アーチ33を形成する。これにより、接続部材8が手根靭帯34の如く機能し、複数の中手リンク9が手根靭帯34によって連結されているように挙動する。これによっても、中手リンク9の変位によって掌部4が衝撃を吸収するため、掌部4の外力に対する耐性が向上する。
【0044】
このようなロボットハンド1の掌部4の構造は、
図8(A)に示されるようにモデル化され得る。ここでは、
図2に示すように、掌部4がアーム2に対して約90°屈曲した状態で手の平の面(
図2中に示される掌部4の下面)に例えば地面から衝撃荷重が加わった場合が考察される。
図8(B)に示すように、手首関節に相当する第2接続部20に掌部4の正面から荷重が加わると、掌部4は弾性変形することによって衝撃荷重を吸収する。これにより掌部4の破損が抑制される。すなわち、掌部4の正面からの荷重に対する耐性(耐破損性能)が高くなる。
【0045】
この作用効果は人間の手と共通する。例えば、人が歩行中に躓いて前に転倒した場合、
図9に示すように同様の状況が生じる。すなわち、地面から掌の正面に加わった荷重が手根骨及び手首関節を介して腕の尺骨及び橈骨に伝達される。尺骨及び橈骨には、急激な荷重(衝撃荷重)が加わることによって大きな負荷応力が発生する。その際、掌が平らな形状であると曲げ負荷モードが支配的になり負荷応力が高くなるが、掌が横手根アーチ33(
図7参照)を有することにより、圧縮負荷モードが支配的となり、尺骨及び橈骨に発生する応力が低減される。これにより、手根骨、尺骨及び橈骨が骨折し難くなっている。本実施形態のロボットハンド1においても、同様の作用効果が奏される。
【0046】
また、掌部4は複数の中手リンク9を備え、複数の第1接続部15を湾曲線上に配置するべく、複数の中手リンク9が主板ばね17及び端部板ばね18によって連結されている。複数の中手リンク9はばねを介して互いに変位可能であり、外力が作用したときに複数の中手リンク9の弾性変形によって外力のピーク値が緩和される。したがって、掌部4の外力に対する耐性がより向上する。なお、複数の中手リンク9を連結する少なくとも1つのばねが設けられることにより、このような効果は奏される。
【0047】
したがって、他の実施形態では、主板ばね17だけが設けられていてもよい。この場合、主板ばね17が長く形成されて第5中手リンク9Eに連結されてもよい。或いは、第5中手リンク9Eは、第1中手リンク9Aと同様に、板ばねとして機能する張出部22のみによって他の中手リンク9に連結されていてもよい。
【0048】
図2及び
図4に示すように、接続部材8は、第2接続部20を構成する基部21と、基部21から軸線方向の両側に張り出す1対の張出部22(22A、22B)とを備え、張出部22のそれぞれに2本の中手リンク9が接続されている。張出部22の遊端側に接続された中手リンク9(9A、9E)は、張出部22の基端側(基部21側)に接続された中手リンク9(9B、9D)の支持剛性よりも低い支持剛性を有するため、外力による衝撃を効果的に吸収する。したがって、外力が入力し易い張出側(遊端側)の中手リンク9(9A、9E)に作用する外力による衝撃が軽減される。なお、張出部22の少なくとも一方に複数の中手リンク9が接続されることにより、このような効果は奏される。
【0049】
したがって、他の実施形態では、第2中手リンク9B又は第4中手リンク9Dが基部21又は前方張出部23に接続されていてもよい。或いは、第2中手リンク9B及び第4中手リンク9Dの両方が基部21又は前方張出部23に接続されていてもよい。
【0050】
本実施形態では、複数の中手リンク9の長手方向の中間部を連結するばねが、湾曲した板ばねからなる主板ばね17及び端部板ばね18によって構成されている。そのため、簡単な構成によって複数の中手リンク9に所定の剛性又は弾性を与えることができる。
【0051】
また、本実施形態では、中間に位置する3本の中手リンク9(9B~9D)を連結する主板ばね17と、張出部22の一方に接続された、端部に位置する2本の中手リンク9(9D、9E)を連結する端部板ばね18とが設けられている。この構成により、主板ばね17のばね定数と端部板ばね18のばね定数とを個別に設定することができるため、ロボットハンド1の剛性の調整が容易である。
【0052】
図1に示すように、本実施形態では、第1中手リンク9A~第5中手リンク9Eはそれらの先端が前方に凸になる向きに湾曲して配置されるように長さを設定されている。すなわち、ロボットハンド1は、
図10に示す人の手のように、横中手骨アーチ31が平面視で前方に凸になる向きに湾曲している。また、
図1に示すように、第1指部5A~第5指部5Eのリンクの軸線は、第3指部5Cから離れるほど、第3指部5Cのリンクの軸線に対して傾斜している。そのため、第1指部5A~第5指部5Eを手の平側に屈曲させると、掌部4の正面にある物を包み込むようにロボットハンド1が閉じる。
【0053】
すなわち、
図11に示すように、横中手骨アーチ31によって複数の指部5が手の平側を凹にする向きに湾曲して配置されている。各指部5を屈曲させることにより、ロボットハンド1は、
図11に示す縦アーチ35を形成する。また、第1指部5A~第5指部5Eのリンクの軸線が第3指部5Cから離れるほど傾斜することにより、屈曲した指部5が斜めアーチ37を形成する。それらの複合作用により、ロボットハンド1は手の平にある物を包み込むように、すなわち物を落とし難い態様で掴むことができる。
【0054】
なお、この効果は、ロボットハンド1の接続部材8が甲側の面を凸にする向きに湾曲する横手根アーチ33を形成することによっても促進される。更に、接続部材8は
図2に示すように、前方に凸になる向きに湾曲している。この形状は、
図10に示す人の手の横手根アーチ33と同様である。接続部材8がこのような形状を有することにより、
図11に示すように、ロボットハンド1は手の平にある物を落とし難い態様で掴むことができる。
【0055】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、ロボットハンド1が人間型の歩行ロボットに適用されている。一方、ロボットハンド1は、多関節を有していればよく、人型以外のロボットや、移動手段として車輪や無限軌道、オムニホイール等の走行ユニットを備えたロボット、移動不能なロボットに適用されてもよい。ロボットハンド1は制御装置によってプログラムされた動作を行うように構成されている必要はなく、人の分身となって遠隔操作によって動作するアバターロボットのハンドであってもよい。
【0056】
また、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態に示した各構成要素や手順は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 :ロボットハンド
2 :アーム
4 :掌部
5 :指部
5A :第1指部
5B :第2指部
5C :第3指部
5D :第4指部
5E :第5指部
8 :接続部材
9 :中手リンク
9A :第1中手リンク
9B :第2中手リンク
9C :第3中手リンク
9D :第4中手リンク
9E :第5中手リンク
15 :第1接続部
17 :主板ばね
18 :端部板ばね
20 :第2接続部
21 :基部
22 :張出部
22A :第1張出部
22B :第2張出部