(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171384
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】保護リレーシステム、および保護リレー装置
(51)【国際特許分類】
H02H 3/28 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
H02H3/28 W
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088351
(22)【出願日】2023-05-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 有紀美
(72)【発明者】
【氏名】加曽利 明彦
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により、送電線の両端でのサンプリング同期を精度よく実現することが可能な保護リレーシステムを提供する。
【解決手段】保護リレーシステムは、送電線の第1端側に設けられた第1保護リレー装置と、送電線の第2端側に設けられた第2保護リレー装置とを備える。第1保護リレー装置は、第1母線の3相電圧の入力を受け付ける入力部と、第2母線の3相電圧を第2保護リレー装置から受信する受信部と、第1母線の3相電圧に基づいて第1正相電圧を生成し、第2母線の3相電圧に基づいて第2正相電圧を生成する正相電圧生成部と、第1正相電圧の位相と第2正相電圧の位相との第1位相差を算出する位相差算出部と、第1位相差に基づいて、第1保護リレー装置の第1サンプリングタイミングを第2保護リレー装置の第2サンプリングタイミングに同期させる同期制御部とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線の第1端側に設けられた第1保護リレー装置と、
前記送電線の第2端側に設けられた第2保護リレー装置とを備え、
前記第1保護リレー装置は、
前記第1端側に設けられた第1母線の3相電圧の入力を受け付ける入力部と、
前記第2端側に設けられた第2母線の3相電圧を前記第2保護リレー装置から受信する受信部と、
前記第1母線の3相電圧に基づいて第1正相電圧を生成し、前記第2母線の3相電圧に基づいて第2正相電圧を生成する正相電圧生成部と、
前記第1正相電圧の位相と前記第2正相電圧の位相との第1位相差を算出する位相差算出部と、
前記第1位相差に基づいて、前記第1保護リレー装置の第1サンプリングタイミングを前記第2保護リレー装置の第2サンプリングタイミングに同期させる同期制御部とを含む、保護リレーシステム。
【請求項2】
前記入力部は、前記送電線の前記第1端の3相電流の入力を受け付け、
前記受信部は、前記送電線の前記第2端の3相電流を前記第2保護リレー装置から受信し、
前記第1保護リレー装置は、
前記第1サンプリングタイミングでサンプリングされた前記第1端の3相電流と、前記第2サンプリングタイミングでサンプリングされた前記第2端の3相電流とを用いてリレー演算を実行するリレー演算部と、
前記リレー演算部の演算結果に基づいて、前記送電線を保護するための信号を出力する出力制御部とをさらに含む、請求項1に記載の保護リレーシステム。
【請求項3】
前記リレー演算部は、第1差動リレーを含み、
前記第1差動リレーは、
前記第1端の第1相電流と前記第2端の第1相電流とに基づいて、第1相における第1差動量および第1抑制量を算出し、
前記第1差動量および前記第1抑制量に基づいて、第1差動リレー演算を実行する、請求項2に記載の保護リレーシステム。
【請求項4】
前記第1差動リレーは、
前記第1正相電圧の位相に対して前記第1端の第1相電流の位相が遅れており、かつ前記第2正相電圧の位相に対して前記第2端の第1相電流の位相が遅れている場合、前記第1端の第1相電流の実効値に正の符号を付加した第1の値と、前記第2端の第1相電流の実効値に正の符号を付加した第2の値との加算値を前記第1差動量として算出し、
前記第1端の第1相電流と前記第2端の第1相電流とのスカラー和を前記第1抑制量として算出する、請求項3に記載の保護リレーシステム。
【請求項5】
前記第1差動リレーは、前記第1正相電圧の位相に対して前記第1端の第1相電流の位相が遅れており、かつ前記第2正相電圧の位相に対して前記第2端の第1相電流の位相が進んでいる場合、前記第1の値と、前記第2端の第1相電流の実効値に負の符号を付加した第3の値との加算値を前記第1差動量として算出する、請求項4に記載の保護リレーシステム。
【請求項6】
前記リレー演算部は、第2差動リレーを含み、
前記第2差動リレーは、
前記第1端の第1零相電流と、前記第2端の第2零相電流とに基づいて、第2差動量および第2抑制量を算出し、
前記第2差動量および前記第2抑制量に基づいて、第2差動リレー演算を実行する、請求項2~請求項5のいずれか1項に記載の保護リレーシステム。
【請求項7】
前記第2差動リレーは、
前記第1零相電流と前記第2零相電流とのスカラー和を前記第2抑制量として算出し、
前記第1母線の第1零相電圧の位相と、前記第2母線の第2零相電圧の位相との第2位相差を算出し、
前記第2位相差に基づいて、前記第1零相電流および前記第2零相電流の少なくとも一方を補正し、
補正された前記第1零相電流と前記第2零相電流とのベクトル和を前記第2差動量として算出する、請求項6に記載の保護リレーシステム。
【請求項8】
送電線の第1端側に設けられた保護リレー装置であって、
前記第1端側に設けられた第1母線の3相電圧の入力を受け付ける入力部と、
前記送電線の第2端側に設けられた第2母線の3相電圧を、前記第2端側に設けられた他の保護リレー装置から受信する受信部と、
前記第1母線の3相電圧に基づいて第1正相電圧を生成し、前記第2母線の3相電圧に基づいて第2正相電圧を生成する正相電圧生成部と、
前記第1正相電圧の位相と前記第2正相電圧の位相との第1位相差を算出する位相差算出部と、
前記第1位相差に基づいて、前記保護リレー装置の第1サンプリングタイミングを前記他の保護リレー装置の第2サンプリングタイミングに同期させる同期制御部とを備える、保護リレー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保護リレーシステム、および保護リレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力系統における送電線を保護する電流差動リレー装置が知られている。電流差動リレー装置は、送電線の保護区間の両端に設けられる。各電流差動リレー装置は、自端に設置された電流変成器から電流値を取り込み、取り込んだ電流値を互いに伝送路を経由して伝送し合う。そして、各電流差動リレー装置は、送電線の両端の電流値の差動電流に基づいて送電線内の事故を検出する。その際、送電線の両端での電流のサンプリングタイミングの同期を行なうことにより正確な事故判定を実現している。
【0003】
例えば、従来のサンプリング同期方法では、各電流差動リレーは、自端の電流データを相手端に伝送する際に、送信データに送信タイミング情報を組み込む。そして、各電流差動リレーは、送信タイミング情報を相手端に送信してから、相手端の送信タイミング情報を受信するまでの時間を計測する。各電流差動リレーは、計測した時間を互いに送信し合い、この時間が互いに等しくなるようにサンプリングタイミングを調整する。
【0004】
この方法によって正確にサンプリング同期を行なうためには、自端から相手端への伝送時間と相手端から自端への伝送時間とが等しいという条件が必要である。しかし、汎用の通信機器を用いて伝送すると、これら両方向の伝送時間には誤差がある場合がある。そのため、サンプリング同期に誤差が生じ、この同期誤差が電流差動リレー演算の誤差要因となる。
【0005】
これに関して、特開2020-89023号公報(特許文献1)に係る送電線保護リレー装置は、電流の実効値を算出し、電流と基準電気量との位相差を算出する。送電線保護リレー装置は、他の送電線保護リレー装置において算出された電流の実効値と、他の送電線保護リレー装置において算出された電流と基準電気量との位相差とを受信する。送電線保護リレー装置は、算出した実効値および位相差と、受信した実効値および位相差とに基づいて、送電線に発生する事故の判定に用いられる指標値を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係る送電線保護リレー装置は、上述した構成によりサンプリング同期技術を用いることなく精度よく差電流を算出することを検討している。しかしながら、特許文献1によると、離散フーリエ演算等を高速に実行して上記位相差を算出しなければならないため、複雑な処理を実行可能な高い演算処理能力を有する装置が必要となる。
【0008】
本開示のある局面における目的は、簡易な構成により、送電線の両端でのサンプリング同期を精度よく実現することが可能な保護リレーシステム、および保護リレー装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ある実施の形態に従う保護リレーシステムは、送電線の第1端側に設けられた第1保護リレー装置と、送電線の第2端側に設けられた第2保護リレー装置とを備える。第1保護リレー装置は、第1端側に設けられた第1母線の3相電圧の入力を受け付ける入力部と、第2端側に設けられた第2母線の3相電圧を第2保護リレー装置から受信する受信部と、第1母線の3相電圧に基づいて第1正相電圧を生成し、第2母線の3相電圧に基づいて第2正相電圧を生成する正相電圧生成部と、第1正相電圧の位相と第2正相電圧の位相との第1位相差を算出する位相差算出部と、第1位相差に基づいて、第1保護リレー装置の第1サンプリングタイミングを第2保護リレー装置の第2サンプリングタイミングに同期させる同期制御部とを含む。
【0010】
他の実施の形態に従うと、送電線の第1端側に設けられた保護リレー装置が提供される。保護リレー装置は、第1端側に設けられた第1母線の3相電圧の入力を受け付ける入力部と、送電線の第2端側に設けられた第2母線の3相電圧を、第2端側に設けられた他の保護リレー装置から受信する受信部と、第1母線の3相電圧に基づいて第1正相電圧を生成し、第2母線の3相電圧に基づいて第2正相電圧を生成する正相電圧生成部と、第1正相電圧の位相と第2正相電圧の位相との第1位相差を算出する位相差算出部と、第1位相差に基づいて、保護リレー装置の第1サンプリングタイミングを他の保護リレー装置の第2サンプリングタイミングに同期させる同期制御部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によると、簡易な構成により、送電線の両端でのサンプリング同期を精度よく実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】保護リレーシステムの構成例を示す図である。
【
図2】保護リレー装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】保護リレー装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図5】サンプリングタイミングが調整される様子を示す図である。
【
図6】本実施の形態に従うリレー演算部の機能構成の一例を示す図である。
【
図9】本実施の形態の変形例に従うリレー演算部の機能構成の一例を示す図である。
【
図10】本実施の形態の変形例に従う第1差動リレーによる差動量の算出方式を説明するための図である。
【
図11】本実施の形態の変形例に従う第2差動リレーの差動量の算出方式を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0014】
<全体構成>
図1は、保護リレーシステム1000の構成例を示す図である。
図1を参照して、保護リレーシステム1000は、電流差動リレー装置としての保護リレー装置100A,100Bを用いて、2電気所間の送電線を保護するためのシステムである。
【0015】
保護リレーシステム1000は、電気所1Aと、電気所1Bと、電気所1Aおよび電気所1B間を接続する送電線TLと、伝送路80とを含む。電気所1Aは、送電線TLのA端に設けられ、電気所1Bは送電線TLのB端に設けられる。A端の遠方には背後電源5Aが設けられ、B端の遠方には背後電源5Bが設けられる。なお、送電線TLは3相送電線であるが
図1では図解を容易にするために1本の線で示している。
【0016】
伝送路80は、PCM(Pulse Code Modulation)伝送方式を採用した電力専用通信ネットワークであってもよいし、パケット通信の伝送形態を採用するIP網対応のネットワークであってもよい。
【0017】
電気所1Aは、保護リレー装置100Aと、送電線TLの事故時等に送電線TLを電力系統から切り離す遮断器50Aと、送電線TLのA端の電流情報を検出する電流変成器(CT:Current Transformer)60Aと、母線3Aの電圧情報を検出する電圧変成器(VT:Voltage Transformer)70Aとを含む。電気所1Bは、保護リレー装置100Bと、送電線TLを電力系統から切り離す遮断器50Bと、送電線TLのB端の電流情報を検出するCT60Bと、母線3Bの電圧情報を検出するVT70Bとを含む。
【0018】
本明細書においては、保護リレー装置100A,100Bを「保護リレー装置100」とも総称し、CT60A,60Bを「CT60」とも総称し、VT70A,70Bを「VT70」とも総称する。また、電流および電圧を総称して電気量と称する場合がある。
【0019】
送電線TLは、遮断器50Aを介して母線3Aに接続され、遮断器50Bを介して母線3Bに接続される。なお、母線3Aは電気所1Aの背後電源5Aに接続され、母線3Bは電気所1Bの背後電源5Bに接続される。背後電源5A,5Bは、例えば、3相交流電源である。
【0020】
CT60Aは、送電線TLのA端の3相(例えば、U相、V相、W相)の電流Iau,Iav,Iaw(以下、「電流Ia」とも総称する。)を検出して、保護リレー装置100Aに出力する。CT60Bは、送電線TLのB端の電流Ibu,Ibv,Ibw(以下、「電流Ib」とも総称する。)を検出して、保護リレー装置100Bに出力する。VT70Aは、母線3Aの3相の電圧Vau,Vav,Vaw(以下、「電圧Va」とも総称する。)を検出して、保護リレー装置100Aに出力する。VT70Bは、母線3Bの電圧Vbu,Vbv,Vbw(以下、「電圧Vb」とも総称する。)を検出して、保護リレー装置100Bに出力する。
【0021】
保護リレー装置100A,100Bは、典型的には、比率差動方式を採用するディジタル形の電流差動リレー装置である。保護リレー装置100Aは、CT60Aにより検出された各電流Ia(すなわち、電流Iau,Iav,Iaw)およびVT70Aにより検出された各電圧Va(すなわち、電圧Vau,Vav,Vaw)を取り込んで、各電流Iaおよび各電圧Vaをディジタル変換する。保護リレー装置100Aは、伝送路80を介して、ディジタル変換された各電流Iaおよび各電圧Vaを保護リレー装置100Bに送信する。保護リレー装置100Aは、保護リレー装置100B側で取得され、ディジタル変換された各電流Ib(すなわち、電流Ibu,Ibv,Ibw)および各電圧Vb(すなわち、電圧Vbu,Vbv,Vbw)を、伝送路80を介して受信する。
【0022】
保護リレー装置100Aは、自装置の電気量のサンプリングタイミングと、保護リレー装置100Bの当該サンプリングタイミングとを一致させるサンプリング同期制御機能を有している。本実施の形態では、母線3Aの電圧の位相と母線3Bの電圧の位相とが一致しているものとして、保護リレー装置100A,100Bの各々のサンプリングタイミングが調整される。
【0023】
保護リレー装置100Aは、上記調整されたサンプリングタイミングに従ってサンプリングされた各電流Iaおよび各電流Ibとに基づいて電流差動演算を実行し、送電線TLの事故判定を行なう。保護リレー装置100Aは、電気所1Aと電気所1B間の送電線TLの保護区間内で発生した事故(すなわち、内部事故)を検出すると、遮断器50Aに対して開放指令(例えば、トリップ信号)を出力する。保護リレー装置100Bでも保護リレー装置100Aと同様な処理が実行される。
【0024】
<ハードウェア構成>
図2は、保護リレー装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。
図2を参照して、保護リレー装置100は、ハードウェア構成として、補助変成器10と、信号変換部20と、演算処理部30とを含む。
【0025】
補助変成器10は、CT60およびVT70からの電気量を取り込み、内部回路での信号処理に適した電圧信号に変換して出力する。信号変換部20は、補助変成器10から出力される電気量(すなわち、アナログ電気量)を取り込んでディジタルデータに変換する。具体的には、信号変換部20は、フィルタ21,23と、サンプルホールド回路(図中のSH回路に対応)24,25と、マルチプレクサ26と、A/D変換器27とを含む。
【0026】
フィルタ21,23は、アナログフィルタであり、補助変成器10から出力される電流および電圧の波形信号から高周波のノイズ成分を除去する。フィルタ21,23の出力は、サンプルホールド回路24,25にそれぞれ入力される。サンプルホールド回路24,25は、それぞれフィルタ21,23から出力される電流および電圧の波形信号を予め定められたサンプリング周期でサンプリングする。
【0027】
マルチプレクサ26は、演算処理部30から入力されるサンプリング信号に基づいて、サンプルホールド回路24,25から入力される波形信号を時系列で順次切り替えてA/D変換器27に出力する。A/D変換器27は、マルチプレクサ26から入力される波形信号をアナログデータからディジタルデータに変換する。A/D変換器27は、ディジタル変換した波形信号を演算処理部30へ出力する。
【0028】
演算処理部30は、マイクロコンピュータを主体として構成される。具体的には、演算処理部30は、CPU(Central Processing Unit)32と、ROM(Read Only Memory)33と、RAM(Random Access Memory)34と、補助記憶装置35と、DO(Digital output)回路36と、DI(Digital input)回路37と、ディスプレイ38と、入力インターフェイス39と、通信インターフェイス40とを含む。これらはバス31で結合されている。
【0029】
CPU32は、予めROM33に格納されたプログラムを読み出して実行することによって、保護リレー装置100を制御する。揮発性メモリとしてのRAM34および不揮発性メモリとしてのROM33は、CPU32の主記憶として用いられる。ROM33は、プログラムおよび信号処理用の設定値等を収納する。
【0030】
CPU32は、バス31を介して、信号変換部20からディジタルデータを取り込む。CPU32は、ROM33に格納されているプログラムに従って、取り込んだディジタルデータを用いて事故検出用のリレー演算を実行する。CPU32は、リレー演算結果に基づいて、事故の有無を判定する。
【0031】
CPU32は、事故を検出した場合(すなわち、事故が発生したと判定した場合)には、DO回路36を介して、当該事故区間を電力系統から切り離すために遮断器50に対して開放指令を出力する。
【0032】
補助記憶装置35は、ROM33に比べて大容量の記憶装置であり、電気量データ、整定値等のデータ等を格納する。補助記憶装置35は、例えば、フラッシュメモリ等により構成される。
【0033】
DI回路37は、例えば、遮断器50の開閉情報を示す信号であるディジタル入力信号を受ける。DI回路37には、遮断器50からのディジタル入力信号の他、図示しない断路器の開閉情報を示すディジタル入力信号が入力されてもよい。
【0034】
ディスプレイ38は、例えば、液晶ディスプレイ等である。入力インターフェイス39は、典型的には、各種ボタン等であり、保護リレー装置100のユーザ(例えば、作業者)からの各種操作を受け付ける。通信インターフェイス40は、保護リレー装置100と他の保護リレー装置100との間のデータ伝送を仲介する。
【0035】
なお、保護リレー装置100の少なくとも一部をFPGA(Field Programmable Gate Array)およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の回路を用いて構成してもよい。なお、保護リレー装置100の少なくとも一部は、アナログ回路によって構成することもできる。
【0036】
<機能構成>
図3は、保護リレー装置100の機能構成の一例を示す図である。
図3を参照して、保護リレー装置100Aは、主な機能構成として、ディジタルフィルタ部101と、送信部102と、受信部104と、正相電圧生成部106と、位相差算出部108と、サンプリング同期制御部110と、サンプリング信号出力部112と、同期データ生成部114と、リレー演算部120と、出力制御部150とを含む。
【0037】
これらの機能は、例えば、保護リレー装置100Aの演算処理部30におけるマイクロプロセッサ(例えば、CPU32)がメモリ(例えば、ROM33)に格納されたプログラムを実行することによって実現される。なお、これらの機能の一部または全部はハードウェアで実現されるように構成されていてもよい。保護リレー装置100Bの機能構成は、保護リレー装置100Aの機能構成と同様である。
【0038】
ディジタルフィルタ部101は、A/D変換器27によってディジタルデータに変換された3相電流Iau,Iav,Iawおよび3相電圧Vau,Vav,Vawの入力を受け付け、各電流Iaおよび各電圧Vaの高調波成分および直流成分を除去し、基本周波数成分を抽出したデータを生成する。また、ディジタルフィルタ部101は、当該データを規定の周期(例えば、電気角30°)毎にデータを間引いて、サンプリングをダウンコンバートさせたデータを生成する。
【0039】
送信部102は、伝送路80を介して、ディジタルフィルタ部101から受け付けた各電流Iaおよび各電圧Vaを保護リレー装置100Bに送信する。例えば、電気角30°毎の各電流Iaおよび各電圧Vaのデータが送信される。
【0040】
受信部104は、伝送路80を介して、保護リレー装置100Bにおけるディジタルフィルタ部により生成された3相電流Ibu,Ibv,Ibwおよび3相電圧Vbu,Vbv,Vbwを保護リレー装置100Bから受信する。例えば、電気角30°毎の各電流Ibおよび各電圧Vbのデータが受信される。
【0041】
正相電圧生成部106は、母線3Aの3相電圧Vau,Vav,Vawに基づいて正相電圧Va1を生成し、母線3Bの3相電圧Vbu,Vbv,Vbwに基づいて正相電圧Vb1を生成する。例えば、U相を基準とした場合の正相電圧Va1は式(1)で表わされ、U相を基準とした場合の正相電圧Vb1は式(2)で表わされる。式(1)および式(2)中の定数αは式(3)で表わされる。なお、「×」は掛け算記号である。
【0042】
Va1=(Vau+α×Vav+α2×Vaw)/3…(1)
Vb1=(Vbu+α×Vbv+α2×Vbw)/3…(2)
α=(-1+j×√3)/2…(3)
位相差算出部108は、正相電圧Va1の位相と正相電圧Vb1の位相との位相差φを算出する。位相差算出部108における位相差の計算には、任意の方法を用いることができる。例えば、正相電圧Va1,Vb1は、電気角30°毎に生成される。この場合、正相電圧Va1の現時点の値(すなわち、現在値)および過去値(例えば、現時点よりも90°前の値)と、正相電圧Vb1の現在値および過去値とを用いて算出される。
【0043】
サンプリング同期制御部110は、位相差φに基づいて、保護リレー装置100Aのサンプリングタイミングを保護リレー装置100Bのサンプリングタイミングに同期させる。
【0044】
図4は、各正相電圧Va1,Vb1の位相差の例を示す図である。
図4(a)は、正相電圧Vb1の時間変化を示す図である。
図4(b)は、サンプリングタイミング制御前の正相電圧Va1の時間変化を示す図である。
図4(c)は、サンプリングタイミング制御後の正相電圧Va1の時間変化を示す図である。
図4の横軸では、サンプリングタイミング“0”~“11”が示されている。ここでは、保護リレー装置100Aが従局(すなわち、スレーブ)であり、保護リレー装置100Bが主局(すなわち、マスター)であるとする。
【0045】
図4(a)を参照すると、主局側において、サンプリングタイミング“0”のときの正相電圧Vb1の位相は30°であることが示されている。一方、
図4(b)を参照すると、従局側において、サンプリングタイミング“0”のときの正相電圧Va1の位相は75°であることが示されている。このことから、正相電圧Va1の位相が、正相電圧Vb1の位相よりも45°だけ進んでいる。すなわち、保護リレー装置100Aのサンプリングタイミングが、保護リレー装置100Bのサンプリングタイミングよりも位相差φ(ここでは、45°)に相当する時間tだけ進んでいる。
【0046】
そこで、位相差φがゼロとなるように保護リレー装置100Aのサンプリングタイミングが補正される。これにより、
図4(c)に示すように、保護リレー装置100Aのサンプリングタイミング“0”の位相が30°となり、これは、保護リレー装置100Bのサンプリングタイミング“0”の位相(すなわち、30°)と一致する。
【0047】
具体的には、サンプリング同期制御部110は、保護リレー装置100Aのサンプリングタイミングを位相差φに相当する時間tだけ遅れ方向に補正する。例えば、時間tは以下の式(4)により算出される。
【0048】
t=(φ/360°)×1サイクルの時間…(4)
交流周波数をfとすると、1サイクルの時間は1/f[sec]である。
【0049】
図5は、サンプリングタイミングが調整される様子を示す図である。
図5を参照して、サンプリング同期制御部110は、従局(ここでは、保護リレー装置100A)のサンプリングタイミング(図中の「TX」に対応)を時間tだけ遅れ方向に補正する。これにより、従局および主局(ここでは、保護リレー装置100B)のサンプリングタイミングが一致することがわかる。サンプリング信号出力部112は、サンプリング同期制御部110により補正されたサンプリングタイミングに従うサンプリング信号Saを信号変換部20のサンプルホールド回路24,25に出力する。
【0050】
再び、
図3を参照して、同期データ生成部114は、受信したサンプリングタイミング「X」(例えば、「X」は、
図4の「0」~「11」のいずれか)の電流Ibと同じサンプリングタイミング「X」の電流Iaを選択して、サンプリングタイミング「X」の電流Ia,Ibを同期データとして生成する。同様に、同期データ生成部114は、受信したサンプリングタイミング「X」の電圧Vbと同じサンプリングタイミング「X」の電圧Vaを選択して、サンプリングタイミング「X」の電圧Va,Vbを同期データとして生成する。
【0051】
上述した正相電圧生成部106、位相差算出部108、サンプリング同期制御部110、およびサンプリング信号出力部112の一連の処理により、保護リレー装置100Aのサンプリングタイミングは、保護リレー装置100Bのサンプリングタイミングと一致するように調整されている。そのため、サンプリングタイミング「X」の電流Ia,Ibは同期した電流データであり、サンプリングタイミング「X」の電圧Va,Vbは同期した電圧データであると言える。
【0052】
リレー演算部120は、保護リレー装置100Aのサンプリングタイミング(以下、「第1サンプリングタイミング」とも称する。)でサンプリングされたA端の3相電流Iau,Iav,Iawと、保護リレー装置100Bのサンプリングタイミング(以下、「第2サンプリングタイミング」とも称する。)でサンプリングされたB端の3相電流Ibu,Ibv,Ibwとを用いてリレー演算を実行する。具体的には、リレー演算部120は、第1差動リレー121と、第2差動リレー122とを含む。典型的には、第1差動リレー121は短絡検出用の差動リレーであり、第2差動リレー122は地絡検出用の差動リレーである。
【0053】
図6は、本実施の形態に従うリレー演算部の機能構成の一例を示す図である。
図6を参照して、
図6(a)は、第1差動リレー121の機能構成の一例を示す図である。
図6(b)は、第2差動リレー122の機能構成の一例を示す図である。
【0054】
図6(a)を参照して、第1差動リレー121は、A端の3相のうちの第1相(例えば、U相)の電流(例えば、Iau)と、B端の第1相の電流(例えば、Ibu)とに基づいて、第1相における差動量と抑制量を算出し、当該差動量および当該抑制量に基づいて、差動リレー演算を実行する。3相のうちの第2相(例えば、V相)および第3相(例えば、W相)についても同様である。具体的には、第1差動リレー121は、差動量算出部131と、抑制量算出部132と、差動演算部133とを含む。
【0055】
差動量算出部131は、各相について、電流Iaと電流Ibとのベクトル和を差動量Id1(すなわち、Id1=|Ia+Ib|)として算出する。例えば、差動量算出部131は、U相について、電流Iauと電流Ibuとのベクトル和を差動量Id1u(すなわち、Id1u=|Iau+Ibu|)として算出する。上記と同様に、V相およびW相についても差動量が算出される。なお、||は絶対値記号である。
【0056】
抑制量算出部132は、各相について、電流Iaと電流Ibとのスカラー和を抑制量Ir1(すなわち、Ir1=|Ia|+|Ib|)として算出する。例えば、抑制量算出部132は、U相について、電流Iauと電流Ibuとのスカラー和を抑制量Ir1u(すなわち、Ir1u=|Iau|+|Ibu|)として算出する。上記と同様に、V相およびW相についても抑制量が算出される。
【0057】
差動演算部133は、差動量Id1と抑制量Ir1とに基づいて差動リレー演算を実行する。差動演算部133は、予め定められた関係が成立するか否かを判定する。差動演算部133は、差動量Id1と抑制量Ir1とがこの関係を満たす場合、第1差動リレー121の動作を示す信号を出力する。
【0058】
図7は、第1差動リレーの特性図である。
図7の縦軸には、差動量Id1が示され、横軸には抑制量Ir1が示されている。
図7を参照して、グラフ510は、第1差動リレー121の比率差動特性を示す。具体的には、グラフ510は、直線510Aと直線510Bとから構成された折れ線であり、当該折れ線よりも上側の領域が第1差動リレー121の動作領域となる。直線510Aは、“Id1=p1×Ir1+q1”に対応する直線である。直線510Bは、“Id1=p2×Ir1-q2”に対応する直線である。定数p1,p2,q1,q2はリレーの整定値である。p1<p2であり、q1<q2である。
【0059】
差動演算部133は、グラフ510より上の領域に属するか、すなわち“Id1>p1×Ir1+q1”および“Id1>p2×Ir1-q2”が成立するか否かを判定する。なお、
図7の例では、差動演算部133は、“Ir1>K1”が成立するか否かも判定する。“Id1>p1×Ir1+q1”、“Id1>p2×Ir1-q2”および“Ir1>K1”が成立する場合、差動演算部133は、第1差動リレー121の動作を示す信号を出力する。したがって、
図7のハッチングで示した領域が第1差動リレー121の動作領域として規定される。
【0060】
次に、
図6(b)を参照して、第2差動リレー122は、A端の零相電流Ia0と、B端の零相電流Ib0とに基づいて差動量および抑制量を算出し、当該差動量および当該抑制量に基づいて差動リレー演算を実行する。具体的には、第2差動リレー122は、零相電流算出部140と、差動量算出部141と、抑制量算出部142と、差動演算部143とを含む。
【0061】
零相電流算出部140は、電流Iau,Iav,Iawに基づいて零相電流Ia0を算出する。なお、“Ia0=(Iau+Iav+Iaw)/3”である。同様に、零相電流算出部140は、電流Ibu,Ibv,Ibwに基づいて零相電流Ib0を算出する。
【0062】
差動量算出部141は、零相電流Ia0と零相電流Ib0とのベクトル和を差動量Id2(すなわち、Id2=|Ia0+Ib0|)として算出する。抑制量算出部142は、零相電流Ia0と零相電流Ib0とのスカラー和を抑制量Ir2(すなわち、Ir2=|Ia0|+|Ib0|)として算出する。
【0063】
差動演算部143は、差動量Id2と抑制量Ir2とに基づいて差動リレー演算を実行する。差動演算部143は、予め定められた関係が成立するか否かを判定する。差動演算部143は、差動量Id2と抑制量Ir2とがこの関係を満たす場合、第2差動リレー122の動作を示す信号を出力する。
【0064】
図8は、第2差動リレーの特性図である。
図8の縦軸には差動量Id2が示され、縦軸には抑制量Ir2が示されている。
図8を参照して、直線520は、第2差動リレー122の比率差動特性を示す。直線520よりも上側の領域が第2差動リレー122の動作領域となる。直線520は、“Id2=p3×Ir2+q3”に対応する直線である。定数p3,q3はリレーの整定値である。
【0065】
差動演算部143は、直線520より上の領域に属するか、すなわち“Id2>p3×Ir2+q3”が成立するか否かを判定する。なお、
図8の例では、差動演算部143は、“Ir2>K2”が成立するか否かも判定する。“Id2>p3×Ir2+q3”および“Ir2>K2”が成立する場合、差動演算部143は、第2差動リレー122の動作を示す信号を出力する。したがって、
図8のハッチングで示した領域が第2差動リレー122の動作領域として規定される。
【0066】
なお、第2差動リレー122は、誤動作を防止するために零相電圧と零相電流との位相差に基づいて、送電線TLの事故の内外部を判定するための公知の機能を有していてもよい。この場合、第2差動リレー122は、電圧Vau,Vav,Vawに基づいて零相電圧Va0を算出する。“Va0=(Vau+Vav+Vaw)/3”である。第2差動リレー122は、規定の位相特性図と、零相電流Ia0および零相電圧Va0の位相差とに基づいて、送電線TLの事故の内外部を判定する。
【0067】
再び、
図3を参照して、出力制御部150は、リレー演算部120の演算結果に基づいて、送電線TLを保護するための信号(例えば、トリップ信号)を出力する。具体的には、出力制御部150は、第1差動リレー121および第2差動リレー122の少なくとも一方が動作した場合、トリップ信号を遮断器50Aに出力する。これにより、遮断器50Aが開放され、電力系統から送電線TLが切り離される。
【0068】
<利点>
上述した実施の形態によると、伝送遅延時間によらず、母線3Aの正相電圧の位相と母線3Bの正相電圧の位相との位相差に基づいて、保護リレー装置100Aの第1サンプリングタイミングと保護リレー装置100Bの第2サンプリングタイミングとを同期させることができる。そのため、伝送遅延時間が上り方向と下り方向で差が大きくなっても、送電線の両端でのサンプリング同期を精度よく実現することができる。また、複雑な構成を用いることなく、簡易な構成によりサンプリング同期が実現される。これにより、精度のよい事故判定を実現することもできる。
【0069】
<変形例>
上述した実施の形態では、母線3Aの電圧の位相と母線3Bの電圧の位相とが一致していることを前提として、保護リレー装置100A,100Bのサンプリングタイミングを調整する構成について説明した。しかし、電力系統において重潮流が発生すると、母線3Aの電圧の位相と母線3Bの電圧の位相とが一致しない場合がある。この場合、保護リレー装置100Aの第1サンプリングタイミングと保護リレー装置100Bの第2サンプリングタイミングとが一致しなくなるため、保護リレー演算に誤差が生じる。そこで、本実施の形態の変形例では、上記のような場合であってもリレーの誤動作を防止するための構成について説明する。
【0070】
図9は、本実施の形態の変形例に従うリレー演算部の機能構成の一例を示す図である。
図9(a)は、第1差動リレー121Aの機能構成の一例を示す図である。
図9(b)は、第2差動リレー122Aの機能構成の一例を示す図である。
【0071】
図9(a)を参照して、第1差動リレー121Aは、差動量算出部131Aと、抑制量算出部132と、差動演算部133とを含む。抑制量算出部132および差動演算部133の構成は、
図6(a)の構成と同様である。
【0072】
差動量算出部131Aは、3相(例えば、U相、V相、W相)の各々について、母線3Aの3相電圧Vau,Vav,Vawに基づく正相電圧Va1の位相に対して当該相(例えば、U相)の電流Iaの位相が遅れているか否か、および、母線3Bの3相電圧Vbu,Vbv,Vbwに基づく正相電圧Vb1の位相に対して当該相の電流Ibの位相が遅れているか否かを判断する。差動量算出部131Aは、当該判定結果に基づいて差動量Id1xを算出する。
【0073】
図10は、本実施の形態の変形例に従う第1差動リレーによる差動量の算出方式を説明するための図である。
図10(a)は、内部短絡事故が発生している場合における差動量の算出方式を説明するための模式図である。
図10(b)は、外部短絡事故が発生している場合における差動量の算出方式を説明するための模式図である。一例として、U相の場合について説明する。なお、V相およびW相についても同様であるが、V相についてはV相を基準とした場合の正相電圧が用いられ、W相についてはW相を基準とした場合の正相電圧が用いられる。
【0074】
本明細書では、正相電圧の位相に対して電流の位相が遅れ0°~180°の場合、“正相電圧の位相に対して電流の位相が遅れている”と定義する。また、正相電圧の位相に対して電流の位相が進み0°~180°の場合、“正相電圧の位相に対して電流の位相が進んでいる”と定義する。
【0075】
図10(a)を参照して、差動量算出部131Aは、A端において、U相を基準とした場合の正相電圧Va1の位相に対して電流Iauの位相が遅れていると判断する。この場合、差動量算出部131Aは、電流Iauの実効値に正の符号を付加した値“+Iau”を算出する。差動量算出部131Aは、B端において、U相を基準とした場合の正相電圧Vb1の位相に対して電流Ibuの位相が遅れていると判断する。この場合、差動量算出部131Aは、電流Ibuの実効値に正の符号を付加した値“+Ibu”を算出する。
【0076】
差動量算出部131Aは、値“+Iau”と値“+Ibu”とを加算した加算値を差動量Id1xとして算出する。“Id1x=(+Iau)+(+Ibu)”である。値“Iau”および値“Ibu”の大きさが同一の値Ixであるとすると、差動量Id1xは“2Ix”として算出される。
【0077】
一方、
図10(b)を参照して、差動量算出部131Aは、A端において、正相電圧Va1の位相に対して電流Iauの位相が遅れていると判断し、電流Iauの実効値に正の符号を付加した値“+Iau”を算出する。差動量算出部131Aは、B端において、正相電圧Vb1の位相に対して電流Ibuの位相が進んでいると判断する。この場合、差動量算出部131Aは、電流Ibuの実効値に負の符号を付加した値“-Ibu”を算出する。
【0078】
差動量算出部131Aは、値“+Iau”と値“-Ibu”とを加算した加算値を差動量Id1xとして算出する。“Id1x=(+Iau)+(-Ibu)”である。値“Iau”および値“Ibu”の大きさが同一のIxであるとすると、差動量Id1xは“0”として算出される。
【0079】
上記のように、内部事故発生時には差動量Id1xが“2Ix”として算出され、外部事故発生時には差動量Id1xが“0”として算出される。差動演算部133は、このような差動量Id1xと抑制量Ir1とを用いて、
図7の特性図に従って差動リレー演算を実行する。これにより、仮に、母線3Aの電圧の位相と母線3Bの電圧の位相とが一致せず、第1サンプリングタイミングと第2サンプリングタイミングとの間にずれが生じている場合であっても、外部事故時に第1差動リレー121Aが誤動作してしまう事態を防止することができる。
【0080】
次に、
図9(b)を参照して、第2差動リレー122Aは、零相電流算出部140と、差動量算出部141Aと、抑制量算出部142と、差動演算部143と、零相電圧算出部145とを含む。零相電流算出部140、抑制量算出部142および差動演算部143の構成は、
図6(b)の構成と同様である。
【0081】
零相電圧算出部145は、各電圧Vau,Vav,Vawに基づいて、母線3Aの零相電圧Va0を算出し、各電圧Vbu,Vbv,Vbwに基づいて、母線3Bの零相電圧Vb0を算出する。
【0082】
差動量算出部141Aは、零相電圧Va0の位相と零相電圧Vb0の位相との位相差φ0を算出し、当該位相差に基づいて零相電流Ia0および零相電流Ib0の少なくとも一方を補正する。差動量算出部141Aは、補正された零相電流Ia0および零相電流Ib0のベクトル和を差動量Id2xとして算出する。
【0083】
図11は、本実施の形態の変形例に従う第2差動リレーの差動量の算出方式を説明するための図である。
図11(a)は、母線3A,3Bの電圧において位相差が生じている例を示す模式図である。
図11(b)は、一線地絡事故発生時における母線3Aの零相電圧および母線3Bの零相電圧との関係を示す図である。
【0084】
図11(a)を参照すると、母線3Aの正相電圧Va1の位相と母線3Bの正相電圧Vb1の位相とがずれていることが理解される。このような状況において、
図11(b)に示すように地絡事故が発生したとする。地絡事故発生時においては、母線3Aの零相電圧Va0の位相と、母線3Bの零相電圧Vb0の位相とは一致する。そのため、第1サンプリングタイミングと第2サンプリングタイミングとが一致している場合、零相電圧Va0の位相と零相電圧Vb0の位相との位相差φ0はゼロになる。
【0085】
一方、第1サンプリングタイミングと第2サンプリングタイミングとが一致していない場合、零相電圧Va0の位相と零相電圧Vb0の位相との位相差φ0はゼロとならない。
図11(b)では、位相差φ0がゼロではない状況を示している。
【0086】
この場合、差動量算出部141Aは、位相差φ0に基づいて零相電流Ia0および零相電流Ib0を補正する。具体的には、差動量算出部141Aは、零相電流算出部140により算出された零相電流Ia0を、位相差φ0に相当する時間t0だけ第1サンプリングタイミングをシフトさせたときに得られる零相電流Ia0に補正する。また、差動量算出部141Aは、零相電流算出部140により算出された零相電流Ib0を、位相差φ0に相当する時間だけ第2サンプリングタイミングをシフトさせたときの零相電流Ib0に補正してもよい。なお、差動量算出部141Aは、零相電流Ia0,Ib0を、それぞれ、位相差φ0がゼロになる第1サンプリングタイミングおよび第2サンプリングタイミングに対応する零相電流Ia0,Ib0に補正する構成であってもよい。
【0087】
差動量算出部141Aは、補正された零相電流Ia0および零相電流Ib0のベクトル和を差動量Id2xとして算出する。差動演算部143は、このような差動量Id2xと抑制量Ir2とを用いて、
図8の特性図に従って差動リレー演算を実行する。これにより、仮に、母線3Aの電圧の位相と母線3Bの電圧の位相とが一致せず、第1サンプリングタイミングと第2サンプリングタイミングとの間にずれが生じている場合であっても、地絡事故を適切に判定することができる。
【0088】
その他の実施の形態.
上述の実施の形態として例示した構成は、本開示の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。また、上述した実施の形態において、他の実施の形態で説明した処理および構成を適宜採用して実施する場合であってもよい。
【0089】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
1A,1B 電気所、3A,3B 母線、5A,5B 背後電源、10 補助変成器、20 信号変換部、21,23 フィルタ、24,25 サンプルホールド回路、26 マルチプレクサ、27 A/D変換器、30 演算処理部、31 バス、32 CPU、33 ROM、34 RAM、35 補助記憶装置、36 DO回路、37 DI回路、38 ディスプレイ、39 入力インターフェイス、40 通信インターフェイス、50A,50B 遮断器、80 伝送路、100,100A,100B 保護リレー装置、101 ディジタルフィルタ部、102 送信部、104 受信部、106 正相電圧生成部、108 位相差算出部、110 サンプリング同期制御部、112 サンプリング信号出力部、114 同期データ生成部、120 リレー演算部、121,121A 第1差動リレー、122,122A 第2差動リレー、131,131A,141,141A 差動量算出部、132,142 抑制量算出部、133,143 差動演算部、140 零相電流算出部、145 零相電圧算出部、150 出力制御部、1000 保護リレーシステム。