(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171387
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】平面線路・導波管変換器
(51)【国際特許分類】
H01P 5/107 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
H01P5/107 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088355
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 卓
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 靖雄
(57)【要約】
【課題】ミリ波帯やテラヘルツ波帯の使用周波数帯域において、加工精度が低い放射アンテナ部分の誘電体基板を狭める工程を不要として放射アンテナのインピーダンスを一定とするとともに、誘電体基板内に不要な基板モードが発生することを抑制することで不要な基板モードが導波管の内部空間に広がることを防ぐことができる平面線路・導波管変換器を提供する。
【解決手段】平面線路・導波管変換器1は、第1の裏面接地導体15、放射アンテナ12、第2のビアホール22a,22b、及び第2の裏面接地導体16a,16bを有する誘電体基板10と、電磁波の伝搬方向が誘電体基板10の表面に対して垂直になるように配置された導波管30と、第1の裏面接地導体15に電気的に接続される変換用導波管40と、を備え、変換用導波管40は、第2の裏面接地導体16a,16bの少なくとも一部に接触する導電性ブロック51を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板(10)と、
前記誘電体基板の表面に設けられた線路導体(11)と、
前記誘電体基板において、前記線路導体から横方向に離間して設けられた第1の表面接地導体(13a,13b)と、
前記誘電体基板の裏面において前記線路導体及び前記第1の表面接地導体の下方に設けられた第1の裏面接地導体(15)と、
前記線路導体から横方向に離間した位置で、前記第1の表面接地導体と前記第1の裏面接地導体を電気的に接続する第1のビアホール(19a~19d)と、
電磁波の伝搬方向が前記誘電体基板の前記表面に対して垂直になるように配置された導波管(30)と、
前記導波管の内部空間(37)に連続する差し込み空間(48)を有し、前壁(41)に設けられた差し込み穴(49)に前記誘電体基板が差し込まれ、前記差し込み穴の縁部(50)が前記第1の裏面接地導体に電気的に接続される変換用導波管(40)と、
前記誘電体基板の前記表面に設けられ、前記線路導体と一体形成され、前記変換用導波管の前記差し込み空間内に延伸する放射アンテナ(12)と、
前記誘電体基板において、前記放射アンテナから横方向に離間して設けられた第2の表面接地導体(14a,14b)と、
前記誘電体基板の前記裏面において前記第2の表面接地導体の下方に設けられた第2の裏面接地導体(16a,16b)と、
前記放射アンテナから横方向に離間した位置で、前記第2の表面接地導体と前記第2の裏面接地導体を電気的に接続する第2のビアホール(22a,22b)と、を備え、
前記変換用導波管は、前記第2の裏面接地導体の少なくとも一部に接触する導電性ブロック(51)を前記差し込み空間内に有していることを特徴とする平面線路・導波管変換器。
【請求項2】
誘電体基板(10)と、
前記誘電体基板の表面に設けられた線路導体(11)と、
前記誘電体基板において、前記線路導体から横方向に離間して設けられた第1の表面接地導体(13a,13b)と、
前記誘電体基板の裏面において前記線路導体及び前記第1の表面接地導体の下方に設けられた第1の裏面接地導体(15)と、
前記線路導体から横方向に離間した位置で、前記第1の表面接地導体と前記第1の裏面接地導体を電気的に接続する第1のビアホール(19a~19d)と、
電磁波の伝搬方向が前記誘電体基板の前記表面に対して垂直になるように配置された導波管(30)と、
前記導波管の内部空間(37)に連続する差し込み空間(48)を有し、前壁(41)に設けられた差し込み穴(49)に前記誘電体基板が差し込まれ、前記差し込み穴の縁部(50)が前記第1の裏面接地導体に電気的に接続される変換用導波管(40)と、
前記誘電体基板の前記表面に設けられ、前記線路導体と一体形成され、前記変換用導波管の前記差し込み空間内に延伸する放射アンテナ(12)と、
前記放射アンテナから横方向に離間した位置で、前記誘電体基板の前記表面から前記裏面に貫通する貫通穴(23a,23b)と、を備え、
前記変換用導波管は、前記放射アンテナから横方向に離間した位置で前記誘電体基板の前記裏面に接触する導電性ブロック(51)を前記差し込み空間内に有していることを特徴とする平面線路・導波管変換器。
【請求項3】
前記導波管が方形導波管であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の平面線路・導波管変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面線路・導波管変換器に関し、特に、マイクロ波帯からテラヘルツ波帯までの周波数帯域用の平面線路・導波管変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電体基板に形成されたマイクロストリップ線路やコプレーナ線路などの平面線路で伝送される電気信号を、導波管で伝送される電磁波に変換する手段、又はその逆方向の変換を行う手段として、平面線路・導波管変換器が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された基板用平面線路・導波管変換器61は、
図8に示すように、誘電体基板62と、この誘電体基板62に設けられたコプレーナ線路63と、誘電体基板62の裏面に設けられた裏面接地導体64と、誘電体基板62に立設され且つ誘電体基板62側の端部開口部の縁部が裏面接地導体64に接続された導波管65と、中心導体66の端部を導波管65の内部へ延ばすことにより形成された導波管励振用アンテナ67とを備えて構成されている。さらに、この基板用平面線路・導波管変換器61は、誘電体基板62の厚み寸法を、誘電体内における波長のほぼ1/4程度に設定するように構成したものである。
【0004】
特許文献1には、導波管の電磁界を誘起する導波管励振用アンテナ67(放射アンテナ)部分の基板内に、本来の伝搬モード以外の不要な伝搬モード(以下、「不要な基板モード」とも呼ぶ)が発生することを抑制するために、放射アンテナ部分の基板幅を平面線路などの回路部の基板幅に対して狭くした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された構成は、例えば220GHz以上のミリ波帯やテラヘルツ波帯を使用周波数帯域とする場合には、放射アンテナ部分の基板幅の製造誤差によって、放射アンテナのインピーダンスの変化や、放射アンテナ部分の誘電体基板内に不要な基板モードが発生するという課題があった。放射アンテナのインピーダンスが変化したり、誘電体基板内に不要な基板モードが発生したりすると、放射アンテナから導波管に伝搬させることができる高周波信号の周波数帯域が狭くなったり、高周波信号が伝搬できない周波数帯域が発生したりするという問題が生じる。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、ミリ波帯やテラヘルツ波帯の使用周波数帯域において、加工精度が低い放射アンテナ部分の誘電体基板を狭める工程を不要として放射アンテナのインピーダンスを一定とするとともに、誘電体基板内に不要な基板モードが発生することを抑制することで不要な基板モードが導波管の内部空間に広がることを防ぐことができる平面線路・導波管変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、誘電体基板(10)と、前記誘電体基板の表面に設けられた線路導体(11)と、前記誘電体基板において、前記線路導体から横方向に離間して設けられた第1の表面接地導体(13a,13b)と、前記誘電体基板の裏面において前記線路導体及び前記第1の表面接地導体の下方に設けられた第1の裏面接地導体(15)と、前記線路導体から横方向に離間した位置で、前記第1の表面接地導体と前記第1の裏面接地導体を電気的に接続する第1のビアホール(19a~19d)と、電磁波の伝搬方向が前記誘電体基板の前記表面に対して垂直になるように配置された導波管(30)と、前記導波管の内部空間(37)に連続する差し込み空間(48)を有し、前壁(41)に設けられた差し込み穴(49)に前記誘電体基板が差し込まれ、前記差し込み穴の縁部(50)が前記第1の裏面接地導体に電気的に接続される変換用導波管(40)と、前記誘電体基板の前記表面に設けられ、前記線路導体と一体形成され、前記変換用導波管の前記差し込み空間内に延伸する放射アンテナ(12)と、前記誘電体基板において、前記放射アンテナから横方向に離間して設けられた第2の表面接地導体(14a,14b)と、前記誘電体基板の前記裏面において前記第2の表面接地導体の下方に設けられた第2の裏面接地導体(16a,16b)と、前記放射アンテナから横方向に離間した位置で、前記第2の表面接地導体と前記第2の裏面接地導体を電気的に接続する第2のビアホール(22a,22b)と、を備え、前記変換用導波管は、前記第2の裏面接地導体の少なくとも一部に接触する導電性ブロック(51)を前記差し込み空間内に有している構成である。
【0009】
この構成により、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、加工精度が低い放射アンテナ部分の誘電体基板を狭める工程を不要として放射アンテナのインピーダンスを一定とするとともに、誘電体基板の線路導体部分及び放射アンテナ部分に不要な基板モードが発生することを抑制することで不要な基板モードが導波管の内部空間に広がることを防ぐことができるため、ミリ波帯やテラヘルツ波帯の使用周波数帯域内で均一な通過特性を実現することができる。
【0010】
また、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、誘電体基板(10)と、前記誘電体基板の表面に設けられた線路導体(11)と、前記誘電体基板において、前記線路導体から横方向に離間して設けられた第1の表面接地導体(13a,13b)と、前記誘電体基板の裏面において前記線路導体及び前記第1の表面接地導体の下方に設けられた第1の裏面接地導体(15)と、前記線路導体から横方向に離間した位置で、前記第1の表面接地導体と前記第1の裏面接地導体を電気的に接続する第1のビアホール(19a~19d)と、電磁波の伝搬方向が前記誘電体基板の前記表面に対して垂直になるように配置された導波管(30)と、前記導波管の内部空間(37)に連続する差し込み空間(48)を有し、前壁(41)に設けられた差し込み穴(49)に前記誘電体基板が差し込まれ、前記差し込み穴の縁部(50)が前記第1の裏面接地導体に電気的に接続される変換用導波管(40)と、前記誘電体基板の前記表面に設けられ、前記線路導体と一体形成され、前記変換用導波管の前記差し込み空間内に延伸する放射アンテナ(12)と、前記放射アンテナから横方向に離間した位置で、前記誘電体基板の前記表面から前記裏面に貫通する貫通穴(23a,23b)と、を備え、前記変換用導波管は、前記放射アンテナから横方向に離間した位置で前記誘電体基板の前記裏面に接触する導電性ブロック(51)を前記差し込み空間内に有している構成である。
【0011】
この構成により、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、加工精度が低い放射アンテナ部分の誘電体基板を狭める工程を不要として放射アンテナのインピーダンスを一定とするとともに、誘電体基板の線路導体部分及び放射アンテナ部分に不要な基板モードが発生することを抑制することで不要な基板モードが導波管の内部空間に広がることを防ぐことができるため、ミリ波帯やテラヘルツ波帯の使用周波数帯域内で均一な通過特性を実現することができる。
【0012】
また、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、前記導波管が方形導波管であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ミリ波帯やテラヘルツ波帯の使用周波数帯域において、加工精度が低い放射アンテナ部分の誘電体基板を狭める工程を不要として放射アンテナのインピーダンスを一定とするとともに、誘電体基板内に不要な基板モードが発生することを抑制することで不要な基板モードが導波管の内部空間に広がることを防ぐことができる平面線路・導波管変換器を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の構造を示す分解斜視図である。
【
図2】(a)は誘電体基板の第2のビアホールの中心軸を含む断面図であり、(b)は誘電体基板の第1のビアホールの中心軸を含む断面図である。
【
図3】差し込み空間内の導電性ブロックと、誘電体基板に配置された各電極との位置関係を示す斜視図である。
【
図4】比較例の平面線路・導波管変換器の構造を示す分解斜視図である。
【
図5】(a)は本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の通過特性S
21のシミュレーション結果を示すグラフであり、(b)は比較例の平面線路・導波管変換器の通過特性S
21のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の構造を示す分解斜視図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の通過特性S
21のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図8】従来の基板用平面線路・導波管変換器の構成を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る平面線路・導波管変換器の実施形態について、図面を用いて説明する。本発明の平面線路・導波管変換器は、例えば200GHzを超えるような高周波信号をミリ波帯又はテラヘルツ波帯の電磁波に変換したり、あるいは逆に、ミリ波帯又はテラヘルツ波帯の電磁波を高周波信号に変換したりするためのものである。
【0016】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の構成について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の平面線路・導波管変換器1の分解斜視図である。
図1に示すように、平面線路・導波管変換器1は、誘電体基板10と、導波管30と、変換用導波管40と、を備える。
【0018】
図2(a)及び(b)は、誘電体基板10のXZ面に平行な断面図である。
図2(a)は後述する第2のビアホール22a,22bの中心軸を含む断面図であり、
図2(b)は後述する第1のビアホール19a~19dの中心軸を含む断面図である。
【0019】
図1、
図2(a)、及び
図2(b)に示すように、誘電体基板10は、例えば、下側基板10aと、上側基板10bと、からなっている。
【0020】
下側基板10aは、例えばGaAs、GaN、InP、又はSiなどの厚さが0.06mm程度の任意の半導体材料からなる。あるいは、下側基板10aは、アルミナ基板、樹脂基板、又は石英ガラス基板などであってもよい。例えば、樹脂基板としては、フッ素樹脂、液晶ポリマー、BTレジン(ビスマレイミド・トリアジン樹脂)などの厚さが0.1mm程度のものを使用することができる。例えば、下側基板10aは、0.02mm程度の薄い樹脂基板を貼り合わせて0.1mm程度の厚さにしたものであってもよく、あるいは、0.1mm程度の厚さの単層の樹脂基板であってもよい。
【0021】
上側基板10bは、例えばBCB(ベンゾシクロブテン)やSiO2などの比較的誘電率が低く、厚さが0.03mm程度の単層又は多層の材料からなる。
【0022】
上側基板10bの表面には、ストリップ導体である線路導体11と、線路導体11と一体形成された放射アンテナ12と、が設けられている。また、下側基板10aの表面には、線路導体11から横方向に離間して配置された第1の表面接地導体13a,13bと、放射アンテナ12から横方向に離間して配置された第2の表面接地導体14a,14bと、が設けられている。
【0023】
下側基板10aの裏面には、線路導体11及び第1の表面接地導体13a,13bの下方に配置された第1の裏面接地導体15と、第2の表面接地導体14a,14bの下方に配置された第2の裏面接地導体16a,16bと、が設けられている。第1の表面接地導体13a,13b、第2の表面接地導体14a,14b、第1の裏面接地導体15、及び第2の裏面接地導体16a,16bは、少なくとも高周波グランド(RFグランド)であればよく、バイアス電圧が印加される構成となっていてもよい。
【0024】
また、下側基板10aには、線路導体11から横方向に離間した位置で下側基板10aの表面から裏面に貫通する第1の貫通穴17a~17dと、放射アンテナ12から横方向に離間した位置で下側基板10aの表面から裏面に貫通する第2の貫通穴20a,20bと、が設けられている。
【0025】
第1の貫通穴17a~17dには、第1の表面接地導体13a,13bと第1の裏面接地導体15を電気的に接続するビア導体18がそれぞれ設けられている。第1の貫通穴17a~17d及びビア導体18は、線路導体11から横方向に離間した位置で、第1の表面接地導体13a,13bと第1の裏面接地導体15を電気的に接続する第1のビアホール19a~19dを構成する。なお、第1のビアホール19a~19dの個数は、図示された4個に限定されず、任意の個数であってよい。
【0026】
誘電体基板10、線路導体11、第1の表面接地導体13a,13b、第1の裏面接地導体15、及び第1のビアホール19a~19dは、平面線路25を構成する。
【0027】
同様に、第2の貫通穴20a,20bには、第2の表面接地導体14a,14bと第2の裏面接地導体16a,16bを電気的に接続するビア導体21がそれぞれ設けられている。第2の貫通穴20a,20b及びビア導体21は、放射アンテナ12から横方向に離間した位置で、第2の表面接地導体14a,14bと第2の裏面接地導体16a,16bを電気的に接続する第2のビアホール22a,22bを構成する。なお、第2のビアホール22a,22bの個数は、図示された2個に限定されず、任意の個数であってよい。
【0028】
第1の貫通穴17a~17d及び第2の貫通穴20a,20bは、下側基板10aの表面から裏面に貫通するように、下側基板10aをドリルやレーザ等で穴開けすることによって形成される。第1の貫通穴17a~17d及び第2の貫通穴20a,20bの穴の断面形状は、通常は円であるが、楕円、正方形、又は長方形などの任意の形状でもあってよい。ビア導体18,21は、金や銅などの導電性材料であり、第1の貫通穴17a~17d及び第2の貫通穴20a,20bの内壁面に蒸着されるか、あるいは、埋め込まれる。
【0029】
下側基板10aに第1のビアホール19a~19d及び第2のビアホール22a,22bを設けることで、これらのビアホールのビア導体18,21による電磁波の遮蔽効果により、放射アンテナ12が形成された箇所の誘電体基板10の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。
【0030】
下側基板10aが半導体材料からなる場合には、第1のビアホール19a~19d及び第2のビアホール22a,22bの直径は例えば0.05mmであり、第2の表面接地導体14a,14b及び第2の裏面接地導体16a,16bの直径は例えば0.1mmである。一方、下側基板10aが樹脂基板である場合には、第1のビアホール19a~19d及び第2のビアホール22a,22bの直径は例えば0.1mmであり、第2の表面接地導体14a,14b及び第2の裏面接地導体16a,16bの直径は例えば0.3mmである。
【0031】
さらに、誘電体基板10には、図示しないモノリシックマイクロ波集積回路(Microwave Monolithic Integrated Circuit:MMIC)などの回路部が構成されており、線路導体11がこの回路部に接続されている。MMICは、電解効果トランジスタ(FET:Field effect transistor)などの半導体部品を含む集積回路であり、例えば増幅器、周波数変換器として機能する。
【0032】
導波管30は、XZ面に平行な前壁31及び後壁32と、YZ面に平行な側壁33,34と、を有する方形導波管である。導波管30は、例えば、内寸が0.860mm×0.425mmであり、220GHz~325GHzを通過帯域とするWR-3.4方形導波管である。導波管30の一方の開口部35は、導波管アンテナなどの図示しない入出力部につながる。また、導波管30の他方の開口部は、変換用導波管40につながる。
【0033】
変換用導波管40は、導波管30の前壁31及び後壁32にそれぞれ連続する前壁41及び後壁42と、XY平面に平行な上壁43,44及び下壁45と、YZ面に平行な側壁46,47と、を有する。
【0034】
図2(a)に示すように、変換用導波管40は、導波管30の内部空間37に連続する差し込み空間48を有する。差し込み空間48は、前壁41、後壁42、上壁43,44、下壁45、及び側壁46,47で囲まれた空間になっている。なお、
図2(a)は、導波管30及び変換用導波管40については、それらの内壁面のみを図示している。差し込み空間48は、例えば、X軸方向の幅が1.81mm、Y軸方向の奥行が0.425mm、Z軸方向の高さが0.39mmの空間である。
【0035】
誘電体基板10は、変換用導波管40の前壁41に設けられた差し込み穴49に差し込まれることで、変換用導波管40に装着されるようになっている。この状態で、第1の裏面接地導体15は、差し込み穴49の縁部50を介して、変換用導波管40及び導波管30に電気的に接続される。第1の裏面接地導体15と縁部50との電気的な接続は、例えば、第1の裏面接地導体15の端部が、導電性の接着剤により縁部50に貼り付けられることによって実現できる。
【0036】
例えば、差し込み穴49は、変換用導波管40の前壁41の中央付近の位置に形成される。放射アンテナ12と変換用導波管40及び導波管30とのインピーダンス整合のために、差し込み穴49のX軸方向の位置は、導波管30の中心軸からずれていてもよい。例えば、変換用導波管40の上壁43のX軸方向の幅は0.55mm、上壁44のX軸方向の幅は0.4mmである。
【0037】
線路導体11及び放射アンテナ12と変換用導波管40及び導波管30とが電気的に接続されないように、差し込み穴49には、X軸方向の幅が0.28mm、Z軸方向の高さが0.1mmの隙間が、線路導体11及び放射アンテナ12の上方に設けられている。
【0038】
誘電体基板10が変換用導波管40の差し込み穴49に差し込まれた状態で、放射アンテナ12は変換用導波管40の差し込み空間48内に配置されるようになっている。誘電体基板10が差し込み穴49に差し込まれた状態では、下壁45の内壁面に対する放射アンテナ12の表面までの高さ、すなわちバックショート長は、例えば0.275mmとなる。これは、平面線路・導波管変換器1の使用周波数帯域である220GHz~320GHzの中心周波数270GHzに対して、概ね1/4波長の距離である。
【0039】
また、放射アンテナ12の先端と、放射アンテナ12の先端に対向する変換用導波管40の後壁42との距離は、差し込み空間48の奥行(0.425mm)の概ね半分程度である。
【0040】
導波管30は、電磁波の伝搬方向が、差し込み穴49に差し込まれた誘電体基板10の表面に対して垂直になるように配置されている。これにより、本実施形態の平面線路・導波管変換器1は、ミリ波帯やテラヘルツ波帯を使用周波数帯域とする場合には、導波管30の電磁波の伝搬方向が誘電体基板10の表面に対して平行になる構成と比較して、良好な通過特性S21を得ることができる。
【0041】
図3は、誘電体基板10に配置された各電極の位置関係を示す斜視図である。なお、
図3では誘電体基板10の図示を省略している。
【0042】
変換用導波管40は、誘電体基板10が差し込み穴49に差し込まれた状態で、第2の裏面接地導体16a,16bの少なくとも一部に接触する導電性ブロック51を差し込み空間48内に有している。この導電性ブロック51により、第2の裏面接地導体16a,16bと変換用導波管40及び導波管30とが電気的に接続される。導電性ブロック51と第2の裏面接地導体16a,16bとの電気的な接続は、例えば、第2の裏面接地導体16a,16bの一部が、導電性の接着剤により導電性ブロック51に貼り付けられることによって実現できる。
【0043】
導波管30、変換用導波管40、及び導電性ブロック51は、例えば、真鍮、アルミニウム、銅、金などの金属材料からなる。これらの金属材料のうち、アルミニウムは、加工がしやすくコストが安い上に表面粗さを小さくできるため、特に好ましい。導波管30、変換用導波管40、及び導電性ブロック51は、同一材料で一体形成されてもよい。
【0044】
放射アンテナ12は、誘電体基板10の表面に設けられ、線路導体11と一体形成され、変換用導波管40の差し込み空間48内に延伸するストリップ導体である。放射アンテナ12は、導波管30を励振するアンテナとして機能する。このため、
図1等に示すように、誘電体基板10の裏面の放射アンテナ12の下方には、第1の裏面接地導体15が設けられていない。
【0045】
誘電体基板10が変換用導波管40の差し込み穴49に差し込まれた状態で、放射アンテナ12が変換用導波管40内、平面線路25が差し込み穴49の縁部50上と変換用導波管40外に配置されるようになっている。
【0046】
放射アンテナ12の先端から誘電体基板10の端までの距離は、可能な限り小さくすることが望ましい。また、放射アンテナ12の幅は、平面線路25とインピーダンス整合を取れる幅であることが望ましい。
【0047】
上記の構成により、回路部から送信された高周波信号は、平面線路25を伝送され、変換用導波管40内の放射アンテナ12から放射されて、導波管30の中を伝搬していく。逆に、導波管30の開口部35に入力された電磁波は、導波管30の中を伝搬して、変換用導波管40内の放射アンテナ12で受け取られ、平面線路25を伝送され、回路部で受信される。
【0048】
図4は、比較例の平面線路・導波管変換器の分解斜視図である。すなわち、比較例の平面線路・導波管変換器は、誘電体基板10が1層構造である点、誘電体基板10に第2の表面接地導体14a,14bと、第2の裏面接地導体16a,16bと、第2のビアホール22a,22bが形成されていない点、差し込み空間48内に導電性ブロック51が設けられていない点で、本実施形態の平面線路・導波管変換器1と異なる。
【0049】
図5(a)は、本実施形態の平面線路・導波管変換器1の通過特性S
21のシミュレーション結果を示すグラフである。一方、
図5(b)は、比較例の平面線路・導波管変換器の通過特性S
21のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0050】
図5(b)に示すように、比較例の構成では、通過特性S
21は、310GHz付近で急激に悪化した。これに対して、
図5(a)に示すように、本実施形態の平面線路・導波管変換器1の構成では、220GHz~320GHzを使用周波数帯域とするとき、5dB以下の良好な通過特性S
21が得られた。これは、導電性ブロック51と電気的に接続された第2の表面接地導体14a,14bと第2のビアホール22a,22bによって、誘電体基板10の放射アンテナ12部分に発生する不要な基板モードが導波管30の内部空間37に広がることを防ぐことができたためと考えられる。また、これは、第1の表面接地導体13a,13bと第1のビアホール19a~19dによって、誘電体基板10の線路導体11部分に発生する不要な基板モードが導波管30の内部空間37に広がることを防ぐことができたためと考えられる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器1は、線路導体11から横方向に離間して配置された第1の表面接地導体13a,13b及び第1のビアホール19a~19dを差し込み穴49の縁部50を介して導波管30に電気的に接続する。これにより、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器1は、誘電体基板10の線路導体11部分に不要な基板モードが発生することを抑制し、不要な基板モードが導波管30の内部空間37に広がることを防ぐことができる。
【0052】
加えて、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器1は、放射アンテナ12から横方向に離間して配置された第2の表面接地導体14a,14b及び第2のビアホール22a,22bを導電性ブロック51を介して導波管30に電気的に接続する。これにより、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器1は、誘電体基板10の放射アンテナ12部分に不要な基板モードが発生することを抑制し、不要な基板モードが導波管30の内部空間37に広がることを防ぐことができる。
【0053】
これらの構成により、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器1は、加工精度が低い放射アンテナ12部分の誘電体基板10を狭める工程を不要として放射アンテナ12のインピーダンスを一定とするとともに、不要な基板モードが導波管30の内部空間37に広がることを防ぐことができるため、ミリ波帯やテラヘルツ波帯の使用周波数帯域内で均一な通過特性を実現することができる。
【0054】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る平面線路・導波管変換器2について、図面を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略し、主に第1の実施形態との相違点について説明する。
【0055】
図6は、本実施形態の平面線路・導波管変換器2の分解斜視図である。
図6に示すように、本実施形態の平面線路・導波管変換器2は、第1の実施形態での第2の貫通穴20a,20bに相当する第3の貫通穴23a,23bを備えているが、第2の表面接地導体14a,14b、第2の裏面接地導体16a,16b、及び第2のビアホール22a,22bを備えていない。
【0056】
なお、誘電体基板10、線路導体11、放射アンテナ12、第1の表面接地導体13a,13b、第1の裏面接地導体15、第1のビアホール19a~19d、導波管30、及び変換用導波管40の構成については、第1の実施形態の構成と同様である。
【0057】
すなわち、第3の貫通穴23a,23bは、放射アンテナ12から横方向に離間した位置で、誘電体基板10の表面から裏面に貫通する。本実施形態においては、第3の貫通穴23a,23bの直径は、例えば0.1mmである。
【0058】
第3の貫通穴23a,23bは、下側基板10aの表面から裏面に貫通するように、下側基板10aをドリルやレーザ等で穴開けすることによって形成される。第3の貫通穴23a,23bの穴の断面形状は、通常は円であるが、楕円、正方形、又は長方形などの任意の形状でもあってよい。
【0059】
下側基板10aに第3の貫通穴23a,23bを設けることで、誘電体基板10の比誘電率よりも低い比誘電率を有する空気層が、放射アンテナ12から横方向に離間した位置に形成される。このように誘電体基板10内の誘電率に差を設けることにより、放射アンテナ12の横方向に電磁波が広がりにくくなって、放射アンテナ12が形成された箇所の誘電体基板10の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。
【0060】
本実施形態においては、差し込み空間48内に配置された導電性ブロック51は、誘電体基板10が差し込み穴49に差し込まれた状態で、放射アンテナ12から横方向に離間した位置で誘電体基板10の裏面に接触する。すなわち、導電性ブロック51は、誘電体基板10の裏面の第1の裏面接地導体15が設けられていない領域に直接接触する。この導電性ブロック51は、誘電体基板10の裏面で接地導体のように機能する。
【0061】
図7は、本実施形態の平面線路・導波管変換器2の通過特性S
21のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0062】
図7に示すように、本実施形態の平面線路・導波管変換器2の通過特性S
21では、
図5(b)の比較例の通過特性S
21で見られた310GHz付近での急激な悪化が改善された。これは、第3の貫通穴23a,23bと導電性ブロック51によって、誘電体基板10の放射アンテナ12部分に発生する不要な基板モードが導波管30の内部空間37に広がることを防ぐことができたためと考えられる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器2は、線路導体11から横方向に離間して配置された第1の表面接地導体13a,13b及び第1のビアホール19a~19dを差し込み穴49の縁部50を介して導波管30に電気的に接続する。これにより、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器2は、誘電体基板10の線路導体11部分に不要な基板モードが発生することを抑制し、不要な基板モードが導波管30の内部空間37に広がることを防ぐことができる。
【0064】
加えて、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器2は、放射アンテナ12から横方向に離間して配置された第3の貫通穴23a,23bと、誘電体基板10の裏面の第1の裏面接地導体15が設けられていない領域に直接接触する導電性ブロック51と、を有している。これにより、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器2は、誘電体基板10の放射アンテナ12部分に不要な基板モードが発生することを抑制し、不要な基板モードが導波管30の内部空間37に広がることを防ぐことができる。
【0065】
これらの構成により、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器2は、加工精度が低い放射アンテナ12部分の誘電体基板10を狭める工程を不要として放射アンテナ12のインピーダンスを一定とするとともに、不要な基板モードが導波管30の内部空間37に広がることを防ぐことができるため、ミリ波帯やテラヘルツ波帯の使用周波数帯域内で均一な通過特性を実現することができる。
【符号の説明】
【0066】
1,2 平面線路・導波管変換器
10 誘電体基板
11 線路導体
12 放射アンテナ
13a,13b 第1の表面接地導体
14a,14b 第2の表面接地導体
15 第1の裏面接地導体
16a,16b 第2の裏面接地導体
17a~17d 第1の貫通穴
19a~19d 第1のビアホール
20a,20b 第2の貫通穴
22a,22b 第2のビアホール
23a,23b 第3の貫通穴(貫通穴)
25 平面線路
30 導波管
37 内部空間
40 変換用導波管
41 前壁
48 差し込み空間
49 差し込み穴
50 縁部
51 導電性ブロック