(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171392
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】EGRシステム
(51)【国際特許分類】
F02M 26/49 20160101AFI20241205BHJP
F02M 26/33 20160101ALI20241205BHJP
F02M 26/28 20160101ALI20241205BHJP
【FI】
F02M26/49 311
F02M26/33
F02M26/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088362
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小崎 寛之
【テーマコード(参考)】
3G062
【Fターム(参考)】
3G062CA06
3G062DA02
3G062FA05
3G062GA06
3G062GA08
3G062GA15
3G062GA21
(57)【要約】
【課題】EGRクーラの内部で冷却水が局所的に沸騰することを低コストで回避する。
【解決手段】EGRシステムは、EGRガス流路15と、循環回路30と、EGRクーラ20と、メモリ104と、制御部102とを備える。EGRクーラ20は、EGRガスを冷却する。メモリ104は、入力パラメータと出力パラメータとの予め定められた相関関係を表すモデルを記憶する。入力パラメータは、エンジン10の回転数と、エンジン10の燃料噴射量と、EGRクーラ20を通過した冷却水の温度TWDと、EGRガスの還流量の程度を示す指標値とを含む。出力パラメータは、EGRクーラ20の内部での冷却水の局所的な沸騰が起こるか否かを示す値である。制御部102は、モデルを用いて入力パラメータに従って出力パラメータを算出する処理を実行し、局所的な沸騰を回避するための制御を出力パラメータに従って実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路内の排気の一部をEGRガスとして前記エンジンの吸気通路に還流させるEGRガス流路と、
前記エンジンを冷却するための冷却水が循環する循環回路と、
前記冷却水が内部を通過して前記EGRガスを冷却するEGRクーラと、
入力パラメータと出力パラメータとの予め定められた相関関係を表すモデルを記憶する記憶部とを備え、
前記入力パラメータは、前記エンジンの回転数と、前記エンジンの燃料噴射量と、前記EGRクーラを通過した前記冷却水の温度と、前記EGRガスの還流量の程度を示す指標値とを含み、
前記出力パラメータは、前記EGRクーラの内部での前記冷却水の局所的な沸騰が起こるか否かを示す値であり、
前記モデルを用いて前記入力パラメータに従って前記出力パラメータを算出する処理を実行し、前記局所的な沸騰を回避するための制御を前記出力パラメータに従って実行する制御部をさらに備える、EGRシステム。
【請求項2】
前記EGRガス流路に設けられ、前記還流量を調整するためのバルブをさらに備え、
前記制御は、前記バルブの開度を小さくする制御を含む、請求項1に記載のEGRシステム。
【請求項3】
前記循環回路は、前記冷却水を循環させるポンプを含み、
前記制御は、前記ポンプの吐出量を増大させる制御を含む、請求項1に記載のEGRシステム。
【請求項4】
前記出力パラメータは、
しきい値以上である場合、前記局所的な沸騰が起こることを示す値として定められ、
前記しきい値未満である場合、前記局所的な沸騰が起こらないことを示す値として定められ、
前記モデルは、前記入力パラメータを説明変数とし、かつ、前記出力パラメータを目的変数とする重回帰式であり、
前記制御は、前記目的変数が前記しきい値以上である場合に実行される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のEGRシステム。
【請求項5】
前記指標値は、前記吸気通路における前記エンジンの吸気量に対する前記還流量の割合を示すEGR率、または、前記還流量を示す値を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のEGRシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、EGRシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2004-360545号公報(特許文献1)は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置を開示する。このEGR装置は、EGR通路と、EGR弁と、EGRクーラと、冷却水通路と、冷却水制御弁とを備える。EGR通路は、エンジンの排気通路と吸気通路とを連通する。EGRクーラは、EGR通路を還流する排気ガス(以下、「EGRガス」とも称する)を冷却するように構成されている。冷却水通路は、EGRクーラの内部に設けられており、冷却水が通過する。冷却水は、エンジンおよびEGRクーラを通じて循環する。冷却水制御弁は、EGRクーラの冷却水が沸騰することを回避するために開かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EGRクーラの内部を通過している冷却水は、EGRクーラの内部空間の温度および圧力などの各種物理量に依存して局所的に沸騰し得る。この現象(以下、「局所沸騰」とも称する)は、上記の各種物理量の非一様性に起因して内部空間における場所によって冷却水の沸点が異なることが原因で起こる。局所沸騰は、EGRクーラの保護の観点から好ましくない。上記物理量を測定するための各種センサをEGRクーラの内部に設置し、局所沸騰を回避するための制御(例えば、上記の冷却水制御弁を開く制御)を当該センサの測定値に基づいて実行することが好ましいようにも思われる。しかしながら、そのようなセンサを設定することは、コスト増大を招く。
【0005】
本開示は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、EGRクーラの内部で冷却水が局所的に沸騰することを低コストで回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のEGRシステムは、EGRガス流路と、循環回路と、EGRクーラと、記憶部と、制御部とを備える。EGRガス流路は、エンジンの排気通路内の排気の一部をEGRガスとしてエンジンの吸気通路に還流させる。循環回路は、エンジンを冷却するための冷却水が循環する。EGRクーラは、冷却水が内部を通過してEGRガスを冷却する。記憶部は、入力パラメータと出力パラメータとの予め定められた相関関係を表すモデルを記憶する。入力パラメータは、エンジンの回転数と、エンジンの燃料噴射量と、EGRクーラを通過した冷却水の温度と、EGRガスの還流量の程度を示す指標値とを含む。出力パラメータは、EGRクーラの内部での冷却水の局所的な沸騰が起こるか否かを示す値である。制御部は、モデルを用いて入力パラメータに従って出力パラメータを算出する処理を実行し、局所的な沸騰を回避するための制御を出力パラメータに従って実行する。
【0007】
EGRクーラにおいて局所沸騰が起こるか否かは、EGRガスの熱量と、EGRクーラを通過する冷却水の温度とに主に関係している。EGRガスの熱量は、EGRガスの温度と、EGRガスの流量とに依存する。EGRガスの温度は、エンジンの回転数および燃料噴射量に依存する(回転数が高いほど、または燃料噴射量が多いほど基本的に高い)。上記の構成とすることにより、上記入力パラメータに基づいて出力パラメータが算出され、この出力パラメータに従って上記制御が実行される。具体的には、局所的な沸騰が起こることを出力パラメータが示す場合に、上記制御が実行される。これにより、EGRシステムの制御において一般的に用いられ得る上記入力パラメータを局所的な沸騰の回避に活用することができる。その結果、EGRクーラの内部空間の温度および圧力などの各種物理量を測定するセンサ、およびEGRクーラの入力ガスの温度を測定するセンサを新たに設置することを要しない。したがって、局所沸騰を低コストで回避することができる。
【0008】
EGRシステムは、EGRガス流路に設けられ、還流量を調整するためのバルブをさらに備えていてもよい。上記制御は、バルブの開度を小さくする制御を含んでもよい。
【0009】
上記の構成とすることにより、EGRガス流路が少なくとも部分的に閉塞され、EGRガスの還流量が低減される。これにより、EGRクーラを通過するEGRガスの量が低減され、EGRクーラがEGRガスから受ける熱量が低減される。その結果、EGRクーラの温度が低下する。したがって、EGRクーラ内での冷却水の局所沸騰を事前に回避することができる。
【0010】
EGRシステムは、循環回路は、冷却水を循環させるポンプを含んでもよい。上記制御は、ポンプの吐出量を増大させる制御を含んでもよい。
【0011】
上記の構成とすることにより、冷却水の循環量が増大し、EGRクーラ内での冷却水の温度上昇量が低減される。これにより、EGRクーラ内での冷却水の局所沸騰を事前に回避することができる。
【0012】
出力パラメータは、しきい値以上である場合、局所的な沸騰が起こることを示す値として定められ、しきい値未満である場合、局所的な沸騰が起こらないことを示す値として定められてもよい。モデルは、入力パラメータを説明変数とし、かつ、出力パラメータを目的変数とする重回帰式であってもよい。上記制御は、目的変数がしきい値以上である場合に実行されてもよい。
【0013】
重回帰式は、複雑な理論モデルを用いることなく、実データ(実現象)に基づいて物事を説明できるという利点がある。重回帰式の説明変数を適切に選ぶことで、局所沸騰が起こっているか否かを精度良く判定することができる。上記の構成とすることにより、局所沸騰が起こっているか否かに依存する上記パラメータが説明変数として用いられる。これにより、局所的な沸騰が起こっているか否かを目的変数(出力パラメータ)に正確に反映させることができる。その結果、上記制御の実行タイミングを適切にできる。したがって、局所沸騰を適切に回避することができる。
【0014】
指標値は、吸気通路におけるエンジンの吸気量に対する還流量の割合を示すEGR率、または、還流量を示す値を含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、EGRクーラの内部で冷却水が局所的に沸騰することを低コストで回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態に従うEGRシステムを含むエンジンシステムの全体構成図である。
【
図2】EGRクーラと、その周辺部品との関係を詳細に説明する図である。
【
図3】メモリに記憶されるデータを説明するための図である。
【
図4】実施の形態におけるモデルの具体例を説明するための図である。
【
図5】沸騰回避制御の具体例を説明するための図である。
【
図6】実施の形態においてECU(Electronic Control Unit)により実行される処理および制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明を繰り返さない。実施の形態およびその変形例の各々は、適宜互いに組み合わせられてもよい。
【0018】
図1は、実施の形態に従うEGRシステムを含むエンジンシステムの全体構成図である。
図1を参照して、エンジンシステム1は、車両5に搭載されており、エンジン10と、EGRガス流路15と、EGRバルブ17と、エアフローセンサ18とを備える。エンジンシステム1は、EGRクーラ20と、循環回路30と、温度センサ33と、ECU100とをさらに備える。
【0019】
エンジン10は、ディーゼルエンジンであり、気筒11と、吸気通路12と、排気通路13と、インジェクタ14とを備える。気筒11は、燃焼室を有する。吸気通路12および排気通路13の各々は、気筒11に接続される。吸気通路12を流れる空気は、気筒11の燃焼室内に導入される。燃焼室には、インジェクタ14から燃料が噴射される。燃焼室内で空気と燃料との混合気が燃焼することで、エンジン10の駆動力を発生させる。燃焼後の混合気(排気ガス)は、排気通路13を通じてエンジン10の外部に排出される。エンジン10の回転数を「エンジン回転数」とも表す。
【0020】
EGRガス流路15は、排気通路13内の排気の一部をEGRガス(ハッチング付与)として吸気通路12に還流させる配管である。EGRガスは、排気と同様にエンジン廃熱を含む。EGRガスの温度は、インジェクタ14の燃料噴射量、およびエンジン回転数に関係している。具体的には、燃料噴射量が多いほど、またはエンジン回転数が高いほど、EGRガスの温度が基本的に高い。
【0021】
EGRバルブ17は、EGRガス流路15に設けられ、EGRガスの還流量(EGRガス流量)を調整するために用いられる。例えば、EGRバルブ17の開度が大きくなると、EGRガスの還流量が増大する。EGRバルブ17の開度が小さくなると、EGRガスの還流量が低減される。エアフローセンサ18は、吸気通路12におけるエンジン10の吸気量を測定する。
【0022】
EGRクーラ20は、循環回路30(後述)を循環する冷却水と、EGRガスとの間の熱交換によりEGRガスを冷却する。この冷却水は、EGRクーラ20の内部を通過する。EGRガス流路15のうちEGRクーラ20よりも上流側および下流側の部分を、それぞれ、流路15A,15Bとも表す。
【0023】
循環回路30は、エンジン10を冷却するための冷却水が循環する回路である。循環回路30のうち、EGRクーラ20よりも上流側および下流側で冷却水が流れる流路を、それぞれ、流路30A,30Bとも表す。循環回路30は、EGRクーラ20の内部の流路(後述)をも含む。循環回路30は、ポンプ31と、ラジエータ32とを含む。ポンプ31は、流路30Aに設けられており、循環回路30において冷却水を循環させるウォータポンプである。ラジエータ32は、流路30Bに設けられており、EGRガスの熱を吸入した冷却水と、車両5の外部との間の熱交換を行う。これにより、冷却水の熱が車両5の外部に放熱されて冷却水の温度が低下する。
【0024】
温度センサ33は、流路30Bを流れる冷却水の温度TWD(EGRクーラ20の下流側冷却水温度)を測定する。なお、エンジンシステム1(車両5)は、エアフローセンサ18および温度センサ33に加えて、車両5のアクセル開度センサ(図示せず)などの各種センサを備える。
【0025】
ECU100は、制御部102と、メモリ104とを含む。制御部102は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ(図示せず)を含む。プロセッサは、各種の演算処理を実行する。メモリ104は、RAM(Random Access Memory)105およびROM(Read Only Memory)106を含む。RAMは、ワーキングメモリとして機能する。ROMは、プロセッサにより実行されるプログラム、および各種データを記憶する。
【0026】
制御部102は、エアフローセンサ18、温度センサ33、およびアクセル開度センサなどの各種センサの測定値に基づいて、エンジン10、EGRバルブ17、およびポンプ31などの各種機器を制御する。例えば、制御部102は、これらの測定値に基づいてエンジン回転数および燃料噴射量の指令値を設定し、それによりインジェクタ14を制御する。
【0027】
制御部102は、EGRバルブ17を制御する(詳細には、その開度を大きくしたり小さくしたりする)ことによってEGRガス流量を調整する。制御部102は、目標のEGR率が達成されるようにEGRバルブ17の開度を設定する。EGR率とは、吸気通路12におけるエンジン10の吸気量に対するEGRガス流量の割合を示す値をいう。EGR率が高いほど、EGRガス流量が多い。制御部102は、例えば、エンジン回転数および燃料噴射量に基づいて、目標EGR率(目標EGRガス流量)を設定する。制御部102は、EGRクーラ20内で冷却水の沸騰が起こる場合に、EGRバルブ17の開度を小さくする。これにより、EGRガス流路15が少なくとも部分的に閉塞され、EGRガス量が低減される。その結果、EGRクーラ20を通過するEGRガスの量が低減され、EGRクーラ20がEGRガスから受ける熱量が低減される。したがって、EGRクーラ20の温度が低下し、EGRクーラ20内での冷却水の沸騰を回避することができる。
【0028】
制御部102は、ポンプ31を制御する(詳細には、その吐出量を増大させたり低減させたりする)ことによってEGRクーラ20に対する冷却水の冷却能力を向上させる。例えば、吐出量が大きいほど、EGRクーラ20を通過する冷却水の量が多いため、冷却水の冷却能力が高い。制御部102は、エンジン回転数の指令値、燃料噴射量の指令値、目標EGR率、および温度センサ33の測定値の履歴をメモリ104に逐次格納する。
【0029】
EGRガス流路15、エアフローセンサ18、EGRバルブ17、EGRクーラ20、循環回路30、ポンプ31、温度センサ33、およびECU100は、本開示の「EGRシステム」の一例を形成する。
【0030】
図2は、EGRクーラ20と、その周辺部品との関係を詳細に説明する図である。
図2を参照して、EGRガスが還流する方向(還流方向RD)と、この方向に直交する方向(直交方向OD)との間の角度を角度θとも表す。この例では、EGRバルブ17は、全開状態にあり、直交方向に垂直である(θ=90°)。EGRクーラ20の内部空間(冷却水が通過する空間)を内部空間ISとも表す。循環回路30のうち内部空間ISにある流路を流路30Cとも表す。
【0031】
図3は、メモリ104に記憶されるデータを説明するための図である。
図3を参照して、RAM105は、エンジン回転数情報205と、噴射量情報210と、EGR率情報215と、水温センサ情報220とを記憶している。エンジン回転数情報205、噴射量情報210、EGR率情報215、および水温センサ情報220は、それぞれ、エンジン回転数の指令値、燃料噴射量の指令値、EGR率(目標EGR率)、および温度センサ33の測定値の履歴に相当する。ROM106は、モデル255を記憶している。モデル255については、後ほど詳しく説明する。
【0032】
図2を再び参照して、内部空間IS(流路30C)を通過している冷却水は、内部空間ISの温度および圧力などの各種物理量に依存して局所的に沸騰し得る(局所沸騰)。局所沸騰は、内部空間ISを通過している冷却水の一部のみが沸騰する現象である。局所沸騰は、内部空間ISにおける各種物理量の非一様性(例えば圧力バラツキ)に起因して内部空間ISにおける場所によって冷却水の沸点が異なることが原因で起こる。なお、局所沸騰の開始後、内部空間IS全体における冷却水の温度がさらに上昇すると、内部空間ISにおける冷却水全体が沸騰する。
【0033】
局所沸騰は、冷却水全体の沸騰と同様にEGRクーラ20の保護の観点から好ましくない。上記物理量を測定するための各種センサを内部空間ISに設置し、局所沸騰を回避するための制御(例えば、EGRバルブ17を開く制御)を当該センサの測定値に基づいて実行することが好ましいようにも思われる。しかしながら、そのようなセンサを設定することは、コスト増大を招く。冷却水の局所的な沸騰が起こるか否かを熱力学上の単純な理論式(例えば、熱量、比熱、および潜熱に基づく計算式)に基づいて判定することも容易ではない。
【0034】
実施の形態に従うEGRシステム(エンジンシステム1)は、そのような問題に対処するための特徴をモデル255において有する。モデル255は、その入力パラメータと出力パラメータとの予め定められた相関関係を表す。
【0035】
入力パラメータは、エンジン回転数と、エンジン10の燃料噴射量と、温度TWDと、EGRガス流量の程度を示す指標値とを含む。エンジン回転数および燃料噴射量の各々については、その指令値が用いられる。入力パラメータは、これらの4つのパラメータ以外の他のパラメータをさらに含んでも良いが、実施の形態では、これらの4つのパラメータからなる(詳しくは後述)。この例では、指標値は、EGR率(例えば、目標EGR率)である。
【0036】
出力パラメータは、内部空間ISでの冷却水の局所沸騰が起こるか否かを示す値である。例えば、出力パラメータは、第1の値(一例として1)である場合、局所沸騰が起こることを示す値として定められる。第1の値は、メモリ104に記憶された所定のしきい値以上であるものとする。出力パラメータは、第2の値(一例として0)である場合、局所沸騰が起こらないことを示す値として定められる。第2の値は、しきい値未満であるものとする。しきい値は、例えば1である。
【0037】
ECU100(制御部102)は、モデル255を用いて上記入力パラメータに従って出力パラメータを算出する算出処理を実行する。ECU100は、この処理の結果に従って、局所沸騰が起こるか否かを判定する判定処理を実行する。例えば、ECU100は、出力パラメータがしきい値以上である場合(一例として、第1の値である場合)、局所沸騰が起こると判定する。他方、ECU100は、出力パラメータがしきい値未満である場合(一例として、第2の値である場合)、局所沸騰が起こらないと判定する。ECU100は、局所沸騰を回避するための沸騰回避制御を出力パラメータに従って実行する。ECU100は、例えば、出力パラメータがしきい値以上である場合に沸騰回避制御を実行する。この制御の具体例については、後ほど詳しく説明する。
【0038】
EGRクーラにおいて局所沸騰が起こるか否かは、EGRガスの熱量と、温度TWDとに主に関係している。例えば、当該熱量が大きいほど、または温度TWDが高いほど、局所沸騰が起こる可能性が高い。他方、当該熱量が小さいほど、または温度TWDが低いほど、局所沸騰が起こる可能性が低い。EGRガスの熱量は、EGRガスの温度と、EGRガス流量とに依存する。例えば、当該温度が高いほど、または当該流量が大きいほど、EGRガスの熱量が多い。EGRガスの温度は、エンジン回転数および燃料噴射量に依存する。例えば、この温度は、エンジン回転数が高いほど、または燃料噴射量が多いほど基本的に高い。
【0039】
上記の算出処理において、エンジン回転数および燃料噴射量は、EGRガスの温度の代替指標として用いられる。EGR率は、EGRガス流量の代替指標として用いられる。よって、エンジン回転数、燃料噴射量およびEGR率は、EGRガスの熱量の代替指標として用いられる。上記の判定処理、および沸騰回避制御によれば、局所沸騰が起こるか否かが出力パラメータに従って判定され、この判定の結果に従って沸騰回避制御が実行される。例えば、出力パラメータがしきい値以上である場合に、上記制御が実行される。上記のように沸騰回避制御を実行することで、EGRシステムの制御において一般的に用いられる上記4つの入力パラメータ(エンジン回転数、燃料噴射量、温度TWD、およびEGR率)を局所沸騰の回避に活用することができる。その結果、内部空間ISの温度および圧力などの各種物理量を測定するセンサ、および流路15AにおけるEGRガスの温度(EGRクーラの入力ガス温度)を測定するセンサを新たに設置することを要しない。したがって、低コストで(簡易な構成で)局所沸騰を回避することができる。
【0040】
流路30Aを流れる冷却水の温度(上流側冷却水温度)が温度TWDに代えて入力パラメータの一つとして用いられる比較例も想定され得る。しかしながら、以下に説明するように、温度TWDは、上流側冷却水温度よりも入力パラメータの一つとして適している。局所沸騰が起こるか否かは、上流側冷却水温度が高いか低いかのみならず、入力ガス温度が高いか低いかにも関係している。よって、上流側冷却水温度は、局所沸騰が起こるか否かを必ずしも反映せず、比較例では、局所沸騰が起こるか否かを精度良く判定することができない可能性がある。他方、局所沸騰が起こる場合には温度TWDが必然的に高くなる。よって、温度TWDは、局所沸騰が起こるか否かを上流側冷却水温度よりも適切に反映するため、この温度よりも入力パラメータの一つとして適している。
【0041】
図4は、実施の形態におけるモデル255の具体例を説明するための図である。
図4を参照して、モデル255は、前述の入力パラメータを説明変数(x
i:i=1~4)とし、かつ、出力パラメータを目的変数(y)とする重回帰式である。ECU100は、メモリ104を参照することによって、および温度センサ33の測定値に基づいて、これらの説明変数を取得する。ECU100は、重回帰式を用いて説明変数に従って目的変数を逐次算出する。ECU100は、目的変数が前述のしきい値以上である場合に沸騰回避制御を実行する。
【0042】
重回帰式は、複雑な理論モデルを用いることなく、実データ(実現象)に基づいて物事を説明できるという利点がある。重回帰式の説明変数を適切に選ぶことで、局所沸騰が起こっているか否かを精度良く判定することができる。上記の重回帰式において、局所沸騰が起こっているか否かに関係する上記入力パラメータが説明変数として用いられる。これにより、局所的な沸騰が起こっているか否かを目的変数(出力パラメータ)に正確に反映させることができる。その結果、局所的な沸騰が起こっているか否かを正確に判定することができ、それにより沸騰回避制御の実行タイミングを適切にできる。したがって、局所沸騰を適切に回避することができる。
【0043】
実施の形態では、説明変数(入力パラメータ)は、エンジン回転数、エンジン10の燃料噴射量、温度TWDおよびEGR率のみからなる4つのパラメータとして定められる。
【0044】
重回帰分析の信頼性の向上の観点から、説明変数の数は、適切であることが好ましい。例えば、説明変数の数が大きすぎたり小さすぎたりする場合、重回帰分析の結果と現実との不整合を招く可能性がある。上記のように説明変数が定められる場合、説明変数の各々が、局所的な沸騰が起こるか否かに関係しており、かつ、説明変数の数(=4)が大きすぎず適切である。これにより、重回帰分析の信頼性を向上させることができる。
【0045】
なお、説明変数の係数としての偏回帰係数(bi:i=1~4)は、EGRガス流路15、循環回路30、およびEGRクーラ20の構造ならびに物性に基づいて、例えば事前の実験(評価試験)により予め定められる。実験では、一例として、外部からの内部空間ISの視認を可能とする透明な窓を有する実験専用EGRクーラが用いられる。
【0046】
局所沸騰が起こるか否かは、4つの入力パラメータ(エンジン回転数、燃料噴射量、温度TWD、およびEGR率)の組み合わせごとに実験者により判断される。この判断作業は、上記の透明な窓を通じた内部空間ISの目視により実施される。入力パラメータのある組み合わせにより示される条件下では局所沸騰が起こると判断(視認)される場合、当該組み合わせに対応する出力パラメータが前述の第1の値に予め定められる。上記条件下では局所沸騰が起こらないと判断される場合、上記の組み合わせに対応する出力パラメータが前述の第2の値に予め定められる。上記の判断作業と、入力パラメータの組み合わせに対応する出力パラメータの設定作業とを繰り返すことで、局所沸騰が起こるか否かに依存して上記組み合わせがクラスタリングされる。さらに、これらの作業の結果と、公知の重回帰分析の手法とに基づいて、各説明変数の係数が定められる。これにより、入力パラメータと出力パラメータとの予め定められた相関関係(モデル255)が作成される。
【0047】
図5は、沸騰回避制御の具体例を説明するための図である。
図5を参照して、沸騰回避制御は、例えば、EGRバルブ17の開度を小さくするバルブ制御である。このバルブ制御は、例えば、EGRバルブ17を閉じる制御に相当する(
図2のθ=0°)。これにより、EGRクーラ20を通過するEGRガスの量が低減され、EGRクーラ20がEGRガスから受ける熱量が低減される。その結果、EGRクーラ20(内部空間IS)の温度が低下し、EGRクーラ20内での冷却水の局所沸騰を事前に回避することができる。
【0048】
沸騰回避制御は、ポンプ31の吐出量を増大させる制御であってもよい。これにより、冷却水の循環量(内部空間ISにおける冷却水の通過量)が増大し、内部空間ISにおける冷却水の温度上昇量が低減される。その結果、局所沸騰を事前に回避することができる。
【0049】
図6は、実施の形態においてECU100により実行される処理および制御を説明するフローチャートである。このフローチャートは、エンジン10の作動中に所定時間ごとに実行される。
【0050】
図6を参照して、ECU100は、前述の4つの入力パラメータ(x
1~x
4)を取得する(S102)。詳細には、ECU100は、エンジン回転数情報205を参照することによってエンジン回転数を取得する(S105)。ECU100は、噴射量情報210を参照することによって燃料噴射量を取得する(S110)。ECU100は、EGR率情報215を参照することによってEGR率を取得する(S115)。ECU100は、水温センサ情報220を参照することによって、または温度センサ33の測定値に基づいて温度TWDを取得する(S120)。
【0051】
ECU100は、モデル255を用いて、4つの入力パラメータ(x1~x4)に従って出力パラメータ(y)を算出する(S125)。
【0052】
ECU100は、出力パラメータがしきい値TH以上であるか否かを判定する(S130)。出力パラメータがしきい値TH以上である場合(S130においてYES)、ECU100は、局所沸騰が起こると判定し(S135)、それにより沸騰回避制御を実行する(S145)。他方、出力パラメータがしきい値TH未満である場合(S130においてNO)、ECU100は、局所沸騰が起こらないと判定し(S140)、それにより通常制御を実行する(S150)。通常制御とは、例えば、目標EGR率に従ってEGRバルブの開度を調整することである。S145,S150の後、処理がリターンに移行する。
【0053】
以上のように、実施の形態によれば、EGRクーラ20(内部空間IS)における冷却水の局所沸騰を低コストで回避することができる。
【0054】
<実施の形態の変形例>
モデル255は、入力パラメータ(x1~x4)と出力パラメータ(y)との関係が学習された機械学習モデルであってもよい。この場合、出力パラメータは、第1の値または第2の値のいずれかを取る離散値である。モデル255は、CAD(Computer Aided Design)を用いた事前の解析(シミュレーション)により定められた、上記入力パラメータと出力パラメータとの間の相関関係に基づいて作成されてもよい。モデル255は、上記入力パラメータと出力パラメータとの間の相関関係を定めるマップとして記憶されていてもよい。
【0055】
実施の形態では、エンジン回転数、および燃料噴射量の各々は、RAM105からの参照値(ECU100の指令値)であるものとされたが、これらを測定するセンサがEGRシステムに設置されて、当該センサの測定値が参照値に代えて用いられてもよい。
【0056】
実施の形態では、EGR率として、目標EGR率が主に用いられたが、EGR率の測定値であってもよい。この場合、EGRガス量を測定するエアフローセンサが流路15Aまたは15Bに設置される。そして、このセンサ、およびエアフローセンサ18の測定値に基づいてEGR率が測定され、この測定結果がEGR率情報215として用いられる。
【0057】
実施の形態では、指標値は、EGR率であるものとしたが、EGRガス流量により代替されてもよい。この場合、EGRガス流量を測定するセンサが流路15Aまたは15Bに設置されてもよい。エンジン10は、ガソリンエンジンであってもよい。
【0058】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 エンジンシステム、5 車両、10 エンジン、15 EGRガス流路、17 バルブ、20 EGRクーラ、30 循環回路、31 ポンプ、33 温度センサ、102 制御部、104 メモリ、255 モデル。