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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171394
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】遅延時間測定システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/46 20150101AFI20241205BHJP
【FI】
H04B3/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088364
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】322000030
【氏名又は名称】株式会社光パスコミュニケーションズ
(72)【発明者】
【氏名】松浦 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小川 太郎
(57)【要約】
【課題】遠隔地間の映像遅延測定の際に、ケーブル接続なしに映像送出側と受像側のタイミングを合わせる手段を提供する。
【解決手段】基準タイミング発生器の信号にタイミング保持部を同期させ、前記タイミング保持部をバッテリーで動作維持しつつ被測定物近傍に移動し、前記タイミング保持部の出力信号を用いて遅延時間測定を行い、前記タイミング保持部をバッテリーで動作維持しつつ前記基準タイミング発生器近傍に移動し、前記タイミング保持部と前記基準タイミング発生器を比較し時間誤差を計測する工程を実行する。
前記タイミング保持部は高周波数安定度発振器、分周回路、波形整形回路、クリアパルス発生回路、クリアパルス印加を切換えるスイッチ、前記分周回路出力と前記基準タイミング入力との時間差を出力する比較回路、前記比較回路の出力パルス幅の測定結果を表示する回路を設ける。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の地点に設置したアクチュエータを駆動電気信号でON/OFF駆動し、被測定システムでそれをセンシングして伝送したのち、前記被測定システムの第二の地点から出力される物理量を、センサで電気信号に変換し、前記駆動電気信号と前記センサからの電気信号の変化に関する時間差を測定する装置において、
前記駆動電気信号の変化のタイミングと、前記センサからの電気信号の変化のタイミングの、いずれか少なくとも一方のタイミングを決定するタイミング保持部に関して、
基準タイミング発生器からの信号にタイミング保持部を同期させる工程と、
前記タイミング保持部をバッテリーで動作維持しながら被測定物近傍に移動する工程と、
前記タイミング保持部の出力信号を用いて時間差測定を行う工程と、
前記タイミング保持部をバッテリーで動作維持しながら前記基準タイミング発生器近傍に移動する工程と、
前記タイミング保持部と前記基準タイミング発生器の出力信号を比較して、前記タイミング保持部の時間的誤差を計測する工程とを順次実行する遅延時間測定手順において、前記タイミング保持部は、
高周波数安定度発振器と、
前記高安定度水晶発振器の出力を分周する分周回路と、
前記分周回路の出力をタイミング保持部の出力として出力する波形整形回路と、
入力タイミング信号からクリア信号を生成するクリアパルス発生回路と、
前記クリア信号を前記分周回路に印加するか否かを切り換えるスイッチと、
前記分周回路の出力と前記タイミング入力との時間差のパルスを出力する比較回路と、
前記比較回路の出力パルス幅をクロックパルスで計数し表示する回路、もしくはあらかじめ設定した閾値を超えたことを表示する回路のいずれか少なくとも一方と、
を有することを特長とした遅延時間測定システム.
【請求項2】
前記入力タイミング信号の変化と前記分周回路の出力の変化の進み遅れを判別する進み遅れ判別回路を有することを特長とした請求項1に記載の遅延時間測定システム.
【請求項3】
前記基準タイミング発生器は衛星測位システムからの時刻信号を出力する受信機であることを特長とした請求項1に記載の遅延時間測定システム.
【請求項4】
前記基準タイミング発生器は、別の基準タイミング発生器に同期することなしにフリーランする第二のタイミング保持部であることを特長とした請求項1に記載の遅延時間測定システム.
【請求項5】
前記被測定システムは、ビデオカメラ、映像伝送部、ディスプレイからなるものとし、前記アクチュエータは光源、前記センサは光センサであることを特長とした請求項1に記載の遅延時間測定システム.
【請求項6】
前記被測定システムは、第一のマイクロフォン、音声信号伝送部、第一のスピーカからなるものとし、前記アクチュエータは第二のスピーカ、前記センサは第二のマイクロフォンであることを特長とした請求項1に記載の遅延時間測定システム.
【請求項7】
前記被測定システムは、第一の振動センサ、振動信号伝送部、第一の振動アクチュエータからなるものとし、前記アクチュエータは第二の振動アクチュエータ、前記センサは第二の振動センサであることを特長とした請求項1に記載の遅延時間測定システム.


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像などの撮像・伝送・表示を行う被測定対象における一連の動作を行う際の所要時間の測定を、GPS(Global Positioning System)などの衛星測位システムを用いて遠隔地間で正確に行う遅延時間測定システムに関する。測定対象は映像だけにとどまらず音声やハプティクスも対象とする。
【背景技術】
【0002】
映像遅延時間を測定する方法は多数の例があり、タイムスタンプを挿入する方法、時計を撮像・表示する方法、IP(Internet Protocol)ネットワークのプロトコルの一つであるICMP(Internet Control Message Protocol)を使用した往復時間を測定する方法などがある。
【0003】
タイムスタンプを使用する方法は、映像送出側で正確な時刻を付した情報を映像信号と一緒に送出し、被測定システムを介して伝送した後、受像側でそれを解析するものである。例えば特許文献1にその詳細が述べられている。しかし、この方法では被測定システムに含まれるビデオカメラやディスプレイの内部で生じる遅延時間を測ることができず、システムの一部分の遅延時間しか測定できない。また、本来の映像信号に加え、タイムスタンプを付した信号を映像送出側で挿入し、受像側で抜き出す必要があり、測定システムが複雑になる。
【0004】
時計を撮像・表示する方法は、例えば特許文献2に述べられていて、被測定システムのビデオカメラで時計の映像を撮像し、伝送後に被測定システムのディスプレイに表示された映像についてその時点での時計の映像と比較して遅延時間を算出するものである。このシステムではビデオカメラやディスプレイを含む遅延時間を測定することが可能ではあるが、時計表示の変化を正確に捉えられないため精度が悪い点に課題がある。
【0005】
IPネットワークのプロトコルの一つであるICMPによる測定、すなわち、いわゆるpingコマンドによる遅延時間測定は、文献をあげるまでもなく広く一般的に行われるものである。しかしながらこれは往復遅延時間を対象としていて、測定対象はIPネットワークで伝送する場合に限られる。また、ビデオカメラやディスプレイを含む遅延時間を測定することができない。
【0006】
別の方法として非特許文献1に示されるようなものがある。これは測定装置が点滅させる光源を、被測定システムのビデオカメラで撮像・伝送した後、ディスプレイで表示される点滅映像を光センサで電気信号に変え、その応答から遅延時間を測定する方法である。
【0007】
図1に構成図を示す。図1において1は光源であり例えば発光ダイオードLED(Light Emitting Diode)を、2は光センサであり例えばフォトダイオードPD(Photo Diode)を用いる。3は基準信号発生器でコントローラ7の制御の元で所定の矩形波を出力する。4は光源駆動部で、基準信号発生器3の信号から光源1を駆動する信号を発生する。5はトリガ信号発生で基準信号発生器3の信号を入力し、6の波形測定部に印加する信号を発生する。光源駆動部4とトリガ発生5の信号変化のタイミングは同一である。波形測定部6は、光センサ2~の信号とトリガ発生5からの信号の波形を測定する。波形測定部6で取得した波形はコントローラ7に送られ、解析し遅延時間を算出する。コントローラ7は例えばパーソナルコンピュータであり遅延時間算出結果をそのディスプレイ部に表示する。10は被測定システムであり、ビデオカメラ11、映像伝送系12、ディスプレイ13を含む。
【0008】
この動作を図2のタイムチャートに示す。光源駆動信号すなわちトリガ信号がローレベルの時には光源1は消灯し、ハイレベルの時には光源は点灯する。光源を撮像した被測定システム10のビデオカメラ11の出力は映像伝送系12を介してディスプレイ13に表示される。この動作の遅延時間は図2に示すように光センサ2から出力される光強度信号の遅れとなり、光源1が消灯から点灯時はT1で示した時間、点灯から消灯の時はT2で示した時間というように、コントローラ7にて解析して遅延時間の測定を行うことができる。
【0009】
図1の構成は、タイムスタンプを使わないため被測定系の映像信号には手を加えず、またビデオカメラからディスプレイまでのすべての遅延を測定することができる。さらに、光源のオンオフの2値を用いていてシンプルに遅延時間を算出することができる。ICMPプロトコルと異なり、IPネットワークを使った伝送に限定されることなく任意の映像伝送系での片道遅延を評価しすることができる。
【0010】
図1の遅延時間測定システムは被測定システム10のビデオカメラ11とディスプレイ13が近距離にあり、測定のための信号をケーブルにて適宜接続できるような距離を前提としていた。ところが被測定システム10のビデオカメラ11とディスプレイ13が遠隔地に設置され、その間の遅延時間を測定したい場合は、図3に示すようにGPSを用いて時刻同期をとることが一般に行われる。なお、GPSだけでなく他の衛星測位システムをも含むGNSS(Global Navigation Satellite System)の利用も可能であり、本明細書で述べるGPSとは衛星測位システムの総称である。
【0011】
図3においてそれぞれの地点にGPS受信機1 (21)およびGPS受信機2 (31)を設置する。一般に電波状況の良好な場所で受信する場合、GPS受信機の時刻確度は絶対時刻に対して±10ナノ秒程度の誤差に収まる性能を有する。一方測定対象とする被測定システムは一般的なビデオ信号のフレームレートが例えば60Hzでありこの周期16.7ミリ秒より小さいことが望ましい。GPS受信機からの信号は十分な精度を有している。このGPSからの信号を元にコントローラ1 (23)およびコントローラ2 (24)の制御によって、基準信号発生器1 (22)および基準信号発生器2 (32)から所定の矩形波を発生する。基準信号発生器1 (22)の出力は光源駆動部4を介して光源2を駆動する。一方、基準信号発生器2 (32)の出力はトリガ発生5を介して波形測定部6に印加する。基準信号発生器1 (22)および基準信号発生器2 (32)の各出力はGPSの機能によって正確に時刻同期しており、あたかも一つの基準信号発生器にて発生した同一とみなせる信号である。このように構成した場合、図2に示したタイミングチャートと同じ動作が実現でき、遠隔地間での遅延時間測定が可能となる。
【0012】
しかしながら別の課題として、図3の構成において、コントローラ1 (23)およびコントローラ2 (33)はその間で通信をして、それらの動作に齟齬がないよう測定システム全体を制御する必要がある。この通信は例えばインターネットを用いるなどで実現することは可能ではあるが煩雑である。また、それぞれ基準信号発生器1 (22)および基準信号発生器2 (32)を有する必要があり、その制御も必要となり煩雑である。
【0013】
さらに遠隔地における遅延時間を測定したい場合には図3の構成をとり、近距離の場合における遅延時間測定の場合は図1の構成をとることになるが、それぞれに適したコントローラの制御ソフトウエアが必要である。この距離の違いによるハードウエア的な切替およびソフトウエア的な切替の両方を行う必要があり、煩雑である。GPSに対応したソフトウエアを作成することなく近距離の測定のソフトウエアと同じものを改変することなく使用して、GPS同期時にも遅延時間測定を行えることが望ましい。
【0014】
上記の課題を解決するには、以下のように構成する。第一の地点に設置した光源を光源駆動信号で点灯消灯の動作をさせ、被測定システムでは光源をビデオカメラで映像信号に変換して、伝送した後に、前記被測定システムのディスプレイに表示される光源の像を、第二の地点にて光センサで電気信号に変換し、前記光源駆動信号と前記光センサからの電気信号の変化に関する時間差を測定する装置とし、
前記第一の地点と前記第二の地点が遠隔地の場合は前記第一の地点に第一のGPS受信機、前記第二の地点に第二のGPS受信機を設置し、前記第一のGPS受信機および前記第二のGPS受信機からの信号を各地点における時刻基準とし、前記第一の地点と前記第二の地点が近接地の場合はGPS受信機を用いず、単一の基準信号発生器の信号を電気配線で接続するようにしたものを時刻基準として、
前記第一第二のGPS受信機使用時においてもシステム全体を制御するコントローラは前記第二の地点だけに設置し、前記第一の地点の時刻同期に関する制御は前記コントローラからの通信による指示は行なわず、専ら前記第一の地点に設置の前記第一のGPS受信機からの信号のみで行い、
前記コントローラのソフトウエアは前記第一第二のGPS受信機からの信号なしで動作するものと同一のソフトウエアを使用し、所定の時間差を測定するようにした遅延時間測定システムを構築する。
【0015】
このようにすることによって、第一のGPS受信機と第二のGPS受信機があたかも一つの基準信号発生器と同じように見えるように構成しているので、遠隔地間における遅延時間を測定する場合のGPS使用の構成と、近距離での遅延時間をGPSなしに測定する場合の図1の構成とが、容易に切り替えられる。また、ソフトウエア的な切り替えを行うことなく。近距離の測定のソフトウエアと同じものを改変することなくGPS使用時にも使用して、遅延時間測定を行える。さらに、測定のためのコントローラからの指示は遠隔地に行わない、すなわち、コントローラが設置される地点2からコントローラが設置されない地点1へは測定のための通信は行わない構成になっているので、簡易なシステムが実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3892844号公報
【特許文献2】特許第5553409号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】小川太郎,松浦裕之,“ゼロ遅延映像光伝送技術とその応用,” 大型ディスプレイ&デジタルサイネージ総覧2020,pp.12-22, 日本・社会システムラボラトリー,2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、GPS信号を有効に用いるするためには、全天が望めるような場所、例えばビルの屋上や近傍に建物がない広場などで受信動作をさせることが望ましい。一方、遅延時間測定を行いたい被測定対象が設置されている場所は、例えば鉄筋コンクリートのビル内部などGPS電波が到達しない地点である状況がしばしば生じる。信号接続のための電気ケーブル等を延長して対応できれば良いが、それが難しい状況も容易に生じる。
【0019】
被測定対象のビデオカメラとディスプレイの距離によっては、GPSを基準にしない場合には、長いケーブルを敷設するなどの手段で基準タイミング信号を、被測定対象のビデオカメラ11近傍とディスプレイ13との近傍それぞれで共有する方法がある。しかしながら、ケーブルを敷設することは一般には容易ではなく、何らかの基準信号のタイミングを被測定対象のビデオカメラ11近傍とディスプレイ13との近傍それぞれで共有できるような方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
大きな前提として、次の事項がある。第一の地点に設置したアクチュエータを駆動電気信号でON/OFF駆動し、被測定システムでそれをセンシングして伝送したのち、前記被測定システムの第二の地点から出力される物理量を、センサで電気信号に変換し、前記駆動電気信号と前記センサからの電気信号の変化に関する時間差を測定する装置であること。
【0021】
更なる前提として次の事項がある。前記駆動電気信号の変化のタイミングと、前記センサからの電気信号の変化のタイミングの、いずれか少なくとも一方のタイミングを決定するタイミング保持部に関して、
基準タイミング発生器からの信号にタイミング保持部を同期させる工程と、
前記タイミング保持部をバッテリーで動作維持しながら被測定物近傍に移動する工程と、
前記タイミング保持部の出力信号を用いて時間差測定を行う工程と、
前記タイミング保持部をバッテリーで動作維持しながら前記基準タイミング発生器近傍に移動する工程と、
前記タイミング保持部と前記基準タイミング発生器の出力信号を比較して、前記タイミング保持部の時間的誤差を計測する工程を順次実行する遅延時間測定手順を実行する。
【0022】
前記タイミング保持部は次のように構成する。
高周波数安定度発振器と、
前記高安定度水晶発振器の出力を分周する分周回路と、
前記分周回路の出力をタイミング保持部の出力として出力する波形整形回路と、
入力タイミング信号からクリア信号を生成するクリアパルス発生回路と、
前記クリア信号を前記分周回路に印加するか否かを切り換えるスイッチと、
前記分周回路の出力と前記タイミング入力との時間差のパルスを出力する比較回路と、
前記比較回路の出力パルス幅をクロックパルスで計数し表示する回路、もしくはあらかじめ設定した閾値を超えたことを表示する回路のいずれか少なくとも一方を有する。
【0023】
上記のタイミング保持部を有することを特長とした遅延時間測定システムを用いることで、本明細書で記述した課題が解決する。

【発明の効果】
【0024】
GPS信号を受信し時刻情報を算出できる場所は、全天が望めるような場所、例えばビルの屋上や近傍に建物がない広場などが望ましい。それに限らなくとも支障なく動作する場所にGPS受信機にて動作させる。そのGPS受信機の出力タイミングはタイミング保持器に伝えそれが保持される。タイミング保持器はバッテリーで動作維持しながら、遅延時間測定を行いたい被測定対象近傍に移動する。被測定対象設置されている場所が鉄筋コンクリートのビル内部などGPS電波が到達しない地点でもタイミング保持装置によってタイミングが維持されていて、被測定対象の遅延時間の測定を正しく行うことができる。さらに、遅延時間の測定終了後に、再度タイミング保持器をバッテリーで動作維持しながら、GPS受信機に接続してそのタイミング誤差を確認できるので、遅延時間の測定の正しさが確認できる。
【0025】
GPS信号を用いない場合であって、第一のタイミング保持器を、フリーランする第二のタイミング保持器にコピーして、第一と第二のタイミング保持器を2地点それぞれに移動することによって、2地点間で基準信号を共有できる。長いケーブルを敷設するなどの手段をとらなくともよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】GPSを使用しない遅延時間測定システムを説明する従来例を示す図面である。
図2図1の動作を示すタイミングチャートである。
図3】従来のGPSを使用する遅延時間測定システムを説明する図面である。
図4】本発明の第一の実施例の概念を示す図面である。
図5図4にてタイミング保持部を使用する際の説明図である。
図6】本発明の実施例の詳細を示す図である。
図7図6の動作を示す第一のタイミングチャートである。
図8図6の動作を示す第二のタイミングチャートである。
図9】本発明の実施例の詳細を示す第二の図である。
図10】本発明の第二の実施例の概念を示す図である。
図11図10にてタイミング保持部を使用する際の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0027】
第一の実施例を図4に示す。ここでGPS受信機1 (21)およびGPS受信機2 (31)の出力信号は1PPS(1 Pulse Per Second)と呼ばれる正確な1秒周期の信号で、その変化タイミングが絶対時刻に例えば±10ナノ秒以内の誤差で合致した信号である。この1PPS信号は通常のGPS受信機として市販されている部品や機器から多くの場合標準的に出力されるものである。但し、GPS受信機1 (21)、GPS受信機2 (31)の出力は所定のデューティ比、例えば50%のデューティサイクルの信号を出力するよう構成する。使用する部品がそうなっていない場合は、適宜回路を追加して上記を実現する。
【0028】
GPS受信機1 (21)の出力信号をコピーするような装置であるタイミング保持部1 (29)を用意する。この内部の詳細については後述するが、タイミング保持部1 (29)はGPS受信機1 (21)からの信号を印加して、保持することを指定されることにより入力信号が切断されても1PPS信号を出力として発生し続けることが可能なように構成する。タイミング保持部2 (39)についても同様であり、GPS受信機2 (31)からの信号を印加して、保持することを指定されることにより入力信号が切断されても1PPS信号を出力として発生し続ける。
【0029】
図5は第一の実施例の説明図であり、測定のための手順を示している。まずタイミング保持部1 (29)、タイミング保持部2 (39)をGPS受信機1 (21)、GPS受信機2 (31)に接続し、1PPS信号を印加して保持することを指定することによって同期動作を行わせる。次にタイミング保持部1 (29)、タイミング保持部2 (39)をGPS受信機1 (21)、GPS受信機2 (31)から切断し、タイミング保持部1 (29)、タイミング保持部2 (39)を被測定対象近傍に物理的に移動する。タイミング保持部1 (29)、タイミング保持部2 (39)はバッテリー動作するように構成しているので移動することは容易である。タイミング保持部1 (29)は光源駆動部5に接続し、タイミング保持部2 (39)はトリガ発生5に接続する。
【0030】
被測定システム10のビデオカメラ11が設置される側の地点において、タイミング保持部1 (29)の出力は光源駆動部4に接続されているので、光源1は絶対時刻に正確に同期した1秒周期でデューティ比50%の点灯と消灯とを繰り返す。
【0031】
被測定システム10のディスプレイ13が設置される側の地点において、タイミング保持部2 (39)の出力はトリガ発生35に接続されるので、光源の点滅に関連した1秒周期でデューティ比50%のトリガ信号がトリガ発生5から出力される。
【0032】
波形測定部5は光センサ2とトリガ発生5からの信号を受け、そのデータをコントローラに送り、波形を解析し遅延時間を測定する。遠隔地であるにもかかわらず、あたかも一つの基準信号発生器からの信号であるのと同等に動作する。
【0033】
以上で遅延時間測定を行えるが、一連の測定終了後にタイミング保持部が正しく動作を継続しているかを検証することが望ましい。このために再度GPS受信機に接続して、タイミング誤差を測定する機能を設ける。
【0034】
手順としては、図5において遅延時間測定後に、タイミング保持部1 (29)、タイミング保持部2 (39)を光源駆動部4、トリガ発生5から切断する。タイミング保持部1 (29)、タイミング保持部2 (39)それぞれを、GPS受信機1 (21)、GPS受信機2 (31)の近傍に物理的に移動し接続する。
【0035】
タイミング保持部1 (29)は、GPS受信機1 (21)からの1PPS信号とタイミング保持部1 (29)の内部タイミングの差を計測し表示する機能を有する。これにより遅延測定後のタイミング変動を検証することができる。タイミング保持部2 (39)についても同様である。
【0036】
なお、被測定システム10のビデオカメラ11が設置される側の地点、ディスプレイ13が設置される側の地点の、いずれか少なくとも一方の地点においてGPS受信ができない場合においては、当該地点において上述のようにタイミング保持部を用いる。すなわちGPS受信が支障なく行える地点の場合は、タイミング保持部を使用する必要はない。
【0037】
図6を用いてタイミング保持部1 (29)、タイミング保持部2 (39)の構成および動作の詳細について述べる。
【0038】
高安定度水晶発振器101は、恒温槽付水晶発振器OCXO (Oven Controlled Xtal Oscillator)または温度補償型水晶発振器TCXO (Temperature Compensated Xtal Oscillator)など、出力周波数が正確で、長時間にわたり変動が小さい発振器である。出力周波数は例えば10MHzであるとして説明を行う。これを10進7桁カウンタ102のクロック入力に印加する。すると10進7桁カウンタ102の出力は10MHzを10,000,000分周した1Hzが出力される。これだけでは、GPS受信機等からのタイミングパルスに同期していないので、適切なクリアパルスを10進7桁カウンタ102に印加する。
【0039】
図7にタイミングチャートを示す。GPS受信機等からのタイミング入力は1秒周期である。この立下りをクリアパルス発生回路1 (103)にて検出しパルスを発生する。図6のスイッチ104が同期側に接続されていると、これが10進7桁カウンタのクリア入力に印加され、その状態は0となる。クリアパルスがリリースされるとクロック入力の10MHzパルスが到来することにカウントアップしていく。
【0040】
ここで、スイッチ104を例えばオペレータが手動で保持側に倒すとクリアパルス発生回路1の出力が10進7桁カウンタ102に印加されなくなる。10進7桁カウンタの最高値は9,999,999 (1E7-1)であり、その後0に戻りカウントアップしていくことを繰り返す。これは、外部からの同期がかからないフリーランの状態である。この状態でバッテリー等にて駆動して被測定対象近傍に移動し、遅延時間測定を行う。高安定度水晶発振器101の周波数は極めて安定しているので、ずれの量は極めて少ない。フリーラン状態のずれの数値例は、例えば高安定度水晶発振器101の周波数誤差が+1E-8であるとき1時間後すなわち3600秒後のタイミング誤差は1E-8×3600=0.00003600秒=0.036ミリ秒となる。映像伝送の遅延時間を測る場合、1フレームの時間が60Hz映像の場合、約16.7ミリ秒であるので、0.036ミリ秒は十分な精度である。
【0041】
このように10進7桁カウンタの出力である1Hz信号が得られる。これを遅延測定システムにて利用できるようなレベル等に整形するべくパルス整形回路1 (105)を介してパルス出力1として出力する。これで遅延測定に必要なパルスすなわちタイミング保持部29、39からの出力が発生できた。
【0042】
続いて、遅延時間測定終了後のタイミング保持部1 (29)、タイミング保持部2 (39)が正しく動作を継続しているかを検証するための動作について、図6の構成図と図8のタイミングチャートを用いて説明する。タイミング保持部29、39を再度GPS受信機21、31に接続することにより、波形保持部のタイミング入力には1PPS信号が印加される。この時スイッチ104は保持のままとし、フリーラン状態を継続させる。
【0043】
タイミング入力と10進7桁カウンタ102の1Hz出力を比較すれば、タイミングのずれが抽出できる。具体的には上記2つの信号を排他的論理和 (XOR)111に印加する。排他的論理和111の出力は、入力信号2つのレベルが不一致の場合はハイレベル、一致する場合はローレベルになる。このパルス幅を計測するために適切なクロックを導入する。この実施例では10進7桁カウンタの上から3桁目の出力である10KHz信号を利用する。
【0044】
排他的論理和111の出力と10KHz信号の論理積をAND回路112で取り、これを10進2桁カウンタ114に印加する。10進2桁カウンタ114は、排他的論理和111の出力の立上り毎にクリアパルス発生回路2 (103)にて発生させたクリアパルスを印加し、ゼロからカウントアップの計数動作をする。この内容は表示回路115にて数値として表示される。図6では表示回路115は7セグメント表示器2桁で構成し、下位は0.1ミリ秒単位であり、上位は1ミリ秒単位となっている。前提として、周波数ずれの量は大きくないので計数している時間は短く、結果出力が見えている時間が長い。なお、10進2桁の例で説明したが桁数は2桁に限らない。
【0045】
また、必ずしも数字でタイミングのずれを表示する必要はない。あらかじめ閾値を設定しその値を越えたら、ERROR表示のLEDランプ点灯をする方法がある。
【0046】
上記動作で、タイミング入力の立上りおよび立下りでタイミング誤差の数字が0.1ミリ秒単位で表示される。タイミング入力と10進7桁カウンタ102のデューティ比はどちらも50%であるのでタイミング入力の立上りおよび立下りの誤差は同じ数字となる。
【0047】
なお、これまでの動作では誤差の絶対値が表示されるが、タイミング入力と10進7桁カウンタ102の1Hz出力とどちらが進んでいるのか遅れているのかの判別がつかない。位相進み遅れの判別回路があることが望ましい。そこで両信号をDタイプフリップフロップ116に印加する。Dタイプフリップフロップ116のD入力に10進7桁カウンタ102の1Hz出力を印加し、クロック入力(立上りトリガ)にタイミング入力を印加する。10進7桁カウンタ102がタイミング入力の方より進んでいる場合には、図8に示すようにDタイプフリップフロップ116のQ出力はハイレベルとなる。この時、Dタイプフリップフロップ116のQbar出力はローレベルとなる。また図示していないが、10進7桁カウンタ102がタイミング入力の方より遅れている場合には、Dタイプフリップフロップ116のQ出力はローレベルとなり、Qbar出力はハイレベルとなる。
【0048】
これら信号を利用して、どちらが進んでいるか遅れているかを判別することができた。その表示方法として、Dタイプフリップフロップ116のQ出力をタイミング保持部が進んでいる状態でADVANCE表示、例えばその旨のLEDランプを点灯する。同様にDタイプフリップフロップ116のQbar出力をタイミング保持部が遅れている状態でLAG状態を表すLEDランプの点灯をする。
【0049】
なお、タイミング誤差が大きいと10進2桁カウンタが桁あふれして正しい数字が表示されない可能性がある。例えばカウンタのオーバフローを検出して、それによってERROR表示としてLED点灯を行うようにする。
【0050】
ここで想定しているタイミング誤差は、高安定度水晶発振器101の周波数誤差によるものを対象とする。周波数合わせは事前に行うが、その周波数が10MHzから微小にすれているとすると、スイッチ104が保持側に接続された後には、時間経過によってタイミング保持器のタイミングが一定方向にずれていく。上記の動作にて、このずれを遅延時間の測定後に確認することができる。
【0051】
タイミング保持部に関して、図9図6から変形した構成について述べる。遅延時間測定時には、タイミング保持部の出力は光源駆動部4もしくはトリガ発生5に接続する。それぞれの入力レベルが異なる場合、専用のユニットを設けるのは煩雑であるので、パルス整形回路1 (105)とパルス整形回路2 (106)を設け、例えばパルス整形回路1 (105)は光源駆動部4に接続するのに適した出力レベルとし、パルス整形回路2 (106)はトリガ発生5に接続するのに適した出力レベルとする。
【0052】
図9の左下には電源回路に関する説明を追加している。これまでの説明では省略したが、電源電圧の変動は、長期にわたりフリーランさせる際には周波数変動の要因となり好ましくないので、DC-DCコンバータ123のように電源電圧を安定化させる回路を挿入する。またタイミング保持部をバッテリー駆動する必要が必須であるのは移動時であり、AC電源が利用できる場合はACアダクタを併用できる構成が望ましい。従ってバッテリー用の電源入力とACアダプタ用の電源入力の両方を設け、順方向電圧降下の小さなショットキダイオード121、122を介して接続する。
【実施例0053】
これまで、遠隔地において各々GPS受信機を設置してタイミング同期を行う前提で動作を記述した。第二の実施例としてタイミング保持部の別の使い方を図10および図11を用いて記述する。
【0054】
第二の実施例を示す図10において、GPS受信機なしにタイミング保持部1 (29)、タイミング保持部2 (39)だけを用いる。図11にも示すように、まずタイミング保持部1 (29)はフリーランの状態とし、これをタイミングの基準とする。つぎにタイミング保持部1 (29)の出力をタイミング保持部2 (39)のタイミング入力に印加し同期させる。同期したらタイミング保持部1 (29)とタイミング保持部2 (39)の「接続を切断する。これによってタイミング保持部1 (29)の出力とタイミング保持部2 (39)の出力は同じタイミングとなる。
【0055】
つぎにタイミング保持部1 (29)とタイミング保持部2 (39)をそれぞれ測定対象近傍に移動させ、遅延時間測定のための光源駆動部5またはトリガ発生5に接続して遅延時間測定を行う。
【0056】
GPS受信機からの1PPS信号を基準とする第一の実施例では繰り返し周期を1秒に限定したが、第二の実施例ではそれに限定しない。タイミング保持部1 (29)とタイミング保持部2 (39)の繰り返し周期が同一であり、その出力のデューティ比が50%であることを必要とするだけである。
【0057】
測定終了後のタイミングずれの検証のために、タイミング保持部1 (29)、タイミング保持部2 (39)を光源駆動部4、トリガ発生5から切断する。再度2つのタイミング保持部を物理的に移動し、タイミング保持部1 (29)の出力をタイミング保持部2 (39)のタイミング入力に印加する。タイミング保持部2 (39)にてタイミングの差を計測し表示することができる。これにより遅延測定後のタイミング変動を検証することができる。
【0058】
今までの説明は映像の遅延測定について説明した。測定対象は映像だけでなく例えば音声にすることもできる。この場合オンオフするのは光源でなくスピーカからの音、被測定システムのビデオカメラの代わりにマイクロフォン、ディスプレイの代わりにスピーカとなる。測定システム側で音を受けるのはマイクロフォンとなる。この場合も音声を電気信号に変えたものを検波し音声強度の電気信号にする同じように本発明を適用することができる。
【0059】
他にハプティクスも測定対象とすることができる。ハプティクスとは、利用者に力、振動、動きなどを与えることで皮膚感覚フィードバックを得るテクノロジーである。すなわち被測定システムのビデオカメラの代わりに振動をセンシングするセンサ、ディスプレイの代わりに振動を発生するアクチュエータを有するものとし、測定側は光源の代わりに振動を発生するアクチュエータ、光センサの代わりに振動をセンシングするセンサを設置し、その振動の強度を使って遅延測定に供するようにする。
【符号の説明】
【0060】
図1図11における符号は以下のとおりである。
1 --- 光源
2 --- 光センサ
3 --- 基準信号発生器
4 --- 光源駆動部
5 --- トリガ発生
6 --- 波形測定部
7 --- コントローラ
10 --- 被測定システム
11 --- ビデオカメラ
12 --- 映像伝送系
13 --- ディスプレイ
21 --- GPS受信機1
22 --- 基準信号発生器1
23 --- コントローラ1
29 --- タイミング保持部1
31 --- GPS受信機2
32 --- 基準信号発生器2
33 --- コントローラ2
39 --- タイミング保持部2

101 --- 高安定度水晶発振器
102 --- 10進7桁カウンタ
103 --- クリアパルス発生回路1
104 --- スイッチ
105 --- パルス整形回路1
106 --- パルス整形回路2
111 --- 排他的論理和 (XOR)
112 --- 論理積回路 (AND)
113 --- クリアパルス発生回路2
114 --- 10進2桁カウンタ
115 --- 表示部
116 --- Dタイプフリップフロップ
121 --- ショットキバリアダイオード
122 --- ショットキバリアダイオード
123 --- DC-DC変換

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11