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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171395
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】易剥離性塗料の塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/12 20060101AFI20241205BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20241205BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20241205BHJP
【FI】
B05D3/12 B
B05D5/00 A
B24B37/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088368
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 希美
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳也
(72)【発明者】
【氏名】山口 賢二
【テーマコード(参考)】
3C158
4D075
【Fターム(参考)】
3C158AA06
3C158AA07
3C158CB01
3C158DA15
3C158EB01
3C158ED00
4D075AA01
4D075AE03
4D075BB02X
4D075BB03X
4D075BB65X
4D075BB89X
4D075CA07
4D075CA13
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DA27
4D075DB01
4D075DB31
4D075DC11
4D075DC12
4D075DC13
4D075EA41
4D075EA43
(57)【要約】
【課題】塗装面と易剥離性塗料からなる剥がせる塗膜との密着力を均一にできる易剥離性塗料の塗装方法を提供する。
【解決手段】易剥離性塗料の塗装方法は、被塗装物に電着層、中塗り層、ベース層及びクリア層を形成する通常の車両塗装工程S1と、被塗装物の塗装面に均一な凹凸を形成するように研磨剤を用いて塗装面を研磨する研磨工程S2と、研磨された塗装面に対して脱脂処理を行う脱脂工程S3と、研磨された塗装面に易剥離性塗料を塗装する塗装工程S4と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
易剥離性塗料の塗装方法であって、
被塗装物の塗装面に均一な凹凸を形成するように、研磨剤を用いて前記塗装面を研磨する研磨工程と、
研磨された前記塗装面に易剥離性塗料を塗装する塗装工程と、
を含む易剥離性塗料の塗装方法。
【請求項2】
前記研磨工程において、研磨剤が供給された研磨装置を用いて前記塗装面を研磨し、又は、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いて前記塗装面を拭き上げる請求項1に記載の易剥離性塗料の塗装方法。
【請求項3】
前記被塗装物は金属板であり、
前記研磨工程の前に、前記被塗装物に対し、電着工程、中塗り工程、ベース塗り工程、及びクリア塗り工程を行う請求項1又は2に記載の易剥離性塗料の塗装方法。
【請求項4】
前記被塗装物は樹脂製の部品であり、
前記研磨工程の前に、前記被塗装物に対し、プライマー塗り工程、ベース塗り工程、及びクリア塗り工程を行う請求項1又は2に記載の易剥離性塗料の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易剥離性塗料の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような技術分野として、例えば特許文献1に記載されるものがある。特許文献1では、被塗装物と高耐久性塗料との間に易剥離性塗料からなる下塗り層を設け、下塗り層の可剥離機能を利用し、必要に応じて易剥離性塗料及び高耐久性塗料からなる塗膜層を容易に剥離除去し、再塗装を簡単に行える塗装方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-314025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、易剥離性塗料を被塗装物の塗装面に塗装して形成された剥がせる塗膜は、下地によって塗装面との密着力が変化するので、塗装面と剥がせる塗膜との密着力が不均一になりやすい。密着力が不均一になると、剥がれやすかったり剥がしづらかったりする箇所が発生し、剥がせる塗膜を容易に剥離できない問題を招いてしまう。
【0005】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、塗装面と易剥離性塗料からなる剥がせる塗膜との密着力を均一にする易剥離性塗料の塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る易剥離性塗料の塗装方法は、被塗装物の塗装面に均一な凹凸を形成するように、研磨剤を用いて前記塗装面を研磨する研磨工程と、研磨された前記塗装面に易剥離性塗料を塗装する塗装工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る易剥離性塗料の塗装方法では、易剥離性塗料の塗装前に、被塗装物の塗装面に均一な凹凸を形成するように研磨剤を用いて塗装面を研磨することで、塗装面に均一な凹凸を形成できる。そして、研磨された塗装面に易剥離性塗料を塗装すると、塗装面に形成された凹凸がアンカー効果を発揮するので、塗装面と易剥離性塗料からなる剥がせる塗膜との密着力を確保することができる。加えて、凹凸が均一であるので、塗装面と剥がせる塗膜との密着力を均一にすることができる。更に、仮に被塗装物の塗装面が不均一な凹凸を有した場合であっても、研磨によって凹凸を均一にできるので、塗装面と剥がせる塗膜との密着力を均一に保つことができる。
【0008】
本発明に係る易剥離性塗料の塗装方法において、前記研磨工程において、研磨剤が供給された研磨装置を用いて前記塗装面を研磨し、又は、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いて前記塗装面を拭き上げることが好ましい。研磨剤が供給された研磨装置を用いた研磨方法は、例えば比較的粗い凹凸を有する塗装面(例えば既販車の塗装面)の研磨に適する。一方、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いた研磨方法は、例えば凹凸のない平滑な塗装面(例えば、新車の塗装面)に均一な凹凸を形成することに適している。このように、塗装面の凹凸状態に応じてこれらの研磨方法を使い分けたり、併用したりすることで、塗装面に均一な凹凸を容易に形成することができる。
【0009】
本発明に係る易剥離性塗料の塗装方法において、前記被塗装物は金属板であり、前記研磨工程の前に、前記被塗装物に対し、電着工程、中塗り工程、ベース塗り工程、及びクリア塗り工程を行うことが好ましい。このようにすれば、被塗装物の防錆力を高めることができるとともに、塗装面と剥がせる塗膜との密着力を向上することができる。
【0010】
また、本発明に係る易剥離性塗料の塗装方法において、前記被塗装物は樹脂製の部品であり、前記研磨工程の前に、前記被塗装物に対し、プライマー塗り工程、ベース塗り工程、及びクリア塗り工程を行うことが好ましい。このようにすれば、塗装面と剥がせる塗膜との密着力を向上することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塗装面と易剥離性塗料からなる剥がせる塗膜との密着力を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】易剥離性塗料の塗装方法が適用される車両の構造を示す斜視図である。
図2】フードパネルとフードパネルに形成された剥がせる塗膜とを示す概略断面図である。
図3】フロントバンパカバーとフロントバンパカバーに形成された剥がせる塗膜とを示す概略断面図である。
図4】実施形態に係る易剥離性塗料の塗装方法を示すフロー図である。
図5】易剥離性塗料の塗装方法の効果を説明するための模式図である。
図6】実施例1、2及び比較例1の結果を示す図である。
図7】実施例3、4及び比較例2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明に係る易剥離性塗料の塗装方法の実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態に係る易剥離性塗料の塗装方法は、例えば乗用車、トラック、バス、鉄道車両などの車両の塗装に適用される方法であって、車両の再塗装や模様替え等のニーズに好適に応えるための剥がせる塗膜を形成する方法である。以下では、乗用車の例を挙げて説明するが、本実施形態に係る塗装方法は乗用車に限定されない。
【0015】
図1は易剥離性塗料の塗装方法が適用される車両(乗用車)の構造を示す斜視図である。図1に示すように、車両1は、複数の外板及び外装部品を備えている。ここでの外板とは、車両1の車体を構成する部材であって外観上視認できる(言い換えれば、車両の外部から視認できる)外板パネルのことをいい、例えばフードパネル10、ルーフパネル11、トランクリッド12、フロントフェンダパネル13、リヤフェンダパネル14、フロントドアアウター15、リヤドアアウター16、フロントピラー17、センターピラー18、リヤピラー19などを含む。外板の材料として、例えば金属板であり、具体的には熱間圧延鋼板又は冷間圧延鋼板が挙げられる。
【0016】
一方、車両1の外装部品とは、車体に組み付けられるものであって外観上に視認できる艤装部品をいい、例えばフロントバンパカバー20、リヤバンパカバー21、ロッカパネルモールディング22、ドアハンドル23、給油口カバー24、サイドミラー25、シャークフィン(未図示)、ルーフモール(未図示)などを含む。外装部品の材料として、主に樹脂材料が採用されているが、給油口カバー24は鋼板により形成されてもよい。
【0017】
上述の外板及び外装部品には、剥がせる塗膜30がそれぞれ形成されている。より具体的には、外板の少なくとも外表面、及び、外装部品の少なくとも外表面には、易剥離性塗料を塗装することにより形成された剥がせる塗膜30がそれぞれ設けられている。好ましくは、外表面に加えて外板の側端面及び外装部品の側端面にも、易剥離性塗料を塗装することにより形成された剥がせる塗膜30がそれぞれ設けられている。更に好ましくは、外表面及び側端面に加えて、外板の裏面の一部及び外装部品の裏面の一部にも、易剥離性塗料を塗装することにより形成された剥がせる塗膜30がそれぞれ設けられている。
【0018】
本実施形態では、車両の外板及び外装部品は、特許請求の範囲に記載の「被塗装物」に相当するものである。
【0019】
以下、図2を参照して外板に形成された剥がせる塗膜30を説明する。ここでは、外板としてフードパネル10の例を挙げて説明する。
【0020】
図2はフードパネルとフードパネルに形成された剥がせる塗膜とを示す概略断面図である。図2において、紙面に対し上側はフードパネル10の表側(外側ともいう)、下側はフードパネル10の裏側(内側ともいう)である。図2に示すように、フードパネル10は、鋼板101と、鋼板101全体を覆うように形成された電着層102と、フードパネル10の表側において電着層102の上に順に形成された中塗り層103、ベース層104及びクリア層105とを有する。ベース層104及びクリア層105は、上塗り層を構成する。なお、本実施形態では、「層」と「塗膜」は同じ意味である。従って、例えば「電着層」は「電着塗膜」と同じ意味である。
【0021】
そして、フードパネル10の外表面及び側端面の全体並びに裏面の一部には、剥がせる塗膜30が形成されている。具体的には、剥がせる塗膜30は、クリア層105の外表面全体と、電着層102、中塗り層103、ベース層104及びクリア層105の側端面と、電着層102の裏面の一部とを覆うように形成されている。この剥がせる塗膜30は、上述のように易剥離性塗料を塗装することにより形成されるため、電着層102と中塗り層103とベース層104とクリア層105とからなる通常の塗膜と比べて剥がせるという性質を持っている。
【0022】
なお、剥がせる塗膜30の外側には、ベース層及びクリア層、又はクリア層のみが更に形成されてもよい。クリア層を形成することによって、剥がせる塗膜30の耐候性及び耐薬品性を高めることができるとともに、艶感及び高級感を一層引き立てることができる。また、ベース層を形成することで、色のバリエーションを増やすことができる。
【0023】
次に、図3を参照して外装部品に形成された剥がせる塗膜30を説明する。ここでは、外装部品としてフロントバンパカバー20の例を挙げて説明する。
【0024】
図3はフロントバンパカバーとフロントバンパカバーに形成された剥がせる塗膜とを示す概略断面図である。図3において、紙面に対し上側はフロントバンパカバー20の表側(外側ともいう)、下側はフロントバンパカバー20の裏側(内側ともいう)である。フロントバンパカバー20は、バンパーの形で一体成型された樹脂部材201と、樹脂部材201の上に順に形成されたプライマー層202、ベース層203及びクリア層204とを有する。
【0025】
そして、フロントバンパカバー20の外表面及び側端面の全体並びに裏面の一部には、剥がせる塗膜30が形成されている。具体的には、剥がせる塗膜30は、クリア層204の外表面全体を覆うように形成されている。この剥がせる塗膜30は、上述のように易剥離性塗料を塗装することにより形成されるため、プライマー層202とベース層203とクリア層204とからなる通常の塗膜と比べて剥がせるという性質を持っている。なお、剥がせる塗膜30の外側には、クリア層が更に形成されてもよい。
【0026】
以下、図4を参照して本実施形態に係る易剥離性塗料の塗装方法を説明する。図4に示すように、易剥離性塗料の塗装方法は、主に、通常の車両塗装工程S1と、研磨工程S2と、脱脂工程S3と、易剥離性塗料の塗装工程S4とを含む。
【0027】
被塗装物が金属製の外板である場合、通常の車両塗装工程S1では、外板に対して電着工程、中塗り工程、ベース塗り工程及びクリア塗り工程を行うことにより、外板に電着層、中塗り層、ベース層及びクリア層を順次に形成する。例えば被塗装物がフードパネル10である場合は、上記図2に示すように、フードパネル10の鋼板101の表側に電着層102、中塗り層103、ベース層104及びクリア層105を順に形成する塗装が行われる。
【0028】
一方、被塗装物が樹脂製の外装部品である場合、通常の車両塗装工程S1では、外装部品に対してプライマー塗り工程、ベース塗り工程及びクリア塗り工程を行うことにより、外装部品にプライマー層、ベース層及びクリア層を順次に形成する。例えば被塗装物がフロントバンパカバー20である場合は、上記図3に示すように、フロントバンパカバー20の樹脂部材201の表側にプライマー層202、ベース層203及びクリア層204を順に形成する塗装が行われる。
【0029】
通常の車両塗装工程S1に続く研磨工程S2では、被塗装物の塗装面に均一な凹凸を形成するように、研磨剤を用いて塗装面を研磨する。そして、被塗装物がフードパネル10である場合、フードパネル10に電着層102、中塗り層103、ベース層104及びクリア層105が形成されたため、クリア層105の外表面はフードパネル10の塗装面になる。一方、被塗装物がフロントバンパカバー20である場合、フロントバンパカバー20にプライマー層202、ベース層203及びクリア層204が形成されたため、クリア層204の外表面はフロントバンパカバー20の塗装面になる。
【0030】
研磨工程S2では、研磨剤が供給された研磨装置を用いて塗装面を研磨し、又は、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いて塗装面を拭き上げる。例えば、フードパネル10の塗装面又はフロントバンパカバー20の塗装面を研磨する際に、研磨剤が供給された研磨装置を用いてよく、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いてよく、又はこれらを併用してもよい。
【0031】
研磨装置は、例えばスポンジバフが備え付けられたポリッジャーやサンダー等である。この場合、スポンジバフに研磨剤をつけた後に、ポリッジャーやサンダーを高速回転させながらフードパネル10の塗装面(より具体的には、クリア層105の外表面)又はフロントバンパカバー20の塗装面(より具体的には、クリア層204の外表面)にスポンジバフを押し当ててバフ掛けを行うことで、クリア層105の外表面又はクリア層204の外表面に均一な凹凸を形成する。
【0032】
バフ掛けの後に、クロス等の布で研磨した塗装面を拭き上げる。このような作業は、必要に応じて繰り返し行われる。なお、ここに用いられる研磨剤の粒子の大きさは、例えば0.2μm~50μmであることが好ましい。
【0033】
一方、布状部材は、例えば油の拭き取りに用いられたウエスである。ウエスは、マイクロファイバークロスであることが好ましい。この場合、濡らしたウエスにベースポリッシュ(微粒子研磨剤)をつけた後に、フードパネル10の塗装面(より具体的には、クリア層105の外表面)又はフロントバンパカバー20の塗装面(より具体的には、クリア層204の外表面)を拭き上げる。その後、からぶきで塗装面に残留した余分なベースポリッシュを拭き取る。このような作業は、必要に応じて繰り返し行われる。なお、ここに用いられる微粒子研磨剤の粒子の大きさは、例えば0.1μm~1.5μmであることが好ましい。
【0034】
研磨工程S2に続く脱脂工程S3では、研磨された塗装面に対して脱脂処理を行う。脱脂処理は、例えばよく用いられた溶剤脱脂であってもよい。なお、脱脂工程は必ずしも必要ではなく、研磨工程の後に易剥離性塗料の塗装工程を直接実施してもよい。
【0035】
脱脂工程S3に続く易剥離性塗料の塗装工程S4では、研磨された塗装面に易剥離性塗料を塗装することにより剥がせる塗膜30を形成する。例えば、フードパネル10の塗装面(より具体的には、クリア層105の外表面)又はフロントバンパカバー20の塗装面(より具体的には、クリア層204の外表面)に対し、噴霧法で易剥離性塗料を塗装することにより、上述の剥がせる塗膜30を形成する。
【0036】
易剥離性塗料は、通常の車両塗装に用いられる塗料と比べて、形成された塗膜を容易に剥がせるという性質を持つ塗料である。易剥離性塗料は、特に制限されないが、樹脂成分を含有する溶剤もしくは水性塗料が用いられる。樹脂成分としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの公知の樹脂が挙げられる。
【0037】
また、易剥離性塗料は顔料成分を含有してもよい。顔料としては、特に制限されず、通常の着色顔料やメタリック顔料が挙げられる。着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、塩基性硫酸鉛、鉛酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、紺青、群青、コバルトブルー、銅フタロシアニンブルー、インダンスロンブルー、黄鉛、合成黄色酸化鉄、透明べんがら(黄)、ビスマスバナデート、チタンイエロー、亜鉛黄(ジンクエロー)、クロム酸ストロンチウム、シアナミド鉛、モノアゾイエロー、ジスアゾ、イソインドリノンイエロー、金属錯塩アゾイエロー、キノフタロンイエロー、イソインドリンイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、べんがら、透明べんがら(赤)、鉛丹、モノアゾレッド、無置換キナクリドンレッド、アゾレーキ(Mn塩)、キナクリドンマゼンダ、アンサンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、ペリレンレッド、ジケトピロロピロールクロムバーミリオン、塩基性クロム酸鉛、酸化クロム、塩素化フタロシアニングリーン、臭素化フタロシアニングリーン、ピラゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンオレンジ、ジオキサジンバイオレット、ペリレンバイオレットなどが挙げられる。また、メタリック顔料としては、例えば、アルミニウム粉、フレーク状酸化アルミウム、パールマイカ、フレーク状マイカなどが挙げられる。これら顔料は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0038】
本実施形態に係る易剥離性塗料の塗装方法では、通常の車両塗装工程S1の後に研磨工程S2を行い、車両の塗装面に均一な凹凸を形成することで、後の易剥離性塗料の塗装工程S4で易剥離性塗料を塗装面に塗装すると、塗装面に形成された凹凸がアンカー効果を発揮するので、塗装面と易剥離性塗料からなる剥がせる塗膜30との密着力を確保することができる。加えて、凹凸が均一であるので、塗装面と剥がせる塗膜30との密着力を均一にすることができる。
【0039】
例えば図5の上段に示すように、通常の車両塗装工程S1で塗装された車両(ここでは、新車という)は、凹凸のない平滑な表面(すなわち、塗装面)を有する。この滑らかな塗装面に易剥離性塗料を直接塗装すると、塗装面と該塗装面に形成された剥がせる塗膜30との密着力が低く、所定の密着力を確保できない可能性がある。そして、研磨で滑らかな塗装面を軽く荒らすことにより凹凸を形成すると、凹凸がアンカー効果を発揮し、塗装面と剥がせる塗膜30の密着力を増加することができる。しかも、研磨で塗装面に均一な凹凸を形成することにより、塗装面と剥がせる塗膜30との密着力を均一に保つことができる。
【0040】
また、図5の下段に示すように、通常の車両塗装工程S1で塗装されて一定の期間が使用された車両(ここでは、既販車という)の場合、使用により車両の外表面(すなわち、塗装面)に凹凸が形成され、しかも凹凸が不均一である。不均一な凹凸によるアンカー効果が大きく、塗装面と剥がせる塗膜30との密着力が高くなるが、剥がせる塗膜30を剥がし難くなる可能性がある。従って、既販車の場合は、易剥離性塗料の塗装前に、研磨で凹凸をならすことにより、塗装面と剥がせる塗膜30との密着力を減らす。このように、仮に被塗装物の塗装面が不均一な凹凸を有した場合であっても、均一な凹凸を形成するように該塗装面を研磨することで、塗装面と剥がせる塗膜との密着力を均一にすることができる。
【0041】
更に、研磨工程S2において、研磨剤が供給された研磨装置を用いて塗装面を研磨し、又は、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いて塗装面を拭き上げる。研磨剤が供給された研磨装置を用いた研磨方法は、例えば比較的粗い凹凸を有する塗装面(例えば既販車の塗装面)の研磨に適する。一方、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いた研磨方法は、例えば凹凸のない平滑な塗装面(例えば、新車の塗装面)に均一な凹凸を形成することに適している。このように、塗装面の凹凸状態に基づいてこれらの研磨方法を使い分けたり、併用したりすることで、塗装面に均一な凹凸を容易に形成することができる。
【0042】
また、研磨工程S2と易剥離性塗料の塗装工程S4との間に脱脂工程S3が更に含まれるので、塗装面に付着した油脂分を除去するとともに、仮に研磨工程S2で研磨剤が残ったとしてもその残った研磨剤を除去できる。油脂分や研磨剤の残留による塗装への影響を抑制することができる。
【0043】
更に、研磨工程S2の前に、金属製の被塗装物に対し、電着工程、中塗り工程及び上塗り工程を有する通常の車両塗装を行うことで、被塗装物の防錆力を高めることができるとともに、塗装面と剥がせる塗膜30との密着力を向上することができる。
【0044】
[実施例及び比較例]
本願発明者らは、本実施形態に係る易剥離性塗料の塗装方法の効果を検証するため、以下の実施例及び比較例を行った。
【0045】
まず、本願発明者らは、車両の外板として使用された熱間圧延鋼板に通常の車両塗装を施したサンプル(すなわち、上記通常の車両塗装工程S1で塗装した外板)を複数作製し、新品サンプル(以下、「初期品」という)、新品サンプルの塗膜に傷付けたもの(以下、「傷あり品」という)、及び、新品サンプルを1週間耐候劣化(紫外線照射)させたもの(以下、「耐候劣化品」という)を1つのグループとし、このようなグループを3つ用意した。
【0046】
[比較例1]
次に、上記3つのグループの1つに対し、通常の車両塗装により形成された塗膜の表面(塗装面)を研磨せずに、易剥離性塗料の塗装工程S4で述べたように易剥離性塗料を塗装面に塗装して剥がせる塗膜を形成した。すなわち、このグループに属する初期品、傷あり品及び耐候劣化品の塗装面にそれぞれ易剥離性塗料を直接塗装して剥がせる塗膜を形成した。
【0047】
[実施例1]
また、上記3つのグループの1つに対し、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いて、通常の車両塗装により形成された塗膜の表面(塗装面)を研磨した後に、易剥離性塗料の塗装工程S4で述べたように易剥離性塗料を塗装面に塗装して剥がせる塗膜を形成した。すなわち、このグループに属する初期品、傷あり品及び耐候劣化品の塗装面を、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いてそれぞれ研磨した後に、研磨された塗装面にそれぞれ易剥離性塗料を塗装して剥がせる塗膜を形成した。
【0048】
[実施例2]
更に、上記3つのグループの1つに対し、研磨剤が供給された研磨装置を用いて、通常の車両塗装により形成された塗膜の表面(塗装面)を研磨した後に、易剥離性塗料の塗装工程S4で述べたように易剥離性塗料を塗装して剥がせる塗膜を形成した。すなわち、このグループに属する初期品、傷あり品及び耐候劣化品の塗装面を、研磨剤が供給された研磨装置を用いてそれぞれ研磨した後に、研磨された塗装面にそれぞれ易剥離性塗料を塗装して剥がせる塗膜を形成した。
【0049】
次に、上記3つのグループの各サンプルに対し、塗装面と剥がせる塗膜との密着力をそれぞれ測定し、比較を行った。密着力の測定は、JIS Z 0237の「粘着テープ・粘着シート試験方法」に準拠した180°剥離試験であった。より具体的には、各サンプルの剥がせる塗膜に一定の幅(ここでは、10mm)で切り込みを入れてその端部を引張試験機に挟み、剥がせる塗膜を引張って剥がすときの強度を測定した。ここでの密着力は、剥離強度又はピール強度ともいう。
【0050】
図6は実施例1、2及び比較例1の結果を示す図である。図6に示すように、比較例1に対し、実施例1及び2における塗装面と剥がせる塗膜との密着力のばらつきが少ないことが分かった。すなわち、塗装面の状態が初期品と傷あり品と耐候劣化品とで異なったとしても、布状部材を用いた研磨又は研磨装置を用いた研磨によって、均一な凹凸を得られ、これによって塗装面と剥がせる塗膜との密着力を均一にできることが示された。そして、塗装面と剥がせる塗膜との密着力は、0.5N/10mm~15N/10mmであることが好ましく、1N/10mm~10N/10mmであることがより好ましい。
【0051】
また、本願発明者らは、車両のフードパネルに通常の車両塗装を施したサンプル(すなわち、上記通常の車両塗装工程S1で塗装したフードパネル)を複数作製し、新品サンプル(以下、「初期品」という)、新品サンプルを沖縄の自然環境に2年相当までの期間曝露したもの(以下、「沖縄曝露品」という)、及び、新品サンプルを10年相当までの期間の促進試験を実施したもの(以下、「促進試験品」という)を1つのグループとし、このようなグループを3つ用意した。なお、促進試験は、JIS K 5600-7-7の「塗膜の長期耐久性-促進耐候性」に準拠したものである。
【0052】
[比較例2]
次に、上記3つのグループの1つに対し、通常の車両塗装により形成された塗膜の表面(塗装面)を研磨せずに、易剥離性塗料の塗装工程S4で述べたように易剥離性塗料を塗装面に塗装して剥がせる塗膜を形成した。すなわち、このグループに属する初期品、沖縄曝露品及び促進試験品の塗装面にそれぞれ易剥離性塗料を直接塗装して剥がせる塗膜を形成した。
【0053】
[実施例3]
また、上記3つのグループの1つに対し、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いて、通常の車両塗装により形成された塗膜の表面(塗装面)を研磨した後に、易剥離性塗料の塗装工程S4で述べたように易剥離性塗料を塗装面に塗装して剥がせる塗膜を形成した。すなわち、このグループに属する初期品、沖縄曝露品及び促進試験品の塗装面を、微粒子研磨剤が供給された布状部材を用いてそれぞれ研磨した後に、研磨された塗装面にそれぞれ易剥離性塗料を塗装して剥がせる塗膜を形成した。
【0054】
[実施例4]
更に、上記3つのグループの1つに対し、研磨剤が供給された研磨装置を用いて、通常の車両塗装により形成された塗膜の表面(塗装面)を研磨した後に、易剥離性塗料の塗装工程S4で述べたように易剥離性塗料を塗装面に塗装して剥がせる塗膜を形成した。すなわち、このグループに属する初期品、沖縄曝露品及び促進試験品の塗装面を、研磨剤が供給された研磨装置を用いてそれぞれ研磨した後に、研磨された塗装面にそれぞれ易剥離性塗料を塗装して剥がせる塗膜を形成した。
【0055】
次に、上記3つのグループの各サンプルに対し、上述と同様に、塗装面と剥がせる塗膜との密着力をそれぞれ測定し、比較を行った。
【0056】
図7は実施例3、4及び比較例2の結果を示す図である。図7に示すように、比較例2に対し、実施例3及び4における塗装面と剥がせる塗膜との密着力のばらつきが少ないことが分かった。すなわち、塗装面の状態が初期品と沖縄曝露品と促進試験品とで異なったとしても、布状部材を用いた研磨又は研磨装置を用いた研磨によって、均一な凹凸を得られ、これによって塗装面と剥がせる塗膜との密着力を均一にできることが示された。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0058】
1:車両、10:フードパネル、11:ルーフパネル、12:トランクリッド、13:フロントフェンダパネル、20:フロントバンパカバー、21:リヤバンパカバー、30:剥がせる塗膜、101:鋼板、102:電着層、103:中塗り層、104:ベース層、105:クリア層、201:樹脂部材、202:プライマー層、203:ベース層、204:クリア層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7