(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017140
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】基材から層を除去する方法
(51)【国際特許分類】
C09D 9/00 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
C09D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119590
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】小谷 宗平
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038RA09
4J038RA12
4J038RA16
4J038RA17
(57)【要約】
【課題】層が付着した基材から当該層を容易かつ確実に除去する方法を提供する。
【解決手段】基材から層を除去する方法であって、一般式(1):CO-O-Siで示される構造を有する化合物(A)を含む層が付着した基材を処理液(B)に浸漬させる工程を含み、ここで、前記処理液(B)が、pH8.5以上のアルカリ性水溶液または、pH8.5以上のアルカリ性水溶液と有機溶剤の混合溶液であることを特徴とする方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材から層を除去する方法であって、下記一般式(1)で示される構造を有する化合物(A)を含む層が付着した基材を処理液(B)に浸漬させる工程を含み、ここで、前記処理液(B)が、pH8.5以上のアルカリ性水溶液または、pH8.5以上のアルカリ性水溶液と有機溶剤の混合溶液であることを特徴とする方法。
CO-O-Si (1)
【請求項2】
前記化合物(A)を含む層が活性エネルギー線の照射により硬化した層であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材を前記処理液(B)に浸漬させる時間が5分~48時間であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材を前記処理液(B)に浸漬させる際の処理液(B)の温度が25~80℃であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記基材を前記処理液(B)に浸漬させる際に、撹拌、バブリングまたは超音波照射が行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物(A)の前記一般式(1)で示される構造が、下記一般式(2)で示される重合性化合物に由来することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
CH2=C(R1)-CO-O-Si(R2)(R3)(R4) (2)
(式中、R1は、Hまたはメチル基であり、R2、R3、R4は、各々独立して、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基または芳香族基である。)
【請求項7】
前記化合物(A)の前記一般式(1)で示される構造が、下記一般式(3)で示される重合性化合物に由来することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
CH2=C(R1)-CO-O-Si(R5)3 (3)
(式中、R1は、Hまたはメチル基であり、R5はイソプロピル基またはブチル基である。)
【請求項8】
前記化合物(A)を含む層は、中性乃至酸性水溶液に浸漬させても基材から除去されないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層が付着した基材から当該層を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりにより紙やプラスチック製品(例えば容器やフィルム)等のリサイクルに関する研究開発が盛んに進められている。紙やプラスチック製品の主な用途としてドキュメントやカタログ、包装や容器があり、一般的には、その表面において、種々の印刷手法等による加飾層や各種機能層の付与等、様々な加工が施されている。リサイクルの過程においては、基材に付着している層を除去することが求められる。基材からの層の除去工程は、リサイクル資材の品質を大きく左右する工程であり、層の除去が不十分な場合リサイクル資材の品質が低下する。また同時にリサイクルに係るコストの低減もリサイクル推進にとって重要な要素であり、除去工程を容易かつ確実に実施することは、リサイクル事業を推進する上で解決すべき重要な課題である。
【0003】
特開2005-344054号公報(特許文献1)には、活性エネルギー線硬化性脱墨用オーバーコートニスが記載されている。良好な脱墨性が示されているものの、付着性や耐水性については評価されていない。水酸基、カルボキシル基、カルボン酸アミド、スルフォン基、エポキサイド基やエーテル基といった親水性を有するモノマーを必須成分としており、一般に、これら親水性を有するモノマー組成より得られる形成膜は耐水性に乏しい。また、疎水性が高い基材に対する付着性に劣るなどの問題がある。特に、ポリエチレンやポリプロピレンといったオレフィン系の基材に対しては付着が困難である。
【0004】
特開昭63-57675号公報(特許文献2)には、下記一般式(1)に示される分子構造を有するアクリル重合系樹脂を用いた、防汚塗料が例示されている。
CO-O-Si (1)
海水中で加水分解されることにより親水化し、数年間の月日を経て海水中に溶解させる技術である。リサイクルにおける上記除去工程は、付着している層を基材から迅速に除去する技術であり、特許文献2に記載される技術とは根本的に設計思想が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-344054号公報
【特許文献2】特開昭63-57675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、層が付着した基材から当該層を容易かつ確実に除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の分子構造を有する化合物を含む層であれば、pH8.5以上のアルカリ性水溶液または、pH8.5以上のアルカリ性水溶液と有機溶剤の混合溶液に浸漬させることで、基材から容易かつ確実に除去できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
従って、本発明の方法は、基材から層を除去する方法であって、下記一般式(1)で示される構造を有する化合物(A)を含む層が付着した基材を処理液(B)に浸漬させる工程を含み、ここで、前記処理液(B)が、pH8.5以上のアルカリ性水溶液または、pH8.5以上のアルカリ性水溶液と有機溶剤の混合溶液であることを特徴とする方法である。
CO-O-Si (1)
【0009】
本発明の方法の好適例においては、前記化合物(A)を含む層が活性エネルギー線の照射により硬化した層である。
【0010】
本発明の方法の他の好適例においては、前記基材を前記処理液(B)に浸漬させる時間が5分~48時間である。
【0011】
本発明の方法の他の好適例においては、前記基材を前記処理液(B)に浸漬させる際の処理液(B)の温度が25~80℃である。
【0012】
本発明の方法の他の好適例においては、前記基材を前記処理液(B)に浸漬させる際に、撹拌、バブリングまたは超音波照射が行われる。
【0013】
本発明の方法の他の好適例においては、前記化合物(A)の前記一般式(1)で示される構造が、下記一般式(2)で示される重合性化合物に由来する。
CH2=C(R1)-CO-O-Si(R2)(R3)(R4) (2)
(式中、R1は、Hまたはメチル基であり、R2、R3、R4は、各々独立して、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基または芳香族基である。)
【0014】
本発明の方法の他の好適例においては、前記化合物(A)の前記一般式(1)で示される構造が、下記一般式(3)で示される重合性化合物に由来する。
CH2=C(R1)-CO-O-Si(R5)3 (3)
(式中、R1は、Hまたはメチル基であり、R5はイソプロピル基またはブチル基である。)
【0015】
本発明の方法の他の好適例において、前記化合物(A)を含む層は、中性乃至酸性水溶液に浸漬させても基材から除去されない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、層が付着した基材から当該層を容易かつ確実に除去する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明は、層が付着した基材を処理液に浸漬させる工程を含む、基材から当該層を除去する方法に関する。本明細書では、この基材から層を除去する方法を「本発明の方法」とも称する。
【0018】
本発明の方法によって処理される基材は、層が付着しており、当該層は、下記一般式(1):
CO-O-Si (1)
で示される構造を有する化合物(A)を含む。ここで、一般式(1)の「CO」部分はカルボニル基であり、「C(=O)」と表現することも可能であり、一般式(1)をC(=O)-O-Siと表現することも可能である。一般式(1)の「-O-Si」部分は、その酸素原子がカルボニル基「CO」の炭素原子に結合している。
CO-O-Siの構造は、アルカリ性水溶液を用いた加水分解反応により容易に分解可能な構造であることから、CO-O-Siの構造を有する膜は、基材上から容易且つ確実に除去が行える。例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いて加水分解反応を行うと、一般式(1)で示される構造は、CO-O-Na+とSi-OHに分解する。また、一般式(1)で示される構造は、中性乃至酸性水溶液では加水分解反応が進行しないため、耐水性や酸性水溶液に対する耐性を低下させない。また、一般式(1)で示される構造を有する化合物(A)を用いたことで、基材上の層を親水性にすることなく、アルカリ性水溶液での層の除去が可能となる。これにより、一般式(1)で示される分子構造を有する化合物(A)を含む層は、PETやポリオレフィンなどの様々な基材への付着性や耐水性の効果も得られる。
【0019】
化合物(A)は、分子内に一般式(1)に示す構造
CO-O-Si (1)
を有すること以外は特に制限されるものではないが、基材上に形成された層を構成することから、ポリマーであることが好ましい。また、化合物(A)は、通常、重合性化合物の重合により得られるポリマーであり、重合性化合物とは異なる。
【0020】
化合物(A)の一般式(1)で示される構造は、下記一般式(2)で示される重合性化合物に由来することが好ましく、下記一般式(3)で示される重合性化合物に由来することが更に好ましい。
CH2=C(R1)-CO-O-Si(R2)(R3)(R4) (2)
式(2)中、R1は、Hまたはメチル基であり、R2、R3、R4は、各々独立して、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基または芳香族基である。飽和炭化水素基および不飽和炭化水素基は、炭素数が4以下の炭化水素基であることが好ましい。
CH2=C(R1)-CO-O-Si(R5)3 (3)
式(3)中、R1は、Hまたはメチル基であり、R5はイソプロピル基またはブチル基である。
【0021】
例えば、一般式(2)で示される重合性化合物を含む原料の重合により化合物(A)を得ることで、化合物(A)の一般式(1)で示される構造は、一般式(2)で示される重合性化合物に由来するものとなり、一般式(3)で示される重合性化合物を含む原料の重合により化合物(A)を得ることで、化合物(A)の一般式(1)で示される構造は、一般式(3)で示される重合性化合物に由来するものとなる。
【0022】
化合物(A)の合成に使用できる重合性化合物は、ポリマー、オリゴマー、モノマー等が挙げられるが、配合設計の自由度の高さから、重合性を有するモノマーが特に好ましい。また、重合性化合物として、一般式(1)で示される構造を有する重合性化合物を少なくとも使用することになるが、一般式(1)で示される構造を有さない重合性化合物を併用することも可能である。一般式(1)で示される構造を有さない重合性化合物を使用することで、耐溶剤性を発現させることが可能である。
【0023】
また、重合性化合物は、重合性官能基の数によって、単官能重合性化合物と多官能重合性化合物に分類することも可能である。単官能重合性化合物としては、活性エネルギー線照射時に反応性を示す官能基を1つ有する単官能重合性モノマー(例えば1つの重合性不飽和基を有する単官能重合性モノマー)や活性エネルギー線照射時に反応性を示す官能基を1つ有する単官能重合性オリゴマー(例えば、1つの重合性不飽和基を有する単官能重合性オリゴマー)等が挙げられる。多官能重合性化合物としては、活性エネルギー線照射時に反応性を示す官能基を2つ以上有する多官能重合性モノマー(例えば2つ以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性モノマー)や活性エネルギー線照射時に反応性を示す官能基を2つ以上有する多官能重合性オリゴマー(例えば、2つ以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性オリゴマー)等が挙げられる。
【0024】
活性エネルギー線照射時に反応性を示す官能基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基又はアリル基を構成する炭素-炭素二重結合、エポキシ基、オキセタン環等の重合性官能基が挙げられる。
【0025】
重合性オリゴマーは、好ましくはアクリレートオリゴマーである。また、重合性オリゴマーの官能基数は、好ましくは2以上であり、より好ましくは4以上である。重合性オリゴマーの分子量は、好ましくは1000~20000である。ここで、重合性オリゴマーの分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0026】
一般式(1)で示される構造を有する重合性化合物は、単官能重合性化合物であることが好ましく、単官能重合性モノマーであることがより好ましく、好適な具体例として、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリブチルシリル(メタ)アクリレート等のトリアルキルシリル(メタ)アクリレートが挙げられる。一般式(1)で示される構造を有する重合性化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本明細書において、(メタ)アクリレートの用語は、メタクリレート又はアクリレートを意味する。また、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート等のように、複数であることを示す接頭語が(メタ)アクリレートに付されている場合、各(メタ)アクリレート部分は同一でも異なっていてもよい。
【0028】
化合物(A)の合成において、一般式(1)で示される構造を有する重合性化合物と一般式(1)で示される構造を有さない重合性化合物を併用する場合、一般式(1)で示される構造を有する重合性化合物と一般式(1)で示される構造を有さない重合性化合物の合計に対して、一般式(1)で示される構造を有さない重合性化合物の割合は、50~95質量%であることが好ましい。一般式(1)で示される構造を有さない重合性化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
また、化合物(A)の合成には、基材から層を効率的に除去する観点から、親水性の高い重合性化合物を用いることが好ましい。親水性の高い重合性化合物は、層の中に水を取り入れやすくなるため、一般式(1)で示される構造の加水分解反応を促進することができる。親水性の高い重合性化合物としては、特に、アミド構造を有する重合性化合物、ポリアルキレンオキサイド構造を有する重合性化合物、水酸基を有する重合性化合物、カルボキシル基(又はその塩)を有する重合性化合物、スルホン酸基(又はその塩)を有する重合性化合物、アミノ基(又はその四級塩)を有する重合性化合物が挙げられる。また、最も好適な親水性の高い重合性化合物は、アクリロイルモルホリンである。一方で、親水性の高い重合性化合物を多く使用すると、耐水性悪化の要因となり得る。また、親水性の高い重合性化合物を多く使用すると、ポリプロピレン(PP)などの低極性基材に対する付着性悪化の要因ともなり得る。このため、化合物(A)の合成に使用される重合性化合物の合計に対して、親水性の高い重合性化合物の量は、好ましくは10~40質量%である。
【0030】
化合物(A)を含む層中に含まれる一般式(1)に示される構造(COOSi)の量は、0.4~1.8mol/kgであることが好ましい。ここで、原子量は、H=1.01、C=12.01、O=16.00、Si=28.09である。
【0031】
化合物(A)を含む層は、着色剤を含有することができる。着色剤としては特に制限はなく、一般に塗料、インキ等に使用される着色剤を適宜使用することができ、染料であっても顔料であってもよい。層中に含まれる着色剤の量は、例えば0.1~25質量%である。着色剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
化合物(A)を含む層は、その他の成分として、天然樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、非反応性ポリマー、充填剤、消泡剤、導電性付与剤、導電性粒子、応力緩和剤、浸透剤、導光剤、屈折率調整剤、金属酸化物粒子、光輝材、磁性材、蛍光体、抗菌剤、抗ウイルス剤、防藻剤、防かび剤等の添加剤を必要に応じて含有することができる。
【0033】
化合物(A)を含む層は、様々な目的で基材に付与されている。基材に付与される層には、様々な機能層があり、例えば、基材に文字、絵図や柄などを施すことを目的とした加飾層や、基材の保護などを目的とした保護層、基材に付着性や定着性等を付与することを目的とした下地層、光沢付与層、屈折率調整層、凹凸付与層等が挙げられる。また、化合物(A)を含む層は、1種のみならず、複数種の層が基材に付与されていてもよい。
【0034】
本発明の方法によって処理される基材は、特に限定されるものではない。基材の形状としては、例えば、フィルム状、シート状、板状等がある。基材の材質としては、例えば、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂等のプラスチック、鉄、ステンレス、アルミニウム等の金属、紙、合成紙、木材、セメント、コンクリート、石膏、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラス、陶磁器等及び、これらの複合材料が挙げられる。基材の具体例としては、PETフィルム、PPフィルム、PEフィルム、塩ビシート、ターポリン、プラスチック製ダンボール、アクリル板、ポリスチレン(PS)ボード、PP成型材、PPと炭酸カルシウムの複合材料等が挙げられる。
【0035】
本発明において、基材に複数の層が付与されている場合は、必ずしも全ての層に化合物(A)が含まれている必要はなく、化合物(A)を含んでいない層が存在してもよい。ただし、基材から層を完全に除去する観点、特には基材をリサイクルする観点からすると、基材に直接付着している層は、化合物(A)を含む層であることが望ましい。例えば、化合物(A)を含む層を介して基材に付着しているような層は、化合物(A)を含んでいない層であってもよい。
【0036】
化合物(A)を含む層が付着した基材は、基材上に化合物(A)を含む層を形成することで製造できる。化合物(A)を含む層の形成方法としては、特に制限はなく、インクジェットインクによる印刷方法、グラビア、凸版、シルクスクリーン、平版、オフセットなどの印刷方法、トナーによる電子写真印刷方法、ロールコーター、カーテンフローコーター、スプレーなどの塗装方法が挙げられる。また、転写やフィルムの貼り付けによる方法も挙げられる。複数種の化合物(A)を含む層を形成する際には、異なる形成方法を採用することも可能である。
【0037】
本発明の方法の一実施形態において、化合物(A)を含む層は、グラビア印刷、凸版印刷、シルクスクリーン印刷、平版印刷、又はオフセット印刷により形成される。
【0038】
本発明の方法の別の実施形態において、化合物(A)を含む層は、インクジェットインク印刷により形成される。
【0039】
本発明の方法の別の実施形態において、化合物(A)を含む層は、電子写真印刷により形成される。
【0040】
本発明の方法の別の実施形態において、化合物(A)を含む層は、塗装により形成される。
【0041】
化合物(A)を含む層を形成するための原料としては、インク、トナー、塗料などの形態があり、化合物(A)を含む層の形成方法に応じて適宜選択される。また、化合物(A)は、原料中に存在していてもよいし、化合物(A)を含む層を形成する際に重合性化合物の重合等により化合物(A)が合成されてもよい。例えば、化合物(A)を含む層を形成するための原料が活性エネルギー線硬化型組成物である場合、活性エネルギー線の照射により重合性化合物を重合させて化合物(A)を合成することができる。
【0042】
本発明の方法において、化合物(A)を含む層は、活性エネルギー線の照射により硬化した層であることが好ましい。活性エネルギー線で硬化した層は、基材からの除去が困難である場合も多く、化合物(A)を使用することが特に有効である。以下に、活性エネルギー線で硬化した層を形成するための原料、すなわち活性エネルギー線硬化型組成物について説明する。
【0043】
本明細書において、活性エネルギー線硬化型組成物とは、紫外線、可視光線、電子線等の活性エネルギー線の照射により硬化させることができる組成物を意味し、具体的には、活性エネルギー線照射時に反応性を示す官能基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基又はアリル基を構成する炭素-炭素二重結合、エポキシ基、オキセタン環等の重合性基)を介して重合反応を起こす化合物を含む組成物である。
【0044】
活性エネルギー線硬化型組成物は、上述した一般式(1)で示される構造を有する重合性化合物を含み、必要に応じて、上述した一般式(1)で示される構造を有さない重合性化合物、着色剤及びその他の成分を適宜含むことができる。
【0045】
活性エネルギー線硬化型組成物は、光重合開始剤を含有することができる。光重合開始剤は、活性エネルギー線を照射されることによって、上述した重合性化合物の重合を開始させる作用を有する。光重合開始剤の量は、組成物固形分中好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは3~20質量%であり、特に好ましくは3~15質量%である。光重合反応を適切に開始させる点から、光重合開始剤の含有量が1質量%以上であることが好ましく、25質量%以下であれば、低温時においても析出物が発生しにくい。更に、光重合開始剤の開始反応を促進させるため、光増感剤等の助剤を併用することも可能である。
【0046】
本明細書において、固形分とは、溶媒等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に膜を形成することになる成分である。一般に市販されている重合性モノマーや重合性オリゴマー等の重合性化合物は、有機溶剤で希釈されている旨の開示がない限り100%固形分であるとみなす。また、「固形分」を「不揮発分」と称する場合もある。
【0047】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、フォスフィンオキサイド系化合物等が挙げられるが、硬化性の観点から、照射する活性エネルギー線の波長と光重合開始剤の吸収波長ができるだけ重複するものが好ましい。即ち、光重合開始剤の吸収波長が350nm以上400nm以下の範囲と重複するものが好ましい。また、光重合開始剤は、LED硬化及び硬化時の着色の観点から、アシルホスフィンオキシド系開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
活性エネルギー線硬化型組成物は、基材への濡れ性の向上等の観点から、表面調整剤を更に含有してもよい。本明細書において、表面調整剤とは、分子構造中に親水性部位と疎水性部位を有し、添加することにより組成物の表面張力を調整し得る物質のことを意味する。
【0049】
活性エネルギー線硬化型組成物には、その他の成分として、溶剤や非反応性ポリマー等を必要に応じて使用してもよい。
【0050】
一般式(1)で示される構造の分解を抑制するために、活性エネルギー線硬化型組成物は強いアルカリ性雰囲気下でないことが好ましい。活性エネルギー線硬化型組成物とイオン交換水を質量比1/1で攪拌・混合後、水相のpHを測定する等の方法で評価できる。水分等、他成分との兼ね合いもあるが、水相のpHは12以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下が特に好ましい。
【0051】
一方で、活性エネルギー線硬化型組成物を製造後、活性エネルギー線の照射により形成膜となるまでの間に生じる重合反応を抑制するためには、含有する酸性成分が少ない方が好ましい。活性エネルギー線硬化型組成物の酸価をJIS K-0070-1992に準拠し測定する等の方法で評価でき、30以下が好ましく、5以下がより好ましく、1以下が特に好ましい。尚、活性エネルギー線硬化型組成物が有機溶剤を含む場合は、下記計算式(4)により酸価を算出する。
測定値×100/(100-組成物の有機溶剤含有量(質量%)) (4)
【0052】
活性エネルギー線硬化型組成物は、インクジェットインクであることが好ましく、この場合、基材への適用法として、インクジェット印刷法が選択される。
【0053】
インクジェット印刷法を選択する場合は、インクジェットプリントヘッドのノズル径の約1/10以下のポアサイズを持つフィルターを用い、各種成分の混合により得られた混合物を濾過することによって活性エネルギー線硬化型組成物を調製できる。
【0054】
インクジェット印刷法を選択する場合、活性エネルギー線硬化型組成物の40℃における粘度は5~25mPa・sであることが好ましく、5~20mPa・sであることがより好ましい。40℃における組成物の粘度が上記特定した範囲内にあれば、良好な吐出安定性が得られる。インク粘度は、コーンプレート型粘度計を用いて測定できる。
【0055】
インクジェット印刷法を選択する場合、活性エネルギー線硬化型組成物の25℃における表面張力が20~35mN/mであることが好ましく、23~33mN/mであることがより好ましい。25℃における組成物の表面張力が上記特定した範囲内にあれば、良好な吐出安定性が得られる。表面張力は、白金プレート法などにより測定できる。
【0056】
インクジェット印刷には、種々のインクジェットプリンタに使用することができる。インクジェットプリンタとしては、例えば、荷電制御方式又はピエゾ方式によりインク組成物を噴出させるインクジェットプリンタが挙げられる。また、大型インクジェットプリンタ、具体例としては工業ラインで生産される物品への印刷を目的としたインクジェットプリンタも好適に使用できる。また、方式としてはマルチパス方式(スキャン方式)やシングルパス方式が使用できる。
【0057】
活性エネルギー線硬化型組成物は、印刷等により基材へ適用した後に、活性エネルギー線の照射により硬化膜が形成される。活性エネルギー線の光源としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ等を使用できる。活性エネルギー線の波長は、主波長が350~400nmであることが好ましい。活性エネルギー線の積算光量は100~2000mJ/cm2の範囲にあることが好ましい。
【0058】
化合物(A)を含む層が付着した基材について、化合物(A)を含む層は、中性乃至酸性水溶液に浸漬させても基材から除去されないことが好ましい。ここで、酸性水溶液とは、5質量%の酢酸水溶液や0.1Mの塩酸である。
【0059】
化合物(A)を含む層が付着した基材について、化合物(A)を含む層は、JIS K-5600-5-6:1999に準拠したクロスカット法付着試験において、分類0、1乃至2の試験結果が得られることが好ましい。ただし、クロスカット法付着試験において、化合物(A)を含む層が付着している基材表面は、ポリエチレンテレフタレートまたはポリプロピレンである。
【0060】
化合物(A)を含む層が付着した基材の具体例としては、プラスチックフィルム、ラベル、紙、プラスチック成型品等の物品が挙げられる。
【0061】
本発明の方法において、処理液は、pH8.5以上のアルカリ性水溶液または、pH8.5以上のアルカリ性水溶液と有機溶剤の混合溶液である。本明細書では、この処理液を「処理液(B)」とも称する。化合物(A)を含む層が付着した基材を処理液(B)に浸漬させることで、化合物(A)を含む層を基材から容易に除去することができる。
【0062】
本発明の方法において、浸漬は、少なくとも化合物(A)を含む層を処理液(B)に浸漬させればよいが、化合物(A)を含む層が付着した基材全体を処理液(B)中に沈めることが好ましい。
【0063】
本発明の方法において、除去は、基材に付着した化合物(A)を含む層の除去を意味し、例えば、基材に文字、絵図や柄などの加飾層のみが施されている場合には、基材から加飾層を除去(例えば分離)し、加飾層の他に別の機能層を有する場合には、基材から加飾層及び別の機能層を除去(例えば分離)する。また、基材がリサイクル資材である場合は、リサイクル資材の品質低下に繋がる全ての成分の除去が望ましい。ここで、リサイクル資材の品質とは、主に着色による色変化や資材がリサイクル前に有していた物理的性質を意味する。
【0064】
処理液として有機溶剤のみからなる処理液も考えらえるが、有機溶剤による処理液は、VOCの揮散による作業環境の悪化や危険物としての取り扱いの問題などの課題があり、望ましくない。また、基材がリサイクル資材である場合、リサイクル資材への有機溶剤の浸透やリサイクル資材から可塑剤などの添加剤が溶出し易いなどの課題があり、品質上も好ましくない。このため、本発明においては、有機溶剤のみからなる処理液は処理液(B)から除かれている。処理液(B)の有機溶剤の含有量は、上述した課題及び化合物(A)を含む層の除去を補助することを考慮し、好ましくは50質量%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは含まないことである。
【0065】
有機溶剤の種類は、使用条件においてアルカリ性水溶液と分離することなく均一な混合溶液の状態を保持できれば、特に制限なく使用することができる。有機溶剤としては、例えばアルコール類、グリコールエーテル類、アミド類が挙げられる。
【0066】
アルカリ性水溶液のpH(水素イオン濃度)は、化合物(A)を含む層の除去の容易さの点でpH8.5以上であり、好ましくはpH9以上が好ましく、より好ましくはpH11以上である。なお、本pHの値は、有機溶剤との混合溶液である場合には、混合する前の水溶液の値である。
【0067】
アルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。
【0068】
本発明の方法において、化合物(A)を含む層が付着した基材を処理液(B)に浸漬させる際に処理液(B)の温度を調整することができ、ここで、処理液(B)の温度は、例えば25~80℃であり、化合物(A)を含む層の除去の容易さの点で40℃以上が好ましく、より好ましくは60℃以上である。処理液(B)がアルカリ性水溶液と有機溶剤の混合溶液である場合は、混合する有機溶剤の沸点を考慮し温度設定することができる。
【0069】
本発明の方法において、化合物(A)を含む層が付着した基材を処理液(B)に浸漬させる時間は、5分~48時間であることが好ましく、5分~2時間であることがより好ましい。
【0070】
本発明の方法においては、化合物(A)を含む層が付着した基材を処理液(B)に浸漬させる際に、撹拌、バブリングまたは超音波照射が行われることが好ましい。化合物(A)を含む層が付着した基材を処理液(B)中で静置させないことにより、静置した場合と比較してより容易に化合物(A)を含む層を除去することができるため好ましい。バブリングには、空気や窒素等の不活性ガスが使用できる。
【0071】
本発明の方法は、基材のリサイクルに利用することができる。即ち、本発明の別の態様は、基材をリサイクルするための方法であって、上記一般式(1)に示される構造を有する化合物(A)を含む層が付着した基材を処理液(B)に浸漬させる工程と、化合物(A)を含む層が除去された基材を処理液(B)から回収する工程とを含む方法である。回収された基材は、再利用することができる。また、上記浸漬させる工程の前に、化合物(A)を含む層が付着した基材を予め解砕する工程を設けてもよい。
【実施例0072】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
○試験板の作製方法
表1に記載の層1-1、層1-2、層1-3、層1-4または層1-5用の組成の液体を基材に塗布後、385nmのLEDを用いて2000mw/cm2,1000mJ/cm2の光量を照射し硬化させた。これにより、層が付着した基材(試験板)を作製した。層1-1、層1-2、層1-3および層1-4については、液体を基材に塗布する際にバーコーター#3を用い、層1-5については、液体を基材に塗布する際にバーコーター#4を用いた。
層1-1、層1-3、層1-4および層1-5は、TIPX、ACMO、THFAおよび1700Bから構成されるポリマーを化合物(A)として含む層である。層1-2は、ACMO、THFAおよび1700Bから構成されるポリマーを含む層であり、化合物(A)は含まれていない。
必要に応じて、上記試験板の層1-1に、表1に記載の層2-1用の組成の液体を市販のUV硬化形インクジェットインクプリンターで解像度720×600dpiの8パス条件により塗布し、上記LEDを用いた光照射により硬化させた。これにより、2層の積層構造を備える試験板を作製した。
層2-1は、ACMO、THFAおよび1700Bから構成されるポリマーを含む層であり、化合物(A)は含まれていない。
層1-1、層1-2、層1-3、層1-4および層1-5中に含まれる一般式(1)に示される構造(COOSi)の量を表2~5に示す。
【0074】
〇材料の詳細
・TIPX : トリイソプロピルシリルアクリレート(有機合成化学薬品工業株式会社)
・ACMO : アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社)
・THFA : テトラヒドロフルフリルアクリレート(共栄社化学株式会社)
・1700B : 紫光 UV-1700B(三菱ケミカル株式会社)
・TPO : SB-PI718(SHUANG‐BANG INDUSTRIAL CORP.)
・DETX : SB-PI799(SHUANG‐BANG INDUSTRIAL CORP.)
・pig.Bk7 : カーボンブラック(ピグメントブラック No.7)
・ポリカーボネート : TP技研株式会社より入手した。
・LIMEX(ライメックス) IJシートS : TBM株式会社
・Reco(レコ)ボード : 株式会社アクタ
・ウルトラユポ FEBG 150: 株式会社ユポ・コーポレーション
【0075】
〇基材からの層の除去方法
直径5cmの円筒形容器を用いて、処理液50mL、1.5cm×1.5cmの試験板を投入し、静置・撹拌・超音波の状態で基材からの層の除去を試みた。
試験板の層構成、処理液の種類、処理液のpH、浸漬時の処理液の温度、および静置・撹拌・超音波の条件を表2~5に示す。
処理液の種類について、NaOHaqは水酸化ナトリウム水溶液、EtOHはエタノール、AcOHaqは酢酸水溶液、HClaqは塩酸(塩化水素の水溶液)を意味する。処理液が混合溶液である場合は、表中にその質量比を示す。例えば、NaOHaq/EtOH=80/20は、その処理液が、水酸化ナトリウム水溶液80質量%およびエタノール20質量%の混合溶液であることを示す。
撹拌は、マグネチックスターラーを用いて400RPMで実施した。
超音波は、処理液の温度と同じ温度の水浴に、試験板が処理液に浸漬されている円筒形容器を置き、28kHzで超音波処理を行った。
【0076】
〇評価方法
・層の除去
目視にて評価を行い、下記の基準にて判定した。評価結果を表2~5の「塗膜除去性」に示す。
また、基材が一部でも露出するまでの時間を計測した。計測時間を表2~5の「基材露出までの所要時間または浸漬時間」に示す。ただし、比較例1~4は基材が露出しなかったため、試験板の処理液への浸漬時間を示す。
〇168時間以内に塗膜層が完全に除去され、基材の全面が露出している
×168時間後に一切、基材が露出していない
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】