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特開2024-171402害虫防除用容器及びそれを用いた害虫防除方法。
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  • 特開-害虫防除用容器及びそれを用いた害虫防除方法。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171402
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】害虫防除用容器及びそれを用いた害虫防除方法。
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/02 20060101AFI20241205BHJP
   A01M 1/00 20060101ALI20241205BHJP
   A01M 1/14 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A01M1/02 T
A01M1/00 Z
A01M1/14 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088378
(22)【出願日】2023-05-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [刊行物名]Journal of Medical Entomology [巻数]60巻 [号数]第1号(2023年1月号) [頁数]第122~130頁 [ウェブサイトの掲載日(発行日)]令和4年11月14日 [掲載アドレス]https://drciyaku.co.jp/news_221114.html [ウェブサイトの掲載日]令和4年11月14日
(71)【出願人】
【識別番号】515248458
【氏名又は名称】DR.C医薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 成実
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA13
2B121BA09
2B121BA40
2B121DA29
2B121EA01
2B121FA01
2B121FA02
2B121FA15
(57)【要約】
【課題】電源を使用することなく、低コストで取り扱いが容易で、安心して使用できる害虫防除用容器を提供する。
【解決手段】水を収容可能な害虫誘導色が付された容器本体1と、
使用時に容器本体1の内部に水と接するように配置される、酸化チタン粒子及び銀粒子を含む害虫防除材3と、を備える、害虫防除用容器10。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を収容可能な害虫誘導色が付された容器本体と、
使用時に前記容器本体の内部に水と接するように配置される、酸化チタン粒子及び銀粒子を含む害虫防除材と、を備える、害虫防除用容器。
【請求項2】
前記害虫防除材が、前記害虫の表面エネルギーを低下させ、前記害虫の撥水機能を低下させることにより、前記害虫を水没させる表面活性機能を備えるものである請求項1に記載の害虫防除用容器。
【請求項3】
前記容器本体の色が黒色又は青色である請求項1又は2に記載の害虫防除用容器。
【請求項4】
前記容器本体の内壁の少なくとも一部に配置された、害虫を捕獲する粘着物をさらに備える請求項1又は2に記載の害虫防除用容器。
【請求項5】
前記害虫が人獣共通感染症の媒介をするものである請求項1又は2に記載の害虫防除用容器。
【請求項6】
前記害虫が蚊である請求項5に記載の害虫防除用容器。
【請求項7】
前記害虫防除材として、6~8cm×9~12cmに切り出されたハイドロ銀チタンシート(10.5g/m)を2~6枚備える請求項1又は2に記載の害虫防除用容器。
【請求項8】
前記容器本体の開放部に、害虫が侵入可能な貫通孔が複数形成された格子状蓋をさらに備える請求項1又は2に記載の害虫防除用容器。
【請求項9】
前記害虫防除材がシート状である請求項1又は2に記載の害虫防除用容器。
【請求項10】
前記シート状の害虫防除材に黒色又は青色が付されている請求項9に記載の害虫防除用容器。
【請求項11】
害虫誘導色が付された容器本体を用意し、
前記容器本体の内部に水を張り、
前記容器本体の内部に前記水と接するように、酸化チタン粒子及び金属粒子を含む害虫防除材を配置し、害虫の表面エネルギーを低下し前記害虫の撥水機能を低下させることにより、前記害虫を水没させる工程を含む害虫防除方法。
【請求項12】
前記容器本体の色を黒色又は青色とし前記害虫を前記容器本体に誘導させる請求項11に記載の害虫防除方法。
【請求項13】
前記容器本体の内壁の一部に、前記害虫を捕獲可能に粘着物を配置する工程をさらに含む請求項11又は12に記載の害虫防除方法。
【請求項14】
前記害虫が人獣共通感染症の媒介をする害虫である請求項11又は12に記載の害虫防除方法。
【請求項15】
前記害虫が蚊である請求項14に記載の害虫防除方法。
【請求項16】
前記容器本体を、屋内又は屋外の電源がない場所に配置する工程をさらに有する請求項11又は12に記載の害虫防除方法。
【請求項17】
前記容器本体の内部に有機物を導入し、前記害虫防除材と前記有機物とを反応させて二酸化炭素を発生させる工程をさらに含む請求項11又は12に記載の害虫防除方法。
【請求項18】
前記害虫防除材として、水100ccに対して、6~8cm×9~12cmに切り出されたハイドロ銀チタンシート(10.5g/m)を2~6枚添加する請求項11又は12に記載の害虫防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除用容器(キット)及びそれを用いた害虫防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の熱帯から温帯地域にかけて、未だに年間約7億2千万人の人々が蚊を媒介とする感染症に罹患して、その内200万から400万人が亡くなっていると推定されている。
これら多くの感染症に有効なワクチンおよび抗ウイルス薬は未だに開発途上である。このような現状では、媒介蚊を制御する方法の開発が感染症を抑制する唯一の方法であり期待がかかっている。しかし、マラリアが蚊によって媒介されることがわかって、100年以上経過した現在も蚊に有効な方法は見出されていない。
【0003】
蚊の駆除方法として、例えば幼若ホルモン様の活性化合物などを昆虫成長制御剤として成虫に暴露し、その成虫が水際に産卵することにより蚊の幼虫を駆除する方法として特許文献1の方法が知られている。しかし本方法で使用される、幼若ホルモン様の活性化合物は生態系への影響が懸念される。
【0004】
また、蚊の発生そのものを防止する方法として、特許文献2が知られている。本方法は、上面を大気に開放し、底部に排水口を設けた貯水部と排水口を開閉する排水弁と、排水弁の駆動制御手段とを備え、貯水部に水を貯えた日、一定時間経過後に排水弁を駆動して貯水部の水を排水することを特徴とする蚊の発生防止装置に関する。しかし、本方法は駆動装置を要し、複雑な構成であり、広範囲な蚊の発生地域では現実的ではない。
また、このほかに殺虫剤を散布したり、忌避剤などの防虫剤を皮膚に塗布する方法も一般的ではあるが、一時的なものであり、また多くの場合の有効成分である有機化合物の継続的な使用は健康上からも環境への影響からも望ましいとは言えない。さらに、薬剤で殺虫する方法は、薬剤耐性蚊を発生させることが懸念される。
【0005】
環境への影響が少なく、扱いが容易な蚊の発生防止方法として、本出願人により出願された特許文献3が挙げられる。本方法は、酸化チタン粒子、金属粒子及びリン酸カルシウム粒子を含んでなる複合粒子と蚊や蚊の卵を接触あるいは近接させることで効果的に殺虫し、蚊の発生を抑制することに関する。本方法により、特許文献1及び2の問題は解決された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-320001号公報
【特許文献2】特開2003-144031号公報
【特許文献3】国際公開第2019-225051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、特許文献3に係る方法の実施についてより具体的な検討を進めた過程で、さらなる解決すべき課題があることに着目した。
蚊が媒介する感染症は、熱帯及び亜熱帯地域の発症数が多く、経済的に貧しい人々の罹患率が高い傾向にある。したがって、電源が整備されていない場所でも使用可能であり、電池等の電源を使用することなく、低コストで、扱いが容易な蚊の防除用容器(キット)が求められていた。また、蚊は人間の生活空間に潜むことが多いことから、居間及び寝室等の居住空間では、例えば、殺虫剤による臭いが殆どなく、健康への影響が小さく、乳幼児が誤飲しても無害な蚊の防除用容器(キット)が求められていた。さらに、蚊は動物の血も吸うことから、ペットショップ及び養豚場等の畜産場においては、動物が誤飲しても無害で、安心して、安全に取り扱える蚊の防除用容器(キット)が求められていた。
以上より、本発明は、電源を使用することなく、低コストで取り扱いが容易であり、安心して使用できる害虫防除用容器(キット)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〈1〉
水を収容可能な害虫誘導色が付された容器本体と、使用時に前記容器本体の内部に水と接するように配置される、酸化チタン粒子及び銀粒子を含む害虫防除材と、を備える、害虫防除用容器。
〈2〉
害虫防除材が、前記害虫の表面エネルギーを低下させ、害虫の撥水機能を低下させることにより、害虫を水没させる表面活性機能を備えるものである〈1〉に記載の害虫防除用容器。
〈3〉
容器本体の色が黒色又は青色である〈1〉又は〈2〉に記載の害虫防除用容器。
〈4〉
容器本体の内壁の少なくとも一部に配置された、害虫を捕獲する粘着物をさらに備える〈1〉又は〈2〉に記載の害虫防除用容器。
〈5〉
害虫が人獣共通感染症の媒介をするものである〈1〉又は〈2〉に記載の害虫防除用容器。
〈6〉
害虫が蚊である〈5〉に記載の害虫防除用容器。
〈7〉
害虫防除材として、6~8cm×9~12cmに切り出されたハイドロ銀チタンシート(10.5g/m)を2~6枚備える〈1〉又は〈2〉に記載の害虫防除用容器。
〈8〉
容器本体の開放部に、害虫が侵入可能な貫通孔が複数形成された格子状蓋をさらに備える〈1〉又は〈2〉に記載の害虫防除用容器。
〈9〉
害虫防除材がシート状である〈1〉又は〈2〉に記載の害虫防除用容器。
〈10〉
シート状の害虫防除材に黒色又は青色が付されている〈9〉に記載の害虫防除用容器。
〈11〉
害虫誘導色が付された容器本体を用意し、容器本体の内部に水を張り、容器本体の内部に前記水と接するように、酸化チタン粒子及び金属粒子を含む害虫防除材を配置し、害虫の表面エネルギーを低下し前記害虫の撥水機能を低下させることにより、害虫を水没させる工程を含む害虫防除方法。
〈12〉
容器本体の色を黒色又は青色とし前記害虫を前記容器本体に誘導させる〈11〉に記載の害虫防除方法。
〈13〉
容器本体の内壁の一部に、害虫を捕獲可能に粘着物を配置する工程をさらに含む〈11〉又は〈12〉に記載の害虫防除方法。
〈14〉
害虫が人獣共通感染症の媒介をする害虫である〈11〉又は〈12〉に記載の害虫防除方法。
〈15〉
害虫が蚊である〈14〉に記載の害虫防除方法。
〈16〉
容器本体を、屋内又は屋外の電源がない場所に配置する工程をさらに有する〈11〉又は〈12〉に記載の害虫防除方法。
〈17〉
容器本体の内部に有機物を導入し、害虫防除材と前記有機物とを反応させて二酸化炭素を発生させる工程をさらに含む〈11〉又は〈12〉に記載の害虫防除方法。
〈18〉
害虫防除材として、水100ccに対して、6~8cm×9~12cmに切り出されたハイドロ銀チタンシート(10.5g/m)を2~6枚添加する〈11〉又は〈12〉に記載の害虫防除方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電源を使用することなく、低コストで取り扱いが容易で、安心して使用できる害虫防除用容器(キット)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、害虫防除用容器を示す図である。
図2図2は、害虫防除用容器の容器本体の一部切欠図である。
図3図3aはネッタイシマカの前期の幼虫を試験例、参考例又は比較例の容器に入れた場合の幼虫、蛹及び成虫の生存率を示す図である。図3bはネッタイシマカの後期の幼虫を試験例、参考例又は比較例の容器に入れた場合の蛹及び成虫の生存率を示す図である。
図4図4aはハマダラカの前期の幼虫を試験例、参考例又は比較例の容器に入れた場合の幼虫、蛹及び成虫の生存率を示す図である。図4bはハマダラカの後期の幼虫を試験例、参考例又は比較例の容器に入れた場合の蛹及び成虫の生存率を示す図である。
図5図5aは試験例区、参考例区又は比較例区におけるネッタイシマカ及びハマダラカのメスの蚊の水没率を示す図である。図5bは試験例区、参考例区又は比較例区におけるネッタイシマカ及びハマダラカのメスの蚊が産み付けた卵の孵化率を示す図である。
図6図6はネッタイシマカ及びハマダラカの前期及び後期の幼虫を試験例、参考例又比較例の容器に入れた場合の幼虫が成虫になるまでの成長時間を示す図である。
図7図7a、図7bは試験例に係るシャーレにおける蚊の水没実験の結果を示す図である。
図8図8は試験液に成虫の蚊を接触させた結果を示す図である。
図9図9a、図9bは比較例に係るシャーレにおける蚊の水没実験の結果を示す図である。
図10図10は比較液に成虫の蚊を接触させた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。図中同一の機能又は類似の機能を有するものについては、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
〔害虫防除用容器〕
図1は、害虫防除用容器(キット)10を示す図である。図1に示すように、害虫防除用容器10は、水を収容可能な害虫誘導色が付された容器本体1と、使用時に容器本体の内部に水と接するように配置される害虫防除材3と、を備える。害虫防除用容器10は、電源を使用することなく、低コストで取り扱いが容易で、安心して使用できる。
【0013】
害虫防除材3は、害虫の表面エネルギーを低下させ、害虫の撥水機能を低下させることにより、害虫を水没させる表面活性機能を備えるものであることが好ましい。
害虫が、飲水又は産卵のために水辺に近づき、害虫防除材を含有する水に接することで、瞬時に害虫を水没させることができるからである。
【0014】
害虫防除材3としては上記機能を備えるものであれば特に制限なく種々のものを使うことができる。例えば、酸化チタン粒子及び銀粒子を含む剤、重曹等が挙げられるが、酸化チタン粒子及び銀粒子を含む剤が好ましい。具体的には、ハイドロキシアパタイト粉末、銀粒子、酸化チタン粉末の複合体と、消泡剤と、フタロシアニンブルー(顔料)とを含んだ不織布シート(以下、「ハイドロ銀チタンシート」ともいう)(DR.C医薬株式会社製)を用いることができる。この場合、水100ccに対して、後述の製造例1,2に準じて製造され、6~8cm×9~12cm、好ましくは7cm×10~11cm程度に切り出されたハイドロ銀チタンシート(10.5g/m)を2~6枚添加することが好ましい。下限値未満では蚊の水没効果が得られず、上限値を超えると水没効果に大きな変化はみられなくなるからである。
【0015】
害虫防除材3の形態は、容器本体1に収容される水の表面活性機能が発揮されるのであれば特に制限されないが、例えばシート状又はビーズ状のものを用いることができるが、シート状のものが好ましい。害虫防除材は、害虫誘導色、例えば黒色又は青色が付されていることがより好ましい。害虫の駆除率が上がるからである。
【0016】
容器本体1の形態は内部に害虫防除材3と水を収容できるものであれば特に制限はないが、図1中の容器本体1の水収容部のX,Y,Z方向の採寸はX×Y×Z=10~12cm×6~8cm×10~12cmとすることができる。
【0017】
容器本体1には、害虫を容器本体に誘導する色が付されていることが好ましい。害虫の駆除率が上がるからである。容器本体1の色としては、害虫を容器本体に誘導する色であれば特に制限はないが、黒色又は青色であることが好ましい。
【0018】
容器本体1の開放部に、害虫が侵入可能な貫通孔51が複数形成された格子状蓋5をさらに備えることが好ましい。幼児やペットが容器本体内に配置された水を誤飲することを防止できるからである。
【0019】
図2は容器本体1の一部切欠図である。図2に示すように、容器本体1の内壁の少なくとも一部に害虫を捕獲する粘着物11をさらに備えても良い。仮に容器内部で蚊の幼虫が孵化して成虫になった場合であっても、蚊は水中から壁面を伝わって、飛び立つ性質があるため、内壁の一部に粘着物11を配置しておくことで蚊を捕獲することができるからである。
【0020】
本発明者は、特許文献3の実施化に向けて検討を進めた過程で、ハイドロ銀チタンシートを含漬させた水に、飲水又は産卵のために近づいてきた蚊がその水に触れると瞬時に水没することを発見した。その後、この現象を科学的に分析した結果、後述の図7図8に示すように、ハイドロ銀チタンシートを含漬させた水に蚊が触れると、その水に覆われることで水没することを解明した。本発明は上記発見及び分析に基づくものである。
特許文献3の発明は、蚊の卵の孵化の抑制及び蚊の幼虫であるボウフラの殺虫に着目しており、蚊の成虫を殺すことについては特に示唆はされていなかった。また蚊がハイドロ銀チタンシートを含漬させた水に水没することも示唆されていなかった。本発明はまさに驚くべきものである。
【0021】
〔防除対象となる害虫〕
防除対象となる害虫としては、人獣共通感染症の媒介をする害虫、例えば蚊が挙げられる。蚊の具体例とそれらが媒介する感染症とそれらの生息地域を以下に示す:
ヒトスジシマカ(デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症;温帯(日本など)・亜熱帯・熱帯地域)、
ネッタイシマカ(黄熱、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症;亜熱帯・熱帯地域)、
ハマダラカ類(マラリア;温帯・亜熱帯・熱帯地域)、
イエカ類(日本脳炎、ウエストナイル熱;温帯・亜熱帯・熱帯地域)。
【0022】
〔害虫防除方法〕
害虫防除容器の作用効果の説明も兼ねて、害虫防除方法について、害虫が蚊である場合を例に挙げて説明する。
(イ)まず図1に示すような害虫誘導色が付された害虫防除用容器10を用意する。
(ロ)そして蚊の防除が求められる箇所に図1の害虫防除用容器10を配置する。害虫防除用容器10は特に電源を必要としないため、屋内・屋外を問わず所望の場所に配置することができる。害虫防除用容器10は、人体への影響が懸念される農薬のような薬剤を使用しないため、臭いが殆どなく、健康への影響が小さい。そのため、乳幼児が誤飲しても無害であるので、自宅のリビング等でも安心して使用できる。また動物が誤飲しても無害であるので、ペットショップや養豚場等の畜産場においても安心して使用できる。従来、農薬を使用した害虫防除方法の場合、耐性虫の発生が懸念されていたが、害虫防除用容器10は農薬を使用しないため、耐性虫の発生を心配することなく安心して使用することができる。
【0023】
害虫防除用容器10を配置する時間帯は夜間が好ましい。蚊は夜間に飲水等の活動をする習性があるからである。また蚊は気温が15℃位から血を吸い始めて、30℃を超えると活動が鈍くなると言われている。蚊の活性を考慮すると、蚊の活性が高い25℃~30℃の温度の空間に害虫防除用容器10を配置することが好ましい。
【0024】
防除対象によって、害虫防除用容器の配置位置を選択したほうが好ましい場合がある。例えば、防除対象がヒトスジシマカ、ネッタイシマカ、イエカの場合は、容器本体を屋内に配置することが好ましい。ヒトスジシマカ等は主に屋内で繁殖するため屋内に配置することで捕獲率が向上するからである。その場合、部屋の片隅に配置することが好ましい。蚊は物陰に隠れる性質があるため、部屋の片隅に配置したほうが捕獲率の向上が期待できるからである。防除対象がハマダラカの場合は、容器本体を屋外に配置することが好ましい。ハマダラカは主に屋外、主に池や水たまりで繁殖することが多いため屋外の水辺付近に配置することで捕獲率が向上するからである。
【0025】
(ハ)次に、容器本体の内部に水を挿入する。水としては特に制限されることなく、水道水や井戸水等からの水を用いることができる。水の添加量は、害虫防除材3が水で覆われる程度で構わないが、水が蒸発することを考慮すると、それよりも多めが好ましい。水の具体的な添加量は、図1の容器本体1の水収容部のX,Y,Z方向の採寸を、X×Y×Z=11cm×7.5cm×11cmとした場合、100cc程度とすることができる。
(ニ)その後、容器本体の内部に水と接するように、酸化チタン粒子及び金属粒子を含む害虫防除材を配置する。害虫防除材が水に溶解することで、水の界面活性効果(超撥水効果)が向上し、蚊の水没効果が向上するからである。水100ccに対して6~8cm×9~12cm程度に切り出されたハイドロ銀チタンシート(10.5g/m)を2~6枚添加する。
【0026】
(ホ)蚊を容器内部に配置された水に接触させる。蚊が水に接することで、蚊の表面エネルギーが低下して、蚊の撥水機能が低下することで、蚊を水没させることができるからである。以上により、蚊を水没させることにより、蚊を捕獲することができる。
(ヘ)約2週間を目安に水やハイドロ銀チタンシート(10.5g/m)の交換をすることが好ましい。上述(ニ)の条件でハイドロ銀チタンシートを水に添加した場合、害虫防除効果は約2週間だからである。仮に水中で幼虫が孵化したとしても通常の水の中で育つよりも成長が抑制されるため(後述実施例の欄の試験例3参照)、2週間程度を目安に水等を交換することで、蚊が成虫になる前に幼虫を破棄することで、蚊の成虫の発生を抑制することができるからである。
なお、説明の便宜上、工程毎に説明したが、(ロ)、(ハ)、(ニ)の工程の順は特に制限されない。例えば、水や害虫防除剤が予め収容された害虫防除用容器を所望の場所に配置しても構わないし、害虫防除用容器に害虫防除剤を配置した後に水を添加しても構わない。
【0027】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0028】
容器本体の内部の収容部には、水と害虫防除剤が配置される旨を説明したが、それらには限定されない。例えば、害虫防除材と反応して二酸化炭素を発生する有機物をさらに水に添加してもよい。蚊は二酸化炭素の匂いを好む性質があるため、匂いで蚊を誘導することで、蚊の捕獲率を上げることが期待できるからである。
【0029】
容器本体に害虫誘導色を付する態様を説明したが、それに限定されることない。例えば、容器本体を透明または半透明とし、容器本体の一部又は近傍に発光体(例えばLED電球等)を配置することで、害虫誘導色を発する構成としても良い。又は容器本体を有色(害虫誘導色)半透明とし、容器本体の一部又は近傍に発光体を配置することで、害虫誘導色を発する構成としても良い。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
害虫防除用容器及びそれを用いた害虫防除方法は特に電源を必要としないため、屋内・屋外を問わず所望の場所に配置することができる。害虫防除用容器及びそれを用いた害虫防除方法は、人体への影響が懸念される農薬のような薬剤を使用しないため、臭いが殆どなく、健康への影響が小さい。そのため、乳幼児が誤飲しても無害であるので、自宅のリビング等でも安心して使用できる。また動物が誤飲しても無害であるので、ペットショップや養豚場等の畜産場においても安心して使用できる。従来、農薬を使用した害虫防除方法の場合、耐性虫の発生が懸念されていたが、害虫防除用容器及びそれを用いた害虫防除方法は農薬を使用しないため、耐性虫の発生を心配することなく安心して使用することができる。
【実施例0031】
以下、試験例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明の範囲は、これらの試験例によって限定されるものではない。
【0032】
[製造例1]:複合粒子の製造
本製造例では、酸化チタン粉末、銀粉末及びハイドロキシアパタイト粉末を原料粉末として使用し、1個以上の酸化チタン粒子、1個以上の銀粒子及び1個以上のハイドロキシアパタイト粒子を含んでなる複合粒子M2を製造した。
【0033】
酸化チタン粉末、銀粉末及びハイドロキシアパタイト粉末の合計配合量は、水65質量部に対して、35質量部に調整した。ポリカルボン酸系分散剤の配合量は、酸化チタン粉末、銀粉末及びハイドロキシアパタイト粉末の合計配合量35質量部に対して、0.5質量部に調整した。また酸化チタン粉末の配合量を、銀粉末1質量部に対して約30質量部(29~31質量部)に調整し、ハイドロキシアパタイト粉末の配合量を、銀粉末1質量部に対して約3質量部(2.5~3.5質量部)に調整した。
【0034】
複合粒子の懸濁液(スラリー)を乾燥することにより、複合粒子M2を製造した。レーザー回折法により測定された複合粒子M2の粒子径は、200~500nmであった。レーザー回折法により体積基準で測定された複合粒子M2のメディアン径(d50)は、約300nmであった。レーザー回折法による粒子径の測定は、市販の粒子径分布測定装置、具体的にはレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置Partica(パーティカ)LA-960V2シリーズ(HORIBA社製)を使用して測定した。
【0035】
[製造例2]:複合粒子付着不織布の製造
製造例1で得られた複合粒子M1の懸濁液(スラリー)にバインダ樹脂を加えて混合液を調製した後、ポリエステル製スパンポンド不織布を混合液に浸漬し、不織布に混合液を含浸させた。浸漬後、混合液から不織布を取り出し、ローラーでプレスして余剰の混合液を絞り出した。プレス後、不織布を約130℃で約1分間乾燥して、複合粒子付着不織布A1を製造した。バインダ樹脂としては、ウレタン系樹脂(CNO/NHCOOC)を使用した。
【0036】
混合液中の複合粒子M2及びバインダ樹脂の濃度を調整することにより、複合粒子付着不織布A2の単位面積あたりの複合粒子M2及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)を10.5g/mに調整した。
10.5g/mの内訳は、酸化チタン6.525g/m、ハイドロキシアパタイト0.750g/m、銀0.225g/m、バインダ樹脂3.00g/mであった。
【0037】
[試験例1]ハイドロ銀チタンシートによる蚊の幼虫の蛹化、羽化抑制試験
本試験では、水が入った容器にハイドロ銀チタンで処理した不織布と蚊の幼虫を入れ、未処理の不織布の場合と比較することにより、ハイドロ銀チタンで処理した不織布による蚊の幼虫、蛹(さなぎ)、成虫の生存に対する影響を調べた。なお、昆虫の幼虫が蛹になることを「蛹化(ようか)」といい、昆虫が成育して蛹や幼虫から成虫になることを「羽化」という。
1.試験方法
1-1.材料
(1)試料
(i)試料1
試料1として、製造例1,2と同様の手法により製造された、ハイドロキシアパタイト粉末、銀粒子、酸化チタン粉末の複合体を13.5g、消泡剤、フタロシアニンブルー(顔料)を含んだ不織布シート(以下、「ハイドロ銀チタンシート」という)(長さ1m×幅1m)(DR.C医薬株式会社製)を用いた。試料1は本実施例に該当する。
(ii)試料2
試料2として、消泡剤及びフタロシアニンブルー(顔料)が含まれている青色の不織布シートを用いた。試料2は参考例に相当し、シートの色の影響を検証するために用いた。
(iii)試料3
試料3として、消泡剤及びフタロシアニンブルー(顔料)が含まれていない白色の不織布シートを用いた。試料3は比較例に相当する。
【0038】
(2)容器
(i)試験例
250mLプラスチック容器(直径7.6cm、高さ5.5cm)に100mLのRO水を加え、容器に長さ11cm×幅11cmのサイズに切断した試料1を入れ、RO水に浸した。長さ11cm×幅11cmのサイズに切断した試料1には0.1635gのハイドロキシアパタイト粉末、銀粒子、酸化チタン粉末が含まれていた。試料1が入った容器を「試験例」とした。
(ii)参考例
長さ11cm×幅11cmのサイズに切断した試料2を250mLプラスチック容器内に入れた以外は試料1と同様にしたものを参考例とした。試料2が入った容器を「参考例」とした。
(iii)比較例
長さ11cm×幅11cmのサイズに切断した試料3を250mLプラスチック容器内に入れた以外は試料1と同様にしたものを比較例とした。試料3が入った容器を「比較例」とした。
以下、図中において、試験例を「HATs」、参考例を「BC」、比較例を「WC」と略記する。
【0039】
(3)蚊
(i)蚊の成虫
実験室内で継代したネッタイシマカ(Aedes Aegypti)(Bora Bora strain)及びハマダラカ(Anopheles dirus)(Khao Mai Kaew strain)を用いた。これらの蚊の卵はプラスチックのトレイ(長さ20cm×幅30cm×高さ5cm)で孵化させた。孵化した後の200匹の幼虫を、1500mLの脱塩素処理水が入ったプラスチックトレイで飼育し、毎日、魚用の餌(Optimum Hi Pro Growth and Color, Perfect Companion Group, Bangkok, Thailand)を与えた。蛹はプラスチック容器に移し、羽化するまでケージ(長さ20cm×幅20cm×高さ30cm)で飼育した。成虫の蚊には、脱脂綿に5%砂糖水を含ませ、餌として与えた。これらは温度25±2℃、相対湿度65±10%の昆虫飼育室(マヒドル大学熱帯医療学部医療昆虫学科内の昆虫飼育室(Department of Medical Entomology, Faculty of Tropical Medicine, Mahidol University))で飼育した。ネッタイシマカは、亜熱帯、熱帯地域に生息しており、媒介する感染症として黄熱、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、フィラリア症等が挙げられる。ハマダラカは、温帯、亜熱帯、熱帯地域に生息しており、媒介する感染症としてマラリア、フィラリア等が挙げられる。
(ii)前期の蚊の幼虫
250mLプラスチック容器に100mLのRO水を加え、容器に試料1、試料2又試料3を入れ、水中に沈めた後、蚊の卵を容器に入れ、1日から2日間蚊の卵を水に浸した。孵化した幼虫(第1齢幼虫から第2齢幼虫まで)を「前期の幼虫」として使用した。
(iii)後期の蚊の幼虫
100mLのRO水中において卵から孵化した幼虫に、毎日魚の餌(Optimum Hi Pro Growth and Color)を与え、第3齢幼虫から第4齢幼虫の段階に達するまで、温度25±2℃で飼育した。第3齢幼虫から第4齢幼虫の段階の幼虫を「後期の幼虫」として使用した。
【0040】
1-2.試験手順
(1)試験条件
20匹の前期又は後期の蚊の幼虫を試験例、参考例又比較例の容器に入れた。この処理を各条件につき5個の容器で行い、3回繰り返し行った。
(2)飼育条件
幼虫に、毎日、0.0046±0.0008gの魚の餌(Optimum Hi Pro Growth and Color)を与え、成虫になるまで、温度25±2℃で飼育した。
(3)幼虫、蛹、成虫の個体数のカウント及び生存率の計算
容器の中の幼虫、蛹、成虫の個体数を毎日記録し、以下の式を使用して生存率を計算した。
生存率=(幼虫、蛹又は成虫の個体数)/(試験された幼虫の個体数)×100
【0041】
2.試験結果
図3aは、ネッタイシマカの前期の幼虫を試験例、参考例又は比較例の容器に入れた場合の幼虫、蛹及び成虫の生存率の結果である。ネッタイシマカの前期の幼虫を試験例の容器に入れた場合、前期の幼虫の生存率、すなわち、完全に成虫まで育った比率は、0.34%であった。
これに対して、ネッタイシマカの前期の幼虫を参考例の容器に入れた場合は、後期の幼虫の生存率が18%、蛹の生存率が16%、成虫の生存率が14%であり、生存率が徐々に減少した。
ネッタイシマカの前期の幼虫を比較例の容器に入れた場合は、前期の幼虫の生存率が93%であり、これらの幼虫は成虫になるまで育った。すなわち、比較例の容器の場合、ネッタイシマカの成虫の生存率は、93%であった。
【0042】
図3bはネッタイシマカの後期の幼虫を試験例、参考例又は比較例の容器に入れた場合の蛹及び成虫の生存率の結果である。
ネッタイシマカの後期の幼虫を試験例の容器に入れた場合、蛹の生存率は9%であり、成虫の生存率は9%であった。
これに対して、参考例の容器の場合は、蛹の生存率が52%であり、成虫の生存率が50%であった。
比較例の容器の場合は、蛹の生存率が96%であり、成虫の生存率が96%であった。
【0043】
図4aはハマダラカの前期の幼虫を試験例、参考例又は比較例の容器に入れた場合の幼虫、蛹及び成虫の生存率の結果である。ハマダラカの前期の幼虫を試験例の容器に入れた場合、生存している蛹及び成虫はなく、蛹及び成虫の生存率は0%であった。これに対し、ハマダラカの前期の幼虫を参考例の容器に入れた場合は、蛹の生存率が14%、成虫の生存率が14%であった。ハマダラカの前期の幼虫を比較例の容器に入れた場合は、後期の幼虫の生存率が約92%、蛹の生存率が約87%、成虫の生存率が約85%であり、試験例、参考例よりかなり高かった。
【0044】
図4bはハマダラカの後期の幼虫を試験例、参考例又は比較例の容器に入れた場合の蛹及び成虫の生存率の結果である。ハマダラカの後期の幼虫を試験例の容器に入れた場合、生存している蛹及び成虫はなく、蛹及び成虫の生存率は0%であった。ハマダラカの後期の幼虫を参考例の容器に入れた場合、蛹はわずかに生存していたが、生存している成虫はいなかった。ハマダラカの後期の幼虫を比較例の容器に入れた場合、蛹、成虫の生存率は約90%であり、かなり高かった。
以上より、ハイドロ銀チタンシートが入った容器は、蚊の種類、蚊の幼虫の齢数を問わず、蚊の幼虫に対する殺虫効果があり、蚊の発生を有意に抑制できることがわかった。
【0045】
[試験例2]ハイドロ銀チタンシートによる蚊の水没及び卵の孵化抑制試験
本試験では、ハイドロ銀チタンで処理した不織布と水が入った容器をケージの中に設置し、そこに受精後に吸血させたメスの蚊を入れた。そして、未処理の不織布の場合と比較することにより、ハイドロ銀チタンで処理した不織布による蚊の水没、産み付けられた卵の数、産み付けられた卵の孵化に対する影響を調べた。
1.試験方法
1-1.材料
(1)試料
(i)試料1
試料1として、ハイドロ銀チタンシート(DR.C医薬株式会社製)を用いた。試料1は本実施例に該当する。
(ii)試料2
試料2として、消泡剤及びフタロシアニンブルー(顔料)が含まれている青色の不織布シートを用いた。試料2は参考例に相当し、シートの色の影響を検証するために用いた。
(iii)試料3
試料3として、消泡剤及びフタロシアニンブルー(顔料)が含まれていない白色の不織布シートを用いた。試料3は比較例に相当する。
【0046】
(2)産卵容器
(i)試験例
ネッタイシマカに対しては、250mLプラスチック容器に80mLのRO水を加え、容器に長さ11cm×幅11cmのサイズに切断した試料1を1枚、長さ5.5cm×幅5.5cmのサイズに切断した試料1を2枚入れ、RO水に浸した。
ハマダラカに対しては、250mLプラスチック容器に80mLのRO水を加え、容器に長さ5.5cm×幅5.5cmのサイズに切断した試料1を4枚入れ、RO水に浸した。
(ii)参考例
試料2を250mLプラスチック容器内に入れた以外は試験例と同様にしたものを参考例とした。試料2が入った容器を「参考例」とした。
(ii)比較例
試料3を250mLプラスチック容器内に入れた以外は試験例と同様にしたものを比較例とした。試料3が入った容器を「比較例」とした。
【0047】
(3)蚊
(i)蚊の成虫
実験室内で継代したネッタイシマカ(Aedes Aegypti)(Bora Bora strain)及びハマダラカ(Anopheles dirus)(Khao Mai Kaew strain)を用いた。これらの蚊の卵はプラスチックのトレイ(長さ20cm×幅30cm×高さ5cm)で孵化させた。孵化した後の200匹の幼虫を、1500mLの脱塩素処理水が入ったプラスチックトレイで飼育し、毎日、魚用の餌(Optimum Hi Pro Growth and Color, Perfect Companion Group, Bangkok, Thailand)を与えた。蛹はプラスチック容器に移し、羽化するまでケージ(長さ20cm×幅20cm×高さ30cm)で飼育した。成虫の蚊には、脱脂綿に5%砂糖水を含ませ、餌として与えた。これらは温度25±2℃、相対湿度65±10%の昆虫飼育室(マヒドル大学熱帯医療学部医療昆虫学科内の昆虫飼育室)で飼育した。
【0048】
1-2.試験手順
(1)試験条件
(i)メスの蚊の水没
30匹の完全に吸血した受精したメスの蚊(fully blood-fed inseminated female mosquitoes)に4日間吸血させた後、このメスの蚊をケージ(長さ30cm×幅30cm×高さ40cm)の中に入れた。次に、ケージの中に、試験例、参考例又は比較例の容器を入れた(試験例の容器が入れられたケージを「試験例区」、参考例の容器が入れられたケージを「参考例区」、比較例の容器が入れられたケージを「比較例区」とした)。3日後、容器の中で水没したメスの蚊、産み付けられた卵の数を記録した。これを3回繰り返し行った。
(ii)卵の孵化
試験例、参考例又は比較例の容器の中の不織布に産みつけられたハマダラカの卵は、孵化するまで同じ容器の中で静置した。ネッタイシマカの卵は、27℃から29℃で3日間乾燥させた後、容器の中の水に浸した。一週間、孵化した幼虫の数を数え、記録した。
【0049】
2.試験結果
図5aは試験例区、参考例区又は比較例区におけるネッタイシマカ及びハマダラカのメスの蚊の水没の結果である。ネッタイシマカについて、産卵容器内で水没したメスの蚊の比率は、試験例区が0.0667、参考例区が0.0556であり、比較例区においては、水没した蚊は見られなかった。ハマダラカについては、産卵容器内で水没したメスの蚊の比率は、試験例区が0.5889、参考例区が約0.42、比較例区が0.0111であった。
【0050】
試験例区、参考例区又は比較例区におけるネッタイシマカ及びハマダラカのメスの蚊が産み付けた卵の数について、結果を表1に示す。90匹のネッタイシマカのメスの蚊が産卵容器内に産み付けた卵の数は、試験例区が661個、参考例区が2905個、比較例区が6143個であり、試験例区が最も少なかった。90匹のハマダラカのメスの蚊が産卵容器内に産み付けた卵の数は、試験例区が1936個、参考例区が3311個、比較例区が8222個であり、試験例区が最も少なかった。
【0051】
図5bは試験例区、参考例区又は比較例区におけるネッタイシマカ及びハマダラカのメスの蚊が産み付けた卵の孵化率の結果である。ネッタイシマカについて、産み付けられた卵の孵化率は、試験例区が0.4311、参考例区が0.5232、比較例区が0.7935であった。ハマダラカについては、産み付けられた卵の孵化率は、試験例区が0.2959、参考例区が約0.68、比較例区が0.7341であった。
以上より、本発明のハイドロ銀チタンシートが入った容器は、蚊の種類を問わず、蚊を水没させ、蚊の産卵及び孵化率を有意に抑制できることがわかった。
【0052】
【表1】
【0053】
[試験例3] ハイドロ銀チタンシートによる蚊の幼虫の成長時間抑制試験
本試験では、水が入った容器にハイドロ銀チタンで処理した不織布と蚊の前期の幼虫を入れ、生存した蚊の幼虫が成虫になるまでの日数を未処理の不織布の場合と比較することにより、ハイドロ銀チタンで処理した不織布による蚊の幼虫が成虫になるまでにかかる時間の影響を調べた。
1.試験方法
1-1.材料
(1)試料
試料は、試験例1に記載の試料1、試料2、試料3を用いた。
(2)容器
容器は、試験例1の記載と同様に、試験例、参考例、比較例の容器を用いた。
(3)蚊
前期及び後期の幼虫は、試験例1の記載と同様に、ネッタイシマカ(Aedes Aegypti)(Bora Bora strain)及びハマダラカ(Anopheles dirus)(Khao Mai Kaew strain)の前期及び後期の幼虫を用いた。
【0054】
1-2.試験手順
(1)試験条件
20個体の前期又は後期の蚊の幼虫を試験例、参考例又比較例の容器に入れた。この処理を各条件につき5個の容器で行い、3回繰り返し行った。
(2)飼育条件
幼虫は、毎日、0.0046±0.0008gの魚の餌(Optimum Hi Pro Growth and Color)が与えられ、成虫になるまで、温度25±2℃で飼育された。
(3)幼虫、蛹、成虫の個体数のカウント及び生存率の計算
容器の中の幼虫、蛹、成虫の個体数を毎日記録した。
【0055】
2.試験結果
図6はネッタイシマカ及びハマダラカの前期及び後期の幼虫を試験例、参考例又比較例の容器に入れた場合の幼虫が成虫になるまでの成長時間の結果である。
ネッタイシマカの前期の幼虫について、容器内で生存した前期の幼虫は、試験例の容器の場合が1匹、参考例の容器の場合が9匹であり、比較例の容器には多く生存していた(図6a)。したがって、ネッタイシマカの前期の幼虫を試験例の容器に入れた場合の生存率は、参考例及び比較例に比べて著しく低かった。ネッタイシマカの後期の幼虫について、容器内で生存した後期の幼虫は、試験例の容器の場合が3匹であり、参考例及び比較例の容器の場合には多く生存していた(図6b)。したがって、ネッタイシマカの後期の幼虫を試験例の容器に入れた場合の生存率は、参考例及び比較例に比べて著しく低かった。
容器の中で生存したネッタイシマカの後期の幼虫が成虫になるまでの成長時間は、試験例の容器の場合が約5日間から7日間であり、参考例の容器の場合、成長時間の中央値が約4.5日間であり、比較例の容器の場合、成長時間の中央値が5日間であった(図6b)。したがって、試験例の容器に入れたネッタイシマカの後期の幼虫の成長時間は、参考例及び比較例の容器に入れた場合と比べて長かった。
【0056】
ハマダラカの前期の幼虫を試験例の容器に入れた場合、容器内に生存した前期の幼虫はいなかった。これに対して、参考例の容器には6匹の幼虫が生存し、比較例の容器には多くの幼虫が生存した(図6c)。ハマダラカの前期の幼虫が成虫になるまでの成長時間について、試験例の容器は、生存した幼虫がいなかったため、算出することができなったが、参考例の容器の場合は約9日間~14日間であり、比較例の容器の場合、成長時間の中央値が約10日間であった。
ハマダラカの後期の幼虫を試験例又は参考例の容器に入れた場合、容器内に生存した後期の幼虫はいなかった。これに対して、比較例の容器には多くの幼虫が生存した(図6d)。ハマダラカの後期の幼虫が成虫になるまでの成長時間は、試験例及び参考例の容器に生存した幼虫がいなかったため算出することができなかった。
以上より、本発明のハイドロ銀チタンシートが入った容器は、蚊の幼虫に対して殺虫効果があり、蚊の幼虫が成虫になるまでの成長時間を長くする効果があることから、蚊の発生を有意に抑制できることがわかった。
【0057】
[試験例4]ハイドロ銀チタンシートによる蚊の水没試験
本試験では、水とハイドロ銀チタンで処理した不織布が入った容器から採取した水に蚊を接触させ、未処理の水との接触の場合と比較することにより、ハイドロ銀チタンで処理した不織布による蚊の水没、水へのなじみやすさに対する影響を調べた。
1.試験方法
1-1.材料
(1)試料
長さ4cm×幅4cmに切断したハイドロ銀チタンシート(DR.C医薬株式会社製)を用いた。
(2)容器
(i)試験例
直径3cmのシャーレに超純水(MilliQ水)を4mL加え、細かく切断した試料をシャーレに入れ、MilliQ水に浸した。試験例の容器から採取した水を「試験液」とする。
(ii)比較例
直径3cmのシャーレにMilliQ水を4mL加えた。比較例の容器から採取した水を「比較液」とする。
【0058】
1-2.試験手順
(1)試験条件
(i)試験例又は比較例のシャーレに成虫の蚊を1匹入れ、水没するかどうかを観察した。
(ii)試験例又は比較例から採取した試験液又は比較液をスポイトでガラス表面に垂らし、垂らした試験液又は比較液に成虫の蚊を接触させ、蚊が試験液又は比較液に弾かれるかどうかを観察した。
【0059】
2.試験結果
図7図9は試験例又は比較例のシャーレにおける蚊の水没についての結果である。
図7に示すように、試験例のシャーレの中の水に対して、蚊は水没した。一方、図9に示すように、比較例のシャーレの水に対して、蚊は水没しなかった。
図8図10は試験液又は比較液に成虫の蚊を接触させた結果である。
図8に示すように、試験液に蚊を接触させた場合、蚊は試験液に弾かれずになじんだ。一方、図10に示すように比較液の場合、蚊は比較水に弾かれ、水なじみが悪かった。
【0060】
[試験例5]ハイドロ銀チタンシートを入れた容器の水の水質の安全性試験
本試験では、ハイドロ銀チタンで処理した不織布を入れた容器の水の水質を検査し、安全性を検証した。
1.試験方法
1-1.材料
(1)試料
ハイドロ銀チタンシート(DR.C医薬株式会社製)を用いた。
【0061】
1-2.試験手順
(1)試験条件
容器に純水を加え、試料を入れて水に浸し、12時間、14時間、72時間静置し、水質検査を行った。
(2)試験実施場所
長野県工業技術総合センター
【0062】
2.試験結果
検出された元素及び72時間後のイオン種の量を飲料水における水質基準(水道以外の水や地下水を水源の全部または一部として飲料水を供給する場合)と比較した結果を表2に示す。試料1を入れた容器に注水された純水の硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素は0.038mg/l、銅およびその化合物は0.0004mg/l、ナトリウムおよびその化合物は1.656mg/l、カルシウム、マグネシウム等(硬度)は1.607mg/lであり、飲用水の水質基準内に入っていた。したがって、ハイドロ銀チタンシートを入れた容器に注水された純水は、安全性を損なわないことが分かった。
【0063】
【表2】
【符号の説明】
【0064】
1 容器本体
3 害虫防除材
5 格子状蓋
8 水
10 害虫防除用容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10