(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171406
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】陰イオン検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/06 20060101AFI20241205BHJP
F22B 37/38 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N27/06 A
F22B37/38 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088383
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】中土 雄太
(72)【発明者】
【氏名】澤津橋 徹哉
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA06
2G060AC02
2G060AE17
2G060AF08
2G060FA15
2G060FB01
2G060HB06
(57)【要約】
【課題】陰イオンをさらに精度高く検出することが可能な陰イオン検出装置を提供する。
【解決手段】陰イオン検出装置は、複数種類のイオンを含む試料水が流通する供給管と、予熱器と、予熱された試料水をさらに加熱して分離対象となるイオンに由来する物質を含む蒸気とドレン水とに分離する加熱槽と、加熱槽からドレン水を取り出す排出管と、排出管上に設けられ、残存した分離対象となるイオンを除去するイオン交換樹脂を有するイオン交換部と、ドレン水に含まれる陰イオンの濃度を検出する濃度検出部と、を備え、加熱槽は、槽本体と、予熱された試料水が貯留される貯留部と、貯留部に設けられ、試料水を加熱して蒸気を発生させる加熱部と、蒸気を槽本体の外部に排出する排出部と、を有し、排出管の入口側端部は、加熱槽における定常時の液面よりも下方に位置している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のイオンを含む試料水が流通する供給管と、
該供給管上に設けられ、前記試料水を予熱する予熱器と、
前記予熱された前記試料水をさらに加熱することで、前記複数種類の前記イオンのうち、分離対象となるイオンに由来する物質を含む蒸気とドレン水とに分離する加熱槽と、
前記加熱槽から前記ドレン水を取り出す排出管と、
前記排出管上に設けられ、前記ドレン水に残存した前記分離対象となる前記イオンを除去するイオン交換樹脂を有するイオン交換部と、
前記排出管上における前記イオン交換部の下流側に設けられ、前記ドレン水に含まれる陰イオンの濃度を検出する濃度検出部と、
を備え、
前記加熱槽は、
槽本体と、
該槽本体の上部に設けられ、前記予熱された前記試料水を供給する供給部と、
該槽本体の内部に配置された充填物と、
前記槽本体の下方に設けられ、前記予熱された試料水が貯留される貯留部と、
該貯留部に設けられ、前記試料水を加熱して蒸気を発生させる加熱部と、
前記蒸気を前記槽本体の外部に排出する排出部と、
を有し、
前記排出管の入口側端部は、前記加熱槽における定常時の液面よりも下方に位置している陰イオン検出装置。
【請求項2】
前記排出管は、前記加熱槽に連通するとともに、該加熱槽から下流側に離間するに従って上方に向かう第一区間と、該第一区間に連通するとともに該第一区間から下流側に離間するに従って下方に向かう第二区間と、を有する請求項1に記載の陰イオン検出装置。
【請求項3】
前記排出管上に設けられた圧力調整弁をさらに有する請求項1又は2に記載の陰イオン検出装置。
【請求項4】
前記供給部、及び前記排出部にそれぞれ設けられた加熱槽圧力調整弁をさらに備える請求項1又は2に記載の陰イオン検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、陰イオン検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントの水・蒸気サイクルでは、系統の機器や配管が腐食により損傷するのを防ぐために、塩化物イオンや硫酸イオンをはじめとした腐食原因となる成分が混入しないよう厳しく管理がなされている。しかしながら、復水器の冷却配管の破損による海水漏洩や、補給水製造装置の動作不良などの要因により、上記の不純物成分が水・蒸気サイクルに混入してしまう場合もある。不純物が混入した場合は、不純物による汚染範囲および腐食影響をできる限り最小限にとどめるために、系統水ブローによる不純物の系外排出、pH低下防止のための薬品添加、漏洩発生配管の施栓、プラント運転停止などの対策を早急に実施する必要がある。そのためには不純物混入を速やかに検知することが重要であり、水・蒸気サイクル中の不純物監視のために多くのプラントで酸電気伝導率の計測が行われている。
【0003】
酸電気伝導率は、水・蒸気サイクルから採取した試料水をまず陽イオン交換樹脂に通水するなどして陽イオン成分を除去した後に電気伝導率を計測する手法である。水・蒸気サイクルには、腐食抑制のためにアンモニアなどの水処理剤が添加されている。微量の不純物が混入した場合は、不純物濃度よりも水処理剤濃度の方がはるかに大きいため、不純物混入による電気伝導率の変化は水処理剤による電気伝導率に比べて非常に小さく、そのまま電気伝導率を計測しても不純物の混入を確認することはできない。そこで、水処理剤(アンモニアなど)を陽イオン交換樹脂などで除去することにより、水処理剤による電気伝導率上昇をなくし、かつ、陽イオンのカウンターイオンをH +に交換して不純物濃度あたりの電気伝導率を大きくすることで、電気伝導率による高感度な不純物混入検知を可能としている。
【0004】
この種の検知方法・装置の具体例として、下記特許文献1に記載されたものが知られている。下記特許文献1には、給水および蒸気中の二酸化炭素を除去して酸電気伝導率を計測する手法として、脱ガス酸電気伝導率計が開示されている。試料の脱ガス前処理を行ってから酸電気伝導率の計測を行うことで、溶存ガスの影響なく酸電気伝導率を計測する手法である。本手法では、対象試料を加熱して二酸化炭素を脱気除去することで、二酸化炭素の影響なく酸電気伝導率が計測可能なシステムとしている。
【0005】
ここで、近年では、給水に注入するアンモニア濃度を従来よりも高くして、腐食に対する耐性を高めたいという強い要請がある。しかしながら、従来のシステムでは、始めに陽イオン交換樹脂でアンモニアを除去するため、給水のアンモニア濃度が高くなった場合には陽イオン交換樹脂の破過時間が短くなり、陽イオン交換樹脂の交換頻度が増加してしまう。その結果、メンテナンス作業負荷の増大および装置の運用コストの上昇を招く虞がある。
【0006】
そこで、加熱槽内に試料水を導き、槽の下部で蒸気を発生させつつ、上方から液相の試料水を供給し続けることで、液相に溶解しているアンモニアおよび二酸化炭素を蒸気に回収することで、液相のアンモニアおよび二酸化炭素を高効率に除去する技術が提唱されている。加熱槽からドレン水として排出される液体には、微量のアンモニアイオンのみが含まれている状態となる。このドレン水をイオン交換樹脂に通水させることで、アンモニアイオンが除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の加熱槽を用いる技術では、ドレン水を外部に導くに当たって、排出管に当該ドレン水とともに蒸気が混入してしまう場合がある。この場合、試料水の蒸気に含まれているアンモニアや二酸化炭素がドレン水に混入し、これら成分の濃度が高くなってしまうという課題がある。結果として、これらアンモニアイオン、及び炭酸イオンの除去効率が低下し、検出対象である塩化物イオン等の不揮発性のイオンの検出精度が低下してしまう。
【0009】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、陰イオンをさらに精度高く検出することが可能な陰イオン検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示に係る陰イオン検出装置は、複数種類のイオンを含む試料水が流通する供給管と、該供給管上に設けられ、前記試料水を予熱する予熱器と、前記予熱された前記試料水をさらに加熱することで、前記複数種類の前記イオンのうち、分離対象となるイオンに由来する物質を含む蒸気とドレン水とに分離する加熱槽と、前記加熱槽から前記ドレン水を取り出す排出管と、前記排出管上に設けられ、前記ドレン水に残存した前記分離対象となる前記イオンを除去するイオン交換樹脂を有するイオン交換部と、前記排出管上における前記イオン交換部の下流側に設けられ、前記ドレン水に含まれる陰イオンの濃度を検出する濃度検出部と、を備え、前記加熱槽は、槽本体と、該槽本体の上部に設けられ、前記予熱された前記試料水を供給する供給部と、該槽本体の内部に配置された充填物と、前記槽本体の下方に設けられ、前記予熱された試料水が貯留される貯留部と、該貯留部に設けられ、前記試料水を加熱して蒸気を発生させる加熱部と、前記蒸気を前記槽本体の外部に排出する排出部と、を有し、前記排出管の入口側端部は、前記加熱槽における定常時の液面よりも下方に位置している。
【発明の効果】
【0011】
本開示の陰イオン検出装置によれば、陰イオンをさらに精度高く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施形態に係る陰イオン検出装置の構成を示す全体図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る加熱槽の要部拡大図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る加熱槽の第一変形例を示す要部拡大図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る加熱槽の第二変形例を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(陰イオン検出装置の構成)
以下、本開示の実施形態に係る陰イオン検出装置1について、
図1と
図2を参照して説明する。この陰イオン検出装置1は、蒸気タービンプラントの給水や復水、ドラム水、及び蒸気中に含まれる陰イオンの濃度を検出・測定するための装置である。蒸気タービンプラントでは、高温の蒸気を液相状態に戻すための復水器が設けられている。復水器は、海水等を冷却媒体として用いることで、当該海水と蒸気との間で熱交換をさせる熱交換器である。ここで、復水器中の冷媒配管が破損した場合には、海水等の冷媒が給水中に漏洩し、配管や各種の装置を損壊する虞がある。
【0014】
そこで、陰イオン検出装置1は、検出対象の陰イオンとしての塩化物イオン(Cl-)などの腐食原因成分を含む陰イオンを検出することを目的として用いられる。他方で、給水中には、配管の腐食防止のため、アンモニアやヒドラジン等の水処理剤が注入されている。陰イオン検出装置1は、これらの成分による影響を受けずに塩化物イオン等の陰イオンの濃度を検出・測定する。
【0015】
図1に示すように、陰イオン検出装置1は、供給管10と、予熱器11と、加熱槽12と、排出管13と、イオン交換部14と、濃度検出部15と、第一熱交換器16aと、第二熱交換器16bと、第一流量計17aと、第二流量計17bと、蒸気排出管18と、を備える。
【0016】
供給管10は、蒸気タービンプラントの給水や復水、ドラム水、及び蒸気などから採取された試料水が流通する配管である。供給管10は、上流側の端部である入口から加熱槽12にかけて延びている。供給管10上には、上流側から下流側に向かって順に、第一流量計17a、第一熱交換器16a、第二熱交換器16b、及び予熱器11が配置されている。
【0017】
第一流量計17aは、供給管10を流れる試料水の流量を計測し、外部に数値として送信する。詳しくは後述するが、第一熱交換器16a、及び第二熱交換器16bでは、加熱槽12から導かれた蒸気、及びドレン水と試料水との間で熱交換が行われる。これにより、試料水は加熱されて高温となる。予熱器11は、外部から供給された熱媒の供給や、電気ヒータ、セラミックヒータなどの加熱機構により、試料水をさらに加熱する。より具体的には、予熱器11は、試料水が液相状態を維持しつつ、その蒸気圧が大気圧又は加熱槽の内圧と等しくなる状態まで試料水を加熱する。以下の説明では、この状態の試料水を指して、単に「予熱された試料水」と呼ぶことがある。
【0018】
次いで、加熱槽12の構成について、
図2を参照して説明する。加熱槽12は、槽本体21と、供給部22と、充填物23と、貯留部24と、加熱部25と、排出部26と、加熱槽圧力調整弁27と、を有する。
【0019】
槽本体21は、上下方向に延びる筒状をなしている。なお、ここで言う「筒状」とは、円筒状や角筒状、多角形の断面形状を有する筒形状も含むものである。槽本体21の上部には、上述した供給管10に接続された供給部22が設けられている。この供給部22を通じて、予熱された試料水が槽本体21内に流入する。
【0020】
槽本体21の内部には、充填物23が配置されている。充填物23は、槽本体21内における流体の混合を促進し、かつ接触面積を増大させるために設けられている。充填物23の具体例としては、ラシヒリングやベルルサドルと呼ばれる形状のものが挙げられる。この他、充填物として用いられるもの、つまり、気液接触面積の増大や撹拌促進の作用を有するものであればいかなるものも適用可能である。
【0021】
槽本体21の下方には、貯留部24が設けられている。貯留部24は、供給部22を経て槽本体21内を下方へ流れてきた試料水を貯留するための容器である。貯留部24の内部には、加熱部25が設けられている。加熱部25は、予熱された試料水を加熱して、つまり潜熱を与えて蒸気を発生させる。加熱部25の一例として具体的には、加熱温度を調節することが可能な電気ヒータが好適に用いられる。その他、セラミックヒータ等も加熱部25として用いることが可能である。また、貯留部24からあふれ出た試料水は、不図示の配管を通じて外部に排出される。
【0022】
貯留部24には、排出管13が接続されている。排出管13は、この貯留部24から濃度検出部15にかけて延びている。排出管13上には、第一熱交換器16a、第二流量計17b、イオン交換部14、及び濃度検出部15がこの順で配置されている。貯留部24に貯留された液相状態の試料水は、不図示の管路を下方に流れることで、第一熱交換器16aに送られる。第一熱交換器16a内では、供給管10を流れる試料水と、貯留部24から圧送された高温の試料水とが熱交換する。これにより、供給管10を流れる試料水は加熱され、排出管13を流れる試料水は冷却される。
【0023】
排出管13の入口側端部は、加熱槽12の液面下に没している。なお、ここで言う液面の高さとは、加熱槽12における後述の蒸気と試料水との接触が定常的に行われている際の液面の高さを指す。したがって、当該排出管13にはドレン水のみが流入し、液面よりも上を流れる蒸気は流入しないようになっている。
【0024】
第二流量計17bは、排出管13を流れる試料水の流量を計測する。イオン交換部14は、排出管13を流れる試料水に含まれるイオンのうち、上述した水処理剤に由来するアンモニアイオンを含む陽イオンをイオン交換樹脂によって試料水中から除去する。つまり、イオン交換部14を経た試料水中には、検出対象の一つである不揮発性の陰イオン(一例として塩化物イオン)のみが実質的に含まれている状態となる。この濃度検出部15は、塩化物イオンを含む不揮発性の陰イオンの濃度を検出・測定し、外部に数値として送信する。濃度検出部15は、具体的には電気伝導率計である。試料水中の陰イオンの濃度に基づいて電気伝導率は変化するため、濃度検出部15は、電気伝導率を計測することで、最終的に陰イオンの濃度を取得することが可能とされている。
【0025】
槽本体21の上部には排出部26が設けられている。加熱部25によって加熱されることで発生した蒸気は、槽本体21の上部に設けられた排出部26から排出される。
図1に示すように、排出部26と第二熱交換器16bとの間には、蒸気排出管18が延びている。排出部26から排出された蒸気は、蒸気排出管18を通じて第二熱交換器16bに流れ込む。第二熱交換器16b内では、この蒸気と、供給管10中を流れる試料水との間で熱交換が行われる。これにより、試料水は加熱され、蒸気は液相状態、又は気液混相状態となって外部に排出される。
【0026】
さらに、供給部22、及び排出部26には、加熱槽圧力調整弁27がそれぞれ設けられている。加熱槽圧力調整弁27は、槽本体21内の内圧を調整するために設けられている。加熱槽圧力調整弁27の開度を変化させることで、槽本体21内の内圧を高めることが可能とされている。槽本体21の内圧が高いことによって、当該槽本体21から外部に導かれるドレン水は、圧力を伴って輸送される(圧送される)状態となる。
【0027】
続いて、陰イオン検出装置1の動作について説明する。陰イオン検出装置1を動作させるに当たっては、まず供給管10に試料水を流通させる。このとき、試料水には、検出対象としての塩化物イオンに加えて、水処理剤に由来するアンモニアイオン、及び大気中の二酸化炭素に由来する炭酸イオンが含まれていると仮定する。供給管10を流通する中途で、試料水は第一熱交換器16a、第二熱交換器16b、及び予熱器11を経ることで、上述したように、その全体又は大部分は、液相状態を維持しつつ、その蒸気圧が大気圧又は加熱槽12の内圧と等しくなる状態となる。
【0028】
この予熱された試料水は、供給部22を経て加熱槽12に流入する。加熱槽12の槽本体21内では、充填物23の表面を伝って気液接触面積が大きくなるように分散しながら試料水が下方の貯留部24へと流れる。貯留部24に到達した試料水は、加熱部25によって加熱されて(潜熱を与えられて)、蒸気となる。この時、蒸気には、アンモニア、及び二酸化炭素が含まれていないか、又はごく低い濃度のみ含まれている状態となる。
【0029】
この蒸気は、槽本体21内を上方へ向かって流れる。その中途で、上方から流れ込む液相状態の試料水と接触する。このとき、二重境膜説に基づいて、液相状態の試料水に含まれるアンモニアイオン、及び炭酸イオンが、蒸気に移動する。つまり、液相状態の試料水は、下方に流れるにつれて、互いに対向する方向から蒸気に長時間接触するため、当該試料水に含まれるアンモニアイオン、及び炭酸イオンの濃度が下方へ向かうにつれて低くなる。このサイクルが繰り返されることで定常状態となる。定常状態では、貯留部24に貯留されている液相状態の試料水(ドレン水)には、極微量のアンモニアイオンのみが含まれた状態となる。
【0030】
このドレン水は、排出管13を通じて第一熱交換器16a、及び第二流量計17bに通過した後、イオン交換部14に流れ込む。このイオン交換部14では、イオン交換樹脂の作用によって、ドレン水に含まれるアンモニアイオンが除去される。つまり、イオン交換部14を通過したドレン水には、検出対象である塩化物イオンを含む不揮発性の陰イオンのみが含まれている状態となる。その後、このドレン水における不揮発性の陰イオン濃度が、濃度検出部15としての電気伝導率計によって検出・計測される。
【0031】
一方で、槽本体21内を上方へ流れる中途で予熱された試料水に接触した蒸気には、アンモニア、及び二酸化炭素が含まれた状態となる。この蒸気は、蒸気排出管18を通じて第二熱交換器16bに送られた後、液相状態、又は気液混相状態となって外部に排出される。
【0032】
以上、説明したように、上記構成によれば、予熱器11による予熱を経て、試料水の全体又は大部分は液相状態を維持しつつ、その蒸気圧が大気圧と等しい状態となる。その後、充填物23の隙間を通じて槽本体21内を下方に移動した試料水は、貯留部24で加熱部25に接触して蒸気、つまり気相状態となる。このとき、当該蒸気に含まれるアンモニア、及び二酸化炭素の濃度は、貯留部24に貯留されている液相状態の試料水(ドレン水)に含まれるアンモニア、及び二酸化炭素の濃度よりも低くなる。この蒸気が槽本体21内を上方へ移動する際に、上方から流れて来る新たな試料水に接触する。このとき、両者のアンモニア、及び二酸化炭素の濃度差に基づいて、液相状態の試料水から気相状態(蒸気)の試料水に向かってアンモニア、及び二酸化炭素が移動する。つまり、液相状態の試料水に含まれるアンモニア、及び二酸化炭素の濃度が下方へ向かうにつれて低くなる。特に、上記のように試料水と蒸気とが互いに対向する方向から接触するため、槽本体21内における上下方向で、試料水と蒸気との間のアンモニア、及び二酸化炭素の濃度差を大きく保つことができる。このため、二重境膜説に基づく物質の移動を促進することが可能となる。
【0033】
このサイクルが連続的に生じることで、貯留部24に貯留されたドレン水のアンモニア、及び二酸化炭素の濃度が低い状態で維持される。その後、イオン交換部14によって、ドレン水に含まれる分離対象となるアンモニアが除去される。続いて、濃度検出部15では、検出対象となる不揮発性の陰イオン(一例として塩化物イオン)の濃度が検出される。このように、分離対象となるアンモニア、及び二酸化炭素を予め除去した上で、検出対象となる不揮発性の陰イオンの濃度のみを正確に計測することが可能となる。その結果、例えば蒸気タービンプラントを運用するに際して、給水中に海水等の異物が混入していないかどうかを即時かつ正確に検知することができる。したがって、蒸気タービンプラントをさらに安定的、かつ円滑に運用することが可能となる。
【0034】
(作用効果)
ここで、上記の加熱槽12を運用するに当たって、排出管13が液面の上に露出していると、試料水から生じた蒸気、つまり、アンモニアや二酸化炭素を含む蒸気が当該排出管13内に流入してしまう虞がある。排出管13に蒸気が流入すると、当該蒸気に含まれているアンモニアイオンや炭酸イオンがドレン水に混入し、これら成分の濃度が高くなってしまうという課題がある。結果として、これらアンモニアイオン、及び炭酸イオンの除去効率が低下し、検出対象である塩化物イオン等の不揮発性のイオンの検出精度が低下してしまうという課題があった。そこで、本実施形態では上述の各構成を採用している。
【0035】
上記構成によれば、排出管13の入口側端部13aが、加熱槽12の液面よりも下方に位置している。つまり、入口側端部13aが常態的に液面下に没している。このため、液面の上を流れる蒸気は排出管13内に流入しない。これにより、排出管13に蒸気が混入することによるドレン水のアンモニアイオンや炭酸イオンの濃度の上昇を回避することができる。結果として、ドレン水には検出対象となる不揮発性のイオン(一例として塩化物イオン)のみが含まれた状態となるため、当該塩化物イオンを精度高く検出することが可能となる。したがって、プラントの運用に悪影響を及ぼす塩化物イオン等の混入を早期に発見できるため、当該プラントのより安定的な運用を実現することが可能となる。
【0036】
また、上記構成によれば、加熱槽12の供給部22、及び排出部26にそれぞれ加熱槽圧力調整弁27が設けられている。これら加熱槽圧力調整弁27の開度を適宜変化させることによって、加熱槽12(槽本体21)の内圧を高めることができる。これにより、当該加熱槽12から流れ出るドレン水を外部に向けて圧送することが可能となる。したがって、ドレン水の流路のレイアウトの自由度をさらに高めることが可能となる。具体的には、自重による下方への流れによってドレン水を輸送するのみならず、上方にも当該ドレン水を圧送することが可能となる。その結果、装置の小型化や、部品点数の削減による製造コスト・メンテナンスコストの削減を実現することができる。
【0037】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0038】
例えば、排出管13の態様は上記実施形態によっては限定されず、第一変形例として
図3に示すような構成を採ることが可能である。同図の例では、排出管13の中途に立ち上がり部28が設けられている。立ち上がり部28は、入口側端部13aから下流側に離間するに従って上方に延びる第一区間31と、第一区間31に連通するとともに下流側に離間するに従って下方に延びる第二区間32と、を有する。つまり、第一区間31と第二区間32の接続部は、入口側端部13aよりも上方に位置している。この構成によれば、加熱槽12の液面が当該立ち上がり部28の高さに至るまで排出管13からはドレン水が排出されないこととなる。したがって、液面の上を流れる蒸気は排出管13に流入しない。これにより、排出管13に蒸気が混入することによるドレン水のアンモニアイオンや炭酸イオンの濃度の上昇を回避することができる。結果として、ドレン水には検出対象となる不揮発性のイオン(一例として塩化物イオン)のみが含まれた状態となるため、当該塩化物イオンを精度高く検出することが可能となる。したがって、プラントの運用に悪影響を及ぼす塩化物イオン等の混入を早期に発見できるため、当該プラントのより安定的な運用を実現することが可能となる。
【0039】
さらに、第二変形例として
図4に示す構成を採ることも可能である。同図の例では、排出管13上に圧力調整弁29が設けられている。圧力調整弁29は、開度を変化させることで、排出管13を流れるドレン水に圧力損失を生じさせることが可能である。この構成によれば、当該圧力調整弁29による圧力損失の分だけ、加熱槽12の液面高さが上がる傾向を示す。即ち、排出管13の入口側端部が液面下に没した状態となりやすい。したがって、液面の上を流れる蒸気は排出管13に流入しない。これにより、排出管13に蒸気が混入することによるドレン水のアンモニアイオンや炭酸イオンの濃度の上昇を回避することができる。結果として、ドレン水には検出対象となる不揮発性のイオン(一例として塩化物イオン)のみが含まれた状態となるため、当該塩化物イオンを精度高く検出することが可能となる。したがって、プラントの運用に悪影響を及ぼす塩化物イオン等の混入を早期に発見できるため、当該プラントのより安定的な運用を実現することが可能となる。
【0040】
なお、上述の加熱槽圧力調整弁27は必ずしも設けられている必要はない。また、第一熱交換器16a、第二熱交換器16bを備えない構成を採ることも可能である。これらの配置の順番が入れ替わっていてもよい。この構成によっても、陰イオンの検出という観点では、上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0041】
<付記>
各実施形態に記載の陰イオン検出装置は、例えば以下のように把握される。
【0042】
(1)第1の態様に係る陰イオン検出装置1は、複数種類のイオンを含む試料水が流通する供給管10と、該供給管10上に設けられ、前記試料水を予熱する予熱器11と、前記予熱された前記試料水をさらに加熱することで、前記複数種類の前記イオンのうち、分離対象となるイオンに由来する物質を含む蒸気とドレン水とに分離する加熱槽12と、前記加熱槽12から前記ドレン水を取り出す排出管13と、前記排出管13上に設けられ、前記ドレン水に残存した前記分離対象となる前記イオンを除去するイオン交換樹脂を有するイオン交換部14と、前記排出管13上における前記イオン交換部14の下流側に設けられ、前記ドレン水に含まれる陰イオンの濃度を検出する濃度検出部15と、を備え、前記加熱槽12は、槽本体21と、該槽本体21の上部に設けられ、前記予熱された前記試料水を供給する供給部22と、該槽本体21の内部に配置された充填物23と、前記槽本体21の下方に設けられ、前記予熱された試料水が貯留される貯留部24と、該貯留部24に設けられ、前記試料水を加熱して蒸気を発生させる加熱部25と、前記蒸気を前記槽本体21の外部に排出する排出部26と、を有し、前記排出管13の入口側端部13aは、前記加熱槽12における定常時の液面よりも下方に位置している。
【0043】
上記構成によれば、排出管13の入口側端部13aが、加熱槽12の液面よりも下方に位置している。つまり、入口側端部13aが常態的に液面下に没している。このため、液面の上を流れる蒸気は排出管13に流入しない。これにより、排出管13に蒸気が混入することによるドレン水のアンモニアイオンや炭酸イオンの濃度の上昇を回避することができる。
【0044】
(2)第2の態様に係る陰イオン検出装置1は、(1)の陰イオン検出装置1であって、前記排出管13は、前記加熱槽12に連通するとともに、該加熱槽12から下流側に離間するに従って上方に向かう第一区間31と、該第一区間31に連通するとともに該第一区間31から下流側に離間するに従って下方に向かう第二区間32と、を有する。
【0045】
上記構成によれば、排出管13が第一区間31と第二区間32とを有している。第一区間31から第二区間32にかけて上方に管路が立ち上がっている。これにより、加熱槽12の液面が当該立ち上がりの高さに至るまで排出管13からはドレン水が排出されないこととなる。したがって、液面の上を流れる蒸気は排出管13に流入しない。これにより、排出管に蒸気が混入することによるドレン水のアンモニアイオンや炭酸イオンの濃度の上昇を回避することができる。
【0046】
(3)第3の態様に係る陰イオン検出装置1は、(1)又は(2)の陰イオン検出装置1であって、前記排出管13上に設けられた圧力調整弁29をさらに有する。
【0047】
上記構成によれば、排出管13上に圧力調整弁29が設けられていることから、当該圧力調整弁29による圧力損失の分だけ、加熱槽12の液面高さが上がる傾向を示す。即ち、排出管13の入口側端部13aが液面下に没した状態となりやすい。したがって、液面の上を流れる蒸気は排出管13に流入しない。これにより、排出管13に蒸気が混入することによるドレン水のアンモニアイオンや炭酸イオンの濃度の上昇を回避することができる。
【0048】
(4)第4の態様に係る陰イオン検出装置1は、(1)から(3)のいずれか一態様に係る陰イオン検出装置1であって、前記供給部22、及び前記排出部26にそれぞれ設けられた加熱槽圧力調整弁27をさらに備える。
【0049】
上記構成によれば、加熱槽12の供給部22、及び排出部26にそれぞれ加熱槽圧力調整弁27が設けられている。これら加熱槽圧力調整弁27の開度を適宜変化させることによって、加熱槽12の内圧を高めることができる。これにより、当該加熱槽12から流れ出るドレン水を外部に向けて圧送することが可能となる。したがって、ドレン水の流路のレイアウトの自由度をさらに高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0050】
1…陰イオン検出装置
10…供給管
11…予熱器
12…加熱槽
13…排出管
14…イオン交換部
15…濃度検出部
16a…第一熱交換器
16b…第二熱交換器
17a…第一流量計
17b…第二流量計
18…蒸気排出管
21…槽本体
22…供給部
23…充填物
24…貯留部
25…加熱部
26…排出部
27…加熱槽圧力調整弁
28…立ち上がり部
29…圧力調整弁
31…第一区間
32…第二区間