(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171408
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】チップ及び超音波溶着装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/88 20060101AFI20241205BHJP
B23K 20/10 20060101ALI20241205BHJP
A61C 8/00 20060101ALI20241205BHJP
A61B 17/56 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61B17/88
B23K20/10
A61C8/00 Z
A61B17/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088386
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150072
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 賢司
(74)【代理人】
【識別番号】100185719
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 耕右
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 勝正
【テーマコード(参考)】
4C159
4C160
4E167
【Fターム(参考)】
4C159AA17
4C160LL38
4C160LL42
4E167AA22
4E167AA29
4E167BE04
4E167DA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】超音波振動の伝搬によるピンの溶着が行なわれた場合におけるピンの引抜強度を改善可能なチップ及び超音波溶着装置を提供する。
【解決手段】チップ230は、ピンに超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させる。ピンは、軸部と、軸部の一方の端部に形成された頭部とを含む。頭部には、軸部が延びる方向に凹んだ凹部が形成されている。チップは、柱状の基部235と、基部の先端面に形成された突起部231とを備える。突起部の側面は、突起部が凹部内に挿入された場合に凹部の内周面と接触する接触部と、突起部が凹部内に挿入された場合に凹部の内周面と接触しない非接触部とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピンに超音波振動を伝搬させることによって前記ピンを溶融させるチップであって、
前記ピンは、軸部と、前記軸部の一方の端部に形成された頭部とを含み、
前記頭部には、前記軸部が延びる方向に凹んだ凹部が形成されており、
前記チップは、
柱状の基部と、
前記基部の先端面に形成された突起部とを備え、
前記突起部の側面は、前記突起部が前記凹部内に挿入された場合に前記凹部の内周面と接触する接触部と、前記突起部が前記凹部内に挿入された場合に前記凹部の内周面と接触しない非接触部とを含む、チップ。
【請求項2】
前記非接触部は、前記突起部の側面に形成された第1溝によって構成されている、請求項1に記載のチップ。
【請求項3】
前記第1溝は、前記突起部の前記基部側の端部から前記突起部の先端側の端部に亘って形成されている、請求項2に記載のチップ。
【請求項4】
前記先端面には第2溝が形成されており、
前記第1溝と前記第2溝とは連続的に形成されている、請求項3に記載のチップ。
【請求項5】
ピンに超音波振動を伝搬させることによって前記ピンを溶融させる超音波溶着装置であって、
前記ピンは、軸部と、前記軸部の一方の端部に形成された頭部とを含み、
前記頭部には、前記軸部が延びる方向に凹んだ凹部が形成されており、
前記超音波溶着装置は、
超音波電力を生成する発振器と、
前記発振器によって生成された超音波電力に基づいて前記超音波振動を発生させるハンドピースとを備え、
前記ハンドピースは、チップを含み、
前記チップは、
柱状の基部と、
前記基部の先端面に形成された突起部とを含み、
前記突起部の側面は、前記突起部が前記凹部内に挿入された場合に前記凹部の内周面と接触する接触部と、前記突起部が前記凹部内に挿入された場合に前記凹部の内周面と接触しない非接触部とを含む、超音波溶着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ及び超音波溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第4412901号公報(特許文献1)は、インプラントを埋め込むために用いられる埋込装置を開示する。この埋込装置は、発振器と発振ユニットとを含む。発振ユニットは、ソノトロードを含む。ソノトロードは、インプラントを保持する。ソノトロードは、発振器によって生成されたエネルギーに基づいて励起されることにより発振する。ソノトロードを発振させることによってインプラントの溶接が行なわれる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記特許文献1に開示されている埋込装置が用いられ、ピンに超音波振動が伝搬すると、ピンが溶融する。このピンの溶融を利用することによって溶着が行なわれる。超音波振動の伝搬によるピンの溶着が行なわれた場合におけるピンの引抜強度には改善の余地がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、超音波振動の伝搬によるピンの溶着が行なわれた場合におけるピンの引抜強度を改善可能なチップ及び超音波溶着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある局面に従うチップは、ピンに超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させる。ピンは、軸部と、軸部の一方の端部に形成された頭部とを含む。頭部には、軸部が延びる方向に凹んだ凹部が形成されている。チップは、柱状の基部と、基部の先端面に形成された突起部とを備える。突起部の側面は、突起部が凹部内に挿入された場合に凹部の内周面と接触する接触部と、突起部が凹部内に挿入された場合に凹部の内周面と接触しない非接触部とを含む。
【0007】
本発明者(ら)は、超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させる場合に、ピンの頭部に形成された凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸の付け根部近傍に形成され得ることを見出した。このような気泡は、ピンの引抜強度低下の原因となる。本発明のある局面に従うチップにおいて、突起部の側面には、接触部と非接触部とが形成されている。すなわち、このチップにおいては、ピンの頭部に形成された凹部内の空気が逃げるための空間が非接触部よって形成されている。したがって、このチップによれば、超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させる場合に、凹部内の空気が非接触部を介して逃げるため、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、このチップによれば、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される場合と比較してピンの引抜強度を改善することができる。
【0008】
上記チップにおいて、非接触部は、突起部の側面に形成された第1溝によって構成されてもよい。
【0009】
このチップによれば、超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させる場合に、凹部内の空気が第1溝を介して逃げるため、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、このチップによれば、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される場合と比較してピンの引抜強度を改善することができる。
【0010】
上記チップにおいて、第1溝は、突起部の基部側の端部から突起部の先端側の端部に亘って形成されていてもよい。
【0011】
このチップによれば、超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させる場合に、凹部内の空気が第1溝を介して少なくとも突起部の基部側の端部まで逃げるため、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、このチップによれば、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される場合と比較してピンの引抜強度を改善することができる。
【0012】
上記チップにおいて、先端面には第2溝が形成されてもよく、第1溝と第2溝とは連続的に形成されてもよい。
【0013】
このチップによれば、超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させる場合に、凹部内の空気が第1溝及び第2溝を介して凹部の外部へ逃げるため、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、このチップによれば、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される場合と比較してピンの引抜強度を改善することができる。
【0014】
上記チップにおいて、突起部は略円柱形状を有していてもよく、凹部は略円柱形状の空間を形成していてもよい。
【0015】
本発明の他の局面に従う超音波溶着装置は、ピンに超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させる。ピンは、軸部と、軸部の一方の端部に形成された頭部とを含む。頭部には、軸部が延びる方向に凹んだ凹部が形成されている。超音波溶着装置は、超音波電力を生成する発振器と、発振器によって生成された超音波電力に基づいて超音波振動を発生させるハンドピースとを備える。ハンドピースは、チップを含む。チップは、柱状の基部と、基部の先端面に形成された突起部とを含む。突起部の側面は、突起部が凹部内に挿入された場合に凹部の内周面と接触する接触部と、突起部が凹部内に挿入された場合に凹部の内周面と接触しない非接触部とを含む。
【0016】
この超音波溶着装置に含まれるハンドピースのチップにおいて、突起部の側面には、接触部と非接触部とが形成されている。すなわち、この超音波溶着装置に含まれるハンドピースのチップにおいては、ピンの頭部に形成された凹部内の空気が逃げるための空間が非接触部よって形成されている。したがって、この超音波溶着装置によれば、超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させる場合に、凹部内の空気が非接触部を介して逃げるため、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、この超音波溶着装置によれば、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される場合と比較してピンの引抜強度を改善することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、超音波振動の伝搬によるピンの溶着が行なわれた場合におけるピンの引抜強度を改善可能なチップ及び超音波溶着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態1に従う超音波溶着装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】チップの突起部にピンを取り付ける様子を模式的に示す図である。
【
図3】チップによるピンの溶着がどのように進行するかを説明するための図である。
【
図7】比較対象のチップがピンの溶着に用いられた場合に生じる問題について説明するための図である。
【
図8】実施の形態1に従うチップにおいて突起部の側面に溝が形成されている理由について説明するための図である。
【
図9】実施の形態2に従うチップを模式的に示す斜視図である。
【
図10】実施の形態2に従うチップを模式的に示す正面図である。
【
図11】実施の形態3に従うチップを模式的に示す斜視図である。
【
図12】実施の形態3に従うチップを模式的に示す正面図である。
【
図13】第1の他の実施の形態に従うチップを模式的に示す斜視図である。
【
図14】第1の他の実施の形態に従うチップを模式的に示す正面図である。
【
図15】第2の他の実施の形態に従うチップを模式的に示す斜視図である。
【
図16】第3の他の実施の形態に従うチップを模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施の形態」とも称する。)について、図面を用いて詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、各図面は、理解の容易のために、適宜対象を省略又は誇張して模式的に描かれている。
【0020】
[1.実施の形態1]
<1-1.超音波溶着装置の概要>
図1は、本実施の形態1に従う超音波溶着装置10の構成を模式的に示す図である。超音波溶着装置10は、例えば、ピンに超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させ、ピンの溶着を行なうように構成されている。ピンは、例えば、生体吸収性材料で構成され、人の骨に溶着される。
【0021】
生体吸収性材料の一例としては、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコール酸共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。これらの生体吸収性材料は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0022】
例えば、骨折箇所を跨ぐ位置に配置されたプレートが骨に固定されることにより骨折の治療が行なわれる。このプレートには、ピンを挿入する貫通孔が複数箇所に設けられている。骨において、プレートの各貫通孔に対応する位置に孔が形成される。プレートの孔及び骨に形成された孔の両方に挿入された各ピンが超音波溶着装置10によって骨に溶着されることにより、骨折箇所を跨ぐ位置に配置されたプレートが骨に固定される。超音波溶着装置10は、例えば、このような用途に用いられる。
【0023】
図1に示されるように、超音波溶着装置10は、発振器100と、ハンドピース200とを含んでいる。発振器100とハンドピース200とは、ケーブル150を介して接続されている。
【0024】
発振器100は、商用電源から供給される電力を超音波電力に変換し、ケーブル150を介して超音波電力をハンドピース200へ供給するように構成されている。発振器100においては、例えば、溶着対象の状態等に応じて超音波電力の周波数が適宜調整されると共に、溶着物の有無又は加圧力等に拘わらずハンドピース200の先端における振幅が一定となるための制御が行なわれる。なお、発振器100においては、溶着対象の状態等に応じて超音波電力の周波数が適宜調整されなくてもよいし、溶着物の有無又は加圧力等に拘わらずハンドピース200の先端における振幅が一定となるための制御が行なわれなくてもよい。
【0025】
ハンドピース200は、BL振動子(Bolt-clamped Langevin type transducer)210と、ケース220と、ホーン225と、チップ230とを含んでいる。BL振動子210は、発振器100から供給された超音波電力に基づいて超音波振動を発生させるように構成されている。ケース220は、例えば、中空の円柱形状を有しており、BL振動子210を内部に収容するように構成されている。ホーン225は、BL振動子210の先端に取り付けられており、BL振動子210によって生成された超音波振動を増幅するように構成されている。
【0026】
チップ230は、ホーン225の先端に接続されており、ホーン225によって増幅された超音波振動を溶着対象物へ伝搬させるように構成されている。チップ230は、ホーン225に対して着脱可能に構成されてもよく、ホーン225と一体的に構成されてもよい。チップ230は、例えば、ステンレス、アルミ、鉄、チタン又はセラミックスで構成されており、基部235と、突起部231とを含んでいる。基部235は、例えば、略円柱形状を有する。突起部231は、基部235の先端面に形成されており、略円柱形状を有する。突起部231の幅方向の長さは、基部235の幅方向の長さよりも短い。突起部231は、溶着対象物であるピン300を保持するように構成されている。チップ230の構成については、後程詳しく説明する。
【0027】
図2は、チップ230の突起部231にピン300を取り付ける様子を模式的に示す図である。
図2を参照して、突起部231へのピン300の取付けは、例えば、ピン300が固定台400に配置された状態で行なわれる。固定台400には複数の穴H1が形成されており、各穴H1にはピン300が収容されている。
【0028】
ピン300は、例えば、生体吸収性材料で構成されている。ピン300は、軸部310と、頭部320とを含んでいる。平面視において、軸部310は、円形状を有している。
【0029】
頭部320は、軸部310の一方の端部に形成されている。平面視において、頭部320は、円形状を有している。平面視において、頭部320の直径は、軸部310の直径よりも長い。頭部320には、軸部310が延びる方向に凹んだ凹部322が形成されている。凹部322は、略円柱状の空間を形成している。チップ230の突起部231は、凹部322に挿入される。
【0030】
突起部231が凹部322に挿入されることによって、ピン300が摩擦力によってチップ230に保持される。チップ230がピン300を保持した状態でハンドピース200が持ち上げられると、ピン300が固定台400から取り出される。このような手順で、チップ230の突起部231へのピン300の取付けが行なわれる。
【0031】
図3は、チップ230によるピン300の溶着がどのように進行するかを説明するための図である。
図3を参照して、横軸は時間を示す。この例においては、プレート500に形成された孔及び骨600に形成された孔の両方にピン300が挿入された状態でピン300の溶着が行なわれる。ピン300が溶着されることによりプレート500が骨600に固定される。
【0032】
時刻t0において、ピン300がチップ230によって下方向へ押圧され、ピン300が骨600の孔に徐々に押し込まれる。この状態において、チップ230からピン300へ超音波振動が伝搬している。ピン300が超音波振動を受けることによりプレート500及び骨600の各々とピン300との間で摩擦熱が生じ、ピン300の側面が溶融し始める。時刻t1において、ピン300が骨600の孔にさらに押し込まれ、ピン300の溶融がさらに進行する。時刻t3において、軸部310が完全に溶融し、樹脂が骨600の孔の隙間に入り込む。これにより、ピン300が骨600に強固に合着される。このように、ピン300の溶着によって、プレート500が骨600に固定される。
【0033】
<1-2.チップの構成>
図4は、本実施の形態1に従うチップ230を模式的に示す斜視図である。
図5は、本実施の形態1に従うチップ230を模式的に示す正面図である。
図4及び
図5を参照して、上述のように、チップ230は、基部235と、突起部231とを含んでいる。
【0034】
突起部231は、基部235の先端面FC1に形成されている。正面視において、突起部231は、基部235の略中央部分に位置している。突起部231の側面(外周面)には、各々が仮想円CL1に接触する複数(3つ)の接触部CN1と、複数(3つ)の溝GR1とが形成されている。突起部231の正面視における各溝GR1においては、突起部231の外周部分が径方向の内側に凹んでいる。各溝GR1は、突起部231の基部235側の端部から先端側の端部に亘って形成されている。各溝GR1は、突起部231及び基部235の各々が延びる方向に沿って形成されている。なお、突起部231において、仮想円CL1に沿う円弧状の接触部CN1の長さの合計が仮想円CL1の円周の長さの50%以上である場合に突起部の形状が略円柱状であるとしてもよい。
【0035】
仮想円CL1は、ピン300の凹部322の平面視における形状と略同一である。すなわち、各接触部CN1は、突起部231が凹部322に挿入された場合に、凹部322の内周面に接触する。一方、各溝GR1は、突起部231が凹部322に挿入された場合に、凹部322の内周面に接触しない。各溝GR1が突起部231の基部235側の端部から先端側の端部に亘って形成されているため、突起部231の側面においては、突起部231及び基部235の各々が延びる方向のどの位置においても凹部322の内周面に接触しない部分が存在する。このように、各溝GR1によって非接触部が構成される。なお、突起部231の側面において、各溝GR1は、必ずしも突起部231の基部235側の端部から先端側の端部に亘って形成されていなくてもよい。例えば、突起部231の先端側の端部において突起部231が細くなるようなテーパが形成されているような場合に、各溝GR1が、突起部231の基部235側の端部から突起部231のうちテーパが形成されていない部分における先端側の端部に亘って形成されており、突起部231のうちテーパが形成されている部分には溝GR1が及んでいなくてもよい。突起部231に溝GR1が形成されている理由について次に説明する。
【0036】
<1-3.ピンの引抜強度の改善>
図6は、比較対象のチップ230Xを模式的に示す図である。
図6に示されるように、チップ230Xは、基部235と、突起部231Xとを含んでいる。突起部231Xは、基部235の先端面に形成されている。突起部231Xは円柱形状を有しており、突起部231Xの側面には溝が形成されていない。
【0037】
図7は、比較対象のチップ230Xがピン300の溶着に用いられた場合に生じる問題について説明するための図である。
図7を参照して、突起部231Xの側面には溝が形成されておらず、チップ230Xの突起部231Xがピン300の凹部322へ挿入された場合に、突起部231Xの側面が全体的にピン300の凹部322の内周面に接触する。そのため、凹部322内の空気AR1の逃げ道が存在せず、チップ230Xの突起部231Xがピン300の凹部322へ挿入されるのに応じて凹部322内の空気AR1が圧縮される。その結果、凹部322には、圧縮された空気AR1が残る(
図7左側参照)。
【0038】
このような状態でピン300の溶融が行なわれると、軸部310の溶融が進行するのに伴い空気AR1が溶融した樹脂内に入り込む。その結果、例えば、軸部310と頭部320との境界部分近傍(軸部310の付け根部近傍)に気泡BU1が形成される(
図7右側参照)。このような気泡BU1が形成されると、軸部310の付け根部近傍における破断が生じ易くなる。すなわち、このような気泡BU1は、溶着されたピン300の引抜強度低下の原因となる。本発明者(ら)は、比較対象のチップ230Xがピン300の溶着に用いられた場合にこのような問題が生じることを見出した。
【0039】
図8は、本実施の形態1に従うチップ230において突起部231の側面に溝GR1が形成されている理由について説明するための図である。
図8を参照して、突起部231の側面には複数の溝GR1が形成されているため、チップ230の突起部231がピン300の凹部322へ挿入された場合に、溝GR1が形成されている部分において突起部231が凹部322の内周面に接触しない。溝GR1が空気AR1の逃げ道となるため、チップ230の突起部231がピン300の凹部322へ挿入された場合に、凹部322内の空気AR1が圧縮されない。その結果、凹部322には、圧縮されていない空気AR1が残る(
図8左側参照)。
【0040】
このような状態でピン300の溶融が行なわれると、凹部322内の空気AR1は溝GR1を介して徐々に凹部322の外部へ排出される(
図8右側参照)。その結果、軸部310と頭部320との境界部分に気泡が形成される事態の発生が抑制される。
【0041】
このように、本実施の形態1に従うチップ230において、突起部231の側面には、複数の接触部CN1と複数の溝GR1とが形成されている。すなわち、チップ230においては、ピン300の頭部320に形成された凹部322内の空気AR1が逃げるための空間が複数の溝GR1よって形成されている。したがって、チップ230によれば、超音波振動を伝搬させることによってピン300を溶融させる場合に、凹部322内の空気AR1が複数の溝GR1を介して逃げるため、凹部322内の空気AR1に起因する気泡BU1がピン300の軸部310の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、チップ230によれば、凹部322内の空気AR1に起因する気泡BU1がピン300の軸部310の付け根部近傍に形成される場合と比較してピン300の引抜強度を改善することができる。
【0042】
また、チップ230において、各溝GR1は、突起部231の基部235側の端部から突起部231の先端側の端部に亘って形成されている。チップ230によれば、超音波振動を伝搬させることによってピン300を溶融させる場合に、凹部322内の空気が複数の溝GR1を介して少なくとも突起部231の基部235側の端部まで逃げるため、凹部322内の空気AR1に起因する気泡BU1がピン300の軸部310の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、チップ230によれば、凹部322内の空気AR1に起因する気泡BU1がピン300の軸部310の付け根部近傍に形成される場合と比較してピン300の引抜強度を改善することができる。
【0043】
<1-4.特徴>
以上のように、本実施の形態1に従うチップ230において、突起部231の側面には、複数の接触部CN1と複数の溝GR1とが形成されている。したがって、チップ230によれば、超音波振動を伝搬させることによってピン300を溶融させる場合に、凹部322内の空気AR1に起因する気泡BU1がピン300の軸部310の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、チップ230によれば、ピン300の引抜強度を改善することができる。
【0044】
[2.実施の形態2]
上記実施の形態1に従う超音波溶着装置10は、チップ230を含んでいた。しかしながら、超音波溶着装置10に含まれるチップの構成は、チップ230の構成に限定されない。本実施の形態2に従う超音波溶着装置10Aにおいては、上記実施の形態1に従う超音波溶着装置10と比較して、チップの構成のみが異なる。以下、本実施の形態2に従うチップ230Aの構成について説明する。
【0045】
<2-1.チップの構成>
図9は、本実施の形態2に従うチップ230Aを模式的に示す斜視図である。
図10は、本実施の形態2に従うチップ230Aを模式的に示す正面図である。
図9及び
図10を参照して、チップ230Aは、基部235Aと、突起部231Aとを含んでいる。基部235Aは、例えば、略円柱形状を有する。突起部231Aは、基部235Aの先端面FC1Aに形成されており、略円柱形状を有する。突起部231Aの幅方向の長さは、基部235Aの幅方向の長さよりも短い。突起部231Aは、溶着対象物であるピン300を保持するように構成されている。
【0046】
正面視において、突起部231Aは、基部235Aの略中央部分に位置している。突起部231Aの側面(外周面)には、接触部CN1Aと、溝GR1Aとが形成されている。接触部CN1Aは、突起部231Aがピン300の凹部322へ挿入された場合に、凹部322の内周面に接触する部分である。突起部231Aの正面視における溝GR1Aにおいては、突起部231Aの外周部分が径方向の内側に凹んでいる。溝GR1Aは、突起部231Aの基部235A側の端部から先端側の端部に亘って形成されている。溝GR1Aは、突起部231A及び基部235Aの各々が延びる方向に沿って形成されている。
【0047】
基部235Aの先端面FC1Aには、溝GR2Aが形成されている。溝GR2Aの一方の端部は、溝GR1Aの基部235A側の端部と繋がっている。すなわち、溝GR1Aと溝GR2Aとは、連続的に形成されている。また、溝GR2Aの他方の端部は、基部235Aの先端面FC1Aの縁まで延びている。
【0048】
チップ230Aによれば、超音波振動を伝搬させることによってピン300を溶融させる場合に、ピン300の凹部322内の空気AR1が溝GR1A,GR2Aを介して凹部322の外部へ逃げるため、凹部322内の空気AR1に起因する気泡BU1がピン300の軸部310の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、チップ230Aによれば、凹部322内の空気AR1に起因する気泡BU1がピン300の軸部310の付け根部近傍に形成される場合と比較してピン300の引抜強度を改善することができる。
【0049】
<2-2.特徴>
以上のように、本実施の形態2に従うチップ230Aにおいては、突起部231Aの側面に溝GR1Aが形成されており、基部235Aの先端面FC1Aに溝GR2Aが形成されており、溝GR1A,GR2Aが連続的に形成されている。チップ230Aによれば、凹部322内の空気AR1に起因する気泡BU1がピン300の軸部310の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、チップ230Aによれば、ピン300の引抜強度を改善することができる。
【0050】
[3.実施の形態3]
上記実施の形態1に従う超音波溶着装置10は、チップ230を含んでいた。しかしながら、超音波溶着装置10に含まれるチップの構成は、チップ230の構成に限定されない。本実施の形態3に従う超音波溶着装置10Bにおいては、上記実施の形態1に従う超音波溶着装置10と比較して、チップの構成のみが異なる。以下、本実施の形態3に従うチップ230Bの構成について説明する。
【0051】
<3-1.チップの構成>
図11は、本実施の形態3に従うチップ230Bを模式的に示す斜視図である。
図12は、本実施の形態3に従うチップ230Bを模式的に示す正面図である。
図11及び
図12を参照して、チップ230Bは、基部235と、突起部231Bとを含んでいる。突起部231Bは、基部235の先端面FC1に形成されており、略円柱形状を有する。突起部231Bの幅方向の長さは、基部235の幅方向の長さよりも短い。突起部231Bは、溶着対象物であるピン300を保持するように構成されている。
【0052】
正面視において、突起部231Bは、基部235の略中央部分に位置している。突起部231Bの側面(外周面)には、複数(3つ)の接触部CN1Bと、複数(3つ)の溝GR1Bとが形成されている。各接触部CN1Bは、突起部231Bがピン300の凹部322へ挿入された場合に、凹部322の内周面に接触する部分である。突起部231Bの正面視における各溝GR1Bにおいては、突起部231Bの外周部分が径方向の内側に凹んでいる。各溝GR1Bは、突起部231Bの基部235側の端部から先端側の端部に亘って形成されている。各溝GR1Bは、突起部231B及び基部235の各々が延びる方向に対して斜め方向に延びるように形成されている。
【0053】
チップ230Bにおいては、突起部231B及び基部235の各々が延びる方向に対して各溝GR1Bが斜め方向に延びている。したがって、ピン300の溶着完了後に、チップ230Bを有するハンドピースを回転させながら引くことによって、チップ230を容易にピン300から抜くことができる。
【0054】
<3-2.特徴>
以上のように、本実施の形態3に従うチップ230Bにおいて、突起部231Bの側面には、複数の接触部CN1Bと複数の溝GR1Bとが形成されている。したがって、チップ230Bによれば、超音波振動を伝搬させることによってピン300を溶融させる場合に、凹部322内の空気AR1が複数の溝GR1Bを介して逃げるため、凹部322内の空気AR1に起因する気泡BU1がピン300の軸部310の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、チップ230Bによれば、ピン300の引抜強度を改善することができる。
【0055】
[4.他の実施の形態]
上記実施の形態の思想は、以上で説明された実施の形態に限定されない。以下、上記実施の形態の思想を適用できる他の実施の形態の一例について説明する。
【0056】
<4-1>
上記実施の形態1-3の各々に従うチップの構成以外のチップの構成が採用されてもよい。例えば、上記実施の形態1に従うチップ230において、各溝GR1の形状が変更されてもよい。
【0057】
図13は、第1の他の実施の形態に従うチップ230Cを模式的に示す斜視図である。
図14は、第1の他の実施の形態に従うチップ230Cを模式的に示す正面図である。
図13及び
図14を参照して、チップ230Cの突起部231Cには、上記実施の形態1に従うチップ230において形成されていた溝GR1よりも深い溝GR1Cが形成されている。チップの構成として、このような構成が採用されてもよい。
【0058】
<4-2>
また、上記実施の形態1-3の各々に従うチップにおいては、突起部の基部側の端部から突起部の先端側の端部に亘って溝が形成されていた。しかしながら、溝は、必ずしも突起部の基部側の端部から突起部の先端側の端部に亘って形成されなくてもよい。
【0059】
図15は、第2の他の実施の形態に従うチップ230Dを模式的に示す斜視図である。
図15を参照して、チップ230Dの突起部231Dの側面には、溝GR1Dが形成されている。溝GR1Dは、突起部231Dの基部235側の端部から突起部231Dの先端側の端部に亘って形成されていない。溝GR1Dは、突起部231Dが延びる方向における突起部231Dの略中央部分から突起部231Dの先端側の端部の間の領域のみに形成されている。このような構成であっても、ピン300の軸部310の付け根部近傍に気泡が形成される事態の発生を抑制することができる。
【0060】
<4-3>
また、上記実施の形態1-3の各々に従うチップにおいては、突起部の側面に溝が形成された。しかしながら、突起部の側面には必ずしも溝が形成されなくてもよい。
【0061】
図16は、第3の他の実施の形態に従うチップ230Eを模式的に示す斜視図である。
図16を参照して、チップ230Eの突起部231Eの側面には溝が形成されていない。突起部231Eの側面には、表面粗さを高めるための加工が施されている。突起部231Eの側面の表面粗さが高いため、突起部231Eがピン300の凹部322へ挿入された場合に、凹部322内の空気の逃げ道が形成される。すなわち、突起部231Eにおいて表面粗さを高める加工が行なわれることによって、突起部231Eに「接触部」と「非接触部」とが形成されている。このような構成によっても、凹部322内の空気に起因する気泡がピン300の軸部310の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。
【0062】
<4-4>
また、超音波溶着装置10の用途は上述されたものに限定されない。超音波溶着装置10は、例えば、一般的な超音波溶着機の各用途に用いられもよい。また、一般的な超音波溶着機の各用途に用いられる場合に、ピン300は必ずしも生体吸収性材料で構成される必要はない。ピン300は、例えば、生体吸収性材料以外の樹脂又は金属で構成されてもよい。
【0063】
<4-5>
また、上記各実施の形態において、チップの基部及び突起部の各々の形状は略円柱形状に限定されない。チップの基部及び突起部の各々の形状は、例えば、略角柱形状であってもよい。この場合には、ピン300の凹部322によって構成される空間の形状も略角柱形状であってもよい。また、チップの基部及び突起部の正面視における形状は、必ずしも正円形状である必要はなく、例えば、楕円形状、三角形及び四角形等の多角形状、台形状又は菱形状であってもよい。ピン300の凹部322によって構成される空間の形状もチップの突起部の形状に合わせて適宜変更されてもよい。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について例示的に説明した。すなわち、例示的な説明のために、詳細な説明及び添付の図面が開示された。よって、詳細な説明及び添付の図面に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須でない構成要素が含まれることがある。したがって、それらの必須でない構成要素が詳細な説明及び添付の図面に記載されているからといって、それらの必須でない構成要素が必須であると直ちに認定されるべきではない。
【0065】
また、上記実施の形態は、あらゆる点において本発明の例示にすぎない。上記実施の形態は、本発明の範囲内において、種々の改良や変更が可能である。すなわち、本発明の実施にあたっては、実施の形態に応じて具体的構成を適宜採用することができる。
【符号の説明】
【0066】
10 超音波溶着装置、100 発振器、150 ケーブル、200 ハンドピース、210 BL振動子、220 ケース、225 ホーン、230,230A,230B,230C,230D,230E チップ、231,231A,231B,231C,231D,231E 突起部、235,235A 基部、300,300A ピン、310 軸部、320,320A 頭部、322,322A 凹部、400 固定台、500 プレート、600 骨、AR1 空気、BU1 気泡、CL1 仮想円、CN1,CN1A,CN1B,CN1C,CN1D 接触部、FC1,FC1A 先端面、GR1,GR1A,GR1B,GR1C,GR1D,GR2A 溝、H1 穴、HL1 貫通孔。