(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171409
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ピン
(51)【国際特許分類】
B29C 65/08 20060101AFI20241205BHJP
B23K 20/10 20060101ALI20241205BHJP
B29C 65/56 20060101ALI20241205BHJP
A61B 17/88 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B29C65/08
B23K20/10
B29C65/56
A61B17/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088387
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150072
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 賢司
(74)【代理人】
【識別番号】100185719
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 耕右
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 勝正
【テーマコード(参考)】
4C160
4E167
4F211
【Fターム(参考)】
4C160LL21
4C160LL38
4E167AA22
4E167AA29
4E167BE04
4E167DA02
4F211TA01
4F211TA06
4F211TC03
4F211TD11
4F211TN23
4F211TN72
4F211TQ05
(57)【要約】
【課題】超音波振動の伝搬によるピンの溶着が行なわれた場合におけるピンの引抜強度を改善可能なピンを提供する。
【解決手段】ピンは、超音波溶着装置から超音波振動を受けることによって溶融する。超音波溶着装置は、発振器と、ハンドピースとを備える。発振器は、超音波電力を生成する。ハンドピースは、発振器によって生成された超音波電力に基づいて超音波振動を発生させる。ピンは、軸部と、頭部とを備える。頭部は、軸部の一方の端部に形成されている。頭部には、ハンドピースの先端部が挿入される凹部が形成されている。凹部には、凹部にハンドピースの先端部が挿入された状態で頭部の外部に連通する空間が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波溶着装置から超音波振動を受けることによって溶融するピンであって、
前記超音波溶着装置は、
超音波電力を生成する発振器と、
前記発振器によって生成された超音波電力に基づいて前記超音波振動を発生させるハンドピースとを備え、
前記ピンは、
軸部と、
前記軸部の一方の端部に形成された頭部とを備え、
前記頭部には、前記ハンドピースの先端部が挿入される凹部が形成されており、
前記凹部には、前記凹部に前記先端部が挿入された状態で前記頭部の外部に連通する空間が形成されている、ピン。
【請求項2】
前記ハンドピースは、チップを含み、
前記チップは、
柱状の基部と、
前記基部の先端面に形成された突起部とを含み、
前記先端部は、前記突起部の少なくとも一部によって構成されている、請求項1に記載のピン。
【請求項3】
平面視において、前記凹部は、前記先端部よりも大きい、請求項1又は請求項2に記載のピン。
【請求項4】
前記凹部は、
前記軸部が延びる方向に凹んでおり、前記先端部によって保持される被保持部と、
前記被保持部から前記頭部の外部へ貫通している貫通孔部とを含む、請求項1又は請求項2に記載のピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンに関し、特に、超音波溶着装置から超音波振動を受けることによって溶融するピンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許第4412901号公報(特許文献1)は、埋込装置によって埋め込まれるインプラントを開示する。埋込装置は、発振器と発振ユニットとを含む。発振ユニットは、インプラントを保持する。発振ユニットは、発振器によって生成されたエネルギーに基づいて励起されることにより発振する。インプラントは、発振ユニットから機械振動を受けることによって溶融する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記特許文献1に開示されている埋込装置が用いられ、ピンに超音波振動が伝搬すると、ピンが溶融する。このピンの溶融を利用することによって溶着が行なわれる。超音波振動の伝搬によるピンの溶着が行なわれた場合におけるピンの引抜強度には改善の余地がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、超音波振動の伝搬によるピンの溶着が行なわれた場合におけるピンの引抜強度を改善可能なピンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従うピンは、超音波溶着装置から超音波振動を受けることによって溶融する。超音波溶着装置は、発振器と、ハンドピースとを備える。発振器は、超音波電力を生成する。ハンドピースは、発振器によって生成された超音波電力に基づいて超音波振動を発生させる。ピンは、軸部と、頭部とを備える。頭部は、軸部の一方の端部に形成されている。頭部には、ハンドピースの先端部が挿入される凹部が形成されている。凹部には、凹部にハンドピースの先端部が挿入された状態で頭部の外部に連通する空間が形成されている。
【0007】
本発明者(ら)は、超音波振動を伝搬させることによってピンを溶融させる場合に、ピンの頭部に形成された凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸の付け根部近傍に形成され得ることを見出した。このような気泡は、ピンの引抜強度低下の原因となる。本発明に従うピンにおいては、凹部にハンドピースの先端部が挿入された状態で頭部の外部に連通する空間(以下、「連通空間」とも称する。)が凹部に形成されている。したがって、このピンによれば、超音波振動を伝搬させることによるピンの溶融が行なわれる場合に、凹部内の空気が連通空間を介して頭部の外部へ逃げるため、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、このピンによれば、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される場合と比較してピンの引抜強度を改善することができる。
【0008】
また、ハンドピースはチップを含んでもよく、チップは柱状の基部と基部の先端面に形成された突起部とを含んでもよく、ハンドピースの先端部は突起部の少なくとも一部によって構成されてもよい。
【0009】
また、平面視において、凹部は、ハンドピースの先端部よりも大きくてもよい。
【0010】
このピンにおいては、平面視において凹部がハンドピースの先端部よりも大きいため、凹部にハンドピースの先端部が挿入された状態で頭部の外部に連通する空間(連通空間)が凹部に形成される。したがって、このピンによれば、超音波振動を伝搬させることによるピンの溶融が行なわれる場合に、凹部内の空気が連通空間を介して頭部の外部へ逃げるため、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、このピンによれば、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される場合と比較してピンの引抜強度を改善することができる。
【0011】
また、凹部は、軸部が延びる方向に凹んでおりハンドピースの先端部によって保持される被保持部と、被保持部から頭部の外部へ貫通している貫通孔部とを含んでいてもよい。
【0012】
このピンにおいては、頭部の凹部が、被保持部と貫通孔部とを含んでいる。貫通孔部は、被保持部から頭部の外部へ貫通しており、連通空間として機能する。したがって、このピンによれば、超音波振動を伝搬させることによるピンの溶融が行なわれる場合に、凹部内の空気が連通空間を介して頭部の外部へ逃げるため、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、このピンによれば、凹部内の空気に起因する気泡がピンの軸部の付け根部近傍に形成される場合と比較してピンの引抜強度を改善することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、超音波振動の伝搬によるピンの溶着が行なわれた場合におけるピンの引抜強度を改善可能なピンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1に従うピンを模式的に示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1に従うピンを模式的に示す平面図である。
【
図3】実施の形態1に従うピンを模式的に示す正面図である。
【
図4】実施の形態1に従うピンを模式的に示す側面図である。
【
図5】超音波溶着装置の構成を模式的に示す図である。
【
図7】チップの突起部にピンを取り付ける様子を模式的に示す図である。
【
図8】ピンの溶着がどのように進行するかを説明するための図である。
【
図9】比較対象のピンの溶着を通じて生じる問題について説明するための図である。
【
図10】実施の形態1に従うピンにおいて頭部に連通部が形成されている理由について説明するための図である。
【
図11】実施の形態2に従うピンを模式的に示す斜視図である。
【
図12】実施の形態2に従うピンを模式的に示す平面図である。
【
図13】実施の形態2に従うピンを模式的に示す正面図である。
【
図14】実施の形態2に従うピンを模式的に示す側面図である。
【
図15】第1の他の実施の形態に従うピンを模式的に示す斜視図である。
【
図16】第1の他の実施の形態に従うピンの凹部にチップの突起部が挿入された状態を模式的に示す斜視図である。
【
図17】第2の他の実施の形態に従うピンを模式的に示す斜視図である。
【
図18】第3の他の実施の形態に従うピンを模式的に示す斜視図である。
【
図19】第4の他の実施の形態に従うピンを模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施の形態」とも称する。)について、図面を用いて詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、各図面は、理解の容易のために、適宜対象を省略又は誇張して模式的に描かれている。
【0016】
[1.実施の形態1]
<1-1.概要>
図1は、本実施の形態1に従うピン100を模式的に示す斜視図である。
図1を参照して、ピン100は、例えば、後述の超音波溶着装置10(
図5参照)から超音波振動を受けることによって溶融する。すなわち、超音波溶着装置10は、ピン100に超音波振動を伝搬させることによってピン100を溶融させ、ピン100の溶着を行なうように構成されている。
【0017】
ピン100は、例えば、生体吸収性材料で構成され、人の骨に溶着される。例えば、骨折箇所を跨ぐ位置に配置されたプレートが骨に固定されることにより骨折の治療が行なわれる。このプレートには、ピン100を挿入する貫通孔が複数箇所に設けられている。骨において、プレートの各貫通孔に対応する位置に孔が形成される。プレートの孔及び骨に形成された孔の両方に挿入された各ピン100が超音波溶着装置10によって骨に溶着されることにより、骨折箇所を跨ぐ位置に配置されたプレートが骨に固定される。ピン100は、例えば、このような用途に用いられる。
【0018】
ピン100がこのような用途に用いられ得ることを考慮すると、ピン100の引抜強度はある程度高いことが好ましい。本実施の形態1に従うピン100は、引抜強度を高めるための構成上の特徴を有している。以下、ピン100について詳細に説明する。
【0019】
<1-2.構成>
(1-2-1.ピンの構成)
図2は、本実施の形態1に従うピン100を模式的に示す平面図である。
図3は、本実施の形態1に従うピン100を模式的に示す正面図である。
図4は、本実施の形態1に従うピン100を模式的に示す側面図である。
図2、
図3及び
図4を参照して、ピン100は、例えば、生体吸収性材料で構成されている。
【0020】
生体吸収性材料の一例としては、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコール酸共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。これらの生体吸収性材料は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
ピン100は、軸部110と、頭部120とを含んでいる。軸部110は、円柱部111と、テーパ部112とを含んでいる。円柱部111は、円柱形状を有しており、頭部120の下面から下方に延びている。平面視において、円柱部111は、真円形状を有している。円柱部111においては、上下方向におけるいずれの位置においても断面の直径が略同一である。なお、平面視における円柱部111の形状は、必ずしも真円形状でなくてもよい。平面視における円柱部111の形状は、例えば、楕円形状であってもよいし、多角形状であってもよい。
【0022】
テーパ部112は、円柱部111の下端から下方に延びている。テーパ部112においては、下端に近付く程細くなるテーパが形成されている。平面視において、テーパ部112は、真円形状を有している。テーパ部112においては、下端に近い位置ほど断面の直径が短い。なお、平面視におけるテーパ部112の形状は、必ずしも真円形状でなくてもよい。平面視におけるテーパ部112の形状は、例えば、楕円形状であってもよいし、多角形状であってもよい。
【0023】
頭部120は、軸部110の一方の端部に形成されている。より具体的には、頭部120は、円柱部111の両端部のうちテーパ部112が形成されている端部とは反対側の端部に形成されている。平面視において、頭部120は、真円形状を有している。平面視において、頭部120の直径は、軸部110の直径よりも長い。なお、平面視における頭部120の形状は、必ずしも真円形状でなくてもよい。平面視における頭部120の形状は、例えば、楕円形状であってもよいし、多角形状であってもよい。
【0024】
頭部120には、軸部110が延びる方向に凹んだ凹部121が形成されている。凹部121は、被保持部122と、連通部123とを含んでいる。被保持部122は、略円柱形状の空間を形成している。詳細については後述するが、超音波溶着装置10に含まれるハンドピース200のチップ230(
図5参照)が被保持部122に挿入された場合に、ピン100が摩擦力によってハンドピース200に保持される。平面視において、凹部121は、チップ230の先端部よりも大きい。連通部123は、頭部120の径方向において被保持部122から頭部120の周縁部まで延びる切欠きによって構成されている。平面視において、被保持部122の直径L1は、頭部120の径方向に直交する方向における連通部123の長さL2よりも長い。被保持部122の底面と連通部123の底面とは面一となっている。頭部120に連通部123が形成されている理由については後程詳しく説明する。
【0025】
(1-2-2.超音波溶着装置の構成)
図5は、超音波溶着装置10の構成を模式的に示す図である。
図5を参照して、超音波溶着装置10は、例えば、本実施の形態1に従うピン100の溶着に用いられる。超音波溶着装置10は、発振器20と、ハンドピース200とを含んでいる。発振器20とハンドピース200とは、ケーブル30を介して接続されている。
【0026】
発振器20は、商用電源から供給される電力を超音波電力に変換し、ケーブル30を介して超音波電力をハンドピース200へ供給するように構成されている。発振器20においては、例えば、溶着対象の状態等に応じて超音波電力の周波数が適宜調整されると共に、溶着物の有無又は加圧力等に拘わらずハンドピース200の先端における振幅が一定となるための制御が行なわれる。
【0027】
ハンドピース200は、BL振動子(Bolt-clamped Langevin type transducer)210と、ケース220と、ホーン225と、チップ230とを含んでいる。BL振動子210は、発振器20から供給された超音波電力に基づいて超音波振動を発生させるように構成されている。ケース220は、例えば、中空の円柱形状を有しており、BL振動子210を内部に収容するように構成されている。ホーン225は、BL振動子210の先端に取り付けられており、BL振動子210によって生成された超音波振動を増幅するように構成されている。
【0028】
チップ230は、ホーン225の先端に接続されており、ホーン225によって増幅された超音波振動を溶着対象物へ伝搬させるように構成されている。チップ230は、ホーン225に対して着脱可能に構成されてもよく、ホーン225と一体的に構成されてもよい。チップ230は、例えば、チタン又はセラミックスで構成されている。
【0029】
図6は、チップ230を模式的に示す斜視図である。
図6に示されるように、チップ230は、基部235と、突起部231とを含んでいる。基部235は、例えば、略円柱形状を有する。突起部231は、基部235の先端面FC1に形成されており、略円柱形状を有する。突起部231の幅方向の長さ(直径)は、基部235の幅方向の長さ(直径)よりも短い。突起部231は、溶着対象物であるピン100を保持するように構成されている。具体的には、突起部231は、ピン100の被保持部122(
図1参照)に挿入されることによってピン100を保持する。
【0030】
<1-3.超音波溶着装置によるピンの溶着>
図7は、チップ230の突起部231にピン100を取り付ける様子を模式的に示す図である。
図7を参照して、突起部231へのピン100の取付けは、例えば、ピン100が固定台400に配置された状態で行なわれる。固定台400には複数の穴H1が形成されており、各穴H1にはピン100が収容されている。
【0031】
まず、チップ230の突起部231が頭部120の被保持部122に挿入される。突起部231が被保持部122に挿入されることによって、ピン100が摩擦力によってチップ230に保持される。チップ230がピン100を保持した状態でハンドピース200が持ち上げられると、ピン100が固定台400から取り出される。このような手順で、チップ230の突起部231へのピン100の取付けが行なわれる。
【0032】
図8は、ピン100の溶着がどのように進行するかを説明するための図である。
図8を参照して、横軸は時間を示す。この例においては、プレート500に形成された孔及び骨600に形成された孔の両方にピン100が挿入された状態でピン100の溶着が行なわれる。ピン100が溶着されることによりプレート500が骨600に固定される。
【0033】
時刻t0において、ピン100がチップ230によって下方向へ押圧され、ピン100が骨600の孔に徐々に押し込まれる。この状態において、チップ230からピン100へ超音波振動が伝搬している。ピン100が超音波振動を受けることによりプレート500及び骨600の各々とピン100との間で摩擦熱が生じ、ピン100の側面が溶融し始める。時刻t1において、ピン100が骨600の孔にさらに押し込まれ、ピン100の溶融がさらに進行する。時刻t3において、軸部110が完全に溶融し、樹脂が骨600の孔の隙間に入り込む。これにより、ピン100が骨600に強固に合着される。このように、ピン100の溶着によって、プレート500が骨600に固定される。
【0034】
<1-4.ピンの引抜強度の改善>
図9は、比較対象のピン100Xの溶着を通じて生じる問題について説明するための図である。
図9を参照して、比較対象のピン100Xは、軸部110と、頭部120Xとを含んでいる。頭部120Xには、凹部121Xが形成されている。凹部121Xは、略円柱状の空間のみを形成している。すなわち、比較対象のピン100Xにおいては、頭部120Xに、連通部123(
図1参照)に対応する切欠きが形成されていない。
【0035】
したがって、チップ230の突起部231がピン100Xの凹部121Xへ挿入された場合に、突起部231の側面が全体的に凹部121Xの内周面に接触する。そのため、凹部121X内の空気AR1の逃げ道が存在せず、チップ230の突起部231がピン100Xの凹部121Xへ挿入されるのに応じて凹部121X内の空気AR1が圧縮される。その結果、凹部121Xには、圧縮された空気AR1が残る(
図9左側参照)。
【0036】
このような状態でピン100Xの溶融が行なわれると、軸部110の溶融が進行するのに伴い空気AR1が溶融した樹脂内に入り込む。その結果、例えば、軸部110と頭部120Xとの境界部分近傍(軸部110の付け根部近傍)に気泡BU1が形成される(
図9右側参照)。このような気泡BU1が形成されると、軸部110の付け根部近傍における破断が生じ易くなる。すなわち、このような気泡BU1は、溶着されたピン100Xの引抜強度低下の原因となる。本発明者(ら)は、比較対象のピン100Xの溶着が行なわれた場合にこのような問題が生じることを見出した。
【0037】
図10は、本実施の形態1に従うピン100において頭部120に連通部123が形成されている理由について説明するための図である。
図10を参照して、ピン100の凹部121に連通部123が形成されているため、チップ230の突起部231がピン100の凹部121(被保持部122)へ挿入された場合に、連通部123において突起部231が凹部121の内周面に接触しない。連通部123が空気AR1の逃げ道となるため、チップ230の突起部231がピン100の凹部121へ挿入された場合に、凹部121(被保持部122)内の空気AR1が圧縮されない。その結果、凹部121には、圧縮されていない空気AR1が残る(
図10左側参照)。
【0038】
このような状態でピン100の溶融が行なわれると、凹部121(被保持部122)内の空気AR1は連通部123を介して徐々に凹部121の外部へ排出される(
図10右側参照)。その結果、軸部110と頭部120との境界部分に気泡が形成される事態の発生が抑制される。
【0039】
このように、本実施の形態1に従うピン100においては、頭部120の凹部121(被保持部122)にハンドピース200の突起部231が挿入された状態で頭部120の外部に連通する空間(連通部123)が凹部121に形成されている。したがって、ピン100によれば、超音波振動を伝搬させることによるピン100の溶融が行なわれる場合に、凹部121内の空気が連通部123を介して頭部120の外部へ逃げるため、凹部121内の空気に起因する気泡がピン100の軸部110の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、ピン100によれば、凹部121内の空気に起因する気泡がピン100の軸部110の付け根部近傍に形成される場合と比較してピン100の引抜強度を改善することができる。
【0040】
<1-5.特徴>
以上のように、本実施の形態1に従うピン100において、凹部121には、ハンドピース200の突起部231が被保持部122に挿入された状態で頭部120の外部に連通する連通部123が形成されている。したがって、本実施の形態1に従うピン100によれば、超音波振動を伝搬させることによるピン100の溶融が行なわれる場合に、凹部121内の空気が連通部123を介して頭部120の外部へ逃げるため、凹部121内の空気に起因する気泡がピン100の軸部110の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、ピン100によれば、凹部121内の空気に起因する気泡がピン100の軸部110の付け根部近傍に形成される場合と比較してピン100の引抜強度を改善することができる。
【0041】
[2.実施の形態2]
上記実施の形態1に従うピン100においては、頭部120に凹部121が形成されており、凹部121が被保持部122と連通部123とを含んでいた。しかしながら、頭部120の構成はこれに限定されない。
【0042】
図11は、本実施の形態2に従うピン100Aを模式的に示す斜視図である。
図11を参照して、ピン100Aは、例えば、超音波溶着装置10(
図5参照)から超音波振動を受けることによって溶融する。ピン100Aは、例えば、生体吸収性材料で構成される。ピン100Aは軸部110と頭部120Aとを含んでおり、頭部120Aには凹部121Aが形成されている。以下、本実施の形態2に従うピン100Aに関し、上記実施の形態1に従うピン100と異なる部分を中心に説明する。
【0043】
<2-1.ピンの構成>
図12は、本実施の形態2に従うピン100Aを模式的に示す平面図である。
図13は、本実施の形態2に従うピン100Aを模式的に示す正面図である。
図14は、本実施の形態2に従うピン100Aを模式的に示す側面図である。
図12、
図13及び
図14を参照して、頭部120Aは、軸部110の一方の端部に形成されている。より具体的には、頭部120Aは、円柱部111の両端部のうちテーパ部112が形成されている端部とは反対側の端部に形成されている。
【0044】
平面視において、頭部120Aは、真円形状を有している。平面視において、頭部120Aの直径は、軸部110の直径よりも長い。なお、平面視における頭部120Aの形状は、必ずしも真円形状でなくてもよい。平面視における頭部120Aの形状は、例えば、楕円形状であってもよいし、多角形状であってもよい。
【0045】
頭部120Aには、軸部110が延びる方向に凹んだ部分を含む凹部121Aが形成されている。凹部121Aは、被保持部122Aと、連通部123Aとを含んでいる。被保持部122Aは、略円柱形状の空間を形成している。超音波溶着装置10に含まれるハンドピース200のチップ230(
図5参照)が被保持部122Aに挿入された場合に、ピン100Aが摩擦力によってハンドピース200に保持される。連通部123Aは、被保持部122Aから頭部120Aの外部へ貫通した孔(貫通孔)によって構成されている。連通部123Aは、被保持部122Aの側面と頭部120Aの側面との間を貫通している。上下方向(高さ方向)において、被保持部122Aの底面の位置と連通部123Aの下端の位置とは略同一である。
【0046】
このように、ピン100Aにおいては、被保持部122Aから頭部120Aの外部へ貫通した連通部123Aが形成されている。したがって、ピン100Aによれば、超音波振動を伝搬させることによるピン100Aの溶融が行なわれる場合に、凹部121A(被保持部122A)内の空気が連通部123Aを介して凹部121A(被保持部122A)の外部へ逃げるため、凹部121A内の空気に起因する気泡がピン100Aの軸部110の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、ピン100Aによれば、凹部121A内の空気に起因する気泡がピン100Aの軸部110の付け根部近傍に形成される場合と比較してピン100Aの引抜強度を改善することができる。
【0047】
<2-2.特徴>
以上のように、本実施の形態2に従うピン100Aにおいては、連通部123Aが、被保持部122Aから頭部120Aの外部へ貫通しており、連通空間として機能する。したがって、ピン100Aによれば、超音波振動を伝搬させることによるピン100Aの溶融が行なわれる場合に、凹部121A内の空気が連通部123Aを介して頭部120Aの外部へ逃げるため、凹部121A内の空気に起因する気泡がピン100Aの軸部110の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。その結果、ピン100Aによれば、凹部121A内の空気に起因する気泡がピン100Aの軸部110の付け根部近傍に形成される場合と比較してピン100Aの引抜強度を改善することができる。
【0048】
[3.他の実施の形態]
上記実施の形態の思想は、以上で説明された実施の形態に限定されない。例えば、いずれかの実施の形態の少なくとも一部の構成と、他のいずれかの実施の形態の少なくとも一部の構成とが組み合わされてもよい。以下、上記実施の形態の思想を適用できる他の実施の形態の一例について説明する。
【0049】
<3-1>
ピンの頭部に形成された凹部にハンドピース200の突起部231が挿入された場合に凹部内に連通空間が形成されるための構造的な特徴は、上記実施の形態1,2に示されるものに限定されない。
【0050】
図15は、第1の他の実施の形態に従うピン100Bを模式的に示す斜視図である。
図15に示されるように、ピン100Bは、軸部110と、頭部120Bとを含んでいる。頭部120Bには、凹部121Bが形成されている。凹部121Bは、略四角柱形状の空間を形成している。平面視において、凹部121Bの形状は、例えば、正方形である。平面視において、凹部121Bは、ハンドピース200の突起部231よりも大きい。ピンの構成は、
図15に示されるような構成であってもよい。
【0051】
図16は、ピン100Bの凹部121Bにチップ230の突起部231が挿入された状態を模式的に示す斜視図である。
図16に示されるように、凹部121Bに突起部231が挿入された状態で、凹部121Bには連通空間SP1が形成されている。したがって、ピン100Bによれば、超音波振動を伝搬させることによるピン100Bの溶融が行なわれる場合に、凹部121B内の空気が連通空間SP1を介して頭部120Bの外部へ逃げるため、凹部121B内の空気に起因する気泡がピン100Bの軸部110の付け根部近傍に形成される事態の発生を抑制することができる。
【0052】
図17は、第2の他の実施の形態に従うピン100Cを模式的に示す斜視図である。
図17に示されるように、ピン100Cは、軸部110と、頭部120Cとを含んでいる。頭部120Cには、凹部121Cが形成されている。凹部121Cは、略三角柱形状の空間を形成している。平面視において、凹部121Cの形状は、例えば、正三角形である。平面視において、凹部121Cは、ハンドピース200の突起部231よりも大きい。ピンの構成は、
図17に示されるような構成であってもよい。
【0053】
図18は、第3の他の実施の形態に従うピン100Dを模式的に示す斜視図である。
図18に示されるように、ピン100Dは、軸部110と、頭部120Dとを含んでいる。頭部120Dには、凹部121Dが形成されている。凹部121Dは、略楕円柱形状の空間を形成している。平面視において、凹部121Dの形状は、例えば、楕円形である。平面視において、凹部121Dは、ハンドピース200の突起部231よりも大きい。ピンの構成は、
図18に示されるような構成であってもよい。
【0054】
図19は、第4の他の実施の形態に従うピン100Eを模式的に示す斜視図である。
図19に示されるように、ピン100Eは、軸部110と、頭部120Eとを含んでいる。頭部120Eには、凹部121Eが形成されている。凹部121Eは、被保持部122Eと、連通部123E1,123E2,123E3とを含んでいる。被保持部122Eは、略円柱形状の空間を形成している。超音波溶着装置10に含まれるハンドピース200のチップ230が被保持部122Eに挿入された場合に、ピン100Eが摩擦力によってハンドピース200に保持される。連通部123E1,123E2,123E3の各々は、頭部120Eの径方向において被保持部122Eから頭部120Eの周縁部まで延びる切欠きによって構成されている。被保持部122Eの底面と連通部123E1,123E2,123E3の各々の底面とは面一となっている。ピンの構成は、
図19に示されるような構成であってもよい。
【0055】
<3-2>
また、ピン100,100A,100B,100C,100D,100Eの用途は上述されたものに限定されない。各ピンは、例えば、超音波溶着装置10によって溶融される一般的なピンの各用途に用いられもよい。また、一般的な各用途に用いられる場合に、ピン100,100A,100B,100C,100D,100Eは、必ずしも生体吸収性材料で構成されなくてもよい。ピン100,100A,100B,100C,100D,100Eは、例えば、生体吸収性材料以外の樹脂又は金属で構成されてもよい。
【0056】
<3-3>
また、超音波溶着装置10に含まれるチップ230の基部235及び突起部231の各々の形状は略円柱形状に限定されない。チップ230の基部235及び突起部231の各々の形状は、例えば、略角柱形状であってもよい。この場合には、ピン100の被保持部122によって構成される空間の形状も略角柱形状であってもよい。また、チップ230を先端側から見た場合における基部235及び突起部231の各々の形状は、必ずしも真円形状である必要はなく、例えば、楕円形状、三角形及び四角形等の多角形状、台形状又は菱形状であってもよい。ピン100,100A,100B,100C,100D,100Eのそれぞれの凹部121,121A,121B,121C,121D,121Eによって構成される空間の形状もチップ230の突起部231の形状に合わせて適宜変更されてもよい。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について例示的に説明した。すなわち、例示的な説明のために、詳細な説明及び添付の図面が開示された。よって、詳細な説明及び添付の図面に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須でない構成要素が含まれることがある。したがって、それらの必須でない構成要素が詳細な説明及び添付の図面に記載されているからといって、それらの必須でない構成要素が必須であると直ちに認定されるべきではない。
【0058】
また、上記実施の形態は、あらゆる点において本発明の例示にすぎない。上記実施の形態は、本発明の範囲内において、種々の改良や変更が可能である。すなわち、本発明の実施にあたっては、実施の形態に応じて具体的構成を適宜採用することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 超音波溶着装置、20 発振器、30 ケーブル、100,100A,100B,100C,100D,100E,100X ピン、110 軸部、111 円柱部、112 テーパ部、120,120A,120B,120C,120D,120E,120X 頭部、121,121A,121B,121C,121D,121E,121X 凹部、122,122A,122E 被保持部、123,123A,123E1,123E2,123E3 連通部、200 ハンドピース、210 BL振動子、220 ケース、225 ホーン、230 チップ、231 突起部、235 基部、400 固定台、500 プレート、600 骨、AR1 空気、BU1 気泡、FC1 先端面、H1 穴、SP1 連通空間。