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特開2024-17141塑造用粘土、粘土成形物、該粘土成形物の表面処理方法、及び粘土用含浸剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017141
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】塑造用粘土、粘土成形物、該粘土成形物の表面処理方法、及び粘土用含浸剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 33/13 20060101AFI20240201BHJP
   C04B 41/63 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C04B33/13 P
C04B41/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119591
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】321000565
【氏名又は名称】中橋 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100096080
【弁理士】
【氏名又は名称】井内 龍二
(74)【代理人】
【識別番号】100194098
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 一
(72)【発明者】
【氏名】中橋 克成
【テーマコード(参考)】
4G028
【Fターム(参考)】
4G028CA01
4G028CA02
4G028CB04
4G028CB05
(57)【要約】
【課題】粘土原型から材質転換や焼成を行うことなく、機械的な強度特性が良好で、粘土による恒久的な実材制作品を容易に制作することができる塑造用粘土を提供すること。
【解決手段】塑造用粘土は、水系ウレタン樹脂と水溶性アクリル樹脂とを含有している。
【選択図】 無し
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系ウレタン樹脂と水溶性アクリル樹脂とを含有していることを特徴とする塑造用粘土。
【請求項2】
粘土粉末100重量部に対して、
前記水系ウレタン樹脂と前記水溶性アクリル樹脂とを含む溶液を1重量部以上20重量部以下と、
水とを含んでいることを特徴とする請求項1記載の塑造用粘土。
【請求項3】
前記溶液に、前記水系ウレタン樹脂が20重量%以上35重量%以下、前記水溶性アクリル樹脂が5重量%以上15重量%以下含まれていることを特徴とする請求項2記載の塑造用粘土。
【請求項4】
粘土粉末100重量部に対して、
前記水系ウレタン樹脂が0.2~7重量部、前記水溶性アクリル樹脂が0.05~3重量部含まれていることを特徴とする請求項1記載の塑造用粘土。
【請求項5】
粘土硬度計で計測した硬度が4以上7以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載の塑造用粘土。
【請求項6】
JIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮強さが、5.5MPa以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載の塑造用粘土。
【請求項7】
JIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮弾性率が、600MPa以上であることを特徴とする請求項6記載の塑造用粘土。
【請求項8】
JIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮強さが、5.5MPa以上であり、
かつJIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮弾性率が、600MPa以上であることを特徴とする請求項3記載の塑造用粘土。
【請求項9】
JIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮強さが、5.5MPa以上であり、
かつJIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮弾性率が、600MPa以上であることを特徴とする請求項4記載の塑造用粘土。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、8又は9に記載の塑造用粘土で成形された粘土成形物であって、
少なくとも表層部に粘土固め剤を浸透固化させた固化層が形成されていることを特徴とする粘土成形物。
【請求項11】
前記粘土固め剤が、
ウレタン樹脂と有機溶剤とを含んでいることを特徴とする請求項10記載の粘土成形物。
【請求項12】
前記粘土固め剤に前記ウレタン樹脂が20重量%以上30重量%以下含まれていることを特徴とする請求項11記載の粘土成形物。
【請求項13】
前記ウレタン樹脂が、主鎖にエーテル又はエステル構造を有するウレタンプレポリマーを含んでいることを特徴とする請求項11記載の粘土成形物。
【請求項14】
前記粘土固め剤の粘度が、25℃で1~5mPa・sであることを特徴とする請求項10記載の粘土成形物。
【請求項15】
請求項1、2、3、4、8又は9に記載の塑造用粘土で成形された粘土成形物の表面に粘土固め剤を塗布し、前記粘土成形物の少なくとも表層部に前記粘土固め剤を浸透固化させることを特徴とする粘土成形物の表面処理方法。
【請求項16】
前記粘土固め剤が、
ウレタン樹脂と有機溶剤とを含んでいることを特徴とする請求項15記載の粘土成形物の表面処理方法。
【請求項17】
水系ウレタン樹脂と水溶性アクリル樹脂とを含んでいることを特徴とする粘土用含浸剤。
【請求項18】
前記水系ウレタン樹脂が20重量%以上35重量%以下、前記水溶性アクリル樹脂が5重量%以上15重量%以下含まれていることを特徴とする請求項17記載の粘土用含浸剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑造用粘土、粘土成形物、該粘土成形物の表面処理方法、及び粘土用含浸剤に関し、より詳細には、教育、芸術・創作の分野などでの造形活動に有用な塑造用粘土、該塑造用粘土で成形された粘土成形物、該粘土成形物の表面処理方法、及び粘土用含浸剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塑造用の粘土としては、天然に存在するカオリナイト等の鉱物成分を含む水粘土(土粘土ともいう)が主に使用されている。前記水粘土は保水状態にあって柔軟で独特の手触りと可塑性があることから細工性にも富み、教育現場など多くの場面で使用されている。
前記水粘土は乾燥段階で表面にひび割れが発生したり形が崩れたりして、作品としてそのままの形を残しにくいという問題があった。そのため、従来の塑造制作においては、粘土で造形化した後、雌型を取るために造形物に石膏を被せて型取りを行い、その後、粘土を取り除いた石膏型の中に樹脂、石膏などを注入して成形後、石膏雌型を壊して塑造原型を制作していた。そのため、塑造の制作は、非常に手間、労力を要し、素人が手軽に行うことができなかった。
【0003】
乾燥後の粘土の表面にひび割れが発生する現象を防止するために、粘土に高分子材料を配合する技術が従来提案されている。
例えば、下記の特許文献1には、鉱物成分粉末100重量部に対し、非イオン性の水溶性セルロースエーテル1~10量部とウェランガム0.5~5重量部とからなる粘結剤を配合し、水と混練してなる工芸用粘土組成物が開示されている。
また、下記の特許文献2には、粘土とバイオガム、セルローズ誘導体、クアーガム又はその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の水溶性高分子化合物とを含有する主材と、セメント系固化材とからなる粘土組成物が開示されている。
【0004】
[発明が解決しようとする課題]
しかしながら、特許文献1、2記載の粘土組成物によれば、造形後に乾燥させた粘土成形物のひび割れ等を防止する効果が十分ではなく、粘土で恒久的な作品を制作する用途には適していないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-287047号公報
【特許文献2】特開2001-48634号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段及びその効果】
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、粘土原型から材質転換や焼成などを行うことなく、機械的な強度特性が良好で、粘土による恒久的な実材制作品を容易に制作することができる塑造用粘土、粘土成形物、該粘土成形物の表面処理方法、及び粘土用含浸剤を提供することを目的としている。
【0007】
上記目的を達成するために本発明に係る塑造用粘土(1)は、水系ウレタン樹脂と水溶性アクリル樹脂とを含有していることを特徴としている。
【0008】
従来の塑造の制作においては、粘土で造形化した後、雌型を取るために造形物(粘土原型)に石膏を被せて型取りを行い、その後、粘土を取り除いた石膏型の中に樹脂、石膏などを注入して成形後、石膏雌型を壊して塑造原型を制作していた。そのため、塑造の制作は、非常に手間、労力を要し、素人が手軽に行うことができなかった。
【0009】
上記塑造用粘土(1)によれば、前記水溶性アクリル樹脂が有する良好な水溶性により、前記水系ウレタン樹脂と粘土とのなじみが良好なものとなり、可塑性も良好で、塑造の制作を良好に行うことができる。
さらに、上記塑造用粘土(1)によれば、前記水系ウレタン樹脂の作用により、乾燥後の粘土の強度特性が高められて、ひび割れ等が生じにくくなるため、塑造制作において、従来必要であった石膏等での型取りが不要な為、材質転換が要らず、塑像を直接的に制作することが出来、大胆で自由なモデリングが可能となる。
また、上記塑造用粘土(1)は、テラコッタのように焼成する必要もなく、塑像を直接的に制作(実材制作)することが可能となり、塑造制作にかかる手間や労力が軽減され、だれでも手軽に粘土で塑像を制作し、保存できる。特に、今まで彫刻制作が困難であった視覚障害者等でも粘土による実材制作が可能となり、視覚障害者等のための新たな芸術制作素材として提供することが可能となる。
【0010】
また本発明に係る塑造用粘土(2)は、上記塑造用粘土(1)において、
粘土粉末100重量部に対して、前記水系ウレタン樹脂と前記水溶性アクリル樹脂とを含む溶液を1重量部以上20重量部以下と、水とを含んでいることを特徴としている。
上記塑造用粘土(2)によれば、前記水系ウレタン樹脂と前記水溶性アクリル樹脂とを含むことによる上記効果をより適切に得ることができる。
【0011】
また本発明に係る塑造用粘土(3)は、上記塑造用粘土(2)において、
前記溶液に、前記水系ウレタン樹脂が20重量%以上35重量%以下、前記水溶性アクリル樹脂が5重量%以上15重量%以下含まれていることを特徴としている。
上記塑造用粘土(3)によれば、前記粘土粉末への前記溶液のなじみ特性を高める効果と、乾燥硬化後の強度特性を高める効果との最適化を図ることができる。
【0012】
また本発明に係る塑造用粘土(4)は、上記塑造用粘土(1)において、
粘土粉末100重量部に対して、
前記水系ウレタン樹脂が0.2~7重量部、前記水溶性アクリル樹脂が0.05~3重量部含まれていることを特徴としている。
上記塑造用粘土(4)によれば、前記水溶性アクリル樹脂による粘土粉末へのなじみ特性を高める効果と、前記水系ウレタン樹脂とによる乾燥硬化後の強度特性を高める効果との最適化を図ることができる。
【0013】
なお、前記水系ウレタン樹脂には、無黄変型ウレタン樹脂、アニオン系自己乳化型ウレタン樹脂、高ガラス転移点型ウレタン樹脂のうちの少なくとも1つを含んでいることが好ましい。係る構成によれば、乾燥硬化後の粘土の強度特性や耐候性を向上させる効果を高めることができる。
【0014】
また、前記水溶性アクリル樹脂は、高ガラス転移点型のアクリル樹脂を含んでいることが好ましい。係る構成によれば、粘土へのなじみを向上させることができ、また、乾燥硬化後の粘土の耐候性及び強度を向上させることができる。
【0015】
また本発明に係る塑造用粘土(5)は、上記塑造用粘土(1)~(4)のいずれかにおいて、粘土硬度計で計測した硬度が4以上7以下であることを特徴としている。
上記塑造用粘土(5)によれば、子供でも大人でも扱いやすい硬さの粘土に調整されたものにできる。
【0016】
また本発明に係る塑造用粘土(6)は、上記塑造用粘土(1)~(5)のいずれかにおいて、JIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮強さが、5.5MPa以上であることを特徴としている。
上記塑造用粘土(6)によれば、乾燥硬化後の圧縮強さが高められて、ひび割れ等の発生を防止する効果が優れたものとなる。
【0017】
また本発明に係る塑造用粘土(7)は、上記塑造用粘土(1)~(6)のいずれかにおいて、JIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮弾性率が、600MPa以上であることを特徴としている。
上記塑造用粘土(7)によれば、乾燥硬化後の圧縮弾性率が高められて、ひび割れ等の発生を防止する効果が優れたものとなる。
【0018】
また本発明に係る塑造用粘土(8)は、上記塑造用粘土(3)又は(4)において、
JIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮強さが、5.5MPa以上であり、
かつJIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮弾性率が、600MPa以上であることを特徴としている。
【0019】
上記塑造用粘土(8)によれば、乾燥硬化後の圧縮強さと圧縮弾性率とが高められて、ひび割れ等の発生を防止する効果が優れたものとなる。
【0020】
また本発明に係る粘土成形物(1)は、上記塑造用粘土(1)~(8)のいずれかで成形された粘土成形物であって、少なくとも表層部に粘土固め剤を浸透固化させた固化層が形成されていることを特徴としている。
上記粘土成形物(1)によれば、前記固化層により、さらに耐水性、耐油性、耐摩耗性、耐候性等が向上したものとなり、前記粘土成形物を恒久的な作品(実材制作品)とした場合であっても、前記表層部のひび割れ、反りなどが確実に抑制されたものとなる。
【0021】
また本発明に係る粘土成形物(2)は、上記粘土成形物(1)において、
前記粘土固め剤が、ウレタン樹脂と有機溶剤とを含んでいることを特徴としている。
上記粘土成形物(2)によれば、前記表層部に前記ウレタン樹脂が浸透しやすく、また、浸透した前記ウレタン樹脂が、前記有機溶剤の揮発後に固化することにより、上記粘土成形物(1)による効果をより適切に得ることができる。
【0022】
また本発明に係る粘土成形物(3)は、上記粘土成形物(2)において、
前記粘土固め剤に前記ウレタン樹脂が20重量%以上30重量%以下含まれていることを特徴としている。
上記粘土成形物(3)によれば、前記表層部に浸透した前記ウレタン樹脂が、前記有機溶剤の揮発後に固化した後でも、前記表層部がプラスチック化することなく、粘土の質感を良好に維持することができる。
【0023】
また本発明に係る粘土成形物(4)は、上記粘土成形物(2)又は(3)において、
前記ウレタン樹脂が、主鎖にエーテル又はエステル構造を有するウレタンプレポリマーを含んでいることを特徴としている。
上記粘土成形物(4)によれば、前記表層部に浸透した前記ウレタンプレポリマーが、前記有機溶剤の揮発後に水分と重合反応して硬化して、前記固化層が形成されるので、粘土の質感を維持したまま、機械的強度、耐水性、耐候性に優れたものとなる。
【0024】
また本発明に係る粘土成形物(5)は、上記粘土成形物(1)~(4)のいずれかにおいて、前記粘土固め剤の粘度が、25℃で1~5mPa・sであることを特徴としている。
上記粘土成形物(5)によれば、前記表層部に前記粘土固め剤が良好に浸透し、前記固化層の厚みを増すことができ、ひび割れ、反り等を防止する効果を高めることができる。
【0025】
また本発明に係る粘土成形物の表面処理方法(1)は、上記塑造用粘土(1)~(8)のいずれかで成形された粘土成形物の表面に粘土固め剤を塗布し、前記粘土成形物の少なくとも表層部に前記粘土固め剤を浸透固化させることを特徴としている。
上記粘土成形物の表面処理方法(1)によれば、前記粘土成形物の少なくとも前記表層部に前記粘土固め剤を浸透固化させるので、前記粘土固め剤により前記粘土成形物のひび割れ等の発生防止効果がさらに高められ、機械的な強度特性を向上させることができる。
【0026】
また本発明に係る粘土成形物の表面処理方法(2)は、上記粘土成形物の表面処理方法(1)において、前記粘土固め剤が、ウレタン樹脂と有機溶剤とを含んでいることを特徴としている。
上記粘土成形物の表面処理方法(2)によれば、前記粘土成形物の少なくとも前記表層部に前記ウレタン樹脂が浸透しやすく、また、浸透した前記ウレタン樹脂が、前記有機溶剤の揮発後に固化することにより、前記粘土成形物の機械的な強度特性とともに、耐水性や耐候性をさらに高めることができる。
【0027】
なお前記粘土固め剤に、前記ウレタン樹脂が20重量%以上30重量%以下含まれていることが好ましい。
係る構成によれば、前記表層部に浸透した前記ウレタン樹脂が、前記有機溶剤の揮発後に固化した後でも、前記表層部がプラスチック化することなく、粘土の質感を良好に維持することができる。
【0028】
また前記ウレタン樹脂が、主鎖にエーテル又はエステル構造を有するウレタンプレポリマーを含んでいることが好ましい。
係る構成によれば、前記表層部に浸透した前記ウレタンプレポリマーが、前記有機溶剤の揮発後に水分と重合反応して硬化して、前記固化層が形成されるので、粘土の質感を維持したまま、機械的強度、耐水性、耐候性を向上させることができる。
【0029】
また前記粘土固め剤の粘度が、25℃で1~5mPa・sであることが好ましい。
係る構成によれば、前記粘土成形物へ塗布作業が容易となり、また、前記表層部に前記粘土固め剤が良好に浸透し、前記固化層の厚みを増すことができ、ひび割れ、反り等の発生防止効果を高めることができる。
【0030】
また本発明に係る粘土用含浸剤(1)は、水系ウレタン樹脂と水溶性アクリル樹脂とを含んでいることを特徴としている。
上記粘土用含浸剤(1)によれば、前記水溶性アクリル樹脂が有する良好な水溶性により、前記水系ウレタン樹脂と粘土とのなじみを良好なものにして、可塑性も良好で、塑造の制作を良好に行うことが可能な塑造用粘土にすることができる。
さらに、前記水系ウレタン樹脂の作用により、乾燥後の粘土の強度特性を高めて、ひび割れ等が生じにくくし、塑造制作において、従来必要であった材質転換が不要となり、塑像を直接的に制作することが可能な塑造用粘土を提供することができる。
【0031】
また本発明に係る粘土用含浸剤(2)は、上記粘土用含浸剤(1)において、前記水系ウレタン樹脂が20重量%以上35重量%以下、前記水溶性アクリル樹脂が5重量%以上15重量%以下含まれていることを特徴としている。
上記粘土用含浸剤(2)によれば、前記水溶性アクリル樹脂の作用による、粘土に混ぜ込む際のなじみ特性を向上させる効果と、前記水系ウレタン樹脂の作用による、乾燥後の粘土の強度特性を高めて、ひび割れ等が生じにくくする効果との最適化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る塑造用粘土、粘土成形物、該粘土成形物の表面処理方法、及び粘土用含浸剤の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0033】
実施の形態に係る塑造用粘土は、水系ウレタン樹脂と水溶性アクリル樹脂とを含有しており、好ましくは、粘土粉末100重量部に対して、前記水系ウレタン樹脂と前記水溶性アクリル樹脂とを含む溶液(以下、粘土用含浸剤という)を1重量部以上20重量部以下と、水とを含んでいる。なお、前記粘土用含浸剤の配合量は、5重量部以上10重量部以下がより好ましく、6重量部以上8重量部以下がさらに好ましい。
前記粘土粉末は、ベントナイト系、カオリン系、セリサイト系、陶石系、木節系などの鉱産物粘土が好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
前記粘土用含浸剤には、前記水系ウレタン樹脂が20重量%以上35重量%以下、前記水溶性アクリル樹脂が5重量%以上15重量%以下含まれている。より好ましくは、前記水系ウレタン樹脂が、25重量%以上30重量%以下、前記水溶性アクリル樹脂が5重量%以上10重量%以下含まれている。
【0035】
換言すれば、粘土粉末100重量部に対して、前記水系ウレタン樹脂が0.2~0.35重量部以上、4~7重量部以下含まれ、前記水溶性アクリル樹脂が0.05~0.15重量部以上、1~3重量部以下含まれている。より好ましくは、粘土粉末100重量部に対して、前記水系ウレタン樹脂が0.25~0.3重量部以上、5~6重量部以下含まれ、前記水溶性アクリル樹脂が0.05~0.1重量部以上、1~2重量部以下含まれている。
【0036】
前記水系ウレタン樹脂と前記水溶性アクリル樹脂の配合量を上記のように設定することにより、前記粘土粉末への前記粘土用含浸剤のなじみ特性を高める効果と、乾燥後の粘土の強度特性を高める効果との最適化を図ることが可能となる。
【0037】
前記水系ウレタン樹脂は、主鎖に複数のウレタン結合を有するポリマーであって、少なくともポリオール化合物とイソシアネート化合物の反応によって得られる樹脂であり、公知の原料(ポリオール成分、イソシアネート成分、イオン性基導入成分、イオン性基中和剤成分、乳化剤成分、鎖伸長剤成分など)及び方法によって製造することができる。前記水系ウレタン樹脂は、水分散性でもよいし、水溶性でもよい。
前記水系ウレタン樹脂には、無黄変型ウレタン樹脂、アニオン系自己乳化型ウレタン樹脂、高ガラス転移点型ウレタン樹脂のうちの少なくとも1つの特性を有しているものを使用することが好ましく、これらすべての特性を有しているものを使用することがさらに好ましい。係る構成によれば、乾燥後の粘土の耐候性、耐寒性、強度特性を高める効果を向上させることが可能となる。
【0038】
前記ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及び/又はポリカーボネートポリオールなどが使用され得る。前記ポリオール化合物の分子量は、特に制限されないが、数平均分子量で500~5000程度が好ましい。
前記ポリエーテルポリオールとしては、公知のものを使用でき、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等のポリアルキレングリコールの他、エチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体などの単量体成分として複数のアルキレンオキシドを含む(アルキレンオキサイド-他のアルキレンオキサイド)共重合体等が挙げられる。
【0039】
前記ポリエステルポリオールとしては、公知のものを使用でき、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物、環状エステル(ラクトン)の開環重合物、多価アルコール、多価カルボン酸及び環状エステルの3種類の成分による反応物等が挙げられる。
【0040】
前記多価アルコールとしては、公知のものを使用でき、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-テトラメチレンジオール、1,4-テトラメチレンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-テトラメチレンジオール、2-メチル-1,3-トリメチレンジオール、1,5-ペンタメチレンジオール、トリメチルペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキシレングリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサメチレンジオール、3-メチル-1,5-ペンタメチレンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタメチレンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等が挙げられる。
【0041】
前記多価カルボン酸としては、公知のものを使用でき、例えば、マロン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0042】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、カーボネート化合物とジオールとの反応物等が挙げられる。前記カーボネート化合物としては、公知のものを使用でき、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネートなどを挙げることができる。前記ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなどの脂肪族ジオール、シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコールなどの芳香族ジオールが挙げられる。
【0043】
前記イソシアネート化合物としては、公知のものを使用でき、例えば、脂肪族及び脂環族のポリイソシアネート化合物が挙げられる。
前記脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシナネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネートなどが挙げられる。
前記脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイイソシアネートなどが挙げられる。
これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。これらのうち、無黄変型(難黄変型を含む)のポリイソシアネート化合物を使用することが好ましい。より好ましくは、前記脂環族ジイソシアネート、とりわけ、イソホロンジイソシアネート、水添4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0044】
前記水系ウレタン樹脂は、例えば、ウレタン樹脂を水に分散または溶解させたものである。水に分散または溶解させる方法には、乳化剤を用いる強制乳化型、ウレタン樹脂中に親水性基を導入する自己乳化型、または水溶型等がある。特に、ウレタン樹脂の骨格中にイオン基を導入した自己乳化型が、粘土との密着性などに優れており好ましい。また、導入するイオン基としては、カルボキシル基、スルホン酸、リン酸、ホスホン酸、第4級アンモニウム塩等、種々のものが挙げられるが、カルボキシル基などのアニオン系が好ましい。
【0045】
ウレタン樹脂にカルボキシル基を導入する方法としては、重合反応の各段階の中で種々の方法が取り得る。例えば、プレポリマー合成時に、カルボキシル基を持つ樹脂を共重合成分として用いる方法や、ポリオール(例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基を含有するポリオール類)やポリイソシアネート、鎖延長剤などの一成分としてカルボキシル基を持つ成分を用いる方法が適用される。
また、前記水系ウレタン樹脂は、ガラス転移点(Tg)が70℃以上、より好ましくは、80℃以上、100℃以下である高ガラス転移点型であることが好ましい。
前記水系ウレタン樹脂には、市販のエステル系、エステル・エーテル系などの水系ウレタン樹脂(固形分が、例えば20%以上、50%以下のものなど)を用いることができ、特に、アニオン性水分散系ウレタン樹脂を用いることが好ましく、これにより乾燥前の粘土の可撓性を向上させることができ、また、乾燥した粘土の耐水性、耐薬品性、耐摩耗性などを向上させることができる。
【0046】
前記水溶性アクリル樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体を成分とするポリマーである。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル、ヒドロキシルアクリレートなどを主成分としてこれらと共重合可能なモノマー(例えばスチレン、ジビニルベンゼンなど)を、公知の重合法により共重合したポリマーである。前記水溶性アクリル樹脂は、水に溶解可能であれば、水分散性でもよいし、水溶性でもよい。
【0047】
水溶性アクリル樹脂の原料となるアクリル単量体としては、公知のものを使用でき、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有アクリル単量体、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどの水酸基含有アクリル単量体、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートなどの3級アミノ基含有アクリル単量体、4-メタクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-メタクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンなどのヒンダードアミノ基含有アクリル単量体、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチル-プロパンスルホン酸、ダイアセトンアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-エトキシメチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、4-メタクリルアミドエチルエチレンウレアなどのアミド基含有アクリル単量体、2-メタクリロイルオキシエチル-エチレンウレアなどのウレア基含有アクリル単量体、アクリル酸グリシジル、アクリル酸メチルグリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチルグリシジル、ビニルベンジルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有アクリル単量体などを挙げることができる。前記水溶性アクリル樹脂は、これらのアクリル単量体が単独で構成されていても、2種類以上の混合物あるいは共重合体で構成されていてもよい。
また、前記水溶性アクリル樹脂は、ガラス転移点(Tg)が60℃以上、より好ましくは、100℃以上、130℃以下である高ガラス転移点型であることが好ましい。前記水溶性アクリル樹脂には、市販の水溶性アクリル樹脂(固形分が、例えば20%以上、50%以下のものなど)を用いることができる。
【0048】
実施の形態に係る塑造用粘土は、好ましくは、粘土硬度計で計測した硬度が4以上7以下である。
実施の形態に係る塑造用粘土は、好ましくは、JIS K 7181:2001に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮強さが、5.5MPa以上であり、上限値は、例えば25MPa程度である。乾燥硬化後の圧縮強さは、より好ましくは、7MPa~18MPa程度である。
【0049】
実施の形態に係る塑造用粘土は、好ましくは、JIS K 7181:2001に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される、乾燥硬化後の圧縮弾性率が、600MPa以上であり、上限値は、例えば1500MPa程度である。乾燥硬化後の圧縮弾性率は、より好ましくは、750MPa~1300MPa程度である。
【0050】
また、実施の形態に係る粘土成形物は、上記実施の形態に係る塑造用粘土で成形された粘土成形物であって、少なくとも表層部に粘土固め剤を浸透固化させた固化層が形成されている。
【0051】
また、実施の形態に係る粘土成形物の表面処理方法は、上記実施の形態に係る塑造用粘土で成形された粘土成形物の表面に前記粘土固め剤を塗布し、前記粘土成形物の少なくとも表層部に前記粘土固め剤を浸透固化させる工程を含んでいる。
前記粘土固め剤の塗布方法は、特に限定されない。刷毛、スプレーガン等の塗布具で塗布してもよいし、浸漬等により塗布してもよい。
【0052】
前記粘土成形物は、例えば、粘土を実材として、恒久的に残るように制作された造形物である。該造形物の形態等は、特に限定されない。
前記粘土固め剤は、好ましくは、ウレタン樹脂と有機溶剤とを含んでいる。前記粘土固め剤の粘度は、好ましくは、25℃で1~5mPa・sである。
【0053】
前記粘土固め剤には、前記ウレタン樹脂が20重量%以上30重量%以下、より好ましくは、20重量%以上25重量%以下、含まれている。
前記ウレタン樹脂は、好ましくは、主鎖にエーテル又はエステル構造を有するウレタンプレポリマーを含んでいる。
前記ウレタンプレポリマーは、ポリオール化合物と過剰なポリイソシアネート化合物とを反応させて得られたポリマーであって、分子末端にイソシアネート基を有している。
【0054】
前記ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及び/又はポリカーボネートポリオールなどが適用され得るが、ポリエーテルポリオール、又はポリエステルポリオールを適用することが好ましい。
【0055】
前記ポリエーテルポリオールとしては、公知のものを使用でき、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等のポリアルキレングリコールの他、エチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体などの単量体成分として複数のアルキレンオキシドを含む(アルキレンオキサイド-他のアルキレンオキサイド)共重合体等が挙げられる。
【0056】
前記ポリエステルポリオールとしては、公知のものを使用でき、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物、環状エステル(ラクトン)の開環重合物、多価アルコール、多価カルボン酸及び環状エステルの3種類の成分による反応物等が挙げられる。前記多価アルコールとしては、公知のものを使用でき、例えば、上記段落0040に記載したものが挙げられる。また、前記多価カルボン酸としては、公知のものを使用でき、例えば、上記段落0041に記載したものが挙げられる。
【0057】
前記イソシアネート化合物としては、公知のものを使用でき、例えば、芳香族、脂肪族及び脂環族のポリイソシアネート化合物が挙げられる。
前記芳香族ジイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4-ジフェニルエーテルジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオホスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネートなどが挙げられる。
前記脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシナネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネートなどが挙げられる。
前記脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイイソシアネートなどが挙げられる。
これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。これらのうち、芳香族イソシアネートは太陽光線等紫外線により、黄変する傾向があるため、無黄変型(難黄変型を含む)のポリイソシアネート化合物(脂肪族・脂環族)を使用することが好ましい。
【0058】
前記有機溶剤は、公知のものを使用でき、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、メチルエチルケトンなどが適用され得るが、これらに限定されるものではない。
【0059】
上記実施の形態に係る塑造用粘土によれば、前記水溶性アクリル樹脂が有する良好な水溶性により、前記水系ウレタン樹脂と粘土とのなじみが良好なものとなり、可塑性も良好で、塑造の制作を良好に行うことができる。
さらに、前記塑造用粘土によれば、前記水系ウレタン樹脂の作用により、乾燥後の粘土の強度特性が高められて、ひび割れ等が生じにくくなるため、塑造制作において、従来必要であった石膏等での型取りが不要の為、材質転換が要らず、塑像を直接的に制作することが出来、大胆で自由なモデリングが可能となる。
【0060】
また、前記塑造用粘土は、乾燥等によりある程度硬化した状態(例えば、硬度10~15程度に硬化した状態)となった場合に、一般的な粘土の戻し方で水分を加えることにより、もとの状態(例えば、硬度4~7の状態)に戻すことも可能となっており、また、この状態変化を複数回繰り返すことも可能となっている。
したがって、前記塑造用粘土に含まれる前記粘土用含浸剤の樹脂成分が部分的に硬化することもなく、前記塑造用粘土がもとの状態(硬度)に復元されることとなり、繰り返し塑造制作に用いることができ、学術教材として有用なものとなる。
また、前記塑造用粘土は、テラコッタのように焼成する必要もなく、塑像を直接的に制作(実材制作)することが可能となり、塑造制作にかかる手間や労力が軽減され、だれでも手軽に粘土で塑像を制作し、保存できる。なお、テラコッタのように焼成することも可能である。
このことは、従来から使われていた塑造用粘土と全く同じ感覚で使用でき、必要に応じて乾燥させた後、前記粘土固め剤を塗布することによって実材化することが可能である事から非常に使い勝手の良い製品であると言える。
また、今まで彫刻制作が困難であった視覚障害者等でも粘土による実材制作が可能となり、視覚障害者等による芸術活動を広く推進することが可能となる。
【0061】
また実施の形態に係る粘土成形物によれば、上記塑造用粘土で成形され、少なくとも表層部に粘土固め剤を浸透固化させた固化層が形成されているので、前記固化層により、さらに耐水性、耐油性、耐摩耗性、耐候性等が向上したものとなり、前記粘土成形物を恒久的な作品(実材制作品)とした場合であっても、前記表層部のひび割れ、反りなどが確実に抑制されたものとなる。
【0062】
また実施の形態に係る粘土固め剤は、20重量%以上30重量%以下のウレタン樹脂と有機溶剤とを含み、前記ウレタン樹脂が、主鎖にエーテル/エステル構造を有するウレタンプレポリマーを含んでいる。
したがって、前記粘土成形物の少なくとも前記表層部に前記ウレタン樹脂が浸透しやすく、また、浸透した前記ウレタン樹脂が、前記有機溶剤の揮発後に水分と重合反応して硬化して、前記固化層が形成されるので、前記粘土成形物の機械的な強度特性とともに、耐水性や耐候性をさらに高めることができる。また、前記有機溶剤の揮発後に硬化した後でも、前記粘土成形物の表面がプラスチック化することなく、粘土の質感を維持することができる。
【0063】
また実施の形態に係る粘土成形物の表面処理方法によれば、前記粘土成形物の少なくとも前記表層部に前記粘土固め剤を浸透固化させるので、前記粘土固め剤により前記粘土成形物のひび割れ等の発生防止効果がさらに高められ、機械的な強度特性を向上させることができる。
【実施例0064】
以下、実施例によって本発明の実施の形態の一例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
まず、使用する粘土原料の前処理の方法について説明する。
使用する粘土原料としては、以下の2種類のものを使用した。
[粘土原料1]
フレットミル加工(粒径24メッシュアンダー)による乾式粉砕が施された信楽乾式粉砕土(A-18S 並信楽粉砕土 丸二陶料株式会社製)を使用した。
主成分:粘土鉱物(比較的珪砂を多く含む蛙目陶土)、及び粘土鉱物(粘土鉱物を多く含む蛙目粘土原土)
前処理方法:両原料を天日乾燥後、配合の上、石臼で挽き、24メッシュの篩を通過処理した。
【0066】
[粘土原料2]
湿式粉砕(粒径96メッシュアンダー)された水樋粘土(A-2S 信楽水樋粘土 丸二陶料株式会社製)を使用した。
主成分:粘土鉱物(比較的粘土を多く含む陶土)、珪砂、長石を含む。
前処理の方法:ボールミルにより湿式粉砕されて、96メッシュの篩を通過処理させた水通粘土(市販品の状態)の塊を小さく分けて乾燥機に入れて乾燥させた。
乾燥させた粘土を小型粉砕機(F-150 株式会社林田鉄工製)にかけた後、粒径24メッシュアンダーの振動篩器(佐藤式振動篩器)にかけ、その後さらに乾式粉砕機(フレットミル 株式会社林田鉄工製)によりフレットミル加工を行った。
【0067】
次に、上記前処理した粘土原料1と、粘土用含浸剤と、水とを、混合撹拌機(万能混合撹拌機 株式会社品川工業所製)で十分に混合攪拌して、粘土用含浸剤の添加濃度(粘土原料1に対する添加濃度)が1、2、3、5、7.5、15重量%(wt.%)の粘土(実施例1~6)をそれぞれ作った。また、粘土原料1と、水とを、混合撹拌機で十分に混合攪拌して、粘土用含浸剤が含まれていない粘土(比較例1)を作った。
【0068】
同様に、上記前処理した粘土原料2と、粘土用含浸剤と、水とを、混合撹拌機(万能混合撹拌機 株式会社品川工業所製)で十分に混合攪拌して、粘土用含浸剤の添加濃度(粘土原料2に対する添加濃度)が1、2、3、5、7.5、15重量%(wt.%)の粘土(実施例11~16)をそれぞれ作った。また、粘土原料2と、水とを、混合撹拌機で十分に混合攪拌して、粘土用含浸剤が含まれていない粘土(比較例2)を作った。
【0069】
粘土原料1を使用した実施例1~6の粘土と比較例1の粘土の硬度を粘土硬度計(NGK式硬度計、品番NGK-01)で測定した。
同様に、粘土原料2を使用した実施例11~16の粘土と比較例2の粘土の硬度を前記粘土硬度計で測定した。
【0070】
実施例1~6、及び実施例11~16では、前記粘土用含浸剤として、寿化工株式会社製水系含浸剤B液改を使用した。当該含浸剤は約28重量%の水系ウレタン樹脂と、約8.5重量%の水溶性アクリル樹脂と、水溶性溶剤と、防腐剤とを含んでいる。
前記水系ウレタン樹脂は、カルボキシル基含有ポリエステルポリオールとイソホロンジイソシアネートとの反応によって得られた、アニオン系自己乳化型の脂肪族エステル系の水分散系ウレタン樹脂を含んでいる。
前記水溶性アクリル樹脂は、スチレン・アクリル共重合アクリル樹脂を含んでいる。
前記水溶性溶剤は、プロピレングリコールモノメチルエーテルを含んでいる。
【0071】
表1には、粘土原料1を使用した比較例1及び実施例1~6の各粘土に含まれる各成分(粘土原料1、粘土用含浸剤、及び水)の添加配合量と、粘土の硬度の測定値とを示している。なお、粘土用含浸剤の添加濃度(wt.%)は、粘土粉末に対する添加濃度を示している。実施例1~6では、粘土原料1の粉末100重量部に対し、水系ウレタン樹脂が約0.28~4.2重量部、水溶性アクリル樹脂が約0.085~1.275重量部含まれている。
粘土用含浸剤を1(wt.%)以上添加した実施例1~6では、比較例1より粘土の硬度の値が高くなっており、粘土の硬さが増す傾向が見られたが、可塑性はいずれも良好であり、成形性は良好であった。
【0072】
【表1】
【0073】
表2には、粘土原料2を使用した比較例2及び実施例11~16の各粘土に含まれる各成分(粘土原料2、粘土用含浸剤、及び水)の添加配合量と、硬度の測定値とを示している。実施例11~16では、粘土原料2の粉末100重量部に対し、水系ウレタン樹脂が約0.28~4.2重量部、水溶性アクリル樹脂が約0.085~1.275重量部含まれている。
粘土用含浸剤を1(wt.%)以上添加した実施例11~16では、比較例2より粘土の硬度の値が高くなっており、粘土の硬さが増す傾向が見られたが、可塑性はいずれも良好であり、成形性は良好であった。
【0074】
【表2】
【0075】
比較例1及び実施例1~6の各粘土、並びに比較例2及び実施例11~16の各粘土を乾燥硬化させた後の圧縮特性(圧縮強さ、及び圧縮弾性率)を測定し、粘土用含浸剤が粘土の物理特性に与える効果について評価した。
【0076】
試験項目:圧縮特性試験(圧縮強さ、及び圧縮弾性率)
JIS K 7181:2011「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠する方法で圧縮強さ、及び圧縮弾性率を測定した。
【0077】
試験評価方法
I.試験片の作製
(1)型枠の作製
JIS規格に記載された試験片寸法と同じものを、プラスチック加工業者に委託してアクリル板で作製したものをマスターピース(基準の試験片)とした。圧縮強さ、及び圧縮弾性率の2種類の型枠を用意した。
試験片寸法規格:圧縮強さ測定用;縦10mm×横10mm×高さ4mmt.
圧縮弾性率測定用;縦50mm×横100mm×高4mmt.
マスターピースをそれぞれアクリル板に固定して枠を組み、RTVシリコンゴム(信越化学(株)製)を注型して型を作製した。型枠の厚さは約15mmとした。
【0078】
(2)試験片の作製
(a)上記I.で作製したシリコン型に、比較例1及び実施例1~6の各粘土、並びに比較例2及び実施例11~16の各粘土を詰め込み、室温で静置した。
(b)硬化確認後、シリコン型から外してヤスリ等で形状を整えた。
(c)室温放置後、最終的に40℃×24時間、乾燥炉にて養生させた。
【0079】
II.試験操作方法
JIS K 7181:2011「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠する方法で圧縮強さ、及び圧縮弾性率を測定した。
試験条件 1.試験速度:1mm/min
2.試験片の状態調節:常温放置
3.試験室の温度及び湿度:23±2℃、湿度約40%
4.使用試験機:INSTRON 5500 (10kN)
5.試験した試験片の数:n=5
【0080】
III.試験結果
表3には、粘土原料1を使用した比較例1及び実施例1~6の各粘土の試験片の圧縮特性(圧縮強さ、及び圧縮弾性率)の測定結果(n=5の平均値)を示している。
【0081】
【表3】
【0082】
粘土原料1を使用した実施例1~6では、粘土用含浸剤を添加することにより、比較例1と比較して、圧縮強さ及び圧縮弾性率を向上させる効果が確認できた。
粘土用含浸剤の添加濃度が5(wt.%)の実施例4では、圧縮強さが、比較例1の2倍強、圧縮弾性率が約1.4倍となり、粘土用含浸剤の添加濃度が7.5、15(wt.%)の実施例5、6では、圧縮強さが、比較例1の3倍弱、圧縮弾性率が1.5~1.6倍弱となり、粘土成形物の強度向上の顕著な効果が確認できた。
なお、粘土用含浸剤の添加濃度が15(wt.%)の実施例6では、粘土用含浸剤の添加濃度が7.5(wt.%)の実施例5と比較して、圧縮強さ及び圧縮弾性率が同程度となっており、圧縮強さ及び圧縮弾性率を向上させるための粘土用含浸剤の適正な添加濃度は、約5~8(wt.%)であった。すなわち、粘土原料1の粉末100重量部に対し、水系ウレタン樹脂が約1.4~2.24重量部、水溶性アクリル樹脂が約0.425~0.68重量部含まれ、硬度が5~7に調整された粘土が、圧縮強さ及び圧縮弾性率を向上させるのに適正であった。
【0083】
表4には、粘土原料2を使用した比較例2及び実施例11~16の各粘土の試験片の圧縮特性(圧縮強さ、及び圧縮弾性率)の測定結果(n=5の平均値)を示している。
【0084】
【表4】
【0085】
粘土原料2を使用した実施例11~16では、粘土用含浸剤を添加することにより、比較例2と比較して、圧縮強さ及び圧縮弾性率を向上させる効果が確認できた。
粘土用含浸剤の添加濃度が5(wt.%)の実施例4では、圧縮強さが、比較例2の2倍弱、圧縮弾性率が約1.6倍となり、粘土用含浸剤の添加濃度が7.5、15(wt.%)の実施例15、16では、圧縮強さが、比較例1の2.4~2.5倍強、圧縮弾性率が1.7倍強となり、粘土成形物の強度向上の顕著な効果が確認できた。
なお、粘土用含浸剤の添加濃度が15(wt.%)の実施例16では、粘土用含浸剤の添加濃度が7.5(wt.%)の実施例15と比較して、圧縮強さ及び圧縮弾性率が同程度となっており、圧縮強さ及び圧縮弾性率を向上させるための粘土用含浸剤の適正な添加濃度は、約5~8(wt.%)であった。すなわち、粘土原料2の粉末100重量部に対し、水系ウレタン樹脂が約1.4~2.24重量部、水溶性アクリル樹脂が約0.425~0.68重量部含まれ、硬度が5~7に調整された粘土が、圧縮強さ及び圧縮弾性率を向上させるのに適正であった。
【0086】
なお、上記の実施例1~6、及び実施例11~16では、粘土用含浸剤の一例として、約28重量%の水系ウレタン樹脂と、約8.5重量%の水溶性アクリル樹脂とを含むものを使用したが、20重量%~35重量%の水系ウレタン樹脂と、5重量%~15重量%の水溶性アクリル樹脂とを含む粘土用含浸剤を用いても同様の効果を示す傾向が確認され、特に、25重量%~30重量%の水系ウレタン樹脂と、5重量%~10重量%の水溶性アクリル樹脂とを含む粘土用含浸剤を用いることで、好ましい効果が確認された。
【0087】
次に、実施例1~6、及び実施例11~16の塑造用粘土を用いて成形した(硬化後の)粘土成形物の表面に粘土固め剤を塗布し、前記粘土成形物の少なくとも表層部に前記粘土固め剤を浸透固化させ、少なくとも前記表層部に固化層が形成された粘土成形物を制作した。粘土成形物の外観、質感等の変化について観察した。
【0088】
前記粘土固め剤の主成分:23重量%のウレタン樹脂、及び有機溶剤が含まれている。前記ウレタン樹脂には、主鎖にエーテル又はエステル構造を有するウレタンプレポリマーが含まれている。
前記ウレタンプレポリマーとしては、イソシアネートモノマーの変性物が含まれている。
前記有機溶剤には、酢酸エチルと酢酸ブチルが含まれている。前記粘土固め剤の粘度は、25℃で1~5mPa・sである。前記粘土固め剤の塗膜硬度は、鉛筆硬度試験(JIS K5600引っかき硬度(鉛筆法))で、F以上である。
本実施例では、前記粘土固め剤として、寿化工株式会社製の木固めエースを使用した。
【0089】
前記粘土固め剤は、前記ウレタンプレポリマーを含むウレタン樹脂を前記有機溶剤で希釈しているので、硬化した粘土成形物への浸透性に優れている。粘土成形物に浸透した前記ウレタン樹脂は、前記有機溶剤の揮発後に、粘土成形物に含まれる水分と重合反応し、硬化する。硬化すると無色透明の硬化樹脂となり、粘土の質感を維持したまま、粘土成分と一体化され固化層が形成される。
【0090】
実施例1~6、及び実施例11~16の塑造用粘土を用いて成形した粘土成形物は、少なくとも表層部に粘土固め剤が浸透固化した固化層が形成された。外観上、粘土の質感にほとんど変化はないが、手触り感は、塗布前と比較して硬い感覚が増した。なお、粘土固め剤が硬化後に、表面をサンドペーパー等で研磨することにより、表面の平滑性の向上、及び色調等の外観は粘土固め剤の塗布前の粘土素地に近づけることが可能である。
前記固化層が形成されることによって、さらに耐水性、耐油性、耐摩耗性、耐候性が向上したものとなり、粘土成形物を恒久的に設置する作品等とした場合であっても、その表面のひび割れ、反りが抑制され、形状等の安定性が高められたものとなった。
【0091】
また、以下の3種類の粘土成形物を成形し、これら粘土成形物を約1メートルの高さからコンクリートの床に落下させたときの破損状態を観察した。
比較例2A:比較例2の粘土(A-2S)を用いて直径約7cm程度の団子状(略球状)に成形し、乾燥硬化させた後の表面に粘土固め剤を塗布した。
実施例13A:実施例13の塑造用粘土(粘土用含浸剤の添加濃度3%)を用いて直径約7cm程度の団子状(略球状)に成形し、乾燥硬化させた。
実施例13B:実施例13の塑造用粘土(粘土用含浸剤の添加濃度3%)を用いて直径約7cm程度の団子状(略球状)に成形し、乾燥硬化させた後の表面に粘土固め剤を塗布した。
【0092】
上記破損状態を観察した結果、比較例2A、実施例13A、実施例13Bの順に割れ等の破損が少なくなった。
より具体的な破損状態は、次のようになった。
比較例2Aの粘土成形物は、バラバラに壊れ、破壊片の断面が鋭角をなし、脆性度の高い割れ方をしていた。
実施例13Aの粘土成形物は、崩れる感じの割れ方をしており、割れ目の断面が鋭角ではなく、靭性を有する割れ方をしていた。
実施例13Bの粘土成形物は、表面に少しだけヒビが入る程度で壊れなかった。
なお、実施例13Bの粘土成形物をある程度細かく割って壊した後、水分を加えて粘土の状態に戻す操作を行ったところ、柔らかくなった粘土の中に、1mm程度以下の細かな薄片形状をした固形粘土片が混在している状態となった。これら固形粘土片は、前記粘土固め剤を塗布したことにより粘土成形物の表層部に形成された固化層であると推認できた。
【0093】
これらの観察結果から、粘土に前記粘土用含浸剤を加えることにより、乾燥硬化後の粘土の靭性を高めることができ、さらに、前記粘土固め剤を塗布して表層部に固化層が形成されることにより、耐衝撃性が高められることが確認できた。
従って、上記実施例に係る塑造用粘土で成形された粘土成形物の表面に前記粘土固め剤を塗布して表層部に固化層が形成された前記粘土成形物によれば、JIS K 7181「プラスチック-圧縮特性の求め方」に準拠して温度23℃±2℃、湿度約40%の条件で測定される圧縮強度や圧縮弾性率をさらに向上させることが可能であることが分かった。
上記のとおり、前記粘土用含浸剤と前記粘土固め剤とのそれぞれ異なる作用により、粘土成形物の強度特性を相乗的に向上させることが可能となった。
【0094】
本発明は、以上の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
本発明は、教育活動、芸術・創作活動などの分野において幅広い利用が可能である。