(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171434
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】オキシヨウ化ユウロピウム粉末、およびオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 11/22 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
C01B11/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088437
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】392000888
【氏名又は名称】株式会社合同資源
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100169498
【弁理士】
【氏名又は名称】水長 雄大
(74)【代理人】
【識別番号】100210985
【弁理士】
【氏名又は名称】執行 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】宗田 由梨枝
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 寛真
(72)【発明者】
【氏名】工藤 潤
(57)【要約】
【課題】安定的な蛍光特性が得られるに優れたオキシヨウ化ユウロピウム粉末を提供する。
【解決手段】本発明のオキシヨウ化ユウロピウム粉末は、Eu、OおよびIを有する結晶母材を含むオキシヨウ化ユウロピウム粉末であって、Cu-Kα線を用いて測定したX線回折パターンにおいて、回折角2θが29.4°以上29.8°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をI1とし、回折角2θが28.2°以上28.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をI2としたとき、[I1/(I1+I2)]×100で表されるピーク強度比率が20%以上を満たすように構成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Eu、OおよびIを有する結晶母材を含むオキシヨウ化ユウロピウム粉末であって、
Cu-Kα線を用いて測定した当該オキシヨウ化ユウロピウム粉末のX線回折パターンにおいて、回折角2θが29.4°以上29.8°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をI1とし、回折角2θが28.2°以上28.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をI2としたとき、
[I1/(I1+I2)]×100で表されるピーク強度比率が20%以上である、オキシヨウ化ユウロピウム粉末。
【請求項2】
請求項1に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末であって、
定量分析法により算出されるEuOIの純度が、20%以上である、オキシヨウ化ユウロピウム粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末であって、
Eu2O3および/またはEuI2を含む、オキシヨウ化ユウロピウム粉末。
【請求項4】
HI水溶液に、固体状のEu2O3を添加して混合する混合工程と、
得られた混合物を300℃以上で加熱する焼成工程と、
を含む、
オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
Euのモル比をMEおよびIのモル比をMIとしたとき、前記混合工程は、
ME/MIが、0.5以下となる条件で、固体状のEu2O3とHI水溶液とを混合して加熱する混合工程A1と、
合計のME/MIが、0.7以上1.3以下となる条件で、前記混合工程A1で得られたEuI3水溶液に、さらに固体状のEu2O3を添加して混合する混合工程A2と、を含む、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
Euのモル比をMEおよびIのモル比をMIとしたとき、前記混合工程は、
ME/MIが、0.5以下となる条件で、固体状のEu2O3とHI水溶液とを混合して加熱する混合工程A1と、
前記混合工程A1で得られた混合物を乾燥させ、EuI3の水和物を得て、前記EuI3の水和物と固体状のEu2O3とを混合する混合工程A3と、を含む、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
Euのモル比をMEおよびIのモル比をMIとしたとき、前記混合工程は、
ME/MIが、0.7以上1.3以下となる条件で、固体状のEu2O3とHI水溶液とを混合して加熱する混合工程Bを含む、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項5または6に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
前記焼成工程において、加熱温度が600℃以上である、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項5または6に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
前記焼成工程において、不活性ガス雰囲気中で加熱を行う、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項5または6に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
前記HI水溶液におけるHI濃度は、30質量%以上70質量%以下である、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシヨウ化ユウロピウム粉末、およびオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで蛍光体の賦活剤について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、賦活物質であるユウロピウムの原料として、ヨウ化ユウロピウムが記載されている(特許文献1の請求項19等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1において、蛍光体の賦活剤にオキシヨウ化ユウロピウムを使用することについて十分に検討がなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、Eu、OおよびIの3元系結晶母材を含むオキシヨウ化ユウロピウム粉末において、3元系結晶母材に相当するX線回折パターンのピーク強度を用いた指標を利用することにより、蛍光体の賦活剤に使用したとき、安定的な蛍光特性が得られるオキシヨウ化ユウロピウム粉末を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の一態様によれば、以下のオキシヨウ化ユウロピウム粉末、およびオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法が提供される。
【0007】
1. Eu、OおよびIを有する結晶母材を含むオキシヨウ化ユウロピウム粉末であって、
Cu-Kα線を用いて測定した当該オキシヨウ化ユウロピウム粉末のX線回折パターンにおいて、回折角2θが29.4°以上29.8°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をI1とし、回折角2θが28.2°以上28.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をI2としたとき、
[I1/(I1+I2)]×100で表されるピーク強度比率が20%以上である、オキシヨウ化ユウロピウム粉末。
2. 1.に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末であって、
定量分析法により算出されるEuOIの純度が、20%以上である、オキシヨウ化ユウロピウム粉末。
3. 1.または2.に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末であって、
Eu2O3および/またはEuI2を含む、オキシヨウ化ユウロピウム粉末。
4. HI水溶液に、固体状のEu2O3を添加して混合する混合工程と、
得られた混合物を300℃以上で加熱する焼成工程と、
を含む、
オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
5. 4.に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
Euのモル比をMEおよびIのモル比をMIとしたとき、前記混合工程は、
ME/MIが、0.5以下となる条件で、固体状のEu2O3とHI水溶液とを混合して加熱する混合工程A1と、
合計のME/MIが、0.7以上1.3以下となる条件で、前記混合工程A1で得られたEuI3水溶液に、さらに固体状のEu2O3を添加して混合する混合工程A2と、を含む、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
6. 4.に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
Euのモル比をMEおよびIのモル比をMIとしたとき、前記混合工程は、
ME/MIが、0.5以下となる条件で、固体状のEu2O3とHI水溶液とを混合して加熱する混合工程A1と、
前記混合工程A1で得られた混合物を乾燥させ、EuI3の水和物を得て、前記EuI3の水和物と固体状のEu2O3とを混合する混合工程A3と、を含む、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
7. 4.に記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
Euのモル比をMEおよびIのモル比をMIとしたとき、前記混合工程は、
ME/MIが、0.7以上1.3以下となる条件で、固体状のEu2O3とHI水溶液とを混合して加熱する混合工程Bを含む、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
8. 4.~7.のいずれか一つに記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
前記焼成工程において、加熱温度が600℃以上である、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
9. 4.~8.のいずれか一つに記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
前記焼成工程において、不活性ガス雰囲気中で加熱を行う、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
10. 4.~9.のいずれか一つに記載のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法であって、
前記HI水溶液におけるHI濃度は、30質量%以上70質量%以下である、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安定的な蛍光特性が得られるオキシヨウ化ユウロピウム粉末、およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】各実施例におけるX線回折パターンを示す図である。
【
図2】EuOIおよびEu
2O
3のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態のオキシヨウ化ユウロピウム粉末について説明する。
【0011】
本実施形態のオキシヨウ化ユウロピウム粉末は、Eu、OおよびIを有する結晶母材(以下、「EuOI」と呼称する)を含む。
【0012】
蛍光体の分野では、Eu(賦活物質)が発光中心として利用されている。
EuOIを含むオキシヨウ化ユウロピウム粉末(賦活剤)を他の蛍光体原料と混合して、焼成することにより、ヨウ素が除去された上で、Euが蛍光体中に取り込まれること、また、オキシヨウ化ユウロピウム粉末由来のEuは、2価の状態で蛍光体中に固溶されると推察される。
【0013】
本発明者の知見によれば、硫化物系蛍光体等の蛍光体の賦活剤として、本実施形態のオキシヨウ化ユウロピウム粉末を使用することにより、蛍光体の発光特性のバラツキを抑制できることや、設計通りの発光特性が得られることが判明した。なお、蛍光体は硫化物系蛍光体に限定されず、酸化物系蛍光体や窒化物系蛍光体などの他の公知の蛍光体に対する賦活剤としても使用できる。
【0014】
また、EuOIの利点として、大気中における安定性がEuI3と比べて高いこと、蛍光体中に固溶されるまでにEu源が分解し難いこと、蛍光体からのヨウ素の除去が容易であること等が挙げられる。
【0015】
本実施形態では、EuOIは、Eu、OおよびIを有する3元系結晶母材を意味し、Eu:O:Iの組成比が1:1:1に限定されるものではない。EuOIでは、3元系結晶母材における一部のOが抜けた構造も許容できる。
EuOIの結晶構造は、PbFCl型の層状物質の構造を有するものと推察される。
【0016】
ここで、本実施形態のオキシヨウ化ユウロピウム粉末は、Cu-Kα線を用いて測定したX線回折パターンにおいて、回折角2θが29.4°以上29.8°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をI1とし、回折角2θが28.2°以上28.6°以下の範囲内にあるピークのピーク最大強度をI2としたとき、[I1/(I1+I2)]×100で表されるピーク強度比率が20%以上を満たすように構成されるものである。
【0017】
X線回折パターンは、粉末X線回折装置(装置名:Smart Lab 3kW、リガク社製)を用いて、下記の測定条件にて測定する。
(測定条件)
X線源:Cu-Kα線(Kα1:λ=1.54059Å)
出力設定:40kV・50mA
測定時光学条件:入射スリットボックス=1/3°
長手制限スリット=5mm
受光スリット=開放
ステップ幅:0.01°
スキャン軸=2θ(回折角)
測定範囲:2θ=5°~80°
スキャン速度:10°(2θ)/min,連続スキャン
走査軸:2θ/θ
試料調製:オキシヨウ化ユウロピウム粉末を気密試料ホルダーに載せる。
ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値とする。
【0018】
オキシヨウ化ユウロピウム粉末のX線回折パターンにおいて、回折角2θが29.4°以上29.8°以下の範囲内にあるピークがEuOIに対応し、回折角2θが28.2°以上28.6°以下の範囲にあるピークが、Eu2O3に対応する。すなわち、EuOIに対応するピークのピーク最大強度がI1、Eu2O3に対応するピークのピーク最大強度がI2となる。
【0019】
上記[I1/(I1+I2)]×100により、EuOIに対応するピーク強度比率(%)を算出する。
この場合、上記のピーク強度比率の下限は、20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。これにより、安定的な蛍光特性が得られるオキシヨウ化ユウロピウム粉末が実現できる。
一方、上記のピーク強度比率の上限は、とくに限定されないが、100%以下である。
【0020】
また、別の形態では、オキシヨウ化ユウロピウム粉末において、上記のI2/I1の下限は、例えば、0以上でもよく、0.1以上でもよく、0.3以上でもよい。これにより、保管時におけるオキシヨウ化ユウロピウム粉末の変色(とくにRGB値の青色の変化)を抑制できる。
一方、I2/I1の上限は、例えば、60以下、好ましくは45以下、より好ましくは10以下である。これにより、賦活剤に使用した蛍光体において安定的な蛍光特性を実現できる。
【0021】
本実施形態では、たとえばオキシヨウ化ユウロピウム粉末中に含まれる各成分の種類や配合量、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の調製方法等を適切に選択することにより、上記I1/(I1+I2)を制御することが可能である。これらの中でも、たとえばヨウ化水素水溶液中に固体の酸化ユウロピウムを添加して混合すること、混合時における最終的なEuモル比とIモル比とを適切な範囲内とすること、または副生成物を所定温度の加熱により除去すること等が、上記I1/(I1+I2)を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0022】
別の形態では、オキシヨウ化ユウロピウム粉末において、下記の手順の定量分析法により算出されるEuOIの純度の下限は、例えば、20%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上である。これにより、蛍光体の発光特性を一層向上させることができる。
EuOIの純度の上限は、とくに限定されないが、例えば、100%以下でもよく、99%以下でもよい。
【0023】
上記定量分析法の手順は、以下の通りである。
オキシヨウ化ユウロピウム粉末を硫化第二鉄アンモニウム(酸化剤)により酸化し、ヨウ素を捕集する。捕集したヨウ素を、チオ硫酸ナトリウムを用いた滴定法により、ヨウ素量を定量する。定量されたヨウ素量から、オキシヨウ化ユウロピウム粉末に含まれるEuOIの含有量(C1)を算出する。
また、オキシヨウ化ユウロピウム粉末を硝酸により全量溶解し、pHを調整した後、EDTAを用いた滴定法により、Eu量を定量する。定量されたEu量から、オキシヨウ化ユウロピウム粉末に含まれるEuOIおよびEu2O3の合計の含有量(C2)を算出する。
よって、純度(%)は、C1/C2×100により求める。
【0024】
また別の形態では、オキシヨウ化ユウロピウム粉末は、EuOIの他に、発明の効果を損なわない限り、Eu2O3および/またはEuI2を含んでもよい。Eu2O3は、一般的に蛍光体の賦活剤として使用される化合物である。また、EuI2等に由来するフッ素は、蛍光体製造時の焼成中において外部に排出されるため発光特性への影響は少ないと考えられる。オキシヨウ化ユウロピウム粉末がEu2O3を含むことにより、保管時における青色変色を抑制できる。一方、オキシヨウ化ユウロピウム粉末がEuI2を含むことにより、黄褐色などの色味を付与できる。
【0025】
オキシヨウ化ユウロピウム粉末中Eu2O3の含有量は、上記定量法により測定できるが、例えば、20%程度以下としてもよい。
また、オキシヨウ化ユウロピウム粉末中EuI2の含有量は、上記定量法により測定できるが、例えば、1%程度以下としてもよい。
【0026】
また、オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法について説明する。
【0027】
本実施形態のオキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造方法は、HI水溶液に、固体状のEu2O3を添加して混合する混合工程と、得られた混合物を300℃以上で加熱する焼成工程と、を含む。
上記の混合工程により、EuI3とEu2O3と水を含む混合物(所望の形状に成形可能な固体)が得られる。そして、上記の焼成工程により、混合物中に含まれる不純物を除去することにより、EuOIを含むオキシヨウ化ユウロピウム粉末が得られる。
【0028】
また、上記混合工程は、Euのモル比をMEおよびIのモル比をMIとしたとき、このME/MIの範囲に応じて、単一方式と多段方式とを使用できる。
【0029】
多段方式の混合工程の一例は、ME/MIが、0.5以下となる条件で、固体状のEu2O3とHI水溶液とを混合して加熱する混合工程A1と、ME/MIが、0.7以上1.3以下となる条件で、混合工程A1で得られたEuI3水溶液に、さらに固体状のEu2O3を添加して混合する混合工程A2と、を含むことができる。
【0030】
上記の混合工程A1では、ME/MIが低い条件では、加熱により、Eu2O3がHI水溶液に溶解して液状の混合物が得られる。このため、混合時に粉砕や破砕などの作業が不要となるため、作業性を高められる。続いて、混合工程A2により、上記の固体化した混合物が得られる。
【0031】
混合工程A1中、ME/MIが、0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。これにより、HI水溶液中への固体状のEu2O3における溶解性の低下を抑制できる。
【0032】
混合工程A1中、加熱温度は、例えば、60~200℃、好ましくは90~120℃である。
【0033】
混合工程A2中、ME/MIが、0.6以上1.4以下、好ましくは0.7以上1.3以下である。
【0034】
また、多段方式の混合工程の他の例は、ME/MIが、0.5以下となる条件で、固体状のEu2O3とHI水溶液とを混合して加熱する混合工程A1と、混合工程A1で得られた混合物を乾燥させ、EuI3の水和物(EuI3・nH20)を含む混合物を得て、EuI3の水和物と固体状のEu2O3とを混合する混合工程A3と、を含むことができる。
【0035】
混合工程A3において、混合物の乾燥には、加熱や減圧等の所定の乾燥条件を採用できる。必要なら、乾燥時に、粉砕や破砕などの処理を施してもよい。
【0036】
上記混合工程中、HI水溶液におけるHI濃度は、例えば、30質量%以上70質量%以下、好ましくは40~60質量%である。経済的観点な観点から、HI濃度を上記下限値以上とすることが好ましい。
【0037】
一方、単一方式の混合工程は、ME/MIが、0.7以上1.3以下となる条件で、固体状のEu2O3とHI水溶液とを混合して加熱する混合工程Bを含むことができる。
【0038】
単一方式の混合工程により、多段方式と比べて、固体状のEu2O3を添加回数を低減できる。ただし、単一方式の混合工程中、混合物が固まることがある。その場合には、混合工程Bにおいて、混合物を破砕または粉砕しつつ、混合物を混合するとよい。
【0039】
混合工程B中、ME/MIが、0.7以上1.3以下、好ましくは0.8以上1.2以下である。
【0040】
上記の混合工程の後の焼成工程において、加熱温度の下限は、例えば、600℃以上、好ましくは700℃以上、より好ましくは800℃以上である。300℃程度までに、水分やヨウ素などの成分が除去される。600℃まで昇温することにより、安定的に不純物の除去が行える。また、800℃まで昇温すると、さらにEuI3を効率的に除去することが可能となる。
一方、焼成工程において、加熱温度の上限は、例えば、1000℃以下、好ましくは900℃以下、より好ましくは850℃以下である。これにより、EuOIの分解が抑制されるため、純度を高められる。
【0041】
焼成工程において、上記の加熱温度での加熱時間は、例えば、1h~72h、好ましくは1h~12hである。このような範囲にすることにより、安定的にEuOIを含むオキシヨウ化ユウロピウム粉末が得られる。
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0042】
焼成工程において、加熱時の雰囲気は、不活性ガス雰囲気が好ましい。これにより、EuOIの変質を抑制できる。不活性ガスは、アルゴンガスなどの希ガスや窒素ガスなどが挙げられる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0044】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0045】
<オキシヨウ化ユウロピウム粉末の製造>
(実施例1~3)
HI濃度が57質量%のHI水溶液に、表1の添加量のうち、MI(Iモル比):ME(Euモル)が3:1となるように固体状のEu2O3(Solvay社製)を添加し、100℃で加熱しつつ混合して溶解させた(混合処理A1)。
その後、合計のME/MIが表1の値となるように、残りのEu2O3(Solvay社製)を添加し混合して、固体化した混合物を得た(混合処理A2)。
得られた混合物を、アルゴンガス雰囲気下、800℃で4時間加熱し(焼成処理)、EuOIを含むオキシヨウ化ユウロピウム粉末を得た。
【0046】
(実施例4)
HI濃度が57質量%のHI水溶液に、MI(Iモル比):ME(Euモル)が3:1となるように固体状のEu2O3(Solvay社製)を添加し、100℃で加熱しつつ溶解させた(混合処理A1)。
その後、105℃、10mmHg以下で破砕しながら乾燥して、EuI3の水和物を得た。得られた水和物5gに、固体状のEu2O3(Solvay社製)をさらに5g追加して混合した(混合処理A3)。
得られた混合物を、アルゴンガス雰囲気下、800℃で4時間加熱し(焼成処理)、EuOIを含むオキシヨウ化ユウロピウム粉末を得た。
【0047】
【0048】
(X線回折パターンの測定)
得られたオキシヨウ化ユウロピウム粉末について、粉末X線回折装置(Smart Lab 3kW、リガク社製)を用い、下記の測定条件にて、X線回折パターンの測定を行った。
(測定条件)
X線源:Cu-Kα線(Kα1:λ=1.54059Å)
出力設定:40kV・50mA
測定時光学条件:入射スリットボックス=1/3°
長手制限スリット=5mm
受光スリット=開放
ステップ幅:0.01°
スキャン軸=2θ(回折角)
測定範囲:2θ=5°~8
スキャン速度:10°(2θ)/min,連続スキャン
走査軸:2θ/θ
試料調製:オキシヨウ化ユウロピウム粉末を気密試料ホルダーに載せる。
ピーク強度はバックグラウンド補正を行って得た値とする。
【0049】
オキシヨウ化ユウロピウム粉末のX線回折パターンにおいて、回折角2θが29.4°以上29.8°以下の範囲内にあるピークがEuOIに対応し、回折角2θが28.2°以上28.6°以下の範囲にあるピークが、Eu
2O
3に対応する。すなわち、EuOIに対応するピークのピーク最大強度がI
1、Eu
2O
3に対応するピークのピーク最大強度がI
2となる。
各実施例におけるピーク最大強度の結果を表1に示す。
また、各実施例におけるX線回折パターンを
図1、EuOIおよびEu
2O
3のそれぞれのX線回折パターンを
図2に示す。
【0050】
(EuOIの純度の測定)
得られたオキシヨウ化ユウロピウム粉末を硫化第二鉄アンモニウム(酸化剤)により酸化し、ヨウ素を捕集した。捕集したヨウ素を、チオ硫酸ナトリウムを用いた滴定法により、ヨウ素量を定量した。定量されたヨウ素量から、オキシヨウ化ユウロピウム粉末に含まれるEuOIの含有量(C1)を算出した。
また、オキシヨウ化ユウロピウム粉末を硝酸により全量溶解し、pHを調整した後、EDTAを用いた滴定法により、Eu量を定量した。定量されたEu量から、オキシヨウ化ユウロピウム粉末に含まれるEuOIおよびEu2O3の合計の含有量(C2)を算出した。
上記で求められたC1、C2を用いて、EuOIの純度(%)を、式:C1/C2×100に基づいて算出した。結果を表1に示す。
【0051】
(色度の経時変化の評価)
実施例1~3のオキシヨウ化ユウロピウム粉末をバイアル瓶に30日間保管して、カメラで撮影した画像をソフトウェアで解析し、RGB値を指標として、青色の変化を測定した。
実施例2および3のオキシヨウ化ユウロピウム粉末は、実施例1と比べて、青色変化が抑制される結果を示した。
【0052】
(蛍光特性の評価)
実施例1~4のオキシヨウ化ユウロピウム粉末を硫化物系蛍光体の賦活剤として使用したとき、蛍光体の安定的な発光特性が得られることが確認された。