(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171435
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】テルビウム・ガリウム・ガーネット単結晶およびその製造方法ならびにファラデー回転子
(51)【国際特許分類】
C30B 29/28 20060101AFI20241205BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C30B29/28
C30B15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088438
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】503098724
【氏名又は名称】株式会社オキサイド
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 美紀
(72)【発明者】
【氏名】安斎 裕
(72)【発明者】
【氏名】林 武志
(72)【発明者】
【氏名】長尾 勝彦
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB07
4G077BC23
4G077CF10
4G077EC01
4G077EC07
4G077HA01
(57)【要約】
【課題】線状の散乱体の無いTGG単結晶を提供し、高性能の光アイソレータを実現すること。
【解決手段】チョクラルスキー法によって、コングルエント組成の融液から結晶育成されたことを特徴とするTGG単結晶。コングルエント組成の融液を得るためには、単結晶用原料として、TbとGa元素の化合物の酸化物粉末を用い、化学式Tb
(3+x)Ga
(5-x)O
12で表わされるTGG単結晶において、0.00<X<0.08とすることが好ましい。コングルエント組成の融液から結晶育成させることにより、線状の散乱体の原因となる過剰空孔を低減させることができ、TGG単結晶における線状の散乱体の発生を抑制できることが可能となる。また、育成されたTGG単結晶の格子定数を測定することで、コングルエント組成の融液であることが確認できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Tb(3+x)Ga(5-x)O12で表わされるテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶であって、Xが0.00より大きく0.08より小さいことを特徴とするテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶。
【請求項2】
化学式Tb(3+x)Ga(5-x)O12で表わされるテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶であって、Xが0.025であることを特徴とするテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶。
【請求項3】
格子定数が12.3494Åよりも大きく12.3502Åよりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載のテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶。
【請求項4】
結晶育成用原料としてTb2O3又はTb4O7から選ばれるTb酸化物粉末、及びGa2O3を含むGa酸化物粉末を使用し、その融液からチョクラルスキー法により結晶育成されたテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶であり、結晶育成終了後、育成始端の肩部と育成終端のテール部を取り除いた円柱状の単結晶における直胴部始端部と終端部の格子定数差が0.0001Å/8cm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶。
【請求項5】
結晶育成用原料としてTb2O3又はTb4O7から選ばれるTb酸化物粉末、及びGa2O3を含むGa酸化物粉末を使用し、その融液からチョクラルスキー法により結晶育成されたテルビウム・ガリウム・ガーネット単結晶の製造方法であって、化学式Tb(3+x)Ga(5-x)O12で表わされるテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶のXが0.00より大きく0.08より小さくなるよう原料を秤量し、加熱して融解した後に冷却して結晶化させることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶を用いたファラデー回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によって育成したテルビウム・ガリウム・ガーネット単結晶(Tb3Ga5O12:TGG単結晶)およびその製造方法ならびにファラデー回転子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光アイソレータは、ファラデー効果をもつファラデー回転子によって偏光板を通過して磁場内に入射する直線偏光を回転させる光学素子である。この素子をレーザー発光素子の出射端に取り付けることでレーザー発光素子への戻り光を遮断できるので、レーザー発光素子のレーザー発光を安定化させるために広く用いられている。波長範囲が1μm前後のファイバーレーザー用の光アイソレータにおいては、近赤外~可視域で吸収がないテルビウム・ガリウム・ガーネット単結晶(以下「TGG単結晶」と記載)がファラデー回転材料として使われている。(非特許文献1,2)
【0003】
TGG単結晶は、フローティングゾーン法(非特許文献4)、Edge-definedfilm-fed growth 法(非特許文献3)、チョクラルスキー法などによって化学量論比(ストイキオメトリ組成)の融液から育成されている。(特許文献1~4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013―056785号公報
【特許文献2】特開2015―057365号公報
【特許文献3】特開2015―083523号公報
【特許文献4】特開平1―152605号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Weizhao Jin,Jingxin Ding, Li Guo, et al., Growth and performance research of Tb3Ga5O12magneto-optical crystal, J. Cryst. Growth 484 (2018) 17-20.
【非特許文献2】D. J. Dentz, R. C. Puttbach, R.F. Belt, Terbium Gallium garnet for Faraday Effect Devices, AIP ConferenceProceedings 18 (1974) 954.
【非特許文献3】Naifeng Zhuang,Caigen Song, Liwei Guo, et al., Growth of terbium gallium garnet (TGG)magneto-optic crystals by edge-defined film-fed growth method, J. Cryst. Growth381 (2013) 27-32.
【非特許文献4】Zhe Chen, Leiyang, Xiangyong Wang, et al., Highly transparent terbium gallium garnet crystalfabricated by the floating zone method for visible infrared optical isolators,Opt. Mater. 46 (2015) 12-15.
【非特許文献5】W.T.Stacy,Dislocations, facet regions and growth striations in garnet substrates andlayers, J. Cryst. Growth, 24-25 (1974) 137-143.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
TGG単結晶のようにガーネット構造を有する単結晶を製造する方法として、化学量論(ストイキオメトリ)組成に従い混合した粉末状酸化物のTb4O7(99.99%)およびGa2O3(99.99%)を原料とした融液を使用し、チョクラルスキー法によって結晶方位<111>方向に引き上げる結晶育成方法が一般的に用いられている。(特許文献1~4)
【0007】
このように作製されたTGG単結晶について、白色光を照射し<111>方向から結晶内部を観察すると、結晶育成方向に向かって放射状にまっすぐに伸長する線状の散乱体がみられることがある。
散乱体は消光比に影響を与えるため、戻り光を遮断する能力を低下させる。そのため、光アイソレータとしての性能劣化の一要因となる。本発明の目的は、線状の散乱体の無いTGG単結晶を提供し、高性能の光アイソレータを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一般的に、単結晶の特性においては、ストイキオメトリ組成が好ましいが、結晶育成の観点では、組成ずれがなく、均一な組成の結晶を容易に得ることが可能である一致溶融(コングルエント)組成が好ましい。本発明は、チョクラルスキー法によって、コングルエント組成の融液からTGG単結晶を育成することを特徴とする。発明者らは、このようにTGG単結晶を育成することで、線状の散乱体の発生を抑制できることを見出した。また、育成されたTGG単結晶の格子定数を測定することで、コングルエント組成の融液が得られることを見出した。
【0009】
線状の散乱体の原因となるのは、らせん転位が周囲の過剰空孔を吸収して上昇運動した結果発生したヘリカル転位の歪またはその周りにある不純物によるものであると考えられる。また、過剰空孔は、融液の組成としているストイキオメトリ組成が、コングルエント組成とは異なるために、成長界面から欠陥が取り込まれることで発生すると考えられる。
【0010】
TGG単結晶の育成では、従来、ストイキオメトリ組成に従って秤量及び混合した原料の融液を用いることが一般的であったが、それはストイキオメトリ組成がコングルエントであると考えられていたためである(特許文献1~4)。チョクラルスキー法による育成においては、コングルエント組成の融液を用いることによって、均一組成の結晶の育成が可能になり、結晶内の過剰空孔が減少する。
発明者らは、鋭意検討の結果、TGG単結晶をチョクラルスキー法によって結晶育成する場合、コングルエント組成の融液から結晶育成することによって線状の散乱体が発生しない結晶の育成を可能とし、結晶の品質が向上することを見出した。また、育成されたTGG単結晶の格子定数を測定することでコングルエント組成の融液が得られることを見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来行われていたストイキオメトリ組成ではなく、融液中のTb/Gaの組成比を適正化し、コングルエント組成の融液を用いてTGG単結晶を育成することにより、線状の散乱体の発生を抑制できるため、線状の散乱体の無いTGG単結晶を提供することが可能となり高性能の光アイソレータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明によるTGG単結晶の育成装置の図である。
【
図2】本発明によるTGG単結晶の格子定数のグラフである。
【
図3】本発明による線状の散乱体の密度が異なるTGG単結晶の消光比のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明の単結晶の育成方法(製造方法)は、ガーネット構造を有するテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶の育成方法である。ガーネット構造を有するTGG単結晶は、チョクラルスキー法に代表される融液引き上げ方法により育成することができる。
【0014】
<育成装置>
本発明の結晶育成方法では、
図1に示すような育成装置を用いて結晶育成を行う。この育成装置1は、その外側が保温材2により覆われ内部に原料3が投入されるルツボ4と、上記保温材2の外側に配置されルツボ4内の原料を加熱する高周波加熱コイル5と、上記ルツボ4の上方側に昇降可能に設けられその先端に種結晶6が保持されると共に矢印方向へ回転する引き上げ軸7とでその主要部が構成されており、かつ、これ等構成部材は図示外の密封された圧力容器内に組込まれている。
【0015】
単結晶を育成するには、まず、上記の育成装置のルツボ4内に原料3を投入して充填した後、高周波加熱コイル5に高周波電流を流して上記ルツボ4を高周波誘導加熱法により発熱させ、ルツボ4内の原料3をその融点以上の温度に加熱して融解させる。
次に、上記引き上げ軸7を降下させて融解した原料融液の中心部に種結晶6を接触させる。そして、ルツボ4に投入する高周波電力を調節して種結晶6を中心に原料融液を徐々に固化させると同時に、上記種結晶6を回転させながら上昇させるという操作を連続的に行うことにより、単結晶8を育成する。
【0016】
<単結晶原料>
本発明においては、単結晶用原料としては、TbとGa元素の化合物を混合して用いることができる。Tb化合物としては、Tb酸化物のTb4O7やTb2O3を含む酸化物粉末を用いることができる。Ga化合物としては、Ga酸化物のGa2O3を含む酸化物粉末を用いることができる。酸化物粉末は、一般的に光学結晶材料に用いられるとされる、99.99%以上の純度であることが好ましい。
TbとGaをTb(3+x)Ga(5-x)O12 (0.00<x<0.08)に従い秤量した原料は十分に混合する。混合粉は、冷間等方圧プレス(CIP)によって成形体を作製する。成形した原料は、大気下において1200℃で反応させることが好ましい。
【0017】
<育成雰囲気>
本発明のTGG単結晶の育成においては酸化ガリウムの蒸発を防ぐためわずかに酸素を添加(1~2vоl%)した、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下において行なうことが好ましい。
【0018】
<育成方法>
本発明のガーネット構造を有するTGG単結晶の育成方法では、育成単結晶の結晶方位が<111>となるように引き上げることから、引上げ方向は<111>となる。引上げ当初は、育成される単結晶8の外形が徐々に拡径するように種結晶6の回転速度と引上げ速度を制御し、種結晶6の直下に肩部を形成する。育成される単結晶8の外形が目的とする外形に達したら、種結晶の回転速度と引上げ速度を制御して胴部を形成する。結晶が所定の大きさに成長したら、結晶を融液から切り離し、ゆっくりと室温まで冷却する。取得したTGG単結晶は熱歪を除去するために1450℃、24時間、大気中でアニールすることが好ましい。
【0019】
<評価方法>
本発明のTGG単結晶の評価は、育成された結晶から育成始端の肩部と育成終端のテール部を取り除き、円柱状の単結晶直胴部における始端部と終端部からそれぞれ切り出した1mm厚のウエハを用いて行なう。残った8cmの円柱状の単結晶直胴部の両端面は鏡面研磨し、白色光を照射して<111>方向から観察し線状の散乱体の有無について確認した。また、1mm厚のウエハは片面を鏡面研磨し、ボンド法にて格子定数の測定を行なった。微量な組成の違いを分析する手法としては、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、ICP-OES/ICP-AES)や、ボンド法による格子定数の測定があげられる。
【実施例0020】
(実施例1)~(実施例5)
純度99.99%のTb4O7粉末と純度99.99%のGa2O3粉末を、TGG結晶構造式Tb(3+x)Ga(5-x)O12においてx=0.0245~0.0255となるように秤量し、これらの粉末をシェイカーにかけて6時間混合した。その後、CIPを用いて100MPaの圧力を加え、円柱状に成形した。成形体を白金容器に入れ、温度1200℃で12時間焼成した。
この焼成体を充填したイリジウムルツボをチョクラルスキー炉に設置し、周囲を高融点耐火物で保温し、その周囲に誘導コイルを設置した。高周波電流をコイルに流し、坩堝を誘導加熱した。原料融解後に、種結晶をつけ、単結晶を育成した。所定の距離を引き上げ後に、結晶を融液から切り離し、室温まで冷却した。得られた結晶を加工して、線状欠陥の有無の確認および格子定数の測定を行なった。
【0021】
チョクラルスキー法で育成する結晶は、製造コストを抑えるために、育成毎にルツボ内の原料を新しくするのではなく、引き上げた結晶分の原料をルツボにチャージして育成を行うことが一般的であるため、これらの一連の操作を5回行なった。
1回目の引き上げから5回目の引き上げによって得られたTGG単結晶を、その引き上げ回数に対応して(実施例1)~(実施例5)とする。
【0022】
(比較例1)~(比較例5)
純度99.99%のTb4O7粉末と純度99.99%のGa2O3粉末を、TGG結晶構造式Tb(3+x)Ga(5-x)O12においてx=0.00となるように秤量し、これらの粉末をシェイカーにかけて6時間混合した。その後、CIPを用いて100MPaの圧力を加え、円柱状に成形した。成形体を白金容器に入れ、温度1200℃で12時間焼成した。
この焼成体を充填したイリジウムルツボをチョクラルスキー炉に設置し、周囲を高融点耐火物で保温し、その周囲に誘導コイルを設置した。高周波電流をコイルに流し、坩堝を誘導加熱した。原料融解後に、種結晶をつけ、単結晶を育成した。所定の距離を引き上げ後に、結晶を融液から切り離し、室温まで冷却した。得られた結晶を加工して、線状の散乱体の有無の確認および格子定数の測定を行なった。
【0023】
実施例同様、ストイキオメトリ組成の融液を追加することで育成を5回行なった。その引き上げ回数に対応して(比較例1)~(比較例5)とする。
【0024】
(線状の散乱体の観察)
実施例および比較例において育成したTGG単結晶から、育成始端の肩部と育成終端のテール部を取り除き、円柱状の単結晶直胴部における始端部と終端部からそれぞれ1mm厚のウエハを切り出した。残った8cmの円柱状の単結晶直胴部の両端面を鏡面研磨した。研磨された端面に白色光を照射して<111>方向から観察し、線状の散乱体の有無を確認した。結果を表1に示す。
なお評価ランク(a、B、C)の基準は次のとおりである。
線状の散乱体:直径が100μm~300μm、全長が1mm~50mm
100cm3の結晶内における線状の散乱箇所数
A:6本以下
B:7~19本
C:20本以上
実施例1~5においては、線状の散乱体はほとんど観察されなかった。一方、比較例1~5では多くの線状の散乱体が観察され、光アイソレータ用の結晶材料として使用する場合実施例1~5に対して性能が低下すると考えられる。
【0025】
(格子定数の測定)
実施例および比較例において育成したTGG単結晶から、育成始端の肩部と育成終端のテール部を取り除き、円柱状の単結晶直胴部における始端部と終端部からそれぞれ1mm厚のウエハを切り出した。前記ウエハの表面を研磨したサンプルについて、格子定数を測定した。格子定数の測定は、ボンド法によって行なった。ボンド法とは、特性X線を試料に入射しブラッグの回折条件を満たす角度を測定し、格子定数を計算する手法である。ボンド法は、試料の回転角を測定するため、X線の角度発散や波長の広がりなどの影響を受けにくく、温度補正など各種補正を行うことにより、高い精度で格子定数を測定できるとされている。
【0026】
格子定数はTb/Gaの組成比に敏感な物性値であり、TGG結晶の直胴部開始部と終端部の二か所の格子定数を測定すると、融液中の組成比の動きを観察することが可能である。測定結果を
図2および表1に示す。なお、表1中の格子定数差は、長さ8cmの円柱状の単結晶直胴部における始端部と終端部における格子定数の差であり、その単位を「Å/8cm」と表示している。
ストイキオメトリ組成(Tb
3Ga
5O
12)融液で育成した単結晶の直胴部開始部と終端部の格子定数の差は最大で0.0008Å/8cmあり、チャージ回数が増すごとに差が大きくなる(比較例1~5)。一方、コングルエント組成(Tb
3+xGa
5-xO
12)(x=0.0245~0.0255)融液で育成した単結晶の直胴部開始部と終端部の格子定数の差は0.0001Å/8cm程度であり、チャージ回数が増すごとにわずかに格子定数は若干大きくなるものの、その差に変化はほぼなかった(実施例1~5)。
直胴部始端部と終端部で格子定数がほぼ一定となる組成がコングルエント組成と考えられ、この組成の融液から結晶を育成した結果、線状の散乱体のないTGG単結晶が得られることがわかった。
【0027】
(消光比の測定)
図3は、本発明の一実施例の、放射状の散乱体の密度が異なるTGG単結晶の消光比を測定した結果のグラフである。図中A、B、Cは線状の散乱体観察における評価ランクA,B、Cに対応する代表的なサンプルの測定結果である。消光比は、偏光子とHeNeレーザーを用いて測定を行った。HeNeレーザー光源からの光線上に二つの偏光子に挟まれるようにTGG単結晶を置く。このとき、二つの偏光子の向きが同じときに透過光量は最大となり、二つの偏光子の向きが直交した時に透過光量は最小となる。このときの最大透過光量をP
max、最小透過光量をP
minとして、偏光消光比Re(dB)はRe=10lоg(P
max/P
min)で表される。線状の散乱体の密度が高いほど消光比は低下している。
【0028】
以上詳述したように、TGG結晶構造式Tb(3+x)Ga(5-x)O12においてx=0.0245~0.0255となる組成は、TGG単結晶の直胴部開始部と終端部の格子定数の差が小さいことからコングルエント組成であると結論付けられ、この組成から育成した場合、線状の散乱体の無いTGG単結晶を提供することが可能となり高性能の光アイソレータを実現することができる。
【0029】
また、コングルエント組成の融液から育成したTGG単結晶の格子状数が、育成回数に対して12.3497~12.3499Åの間でほぼ一定であるのにあるのに対して、ストイキオ組成の融液から育成したTGG単結晶の格子状数は育成回数に対して12.3476~12.3489Åの間で大きく変化する。このことから、格子状数が12.3497~12.3499Åとなるような融液組成で結晶育成することによって、線状の散乱体の発生を抑制できる高品質のTGG単結晶を得ることができることがわかる。
【0030】
【0031】
(比較例6)(比較例7)
純度99.99%のTb4O7粉末と純度99.99%のGa2O3粉末を、TGG結晶構造式Tb(3+x)Ga(5-x)O12においてx=0.08相当(比較例6)、x=0.15相当(比較例7)となるように秤量し、これらの粉末をシェイカーにかけて6時間混合した。その後、CIPを用いて100MPaの圧力を加え、円柱状に成形した。成形体を白金容器に入れ、温度1200℃で12時間焼成した。
この焼成体を充填したイリジウムルツボをチョクラルスキー炉に設置し、周囲を高融点耐火物で保温し、その周囲に誘導コイルを設置した。高周波電流をコイルに流し、坩堝を誘導加熱した。原料融解後に、種結晶をつけ、単結晶を育成した。所定の距離を引き上げ後に、結晶を融液から切り離し、室温まで冷却した。得られた結晶を加工して、線状の散乱体の有無の確認および格子定数の測定を行なった。測定結果を表2に示す。なお、表2中の格子定数差は、長さ8cmの円柱状の単結晶直胴部における始端部と終端部における格子定数の差であり、その単位を「Å/8cm」と表示している。
【0032】
格子定数の測定の結果および初回育成でも直胴部の始端部と終端部の格子定数差が大きいので、比較例6および比較例7はコングルエント組成から大きくずれていると言うことができる。比較例6、比較例7について線状散乱体の評価は行なっていないが、コングルエント組成からずれていることに起因して線状散乱体が多く発生している蓋然性が高い。したがってTb(3+x)Ga(5-x)O12の結晶構造を有するTGG単結晶において高品質の結晶を得るためには0.00<x<0.08が好ましいと言える。
【0033】
【0034】
なお、本発明の結晶育成方法は、実施例で説明したチョクラルスキー法に限定されることなく、ブリッジマン法、FZ法、EFG法など、一般に、融液を用いて結晶育成する方法に適用できることは言うまでもない。
以上のように、本発明によれば、TGG単結晶をチョクラルスキー法によって結晶育成する場合、従来行われていたストイキオメトリ組成の融液ではなく、コングルエント組成の融液を用いることによって、線状の散乱体の発生を抑制できるため、放射状の散乱体の無いTGG単結晶を提供することが可能となり高性能の光アイソレータを実現することができる。