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特開2024-171438報知音発生装置および報知音発生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171438
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】報知音発生装置および報知音発生方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/04 20060101AFI20241205BHJP
   H04S 7/00 20060101ALI20241205BHJP
   G10K 15/12 20060101ALI20241205BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H04R3/04
H04S7/00 300
H04S7/00 350
G10K15/12
H04S7/00 370
B60R11/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088443
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 律男
【テーマコード(参考)】
3D020
5D162
5D208
5D220
【Fターム(参考)】
3D020BA10
3D020BC01
3D020BE03
3D020BE04
5D162AA04
5D162CA01
5D162CA06
5D162CA07
5D162CA11
5D162CA26
5D162CC04
5D162CC36
5D162CD01
5D162EG02
5D162EG07
5D162EG09
5D208AA08
5D220AA11
5D220AA50
5D220AB01
5D220AB08
(57)【要約】
【課題】車室外に存在する対象物に対応して発せられる報知音を、搭乗者に違和感を低減させて知覚させる。
【解決手段】車両に設けられ、車両の周囲に存在する対象物に応じて報知音を発生させる報知音発生装置100は、車両と対象物との距離を検出するセンサー14FL、14FR、14RL、14RR、16Fおよび16Rからの検出信号に基づいて、距離が第1閾値未満であるか否かを判定する検出処理部110と、距離が第1閾値未満であると判定された場合に、車両の外から車両の車室に伝わる音の伝達特性に基づいた音処理を、報知音に付与する音処理付与部130と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ、前記車両の周囲に存在する対象物に応じて報知音を発生させる報知音発生装置であって、
前記車両と前記対象物との距離を検出するセンサーからの検出信号に基づいて、前記距離が第1閾値未満であるか否かを判定する検出処理部と、
前記距離が第1閾値未満であると判定された場合に、前記車両の外から前記車両の車室に伝わる音の伝達特性に基づいた音処理を、前記報知音に付与する音処理付与部と、
を含む報知音発生装置。
【請求項2】
前記検出処理部は、前記検出信号に基づいて前記車両に対する前記対象物が存在する方向を検出し、
前記音処理付与部は、
前記報知音に、前記方向に定位させる処理を施す
請求項1に記載の報知音発生装置。
【請求項3】
前記音処理付与部は、
前記報知音に、前記距離に応じた残響効果を付与する
請求項1または2に記載の報知音発生装置。
【請求項4】
前記音処理付与部は、
前記報知音の音量を、前記距離に応じて音量を変更する
請求項1または2に記載の報知音発生装置。
【請求項5】
前記音処理付与部は、
前記伝達特性の正転特性の音処理を、前記報知音に付与する
請求項1または2に記載の報知音発生装置。
【請求項6】
前記音処理付与部は、
前記伝達特性の逆転特性の音処理を、前記報知音に付与する
請求項1または2に記載の報知音発生装置。
【請求項7】
前記音処理付与部は、
前記距離が第1閾値未満であって、第2閾値以上である場合に、前記伝達特性に基づいて前記報知音に付与する音処理と、
前記距離が第2閾値未満である場合に、前記伝達特性に基づいて前記報知音に付与する音処理と、
を異ならせる
請求項1または2に記載の報知音発生装置。
【請求項8】
車両に設けられ、前記車両の周囲に存在する対象物に応じて報知音を発生させる報知音発生方法であって、
前記車両と前記対象物との距離を検出するセンサーからの検出信号に基づいて、前記距離が第1閾値未満であるか否かを判定する過程と、
前記距離が第1閾値未満であると判定した場合に、前記車両の外から前記車両の車室に伝わる音の伝達特性に基づいた音処理を、前記報知音に付与する過程と、
を含む報知音発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、報知音発生装置および報知音発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車などの車両周囲の環境音からエンジン音やロードノイズなどの不要音を除去して、車室内に放音する技術が提案されている(特許文献1参照)。また、人や障害物などの対象物が車両に相対的に接近する場合に、対象物が存在する方向に警告音の音像を定位させる技術も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-132924号公報
【特許文献2】特開2017-147702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載された技術によれば、搭乗者は、対象物が存在する方向を知ることができるものの、報知音が車室内で発生しているかのように知覚する。すなわち、搭乗者からすれば、車室外に存在するはずの対象物からの報知音が、車室内から発せられているかのように聴こえてしまう、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る報知音発生装置は、車両に設けられ、前記車両の周囲に存在する対象物に応じて報知音を発生させる報知音発生装置であって、前記車両と前記対象物との距離を検出するセンサーからの検出信号に基づいて、前記距離が第1閾値未満であるか否かを判定する検出処理部と、前記距離が第1閾値未満であると判定された場合に、前記車両の外から前記車両の車室に伝わる音の伝達特性に基づいた音処理を、前記報知音に付与する音処理付与部と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る報知音発生装置を適用した自動車を示す図である。
図2】報知音発生装置の構成を示すブロック図である。
図3】音が伝達する特性を測定する際の発音点と受音点との位置を示す図である。
図4】発音点の周波数特性と受音点の周波数特性とを示す図である。
図5】特性の一例を方向別に示す図である。
図6】算出された特性の一例を示す図である。
図7】算出された特性に基づいたイコライザーの設定例を示す図である。
図8】報知音発生装置の動作を示すフローチャートである。
図9】算出された特性に基づいたイコライザーの設定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の実施形態に係る報知音発生装置について図面を参照して説明する。
なお、各図において、各部の寸法および縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施の形態は、好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0008】
図1は、報知音発生装置が適用される車両1において、各部の配置を示す平面図である。車両1は、例えば右ハンドルであって、4ドアーの4人乗りのセダンである。車両1の前部には運転席51および助手席52が設けられ、後部には座席53および54が設けられる。なお、車両1において、運転席51にはステアリング22が設けられている。
【0009】
スピーカー12FLおよび12FRは、車両1の前部に設けられ、スピーカー12RLおよび12RRの車両後部に設けられる。詳細には、スピーカー12FLおよび12FRは、例えばダッシュボード32に設けられ、このうち、スピーカー12FLは、車両1の進行方向Fに向かって左側に設けられ、スピーカー12FRは、進行方向Fに向かって右側に設けられる。スピーカー12RLは、座席54の左後方に設けられ、スピーカー12RRは、座席53の右後方に設けられる。スピーカー12FL、12FR、12RLおよび12RRは、それぞれ放音方向が車室内に向かうように配置される。
なお、車両1に設けられるスピーカー12FL、12FR、12RLおよび12RRの配置は、あくまでも一例である。車両1に設けられるスピーカーの数は「4」以外であってもよい。
【0010】
また、前部のスピーカー12FLおよび12FRと、後部のスピーカー12RLおよび12RRとは、ほぼ同じ高さに設けられて、水平方向に音像が定位しやすいように構成されることが好ましい。また、スピーカー12FL、12FR、12RLおよび12RRは、カーステレオのスピーカーと兼用されてもよい。
【0011】
センサー14FL、14FR、14RL、14RRは、例えばソナーであり、車両1の周囲に存在する対象物を検出し、対象物までの距離を測定して、当該距離を示す距離信号をそれぞれ出力する。なお、センサー14FLは、フロントバンパーの左隅に設けられ、センサー14FRは、同フロントバンパーの右隅に設けられる。センサー14RLは、リアバンパーの左隅に設けられ、センサー14FRは、リアバンパーの右隅に設けられる。
【0012】
センサー16F、16Rは、例えばカメラである。センサー16Fは、例えばルームミラーに取り付けられ、進行方向Fを撮影して、センサー16Rは、例えばリアバンパーに取り付けられ、進行方向Fとは反対の後退方向Rを撮影して、撮影信号としてそれぞれ出力する。なお、センサー16F、16Rのほかに、例えば左右方向を撮影する別途のカメラを設けてもよい。また、センサー16F、16Rの撮像範囲を180度以上に拡げてもよい。センサー16Fおよび16Rは、別途設けられるドライブレコーダーのカメラと兼用されてもよい。
【0013】
報知音発生装置100を構成するユニットは、例えば前部のインテリアパネルに設けられ、ワイヤーハーネスを介して、スピーカー12FL、12FR、12RL、12RR、センサー14FL、14FR、14RL、14RR、16Fおよび16Rにそれぞれ接続される。
【0014】
図2は、報知音発生装置100と他の要素との電気的な構成を示すブロック図である。報知音発生装置100は、検出処理部110、記憶部120、音処理付与部130および増幅部140を含む。
【0015】
検出処理部110は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の単数または複数の処理回路で構成され、センサー14FL、14FR、14RLおよび14RRからの距離信号、センサー16Fおよび16Rからの撮影信号を処理する。具体的には、検出処理部110は、距離信号および撮影信号を処理して、対象物までの距離、および、当該対象物が存在する方向を算出する。
【0016】
センサー14FL、14FR、14RLおよび14RRは、センサーから対象物までの距離を測定するが、本実施形態では、運転者における頭部中心の仮想位置から対象物までの距離を問題とする。このため、検出処理部110は、センサー14FL、14FR、14RL、14RRによる距離信号で求められる距離を補正して、運転者における頭部中心の仮想位置から対象物までの距離として求める。
同様に、検出処理部110は、センサー16F、16Rの撮影信号を補正して、運転者からみて進行方向Fを基準にして、対象物が存在する方向を求める。
【0017】
なお、本実施形態では、便宜的に、センサー14FL、14FR、14RLおよび14RRが、対象物までの距離を求めるために使用され、センサー16Fおよび16Rが、対象物までの方向を求めるために使用されるとして説明する。ただし、これに限られず、これらを区別することなく、総合的に距離信号および撮影信号を処理して、距離および方向を求めてもよい。また、他のセンサー、例えばレーダーなどを加えて、距離および方向を求めてもよい。
【0018】
また、検出処理部110は、処理結果に応じて記憶部120および音処理付与部130を制御する。なお、検出処理部110は、CPUのほか、DSP(Digital Signal Processor)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の回路によって構成されてもよい。
【0019】
記憶部120は、例えば磁気記録媒体または半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成された単数または複数のメモリーであり、検出処理部110が実行するプログラム、報知音データおよびイコライジングデータを記憶する。
報知音データは、例えば対象物が接近したときに運転者に知らせる報知音のサンプリングデータであり、1種類または複数種類で記憶される。なお、報知音としては、低域から高域までの帯域を有する音が好ましい。
本実施形態では、説明の簡略化のために、報知音を1種類として説明するが、複数種類の報知音を用いる場合、例えば検出された対象物の大きさや、車両1と対象物との相対速度などに対応したものを用いてもよい。
【0020】
イコライジングデータは、音処理付与部130のイコライザーに設定されるレベルを周波数毎に指定するデータである。
【0021】
音処理付与部130は、記憶部120から読み出された報知音データに種々の音処理を付与して、例えば4チャネルの音響信号として出力する。本実施形態では、付与する音処理のための要素としてイコライザーを想定し、また、付与する音処理として定位、音量調節およびリバーブを想定する。イコライザーは、報知音のレベルを周波数毎に調整する。定位は、本実施形態では4チャネルの音量差によって報知音を定位させる。音量調整は、報知音の音量を調整する。リバーブは、報知音に残響効果を付与する。なお、リバーブの具体的な設定例については後述する。
【0022】
増幅部140は、音処理付与部130から出力される4チャネルの音響信号の各々を増幅する。スピーカー12FL、12FR、12RLおよび12RRの各々は、低域から高域までの音域を再生する、いわゆるフルレンジ型のスピーカーであり、供給された音響信号を、物理的な振動である音に変換して出力する。
【0023】
ここで、本件における車室外から車室内に伝達する音の特性について説明する。
車両1の運転者に、報知音を、あたかも車室外に存在するかのように聴かせるためには、車室外から運転者における頭部中心の仮想位置までにおいて、音が、どのように伝達するのかを考慮する必要がある。
【0024】
車両1の外における任意の1地点である発音点から放出された音は、空気中を伝達し、その一部がガラスやボディーを通過して、車室内に進入する。車室内に進入した音は、当該車室の形状や遮音材などの影響を受けて、受音点において運転者に聴かれる。
したがって、厳密にいえば、車両1の外にある発音点から当該車両1における車室内の受音点まで、音が伝達する特性は、車両1を基準にしてみた発音点の方向や、距離、車両1の車種(窓ガラス、車室内の形状、遮音材、内装素材)などの影響を受ける。
【0025】
本件では、複雑化を避けるために、受音点の位置を、運転席51に着座する運転者の頭部中心とし、発音点の位置を、車両1の進行方向Fに向かって、斜め左(45度)前方、斜め右(45度)前方、斜め左(45度)後方および斜め右(45度)後方であって、車室中心から互いに等距離にある4つの地点を想定する。
【0026】
図3は、4つの発音点から受音点までに音が伝達する特性の測定法を説明するための図である。図において4つの発音点は、スピーカーの形で示される。4つの地点のうち、順番に1つ地点を選択し、当該地点のスピーカーから基準音を発生させる一方で、車室内における運転者の頭部中心にマイクロフォンMを設置して、当該マイクロフォンMで収音する。
【0027】
図4は、各発音点から発せられた基準音の周波数特性と、受音点にてマイクロフォンMによって収音した信号の周波数特性との一例を示す図である。なお、各発音点において発せられた基準音を、当該発音点で収音した信号の周波数特性を「入力」として表記している。また、図において、横軸は周波数(Hz)であり、縦軸が相対的な音圧レベル(デシベル)である。
音が、発音点から運転者の頭部中心までに、周波数毎にどのように変化して到達するについては、各発音点の周波数特性から、受音点の周波数特性を減じればよい。
【0028】
図5は、音が発音点から受音点まで、周波数に対してどのように変化して到達するかを示す特性について、4方向毎に示す図である。
この図に示されるように、特性は、多少の差はあるものの、同様な傾向を有する。このため、本実施形態では、図6に示されるように、4方向の変化特性における平均特性を用いることにする。
なお、このような変化特性または平均特性が伝達特性の一例である。
【0029】
変化特性については、発音点でスピーカーから発せられた基準音を、受音点にてマイクロフォンMで収音することのほかに、空気を伝達する距離や、車両1の窓ガラス、車室内の形状、遮音材、内装素材などをパラメータとしたシミュレーションによって求めてもよい。
【0030】
平均特性は、音処理付与部130のイコライザーによって報知音に付与される。
図7は、イコライザーに設定されるレベルを周波数毎に示す図である。この図に示されるイコライザーは、例えば10箇所の周波数帯域でレベル調整が可能な例である。イコライザーに設定されるレベルは、図6の示される変化特性をレベル方向に正の係数を乗じた正転特性になっている。
【0031】
図8は、報知音発生の動作を示すフローチャートである。
検出処理部110は、次のステップS11~S15の処理を、一定の時間間隔毎(例えば200ms毎)に繰り返し実行する。
【0032】
まず、検出処理部110は、センサー14FL、14FR、14RLおよび14RRによる距離信号に基づいて、運転者における頭部中心の仮想位置から対象物までの距離を求める(ステップS11)。検出処理部110は、当該距離を示す情報を音処理付与部130に供給する。
【0033】
次に、検出処理部110は、求めた距離が第1閾値(例えば5m)未満であるか否かを判定する(ステップS12)。距離が第1閾値以上であれば、または、そもそも対象物が存在しなければ、ステップS12の判定結果が「No」になり、検出処理部110は、手順をステップS11に戻す。
【0034】
一方、距離が第1閾値未満であれば(ステップS12の判定結果が「Yes」であれば)、検出処理部110は、記憶部120から報知音データを読み出して(ステップS13)、音処理付与部130に転送する。
【0035】
続いて、検出処理部110は、センサー16Fおよび16Rによる撮影信号に基づいて、運転者における頭部中心の仮想位置を基準とした対象物の方向を求める(ステップS14)。検出処理部110は、当該方向を示す情報を音処理付与部130に供給する。
【0036】
この後、検出処理部110は、音処理付与部130に対し、報知音データに距離および方向に応じた音処理を施すように指示する(ステップS15)。
この指示によって、音処理付与部130では、イコライザーが、報知音データに基づく報知音を図7に示されるような特性でイコライジングする。また、音処理付与部130は、イコライジングされた報知音の音量を距離に応じて設定し、音量設定した報知音を対象物の方向に定位させ、リバーブとして当該報知音に距離に応じた残響効果を付与する。なお、音処理付与部130は、対象物までの距離が長くなるにつれて、報知音の音量を小さくし、リバーブの効果を高く(残響感を強く)する。
ステップS15の指示後、検出処理部110は、手順をステップS11に戻す。
【0037】
対象物が相対的に接近または離反する場合に、報知音がどのように発生するのか、について上記フローチャートを参照して具体的に説明する。
例えば車両1が後退して、車両1が対象物に接近する場合であっても、当該対象物までの距離が第1閾値以上であれば、ステップS12の判定結果が「No」になる。このため、検出処理部110は、ステップS11およびS12を繰り返すのみであり、ステップS13~S15を実行しないので、報知音は発生しない。
【0038】
やがて、当該対象物までの距離が第1閾値未満になれば、ステップS12の判定結果が「Yes」になるので、検出処理部110は、ステップS13~S15を実行する。
まず、イコライザーによって、車室外から車室内の運転者の頭部中心までに伝達する際の周波数特性が報知音に付与される。また、対象物の存在する後方に報知音が定位する。したがって、報知音があたかも車室外であって、対象物が存在する後方から発せられるかのように、運転者は知覚する。
【0039】
対象物までの距離が第1閾値未満である限り、ステップS11~S15の処理が繰り返し実行される。
仮に、対象物までの距離が徐々に小さくなれば、報知音の音量が徐々に大きくなり、残響感が弱められる。一方、車両1が後退から前方への移動に変化して、対象物まで距離が徐々に大きくなれば、報知音の音量が徐々に小さくなり、残響感が高められる。
したがって、運転者は、報知音の音量変化や、報知音の残響感によって、対象物までの距離感を把握することができる。
【0040】
なお、対象物までの距離が離れて、第1閾値以上の距離になれば、ステップS12の判定結果が「No」になるので、検出処理部110は、ステップS11およびS12を繰り返すのみになる。このため、報知音の発生が停止する。
【0041】
このように本実施形態によれば、運転者は、報知音があたかも車室外に存在するかのように知覚することができる。また、運転者は、対象物が存在する方向を、報知音の音像により知ることができ、さらに、対象物との距離感についても把握することができる。
【0042】
また、本実施形態では、スピーカー12FL、12FR、12RLおよび12RRについて、既存のカーステレオと兼用することができる。音処理付与部130におけるイコライザー、定位、音量調節およびリバーブについても、既存のカーステレオの機能を一部変更することで、代用することができる場合がある。センサー16Fおよび16Rについて、既存のドライブレコーダーと兼用することができる。
このため、本実施形態のように報知音の発生を低コストで実現することが可能である。
【0043】
リバーブにおいて残響感を強める手法、すなわち報知音が遠い地点で発生しているかのように聴かせる手法としては、具体的には次のようなものが挙げられる。すなわち、報知音の原音(残響感を付与する前の音)に対するセンド量を多くする、リバーブ音の反転音を原音に付加する、残響が開始するまでのプリディレイ量(原音に対する初期反射音の遅延量)を小さくする(または、ゼロにする)、設定する空間を広くする、などが残響感を強める手法として挙げられる。
【0044】
リバーブ音の反転音を原音に付加すると、原音が不明瞭になるので、遠くで発せられるかのように、運転者に知覚させることができる。
また、イコライザーに設定するレベルのうち、低域成分を減少させることが考えられる。低域成分を落とすと、近接効果、すなわち、音が近いところから発せられるかのような効果が低減するためである。なお、イコライザーに設定するレベルのうち、高域成分を低減することも考えられるが、上記反転音を付加する点とのバランスを考慮する必要がある。
さらに、音処理付与部130が音処理のための要素としてコンプレッサーを含む場合、リバーブ成分に適用する当該コンプレッサーのアタックを遅く設定することで、報知音が不明瞭になるので、報知音が遠くで発せられるかのような印象を与えることができる。
【0045】
以上に例示した実施形態は多様に変形され得る。実施形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で併合してもよい。
【0046】
実施形態では、4つの発音点から運転者の頭部中心まで、音がどのように伝達するかを示す伝達特性を平均化して用いたが、厳密には、図5に示されるように4つの伝達特性に差を認めることができる。このため、音処理付与部130におけるイコライザーの設定量を、求めた対象物の方向に対応する伝達特性に基づいて定めてもよい。例えば算出した対象物の方向が右斜め後方であれば、イコライザーの設定量を、右斜め後方の伝達特性に基づいて定めてもよい。
【0047】
また、算出した対象物の方向の伝達特性に近いものがなければ、近傍の2以上の伝達特性を補間して用いてもよい。例えば算出した対象物の方向が車両1の後方であれば、左斜め後方の伝達特性と右斜め後方の伝達特性とを50%ずつ重み付けして加算した特性を、用いればよい。
さらに、4つではなく、例えば前後左右の4地点からの伝達特性を加えて計8地点の伝達特性を用いてもよい。このように対象物の方向に対応する伝達特性に基づいてイコライザーの設定量を定める処理を、報知音の定位処理と併用することで、報知音の定位性をより高めることができる。
【0048】
実施形態では、伝達特性が図6に示されるような場合に、イコライザーに図7に示されるようにレベルが周波数毎に設定される。すなわち、イコライザーに設定されるレベルは、伝達特性の正転特性とした。
ここで、イコライザーに設定される周波数毎のレベルを、伝達特性に負の係数を乗じた逆転特性にすると、報知音が発音点から受音点までの変化特性を補償するので、運転者からすれば、明瞭な報知音を聴くことができる。なお、図9は、逆転特性に基づいたイコライザーの設定例を示す図である。
【0049】
このため、例えば対象物までの距離が第1閾値よりもさらに小さい第2閾値未満になれば、イコライザーに設定される周波数毎のレベルを、正転特性から逆転特性に変化させる構成としてもよい。端的にいえば、距離が第1閾値未満であって、第2閾値以上である場合に、音処理付与部130が、伝達特性に基づいて報知音に付与する音処理と、距離が第2閾値未満である場合に、音処理付与部130が、伝達特性に基づいて報知音に付与する音処理と、を異ならせる構成としてもよい。
このような構成によれば、対象物が第1閾値未満からさらに接近して第2閾値未満になった場合に、報知音が明瞭になるので、運転者に注意を促すことができる。
【0050】
正転特性から逆転特性への変化は、対象物までの距離が第2閾値未満になったときに、周波数毎のレベルを一斉に切り替えるのではなく、距離が第1閾値未満になったときに用いるレベルから、第2閾値未満になるときに用いるレベルまで徐々に変化させる構成としもよい。すなわち、対象物が相対的に接近して、距離が第1閾値未満になった直後では、正転特性であるが、距離が小さくなるにつれて、正転特性から逆転特性に徐々に変化し、第2閾値未満になったときに逆転特性にさせる構成としてもよい。このような構成によれば、対象物までの距離が第1閾値未満になったときに報知音が発生し始め、距離が徐々に小さくなるにつれて報知音が明瞭になる。
【0051】
また、対象物までの距離が第2閾値未満であれば、報知音にイコライジング等の効果を付与しない構成としてもよい。この構成によれば、明瞭な報知音を運転者に聴かせることができる。
【0052】
なお、図7または図9は、イコライザーの設定を説明するために、グラフィックイコライザーを例に挙げて説明したが、パラメトリックイコライザーや、ダイナミックイコライザーなど他のイコライザーを実施形態に適用してもよい。
【0053】
車両1の走行速度が速くなると、風切り音や、エンジン音、ロードノイズなどが大きくなり、報知音が聴こえにくくなる。そこで、走行速度が速くなるにつれて、報知音の音量を大きく変化させる構成としてもよい。
【0054】
実施形態では、対象物までの距離が第1閾値未満になれば、報知音が発生する構成となっている。車両1の走行速度が速くなると、対象物は車両に対し相対的に速く移動するので、第1閾値については、走行速度が速くなるにつれて、第1閾値を大きくする構成が好ましい。このような構成によれば、走行速度が速ければ、対象物が比較的遠くにあっても、報知音が発生し、走行速度が遅ければ、対象物が比較的近くになったときに報知音が発生する。このため、運転者は、走行速度に応じて対象物の接近を知ることができる。
なお、第1閾値を走行速度に応じて変化させる構成では、第2閾値についても、第1閾値>第2閾値を満たしつつ、変化させる構成が好ましい。
【0055】
実施形態では、報知音を運転者に聴かせるために、車室外から運転者の頭部中心における仮想位置までの伝達特性に基づいた音処理を報知音に付与する構成としたが、報知音を聴かせる対象は、運転者に限られない。例えば助手席52や、後部の座席53または54に着座する搭乗者を対象としてもよい。あるいは、車室内の特定位置、例えば運転席51および座席54を結ぶ対角線と、助手席52および座席53を結ぶ対角線とが平面視で交差する位置としてもよい。車室外から特定位置までの伝達特性を予め測定しておけばよい。
【0056】
実施形態では、対象物までの距離に応じて報知音の音量を調節したり、距離に応じた残響効果を報知音に付与したりして、運転者に対象物までの距離感を把握させる構成とした。このほかにも、対象物までの距離に応じて、報知音の音高(周波数)を調節する構成としてもよい。
【0057】
対象物が相対的に接近する場合と相対的に離反する場合とで、報知音それ自体を異ならせてよいし、報知音に付与する音処理の内容を異ならせてもよい。例えば対象物が相対的に接近する場合には、報知音の周波数を高める一方、対象物が相対的に離反する場合には、報知音の周波数を低くするようなドップラー効果を付与してもよい。
【0058】
以上の記載から、例えば以下のように本開示の好適な態様が把握される。
【0059】
本開示のひとつの態様1)に係る報知音発生装置は、車両に設けられ、前記車両の周囲に存在する対象物に応じて報知音を発生させる報知音発生装置であって、前記車両と前記対象物との距離を検出するセンサーからの検出信号に基づいて、前記距離が第1閾値未満であるか否かを判定する検出処理部と、前記距離が第1閾値未満であると判定された場合に、前記車両の外から前記車両の車室に伝わる音の伝達特性に基づいた音処理を、前記報知音に付与する音処理付与部と、を含む。態様1によれば、車両から対象物までの距離が第1閾値未満になれば、車室外から車室内の運転者までに伝達する際の特性が報知音に付与されるので、報知音があたかも車室外から発せられるかのように、車両の搭乗者に知覚させることができる。このため、運転者への違和感を低減することができる。
【0060】
態様1の具体例である態様2において、前記検出処理部は、前記検出信号に基づいて前記車両に対する前記対象物が存在する方向を検出し、前記音処理付与部は、前記報知音に、前記方向に定位させる処理を施す。態様2によれば、対象物の方向に報知音が定位するので、対象物の方向を搭乗者に知覚させることができる。
【0061】
態様1または2の具体例である態様3において、前記音処理付与部は、前記報知音に、前記距離に応じた残響効果を付与する。態様3によれば、報知音に付与される残響効果によって、対象物までの距離感を搭乗者に知覚させることができる。
【0062】
態様1または2の具体例である態様4において、前記音処理付与部は、前記報知音の音量を、前記距離に応じて音量を変更する。態様4によれば、報知音の音量変化によって、対象物までの距離感を搭乗者に知覚させることができる。
【0063】
態様1または2の具体例である態様5において、前記音処理付与部は、前記伝達特性の正転特性の音処理を、前記報知音に付与する。伝達特性の正転特性の音処理が報知音に付与されると、当該報知音は不明瞭になる。このため、態様5によれば、報知音が遠くで発せられるように、搭乗者に知覚させることができる。
【0064】
態様1または2の具体例である態様6において、前記音処理付与部は、前記伝達特性の逆転特性の音処理を、前記報知音に付与する。伝達特性の逆転特性の音処理が報知音に付与されると、当該報知音は明瞭になる。このため、態様5によれば、報知音が近くで発せられるように、搭乗者に知覚させることができる。
【0065】
態様1または2の具体例である態様7において、前記音処理付与部は、前記距離が第1閾値未満であって、第2閾値以上である場合に、前記伝達特性に基づいて前記報知音に付与する音処理と、前記距離が第2閾値未満である場合に、前記伝達特性に基づいて前記報知音に付与する音処理と、を異ならせる。態様7によれば、距離が第1閾値未満であって、第2閾値以上である場合に、報知音に付与される音処理と、距離が第2閾値未満である場合に、報知音に付与される音処理と、が異なるので、対象物の接近を段階的に、搭乗者に知覚させることができる。
【0066】
本開示のひとつの態様8に係る報知音発生方法は、車両に設けられ、前記車両の周囲に存在する対象物に応じて報知音を発生させる報知音発生方法であって、前記車両と前記対象物との距離を検出するセンサーからの検出信号に基づいて、前記距離が第1閾値未満であるか否かを判定する過程と、前記距離が第1閾値未満であると判定した場合に、前記車両の外から前記車両の車室に伝わる音の伝達特性に基づいた音処理を、前記報知音に付与する過程と、を含む。態様8によれば、態様1と同様に、車両から対象物までの距離が第1閾値未満になれば、車室外から車室内の運転者までに伝達する際の特性が報知音に付与されるので、報知音があたかも車室外で発せられるかのように、車両の搭乗者に知覚させることができる。このため、運転者への違和感を低減することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…車両、12FL、12FR、12RL、12RR…スピーカー、14FL、14FR、14RL、14RR、16F、16R…センサー、100…報知音発生装置、110…検出処理部、120…記憶部、130…音処理付与部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9