(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171443
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】混合ガスグリッド管理システム及び混合ガスグリッド管理方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20241205BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088448
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】矢敷 達朗
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 秀宏
(72)【発明者】
【氏名】石田 直行
(72)【発明者】
【氏名】河原 洋平
(72)【発明者】
【氏名】水上 貴彰
(72)【発明者】
【氏名】藤田 晋士
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 良平
(72)【発明者】
【氏名】吉本 尚起
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】混合ガスグリッドから供給された水素等の特定ガスを使用する需要家に応じてガス系統内のガス成分の組成を管理する混合ガスグリッド管理装置を提供する。
【解決手段】本発明の混合ガスグリッド管理装置10は、複数の成分を含む混合ガス103をガスパイプライン1により供給する混合ガスグリッドの混合ガスグリッド管理装置であって、混合ガスにおける所定成分のガスの目標濃度22を、混合ガスの使用拠点3のガス使用予測情報21に基づいて算出する目標濃度設定部11と、混合ガスの所定成分のガスの濃度が目標濃度になるように、ガスパイプラインの混合ガスの成分ごとのガス供給拠点にガス供給指示をする供給指示部12と、を備え、ガス使用予測情報は、混合ガスの使用拠点のガス使用情報24と過去の統計情報から推算したガス使用情報25と装置起動予定26との中の少なくともいずれかを用いて算出される、ようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分を含む混合ガスをガスパイプラインにより供給する混合ガスグリッドの混合ガスグリッド管理装置であって、
前記混合ガスにおける所定成分のガスの目標濃度を、前記混合ガスの使用拠点のガス使用予測情報に基づいて算出する目標濃度設定部と、
前記混合ガスの所定成分のガスの濃度が前記目標濃度になるように、前記ガスパイプラインの前記混合ガスの成分ごとのガス供給拠点にガス供給指示をする供給指示部と、を備え、
前記ガス使用予測情報は、前記混合ガスの使用拠点のガス使用情報と過去の統計情報から推算したガス使用情報と装置起動予定との中の少なくともいずれかを用いて算出される、
混合ガスグリッド管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の混合ガスグリッド管理装置において、さらに、
前記混合ガスグリッドのガスパイプラインのツリー図の表示と、指定されたガス使用拠点のガス濃度やガス流量の動作情報の表示と、を行う表示部を備える、
混合ガスグリッド管理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の混合ガスグリッド管理装置において、
前記ガス使用情報と前記装置起動予定とを用いて、前記過去の統計情報から推算したガス使用情報を補正して、前記ガス使用予測情報とする、
混合ガスグリッド管理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の混合ガスグリッド管理装置において、
前記供給指示部は、前記混合ガスから分離した所定成分のガスを返送ガスとして前記ガスパイプラインに供給する動作指示を前記混合ガスを使用するガス使用拠点に行い、前記混合ガスの所定成分のガスの濃度を調整する、
混合ガスグリッド管理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の混合ガスグリッド管理装置において、
1つ以上のガス使用拠点と1つ以上のガス供給拠点とがガスパイプラインに接続された、混合ガスグリッドの一部をガス系統とし、
前記混合ガスグリッドは複数の前記ガス系統を含み、
前記目標濃度設定部は、前記ガス系統ごとに前記目標濃度を算出し、
前記供給指示部は、前記ガス系統のガス供給拠点にガス供給指示を行う、
混合ガスグリッド管理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の混合ガスグリッド管理装置において、
前記ガス系統には複数の使用するガス種が同一のガス使用拠点が配置されている、
混合ガスグリッド管理装置。
【請求項7】
請求項5に記載の混合ガスグリッド管理装置において、
前記ガス系統のパイプラインの最上流に、前記目標濃度にするガスを前記ガスパイプラインに供給するガス供給拠点が配置されている、
混合ガスグリッド管理装置。
【請求項8】
請求項5に記載の混合ガスグリッド管理装置において、
前記供給指示部は、ガス系統のガス使用量・目標濃度とガス系統のガス流入量・流入ガス成分の組成の差分から前記ガス系統のガス供給拠点で供給するガス量を求める
混合ガスグリッド管理装置。
【請求項9】
請求項8に記載の混合ガスグリッド管理装置において、
前記供給指示部は、上流側のガス系統から流入するガス量であり、上流側のガス系統における返送ガスのガス量を含めてガス系統のガス流入量とし、上流側のガス系統における目標濃度と返送ガスのガス量とから流入ガス成分の組成を算出する、
混合ガスグリッド管理装置。
【請求項10】
請求項4に記載の混合ガスグリッド管理装置において、
前記目標濃度設定部は、下流側のガス系統の目標濃度を参照して、当該ガス系統の前記目標濃度を算出する、
混合ガスグリッド管理装置。
【請求項11】
複数の成分を含む混合ガスをガスパイプラインにより供給する混合ガスグリッドの混合ガスグリッド管理方法であって、
前記混合ガスにおける所定成分のガスの目標濃度を、前記混合ガスの使用拠点のガス使用予測情報に基づいて算出するステップと、
前記混合ガスの所定成分のガスの濃度が前記目標濃度になるように、前記ガスパイプラインの前記混合ガスの成分ごとのガス供給拠点にガス供給指示をするステップと、を含み、
前記ガス使用予測情報は、前記混合ガスの使用拠点のガス使用情報と過去の統計情報から推算したガス使用情報と装置起動予定との中の少なくともいずれかを用いて算出される、
混合ガスグリッド管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合ガスグリッド管理システム及び混合ガスグリッド管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境省において、令和元年に「再エネ電解水素の製造及び水素混合ガスの供給利用実証事業」が開始された(https://www.env.go.jp/press/106873-print.html)。本事業では、風力発電の電力を用いて、水の電気分解により水素を製造し、該水素と都市ガス相当の模擬ガスを混合してガス配管によって利用場所に供給する。混合ガスは、使用場所の給湯器、ガスコンロなどでそのまま利用される。
【0003】
混合ガスが供給される混合ガスグリッド(導管ネットワーク)では、混合ガスの仕様用途に応じて、混合ガス中の各成分の必要濃度が異なり、さらに、濃度上限が定められることもある。そのうえ、ガスグリッドに接続されているガス使用拠点(需要家)が特定のガスのみ使用する場合、ガスグリッド内に濃度の偏りが生じることが懸念される。
【0004】
このため、混合ガスグリッドでは、従来の都市ガスなどの均一成分のガスの供給と異なり、ガス流量や圧力だけでなく、混合ガス中の各成分の濃度を監視して管理する必要がある。
【0005】
特許文献1には、水素とその他のガスが充填されているガスパイプラインを備えるガスグリッドを対象に、ガスグリッド内の流体情報、管路・ガス注入機構形状情報、水素供給拠点及びガス使用拠点の運転予定を入力として、ガスの流れ、ガス抜出や圧入にともなう対流、拡散状態を加味したシミュレーション結果を出力し、グリッド内の任意のポイントにおける経時的な水素濃度の変化を可視化する水素濃度可視化システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
混合ガスグリッドに接続されているガス使用拠点(需要家)の数や種類は、混合ガスグリッドにより異なる。そのため、特定のエリア(ガス系統)においてガス使用拠点の種類に偏りがある場合には、特定のガスとして使用するガス種を多く輸送するため、濃度を高める必要がある。具体的には、特定のエリア(ガス系統)において、ガス使用拠点の大部分が特定のガスとして水素のみを使用する場合には、特定のエリアの水素濃度を、濃度上限を超えない範囲で高めることにより、より効率的に水素を輸送する。
【0008】
特許文献1には、グリッド内の任意のポイントにおける経時的な水素濃度の変化を可視化する水素需給方法及びシステムを提示しているが、ガスグリッドに接続されているガス使用拠点(需要家)の数や種類に応じてガスグリッド内の輸送を最適化する具体的な手段は提示されていない。したがって、特許文献1の技術だけでは、多様なガス使用拠点が接続される混合ガスグリッドを運用できない。
【0009】
本発明の目的は、混合ガスグリッドから供給された水素等の特定ガスを使用する需要家に応じてガス系統内のガス成分の組成を管理する混合ガスグリッド管理装置を提供し、多様なガス使用拠点が接続される混合ガスグリッドを運用可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の混合ガスグリッド管理装置は、複数の成分を含む混合ガスをガスパイプラインにより供給する混合ガスグリッドの混合ガスグリッド管理装置であって、前記混合ガスにおける所定成分のガスの目標濃度を、前記混合ガスの使用拠点のガス使用予測情報に基づいて算出する目標濃度設定部と、前記混合ガスの所定成分のガスの濃度が前記目標濃度になるように、前記ガスパイプラインの前記混合ガスの成分ごとのガス供給拠点にガス供給指示をする供給指示部と、を備え、前記ガス使用予測情報は、前記混合ガスの使用拠点のガス使用情報と過去の統計情報から推算したガス使用情報と装置起動予定との中の少なくともいずれかを用いて算出される、ようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多様なガス使用拠点が接続される混合ガスグリッドを運用できる。特に、クリーンエネルギーとして製造された水素に関して混合ガスグリッド内の水素濃度をガス系統ごとに管理・制御でき、必要な場所に必要な濃度の水素供給が可能となるので、経済性、安全性、利便性の向上と地球温暖化対策を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の混合ガスグリッド管理装置を適用した混合ガスグリッドの構成図である。
【
図2】混合ガスグリッド管理装置の管理状態を示す画面例である。
【
図3】混合ガスグリッド管理装置の処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。なお、同一の構成には、同一の符号を付し、説明が重複する場合は、その説明を省略する場合がある。また、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0014】
図1は、ガスグリッド内の特定ガスの目標濃度に関する設定機構を備えた実施例の混合ガスグリッド管理装置を適用した混合ガスグリッドの構成図である。なお、本実施例では、
図1に示す構成の全部を使用しているが、必ずしも全部を使用する必要はなく、一部を使用してもよい。
【0015】
図1に示すように、本実施例では、ガスパイプライン1に水素ガス供給拠点2、ガス使用拠点3a、ガス使用拠点3b、天然ガス供給拠点5が接続されたガス系統を対象に、天然ガス(メタンガス)と水素ガスの混合ガス103を供給する例について説明する。なお、本実施例では、天然ガス(メタンガス)と水素ガスとの混合ガス103を想定するが、水素ガスと混合するガスは天然ガスに限定しない。また、ガス使用拠点の数は1個でもよいし、複数設置してもよい。なお、天然ガスは、メタンを主成分とするものの、産地によって供給事業者によって組成はまちまちであるが、本明細書では天然ガスをメタンガスと称する。
【0016】
水素ガス供給拠点2は、ガスパイプライン1に水素ガス101を供給する機能を持つ施設および設備であり、水素ガスを、昇圧してガスパイプライン1に供給するとともに、混合ガス103の水素濃度が所定濃度になるように流量調整してガスパイプライン1に供給する。水素ガス供給拠点2の水素ガス101は、水素ガス供給拠点2で製造されたものでも、他の場所で製造されたものでもよい。
【0017】
天然ガス供給拠点5は、ガスパイプライン1に天然ガス102を供給する機能を持つ施設及び設備であり、天然ガスを昇圧してガスパイプライン1に供給するとともに、混合ガスの天然ガス濃度が所定濃度になるように流量調整して、ガスパイプライン1に供給する。
【0018】
ガスパイプライン1は、天然ガス供給拠点5から供給された天然ガス102と、水素ガス供給拠点2から供給された水素ガス101とが混合した混合ガス103が流れ、ガス使用拠点3a、3b(総称してガス使用拠点3と記すことがある)に供給される。
【0019】
ガス使用拠点3では、ガスパイプライン1から混合ガス103が供給され、混合ガスから必要量の水素ガス、天然ガス、又は混合ガスを取り出し、返送ガス104をガスパイプライン1に戻す。ここで、返送ガス104はガス使用拠点3で使用しなかったガスである。例えば、ガス使用拠点3aが水素のみを使用する場合には、水素分離膜などにより混合ガスから水素を分離して使用し、天然ガスのみを返送ガス104としてもよいし、混合ガスから水素ガスを分離した天然ガスと使用した分量以外の残りの水素ガスを混合して、供給された混合ガスと異なる水素濃度の混合ガスを返送ガス104としてガスパイプライン1に戻してもよい。
【0020】
ガスパイプライン1の混合ガスの水素濃度が所定濃度になるように水素ガスの供給と天然ガスの供給を制御する混合ガスグリッド管理装置10は、目標濃度設定部11と供給指示部12とから構成され、ガス系統のガス使用予測情報21に基づいて、ガス系統のガスパイプライン1の混合ガスにおける水素ガスの目標濃度22を算出し、天然ガス供給拠点5と水素ガス供給拠点2にガスの供給指示を行う。また、供給指示部12は、混合ガスの天然ガスの目標濃度に基づいて天然ガス供給拠点5にガスの供給指示を行ってもよい。
【0021】
ここで、ガス系統は、実施形態の混合ガスグリッド管理装置10の管理単位であり、ガスパイプライン1と、少なくとも1つ以上のガス使用拠点(需要点)と、少なくとも1つ以上のガスパイプライン1に水素ガス・天然ガス等のガスを供給するガス供給拠点(供給点)を備える設備とする。ガス系統の構成要素について、上限は設けないが、使用するガス種が同一のガス使用拠点(需要点)をまとめると、目標濃度の時間変動が生じにくくなる。
【0022】
ガス供給拠点(供給点)では、タンクなどの貯留施設によるガスパイプライン1へのガス注入、ガス製造設備によるガスパイプライン1へのガス注入が行われる。また、ガス使用拠点(需要点)でも、返送ガス104がタンクなどの貯留施設によりガスパイプライン1へ注入されている。
【0023】
ガス系統のガス使用予測情報21は、ガス系統に含まれるガス使用拠点3のガス使用情報24、過去の統計情報から推算したガス使用情報25、装置起動予定26のいずれか1つ以上を用いて算出する。なお、装置起動予定26は、予め判明しているガス使用拠点3のガス使用量を起動予定の拠点について加算して、ガス使用予測情報21を求める。
【0024】
詳細には、ガス使用拠点3のガス使用情報24は、ガスメーター等による流量、ガス成分の組成情報の経時計測結果である。なお、流量、ガス成分の組成以外にも、熱量や燃焼指標などの情報をガス使用情報24としてもよい。ガス使用拠点3の使用情報24は、例えば現在時点のものであり、ガス使用拠点3のガス使用情報24は、リアルタイムで取得可能である。
【0025】
過去の統計情報から推算したガス使用情報25は、過去のガス使用流量、ガス成分の組成を基に、ガス使用量を予測した値である。過去のガス使用量、ガス成分の組成は、ガスメーター等で計測した情報を蓄積して用いてもよいし、別の手段で取得してもよい。ガス使用量の予測には、統計解析手法や機械学習などが使用可能である。具体的には、回帰分析、重回帰分析、ベイズ推定、決定木、ニューラルネットワークなどが適用可能である。このとき、説明変数としては、季節(月)、気温、天気予報、曜日、祝日か否か、イベントの有無などを用いることができる。なお、推算したガス使用情報25は、所定の時刻、例えば現時点(ガス使用情報24と同時刻)のものであるとする。
【0026】
また、装置起動予定26は、工場や発電所などの大口需要家がガス使用拠点である場合に有効である。大口需要家では、近日の装置起動予定が定まっていることがある。そのため、装置の種類から必要なガス種、稼働予定からガス使用量の予測を得ることができる。
【0027】
ガス使用予測情報21を複数の情報を組み合わせて算出する場合、例えば、需要点のガス使用情報24、需要家の装置起動予定26を用いて、過去の統計情報を基に推算したガス使用情報25に需要点のガス使用情報24、需要家の装置起動予定26の一定量を加算する補正をして、ガス使用予測情報21とする。
【0028】
目標濃度設定部11は、ガス系統のガス使用予測情報21から、ガス系統のガスパイプライン1の混合ガスの時間/系統ごとの各成分の目標濃度を設定する。詳細には、目標濃度設定部11は、対象のガス系統でのガス種とガス使用量から各ガス成分の使用量を算出し、算出した各ガス成分の使用量とガス全体の使用量、ガスの流れ、ガス抜出や圧入に伴う対流、拡散状態を加味したシミュレーションを行い、目標濃度を設定する。
【0029】
目標濃度設定部11は、目標濃度を設定する際の時間単位を任意に定められるが、ガス使用拠点のガス使用予測情報21の変動が生じる時間幅とすることが望ましい。ガス使用拠点のガス使用予測情報21の変動が、時間帯によって異なる場合、時間単位は一律とせずともよい。例えば、朝8時に複数のガス使用拠点(需要家)の装置起動が重なりガス使用量が大きく変動した後、10~12時には安定稼働となりガス使用量が変動しない場合について述べる。このような場合には、朝8時前後の時間単位を10分単位など細かくする一方、ガス使用量の時間変動が少ない10~12時は時間単位を粗くして2時間単位とする。
【0030】
混合ガスグリッド管理装置10の供給指示部12は、ガスパイプライン1の混合ガスが目標濃度設定部11で算出された目標濃度に達するようにガス供給拠点に指示して、ガスパイプライン1へのガス供給量を制御する。
【0031】
この際、目標濃度は一意の値としてもよいが、幅を持たせてもよい。例えば、天然ガス(メタンガス)を使用する需要家が集まっているガス系統においては、目標濃度(水素ガス)を5vol%(ボリュームパーセント:ガス濃度(体積比))以下等としてもよい。目標濃度を算出し設定する目標濃度設定部11を有することで系統/時間ごとに適切なガス量を供給できる。
【0032】
つぎに、
図2により、実施例の混合ガスグリッド管理装置10の管理状態を示す画面例を説明する。表示は、混合ガスグリッド管理装置10の不図示の表示部に表示してもよいし、混合ガスグリッドの管理者端末に表示してもよい。
【0033】
表示画面は、混合ガスグリッド管理装置10が管理するガス系統の接続を示すガスグリッド全体のパイプラインのツリー図のウィンドウ31と、指定されたガス使用拠点Xのガス濃度やガス流量等の動作情報を表示するウィンドウ32とを表示する。ウィンドウ32は、ウィンドウ31に並べて表示してもよいし、ウィンドウ31上でガス系統とガス使用拠点3が指定された際に、ポップアップウィンドウとして表示してもよい。
【0034】
また、ウィンドウ31のガスグリッド全体に対する管理状態を示すガス系統を、ガス系統範囲33として点線矩形で表示する。さらに、管理状態を示すガス系統の目標濃度の時間変化を示すグラフ34とガス系統のガス供給量の時間変化を表示するグラフ35を表示する。
【0035】
また、混合ガスグリッド管理装置10は、管理する混合ガスの目標濃度と、現在のグリッド内の濃度分布を合わせて表示してもよい。例えば、ガスグリッド内の水素濃度が、現在時刻から任意の経過時刻後まで濃度値を動画として表示されるようにしてもよいし、操作者が任意の経過時刻を指定して静止画で水素濃度を表示するようにしてもよい。また、色のグラデーションを用いて水素濃度分布のグリッド内の変化を視覚的に提示してもよい。さらに、水素濃度分布以外にも、ガス成分の組成や流量などを色のグラデーションを用いて表示してもよい。
【0036】
つぎに、
図1の混合ガスグリッドにおいて、ガス系統/時間ごとに適切なガス量を供給する混合ガスグリッド管理装置10の処理フローを
図3により説明する。
図3の処理フローは、供給指示部12が水素ガス供給拠点2や天然ガス供給拠点5に指示する供給量を、不足ガス量(必要注入量)として求めている。
【0037】
まず、ステップS1で、混合ガスグリッド管理装置10は、管理対象のガス系統の構成情報(水素ガス供給拠点2、天然ガス供給拠点5、ガス使用拠点3)を取得する。
【0038】
ステップS2で、混合ガスグリッド管理装置10が、現在時刻t1からtn時刻先までを評価期間とし、評価間隔をΔtとした評価時間を設定する。評価間隔Δtは、ガス使用量の時間変動に応じて、可変にすることが望ましい。
【0039】
ステップS3で、混合ガスグリッド管理装置10が、ガス系統の評価時間(時刻t1~tn)の間でΔtごとのガス使用予測情報(ガス使用情報24、過去の統計情報から推算したガス使用情報25、装置起動予定26)を取得する。
【0040】
ステップS4で、混合ガスグリッド管理装置10は、Δtごとに、ステップS3で取得したガス使用予測情報から混合ガスの成分(水素ガス、天然ガス)ごとのガス使用量を求め、ガス使用量から目標濃度を算出する。
【0041】
ステップS5で、混合ガスグリッド管理装置10は、対象のガス系統の上流側のガス系統からのガス流入量とガス流入成分の組成を求める。
【0042】
ステップS6で、評価期間t1~tnのガス系統ごとのガス使用量・目標濃度とステップS5で求めたガス流入量・流入ガス成分の組成を比較することで、差分から不足するガス量を算出する。つまり、ガス系統内のガス供給点のガス量は、不足するガス量であり、対象のガス系統のガス使用量・目標濃度と対象のガス系統のガス流入量・流入ガス成分の組成の差分から求める。
【0043】
ここで、対象のガス系統のガス流入量は、上流側のガス系統から流入するガス量であり、上流側のガス系統における返送ガスのガス量を含んでいる。そして、流入ガス成分の組成は、上流側のガス系統における目標濃度と返送ガスのガス量とから算出する。
【0044】
詳しくは、上流側のガス系統からのガス量は、パイプラインの流体情報や、これを基にしたシミュレーションにより算出する。ここで、流体情報とは、パイプライン内の任意の点のガスの流速、流量、圧力、ガス成分の組成である。任意の点は、1つでも良いし、複数でも良い。流体情報は、圧力計や流量計などのセンサにより直接計測しても良いし、他の計測値から換算するソフトセンサで算出しても良い。ソフトセンサとしては、例えば、ガスグリッド内の任意の2点での圧力の差分から流量を算出する、ガスグリッドに接続されている全てのガス使用拠点でのガス使用量から流量を算出する、などが該当する。
【0045】
また、パイプラインの流体情報は、上流でのガス使用量、使用状況、注入量の変化がない場合には時間変動せず、上流側のガス系統からのガス量・ガス成分の組成は一定となる。一方、上流でのガス使用量、使用状況、ガス注入量が変化する場合には、時間によって上流側のガス系統からのガス量・組成が変化する。そのような場合には、シミュレーションを用いて評価時間t1~tnの上流側のガス系統からのガス量・ガス成分の組成を算出する。
【0046】
以下に、評価時間t1~tnにおける上流側のガス系統からのガス量・ガス成分の組成を計算により求める例を説明する。まず、上流側のガス系統での水素供給拠点及びガス使用拠点の運転予定を取得する。ここで、運転予定とは、設定した評価時間t1~tnの間の水素供給拠点における水素ガス注入予定と、以下に説明するガス使用拠点における混合ガス抜出予定である。
【0047】
水素ガス注入予定とは、水素ガス注入量、注入圧力、注入流量などの情報である。
混合ガス抜出予定とは、時刻に対する混合ガスの抜出量、抜出流量、ガス使用拠点での混合ガスの成分に対する使用量などである。ガス使用拠点での混合ガスの成分に対する使用量は、混合ガス中に含まれる成分(水素ガス、天然ガス)毎の使用量である。
【0048】
ガス使用拠点において、混合ガスをそのまま使用する場合には、ガス使用拠点での混合ガスの成分に対する使用量の合計は、混合ガスの使用量と一致する。一方、ガス使用拠点で特定の成分のみ使用する場合には、使用しない成分をガスパイプラインに返送ガスとして返送するため、混合ガスの成分に対する使用量の合計は、混合ガスの使用量から返送ガス量を差し引いた値と一致する。混合ガス抜出予定と予め取得した管路・ガス注入機構形状情報を入力として、評価時間t1~tn間の返送ガス予定を算出する。
【0049】
以上のように、現時刻のガスグリッド内の流体情報と、評価時間t1~tnの間の水素ガス注入予定、混合ガス抜出予定、返送ガス予定と、予め取得した管路情報を入力として、評価時間t1~tnの間の上流側のガス系統からのガス量・ガス成分の組成を計算する。
【0050】
つぎに、
図4により、より具体的なガスグリッドにおける混合ガスグリッド管理装置10の動作を説明する。混合ガスグリッド管理装置10は、時間(時刻)と系統ごとに目標濃度を定めることでガスグリッドの使用状況に応じたガス供給を可能とする。
【0051】
図4は、ガス使用拠点3である需要家A、B、C、D、E、Fと、水素ガス供給拠点2である水素ガス供給点A、Bがガスパイプライン1に接続された、混合ガスグリッドの構成図である。ガスパイプライン1の混合ガスは、水素ガスと天然ガスの2つの成分で組成され、ガスパイプライン1の上流(紙面の左側)から、水素濃度20vol%で供給される。
【0052】
需要家Aは水素を使用するガス使用拠点、需要家B、Cは天然ガスを使用するガス使用拠点、需要家D、需要家E、需要家Fは熱源として混合ガスを使用するガス使用拠点とする。
図4に示すように、使用するガス種が同一のガス使用拠点(需要点)をまとめて、ガス系統として、系統a、系統b、系統cを定義する。
【0053】
ガス系統a、b、cの目標濃度は、各ガス系統に接続されている需要家の要求ガス組成、ガス使用量予定によって算出する。そして、ガス系統b、cの水素ガス供給量は、上流のガス系統から供給される混合ガスの水素濃度と目標濃度の差分から算出する。
【0054】
詳しくは、拠点bの水素ガス供給点Aの水素供給は、つぎのようにして求める。
需要家Aは、混合ガスから水素ガスを分離して使用し、不要な天然ガスをガスパイプライン1に返送する。これにより、需要家Aの下流に位置するガス系統bでは、水素濃度がガス系統aの上流よりも低下する。水素ガス供給点Aでは、上流側のガス系統(ガス系統a)からのガス量・ガス成分の組成を、ガス系統bの目標濃度と比較し、水素ガスの供給を決める。実際には、ガス系統bの需要家B、Cは天然ガスを使用するガス使用拠点のため、目標濃度よりも上流側のガス系統の混合ガスの水素濃度が高くなり、水素ガス供給点Aからは水素ガスを供給しない。
【0055】
送ラインを別個に有している。ちなみに、需要家Aは、水素を抜き出した後の水素濃度が低下した混合ガスをガスタンクに貯めて、受入れラインを使用していない時に受入れラインから水素ガス濃度が低下した混合ガスをガスパインプライ1に返送するなどもあり得る。他の需要家も、必要に応じて、受け入れラインと返送ラインを別個に有したり、返送用にガスタンクを有したりする。
【0056】
拠点cの水素ガス供給点Bの水素供給は、つぎのようにして求める。
需要家B、需要家Cでは、混合ガスから天然ガスを分離して使用し、不要な水素ガスをパイプラインに返送する。これにより、需要家Cの下流に位置するガス系統cでは、水素濃度がガス系統bの上流よりも上昇する。水素ガス供給点Bでは、ガス系統bの下流からのガス量・組成を、ガス系統cの目標濃度と比較し、目標濃度よりも水素濃度が高い場合には、水素ガス供給点Bからは水素ガスを供給しない。目標濃度よりも水素濃度が低い場合には、差分量の水素を水素ガス供給点Bから供給する。
【0057】
上記では、ガス系統の目標濃度をガス系統のガス使用予測情報21から求めることを説明したが、ガス系統のガス使用予測情報21に加えて、下流側のガス系統の目標濃度を参照するようにしてもよい。これにより、上流側でのガス供給量が増すため、下流側のガス系統におけるガス不足の可能性を低減できる。具体的には、ガス系統bの目標濃度を算出するにあたり、下流側のガス系統cの目標濃度を参照してガス系統bの目標濃度に加算する。
【0058】
なお、目標水素濃度をガス系統ごとに設定せずに、ガス系統の先頭に水素ガス供給点を設けない(水素ガス供給点Bを設けない)構成が考えられる。この場合、設備の共通化により設備の初期費用を低減できるメリットがあるが、水素ガス供給点Aから供給する全ての水素ガスを注入する必要がある。その結果、必要量よりも多くのガスを輸送することとなる。加えて、需要家B、需要家Cでは需要家の要求組成と、得られるガスの組成との差分が大きくなり、需要家要求に応じた天然ガスの抽出に要する動力がより多く必要となる。上記のように、水素ガス供給点Bを設ける(ガス系統の先頭に水素ガス供給点を設ける)とともに水素ガスの返送を考慮して、ガス系統ごとに目標水素濃度を設定することで、水素ガス供給点Aからの水素ガスの供給が不要となり、需要家B、需要家Cの天然ガスの分離のための動力を低減できる。
例えば、熱量利用する場合に、水素ガスが不要なガス使用拠点で混合ガスをそのまま使用している場合に、ガス使用拠点は、混合ガスを水素ガスと天然ガスに分離し、水素ガスをガスパイプライン1に返送しつつ天然ガスと混合ガスにより熱量を得るか、又は、天然ガスをガスパイプライン1に返送しつつ水素ガスと混合ガスにより所要熱量を得る。これにより、需要家要求(熱量)を満たしながら、ガス系統cにおける水素ガスの使用量を低減することができ、水素供給量を低減することができる。又は、需要家要求(熱量)を満たしながら、天然ガスを見かけ供給できる。
また、上流のガス系統bから流入するガスの組成が13vol%の場合には、ガス系統cの水素ガスの目標濃度の範囲内であるため、水素ガス供給点Bから水素ガスを注入する必要はない。ガス系統bから流入する水素ガスの成分の組成が35vol%の場合には、水素ガスの目標濃度の最大値である25vol%とするのに必要な量の天然ガスを、ガス使用拠点(需要家)でガスパイプライン1に返送する。
対象のガス系統cの目標濃度の幅は、上流のガス系統あるいは下流のガス系統に合わせて狭めてもよい。例えば、下流のガス系統における目標濃度が20vol%であった場合、ガス系統cの目標濃度を15-25vol%としてもよい。このように要求組成が幅を持つ需要家が接続されたガス系統自体を上流あるいは下流のガス系統の調整に用いることもできる。
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明で分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。