IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エナジーウィズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-鉛蓄電池 図1
  • 特開-鉛蓄電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171483
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/12 20060101AFI20241205BHJP
   H01M 4/57 20060101ALI20241205BHJP
   H01M 4/56 20060101ALI20241205BHJP
   H01M 50/414 20210101ALN20241205BHJP
【FI】
H01M10/12 K
H01M4/57
H01M4/56
H01M50/414
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088514
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】322013937
【氏名又は名称】エナジーウィズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】原 耕介
(72)【発明者】
【氏名】北川 憲幸
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H021EE02
5H021EE34
5H021HH01
5H021HH04
5H028AA05
5H028EE06
5H028HH00
5H028HH01
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA09
5H050CA06
5H050CB15
5H050DA19
5H050HA01
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合に優れた寿命性能を示す鉛蓄電池を提供すること。
【解決手段】負極活物質13を含む負極9と、正極活物質15を含む正極10と、負極9と正極10との間に配置されたセパレータ11と、を備え、正極活物質15の全細孔容積が0.103ml/g以下であり、セパレータ11がスルホン酸系界面活性剤を含む、鉛蓄電池。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含む負極と、正極活物質を含む正極と、前記負極と前記正極との間に配置されたセパレータと、を備え、
前記正極活物質の全細孔容積が0.103ml/g以下であり、
前記セパレータがスルホン酸系界面活性剤を含む、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記負極活物質の質量に対する前記正極活物質の質量の比が1.05以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記負極活物質の全細孔容積が0.115ml/g以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
無線通信によりデータの送受信を行う車載機器への電力供給に用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
ハイブリッド車又は電気自動車の補機用電池として用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
内燃機関を備えない自動車の駐車中に必要となる電力の供給に用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
内燃機関と、前記内燃機関を始動するための電力を供給する蓄電池と、駐車中に必要となる電力を供給する鉛蓄電池と、を備える自動車の、前記鉛蓄電池に用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン(内燃機関)始動用のバッテリーとして鉛蓄電池が使用されている。これまで、エンジン始動用の鉛蓄電池の寿命性能を向上させるために様々な取り組みが行われている。例えば特許文献1には、負極材にケッチェンブラックを含有させ、負極材の密度を3g/cm以上とすることでエンジン始動用の鉛蓄電池の寿命性能を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-50229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、ハイブリッド車、電気自動車等の電動車(xEV)が普及してきていることに伴って、補機用電池の重要性が高まっている。特に、最近では、OTA(Over The Air)と呼ばれる無線通信によるデータの送受信技術により車載機器のソフトウェアを自動でアップデートする機能を備える自動車も増えてきている。OTAを利用する車載機器へ電力供給時には、一時的に大きな電力が消費されることがあるため、補機用電池には、このような電力供給に適した性能を有していることが求められる。
【0005】
現状では、エンジン始動用の鉛蓄電池が補機用電池として転用されているが、エンジン始動用の鉛蓄電池では、OTAを利用する車載機器への電力供給は想定されていないため、そのような電力供給のために用いられたときに、寿命が短くなるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の一側面は、車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合に優れた寿命性能を示す鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のいくつかの側面は、下記[1]~[7]を提供する。
【0008】
[1] 負極活物質を含む負極と、正極活物質を含む正極と、前記負極と前記正極との間に配置されたセパレータと、を備え、前記正極活物質の全細孔容積が0.103ml/g以下であり、前記セパレータがスルホン酸系界面活性剤を含む、鉛蓄電池。
[2] 前記負極活物質の質量に対する前記正極活物質の質量の比が1.05以上である、[1]に記載の鉛蓄電池。
[3] 前記負極活物質の全細孔容積が0.115ml/g以下である、[1]又は[2]に記載の鉛蓄電池。
[4] 無線通信によりデータの送受信を行う車載機器への電力供給に用いられる、[1]~[3]のいずれかに記載の鉛蓄電池。
[5] ハイブリッド車又は電気自動車の補機用電池として用いられる、[1]~[3]のいずれかに記載の鉛蓄電池。
[6] 内燃機関を備えない自動車の駐車中に必要となる電力の供給に用いられる、[1]~[3]のいずれかに記載の鉛蓄電池。
[7] 内燃機関と、前記内燃機関を始動するための電力を供給する蓄電池と、駐車中に必要となる電力を供給する鉛蓄電池と、を備える自動車の、前記鉛蓄電池に用いられる、[1]~[3]のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合に優れた寿命性能を示す鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。
図2図1に示した鉛蓄電池の電極群を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例(実施例)に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0012】
<鉛蓄電池>
本発明の一実施形態は、負極活物質を含む負極と、正極活物質を含む正極と、前記負極と前記正極との間に配置されたセパレータと、を備え、前記正極活物質の全細孔容積が0.103ml/g以下であり、前記セパレータがスルホン酸系界面活性剤を含む、鉛蓄電池に関する。
【0013】
上記鉛蓄電池は、車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合に優れた寿命性能を示す。この寿命性能は、例えば、25℃の温度環境下で、下記(I)を繰り返し行い、下記条件(3)での放電時の末期電圧が7.2Vとなるまでの総放電量を比較する方法により評価することができる。総放電量が大きいほど寿命性能に優れると評価される。
(I):下記条件(1)での放電と下記条件(2)での充電とをこの順でそれぞれ3回繰り返した後、下記条件(3)での放電と下記条件(4)での充電とをこの順で行う。
条件(1):放電電流=25A、放電時間=240秒間
条件(2):充電電圧=14.8V、充電時間=600秒間
条件(3):放電電流=25A、放電時間=420秒間
条件(4):充電電圧=14.8V、充電時間=1500秒間
【0014】
上記効果が得られる理由は明らかではないが、次のように推察される。
鉛蓄電池を車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いる場合、通常よりも深い放電が行われる。このような深い放電が行われた場合、充電不足傾向な状態となり、正極活物質の泥状化が生じやすくなることで早期寿命に至ると推察される。一方、上記鉛蓄電池は、セパレータが硫酸イオンに類似した分子構造を有するスルホン酸系界面活性剤を含むことから、電解液中の硫酸イオンがセパレータ近傍に存在しやすい状態となっており、電解液中の硫酸イオンが良好に拡散され効率的に充電される(すなわち、充電不足状態が抑制される)と推察される。また、正極活物質の全細孔容積が0.103ml/g以下であることから、活物質内部での反応が生じ難く、活物質の反応性が高くなりすぎることに起因する上記正極活物質の泥状化が起こり難いと推察される。これらの理由により、上記鉛蓄電池は、車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合に優れた寿命性能を示すと推察される。
【0015】
上記鉛蓄電池は、低温(例えば0℃以下)での充電受入性にも優れる傾向がある。このような効果が得られる理由は明らかではないが、上述したように、上記鉛蓄電池では、電極近傍の硫酸イオン濃度が低減されることから、充電反応(硫酸イオンを生成する反応)が進行しやすくなるためと推察される。
【0016】
以下、図面を適宜参照しながら、一実施形態の鉛蓄電池について詳細に説明する。
【0017】
図1は、一実施形態の鉛蓄電池の全体構成及び内部構造を示す斜視図である。図1に示す鉛蓄電池1は液式鉛蓄電池である。図1に示すように、鉛蓄電池1は、上面が開口している電槽2と、電槽2の開口を閉じる蓋3とを備えている。電槽2及び蓋3は、例えばポリプロピレンで形成されている。蓋3には、負極端子4と、正極端子5と、蓋3に設けられた注液口を閉塞する液口栓6とが設けられている。
【0018】
電槽2の内部には、電極群(極板群)7と、希硫酸等の電解液とが収容されている。図示しないが、電槽2は、電極群7を収容するためのセル室を複数有しており、各セル室に1つの電極群7が収容されている。複数の電極群7のうち、最も負極端子4に近いセル室に収容された電極群7が負極柱8を介して負極端子4に接続されている。また、図示しないが、複数の電極群7のうち、最も正極端子5に近いセル室に収容された電極群7が正極柱を介して正極端子5に接続されている。電解液は、硫酸に加えて、0.01~0.1mol/L程度のイオン(例えばナトリウムイオン)を含むことがある。
【0019】
図2は、電極群7を示す斜視図である。図2に示すように、電極群7は、板状の負極(負極板)9と、板状の正極(正極板)10と、負極9と正極10との間に配置されたセパレータ11と、を備えている。電極群7は、正極10よりも多くの負極9を有しており、電極群7における負極9の数は8つであり、正極10の数は7つである。負極9は、負極集電体(負極格子体)12と、負極集電体12に保持された負極活物質13と、を含み、正極10は、正極集電体(正極格子体)14と、正極集電体14に保持された正極活物質15と、を含む。
【0020】
電極群7は、複数の負極9と複数の正極10とが、セパレータ11を介して、電槽2の開口面と略平行方向に交互に積層された構造を有している。すなわち、負極9及び正極10は、それらの主面が電槽2の開口面と垂直方向に広がるように配置されている。
【0021】
電極群7において、複数の負極9における各負極集電体12が有する負極耳部12a同士は、負極ストラップ16で集合溶接されている。同様に、複数の正極10における各正極集電体14が有する正極耳部10a同士は、正極ストラップ17で集合溶接されている。図示しないが、複数の電極群7は、負極ストラップ16又は正極ストラップ17により接続されている。また、最も負極端子4に近いセル室に収容された電極群7の負極ストラップ16が負極柱8に接続され、最も正極端子5に近いセル室に収容された電極群7の正極ストラップ17が正極柱に接続されている。
【0022】
電極群7は、例えば、セル室内で充分に圧縮された状態である。負極9とセパレータ11とは互いに接触していてよく、正極10とセパレータ11とは互いに接触していてよい。
【0023】
セパレータ11は、袋状に形成されており、負極9を収容している。セパレータ11は織布であってよく、不織布又は多孔質膜であってもよい。
【0024】
セパレータ11は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂で形成されていてよい。セパレータ11におけるポリオレフィン樹脂の含有量は、セパレータの全質量を基準として、5~40質量%であってよく、8~35質量%又は10~30質量%であってもよい。
【0025】
セパレータ11は、スルホン酸系界面活性剤を含む。スルホン酸系界面活性剤は、式:-SO 又は-SOHで表される基を有する界面活性剤である。スルホン酸系界面活性剤は、アニオン性界面活性剤であってよく、両性界面活性剤であってもよい。スルホン酸系界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩(例えば、アルキルナフタレンスルホン酸塩)、スルホコハク酸塩、ジアルキルエステルスルホコハク酸塩等が挙げられる。これらの塩は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等であってよい。これらの塩は、電解液中でプロトン化されていてもよい。セパレータ11は、一種のスルホン酸系界面活性剤を単独で含んでいてよく、二種以上のスルホン酸系界面活性剤を含んでいてもよい。
【0026】
セパレータ11にスルホン酸系界面活性剤が含まれること、及び、セパレータ11に含まれるスルホン酸系界面活性剤の種類は、例えば、以下の方法により確認することができる。
まず、セパレータ0.1gを助燃剤(スズ0.3g、タングステン1.5g)と共にるつぼに入れる。そして、下記の条件に基づき、炭素・硫黄測定装置を用いてセパレータ中の硫黄量を測定する。
・装置:炭素・硫黄測定装置EMIA-920V(株式会社堀場製作所)
・雰囲気温度:700℃
・測定雰囲気:酸素
【0027】
セパレータ11におけるスルホン酸系界面活性剤の含有量は、セパレータの全質量を基準として、0.1~10質量%であってよく、0.5~8質量%又は1~6質量%であってもよい。
【0028】
セパレータ11は、スルホン酸系界面活性剤以外の界面活性剤(ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等)を含んでいてもよい。セパレータ11に含まれる界面活性剤はスルホン酸系界面活性剤のみであってもよい。
【0029】
セパレータ11は、SiO、Al等の無機粒子を含んでいてもよい。セパレータ11は、例えば、これらの無機粒子をポリオレフィン樹脂及びスルホン酸系界面活性剤を含む膜(織布、不織布、多孔質膜等)に付着させたものであってもよい。セパレータ11における無機粒子の含有量は、セパレータの全質量を基準として、40~85質量%であってよく、50~80質量%又は60~75質量%であってもよい。
【0030】
セパレータ11は、架橋ゴム、非架橋ゴム、天然ゴム、ラテックス、合成ゴム等のゴムを含んでいてもよい。ゴムは、メチルゴム、ポリブタジエン、1つ以上のクロロプレンゴム、ブチルゴム、ブロモブチルゴム、ポリウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、クロロスルホニルポリエチレン、ポリノルボルネンゴム、アクリル酸ゴム、フッ素系ゴム、シリコンゴム、共重合体ゴム等であってもよい。セパレータ11におけるゴムの含有量は、セパレータの全質量を基準として、例えば、1~20質量%であってよい。
【0031】
セパレータ11の厚さ(シート状に展開して測定される厚さ)は、例えば、0.1~1.5mmであってよい。セパレータはベース部と、該ベース部の少なくとも一方の面(主面)に配置されたリブと、を有していてもよい。この場合、ベース部の厚さが、例えば、0.1~1.5mmであってよい。セパレータ11は袋状以外の形状(例えば、シート状)であってもよい。
【0032】
負極集電体12及び正極集電体14は、それぞれ、鉛合金で形成されている。鉛合金は、鉛に加えて、スズ、カルシウム、アンチモン、セレン、銀、ビスマス等を含有する合金であってよく、具体的には、例えば、鉛、スズ及びカルシウムを含有する合金(Pb-Sn-Ca系合金)であってよい。
【0033】
負極活物質13は、Pb成分として少なくともPbを含み、必要に応じて、Pb以外のPb成分(例えばPbSO)及び添加剤を更に含む。負極活物質13は、好ましくは、多孔質の海綿状鉛(Spongy Lead)を含む。
【0034】
負極活物質13におけるPb成分の含有量は、負極活物質13の全質量を基準として、90質量%以上又は95質量%以上であってよく、99質量%以下又は98質量%以下であってよい。なお、負極活物質13の全質量は、例えば、鉛蓄電池1から負極9(負極集電体12及び負極活物質13)を取り出して水洗し、負極9を充分に乾燥させた後に測定した負極9の質量と、負極集電体12の質量との差から算出することができる。乾燥は、例えば、50℃で24時間行う。
【0035】
添加剤としては、例えば、スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂、硫酸バリウム、炭素材料(炭素繊維を除く)及び繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等)が挙げられる。スルホ基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂は、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩、及び、フェノール類とアミノアリールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(例えば、ビスフェノールとアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。
【0036】
負極活物質13の全細孔容積は、上記寿命性能により優れる観点及び低温での充電受入性により優れる観点では、0.115ml/g以下、0.110ml/g以下又は0.107ml/g以下であってよい。負極活物質13の全細孔容積は、上記寿命性能により優れる観点及び低温での充電受入性により優れる観点では、0.100ml/g以上、0.103ml/g以上又は0.105ml/g以上であってよい。これらの観点から、正極活物質15の全細孔容積は、例えば、0.100~0.115ml/g、0.103~0.110ml/g又は0.105~0.107ml/gであってよい。なお、負極活物質の全細孔容積は、化成後の全細孔容積であり、水銀ポロシメーターの測定結果から得られる値である。負極活物質の全細孔容積は、負極活物質ペーストを作製する際に加える希硫酸量、化成温度等によって調整することができる。例えば、負極活物質ペーストを作製する際に加える希硫酸量が多く、化成温度が高いほど、負極活物質の全細孔容積の値が大きくなる傾向がある。
【0037】
正極活物質15は、Pb成分としてPbOを含み、好ましくはβ-PbOを含む。正極活物質15は、Pb成分として、α-PbOを更に含んでいてもよい。すなわち、正極活物質15は、一実施形態において、Pb成分としてβ-PbOのみを含んでいてよく、他の一実施形態において、Pb成分としてα-PbO及びβ-PbOを含んでいてよい。正極活物質15は、必要に応じて、PbO以外のPb成分(例えばPbSO)及び添加剤を更に含んでいてよい。
【0038】
正極活物質15におけるPb成分の含有量は、正極活物質15の全質量を基準として、90質量%以上又は95質量%以上であってよく、99.9質量%以下又は98質量%以下であってもよい。なお、正極活物質15の全質量は、例えば、鉛蓄電池1から正極10(正極集電体14及び正極活物質15)を取り出して水洗し、正極10を充分に乾燥させた後に測定した正極10の質量と、正極集電体14の質量との差から算出することができる。乾燥は、例えば、50℃で24時間行う。
【0039】
添加剤としては、例えば、炭素材料(炭素繊維を除く)及び繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等)が挙げられる。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。
【0040】
正極活物質15の全細孔容積は、0.103ml/g以下である。正極活物質15の全細孔容積は、上記寿命性能により優れる観点及び低温での充電受入性により優れる観点では、0.098ml/g以下又は0.096ml/g以下であってもよい。正極活物質15の全細孔容積は、上記寿命性能により優れる観点及び低温での充電受入性により優れる観点では、0.090ml/g以上、0.092ml/g以上又は0.094ml/g以上であってよい。これらの観点から、正極活物質15の全細孔容積は、例えば、0.090~0.103ml/g、0.092~0.098ml/g又は0.094~0.096ml/gであってよい。なお、正極活物質の全細孔容積は、化成後の全細孔容積であり、水銀ポロシメーターの測定結果から得られる値である。正極活物質の全細孔容積は、正極活物質ペーストを作製する際に加える希硫酸量、化成温度等によって調整することができる。例えば、正極活物質ペーストを作製する際に加える希硫酸量が多く、化成温度が高いほど、正極活物質の全細孔容積の値が大きくなる傾向がある。
【0041】
負極活物質13の質量(電極群に含まれる全ての負極活物質13の総質量)に対する正極活物質15の質量(電極群に含まれる全ての正極活物質15の総質量)の比(以下、「p/n比」という。)は、上記寿命性能により優れる観点及び低温での充電受入性により優れる観点では、1.05以上、1.10以上又は1.15以上であってよい。p/n比は、上記寿命性能により優れる観点及び低温での充電受入性により優れる観点では、1.85以下、1.75以下又は1.70以下であってよい。これらの観点から、p/n比は、例えば、1.05~1.85、1.10~1.75、又は1.15~1.70であってよい。p/n比は、化成後の負極活物質の質量に対する化成後の正極活物質の質量の比である。p/n比は、極板の使用枚数、活物質の集電体への充填量(例えば極板の厚さ)によって調整することができる。
【0042】
以上説明した鉛蓄電池1は、自動車の補機用電池(例えば、駐車中に必要となる電力の供給に用いられる電池)として好適に用いられる。当該自動車としては、内燃機関を備えない自動車の他、内燃機関と、内燃機関を始動するための電力を供給する蓄電池と、駐車中に必要となる電力を供給する鉛蓄電池とを備える自動車等が挙げられる。このような自動車としては、例えば、ハイブリッド車、電気自動車等の電動自動車が挙げられる。鉛蓄電池1は、電動自動車(特にハイブリッド車及び電気自動車)の補機用電池として特に好適に用いられる。
【0043】
鉛蓄電池1は、上述したように、車載機器がOTAを利用する際の電力を供給するために用いられた場合の寿命の点で優れたものであるため、無線通信によりデータの送受信を行う車載機器への電力供給に好適に用いられる。鉛蓄電池1は、上述したような自動車の駐車中において、例えば、ドアを自動で開閉する機能、カーナビ電源を自動で起動する機能等を動作させるために必要となる電力の供給に用いられてもよい。
【0044】
鉛蓄電池1は、例えば、電極(負極及び正極)を得る電極製造工程と、電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池1を得る組立工程とを備える製造方法により製造される。鉛蓄電池1の製造方法は、未化成の負極及び正極を化成する工程(化成工程)を備える。化成工程は、上記電極製造工程で実施されてよく、組立工程で実施されてもよい。以下、電極製造工程及び組立工程について説明する。
【0045】
電極製造工程は、負極製造工程と、正極製造工程と、を備える。
【0046】
負極製造工程では、例えば、負極集電体にペースト状の負極活物質(負極活物質ペースト)を保持させた後に、熟成及び乾燥することにより未化成の負極を得る。負極活物質ペーストは、例えば、鉛粉、添加剤及び硫酸(例えば希硫酸)を含んでいる。負極活物質ペーストは、例えば、鉛粉と添加剤とを混合することにより混合物を得た後に、この混合物に溶媒及び硫酸を加えて混練することにより得られる。負極活物質ペースト中の水分量は、例えば、5質量%以上、10質量%以上又は15質量%以上であり、30質量%以下、25質量%以下又は20質量%以下である。
【0047】
正極製造工程では、例えば、正極集電体にペースト状の正極活物質(正極活物質ペースト)を保持させた後に、熟成及び乾燥することにより未化成の正極を得る。正極活物質ペーストは、例えば、鉛粉、添加剤及び硫酸(例えば希硫酸)を含んでいる。正極活物質ペーストは、例えば、鉛粉と添加剤とを混合することにより混合物を得た後に、この混合物に溶媒及び硫酸を加えて混練することにより得られる。正極活物質ペースト中の水分量は、例えば、5質量%以上、10質量%以上又は15質量%以上であり、30質量%以下、25質量%以下又は20質量%以下である。
【0048】
組立工程では、例えば、得られた未化成の正極及び負極を、セパレータ11を介して積層し、同極性の電極の集電部をストラップで溶接させて未化成の電極群を得る。この電極群を電槽内の各セルに収容して、隣り合うセル室内の電極群の負極ストラップと正極ストラップとをセル室間を隔てている隔壁を貫通したセル間接続部により接続した後、蓋を電槽の上端に取り付けることで未化成の鉛蓄電池を作製する。次に、未化成の鉛蓄電池に希硫酸を入れて、直流電流を通電して電槽化成する。続いて、化成後の硫酸の比重(20℃)を適切な電解液の比重に調整することで、鉛蓄電池1が得られる。
【0049】
化成に用いる硫酸の比重(20℃)は、1.15~1.25であってよい。化成後の硫酸の比重(20℃)は、好ましくは1.25~1.33、より好ましくは1.26~1.30である。化成条件及び硫酸の比重は、電極のサイズに応じて調整することができる。化成処理は、組立工程において実施されてもよく、電極製造工程において実施されてもよい(タンク化成)。
【0050】
以上、一実施形態の鉛蓄電池及びその製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0051】
例えば、1つの電極群を構成する負極及び正極の数は特に限定されず、負極6つに対して正極5つであってもよく、負極7つに対して正極6つであってもよい。また、正極の数が負極の数と同じであってもよいし、正極の数が負極の数より多くてもよい。例えば、負極5つに対して正極5つであってもよく、負極6つに対して正極6つであってもよく、負極7つに対して正極7つであってもよく、負極8つに対して正極8つであってもよい。
【0052】
また、セパレータ11は、シート状等であってもよい。また、セパレータ11が織布又は多孔質膜である場合、負極と正極との間にはセパレータ11に加えて不織布が設けられていてもよい。不織布は、負極とセパレータとの間に設けられていてよく、正極とセパレータとの間に設けられていてもよい。不織布は、シート状であっても袋状であってもよい。不織布がシート状である場合、不織布は、負極及び/又は正極の表面を覆うように(例えば、負極及び/又は正極に巻きつけられるように)設けられていてよい。不織布が袋状である場合、袋状の不織布内に負極又は正極が収容されてよい。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0054】
<実施例1~5>
以下の手順で実施例1~5の評価用鉛蓄電池を作製した。なお、負極活物質ペーストを調製する際の硫酸投入量及び添加材の配合量は、負極活物質の全細孔容積が0.112ml/gとなるように調整し、正極活物質ペーストを調製する際の硫酸投入量及び添加材(補強用短繊維)の配合量は、正極活物質の全細孔容積が0.095ml/gとなるように調整した。また、負極活物質ペーストの負極集電体への充填量及び正極活物質ペーストの正極集電体への充填量は、評価用鉛蓄電池における負極活物質の質量に対する正極活物質の質量の比(p/n比)が表1に示す値となるように調整した。
【0055】
(未化成の負極板の作製)
Pb成分として鉛粉を用意した。Pb成分(鉛粉)100質量部に対して、ビスパーズP215(ビスフェノールとアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、商品名、日本製紙株式会社製)0.2質量部(樹脂固形分)、アクリル繊維0.1質量部、硫酸バリウム1.0質量部、及びファーネスブラック0.2質量部の混合物を添加し、乾式混合した。次に、この混合物に水を加えて混練した後、比重1.280の希硫酸を少量ずつ添加しながら更に混練して、負極活物質ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式負極集電体に、この負極活物質ペーストを充填した。次いで、負極活物質ペーストを温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した後、温度50℃で16時間乾燥して、未化成の負極板を得た。
【0056】
(未化成の正極板の作製)
Pb成分として鉛粉及び鉛丹(Pb)を用意した(鉛粉:鉛丹=96:4(質量比))。上記Pb成分と、Pb成分の全質量を基準として0.07質量%の補強用短繊維(アクリル繊維)と、水とを混合して混練した。続いて、希硫酸(比重1.280)を少量ずつ添加しながら混練して、正極活物質ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式正極集電体にこの正極活物質ペーストを充填した。次いで、正極活物質ペーストを温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した後、温度60℃で24時間以上乾燥して、未化成の正極板を得た。
【0057】
(評価用鉛蓄電池の組み立て)
スルホン酸系界面活性剤(アニオンタイプ)を含む樹脂セパレータ(ダラミック社製、ベース部の厚さ:0.25mm、スルホン酸系界面活性剤の含有量:0.1~5質量%)を袋状に加工し、袋状セパレータAを作製した。得られた袋状セパレータAに、未化成の負極板1枚を挿入した。次に、未化成の正極板5枚と、袋状セパレータAに収容された未化成の負極板6枚とを交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で、同極性の電極板の耳部同士を溶接して電極群を作製した。この電極群を電槽に挿入して2V単セル電池(JIS D 5301規定のB19サイズに相当)を組み立てた。その後、希硫酸に硫酸ナトリウム水溶液を加えることで調製した電解液(ナトリウムイオン濃度:0.05mol/L)を上記電池の各セルに注入し、40℃の水槽に入れて1時間静置した。その後、17Aにて18時間の定電流で化成を行い、評価用鉛蓄電池を得た。なお、化成後の電解液(硫酸溶液)の比重を1.28(20℃)に調整した。
【0058】
(負極活物質及び正極活物質の全細孔容積の測定)
まず、上記評価用鉛蓄電池を解体して負極板及び正極板を取り出して水洗をした後、50℃で24時間乾燥した。次に、乾燥後の負極板及び乾燥後の正極板の中央部からそれぞれ活物質の塊を3g採取した。この塊を、最大径が5mm程度の小片に砕き、この小片の合計3gを測定セルに入れた。そして、下記の条件に基づき、水銀ポロシメーターを用いて化成後の負極活物質の全細孔容積及び化成後の正極活物質の全細孔容積を測定した。負極活物質の全細孔容積は0.112ml/gであり、正極活物質の全細孔容積は0.095ml/gであった。なお、上記全細孔容積は、電極群に含まれる電極板それぞれについて求めた全細孔容積の平均値である。
・装置:オートポアIV9520(株式会社島津製作所製)
・水銀圧入圧:0~354kPa(低圧)、大気圧~414MPa(高圧)
・各測定圧力での圧力保持時間:900秒(低圧)、1200秒(高圧)
・試料と水銀との接触角:130°
・水銀の表面張力:480~490mN/m
・水銀の密度:13.5335ml/g
【0059】
(p/n比の測定)
まず、上記評価用鉛蓄電池を解体して負極板及び正極板を取り出して水洗をした後、50℃で24時間乾燥した。次に、乾燥後の負極板及び乾燥後の正極板から負極活物質及び正極活物質を除去し、負極集電体及び正極集電体を得た。乾燥後の負極板と負極集電体の質量差、及び、乾燥後の正極板と正極集電体の質量差から、負極活物質の質量及び正極活物質の質量を求め、負極活物質の質量に対する正極活物質の質量の比(p/n比)を算出した。p/n比は表1に示すとおりであった。なお、p/n比は、電極群に含まれる全ての負極活物質の総質量に対する、電極群に含まれる全ての正極活物質の総質量の比である。
【0060】
<実施例6>
負極活物質ペーストを調製する際の、硫酸投入量及び添加材の配合量を変更することにより、全細孔容積が0.106ml/gである負極活物質を備える正極板を作製して用いたことを除き、実施例1と同様にして、評価用鉛蓄電池を組み立てた。
【0061】
<実施例7>
負極活物質ペーストを調製する際の、硫酸投入量及び添加材の配合量を変更することにより、全細孔容積が0.106ml/gである負極活物質を備える負極板を作製して用いたことを除き、実施例5と同様にして、評価用鉛蓄電池を組み立てた。
【0062】
<比較例1>
正極活物質ペーストを調製する際の、硫酸投入量及び添加材の配合量を変更することにより、全細孔容積が0.106ml/gである正極活物質を備える正極板を作製して用いたことを除き、実施例1と同様にして、評価用鉛蓄電池を組み立てた。
【0063】
<比較例2>
スルホン酸系界面活性剤を含まない樹脂セパレータ(ダラミック社製、BW厚さ:0.25mm)を袋状に加工し、袋状セパレータBを作製した。袋状セパレータAに代えて袋状セパレータBを用いたことを除き、実施例1と同様にして、評価用鉛蓄電池を組み立てた。
【0064】
<比較例3>
正極活物質ペーストを調製する際の、硫酸投入量及び添加材の配合量を変更することにより、全細孔容積が0.106ml/gである正極活物質を備える正極板を作製して用いたことを除き、比較例2と同様にして、評価用鉛蓄電池を組み立てた。
【0065】
<寿命性能評価>
各実施例の評価用鉛蓄電池について、25℃の温度環境下で、下記(I)を繰り返し行い、下記条件(3)での放電時の末期電圧が7.2Vとなるまでの総放電量を比較することにより、寿命性能を評価した。評価は、比較例1の評価用鉛蓄電池の上記総放電量を100とする相対評価とした。結果を表1及び表2に示す。
(I):下記条件(1)での放電と下記条件(2)での充電とをこの順でそれぞれ3回繰り返した後、下記条件(3)での放電と下記条件(4)での充電とをこの順で行う。
条件(1):放電電流=25A、放電時間=240秒間
条件(2):充電電圧=14.8V、充電時間=600秒間
条件(3):放電電流=25A、放電時間=420秒間
条件(4):充電電圧=14.8V、充電時間=1500秒間
【0066】
<充電受入性評価>
各実施例の評価用鉛蓄電池の0℃の温度環境下での充電受入性を以下の方法で評価した。
まず、評価用鉛蓄電池を25℃の温度環境下で、20時間率電流の3.42倍の電流で、2.5時間放電した。放電後、0℃の温度環境下で冷却し、電解液温度が0℃±1℃になるまで静置した後、14.4V(制限電流100A)の定電圧で鉛蓄電池を充電し、充電開始後10分目の充電電流を測定することで充電受入性(0℃)を評価した。
評価は、比較例1の評価用鉛蓄電池の寿命性能及び充電受入性(0℃)を100とする相対評価とした。結果を表1及び表2に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【符号の説明】
【0069】
1…鉛蓄電池、9…負極、10…正極、11…セパレータ、13…負極活物質、15…正極活物質。
図1
図2