(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171493
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】内部応力分布評価装置、内部応力分布評価方法及び内部応力分布評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G01L 1/00 20060101AFI20241205BHJP
G01N 3/00 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
G01L1/00 M
G01N3/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088528
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】只野 智史
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061BA20
2G061CA20
2G061CB19
2G061DA11
2G061EA03
(57)【要約】
【課題】評価対象溶接構造物の内部応力を、破壊的手法によらず且つ放射化の問題を生じさせずに簡便に評価できること。
【解決手段】溶接構造物の応力分布情報を保存する応力分布保存部11と、応力分布保存部にて保存された応力分布情報に固有直交分解を行って、空間モード行列及び応力の強度行列を計算する固有直交分解実行部12と、固有直交分解実行部にて算出された空間モード行列を、溶接構造物の構造物情報に基づいて保存する空間モード行列保存部13と、評価対象溶接構造物における表面応力の測定データ行列及びその測定位置行列、並びに空間モード行列保存部に保存された空間モード行列を用いて、評価対象溶接構造物の強度行列を計算する強度行列計算と、強度行列計算部にて求められた強度行列、及び空間モード行列保存部にて保存された空間モード行列を用いて、評価対象溶接構造物の内部応力分布を計算する内部応力計算部15と、を有するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接構造物の応力分布情報を保存する応力分布保存部と、
前記応力分布保存部にて保存された前記応力分布情報に固有直交分解を行って、空間モード行列及び応力の強度行列を算出する固有直交分解実行部と、
前記固有直交分解実行部にて算出された前記空間モード行列を、前記溶接構造物の構造物情報に基づいて保存する空間モード行列保存部と、
評価対象溶接構造物における表面応力の測定データ行列及びその測定位置行列、並びに前記空間モード行列保存部に保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の強度行列を計算する強度行列計算部と、
前記強度行列計算部にて求められた前記強度行列、及び前記空間モード行列保存部に保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の内部応力分布を計算する内部応力計算部と、を有して構成されたことを特徴とする内部応力分布評価装置。
【請求項2】
前記応力分布保存部には、溶接構造物の寸法、開先形状、材料構成、溶接条件を含む構造物情報を用いて熱弾塑性解析により計算された応力分布情報が保存されるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の内部応力分布評価装置。
【請求項3】
前記応力分布保存部には、溶接構造物の寸法、開先形状、材料構成、溶接条件を含む構造物情報を変数として回帰式により整理された応力分布情報が保存されるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の内部応力分布評価装置。
【請求項4】
前記空間モード行列保存部には、溶接構造物の寸法、開先形状、材料構成、溶接条件を含む構造物情報を変数として回帰式により整理された空間モード行列が保存されるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の内部応力分布評価装置。
【請求項5】
応力分布保存部が、溶接構造物の応力分布情報を保存する応力分布保存ステップと、
固有直交分解実行部が、前記応力分布保存ステップにて保存された前記応力分布情報に固有直交分解を行って、空間モード行列及び応力の強度行列を算出する固有直交分解実行ステップと、
空間モード行列保存部が、前記固有直交分解実行ステップにて算出された前記空間モード行列を、前記溶接構造物の構造物情報に基づいて保存する空間モード行列保存ステップと、を順次実施して前記空間モード行列を予め構築し、
その後、強度行列計算部が、評価対象溶接構造物における表面応力の測定データ行列及びその測定位置行列、並びに前記空間モード行列保存ステップにて保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の強度行列を計算する強度行列計算ステップと、
内部応力計算部が、前記強度行列計算ステップにて求められた前記強度行列、及び前記空間モード行列保存ステップにて保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の内部応力分布を計算する内部応力計算ステップと、を順次実施することを特徴とする内部応力分布評価方法。
【請求項6】
前記応力分布保存ステップでは、溶接構造物の寸法、開先形状、材料構成、溶接条件を含む構造物情報を用いて熱弾塑性解析により計算された応力分布情報を保存することを特徴とする請求項5に記載の内部応力分布評価方法。
【請求項7】
前記応力分布保存ステップでは、溶接構造物の寸法、開先形状、材料構成、溶接条件を含む構造物情報を変数として回帰式により整理された応力分布情報を保存することを特徴とする請求項5に記載の内部応力分布評価方法。
【請求項8】
前記空間モード行列保存ステップでは、溶接構造物の寸法、開先形状、材料構成、溶接条件を含む構造物情報を変数として回帰式により整理された空間モード行列を保存することを特徴とする請求項5に記載の内部応力分布評価方法。
【請求項9】
コンピュータに、
溶接構造物の応力分布情報を保存する応力分布保存ステップと、
前記応力分布保存ステップにて保存された前記応力分布情報に固有直交分解を行って、空間モード行列及び応力の強度行列を算出する固有直交分解実行ステップと、
前記固有直交分解実行ステップにて算出された前記空間モード行列を、前記溶接構造物の構造物情報に基づいて保存する空間モード行列保存ステップと、
評価対象溶接構造物における表面応力の測定データ行列及びその測定位置行列、並びに前記空間モード行列保存ステップにて保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の強度行列を計算する強度行列計算ステップと、
前記強度行列計算ステップにて求められた前記強度行列、及び前記空間モード行列保存ステップにて保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の内部応力分布を計算する内部応力計算ステップと、を順次実行させることを特徴とする内部応力分布評価プログラム。
【請求項10】
前記応力分布保存ステップでは、溶接構造物の寸法、開先形状、材料構成、溶接条件を含む構造物情報を用いて熱弾塑性解析により計算された応力分布情報を保存することを特徴とする請求項9に記載の内部応力分布評価プログラム。
【請求項11】
前記応力分布保存ステップでは、溶接構造物の寸法、開先形状、材料構成、溶接条件を含む構造物情報を変数として回帰式により整理された応力分布情報を保存することを特徴とする請求項9に記載の内部応力分布評価プログラム。
【請求項12】
前記空間モード行列保存ステップでは、溶接構造物の寸法、開先形状、材料構成、溶接条件を含む構造物情報を変数として回帰式により整理された空間モード行列を保存することを特徴とする請求項9に記載の内部応力分布評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は内部応力分布評価装置、内部応力分布評価方法及び内部応力分布評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接構造物に発生する溶接残留応力は、疲労き裂や応力腐食割れ、クリープ損傷を引き起こす要因となっている。従って、素材内部の溶接残留応力分布を把握することは、機器の寿命および信頼性評価にとって重要な課題であり続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7096962号公報
【特許文献2】特許第7068567号公報
【特許文献3】特許第7054199号公報
【特許文献4】特開2022-129817号公報
【特許文献5】特開2009-250829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
素材内部の溶接残留応力分布を把握する手法として、実験手法と解析手法がある。実験手法として、中性子回折法は試料の放射化の問題があり、また、例えば特許文献1及び2に記載のDHD(Deep Hole Drilling)法や、例えば特許文献3及び4に記載のコンター法は破壊的手法であり、これらは共に希少サンプルや実機の評価には適していない。
【0005】
また、解析手法として、例えば特許文献5に記載の有限要素法を用いた評価がある。ところが、この評価は、非線形の材料物性(例えば温度依存性を有する応力ひずみ曲線)や製造履歴(例えば溶接速度、溶接入熱量などの溶接条件)などの詳細情報を評価の都度必要とし、いずれかの情報が不足している場合には精度の良い評価が困難になる。
【0006】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、評価対象溶接構造物の内部応力を、破壊的手法によらず且つ放射化の問題を生じさせずに簡便に評価することができる内部応力分布評価装置、内部応力分布評価方法及び内部応力分布評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態における内部応力分布評価装置は、溶接構造物の応力分布情報を保存する応力分布保存部と、前記応力分布保存部にて保存された前記応力分布情報に固有直交分解を行って、空間モード行列及び応力の強度行列を算出する固有直交分解実行部と、前記固有直交分解実行部にて算出された前記空間モード行列を、前記溶接構造物の構造物情報に基づいて保存する空間モード行列保存部と、評価対象溶接構造物における表面応力の測定データ行列及びその測定位置行列、並びに前記空間モード行列保存部に保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の強度行列を計算する強度行列計算部と、前記強度行列計算部にて求められた前記強度行列、及び前記空間モード行列保存部に保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の内部応力分布を計算する内部応力計算部と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の実施形態における内部応力分布評価方法は、応力分布保存部が、溶接構造物の応力分布情報を保存する応力分布保存ステップと、固有直交分解実行部が、前記応力分布保存ステップにて保存された前記応力分布情報に固有直交分解を行って、空間モード行列及び応力の強度行列を算出する固有直交分解実行ステップと、空間モード行列保存部が、前記固有直交分解実行ステップにて算出された前記空間モード行列を、前記溶接構造物の構造物情報に基づいて保存する空間モード行列保存ステップと、を順次実施して前記空間モード行列を予め構築し、その後、強度行列計算部が、評価対象溶接構造物における表面応力の測定データ行列及びその測定位置行列、並びに前記空間モード行列保存ステップにて保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の強度行列を計算する強度行列計算ステップと、内部応力計算部が、前記強度行列計算ステップにて求められた前記強度行列、及び前記空間モード行列保存ステップにて保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の内部応力分布を計算する内部応力計算ステップと、を順次実施することを特徴とするものである。
【0009】
更に、本発明の実施形態における内部応力分布評価プログラムは、コンピュータに、溶接構造物の応力分布情報を保存する応力分布保存ステップと、前記応力分布保存ステップにて保存された前記応力分布情報に固有直交分解を行って、空間モード行列及び応力の強度行列を算出する固有直交分解実行ステップと、前記固有直交分解実行ステップにて算出された前記空間モード行列を、前記溶接構造物の構造物情報に基づいて保存する空間モード行列保存ステップと、評価対象溶接構造物における表面応力の測定データ行列及びその測定位置行列、並びに前記空間モード行列保存ステップにて保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の強度行列を計算する強度行列計算ステップと、前記強度行列計算ステップにて求められた前記強度行列、及び前記空間モード行列保存ステップにて保存された前記空間モード行列を用いて、前記評価対象溶接構造物の内部応力分布を計算する内部応力計算ステップと、を順次実行させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、評価対象溶接構造物の内部応力を、破壊的手法によらず且つ放射化の問題を生じさせずに簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る内部応力分布評価装置の構成を示すブロック図。
【
図4】
図3の溶接構造物において、溶接線の長手方向中央位置で溶接線を直交して切断した断面αでの各応力分布を示す応力分布図。
【
図5】
図3の溶接構造物における断面α(
図4)での空間モードを示す空間モード図。
【
図6】評価対象溶接構造物を示し、(A)がその斜視図、(B)が
図6(A)の断面αにおける表面応力の測定位置を示す断面図。
【
図7】(A)が
図3の溶接構造物における断面αの内部応力分布評価位置(Line)を示す断面図、(B)が
図7(A)のLine1における内部応力分布の評価結果を示すグラフ。
【
図8】(A)が
図7(A)のLine2における内部応力分布の評価結果を示すグラフ、(B)が
図7(A)のLine3における内部応力分布の評価結果を示すグラフ。
【
図9】一実施形態に係る内部応力分布評価方法の工程、及び内部応力分布評価プログラムのアルゴリズムを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
図1は、一実施形態に係る内部応力分布評価装置の構成を示すブロック図であり、
図2は、
図1の各構成要素の機能を説明する説明図である。これらの
図1及び
図2に示すように、内部応力分布評価装置10は、溶接構造物1(
図3)の空間モード行列Uと、評価対象溶接構造物2(
図6)の表面応力の測定データ行列T及びその測定位置行列Hとに基づいて、評価対象溶接構造物2の内部応力分布Wを求めて評価するものであり、応力分布保存部11、固有直交分解実行部12、空間モード行列保存部13、強度行列計算部14及び内部応力計算部15を有して構成される。
【0013】
応力分布保存部11は、溶接構造物1(
図3)の応力分布情報(実験データまたは解析データ)Mを保存している。応力分布情報Mは、各座標の6成分の応力(後述のX方向応力、Y方向応力、Z方向応力、XY方向応力、YZ方向応力、ZX方向応力)を含んでいる。座標は直交座標系、または溶接線を中心とした極座標系もしくは円筒座標系にて表現される。応力分布情報Mは、実験または解析から構築される。解析の場合、応力分布情報Mは解析部16によって、溶接構造物1の寸法、開先形状、材料構成、溶接方法、溶接条件等の構造物情報に基づく有限要素法の熱弾塑性解析を用いて計算される。更に、応力分布情報Mは、溶接構造物1の寸法、開先形状、材料、溶接方法、溶接条件等の構造物情報を変数として回帰式により整理されている。
【0014】
図3の溶接構造物1の各条件(構造物情報)は、例えば以下の通りである。寸法は、X方向寸法が100mm、Y方向寸法が20mm、Z方向寸法が100mmであり、材料はSUS304である。溶接方法はビードオンのTIG溶接であり、溶接条件としての入熱量は1000J/mm、溶接速度は5mm/secである。
【0015】
応力分布保存部11に保存された
図4に示す応力分布は、
図3の溶接構造物1において、溶接線17の長手方向中央位置で溶接線17を直交して切断した断面αにおける応力分布である。応力分布保存部11には、
図3に示す溶接構造物1の全節点の応力が保存されているが、
図4には代表例として、溶接構造物1の断面αの応力分布が示されている。この
図4に示す応力分布は、6成分の応力分布(X方法応力、Y方向応力、Z方向応力、XY方向応力、YZ方向応力、ZX方向応力)であり、このうち特に、X方向応力とZ方向応力の応力値が大きい。Z方向応力は、最大300MPaを超える引張応力の発生を示している。
【0016】
固有直交分解実行部12は、応力分布保存部11から得られた応力分布情報Mに対して固有直交分解を行い、
図2に示す空間モード行列U及び応力の強度行列Sを算出する。ここで、空間モードは空間の周期性を表し、応力分布によって変化する変動成分が表れている。また、rは空間モードのモード数である。応力分布の発生が溶接線17の近傍に限定される場合には、固有直交分解実行部12は、溶接線17近傍の応力分布情報Mを応力分布保存部11から抽出して、その溶接線17近傍領域の応力分布情報Mに限定した固有直交分解を行う。
【0017】
図3の溶接構造物1に対して、固有直交分解にて算出された断面αの空間モードを
図5に示す。
図4の6成分の応力が
図5の3つの空間モードに低次元化された空間モード行列Uが、空間モード行列保存部13に保存されて予め構築されることになる。
【0018】
空間モード行列保存部13は、固有直交分解実行部12にて求められた空間モード行列Uを、構造物情報に基づいて保存している。構造物情報は、溶接構造物1の寸法、開先形状、母材および溶接金属部の材料(材料構成)、溶接方法、溶接条件を基本とするが、これらの情報に限定されるものではない。空間モード行列保存部13には、構造物情報を変数とした回帰式により空間モード行列Uが整理して保存される。また、空間モードのモード数rが多い場合には、有効な空間モードのみを抽出することでデータを低次元化することが可能である。
【0019】
強度行列計算部14は、評価対象溶接構造物2の表面応力の測定データ行列T及び測定位置行列H、並びに空間モード行列保存部13に保存された空間モード行列Uを用いて、評価対象溶接構造物2の強度行列Vを計算する。強度行列Vの未知数が測定データ行列Tのデータ数よりも少ない場合には、実験計画法にて強度行列Vを算出する。強度行列Vの未知数が測定データ行列Tのデータ数よりも多い場合には、劣決定系の線形逆問題として、貪欲法や半正定値計画問題、凸緩和法、近接勾配法により強度行列Vを算出する。
【0020】
評価対象溶接構造物2における表面応力の測定位置を
図6に示す。
図6(B)の評価対象溶接構造物2の断面は、
図6(A)の評価対象溶接構造物2における溶接線17に直交する断面のうち、溶接線17の長手方向中央位置で溶接線17を直交して切断した断面αを示す。表面応力の測定位置(測定点)18は、評価対象溶接構造物2の断面αにおける表面側と裏面側に設定される。溶接線17付近では、溶接により溶融が発生したり、入熱量が所定値を超えたりすることで応力変動が大きくなるため、測定位置18の間隔は狭く設定される。また、評価対象溶接構造物2における溶接線17から遠い端部では、溶接により溶融が発生しなかったり、入熱量が所定値以下になったりして応力変動が小さいため、測定位置18の間隔は、溶接線17付近の場合よりも広く設定される。
【0021】
内部応力計算部15は、空間モード行列保存部13にて保存された空間モード行列Uと、強度行列計算部14にて求められた強度行列Vとを用いて、評価対象溶接構造物2の内部応力分布Wを計算する。つまり、内部応力計算部15は、空間モード行列保存部13に保存された空間モード行列Uと、強度行列計算部14にて計算された強度行列Vとを乗ずることで、評価対象溶接構造物2の内部応力分布Wを計算する。
【0022】
ここで、内部応力分布評価装置10による内部応力分布の評価を検証するために、
図3の溶接構造物1を用いて、その断面αにおいて実施した内部応力計算部15による内部応力分布の評価結果を、
図7及び
図8に示す。この評価結果は、
図7(A)に示す溶接構造物1の断面αにおいて、Line1、2、3に沿って深さ方向に各応力(X方向応力、Y方向応力、Z方向応力)をプロットしたものであり、Line3が溶接線17に最も近く、Line1が溶接線17から最も遠い位置にある。そして、
図7(B)がLine1における、
図8(A)がLine2における、
図8(B)がLine3におけるそれぞれ内部応力分布の評価結果を示している。内部応力計算部15にて求められた応力値(破線表示)は、応力分布保存部11に保存された応力値(実線表示)と精度よく一致していることが検証された。
【0023】
上述のように構成された内部応力分布評価装置10を用いて実施した内部応力分布評価方法の工程、及び内部応力分布評価プログラムのアルゴリズムを、
図9のフローチャートを参照して説明する。
【0024】
まず、応力分布保存部11が溶接構造物1の応力分布情報Mを保存するステップを実施する(S1)。このステップでは、実験データまたは解析データが応力分布情報Mとして保存される。解析データは、解析部16によって、溶接構造物1の構造物情報を用いて熱弾塑性解析により計算されたものである。
【0025】
次に、固有直交分解実行部12が、応力分布保存部11に保存された応力分布情報Mに固有直交分解を行って、空間モード行列U及び応力の強度行列Sを計算するステップを実施する(S2)。次に、空間モード行列保存部13が、固有直交分解実行部12にて計算された空間モード行列Uを、溶接構造物1の構造物情報に基づいて保存するステップを実施する(S3)。このようにして、溶接構造物1についての空間モード行列Uが予め構築される。
【0026】
その後、強度行列計算部14が、評価対象溶接構造物2における表面応力の測定データ行列T及びその測定位置行列H、並びに空間モード行列保存部13に保存された空間モード行列Uを用いて、評価対象溶接構造物2の強度行列Vを計算するステップを実施する(S4)。次に、内部応力計算部15が、強度行列計算部14により求められた強度行列Vと空間モード行列保存部13に保存された空間モード行列Uとを用いて、評価対象溶接構造物2の内部応力分布Wを計算するステップを実施する(S5)。
【0027】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば次の効果を奏する。
応力分布保存部11、固有直交分解実行部12及び空間モード行列保存部13により、溶接構造物1の構造物情報に基づく解析データまたは実験データから応力分布情報Mを経て、空間モード行列Uが算出されて予め構築される。その後、強度行列計算部14及び内部応力計算部15により、評価対象溶接構造物2において非破壊で得られる表面応力の測定データ行列T及びその測定位置行列H、並びに空間モード行列Uに基づき、評価対象溶接構造物2の強度行列Vを経て、評価対象溶接構造物2の内部応力分布Wが計算される。この結果、評価対象溶接構造物2の内部応力を、破壊的手法によらず且つ放射化の問題を生じさせずに簡便に評価することができる。
【0028】
以上説明した内部応力分布評価装置10は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このため、内部応力分布評価装置10の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、内部応力分布評価プログラムにより動作させることが可能である
【0029】
また、内部応力分布評価プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0030】
また、本実施形態に係る内部応力分布評価プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、内部応力分布評価装置10は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0031】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができ、また、それらの置き換えや変更、組み合わせは、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1…溶接構造物、2…評価対象溶接構造物、10…内部応力分布評価装置、11…応力分布保存部、12…固有直交分解実行部、13…空間モード行列保存部、14…強度行列計算部、15…内部応力計算部、17…溶接線、M…応力分布情報、U…空間モード行列、S…応力の強度行列、T…測定データ行列、H…測定位置行列、V…強度行列、W…内部応力分布