(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171508
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】炭素材料前駆体組成物、炭素材料前駆体組成物液、耐炎化物の製造方法、炭素材料の製造方法及び炭素材料前駆体組成物の成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/26 20060101AFI20241205BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20241205BHJP
D01F 9/21 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C08L33/26
C08L101/14
D01F9/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088551
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松下 光正
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔太
【テーマコード(参考)】
4J002
4L037
【Fターム(参考)】
4J002BE02X
4J002BG13W
4L037CS02
4L037CS03
4L037FA01
4L037PA45
4L037PA53
4L037PC05
4L037PS02
(57)【要約】
【課題】耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性に優れるとともに、炭化処理後の炭化収率に優れる炭素材料前駆体組成物を提供する。
【解決手段】本開示の炭素材料前駆体組成物は、アクリルアミド系ポリマー(A)と、アクリルアミド系ポリマー以外の水溶性ポリマー(B)と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミド系ポリマー(A)と、
アクリルアミド系ポリマー以外の水溶性ポリマー(B)と、
を含む、炭素材料前駆体組成物。
【請求項2】
前記アクリルアミド系ポリマー(A)及び前記水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、前記アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が1質量部~99.5質量部であり、前記水溶性ポリマー(B)の含有量が0.5質量部~99質量部である、請求項1に記載の炭素材料前駆体組成物。
【請求項3】
前記水溶性ポリマー(B)が、ビニルアルコール系ポリマー(B1)を含む、請求項1に記載の炭素材料前駆体組成物。
【請求項4】
前記アクリルアミド系ポリマー(A)及び前記水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、前記アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が1質量部~99.5質量部であり、前記ビニルアルコール系ポリマー(B1)の含有量が0.5質量部~99質量部である、請求項3に記載の炭素材料前駆体組成物。
【請求項5】
酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種からなる添加成分(C)を更に含み、
前記アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、前記添加成分(C)の含有量が、0.1質量部~80質量部である、請求項1に記載の炭素材料前駆体組成物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の炭素材料前駆体組成物と、
水性溶媒及び水系混合溶媒の少なくとも一方と、
を含む、炭素材料前駆体組成物液。
【請求項7】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の炭素材料前駆体組成物に耐炎化処理を施す工程を含む、耐炎化物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の耐炎化物の製造方法により耐炎化物を得る工程と、
前記耐炎化物に炭化処理を施す工程と、
を含む、炭素材料の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の炭素材料前駆体組成物液を用いる、炭素材料前駆体組成物の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素材料前駆体組成物、炭素材料前駆体組成物液、耐炎化物の製造方法、炭素材料の製造方法及び炭素材料前駆体組成物の成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、軽量で力学特性に優れる。そのため、炭素繊維複合材料は、様々な用途(例えば、航空宇宙用途、自動車用途、建材用途など)への展開が進められている。
【0003】
炭素繊維の製造方法としては、ポリアクリロニトリルを紡糸して得られる繊維束を前駆体として耐炎化処理を施した後、炭化処理を施す方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
ポリアクリロニトリルの紡糸により得られた繊維から作製されたポリアクリロニトリル系炭素繊維は、高い力学特性を有するため、最も広範に使用されている。ポリアクリロニトリル系炭素繊維は、有機溶剤(例えば、ジメチルスルホキシドやジメチルホルムアミドなど)を用いた湿式紡糸や乾湿式紡糸によって製造される。そのため、有機溶剤のリサイクルにエネルギーが必要となり、製造コストが高くなるおそれがある。加えて、ポリアクリロニトリル系炭素繊維の耐炎化処理及び炭化処理において、有毒ガス(シアン化水素など)が発生するおそれがある。
【0004】
炭素材料(炭素繊維等)の前駆体としてアクリルアミド系モノマーを含有するアクリルアミド系ポリマーは、水溶性のポリマーであり、重合、紡糸等を行う際に、安価であり、且つ環境負荷の小さい水を溶媒として使用することができる。そのため、炭素材料の製造コストの削減が期待される(例えば、特許文献3及び特許文献4)。
【0005】
一方、水溶性ポリマーとしてポリビニルアルコール(PVA)も炭素材料の前駆体となることが開示されている(例えば、特許文献5、特許文献6及び特許文献7)。PVAは重合や紡糸の際に、安価で環境負荷の小さい水を溶媒として使用することができる。そのため、炭素材料の製造コストの削減が期待される。
【0006】
PVAをヨウ素蒸気中で熱処理することで炭素材料を製造する技術が報告されている(特許文献5及び特許文献6)。
【0007】
ポリビニルアルコールに、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を添加することで、高価な添加剤や長時間の熱処理を必要とすることなく、炭化収率を向上できることが開示されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-183159号公報
【特許文献2】特開2008-202208号公報
【特許文献3】特開2019-26827号公報
【特許文献4】特開2019-167516号公報
【特許文献5】特開2003-128407号公報
【特許文献6】特開2004-339627号公報
【特許文献7】特開2019-99591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3及び特許文献4に開示のようなアクリルアミド系ポリマーを含む炭素材料前駆体は、熱処理(耐炎化)時の軟化によってフィルムや繊維の形状の維持が困難となるおそれがある。
【0010】
一方、PVAは、窒素雰囲気下で500℃以上に加熱すると質量が大きく減少し、炭化収率が低いおそれがある。そのため、PVAから高い収率で炭素材料を得るには、炭素化に先立ってPVAの耐熱性を高めるための熱安定化処理が必要であった。
【0011】
更に、特許文献5及び特許文献6に開示の技術では、高い炭素収率を得るためには、ヨウ素を用いた熱処理に極めて長い時間(例えば50時間~120時間)を要し、かつPVAより高価なヨウ素を多量(PVAの数倍以上)に使用する必要がある。そのため、製造コストの増加に繋がるおそれがある。更に、本技術では、加熱時に強い刺激臭を持つ強酸であるヨウ化水素も多量に生成する。そのため、より環境低負荷な製造方法が求められていた。
【0012】
耐炎化処理(例えば、200℃~350℃の範囲)において軟化が抑制され、熱処理(耐炎化処理時)の炭素材料前駆体組成物の形状が維持されること(すなわち、耐炎化処理時の形状維持性に優れること)と、耐炎化処理において炭素材料前駆体組成物の成形体が融着しにくいこと(すなわち、耐炎化処理時の融着防止性に優れること)と、炭化処理後の炭化収率が高いことと、を有する炭素材料前駆体組成物が求められている。
【0013】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性に優れるとともに、炭化処理後の炭化収率に優れる炭素材料前駆体組成物、炭素材料前駆体組成物液、耐炎化物の製造方法、炭素材料の製造方法及び炭素材料前駆体組成物の成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
課題を達成するための具体的手段は、以下の通りである。
<1> アクリルアミド系ポリマー(A)と、
アクリルアミド系ポリマー以外の水溶性ポリマー(B)と、
を含む、炭素材料前駆体組成物。
<2> 前記アクリルアミド系ポリマー(A)及び前記水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、前記アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が1質量部~99.5質量部であり、前記水溶性ポリマー(B)の含有量が0.5質量部~99質量部である、前記<1>に記載の炭素材料前駆体組成物。
<3> 前記水溶性ポリマー(B)が、ビニルアルコール系ポリマー(B1)を含む、前記<1>に記載の炭素材料前駆体組成物。
<4> 前記アクリルアミド系ポリマー(A)及び前記水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、前記アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が1質量部~99.5質量部であり、前記ビニルアルコール系ポリマー(B1)の含有量が0.5質量部~99質量部である、前記<3>に記載の炭素材料前駆体組成物。
<5> 酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種からなる添加成分(C)を更に含み、
前記アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、前記添加成分(C)の含有量が、0.1質量部~80質量部である、前記<1>に記載の炭素材料前駆体組成物。
<6> 前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の炭素材料前駆体組成物と、
水性溶媒及び水系混合溶媒の少なくとも一方と、
を含む、炭素材料前駆体組成物液。
<7> 前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の炭素材料前駆体組成物に耐炎化処理を施す工程を含む、耐炎化物の製造方法。
<8> 前記<7>に記載の耐炎化物の製造方法により耐炎化物を得る工程と、
前記耐炎化物に炭化処理を施す工程と、
を含む、炭素材料の製造方法。
<9> 前記<6>に記載の炭素材料前駆体組成物液を用いる、炭素材料前駆体組成物の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性に優れるとともに、炭化処理後の炭化収率に優れる炭素材料前駆体組成物、炭素材料前駆体組成物液、耐炎化物の製造方法、炭素材料の製造方法及び炭素材料前駆体組成物の成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、合成例に示されている値に置き換えてもよい。
【0017】
本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
【0018】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。炭素材料前駆体中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、炭素材料前駆体中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0019】
(1)炭素材料前駆体組成物
本開示の炭素材料前駆体組成物は、アクリルアミド系ポリマー(A)と、アクリルアミド系ポリマー以外の水溶性ポリマー(B)と、を含む。
【0020】
「炭素材料前駆体組成物」とは、耐炎化処理及び炭化処理のいずれも施されていない状態の炭素材料製造用の組成物を示す。
「アクリルアミド系ポリマー」とは、アクリルアミド系モノマーの単独重合体又はアクリルアミド系モノマーとアクリルアミド系モノマー以外のモノマーとの共重合体を意味する。
「水溶性ポリマー」とは、水に溶解又は分散するポリマーを意味する。
【0021】
炭素材料前駆体組成物は、上記構成を有するので、耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性に優れるとともに、炭化処理後の炭化収率に優れる。
【0022】
炭素材料前駆体組成物が耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性に優れる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
200℃~300℃の範囲でアクリルアミド系ポリマー(A)の軟化による融着に対して、300℃までほとんど軟化が生じないビニルアルコール系ポリマー(B)がアクリルアミド系ポリマー(A)と分子間相互作用を有して疑似架橋することで、200℃~300℃の範囲でのアクリルアミド系ポリマー(A)の軟化が抑制されると推定する。一方、300℃を超えて350℃までに生じるビニルアルコール系ポリマー(B)の軟化による融着をアクリルアミド系ポリマー(A)の分子内環化反応による環形成での分子鎖の剛直化と、それぞれのポリマーの分子内環化反応と分子間架橋反応とが進行することで硬度が増加することで抑制できる。更に、アクリルアミド系ポリマー(A)とビニルアルコール系ポリマー(B)との分子間の水素結合等による分子間相互作用により、それぞれを単独で使用する場合と比較して、それぞれのポリマーの分子内環化反応と分子間架橋反応が進行しやすくなり、炭素材料の骨格となる六員環が連続した構造を形成しやすくなることから高い炭化収率にも繋がる。
【0023】
炭素材料前駆体組成物が炭化処理後の炭化収率に優れる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、炭素材料前駆体組成物では、アクリルアミド系ポリマーのアミド基とビニルアルコール系ポリマーのヒドロキシ基とが相互作用を有しており、疑似的な架橋状態にある。そのため、耐熱性が向上し、耐炎化処理や炭化処理といった熱処理時に軟化が抑制されると推定する。また、アクリルアミド系ポリマーのアミド基とビニルアルコール系ポリマーのヒドロキシ基とが相互作用を有して互いの分子鎖が配列した結果、耐炎化処理、炭化処理時において、分子内の環化反応と分子間の架橋反応が進行しやすくなり、高い炭化収率を有すると推察する。
【0024】
アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が1質量部~99.5質量部であり、水溶性ポリマー(B)の含有量が0.5質量部~99質量部であることが好ましい。これにより、耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性に優れるとともに、炭化処理後の炭化収率に優れる。
アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が2質量%~99質量%であり、水溶性ポリマー(B)の含有量が1質量%~98質量%であってもよい。アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が3質量%~97質量%であり、水溶性ポリマー(B)の含有量が3質量%~97質量%であってもよい。アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が5質量%~95質量%であり、水溶性ポリマー(B)の含有量が5質量%~95質量%であってもよい。アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が10質量%~85質量%であり、水溶性ポリマー(B)の含有量が15質量%~90質量%であってもよい。アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が25質量%~75質量%であり、水溶性ポリマー(B)の含有量が25質量%~75質量%であってもよい。融着防止性と炭化収率を高度に両立する観点からアクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が15質量%~90質量%であり、水溶性ポリマー(B)の含有量が10質量%~85質量%がより好ましい。アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が15質量%~70質量%であり、水溶性ポリマー(B)の含有量が30質量%~85質量%であることで、炭素材料前駆体組成物の融着防止性はより向上する。
【0025】
(1.1)アクリルアミド系ポリマー(A)
アクリルアミド系ポリマー(A)は、アクリルアミド系モノマーの単独重合体であってもよく、アクリルアミド系モノマーとアクリルアミド系モノマー以外のモノマー(以下、「他の重合性モノマー」ともいう。)との共重合体であってもよい。融着防止性、炭化収率、形状維持性及び耐炎化物の引張強度等の観点からは、アクリルアミド系ポリマー(A)は、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0026】
アクリルアミド系ポリマー(A)は、後述する水性溶媒及び後述する水系混合溶媒のうちの少なくとも一方に可溶であることが好ましい。これにより、炭素材料前駆体組成物を成形する際には、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた乾式成形(乾式紡糸)、乾湿式成形(乾湿式紡糸)、湿式成形(湿式紡糸)、又はエレクトロスピニングが可能となり、低コストで安全に炭素材料を製造することが可能となる。前記水系混合溶媒中の有機溶媒の含有量は、前記水性溶媒に不溶又は難溶なアクリルアミド系ポリマー(A)が有機溶媒を混合することによって溶解する量であれば、特に制限されるものではない。
【0027】
アクリルアミド系ポリマー(A)の中でも、より低コストで安全に炭素材料前駆体組成物や炭素材料を製造することが可能となるという観点から、前記水性溶媒に可溶なアクリルアミド系ポリマー(A)が好ましく、水に可溶な(水溶性の)アクリルアミド系ポリマー(A)がより好ましい。
【0028】
アクリルアミド系ポリマー(A)の重量平均分子量は、特に限定されるものではなく、通常、1000万以下であるが、炭素材料前駆体組成物の製造加工性の観点から、好ましくは500万以下、より好ましくは200万以下、さらに好ましくは100万以下、特に好ましくは50万以下、一層好ましくは20万以下、最も好ましくは15万以下である。アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、通常1万以上であるが、炭素材料前駆体組成物及び炭素材料の強度の観点から、好ましくは2万以上、より好ましくは3万以上、特に好ましくは4万以上である。アクリルアミド系ポリマー(A)の重量平均分子量の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0029】
(1.1.1)アクリルアミド系モノマー
アクリルアミド系モノマーとしては、アクリルアミド;エタクリルアミド;クロトンアミド;イタコン酸ジアミド;ケイ皮酸アミド;マレイン酸ジアミド;N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド等のN-アルキルアクリルアミド;N-シクロヘキシルアクリルアミド等のN-シクロアルキルアクリルアミド;N,N’-ジメチルアクリルアミド等のジアルキルアクリルアミド;ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルアクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド等のヒドロキシアルキルアクリルアミド;N-フェニルアクリルアミド等のN-アリールアクリルアミド;ジアセトンアクリルアミド;N,N’-メチレンビスアクリルアミド等のN,N’-アルキレンビスアクリルアミド;メタクリルアミド;N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド等のN-アルキルメタクリルアミド;N-シクロヘキシルメタクリルアミド等のN-シクロアルキルメタクリルアミド;N,N’-ジメチルメタクリルアミド等のジアルキルメタクリルアミド;ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等のヒドロキシアルキルメタクリルアミド;N-フェニルメタクリルアミド等のN-アリールメタクリルアミド、ジアセトンメタクリノレアミド;N,N’-メチレンビスメタクリルアミード等のN,N’-アルキレンビスメタクリルアミドなどが挙げられる。
アクリルアミド系ポリマーの水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性の観点から、上記したアクリルアミド系モノマーの中でも、アクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド又はジアルキルメタクリルアミドが好ましく、アクリルアミドがより好ましい。
アクリルアミド系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0030】
(1.1.2)共重体
アクリルアミド系ポリマー(A)が前記共重合体である場合、前記アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体におけるアクリルアミド系モノマー単位の含有量は、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。アクリルアミド系モノマー単位の含有量は、炭素材料前駆体の耐炎化収率や炭化収率、耐炎化・炭化の総収率が向上するという観点から、好ましくは99.9モル%以下、より好ましくは99モル%以下、さらに好ましくは95モル%以下、特に好ましくは90モル%以下、一層好ましくは85モル%以下である。
【0031】
アクリルアミド系ポリマー(A)が前記共重合体である場合、前記アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体における他の重合性モノマー単位の含有量は、炭素材料前駆体の耐炎化収率や炭化収率、耐炎化・炭化の総収率が向上するという観点から、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上、特に好ましくは10モル%以上、一層好ましくは15モル%以上である。他の重合性モノマー単位の含有量は、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性の観点から、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下である。
【0032】
他の重合性モノマーとしては、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸エステル、ビニルアルコール系モノマー、カルボン酸ビニル系モノマー、オレフィン系モノマー等が挙げられる。
【0033】
シアン化ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルアクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、クロロメチルアクリロニトリル、エトキシアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の塩としては、不飽和カルボン酸の金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。不飽和カルボン酸無水物としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物等が挙げられる。不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー、塩化ビニル、ビニルアルコールなどが挙げられる。
オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブタジエン等が挙げられる。
【0034】
上記した他の重合性モノマーの中でも、アクリルアミド系ポリマー(A)の融着防止性、炭化収率及び形状維持性の観点からは、他の重合性モノマーは、シアン化ビニル系モノマーであることが好ましく、アクリロニトリルであることがより好ましい。上記した他の重合性モノマーの中でも、架橋前の上記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性の観点からは、他の重合性モノマーは、不飽和カルボン酸及びその塩であることが好ましく、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸又はイタコン酸であることがより好ましい。上記した他の重合性モノマーの中でも、融着防止性、炭化収率及び形状維持性の観点からは、他の重合性モノマーは、不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸無水物であることが好ましく、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸又はマレイン酸無水物であることがより好ましい。
【0035】
上記した他の重合性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性、融着防止性、炭化収率及び形状維持性の観点から、アクリルアミド系ポリマー(A)は、アクリルアミド系モノマー単位と、シアン化ビニル系モノマー単位とを含む共重合体であることが好ましく、アクリルアミド単位と、アクリロニトリル単位とを含む共重合体であることが特に好ましい。
融着防止性、炭化収率及び形状維持性の観点から、上記共重合体におけるシアン化ビニル系モノマー単位の含有率は、好ましくは0.1~50モル%、より好ましくは1モル%~45モル%、さらに好ましくは5モル%~40モル%、特に好ましくは10モル%~40モル%、より一層好ましくは20モル%~40モル%である。
【0037】
上記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性、融着防止性、炭化収率及び形状維持性の観点から、アクリルアミド系ポリマー(A)は、アクリルアミド系モノマーと、シアン化ビニル系モノマーと、不飽和カルボン酸との共重合体であることが好ましく、アクリルアミドと、アクリロニトリルと、アクリル酸との共重合体であることがより好ましい。
融着防止性、炭化収率及び形状維持性の観点から、上記共重合体におけるシアン化ビニル系モノマー単位の含有率は、全モノマー単位100モル%に対して、好ましくは0.1モル%~50モル%、より好ましくは1モル%~45モル%、さらに好ましくは5モル%~40モル%、特に好ましくは10モル%~40モル%、より一層好ましくは20モル%~40モル%である。
上記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する溶解性、融着防止性、炭化収率及び形状維持性の観点から、上記共重合体における不飽和カルボン酸モノマー単位の含有率は、全モノマー単位100モル%に対して、好ましくは0.1モル%~50モル%、より好ましくは0.1モル%~30モル%、特に好ましくは1モル%~20モル%、より一層好ましくは2モル%~10モル%である。
【0038】
アクリルアミド系ポリマー(A)は、赤外吸収スペクトルにおいて、約1644cm-1~1653cm-1の範囲に赤外吸収ピークが観察されることが好ましい。
上記赤外吸収ピークは、アクリルアミド系モノマー単位中のカルボニル基の伸縮運動に由来する吸収ピークである。
なお、赤外吸収スペクトルは、赤外分光法を用いて測定する。
具体的には、測定範囲を400cm-1~4000cm-1、分解能を193m-1、積算回数を32回とするATR(Attenuated Total Reflection)法により赤外吸収スペクトルを測定する。
測定装置としては、例えば、Thermo Scientific社製のフーリエ変換赤外分光装置「Nicolet iS20」又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0039】
(1.1.3)アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量
炭素材料前駆体組成物の総量に対するアクリルアミド系ポリマー(A)の含有量は、特に限定されず、耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性の向上、および炭化収率の向上の観点から、好ましくは2質量部~99質量部、より好ましくは5質量部~95質量部、さらに好ましくは15質量部~85質量部である。
【0040】
(1.2)水溶性ポリマー(B)
水溶性ポリマー(B)としては、水性溶媒及び水系混合溶媒のうちの少なくとも一方に可溶なものであることが好ましい。これにより、炭素材料前駆体組成物を製造する際に、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた湿式混合が可能となり、アクリルアミド系ポリマー(A)とビニルアルコール系ポリマー(B)とを均一かつ低コストで安全に混合することが可能となる。また、得られた炭素材料前駆体組成物を成形する際には、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた成形加工が可能となり、低コストで安全に炭素材料を製造することが可能となる。
【0041】
水溶性ポリマー(B)として、ビニルアルコール系ポリマー(B1)、アルキレンオキサイド系ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール等)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、アルキル水溶性ポリマー(例えば、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体の無水マレイン酸の少なくとも一部をアンモニア変性またはイミド化した共重合体等)、水溶性フェノール樹脂、カルボキシビニルポリマー、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース等)等が挙げられる。水溶性ポリマー(B)は、1種類を単独で使用されても、2種類以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0042】
「ビニルアルコール系ポリマー」とは、ビニルモノマー及び/又はその塩(ナトリウム塩等)に由来するモノマー単位(以下、単に「ビニルアルコール単位」ともいう)を少なくとも含有するポリマーを示す。
【0043】
中でも、水溶性ポリマー(B)は、ビニルアルコール系ポリマー(B1)を含むことが好ましく、ビニルアルコール系ポリマー(B1)であることがより好ましい。水溶性ポリマー(B)がビニルアルコール系ポリマー(B1)を含むことで、ビニルアルコール系ポリマーのヒドロキシ基とアクリルアミド系ポリマーのアミド基等の相互作用により、耐炎化処理時に約200℃以上で生じるアクリルアミド系ポリマーの軟化が抑制され、融着防止と形状維持に繋がる。
【0044】
(1.2.1)ビニルアルコール系ポリマー(B1)
ビニルアルコール系ポリマー(B1)としては、例えば、ビニルアルコール及び/又はその塩の単独重合体(ポリビニルアルコール)、ビニルアルコール及び/又はその塩と他のモノマーとの共重合体(ビニルアルコール単位と他のモノマー単位とを含むポリマー)等が挙げられる。ビニルアルコール系ポリマー(B1)は、1種類を単独で使用されても、2種類以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0045】
中でも、ビニルアルコール系ポリマー(B1)が前記水性溶媒及び前記水系混合溶媒のうちの少なくとも一方(好ましくは前記水性溶媒、より好ましくは水)に溶解しやすくなるという観点から、ビニルアルコール系ポリマー(B1)に含まれる全構成単位中のビニルアルコール単位の割合は、好ましくは50mol%以上、より好ましくは60mol%以上、更に好ましくは70mol%以上、特に好ましくは80mol%以上、特に好ましくは90mol%以上、最も好ましくは95mol%以上である。
【0046】
前記共重合体の前記他のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のカルボン酸ビニル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド等のアクリルアミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルアクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、クロロメタクリロニトリル、メトキシアクリロニトリル、メトキシメタクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びその塩;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル;無水マレイン酸、イタコン酸無水物等の不飽和カルボン酸無水物;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;塩化ビニル、ビニルアミン、スルホン酸含有モノマーが挙げられる。これらの他のモノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0047】
これらの他のモノマーの中でも、前記水性溶媒及び前記水系混合溶媒のうちの少なくとも一方(好ましくは前記水性溶媒、より好ましくは水)に対する溶解性が向上するという観点から、アクリルアミド系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、カルボン酸ビニルが好ましい。
【0048】
ビニルアルコール系ポリマー(B1)が、ポリカルボン酸ビニル(ポリ酢酸ビニル等)やカルボン酸ビニル単位(酢酸ビニル単位等)を含有する共重合体のけん化反応により製造される場合、そのけん化度は、特に制限されない。アクリルアミド系ポリマー(A)との相互作用による親和性を増加する観点から、けん化度は、好ましくは50mol%以上、より好ましくは60mol%以上、更に好ましくは70mol%以上、更にまた好ましくは80mol%以上、特に好ましくは90mol%以上、最も好ましくは95mol%以上である。
【0049】
本発明のビニルアルコール系ポリマーは、そのヒドロキシ基のうち少なくとも一部または全がアセタール化されたビニルアセタール含有ビニルアルコール系ポリマーでもよい。ここで、ビニルアセタール含有ビニルアルコール系ポリマーとしては、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、スクシンアルデヒド、マロンジアルデヒド、テレフタルアルデヒド、ノナンジアール等のアルデヒドを用いてビニルアルコール系ポリマーをアセタール化して得ることができる。この場合のアセタール化度としては、特に制限はないが、85モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることが好ましい。
【0050】
その他の水溶性ポリマーの重合度の下限は、特に制限されず、好ましくは50以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは200以上、特に好ましくは300以上である。その他の水溶性ポリマーの重合度の上限は、特に制限されず、水溶液製造時の水溶性の観点から、好ましくは100000以下であり、より好ましくは50000以下であり、さらに好ましくは20000以下であり、特に好ましくは10000以下である。
【0051】
アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が1質量部~99.5質量部であり、前記ビニルアルコール系ポリマー(B1)の含有量が0.5質量部~99質量部であることが好ましい。これにより、耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性に優れるとともに、炭化処理後の炭化収率に優れる。
【0052】
(1.2.2)水溶性ポリマー(B)の含有量
炭素材料前駆体組成物の総量に対する水溶性ポリマー(B)の含有量は、特に限定されず、耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性の向上、および炭化収率の向上の観点から好ましくは2質量部~99質量部、より好ましくは5質量部~95質量部、さらに好ましくは15質量部~85質量部である。
【0053】
(1.3)添加成分(C)
炭素材料前駆体組成物は、添加成分(C)を更に含んでもよいし、含んでもいなくてもよい。添加成分(C)は、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種からなる。
炭素材料前駆体組成物は、添加成分(C)を含んでもいなくて、高い炭化収率を示し、炭素材料の製造に使用されることは可能である。炭素材料前駆体組成物が添加成分(C)を更に含むことで、炭化収率が更に向上する。
【0054】
炭素材料前駆体組成物が添加成分(C)を更に含むことで炭化収率が更に向上する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、添加成分(C)を加熱すると、添加成分(C)がアクリルアミド系ポリマー(A)と水溶性ポリマー(B)の環化触媒や脱水触媒として機能する。その結果、炭素材料の基本骨格の形成に繋がる六員環構造やこれが連結した多環構造を生成しやすくなるためと推察する。
【0055】
前記酸としては、無機酸、有機酸が挙げられる。無機酸としては、例えば、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸等が挙げられる。有機酸としては、例えば、シュウ酸、クエン酸、スルホン酸、酢酸等が挙げられるポリリン酸は、複数のリン酸の脱水縮合物であり、少数のリン酸の脱水縮合物である二リン酸(ピロリン酸)、三リン酸、四リン酸等を含む。ポリホウ酸は、複数のホウ酸の脱水縮合物であり、少数のホウ酸の脱水縮合物である二ホウ酸、三ホウ酸、四ホウ酸等を含む。
【0056】
前記酸の塩としては、金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩(例えば、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等)、アミン塩等が挙げられる。中でも、酸の塩は、アンモニウム塩、又はアミン塩を含むが好ましく、アンモニウム塩を含むことがより好ましい。特に、これらの添加成分のうち、得られる炭素材料前駆体の耐炎化収率や炭化収率、耐炎化及び炭化の総収率が更に向上するという観点から、添加成分(C)は、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸、シュウ酸、クエン酸、又はこれらのアンモニウム塩を含むことが好ましく、リン酸、ポリリン酸、又はこれらのアンモニウム塩を含むことがより好ましい。
【0057】
炭素材料前駆体組成物が添加成分(C)を更に含む場合、添加成分(C)の含有量は、アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、0.1質量部~80質量部であることが好ましい。これにより、炭化収率はより向上する。
添加成分(C)の含有量は、0.1質量部~100質量部であってもよく、0.2質量部~80質量部であってもよく、0.5質量部~50質量部であってもよく、0.7質量部~30質量部であってもよく、1質量部~30質量部であってよく、2質量部~15質量部であってもよい。
【0058】
炭素材料前駆体組成物が添加成分(C)を更に含む場合、炭素材料前駆体組成物の総量に対する添加成分(C)の含有量は、特に限定されず、0.1質量部~80質量部であることが好ましい。
【0059】
(1.4)その他の成分(D)
炭素材料前駆体組成物は、本開示の効果を損なわない範囲で、その他の成分(D)を更に含んでもよい。その他の成分(D)として、バイオマスファイバー、非バイオマス由来のファイバー、ナノカーボン、チタン酸カリウムウィスカ、ワラステナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、モンモリロナイトに代表される粘土鉱物、マイカ(雲母)鉱物およびカオリン鉱物に代表される層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウムおよびドロマイト、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、ダイヤモンド、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの形状としては特に制限はなく、例えば、粒状、平板状、ロッド状、繊維状、チューブ状、ナノチューブ状、ナノシート状などが挙げられる。バイオマスファイバーとしては、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー等が挙げられる。非バイオマス由来のファイバーとしては、例えば、カーボンナノファイバー、ガラス繊維、窒化ホウ素繊維、金属繊維、アラミド繊維等が挙げられる。ナノカーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、ナノダイヤモンド等が挙げられる。炭素材料前駆体組成物が、バイオマスファイバー、非バイオマス由来のファイバー及びナノカーボンの少なくとも1つを更に含むことで、炭素材料前駆体組成物の弾性率と、耐炎化処理時の形状保持性が向上する。
【0060】
(2)炭素材料前駆体組成物液
本開示の炭素材料前駆体組成物液は、本開示の炭素材料前駆体組成物と、水性溶媒及び水系混合溶媒の少なくとも一方と、を含む。
【0061】
「水性溶媒」とは、水、アルコール又はこれらの混合溶媒を示す。
「水系混合溶媒」とは、水性溶媒と有機溶媒との混合溶媒を示す。「有機溶媒」とは、水に溶けない溶媒を示す。
【0062】
炭素材料前駆体組成物液は、上記の構成を有するので、上述した炭素材料前駆体組成物の効果に加えて、低コストで安全に炭素材料を製造することが可能となる。詳しくは、炭素材料前駆体組成物液は、乾式成形(乾式紡糸)、乾湿式成形(乾湿式紡糸)、湿式成形(湿式紡糸)、又はエレクトロスピニングによって、成形され得る。
【0063】
水性溶媒に含まれ得るアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル1-プロパノール、2-メチル1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
【0064】
水系混合溶媒に含まれる有機溶媒としては、例えば、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアルデヒド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0065】
炭素材料前駆体組成物液の形態は、溶液(例えば、水溶液又は非水溶液)、懸濁液(すなわち、スラリー液)等が挙げられる。水溶液は、アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)を水性溶媒に溶解させることで得られる。非水溶液は、アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)を水系混合溶媒に溶解させることで得られる。懸濁液は、アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)を水性溶媒及び水系混合溶媒の少なくとも一方に懸濁させることで得られる。懸濁液では、アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)は、分散されていることが好ましい。
【0066】
水性溶媒及び水系混合溶媒の合計の含有量は、特に限定されるものではなく、生産性向上とコスト低減の観点から、炭素材料前駆体組成物液の総量に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、特に好ましくは20質量%以上である。水性溶媒及び水系混合溶媒の合計の含有量が低すぎると、炭素材料前駆体組成物液の粘度が高くなり、炭素材料前駆体組成物液の成形加工性は低下する。そのため、水性溶媒及び水系混合溶媒の合計の含有量は、炭素材料前駆体組成物液の粘度を指標として、成形加工が可能な量に調整されることが好ましい。
【0067】
炭素材料前駆体組成物液は、炭素材料前駆体組成物と、水性溶媒及び水系混合溶媒の少なくとも一方とを混合することで得られる。混合方法は、公知の方法であればよい。
【0068】
(3)耐炎化物の製造方法
本開示の耐炎化物の製造方法は、本開示の炭素材料前駆体組成物に耐炎化処理を施す工程(以下、「耐炎化処理工程」ともいう。)を含む。これにより、耐炎化物が得られる。耐炎化物は、耐炎化処理時において、耐炎化処理前の炭素材料前駆体組成物の形状が維持されており、融着した形跡をほとんど有しない。耐炎化物は、炭化処理後の炭化収率に優れる
【0069】
「耐炎化処理」とは、炭素材料前駆体組成物に対して酸化性気体雰囲気下、加熱処理を施すことを示す。
【0070】
耐炎化物の製造方法は、本開示の炭素材料前駆体組成物を準備する工程(以下、「準備工程」ともいう)と、本開示の炭素材料前駆体組成物を成形する工程(以下、「第1成形工程」ともいう)と、本開示の炭素材料前駆体組成物に架橋処理を施す工程(以下、「第1架橋処理工程」ともいう)と、の少なくとも1つを更に含んでもよい。準備工程、第1成形工程及び第1架橋処理工程の各々は、耐炎化処理工程の実施前に実施される。耐炎化物の製造方法が、準備工程、第1成形工程及び第1架橋処理工程を更に含む場合、準備工程、第1成形工程、第1架橋処理工程及び耐炎化処理工程は、この順で実施される。
【0071】
以下、耐炎化物の製造方法が、準備工程、及び第1架橋処理工程を更に含む場合について説明する。
【0072】
(3.1)準備工程
準備工程では、炭素材料前駆体組成物を準備する。これにより、炭素材料前駆体組成物が得られる。
【0073】
炭素材料前駆体組成物の準備方法は、特に限定されず、例えば、アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)を準備し、アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)を混合する方法等が挙げられる。アクリルアミド系ポリマー(A)としては、炭素材料前駆体組成物に含まれるアクリルアミド系ポリマー(A)として例示したものと同様のものが挙げられる。水溶性ポリマー(B)としては、炭素材料前駆体組成物に含まれる水溶性ポリマー(B)として例示したものと同様のものが挙げられる。アクリルアミド系ポリマー(A)の準備方法、水溶性ポリマー(B)の準備方法及びアクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)の混合方法の各々は、公知の方法であればよい。
【0074】
炭素材料前駆体組成物の準備方法では、添加成分(C)を更に準備し、アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)に、添加成分(C)を添加してもよい。添加成分(C)としては、炭素材料前駆体組成物に含まれ得る添加成分(C)として例示したものと同様のものが挙げられる。添加成分(C)の添加方法は、特に限定されず、例えば、後述する第1添加方法、第2添加方法、第3添加方法、及び第4添加方法等が挙げられる。以下、添加成分(C)が添加される前の状態の炭素材料前駆体組成物を「添加前組成物」ともいう。第1添加方法では、添加前組成物と添加成分(C)とを溶媒中で混合する方法(湿式混合)を示す。第2添加方法では、添加前組成物の溶融物に、添加成分(C)を直接混合する方法(溶融混合)を示す。第3添加方法は、添加前組成物と添加成分(C)とをドライブレンドする方法(乾式混合)を示す。第4添加方法は、添加成分(C)を含有する液体に、添加前組成物の成形体を浸漬又は通過させる方法を示す。
【0075】
前記第1工程において、添加前組成物及び添加成分(C)が前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に可溶な場合には、添加前組成物と添加成分(C)とを均一に混合することができるという観点から、添加前組成物と添加成分(C)とを前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒中で混合する方法(湿式混合)が好ましい。
湿式混合としては、炭素材料前駆体組成物の製造に際し、アクリルアミド系ポリマー(A)および/または水溶性ポリマー(B)の重合を前記水性溶媒中又は前記水系混合溶媒中で行った場合に、重合後等に添加成分(C)を混合する方法も採用することができる。さらに、得られる溶液から前記溶媒を除去することによって炭素材料前駆体組成物を回収し、これを後述する炭素材料の製造に用いることができるほか、前記溶媒を除去することなく、得られる溶液をそのまま後述する炭素材料の製造に用いることもできる。前記湿式混合においては、より低コストで安全に炭素材料前駆体組成物を製造できるという観点から、溶媒として前記水性溶媒を使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。さらに、前記溶媒を除去する方法としては特に制限はなく、減圧留去、再沈殿、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の方法のうちの少なくとも1つの方法を採用することができる。
【0076】
炭素材料前駆体組成物の準備方法では、その他の成分(D)を更に準備し、アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)に、その他の成分(D)を添加してもよい。その他の成分(D)としては、炭素材料前駆体組成物に含まれ得るその他の成分(D)として例示したものと同様のものが挙げられる。その他の成分(D)の添加方法は、特に限定されず、公知の方法であればよい。
【0077】
(3.2)第1成形工程
第1成形工程では、炭素材料前駆体組成物を成形する。これにより、所望の形状の耐炎化物が得られる。
【0078】
炭素材料前駆体組成物の成形体の形状は、炭素材料の用途等に応じて適宜され、例えば、フィルム状、シート状、繊維状、塊状等が挙げられる。「フィルム」とは、厚みが250μm未満の膜を示す。「シート」とは、厚みが250μm以上の膜を示す。
【0079】
炭素材料前駆体組成物の成形方法は、特に限定されるものでなく、炭素材料前駆体組成物の成形体の形状に応じて、適宜選択される。炭素材料前駆体組成物の成形方法としては、例えば、炭素材料前駆体組成物をそのまま加圧成形する方法、溶融状態の炭素材料前駆体組成物を用いて溶融成形(例えば、溶融キャスト成形、溶融押出成形、射出成形、溶融紡糸)する方法、炭素材料前駆体組成物を前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に溶解し、得られた溶液(すなわち、本開示の炭素材料前駆体組成物液)を用いて成形加工(フィルム化、シート化、紡糸)する方法等を挙げることがき、特に本開示の炭素材料前駆体組成物液を用いて成形加工(フィルム化、シート化、紡糸)する方法が特に好ましい。これにより、所望の形状の炭素材料前駆体組成物を低コストで安全に製造することができる。より低コストで安全に炭素材料を製造することができるという観点から、溶媒として前記水性溶媒を使用することがより好ましく、水を使用することが特に好ましい。
【0080】
(3.3)第1架橋処理工程
第1架橋処理工程では、炭素材料前駆体組成物に架橋処理を施す。これにより、炭素材料前駆体組成物の形状保持性と融着防止性が向上する。
【0081】
架橋処理の方法は、特に限定されるものではなく、炭素材料前駆体組成物に放射線を照射する方法(以下、「放射線処理」ともいう)、炭素材料前駆体組成物に紫外線を照射する方法(以下、「紫外線処理」ともいう)等が挙げられる。中でも、アクリルアミド系ポリマー(A)同士、アクリルアミド系ポリマー(A)と水溶性ポリマー(B)(好ましくはビニルアルコール系ポリマー(B1))、水溶液ポリマー(B)同士の架橋を進行させて形状保持性と融着防止性を向上させる観点から、放射線処理又は紫外線処理が好ましい。放射線処理及び紫外線処理の各々は、公知の方法であればよい。
【0082】
放射線としては、例えば、X線、γ線、α線、β線、電子線、中性子線、陽子線、及び重粒子線等が挙げられる。中でも、耐炎化処理における炭素材料前駆体組成物間の融着をより高度に抑制し、かつ炭素材料前駆体組成物の強度を高める観点から、放射線は、電子線であることが好ましい。電子線の照射は、バッチ式により行ってもよく、連続式に行ってもよい。
放射線の線量は、炭素材料前駆体組成物の架橋によって得られる炭素材料前駆体組成物のゲル分率を高める観点から、好ましくは10kGy以上、より好ましくは30kGy以上、さらに好ましくは50kGy以上、特に好ましくは150kGy以上、一層好ましくは400kGy以上である。なお、上記した線量の好ましい数値範囲は、一方向から、炭素材料前駆体組成物に対して電子線を照射した場合における線量の好ましい数値範囲であり、2方向以上から照射する場合は、上記の限りではなく、適宜調整することが好ましい。
「ゲル分率」は、炭素材料前駆体組成物の架橋度の指標を示す。ゲル分率の測定方法は、特開2023-064047号公報に記載されている方法と同様である。
【0083】
(3.4)耐炎化処理工程
本開示の炭素材料前駆体組成物は炭化処理の前に耐炎化処理を施さず、そのまま熱処理(炭化処理)を行うことによっても、耐炎化処理時の形状保持性と高い炭化収率を有したまま炭素材料を製造することができる。炭素材料がより高い炭化収率と形状保持率を有し、融着も高度に防止する観点から、炭素材料前駆体組成物の炭化処理の前に耐炎化処理を施すことが好ましい。
【0084】
(3.4.1)耐炎化処理
耐炎化処理の温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは150℃~500℃、より好ましくは200℃~450℃、さらに好ましくは250℃~420℃である。なお、上記温度には、後述する耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)だけでなく、耐炎化処理温度までの昇温過程等における温度も包含される。
【0085】
耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)は、好ましくは200℃~500℃、より好ましくは250℃~450℃、さらに好ましくは305℃~440℃、特に好ましくは310℃~430℃、最も好ましくは315℃~420℃である。
耐炎化処理温度を200℃以上とすることにより、分子内に環状構造が形成されやすい。そのため、耐炎化物の耐熱性及び炭化収率を向上することができる傾向に耐炎化処理温度を500℃以下とすることにより、耐炎化物が熱分解されにくく、製造コストを低減することができる傾向にある。
【0086】
耐炎化処理時間(耐炎化処理温度での加熱時間)は、特に限定されるものではないが、炭化収率及び製造コストの観点から、好ましくは1分間~240分間、より好ましくは2分間~120分間、さらに好ましくは3分間~60分間、特に好ましくは4分間~40分間である。
耐炎化処理時間を1分以上とすることにより、炭化収率を向上させることができる。耐炎化処理時間を240分以内にすることにより、製造コストを低減することができる。
【0087】
(3.4.2)延伸処理
炭素材料前駆体の耐炎化処理前および/または耐炎化処理時において、炭素材料前駆体組成物に対し延伸処理を施すことが好ましい。炭素材料前駆体組成物に対し延伸処理を施すことにより、アクリルアミド系ポリマー(A)が配向し、耐炎化物の引張強度を向上する傾向にある。
延伸処理は、耐炎化処理前(成形工程の後、または架橋処理工程を実施する場合は架橋処理工程の前後、架橋処理工程時)に加熱下、および/または耐炎化処理温度での加熱時に実施されることが好ましく、耐炎化処理温度での加熱時に少なくとも実施されることがより好ましい。耐炎化物の引張強度向上という観点からは、耐炎化処理温度までの昇温過程においても延伸処理が実施されることが好ましい。
【0088】
(4)炭素材料の製造方法
本開示の炭素材料の製造方法は、本開示の耐炎化物の製造方法により耐炎化物を得る工程と、耐炎化物に炭化処理を施す工程(以下、「炭化処理工程」ともいう)と、を含む。これにより、炭素材料が得られる。
【0089】
「炭化処理」とは、炭素材料前駆体を炭化する処理を示す。詳しくは、「炭化処理」とは、低酸素雰囲気(好ましくは酸素を遮断した環境)下、炭素材料前駆体に加熱処理を施すことを示す。
【0090】
(4.1)耐炎化物を得る工程
耐炎化物を得る工程は、耐炎化物の製造方法として例示した方法と同様である。
【0091】
(4.2)炭化処理工程
炭化処理としては、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム等)雰囲気下、耐炎化物に対し、耐炎化処理における温度よりも高い温度で加熱処理を施す方法等が挙げられる。「炭化処理」は、黒鉛化を含んでいてもよい。「黒鉛化」は、一般的に、不活性ガス雰囲気下、2000~3000℃で加熱することによって行われる耐炎化物に炭化処理を施すことにより、耐炎化物が炭化し、炭素材料が得られる。
炭化処理の加熱温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは1000℃以上、さらに好ましくは1100℃以上、特に好ましくは1200℃以上、最も好ましくは1300℃以上である。
炭化処理の加熱温度は、好ましくは3000℃以下、より好ましくは2500℃以下である。
炭化処理の加熱時間は、特に限定されるものではないが、好ましくは30秒~60分間、より好ましくは1分間~30分間である。
炭化処理は、複数回の加熱処理を含むものであってもよい。
炭化処理では、複数の加熱処理が行われてもよい。例えば、先に1000℃未満の温度で加熱処理(予備炭化処理)を行い、次いで1000℃以上の温度で加熱処理(炭化処理)を行い、さらに、2000℃以上の温度で加熱処理(黒鉛化処理)を行うことができる。
【0092】
(5)炭素材料前駆体組成物の成形体の製造方法
本開示の炭素材料前駆体組成物の成形体の製造方法(以下、単に「成形体の製造方法」ともいう)は、本開示の炭素材料前駆体組成物液を用いる。これにより、炭素材料前駆体組成物の成形体が得られる。炭素材料前駆体組成物の成形体は、上述した耐炎化物の製造方法に好適に用いられる。
【0093】
成形体の製造方法は、炭素材料前駆体組成物液を用いる方法であれば特に限定されず、炭素材料前駆体組成物液を成形して、成形体を得る工程(以下、「第2成形工程」ともいう)と、第2成形工程で得られる成形体に架橋処理を施す工程(以下、「第2架橋処理工程」ともいう)と、を含んでもよい。第2成形工程及び第2架橋処理工程は、この順に実施される。
【0094】
(5.1)第2成形工程
第2成形工程では、炭素材料前駆体組成物液を成形して、成形体を得る。
【0095】
成形体の形状は、炭素材料の用途等に応じて適宜され、例えば、フィルム状、シート状、繊維状、塊状等が挙げられる。
【0096】
炭素材料前駆体組成物液の成形方法は、特に限定されるものではなく、成形体の形状に応じて適宜選択される。炭素材料前駆体組成物液の成形方法としては、フィルム化法、シート化法、紡糸等が挙げられる。フィルム化法では、炭素材料前駆体組成物液をフィルム状に成形する。シート化法では、炭素材料前駆体組成物液をシート状に成形する。紡糸では、炭素材料前駆体組成物液を繊維状に成形する。フィルム化法、シート化法及び紡糸の各々は、公知の方法であればよい。
【0097】
(5.2)第2架橋処理工程
第2架橋処理工程では、第2成形工程で得られる成形体に架橋処理を施す。第2架橋処理工程は、上述した第1架橋処理工程として例示した方法と同様である。
【実施例0098】
以下、上記実施形態を実施例により具体的に説明するが、上記実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
[1]準備
アクリルアミド系ポリマー(A)として、下記のアクリルアミド系ポリマー(a-1)、アクリルアミド系ポリマー(a-2)、及びアクリルアミド系ポリマー(a-3)を準備した。ビニルアルコール系ポリマー(B)として、下記のビニルアルコール系ポリマー(b-1)、ビニルアルコール系ポリマー(b-2)、及びビニルアルコール系ポリマー(b-3)を準備した。添加成分(C)として、硫酸、リン酸、シュウ酸、ホウ酸、リン酸水素二アンモニウム、及びリン酸二水素アンモニウムを準備した。
【0100】
[1.1]アクリルアミド系ポリマー(a-1)
アクリルアミド(AM)100質量部とテトラメチルエチレンジアミン8.8質量部およびイオン交換水2910質量部を含む水溶液に、窒素雰囲気下、撹枠しながら過硫酸アンモニウム2.0質量部を添加した後、60℃で3時間重合反応を行なった。得られた水溶液をメタノール中に滴下して重合物を析出させ、これを回収して真空乾燥させることにより、水溶性のポリアクリルアミド(PAM)(すなわち、アクリルアミド系ポリマー(a-1))を得た。アクリルアミド系ポリマー(a-1)の重量平均分子量は13万であった。
【0101】
[1.2]アクリルアミド系ポリマー(a-2)
アクリルアミド(AM)75mol%とアクリロニトリル(AN)25mol%とからなるモノマー100質量部、テトラメチルエチレンジアミン4質量部およびイオン交換水567質量部を含む水溶液に、窒素雰囲気下、撹拌しながら過硫酸アンモニウム3.4質量部を添加した後、70℃で4時間加熱した後、重合を終了した。得られた水溶液をメタノール中に滴下してAM/AN共重合体を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥を行うことで、水溶性のAM/AN(75mol%/25mol%)共重合体(すなわち、アクリルアミド系ポリマー(a-2))を得た。アクリルアミド系ポリマー(a-2)の重量平均分子量は5万であった。
【0102】
[1.3]アクリルアミド系ポリマー(a-3)
アクリルアミド(AM)60モル%、アクリロニトリル(AN)35モル%及びアクリル酸(AA)5モル%を含むモノマー組成物100質量部と、テトラメチルエチレンジアミン5質量部とをイオン交換水400質量部に溶解し、水溶液を得た。この水溶液を窒素雰囲気下で撹拌しながら、過硫酸アンモニウムを添加した後、80℃で150分間加熱し、重合反応を行った。得られた水溶液をメタノール中に滴下して共重合体を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥させ、水溶性のAM/AN/AA共重合体(60mol%/35mol%/5mol%共重合体(AM/AN/AA=60mol%/35mol%/5mol%)(すなわち、アクリルアミド系ポリマー(a-3))を得た。アクリルアミド系ポリマー(a-3)の重量平均分子量は5万であった。
【0103】
[1.4]ビニルアルコール系ポリマー(b-1)
ビニルアルコール系ポリマー(b-1)は、富士フィルム和光純薬株式会社製の「ポリビニルアルコール500、完全けん化型」(製品コード:165-16315、けん化度:96mol%以上、重合度:500、融点300℃超)である。
【0104】
[1.5]ビニルアルコール系ポリマー(b-2)
ビニルアルコール系ポリマー(b-2)は、富士フィルム和光純薬株式会社製の「ポリビニルアルコール1000、完全けん化型」(製品コード:162-16325、けん化度:96mol%以上、重合度:1000、融点300℃超)である。
【0105】
[1.6]ビニルアルコール系ポリマー(b-3)
ビニルアルコール系ポリマー(b-2)は、富士フィルム和光純薬株式会社製の「ポリビニルアルコール、完全けん化型」(製品コード:160-03055、けん化度:88mol%、重合度:1500、融点300℃超)である。
【0106】
[2]実施例1~20、比較例1~7
アクリルアミド系ポリマー(A)とビニルアルコール系ポリマー(B)とを、表1に示す割合で混合し、水を加えて5質量%の濃度とした後、表1に示す割合の添加成分(C)を加え、90℃の温度で1時間攪拌を行っての水溶液を作製した。得られた水溶液をシャーレの上に流延し、ドラフトチャンバー内において室温で1日以上静置することで大部分の水を除去した後、更に60℃で12時間の真空乾燥により残存する水を除去後、フィルム(炭素材料前駆体)を得た。フィルムの厚さは、約0.1mmであった。
【0107】
[3]評価方法及び測定方法
実施例1~20、比較例1~7で得られたフィルムの評価方法及び測定方法は、下記の通りである。
【0108】
[3.1]耐炎化物の作製と形状保持率
[3.1.1]短冊状フィルムの作製
フィルムを短冊形状に切断した。短冊形状のフィルムのサイズは、長辺2.5cm×短辺1.5cm×厚み約0.15mmであった。
【0109】
[3.1.2]耐炎化処理工程
短冊形状のフィルムをガラス板の上に置き、両端に80gずつの重りを載せて固定した。空気気流下、電気マッフル炉の中で室温から350℃まで10℃/分の昇温速度で昇温後、350℃で10分間保持して、短冊形状のフィルムに熱処理(耐炎化)を行った。
【0110】
[3.1.3]形状保持率の測定
耐炎化後、室温まで低下させた後、得られた耐炎化物のフィルムを、ピンセットを用いてガラス板から回収した。この際、下記の形状保持率を測定した。その結果を表1に示す。形状保持率の許容可能な評価結果は、70%以上である。
【0111】
「形状保持率」は、耐炎化後のフィルムのガラス板との接触している接触面の面積(A)に対する、ガラス板からフィルムを回収したときのガラス板とフィルムの接触面(面積(A))のうちガラス板に貼りつかなかった部位の面積(B)の割合((B/A)×100)を示す。フィルムのガラスとの接触面のうちのガラス板に貼りついたままの部位は、前記熱処理時のフィルムの軟化によりフィルムがガラス板に貼り付き、フィルムをガラス板から剥がせなかったことで生じている。
【0112】
[3.2]フィルム(炭素材料前駆体)の融着防止性の評価
[3.2.1]フィルムの作製
実施例1~20、比較例1~7で得られたフィルムから、2枚のフィルムを切出した。フィルムのサイズは、15mm×10mmであった。
【0113】
[3.2.2]耐炎化処理工程
ステンレスバット上で、2枚の薄膜を面同士が接するように重ね合わせた。2枚の薄膜の重なり部分のサイズは、10mm×10mmであった。空気気流下、電気マッフル炉の中で室温から350℃まで10℃/分の昇温速度で昇温して、2枚の薄膜に熱処理(耐炎化処理)を行った。
【0114】
[3.2.3]融着防止性の評価
その後、2枚の薄膜を室温まで低下させた。薄膜(フィルム)の融着防止性を、下記の評価基準で評価した。その結果を表1に示す。融着防止性の許容可能な評価結果は、「A」又は「B」である。
【0115】
[3.2.4]融着防止性の評価基準
A:ステンレスバットを傾けることにより2枚の薄膜を剥離できた。
B:ピンセットで一方の薄膜を掴んで引っ張ることによって2枚の薄膜を剥離できた。
C:一方の薄膜をピンセットで掴んで引っ張っても2枚の薄膜を剥離できなかった、又は一方の薄膜をピンセットで掴んで引っ張ると薄膜が破壊された。
【0116】
[3.3]炭素材料の作製と炭化収率
[3.3.1]耐炎化処理工程
実施例1~20、比較例1~7で得られたフィルムから質量約2mgのフィルムを切り出し、高温型示差熱天秤(株式会社リガク製、Thermo plus EV02 TG-DTA/H)を用いて、流量1000ml/minの空気気流下、室温から350℃まで昇温速度10℃/minで加熱した後、350℃で30分間保持して耐炎化処理を行って耐炎化物を得た。
【0117】
[3.3.2]炭化処理工程
得られた耐炎化物を同様に示差熱天秤(株式会社リガク製、TG 8120)を用いて、流量1000ml/minの窒素気流下、室温から1000℃まで昇温速度10℃/minで加熱し、炭素材料を得た。
【0118】
[3.3.3]炭化収率の測定
炭化収率を下記の式(1)により求めた。その結果を表1に示す。炭化収率の許容可能な評価結果は、54%以上である。
【0119】
式(1):炭化収率(%)=(1000℃における炭素材料の質量/室温における耐炎化物(耐炎化後のフィルム)の質量)×100
【0120】
[3.4]アクリルアミド系ポリマー(a-1)~(a-3)の重量平均分子量
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)を用いて下記の測定条件で測定し、分子量の多分散度(Mw/Mn)を算出した。
【0121】
[3.4.1]測定条件
カラム:TSKgel GMPWXL×2本+TSKgel G2500PWXL×1本
溶離液:100mM硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=80/20
溶離液流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
分子量標準物質:標準ポリエチレンオキシド/標準ポリエチレングリコール
検出器:示差屈折率検出器
【0122】
[3.5]アクリルアミド系ポリマー(a-1)~(a-3)の組成
アクリルアミド系ポリマー(a-1)~(a-3)をそれぞれ重水に溶解し、得られた各溶液について、室温、周波数100MHzの条件で13C-NMR測定を行った。
【0123】
得られた13C-NMRスペクトルにおいて、第1ピークと、第2ピークと、第3ピークとの積分強度比に基づいて、組成(モル比)を算出した。「第1ピーク」は、約177ppm~約182ppmに現れる、AMのカルボニル基の炭素に由来するピークを示す。「第2ピーク」は、約121ppm~約122ppmに現れるANのシアノ基の炭素に由来するピークを示す。「第3ピーク」は、約179ppm~約182ppmに現れるAAのカルボニル基の炭素に由来するピークを示す。
【0124】
さらに、AM/AN/AA共重合体については、13C-NMRでのピークの一部が重なるため、赤外分光分析(IR)を行った。
得られたIRスペクトルにおいて、第4ピークと、第5ピークと、第6ピークとの強度比に基づいて、AM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位とアクリル酸(AA)単位とのモル比(AM/AA)を算出した。「第4ピーク」とは、約1678cm-1に現れるアクリルアミドに由来するピークを示す。「第5ピーク」とは、約2239cm-1に現れるアクリロニトリルに由来するピークを示す。「第6ピーク」とは、約1715cm-1に現れるアクリル酸に由来するピークを示す。
【0125】
13C-NMRで得られた(AM+AA)/ANと前記AM/AAとからAM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位とアクリロニトリル(AN)単位とアクリル酸(AA)単位とのモル比(AM/AN/AAc)を求めた。
【0126】
【0127】
比較例1~7の炭素材料前駆体組成物は、アクリルアミド系ポリマー(A)及びビニルアルコール系ポリマー(B)を含有していなかった。そのため、比較例1~3では、形状保持率は70%未満であり、融着紡糸性の評価結果は「C」であり、炭化収率は、54%未満であった。比較例4~7では、炭化収率は、54%未満であった。これらの結果、比較例1~7の炭素材料前駆体組成物は、耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性に優れるとともに、炭化処理後の炭化収率に優れる炭素材料前駆体組成物ではないことがわかった。
【0128】
実施例1~20の炭素材料前駆体組成物は、アクリルアミド系ポリマー(A)及びビニルアルコール系ポリマー(B)を含有していた。そのため、実施例1~20では、形状保持率は70%以上であり、融着紡糸性の評価結果は「A」又は「B」であり、炭化収率は、54%以上であった。これらの結果、実施例1~20の炭素材料前駆体組成物は、耐炎化処理時の形状維持性及び融着防止性に優れるとともに、炭化処理後の炭化収率に優れる炭素材料前駆体組成物であることがわかった。
【0129】
以上の実施形態に関し、更に以下を開示する。
【0130】
第1態様の炭素材料前駆体組成物は、アクリルアミド系ポリマー(A)と、アクリルアミド系ポリマー以外の水溶性ポリマー(B)と、を含む、炭素材料前駆体組成物である。
【0131】
第2態様の炭素材料前駆体組成物は、前記アクリルアミド系ポリマー(A)及び前記水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、前記アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が1質量部~99.5質量部であり、前記水溶性ポリマー(B)の含有量が0.5質量部~99質量部である、第1態様の炭素材料前駆体組成物である。
【0132】
第3態様の炭素材料前駆体組成物は、前記水溶性ポリマー(B)が、ビニルアルコール系ポリマー(B1)を含む、第1態様又は第2態様の炭素材料前駆体組成物である。
【0133】
第4態様の炭素材料前駆体組成物は、前記アクリルアミド系ポリマー(A)及び前記水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、前記アクリルアミド系ポリマー(A)の含有量が1質量部~99.5質量部であり、前記ビニルアルコール系ポリマー(B1)の含有量が0.5質量部~99質量部である、第3態様の炭素材料前駆体組成物である。
【0134】
第5態様の炭素材料前駆体組成物は、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種からなる添加成分(C)を更に含み、前記アクリルアミド系ポリマー(A)及び水溶性ポリマー(B)の合計100質量部に対して、前記添加成分(C)の含有量が、0.1質量部~80質量部である、第1態様~第4態様のいずれか1態様の炭素材料前駆体組成物である。
【0135】
第6態様の炭素材料前駆体組成物液は、第1態様~第5態様のいずれか1態様の炭素材料前駆体組成物と、水性溶媒及び水系混合溶媒の少なくとも一方と、を含む、炭素材料前駆体組成物液である。
【0136】
第7態様の耐炎化物の製造方法は、第1態様~第5態様のいずれか1態様の炭素材料前駆体組成物に耐炎化処理を施す工程を含む、耐炎化物の製造方法である。
【0137】
第8態様の炭素材料の製造方法は、第7態様の耐炎化物の製造方法により耐炎化物を得る工程と、前記耐炎化物に炭化処理を施す工程と、を含む、炭素材料の製造方法である。
【0138】
第9態様の炭素材料前駆体組成物の成形体の製造方法は、第6態様の炭素材料前駆体組成物液を用いる、炭素材料前駆体組成物の成形体の製造方法である。