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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171509
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】艶消し塗料組成物および複層塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20241205BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241205BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241205BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088552
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義将
(72)【発明者】
【氏名】中村 朝徳
(72)【発明者】
【氏名】操 元兵
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038CJ031
4J038HA456
4J038KA19
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA01
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】優れた艶消し感と高い耐久性とを兼ね備える塗膜が得られる艶消し塗料組成物、および、当該塗膜を備える複層塗膜を提供する。
【解決手段】エマルション樹脂(A)と、架橋剤(B)と、充填材(C)と、を含む、艶消し塗料組成物であって、前記エマルション樹脂(A)は、平均粒子径が50nm以上500nm以下、かつ、ガラス転移温度が0℃以上20℃以下であり、前記充填材(C)は、アスペクト比(最大長さ/直径)が3以上の針状充填材(C1)と、吸油量が50g/100g以下の非針状充填材(C2)と、を含み、上記艶消し塗料組成物から得られる塗膜における前記充填材(C)の体積率が、30体積%以上65体積%以下である、艶消し塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルション樹脂(A)と、架橋剤(B)と、充填材(C)と、を含む、艶消し塗料組成物であって、
前記エマルション樹脂(A)は、
平均粒子径が50nm以上500nm以下、かつ、
ガラス転移温度が0℃以上20℃以下であり、
前記充填材(C)は、
アスペクト比(最大長さ/直径)が3以上の針状充填材(C1)と、
吸油量が50g/100g以下の非針状充填材(C2)と、を含み、
上記艶消し塗料組成物から得られる塗膜における前記充填材(C)の体積率が、30体積%以上65体積%以下である、艶消し塗料組成物。
【請求項2】
前記針状充填材(C1)の前記アスペクト比の平均値は、5以上23以下である、請求項1に記載の艶消し塗料組成物。
【請求項3】
前記針状充填材(C1)の含有量は、前記エマルション樹脂(A)の固形分100質量部に対して7質量部以上75質量部以下である、請求項1または2に記載の艶消し塗料組成物。
【請求項4】
前記非針状充填材(C2)の含有量は、前記エマルション樹脂(A)の固形分100質量部に対して150質量部以上300質量部以下である、請求項1または2に記載の艶消し塗料組成物。
【請求項5】
1以上の下塗り塗膜と、
前記下塗り塗膜上に設けられた上塗り塗膜と、を備え、
前記上塗り塗膜は、請求項1に記載の塗料組成物により形成される、複層塗膜。
【請求項6】
前記上塗り塗膜は、60度鏡面光沢度および85度鏡面光沢度がいずれも3以下である、請求項5に記載の複層塗膜。
【請求項7】
前記下塗り塗膜の少なくとも1つは、JIS A 6909:2014 7.26 伸び試験に準じて測定される標準時の伸び率が120%以上である、請求項5または6に記載の複層塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消し塗料組成物および複層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
艶消しされた外壁は、建築物に落ち着いた印象を付与し、高級感を高める。艶消しされた外壁は、一般に、充填材を配合した塗料組成物で塗装することにより形成される。例えば、特許文献1および2は、複数種類の充填材を配合した被膜を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-57149号公報
【特許文献2】特開2012-82406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
艶消し感を表現するため、塗料組成物には多くの充填材が配合される。しかしながら、充填材を多く含む塗膜は脆くなり易く、耐久性に劣る。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、優れた艶消し感と高い耐久性とを兼ね備える塗膜が得られる艶消し塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
エマルション樹脂(A)と、架橋剤(B)と、充填材(C)と、を含む、艶消し塗料組成物であって、
前記エマルション樹脂(A)は、
平均粒子径が50nm以上500nm以下、かつ、
ガラス転移温度が0℃以上20℃以下であり、
前記充填材(C)は、
アスペクト比(最大長さ/直径)が3以上の針状充填材(C1)と、
吸油量が50g/100g以下の非針状充填材(C2)と、を含み、
上記艶消し塗料組成物から得られる塗膜における前記充填材(C)の体積率が、30体積%以上65体積%以下である、艶消し塗料組成物。
[2]
前記針状充填材(C1)の前記アスペクト比の平均値は、5以上23以下である、上記[1]の艶消し塗料組成物。
[3]
前記針状充填材(C1)の含有量は、前記エマルション樹脂(A)の固形分100質量部に対して7質量部以上75質量部以下である、上記[1]または[2]の艶消し塗料組成物。
[4]
前記非針状充填材(C2)の含有量は、前記エマルション樹脂(A)の固形分100質量部に対して150質量部以上300質量部以下である、上記[1]または[2]の艶消し塗料組成物。
[5]
1以上の下塗り塗膜と、
前記下塗り塗膜上に設けられた上塗り塗膜と、を備え、
前記上塗り塗膜は、上記[1]の塗料組成物により形成される、複層塗膜。
[6]
前記上塗り塗膜は、60度鏡面光沢度および85度鏡面光沢度がいずれも3以下である、上記[5]の複層塗膜。
[7]
前記下塗り塗膜の少なくとも1つは、JIS A 6909:2014 7.26 伸び試験に準じて測定される標準時の伸び率が120%以上である、上記[5]または[6]の複層塗膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた艶消し感と高い耐久性とを兼ね備える塗膜が得られる艶消し塗料組成物、および、当該塗膜を備える複層塗膜が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[艶消し塗料組成物]
本開示に係る艶消し塗料組成物は、エマルション樹脂(A)と、架橋剤(B)と、充填材(C)と、を含む。エマルション樹脂(A)は、平均粒子径が50nm以上500nm以下、かつ、ガラス転移温度が0℃以上20℃以下である。充填材(C)は、アスペクト比(長さ/直径)が3以上の針状充填材(C1)と、吸油量50g/100g以下の非針状充填材(C2)と、を含む。艶消し塗料組成物から得られる塗膜における充填材(C)の体積率は、30体積%以上65体積%以下である。
【0009】
非針状充填材は、艶消し塗料組成物により得られる塗膜(以下、「艶消し塗膜」と称する場合がある。)の表面に凹凸を形成し、艶消し感を付与する。非針状充填材同士の間には、樹脂分が入り込み易い。すると、樹脂が膜状になり難くなって、艶消し塗膜の強度が低下する。非針状充填材の吸油量が高いほど、樹脂は非針状充填材に吸着し易くなるため、樹脂はさらに膜状になり難い。
【0010】
本開示では、吸油量が50g/100g以下の非針状充填材(C2)を用いる。そのため、樹脂の非針状充填材(C2)への吸着が抑制されて、樹脂は膜状になり易い。加えて、針状充填材(C1)を併用する。針状充填材(C1)は、膜状の樹脂を補強する。これにより、艶消し塗膜の強度が高まる。さらに針状充填材(C1)によって、0℃以上20℃以下の比較的高いガラス転移温度(Tg)を有し、硬くなり易いエマルション樹脂(A)を使用しても、艶消し塗膜のワレおよび/またはフクレが抑制される。Tgの高いエマルション樹脂(A)は、艶消し塗膜の強度を高める。
【0011】
さらに、エマルション樹脂(A)の平均粒子径は50nm以上500nm以下である。このように比較的粒径の小さなエマルション樹脂(A)を用いることにより、艶消し塗膜が緻密になって、その強度が向上する。さらに、小さなエマルション樹脂(A)粒子は、針状充填材(C1)の表面により多く接触することができて、当該表面の近傍においても、緻密な膜が形成される。加えて、針状充填材(C1)と樹脂との密着性が高くなるため、針状充填材(C1)による補強効果が一層発揮される。
【0012】
上記の通り、特定のエマルション樹脂を使用すること、および、少なくとも2種の形状の異なる顔料を併用することにより、優れた艶消し感と高い耐久性とを兼ね備える塗膜が得られる。
【0013】
艶消し感に優れるとは、艶消し塗膜の光沢度が低いことを意味する。例えば、K 5600-4-7:1999 鏡面光沢度に準拠して測定される、60度鏡面光沢度および85度鏡面光沢度がいずれも5以下である場合、艶消し感に優れていると言える。本開示の艶消し塗料組成物によれば、上記鏡面光沢度がいずれも3以下になり得、2以下になり得る。
【0014】
艶消し塗膜の鏡面光沢度は、艶消し塗料組成物をガラス板上に塗装し、室温で静置(例えば、1日間静置)して得られた塗膜を用いて、測定できる。
【0015】
耐久性が高いとは、長期間経過後も艶消し塗膜の外観に変化が生じ難いことを意味する。例えば、JIS A 6909:2014 7.11 温冷繰返し試験に準じた試験において、艶消し塗膜の表面に、ひび割れ、剥がれおよび膨れがない場合、高い耐久性を有すると言える。本開示の艶消し塗料組成物によれば、弾性(伸縮性)のある基材あるいは下塗り層上に当該塗料組成物を塗装して、温冷繰返し試験を行った場合にも、高い耐久性を示す。
【0016】
艶消し塗料組成物の、25℃の条件下でストーマー粘度計により測定される粘度ηは、例えば、70KU(Krebs Unit value)以上120KU以下である。粘度ηは、75KU以上であってよく、70KU以上であってよい。粘度ηは、115KU以下であってよく、110KU以下であってよい。
【0017】
充填材(C)の体積率(針状充填材(C1)、非針状充填材(C2)およびその他の充填材(C3)の合計の体積率。以下、PVCaと称す。)は、30体積%以上65体積%以下である。PVCaが30体積%以上であることにより、優れた艶消し効果が得られる。PVCaが65体積%以上であることにより、高い耐久性が実現する。PVCaは、31体積%以上であってよく、33体積%以上であってよく、38体積%以上であってよい。PVCaは、64体積%以下であってよく、62体積%以下であってよく、55体積%以下であってよく、50体積%以下であってよく、45体積%以下であってよい。
【0018】
PVCaは、JIS K5500 塗料用語 番号1029に規定された顔料体積率(%)と同義であり、以下の通りである。「塗料の不揮発分全体の容積の中で,顔料,及び/又は体質顔料,及び/又はその他の非塗膜形成要素の固体粒子全体の容積が占める百分率で表した割合。塗膜の性質を同種の塗料間で比較するのに役立つ。」
【0019】
本開示において、PVCaは、針状充填材(C1)、非針状充填材(C2)およびその他の充填材(C3)の合計の容積Vp、エマルション樹脂(A)の容積Vbを用いて、下記式:
PVC(%)=100×Vp/(Vp+Vb)
により求められる。
【0020】
(エマルション樹脂(A))
エマルション樹脂(A)は、溶媒中に分散した粒子状の樹脂であり、分散樹脂粒子と称することもできる。エマルション樹脂(A)は、例えば、原料モノマーを水性溶媒中で乳化重合することによって得られる。以下、分散樹脂粒子および水性溶媒を含む液体を樹脂エマルションという場合がある。
【0021】
エマルション樹脂(A)は、0℃以上20℃以下のガラス転移点(Tg)を有する。Tgが0℃以上であることにより、艶消し塗膜の強度が向上する。Tgが20℃以下であることにより、塗膜の柔軟性が向上する。艶消し塗膜が柔軟であり、かつある程度の強度を有することは、例えば、弾性(伸縮性)のある基材あるいは下塗り層上に塗料組成物を塗装した場合の、艶消し塗膜のワレおよび/またはフクレの抑制に貢献する。
【0022】
エマルション樹脂(A)のTgは、5℃以上であってよく、10℃以上であってよく、15℃以上であってよい。上記樹脂のTgは、19℃以下であってよく、18℃以下であってよい。
【0023】
エマルション樹脂(A)のTgは、実測により求めることができる。あるいは、エマルション樹脂(A)のTgは、原料モノマーの種類および配合量を考慮して、算出してもよい。本明細書において、Tgは、原料モノマーの種類および配合量を考慮して、算出される。
【0024】
具体的には、n種類のモノマーを原料とするエマルション樹脂(A)のTgは、下記のFOX式(式(1))により求められる。式(1)において、Tgnは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(℃)であり、Wnは各モノマーの質量分率であり、W1+W2+・・・+Wn=1である。
(式1) 1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn
【0025】
エマルション樹脂(A)の平均粒子径は、例えば、50nm以上500nm以下である。エマルション樹脂(A)の平均粒子径は、100nm以上であってよく、120nm以上であってよい。エマルション樹脂(A)の平均粒子径は、400nm以下であってよく、300nm以下であってよく、200nm以下であってよい。
【0026】
エマルション樹脂(A)の平均粒子径は、レーザ回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いた体積基準の粒度分布における、50%平均粒子径(D50)である。
【0027】
エマルション樹脂(A)の数平均分子量は、例えば、5,000以上30,000以下である。エマルション樹脂(A)の数平均分子量は、7,000以上であってよい。エマルション樹脂(A)の数平均分子量は、28,000以下であってよい。
【0028】
数平均分子量は、ポリスチレンを標準とするGPC法により決定することができる。
【0029】
塗膜の硬化性の観点から、エマルション樹脂(A)の酸価は、例えば、3mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であってよい。エマルション樹脂(A)の酸価は、3mgKOH/g以上であってよく、5mgKOH/g以上であってよい。エマルション樹脂(A)の酸価は、40mgKOH/g以下であってよく、30mgKOH/g以下であってよい。
【0030】
エマルション樹脂(A)の酸価および水酸基価は、実測により求めることができる。あるいは、エマルション樹脂(A)の酸価および水酸基価は、原料モノマーにおける不飽和モノマーの配合量を考慮して、算出してもよい。
【0031】
エマルション樹脂(A)は、例えば、原料モノマーを乳化重合することによって得られる。乳化重合は、当業者において一般的に行われる方法により行われる。具体的には、必要に応じてアルコール等の有機溶媒を含む水性媒体中に乳化剤を混合し、得られた混合物を加熱および撹拌させながら、原料モノマーおよび重合開始剤を滴下する。原料モノマー、乳化剤および水を予め乳化した乳化混合物を、水性媒体中に滴下してもよい。エマルション樹脂(A)は、典型的には、エマルション状態のアクリル樹脂である。
【0032】
原料モノマーの1つとして、架橋剤(B)と反応し得る官能基を有しているモノマーが用いられる。架橋剤(B)が、1分子中に2つ以上のヒドラジド基を有する化合物である場合、原料モノマーの1つとして、例えば、ケトン基またはアルデヒド基含有モノマーが用いられる。ケトン基またはアルデヒド基含有モノマーとしては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミルスチロール、4~7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(具体的には、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等)、アセトアセトキシエチルメタクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、反応性が高い点で、ジアセトン(メタ)アクリルアミドを用いてよい。
【0033】
架橋剤(B)が、1分子中に2つ以上のカルボジイミド基またはアジリジン基を有する化合物である場合、原料モノマーの1つとして、例えば、カルボキシ基含有モノマーが用いられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、反応性が高い点で、(メタ)アクリル酸を用いてよい。
【0034】
その他の原料モノマーとしては、例えば、α,β-エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。α,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等)、水酸基含有不飽和モノマー(例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε-カプロラクトン付加物)、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン(ST)、α-メチルスチレン、ビニルケトン、t-ブチルスチレン、パラクロロスチレンおよびビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、α-オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0035】
乳化重合は、一段階重合であってよく、二段階重合であってよく、三段階以上の多段階重合であってよい。二段階重合では、原料モノマーの一部をエマルション重合した後、ここに残りの原料モノマーを加えて乳化重合が行われる。
【0036】
重合開始剤の例として、例えば、アゾ系の油性化合物あるいは水性化合物、レドックス系の油性過酸化物あるいは水性過酸化物が挙げられる。アゾ系の油性化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。アゾ系の水性化合物としては、例えば、アニオン系の4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン、カチオン系の2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)が挙げられる。レドックス系の油性過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドおよびt-ブチルパーベンゾエートが挙げられる。レドックス系の水性過酸化物としては、例えば、過硫酸カリおよび過硫酸アンモニウムが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0037】
乳化剤は、当業者において一般的に用いられている乳化剤を用いることができる。乳化剤は、反応性乳化剤であってよい。反応性乳化剤として、例えば、アントックス(Antox)MS-60(日本乳化剤社製)、エレミノールJS-2(三洋化成工業社製)、アデカリアソープNE-20(旭電化社製)、ペレックスSS-H(花王社製)およびアクアロンHS-10(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0038】
分子量を調節するために、ラウリルメルカプタン等のメルカプタン化合物、そしてα-メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を必要に応じて用いることができる。
【0039】
反応温度は重合開始剤により決定され、例えば、アゾ系の重合開始剤では60℃以上90℃以下であり、レドックス系の重合開始剤では30℃以上70℃以下で行うことできる。一般に、反応時間は1時間以上8時間以下である。モノマーの全量に対する重合開始剤の量は、一般に0.1質量%以上5質量%以下であり、0.2質量%以上2質量%以下であってよい。
【0040】
エマルション樹脂(A)は、必要に応じて塩基で中和されていてもよい。
【0041】
(他の樹脂)
艶消し塗料組成物は、エマルション樹脂(A)以外の樹脂を含み得る。
他の樹脂としては、例えば、Tgが0℃未満の樹脂、Tgが20℃超の樹脂、平均粒子径が50nm未満の樹脂粒子、および平均粒子径が200nm超の樹脂粒子が挙げられる。ただし、その含有量は少ないことが望ましい。例えば、他の樹脂の含有量は、艶消し塗料組成物の樹脂固形分質量の5質量%以下であってよく、3質量%以下であってよく、0質量%であってよい。
【0042】
(架橋剤(B))
艶消し塗料組成物は、架橋剤(B)を含む。エマルション樹脂(A)が架橋されることにより、塗膜の強度が向上する。架橋剤(B)としては、例えば、ヒドラジド化合物、カルボジイミド化合物、アジリジン化合物が挙げられる。
【0043】
ヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド、炭酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ピロメリット酸ジヒドラジド、20~100個のヒドラジド基を有するポリアクリル酸のポリヒドラジド、ニトリロトリ酢酸トリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、ジトリヒドラジン-トリアジン、トリヒドラジン-トリアジン、チオカルボヒドラジド、N,N’-ジアミノグアニジン、2-ヒドラジノピリジン-5-カルボン酸ヒドラジド、3-クロル-2-ヒドラジノピリジン-5-カルボン酸ヒドラジド、6-クロル-2-ヒドラジノピリジン-4-カルボン酸ヒドラジド、2,5-ジヒドラジノピリジン-4-カルボン酸、1,4-ジヒドラジノベンゾール、1,3-ジヒドラジノベンゾール、2,3-ジヒドラジンナフタリン、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントインが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、入手し易い点で、アジピン酸ジヒドラジドであってよい。
【0044】
カルボジイミド化合物としては、例えば、変性ポリカルボジイミド化合物が挙げられる。変性ポリカルボジイミド化合物は、1分子中に少なくとも2個のカルボジイミド基を有し、炭素数4以上のモノアルコキシ基で片側末端を封鎖されたポリアルキレンオキサイドユニットを有している。1分子中に含まれるカルボジイミド基の数は、2個以上20個以下であってよい。市販のカルボジイミド化合物としては、例えば、カルボジライトV-02-L2、カルボジライトE-01(いずれも多価カルボジイミド、日清紡ケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0045】
アジリジン化合物としては、例えば、ビスフェニルメタン-ビス、4,4’-N,N’-エチレン尿素が挙げられる。市販のアジリジン化合物としては、例えば、ケミタイトDZ-22E(2価アジリジン、株式会社日本触媒製)が挙げられる。
【0046】
(充填材(C))
艶消し塗料組成物は、充填材(C)を含む。充填材(C)は、アスペクト比(長さ/直径)が3以上の針状充填材(C1)と、吸油量50g/100m以下の非針状充填材(C2)と、を含む。
【0047】
充填材(C)は、着色顔料および光輝性顔料を除く粒子であり、体質顔料を含み得る。本明細書において、体質顔料、着色顔料および光輝性顔料という単語は、当業者にとってよく知られた定義で用いられている。例えば、体質顔料は、通常、それ自身は透明であって、主に塗膜の伸展性調整等に用いられる。着色顔料は、塗膜の色付けのために使用されるものであって、それ自身が色を有している。光輝性顔料は、光を反射することができ、塗膜に光輝性を付与する。
【0048】
《針状充填材(C1)》
針状とは、針のような形状の他、棒および繊維のような細く延びた形状をいう。針状は、直線状に加えて、枝分かれした形状を含む。針状充填材(C1)は、直線状であってよい。
【0049】
針状充填材(C1)のアスペクト比(最大長さ/直径)は、3以上である。言い換えれば、アスペクト比が3以上のものが針状充填材(C1)である。針状充填材(C1)により、艶消し塗膜の強度が向上し、また、艶消し塗膜のワレおよび/またはフクレが抑制される。
【0050】
針状充填材(C1)のアスペクト比および平均アスペクト比として、その供給者が公表しているアスペクト比を採用することができる。針状充填材(C1)のアスペクト比は、最大長さをその直径で除すことにより得られてもよい。針状充填材(C1)の最大長さおよび直径は、その供給者が公表している長さおよび直径を採用することができる。針状充填材(C1)のその他の物性値および非針状充填材(C2)の物性値についても同様に、適宜公表値を採用することができる。
【0051】
充填材(C)の最大長さおよび直径は、試料(例えば、艶消し塗膜の表面、あるいは、艶消し塗料組成物をガラス板に塗装して得られる塗膜の表面)をビデオマイクロスコープ(例えば、キーエンス社製、VK-X 250)で観察することによって得られてよい。着色顔料および光輝性顔料以外の50個の粒子を任意に選択し、これらの最大長さおよび直径を測定し、最大長さを直径で除す。
【0052】
最大長さ/直径が3以上の粒子が、本開示における針状充填材(C1)である。球状、板状あるいは鱗片状であるために長さを観念できないか、あるいは、最大長さ/直径が3未満であって、かつ、吸油量が50g/100g以下の粒子が、非針状充填材(C2)である。針状充填材(C1)にも非針状充填材(C2)にも分類されない粒子は、その他の充填材(C3)である。
【0053】
針状充填材(C1)の平均長さは、例えば、5μm以上60μm以下であってよい。これにより、艶消し塗膜の強度向上と、ワレおよび/またはフクレの抑制効果とが、発揮され易くなる。針状充填材(C1)の平均長さは、10μm以上であってよく、15μm以上であってよい。針状充填材(C1)の平均長さは、50μm以下であってよく、40μm以下であってよい。
【0054】
針状充填材(C1)の平均直径は、例えば、4μm以上20μm以下であってよい。針状充填材(C1)の平均直径は、5μm以上であってよく、6μm以上であってよい。針状充填材(C1)の平均直径は、15μm以下であってよく、10μm以下であってよい。
【0055】
針状充填材(C1)の平均長さおよび平均直径は、例えば、上記の通り決定された任意の20個の針状充填材(C1)の最大長さおよび直径を、平均化することにより得られる。1つの観察視野に20個未満の針状充填材(C1)しか観察されない場合、他の観察視野と併せて合計20個の針状充填材(C1)を選択する。あるいは、1つの観察視野に20個以上の針状充填材(C1)が観察できるように、観察視野を広げてもよい。
【0056】
針状充填材(C1)の平均のアスペクト比は、5以上23以下であってよい。針状充填材(C1)の平均のアスペクト比が5以上であると、艶消し効果がさらに向上する。針状充填材(C1)の平均のアスペクト比が23以下であると、吸油量も小さくなり得るため、エマルション樹脂(A)はより被膜化し易くなる。さらに、タッチアップ性が向上する。針状充填材(C1)の平均のアスペクト比は、6以上であってよく、8以上であってよい。針状充填材(C1)の平均のアスペクト比は、20以下であってよく、15以下であってよい。
【0057】
「タッチアップ」とは、通常の塗装後に、塗り残し部分を塗装したり、傷を補修するために塗装したりする、部分的な塗装をいう。「タッチアップ性」とは、この部分的に塗装された部分と、その下層にある通常の塗装により形成されていた塗膜とが馴染んでおり、これらの境界が分かり難い特性をいう。タッチアップ性は、特に外装の塗装において重要な特性である。タッチアップ性は、主に針状充填材(C1)の形状および配合量に影響され得る。
【0058】
平均のアスペクト比が3以上の充填材は、針状充填材(C1)とみなしてよい。(C1)の針状充填材(C1)の平均のアスペクト比は、上記のようにして、個々に算出された任意の20個の針状充填材(C1)のアスペクト比を、平均化することにより得られる。
【0059】
針状充填材(C1)の吸油量は、エマルション樹脂(A)の被膜化の観点から、100g/100g以下であってよく、75g/100g以下であってよい。針状充填材(C1)の吸油量は、30g/100g以上であってよい。
【0060】
針状充填材(C1)の原料あるいは材質としては、例えば、ケイ酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム、亜鉛華、セピオライト、アタバルジャイト、ゾノライト、珪灰石、ガラス繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維、カーボン繊維、炭酸カルシウムが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。針状充填材(C1)には、体質顔料が含まれる一方、着色顔料および光輝性顔料は含まれない。
【0061】
針状充填材(C1)の含有量は、例えば、艶消し塗料組成物に含まれる樹脂固形分100質量部に対して7質量部以上75質量部以下であってよい。針状充填材(C1)の上記含有量が7質量部以上であると、艶消し塗膜のワレおよび/またはフクレはさらに抑制され得る。針状充填材(C1)の上記含有量が75質量部以下であると、タッチアップ性がさらに向上し得る。針状充填材(C1)の効果が発揮され易くなる。針状充填材(C1)の上記含有量は、10質量部以上であってよく、17質量部以上であってよい。針状充填材(C1)の上記含有量は、70質量部以下であってよく、65質量部以下であってよく、60質量部以下であってよく、50質量部以下であってよい。
【0062】
樹脂固形分とは、艶消し塗料組成物に含まれるエマルション樹脂(A)であって、乾燥後の塗膜に含まれているものである。
【0063】
非針状充填材(C2)に対する針状充填材(C1)の質量割合(針状充填材(C1)/非針状充填材(C2))は、例えば、0.02以上0.5以下であってよい。これにより、艶消し効果と高い耐久性とが両立し易くなる。針状充填材(C1)/非針状充填材(C2)は、0.03以上であってよく、0.06以上であってよい。針状充填材(C1)/非針状充填材(C2)は、0.45以下であってよく、0.35以下であってよい。
【0064】
《非針状充填材(C2)》
非針状とは、針状以外の形状であり、例えば、球状、板状、鱗片状が挙げられる。本開示における非針状充填材(C2)は、着色顔料および光輝性顔料以外であって、針状充填材(C1)に分類されず、かつ、吸油量が50g/100g以下の粒子である。
【0065】
非針状充填材(C2)の吸油量は、45g/100g以下であってよく、40g/100g以下であってよく、35g/100g以下であってよく、30g/100g以下であってよく、28g/100g以下であってよい。
【0066】
非針状充填材(C2)の平均粒子径は、例えば、5μm以上50μm以下であってよい。非針状充填材(C2)の平均粒子径が5μm以上であると、塗膜に凹凸が形成され易くなって、艶消し効果が高まる。非針状充填材(C2)の平均粒子径が50μm以下であると、艶消し塗膜の強度は低下し難い。
【0067】
非針状充填材(C2)の平均粒子径は、6μm以上であってよく、7μm以上であってよい。非針状充填材(C2)の平均粒子径は、35μm以下であってよく、32μm以下であってよく、28μm以下であってよく、26μm以下であってよく、20μm以下であってよい。
【0068】
平均粒子径は、1次粒子径であって、レーザ回折・散乱法により得られた体積基準の粒度分布における50%平均粒子径(D50)である。平均粒子径は、上記のようにビデオマイクロスコープで観察して、算出されてもよい。具体的には、ビデオマイクロスコープの観察視野から、非針状充填材(C2)に分類されたもののうち、任意に20個選択する。それぞれについて、その面積を求め、これと同じ面積を有する円(相当円)の直径を、当該非針状充填材(C2)の直径とみなす。20個の非針状充填材(C2)の直径の平均値が、非針状充填材(C2)の平均粒子径である。
【0069】
非針状充填材(C2)の原料あるいは材質としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、陶土、チャイナクレー、タルク、マイカ、バライト粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウムが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。非針状充填材(C2)には、体質顔料が含まれる一方、着色顔料および光輝性顔料は含まれない。
【0070】
非針状充填材(C2)の含有量は、例えば、艶消し塗料組成物に含まれる樹脂固形分100質量部に対して150質量部以上300質量部以下であってよい。これにより、艶消し効果と高い耐久性とが両立し易くなる。非針状充填材(C2)の上記含有量は、160質量部以上であってよく、170質量部以上であってよい。非針状充填材(C2)の上記含有量は、290質量部以下であってよく、280質量部以下であってよい。
【0071】
《その他の充填材(C3)》
艶消し塗料組成物は、着色顔料および光輝性顔料以外であって、針状充填材(C1)にも非針状充填材(C2)にも分類されないその他の充填材(C3)を含み得る。
【0072】
その他の充填材(C3)は、針状充填材(C1)以外の粒子であって、吸油量が50g/100g超の粒子である。その他の充填材(C3)には、体質顔料が含まれる一方、着色顔料および光輝性顔料は含まれない。その他の充填材(C3)として、典型的には、珪藻土、シリカ、ゼオライトが挙げられる。
【0073】
その他の充填材(C3)の含有量は、本開示の効果が損なわれない限り特に限定されない。その他の充填材(C3)の含有量は、例えば、艶消し塗料組成物に含まれる樹脂固形分100質量部に対して30質量部以下であってよく、20質量部以下であってよい。
【0074】
(溶媒)
艶消し塗料組成物は、溶媒として水を含む。艶消し塗料組成物は、水性溶媒とともに有機溶媒を含んでもよい。艶消し塗料組成物において、溶媒に占める水の割合は、例えば、20質量%以上である。
【0075】
有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤;
プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、メチルメトキシブタノール、エトキシプロパノール、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコール-t-ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、メトキシブタノール、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、ブタノール、プロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;スワゾール、シェルゾール、ミネラルスピリットなどの脂肪族炭化水素系溶剤;キシレン、トルエン、ソルベッソ-100(S-100)、ソルベッソ-150(S-150)などの芳香族系溶剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0076】
(その他の成分)
艶消し塗料組成物は、その他の成分、例えば、着色顔料、粘性剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤(例えばヒンダードアミン)、酸化防止剤、表面調整剤、造膜助剤、防錆剤を含み得る。
【0077】
(用途)
艶消し塗料組成物は、耐久性に優れる塗膜が得られるため、建築物の外装の塗装に適している。建築物の外装としては、例えば、建築物の床、壁、および屋根が挙げられる。艶消し塗料組成物は、例えば、吹付塗装方法およびローラー塗装方法によって、塗装される。艶消し塗料組成物は、建築物の外装の塗装の補修(タッチアップを含む。)に用いられてよい。
【0078】
(調製方法)
艶消し塗料組成物は、当業者において通常用いられる方法により調製される。艶消し塗料組成物は、例えば、エマルション樹脂(A)、架橋剤(B)、針状充填材(C1)および非針状充填材(C2)、さらに必要に応じてその他の成分を、ディスパー、ボールミル、SGミル、ロールミル、プラネタリーミキサー等で混合することにより調製される。
【0079】
[複層塗膜]
本開示に係る複層塗膜は、1以上の下塗り塗膜と、上記の艶消し塗料組成物を用いて下塗り塗膜上に形成された上塗り塗膜(艶消し塗膜)と、を備える。上塗り塗膜(艶消し塗膜)は、上記の通り、60度鏡面光沢度および85度鏡面光沢度がいずれも5以下であり、3以下であり得る。艶消し塗膜単体(例えば、艶消し塗料組成物をガラス板に塗装して得られる塗膜)の60度鏡面光沢度および85度鏡面光沢度が5以下である場合、複層塗膜における上塗り塗膜の60度鏡面光沢度および85度鏡面光沢度も、5以下であると言え、前者が3以下である場合、後者も3以下であると言える。
【0080】
(下塗り塗膜)
複層塗膜は、1以上の下塗り塗膜を備える。下塗り塗膜は、例えば、被塗物上に設けられた第1の下塗り塗膜と、第1の下塗り塗膜上に設けられた第2の下塗り塗膜とを備える。
【0081】
下塗り塗膜の少なくとも1つは、弾性(伸縮性)を有していてよい。艶消し塗膜は優れた強度を有するため、下塗り塗膜が弾性を有する場合であっても、ワレおよび/またはフクレが抑制される。弾性を有するとは、例えば、JIS A 6909:2014 7.26に準じて測定される標準時の伸び率が120%以上であることをいう。
【0082】
下塗り塗膜のJIS A 6909:2014 7.26に準じて測定される標準時の伸び率は、150%以上であってよく、200%以上であってよい。
【0083】
弾性を有する下塗り塗膜としては、例えば、JIS A6909:2014に規定されている建築用仕上塗材のうち、可とう性または防水性を示すものが挙げられる。
【0084】
弾性を有する下塗り塗膜として、具体的には、可とう形外装けい酸質系薄付け仕上げ塗材(可とう形外装薄塗材Si)、可とう形外装合成樹脂エマルション系薄付け仕上げ塗材(可とう形外装薄塗材E)、防水形外装合成樹脂エマルション系薄付け仕上げ塗材(防水形外装薄塗材E)、可とう形ポリマーセメント系複層仕上塗材(可とう形複層塗材CE)、防水形ポリマーセメント系複層仕上塗材(防水形複層塗材CE)、防水形合成樹脂エマルション系複層仕上塗材(防水形複層塗材E)、防水形反応硬化形合成樹脂エマルション系複層仕上塗材(防水形複層塗材RE)、防水形合成樹脂溶液系複層仕上塗材(防水形複層塗材RS)、可とう形合成樹脂エマルション系改修用仕上塗材(可とう形改修塗材E)、可とう形反応硬化形合成樹脂エマルション系改修用仕上塗材(可とう形改修塗材RE)、可とう形ポリマーセメント系改修用仕上塗材(可とう形改修塗材CE)が挙げられる。
【0085】
《第1の下塗り塗膜》
第1の下塗り塗膜は、JIS A 6909における「下塗材:主として下地に対する主材の吸込み調整及び付着性を高める目的で使用するもの」に相当する、第1の下塗り塗料により形成される。第1の下塗り塗膜は、上記の弾性を有する塗膜であってよい。
【0086】
第1の下塗り塗料としては、JIS A 6909における下塗材として従来公知のものが用いられる。第1の下塗り塗料としては、例えば、水性アクリル樹脂エマルション塗料、エポキシ/マイケル硬化系塗料、エポキシ/アミン系塗料、エポキシディスパージョン塗料、2液型ウレタン硬化系塗料が挙げられる。第1の下塗り塗料は、溶剤系であってよく、水性であってよい。環境負荷低減の観点から、第1の下塗り塗料は水性であってよい。
【0087】
第1の下塗り塗膜の乾燥後の厚さは、例えば、3μm以上80μm以下である。第1の下塗り塗膜の乾燥後の厚さは、4μm以上であってよい。第1の下塗り塗膜の乾燥後の厚さは、75μm以下であってよい。
【0088】
《第2の下塗り塗膜》
第2の下塗り塗膜は、JIS A 6909における「主材:主として仕上がり面に立体的又は平たんな模様を形成する目的で使用するもの」に相当する、第2の下塗り塗料により形成される。第2の下塗り塗膜は、上記の弾性を有する塗膜であってよい。
【0089】
第2の下塗り塗料としては、JIS A 6909における主材として従来公知のものが用いられる。第2の下塗り塗料としては、例えば、水性アクリル樹脂エマルション塗料、エポキシ/アミン系塗料、2液型ウレタン硬化系塗料、1液型ウレタン硬化系塗料、カルボジイミド硬化系塗料、アクリル樹脂系塗料、アルキド樹脂系塗料、シリコン樹脂系塗料等が挙げられる。環境負荷低減の観点から、第2の下塗り塗料は水性であってよい。
【0090】
第2の下塗り塗膜の乾燥後の厚さは、例えば、0.5mm以上10mm以下である。第2の下塗り塗膜の乾燥後の厚さは、1mm以上であってよい。第2の下塗り塗膜の乾燥後の厚さは、5mm以下であってよい。
【0091】
(上塗り塗膜)
上塗り塗膜(艶消し塗膜)は、本開示に係る艶消し塗料組成物により形成される。上塗り塗膜の乾燥後の厚さは、例えば、100μm以上150μm以下である。上塗り塗膜の乾燥後の厚さは、70μm以上であってよい。上塗り塗膜の乾燥後の厚さは、175μm以下であってよい。上塗り塗膜の乾燥後の厚さは、最も厚い部分(凹凸の凸部)の任意の10点の平均値である。
【0092】
第1,第2の下塗り塗料および艶消し塗料組成物は、例えば、刷毛、ローラー、エアスプレー(典型的には、タイルガン)、エアレススプレー、コテを用いる方法により塗布される。塗布量は、用途、目的、被塗物の種類に応じて適宜設定される。
【0093】
各塗膜は、自然乾燥され得る。自然乾燥は、常温(23℃±3℃)で、2時間以上、24時間以上、さらには1週間以上行われてよい。
【0094】
(被塗物)
複層塗膜が形成される被塗物としては、例えば、金属基材、その他の無機基材、プラスチック基材が挙げられる。金属基材としては、例えば、アルミニウム板、鉄板、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛メッキ鋼板、ステンレス板、ブリキ板が挙げられる。その他の無機基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、セメントボード、押出形成板、スレート板、PC板、ALC板、JIS A5422、JIS A 5430に記載された窯業系サイディング材あるいは繊維強化セメント板等の窯業建材、ガラス基材が挙げられる。上記プラスチック基材としては、アクリル板、ポリ塩化ビニル板、ポリカーボネート板、ABS板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリオレフィン板が挙げられる。
【0095】
被塗物は、上記基材と、当該基材を覆う古い塗膜(複層塗膜であってよい)を有していてよい。すなわち、本開示の複層塗膜は、補修のために設けられてもよい。
【実施例0096】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。表1~4に記載された成分の詳細は、以下の通りである。
【0097】
エマルション樹脂(A)
エマルション樹脂(A1)を以下のようにして製造した。エマルション樹脂(A2)~(A4)および(a1)を、原料モノマーの混合量を表1に示すように変えたこと以外は、エマルション樹脂(A1)と同様にして製造した。表中、配合量は、固形分質量として示されている。
【0098】
[エマルション樹脂(A1)の製造]
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、還流冷却器および撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、イオン交換水34.5部、および、反応性乳化剤(花王社製、商品名:ペレックスSS-H、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)0.3部を仕込み、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。
【0099】
別途、スチレン(ST)15部、2-エチルへキシルアクリレート(2EHA)35.35部、メチルメタクリレート(MMA)35.35部、エチレングリコールジメタクリレート(EGDM)11部、ジアセトンアクリルアミド(DAAM)1部およびメタクリル酸(MAA)2.3部からなるモノマー混合液を調製した。このモノマー混合液にドデシルメルカプタン0.6部を加えた溶液を、ペレックスSS-Hを1.2部およびイオン交換水を50部混合した水溶液に加え、ミキサーを用いて乳化させて、プレエマルションを調製した。
【0100】
上記プレエマルションと、過硫酸アンモニウム0.3部をイオン交換水13部に溶解させた開始剤水溶液とを、上記セパラブルフラスコに、別個の滴下漏斗から同時に滴下した。前者は120分間、後者は150分間にわたって均等に滴下した。滴下終了後、80度を維持して、さらに120分間反応を継続した。冷却後、用いたメタクリル酸の10モル%に相当するアンモニア水を加えて中和した。中和物を200メッシュの金網で濾過し、Tg17℃、平均粒子径130nmのエマルション樹脂(A1)を含むエマルション(樹脂固形分50%)を得た。
【0101】
【表1】
【0102】
架橋剤(B)
アジピン酸ジヒドラジド、商品名:ADH、株式会社日本ファインケム製
【0103】
針状充填材(C1)
(C11)商品名:WFA90、日本タルク株式会社製、ケイ酸カルシウム、アスペクト比24
(C12)商品名:WFB10、日本タルク株式会社製、ケイ酸カルシウム、アスペクト比12
(C13)商品名:KGP-H65、関西マテック株式会社製、ケイ酸カルシウム、アスペクト比11
(C14)商品名:WFA90、日本タルク株式会社製、ケイ酸カルシウム、アスペクト比3
【0104】
非針状充填材(C2)
(C21)商品名:R-50A、丸尾カルシウム株式会社製、炭酸カルシウム、D50:15μm、吸油量:30g/100g
(C22)商品名:RS-413A、富士タルク工業株式会社製、タルク、D50:12μm、吸油量:25g/100g
(C23)商品名:R重炭、丸尾カルシウム株式会社製、重質炭酸カルシウム、D50:30μm、吸油量:15g/100g
【0105】
その他の充填材(C3)
珪藻土、商品名:珪藻土ラヂオライトF、昭和化学工業株式会社製、D50:21μm、吸油量:150g/100g、不定形
【0106】
[実施例1]
(1)艶消し塗料組成物の調製
エマルション樹脂(A1)を100部、針状充填材(C13)を35部、非針状充填材(C23)を213部、架橋剤(B)を0.46部およびイオン交換水35部を混合して、艶消し塗料組成物を調製した。
【0107】
(2)複層塗膜の作製
スレート板(タテ15cm、ヨコ7cm)に、第1の下塗り塗料(日本ペイント社製、商品名:ニッペ水性カチオンシーラー透明)を中毛ローラーで塗装して、第1の下塗り塗膜を得た。続いて、水性の第2の下塗り塗料(商品名:DANフィラーエポ、日本ペイント株式会社製、防水形複層塗材RE)を砂骨ローラー(標準目)で第1の下塗り塗膜上に塗装し、室温で1日養生して、第2の下塗り塗膜を得た。最後に、艶消し塗料組成物を中毛ローラー(13mm)で2回塗装し、室温で7日間養生して、艶消し塗膜を備える複層塗膜を形成した。艶消し塗料組成物の1回目と2回目の塗装は、3時間空けて行った。
【0108】
第2の下塗り塗料を用いて、JIS A 6909:2014 7.26 伸び試験に準じて試験体を作製し、標準時における伸び率を測定した。第2の下塗り塗膜の上記の伸び率は、240%であった。
【0109】
[実施例2~14および比較例1~5]
実施例1と同様にして各成分を表2~4に示す配合量で混合して、実施例2~14および比較例1~5の艶消し塗料組成物を調製した。
この艶消し塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして複層塗膜を作製した。
【0110】
[評価]
艶消し塗料組成物および塗膜の評価を、下記の通りに行った。塗膜の評価は、以下の通りに作製した試験板を用いて行った。評価結果を表2~4に示す。表中、配合量は、固形分質量として示されている。
【0111】
(a)鏡面光沢度
ガラス板に、ドクターブレード(塗布厚6mil)で艶消し塗料組成物を塗装し、室温で1日静置して、艶消し塗膜を得た。K 5600-4-7:1999 鏡面光沢度に準拠して、光沢計(MULTI GLOSS 268A、KONICA MINOLTA社製)を用いて、艶消し塗膜の60度鏡面光沢度および85度鏡面光沢度を測定した。それぞれの測定結果を、以下の評価基準に従って評価した。
【0112】
[評価基準]
A 2.5以下
B 2.5超3.0以下
C 3.0超
【0113】
(b)耐久性(温冷繰返し試験)
上記の複層塗膜が形成されたスレート板の側面および背面を、溶剤系2液型塗料でシールして、試験板とした。
この試験板に対して、JIS A 6909:2014 7.11に準じて、温冷繰返し試験を行った。具体的には、試験板を23±2℃の上水道水中に18時間浸漬した後、直ちに-20±2℃の恒温器中で3時間冷却した。次いで、直ちに50±3℃の別の恒温器中で3時間加温した。この24時間を1サイクルとする操作を10回繰り返した後、試験板を試験室に2時間静置した。最後に、塗膜のワレおよびフクレの有無を目視で確認した。確認結果を以下の評価基準に従って評価した。
【0114】
[評価基準:ワレ]
A ワレが認められない
B ルーペを用いて確認できる、微細なワレ(クラック)が認められる
C 目視可能なワレが認められる
【0115】
[評価基準:フクレ]
A フクレが認められない
B 試験板の一部に3mm以下のフクレが認められる
C 3mm超のフクレが認められるか、あるいは、試験板全体に3mm以下のフクレが認められる
【0116】
(c)タッチアップ性
タテ90cm、ヨコ45cmのスレート板に、実施例1と同様にして、第1の下塗り塗膜および第2の下塗り塗膜を形成した。次に、艶消し塗料組成物を中毛ローラー(13mm)で2回塗装し、室温で3時間養生した。その後、小ハケにて、艶消し塗料組成物を部分的に塗装して、室温で16時間養生した。得られた艶消し塗膜の、ローラー塗装部と小ハケによるタッチアップ部との仕上がりの差を、目視で確認した。確認結果を以下の評価基準に従って評価した。
【0117】
[評価基準]
A ローラー塗装部とタッチアップ部との差が目立たず、両者を区別できない
B よく見ると、タッチアップ部が判別できる
C ローラー塗装部とタッチアップ部とが明らかに異なり、両者を区別できる
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
本開示は以下の態様を含む。
[1]
エマルション樹脂(A)と、架橋剤(B)と、充填材(C)と、を含む、艶消し塗料組成物であって、
前記エマルション樹脂(A)は、
平均粒子径が50nm以上500nm以下、かつ、
ガラス転移温度が0℃以上20℃以下であり、
前記充填材(C)は、
アスペクト比(最大長さ/直径)が3以上の針状充填材(C1)と、
吸油量が50g/100g以下の非針状充填材(C2)と、を含み、
上記艶消し塗料組成物から得られる塗膜における前記充填材(C)の体積率が、30体積%以上65体積%以下である、艶消し塗料組成物。
[2]
前記針状充填材(C1)の前記アスペクト比の平均値は、5以上23以下である、上記[1]の艶消し塗料組成物。
[3]
前記針状充填材(C1)の含有量は、前記エマルション樹脂(A)の固形分100質量部に対して7質量部以上75質量部以下である、上記[1]または[2]の艶消し塗料組成物。
[4]
前記非針状充填材(C2)の含有量は、前記エマルション樹脂(A)の固形分100質量部に対して150質量部以上300質量部以下である、上記[1]~[3]いずれかの艶消し塗料組成物。
[5]
1以上の下塗り塗膜と、
前記下塗り塗膜上に設けられた上塗り塗膜と、を備え、
前記上塗り塗膜は、上記[1]~[4]いずれかの塗料組成物により形成される、複層塗膜。
[6]
前記上塗り塗膜は、60度鏡面光沢度および85度鏡面光沢度がいずれも3以下である、上記[5]の複層塗膜。
[7]
前記下塗り塗膜の少なくとも1つは、JIS A 6909:2014 7.26 伸び試験に準じて測定される標準時の伸び率が120%以上である、上記[5]または[6]の複層塗膜。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の艶消し塗料組成物によれば、優れた艶消し感と高い耐久性とを兼ね備える塗膜が得られるため、建築物の外装の塗装に特に有用である。