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  • 特開-エンジンシステム 図1
  • 特開-エンジンシステム 図2
  • 特開-エンジンシステム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171513
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
F02D45/00 368F
F02D45/00 366
F02D45/00 360A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088559
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 崇文
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384BA04
3G384BA09
3G384BA13
3G384BA31
3G384BA58
3G384CA01
3G384DA12
3G384DA27
3G384EA01
3G384FA01Z
3G384FA28Z
3G384FA37Z
3G384FA40Z
(57)【要約】
【課題】ヒータへの通電を適切なタイミングで開始させることができる技術を提供する。
【解決手段】エンジンシステムは、エンジンと、エンジンの冷却水の水温を検出する水温センサと、エンジンに吸入される空気量を検出する空気量センサと、エンジンの排ガスに含まれる酸素量を検出する酸素センサと、酸素センサを加熱するためのヒータと、エンジンの始動後に、空気量センサによる検出値の積算空気量が所定空気量に達し、かつ、水温センサによる検出温度が閾値温度に達したときに、ヒータへの通電を開始する制御装置と、を備えている。制御装置は、水温センサによる検出温度が閾値温度に達する前に、積算空気量が所定空気量に達したときに、(1)エンジンの始動時における冷却水の水温に、所定空気量から予側される温度上昇幅を加算して、冷却水の予測される到達水温を推定し、(2)水温センサによって検出された実際の到達水温を、推定された到達水温で除算した温度割合に応じて、閾値温度を補正する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンシステムであって、
エンジンと、
前記エンジンの冷却水の水温を検出する水温センサと、
前記エンジンに吸入される空気量を検出する空気量センサと、
前記エンジンの排ガスに含まれる酸素量を検出する酸素センサと、
前記酸素センサを加熱するためのヒータと、
前記エンジンの始動後に、前記空気量センサによる検出値の積算空気量が所定空気量に達し、かつ、前記水温センサによる検出温度が閾値温度に達したときに、前記ヒータへの通電を開始する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記水温センサによる前記検出温度が前記閾値温度に達する前に、前記積算空気量が前記所定空気量に達したときに、
(1)前記エンジンの始動時における前記冷却水の水温に、前記所定空気量から予側される温度上昇幅を加算して、前記冷却水の予測される到達水温を推定し、
(2)前記水温センサによって検出された実際の到達水温を、前記推定された到達水温で除算した温度割合に応じて、前記閾値温度を補正する、
エンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、エンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、エンジンと、エンジンの冷却水の水温を検出する水温センサと、エンジンに吸入される空気量を検出する空気量センサと、エンジンの排ガスに含まれる酸素量を検出する酸素センサと、酸素センサを加熱するためのヒータと、制御装置と、を備えるエンジンシステムが開示されている。制御装置は、エンジン水温が、閾値温度(空燃比フィードバック制御開始水温-所定値)に到達した時点で、ヒータへの通電を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-286116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のエンジンシステムでは、制御装置は、酸素センサによって検出される酸素量を利用して、実際の空燃比を目標空燃比に近づけるための空燃比フィードバック制御を行っている。このようなシステムにおいて、酸素センサによって検出される酸素量の検出精度を維持するためには、酸素センサが活性化されている必要がある。特許文献1のエンジンシステムでは、ヒータを加熱させることによって、酸素センサが活性化されている。大気中の水蒸気の一部が結露することによって、酸素センサに水が付着することがある。この状態においてヒータが加熱されると、ヒータに付着している水の突沸によって酸素センサの素子が割れてしまうおそれがある。このような事態を防止するために、エンジンの始動後における空気量の積算値が所定空気量に到達し、かつ、エンジン水温が閾値温度以上になる場合に、ヒータへの通電を開始させる構成が考えられる。エンジンの始動後における空気量の積算値が所定空気量に到達し、かつ、エンジン水温が閾値温度以上になっていれば、エンジンに付着していた水が蒸発している可能性が高いからである。しかしながら、エンジンのサーモスタットが故障した等の理由で、エンジン水温が閾値温度以上にならない状況が発生し得る。この場合、ヒータへの通電が開始されないために、空燃比フィードバック制御が行うことができなくなる。
【0005】
本明細書では、ヒータへの通電を適切なタイミングで開始させることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術の第1の態様では、エンジンと、前記エンジンの冷却水の水温を検出する水温センサと、前記エンジンに吸入される空気量を検出する空気量センサと、前記エンジンの排ガスに含まれる酸素量を検出する酸素センサと、前記酸素センサを加熱するためのヒータと、前記エンジンの始動後に、前記空気量センサによる検出値の積算空気量が所定空気量に達し、かつ、前記水温センサによる検出温度が閾値温度に達したときに、前記ヒータへの通電を開始する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記水温センサによる前記検出温度が前記閾値温度に達する前に、前記積算空気量が前記所定空気量に達したときに、(1)前記エンジンの始動時における前記冷却水の温度に、前記所定空気量から予側される温度上昇幅を加算して、前記冷却水の予測される到達水温を推定し、(2)前記水温センサによって検出された実際の到達水温を、前記推定された到達水温で除算した温度割合に応じて、前記閾値温度を補正する。
【0007】
上記の構成によると、制御装置は、実際の到達水温を推定された到達水温で除算した温度割合に応じて閾値温度を補正し、エンジン水温が閾値温度以上になる場合に、ヒータへの通電を開始する。この場合、エンジン水温の上昇率に応じて、閾値温度が補正される。従って、エンジン水温が閾値温度以上にならない状況が発生することを抑制することができ、ヒータへの通電を適切なタイミングで開始させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両10の模式図。
図2】制御装置50によって実行されるヒータ処理のフローチャートを示す図である。
図3】ケースA、ケースBにおけるタイムチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施例)
図1に示すように、車両10は、エンジンシステム20を備えている。車両10は、エンジン車両、ハイブリッド車両を含む。
【0010】
エンジンシステム20は、エンジン30と、インジェクタ32と、触媒34と、水温センサ36と、空気量センサ38と、酸素センサ40と、ヒータ42と、制御装置50と、を備えている。
【0011】
インジェクタ32は、燃料供給通路を介して燃料タンクに接続されている(いずれも図示省略)。インジェクタ32は、燃料タンクから供給される燃料をエンジン30に供給する。
【0012】
触媒34は、エンジン30から排出される排ガスに含まれている化学物質を浄化する。触媒34は、例えば三元触媒であり、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、及び窒素酸化物(NOx)を酸化又は還元する。
【0013】
水温センサ36は、エンジン30の冷却水の水温であるエンジン水温を検出する。空気量センサ38は、エンジン30に吸入される空気量を検出する。酸素センサ40は、エンジン30から排出される排ガスに含まれる酸素量を検出する。ヒータ42は、酸素センサ40を加熱する。
【0014】
制御装置50は、CPU52と、ROM及びRAM等のメモリ54と、を備えている。CPU52は、メモリ54に記憶されているプログラム56に従って、様々な処理を実行する。CPU52は、酸素センサ40によって検出される酸素量を利用して、実際の空燃比を目標空燃比に近づけるための空燃比フィードバック制御を実行する。具体的には、CPU52は、実際の空燃比が目標空燃比に一致するように、インジェクタ32の動作を制御する。空燃比フィードバック制御は、触媒34の浄化作用を最大化するための制御である。
【0015】
メモリ54には、さらに、基準温度と、エンジン水温推定情報と、が記憶されている。基準温度及びエンジン水温推定情報は、後述するヒータ処理(図2参照)で利用される情報である。基準温度は、ヒータ42への通電を開始するためのエンジン水温の閾値温度の基準値である。一例ではあるが、基準温度は、75℃である。エンジン水温推定情報は、エンジン30の始動後における空気量の積算値が所定空気量に到達した際に予測される冷却水のエンジン水温である到達水温を推定するための情報である。一例ではあるが、エンジン水温推定情報には、エンジン30の始動時におけるエンジン水温である始動時水温に対する温度上昇幅が記憶される。
【0016】
(ヒータ処理;図2
図2を参照して、制御装置50のCPU52によって実行されるヒータ処理について説明する。制御装置50は、エンジン30が始動する場合に、図2の処理を開始する。
【0017】
S10において、制御装置50は、始動時水温をメモリ54に記憶する。
【0018】
S12において、制御装置50は、エンジン30の始動後における空気量の積算値が所定空気量以上になることを監視する。制御装置50は、積算値が所定空気量以上になる場合に、S12でYESと判断し、S14に進む。所定空気量は、酸素センサ40に付着されている水が突沸せずに、緩慢に蒸発するのに十分な値が設定される。
【0019】
S14において、制御装置50は、メモリ54に記憶されている始動時水温とエンジン水温推定情報とを利用して、積算値が所定空気量に到達した際に予測される冷却水の到達水温を推定する。本実施例では、制御装置50は、始動時水温に、所定空気量から予側される温度上昇幅を加算して、到達水温を推定する。
【0020】
S16において、制御装置50は、水温センサ36による検出温度を、積算値が所定空気量に到達した際の冷却水の実際の到達水温として特定し、実際の到達水温を推定された到達水温で除算する(推定された到達水温/実際の到達水温)ことによって温度割合を算出する。
【0021】
S18において、制御装置50は、S16で算出された温度割合とメモリ54内の基準温度とを利用して、閾値温度を決定する。具体的には、制御装置50は、温度割合が「1」以下である場合に、基準温度に温度割合を乗算する(基準温度*温度割合)ことによって、閾値温度を決定する。なお、制御装置50は、温度割合が「1」よりも大きい場合、基準温度を閾値温度として決定する。このように、制御装置50は、温度割合が「1」以下である場合に、基準温度を補正することによって、閾値温度を決定する。
【0022】
S20において、制御装置50は、エンジン水温がS18で決定された閾値温度以上になることを監視する。制御装置50は、エンジン水温が閾値温度以上になる場合に、S20でYESと判断し、S22に進む。
【0023】
S22において、制御装置50は、ヒータ42への通電を開始する。これにより、ヒータ42が活性化される。
【0024】
S24において、制御装置50は、酸素センサ40によって検出される空気量を利用した空燃比フィードバック制御を開始する。制御装置50は、S24が終了すると、図2の処理を終了する。
【0025】
(ケースA、ケースB;図3
図3を参照して、図2のヒータ処理によって実現されるケースA、ケースBについて説明する。図3のタイムチャートにおいて、縦軸はエンジン水温を示す。ケースAでは、エンジン30のサーモスタット(図示省略)が正常であり、ケースBでは、エンジン30のサーモスタットが故障している。図3では、ケースAにおけるエンジン水温の推移を細線で示し、ケースBにおけるエンジン水温の推移を太線で示している。ケースA、Bでは、時刻T0においてエンジン30が始動される。
【0026】
(ケースA)
時刻T0において、制御装置50は、始動時水温TE1をメモリ54に記憶する(図2のS10)。次いで、時刻T1において、制御装置50は、積算値が所定空気量以上になったと判断し(S12)、始動時水温TE1とエンジン水温推定情報とを利用して、到達水温TE2を推定する(S14)。次いで、制御装置50は、実際の到達水温TE3を特定し、温度割合(実際の到達水温TE3/推定された到達水温TE2)を算出する(S16)。本ケースでは、実際の到達水温TE3が推定された到達水温TE2よりも高いために、温度割合は「1」より大きい。次いで、制御装置50は、温度割合が「1」よりも大きいと判断し、基準温度TESを閾値温度として決定する(S18)。
【0027】
時刻T2において、制御装置50は、エンジン水温が閾値温度以上になったと判断し(S20でYES)、ヒータ42への通電を開始し(S22)、空燃比フィードバック制御を開始する(S24)。
【0028】
(ケースB)
ケースAと同様に、時刻T0において、制御装置50は、始動時水温TE1をメモリ54に記憶する(図2のS10)。次いで、時刻T1において、制御装置50は、積算値が所定空気量以上になったと判断し(S12)、始動時水温TE1とエンジン水温推定情報とを利用して、到達水温TE2を推定する(S14)。次いで、制御装置50は、実際の到達水温TE13を特定し、温度割合(実際の到達水温TE13/推定された到達水温TE2)を算出する(S16)。本ケースでは、実際の到達水温TE13が推定された到達水温TE2よりも低いために、温度割合は「1」よりも小さい。次いで、制御装置50は、基準温度TESに温度割合を乗算することによって、閾値温度TE14を決定する(S18)。閾値温度TE14は、ケースAの閾値温度TE4よりも低い。
【0029】
時刻T12において、制御装置50は、エンジン水温が閾値温度TE14以上になったと判断し(S20でYES)、ヒータ42への通電を開始し(S22)、空燃比フィードバック制御を開始する(S24)。
【0030】
上述のように、エンジンシステム20は、エンジン30と、エンジン30の冷却水のエンジン水温を検出する水温センサ36と、エンジン30に吸入される空気量を検出する空気量センサ38と、エンジン30の排ガスに含まれる酸素量を検出する酸素センサ40と、酸素センサ40を加熱するためのヒータ42と、エンジン30の始動後に、空気量センサ38による検出値の積算空気量が所定空気量に達し(図2のS12でYES)、かつ、水温センサ36による検出温度が閾値温度に達したとき(S20でYES)に、ヒータ42への通電を開始する(S22)制御装置50と、を備えている。制御装置50は、水温センサ36による検出温度が閾値温度に達する前に、積算空気量が所定空気量に達したときに、(1)エンジン30の始動時における冷却水の水温に、所定空気量から予側される温度上昇幅を加算して、冷却水の予測される到達水温を推定し(S14)、(2)水温センサ36によって検出された実際の到達水温を、推定された到達水温で除算した温度割合に応じて、閾値温度を補正する(S16、S18)。
【0031】
上記の構成によると、制御装置50は、実際の到達水温を推定された到達水温で除算した温度割合に応じて閾値温度を決定し、エンジン水温が閾値温度以上になる場合に、ヒータ42への通電を開始する。この場合、エンジン水温の上昇率に応じて、閾値温度が補正される。従って、エンジン水温が閾値温度以上にならない状況が発生することを抑制することができ、ヒータ42への通電を適切なタイミングで開始させることができる。
【符号の説明】
【0032】
10:車両、20:エンジンシステム、30:エンジン、32:インジェクタ、34:触媒、36:水温センサ、38:空気量センサ、40:酸素センサ、42:ヒータ、50:制御装置、52:CPU、54:メモリ、56:プログラム
図1
図2
図3