(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171516
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】メタノール燃料船
(51)【国際特許分類】
B63H 21/38 20060101AFI20241205BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B63H21/38 B
F02M37/00 301J
F02M37/00 341C
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088565
(22)【出願日】2023-05-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】511161362
【氏名又は名称】常石造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132964
【弁理士】
【氏名又は名称】信末 孝之
(72)【発明者】
【氏名】関 和隆
(72)【発明者】
【氏名】貞近 倫夫
(72)【発明者】
【氏名】石川 倫浩
(57)【要約】
【課題】貨物の積載容量減少の抑制、メタノールの漏洩を考慮した装置の簡略化と危険エリアの最小化、メタノールタンクの容量を最大限に取ることが可能な、メタノール燃料船を提供する。
【解決手段】メタノール燃料船200は、居住区1より船尾側の上甲板2上に燃料用のメタノールタンク10を備えたものである。メタノールタンク10は、空間層13を有する二重構造タンクであることが好ましい。また、居住区1の船尾壁9を二重構造タンクの船首側の外殻11aとすることが好ましい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
居住区より船尾側の上甲板上に燃料用のメタノールタンクを備えたメタノール燃料船。
【請求項2】
前記メタノールタンクが、空間層を有する二重構造タンクであることを特徴とする請求項1に記載のメタノール燃料船。
【請求項3】
前記居住区の船尾壁を前記二重構造タンクの船首側の外殻としたことを特徴とする請求項2に記載のメタノール燃料船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールを燃料とする船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶の燃料としては主に重油が使用されているが、排気ガスに含まれる窒素酸化物、硫黄酸化物、二酸化炭素等の排出量について、国際条約などによる規制が強化されてきている。
【0003】
これに対して、環境に優しいクリーンな燃料として、メタノールを燃料とした船舶が提案されている。
【0004】
特許文献1には、メタノールを輸送するための船舶において、メタノール貯蔵用タンクから取り出したメタノールを、ディーゼルエンジンの燃料として使用したものや、メタノールの改質により得られる水素ガスを利用して燃料電池により発電し電気推進式とした船舶に関する発明が記載されている。
【0005】
特許文献2には、メタノール燃料タンク12を上甲板上に配置し、内燃機関11に供給するようにした船舶に関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-167189号公報
【特許文献2】特開2015-221645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、燃料用のメタノールタンクを上甲板上に配置する場合には、以下のような問題がある。
【0008】
貨物船の場合、船倉開口部として使用できるエリアが犠牲となり船倉容積が減少したり、コンテナを積載するエリアが犠牲となり積載容量が減少したりしてしまう。
【0009】
また、漏洩を考慮してタンク下全周のドリップトレイや緊急冷却用の水噴霧装置が必要となり、さらにドリップトレイとタンク全周からは危険エリアが生じるため、上甲板上の艤装配置・仕様、脱出経路など様々な点を考慮しなければならず、コストアップにつながる。さらに、タンクの配置や荷役作業の種類によっては、機械的な保護も求められる。
【0010】
一方で、メタノールは重油に比べて容積効率が低いため、できるだけ多くのメタノールを貯蔵するためのメタノールタンクの容量も必要になる。
【0011】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、貨物の積載容量減少の抑制、メタノールの漏洩を考慮した装置の簡略化と危険エリアの最小化、メタノールタンクの容量を最大限に取ることが可能な、メタノール燃料船を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のメタノール燃料船は、居住区より船尾側の上甲板上に燃料用のメタノールタンクを備えたものである。
【0013】
また好ましくは、前記メタノールタンクが、空間層を有する二重構造タンクであることを特徴とするものである。
【0014】
また好ましくは、前記居住区の船尾壁を前記二重構造タンクの船首側の外殻としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメタノール燃料船は、居住区より船尾側の上甲板上に燃料用のメタノールタンクを備えたものであるので、メタノールタンクの下方には船倉が存在しておらず、メタノールタンクの設置によって船倉容積が減少することはない。また、居住区の船尾側にメタノールタンクを配置したことにより、船舶の風圧抵抗の増加を最小限に抑えることができる。
【0016】
また、メタノールタンクを、空間層を有する二重構造タンクとすることにより、メタノールの漏洩リスクが低下するため、ドリップトレイや緊急冷却用の水噴霧装置の簡略化や危険エリアの最小化が可能となる。
【0017】
また、居住区の船尾壁を二重構造タンクの船首側の外殻とすることにより、メタノールタンクと居住区を一体化して、二重構造タンクでありながらもタンク容量を確保することができる。
【0018】
このように、本発明によれば、貨物の積載容量減少の抑制、メタノールの漏洩を考慮した装置の簡略化と危険エリアの最小化、メタノールタンクの容量を最大限に取ることが可能な、メタノール燃料船を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態1に係るメタノール燃料船のメタノールタンク配置図である。
【
図2】実施形態1に係るメタノール燃料船の船尾部を示す(a)側面図、(b)平面図である。
【
図3】実施形態1の変形例に係るメタノール燃料船のメタノールタンク配置図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係るメタノール燃料船のメタノールタンク配置図である。
【
図5】実施形態2に係るメタノール燃料船の船尾部を示す(a)側面図、(b)平面図である。
【
図6】実施形態2の変形例に係るメタノール燃料船のメタノールタンク配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1乃至
図6を参照して、本発明の実施形態に係るメタノール燃料船について説明する。本実施形態に係るメタノール燃料船は、船尾部近傍に居住区を備えたバラ積み船、コンテナ船、タンカーなどの貨物船である。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るメタノール燃料船100のメタノールタンク配置図である。メタノール燃料船100の船尾部近傍には、居住区1が配置されている。メタノール燃料船100上甲板は、居住区1より船首側の上甲板2と、居住区1より船尾側の上甲板3とに区分されている。
【0022】
居住区1の下方の船体内部には機関室4があり、主機関5が配置されている。主機関5の動力はプロペラ6に伝達されて、メタノール燃料船100の推進力となる。プロペラ6の後方には舵7が配置されている。
【0023】
居住区1より船尾側の上甲板3上には、主機関5の燃料用のメタノールタンク10が設置されている。メタノールタンク10に貯蔵されたメタノールは配管8を経由して主機関5に供給されるようになっている。なお、メタノールの供給にあたっては、図示しない制御機器等が使用される。
【0024】
メタノールタンク10が設置された居住区1より船尾側の上甲板3は、その下方に船倉が存在しておらず、メタノールタンクの設置による船倉容積の減少はない。
【0025】
メタノールタンク10は、外殻11及び内殻12を有する二重構造タンクである。外殻11と内殻12との二重構造は、側壁部及び底壁部に適用されている。外殻11と内殻12との間には空間層13(コファダム)が形成されており、空間層13には空気が存在している。このように、二重構造とすることにより、メタノールの漏洩リスクが低下するため、ドリップトレイや緊急冷却用の水噴霧装置の簡略化や危険エリアの最小化が可能となる。内殻12の内側はメタノールの収容部14となっている。
【0026】
なお、メタノールタンク10の外殻11のうち船首側の外殻を外殻11aとすると、外殻11aと居住区1の船尾壁9との間には隙間が存在している。
【0027】
図2は、メタノール燃料船100の船尾部を示す(a)側面図、(b)平面図である。
図1では、居住区1とメタノールタンク10との位置関係を説明するために省略したが、居住区1の船尾側に設置されたメタノールタンク10の両舷側には、排ガス管を囲うケーシング20及びその上部の煙突30が配置されている。
【0028】
ケーシングや煙突は、居住区1の真後ろに配置されるのが一般的であるが、本実施形態では本来ケーシングや煙突が配置される居住区1の真後ろにメタノールタンク10を配置し、ケーシング20や煙突30を両舷側に配置することで、これらのケーシング20や煙突30を適切に危険エリアからかわすようになっている。
【0029】
なお、
図3に示す変形例のように、メタノールタンク10の上部(頂部)についても二重構造とすることができ、これにより機械的保護とみなされるので、タンクの配置や荷役作業の種類による機械的な保護の要請にも対応できる。
【0030】
実施形態1に係るメタノール燃料船100は、居住区1より船尾側の上甲板3上に燃料用のメタノールタンク10を備えたものであるので、メタノールタンク10の下方には船倉が存在しておらず、メタノールタンク10の設置によって船倉容積が減少することはない。また、居住区1の船尾側にメタノールタンク10を配置したことにより、船舶の風圧抵抗の増加を最小限に抑えることができる。
【0031】
また、メタノールタンク10を、空間層を有する二重構造タンクとすることにより、メタノールの漏洩リスクが低下するため、ドリップトレイや緊急冷却用の水噴霧装置の簡略化や危険エリアの最小化が可能となる。
【0032】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2に係るメタノール燃料船200のメタノールタンク配置図である。
図5は、メタノール燃料船200の船尾部を示す(a)側面図、(b)平面図である。メタノール燃料船200は、実施形態1に係るメタノール燃料船100とほぼ同様の構成であり、共通する部分には共通の符号を付し説明を省略する。
【0033】
メタノール燃料船200のメタノールタンク10は、実施形態1と同様に、居住区1より船尾側の上甲板3上に設置され二重構造タンクであり、外殻11と内殻12との間に空間層13が形成されている。一方で、実施形態2においては、メタノールタンク10(二重構造タンク)の船首側の外殻11aが、居住区1の船尾壁9と兼用されている。すなわち、居住区1の船尾壁9を二重構造タンクの船首側の外殻11aとしたものである。
【0034】
メタノールタンク10を二重構造タンクとすることで、メタノールの漏洩リスクは低下するがタンク容量は低下してしまう。これに対して、船首側の外殻11aを居住区1の船尾壁9と兼用することにより、メタノールタンク10が居住区1と一体化されて、両者の隙間部分を有効活用してタンク容量を増加させることができる。
【0035】
なお、実施形態2においても、
図6に示す変形例のように、メタノールタンク10の上部(頂部)についても二重構造とすることができる。
【0036】
実施形態2に係るメタノール燃料船200は、居住区1の船尾壁9を二重構造タンクの船首側の外殻11aとすることにより、メタノールタンクと居住区を一体化して、二重構造タンクでありながらもタンク容量を確保することができる。
【0037】
このように、本実施形態に係るメタノール燃料船は、貨物の積載容量減少の抑制、メタノールの漏洩を考慮した装置の簡略化と危険エリアの最小化、メタノールタンクの容量を最大限に取ることが可能なものである。
【0038】
以上、本発明の実施形態に係るメタノール燃料船について説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるわけではなく、その他種々の変更が可能である。
【0039】
例えば、本発明において「上甲板上にメタノールタンクを備えた」とは、メタノールタンクの全体が上甲板よりも上に位置しているものに限定されず、メタノールタンクの一部が上甲板よりも下に位置しているものも含まれる。従って、上記実施形態では、メタノールタンク10の全体を上甲板3よりも上に位置させるようにしたが、底壁部の空間層13を上甲板3よりも下に位置させることもできるし、底壁部の空間層13に加えて収容部14の一部を上甲板3よりも下に位置させることもできる。
【符号の説明】
【0040】
1 居住区
2 上甲板
3 上甲板
4 機関室
5 主機関
6 プロペラ
7 舵
8 配管
9 船尾壁
10 メタノールタンク
11 外殻
12 内殻
13 空間層
14 収容部
20 ケーシング
30 煙突
100 メタノール燃料船
200 メタノール燃料船
【手続補正書】
【提出日】2023-11-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るメタノール燃料船100のメタノールタンク配置図である。メタノール燃料船100の船尾部近傍には、居住区1が配置されている。メタノール燃料船100
の上甲板は、居住区1より船首側の上甲板
3と、居住区1より船尾側の上甲板
2とに区分されている。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
居住区1より船尾側の上甲板2上には、主機関5の燃料用のメタノールタンク10が設置されている。メタノールタンク10に貯蔵されたメタノールは配管8を経由して主機関5に供給されるようになっている。なお、メタノールの供給にあたっては、図示しない制御機器等が使用される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
メタノールタンク10が設置された居住区1より船尾側の上甲板2は、その下方に船倉が存在しておらず、メタノールタンクの設置による船倉容積の減少はない。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
実施形態1に係るメタノール燃料船100は、居住区1より船尾側の上甲板2上に燃料用のメタノールタンク10を備えたものであるので、メタノールタンク10の下方には船倉が存在しておらず、メタノールタンク10の設置によって船倉容積が減少することはない。また、居住区1の船尾側にメタノールタンク10を配置したことにより、船舶の風圧抵抗の増加を最小限に抑えることができる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
メタノール燃料船200のメタノールタンク10は、実施形態1と同様に、居住区1より船尾側の上甲板2上に設置された二重構造タンクであり、外殻11と内殻12との間に空間層13が形成されている。一方で、実施形態2においては、メタノールタンク10(二重構造タンク)の船首側の外殻11aが、居住区1の船尾壁9と兼用されている。すなわち、居住区1の船尾壁9を二重構造タンクの船首側の外殻11aとしたものである。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
例えば、本発明において「上甲板上にメタノールタンクを備えた」とは、メタノールタンクの全体が上甲板よりも上に位置しているものに限定されず、メタノールタンクの一部が上甲板よりも下に位置しているものも含まれる。従って、上記実施形態では、メタノールタンク10の全体を上甲板2よりも上に位置させるようにしたが、底壁部の空間層13を上甲板2よりも下に位置させることもできるし、底壁部の空間層13に加えて収容部14の一部を上甲板2よりも下に位置させることもできる。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
居住区より船尾側の上甲板上に燃料用のメタノールタンクを備えたメタノール燃料船であって、
前記メタノールタンクが空間層を有する二重構造タンクであり、前記居住区の船尾壁を前記二重構造タンクの船首側の外殻としたことを特徴とするメタノール燃料船。