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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171528
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20241205BHJP
   F02D 41/40 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F02D41/04
F02D41/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088584
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 隆太
【テーマコード(参考)】
3G301
【Fターム(参考)】
3G301HA02
3G301HA11
3G301JA37
3G301LB11
3G301LC01
3G301MA18
3G301MA23
3G301MA26
3G301NE12
3G301PB03Z
3G301PB05Z
3G301PC04Z
3G301PC05Z
3G301PE01Z
(57)【要約】
【課題】着火遅れ時間に基づいて燃料噴射位置を決定すると、決定された燃料噴射位置に従って噴射された燃料の燃焼時における燃焼波形が目標燃焼波形と乖離する場合がある。そこで、着火遅れ時間に加え、着火遅れ時間とは異なる新たな指標値にも基づいて燃焼状態を制御する内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関(1)の制御装置は、気筒に噴射された燃料の着火遅れに相関する着火遅れ相関値、及び噴射された燃料の燃焼速度に相関する燃焼速度相関値に基づいて燃焼状態を制御する制御部(ECU7、7a、7b)を有する。制御部は、少なくとも内燃機関の負荷に相関する負荷相関値が基準範囲にある場合、燃焼速度相関値が大きくなるほど燃料噴射位置を遅角させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の制御装置であって、
気筒内の燃焼状態を制御するために設定される燃焼パラメータを、前記気筒に噴射された燃料の着火遅れに相関する着火遅れ相関値及び前記噴射された燃料の燃焼速度に相関する燃焼速度相関値に基づいて取得する制御部を有し、
前記制御部は、
少なくとも前記内燃機関の負荷に相関する負荷相関値が基準範囲にある場合、前記燃焼速度相関値が大きくなるほど前記燃焼パラメータに含まれる燃料噴射位置を遅角させる、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記制御部は、
前記気筒内に基準噴射位置にて噴射された基準量の燃料が着火して燃焼したときに発生する熱発生率の最大値を前記燃焼速度相関値として取得する、内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記制御部は、
前記燃焼速度相関値が大きくなるほど前記燃焼パラメータに含まれるパイロット噴射の回数を減少させる、内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。具体的には、気筒内の燃焼状態を制御する制御部を備える内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に駆動力源として搭載された内燃機関(例えば、ディーゼルエンジン)の制御装置は、一般に、燃料噴射量及び燃料噴射位置(燃料噴射タイミング)等の燃焼パラメータを内燃機関の運転状態に応じて決定することによって筒内の燃焼状態を制御する。従来の制御装置の1つは、着火遅れ時間を推定し、推定された着火遅れ時間に基づいて燃焼パラメータを決定する。この制御装置によれば、燃焼騒音の悪化及びNOx排出量の増加を回避できるように燃焼パラメータを決定することができる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-136994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料噴射位置が着火遅れ時間に基づいて決定される場合、例えば、図11に示されるようなマップが参照される。図11には、着火遅れ時間と、第1パイロット噴射位置、第2パイロット噴射位置及び主噴射位置(「噴射位置群」とも総称される)のそれぞれと、の関係が示されている。図11において、縦軸(即ち、燃料噴射位置)はクランク角度により表され、圧縮上死点が0°として示されている。
【0005】
図11から理解されるように、着火遅れ時間が大きくなるほど燃料噴射位置を表すクランク角度が小さくなっている。即ち、着火遅れ時間が大きくなるほど燃料噴射位置のそれぞれが進角される。
【0006】
例えば、着火遅れ時間が時間t1である場合、第1パイロット噴射位置、第2パイロット噴射位置及び主噴射位置のそれぞれは、クランク角度Cg1、クランク角度Cg2、クランク角度Cgmとなる。これらのクランク角度は、噴射位置群(3a)として図12に示される。一方、着火遅れ時間が時間t1よりも大きい時間t2である場合(即ち、t1<t2)、第1パイロット噴射位置、第2パイロット噴射位置及び主噴射位置のそれぞれは、クランク角度Ch1、クランク角度Ch2、クランク角度Chmとなる。これらのクランク角度は、噴射位置群(3b)として図12に示される。
【0007】
着火性が良好であるとき、着火遅れ時間は時間t1近傍の値となる。一方、着火性が悪化すると、着火遅れ時間が長くなり、例えば、時間t2となる。着火性の悪化は、内燃機関の冷却水温が低い場合、外気温度が低い場合、及び内燃機関を搭載した車両が高地を走行している場合等に発生する。
【0008】
噴射位置群(3a)及び噴射位置群(3b)のそれぞれに基づいて燃料が噴射された場合の燃焼波形が、図12の実線L11a及び破線L11bによって示される。図12から理解されるように、実線L11a及び破線L11bのそれぞれによって示される燃焼波形は、互いに類似している。換言すれば、着火遅れ時間が増加した場合(即ち、着火性が悪化した場合)であっても、燃焼波形が大きく変化することが回避されている。即ち、着火遅れ時間に基づいて噴射位置群を決定することにより内燃機関の各サイクルの燃焼状態を良好に制御することができるとも考えられる。
【0009】
しかしながら、発明者は、着火遅れ時間が同一であっても、内燃機関の各気筒に導入される吸気の温度が異なっていると、燃焼波形が異なる場合があることに着目した。即ち、着火遅れ時間のみによっては燃焼状態を良好に制御できない場合があることが見出された。
【0010】
そこで、本発明の目的の1つは、着火遅れ時間に加え、着火遅れ時間とは異なる新たな指標値にも基づいて燃焼状態を制御する内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するための本発明による内燃機関の制御装置(以下、「本発明装置」とも称呼される)は、気筒内の燃焼状態を制御するために設定される燃焼パラメータを、前記気筒に噴射された燃料の着火遅れに相関する着火遅れ相関値及び前記噴射された燃料の燃焼速度に相関する燃焼速度相関値に基づいて取得する制御部を有する。前記制御部は、少なくとも前記内燃機関の負荷に相関する負荷相関値が基準範囲にある場合、前記燃焼速度相関値が大きくなるほど前記燃焼パラメータに含まれる燃料噴射位置を遅角させる。
【0012】
本発明装置では、着火遅れ相関値が同一であっても燃焼速度相関値が異なれば、燃料噴射位置が異なり得る。従って、本発明装置によれば、着火遅れ相関値及び燃焼速度相関値に基づいて燃焼パラメータ(例えば、燃料噴射位置)が取得されるので、着火遅れ相関値のみに基づいて燃焼パラメータが取得される場合と比較して燃焼状態を良好に制御できる可能性が高くなる。
【0013】
本発明装置の一態様において、前記制御部は、前記気筒内に基準噴射位置にて噴射された基準量の燃料が着火して燃焼したときに発生する熱発生率の最大値を前記燃焼速度相関値として取得する。
【0014】
気筒内に噴射された燃料の燃焼速度が大きい場合、熱発生率(即ち、単位時間あたり又は単位クランク角度あたりの熱発生量)が急速に上昇して熱発生率の最大値が大きくなる可能性が高い。そこで、本態様では、燃焼速度相関値として取得された熱発生率の最大値に基づいて燃焼パラメータが取得される。
【0015】
本発明装置の他の態様において、前記制御部は、前記燃焼速度相関値が大きくなるほど前記燃焼パラメータに含まれるパイロット噴射の回数を減少させる。
【0016】
燃焼速度相関値が大きくなると、パイロット噴射にて噴射された燃料が急速に燃焼して気筒内の温度が過大となる可能性がある。この場合、パイロット噴射に続く主噴射にて噴射された燃料が充分に気化・霧化する前に燃焼を開始し、その結果、燃焼状態が良好とならない可能性が高くなる。一方、本態様によれば、燃焼速度相関値が大きい場合にはパイロット噴射の回数が減少するので、気筒内の温度が過大となることが回避され、その結果、主噴射にて噴射された燃料が良好に燃焼する可能性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る内燃機関の概略図である。
図2】内燃機関の制御部が参照する基準最大熱発生率Qmaxと着火遅れ補正量Δτとの関係(着火遅れ補正量マップ)を示した図である。
図3】制御部が参照する補正後着火遅れτm又は基準着火遅れτ0と、噴射位置群(即ち、第1パイロット噴射位置、第2パイロット噴射位置及び主噴射位置)と、の関係(噴射位置群マップ)を示した図である。
図4】噴射位置群マップに基づいて取得された噴射位置群、及び取得された噴射位置群に基づいて噴射された燃料が燃焼した場合の燃焼波形を示した図である。
図5】燃焼波形の相違に起因する燃焼騒音レベルの相違を示したグラフである。
図6】基準着火遅れτ0が同一であっても基準最大熱発生率Qmaxが異なることを示す種々の燃焼波形である。
図7】制御部が実行する「燃焼制御処理ルーチン」を示したフローチャートである。
図8】実施形態の第1変形例に係る基準着火遅れτ0と噴射位置群との関係(噴射位置群マップ)を示した図である。
図9】第1変形例に係る制御部が実行する「燃焼制御処理ルーチン」を示したフローチャートである。
図10】実施形態の第2変形例に係る基準着火遅れτ0と噴射位置群との関係(噴射位置群マップ)を示した図である。
図11】従来技術に係る着火遅れ時間と噴射位置群との関係を示した図である。
図12】従来技術に係る噴射位置群マップによって取得された噴射位置群、及び取得された噴射位置群に基づいて噴射された燃料が燃焼した場合の燃焼波形を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を図1~7を参照しながら説明する。説明中の同じ符号(参照番号)は、重複する説明をしないが同じ機能を有する同じ要素を意味する。図1に実施形態に係る内燃機関1(エンジンシステム)が示される。内燃機関1は、機関本体2、過給機3、吸気システム4、排気システム5、EGRシステム6及びECU7を含んでいる。
【0019】
本実施形態における内燃機関1は、図示しない車両に駆動力源として搭載された圧縮着火式の多気筒ディーゼル機関である。機関本体2は、複数の燃料噴射弁21を含んでいる。燃料噴射弁21のそれぞれは、ECU7からの指示に応じて図示しないコモンレール装置の蓄圧室から供給される高圧の燃料を気筒内に噴射する。
【0020】
過給機3は、タービン31、可変ノズル機構32、ノズルアクチュエータ32a及びコンプレッサ33を含んでいる。タービン31は、機関本体2の各気筒から排出される排気(燃焼ガス)の圧力によって作動(回転)する。可変ノズル機構32は、タービン31に流入する排気の絞り機構であるノズルベーンを備えている。
【0021】
具体的には、ノズルベーンの状態であるノズル開度Vnに応じてタービン31における排気流路の開度が変化する。ノズルアクチュエータ32aは、ECU7からの指示に応じてノズル開度Vnを所定の全開位置(全開状態)から全閉位置(全閉状態)までの間で変化させる。コンプレッサ33は、タービン31と連動して作動(回転)し、機関本体2の各気筒に吸入される空気(吸気)を加圧する。
【0022】
吸気システム4は、吸気通路である吸気管41a~41b、吸気マニホールド42、インタークーラ43、スロットル弁44及びスロットルアクチュエータ44aを含んでいる。吸気管41aは、外部(車外)から吸入された吸気(新気)をコンプレッサ33に導入する。吸気管41bは、コンプレッサ33から排出された吸気を吸気マニホールド42に導入する。吸気マニホールド42は、機関本体2の各気筒に吸気を導入する。
【0023】
インタークーラ43は、吸気管41bに介装されている。インタークーラ43は、コンプレッサ33にて加圧されて温度が上昇した吸気を冷却する。スロットル弁44は、吸気管41bのインタークーラ43よりも下流の位置に介装されている。スロットル弁44は、その回転位置に応じて吸気管41bの開度を調整する。スロットルアクチュエータ44aは、ECU7からの指示に応じてスロットル弁44の回転位置(即ち、スロットル弁開度)を調整する。
【0024】
排気システム5は、排気マニホールド51、排気通路である排気管52a~52b及び排ガス浄化装置53を含んでいる。排気マニホールド51は、機関本体2の各気筒から排出された排気(燃焼ガス)を排気管52aに導入する。排気管52aは、排気をタービン31に導入する。排気管52bは、タービン31から排出された排気を外部(車外)に排出する。排ガス浄化装置53は、排気管52bに介装されている。排ガス浄化装置53は、周知の酸化触媒、DPF(Diesel Particulate Filter)及びSCR(Selective Catalytic Reduction)等を含んでおり、排気を浄化する。
【0025】
EGRシステム6は、EGR管61、EGRクーラ62及びEGR弁63を含んでいる。EGR管61は、排気管52aと吸気管41bとを連通する。EGRクーラ62は、EGR管61に介装されている。EGRクーラ62は、排気管52aから流入した高温の排気(即ち、EGRガス)を冷却する。
【0026】
EGR弁63は、EGR管61におけるEGRクーラ62よりも上流の位置に介装されている。EGR弁63の開弁状態は、ECU7からの指示に応じて所定の全開位置(全開状態)から全閉位置(全閉状態)までの間で変化し、その結果、排気管52aから吸気管41bに還流するEGRガスの量が調整される。EGRガスの量は、内燃機関1の気筒に流入するガスの量(即ち、後述される吸入空気量Gaによって表される吸気(新気)の量とEGRガスの量の和)に対するEGRガスの量であるEGR率Erによって表される。
【0027】
ECU7は、CPU、ROM、RAM及びEEPROMを含む電子制御ユニット(制御装置、制御部)である。CPUは、所定のプログラムを逐次実行することによってデータの読み込み、数値演算、及び演算結果の出力等を行う。ROMは、CPUが実行するプログラム及びマップ(ルックアップテーブル)等を記憶している。RAMは、CPUによって参照されるデータを一時的に記憶する。EEPROMは、CPUによって参照されるデータを記憶し、更に、ECU7が作動を停止しても記憶したデータを保持する。
【0028】
ECU7は、クランク角度センサ81、カムポジションセンサ82、エアフローセンサ83、ノズル開度センサ84、圧力センサ85a~85d、温度センサ86a~86c、アクセル開度センサ87及び車速センサ88と接続されている。
【0029】
クランク角度センサ81は、機関本体2の図示しないクランクシャフトが所定角度だけ回転する毎にパルス信号をECU7へ出力する。カムポジションセンサ82は、機関本体2の図示しないカムシャフトの回転位置に応じた信号をECU7へ出力する。ECU7は、クランク角度センサ81から入力された信号に基づいて機関本体2の機関回転速度NEを取得する。
【0030】
加えて、ECU7は、クランク角度センサ81及びカムポジションセンサ82から入力された信号に基づいて機関本体2が備える特定の気筒のクランク角度CA[deg]を取得する。以下の説明において、当該気筒におけるピストン位置が圧縮上死点であるとき、クランク角度CAが0°であると表記される。従って、ピストン位置が圧縮上死点前であるときにはクランク角度CAが負の値となり、ピストン位置が圧縮上死点後であるときにはクランク角度CAが正の値となる。
【0031】
エアフローセンサ83は、吸気管41aを流れる吸気の量である吸入空気量Gaを検出し、吸入空気量Gaを表す信号をECU7へ出力する。ノズル開度センサ84は、ノズル開度Vnを検出し、ノズル開度Vnを表す信号をECU7へ出力する。
【0032】
圧力センサ85aは、吸気管41aにおけるエアフローセンサ83よりも下流の位置に配設されている。圧力センサ85aは、コンプレッサ33に流入する吸気の圧力であるコンプレッサ上流圧力Puを検出し、コンプレッサ上流圧力Puを表す信号をECU7へ出力する。圧力センサ85bは、吸気管41bにおけるコンプレッサ33とインタークーラ43との間の位置に配設されている。圧力センサ85bは、コンプレッサ33から流出した吸気の圧力であるコンプレッサ下流圧力Pdを検出し、コンプレッサ下流圧力Pdを表す信号をECU7へ出力する。
【0033】
圧力センサ85cは、吸気マニホールド42に配設されている。圧力センサ85cは、機関本体2の気筒に流入する吸気の圧力である吸気圧力Pimを検出し、吸気圧力Pimを表す信号をECU7へ出力する。圧力センサ85dは、排気マニホールド51に配設されている。圧力センサ85dは、機関本体2の気筒から流出した排気の圧力である排気圧Peを検出し、排気圧Peを表す信号をECU7へ出力する。
【0034】
温度センサ86aは、吸気管41aにおけるエアフローセンサ83の近傍の位置に配設されている。温度センサ86aは、吸気管41aに導入された吸気の温度である外気温度Taを検出し、外気温度Taを表す信号をECU7へ出力する。温度センサ86bは、吸気マニホールド42に配設されている。温度センサ86bは、機関本体2の気筒に流入する吸気の温度である吸気温度Timを検出し、吸気温度Timを表す信号をECU7へ出力する。温度センサ86cは、機関本体2内に形成された冷却水流路(不図示)を流れる冷却水の温度である冷却水温度Twを検出し、冷却水温度Twを表す信号をECU7へ出力する。
【0035】
アクセル開度センサ87は、内燃機関1が搭載された車両の運転者が車両の加速度を制御するために操作するアクセルペダル(不図示)の開度であるアクセルペダル開度Apを検出し、アクセルペダル開度Apを表す信号をECU7へ出力する。運転者が車両を加速させるとき(即ち、内燃機関1に対する要求負荷が大きくなるとき)、アクセルペダル開度Apが大きくなる。車速センサ88は、内燃機関1が搭載された車両の走行速度である車速Vsを検出し、車速Vsを表す信号をECU7へ出力する。
【0036】
(制御装置による燃焼制御)
ECU7は、アクセルペダル開度Apに基づいて燃料噴射弁21から噴射される燃料噴射量Fiを取得(決定)する。概して、アクセルペダル開度Apが大きくなるほど燃料噴射量Fiが大きくなる。燃料噴射量Fiが大きくなるほど内燃機関1の負荷(出力)が大きくなるため、燃料噴射量Fiは、「負荷相関値」とも称呼される。
【0037】
燃料噴射量Fiが取得されると、ECU7は、燃料噴射弁21に燃料を噴射させるクランク角度CAである第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmを取得する。即ち、ECU7は、多段噴射を実行する。第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmは、「噴射位置群」とも総称される。
【0038】
更に、ECU7は、第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmのそれぞれのタイミングにて噴射される燃料量である第1噴射量Fp1、第2噴射量Fp2及び主噴射量Fmを取得する。ただし、第1噴射量Fp1、第2噴射量Fp2及び主噴射量Fmの合計値は、燃料噴射量Fiと等しい(即ち、Fi=Fp1+Fp2+Fm)。加えて、主噴射量Fmは、第1噴射量Fp1及び第2噴射量Fp2のそれぞれよりも大きい(Fm>Fp1且つFm>Fp2)。
【0039】
加えて、ECU7は、吸気圧力Pimを制御するため、燃料噴射量Fi、コンプレッサ上流圧力Pu及びコンプレッサ下流圧力Pd等に基づいて目標過給圧Ptgtを決定する。概して、アクセルペダル開度Apが大きくなるほど目標過給圧Ptgtが大きくなる。ECU7は、実際の吸気圧力Pimが目標過給圧Ptgtに近づくようにノズル開度Vnを制御する。
【0040】
可変ノズル機構32が備えるノズルベーンの開度状態が全開位置から全閉位置に近づくに従って(即ち、ノズル開度Vnが減少するに従って)タービン31及びコンプレッサ33の回転速度が上昇し、その結果として吸気圧力Pimが上昇する。一方、ノズル開度Vnが上昇すると、吸気圧力Pimが減少する。
【0041】
更に、ECU7は、必要に応じてスロットルアクチュエータ44aを制御し、以て、スロットル弁開度を制御する。加えて、ECU7は、周知の方法によりEGR率Er、及びEGR率Erの目標値である目標EGR率Etgtを取得し、EGR率Erが目標EGR率Etgtに近づくようにEGR弁63を制御する。即ち、ECU7は、内燃機関1の気筒内の燃焼状態を制御するため、噴射位置群、第1噴射量Fp1、第2噴射量Fp2、主噴射量Fm、吸気圧力Pim及びEGR率Er等のパラメータ(便宜上、「燃焼パラメータ」とも称呼される)を設定する。
【0042】
噴射位置群を取得するため、ECU7は、基準着火遅れτ0[msec]及び基準最大熱発生率Qmax[J/deg]を取得する。ECU7が実行する具体的な処理は後述されるが、端的に述べると、燃料噴射量Fiが所定の噴射量閾値Fth以下であれば、ECU7は、基準着火遅れτ0及び基準最大熱発生率Qmaxに基づいて補正後着火遅れτmを取得し、補正後着火遅れτmに基づいて噴射位置群を決定する。一方、燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fthよりも大きければ、ECU7は、基準最大熱発生率Qmaxに依らず、基準着火遅れτ0に基づいて噴射位置群を決定する。
【0043】
基準着火遅れτ0は、便宜上、「着火遅れ相関値」とも称呼される。基準最大熱発生率Qmaxは、便宜上、「燃焼速度相関値」とも称呼される。噴射量閾値Fthは、燃料噴射量Fi(負荷相関値)の「基準範囲」の上限値でもある。
【0044】
先ず、燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fth以下である場合にECU7が実行する処理について説明する。燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fthよりも大きい場合の処理は、ECU7の具体的作動と共に後述される。
【0045】
基準着火遅れτ0は、所定の第1基準燃料量Fr1[mm3]に等しい燃料が燃料噴射弁21から気筒内に噴射され、次いで、噴射された燃料がその気筒の圧縮上死点にて着火する場合の着火遅れ時間である。即ち、クランク角度CAが0°に到達するよりも基準着火遅れτ0だけ手前のタイミングにて燃料噴射弁21から第1基準燃料量Fr1に等しい燃料が噴射されると、クランク角度CAが0°に到達したときに噴射された燃料が着火する。
【0046】
ECU7は、下式(1)に基づいて基準着火遅れτ0を取得(算出)する。
τ0=1/{ka×(Pf)kb×(Po)kc×exp(-kd/Tc)}…(1)
【0047】
式(1)において、燃料分圧Pfは、クランク角度CAが圧縮上死点に到達した時点における、燃料噴射弁21から噴射された第1基準燃料量Fr1に等しい燃料の気筒内における圧力(分圧)である。酸素分圧Poは、クランク角度CAが圧縮上死点に到達した時点における気筒内の酸素の圧力である。筒内温度Tcは、クランク角度CAが圧縮上死点に到達した時点における気筒内の混合気の温度である。定数ka~kdのそれぞれは、予め適合された値(同定値、定数)である。ここで、定数ka~kcは正の値であり、定数kdは正の値、「0」又は負の値である。
【0048】
ECU7は、吸入空気量Ga、EGR率Er、冷却水温度Tw、吸気温度Tim、吸気圧力Pim及び排気圧Pe(以下、「筒内状態パラメータ」とも総称される)に基づいて燃料分圧Pf、酸素分圧Po及び筒内温度Tcのそれぞれを取得(推定)する。燃料分圧Pf、酸素分圧Po及び筒内温度Tcが推定されると、ECU7は、それらの推定値を式(1)に適用することによって基準着火遅れτ0を取得する。
【0049】
一方、基準最大熱発生率Qmaxは、所定の第2基準燃料量Fr2(基準量)[mm3]に等しい燃料が燃料噴射弁21から所定の基準噴射位置Crにて噴射され、次いで、噴射された燃料が着火(燃焼)したときの熱発生率Q[J/deg]の最大値である。基準最大熱発生率Qmaxは、燃料噴射弁21から噴射された燃料の燃焼速度に相関を有する値である。即ち、燃焼速度が早ければ、着火後の熱発生率Qの上昇が急峻となり且つ基準最大熱発生率Qmaxが大きくなる。
【0050】
ECU7は、機関回転速度NE及び燃料噴射量Fiの組合せに対応する筒内状態パラメータと基準最大熱発生率Qmaxとの関係を表すマップ(以下、「最大熱発生率マップ」とも称呼される)に筒内状態パラメータを適用することによって基準最大熱発生率Qmaxを取得する。最大熱発生率マップは、実験及びシミュレーション(数値実験を含む)等により機関回転速度NE及び燃料噴射量Fiの組合せのそれぞれに対して予め適合されており、ECU7のROM又はEEPROMに記憶されている。本実施形態において、基準噴射位置Cr(クランク角度CA)は、-10°である。
【0051】
基準最大熱発生率Qmaxが取得されると、ECU7は、着火遅れ補正量Δτ[msec]を、図2に示される基準最大熱発生率Qmaxと着火遅れ補正量Δτとの関係を表すマップ(以下、「着火遅れ補正量マップ」とも称呼される)に基準最大熱発生率Qmaxを適用することによって取得する。図2から理解されるように、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど着火遅れ補正量Δτが大きくなる。加えて、ECU7は、基準着火遅れτ0と着火遅れ補正量Δτとの差分を、補正後着火遅れτm[msec]として取得する(即ち、τm=τ0-Δτ)。
【0052】
更に、ECU7は、補正後着火遅れτmを図3に示される「噴射位置群マップ」に適用することによって噴射位置群を取得する。噴射位置群マップは、補正後着火遅れτmと、噴射位置群(即ち、第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cm)と、の関係を示したマップである。噴射位置群マップは、機関回転速度NE及び燃料噴射量Fiの組合せのそれぞれに適合されている。図3には、機関回転速度NEが回転速度n1であり且つ燃料噴射量Fiが噴射量f1である場合に参照される噴射位置群マップが例示される。
【0053】
図3における実線L1aは、補正後着火遅れτmと第1パイロット噴射位置Cp1との関係を示している。実線L1bは、補正後着火遅れτmと第2パイロット噴射位置Cp2との関係を示している。実線L1cは、補正後着火遅れτmと主噴射位置Cmとの関係を示している。後述されるように、燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fthよりも大きければ、ECU7は、基準着火遅れτ0を噴射位置群マップ(即ち、実線L1a~L1cによって示される関係)に適用することによって噴射位置群を取得する。
【0054】
取得された噴射位置群の例が、噴射位置群(2a)及び噴射位置群(2b)として図4に示される。噴射位置群(2a)に示される燃料噴射タイミングにて燃料噴射弁21から燃料が噴射された場合の燃焼波形(即ち、クランク角度CAに対する熱発生率Qの変化)が図4の破線L2aによって示される。噴射位置群(2b)に示される燃料噴射タイミングにて燃料が噴射された場合の燃焼波形が実線L2bによって示される。
【0055】
図4に示される噴射位置群(2a)及び噴射位置群(2b)のそれぞれの矩形の幅は、燃料噴射弁21の開弁期間を示している。破線L2a及び実線L2bのそれぞれに係る燃焼は、燃焼(2a)及び燃焼(2b)とも称呼される。
【0056】
燃焼(2a)及び燃焼(2b)のそれぞれに対応する基準着火遅れτ0は、何れも着火遅れ時間τ1である(図3を参照)。一方、燃焼(2b)の発生時における吸気温度Timは、燃焼(2a)と比較して大きい。そのため、燃焼(2b)に係る基準最大熱発生率Qmaxである熱発生率Q1bは、燃焼(2a)に係る基準最大熱発生率Qmaxである熱発生率Q1aよりも大きい(即ち、Q1b>Q1a、図2を参照)。即ち、燃焼(2a)及び燃焼(2b)は、基準着火遅れτ0が互いに等しく且つ基準最大熱発生率Qmaxが互いに異なっている。
【0057】
燃焼(2a)及び燃焼(2b)のそれぞれに対し、図2に示される着火遅れ補正量マップに基づいて取得される着火遅れ補正量Δτは、補正量Δτ1a及び補正量Δτ1bである。熱発生率Q1bが熱発生率Q1aよりも大きいので、補正量Δτ1bは補正量Δτ1aよりも大きい(即ち、Δτ1b>Δτ1a)。
【0058】
燃焼(2a)に係る補正後着火遅れτmは、着火遅れ時間τ1と補正量Δτ1aとの差分である補正後着火遅れ時間τ1aとなる(即ち、τ1a=τ1-Δτ1a)。同様に、燃焼(2b)に係る補正後着火遅れτmは、着火遅れ時間τ1と補正量Δτ1bとの差分である補正後着火遅れ時間τ1bとなる(即ち、τ1b=τ1-Δτ1b)。
【0059】
従って、図3から理解されるように、燃焼(2a)に係る噴射位置群(2a)の第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmのそれぞれは、クランク角度Ca1、クランク角度Ca2及びクランク角度Camとなる。同様に、燃焼(2b)に係る噴射位置群(2b)の第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmのそれぞれは、クランク角度Cb1、クランク角度Cb2及びクランク角度Cbmとなる。噴射位置群(2b)のそれぞれは、噴射位置群(2a)と比較して遅角されている。
【0060】
図4から理解されるように、破線L2aによって示される燃焼(2a)の燃焼波形と、実線L2bによって示される燃焼(2b)の燃焼波形と、は互いに類似している。換言すれば、基準着火遅れτ0及び基準最大熱発生率Qmaxに基づいて噴射位置群を取得することにより、内燃機関1の燃焼を意図した燃焼波形(目標燃焼波形)となるように制御することが可能となる。
【0061】
目標燃焼波形は、例えば、エネルギー効率が高く(即ち、燃費が良好であり)、気筒から排出される燃焼ガスに含まれるNOx濃度が環境規制による許容量よりも少なく且つ内燃機関1の燃焼騒音が基準値(後述される、騒音基準値Sr)よりも小さくなるように適合された燃焼波形である。目標燃焼波形は、例えば、機関回転速度NEと燃料噴射量Fiとの組合せのそれぞれに対して適合される。
【0062】
仮に、噴射位置群の取得に際して基準最大熱発生率Qmaxが参照されなければ、上述したように燃焼(2a)及び燃焼(2b)に係る基準着火遅れτ0は着火遅れ時間τ1であって互いに等しいので、噴射位置群は互いに等しくなる。具体的には、基準最大熱発生率Qmaxが(燃焼(2a)に対応する)熱発生率Q1aであっても、基準最大熱発生率Qmaxが(燃焼(2b)に対応する)熱発生率Q1bであっても、噴射位置群(2a)にて燃料噴射弁21から燃料が噴射される。
【0063】
基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率Q1bであり且つ噴射位置群(2a)にて燃料噴射弁21から燃料が噴射された場合の燃焼波形が、一点鎖線L2cによって図4に示される。一点鎖線L2cに係る燃焼は、燃焼(2c)とも称呼される。
【0064】
図4から理解されるように、基準最大熱発生率Qmaxが参照されることなく噴射位置群が取得された結果として、一点鎖線L2cによって示される燃焼波形は、(破線L2a及び実線L2bによって示される)目標燃焼波形と大きく異なっている。その結果、図5に示されるように、内燃機関1の燃焼騒音が騒音基準値Srよりも大きくなっている。
【0065】
具体的には、燃焼(2a)に係る燃焼波形を伴う燃焼が継続的に発生した場合の燃焼騒音の音圧レベルS[db]は、音圧レベルs1と略等しくなる。燃焼(2b)に係る燃焼波形を伴う燃焼が継続的に発生した場合も、燃焼波形が燃焼(2a)と類似しているので、燃焼騒音は音圧レベルs1と略等しくなる。
【0066】
一方、燃焼(2c)に係る燃焼波形を伴う燃焼が繰り返し発生した場合の燃焼騒音は、音圧レベルs2と略等しくなる。音量レベルS2は、騒音基準値Srを超えている。即ち、噴射位置群が適切に取得されなかった結果として燃焼波形が目標燃焼波形から乖離し、そのため、燃焼騒音が悪化していることが判る。
【0067】
燃焼(2c)に係る燃焼騒音について、燃焼(2a)及び燃焼(2b)と比較して熱発生率Qの最大値が小さい(図4を参照)にも拘わらず燃焼騒音が大きくなる理由は、以下の通りである。燃焼(2c)に係る燃焼波形において、熱発生率Qが急激に上昇している(即ち、勾配が急峻となっている)。そのため、気筒内における混合気の燃焼に伴って発生する気筒内壁を加振する力(加振力)が大きくなる。加えて、燃焼(2c)に係る燃焼波形が有する2つの極大値の間の期間における熱発生率Qの減少量が比較的大きい。即ち、パイロット噴射に伴って発生する燃焼と主噴射に伴って発生する燃焼とが連なっていない。そのため、気筒内の燃焼が継続すること(即ち、熱発生率Qが比較的大きい状態が継続すること)により発生する位相違いの加振力によって気筒内壁への加振(振動)が相殺されない。
【0068】
基準着火遅れτ0に加えて基準最大熱発生率Qmaxに基づいて噴射位置群が取得される理由を、図6を参照しながら更に説明する。図6には、条件を変化させながら第2基準燃料量Fr2に等しい燃料が燃料噴射弁21から気筒内に噴射されて着火した場合の燃焼波形のそれぞれが示される。
【0069】
実線L3a及び破線L3bは、クランク角度CAが-20°であるときに燃料が噴射された場合を示している。実線L4a及び破線L4bは、クランク角度CAが-15°であるときに燃料が噴射された場合を示している。実線L5a及び破線L5bは、クランク角度CAが-10°であるときに燃料が噴射された場合を示している。実線L6a及び破線L6bは、クランク角度CAが-5°であるときに燃料が噴射された場合を示している。実線L7a及び破線L7bは、クランク角度CAが0°(即ち、圧縮上死点)であるときに燃料が噴射された場合を示している。
【0070】
実線L3a~L7a及び破線L3b~L7bに係る燃焼のそれぞれにおいて、基準着火遅れτ0は等しくなっている。一方、破線L3b~L7bに係る燃焼は、実線L3a~L7aに係る燃焼と比較して主に吸気圧力Pimが高いことに起因して基準最大熱発生率Qmaxが大きくなっている。
【0071】
図6から、燃料噴射位置が互いに同一であれば、基準最大熱発生率Qmaxが異なっていても、着火位置(即ち、着火遅れ)は大きく変化しないことが理解される。着火位置は、着火後に発生する熱発生率Qの上昇率(即ち、燃焼波形の勾配)が最大となった時点における燃焼波形の接線(着火接線)と熱発生率Q=0を示す横軸(図6における破線Lh)との交点に対応するクランク角度CAとして取得できる。
【0072】
例えば、実線L3aに係る燃焼波形の着火接線は、一点鎖線L3atとして示される。破線L3bに係る燃焼波形の着火接線は、一点鎖線L3btとして示される。一点鎖線L3at及び一点鎖線L3btのそれぞれと、破線Lhと、の交点は、互いに近接している。即ち、実線L3aに係る燃焼及び破線L3bに係る燃焼は、基準最大熱発生率Qmaxが互いに相違しているが、着火遅れの差分が比較的小さいことが判る。
【0073】
一方、実線L3a~L7aと破線L3b~L7bとを比較することにより、熱発生率Qの最大値が互いに相違していることが判る。加えて、実線L3a~L7a及び破線L3b~L7bにおける熱発生率Qの最大値の差分は、クランク角度CAが圧縮上死点から離れるほど大きくなっている。例えば、実線L5a及び破線L5bに係る燃焼波形の熱発生率Qの最大値のそれぞれは、熱発生率Q5a及び熱発生率Q5bである。図6より、熱発生率Q5aと熱発生率Q5bとの差分が比較的大きいことが判る。
【0074】
換言すれば、基準着火遅れτ0が等しくても基準最大熱発生率Qmaxが異なれば、燃焼波形が異なるので、燃焼波形を目標燃焼波形に近づけるため、基準着火遅れτ0に加えて基準最大熱発生率Qmaxに基づいて噴射位置群を決定することが有効である。特に、主噴射の前にパイロット噴射が実行され且つパイロット噴射によって噴射された燃料が圧縮上死点よりも前のタイミングにて着火する場合、気筒内の燃焼制御において基準最大熱発生率Qmaxが参照されることは有効である。
【0075】
(具体的作動)
ECU7の具体的作動について説明する。ECU7のCPU(以下、単に「CPU」とも称呼される)は、所定の処理周期が経過する毎に図7にフローチャートにより示された「燃焼制御処理ルーチン」を実行して噴射位置群を取得する。更に、CPUは、図示しないルーチンを実行して、機関本体2が備える気筒のそれそれに係るクランク角度CAが噴射位置群の何れかに一致するタイミングが到来すると当該気筒に係る燃料噴射弁21に燃料を噴射させる。
【0076】
適当なタイミングとなると、CPUは、図7のステップ700から処理を開始してステップ705に進み、アクセルペダル開度Apに基づいて燃料噴射量Fiを取得する。即ち、CPUは、内燃機関1が搭載された車両の運転者が要求する内燃機関1のトルク(或いは、負荷)に応じて燃料噴射量Fiを決定する。
【0077】
次いで、CPUは、ステップ710に進み、筒内状態パラメータに基づいて基準着火遅れτ0を取得する。即ち、CPUは、上記式(1)に基づく演算によって基準着火遅れτ0を算出する。更にCPUは、ステップ715に進み、燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fth以下であるか否かを判定する。即ち、CPUは、負荷相関値が基準範囲にあるか否かを判定する。
【0078】
燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fth以下であれば、CPUは、ステップ715にて「Yes」と判定して以下に説明されるステップ720~735の処理を実行し、更に、ステップ795に進んで本ルーチンの処理を一旦終了する。
【0079】
ステップ720:CPUは、燃料噴射量Fi、機関回転速度NE及び筒内状態パラメータに基づいて基準最大熱発生率Qmaxを取得する。即ち、CPUは、現時点における燃料噴射量Fi及び機関回転速度NEの組合せに対応する「最大熱発生率マップ」に筒内状態パラメータを適用することによって基準最大熱発生率Qmaxを取得する。
【0080】
ステップ725:CPUは、基準最大熱発生率Qmaxに基づいて着火遅れ補正量Δτを取得する。即ち、CPUは、着火遅れ補正量マップ(図2を参照)に基準最大熱発生率Qmaxを適用することによって着火遅れ補正量Δτを取得する。
【0081】
ステップ730:CPUは、基準着火遅れτ0と着火遅れ補正量Δτとの差分を、補正後着火遅れτmとして取得する。
ステップ735:CPUは、補正後着火遅れτmに基づいて噴射位置群を取得する。即ち、CPUは、現時点における燃料噴射量Fi及び機関回転速度NEの組合せに対応する噴射位置群マップ(図3を参照)に補正後着火遅れτmを適用することによって噴射位置群を取得する。
【0082】
一方、燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fthよりも大きければ、CPUは、ステップ715にて「No」と判定してステップ740に進み、基準着火遅れτ0に基づいて噴射位置群を取得する。具体的には、CPUは、現時点における燃料噴射量Fi及び機関回転速度NEの組合せに対応する噴射位置群マップ(図3を参照)に基準着火遅れτ0を適用することによって噴射位置群を取得する。即ち、この場合、噴射位置群の取得に際して基準最大熱発生率Qmaxが参照されない。次いで、CPUは、ステップ795に進む。
【0083】
(第1変形例)
本実施形態の第1変形例について図8~9を参照しながら説明する。上述したように、ECU7は、燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fth以下である場合、基準最大熱発生率Qmaxに応じて取得された補正後着火遅れτmに基づいて噴射位置群を取得していた。これに対し、第1変形例に係るECU7aは、基準最大熱発生率Qmaxが所定の熱発生率閾値Qthよりも小さいか否かに応じて参照する噴射位置群マップを使い分ける。加えて、ECU7aは、燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fth以下であるか否かを判定しない。以下、これらの相違点を中心に説明する。
【0084】
第1変形例に係る噴射位置群マップが図8に示される。図8には、機関回転速度NEが回転速度n2であり且つ燃料噴射量Fiが噴射量f2である場合に参照される噴射位置群マップが例示されている。
【0085】
実線L8a1、実線L8b1及び実線L8c1のそれぞれは、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qthよりも小さい場合における基準着火遅れτ0と、第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmと、の関係を示している。破線L8a2、破線L8b2及び破線L8c2のそれぞれは、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qth以上である場合における基準着火遅れτ0と、第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmと、の関係を示している。
【0086】
図8から理解されるように、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qth以上である場合、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qthよりも小さい場合と比較して噴射位置群のそれぞれが遅角される。基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qthよりも小さい場合に参照される、実線L8a1、実線L8b1及び実線L8c1のそれぞれによって示される噴射位置群マップは、「基準噴射位置群マップ」とも称呼される。基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qth以上である場合に参照される、破線L8a2、破線L8b2及び破線L8c2のそれぞれによって示される噴射位置群マップは、「補正噴射位置群マップ」とも称呼される。
【0087】
例えば、基準着火遅れτ0が着火遅れ時間τ2であるとき、基準噴射位置群マップに基づいて取得される噴射位置群のそれぞれは、クランク角度Cc1、クランク角度Cc2及びクランク角度Ccmである。一方、補正噴射位置群マップに基づいて取得される噴射位置群のそれぞれは、クランク角度Cd1、クランク角度Cd2及びクランク角度Cdmである。
【0088】
補正噴射位置群マップに基づいて取得されたクランク角度Cd1、クランク角度Cd2及びクランク角度Cdmのそれぞれは、基準噴射位置群マップに基づいて取得されたクランク角度Cc1、クランク角度Cc2及びクランク角度Ccmよりも大きい(即ち、Cd1>Cc1、Cd2>Cc2且つCdm>Ccm)。即ち、補正噴射位置群マップに基づいて取得された噴射位置群は、基準噴射位置群マップに基づいて取得された噴射位置群と比較して遅角されている。
【0089】
(具体的作動)
ECU7aの具体的作動について説明する。ECU7aのCPU(以下、単に「CPU」とも称呼される)は、所定の処理周期が経過する毎に図9にフローチャートにより示された「燃焼制御処理ルーチン」を実行する。図9のフローチャートに示されたステップであって図7のフローチャートと同様の処理が実行されるステップには、図7と同じステップ符号が付されている。
【0090】
適当なタイミングとなると、CPUは、図9のステップ900から処理を開始してステップ705、ステップ710及びステップ720の処理を順に実行してステップ925に進む。ステップ925にてCPUは、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qthよりも小さいか否かを判定する。
【0091】
基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qthよりも小さければ、CPUは、ステップ925にて「Yes」と判定してステップ930に進み、基準噴射位置群マップに基づいて噴射位置群を取得する。即ち、CPUは、図8の例においては実線L8a1、実線L8b1及び実線L8c1のそれぞれによって示された基準着火遅れτ0と噴射位置群のそれぞれとの関係に基準着火遅れτ0を適用することによって噴射位置群を取得する。次いで、CPUは、ステップ995に進み、本ルーチンの処理を一旦終了する。
【0092】
一方、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qth以上であれば、CPUは、ステップ925にて「No」と判定してステップ935に進み、補正噴射位置群マップに基づいて噴射位置群を取得する。即ち、CPUは、図8の例においては破線L8a2、破線L8b2及び破線L8c2のそれぞれによって示された基準着火遅れτ0と噴射位置群のそれぞれとの関係に基準着火遅れτ0を適用することによって噴射位置群を取得する。次いで、CPUは、ステップ995に進む。
【0093】
(第2変形例)
本実施形態の第2変形例について図10を参照しながら説明する。上述したように、第1変形例に係るECU7aは、基準噴射位置群マップ及び補正噴射位置群マップの何れかに基づいて噴射位置群を取得していた。第1変形例に係る基準噴射位置群マップ及び補正噴射位置群マップのそれぞれは、第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmを含んでいた(図8を参照)。これに対し、第2変形例に係るECU7bが噴射位置群を取得する際に参照する補正噴射位置群マップは、パイロット噴射位置Cp及び主噴射位置Cmを含んでいる。以下、この相違点を中心に説明する。
【0094】
基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qthよりも小さい場合、ECU7bは、基準噴射位置群マップに基づいて取得される第1パイロット噴射位置Cp1及び第2パイロット噴射位置Cp2にてパイロット噴射を行い、次いで、主噴射位置Cmにて主噴射を行う。即ち、この場合、燃料噴射弁21によってパイロット噴射が2回実行される。
【0095】
一方、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qth以上である場合、ECU7bは、補正噴射位置群マップに基づいて取得されるパイロット噴射位置Cpにてパイロット噴射を行い、次いで、主噴射位置Cmにて主噴射を行う。即ち、この場合、燃料噴射弁21によってパイロット噴射が1回のみ実行される。換言すれば、第2変形例では、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるに従いパイロット噴射の回数が減少する。
【0096】
第2変形例に係る基準噴射位置群マップ及び補正噴射位置群マップが、図10に示される。図10には、機関回転速度NEが回転速度n3であり且つ燃料噴射量Fiが噴射量f3である場合に参照される噴射位置群マップが例示されている。具体的には、基準噴射位置群マップに係る基準着火遅れτ0と、第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmと、の関係が実線L9a、実線L9b及び実線L9cによって示される。
【0097】
一方、補正噴射位置群マップに係る基準着火遅れτ0と、パイロット噴射位置Cp及び主噴射位置Cmと、の関係が破線L9d及び実線L9cによって示される。即ち、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qthよりも小さいか否かに依らず、実線L9cに示される関係に基づいて主噴射位置Cmが取得される。換言すれば、第2変形例では、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qthよりも小さいか否かに応じては主噴射位置Cmが変更されない。
【0098】
例えば、基準着火遅れτ0が着火遅れ時間τ3であるとき、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qthよりも小さい場合に基準噴射位置群マップに基づいて取得される噴射位置群のそれぞれは、クランク角度Ce1、クランク角度Ce2及びクランク角度Cemである。一方、基準最大熱発生率Qmaxが熱発生率閾値Qth以上である場合に補正噴射位置群マップに基づいて取得される噴射位置群において、パイロット噴射位置Cpはクランク角度Cfであり且つ主噴射位置Cmはクランク角度Cemである。
【0099】
以上、説明したように、ECU7、7a、7bは、燃焼パラメータを設定して内燃機関1の気筒内の燃焼状態を制御する。具体的には、ECU7は、燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fth以下である場合(即ち、負荷相関値が基準範囲にある場合)、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど燃焼パラメータに含まれる第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmを遅角させる。
【0100】
ECU7aは、負荷相関値が基準範囲にあるか否かに依らず、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmを遅角させる。ECU7bは、負荷相関値が基準範囲にあるか否かに依らず、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど燃焼パラメータに含まれるパイロット噴射の回数を減少させる。
【0101】
そのため、ECU7、7a、7bによれば、基準最大熱発生率Qmaxに依らず基準着火遅れτ0のみに基づいて燃焼パラメータが決定される場合と比較して気筒内の燃焼状態を良好に保たれる可能性が高くなる。例えば、基準着火遅れτ0が同一であっても基準最大熱発生率Qmaxが異なる場合に、基準着火遅れτ0のみに基づいて適合された噴射位置群マップに応じて取得された噴射位置群に従って燃料噴射弁21から燃料が噴射された結果として燃焼波形が目標燃焼波形から乖離することが回避される。即ち、基準着火遅れτ0及び基準最大熱発生率Qmaxに基づいて燃焼パラメータを取得(決定)することにより、燃焼波形を目標燃焼波形に近づけることができる頻度及び/又は可能性が向上する。
【0102】
以上、本発明の実施形態を上記の構造を参照して説明したが、本発明の目的を逸脱せずに多くの交代、改良、変更が可能である。従って本発明の形態は、添付された請求項の精神と目的を逸脱しない全ての交代、改良、変更を含み得る。本発明の形態は、前記特別な構造に限定されず、例えば下記のような変更が可能である。
【0103】
基準最大熱発生率Qmaxは、予め適合された最大熱発生率マップに筒内状態パラメータを適用することによって取得されていた。ここで、基準最大熱発生率Qmaxの取得に際して参照される筒内状態パラメータは、上述したものと異なっていても良い。例えば、筒内状態パラメータは、機関本体2の気筒内の圧力を検出する筒内圧センサの出力値を含んでいても良い。更に、筒内状態パラメータは、燃料噴射弁21から噴射される燃料の圧力(即ち、コモンレール装置の蓄圧室における燃料圧力に基づいて取得される燃料噴射圧)を含んでいても良い。
【0104】
或いは、基準最大熱発生率Qmaxは、上記式(1)に類似する計算式に燃料分圧Pf、酸素分圧Po及び筒内温度Tcを適用することによって取得(算出)されても良い。更に、基準最大熱発生率Qmaxは、実験(内燃機関1が搭載された車両の走行実験を含む)によって得られた筒内状態パラメータと基準最大熱発生率Qmaxとの関係が教示データとして入力された機械学習によって得られた人工知能モデル(関数)に基づいて取得されても良い。
【0105】
基準最大熱発生率Qmaxは、クランク角度CAが基準噴射位置Crとなったときに燃料噴射弁21から噴射された基準量の燃料(即ち、第2基準燃料量Fr2に等しい量の燃料)が燃焼した場合に発生する熱発生率Qの最大値であった。ここで、基準噴射位置Crは、上述した-10°以外の値(例えば、-15°又は0°)であっても良い。
【0106】
或いは、基準噴射位置Crは固定値でなくても良い。例えば、圧縮上死点よりも基準着火遅れτ0だけ以前の時点に対応するクランク角度CAが、基準噴射位置Crとして取得されても良い。即ち、最大熱発生率マップは、機関回転速度NE、燃料噴射量Fi及び基準着火遅れτ0の組合せのそれぞれに対して適合されても良い。
【0107】
基準最大熱発生率Qmaxは、熱発生率Q(即ち、単位クランク角度CAあたりに発生する熱量)の最大値であった。これに代わり、基準最大熱発生率Qmaxは、単位時間あたりに発生する熱量の最大値であっても良い。
【0108】
基準最大熱発生率Qmaxは、基準噴射位置Crにて噴射された基準量の燃料が燃焼した場合における熱発生率Qの最大値であった。即ち、基準最大熱発生率Qmaxは、単段噴射に伴う燃焼に対して取得されていた。これに代わり、基準最大熱発生率Qmaxは、多段噴射に伴う燃焼に対して取得されても良い。例えば、第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmを含む噴射位置群の1つ(基準噴射位置群)にて噴射された燃料が燃焼した場合における熱発生率Qの最大値が基準最大熱発生率Qmaxとして取得されても良い。この場合、基準噴射位置群のそれぞれにて噴射された燃料量の合計値は、便宜上、「基準量」とも称呼される。
【0109】
燃焼速度相関値として基準最大熱発生率Qmaxが取得されていたが、燃焼速度相関値は基準最大熱発生率Qmaxとは異なる値であっても良い。例えば、熱発生率Qの増加率(熱発生率Qのクランク角度CAに対する微分)の最大値が燃焼速度相関値として取得されても良い。熱発生率Qの増加率の最大値は、例えば、図6に示される着火接線(即ち、一点鎖線L3at及び一点鎖線L3bt)の傾きに等しい。一般に、燃焼速度が大きくなるほど着火接線の傾きが大きくなる(即ち、勾配が急峻となる)ので、熱発生率Qの増加率の最大値も燃焼速度相関値として採用され得る。
【0110】
上述した実施形態において、負荷相関値(即ち、燃料噴射量Fi)に係る基準範囲は、噴射量閾値Fthを上限とする燃料噴射量Fiの範囲であった。これに代わり、基準範囲は、下限が定められた燃料噴射量Fiの範囲であっても良く、下限及び上限が定められた燃料噴射量Fiの範囲であっても良い。更に、基準範囲は、内燃機関1の運転状態(例えば、暖気運転中であるか否か)に応じて変更されても良い。或いは、実施形態の第1変形例及び第2変形例において示されたように、負荷相関値が基準範囲に含まれているか否かに依らず、基準最大熱発生率Qmaxに基づいて噴射位置群が取得されても良い。
【0111】
一方、負荷相関値が基準範囲に含まれていないとき、ECU7は、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmの一部又は全部を進角しても良い。例えば、燃料噴射量Fiが噴射量閾値Fthよりも大きいとき、第1パイロット噴射位置Cp1及び第2パイロット噴射位置Cp2を進角させても良い。即ち、内燃機関1の高負荷時には、第2パイロット噴射位置Cp2と主噴射位置Cmとの間の期間(即ち、パイロットインターバル)を大きくしても良い。これに代わり、或いは、これに加え、基準着火遅れτ0及び基準最大熱発生率Qmaxの一方又は両方が所定範囲に含まれていないとき、ECU7は、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cmの一部又は全部を進角しても良い。
【0112】
負荷相関値は、燃料噴射量Fiであった。これに代わり、負荷相関値は、燃料噴射量Fiを機関回転速度NEで除して得られる値(即ち、Fi/NE)、又は、燃料噴射量Fiと機関回転速度NEとの積(即ち、Fi×NE)であっても良い。或いは、負荷相関値は、車速Vsであっても良い。
【0113】
ECU7、7aは、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど燃料噴射位置群(即ち、第1パイロット噴射位置Cp1、第2パイロット噴射位置Cp2及び主噴射位置Cm)のそれぞれを遅角していた。これに代わり、ECU7は、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど燃料噴射位置群の一部を遅角しても良い。例えば、ECU7、7aは、基準最大熱発生率Qmaxに応じて第1パイロット噴射位置Cp1及び第2パイロット噴射位置Cp2のみを遅角しても良い。或いは、ECU7、7aは、基準最大熱発生率Qmaxに応じて主噴射位置Cmのみを遅角しても良い。
【0114】
ECU7、7a、7bが基準最大熱発生率Qmaxに応じて制御(変更)する燃焼パラメータは、燃料噴射圧(即ち、燃料噴射弁21から噴射される燃料の圧力)であっても良い。例えば、ECU7は、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど燃料噴射圧が低下するようにコモンレール装置の燃料加圧ポンプ(不図示)を制御しても良い。
【0115】
ECU7、7a、7bが基準最大熱発生率Qmaxに応じて制御する燃焼パラメータは、主噴射量Fmであっても良い。例えば、ECU7は、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど主噴射量Fmを増加させても良い。この場合、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど第1噴射量Fp1及び第2噴射量Fp2の一方又は両方が減少する。或いは、ECU7は、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど主噴射量Fmを減少させても良い。
【0116】
ECU7、7a、7bが基準最大熱発生率Qmaxに応じて制御する燃焼パラメータは、EGR率Erであっても良い。例えば、ECU7は、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほど目標EGR率Etgtを大きな値に設定しても良い。この場合、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるほどEGR弁63の開弁状態が全開位置に接近する。
【0117】
ECU7bは、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなると、パイロット噴射の噴射回数を2回から1回に減少させていた。これに代わり、ECU7bは、基準最大熱発生率Qmaxが小さいときに3回のパイロット噴射を実行し、基準最大熱発生率Qmaxが大きくなるに従ってパイロット噴射の回数を3回から2回、更に、2回から1回へと減少させても良い。
【0118】
基準着火遅れτ0は、第1基準燃料量Fr1に等しい燃料が燃料噴射弁21から噴射されて発生する燃焼に基づいて取得されていた。これに代わり、基準着火遅れτ0は、主噴射量Fmに等しい燃料が燃料噴射弁21から噴射されて発生する燃焼に基づいて取得されても良い。
【0119】
噴射位置群のそれぞれは、クランク角度CAによって表されていた。これに代わり、噴射位置群のそれぞれは、クランク角度CAが圧縮上死点に到達する時刻を基準とする時間(噴射時間[msec])によって表されても良い。この場合、噴射時間は、クランク角度CAが圧縮上死点に到達する前は負の値となり、クランク角度CAが圧縮上死点に到達した後は正の値となる。
【0120】
最大熱発生率マップは、内燃機関1に用いられる燃料の性状に応じて使い分けられても良い。例えば、セタン価に応じて最大熱発生率マップが使い分けられても良い。この場合、ECU7、7a、7bは、内燃機関1が搭載された車両の燃料タンクに貯留された燃料(軽油)のセタン価を推定し且つ推定されたセタン価に対応する最大熱発生率マップを参照しても良い。その結果、セタン価に応じて変化する基準最大熱発生率Qmaxに基づいて噴射位置群が取得され得る。同様に、燃料タンクに貯留された燃料に含まれるバイオ燃料又は合成燃料の濃度(バイオ燃料又は合成燃料が100%である場合を含む)に応じて最大熱発生率マップが使い分けられても良い。
【符号の説明】
【0121】
1……内燃機関
2……機関本体
21…燃料噴射弁
3……過給機
31…タービン、32…可変ノズル機構
32a…ノズルアクチュエータ、33…コンプレッサ
4……吸気システム
41a~41b…吸気管、42…吸気マニホールド、43…インタークーラ
44…スロットル弁、44a…スロットルアクチュエータ
5……排気システム
51…排気マニホールド、52a~52b…排気管、53…排ガス浄化装置
6……EGRシステム
61…EGR管、62…EGRクーラ、63…EGR弁
7、7a、7b…ECU
81…クランク角度センサ、82…カムポジションセンサ
83…エアフローセンサ、84…ノズル開度センサ
85a~85d…圧力センサ、86a~86c…温度センサ
87…アクセル開度センサ、88…車速センサ
図1
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図12