(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171532
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】位相分散変圧器
(51)【国際特許分類】
H01F 30/12 20060101AFI20241205BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20241205BHJP
【FI】
H01F30/12 C
H02M7/48 Z
H01F30/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088590
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】516131843
【氏名又は名称】ANP株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516091112
【氏名又は名称】神崎産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(74)【代理人】
【識別番号】100224269
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 佑太
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正二
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA21
(57)【要約】
【課題】複数の負荷に三相交流を供給するための変圧器であって、簡易な構成で各負荷からの高調波の発生を相殺可能な変圧器を提供する。
【解決手段】n組の三相交流のための3n個の端子と、複数のr相巻線と複数のs相巻線と複数のt相巻線と、を有し、変圧器ベクトル図にて、共通する1つの外接円の中心の周りに120/n度の等角度間隔で配置されたn個の正三角形の各々の3つの頂点が各三相交流のR相、S相、T相の端子に対応すると共に、各正三角形の辺ベクトルが各三相交流の線間電圧に対応し、変圧器ベクトル図にて、いずれか1つの正三角形の各辺ベクトルに対してそれぞれ平行な複数のr相ベクトルと複数のs相ベクトルと複数のt相ベクトルとが配置され、かつそれらのベクトルの各々の長さ及び互いの接続関係が、複数のr相巻線と複数のs相巻線と複数のt相巻線の各々の巻数及び互いの接続関係に対応する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の負荷機器に対してそれぞれ三相交流電圧を出力可能な位相分散変圧器であって、
n組(nは2以上の自然数)の三相交流のための3n個の端子と、
複数のr相巻線と複数のs相巻線と複数のt相巻線と、を有し、
変圧器ベクトル図にて、共通する1つの外接円の中心の周りに120/n度の等角度間隔で配置されたn個の正三角形の各々の3つの頂点が各前記三相交流のR相、S相、T相の端子に対応すると共に、各前記正三角形の辺ベクトルが各前記三相交流の線間電圧に対応し、
前記変圧器ベクトル図にて、いずれか1つの正三角形の各辺ベクトルに対してそれぞれ平行な複数のr相ベクトルと複数のs相ベクトルと複数のt相ベクトルとが配置され、かつそれらのベクトルの各々の長さ及び互いの接続関係が、前記複数のr相巻線と複数のs相巻線と複数のt相巻線の各々の巻数及び互いの接続関係に対応し、
前記変圧器ベクトル図にて、前記n個の正三角形の3n個の頂点が、前記複数のr相ベクトルと複数のs相ベクトルと複数のt相ベクトルとをループ状に配置することによって接続されており、
前記複数のr相ベクトルと複数のs相ベクトルと複数のt相ベクトルのループ状の配置は、外接円の中心の周りで3回対称の回転対称性を有する、位相分散変圧器。
【請求項2】
前記3n個の端子が、前記位相分散変圧器の二次側におけるn組の三相交流の出力端子であり、かつ前記複数のr相巻線と複数のs相巻線と複数のt相巻線が、前記位相分散変圧器の二次側巻線であり、
前記位相分散変圧器が、前記二次側巻線とは別に、一次側のr相巻線とt相巻線とs相巻線を有する、請求項1に記載の位相分散変圧器。
【請求項3】
前記3n個の端子のうちいずれか1組の3つの端子が、前記位相分散変圧器の一次側の入力端子であり、残りの3(n-1)個の端子が前記位相分散変圧器の二次側の(n-1)組の三相交流の出力端子である、請求項1に記載の位相分散変圧器。
【請求項4】
前記3n個の端子の各々において、異なる2相の巻線の一端同士が接続されている、請求項2又は3に記載の位相分散変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高調波の影響を低減する変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統から商用電源を供給したときに歪んだ電流が流れる機器は、電力系統に高調波電流を流出させる高調波発生源となる。例えばインバータや整流器等を含む機器である。電力系統に流出した高調波電流は、上位系統へと伝わる過程で電圧降下、電圧の歪み、高調波電圧の発生等を生じる。その結果、電力系統に接続される他の機器にも悪影響を及ぼすことになる。機器における悪影響には、雑音、過熱、振動、誤作動等がある。
【0003】
特許文献1、2は、電力系統からの三相交流を、高調波の少ない直流に変換する多巻線を有する多相変圧器と整流器を提示している。
図9は、特許文献1、2等に開示された従来技術を概略的に示している。電力系統の送電線U、V、Wから三相交流を多相変圧器100の一次側のR0、S0、T0の端子に入力し、二次側のR1~3、S1~3、T1~3の端子から位相が互いに所定の角度でずれた多相交流を出力する。出力された多相交流を全波整流器200に入力することで、直流変換を行う。出力された直流は、負荷300に供給される。負荷300は、例えばインバータと交流電動機等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-10646号公報
【特許文献2】特開平4-229077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9の多相変圧器100は、電力系統の三相交流から位相の異なる三相以上の多相交流を生成し、それらの多相交流を全波整流して直流を得ることによって電圧リップルを抑制し高調波の発生を軽減している。
【0006】
しかしながら
図9に示すように、1つの多相変圧器100の出力は1つの負荷300に供給される。したがって、複数の負荷300が存在する場合、多相変圧器100を負荷毎に設けなければならず、コストがかかる。
【0007】
以上に鑑み本発明は、複数の負荷機器に対してそれぞれ三相交流を供給するための変圧器であって、簡易な構成で各負荷からの高調波の影響を抑制できる変圧器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するべく、本発明は、以下の構成を提供する。
1)本発明の態様は、複数の負荷機器に対してそれぞれ三相交流電圧を出力可能な位相分散変圧器であって、
n組(nは2以上の自然数)の三相交流のための3n個の端子と、
複数のr相巻線と複数のs相巻線と複数のt相巻線と、を有し、
変圧器ベクトル図にて、共通する1つの外接円の中心の周りに120/n度の等角度間隔で配置されたn個の正三角形の各々の3つの頂点が各前記三相交流のR相、S相、T相の端子に対応すると共に、各前記正三角形の辺ベクトルが各前記三相交流の線間電圧に対応し、
前記変圧器ベクトル図にて、いずれか1つの正三角形の各辺ベクトルに対してそれぞれ平行な複数のr相ベクトルと複数のs相ベクトルと複数のt相ベクトルとが配置され、かつそれらのベクトルの各々の長さ及び互いの接続関係が、前記複数のr相巻線と複数のs相巻線と複数のt相巻線の各々の巻数及び互いの接続関係に対応し、
前記変圧器ベクトル図にて、前記n個の正三角形の3n個の頂点が、前記複数のr相ベクトルと複数のs相ベクトルと複数のt相ベクトルとをループ状に配置することによって接続されており、
前記複数のr相ベクトルと複数のs相ベクトルと複数のt相ベクトルのループ状の配置は、外接円の中心の周りで3回対称の回転対称性を有する。
2)上記態様において、前記3n個の端子が、前記位相分散変圧器の二次側におけるn組の三相交流の出力端子であり、かつ前記複数のr相巻線と複数のs相巻線と複数のt相巻線が、前記位相分散変圧器の二次側巻線であり、
前記位相分散変圧器が、前記二次側巻線とは別に、一次側のr相巻線とt相巻線とs相巻線を有する。
3)上記態様において、前記3n個の端子のうちいずれか1組の3つの端子が、前記位相分散変圧器の一次側の入力端子であり、残りの3(n-1)個の端子が前記位相分散変圧器の二次側の(n-1)組の三相交流の出力端子である。
4)上記態様において、前記3n個の端子の各々において、異なる2相の巻線の一端同士が接続されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の負荷機器に対してそれぞれ三相交流を供給可能な簡易な構成の位相分散変圧器が提供され、それによって、各負荷機器からの高調波の発生を全体として相殺することができる。この結果、電力系統への高調波の流出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明による位相分散変圧器の使用例を概略的に示した図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した位相分散変圧器の二次側における変圧器ベクトル図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した位相分散変圧器の結線図を概略的に示している。
【
図4】
図4は、本発明による別の位相分散変圧器とその使用例を概略的に示した図である。
【
図5】
図5は、
図4に示した位相分散変圧器の結線図を概略的に示している。
【
図6】
図6(a)~(e)はそれぞれ、2組、3組、4組、5組、6組の三相交流用の位相分散変圧器の変圧器ベクトル図である。
【
図7】
図7は、位相分散変圧器の別の使用形態を概略的に示す。
【
図8】
図8は、位相分散変圧器のさらに別の使用形態を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、例示としての図面を参照しつつ、本発明による位相分散変圧器の実施形態を説明する。本明細書において三相交流とは、3相の電圧の大きさが等しく位相が互いに120°ずつずれた対称三相交流である。
【0012】
(1)位相分散変圧器の実施形態と使用例
図1は、本発明による位相分散変圧器10とその使用例を概略的に示した図である。電力系統の送電線U、V、Wからの三相交流が、位相分散変圧器10の一次側の入力端子[R0、S0、T0]に入力される。そして図示の例では、位相分散変圧器10の二次側の4組の出力端子[R1、S1、T1]、[R1、S2、T2]、[R3、S3、T3]、及び[R4、S4、T4]から4組の三相交流が出力される。出力される4組の三相交流のうち、1組の三相交流は入力三相交流と同相であり、他の3組の三相交流は入力三相交流に対して等角度間隔で位相がずれている。図示の例では、4組の三相交流は、30度(π/6ラジアン)間隔で位相がずれている。
【0013】
出力された4組の三相交流は、それぞれ負荷1、負荷2、負荷3、負荷4に供給される。負荷1~4は、例えば整流器とインバータと交流電動機をそれぞれ含む機器である。整流器とインバータで交流→直流→交流の変換が行われ交流電動機に供給される。この場合、整流器とインバータは一般的な構成を想定している。負荷1~4は、定格容量がほぼ同じであることが好ましいが、厳密に一致する必要はない。なお、図示の負荷1~4の構成は一例である。本明細書での「負荷」は、負荷機器と同義であり、位相分散変圧器よりも下流側に直接的又は間接的に接続されている負荷機器を総称したものないしは概念的に表したものである。
【0014】
一般的に、負荷機器の整流器やインバータにおいて高調波が発生すると、上位系統へ高調波が流出するおそれがある。本発明では、4つの負荷1~4にそれぞれ入力される三相交流電圧の位相が等角度間隔でずれているため、発生した高調波電流を互いに相殺する効果がある。これは、電力系統側から視た効果である。この結果、上位系統へ高調波が流出しないので、電力系統に接続された他の負荷機器に対して高調波の影響を及ぼさない。
【0015】
本発明の位相分散変圧器10は、複数の負荷機器に対して出力する複数組の三相交流の各々の位相をずらして位相を分散させる役割を果たしている。本発明の位相分散変圧器10は、
図9に示した従来技術の多相変圧器100のように負荷毎に設置するのではなく、複数の負荷に対して1つ設ければよいのでコスト的に有利である。
【0016】
(2)4組三相交流用の位相分散変圧器の変圧器ベクトル図
図2は、
図1に示した位相分散変圧器(以下、「変圧器」と略称する場合がある)10における二次側巻線の変圧器ベクトル図である。変圧器ベクトル図上での各線分はそれぞれベクトルであるが、矢印の図示を省略している。その替わりに、r相、s相、t相の各ベクトルの向きを
図2の右下に示している。変圧器ベクトル図上のベクトルの向きは位相に対応し、ベクトルの大きさは電圧に対応する。本明細書では、大文字のR、S、Tは変圧器の端子又はベクトル図上の点を表し、小文字のr、s、tは変圧器の巻線又はベクトル図上の線分(ベクトル)を表す。
【0017】
上述したように、変圧器10の二次側には、4組の三相交流を出力するための12個出力端子[R1、S1、T1]、[R1、S2、T2]、[R3、S3、T3]、及び[R4、S4、T4]がある。さらに、変圧器10は二次巻線として、8本のr相巻線と、8本のs相巻線と、8本のt相巻線を有する。同相の巻線は同相の電圧を生じる。
【0018】
二次側巻線の変圧器ベクトル図は、補助図形として鎖線で示す1つの円を有する。さらなる補助図形として、この円を共通の外接円とする4個の正三角形を有する。4個の正三角形は、外接円の中心の周りに120/4度すなわち30度の等角度間隔で配置されている。各正三角形の3つの頂点が、各三相交流のR相、S相、T相の端子に対応する。そして、各正三角形の辺ベクトルが、各三相交流の線間電圧に対応する。よって、4組の三相交流の出力線間電圧は等しい。
【0019】
例えば[R1、S1、T1]を頂点とする正三角形の辺ベクトルの長さと向きは、R1-S1端子間、S1-T1端子間、T1-R1端子間の各線間電圧の大きさと位相を表している。
【0020】
ここでは一例として[R1、S1、T1]を頂点とする1つの正三角形を基準とし、この基準正三角形の各辺ベクトルに対してそれぞれ平行な8本のr相ベクトルr1~r8と、8本のs相ベクトルs1~s8と、8本のt相ベクトルt1~t8とが、変圧器ベクトル図に配置されている。なお、4つの正三角形のうちいずれを基準正三角形としてもよい。
【0021】
8本のr相ベクトルr1~r8の長さと向きは、二次側の8本のr相巻線の巻数と位相に対応する。8本のs相ベクトルs1~s8の長さと向きは、二次側の8本のs相巻線の巻数と位相に対応する。8本のt相ベクトルt1~t8の長さと向きは二次側の8本のt相巻線の巻数と位相に対応する。変圧器の各巻線の巻数と各巻線に生じる電圧とは比例する。また、変圧器ベクトル図上の全部で24本のベクトルの接続関係は、変圧器における全部で24本の巻線の接続関係と一致している。
【0022】
4組三相交流の場合、変圧器ベクトル図においてベクトルr1、r2、r5、r6は同じ長さであり、ベクトルr3、r4、r7、r8は同じ長さである。s相ベクトル群、t相ベクトル群についても同様である。例えば、正三角形の辺ベクトルの長さが三相交流の線間電圧200Vに対応している場合、ベクトルr1、r2、r5、r6の長さは17.9Vに、ベクトルr3、r4、r7、r8の長さは48.8Vにそれぞれ対応する。
【0023】
変圧器ベクトル図における全部で24本のベクトルの接続関係の特徴を説明する。4個の正三角形の12個の頂点は外接円上に30度の等角度間隔で配置されている。これらの12個の頂点は、8本のr相ベクトルと8本のs相ベクトルと8本のt相ベクトルとをループ状に配置することによって接続されている。ループ状とは、輪ないしは環のようなトポロジーをもつことを意味する。いずれのベクトルも、その各端が他のいずれかのベクトルの一端と接続されており、全体で1つの閉じたループを形成している。よって本発明の変圧器10の結線は、基本的にΔ結線である。全部で24本のベクトルの接続において、1本のベクトルの途中から別のベクトルが分岐することはない。分岐があると4組の三相交流の出力バランスがくずれやすい。また、2本のベクトルが交差することはない。
【0024】
また、4個の正三角形の12個の頂点の各々において、異なる2相のベクトルの一端同士が接続されている。例えば、頂点R1ではr相ベクトルr1とt相ベクトルt2が接続され、頂点S1ではr相ベクトルr2とs相ベクトルs1が接続され、頂点T1ではs相ベクトルs2とt相ベクトルt1が接続されている。
【0025】
なお、
図2の変圧器ベクトル図では、外接円上以外の箇所に位置する接続点にa、b、c、d、e、f、g、h、i、j、k、lの符号を付して示している。これらの接続点は、位相分散変圧器10の内部の接続点である。
図2中の符号は、後述する
図3の結線図における符号と一致している。
【0026】
(3)4組三相交流用の位相分散変圧器の結線
図3は、
図1に示した位相分散変圧器10の結線図を概略的に示している。一次側巻線として巻線r0、巻線s0、巻線t0が設けられ、二次側巻線として巻線r1~r8、巻線s1~s8、巻線t1~t8が設けられる。この場合、変圧器10は、絶縁型変圧器を構成している。一例として、一次側の入力電圧が6.6kV、二次側の出力電圧が200Vである。
【0027】
図示の例では一次側巻線はΔ結線となっているが、必要に応じてY結線としてもよい。また、二次側巻線において、同じ符号が付されている端子同士は実際には接続されているが、図を簡略化するために接続線を省略している。
【0028】
(4)位相分散変圧器の別の実施形態
図4は、本発明による別の位相分散変圧器20とその使用例を概略的に示した図である。位相分散変圧器20は、上述した位相分散変圧器10における二次側巻線のみから構成された変圧器である。
図5は、
図4に示した位相分散変圧器20の結線図を概略的に示している。この場合、4組の三相交流の端子のうち、いずれか1組の三相交流の端子を一次側の入力端子とし、他の3組の三相交流の端子を二次側の出力端子として用いる。この場合、非絶縁型変圧器となる。4組の三相交流の線間電圧は等しい。
【0029】
図示の例では、電力系統の送電線U、V、Wからの三相交流が、位相分散変圧器20の入力端子[R1、S1、T1]に入力される。別の例として、電力系統の送電線から直接入力するのではなく、別の降圧用変圧器を介在させてその三相交流出力を位相分散変圧器20に入力してもよい。位相分散変圧器20は、入力三相交流に対してそれぞれ位相が30度、60度、90度だけずれた3組の三相交流を、他の3組の出力端子[R2、S2、T2]、[R3、S3、T3]、及び[R4、S4、T4]からそれぞれ出力する。出力された3組の三相交流は、例えば
図1と同様の負荷1、負荷2、負荷3にそれぞれ供給される。入力端子は[R1、S1、T1]に限られず、他の3組の端子のいずれかでもよい。
【0030】
(5)n組三相交流の変圧器ベクトル図
図1~
図5を参照して4組の三相交流用の端子を備えた位相分散変圧器について説明した。本発明の位相分散変圧器は、4組の三相交流用に限られず、n組(nは2以上の自然数)の三相交流用とすることができる。その場合、位相分散変圧器は3n個の端子を有する。
図6(a)~(e)はそれぞれ、2組、3組、4組(
図2と同じ)、5組、6組の三相交流用の位相分散変圧器の変圧器ベクトル図である。
【0031】
図6(a)~(e)の変圧器ベクトル図(n=2、3、4、5、6)は、共通する1つの外接円の中心の周りに120/n度(2π/3nラジアン)の等角度間隔で配置されたn個の正三角形を補助図形として有する。各正三角形の3つの頂点が各三相交流のR相、S相、T相の端子に対応する。各正三角形の辺ベクトルは各三相交流の線間電圧に対応する。よって、n組の三相交流の線間電圧は等しい。
【0032】
図6(a)~(e)の変圧器ベクトル図は、その実施形態によって、
図3に示したように別の1組の三相巻線を一次側に有する絶縁型変圧器の二次側の変圧器ベクトル図と見なすことができる。あるいは、
図5に示したようにn組のうちの1組を入力とし、(n-1)組を出力とする非絶縁型変圧器の変圧器ベクトル図と見なすこともできる。したがって、変圧器ベクトル図の外接円上に位置する3n個の頂点は、その全てが出力端子である場合と、1組3個の頂点が入力端子でそれ以外の3(n-1)個の頂点が出力端子である場合の2通りの実施形態がある。
【0033】
図6(a)~(e)の変圧器ベクトル図には、いずれか1つの正三角形(基準正三角形)の各辺ベクトルに対してそれぞれ平行な複数のr相ベクトルと、複数のs相ベクトルと、複数のt相ベクトルとが配置されている。図示の例ではいずれもR1、S1、T1を頂点とする正三角形を基準正三角形としているが、それ以外の正三角形を基準正三角形としてもよい。
【0034】
変圧器ベクトル図における複数のr相ベクトル、複数のs相ベクトル、複数のt相ベクトルは、位相分散変圧器の複数のr相巻線、複数のs相巻線、複数のt相巻線にそれぞれ対応する。そして、各ベクトルの長さ及び互いの接続関係は、複数のr相巻線と複数のs相巻線と複数のt相巻線の各々の巻数及び互いの接続関係に対応する。
【0035】
変圧器ベクトル図において、n個の正三角形の3n個の頂点は、複数のr相ベクトルと複数のs相ベクトルと複数のt相ベクトルとをループ状に配置することによって接続されている。1本のベクトルの各端は他のいずれかのベクトルの一端と接続され、全体で1つの閉じたループを形成している。ベクトルの一端が自由端となることはない。また、1本のベクトルの途中から別のベクトルが分岐することはない。分岐があるとn個の三相交流の出力バランスがくずれやすい。さらにまた、2本のベクトルが交差することはない。よって位相分散変圧器の各巻線においては、巻線の途中で端子を取り出す必要は無く、巻線の両端を接続するだけでよい。本発明の位相分散変圧器の結線方法は、基本的にΔ結線的と云える。
【0036】
図6(a)~(e)から判るように、複数のr相ベクトルと複数のs相ベクトルと複数のt相ベクトルとから形成されたループ状の配置は回転対称性を有し、外接円の中心の周りで3回対称である。すなわち外接円の中心の周りで120度回転する毎に自らの形状と重なる形状である。
【0037】
また、変圧器ベクトル図のn個の正三角形の3n個の頂点の各々において、異なる2相のベクトルの一端同士が接続されている。すなわち、位相分散変圧器の3n個の端子の各々において、異なる2相の巻線の一端同士が接続されていることになる。
【0038】
(6)位相分散変圧器の別の使用形態
図7は、位相分散変圧器10の別の使用形態を概略的に示す。位相分散変圧器10が、例えば変電所の変圧器として設置される。電力系統の送電線U、V、Wから一次側の[R0、S0、T0]の端子に入力された三相交流を降圧し、二次側の[R1、S1、T1]、[R2、S2、T2]、[R3、S3、T3]及び[R4、S4、T4]の出力端子から例えば4組の三相交流を出力する。すなわちこの例では、1つの高圧送電線から4つの低圧送電線に分岐される。通常の変圧器では、4つの低圧送電線は同相であり、それぞれの交流負荷11~14へ供給される。ここでの交流負荷は、交流をそのまま利用する機器を意味する。本発明の位相分散変圧器10を用いることにより、各低圧送電線の位相を分散させて交流負荷11~14へ供給することができる。電力系統側から視ると、低圧側にどのような交流負荷11~14が接続されるかを把握することはできないが、出力三相交流電圧の位相を分散させることによって、同相で配電する場合に比べて高調波の上流系統への流出を低減することができる。
【0039】
図8は、位相分散変圧器10のさらに別の使用形態を概略的に示す。4台の位相分散変圧器10を、例えば4箇所の変電所A~Dにそれぞれ設置し、電力系統の送電線U、V、Wから一次側の[R0、S0、T0]の端子に三相交流を入力する。変電所Aの位相分散変圧器10は[R1、S1、T1]の出力端子から交流負荷11へ、変電所Bの位相分散変圧器10は[R2、S2、T2]の出力端子から交流負荷12へ、変電所Cの位相分散変圧器10は[R3、S3、T3]の出力端子から交流負荷13へ、変電所Dの位相分散変圧器10は[R4、S4、T4]の出力端子から交流負荷14へ、それぞれ三相交流を出力する。この使用形態においても、電力系統側から視て交流負荷11~14で発生した高調波が相殺され、上位系統への流出を低減できる。この使用形態のように、本発明の位相分散変圧器では、それに備わる出力端子の全てを同時に使用する必要はなく、状況に応じて一部の出力端子のみを使用してもよい。
【0040】
図7及び
図8に示した使用形態において、位相分散変圧器10に替えて、
図4に示した位相分散変圧器20を用いてもよい。その場合、電力系統の送電線U、V、Wと位相分散変圧器20との間に降圧用変圧器を介在させてもよい。
【0041】
以上では、本発明の実施形態を、例示としての構成を参照して説明したが、具体的な構成はこれらに限定されない。本発明の原理に従う限り、多様な変形形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10、20 位相分散変圧器
1、2、3、4 負荷
11、12、13、14 交流負荷
100 多相変圧器
200 全波整流器
300 負荷