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特開2024-171538医用情報処理装置、システム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171538
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】医用情報処理装置、システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20241205BHJP
【FI】
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088600
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 恭子
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】個人の状態に応じた適切な対応を提案すること。
【解決手段】実施形態に係る医用情報処理装置は、取得部と、抽出部と、推定部と、提示部とを備える。取得部は、被検体の臨床情報とバイタルデータとを取得する。抽出部は、バイタルデータに基づいて疾患候補を抽出する。推定部は、被検体の臨床情報と疾患候補それぞれに関する医療知識とに基づいて、疾患候補それぞれに対応する病態程度を推定する。提示部は、病態程度に基づいて、疾患候補に対応する推奨行動を提示する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の臨床情報とバイタルデータとを取得する取得部と、
前記バイタルデータに基づいて疾患候補を抽出する抽出部と、
前記被検体の臨床情報と疾患候補それぞれに関する医療知識とに基づいて、疾患候補それぞれに対応する病態程度を推定する推定部と、
前記病態程度に基づいて、前記疾患候補に対応する推奨行動を提示する提示部と、
を備える、医用情報処理装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記被検体の臨床情報と、前記医療知識と、さらに、前記被検体のバイタルデータとに基づいて、前記疾患候補それぞれに対応する疾患の病態程度を推定する、請求項1に記載の医用情報処理装置。
【請求項3】
前記抽出部は、前記バイタルデータに含まれる前記被検体の活動状態と生体情報との関係に基づいて、前記疾患候補を抽出する、請求項1に記載の医用情報処理装置。
【請求項4】
前記抽出部は、前記被検体の運動時の運動強度と当該運動時の呼吸変化又は心拍数変化との比較に基づいて当該被検体の状態を推定し、推定結果に基づいて前記疾患候補を抽出する、請求項3に記載の医用情報処理装置。
【請求項5】
前記抽出部は、前記被検体の運動時の運動強度と当該運動時の呼吸変化又は心拍数変化との比較を経時的に実行し、経時的な比較に基づいて当該被検体の状態を推定する、請求項4に記載の医用情報処理装置。
【請求項6】
前記推定部は、前記被検体の臨床情報と、前記疾患候補に対して処方される薬剤に関する医療知識と、前記被検体のバイタルデータとに基づいて、当該薬剤による治療効果を推定する、請求項2に記載の医用情報処理装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記薬剤を投与した場合に前記被検体に発生する副作用を推定し、推定結果を含めて前記治療効果を推定する、請求項6に記載の医用情報処理装置。
【請求項8】
前記提示部は、前記疾患候補を診断するための検査手法をさらに提示する、請求項1~6のいずれか1つに記載の医用情報処理装置。
【請求項9】
被検体の臨床情報とバイタルデータとを取得する取得部と、
前記バイタルデータに基づいて疾患候補を抽出する抽出部と、
前記被検体の臨床情報と疾患候補それぞれに関する医療知識とに基づいて、疾患候補それぞれに対応する病態程度を推定する推定部と、
前記病態程度に基づいて、前記疾患候補に対応する推奨行動を提示する提示部と、
を備える、医用情報処理システム。
【請求項10】
被検体の臨床情報とバイタルデータとを取得し、
前記バイタルデータに基づいて疾患候補を抽出し、
前記被検体の臨床情報と疾患候補それぞれに関する医療知識とに基づいて、疾患候補それぞれに対応する病態程度を推定し、
前記病態程度に基づいて、前記疾患候補に対応する推奨行動を提示する、
ことを含む、医用情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、医用情報処理装置、システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ウェアラブルデバイスにより、日常生活において様々なバイタルデータの取得が可能となっている。このような多数のバイタルデータは個人ごとに集積管理され、個人の健康管理などに利用されており、例えば、日常的に収集されたバイタルデータがある条件となった場合に、アラートを発するシステムなどが知られている。また、個人が自身の不調に気づいた場合に、問い合わせするサービスやオンライン診療サービスも普及しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-009589号公報
【特許文献2】特開2013-148996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、個人の状態に応じた適切な対応を提案することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置付けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る医用情報処理装置は、取得部と、抽出部と、推定部と、提示部とを備える。取得部は、被検体の臨床情報とバイタルデータとを取得する。抽出部は、前記バイタルデータに基づいて疾患候補を抽出する。推定部は、前記被検体の臨床情報と疾患候補それぞれに関する医療知識とに基づいて、疾患候補それぞれに対応する病態程度を推定する。提示部は、前記病態程度に基づいて、前記疾患候補に対応する推奨行動を提示する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1の実施形態に係る医用情報処理システムを示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る医用情報処理装置の処理手順の例を示すフローチャートである。
図3図3は、第1の実施形態に係る推奨アクションの決定処理手順の例を示すフローチャートである。
図4図4は、第1の実施形態に係る疾患候補の推定処理の一例を説明するための図である。
図5A図5Aは、第1の実施形態に係る属性分布の一例を示す図である。
図5B図5Bは、第1の実施形態に係る属性の段階付けの一例を説明するための図である。
図6図6は、第1の実施形態に係る患者群の属性分布の一例を示す図である。
図7図7は、第1の実施形態に係る患者群の属性分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、医用情報処理装置、システム及び方法の実施形態について詳細に説明する。なお、本願に係る医用情報処理装置、システム及び方法は、以下に示す実施形態によって限定されるものではない。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る医用情報処理システム1を示すブロック図である。例えば、図1に示すように、本実施形態に係る医用情報処理システム1は、医用情報処理装置100と、ユーザ側装置200とを含み、ネットワーク300を介して各装置が通信可能に接続されている。なお、図1に示す医用情報処理システム1では、単一のユーザ側装置200のみが示されているが、実際には、複数のユーザ側装置200がネットワーク300に接続されている。また、図1に示す医用情報処理システム1では、医用情報処理装置100及びユーザ側装置200のみが示されているが、実際には、その他種々の装置及びシステムがネットワーク300に接続されている。例えば、医用情報処理システム1は、被検体の臨床情報や、種々のガイドラインなどの情報を保管するデータ保管装置などがネットワーク300に接続されている。
【0009】
ここで、図示しないデータ保管装置は、ネットワーク300に接続された種々の装置やシステムから被検体の臨床情報(DNA情報や、既往歴、家族の疾患情報など)を受信し、受信した被検体の臨床情報を自装置内の記憶回路に記憶させて保管する。また、データ保管装置は、ガイドラインや文献など情報を保管するための操作に応じて、当該情報のデータを自装置内の記憶回路に記憶させて保管する。例えば、データ保管装置は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)や、ワークステーション、サーバ等のコンピュータ装置によって実現される。
【0010】
ユーザ側装置200は、バイタルデータ取得装置21と端末装置22とを有し、バイタルデータ取得装置21と端末装置22とが近距離無線通信などにより相互に通信可能に接続されている。
【0011】
バイタルデータ取得装置21は、種々のセンサを有し、被検体のバイタルデータを取得して、端末装置22に送信する。例えば、バイタルデータ取得装置21は、睡眠段階、いびき、心拍数、脈拍、血圧、心電図、呼吸状態、運動の進捗状況(歩数、時間など)、体脂肪率、骨格筋、血管情報、動脈硬化の程度などのバイタルデータを取得して、端末装置22に送信する。バイタルデータ取得装置21は、例えば、ウェアラブルデバイスによって実現される。なお、ウェアラブルデバイスは、例えば、腕時計型、眼鏡型、指輪型、靴型、懐中型、ペンダント型などを含む。
【0012】
端末装置22は、被検体によって操作される装置である。端末装置22は、バイタルデータ取得装置21から受信した被検体のバイタルデータを医用情報処理装置100に送信する。また、端末装置22は、医用情報処理装置100から受信した各種情報を自装置のディスプレイに表示させるとともに、自装置の入力インターフェースを介した各種操作を受け付ける。例えば、端末装置22は、被検体の臨床情報などの入力操作を受け付け、図示しないデータ保管装置や、医用情報処理装置100に送信する。端末装置22は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)やタブレット式PC、PDA(Personal Digital Assistant)、携帯電話等によって実現される。
【0013】
なお、本実施形態では、バイタルデータ取得装置21によって取得されたバイタルデータを端末装置22が医用情報処理装置100に送信する場合について説明するが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、バイタルデータ取得装置21が端末装置22と同様の機能を有し、当該バイタルデータ取得装置21が、医用情報処理装置100と通信を行う場合でもよい。
【0014】
医用情報処理装置100は、医用情報処理システム1の管理者によって操作される装置であり、個人の状態に応じた適切な対応を提案するための各種処理を実行する。具体的には、医用情報処理装置100は、医療機関を訪れる前に日常生活のバイタルデータから疾患候補を抽出して被検体に応じた対応を提案する。その結果、医用情報処理装置100は、症状に無自覚な被検体に早期の気づきを与え、被検体の行動変容から早期受診・治療につなげることを可能にする。
【0015】
上記したように、現在、ウェアラブルデバイスにより、日常生活において様々なバイタルデータの取得が可能となっており、それらのデータを集積管理することで、デジタル情報から自分の状態を復元することができるデジタルツインの環境が構築されてきている。しかしながら、このような環境では、個々の情報は管理されているが、複数の情報の相互の関連や個人全体のついてのチェックはされていないため、集積管理された情報から優先すべき疾患にたどりつくことは難しい。
【0016】
また、被検体本人が体調変化への気づきや自覚がない場合、体調について問い合わせるサービスやオンライン診療サービスなどは利用されず、結果として疾患が進行した状態となってしまうおそれもある。また、仮に体調変化への気づきがあった場合でも、来院先の医療機関の検索・検討や、予約などの手間がかかるため、気が進まずに対応が遅れ、結果として進行してしまうおそれもある。一方、医療機関側においても、無症状や軽度で症状で問い合わせが頻発しても対応しきれない場合もある。
【0017】
そこで、本実施形態に係る医用情報処理装置100は、日常生活で取得される被検体のバイタルデータをモニタリングし、モニタリングにおいて、疾患の発症を示すような、または治療を要するような、異変があった場合に当該被検体に応じた適切な処方を推奨するように制御する。
【0018】
本実施形態に係る医用情報処理装置100は、図1に示すように、通信インターフェース11と、入力インターフェース12と、ディスプレイ13と、記憶回路14と、処理回路15とを備える。例えば、医用情報処理装置100は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)や、ワークステーション、サーバ等のコンピュータ装置によって実現される。
【0019】
通信インターフェース11は、医用情報処理装置100と、ネットワーク300を介して接続された各装置との間で送受信される各種データの伝送及び通信を制御する。具体的には、通信インターフェース11は、処理回路15に接続されており、ネットワーク300上の各装置から受信したデータを処理回路15に送信、又は、処理回路15から受信したデータをネットワーク300上の各装置に送信する。例えば、通信インターフェース11は、ネットワークカードやネットワークアダプタ、NIC(Network Interface Controller)等によって実現される。
【0020】
入力インターフェース12は、操作者から各種指示及び各種情報の入力操作を受け付ける。具体的には、入力インターフェース12は、処理回路15に接続されており、操作者から受け取った入力操作を電気信号へ変換して処理回路15に送信する。例えば、入力インターフェース12は、トラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力インターフェース、及び音声入力インターフェース等によって実現される。なお、本明細書において、入力インターフェース12は、マウス、キーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を制御回路へ送信する電気信号の処理回路も入力インターフェース12の例に含まれる。
【0021】
ディスプレイ13は、各種情報及び各種データを表示する。具体的には、ディスプレイ13は、処理回路15に接続されており、処理回路15から受信した各種情報及び各種データを表示する。例えば、ディスプレイ13は、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、タッチパネル等によって実現される。
【0022】
記憶回路14は、各種データ及び各種プログラムを記憶する。具体的には、記憶回路14は、処理回路15に接続されており、処理回路15から受信したデータを記憶、又は、記憶しているデータを読み出して処理回路15に送信する。例えば、記憶回路14は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子や、ハードディスク、光ディスク等によって実現される。なお、記憶回路14は、医用情報処理装置100とネットワーク300を介して接続されたクラウドコンピュータにより実現されることとしてもよい。
【0023】
処理回路15は、医用情報処理装置100の全体を制御する。具体的には、処理回路15は、個人の状態に応じた適切な対応を提案するための各種処理を実行する。例えば、処理回路15は、ネットワーク300上の装置とのデータのやり取り、記憶回路14に対するデータの保存、データを用いた種々の処理を制御する。
【0024】
例えば、図1に示すように、本実施形態では、医用情報処理装置100の処理回路15が、取得機能151と、抽出機能152と、推定機能153と、提示機能154とを実行する。ここで、取得機能151は、取得部の一例である。また、抽出機能152は、抽出部の一例である。また、推定機能153は、推定部の一例である。また、提示機能154は、提示部の一例である。
【0025】
取得機能151は、被検体の臨床情報とバイタルデータとを取得する。具体的には、取得機能151は、バイタルデータ取得装置21によって日常的に取得されているバイタルデータを、端末装置22から取得する。また、取得機能151は、ユーザ側装置200或いは図示しないデータ保管装置から被検体の臨床情報を取得する。なお、取得機能151による処理については、後に詳述する。
【0026】
抽出機能152は、バイタルデータに基づいて疾患候補を抽出する。具体的には、抽出機能152は、バイタルデータに含まれる被検体の活動状態と生体情報との関係に基づいて、疾患候補を抽出する。例えば、抽出機能152は、被検体の運動時の運動強度と当該運動時の呼吸変化又は心拍数変化との比較に基づいて当該被検体の状態を推定し、推定結果に基づいて疾患候補を抽出する。ここで、抽出機能152は、被検体の運動時の運動強度と当該運動時の呼吸変化又は心拍数変化との比較を経時的に実行し、経時的な比較に基づいて当該被検体の状態を推定する。なお、抽出機能152による処理については、後に詳述する。
【0027】
推定機能153は、被検体の臨床情報と疾患候補それぞれに関する医療知識とに基づいて、疾患候補それぞれに対応する病態程度を推定する。具体的には、推定機能153は、被検体の臨床情報と、医療知識と、さらに、被検体のバイタルデータとに基づいて、疾患候補それぞれに対応する疾患の病態程度を推定する。なお、推定機能153による処理については、後に詳述する。
【0028】
提示機能154は、病態程度に基づいて、疾患候補に対応する推奨行動を提示する。具体的には、提示機能154は、被検体にとって効果が高い行動(例えば、特別な行動なし、生活習慣の改善、検査、治療方針等)を、疾患候補に対応する推奨行動として提示する。例えば、提示機能154は、推奨行動を端末装置22に送信することで、端末装置22のディスプレイに推奨行動を提示させる。なお、提示機能154による処理については、後に詳述する。
【0029】
上述した処理回路15は、例えば、プロセッサによって実現される。その場合に、上述した各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路14に記憶される。そして、処理回路15は、記憶回路14に記憶された各プログラムを読み出して実行することで、各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、処理回路15は、各プログラムを読み出した状態で、図1に示した各処理機能を有することとなる。
【0030】
なお、処理回路15は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサがプログラムを実行することによって各処理機能を実現するものとしてもよい。また、処理回路15が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。また、処理回路15が有する各処理機能は、回路等のハードウェアとソフトウェアとの混合によって実現されても構わない。また、ここでは、各処理機能に対応するプログラムが単一の記憶回路14に記憶される場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、各処理機能に対応するプログラムが複数の記憶回路に分散して記憶され、処理回路15が、各記憶回路から各プログラムを読み出して実行する構成としても構わない。なお、処理回路15が有する各処理機能の一部は、医用情報処理装置100とネットワーク300を介して接続されたクラウドコンピュータにより実現されることとしてもよい。
【0031】
次に、医用情報処理装置100による処理の手順について、図2を用いて説明した後、各処理の詳細について説明する。図2は、第1の実施形態に係る医用情報処理装置100の処理手順の例を示すフローチャートである。
【0032】
例えば、図2に示すように、本実施形態では、取得機能151が、被検体のバイタルデータを取得する(ステップS101)。具体的には、取得機能151は、医用情報処理装置100による情報提示サービスの利用者が所有するユーザ側装置200から、日常的に取得される当該利用者のバイタルデータを取得する。この処理は、例えば、処理回路15が、取得機能151に対応するプログラムを記憶回路14から呼び出して実行することにより実現される。
【0033】
続いて、抽出機能152が、バイタルデータを疾患関連因子に変換して(ステップS102)、疾患関連因子の経時的な変化を蓄積する(ステップS103)。すなわち、抽出機能152は、被検体から経時的に取得された複数時点でのバイタルデータをそれぞれ疾患関連因子に変換して、記憶回路14に記憶させる。なお、疾患関連因子とは、各種ガイドラインや論文に基づいて疾患に関連付けられた症状や、指標(バイタルデータそのものや、バイタルデータから導出される指標など)などである。
【0034】
さらに、抽出機能152は、蓄積した疾患関連因子(疾患関連因子の経時的な変化)に基づいて、被検体の状態を推定し(ステップS104)、推定結果に基づいて、疾患候補を抽出する(ステップS105)。これらの処理は、例えば、処理回路15が、抽出機能152に対応するプログラムを記憶回路14から呼び出して実行することにより実現される。
【0035】
続いて、推定機能153が、抽出された疾患候補に関する程度を推定する(ステップS106)。具体的には、推定機能153は、疾患候補と診断された患者群における情報と、被検体の情報とを比較することで、疾患候補に対して被検体がどのような状態であるかを推定する。例えば、推定機能153は、被検体が疾患候補として抽出された疾患においてどのような状態にあるかを推定する。この処理は、例えば、処理回路15が、推定機能153に対応するプログラムを記憶回路14から呼び出して実行することにより実現される。
【0036】
続いて、推定機能153が、疾患候補に関する程度に応じた推奨アクションを決定し、提示機能154が、決定された推奨アクションを端末装置22に提示させるように制御する(ステップS107)。この処理は、例えば、処理回路15が、推定機能153及び提示機能154に対応するプログラムを記憶回路14から呼び出して実行することにより実現される。
【0037】
ここで、推定機能153は、疾患候補に関する程度に応じて種々の推奨アクションを決定するが、疾患候補に関する程度において被検体に対する治療が必要であると判定した場合に、治療効果を推定することができる。例えば、推定機能153は、被検体に対して処方されることが予測される薬剤について、その効果を推定することができる。以下、推定機能153による推奨アクションの決定について、図3を用いて説明する。図3は、第1の実施形態に係る推奨アクションの決定処理の例を示すフローチャートである。なお、図3では、疾患関連因子として息切れ状態を用いる場合の処理を示す。
【0038】
例えば、医用情報処理装置100においては、図3に示すように、取得機能151が、バイタルデータをモニタリングする(ステップS201)。なお、この処理は、図2のステップS101に対応する。
【0039】
続いて、抽出機能152が、モニタリングしているバイタルデータに含まれる運動の状況と心拍数・呼吸数の変化から息切れ状態を算出し(ステップS202)、息切れ状態に基づいて疾患候補を抽出する(ステップS203)。
【0040】
続いて、推定機能153が、疾患候補に関する程度を推定する(ステップS204)。なお、この処理は、図2のステップS106に対応する。
【0041】
そして、推定機能153が、推定した程度に応じた推奨アクションを決定し、提示機能154が推奨アクションを端末装置22に提示させる。なお、この処理は、図2のステップS107に対応する。
【0042】
例えば、推定した程度が軽い場合(図中の「軽」)、推定機能153は、被検体に対する推奨アクションとして、程度の通知のみを決定する。提示機能154は、推定機能153によって推定された疾患候補に関する程度を端末装置22に提示させる(ステップS205)。
【0043】
また、例えば、推定した程度が中程度の場合(図中の「中」)、推定機能153は、被検体に対する推奨アクションとして、検査を決定する。この場合、推定機能153は、疾患候補に応じた検査を抽出する。提示機能154は、推定機能153によって抽出された検査を行うことを提案する検査案を端末装置22に提示させる(ステップS206)。
【0044】
また、例えば、推定した程度が重い場合(図中の「重」)、推定機能153は、被検体に対する推奨アクションとして、薬剤の投与を決定する(ステップS207)。この場合、次に、推定機能153は、疾患候補に対して処方される予定の薬剤の影響に関する統計情報を取得し(ステップS208)、被検体に対する薬剤の効果を評価する(ステップS209)。提示機能154は、推定機能153による評価に基づく、被検体にあった薬剤の候補を端末装置22に提示させる(ステップS210)。
【0045】
このような医用情報処理装置100の処理により、被検体本人は、普段、自身からの積極的な情報発信を行うことがない無自覚な状態でバイタルデータがモニタリングされ、何らかの提示により気づきが生じ、次のアクションを起こすことができる。ここで、本実施形態に係る医用情報処理装置100は、程度に応じて種々の提示を行うことができることから、被検体は、その情報に基づいて、現時点で適切な行動(生活習慣の変容、簡易検査、来院など)を取ることができる。
【0046】
以下、医用情報処理装置100によって実行される各処理の詳細について、説明する。なお、以下では、疾患関連因子として息切れ状態を用いる場合の処理を例に挙げて説明するが、実施形態はこれに限定されるものではなく、バイタルデータから得ることができる疾患関連因子であればどのようなものが用いられてもよい。
【0047】
(情報の取得処理)
図2のステップS101で説明したように、取得機能151は、被検体のバイタルデータを経時的に取得する。具体的には、取得機能151は、医用情報処理装置100による情報提示サービスに問い合わせ、自身の情報の提供を承認した被検体(利用者)が有するユーザ側装置200から経時的なバイタルデータを取得する。例えば、取得機能151は、被検体が装着したバイタルデータ取得装置21(ウェアラブルデバイス)によってバイタルデータが取得されるごとに、端末装置22からバイタルデータを受信する。取得機能151は、取得したバイタルデータを記憶回路14に記憶させる。
【0048】
疾患関連因子として息切れ状態を用いる場合、例えば、取得機能151は、運動の状態、心拍数、呼吸数、心電図を含むバイタルデータを取得する。例えば、ある活動状態における心拍数や呼吸数を、ある一定期間以上記録することで、その期間中のトレンドを図ることができる。そのため日常の動作で活動数が高くないのに急に心拍が上がったり、散歩のような穏やかな運動の中で、心拍変動が多くなる・呼吸数が多くなるのと共に立ち止まったりすることを観察することができる。
【0049】
また、取得機能151は、医用情報処理装置100による情報提示サービスに申し込み、自身の情報の提供を承認した被検体(利用者)の臨床情報を取得する。具体的には、取得機能151は、被検体のDNA情報や、既往歴、家族の疾患情報などを含む臨床情報を取得する。例えば、取得機能151は、医用情報処理装置100による情報提示サービスへの申し込み時に入力された情報から臨床情報を取得する。この場合、医用情報処理装置100は、情報提示サービスへの申し込み時に必要な臨床情報の入力を求め、取得機能151は、入力された情報から臨床情報を取得して、記憶回路14に記憶させる。
【0050】
また、例えば、取得機能151は、ネットワーク300に接続されたデータ保管装置から臨床情報を取得する。一例を挙げると、取得機能151は、DNA情報や、既往歴に関する詳細な情報などをデータ保管装置から取得して、記憶回路14に記憶させる。
【0051】
(疾患関連因子への変換処理)
図2のステップS102で説明したように、抽出機能152は、取得機能151によって取得されたバイタルデータを疾患関連因子に変換する。例えば、抽出機能152は、運動の状態、心拍数、呼吸数を含むバイタルデータから、疾患関連因子として息切れ状態を算出する。
【0052】
この場合には、まず、基準となる条件が設定される。具体的には、安静時の心拍数、呼吸数、酸素飽和量などを基準状態として、運動時の変化量、及び、変化後の状態から基準状態に戻るまでの時間が条件として設定される。すなわち、被検体から取得したバイタルデータと比較するための基準となる条件が設定される。
【0053】
ここで、基準状態(安静時の状態)の数値は、例えば、被検体の属する年齢や身長・体重から統計的に設定されてもよく、或いは、被検体の安静時の状態の平均値から設定されてもよい。また、運動時の状態の数値は、例えば、被検体の属する年齢や身長・体重から統計的に設定されてもよく、或いは、軽度の運動(例えば、被検体が階段の昇降を連続的に行うなど)を行った時の数値から設定されてもよい。
【0054】
また、運動時の心拍数、呼吸数は、安静時の状態を用いて算出することもできる。例えば、運動強度に応じた運動時心拍数は、安静時心拍数を用いた以下の式により算出されることが知られている。
【0055】
運動時心拍数=(A-年齢-安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数
A=220
【0056】
また、運動強度に応じた運動時呼吸数は、安静時呼吸数を用いた以下の式により算出することができる。なお、式における「B」は、統計時に設定された値が設定され、例えば、B=10とする。
【0057】
運動時呼吸数=(B-安静時呼吸数)×運動強度+安静時呼吸数
【0058】
例えば、リラックスできる運動強度が「50%」といわれていることから、運動強度を「50%」とし、安静時心拍数及び安静時呼吸数から、上記式により運動時心拍数及び運動時呼吸数が算出されてもよい。
【0059】
また、上記式を用いることにより、運動時の心拍数、呼吸数を運動強度に応じて設定することもできる。例えば、運動強度を「10%」ごとに区切った10段階「1:1~10%(睡眠など)、2:10~20%(食事など)、3:20~30(入浴など)、4:30~40%(掃除など)、5:40~50%(早歩きなど)、6:50~60%(リラックスできる運動強度)、7:60~70%(快適な運動強度)、8:70~80%(ややきつい運動強度)、9:80~90%(非常にきつい運動強度)、10:90~100%(全力)」とする。この場合、年齢や運動習慣ごとに、運動時の変化量と、安静時の心拍数や呼吸数に戻るまでの時間(平常復帰時間:TTR)とが、各運動強度でそれぞれ設定される。すなわち、TTRが、10段階の時間(T1~T10)で設定される。
【0060】
抽出機能152は、取得機能151によって取得されたバイタルデータと、上記した条件とを用いて、疾患関連因子を算出する。例えば、抽出機能152は、モニタリングしているバイタルデータにおいて、心拍数や呼吸数が運動状態以上になった場合(上記条件に設定されている運動時の変化量を超えた場合)に、疾患関連因子の算出を行う。なお、条件が運動強度に応じて設定されている場合には、変化量を超え、かつ、最も高い運動強度の条件が用いられる。
【0061】
かかる場合には、抽出機能152は、バイタルデータに含まれる心拍数や呼吸数から推定される運動強度と、実際の運動強度(バイタルデータに含まれる運動の状態に基づく運動強度)との差「ΔML=推定運動強度-実際の運動強度」を算出する。
【0062】
また、抽出機能152は、現在取得されているバイタルデータにおいて安静時の心拍数や呼吸数に戻るまでの実際の時間(平常復帰時間:TTRm)と、条件として設定された平常復帰時間(TTRi)との差「ΔTTR=実際に計測された平常復帰時間TTRm-平常復帰時間TTRi」を算出する。
【0063】
また、抽出機能152は、安静時の心電図状態から、R波がなく心拍が長くなっていたり、逆に非常に短い間隔になっていたりする心拍の発生回数を拍動の乱れ回数(NR=単位時間当たりの心拍の乱れの回数の平均)として算出する。
【0064】
そして、抽出機能152は、以下の式により、注意すべき息切れ状態「BW(Breathlessness to watch)」を算出する。ここで、息切れとは、単位時間内での高心拍数、高呼吸数と設定する。また、この状態で拍動が乱れた状態を動悸と設定する。高心拍数、高呼吸数の基準は、被検体の年齢が属する群帯の健常者の平均+1SDをとする。この値は変更して設定することができる。
【0065】
BW=α×ΔML+β×ΔTTR+γ×NR
ただし、ΔML>0、ΔTTR>0、NR>m(初期値m=2、m以下は0)、α、β、γ=計数(初期値=1)
【0066】
ここで、健常者が中程度以上の運動をした場合や、設定された平常復帰時間内に心拍数・呼吸数が戻った場合、推定した運動強度と実際の運動強度との差は「ΔML≦0」となり、実際の平常復帰時間と設定された復帰時間との差は「ΔTTR≦0」となり、拍動の乱れ回数は「NR=0」となる。したがって、健常な状態の場合、上記式で表される指標は、「BW≦0」となる。一方、軽度程度の運動に満たないような日常の動作(家事、階段の昇降や散歩、トイレに行くなど)の中で、急激な心拍上昇が起こるような異常な場合は、「ΔML>0」、「ΔTTR>0」、「NR>m」となり、上記した指標は「BW>0」となる。したがって、注意すべき息切れ状態を示す指標とする場合、上記式に上記条件が付帯される。
【0067】
(データ蓄積と状態の推定処理)
図2のステップS103、S104で説明したように、抽出機能152は、疾患関連因子の経時的な変化を蓄積し、被検体の状態を推定する。例えば、抽出機能152は、バイタルデータのモニタリング中、上記した注意すべき息切れ状態の発生日時、継続時間などを記憶回路14に記憶させる。例えば、抽出機能152は、単位時間(例えば、3か月単位)での発生回数、総継続時間を記録する。
【0068】
例えば、軽度程度の運動に満たないような日常の動作(家事、階段の昇降や散歩、トイレに行くなど)の中で、心拍数・呼吸数の急激な上昇が起こる回数が増加したり、心拍数・呼吸数が安静時状態まで戻る時間が長くなってきたりした場合、それが注意すべき息切れ状態「BW」の発生頻度として現れてくる。
【0069】
そこで、抽出機能152は、単位期間(例えば、3か月単位)あたりの「BW」の発生回数をカウントし、閾値と比較することで、被検体の状態を推定する。例えば、抽出機能152は、単位期間あたりの「BW」の発生回数が同年代の平均値よりも高いかどうかにより、疾患の可能性の有無を推定する。一例を挙げると、抽出機能152は、単位期間あたりの「BW」の発生回数が平均値を上回った期間が一定期間(例えば、1年間)継続した場合に、疾患の疑い有りと判定する。また、例えば、抽出機能152は、「BW」の値が所定の閾値よりも高い場合に、疾患の疑い有りと判定する。
【0070】
(疾患候補の抽出処理)
図2のステップS105で説明したように、抽出機能152は、被検体の状態に基づいて、疾患候補を抽出する。具体的には、抽出機能152は、疾患関連因子を用いて疾患の疑い有りと判定した場合に、当該疾患関連因子に関連する疾患を疾患候補として抽出する。図4は、第1の実施形態に係る疾患候補の推定処理の一例を説明するための図である。ここで、図4は、症状と疾患との連鎖を表す疾患オントロジーを示す。
【0071】
例えば、上記した注意すべき息切れ状態「BW」により疾患の疑い有りと判定した場合に、抽出機能152は、図4に示すように、症状に息切れ、動悸を含む疾患オントロジーを用いて、被検体の疾患候補を抽出する。例えば、抽出機能152は、疾患オントロジーにおいて関連が深い「心不全」を疾患候補として抽出する。
【0072】
なお、抽出機能152は、単一の疾患関連因子から複数の疾患候補を抽出することもでき、また、複数の疾患関連因子から複数の疾患候補を抽出することもできる。
【0073】
(程度の推定処理)
図2のステップS106で説明したように、推定機能153は、抽出された疾患候補に関する程度を推定する。具体的には、推定機能153は、疾患候補に罹患した患者群における情報と、被検体の情報とを比較することで、疾患候補に対して被検体がどのような状態であるかを推定する。例えば、疾患候補として「心不全」が抽出された場合、推定機能153は、被検体が「心不全」においてどのような状態であるかを推定する。
【0074】
ここで、疾患候補に罹患した患者群の情報と被検体の情報とを比較するため、推定機能153は、患者群と被検体に属性を設定する。属性は、疫学情報、患者生活機能指標、主疾患状態、全身状態、遺伝性、家族歴、生活習慣などであり、例えば、現在の状態(年齢、性別、体重、血液型、バイタルデータ)、指標値、リスク情報、既往症、遺伝性情報などから構成される。なお、上記はあくまでも一例であり、その他の情報が属性として用いられる場合でもよい。また、上記した情報をすべて用いる場合でもよいが、一部だけ用いる場合でもよい。
【0075】
推定機能153は、患者群と被検体について上記した属性の定量化を行い、それらを比較することで、疾患候補に関する程度の推定処理を行う。例えば、推定機能153は、属性を定量的に表した属性分布を生成し、生成した属性分布によって患者群と被検体との比較を行う。図5Aは、第1の実施形態に係る属性分布の一例を示す図である。なお、図5Aは、被検体の属性分布を示す。
【0076】
例えば、属性分布は、図5Aに示すように、「年齢・性別」、「全身状態」、「生活習慣」、「既往症・遺伝性」、「バイタルデータ」、「指標値」、「リスク情報」の各属性の程度が0~5までの段階で示されたレーダーチャートで生成される。すなわち、各属性の値が、0~5で段階付けされるように正規化され、レーダーチャートの分布として示される。なお、図5Aに示す各属性には、その属性に分類される複数の項目が含まれており、項目それぞれについて定量化が行われ、値がプロットされる。例えば、属性「バイタルデータ」には、心拍数、脈拍、血圧、心電図、呼吸数、体脂肪率、骨格筋、血管情報、動脈硬化の程度などの項目が含まれる。また、例えば、属性「指標値」には、バイタルデータから導出される指標値(例えば、BWなど)や、健康診断の検査によって得られる指標値などの項目が含まれる。
【0077】
ここで、健康診断の検査によって得られる指標値は、ガイドライン等によって症状レベルに分けることができ、それらが上記した段階付けに用いられてもよい。図5Bは、第1の実施形態に係る属性の段階付けの一例を説明するための図である。例えば、図5Bに示すように、検査によって得られる各指標値(図中のバイタルサイン)は、その数値によって症状レベルが分類される。そこで、そのような指標値については、症状レベルによって属性分布の段階付けが行われても良い。
【0078】
なお、属性の段階付けは、上記した手法に限らず、その他の手法を用いることもできる。例えば、各医療機関での診断基準や診断樹で段階付けが行われてもよい。また、機械学習や深層学習を用いて段階付けが行われてもよい。
【0079】
推定機能153は、属性に含まれる各項目を定量化し、図5Aに示すように、レーダーチャート上にプロットすることで、被検体の属性分布を生成する。なお、属性分布は、レーダーチャートに限らず、ヒストグラム、積み上げグラフ、ヒートマップなどで表されてもよい。また、属性の段階数についても任意に設定することができる。
【0080】
また、推定機能153は、被検体の属性分布と比較する対象となる、疾患候補の患者群における属性分布を生成する。具体的には、推定機能153は、疾患候補(例えば、心不全)に罹患した患者群を抽出し、抽出した患者群における属性分布を生成する。ここで、患者群を抽出する対象は、単一の医療機関における患者群でもよく、関連する医療機関全体における患者群でもよく、医療統計上の患者群でもよい。
【0081】
例えば、推定機能153は、上記した患者群(単一の医療機関における患者群、関連する医療機関全体における患者群、或いは、医療統計上の患者群)に関する情報を、データ保管装置から取得し、取得した情報を用いて、患者群における属性分布を生成する。
【0082】
ここで、推定機能153は、疾患の程度に応じて、取得した患者群を層別化(分類化、グループ化、クラスタ化)した後、層別化したグループごとに属性分布を生成する。例えば、疾患の病態に対して基準が設定され、設定された基準に基づいて、層別化が実行される。一例を挙げると、所定の基準値により、疾患の病態が2つ(基準値以上/基準値より下)、或いは、3つ(基準範囲内/基準範囲より上/基準範囲より下)に分類され、患者群が各グループに層別化される。なお、グループは、4以上であってもよい。
【0083】
なお、層別化に用いる基準値は、医療的な統計結果やガイドラインに基づいて決定された固定値でよく、参照値(全国の平均値や各医療機関内の平均値など)に対して設定されたマージンが加えられた或いは引かれた値でもよい。或いは、基準値は、±1σや、±2σ、±3σなどの標準偏差でもよく、変動係数(CV値)でもよい。
【0084】
図6は、第1の実施形態に係る患者群の属性分布の一例を示す図である。なお、図6においては、病態化確率により患者群を3つのグループに層別化した場合について示す。例えば、推定機能153は、図6に示すように、予め設定された基準に基づいて、心不全の患者群を群体A(病態化確率:低)、群体B(病態化確率:中)及び群体C(病態化確率:高)の3つのグループに層別化する。そして、推定機能153は、各グループの属性分布をそれぞれ生成する。
【0085】
例えば、推定機能153は、群体Aに含まれる複数の患者の情報(臨床情報及びバイタルデータ)を取得し、取得した情報から複数の患者の属性分布をそれぞれ生成し、生成した属性分布を平均することで、図6に示す群体Aの属性分布を生成する。同様に、推定機能153は、群体B及び群体Cについても、各患者の属性分布をそれぞれ生成し、生成した属性分布を平均することで、群体B及び群体Cの属性分布をそれぞれ生成する。
【0086】
そして、推定機能153は、被検体の属性分布(図5A参照)と、患者群の属性分布(図6参照)とを比較することで、被検体の疾患(心不全)に関する程度を推定する。例えば、推定機能153は、被検体の属性分布と、群体A、群体B及び群体Cのそれぞれの属性分布とを比較して属性分布の類似度を算出し、算出した類似度に基づいて程度を推定する。一例を挙げると、推定機能153は、被検体の属性分布の図形的形状と群体Aの属性分布の図形的形状との相似度を類似度として算出する。同様に、推定機能153は、被検体の属性分布と群体Bの属性分布との類似度、及び、被検体の属性分布と群体Cの属性分布との類似度をそれぞれ算出する。類似度の算出は、統計分布の重なりから得てもよいし、機械学習を用いた尤度の算出で行ってもよい。
【0087】
そして、推定機能153は、類似度が最も高いグループの病態化確率を、被検体の疾患(心不全)の程度として推定する。例えば、推定機能153は、属性分布の比較の結果、群体Cとの類似度が最も高い場合、被検体における疾患(心不全)の病態化確率が高いと推定する。また、例えば、推定機能153は、属性分布の比較の結果、群体Bとの類似度が最も高い場合、被検体における疾患(心不全)の病態化確率が中程度と推定する。また、例えば、推定機能153は、属性分布の比較の結果、群体Aとの類似度が最も高い場合、被検体における疾患(心不全)の病態化確率が低いと推定する。
【0088】
(推奨アクションの提示処理)
図2のステップS107で説明したように、提示機能154は、推定された程度に応じた推奨アクションを被検体(端末装置22)に提示するように制御する。ここで、提示機能154は、図3のステップS205~S210で説明したように、推定された程度に応じて異なる情報を提示する。
【0089】
例えば、被検体における疾患(心不全)の病態化確率が低いと推定された場合、提示機能154は、現時点で心不全の病態化率が低いことを示す情報を端末装置22のディスプレイに提示させる。
【0090】
また、被検体における疾患(心不全)の病態化確率が中程度と推定された場合、提示機能154は、例えば、心不全に関する血液検査(例えば、BNPやNT-proBNPなど)を受けることを推奨する検査案を提示する。すなわち、提示機能154は、疾患候補を診断するための検査手法を提示する。なお、上記検査案には、検査キットの取り寄せや受検できる病院を紹介する情報が含まれる場合でもよい。
【0091】
また、被検体における疾患(心不全)の病態化確率が高いと推定された場合、提示機能154は、被検体にあった薬剤の候補を示す処方案を提示する。ここで、処方案を提示する場合、提示機能154による情報の提示に先立ち、推定機能153による薬剤の効果の評価が行われ、被検体に適した薬剤が推定される。
【0092】
例えば、推定機能153は、被検体の臨床情報と、疾患候補に対して処方される薬剤に関する医療知識と、被検体のバイタルデータとに基づいて、当該薬剤による治療効果を推定する。一例を挙げると、推定機能153は、疾患に対して処方される薬剤に関する情報を取得し、取得した情報に基づいて患者群を層別化し、層別化したグループごとの属性分布と被検体の属性分布とを比較することで、被検体に適した薬剤を推定する。すなわち、推定機能153は、疾患に関する程度を推定した際と同様の手法により、被検体に適した薬剤を推定する。
【0093】
図7は、第1の実施形態に係る患者群の属性分布の一例を示す図である。なお、図7においては、被検体の疾患の程度を推定した際に、図6の群体Cとの類似度が最も高いと推定された場合の属性分布を示す。例えば、推定機能153は、疾患の程度の推定において類似度が高いと判定した群体Cに含まれる複数の患者の情報に基づいて、当該複数の患者に処方された薬剤の情報をそれぞれ取得し、取得した薬剤の情報に基づいて複数の患者を層別化する。
【0094】
一例を挙げると、推定機能153は、図7に示すように、群体Cに含まれる複数の患者を、薬剤Aが処方された群体C-1と、薬剤Bが処方された群体C-2と、薬剤Cが処方された群体C-3とに層別化する。そして、推定機能153は、群体C-1に含まれる複数の患者の属性分布を平均することで、図7に示す群体C-1の属性分布を生成する。同様に、推定機能153は、群体C-2及び群体C―3についても、各患者の属性分布を平均することで、群体C-2及び群体C―3の属性分布をそれぞれ生成する。
【0095】
そして、推定機能153は、被検体の属性分布(図5A参照)と、患者群の属性分布(図7参照)とを比較することで、被検体に適した薬剤を推定する。例えば、推定機能153は、被検体の属性分布と、群体C-1、群体C-2及び群体C-3のそれぞれの属性分布とを比較して属性分布の類似度を算出し、算出した類似度に基づいて被検体に適した薬剤を推定する。一例を挙げると、推定機能153は、被検体の属性分布の図形的形状と群体C-1の属性分布の図形的形状との相似度を類似度として算出する。同様に、推定機能153は、被検体の属性分布と群体C-2の属性分布との類似度、及び、被検体の属性分布と群体C-3の属性分布との類似度をそれぞれ算出する。
【0096】
そして、推定機能153は、類似度が最も高いグループに処方された薬剤を、被検体に適した薬剤として推定する。例えば、推定機能153は、属性分布の比較の結果、群体C-1との類似度が最も高い場合、薬剤Aを被検体に適した薬剤と推定する。また、例えば、推定機能153は、属性分布の比較の結果、群体C-2との類似度が最も高い場合、薬剤Bを被検体に適した薬剤と推定する。また、例えば、推定機能153は、属性分布の比較の結果、群体C-3との類似度が最も高い場合、薬剤Cを被検体に適した薬剤と推定する。
【0097】
ここで、推定機能153は、薬剤を投与した場合に被検体に発生する副作用を推定し、推定結果を含めて治療効果を推定する。例えば、推定機能153は、群体C-1、群体C-2、群体C-3のそれぞれについて、患者群の情報に含まれる薬剤の副作用の情報(発生の有無、程度など)を抽出する。そして、推定機能153は、属性分布の類似度と、薬剤の副作用の情報とに基づいて、被検体に適した薬剤を推定する。類似度と副作用の対応は、データベース化され体系づけられた情報から得られてもよいし、機械学習アルゴリズムで対応づけられてもよい。
【0098】
例えば、属性分布の類似度が「C-1>C-3>C-2」であり、副作用の程度が「C-1>C-2>C-3」である場合、推定機能153は、群体C-3に処方された薬剤Cを被検体に適した薬剤と推定する。
【0099】
また、推定機能153は、現在服用している薬剤との相互影響を推定し、推定結果を含めて被検体に適した薬剤を推定することもできる。かかる場合には、推定機能153は、被検体が服用している薬剤の飲み合わせに関する情報をガイドラインなどから取得する。そして、推定機能153は、被検体が服用している薬剤との飲み合わせが悪い薬剤として、処方予定の薬剤が含まれているか否かを判定する。ここで、飲み合わせが悪い薬剤として、処方予定の薬剤が含まれている場合、推定機能153は、飲み合わせが悪い薬剤以外の薬剤の中から被検体に適した薬剤を推定する。
【0100】
例えば、属性分布の類似度が「C-1>C-3>C-2」であり、「薬剤A」が飲み合わせの悪い薬剤である場合、推定機能153は、群体C-3に処方された薬剤Cを被検体に適した薬剤と推定する。
【0101】
提示機能154は、上記したように推定された薬剤の情報を含む処方案を、端末装置22に提示させる。なお、提示機能154によって提示される情報は、上記した情報に限られない。例えば、提示機能154は、被検体に対して簡易問診を行うためのチェックリストを端末装置22に提示させることもできる。また、提示機能154は、最寄りの専門医の紹介するための情報を端末装置22に提示させることもできる。また、モニタリングしているバイタルデータにおいて、心拍数・呼吸数の急激な低下などが生じた場合に、提示機能154は、周囲の人に緊急事態を知らせるためのアラート音を出力するように端末装置22を制御することもできる。
【0102】
上述したように、第1の実施形態によれば、取得機能151は、被検体の臨床情報とバイタルデータとを取得する。抽出機能152は、バイタルデータに基づいて疾患候補を抽出する。推定機能153は、被検体の臨床情報と疾患候補それぞれに関する医療知識とに基づいて、疾患候補それぞれに対応する病態程度を推定する。提示機能154は、病態程度に基づいて、疾患候補に対応する推奨行動を提示する。したがって、第1の実施形態に係る医用情報処理装置100は、日常生活で取得される被検体のバイタルデータをモニタリングし、モニタリングにおいて異変があった場合に当該被検体に応じた適切な処方を推奨するように制御することができ、個人の状態に応じた適切な対応を提案することを可能にする。
【0103】
また、第1の実施形態によれば、推定機能153は、被検体の臨床情報と、医療知識と、さらに、被検体のバイタルデータとに基づいて、疾患候補それぞれに対応する疾患の病態程度を推定する。したがって、第1の実施形態に係る医用情報処理装置100は、個人の現在の状態にあった対応を提案することを可能にする。
【0104】
また、第1の実施形態によれば、抽出機能152は、バイタルデータに含まれる被検体の活動状態と生体情報との関係に基づいて、疾患候補を抽出する。したがって、第1の実施形態に係る医用情報処理装置100は、被検体の状態に基づく疾患候補を抽出することを可能にする。
【0105】
また、第1の実施形態によれば、抽出機能152は、被検体の運動時の運動強度と当該運動時の呼吸変化又は心拍数変化との比較に基づいて当該被検体の状態を推定し、推定結果に基づいて疾患候補を抽出する。したがって、第1の実施形態に係る医用情報処理装置100は、被検体の状態を精度よく判定することを可能にする。
【0106】
また、第1の実施形態によれば、抽出機能152は、被検体の運動時の運動強度と当該運動時の呼吸変化又は心拍数変化との比較を経時的に実行し、経時的な比較に基づいて当該被検体の状態を推定する。したがって、第1の実施形態に係る医用情報処理装置100は、被検体の状態を精度よく判定することを可能にする。
【0107】
また、第1の実施形態によれば、推定機能153は、被検体の臨床情報と、疾患候補に対して処方される薬剤に関する医療知識と、被検体のバイタルデータとに基づいて、当該薬剤による治療効果を推定する。したがって、第1の実施形態に係る医用情報処理装置100は、被検体に適した薬剤を推定することを可能にする。
【0108】
また、第1の実施形態によれば、推定機能153は、薬剤を投与した場合に被検体に発生する副作用を推定し、推定結果を含めて治療効果を推定する。したがって、第1の実施形態に係る医用情報処理装置100は、副作用を考慮して、被検体に適した薬剤を推定することを可能にする。
【0109】
また、第1の実施形態によれば、提示機能154は、疾患候補を診断するための検査手法をさらに提示する。したがって、第1の実施形態に係る医用情報処理装置100は、被検体に対して有用な情報を提供することを可能にする。
【0110】
(その他の実施形態)
上述した実施形態では、本明細書における取得部、抽出部、推定部、及び、提示部を、それぞれ、処理回路の取得機能、抽出機能、推定機能、及び、提示機能によって実現する場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、本明細書における取得部、抽出部、推定部、及び、提示部は、実施形態で述べた取得機能、抽出機能、推定機能、及び、提示機能によって実現する他にも、ハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、又は、ハードウェアとソフトウェアとの混合によって同機能を実現するものであっても構わない。
【0111】
また、上述した実施形態の説明で用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又は、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。ここで、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むように構成しても構わない。この場合には、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。また、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて一つのプロセッサとして構成され、その機能を実現するようにしてもよい。
【0112】
ここで、プロセッサによって実行される医用情報処理プログラムは、ROM(Read Only Memory)や記憶回路等に予め組み込まれて提供される。なお、この医用情報処理プログラムは、これらの装置にインストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disk)-ROM、FD(Flexible Disk)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記録されて提供されてもよい。また、この医用情報処理プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納され、ネットワーク経由でダウンロードされることによって提供又は配布されてもよい。例えば、この医用情報処理プログラムは、上述した各処理機能を含むモジュールで構成される。実際のハードウェアとしては、CPUが、ROM等の記憶媒体から医用画像処理プログラムを読み出して実行することにより、各モジュールが主記憶装置上にロードされて、主記憶装置上に生成される。
【0113】
また、上述した実施形態及び変形例において、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散又は統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散又は統合して構成することができる。更に、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0114】
また、上述した実施形態及び変形例において説明した各処理のうち、自動的に行なわれるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行なうこともでき、或いは、手動的に行なわれるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行なうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0115】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、個人の状態に応じた適切な対応を提案することができる。
【0116】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0117】
1 医用情報処理システム
100 医用情報処理装置
151 取得機能
152 抽出機能
153 推定機能
154 提示機能

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7