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特開2024-171544MMP9遺伝子発現抑制剤、IV型コラーゲン分解抑制剤、及び皮膚外用組成物
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  • 特開-MMP9遺伝子発現抑制剤、IV型コラーゲン分解抑制剤、及び皮膚外用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171544
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】MMP9遺伝子発現抑制剤、IV型コラーゲン分解抑制剤、及び皮膚外用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20241205BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 36/232 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K36/232
A61P17/00
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088609
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】大島 宏
(72)【発明者】
【氏名】原田 靖子
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083EE12
4C088AB41
4C088BA08
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】アシタバエキスを用いた、MMP9遺伝子の発現を抑制するための技術を提供することを課題とする。また、アシタバエキスを用いた、IV型コラーゲンの分解を抑制するための技術を提供することを課題とする。
【解決手段】アシタバエキスを含有する、MMP9遺伝子発現抑制剤により、MMP9遺伝子の発現を抑制するための技術が提供される。また、アシタバエキスを含有する、IV型コラーゲン分解抑制剤により、IV型コラーゲンの分解を抑制するための技術が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシタバエキスを含有する、MMP9遺伝子発現抑制剤。
【請求項2】
アシタバエキスを含有する、IV型コラーゲン分解抑制剤。
【請求項3】
アシタバエキスを含有する、MMP9遺伝子発現抑制用又はIV型コラーゲン分解抑制用の皮膚外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマトリックスメタロプロテイナーゼ-9(Matrix metalloproteinase-9(以降、MMP9と記す)遺伝子発現抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
MMPは、線維芽細胞や内皮細胞、癌細胞等が産生する細胞外マトリックス分解酵素の総称であり、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン等の基質や基底膜の主要構成成分であるラミニン5等の細胞外マトリックスを分解する。例えば、MMPに属するMMP9は、基底膜に存在するIV型コラーゲンを分解する酵素である。MMP9に対して阻害活性を有する物質は、ガン組織における血管新生やガンの転移を抑制する効果が期待され、ガン疾患の予防、治療に有用であると考えられる。さらにMMP9の阻害はガン疾患のみならず、潰瘍形成、慢性関節リウマチ、皮膚のシワ・タルミ等、MMP9をコードする遺伝子(MMP9遺伝子)の活性化に起因する疾患や状態等の予防、治療及び改善に有用である。したがって、MMP9阻害作用に優れた成分が望まれている。
【0003】
一方、本発明で用いられるアシタバエキスの用途としては、例えば、ヒアルロン酸産生促進剤(特許文献1)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-167197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アシタバエキスがMMP9遺伝子の発現を抑制することは知られていない。そこで本発明は、MMP9遺伝子の発現を抑制するための技術を提供することを課題とする。また、本発明は、IV型コラーゲンの分解を抑制するための技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、アシタバエキスがMMP9遺伝子の発現を抑制する作用を有することを見出し、ひいてはIV型コラーゲンの分解を抑制し得ることを見出したことにより、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]アシタバエキスを含有する、MMP9遺伝子発現抑制剤。
[2]アシタバエキスを含有する、IV型コラーゲン分解抑制剤。
[3]アシタバエキスを含有する、MMP9遺伝子発現抑制用又はIV型コラーゲン分解抑制用の皮膚外用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、MMP9遺伝子の発現を抑制する成分が提供される。また、IV型コラーゲンの分解を抑制する成分が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アシタバエキスを添加又は非添加してインキュベートしたときの表皮角化細胞におけるMMP9遺伝子の発現量を表すグラフ。発現量は溶媒コントロールを100としたときの相対量である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のMMP9遺伝子発現抑制剤及びIV型コラーゲン分解抑制剤は、アシタバエキスを有効成分として含有する。
アシタバエキスは、セリ科シシウド属アシタバ(学名:Angelica keiskei)の抽出物である。アシタバは、房総半島、伊豆半島、伊豆半島等に自生しており、これらの地域から容易に入手され得る。アシタバの抽出原料として使用し得るアシタバの構成部位としては、例えば、葉部、茎部、花部、蕾部、果実部、果皮部、果核部、根部、又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部又は茎部である。
【0011】
上記抽出物は、抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物又は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味するものとする。
また、抽出物としては、通常化粧料や医薬品等の皮膚外用剤や経口摂取組成物に用いられるものであればよく、植物体から常法により抽出されたものを用いることができる。
【0012】
抽出溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、1,3-ブタンジオール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等の極性溶媒から選択される一種又は二種以上が好適に用いられる。
【0013】
具体的な抽出方法としては、例えば、植物体等の抽出に用いる部位又はその乾燥物1質量部に対して、溶媒を1~30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬し、室温まで冷却した後、所望により不溶物及び/又は溶媒除去し、カラムクロマトグラフィー等で分画精製する方法が挙げられる。
【0014】
アシタバエキスは、MMP9遺伝子の発現を抑制する作用を有する。すなわち、アシタバエキスは、MMP9遺伝子発現抑制剤の有効成分である。
【0015】
なお、MMP9遺伝子発現抑制作用は、MMP9遺伝子発現抑制剤を添加した細胞におけるMMP9遺伝子発現量が、添加しなかった細胞における発現量よりも小さいこと、通常90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下となることにより確認することができる。MMP9遺伝子の発現量は、例えば、MMP9遺伝子の配列に特異的に結合する配列を有するDNA断片をプライマーとして用いてPCRを行い、mRNA量を測定することにより行うことができる。また、例えば、MMP9遺伝子によりコードされるタンパク質の存在量を、常法により定量的に測定して、MMP9遺伝子の発現量としてもよい。
【0016】
本発明のMMP9遺伝子発現抑制剤によりMMP9遺伝子の発現が抑制される細胞は、本来、MMP9遺伝子を発現する細胞であれば特に限定されず、表皮角化細胞、真皮線維芽細胞、癌細胞等が挙げられる。
【0017】
MMP9はIV型コラーゲンを分解する酵素であることから、MMP9遺伝子の発現を抑制することによりIV型コラーゲンの分解が抑制され得る。したがって、アシタバエキスは、IV型コラーゲンの分解を抑制する作用を有する。すなわち、アシタバエキスは、IV型コラーゲン分解抑制剤の有効成分である。
【0018】
IV型コラーゲンは、基底膜に存在するコラーゲンであり、皮膚の表皮と真皮をつなぎとめる役割を持つ。したがって、本発明のIV型コラーゲン分解抑制剤は、基底膜におけ
るIV型コラーゲンの分解を抑制するものであることが好ましい。
【0019】
なお、IV型コラーゲン分解抑制作用は、例えば、IV型コラーゲン分解抑制剤を添加した細胞におけるIV型コラーゲン量が、添加しなかった細胞におけるIV型コラーゲン量よりも大きいこと、通常110%以上、好ましくは120%以上、より好ましくは130%以上となることにより確認することができる。IV型コラーゲン量は、例えば、IV型コラーゲンの存在量を、ELISA法やウェスタンブロット法により測定することができる
【0020】
本発明のMMP9遺伝子発現抑制剤又はIV型コラーゲン分解抑制剤(以降、「本発明の剤」とも記す)の投与経路は、経皮、経口、経鼻、静脈注射等、特に限定されないが、経皮投与されることが好ましい。なお、ここで「投与」は「摂取」と置換されてもよい。
本発明の剤の投与量としては、特に限定されないが、所望の効果と安全性とを考慮して、アシタバエキスの総量として、固形物換算で0.3~300μg/日を1回又は数回に分けて摂取されることが好ましい。また、単回摂取する他に、連続的に又は断続的に数週間~数か月の間摂取することが好ましい。
【0021】
本明細書は別の態様として、アシタバエキスを含有する、MMP9遺伝子発現抑制用又はIV型コラーゲン分解抑制用の皮膚外用組成物をも提供する。
本発明の皮膚外用組成物の態様としては、皮膚に外用で適用されるものであれば特に限定されないが、化粧料(医薬部外品を含む)、医薬品等が好ましく挙げられ、化粧料がより好ましい。化粧料としては、例えば、洗顔料、クレンジング剤、化粧水、美容液、乳液、クリーム、ジェル、サンケア品等が挙げられる。
本発明の皮膚外用組成物を塗布する部位は特に限定されないが、通常は顔面、四肢、首、デコルテである。
【0022】
皮膚外用組成物の剤型としては、例えば、ローション剤型、乳液やクリーム等の乳化剤型、オイル剤型、ジェル剤型、パック、洗浄料等が挙げられ、特に限定されない。
また、皮膚外用組成物の態様としては、リーブオンタイプ、リーブオフタイプのいずれでも構わない。
【0023】
本発明の皮膚外用組成物におけるアシタバエキスの含有量は、組成物全体に対して、固形物換算で0.00001~0.09質量%が好ましく、0.00005~0.03質量%がより好ましく、0.0001~0.003質量%がさらに好ましい。
含有量を上記範囲とすることで所望の効果を得やすく、また処方設計の自由度を確保できる。
なお、上記含有量は、上述の投与経路や含有させる組成物の態様に合わせて適宜調整することができる。
【0024】
本発明の皮膚外用組成物の製造に際しては、化粧料、医薬部外品、医薬品などの製剤化で通常使用される成分を任意に配合することができる。
かかる任意成分としては例えば、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスなどの炭化水素類、ホホバ油、カルナウバワックス、オレイン酸オクチルドデシルなどのエステル類、オリーブ油、牛脂、椰子油などのトリグリセライド類、ステアリン酸、オレイン酸、レチノイン酸などの脂肪酸、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール、スルホコハク酸エステルやポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤類、アルキルベタイン塩等の両性界面活性剤類、ジアルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、これらのポリオキシエチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤類、ポリ
エチレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を任意に配合することができる。
【実施例0025】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
<参考例1>
以下の手順で、アシタバエキスを調製した。
乾燥したアシタバ(セリ科シシウド属アシタバ)の葉及び根を粉砕し、10倍量の30%1,3-ブチレングリコール水溶液を加えて、還流して抽出した液を、凍結乾燥により粉末化した。その後、粉末を30%1,3-ブチレングリコール水溶液に溶解させた。
【0027】
<試験例1>表皮角化細胞におけるアシタバエキスのMMP9遺伝子発現量への影響の検討
-150℃で保管していた正常ヒト表皮角化細胞(NHEK:Normal Human Epidermal Keratinocytes、新生児、男性、Caucasian)を起眠し、37℃・5%CO環境下で5日間
培養した。NHEKを回収し、8.0×10cells/mLとなるようにNHEK用培地HUMedia-KG2(クラボウ社)を用いて希釈した。24ウェルプレートにNHEK用培
地を500μL/ウェルずつ添加し、NHEKを500μL/ウェルずつ播種し(4.0×10cells/ウェル)、37℃・5%CO環境下で一晩培養した。培養後、培地を除去し、アシタバエキスの固形分濃度が0.05質量%になるように1,3-ブチレングリコール水溶液で調整したアシタバエキスを含有するNHEK用培地、又はアシタバエキスに代えて1,3-ブチレングリコール水溶液を含有するNHEK用培地に交換して、さらに48時間培養した。培養後に細胞をPBS(-)で洗浄して回収し、QIAshredder、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてQIAcube(QIAGEN社製)にてRNAを抽出し
た。抽出したRNAをSuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Invitrogen社製)を用い
てcDNA化し、SYBR(QIAGEN社製)を用い、QuantStudio 7(Applied Biosystems社製)に
てRT-qPCRを行い、MMP9遺伝子の各発現量を解析した。内在性コントロールとしては
、β-Actin遺伝子を用いた。
アシタバエキスは、参考例1の方法で調製したものを用いた。
【0028】
図1に、アシタバエキスを添加した表皮角化細胞におけるMMP9遺伝子のmRNA発現量を、溶媒対照(コントロール)の表皮角化細胞におけるMMP9遺伝子のmRNA発現量を100とした場合の相対値で示した。
アシタバエキスを添加した表皮角化細胞においては、MMP9遺伝子のmRNA発現量がコントロールに対して有意に減少することが認められた。この結果から、アシタバエキスは、MMP9遺伝子発現抑制作用を有することが示された。また、MMP9はIV型コラーゲンを分解する酵素であるから、アシタバエキスは、MMP9遺伝子の発現を抑制することによりIV型コラーゲンの分解が抑制されることが推測される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のMMP9遺伝子発現抑制剤は、優れたMMP9遺伝子発現抑制作用を有するため、化粧料等の一成分として、好適に利用し得る。また、本発明のMMP9遺伝子発現抑制剤は、IV型コラーゲン分解抑制剤としても利用し得る。
図1