(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171547
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】エンジン駆動式空気調和装置
(51)【国際特許分類】
F25B 27/00 20060101AFI20241205BHJP
F02D 29/04 20060101ALI20241205BHJP
F24F 11/63 20180101ALI20241205BHJP
F24F 11/64 20180101ALI20241205BHJP
F24F 11/89 20180101ALI20241205BHJP
F24F 140/00 20180101ALN20241205BHJP
【FI】
F25B27/00 B
F02D29/04 D
F24F11/63
F24F11/64
F24F11/89
F24F140:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088613
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川和宏
【テーマコード(参考)】
3G093
3L260
【Fターム(参考)】
3G093AA12
3G093BA16
3G093BA17
3G093DA14
3L260BA32
3L260BA61
3L260CB01
3L260CB90
3L260EA03
3L260EA07
3L260EA08
3L260FA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】メンテナンス時間を延長することができるように構成されたエンジン駆動式空気調和装置を提供すること。
【解決手段】エンジン駆動式空気調和装置1の制御装置は、エンジンオイルの現在劣化率α(n)を演算し(S101)、点火プラグの現在摩耗率γ(n)を演算し(S103)、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)と点火プラグ126の現在摩耗率γ(スペインn)との差が所定値ΔS以上(S106:Yes)であり且つ現在劣化率α(n)が現在摩耗率γ(n)よりも大きい場合(S107:Yes)に点火プラグの点火時期が遅角方向に変化するように点火時期を制御し(S108)、差が所定値ΔS以上であり(S106:Yes)且つ現在摩耗率γ(n)が現在劣化率α(n)よりも大きい場合(S107:No)に点火時期tpが進角方向に変化するように点火時期tpを制御する(S109)。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動される圧縮機と、前記圧縮機の吐出口から前記圧縮機の吸入口へと冷媒を循環させる冷媒経路と、前記冷媒経路に介在する室外熱交換器及び室内熱交換器と、を含む冷媒回路と、
を備えるエンジン駆動式空気調和装置であって、
前記エンジン駆動式空気調和装置の運転状態を制御するための複数の制御対象を制御する制御装置と、
前記エンジン駆動式空気調和装置の運転に必要であり且つメンテナンスが必要な部品である複数のメンテナンス部品とを備え、
前記制御装置は、
前記複数の制御対象のうちの所定の制御対象が一方向に変化した場合に劣化の進行が抑制され前記一方向とは反対の方向である他方向に変化した場合に劣化の進行が促進するメンテナンス部品である第一メンテナンス部品の劣化率を演算し、
前記所定の制御対象が一方向に変化した場合に劣化の進行が促進し前記他方向に変化した場合に劣化の進行が抑制されるメンテナンス部品である第二メンテナンス部品の劣化率を演算し、
前記第一メンテナンス部品の劣化率と前記第二メンテナンス部品の劣化率との差が所定値以上であり且つ前記第一メンテナンス部品の劣化率が前記第二メンテナンス部品の劣化率よりも大きい場合に前記所定の制御対象が前記一方向に変化するように前記所定の制御対象を制御し、
前記差が前記所定値以上であり且つ前記第二メンテナンス部品の劣化率が前記第一メンテナンス部品の劣化率よりも大きい場合に前記所定の制御対象が前記他方向に変化するように前記所定の制御対象を制御する、
エンジン駆動式空気調和装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン駆動式空気調和装置であって、
前記第一メンテナンス部品は前記エンジンを潤滑するためのエンジンオイルであり、前記第二メンテナンス部品は前記エンジンに備えられる点火プラグであり、
前記所定の制御対象は前記点火プラグの点火時期である、
エンジン駆動式空気調和装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジン駆動式空気調和装置であって、
前記制御装置は、
前記差が前記所定値以上であって、前記エンジンオイルの劣化率が前記点火プラグの劣化率よりも大きい場合に、前記点火時期が遅角するように前記点火時期を制御し、
前記差が前記所定値以上であって、前記点火プラグの劣化率が前記エンジンオイルの劣化率よりも大きい場合に、前記点火時期が進角するように前記点火時期を制御する、
エンジン駆動式空気調和装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジン駆動式空気調和装置の制御装置であって、
前記制御装置は、
現時点における前記エンジンオイルの劣化率及び現時点における前記エンジンオイルの消費率を演算し、
演算した現時点における前記エンジンオイルの劣化率と現時点における前記エンジンオイルの消費率とに基づいて、前記エンジンオイルのメンテナンス条件を決定する、
エンジン駆動式空気調和装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエンジン駆動式空気調和装置であって、
前記制御装置は、
演算した現時点における前記エンジンオイルの劣化率が所定の閾値劣化率よりも大きく且つ演算した現時点における前記エンジンオイルの消費率が所定の閾値消費率以下である場合に、前記エンジンオイルを全量交換するというメンテナンス方法を前記エンジンオイルのメンテナンス方法に決定し、
演算した現時点における前記エンジンオイルの劣化率が所定の閾値劣化率以下であり且つ演算した現時点における前記エンジンオイルの消費率が所定の閾値消費率よりも大きい場合に、前記エンジンオイルを補充するというメンテナンス方法を前記エンジンオイルのメンテナンス方法に決定し、
演算した現時点における前記エンジンオイルの劣化率が所定の閾値劣化率よりも大きく且つ演算した現時点における前記エンジンオイルの消費率が所定の閾値消費率よりも大きい場合に、前記エンジンオイルを補充し且つ強化材を追加するというメンテナンス方法を前記エンジンオイルのメンテナンス方法に決定する、
エンジン駆動式空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジン駆動式空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン駆動式空気調和装置を構成する部品の中には、エンジン駆動式空気調和装置の運転に必要であり且つメンテナンスが必要な部品(以下、メンテナンス部品)が複数存在する。例えば、エンジンに供給されるエンジンオイルやエンジン内に設けられる点火プラグはメンテナンス部品である。
【0003】
メンテナンス部品は、エンジン駆動式空気調和装置の累積運転時間が所定のメンテナンス時間に到達した場合にメンテナンスされる。最適なメンテナンス時間はメンテナンス部品によって異なる。それぞれのメンテナンス部品に合わせて個別メンテナンス時間をそれぞれ設定した場合、累積運転時間がそれぞれの個別メンテナンス時間に到達するたびに対象となるメンテナンス部品のメンテナンスを行うためにエンジン駆動式空気調和装置の運転を停止しなければならない。これでは運転効率が悪いため、一般的には、各メンテナンス部品に最適な個別メンテナンス時間よりも短い時間がエンジン駆動式空気調和装置のメンテナンス時間(全体メンテナンス時間)に設定される。そして、エンジン駆動式空気調和装置の累積運転時間が全体メンテナンス時間に到達した場合には、全てのメンテナンス部品が一斉にメンテナンスされる。
【0004】
特許文献1は、エンジン駆動式空気調和装置のメンテナンス時期算定装置を開示する。このメンテナンス時期算定装置は、エンジン駆動式空気調和装置の運転条件及び環境条件に基づいて、エンジン駆動式空気調和装置を構成する各メンテナンス部品の各々について、個別メンテナンス時間を算出し、算出した各個別メンテナンス時間のうち最も短いメンテナンス時間をエンジン駆動式空気調和装置の全体メンテナンス時間に設定するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
(発明が解決しようとする課題)
特許文献1によれば、最も短い個別メンテナンス時間をエンジン駆動式空気調和装置の全体メンテナンス時間に設定することにより、メンテナンス不足による故障を回避することができるものの、全体メンテナンス時間を延長することはできない。すなわち、メンテナンス部品の延命措置を講じることはできない。そこで、本開示は、全体メンテナンス時間を延長することができるように構成されたエンジン駆動式空気調和装置を提供することを課題とする。
【0007】
(課題を解決するための手段)
本開示に係るエンジン駆動式空気調和装置は、エンジンと、エンジンによって駆動される圧縮機と、圧縮機の吐出口から圧縮機の吸入口へと冷媒を循環させる冷媒経路と、冷媒経路に介在する室外熱交換器及び室内熱交換器と、を含む冷媒回路と、を備える。さらに、本開示に係るエンジン駆動式空気調和装置は、エンジン駆動式空気調和装置の運転状態を制御するための複数の制御対象を制御する制御装置と、エンジン駆動式空気調和装置の運転に必要であり且つメンテナンスが必要な部品である複数のメンテナンス部品を備える。そして、制御装置は、複数の制御対象のうちの所定の制御対象が一方向に変化した場合に劣化の進行が抑制され一方向とは反対の方向である他方向に変化した場合に劣化の進行が促進するメンテナンス部品である第一メンテナンス部品の劣化率を演算し、所定の制御対象が一方向に変化した場合に劣化の進行が促進し他方向に変化した場合に劣化の進行が抑制されるメンテナンス部品である第二メンテナンス部品の劣化率を演算し、第一メンテナンス部品の劣化率と第二メンテナンス部品の劣化率との差が所定値以上であり且つ第一メンテナンス部品の劣化率が第二メンテナンス部品の劣化率よりも大きい場合に所定の制御対象が一方向に変化するように所定の制御対象を制御し、第一メンテナンス部品の劣化率と第二メンテナンス部品の劣化率との差が所定値以上であり且つ第二メンテナンス部品の劣化率が第一メンテナンス部品の劣化率よりも大きい場合に所定の制御対象が他方向に変化するように所定の制御対象を制御する。
【0008】
本開示に係るエンジン駆動式空気調和装置によれば、劣化が進行しているメンテナンス部品の劣化の進行が抑制され、劣化が進行していないメンテナンス部品の劣化の進行が促進されるように、所定の制御対象が制御される。これにより、劣化が進行しているメンテナンス部品の劣化の進行が抑制され、その結果、エンジン駆動式空気調和装置の全体メンテナンス時間を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係るエンジン駆動式空気調和装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図4】制御装置が実行するメンテナンス制御処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図5】制御装置が実行するα(n)演算処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】制御装置が実行するβ(n)演算処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図7】制御装置が実行するγ(n)演算処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図8】制御装置が実行する点火プラグ温度制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図9】制御装置が実行するメンテナンス時間設定処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図10】制御装置が実行するエンジンオイルメンテナンス方法決定処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図11】エンジンオイルの劣化率とエンジン駆動式空気調和装置の累積運転時間との関係を示すグラフである。
【
図12】点火プラグの摩耗率とエンジン駆動式空気調和装置の累積運転時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本開示の実施形態に係るエンジン駆動式空気調和装置の概略構成の一例を示す図である。
図1に示すように、エンジン駆動式空気調和装置1は、室外機1a及び室内機1bを備える。室外機1aは室外に設置され、室内機1bは室内に設置される。
【0011】
室外機1aは、駆動力を発生するエンジン10と、圧縮機11と、オイルセパレータ12と、四方弁13と、室外熱交換器14と、サブ熱交換器15と、過冷却熱交換器16と、アキュムレータ17と、第一流量調整弁18Aと、第二流量調整弁18Bと、第三流量調整弁18Cと、複数の冷媒配管を有する冷媒経路30と、冷却水回路50(
図2参照)と、制御装置60とを備える。また、室内機1bは、室内側電子膨張弁21と室内熱交換器22とを備える。オイルセパレータ12、四方弁13、室外熱交換器14、サブ熱交換器15、過冷却熱交換器16、アキュムレータ17、第一流量調整弁18A、第二流量調整弁18B、第三流量調整弁18C、室内側電子膨張弁21、及び室内熱交換器22は、冷媒経路30に介在する。また、上記した構成のうち、エンジン10、冷却水回路50及び制御装置60を除く各機器及び冷媒経路30により冷媒回路100が構成される。従って、冷媒回路100は、圧縮機11と、冷媒経路30と、冷媒回路30に介在する室外熱交換器14及び室内熱交換器22と、を少なくとも備える。冷媒回路100内には冷媒が流通する。
【0012】
エンジン10は、例えば都市ガス等の気体燃料を燃焼させることにより駆動力を発生する。なお、気体燃料に代えて、ガソリン等の液体燃料、或いは固体燃料を用いることができる。
【0013】
圧縮機11はエンジン10からの動力が伝達されるように、例えば動力伝達ベルトを介してエンジン10に接続されており、エンジン10によって駆動される。圧縮機11は吸入口11a及び吐出口11bを有する。エンジン10の駆動力によって圧縮機11が駆動すると、圧縮機11は吸入口11aから冷媒ガスを吸入し、内部で冷媒ガスを圧縮し、圧縮した高温高圧の冷媒ガスを吐出口11bから吐出する。なお、
図1には1台の圧縮機が示されているが、1つの室外機1aに備えられる圧縮機の個数は複数でもよい。
【0014】
冷媒経路30は上記したように複数の冷媒配管を含む。本例では、冷媒経路30は、吐出配管31と、室内機側配管32と、室外機側配管33と、中間配管34と、アキュムレータ入口配管35と、サブ熱交換用配管36と、過冷却用配管37と、吸入配管38を含む。冷媒経路30は、圧縮機11の吐出口11bから圧縮機11の吸入口11aへと冷媒を循環させるための冷媒の経路である。冷媒経路30に介在する各機器は、いずれかの冷媒配管の途中、或いは複数の冷媒配管の端部間に設けられる。
【0015】
圧縮機11の吐出口11bは吐出配管31の一端に接続される。吐出配管31の途中にオイルセパレータ12が介装される。オイルセパレータ12は、圧縮機11の吐出口11bから冷媒とともに吐出された冷凍機油を回収する。回収された冷凍機油は圧縮機11の吸入口11aに戻される。
【0016】
吐出配管31の他端に四方弁13が接続される。四方弁13は、第一ポート13a、第二ポート13b、第三ポート13c、及び第四ポート13dを有する。圧縮機11の吐出口11bは、四方弁13の第一ポート13aに吐出配管31を介して接続される。四方弁13の第二ポート13bには室内機側配管32を介して室内に設置された室内熱交換器22が接続される。四方弁13の第三ポート13cには室外機側配管33を介して室外熱交換器14が接続される。四方弁13の第四ポート13dには、アキュムレータ入口配管35を介してアキュムレータ17が接続される。
【0017】
四方弁13は、第一ポート13aが第二ポート13bに連通するとともに第三ポート13cが第四ポート13dに連通する暖房時切換状態と、第一ポート13aが第三ポート13cに連通するとともに第二ポート13bが第四ポート13dに連通する冷房時切換状態とを、選択的に実現することができるように構成される。エンジン駆動式空気調和装置1が暖房運転するときには、四方弁13の切換状態が暖房時切換状態にされ、エンジン駆動式空気調和装置1が冷房運転するときには、四方弁13の切換状態が冷房時切換状態にされる。
図1においては、四方弁13の切換状態は暖房時切換状態である。
【0018】
室外機側配管33を介して四方弁13の第三ポート13cに接続された室外熱交換器14は、室外機側配管33の端部と中間配管34の端部との間に介在される。室外熱交換器14は、その内部を流通する冷媒と外気とを熱交換させる。室外熱交換器14は中間配管34を介して室内熱交換器22に接続される。室内熱交換器22は、中間配管34の端部と室内機側配管32の端部との間に介在される。室内熱交換器22は、その内部を流通する冷媒と室内空気とを熱交換させる。
【0019】
室内機1b側にて中間配管34に室内側電子膨張弁21が介装される。室内側電子膨張弁21は、そこを流れる冷媒を膨張させる。室内側電子膨張弁21の開度は調整可能である。室内側電子膨張弁21の開度を調整することにより、室内熱交換器22を流れる冷媒の流量が調整される。室内側電子膨張弁21の開度は、特別な場合を除き、室内機1b側に設けられている図示しないマイコンからの指示に基づいて制御される。
【0020】
中間配管34の位置Aから位置Bまでの間の部分は、2つの配管(配管L1、配管L2)に分岐している。配管L1には、位置A側(室外熱交換器側)から位置B側(室内熱交換器側)に向かう冷媒の通過を許容しその反対方向に向かう冷媒の通過を禁止する一方向弁18Dが介装される。配管L2には第二流量調整弁18Bが介装される。冷房運転時には冷媒は配管L1を流れ、暖房運転時には冷媒は配管L2を流れる。第二流量調整弁18Bは、そこを流れる冷媒を膨張させる。また、第二流量調整弁18Bの開度は調整可能である。第二流量調整弁18Bの開度を調整することにより、暖房運転時に中間配管34から室外熱交換器14に流入する冷媒の流量が調整される。
【0021】
アキュムレータ入口配管35を介して四方弁13の第四ポート13dに接続されたアキュムレータ17は、さらに吸入配管38を介して圧縮機11の吸入口11aに接続される。アキュムレータ17は、アキュムレータ入口配管35側から冷媒を導入し、導入した冷媒を気液分離する。アキュムレータ17内で液冷媒と分離された低温低圧のガス冷媒が、吸入配管38を経由して圧縮機11の吸入口11aに供給される。
【0022】
配管L2とアキュムレータ入口配管35が過冷却用配管37により接続される。過冷却用配管37に、第三流量調整弁18C及び過冷却熱交換器16が介装される。過冷却熱交換器16は、
図1に示すように中間配管34のうち配管L2よりも室内熱交換器22側の部分にも介装されている。この過冷却熱交換器16にて、中間配管34を流れる冷媒と過冷却用配管37を流れる冷媒とが熱交換する。また、第三流量調整弁18Cの開度は調整可能である。第三流量調整弁18Cの開度を調整することにより、過冷却用配管37を流れて過冷却熱交換器16に流入する冷媒の流量が調整される。
【0023】
過冷却用配管37のうち配管L2に接続した端部と第三流量調整弁18Cが介装されている部分との間の部位に、サブ熱交換用配管36の一端が接続される。サブ熱交換用配管36の他端はアキュムレータ入口配管35に接続される。従って、サブ熱交換用配管36は、中間配管34の配管L2とアキュムレータ入口配管35とを接続する。
【0024】
サブ熱交換用配管36は、暖房運転時に中間配管34(配管L2)を流れる冷媒が室外熱交換器14をバイパスするように、中間配管34とアキュムレータ入口配管35とを接続する。このサブ熱交換用配管36に第一流量調整弁18A及びサブ熱交換器15が介装される。従って、サブ熱交換器15にはサブ熱交換用配管36内の冷媒が流れる。また、第一流量調整弁18Aの開度は調整可能である。第一流量調整弁18Aの開度を調整することにより、サブ熱交換用配管36及びサブ熱交換器15を流れる冷媒の流量が調整される。
【0025】
サブ熱交換器15は、例えばプレート式熱交換器により構成される。また、サブ熱交換器15は、後述するように冷却水回路50にも介装される。従って、サブ熱交換器15にて、サブ熱交換用配管36を流れる冷媒と冷却水回路50を流れる冷却水が熱交換する。サブ熱交換器15に入る冷却水はエンジン10から熱を奪うことによって加熱されているため、サブ熱交換器15ではサブ熱交換用配管36を流れる冷媒が冷却水によって加熱されるとともに冷却水が冷媒によって冷却される。
【0026】
図2は、冷却水回路50の概略構成図である。
図2に示すように、冷却水回路50は、エンジン10の内部に形成された冷却水通路51及び冷却水通路51の一方端と他方端とを接続する冷却水配管52とを有する。これらの冷却水通路51及び冷却水配管52により冷却水経路が構成される。
【0027】
冷却水回路50は、冷却水ポンプ53、サブ熱交換器15、流路切換弁54、及びラジエータ55をさらに有する。これらの機器は冷却水経路に介在される。冷却水回路50内には冷却水が流通する。
【0028】
冷却水ポンプ53は、例えばエンジン10の駆動力を受けて作動することにより、冷却水回路50内の冷却水を循環させる。
【0029】
冷却水配管52は、吐出側冷却水配管521と、吸入側冷却水配管522と、第一冷却水配管523と、第二冷却水配管524と、を有する。冷却水ポンプ53は、吐出側冷却水配管521の一方端と吸入側冷却水配管522の一方端との間に介装される。冷却水ポンプ53が駆動すると、冷却水ポンプ53は吸入側冷却水配管522から冷却水を吸入するとともに吐出側冷却水配管521に冷却水を吐出する。吐出側冷却水配管521の途中に冷却水通路51が設けられる。従って、冷却水ポンプ53から吐出した冷却水は、吐出側冷却水配管521を経て冷却水通路51を流れることによりエンジン10を冷却する。
【0030】
吐出側冷却水配管521の他方端に、流路切換弁54が接続される。従って、吐出側冷却水配管521を流れる冷却水は、エンジン10を冷却した後に流路切換弁54に流入する。この流路切換弁54には、第一冷却水配管523の一方端及び第二冷却水配管524の一方端も、それぞれ接続される。流路切換弁54は、吐出側冷却水配管521から流入した冷却水が第一冷却水配管523に流れるか第二冷却水配管524に流れるかを切換えることができるように構成される。
【0031】
一方端が流路切換弁54に接続された第一冷却水配管523の他方端は、
図2の合流点Cにて吸入側冷却水配管522の他方端に接続される。同様に、一方端が流路切換弁54に接続された第二冷却水配管524の他方端は、合流点Cにて吸入側冷却水配管522の他方端に接続される。
【0032】
第一冷却水配管523の途中にサブ熱交換器15が介装される。従って、第一冷却水配管523を流れる冷却水が、サブ熱交換器15にてサブ熱交換用配管36を流れる冷媒と熱交換する。
【0033】
第二冷却水配管524の途中にラジエータ55が介装される。従って、第二冷却水配管524を流れる冷却水がラジエータ55を通過する。ラジエータ55は室外機1a内に配設されており、室外機ファンの駆動により生じる気流を受けることにより内部を通過する冷却水が冷却されるように構成される。
【0034】
第一冷却水配管523に介装されたサブ熱交換器15にて冷却水と冷媒との間で授受される熱交換量の大きさと、第二冷却水配管524に介装されたラジエータ55にて冷却水と外気との間で授受される熱交換量の大きさは、異なる。従って、流路切換弁54を制御することにより、冷却水の温度を調整することができる。冷却水の温度を低下させる場合には、冷却水が第二冷却水配管524(ラジエータ55)を流れ、冷却水の温度を上昇させる場合には、冷却水が第一冷却水配管523(サブ熱交換器15)を流れるように、流路切換弁54が制御される。
【0035】
吐出側冷却水配管521に、エンジン10の排気ガスが通過する排気熱交換器70が介装される。この排気熱交換器70にて排気ガスと冷却水が熱交換することにより排気ガスが冷却される。排気熱交換器70にて冷却された排気ガスは、排気管71を通り、さらにドレントラッパ72を経由して大気に放出される。
【0036】
排気管71を流れる排気ガスのうち、冷却により凝縮した凝縮水は、浄化装置73に流入する。浄化装置73内には炭酸カルシウム等により形成されるドレンフィルタ74が充填されている。この浄化装置73内に流入した凝縮水がドレンフィルタ74に接触することにより、凝縮水中の硝酸成分等が中和される。中和されて無害化された凝縮水は、外部に放出される。
【0037】
また、エンジン10の下方にはオイルパン81が設置されており、このオイルパン81にはエンジンオイル82が貯留されている。オイルパン81に貯留されているエンジンオイル82は、図示しないオイル配管を経由して、エンジン10内の摺動部位に供給される。これによりエンジン10内の摺動部位が潤滑される。なお、オイル配管にはオイルポンプが介装されていて、オイルポンプが駆動することにより、オイルパン81内のエンジンオイル82がオイル配管を流れてエンジン10の摺動部位に供給される。
【0038】
図3は、エンジン10の内部構造を示す概略図である。
図3に示すようにエンジン10は、シリンダブロック部110及びシリンダブロック部110の上に固定されるシリンダヘッド部120を備える。
【0039】
シリンダブロック部110は、シリンダ111、ピストン112、コンロッド113及びクランクシャフト114を備える。ピストン112は、シリンダ111内を往復動する。ピストン112の往復動は、コンロッド113を介してクランクシャフト114に伝達され、これにより、クランクシャフト114が回転するようになっている。シリンダ111、ピストン112及びシリンダヘッド部120は、燃焼室115を形成している。
【0040】
シリンダヘッド部120は、燃焼室115に連通した吸気ポート121、吸気ポート121を開閉する吸気弁122、燃焼室115に連通した排気ポート123、排気ポート123を開閉する排気弁124、及び燃焼室115内の燃料に点火する点火プラグ126を備える。点火プラグ126は、図示しないイグナイタ及びイグニッションコイルによって発生された高電圧が印可されることにより燃焼室115内に点火、すなわち火花を生成するように構成される。
【0041】
シリンダヘッド部120に吸気システム130が接続される。吸気システム130は、吸気ポート121に連通した吸気管131を備える。吸気管131の途中にはスロットル弁132が介装されており、このスロットル弁132はスロットル弁アクチュエータ133により駆動される。スロットル弁132は吸気管131に回転可能に支持され、スロットル弁アクチュエータ133によって駆動されることにより開度が調整されるようになっている。スロットル弁132の開度が調整されることにより吸気管131を流れる吸気ガスの流量が調整される。
【0042】
また、吸気管131に燃料供給システム140が接続される。燃料供給システム140は、図示しない燃料ガス供給源(具体的には、都市ガス又はプロパンガスの供給配管)、ガス電磁弁141、ガスレギュレータ142、燃料調整弁143、燃料調整弁143を駆動する燃料調整弁アクチュエータ144、及び燃料送出管145を備えるガスミキサである。燃料送出管145は、燃料ガス供給源と、吸気管131のうちスロットル弁132が介装されている部分よりも上流側の部分と、を連通する。
【0043】
ガス電磁弁141はガスレギュレータ142への燃料(ガス)の供給時に開かれる。ガスレギュレータ142は、燃料調整弁143に供給される燃料の圧力を所定の圧力に調整することができるように構成される。燃料調整弁143の開度は燃料調整弁アクチュエータ144によって調整される。燃料調整弁143の開度が調整されることによりスロットル弁132の上流側に供給される燃料の量が調整される。
【0044】
また、シリンダブロック部110にクランクポジションセンサ116が設けられる。クランクポジションセンサ116は、クランクシャフト114が一定角度(例えば、10°)回転する毎に一つのパルス信号を発生する。クランクポジションセンサ116が発生する信号に基づいてクランク角度を取得することができる。更に、クランクポジションセンサ116が発生する信号(実際には隣接するパルス信号間の時間)に基づいて、エンジン10の回転速度(エンジン回転速度NE)を取得することができる。
【0045】
また、シリンダヘッド部120に形成された排気ポート123は、前述した排気熱交換器70に接続される。
【0046】
図1に示すように、冷媒回路100の各所に温度センサ及び圧力センサが取り付けられる。これらの各種センサのうち、吸入温度センサ61は吸入配管38に取り付けられており、吸入配管38から圧縮機11に吸入される冷媒の温度(冷媒吸入温度)を検出する。吐出温度センサ62は吐出配管31に取り付けられており、圧縮機11から吐出配管31に吐出された冷媒の温度(冷媒吐出温度)を検出する。吸入圧力センサ63は吸入配管38に取り付けられており、吸入配管38から圧縮機11の吸入口11aに吸入される冷媒の圧力(冷媒吸入圧力)を検出する。吐出圧力センサ64は吐出配管31に取り付けられており、圧縮機11の吐出口11bから吐出配管31に吐出される冷媒の圧力(冷媒吐出圧力)を検出する。第一開度センサ65は第一流量調整弁18Aに取り付けられており、第一流量調整弁18Aの開度を検出する。第二開度センサ66は第二流量調整弁18Bに取り付けられており、第二流量調整弁18Bの開度を検出する。第三開度センサ67は第三流量調整弁18Cに取り付けられており、第三流量調整弁18Cの開度を検出する。
【0047】
図2に示すように、冷却水回路50の冷却水通路51に冷却水温度センサ69が取り付けられる。冷却水温度センサ69により、冷却水通路51を流れる冷却水の温度(冷却水温度Tw)が検出される。
【0048】
制御装置60は、CPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータを主要構成とし、エンジン駆動式空気調和装置1の運転状態を制御するための複数の制御対象を制御する。複数の制御対象は、少なくとも、エンジン回転速度NE、点火プラグ126の点火時期tp、四方弁13の切換動作、第一流量調整弁18Aの開度、第二流量調整弁18Bの開度、第三流量調整弁18Cの開度、流路切換弁54の切換動作、スロットル弁132の開度、燃料調整弁143の開度を含む。例えば、制御装置60は、エンジン10に指示回転速度を表す指令を出力する。これによりスロットル弁132の開度及び/または燃料調整弁143の開度が調整されて、エンジン回転速度NEが指示回転速度に制御される。また、制御装置60は、各流量調整弁18A,18B,18Cに指示開度を表す指令を出力する。これにより各流量調整弁の開度が指示開度となるように動作する。さらに、制御装置60は、所定のタイミングでエンジン10に点火指令を出力する。これによりイグニッションコイルが所定のタイミングで高電圧を発生し、発生した高電圧によって点火プラグ126が所定のタイミングで点火する。制御装置60には、上記した各種センサが検出した情報が入力される。制御装置60は、入力した各種センサからの検出情報に基づいて、出力する指令を決定することができる。
【0049】
上記構成のエンジン駆動式空気調和装置1の空調動作について説明する。暖房運転を行う場合、制御装置60は、四方弁13の切換状態が暖房時切換状態になるように、四方弁13を制御する。その後、制御装置60はエンジン10を駆動させる。これにより圧縮機11が作動し、圧縮機11の吐出口11bから高温高圧のガス冷媒が吐出配管31に吐出される。
【0050】
吐出配管31に吐出されたガス冷媒は吐出配管31のオイルセパレータ12にて冷凍機油が除去された後に四方弁13の第一ポート13aに流入し、四方弁13の第二ポート13bから四方弁13を流出して室内機側配管32に流れ、さらに室内熱交換器22に流入する。室内熱交換器22に流入したガス冷媒は室内熱交換器22内を流通する間に室内空気と熱交換し、室内に熱を吐き出して凝縮する。このときガス冷媒から吐き出された熱によって室内空気が温められて、室内が暖房される。
【0051】
室内空気に熱を吐き出して凝縮した冷媒は一部液化し、室内熱交換器22から中間配管34に流出し、中間配管34の途中に介装された室内側電子膨張弁21で膨張することにより中圧化され、その後、過冷却熱交換器16を通過することによりさらに液化される。過冷却熱交換器16を流出した冷媒は、中間配管34の位置Bにて配管L2に流入する。
【0052】
配管L2に流入した冷媒の一部は、配管L2に接続された過冷却用配管37を流れて過冷却熱交換器16に流入する。そして、過冷却熱交換器16にて中間配管34を流れる冷媒と熱交換し、その後、アキュムレータ入口配管35に流れる。
【0053】
また、配管L2に流入した冷媒の一部はサブ熱交換用配管36に流入する。サブ熱交換用配管36に流入した冷媒はサブ熱交換器15に入り、このサブ熱交換器15にて冷却水と熱交換する。サブ熱交換器15を流出した冷媒はアキュムレータ入口配管35に流れる。
【0054】
一方、配管L2から過冷却用配管37に流れなかった冷媒は、配管L2に介装された第二流量調整弁18Bを通る。この第二流量調整弁18Bにより冷媒が膨張して低圧化される。第二流量調整弁18Bを通った冷媒は、室外熱交換器14に流入し、室外熱交換器14内を流通する間に外気と熱交換し、外気の熱を奪って蒸発する。
【0055】
室外熱交換器14にて外気の熱を奪って蒸発した冷媒は一部気化して室外熱交換器14から室外機側配管33に流出し、その後、四方弁13の第三ポート13cに入る。四方弁13の第三ポート13cに入った冷媒は第四ポート13dから四方弁13を流出してアキュムレータ入口配管35に流れる。
【0056】
アキュムレータ入口配管35に流れた冷媒はアキュムレータ17に導入される。アキュムレータ17では導入された冷媒が気液分離される。アキュムレータ17にて液冷媒と分離された低温低圧のガス冷媒は吸入配管38に流出する。そして、吸入配管38内のガス冷媒が圧縮機11の吸入口11aに吸入される。このような冷媒の循環サイクルが繰り返されることにより、室内暖房が継続される。
【0057】
次に、冷房運転について説明する。冷房運転を行う場合、制御装置60は、四方弁13の切換状態が冷房時切換状態になるように、四方弁13を制御する。その後、制御装置60はエンジン10を駆動させる。これにより圧縮機11が作動し、圧縮機11の吐出口11bから高温高圧のガス冷媒が吐出配管31に吐出される。吐出された高温高圧のガス冷媒は吐出配管31を流れ、オイルセパレータ12を経由して四方弁13の第一ポート13aに入る。
【0058】
四方弁13の第一ポート13aに入った冷媒は第三ポート13cから四方弁13を流出して室外機側配管33に流れる。室外機側配管33に流れたガス冷媒は室外熱交換器14に流入する。室外熱交換器14に流入した冷媒は室外熱交換器14内を流通する間に外気と熱交換し、外気に熱を吐き出して凝縮する。
【0059】
外気に熱を吐き出して凝縮した冷媒は一部液化し、室外熱交換器14から中間配管34に流出する。中間配管34に流出した液冷媒(又は気液二相冷媒)は、配管L1を経由したのち過冷却熱交換器16を通過する。過冷却熱交換器16を通過した冷媒は、その後、室内機1b側にて中間配管34に介装されている室内側電子膨張弁21を通る。この室内側電子膨張弁21で冷媒が膨張し、蒸発しやすいように低圧化される。室内側電子膨張弁21で低圧化された冷媒は、その後、室内熱交換器22に流入する。室内熱交換器22に流入した冷媒は室内熱交換器22内を流通する間に室内空気と熱交換し、室内空気の熱を奪って蒸発する。このとき冷媒が室内空気の熱を奪うことによって室内空気が冷やされて、室内が冷房される。
【0060】
室内空気の熱を奪って蒸発した冷媒は一部液化し、室内熱交換器22から室内機側配管32に流出して四方弁13に向かう。そして、四方弁13の第二ポート13bに入る。四方弁13の第二ポート13bに入った冷媒は第四ポート13dから四方弁13を流出してアキュムレータ入口配管35に流入する。アキュムレータ入口配管35を流れた冷媒はアキュムレータ17に導入される。アキュムレータ17では導入された冷媒が気液分離される。アキュムレータ17で分離されたガス冷媒が吸入配管38に流出する。そして、吸入配管38内に流入したガス冷媒が圧縮機11の吸入口11aに帰還する。このような冷媒の循環サイクルが繰り返されることにより、室内冷房が継続される。
【0061】
上記した暖房運転時及び冷房運転時に、制御装置60は、各種センサから入力された検出情報に基づいて、エンジン駆動式空気調和装置1の運転状態を制御するための複数の制御対象を制御する。例えば、制御装置60は、複数の制御対象として、エンジン回転速度NE、点火プラグの点火時期tp、四方弁13の切換動作、第一流量調整弁18Aの開度、第二流量調整弁18Bの開度、第三流量調整弁18Cの開度、流路切換弁54の切換動作、スロットル弁132の開度、燃料調整弁143の開度を制御する。加えて、制御装置60は、メンテナンスが未だなされていない場合には最初に起動したときから現在まで、メンテナンスが1回以上なされている場合には前回のメンテナンスが終了したときから現在までの間に、エンジン駆動式空気調和装置1が運転している時間の累積値を累積運転時間として計算している。そして、累積運転時間が全体メンテナンス時間tmに達した場合に、制御装置60はエンジン駆動式空気調和装置1を停止させるとともにメンテナンス信号を出力する。このメンテナンス信号は、例えば無線通信を介してメンテナンス業者が所有する端末に受信される。これにより、メンテナンス業者に、エンジン駆動式空気調和装置1のメンテナンス時期が到来したことが報知される。
【0062】
ところで、エンジン駆動式空気調和装置1は、エンジン駆動式空気調和装置1の運転に必要であり且つメンテナンスが必要な複数の部品を備えている。例えば、エンジンオイル82は、運転時間の経過とともに劣化するため、エンジンオイル82の交換、補充、等のメンテナンスが必要である。また、エンジン10に設けられる点火プラグ126も、運転時間の経過とともに劣化するため、点火プラグ126の交換が必要である。さらに、浄化装置73内に設けられるドレンフィルタ74も運転時間の経過とともに劣化するため、交換、補充等が必要である。これらの、メンテナンスが必要な部品を総称して、メンテナンス部品と呼ぶ。従って、エンジン駆動式空気調和装置1は、複数のメンテナンス部品を備える。
【0063】
複数のメンテナンス部品の劣化速度はそれぞれ異なるので、次のメンテナンスまでにエンジン駆動式空気調和装置1を運転することができる累積運転時間(メンテナンス時間)はメンテナンス部品によって異なる。しかし、エンジン駆動式空気調和装置1の累積運転時間がそれぞれのメンテナンス部品のメンテナンス時間(個別メンテナンス時間)に達するたびにメンテナンスのためにエンジン駆動式空気調和装置1を停止することは、運転効率の低下を招くために好ましくない。これに対して特許文献1には、それぞれのメンテナンス部品の劣化状態に基づいて、それぞれのメンテナンス部品の個別メンテナンス時間を算出し、最も短い個別メンテナンス時間を全体メンテナンス時間tmに設定し、累積運転時間が全体メンテナンス時間tmに達した場合には、すべてのメンテナンス部品についてメンテナンスを実行する例が記載されている。
【0064】
この場合、全てのメンテナンス部品についてメンテナンス不足による故障を回避することができるものの、全体メンテナンス時間tmを延長することはできない。そこで、本実施形態に係る制御装置60は、メンテナンス制御処理を実行することにより、全体メンテナンス時間tmを延ばすことができるように、制御対象を制御する。
【0065】
具体的には、制御装置60は、エンジン駆動式空気調和装置1の運転状態を制御するための複数の制御対象のうちの所定の制御対象が一方向に変化した場合に劣化の進行が抑制され一方向とは反対の他方向に変化した場合に劣化の進行が促進するメンテナンス部品(第一メンテナンス部品)と、上記所定の制御対象が一方向に変化した場合に劣化の進行が促進し他方向に変化した場合に劣化の進行が抑制されるメンテナンス部品(第二メンテナンス部品)とのペアに対し、劣化率がより大きいメンテナンス部品の劣化の進行が抑制され、劣化率がより小さいメンテナンス部品の劣化の進行が促進されるように上記所定の制御対象を変化させる制御を行う。つまり、制御装置60は、所定の制御対象の変化に対して劣化の進行がトレードオフの関係にある2つのメンテナンス部品に対し、劣化率が大きいメンテナンス部品の劣化が抑えられかつ劣化率が小さいメンテナンス部品の劣化が促進されるように、所定の制御対象を制御する。
【0066】
例えば、エンジンオイル82は、エンジン10から排出される排気ガス中のNOx成分の濃度(以下、NOx濃度)が高いほど劣化の進行が促進される。また、排気ガス中のNOx濃度は、制御装置60が制御し得る制御対象の一つである点火プラグ126の点火時期tpが進角するほど高い。従って、エンジンオイル82の劣化の進行は、点火時期tpが進角するほど促進し、遅角するほど抑制される。一方、点火プラグ126の劣化(摩耗)の進行は、点火プラグ126の点火時期tpが遅角するほど促進し、進角するほど抑制される。つまり、エンジンオイル82と点火プラグ126とは、点火プラグ126の点火時期tpが一方向(例えば遅角方向)に変化した場合に劣化の進行が抑制されるメンテナンス部品(エンジンオイル82)と劣化の進行が促進するメンテナンス部品(点火プラグ126)のペアである。そして、エンジンオイル82の劣化率が点火プラグ126の劣化率(摩耗率)よりも所定値以上大きい場合には、点火時期が遅角するように点火プラグ126の点火時期tpが制御される。一方、点火プラグ126の劣化率(摩耗率)がエンジンオイル82の劣化率よりも所定値以上大きい場合には、点火時期が進角するように点火プラグ126の点火時期tpが制御される。このようにして、劣化が進んだメンテナンス部品の劣化の進行を抑制することにより、劣化が進行したメンテナンス部品についての個別メンテナンス時間を延ばすことができる。劣化が進行したメンテナンス部品の個別メンテナンス時間は、エンジン駆動式空気調和装置1の全体メンテナンス時間tmになり得る可能性が高い。よって、劣化が進行したメンテナンス部品の個別メンテナンス時間を延ばすことにより、エンジン駆動式空気調和装置1の全体メンテナンス時間tmを延ばすことができる。
【0067】
図4は、エンジンオイル82と点火プラグ126のうち劣化が進行した部品の劣化の進行を抑制するために制御装置60が実行するメンテナンス制御処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図4に示すルーチンは、エンジン駆動式空気調和装置1の運転中に所定の短時間ごとに繰り返し実行される。本例では、
図4に示すルーチンが30秒ごとに繰り返し実行される。
【0068】
図4に示すルーチンが起動すると、制御装置60は、
図4のステップ(以下、ステップをSと略記する)101、S102、及びS103をそれぞれ実行する。
【0069】
S101では、制御装置60はエンジンオイル82の現在劣化率α(n)を演算する。S102では、制御装置60はエンジンオイル82の現在消費率β(n)を演算する。S103では、制御装置60は点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)を演算する。現在劣化率α(n)は、現時点におけるエンジンオイル82の劣化率(劣化の度合い)を表し、現在消費率β(n)は、現時点におけるエンジンオイル82の消費率(消費の度合い)を表し、現在摩耗率γ(n)は、現時点における点火プラグ126の摩耗率(摩耗の度合い)を表す。現在摩耗率γ(n)は、点火プラグ126の劣化率であるともいえる。
【0070】
図5は、制御装置60が現在劣化率α(n)を演算するために実行するα(n)演算処理ルーチンを示すフローチャートである。
図5に示すように、このルーチンが起動すると、制御装置60は、まず
図5のS201にて、エンジンオイル82の累積劣化量の前回値A(n-1)を取得する。累積劣化量の前回値A(n-1)は、前回に(すなわち30秒前に)演算したエンジンオイル82の劣化量の累積値であり、制御装置60のROM内に記憶されている。次いで、制御装置60は、S202にて、現時点におけるエンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt、及び点火プラグ126の点火時期tpを取得する。エンジン回転速度NEはクランクポジションセンサ116が発生する信号(実際には隣接するパルス信号間の時間)に基づいて取得することができる。エンジン負荷トルクNtは、吸入圧力センサ63が検出する冷媒吸入圧と吐出圧力センサ64が検出する冷媒吐出圧との差圧に基づいて演算することができる。点火時期tpは、クランクポジションセンサ116が発生する信号と、イグナイタ及びイグニッションコイルによる点火プラグ126への高電圧の印可タイミングとに基づいて演算することができる。
【0071】
次に、制御装置60は、S203にて、エンジンオイル82の劣化量の今回値B(n)を演算する。エンジンオイル82の劣化量の今回値B(n)は、制御装置60が
図4に示すメンテナンス制御処理ルーチンを前回実行したときから今回実行するまでの間に、すなわち30秒前から現在までの間に増加したエンジンオイル82の劣化量である。ここで、エンジンオイル82の劣化とは、エンジンオイル中の塩基価成分の減少を言う。また、エンジンオイル82の劣化量とは、本実施形態では、エンジンオイル中の塩基価成分の減少量に比例する量と定義する。
【0072】
エンジンオイル82の劣化は、エンジン10から発生する排気ガス中の窒素酸化物の濃度(NOx濃度)に影響を受ける。例えば燃焼室115から漏れ出した排気ガスがオイルパン81に貯留しているエンジンオイル82に接触することがあるが、この際にエンジンオイル82の劣化の進行の度合いが排気ガス中のNOx濃度に影響を受ける。NOx濃度が高いほどエンジンオイル82の劣化の進行(塩基価成分の減少)が促進され、NOx濃度が低いほどエンジンオイル82の劣化の進行(塩基価成分の減少)が抑制される。NOx濃度と、排気ガス中にその濃度のNOxが含まれる場合に単位時間あたりにエンジンオイル82が劣化する量(塩基価成分の減少量)との関係は予め実験等により調査されており、その関係は、NOx-劣化量データベースとして制御装置60のROM内に記憶されている。
【0073】
また、排気ガス中のNOx濃度は、エンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt、点火プラグ126の点火時期tp等に影響を受ける。具体的には、エンジン回転速度NEが高いほど排気ガス中のNOx濃度は高く、エンジン負荷トルクNtが高いほど排気ガス中のNOx濃度は高く、点火時期tpが速いほど(進角であるほど)排気ガス中のNOx濃度は高い。一方、エンジン回転速度NEが低いほど排気ガス中のNOx濃度は低く、エンジン負荷トルクNtが低いほど排気ガス中のNOx濃度は低く、点火時期tpが遅いほど(遅角であるほど)排気ガス中のNOx濃度は低い。エンジン回転速度NEと排気ガス中のNOx濃度の関係、エンジン負荷トルクNtと排気ガス中のNOx濃度の関係、点火時期tpと排気ガス中のNOx濃度との関係は予め実験等により調査されている。これらの関係から、排気ガス中のNOx濃度と、エンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt、点火時期tpとの関係を表す数式を求めることができる。或いは、これらの関係から、エンジン回転速度NEと排気ガス中のNOx濃度との関係を表すマップ、エンジン負荷トルクNtと排気ガス中のNOx濃度との関係を表すマップ、及び点火時期tpと排気ガス中のNOx濃度との関係を表すマップを作成することができる。求めた数式或いはマップは制御装置60のROM内に記憶されている。そして、S203にて、制御装置60は、上記した数式或いはマップに現時点におけるエンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt、及び点火時期tpを当てはめることにより、排気ガス中のNOx濃度を演算する。さらに、制御装置60は、演算したNOx濃度とNOx-劣化量データベースとに基づいて、30秒前から現在までにおける、エンジンオイル82の劣化量の今回値B(n)を演算する。
【0074】
次いで、制御装置60は、S204にて、エンジンオイル82の累積劣化量の前回値A(n-1)にエンジンオイル82の劣化量の今回値B(n)を加算することにより、エンジンオイル82の累積劣化量の今回値A(n)を演算する。
【0075】
続いて、制御装置60は、S205にて、累積劣化量の今回値A(n)を上限劣化量Amaxで除した百分率により、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)を演算する。上限劣化量Amaxは、エンジンオイル82の劣化量がそれ以上である場合にエンジンオイル82によって十分にエンジン10を潤滑することができない値として予め設定される。
【0076】
現在劣化率α(n)を演算した後に、制御装置60は、S206にて、累積劣化量の今回値A(n)を前回値A(n-1)としてROMに保存し、その後、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0077】
図6は、制御装置60が現在消費率β(n)を演算するために実行するβ(n)演算処理ルーチンを示すフローチャートである。
図6に示すように、このルーチンが起動すると、制御装置60は、まず
図6のS301にて、エンジンオイル82の累積消費量の前回値C(n-1)を取得する。累積消費量の前回値C(n-1)は、前回に(すなわち30秒前に)演算したエンジンオイル82の減少量の累積値であり、制御装置60のROM内に記憶されている。
【0078】
次いで、制御装置60は、S302にて、現時点におけるエンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt、及び冷却水温度Twを取得する。冷却水温度Twは、冷却水温度センサ69の検出情報に基づいて取得することができる。
【0079】
次に、制御装置60は、S303にて、エンジンオイル82の消費量の今回値D(n)を演算する。エンジンオイル82の消費量の今回値D(n)は、制御装置60が
図4に示すメンテナンス制御処理ルーチンを前回実行したときときから今回実行するまでの間に、すなわち30秒前から現在までの間に消費(減少)したエンジンオイル82の量である。
【0080】
エンジンオイル82の消費量は、エンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt、冷却水温度Twに影響を受ける。具体的には、エンジン回転速度NEが高いほどエンジンオイル82の消費量は多く、エンジン負荷トルクNtが高いほどエンジンオイル82の消費量は多く、冷却水温度Twが低いほどエンジンオイル82の消費量は多い。一方、エンジン回転速度NEが低いほどエンジンオイル82の消費量は少なく、エンジン負荷トルクNtが低いほどエンジンオイル82の消費量は少なく、冷却水温度Twが高いほどエンジンオイル82の消費量は少ない。なお、冷却水温度Twが低いほどエンジン10の温度も低下し、エンジン10の温度が低下すると、ピストン112とシリンダ111との間に形成されるエンジンオイル82の膜厚が増加する。エンジンオイル82の膜厚が厚いほどピストン112の摺動によって燃焼室115内に掻き出されるエンジンオイル82の量が多くなる。このため、冷却水温度Twが低いほど、燃焼室115内で燃焼するエンジンオイル82の量が多くなる。よって、冷却水温度Twが低いほどエンジンオイル82の消費量は多い。
【0081】
エンジン回転速度NEと単位時間あたりにおけるエンジンオイル82の消費量の関係、エンジン負荷トルクNtと単位時間あたりにおけるエンジンオイル82の消費量の関係、冷却水温度Twと単位時間あたりにおけるエンジンオイル82の消費量の関係は、予め実験等により調査されている。これらの関係から、単位時間あたりにおけるエンジンオイル82の消費量(消費速度)と、エンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt、冷却水温度Twとの関係を表す数式を求めることができる。或いは、これらの関係から、エンジン回転速度NEと単位時間あたりにおけるエンジンオイル82の消費量との関係を表すマップ、エンジン負荷トルクNtと単位時間あたりにおけるエンジンオイル82の消費量との関係を表すマップ、及び冷却水温度Twと単位時間あたりにおけるエンジンオイル82の消費量との関係を表すマップを作成することができる。求めた数式或いはマップは制御装置60のROM内に記憶されている。そして、S303にて、制御装置60は、上記した数式或いはマップに現時点におけるエンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt、及び冷却水温度Twを当てはめることにより、30秒前から現在までの間における、エンジンオイル82の消費量の今回値D(n)を演算する。
【0082】
次いで、制御装置60は、S304にて、エンジンオイル82の累積消費量の前回値C(n-1)にエンジンオイル82の消費量の今回値D(n)を加算することにより、エンジンオイル82の累積消費量の今回値C(n)を演算する。
【0083】
続いて、制御装置60は、S305にて、累積消費量の今回値C(n)を上限消費量Cmaxで除した百分率により、エンジンオイル82の現在消費率β(n)を演算する。上限消費量Cmaxは、エンジンオイル82の消費量がそれ以上である場合にエンジンオイル82によって十分にエンジン10を潤滑することができない値として予め設定される。
【0084】
現在消費率β(n)を演算した後に、制御装置60は、S306にて、累積消費量の今回値C(n)を前回値C(n-1)としてROM内に保存し、その後、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0085】
図7は、制御装置60が点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)を演算するために実行するγ(n)演算処理ルーチンを示すフローチャートである。
図7に示すように、このルーチンが起動すると、制御装置60は、まず
図7のS401にて、点火プラグ温度制御を実行する。この点火プラグ温度制御の実行により、点火プラグ126の温度が所定の閾値温度以下に維持される。
【0086】
図8は、制御装置60が実行する点火プラグ温度制御ルーチンを示すフローチャートである。
図8に示す点火プラグ温度制御が開始された場合、制御装置60はまずS501にて、点火プラグ126の点火時期tp、エンジン回転速度NE、冷却水温度Twを取得する。
【0087】
次いで、制御装置60は、S502にて、点火プラグ温度Tpを推定する。ここで、点火プラグ126の温度は、点火時期tp、エンジン回転速度NE、冷却水温度Twに影響を受ける。具体的には、点火時期tpが速いほど(進角であるほど)点火プラグ温度Tpは高く、エンジン回転速度NEが高いほど点火プラグ温度Tpは高く、冷却水温度Twが高いほど点火プラグ温度Tpは高い。点火時期tpと点火プラグ温度Tpの関係、エンジン回転速度NEと点火プラグ温度Tpの関係、冷却水温度Twと点火プラグ温度Tpの関係は、予め実験等により調査されている。これらの関係から、点火プラグ温度Tpと、点火時期tp、エンジン回転速度NE、冷却水温度Twとの関係を表す数式を求めることができる。或いは、点火時期tpと点火プラグ温度Tpの関係を表すマップ、エンジン回転速度NEと点火プラグ温度Tpとの関係を表すマップ、及び冷却水温度Twと点火プラグ温度Tpとの関係を表すマップを作成することができる。求めた数式或いはマップは制御装置60のROM内に記憶されている。そして、S502にて、制御装置60は、上記した数式或いはマップに現時点における点火時期tp、エンジン回転速度NE、及び冷却水温度Twを当てはめることにより、点火プラグ温度Tpを演算(推定)する。
【0088】
続いて、制御装置60は、S503にて、点火プラグ温度Tpが閾値温度Tthよりも高いか否かを判断する。ここで、点火プラグ温度Tpが所定の温度を超えると、点火プラグ126が異常摩耗することが判明している。上記所定の温度は点火プラグ126の母材の耐熱温度に関係する。そのため点火プラグ温度Tpを上記所定の温度以下の温度として予め設定される閾値温度Tth以下に維持する必要がある。このような理由から、S503にて点火プラグ温度Tpが閾値温度Tthよりも高いか否かが判断される。点火プラグ温度Tpが閾値温度Tth以下である場合(S503、No)、点火プラグ126の異常摩耗が発生する可能性が低いので、制御装置60はこのルーチンを終了する。点火プラグ温度Tpが閾値温度Tthよりも高い場合(S503:Yes)、点火プラグ126の異常摩耗が発生する可能性がある。よって、この場合、処理がS504に進む。S504では、制御装置60は、点火プラグ温度Tpを変化させることができる制御対象Uを選択する。上述したように、点火プラグ温度Tpは、点火時期tp、エンジン回転速度NE、冷却水温度Twに影響する。よって、S504では、制御対象Uとして、点火時期tp、エンジン回転速度NE、冷却水温度Twのうちの一つ又は複数を選択する。この場合、制御装置60は、現時点におけるエンジン駆動式空気調和装置1の運転状態に与える影響が少ない制御対象を選択することができる。
【0089】
次に、制御装置60は、S505にて、点火プラグ温度Tpが低下するように、選択した制御対象Uを制御する。例えば、選択した制御対象Uが点火時期tpである場合、制御装置60は、点火時期tpが遅れるように点火時期tp(点火プラグ126への高電圧の印可タイミング)を制御する。また、選択した制御対象Uがエンジン回転速度NEである場合、制御装置60は、エンジン回転速度NEが低下するようにスロットル弁132の開度及び/または燃料調整弁143の開度を制御する。また、選択した制御対象Uが冷却水温度Twである場合、制御装置60は、冷却水が第二冷却水配管524を流通するように、流路切換弁54を制御する。その後、制御装置60はこのルーチンを終了する。制御装置60がこのような点火プラグ温度制御処理を実行することにより、点火プラグ温度Tpが閾値温度Tth以下に維持される。
【0090】
図7のS401にて上記の点火プラグ温度制御を実行した後に、制御装置60は、S402にて、点火プラグ126の累積摩耗量の前回値E(n-1)を取得する。累積摩耗量の前回値E(n-1)は、前回に(すなわち30秒前に)演算した点火プラグ126の摩耗量の累積値であり、制御装置60のROM内に記憶されている。
【0091】
次いで、制御装置60は、S403にて、現時点におけるエンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt、及び点火プラグ126の点火時期tpを取得する。
【0092】
次に、制御装置60は、S404にて、点火プラグ126の摩耗量の今回値F(n)を演算する。点火プラグ126の摩耗量の今回値F(n)は、、制御装置60が
図4に示すメンテナンス制御処理ルーチンを前回実行したときときから今回実行するまでの間に、すなわち30秒前から現在までの間に生じた点火プラグ126の摩耗量(具体的には電極の摩耗量)である。
【0093】
点火プラグ126の摩耗量は、エンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt及び点火プラグ126の点火時期に影響を受ける。具体的には、エンジン回転速度NEが大きいほど摩耗の進行が促進され、エンジン負荷トルクNtが大きいほど摩耗の進行が促進され、点火時期tpが遅いほど(遅角するほど)摩耗の進行が促進される。一方、エンジン回転速度NEが小さいほど摩耗の進行が抑制され、エンジン負荷トルクNtが小さいほど摩耗の進行が抑制され、点火時期tpが速いほど(進角するほど)摩耗の進行が抑制される。エンジン回転速度NEと単位時間あたりに生じる摩耗量の関係、エンジン負荷トルクNtと単位時間あたりに生じる摩耗量の関係、点火時期tpと単位時間あたりに生じる摩耗量の関係は、それぞれ予め実験等により調査されている。これらの関係から、単位時間あたりにおける点火プラグ126の摩耗量(摩耗速度)と、エンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt、点火時期tpとの関係を表す数式を求めることができる。或いは、エンジン回転速度NEと単位時間あたりにおける点火プラグ126の摩耗量との関係を表すマップ、エンジン負荷トルクNtと単位時間あたりにおける点火プラグ126の摩耗量との関係を表すマップ、点火時期tpと単位時間あたりにおける点火プラグ126の摩耗量との関係を表すマップ、をそれぞれ作成することができる。求めた数式或いはマップは制御装置60のROM内に記憶されている。そして、S404にて、制御装置60は、上記した数式或いはマップに現時点におけるエンジン回転速度NE、エンジン負荷トルクNt及び点火時期tpを当てはめることにより、30秒前から現在までにおける、点火プラグ126の摩耗量の今回値F(n)を演算する。
【0094】
次いで、制御装置60は、S405にて、点火プラグ126の累積摩耗量の前回値E(n-1)に点火プラグ126の摩耗量の今回値F(n)を加算することにより、点火プラグ126の累積摩耗量の今回値E(n)を演算する。
【0095】
続いて、制御装置60は、S406にて、累積摩耗量の今回値E(n)を上限摩耗量Emaxで除した百分率により、点火プラグの現在摩耗率γ(n)を演算する。上限摩耗量Emaxは、点火プラグ126の摩耗量がそれ以上である場合に点火プラグ126が適正に点火しない状態を招く値として予め設定される。
【0096】
現在摩耗率γ(n)を演算した後に、制御装置60は、S407にて、累積摩耗量の今回値E(n)を前回値E(n-1)としてROM内に保存し、その後、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0097】
上記のようにして、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)、エンジンオイル82の現在消費率β(n)、及び点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)を演算した後に、制御装置60は、
図4のS104にて、全体メンテナンス時間tmを設定する。全体メンテナンス時間tmは、前回のメンテナンスから次回のメンテナンスまでに、或いは最初の起動時から初回のメンテナンスまでに、エンジン駆動式空気調和装置1を運転することができる時間である。
【0098】
図9は、制御装置60が全体メンテナンス時間tmを設定するために実行するメンテナンス時間設定処理ルーチンを示すフローチャートである。このルーチンが起動すると、制御装置60は、まず、
図9のS601にて、現在までのエンジン駆動式空気調和装置1の累積運転時間trを取得する。
【0099】
次いで、制御装置60は、S602にて、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)に基づく個別メンテナンス時間tαを演算する。個別メンテナンス時間tαは、前回のメンテナンス時(未だメンテナンスがなされていない場合は最初の起動時)からエンジンオイル82の劣化率が所定の上限値(例えば95%)に到達するまでにエンジン駆動式空気調和装置1を運転することができる累積時間である。個別メンテナンス時間tαは、例えば、エンジンオイルの現在劣化率α(n)及び現在までの累積運転時間trに基づいて演算することができる。
【0100】
続いて制御装置60は、S603にて、エンジンオイル82の現在消費率β(n)に基づく個別メンテナンス時間tβを演算する。個別メンテナンス時間tβは、前回のメンテナンス時(未だメンテナンスがなされていない場合は最初の起動時)からエンジンオイル82の消費率が所定の上限値(例えば95%)に到達するまでにエンジン駆動式空気調和装置1を運転することができる累積時間である。個別メンテナンス時間tβは、例えば、エンジンオイル82の現在消費率β(n)及び現在までの累積運転時間trに基づいて演算することができる。
【0101】
次に、制御装置60は、S604にて、点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)に基づく個別メンテナンス時間tγを演算する。個別メンテナンス時間tγは、前回のメンテナンス時(未だメンテナンスがなされていない場合は最初の起動時)から点火プラグ126の摩耗率が所定の上限値(例えば95%)に到達するまでにエンジン駆動式空気調和装置1を運転することができる累積時間である。個別メンテナンス時間tγは、例えば、点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)及び現在までの累積運転時間trに基づいて演算することができる。
【0102】
次いで、制御装置60は、S605にて、全体メンテナンス時間tmを設定する。この場合、制御装置60は、S602~S604の処理により演算した各個別メンテナンス時間tα、tβ及びtγのうち最も短い時間を全体メンテナンス時間tmに設定する。その後、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0103】
図4のS104にて上記のように全体メンテナンス時間tmを設定した後に、制御装置60は、S105にて、エンジンオイル82のメンテナンス方法(メンテナンス条件)を決定する。
図10は、エンジンオイル82のメンテナンス方法を決定するために制御装置60が実行するエンジンオイルメンテナンス方法決定処理ルーチンを示すフローチャートである。このルーチンが起動すると、制御装置60は、まず
図10のS701にて、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)が閾値劣化率αthよりも大きいか否かを判断する。閾値劣化率αthは、
図9のS602にてメンテナンス時間tαの演算に用いた所定の上限値よりも小さい値として予め設定される。現在劣化率α(n)が閾値劣化率αthよりも大きい場合(S701:Yes)、処理がS702に進む。一方、現在劣化率α(n)が閾値劣化率αth以下の場合(S701:No)、処理がS703に進む。
【0104】
S702では、制御装置60は、エンジンオイル82の現在消費率β(n)が閾値消費率βthよりも大きいか否かを判断する。閾値消費率βthは、
図9のS603にてメンテナンス時間tβの演算に用いた所定の上限値よりも小さい値として予め設定される。現在消費率β(n)が閾値消費率βthよりも大きい場合(S702:Yes)、処理がS704に進む。一方、現在消費率β(n)が閾値消費率βth以下の場合(S702:No)、処理がS705に進む。
【0105】
また、S703では、制御装置60はS702と同様の処理を実行する。すなわち、エンジンオイル82の現在消費率β(n)が閾値消費率βthよりも大きいか否かを判断する。現在消費率β(n)が閾値消費率βthよりも大きい場合(S703:Yes)、処理がS706に進む。一方、現在消費率β(n)が閾値消費率βth以下の場合(S703:No)、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0106】
S704では、制御装置60は、エンジンオイル82のメンテナンス方法をメンテナンス方法1に決定する。ここで、処理がS704に進む場合は、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)が閾値劣化率αthよりも大きく、且つ、エンジンオイル82の現在消費率β(n)が閾値消費率βthよりも大きい場合である。つまり、処理がS704に進む場合は、エンジンオイル82の劣化がある程度進行しており、且つエンジンオイル82の消費量(減少量)が多い場合である。このような状態が継続したままメンテナンス時期が到来した場合、メンテナンス時にはエンジンオイル82の劣化が激しく、且つ残存するエンジンオイル82の量が少ないことになる。このような場合は、エンジンオイルの劣化が激しくてもその量が少ないために、エンジンオイル82を全量交換せずとも必要量だけ補充することにより、エンジンオイル82の劣化が改善されると考えられる。ただし、残存しているエンジンオイル82の劣化を回復させるための強化剤(添加剤)を添加することが好ましい。よって、メンテナンス方法1は、エンジンオイルを補充するとともに強化剤を添加するというエンジンオイルのメンテナンス方法である。S704にてメンテナンス方法をメンテナンス方法1に決定した後に、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0107】
S705では、制御装置60は、エンジンオイル82のメンテナンス方法をメンテナンス方法2に決定する。ここで、処理がS705に進む場合は、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)が閾値劣化率αthよりも大きく、且つ、エンジンオイル82の現在消費率β(n)が閾値消費率βth以下の場合である。つまり、処理がS705に進む場合は、エンジンオイル82の劣化がある程度進行しているが、エンジンオイル82の消費量(減少量)は少ない場合である。このような状態が継続したままメンテナンス時期が到来した場合、メンテナンス時にはエンジンオイル82が多く残存しているが、残存しているエンジンオイル82の劣化が激しいことになる。このような場合は、エンジンオイルを必要量だけ補充しても、エンジンオイル82の劣化の改善効果は少ない。このためこの場合にはエンジンオイルを全量交換することが好ましい。よって、メンテナンス方法2は、エンジンオイルを全量交換するというエンジンオイル82のメンテナンス方法である。S705にてメンテナンス方法をメンテナンス方法2に決定した後に、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0108】
S706では、制御装置60は、エンジンオイル82のメンテナンス方法をメンテナンス方法3に決定する。ここで、処理がS706に進む場合は、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)が閾値劣化率αth以下であり、且つ、エンジンオイル82の現在消費率β(n)が閾値消費率βthよりも大きい場合である。つまり、処理がS706に進む場合は、エンジンオイル82の劣化はさほど進行していないが、エンジンオイル82の消費量が多い場合である。このような状態が継続したままメンテナンス時期が到来した場合、メンテナンス時にはエンジンオイル82の残存量は少ないが、残ったエンジンオイル82の劣化はさほど進行していないことになる。このような場合は、エンジンオイルを必要量だけ補充することにより、エンジンオイルの劣化が改善されると考えられる。また、残存しているエンジンオイルの劣化もさほど進行していないため、強化剤(添加剤)を添加する必要もない。よって、メンテナンス方法3は、強化剤を添加することなくエンジンオイルを補充するというエンジンオイル82のメンテナンス方法である。S706にてメンテナンス方法をメンテナンス方法3に決定した後に、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0109】
なお、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)が閾値劣化率αth以下であり(S701:No)、且つ、エンジンオイル82の現在消費率β(n)が閾値消費率βth以下である(S703:No)場合は、エンジンオイル82のメンテナンス時期が当分先であるためエンジンオイル82のメンテナンス方法を定める必要がない。よって、この場合には、制御装置60はエンジンオイル82のメンテナンス方法を決定することなく、このルーチンを終了する。
【0110】
制御装置60は、
図10に示すエンジンオイルメンテナンス方法決定処理ルーチンを実行するごとに、すなわち30秒ごとに、上記のようにしてメンテナンス方法を決定する。ここで、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)とエンジンオイル82の現在消費率β(n)は時間の経過とともに変化し、また両者の変化量も異なる。そのため、制御装置60が
図10に示すルーチンを実行するごとに、決定されるメンテナンス方法が変化することもある。制御装置60は、エンジン駆動式空気調和装置1の累積運転時間が全体メンテナンス時間tmに達したときに決定しているメンテナンス方法を、エンジンオイル82の正式なメンテナンス方法に決定し、正式なメンテナンス方法を例えば表示装置等に表示する。これにより、メンテナンス時に表示装置に表示されたメンテナンス方法によりエンジンオイル82をメンテナンスすることができる。
【0111】
図4のS105にて上記のようにしてエンジンオイル82のメンテナンス方法を決定した後に、制御装置60は、S106にて、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)と点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)との差の絶対値が所定値ΔS以上であるか否かを判断する。所定値ΔSは、現在劣化率α(n)と現在摩耗率γ(n)との差が著しく大きいと認められる程度の値として予め設定される。α(n)とγ(n)との差の絶対値が所定値ΔS以上である場合(S106:Yes)、処理がS107に進む。一方、現在劣化率α(n)と現在摩耗率γ(n)との差の絶対値が所定値ΔSよりも小さい場合(S106:No)、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0112】
S107では、制御装置60は、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)が点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)よりも大きいか否かを判断する。現在劣化率α(n)が現在摩耗率γ(n)よりも大きい場合(S107:Yes)、処理がS108に進む。一方、現在劣化率α(n)が現在摩耗率γ(n)以下の場合(S107:No)、処理がS109に進む。
【0113】
S108では、制御装置60は、点火時期遅角指令を出力する。これにより、点火プラグ126の点火時期tpが所定の角度だけ遅角するように点火時期tpが制御される。その後、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0114】
S109では、制御装置60は、点火時期進角指令を出力する。これにより、点火プラグ126の点火時期tpが所定の角度だけ進角するように点火時期tpが制御される。その後、制御装置60はこのルーチンを終了する。
【0115】
制御装置60が
図4に示すメンテナンス制御処理を実行することにより、S108にて点火時期遅角指令が出力される。これにより点火プラグ126の点火時期tpが遅角される。ここで、処理がS108に進む場合は、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)と点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)との差の絶対値が所定値ΔS以上であり(S106:Yes)、且つ、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)が点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)よりも大きい(S107:Yes)場合である。つまり、エンジンオイル82の劣化の進行の度合いが点火プラグ126の摩耗の進行の度合いよりも著しく(ΔS以上)大きい場合に、点火プラグ126の点火時期tpが遅角される。
【0116】
点火プラグ126の点火時期tpが遅角された場合、点火プラグ126の摩耗の進行は促進される。一方、点火プラグ126の点火時期tpが遅角された場合、排気ガス中のNOx濃度が低下するために、エンジンオイル82の劣化の進行は抑制される。従って、S108の処理により、劣化の進行の度合いが大きいエンジンオイル82の劣化の進行が抑制される。これにより、
図9のメンテナンス時間設定処理のS602にて演算される個別メンテナンス時間tαを延ばすことができる。
【0117】
図11は、エンジンオイル82の劣化率とエンジン駆動式空気調和装置1の累積運転時間との関係を示すグラフであり、縦軸がエンジンオイル82の劣化率、横軸がエンジン駆動式空気調和装置1の累積運転時間である。
図11において、累積運転時間がta0であるときに演算されたエンジンオイル82の現在劣化率をα(0)とする。この場合、
図11のグラフの原点と座標点(ta0,α(0))とを通過する直線La0を描くことができる。この直線La0に従ってエンジンオイル82が劣化していくと仮定した場合、エンジンオイル82の劣化率が所定の上限値(例えば95%)に到達するときにおける累積運転時間はtα0となる。この累積運転時間tα0を、
図9のS602の処理にて演算する個別メンテナンス時間tαに設定することができる。
【0118】
また、累積運転時間がta0であるときに
図4のS108の処理が実行された場合、点火プラグ126の点火時期が遅角されることにより、エンジンオイル82の劣化の進行が抑制される。そのため、累積運転時間がta0よりも後の累積運転時間ta1であるときに演算されるエンジンオイル82の現在劣化率α(1)は、直線La0により表される劣化率よりも低い。従って、
図11のグラフの原点と座標点(ta1,α(1))とを通過する直線La1の勾配は直線La0の勾配よりも小さい。よって、直線La1に従ってエンジンオイル82が劣化していくと仮定した場合、エンジンオイル82の劣化率が所定の上限値(例えば95%)に到達するときにおける累積運転時間tα1は、tα0よりも大きい。この累積運転時間tα1を個別メンテナンス時間tαとして更新することで、メンテナンス時間tαが延ばされる。
【0119】
ここで、
図4のS108の処理が実行される場合は、エンジンオイル82の劣化の進行の度合いが点火プラグ126の摩耗(劣化)の進行の度合いよりも著しく大きい場合である。そのため、個別メンテナンス時間tα、tβ、tγのうち個別メンテナンス時間tαが最も小さい可能性が高い。すなわち個別メンテナンス時間tαが全体メンテナンス時間tmに設定される可能性が高い。そして、全体メンテナンス時間tmに設定される可能性が高い個別メンテナンス時間tαが延ばされる結果、全体メンテナンス時間tmを延ばすことができる。
【0120】
また、制御装置60が
図4に示すメンテナンス制御処理を実行することにより、S109にて点火時期進角指令が出力される。これにより点火プラグ126の点火時期が進角される。ここで、処理がS109に進む場合は、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)と点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)との差の絶対値が所定値ΔS以上(S106:Yes)であり、且つ、点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)がエンジンオイル82の現在劣化率よりも大きい(S107:No)場合である。つまり、点火プラグ126の摩耗(劣化)の進行の度合いがエンジンオイル82の劣化の進行の度合いよりも著しく(ΔS以上)大きい場合に、点火プラグ126の点火時期が進角される。
【0121】
点火プラグ126の点火時期が進角された場合、排気ガス中のNOx濃度は高くなるためエンジンオイル82の劣化の進行は促進される。一方、点火プラグ126の点火時期が進角された場合、点火プラグ126の摩耗(劣化)の進行は抑制される。従って、S109の処理により、摩耗(劣化)の進行の度合いが大きい点火プラグ126の摩耗(劣化)の進行が抑制される。これにより、
図9のメンテナンス時間設定処理のS604にて演算される個別メンテナンス時間tγを延ばすことができる。
【0122】
図12は、点火プラグ126の摩耗率とエンジン駆動式空気調和装置1の累積運転時間との関係を示すグラフであり、縦軸が点火プラグ126の摩耗率、横軸がエンジン駆動式空気調和装置1の累積運転時間である。
図12において、累積運転時間がtb0であるときに演算された点火プラグ126の現在摩耗率をγ(0)とする。この場合、
図12のグラフの原点と座標点(tb0,γ(0))とを通過する直線Lb0を描くことができる。この直線Lb0に従って点火プラグ126が摩耗していくと仮定した場合、点火プラグ126の摩耗率が所定の上限値(例えば95%)に到達するときにおける累積運転時間はtγ0となる。この累積運転時間tγ0を、
図9のS604の処理にて演算する個別メンテナンス時間tγに設定することができる。
【0123】
また、累積運転時間がtb0であるときに
図4のS109の処理が実行された場合、点火プラグ126の点火時期が進角されることにより、点火プラグ126の摩耗の進行が抑制される。そのため、累積運転時間がtb0よりも後の累積運転時間tb1であるときに演算される点火プラグ126の現在摩耗率γ(1)は、直線Lb0により表される摩耗率よりも低い。従って、
図12のグラフの原点と座標点(tb1,γ(1))とを通過する直線Lb1の勾配は直線Lb0の勾配よりも小さい。そのため、直線Lb1に従って点火プラグ126が摩耗していくと仮定した場合、点火プラグ126の摩耗率が所定の上限値(例えば95%)に到達するときにおける累積運転時間tγ1は、tγ0よりも大きい。この累積運転時間tγ1を個別メンテナンス時間tγとして更新することで、個別メンテナンス時間tγが延ばされる。
【0124】
ここで、
図4のS109の処理が実行される場合は、点火プラグ126の摩耗(劣化)の進行の度合いがエンジンオイル82の劣化の進行の度合いよりも著しく大きい場合である。そのため、個別メンテナンス時間tα、tβ、tγのうち個別メンテナンス時間tγが最も小さい可能性が高い。すなわち個別メンテナンス時間tγが全体メンテナンス時間tmに設定される可能性が高い。そして、全体メンテナンス時間tmに設定される可能性が高い個別メンテナンス時間tγが延ばされる結果、全体メンテナンス時間tmを延ばすことができる。
【0125】
以上のように、本実施形態に係るエンジン駆動式空気調和装置1は、エンジン10と、エンジン10によって駆動される圧縮機11と、圧縮機11の吐出口11bから圧縮機11の吸入口11aへと冷媒を循環させる冷媒経路30と、冷媒経路30に介在する室外熱交換器14及び室内熱交換器22と、を含む冷媒回路100と、を備える。さらに、エンジン駆動式空気調和装置1は、エンジン駆動式空気調和装置1の運転状態を制御するための複数の制御対象(例えば点火プラグ126の点火時期tp、エンジン回転速度NE、冷却水温度Tw等)を制御する制御装置60と、エンジン駆動式空気調和装置1の運転に必要であり且つメンテナンスが必要な部品である複数のメンテナンス部品(例えばエンジンオイル82、点火プラグ126、ドレンフィルタ74等)を備える。
【0126】
制御装置60は、複数の制御対象のうちの所定の制御対象(点火プラグの点火時期tp)が一方向(遅角方向)に変化した場合に劣化の進行が抑制され一方向とは反対の方向である他方向(進角方向)に変化した場合に劣化の進行が促進するメンテナンス部品である第一メンテナンス部品(エンジンオイル82)の劣化率(現在劣化率α(n))を演算し(S101)、所定の制御対象(点火プラグ126の点火時期tp)が一方向(進角方向)に変化した場合に劣化の進行が促進し他方向(遅角方向)に変化した場合に劣化の進行が抑制されるメンテナンス部品である第二メンテナンス部品(点火プラグ126)の劣化率(現在摩耗率γ(n))を演算する(S103)。そして、制御装置60は、第一メンテナンス部品(エンジンオイル82)の劣化率(現在劣化率α(n))と第二メンテナンス部品(点火プラグ126)の劣化率(現在摩耗率γ(n))との差が所定値(ΔS)以上であり(S106:Yes)且つ第一メンテナンス部品(エンジンオイル82)の劣化率(現在劣化率α(n))が第二メンテナンス部品(点火プラグ126)の劣化率(現在摩耗率γ(n))よりも大きい場合(S107:Yes)に所定の制御対象(点火時期tp)が一方向(遅角方向)に変化するように所定の制御対象(点火時期tp)を制御し(S108)、差が所定値(ΔS)以上であり(S106:Yes)且つ第二メンテナンス部品(点火プラグ126)の劣化率(現在摩耗率γ(n))が第一メンテナンス部品(エンジンオイル82)の劣化率(現在劣化率α(n))よりも大きい場合(S107:No)に所定の制御対象(点火時期tp)が他方向(進角方向)に変化するように所定の制御対象(点火時期tp)を制御する(S109)。
【0127】
本実施形態に係るエンジン駆動式空気調和装置1によれば、劣化の進行が進んでいるメンテナンス部品に対して劣化の進行が抑制されるように所定の制御対象(例えば点火プラグ126の点火時期tp)が制御されるので、劣化の進行が進んでいるメンテナンス部品の個別メンテナンス時間を延ばすことができる。その結果、エンジン駆動式空気調和装置1の全体メンテナンス時間tmを延ばすことができる。
【0128】
また、本実施形態において、第一メンテナンス部品はエンジン10を潤滑するためのエンジンオイル82であり、第二メンテナンス部品はエンジン10に備えられる点火プラグ126である。そして、上記所定の制御対象は点火プラグ126の点火時期tpである。
【0129】
この場合、制御装置60は、エンジンオイル82の劣化率(現在劣化率α(n))と点火プラグ126の劣化率(現在摩耗率γ(n))との差が所定値ΔS以上であって(S106:Yes)、エンジンオイル82の劣化率(現在劣化率α(n))が点火プラグ126の劣化率(現在摩耗率γ(n))よりも大きい場合(S107:Yes)に、点火時期tpが遅角するように点火時期tpを制御し(S108)、エンジンオイル82の劣化率(現在劣化率α(n))と点火プラグ126の劣化率(現在摩耗率γ(n))との差が所定値ΔS以上であって(S106:Yes)、点火プラグ126の劣化率(現在摩耗率γ(n))がエンジンオイル82の劣化率(現在劣化率α(n))よりも大きい場合(S107:No)に、点火時期tpが進角するように点火時期tpを制御する(S109)。
【0130】
これによれば、点火プラグ126の点火時期tpに対して劣化の進行の度合いがトレードオフの関係にあるエンジンオイル82及び点火プラグ126に対し、劣化率が大きい部品の劣化の進行が抑制されるように点火時期tpを制御することにより、全体メンテナンス時間tmを延ばすことができる。
【0131】
また、制御装置60は、現時点におけるエンジンオイル82の劣化率(現在劣化率α(n))及び現時点におけるエンジンオイル82の消費率(現在消費率β(n))を演算し(S101、S102)、演算した現時点におけるエンジンオイル82の劣化率(現在劣化率α(n))と現時点におけるエンジンオイル82の消費率(現在消費率(β(n))とに基づいて、エンジンオイル82のメンテナンス条件を決定する(S105)。
【0132】
この場合、制御装置60は、演算した現時点におけるエンジンオイル82の劣化率(現在劣化率(α(n))が所定の閾値劣化率(αth)よりも大きく(S701:Yes)且つ演算した現時点におけるエンジンオイル82の消費率(現在消費率(β(n))が所定の閾値消費率(βth)以下である(S702:No)場合に、エンジンオイル82を全量交換するというメンテナンス方法(メンテナンス方法2)をエンジンオイル82のメンテナンス方法に決定し(S705)、現時点におけるエンジンオイル82の劣化率(現在劣化率(α(n))が所定の閾値劣化率(αth)以下であり(S701:No)且つ現時点におけるエンジンオイル82の消費率(現在消費率(β(n))が所定の閾値消費率(βth)よりも大きい(S703:Yes)場合に、エンジンオイル82を補充するというメンテナンス方法(メンテナンス方法3)をエンジンオイル82のメンテナンス方法に決定し、現時点におけるエンジンオイル82の劣化率(現在劣化率(α(n))が所定の閾値劣化率(αth)よりも大きく(S701:Yes)且つ現時点におけるエンジンオイル82の消費率(現在消費率(β(n))が所定の閾値消費率(βth)よりも大きい(S702:Yes)場合に、エンジンオイル82を補充し且つ強化材を追加するというメンテナンス方法(メンテナンス方法1)をエンジンオイル82のメンテナンス方法に決定する。
【0133】
これによれば、演算したエンジンオイル82の現在劣化率α(n)と現在消費率β(n)とに基づいて、エンジンオイル82のメンテナンス条件(メンテナンス方法)が決定されるので、エンジンオイル82をメンテナンスする際に、最適なメンテナンスを実行することができる。また、エンジンオイル82のメンテナンス時に常にエンジンオイル82を全量交換するのではなく、エンジンオイル82の劣化状態及び消費状態に応じて、エンジンオイル82を必要量だけ補充する或いはエンジンオイル82を必要量だけ補充し強化剤を添加するというメンテナンス方法が選択される。このため常にエンジンオイル82を全量交換する場合と比較して、エンジンオイル82のメンテナンスコストを低減することができる。
【0134】
以上、本開示に係るエンジン駆動式空気調和装置の実施形態について説明したが、本開示によって示される発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、第一メンテナンス部品としてエンジンオイル82を、第二メンテナンス部品として点火プラグ126を例示したが、ある制御対象の変化に対して劣化の進行がトレードオフにある関係を有する対のメンテナンス部品であれば、本開示に係る制御を実行することができる。例えば、ドレンフィルタ74は、エンジン回転速度NEが高いほど劣化の進行が抑制され、エンジン回転速度NEが低いほど劣化の進行が促進するメンテナンス部品である。一方、エンジンオイル82や点火プラグ126は、エンジン回転速度NEが高いほど劣化の進行が促進し、エンジン回転速度NEが低いほど劣化の進行が抑制されるメンテナンス部品である。従って、第一メンテナンス部品をドレンフィルタ74にし、第二メンテナンス部品を点火プラグ126またはエンジンオイル82にすることができる。この場合、制御装置60は、ドレンフィルタ74の劣化の進行の度合いが点火プラグ126の劣化(摩耗)の進行の度合い又はエンジンオイル82の劣化の進行の度合いに比べて著しく進行している場合には、所定の制御対象としてのエンジン回転速度NEが高くなるようにエンジン回転速度NEを制御する。また、制御装置60は、点火プラグ126の劣化(摩耗)の進行の度合い又はエンジンオイル82の劣化の進行の度合いがドレンフィルタ74の劣化の進行の度合いに比べて著しく進行している場合には、エンジン回転速度NEが低くなるようにエンジン回転速度NEを制御する。
【0135】
また、上記実施形態では、全体メンテナンス時間tmが、エンジンオイル82の現在劣化率α(n)に基づく個別メンテナンス時間tαと、エンジンオイル82の現在消費率β(n)に基づく個別メンテナンス時間tβと、点火プラグ126の現在摩耗率γ(n)に基づく個別メンテナンス時間tγのうち最も短い個別メンテナンス時間に設定される例について説明した。しかしながら、全体メンテナンス時間tmは、エンジンオイル82の個別メンテナンス時間、点火プラグ126の個別メンテナンス時間に加えてそれ以外のメンテナンス部品の個別メンテナンス時間のうち最も短い個別メンテナンス時間に設定することもできる。さらに、全体メンテナンス時間tmは、エンジン駆動式空気調和装置1に備えられる全てのメンテナンス部品についての個別メンテナンス時間のうち最も短い個別メンテナンス時間に設定することもできる。このような場合でも、第一メンテナンス部品(エンジンオイル82)の劣化率(現在劣化率α(n))に基づく個別メンテナンス時間tα又は第二メンテナンス部品(点火プラグ126)の劣化率(現在摩耗率γ(n))に基づく個別メンテナンス時間tγが最も短ければ、
図4に示すメンテナンス制御処理によって個別メンテナンス時間tα又は個別メンテナンス時間tβを延ばすことで、全体メンテナンス時間tmを延ばすことができる。
【0136】
また、上記実施形態では、制御装置60が、
図4に示すメンテナンス制御処理を30秒ごとに繰り返し実行する例について説明したが、
図4に示すメンテナンス制御処理は、適宜の間隔で繰り返し実行しても良い。例えば、制御装置60は、5秒間隔程度で
図4に示すメンテナンス制御処理を繰り返し実行しても良いし、5分間隔程度で
図4に示すメンテナンス制御処理を繰り返し実行しても良い。このように、本開示は、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0137】
1…エンジン駆動式空気調和装置、1a…室外機1b…室内機、10…エンジン、11…圧縮機、14…室外熱交換器、22…室内熱交換器、30…冷媒経路、50…冷却水回路、60…制御装置、70…排気熱交換器、74…ドレンフィルタ(メンテナンス部品)、82…エンジンオイル(メンテナンス部品、第一メンテナンス部品)、100…冷媒回路、126…点火プラグ(メンテナンス部品、第二メンテナンス部品)、NE…エンジン回転速度(制御対象)、Nt…エンジン負荷トルク(制御対象)、tm…全体メンテナンス時間、tp…点火時期(制御対象、所定の制御対象)、Tw…冷却水温度(制御対象)、α(n)…現在劣化率(エンジンオイルの劣化率)、β(n)…現在消費率(エンジンオイルの消費率)、γ(n)…現在摩耗率(点火プラグの劣化率)、ΔS…所定値