IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社加藤製缶鉄工所の特許一覧

<>
  • 特開-パストライザ 図1
  • 特開-パストライザ 図2
  • 特開-パストライザ 図3
  • 特開-パストライザ 図4-1
  • 特開-パストライザ 図4-2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171550
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】パストライザ
(51)【国際特許分類】
   B65B 55/02 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
B65B55/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088616
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】595012121
【氏名又は名称】株式会社加藤製缶鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勉
(57)【要約】
【課題】 処理対象物に処理水を散布する通常搬送経路から幾らか低い位置に搬送コンベヤを確実に沈めて浸漬槽を形成する構成を、シンプルな構成の下に、具体的に実機として実現できるようにした新規なパストライザの開発を技術課題とする。
【解決手段】 本発明のパストライザ1は、搬送コンベヤ20により処理対象物Tを移送する際、上方から処理水Wを散水しながら、併せて処理対象物Tの底部を処理水中に浸漬する浸漬経路R1を設け、浸漬経路R1は、散水が行われる通常搬送経路R0よりも低い位置を走行するように構成され、且つ当該浸漬経路R1では、処理水Wに漬かる処理対象物Tと、処理水中を走行する搬送コンベヤ20とを安定沈下状態とする水中安定化構造を具えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を搬送コンベヤによって搬送しながら搬送方向に配設した複数の処理ゾーン毎に所定の処理温度の処理水を、処理対象物の上方に配置したノズル装置から散水し、処理対象物に所定の温度変化を与えるパストライザにおいて、
前記搬送コンベヤには、処理水を散水しながら、併せて処理対象物の底部を処理水中に浸漬する浸漬経路が設けられ、
当該浸漬経路は、散水が行われる通常搬送経路よりも低い位置を走行するように構成され、
且つ当該浸漬経路では、処理水に漬かる処理対象物と、処理水中を走行する搬送コンベヤとを安定沈下状態とする水中安定化構造を具えることを特徴とするパストライザ。

【請求項2】
前記搬送コンベヤは、複数のリンク要素における前後の連結部が、幅方向において交互に重なるように組み付けられ、交互に重なった連結部を幅方向に貫通する回動自在の連結ピンにより接続して成るものであり、
前記水中安定化構造は、当該連結ピンを金属製の素材で形成する構成を含むことを特徴とする請求項1記載のパストライザ。

【請求項3】
前記搬送コンベヤは、通常搬送経路から浸漬経路に至る浸漬導入傾斜路が、進行方向に向かって下り傾斜状態に形成されるとともに、浸漬経路から通常搬送経路に至る浸漬退出傾斜路が、進行方向に向かって上り傾斜状態に形成されるものであり、
更に浸漬導入傾斜路と浸漬経路との間にテンショナーが設けられ、且つ浸漬経路と浸漬退出傾斜路との間にテンショナーが設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方のテンショナーを含んで構成されることを特徴とする請求項1または2記載のパストライザ。

【請求項4】
前記通常搬送経路と浸漬導入傾斜路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
且つ前記浸漬退出傾斜路と通常搬送経路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方の支持部材を含んで構成されることを特徴とする請求項3記載のパストライザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば飲料などを充填・密封した容器を処理対象物とし、このものに加熱殺菌処理を行うパストライザに関するものであって、特に処理水による熱処理効率を向上させるべく、処理水を上方から処理対象物にシャワーリングする散水手法と、処理水を適宜貯留した貯留槽に処理対象物の底部を漬ける浸漬方式とを併用できるようにした新規なパストライザに係るものである。
【背景技術】
【0002】
一般にパストライザは、例えば飲料が充填・密封された缶や容器等を処理対象物とし、これを搬送しながら、その上方から処理ゾーン毎に適宜の温度の処理水を処理対象物に散水して、処理対象物を一定の時間・一定の高温雰囲気に保ち、加熱殺菌処理を行っている。具体的には、まず昇温ゾーンで処理水によって処理対象物を昇温させ、その後、殺菌ゾーンで処理水によって昇温した所定温度を一定時間維持するようにし、更にその後、冷却ゾーンで低温の処理水を散水して、処理対象物を適宜の温度まで冷却している。
【0003】
ところで、このようなパストライザにおいては、処理室内で処理対象物を移送する搬送コンベヤを、散水が行われる通常搬送経路(常高経路)よりも低い位置(高さ)に沈めて処理対象物の底部を処理水に漬け(浸漬させ)、散水と浸漬とにより効率的に殺菌処理するという思想はあった(例えば特許文献1参照)。
ここで、上記特許文献1で搬送コンベヤを通常搬送経路より低い位置に沈めるにあたっては、通常搬送経路から浸漬経路(散水・浸漬併用経路)に移送する際、通常は搬送コンベヤを進行方向に対し下り傾斜状態に構成し、浸漬ゾーンに移行させる構成が採用されている。
しかしながら、このような下り傾斜移送を実施する構成は、観念的には充分に理解できるものの、実際に実機として行う場合には、当然ながら、処理対象物が正立姿勢から傾斜姿勢になるため、下り傾斜移送の際、処理対象物の転倒(完全な倒れ込み)が懸念される。
【0004】
この転倒の原因は、処理対象物を移送している搬送コンベヤ自体が単に斜めになるというだけでなく、処理対象物の底部が、浸漬槽内に貯留された処理水中に漬かると、処理対象物自体に浮力が生じることが要因の一つと考えられる。また搬送コンベヤ自体も処理水中に沈降して走行することになるため、搬送コンベヤ自体も浮力を受け、少なくとも処理水に漬かっている搬送コンベヤ部分には、浮上するような付勢力が作用し、処理対象物の倒れ込み傾向をより助長することになる。
加えて、浸漬ゾーンは浸漬槽ではあるものの、上方からの処理水の散水(噴出)は継続されているから、浸漬槽の処理水表面は当然ながら静水状態(いわゆる静水面)とはならず、波立ち状態または幾らか揺れた状態になり、この波(波力)が搬送コンベヤや、この上に載置された処理対象物を揺らすように作用し(悪影響を及ぼし)、このような波力も処理対象物を転倒させる傾向を増長させるものであった。
そのため、処理対象物の底部を処理水に浸漬させるべく、搬送コンベヤを下り傾斜状態に設けることは、アイデアとしては案出されていても、実機としては実現されていなかった。
【0005】
また、このような下り傾斜移送に伴う処理対象物の倒れ込みを危惧したことから、搬送コンベヤを下方に沈めることなく、浸漬槽を形成するという思想も案出されている(例えば特許文献2参照)。
この特許文献2では、浸漬槽(散水・浸漬併用経路)を構成するにあたり、搬送コンベヤの両側部に堰の作用を担う側壁を立設し、この側壁によって搬送コンベヤ上から周囲に落下する処理水を一時的に食い止め、搬送コンベヤ上に浸漬槽を形成するというものである。
しかしながら、特許文献2では、搬送コンベヤの前後(搬送方向の前後)は、処理対象物を移送するために開口されているため、この前後の開口部から搬送コンベヤ上の処理水が勢い良く流れ落ちてしまう。従って、この特許文献2でも、浸漬・併用経路は、実質的には槽(浸漬槽)として機能せず、実機として実現することはできなかった。すなわち、特許文献2も、アイデアとしては案出されていても、実機として浸漬槽を形成することは極めて困難であった。
【0006】
なお、特許文献2は、特許文献1から十数年後の出願であることを考慮すると、搬送コンベヤを下方に沈めて浸漬槽を形成することが、当業者において極めて困難であることを裏付けるものと言える。もちろん、処理水を散水して処理対象物を熱処理することに加え、更に処理対象物の底部も処理水に浸漬して、散水・浸漬併用で殺菌処理する方が効率良く熱処理が行えることは明らかである。そのため本願発明では、どのようにしたら搬送コンベヤを確実に通常搬送経路よりも低い位置(高さ)に沈めて浸漬槽が実機として構成できるのかを案出したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭54-705号公報
【特許文献2】実開平2-31896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、処理対象物に処理水を散布する通常搬送経路から幾らか低い位置に搬送コンベヤを確実に沈めて浸漬槽を形成する構成を、シンプルな構成の下に、具体的に実機として実現できるようにした新規なパストライザの開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち請求項1記載のパストライザは、
処理対象物を搬送コンベヤによって搬送しながら搬送方向に配設した複数の処理ゾーン毎に所定の処理温度の処理水を、処理対象物の上方に配置したノズル装置から散水し、処理対象物に所定の温度変化を与えるパストライザにおいて、
前記搬送コンベヤには、処理水を散水しながら、併せて処理対象物の底部を処理水中に浸漬する浸漬経路が設けられ、
当該浸漬経路は、散水が行われる通常搬送経路よりも低い位置を走行するように構成され、
且つ当該浸漬経路では、処理水に漬かる処理対象物と、処理水中を走行する搬送コンベヤとを安定沈下状態とする水中安定化構造を具えることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項2記載のパストライザは、前記請求項1記載の要件に加え、
前記搬送コンベヤは、複数のリンク要素における前後の連結部が、幅方向において交互に重なるように組み付けられ、交互に重なった連結部を幅方向に貫通する回動自在の連結ピンにより接続して成るものであり、
前記水中安定化構造は、当該連結ピンを金属製の素材で形成する構成を含むことを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項3記載のパストライザは、前記請求項1または2記載の要件に加え、
前記搬送コンベヤは、通常搬送経路から浸漬経路に至る浸漬導入傾斜路が、進行方向に向かって下り傾斜状態に形成されるとともに、浸漬経路から通常搬送経路に至る浸漬退出傾斜路が、進行方向に向かって上り傾斜状態に形成されるものであり、
更に浸漬導入傾斜路と浸漬経路との間にテンショナーが設けられ、且つ浸漬経路と浸漬退出傾斜路との間にテンショナーが設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方のテンショナーを含んで構成されることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項4記載のパストライザは、前記請求項3記載の要件に加え、
前記通常搬送経路と浸漬導入傾斜路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
且つ前記浸漬退出傾斜路と通常搬送経路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方の支持部材を含んで構成されることを特徴として成るものである。
そして、これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0013】
まず請求項1記載の発明によれば、搬送経路の少なくとも一部に、通常搬送経路より低い位置となる浸漬経路が設けられ、この浸漬経路では、処理対象物に散水が行われることに加え、処理水に漬けた熱伝達も行われる。従って、処理対象物への熱処理は、処理対象物の側面だけでなく、処理水に漬かった底部も伝熱面として利用することができ、極めて効率よく、処理水の熱を処理対象物に伝達することができる。
また、浸漬経路では水中安定化構造を具えるため、例えば処理対象物が、浸漬経路を移送される間に幾らか傾いても、処理対象物が完全に倒れ込んでしまうまでには至らない。すなわち、水中安定化構造によって、搬送コンベヤを確実に処理水中に沈めた状態で走行させることができ、また処理槽において処理対象物の底部を確実に処理水に浸漬させることができるため、浸漬経路による搬送中、処理対象物が幾らか傾いても、完全に倒れ込ませることなく搬送することができる。
【0014】
また請求項2記載の発明によれば、搬送コンベヤを構成する複数のリンク要素が、幅方向において金属製の連結ピンによって接続され、この金属製の連結ピンを水中安定化構造として含むものである。すなわち、この種の連結ピンは、従来、樹脂製素材で形成されるのが一般的であったが、この連結ピンを金属製の素材で形成することにより、搬送コンベヤの重量を増加させ、処理水中を走行する搬送コンベヤを確実に水中に沈降させて走行できるようにしたものである。従って、本発明によれば、極めてシンプルな構成の下に水中安定化構造を実現することができる。
【0015】
また請求項3記載の発明によれば、浸漬導入傾斜路と浸漬経路との間にテンショナーを設け、且つ浸漬経路と浸漬退出傾斜路との間にテンショナーを設けるため、これら双方のテンショナーによって浸漬槽において処理水中を走行する搬送コンベヤを確実に沈降状態で走行させることができ、走行中の例えば浮力による浮き上がりや、水面の波立ちによる揺れなどを抑制することができる。
【0016】
また請求項4記載の発明によれば、浸漬経路の前後に設けられるテンショナーと対を成すように、浸漬導入傾斜路の前部と、浸漬退出傾斜路の後部とに搬送軌道を維持する支持部材が設けられるため、浸漬経路において処理水中を走行する搬送コンベヤの搬送軌道をより積極的に安定化させることができ、浸漬経路における処理対象物の倒れ込みをより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のパストライザを骨格的に示す側面図である。
図2】同上パストライザの全体構成を示す説明図である。
図3】処理対象物を載せて搬送する搬送コンベヤを示す側面図及び平面図(a)、並びにターンスプロケットを示す斜視図(b)である。
図4-1】浸漬アリの殺菌処理と、浸漬ナシの殺菌処理とにおいて品温データを比較して示すグラフである。
図4-2】浸漬アリと浸漬ナシとの比較を示す表(a)、並びに上記図4-1における第3槽を拡大して示すグラフ(b)である。
【0018】
本発明を実施するための形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法をも含むものである。
【0019】
本発明のパストライザ1は、処理対象物Tを載せて搬送する搬送装置2の少なくとも一部を、処理水Wが散水される通常の搬送経路(これを通常搬送経路または常高経路としR0の符号を付す)よりも低い位置に形成し(ここを浸漬経路R1とする)、この浸漬経路R1において浸漬槽33に貯留された処理水Wに、処理対象物Tの底部を漬けるようにしたものである。このため浸漬経路R1を通過する処理対象物Tは、上方から散水される処理水Wと、底部に漬かった処理水Wとによる熱処理、つまり散水と浸漬とによる双方の熱処理を受けるものである。また、そのため本発明のパストライザは、散水・浸漬併用のパストライザとも称されることがある。
以下、本発明のパストライザ1について説明するが、まずパストライザ1の一般的な基本構成から説明する。
【0020】
パストライザ1は、上述したように例えば飲料を充填・密封した缶やペットボトル等を処理対象物Tとし、このものに加熱処理ないしは冷却処理を施して、飲料の殺菌等の安定化処理を行う設備装置である。このパストライザ1は、幅1.0~2.3m、長さ数m~十数m程度の工場設備であり、一例として図1図2に示すように、大別してペットボトル等の処理対象物Tを搬送する搬送系の装置と、処理媒体となる処理水Wの供給系装置とを具え、処理水Wの供給系装置は、搬送系の装置(搬送経路)を上下から挟むように設けられている。
すなわち、パストライザ1は、処理水Wの供給系装置を構成するノズル装置3を、搬送系の装置を構成する搬送装置2の上方に配置するとともに、処理対象物Tに向けて噴出させた処理水Wを貯留・回収する処理水タンク4を、搬送装置2の下方に具えて成るものである。ここでノズル装置3に供給される処理水Wは、処理水タンク4に貯留された処理水Wが循環利用される。
なお、処理対象物Tとしては、上述した缶やペットボトルの他、ビンや紙パックなども適用し得る。また、充填物としても、必ずしも飲料に限定されるものではなく、調味料やスープ類(液状食品)などを充填する場合がある。
以下、搬送装置2、ノズル装置3、処理水タンク4について説明する。
【0021】
搬送装置2は、容器等の処理対象物Tを安定的に微速(例えば1分間に250mm~1000mm)で搬送すべく、平滑な搬送面を有する搬送コンベヤ20を具えるものである。
搬送コンベヤ20は、一例として図3に示すように、処理水Wの流下が許容できるように、例えば樹脂製のリンク要素21を巻回状に組み合わせて構成され、全体として無端軌道を描くベルト状に形成される(いわゆるチェーン状)。
もちろん、搬送コンベヤ20は、上記のように適宜の幅寸法を有するように形成されるから、一例として上記図3(a)に示すように、リンク要素21の前後(搬送方向における前後)の連結部21aが、幅方向において交互に重なるように組み付けられ、重なった連結部21a同士を幅方向に貫通する回動自在の連結ピン22で接続して、全体的に通水可能なネットコンベヤ状に構成される。
また、搬送装置2は、装置架台に対して支持されるとともに、搬送方向上流側にターンスプロケット23を具えるとともに、下流側に駆動スプロケット24を具える。なお、ターンスプロケット23と駆動スプロケット24とは、搬送コンベヤ20の幅寸法に応じて、複数設けられており、側面から視て同じ幅方向位置に並ぶリンク要素21が同期して走行するように構成されている(図3(b)参照)。
【0022】
処理対象物Tは、搬送装置2による搬送を受けながら、その搬送位置に応じて受ける実質的な処理、つまりパストライザ1によって処理対象物Tが受ける処理温度が異なるものであり、以下、これについて説明する。
パストライザ1は、一例として上記図2に示すように、処理対象物Tの搬送方向に見て、直列状に三つの処理ゾーンに区画されて成り、これを搬送方向上流側から昇温ゾーンZ1、殺菌ゾーンZ2、冷却ゾーンZ3とする。
以下、各処理ゾーンについて説明する。
【0023】
昇温ゾーンZ1は、処理対象物Tの温度(製品温度)を、例えば常温状態から目的の殺菌温度まで徐々に上昇させて行く処理ゾーンであり、ここでは更に三つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から第一予備加熱区間Z11、第二予備加熱区間Z12、加熱区間Z13とする。なお、区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4とが設けられており、これらを区別して示す場合には、第一予備加熱区間Z11のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3A」、「4A」とする。また、第二予備加熱区間Z12のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3B」、「4B」とする。また、加熱区間Z13のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3C」、「4C」とする。
【0024】
殺菌ゾーンZ2は、昇温ゾーンZ1において目的の殺菌温度まで上昇させた処理対象物Tを、適宜の時間、当該温度に維持して、実質的な殺菌を行う処理ゾーンであり、ここでは二つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から第一殺菌区間Z21、第二殺菌区間Z22とする。ここでも区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4が設けられており、これらを区別して示す場合には、第一殺菌区間Z21のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3D」、「4D」とする。また、第二殺菌区間Z22のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3E」、「4E」とする。
なお、図中符号「(・・・)Z2n」で示した区間は、殺菌ゾーンZ2のn番目の区間である「第n殺菌区間」を示しており、これは殺菌ゾーンZ2を三つ以上の複数区間で構成し得ることを示している。
【0025】
冷却ゾーンZ3は、実質的な殺菌を終えた処理対象物Tを、常温程度まで徐々に冷まして行く処理ゾーンであり、ここでは三つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から、第一徐冷区間Z31、第二徐冷区間Z32、冷却区間Z33とする。ここでも区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4が設けられており、これらを区別して示す場合には、第一徐冷区間Z31のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3F」、「4F」とする。また、第二徐冷区間Z32のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3G」、「4G」とする。また、冷却区間Z33のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3H」、「4H」とする。
【0026】
各区間における処理水Wの作用温度は、一例として図中に示した通りであり、各ノズル装置3A~3Hの上方に示した数値が、各ノズル装置3A~3Hからスプレーされる処理水Wの温度の一例である。
なお、昇温ゾーンZ1及び殺菌ゾーンZ2においては、各ノズル装置3A~3Eから放出された処理水Wは、各処理水タンク4A~4Eに貯留・回収される時点では、処理対象物Tを加熱した分、数度低下し、各処理水タンク4A~4Eの上方に示した数値のようになるが、この数値はあくまでも一例である。
また、冷却ゾーンZ3においては、各ノズル装置3F~3Hから放出された処理水Wは、各処理水タンク4F~4Hに貯留・回収される時点では、処理対象物Tから熱を奪った分、数度上昇し、各処理水タンク4F~4Hの上方に示した数値のようになるが、この数値もあくまでも一例である。
【0027】
また、処理対象物Tは、このような区間を通過することに伴い、温度が刻々と変化するものであり、以下、この製品温度の変化の一例について説明しておく。
処理対象物Tは、例えば図2に併せ示すように、第一予備加熱区間Z11の搬送装置2の入口付近で5℃、第一予備加熱区間Z11の搬送終端部及び第二予備加熱区間Z12の搬送開始部で20℃、第二予備加熱区間Z12の搬送終端部及び加熱区間Z13の搬送開始部で35℃となる。
また、加熱区間Z13の搬送終端部で65℃となり、殺菌ゾーンZ2の搬送中、すなわち第一殺菌区間Z21、第二殺菌区間Z22の搬送中は、この65℃の温度で維持される。なお、加熱区間Z13では、処理対象物Tの温度を65℃とするために、これよりも高温である72℃の処理水Wを吹き付けるようにしている。
そして、処理対象物Tは、冷却ゾーンZ3の搬送中に製品温度が下げられるものであり、例えば第一徐冷区間Z31の入口で65℃、第一徐冷区間Z31の搬送終端部及び第二徐冷区間Z32の搬送開始部で56℃、第二徐冷区間Z32の搬送終端部及び冷却区間Z33の搬送開始部で44℃となり、冷却区間Z33の搬送終端部つまり搬送装置2の出口付近で38℃となる。
【0028】
なお、パストライザ1(搬送装置2)の各処理ゾーンを構成する区間の数は、適宜、増減させることが可能である。具体的には、処理対象物Tのサイズや性状、あるいは殺菌温度・殺菌時間等によって適宜増減し得るものであり、例えば昇温ゾーンZ1を一つの予備加熱区間と加熱区間との二区間で構成することが考えられるし、あるいは殺菌ゾーンZ2を三つの殺菌区間で構成すること等も考えられる。
【0029】
次に、ノズル装置3について説明する。
ノズル装置3は、処理水タンク4からポンプPで汲み上げた処理水Wを、処理対象物Tにスプレー状に吹き付けるものであり、一例として上記図2に骨格的に示すように、全体として各区間において、搬送方向に視て数本から十数本程度のノズルパイプ31を、それぞれ搬送方向を横切るように垂下状態に配置して成る。
なお、このノズルパイプ31についても、区間ごとに区別する場合には、末尾符号A~Hを付して区別する。
【0030】
次に、処理水タンク4について説明する。
処理水タンク4は、各ノズル装置3A~3Hから放出された処理水Wを、搬送装置2の下方で受けて、貯留・回収するタンクであり、上述したように各区間にそれぞれ配置される。なお、各処理水タンク4に貯留・回収された処理水Wは、ポンプPで汲み上げられ、その温度に適した処理水Wとして各ノズル装置3に供給される(いわゆる循環利用)。
【0031】
また、このような循環利用にあたり、各処理水タンク4A~4Hに貯留・回収された処理水Wが、目的の温度よりも低いまたは高いことがあり得る。このため各処理水タンク4A~4Hには、貯留した処理水Wを目的の温度に加熱するための加温装置5と、目的の温度に低下させるための冷却装置6とが設けられる。なお、これら加温装置5と冷却装置6とを処理水タンク4A~4Hごとに区別する場合には、末尾符号A~Hを付して区別する。
【0032】
このような加温装置5(5A~5H)としては、例えば図示を省略するボイラーから供給される蒸気Sを、各処理水タンク4A~4H内に吹き込むことによって加温を図る手法が挙げられる。この場合、一例として前記処理水タンク4A~4H内に、蒸気Sの吹き出し用の諸装置を配置して、蒸気Sの熱により処理水Wの加温を図る。
【0033】
一方、各処理水タンク4A~4Hに貯留された処理水Wを冷却する冷却装置6(6A~6H)としては、各処理水タンク4A~4Hに、図示を省略する冷却水源からの配管を接続する手法が挙げられる。この場合、処理水Wの温度を下げるには、例えば当該配管中に設けたポンプ(図示略)を稼働させて、冷却水源から冷却水を処理水タンク4に導入し、適宜の温度に調整する。なお、冷却水としては、例えば水道水(上水)が挙げられる。
【0034】
次に、上述した処理水タンク4からノズル装置3に処理水Wを供給する経路について説明する。各処理水タンク4A~4Hに貯留された処理水Wは、上述したように、その温度に応じてスプレーすべきノズル装置3の区間を選択してスプレーするように構成されており、これは言わば処理水Wを循環使用する形態である。
具体的には、本実施例では昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wが、約33℃となり、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32のノズルパイプ31Gに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。一方、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wが、約35℃となり、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11のノズルパイプ31Aに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。なお、このような異なる区間同士、つまり昇温ゾーンZ1の第一予備加熱区間Z11と、冷却ゾーンZ3の第二徐冷区間Z32との間で、処理水Wを循環利用する形態を相互循環と称する。
【0035】
また、本実施例では別の相互循環も構成されている。具体的には、昇温ゾーンZ1の第二予備加熱区間Z12と、冷却ゾーンZ3の第一徐冷区間Z31との相互循環である。より詳細には、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wが、約48℃となり、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31のノズルパイプ31Fに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。一方、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留された処理水Wが、約50℃となり、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12のノズルパイプ31Bに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。
なお、相互循環における各区間の組み合わせは変更することもあり得、例えば昇温ゾーンZ1が、一つの予備加熱区間(第一予備加熱区間Z11)と、加熱区間Z13との二区間で構成された場合などが想定される。
【0036】
また、本実施例では、回収した処理水Wを同一区間内のノズル装置3に戻すように移送する循環利用も行っており、これを自己循環と称し、上記相互循環と区別している。
自己循環は、昇温ゾーンZ1の加熱区間Z13、殺菌ゾーンZ2の第一殺菌区間Z21及び第二殺菌区間Z22、冷却ゾーンZ3の冷却区間Z33について実施されている。すなわち、これらの区間では、同じ区間内の処理水タンク4(4C・4D・4E・4H)に貯留された処理水Wを、同区間内のノズルパイプ31(31C・31D・31E・31H)に戻し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けるようにしている。
なお、相互循環及び自己循環ともに、処理水タンク4から処理水Wを汲み上げる作用は、循環回路中に組み込まれたポンプPが担うものである。
【0037】
以下、本発明の特徴的構成である浸漬経路R1について説明する。
本実施例では、一例として図1図2に示すように、搬送経路の少なくとも一部を、散水が行われる通常搬送経路R0に対し、幾らか低い位置を走行するように形成し、ここで処理対象物Tの底部を処理水中に漬けるものである。なお、この経路を浸漬経路R1とするものであり、この浸漬経路R1では、上記のように搬送コンベヤ20が、浸漬槽33内に貯留された処理水中を走行するように形成される。そのため処理対象物Tが浸漬経路R1を通過する際には、処理対象物Tは上方から処理水Wが散水されることに加え、底部が浸漬槽33に貯留された処理水Wに漬かりながら搬送される。
また、このため本発明では、処理水中に漬かる処理対象物Tと搬送コンベヤ20とを処理水中に安定して沈下させた状態(これを安定沈下状態と称している)とする水中安定化構造を具える。
なお、浸漬経路R1の前後は、ともに傾斜状態に形成されるものであり、通常搬送経路R0から浸漬経路R1に至る傾斜経路を浸漬導入傾斜路R11とし、浸漬経路R1から通常搬送経路R0に至る傾斜経路を浸漬退出傾斜路R12とする。因みに、これら傾斜経路を通過する際には、処理対象物Tも傾斜面に応じて幾らか傾いた姿勢で搬送される。
【0038】
以下、前記水中安定化構造について更に説明する。
水中安定化構造は、処理水中に沈み込んで走行する搬送コンベヤ20と、底部が処理水Wに浸漬する処理対象物Tとを、安定沈下状態に維持する構造であり、端的にはこれらが処理水中に漬かるために生じる浮力や揺れ(あばれ)を抑制し、処理対象物Tの完全な倒れ込みを防止する構造を指す。換言すれば、水中安定化構造によって、処理水中を走行する搬送コンベヤ20と、処理水中に底部が沈む処理対象物Tとが、処理水Wの浮力や水面の波立ち(波力)を受けても、浮かび上がることなく、また揺れ動いてしまう(あばれる)ことなく、処理対象物Tを安定して水中搬送できるようにしたものである。
【0039】
次に、本発明において水中安定化構造を構成する各要素について更に具体的に説明する。
水中安定化構造を構成する一構成要素として、搬送コンベヤ20における構成部材の重量を増加させ、水中走行する搬送コンベヤ20の浮力を抑制する構成が挙げられる(構成部材の重量増加)。
ここで従来の搬送コンベヤ20は、構成部材であるリンク要素21や連結ピン22が樹脂製素材(プラスチック素材)で形成されるのが一般的であった。しかしながら、本実施例では、多数のリンク要素21を幅方向に接続する連結ピン22をステンレス等の金属製部材で形成し、搬送コンベヤ20の重量を増加させるようにしたものである。
これにより搬送コンベヤ20が浸漬槽33内で受ける浮力を抑制することができる。すなわち搬送コンベヤ20が、浸漬槽33に貯留した処理水中に沈んで行った際、処理水Wによる浮力を受けるが、この浮力に乱されることなく、また処理水Wの表面に、散水に伴う波立ちがあってもこの波立ち(波力)に耐え、確実に搬送コンベヤ20を処理水中に沈み込ませ、処理水中を走行させることができるものである。そのため、浸漬導入傾斜路R11において、処理対象物Tが幾らか前方(搬送方向進行側)に傾くようになっても、完全に倒れ込むまでには至らないものである。
なお、構成部材の重量を増加させるにあたっては、リンク要素21の一部をステンレス等の金属製部材で形成することも可能であるし、一部のリンク要素21に金属製の付属部材を幅方向に組み付けるようにして、全体的に重量を増加させることも可能である。
【0040】
因みに搬送コンベヤ20の素材が何であっても(例えば樹脂製または金属製であろうが)、搬送コンベヤ20が処理水中を沈降状態で走行する際には、水の抵抗を受け、これは一般的には水中での走行性を低下ないしは不安定化させるように作用する。しかしながら、金属製部材の方が樹脂製部材よりも重量が大きいため、水中走行にあたり水の抵抗を受けても、金属製の方が水中での走行がより安定するものと考えられる。これは同じ水流を受けた場合、軽量物よりも重量物の方が流され難いことと同様である。従って、このような意味合いからすれば、構成部材の重量を増加させるという水中安定化構造により、水の抵抗を抑制する作用も奏すると言える。
【0041】
また、水中安定化構造を構成する他の要素として、処理水中に没する浸漬経路R1、換言すれば浸漬導入傾斜路R11及び浸漬退出傾斜路R12を含む浸漬経路R1の搬送軌道を積極的に維持する構成が挙げられる。具体的には、例えば図1の拡大図に示すように、浸漬導入傾斜路R11と浸漬経路R1との間(屈曲部)にテンショナー34を設け、且つ浸漬経路R1と浸漬退出傾斜路R12との間(屈曲部)にテンショナー34を設けるものである。
更に、上記テンショナー34に加え、上記図1の拡大図に併せ示すように、通常搬送経路R0と浸漬導入傾斜路R11との間(屈曲部)に支持部材35を設け、且つ浸漬退出傾斜路R12と通常搬送経路R0との間(屈曲部)に支持部材35を設けることが好ましい。このように本実施例では、各経路の屈曲部にテンショナー34と支持部材35とを、対を成すように設けるものであり、これにより各経路の搬送軌道を積極的に維持している。すなわち各経路の屈曲部に設けたテンショナー34と支持部材35とにより、通常搬送経路R0から処理水中に没入するように下り傾斜状態に配される浸漬導入傾斜路R11、そしてこれに続く、処理水中を没入状態で走行する浸漬経路R1、更には処理水中から浮上するように上り傾斜状態に配される浸漬退出傾斜路R12を連続して構成する搬送コンベヤ20に適宜の張力を付与し、これらの搬送軌道をより積極的に維持するものである。
【0042】
更に、水中安定化構造を構成する更に他の要素として、浸漬経路R1の前後の傾斜角度、すなわち浸漬導入傾斜路R11及び浸漬退出傾斜路R12の傾斜角度をともに緩やかな角度に抑える構成が挙げられ、具体的には水平面に対し5度以下の傾斜角度が好ましい(図1の拡大図参照)。これは上記傾斜角度が小さいほど、搬送中の処理対象物Tの傾き角度が小さく抑えられ、処理対象物Tを転倒し難くさせるためである。
【0043】
更に、水中安定化構造を構成する更に他の要素として、浸漬経路R1において処理対象物Tの浸漬深度(浸漬比率)を抑える構成が挙げられる。具体的には処理対象物Tの全高さ寸法に対し、浸漬比率を底部から20%、好ましくは15%、より好ましくは13%の深度に抑える構成が挙げられる。これは処理対象物Tの浸漬比率が小さくなれば、処理水Wに漬かる処理対象物Tの浮力も抑制でき、処理対象物Tとしても転倒し難くなるためである。因みに、処理対象物Tが350ミリリットルの飲料缶である場合、全高寸法は約120mmとなり、浸漬深度は15mm程に設定され、このときの浸漬比率は、
15mm/120mm×100=12.5%(<13%)
と算出される。
なお、本実施例では浸漬経路R1(浸漬槽33)を、実質的な殺菌処理ゾーンZ2のみに設けるようにしたが、熱処理の目的等に応じて、搬送経路(搬送コンベヤ20)のほぼ全域にわたって設けるようにしても構わない。
【0044】
本発明のパストライザ1は、以上のような基本構造を有するものであって、以下、このようなパストライザ1を適用して処理対象物Tを加熱殺菌する際の基本的な処理態様について説明する。
処理対象物Tは、一例として図1図2に示すように、搬送装置2(搬送コンベヤ20)の搬送面上に正立姿勢で載置されながら、搬送方向上流の入口側から搬送方向下流の出口側に向けて搬送される。その搬送速度は、例えば250mm/min~1000mm/min程度のほぼ一定の速度であり、この搬送過程で処理対象物Tは、各区間で定められた温度の処理水Wが上方からスプレーされて(吹き付けられて)、目的の処理がなされる。以下、処理ゾーンごとに説明する。
【0045】
(1)昇温ゾーン
処理対象物Tは、まず昇温ゾーンZ1で、殺菌に必要な温度まで徐々に加熱される。具体的には、例えば上記図2に示すように、第一予備加熱区間Z11で所定の時間、35℃の処理水Wによる予備加熱を受ける。次いで第二予備加熱区間Z12で所定の時間、50℃の処理水Wによる予備加熱を受ける。次いで加熱区間Z13で所定の時間、72℃の処理水Wによる加熱を受ける。なお、各区間の処理水タンク4A~4Cに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度よりも数度低下して回収され、例えば処理水タンク4Aでは33~34℃、処理水タンク4Bでは48~49℃、処理水タンク4Cでは70~71℃程度である。因みに、各処理水タンク4A~4Cに貯留された処理水Wの温度は、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5A~5Cによって適宜加温するものであり、処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも高い場合には、冷却装置6A~6Cによって適宜冷却するものであり、各ノズルパイプ31G・31F・31Cには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような昇温ゾーンZ1の搬送中に、処理対象物Tの製品温度は上昇するものであり、例えば第一予備加熱区間Z11の入口付近で5℃、第一予備加熱区間Z11の搬送終端部及び第二予備加熱区間Z12の搬送開始部で20℃、第二予備加熱区間Z12の搬送終端部及び加熱区間Z13の搬送開始部で35℃、加熱区間Z13の搬送終端部で65℃となる。
【0046】
(2)殺菌ゾーン
その後、処理対象物Tは、殺菌ゾーンZ2に搬送され、ここで適宜の時間・適宜の高温状態で保持され、所望の殺菌が実質的に施される。具体的には、第一殺菌区間Z21で所定の時間、65℃の処理水Wによる殺菌を受ける。次いで第二殺菌区間Z22で所定の時間、65℃の処理水Wによる殺菌を受ける。なお、殺菌ゾーンZ2における両区間の処理水タンク4D・4Eに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度より数度低下するものであり、例えばいずれの処理水タンク4D・4Eにおいても63~64℃程度となる。もちろん、ここでも各処理水タンク4D・4Eに貯留された処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5D・5Eによって適宜加温するものであり、各ノズルパイプ31D・31Eには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような殺菌ゾーンZ2の搬送中、具体的には第一殺菌区間Z21の搬送開始部から第二殺菌区間Z22の搬送終端部に至るまで、処理対象物Tは、製品温度が65℃に維持され、実質的な殺菌が施される。
【0047】
ここで本実施例では、上述したように処理対象物Tは、当該殺菌ゾーンZ2を通過する間、底部が浸漬槽33に漬かるように搬送され、結果、散水による熱処理(殺菌処理)のみならず、浸漬による熱処理も併せて施される。
これは処理対象物Tに施す熱処理を効率的に行うためである。すなわち、散水のみによる熱処理では、処理対象物Tにおいて底部を除く表面(主に側面)が伝熱面となる。つまり、散水では主に処理対象物Tの側面が伝熱面となって、ここに触れながら流れ落ちる処理水Wによって処理対象物Tの熱処理が行われる。
これに対し、散水・浸漬併用では、処理対象物Tの側面に、散水された処理水Wが触れることに加え、浸漬経路R1において処理水Wに漬かった処理対象物Tの底部からも処理水Wの熱が伝わるため、効率よく処理対象物Tに熱を伝えることができる。
【0048】
以下、散水・浸漬併用による熱処理(熱伝達)が良好であることを図4-1・図4-2に基づいて示す。
図4-1・図4-2は、飲料が充填された350ミリリットル缶を処理対象物Tとしたものであり、図中「浸漬アリ」が散水・浸漬併用による殺菌処理、図中「浸漬ナシ」が散水のみによる殺菌処理を示している。データとして示した温度は、飲料缶内の温度を測定した結果である。因みに、温度の測定は、安立計器株式会社 DATA COLLECTOR AM-7002 TYPE Kを用いて行った。
【0049】
また、処理対象物Tたる飲料缶は、第1槽から第7槽(第8槽)を通過する間に、一連の熱処理が行われ、実質的な殺菌処理は、第4槽と第5槽で実施され、ここが上記図2の殺菌ゾーンZ2に該当する。そして、これら第4槽及び第5槽の両区間において、飲料缶を65℃(これが殺菌温度)で10分保持する設定で、実質的な殺菌処理を行うものである。なお、処理対象物Tの浸漬は、ほぼ全ての処理区間、具体的には第1槽~第7槽で行われている。
また、飲料缶が第1槽に入る際の入口温度は6℃であり、一連の熱処理を終えて第7槽から出てくる(第8槽に入る)際の出口温度は40℃である。
【0050】
図4-1・図4-2中に示す品温(処理対象物T)のデータは、太い実線が浸漬アリ(散水・浸漬併用)を示しており、細い実線が浸漬ナシ(散水単独)を示している。
そして、このデータから浸漬アリの方が、殺菌温度到達時間つまり品温が65℃に達するまでのトータルの時間が短いことが確認でき、具体的には図4-2(a)に示すように、7分30秒-7分5秒=25秒の短縮であった。
また浸漬アリの方が、長い時間、殺菌温度である65℃を維持できることが確認でき、具体的には
12分50秒-11分25秒=1分25秒、長く維持することができた。
更に浸漬アリの方が、最高到達温度も高いことが分かり、具体的には
70.9℃-70.3℃=0.6℃高いものであった。ここで浸漬ナシの最高到達温度は、上記のように70.3℃であり、この温度に達する時間も浸漬アリの方が35秒早かった。具体的には図4-2(b)に示すように、
9分45秒-9分10秒=35秒の短縮であった。
更に、浸漬アリの方が、出口温度に到達するトータルの時間も短いことが確認でき、具体的には
24分45秒-24分35秒=10秒の短縮であった。
なお、図4-1・図4-2と図2とは、どちらも殺菌処理であるため、全体的な品温の温度推移としては同様の経過を辿るものであるが、処理対象物Tや条件が必ずしも同一ではないため、例えば槽内の温度等において、必ずしも一致しない点が存在する。
【0051】
(3)冷却ゾーン
その後、処理対象物Tは、一例として上記図2に示すように、冷却ゾーンZ3に搬送され、ここで殺菌直後の高温状態が、徐々に冷却されて行く。具体的には第一徐冷区間Z31で所定の時間、48℃の処理水Wによる徐冷を受ける。次いで第二徐冷区間Z32で所定の時間、33℃の処理水Wによる徐冷を受ける。次いで冷却区間Z33で所定の時間、28℃の処理水Wによる冷却を受ける。なお、各区間の処理水タンク4F~4Hに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度よりも数度上昇し、例えば処理水タンク4Fでは49~50℃、処理水タンク4Gでは34~35℃、処理水タンク4Hでは29~30℃程度となる。もちろん、ここでも各処理水タンク4F~4Hに貯留された処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5F~5Hによって適宜加温するものであり、次のスプレーに供する温度よりも高い場合には、冷却装置6F~6Hによって適宜冷却するものであり、各ノズルパイプ31B・31A・31Hには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような冷却ゾーンZ3の搬送中に、処理対象物Tは、製品温度が徐々に下降して行くものであり、例えば第一徐冷区間Z31の搬送開始部で65℃、第一徐冷区間Z31の搬送終端部及び第二徐冷区間Z32の搬送開始部で56℃、第二徐冷区間Z32の搬送終端部及び冷却区間Z33の搬送開始部で44℃となり、冷却区間Z33の搬送終端部つまり出口付近で38℃まで冷却される。
【0052】
本実施例では、上述したように昇温ゾーンZ1と冷却ゾーンZ3との間で処理水Wを相互循環させている。具体的には、まず一つ目の相互循環として、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wを、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32のノズルパイプ31Gに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。一方、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wを、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11のノズルパイプ31Aに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。
また、二つ目の相互循環として、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wを、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31のノズルパイプ31Fに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。一方、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留した処理水Wを、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12のノズルパイプ31Bに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。
【0053】
このような相互循環を行うのは、第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wの温度が、第二徐冷区間Z32で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、また第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wの温度が、第一予備加熱区間Z11で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、処理水Wの温度として、互いに適しているためである。
また、第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wの温度は、第一徐冷区間Z31で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、また第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留された処理水Wの温度は、第二予備加熱区間Z12で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、処理水Wの温度として、互いに適しているため、上記のような二組の相互循環が構成されている。
そして、このような相互循環を図ることにより、加温装置5によって行われる蒸気Sによる加熱や、冷却装置6によって行われる上水等による冷却を行って、処理水Wの温度を調整する場合でも、使用するエネルギーを節約することができる。なお、このような処理水Wの相互循環利用を交流と称することもある。
【0054】
〔他の実施例〕
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
まず上述した基本の実施例、特に図2に示す実施例では、殺菌ゾーンZ2のみに浸漬槽33を設ける構成例を示したが、浸漬槽33は冷却ゾーンZ3に設けることもできる。この場合、冷却ゾーンZ3の上方から処理水Wのシャワーリングが施され、下方の浸漬槽33では処理対象物Tの下部が処理水Wに漬かるため、処理対象物Tを効率的に冷却することができる。因みに図2に示す冷却ゾーンZ3、とりわけ第一徐冷区間Z31~第二徐冷区間Z32に、浸漬槽33を設ける際には、第一徐冷区間Z31と第二徐冷区間Z32とでは、処理水Wの温度差が比較的大きいことから、各区間ごとに別々の浸漬槽33を設ける構成や、どちらか一方の区間に浸漬槽33を設ける構成が採り得る。
【0055】
また、先に述べた基本の実施例では、昇温ゾーンZ1及び冷却ゾーンZ3を、ともに三つの区間で形成したが、本発明は、必ずしもこれに限定されるものではない。具体的には、例えば昇温ゾーンZ1及び冷却ゾーンZ3を四つ以上の区間で形成することも可能であるし、あるいは昇温ゾーンZ1を二つの区間で形成することも可能である。また、上述した基本の実施例では、相互循環を二組形成したが、特に上記区間数などに応じて、相互循環は一組だけ設けるようにしても構わない。
【0056】
また、先に述べた基本の実施例では、処理対象物Tを搬送する搬送コンベヤ20(搬送装置2)として、浸漬槽33の処理水中に没入させた際、浮力が生じる樹脂製のコンベヤ(ネットコンベヤ)を適用し、これを浸漬経路R1において安定沈下状態とする水中安定化構造について説明した。しかしながら、搬送コンベヤ20としては、円形断面のロッド本体を多数、搬送方向に並設状態で配設した回転ロッドコンベヤを適用することも可能であり、この場合、多数本のロッド本体の全てまたは一部をステンレス素材等の金属素材で構成し、水中安定化構造とすることも、もとより可能である。因みに、上記回転ロッドコンベヤについては、本出願人が既に特許取得に及んでいる特許第7082382号、特許第7164120号に詳細に記載されており、この記載を援用する。
【符号の説明】
【0057】
1 パストライザ
2 搬送装置
3 ノズル装置
4 処理水タンク
5 加温装置
6 冷却装置

20 搬送コンベヤ
21 リンク要素
21a 連結部
22 連結ピン
23 ターンスプロケット
24 駆動スプロケット

3A ノズル装置(第一予備加熱区間)
3B ノズル装置(第二予備加熱区間)
3C ノズル装置(加熱区間)
3D ノズル装置(第一殺菌区間)
3E ノズル装置(第二殺菌区間)
3F ノズル装置(第一徐冷区間)
3G ノズル装置(第二徐冷区間)
3H ノズル装置(冷却区間)

4A 処理水タンク(第一予備加熱区間)
4B 処理水タンク(第二予備加熱区間)
4C 処理水タンク(加熱区間)
4D 処理水タンク(第一殺菌区間)
4E 処理水タンク(第二殺菌区間)
4F 処理水タンク(第一徐冷区間)
4G 処理水タンク(第二徐冷区間)
4H 処理水タンク(冷却区間)

5A 加温装置(第一予備加熱区間)
5B 加温装置(第二予備加熱区間)
5C 加温装置(加熱区間)
5D 加温装置(第一殺菌区間)
5E 加温装置(第二殺菌区間)
5F 加温装置(第一徐冷区間)
5G 加温装置(第二徐冷区間)
5H 加温装置(冷却区間)

31 ノズルパイプ
31A ノズルパイプ(第一予備加熱区間)
31B ノズルパイプ(第二予備加熱区間)
31C ノズルパイプ(加熱区間)
31D ノズルパイプ(第一殺菌区間)
31E ノズルパイプ(第二殺菌区間)
31F ノズルパイプ(第一徐冷区間)
31G ノズルパイプ(第二徐冷区間)
31H ノズルパイプ(冷却区間)
33 浸漬槽
34 テンショナー
35 支持部材

6A 冷却装置(第一予備加熱区間)
6B 冷却装置(第二予備加熱区間)
6C 冷却装置(加熱区間)
6D 冷却装置(第一殺菌区間)
6E 冷却装置(第二殺菌区間)
6F 冷却装置(第一徐冷区間)
6G 冷却装置(第二徐冷区間)
6H 冷却装置(冷却区間)

T 処理対象物
W 処理水
P ポンプ
S 蒸気
R0 通常搬送経路(常高経路)
R1 浸漬経路
R11 浸漬導入傾斜路
R12 浸漬退出傾斜路

Z1 昇温ゾーン
Z11 第一予備加熱区間
Z12 第二予備加熱区間
Z13 加熱区間

Z2 殺菌ゾーン
Z21 第一殺菌区間
Z22 第二殺菌区間
Z2n 第n殺菌区間

Z3 冷却ゾーン
Z31 第一徐冷区間
Z32 第二徐冷区間
Z33 冷却区間
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
【手続補正書】
【提出日】2024-09-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば飲料などを充填・密封した容器を処理対象物とし、このものに加熱殺菌処理を行うパストライザに関するものであって、特に処理水による熱処理効率を向上させるべく、処理水を上方から処理対象物にシャワーリングする散水手法と、処理水を適宜貯留した貯留槽に処理対象物の底部を漬ける浸漬方式とを併用できるようにした新規なパストライザに係るものである。
【背景技術】
【0002】
一般にパストライザは、例えば飲料が充填・密封された缶や容器等を処理対象物とし、これを搬送しながら、その上方から処理ゾーン毎に適宜の温度の処理水を処理対象物に散水して、処理対象物を一定の時間・一定の高温雰囲気に保ち、加熱殺菌処理を行っている。具体的には、まず昇温ゾーンで処理水によって処理対象物を昇温させ、その後、殺菌ゾーンで処理水によって昇温した所定温度を一定時間維持するようにし、更にその後、冷却ゾーンで低温の処理水を散水して、処理対象物を適宜の温度まで冷却している。
【0003】
ところで、このようなパストライザにおいては、処理室内で処理対象物を移送する搬送コンベヤを、散水が行われる通常搬送経路(常高経路)よりも低い位置(高さ)に沈めて処理対象物の底部を処理水に漬け(浸漬させ)、散水と浸漬とにより効率的に殺菌処理するという思想はあった(例えば特許文献1参照)。
ここで、上記特許文献1で搬送コンベヤを通常搬送経路より低い位置に沈めるにあたっては、通常搬送経路から浸漬経路(散水・浸漬併用経路)に移送する際、通常は搬送コンベヤを進行方向に対し下り傾斜状態に構成し、浸漬ゾーンに移行させる構成が採用されている。
しかしながら、このような下り傾斜移送を実施する構成は、観念的には充分に理解できるものの、実際に実機として行う場合には、当然ながら、処理対象物が正立姿勢から傾斜姿勢になるため、下り傾斜移送の際、処理対象物の転倒(完全な倒れ込み)が懸念される。
【0004】
この転倒の原因は、処理対象物を移送している搬送コンベヤ自体が単に斜めになるというだけでなく、処理対象物の底部が、浸漬槽内に貯留された処理水中に漬かると、処理対象物自体に浮力が生じることが要因の一つと考えられる。また搬送コンベヤ自体も処理水中に沈降して走行することになるため、搬送コンベヤ自体も浮力を受け、少なくとも処理水に漬かっている搬送コンベヤ部分には、浮上するような付勢力が作用し、処理対象物の倒れ込み傾向をより助長することになる。
加えて、浸漬ゾーンは浸漬槽ではあるものの、上方からの処理水の散水(噴出)は継続されているから、浸漬槽の処理水表面は当然ながら静水状態(いわゆる静水面)とはならず、波立ち状態または幾らか揺れた状態になり、この波(波力)が搬送コンベヤや、この上に載置された処理対象物を揺らすように作用し(悪影響を及ぼし)、このような波力も処理対象物を転倒させる傾向を増長させるものであった。
そのため、処理対象物の底部を処理水に浸漬させるべく、搬送コンベヤを下り傾斜状態に設けることは、アイデアとしては案出されていても、実機としては実現されていなかった。
【0005】
また、このような下り傾斜移送に伴う処理対象物の倒れ込みを危惧したことから、搬送コンベヤを下方に沈めることなく、浸漬槽を形成するという思想も案出されている(例えば特許文献2参照)。
この特許文献2では、浸漬槽(散水・浸漬併用経路)を構成するにあたり、搬送コンベヤの両側部に堰の作用を担う側壁を立設し、この側壁によって搬送コンベヤ上から周囲に落下する処理水を一時的に食い止め、搬送コンベヤ上に浸漬槽を形成するというものである。
しかしながら、特許文献2では、搬送コンベヤの前後(搬送方向の前後)は、処理対象物を移送するために開口されているため、この前後の開口部から搬送コンベヤ上の処理水が勢い良く流れ落ちてしまう。従って、この特許文献2でも、浸漬・併用経路は、実質的には槽(浸漬槽)として機能せず、実機として実現することはできなかった。すなわち、特許文献2も、アイデアとしては案出されていても、実機として浸漬槽を形成することは極めて困難であった。
【0006】
なお、特許文献2は、特許文献1から十数年後の出願であることを考慮すると、搬送コンベヤを下方に沈めて浸漬槽を形成することが、当業者において極めて困難であることを裏付けるものと言える。もちろん、処理水を散水して処理対象物を熱処理することに加え、更に処理対象物の底部も処理水に浸漬して、散水・浸漬併用で殺菌処理する方が効率良く熱処理が行えることは明らかである。そのため本願発明では、どのようにしたら搬送コンベヤを確実に通常搬送経路よりも低い位置(高さ)に沈めて浸漬槽が実機として構成できるのかを案出したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭54-705号公報
【特許文献2】実開平2-31896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、処理対象物に処理水を散布する通常搬送経路から幾らか低い位置に搬送コンベヤを確実に沈めて浸漬槽を形成する構成を、シンプルな構成の下に、具体的に実機として実現できるようにした新規なパストライザの開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち請求項1記載のパストライザは、
処理対象物を搬送コンベヤによって搬送しながら搬送方向に配設した複数の処理ゾーン毎に所定の処理温度の処理水を、処理対象物の上方に配置したノズル装置から散水し、処理対象物に所定の温度変化を与えるパストライザにおいて、
前記搬送コンベヤには、処理水を散水しながら、併せて処理対象物の底部を処理水中に浸漬する浸漬経路が設けられ、
当該浸漬経路は、散水が行われる通常搬送経路よりも低い位置を走行するように構成され、
且つ当該浸漬経路では、処理水に漬かる処理対象物と、処理水中を走行する搬送コンベヤとを安定沈下状態とする水中安定化構造を具えるものであり、
また前記搬送コンベヤは、複数のリンク要素における前後の連結部が、幅方向において交互に重なるように組み付けられ、交互に重なった連結部を幅方向に貫通する回動自在の連結ピンにより接続されて成り、
前記水中安定化構造は、前記リンク要素を樹脂製の素材で形成し、且つ前記連結ピンを金属製の素材で形成する構成であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項2記載のパストライザは、前記請求項1記載の要件に加え、
前記処理対象物は、浸漬経路における搬送中、底部が処理水中に浸漬しながら、底部以外は、上方から散水される処理水を受け、底部も処理水からの伝熱を受ける伝熱面となることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項3記載のパストライザは、前記請求項1または2記載の要件に加え、
前記搬送コンベヤは、通常搬送経路から浸漬経路に至る浸漬導入傾斜路が、進行方向に向かって下り傾斜状態に形成されるとともに、浸漬経路から通常搬送経路に至る浸漬退出傾斜路が、進行方向に向かって上り傾斜状態に形成されるものであり、
更に浸漬導入傾斜路と浸漬経路との間にテンショナーが設けられ、且つ浸漬経路と浸漬退出傾斜路との間にテンショナーが設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方のテンショナーを含んで構成されることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項4記載のパストライザは、前記請求項3記載の要件に加え、
前記通常搬送経路と浸漬導入傾斜路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
且つ前記浸漬退出傾斜路と通常搬送経路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方の支持部材を含んで構成されることを特徴として成るものである。
そして、これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0013】
まず請求項1または2記載の発明によれば、搬送経路の少なくとも一部に、通常搬送経路より低い位置となる浸漬経路が設けられ、この浸漬経路では、処理対象物に散水が行われることに加え、処理水に漬けた熱伝達も行われる。従って、処理対象物への熱処理は、処理対象物の側面だけでなく、処理水に漬かった底部も伝熱面として利用することができ、極めて効率よく、処理水の熱を処理対象物に伝達することができる。
また、浸漬経路では水中安定化構造を具えるため、例えば処理対象物が、浸漬経路を移送される間に幾らか傾いても、処理対象物が完全に倒れ込んでしまうまでには至らない。すなわち、水中安定化構造によって、搬送コンベヤを確実に処理水中に沈めた状態で走行させることができ、また処理槽において処理対象物の底部を確実に処理水に浸漬させることができるため、浸漬経路による搬送中、処理対象物が幾らか傾いても、完全に倒れ込ませることなく搬送することができる。
また本発明によれば、搬送コンベヤを構成する複数のリンク要素が樹脂製の部材で形成され、且つこのリンク要素を幅方向において接続する連結ピンが金属製の部材で形成され、当該構成を水中安定化構造として含むものである。すなわち、この種の連結ピンは、従来、樹脂製素材で形成されるのが一般的であったが、この連結ピンを金属製の素材で形成することにより、搬送コンベヤの重量を増加させ、処理水中を走行する搬送コンベヤを確実に水中に沈降させて走行できるようにしたものである。従って、本発明によれば、極めてシンプルな構成の下に水中安定化構造を実現することができる。
【0014】
また請求項3記載の発明によれば、浸漬導入傾斜路と浸漬経路との間にテンショナーを設け、且つ浸漬経路と浸漬退出傾斜路との間にテンショナーを設けるため、これら双方のテンショナーによって浸漬槽において処理水中を走行する搬送コンベヤを確実に沈降状態で走行させることができ、走行中の例えば浮力による浮き上がりや、水面の波立ちによる揺れなどを抑制することができる。
【0015】
また請求項4記載の発明によれば、浸漬経路の前後に設けられるテンショナーと対を成すように、浸漬導入傾斜路の前部と、浸漬退出傾斜路の後部とに搬送軌道を維持する支持部材が設けられるため、浸漬経路において処理水中を走行する搬送コンベヤの搬送軌道をより積極的に安定化させることができ、浸漬経路における処理対象物の倒れ込みをより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のパストライザを骨格的に示す側面図である。
図2】同上パストライザの全体構成を示す説明図である。
図3】処理対象物を載せて搬送する搬送コンベヤを示す側面図及び平面図(a)、並びにターンスプロケットを示す斜視図(b)である。
図4-1】浸漬アリの殺菌処理と、浸漬ナシの殺菌処理とにおいて品温データを比較して示すグラフである。
図4-2】浸漬アリと浸漬ナシとの比較を示す表(a)、並びに上記図4-1における第3槽を拡大して示すグラフ(b)である。
【0017】
本発明を実施するための形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法をも含むものである。
【0018】
本発明のパストライザ1は、処理対象物Tを載せて搬送する搬送装置2の少なくとも一部を、処理水Wが散水される通常の搬送経路(これを通常搬送経路または常高経路としR0の符号を付す)よりも低い位置に形成し(ここを浸漬経路R1とする)、この浸漬経路R1において浸漬槽33に貯留された処理水Wに、処理対象物Tの底部を漬けるようにしたものである。このため浸漬経路R1を通過する処理対象物Tは、上方から散水される処理水Wと、底部に漬かった処理水Wとによる熱処理、つまり散水と浸漬とによる双方の熱処理を受けるものである。また、そのため本発明のパストライザは、散水・浸漬併用のパストライザとも称されることがある。
以下、本発明のパストライザ1について説明するが、まずパストライザ1の一般的な基本構成から説明する。
【0019】
パストライザ1は、上述したように例えば飲料を充填・密封した缶やペットボトル等を処理対象物Tとし、このものに加熱処理ないしは冷却処理を施して、飲料の殺菌等の安定化処理を行う設備装置である。このパストライザ1は、幅1.0~2.3m、長さ数m~十数m程度の工場設備であり、一例として図1図2に示すように、大別してペットボトル等の処理対象物Tを搬送する搬送系の装置と、処理媒体となる処理水Wの供給系装置とを具え、処理水Wの供給系装置は、搬送系の装置(搬送経路)を上下から挟むように設けられている。
すなわち、パストライザ1は、処理水Wの供給系装置を構成するノズル装置3を、搬送系の装置を構成する搬送装置2の上方に配置するとともに、処理対象物Tに向けて噴出させた処理水Wを貯留・回収する処理水タンク4を、搬送装置2の下方に具えて成るものである。ここでノズル装置3に供給される処理水Wは、処理水タンク4に貯留された処理水Wが循環利用される。
なお、処理対象物Tとしては、上述した缶やペットボトルの他、ビンや紙パックなども適用し得る。また、充填物としても、必ずしも飲料に限定されるものではなく、調味料やスープ類(液状食品)などを充填する場合がある。
以下、搬送装置2、ノズル装置3、処理水タンク4について説明する。
【0020】
搬送装置2は、容器等の処理対象物Tを安定的に微速(例えば1分間に250mm~1000mm)で搬送すべく、平滑な搬送面を有する搬送コンベヤ20を具えるものである。
搬送コンベヤ20は、一例として図3に示すように、処理水Wの流下が許容できるように、樹脂製のリンク要素21を巻回状に組み合わせて構成され、全体として無端軌道を描くベルト状に形成される(いわゆるチェーン状)。
もちろん、搬送コンベヤ20は、上記のように適宜の幅寸法を有するように形成されるから、一例として上記図3(a)に示すように、リンク要素21の前後(搬送方向における前後)の連結部21aが、幅方向において交互に重なるように組み付けられ、重なった連結部21a同士を幅方向に貫通する回動自在の連結ピン22で接続して、全体的に通水可能なネットコンベヤ状に構成される。
また、搬送装置2は、装置架台に対して支持されるとともに、搬送方向上流側にターンスプロケット23を具えるとともに、下流側に駆動スプロケット24を具える。なお、ターンスプロケット23と駆動スプロケット24とは、搬送コンベヤ20の幅寸法に応じて、複数設けられており、側面から視て同じ幅方向位置に並ぶリンク要素21が同期して走行するように構成されている(図3(b)参照)。
【0021】
処理対象物Tは、搬送装置2による搬送を受けながら、その搬送位置に応じて受ける実質的な処理、つまりパストライザ1によって処理対象物Tが受ける処理温度が異なるものであり、以下、これについて説明する。
パストライザ1は、一例として上記図2に示すように、処理対象物Tの搬送方向に見て、直列状に三つの処理ゾーンに区画されて成り、これを搬送方向上流側から昇温ゾーンZ1、殺菌ゾーンZ2、冷却ゾーンZ3とする。
以下、各処理ゾーンについて説明する。
【0022】
昇温ゾーンZ1は、処理対象物Tの温度(製品温度)を、例えば常温状態から目的の殺菌温度まで徐々に上昇させて行く処理ゾーンであり、ここでは更に三つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から第一予備加熱区間Z11、第二予備加熱区間Z12、加熱区間Z13とする。なお、区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4とが設けられており、これらを区別して示す場合には、第一予備加熱区間Z11のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3A」、「4A」とする。また、第二予備加熱区間Z12のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3B」、「4B」とする。また、加熱区間Z13のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3C」、「4C」とする。
【0023】
殺菌ゾーンZ2は、昇温ゾーンZ1において目的の殺菌温度まで上昇させた処理対象物Tを、適宜の時間、当該温度に維持して、実質的な殺菌を行う処理ゾーンであり、ここでは二つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から第一殺菌区間Z21、第二殺菌区間Z22とする。ここでも区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4が設けられており、これらを区別して示す場合には、第一殺菌区間Z21のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3D」、「4D」とする。また、第二殺菌区間Z22のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3E」、「4E」とする。
なお、図中符号「(・・・)Z2n」で示した区間は、殺菌ゾーンZ2のn番目の区間である「第n殺菌区間」を示しており、これは殺菌ゾーンZ2を三つ以上の複数区間で構成し得ることを示している。
【0024】
冷却ゾーンZ3は、実質的な殺菌を終えた処理対象物Tを、常温程度まで徐々に冷まして行く処理ゾーンであり、ここでは三つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から、第一徐冷区間Z31、第二徐冷区間Z32、冷却区間Z33とする。ここでも区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4が設けられており、これらを区別して示す場合には、第一徐冷区間Z31のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3F」、「4F」とする。また、第二徐冷区間Z32のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3G」、「4G」とする。また、冷却区間Z33のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3H」、「4H」とする。
【0025】
各区間における処理水Wの作用温度は、一例として図中に示した通りであり、各ノズル装置3A~3Hの上方に示した数値が、各ノズル装置3A~3Hからスプレーされる処理水Wの温度の一例である。
なお、昇温ゾーンZ1及び殺菌ゾーンZ2においては、各ノズル装置3A~3Eから放出された処理水Wは、各処理水タンク4A~4Eに貯留・回収される時点では、処理対象物Tを加熱した分、数度低下し、各処理水タンク4A~4Eの上方に示した数値のようになるが、この数値はあくまでも一例である。
また、冷却ゾーンZ3においては、各ノズル装置3F~3Hから放出された処理水Wは、各処理水タンク4F~4Hに貯留・回収される時点では、処理対象物Tから熱を奪った分、数度上昇し、各処理水タンク4F~4Hの上方に示した数値のようになるが、この数値もあくまでも一例である。
【0026】
また、処理対象物Tは、このような区間を通過することに伴い、温度が刻々と変化するものであり、以下、この製品温度の変化の一例について説明しておく。
処理対象物Tは、例えば図2に併せ示すように、第一予備加熱区間Z11の搬送装置2の入口付近で5℃、第一予備加熱区間Z11の搬送終端部及び第二予備加熱区間Z12の搬送開始部で20℃、第二予備加熱区間Z12の搬送終端部及び加熱区間Z13の搬送開始部で35℃となる。
また、加熱区間Z13の搬送終端部で65℃となり、殺菌ゾーンZ2の搬送中、すなわち第一殺菌区間Z21、第二殺菌区間Z22の搬送中は、この65℃の温度で維持される。
なお、加熱区間Z13では、処理対象物Tの温度を65℃とするために、これよりも高温である72℃の処理水Wを吹き付けるようにしている。
そして、処理対象物Tは、冷却ゾーンZ3の搬送中に製品温度が下げられるものであり、例えば第一徐冷区間Z31の入口で65℃、第一徐冷区間Z31の搬送終端部及び第二徐冷区間Z32の搬送開始部で56℃、第二徐冷区間Z32の搬送終端部及び冷却区間Z33の搬送開始部で44℃となり、冷却区間Z33の搬送終端部つまり搬送装置2の出口付近で38℃となる。
【0027】
なお、パストライザ1(搬送装置2)の各処理ゾーンを構成する区間の数は、適宜、増減させることが可能である。具体的には、処理対象物Tのサイズや性状、あるいは殺菌温度・殺菌時間等によって適宜増減し得るものであり、例えば昇温ゾーンZ1を一つの予備加熱区間と加熱区間との二区間で構成することが考えられるし、あるいは殺菌ゾーンZ2を三つの殺菌区間で構成すること等も考えられる。
【0028】
次に、ノズル装置3について説明する。
ノズル装置3は、処理水タンク4からポンプPで汲み上げた処理水Wを、処理対象物Tにスプレー状に吹き付けるものであり、一例として上記図2に骨格的に示すように、全体として各区間において、搬送方向に視て数本から十数本程度のノズルパイプ31を、それぞれ搬送方向を横切るように垂下状態に配置して成る。
なお、このノズルパイプ31についても、区間ごとに区別する場合には、末尾符号A~Hを付して区別する。
【0029】
次に、処理水タンク4について説明する。
処理水タンク4は、各ノズル装置3A~3Hから放出された処理水Wを、搬送装置2の下方で受けて、貯留・回収するタンクであり、上述したように各区間にそれぞれ配置される。なお、各処理水タンク4に貯留・回収された処理水Wは、ポンプPで汲み上げられ、その温度に適した処理水Wとして各ノズル装置3に供給される(いわゆる循環利用)。
【0030】
また、このような循環利用にあたり、各処理水タンク4A~4Hに貯留・回収された処理水Wが、目的の温度よりも低いまたは高いことがあり得る。このため各処理水タンク4A~4Hには、貯留した処理水Wを目的の温度に加熱するための加温装置5と、目的の温度に低下させるための冷却装置6とが設けられる。なお、これら加温装置5と冷却装置6とを処理水タンク4A~4Hごとに区別する場合には、末尾符号A~Hを付して区別する。
【0031】
このような加温装置5(5A~5H)としては、例えば図示を省略するボイラーから供給される蒸気Sを、各処理水タンク4A~4H内に吹き込むことによって加温を図る手法が挙げられる。この場合、一例として前記処理水タンク4A~4H内に、蒸気Sの吹出し用の諸装置を配置して、蒸気Sの熱により処理水Wの加温を図る。
【0032】
一方、各処理水タンク4A~4Hに貯留された処理水Wを冷却する冷却装置6(6A~6H)としては、各処理水タンク4A~4Hに、図示を省略する冷却水源からの配管を接続する手法が挙げられる。この場合、処理水Wの温度を下げるには、例えば当該配管中に設けたポンプ(図示略)を稼働させて、冷却水源から冷却水を処理水タンク4に導入し、適宜の温度に調整する。なお、冷却水としては、例えば水道水(上水)が挙げられる。
【0033】
次に、上述した処理水タンク4からノズル装置3に処理水Wを供給する経路について説明する。各処理水タンク4A~4Hに貯留された処理水Wは、上述したように、その温度に応じてスプレーすべきノズル装置3の区間を選択してスプレーするように構成されており、これは言わば処理水Wを循環使用する形態である。
具体的には、本実施例では昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wが、約33℃となり、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32のノズルパイプ31Gに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。一方、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wが、約35℃となり、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11のノズルパイプ31Aに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。なお、このような異なる区間同士、つまり昇温ゾーンZ1の第一予備加熱区間Z11と、冷却ゾーンZ3の第二徐冷区間Z32との間で、処理水Wを循環利用する形態を相互循環と称する。
【0034】
また、本実施例では別の相互循環も構成されている。具体的には、昇温ゾーンZ1の第二予備加熱区間Z12と、冷却ゾーンZ3の第一徐冷区間Z31との相互循環である。より詳細には、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wが、約48℃となり、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31のノズルパイプ31Fに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。一方、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留された処理水Wが、約50℃となり、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12のノズルパイプ31Bに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。
なお、相互循環における各区間の組み合わせは変更することもあり得、例えば昇温ゾーンZ1が、一つの予備加熱区間(第一予備加熱区間Z11)と、加熱区間Z13との二区間で構成された場合などが想定される。
【0035】
また、本実施例では、回収した処理水Wを同一区間内のノズル装置3に戻すように移送する循環利用も行っており、これを自己循環と称し、上記相互循環と区別している。
自己循環は、昇温ゾーンZ1の加熱区間Z13、殺菌ゾーンZ2の第一殺菌区間Z21及び第二殺菌区間Z22、冷却ゾーンZ3の冷却区間Z33について実施されている。すなわち、これらの区間では、同じ区間内の処理水タンク4(4C・4D・4E・4H)に貯留された処理水Wを、同区間内のノズルパイプ31(31C・31D・31E・31H)に戻し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けるようにしている。
なお、相互循環及び自己循環ともに、処理水タンク4から処理水Wを汲み上げる作用は、循環回路中に組み込まれたポンプPが担うものである。
【0036】
以下、本発明の特徴的構成である浸漬経路R1について説明する。
本実施例では、一例として図1図2に示すように、搬送経路の少なくとも一部を、散水が行われる通常搬送経路R0に対し、幾らか低い位置を走行するように形成し、ここで処理対象物Tの底部を処理水中に漬けるものである。なお、この経路を浸漬経路R1とするものであり、この浸漬経路R1では、上記のように搬送コンベヤ20が、浸漬槽33内に貯留された処理水中を走行するように形成される。そのため処理対象物Tが浸漬経路R1を通過する際には、処理対象物Tは上方から処理水Wが散水されることに加え、底部が浸漬槽33に貯留された処理水Wに漬かりながら搬送される。
また、このため本発明では、処理水中に漬かる処理対象物Tと搬送コンベヤ20とを処理水中に安定して沈下させた状態(これを安定沈下状態と称している)とする水中安定化構造を具える。
なお、浸漬経路R1の前後は、ともに傾斜状態に形成されるものであり、通常搬送経路R0から浸漬経路R1に至る傾斜経路を浸漬導入傾斜路R11とし、浸漬経路R1から通常搬送経路R0に至る傾斜経路を浸漬退出傾斜路R12とする。因みに、これら傾斜経路を通過する際には、処理対象物Tも傾斜面に応じて幾らか傾いた姿勢で搬送される。
【0037】
以下、前記水中安定化構造について更に説明する。
水中安定化構造は、処理水中に沈み込んで走行する搬送コンベヤ20と、底部が処理水Wに浸漬する処理対象物Tとを、安定沈下状態に維持する構造であり、端的にはこれらが処理水中に漬かるために生じる浮力や揺れ(あばれ)を抑制し、処理対象物Tの完全な倒れ込みを防止する構造を指す。換言すれば、水中安定化構造によって、処理水中を走行する搬送コンベヤ20と、処理水中に底部が沈む処理対象物Tとが、処理水Wの浮力や水面の波立ち(波力)を受けても、浮かび上がることなく、また揺れ動いてしまう(あばれる)ことなく、処理対象物Tを安定して水中搬送できるようにしたものである。
【0038】
次に、本発明において水中安定化構造を構成する各要素について更に具体的に説明する。
水中安定化構造を構成する一構成要素として、搬送コンベヤ20における構成部材の重量を増加させ、水中走行する搬送コンベヤ20の浮力を抑制する構成が挙げられる(構成部材の重量増加)。
ここで従来の搬送コンベヤ20は、構成部材であるリンク要素21や連結ピン22が樹脂製素材(プラスチック素材)で形成されるのが一般的であった。しかしながら、本発明では、多数のリンク要素21を幅方向に接続する連結ピン22をステンレス等の金属製部材で形成し、搬送コンベヤ20の重量を増加させるようにしたものである。
これにより搬送コンベヤ20が浸漬槽33内で受ける浮力を抑制することができる。すなわち搬送コンベヤ20が、浸漬槽33に貯留した処理水中に沈んで行った際、処理水Wによる浮力を受けるが、この浮力に乱されることなく、また処理水Wの表面に、散水に伴う波立ちがあってもこの波立ち(波力)に耐え、確実に搬送コンベヤ20を処理水中に沈み込ませ、処理水中を走行させることができるものである。そのため、浸漬導入傾斜路R11において、処理対象物Tが幾らか前方(搬送方向進行側)に傾くようになっても、完全に倒れ込むまでには至らないものである。
【0039】
因みに搬送コンベヤ20の素材が何であっても(例えば樹脂製または金属製であろうが)、搬送コンベヤ20が処理水中を沈降状態で走行する際には、水の抵抗を受け、これは一般的には水中での走行性を低下ないしは不安定化させるように作用する。しかしながら、金属製部材の方が樹脂製部材よりも重量が大きいため、水中走行にあたり水の抵抗を受けても、金属製の方が水中での走行がより安定するものと考えられる。これは同じ水流を受けた場合、軽量物よりも重量物の方が流され難いことと同様である。従って、このような意味合いからすれば、構成部材の重量を増加させるという水中安定化構造により、水の抵抗を抑制する作用も奏すると言える。
【0040】
また、水中安定化構造を構成する他の要素として、処理水中に没する浸漬経路R1、換言すれば浸漬導入傾斜路R11及び浸漬退出傾斜路R12を含む浸漬経路R1の搬送軌道を積極的に維持する構成が挙げられる。具体的には、例えば図1の拡大図に示すように、浸漬導入傾斜路R11と浸漬経路R1との間(屈曲部)にテンショナー34を設け、且つ浸漬経路R1と浸漬退出傾斜路R12との間(屈曲部)にテンショナー34を設けるものである。
更に、上記テンショナー34に加え、上記図1の拡大図に併せ示すように、通常搬送経路R0と浸漬導入傾斜路R11との間(屈曲部)に支持部材35を設け、且つ浸漬退出傾斜路R12と通常搬送経路R0との間(屈曲部)に支持部材35を設けることが好ましい。このように本実施例では、各経路の屈曲部にテンショナー34と支持部材35とを、対を成すように設けるものであり、これにより各経路の搬送軌道を積極的に維持している。すなわち各経路の屈曲部に設けたテンショナー34と支持部材35とにより、通常搬送経路R0から処理水中に没入するように下り傾斜状態に配される浸漬導入傾斜路R11、そしてこれに続く、処理水中を没入状態で走行する浸漬経路R1、更には処理水中から浮上するように上り傾斜状態に配される浸漬退出傾斜路R12を連続して構成する搬送コンベヤ20に適宜の張力を付与し、これらの搬送軌道をより積極的に維持するものである。
【0041】
更に、水中安定化構造を構成する更に他の要素として、浸漬経路R1の前後の傾斜角度、すなわち浸漬導入傾斜路R11及び浸漬退出傾斜路R12の傾斜角度をともに緩やかな角度に抑える構成が挙げられ、具体的には水平面に対し5度以下の傾斜角度が好ましい(図1の拡大図参照)。これは上記傾斜角度が小さいほど、搬送中の処理対象物Tの傾き角度が小さく抑えられ、処理対象物Tを転倒し難くさせるためである。
【0042】
更に、水中安定化構造を構成する更に他の要素として、浸漬経路R1において処理対象物Tの浸漬深度(浸漬比率)を抑える構成が挙げられる。具体的には処理対象物Tの全高さ寸法に対し、浸漬比率を底部から20%、好ましくは15%、より好ましくは13%の深度に抑える構成が挙げられる。これは処理対象物Tの浸漬比率が小さくなれば、処理水Wに漬かる処理対象物Tの浮力も抑制でき、処理対象物Tとしても転倒し難くなるためである。因みに、処理対象物Tが350ミリリットルの飲料缶である場合、全高寸法は約120mmとなり、浸漬深度は15mm程に設定され、このときの浸漬比率は、
15mm/120mm×100=12.5%(<13%)
と算出される。
なお、本実施例では浸漬経路R1(浸漬槽33)を、実質的な殺菌処理ゾーンZ2のみに設けるようにしたが、熱処理の目的等に応じて、搬送経路(搬送コンベヤ20)のほぼ全域にわたって設けるようにしても構わない。
【0043】
本発明のパストライザ1は、以上のような基本構造を有するものであって、以下、このようなパストライザ1を適用して処理対象物Tを加熱殺菌する際の基本的な処理態様について説明する。
処理対象物Tは、一例として図1図2に示すように、搬送装置2(搬送コンベヤ20)の搬送面上に正立姿勢で載置されながら、搬送方向上流の入口側から搬送方向下流の出口側に向けて搬送される。その搬送速度は、例えば250mm/min~1000mm/min程度のほぼ一定の速度であり、この搬送過程で処理対象物Tは、各区間で定められた温度の処理水Wが上方からスプレーされて(吹き付けられて)、目的の処理が成される。以下、処理ゾーンごとに説明する。
【0044】
(1)昇温ゾーン
処理対象物Tは、まず昇温ゾーンZ1で、殺菌に必要な温度まで徐々に加熱される。具体的には、例えば上記図2に示すように、第一予備加熱区間Z11で所定の時間、35℃の処理水Wによる予備加熱を受ける。次いで第二予備加熱区間Z12で所定の時間、50℃の処理水Wによる予備加熱を受ける。次いで加熱区間Z13で所定の時間、72℃の処理水Wによる加熱を受ける。なお、各区間の処理水タンク4A~4Cに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度よりも数度低下して回収され、例えば処理水タンク4Aでは33~34℃、処理水タンク4Bでは48~49℃、処理水タンク4Cでは70~71℃程度である。因みに、各処理水タンク4A~4Cに貯留された処理水Wの温度は、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5A~5Cによって適宜加温するものであり、処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも高い場合には、冷却装置6A~6Cによって適宜冷却するものであり、各ノズルパイプ31G・31F・31Cには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような昇温ゾーンZ1の搬送中に、処理対象物Tの製品温度は上昇するものであり、例えば第一予備加熱区間Z11の入口付近で5℃、第一予備加熱区間Z11の搬送終端部及び第二予備加熱区間Z12の搬送開始部で20℃、第二予備加熱区間Z12の搬送終端部及び加熱区間Z13の搬送開始部で35℃、加熱区間Z13の搬送終端部で65℃となる。
【0045】
(2)殺菌ゾーン
その後、処理対象物Tは、殺菌ゾーンZ2に搬送され、ここで適宜の時間・適宜の高温状態で保持され、所望の殺菌が実質的に施される。具体的には、第一殺菌区間Z21で所定の時間、65℃の処理水Wによる殺菌を受ける。次いで第二殺菌区間Z22で所定の時間、65℃の処理水Wによる殺菌を受ける。なお、殺菌ゾーンZ2における両区間の処理水タンク4D・4Eに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度より数度低下するものであり、例えばいずれの処理水タンク4D・4Eにおいても63~64℃程度となる。もちろん、ここでも各処理水タンク4D・4Eに貯留された処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5D・5Eによって適宜加温するものであり、各ノズルパイプ31D・31Eには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような殺菌ゾーンZ2の搬送中、具体的には第一殺菌区間Z21の搬送開始部から第二殺菌区間Z22の搬送終端部に至るまで、処理対象物Tは、製品温度が65℃に維持され、実質的な殺菌が施される。
【0046】
ここで本実施例では、上述したように処理対象物Tは、当該殺菌ゾーンZ2を通過する間、底部が浸漬槽33に漬かるように搬送され、結果、散水による熱処理(殺菌処理)のみならず、浸漬による熱処理も併せて施される。
これは処理対象物Tに施す熱処理を効率的に行うためである。すなわち、散水のみによる熱処理では、処理対象物Tにおいて底部を除く表面(主に側面)が伝熱面となる。つまり、散水では主に処理対象物Tの側面が伝熱面となって、ここに触れながら流れ落ちる処理水Wによって処理対象物Tの熱処理が行われる。
これに対し、散水・浸漬併用では、処理対象物Tの側面に、散水された処理水Wが触れることに加え、浸漬経路R1において処理水Wに漬かった処理対象物Tの底部からも処理水Wの熱が伝わるため、効率よく処理対象物Tに熱を伝えることができる。
【0047】
以下、散水・浸漬併用による熱処理(熱伝達)が良好であることを図4-1・図4-2に基づいて示す。
図4-1・図4-2は、飲料が充填された350ミリリットル缶を処理対象物Tとしたものであり、図中「浸漬アリ」が散水・浸漬併用による殺菌処理、図中「浸漬ナシ」が散水のみによる殺菌処理を示している。データとして示した温度は、飲料缶内の温度を測定した結果である。因みに、温度の測定は、安立計器株式会社 DATA COLLECTOR AM-7002 TYPE Kを用いて行った。
【0048】
また、処理対象物Tたる飲料缶は、第1槽から第7槽(第8槽)を通過する間に、一連の熱処理が行われ、実質的な殺菌処理は、第4槽と第5槽で実施され、ここが上記図2の殺菌ゾーンZ2に該当する。そして、これら第4槽及び第5槽の両区間において、飲料缶を65℃(これが殺菌温度)で10分保持する設定で、実質的な殺菌処理を行うものである。なお、処理対象物Tの浸漬は、ほぼ全ての処理区間、具体的には第1槽~第7槽で行われている。
また、飲料缶が第1槽に入る際の入口温度は6℃であり、一連の熱処理を終えて第7槽から出てくる(第8槽に入る)際の出口温度は40℃である。
【0049】
図4-1・図4-2中に示す品温(処理対象物T)のデータは、太い実線が浸漬アリ(散水・浸漬併用)を示しており、細い実線が浸漬ナシ(散水単独)を示している。
そして、このデータから浸漬アリの方が、殺菌温度到達時間つまり品温が65℃に達するまでのトータルの時間が短いことが確認でき、具体的には図4-2(a)に示すように、7分30秒-7分5秒=25秒の短縮であった。
また浸漬アリの方が、長い時間、殺菌温度である65℃を維持できることが確認でき、具体的には
12分50秒-11分25秒=1分25秒、長く維持することができた。
更に浸漬アリの方が、最高到達温度も高いことが分かり、具体的には
70.9℃-70.3℃=0.6℃高いものであった。ここで浸漬ナシの最高到達温度は、上記のように70.3℃であり、この温度に達する時間も浸漬アリの方が35秒早かった。具体的には図4-2(b)に示すように、
9分45秒-9分10秒=35秒の短縮であった。
更に、浸漬アリの方が、出口温度に到達するトータルの時間も短いことが確認でき、具体的には
24分45秒-24分35秒=10秒の短縮であった。
なお、図4-1・図4-2と図2とは、どちらも殺菌処理であるため、全体的な品温の温度推移としては同様の経過を辿るものであるが、処理対象物Tや条件が必ずしも同一ではないため、例えば槽内の温度等において、必ずしも一致しない点が存在する。
【0050】
(3)冷却ゾーン
その後、処理対象物Tは、一例として上記図2に示すように、冷却ゾーンZ3に搬送され、ここで殺菌直後の高温状態が、徐々に冷却されて行く。具体的には第一徐冷区間Z31で所定の時間、48℃の処理水Wによる徐冷を受ける。次いで第二徐冷区間Z32で所定の時間、33℃の処理水Wによる徐冷を受ける。次いで冷却区間Z33で所定の時間、28℃の処理水Wによる冷却を受ける。なお、各区間の処理水タンク4F~4Hに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度よりも数度上昇し、例えば処理水タンク4Fでは49~50℃、処理水タンク4Gでは34~35℃、処理水タンク4Hでは29~30℃程度となる。もちろん、ここでも各処理水タンク4F~4Hに貯留された処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5F~5Hによって適宜加温するものであり、次のスプレーに供する温度よりも高い場合には、冷却装置6F~6Hによって適宜冷却するものであり、各ノズルパイプ31B・31A・31Hには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような冷却ゾーンZ3の搬送中に、処理対象物Tは、製品温度が徐々に下降して行くものであり、例えば第一徐冷区間Z31の搬送開始部で65℃、第一徐冷区間Z31の搬送終端部及び第二徐冷区間Z32の搬送開始部で56℃、第二徐冷区間Z32の搬送終端部及び冷却区間Z33の搬送開始部で44℃となり、冷却区間Z33の搬送終端部つまり出口付近で38℃まで冷却される。
【0051】
本実施例では、上述したように昇温ゾーンZ1と冷却ゾーンZ3との間で処理水Wを相互循環させている。具体的には、まず一つ目の相互循環として、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wを、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32のノズルパイプ31Gに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。一方、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wを、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11のノズルパイプ31Aに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。
また、二つ目の相互循環として、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wを、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31のノズルパイプ31Fに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。一方、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留した処理水Wを、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12のノズルパイプ31Bに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。
【0052】
このような相互循環を行うのは、第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wの温度が、第二徐冷区間Z32で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、また第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wの温度が、第一予備加熱区間Z11で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、処理水Wの温度として、互いに適しているためである。
また、第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wの温度は、第一徐冷区間Z31で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、また第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留された処理水Wの温度は、第二予備加熱区間Z12で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、処理水Wの温度として、互いに適しているため、上記のような二組の相互循環が構成されている。
そして、このような相互循環を図ることにより、加温装置5によって行われる蒸気Sによる加熱や、冷却装置6によって行われる上水等による冷却を行って、処理水Wの温度を調整する場合でも、使用するエネルギーを節約することができる。なお、このような処理水Wの相互循環利用を交流と称することもある。
【0053】
〔他の実施例〕
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
まず上述した基本の実施例、特に図2に示す実施例では、殺菌ゾーンZ2のみに浸漬槽33を設ける構成例を示したが、浸漬槽33は冷却ゾーンZ3に設けることもできる。この場合、冷却ゾーンZ3の上方から処理水Wのシャワーリングが施され、下方の浸漬槽33では処理対象物Tの下部が処理水Wに漬かるため、処理対象物Tを効率的に冷却することができる。因みに図2に示す冷却ゾーンZ3、とりわけ第一徐冷区間Z31~第二徐冷区間Z32に、浸漬槽33を設ける際には、第一徐冷区間Z31と第二徐冷区間Z32とでは、処理水Wの温度差が比較的大きいことから、各区間ごとに別々の浸漬槽33を設ける構成や、どちらか一方の区間に浸漬槽33を設ける構成が採り得る。
【0054】
また、先に述べた基本の実施例では、昇温ゾーンZ1及び冷却ゾーンZ3を、ともに三つの区間で形成したが、本発明は、必ずしもこれに限定されるものではない。具体的には、例えば昇温ゾーンZ1及び冷却ゾーンZ3を四つ以上の区間で形成することも可能であるし、あるいは昇温ゾーンZ1を二つの区間で形成することも可能である。また、上述した基本の実施例では、相互循環を二組形成したが、特に上記区間数などに応じて、相互循環は一組だけ設けるようにしても構わない。
【0055】
また、先に述べた基本の実施例では、処理対象物Tを搬送する搬送コンベヤ20(搬送装置2)として、浸漬槽33の処理水中に没入させた際、浮力が生じる樹脂製のコンベヤ(ネットコンベヤ)を適用し、これを浸漬経路R1において安定沈下状態とする水中安定化構造について説明した。しかしながら、搬送コンベヤ20としては、円形断面のロッド本体を多数、搬送方向に並設状態で配設した回転ロッドコンベヤを適用することも可能であるが、これは本発明に関連する参考例である。なお、回転ロッドコンベヤを適用した場合、多数本のロッド本体の全てまたは一部をステンレス素材等の金属素材で構成し、水中安定化構造とすることもできる。因みに、上記回転ロッドコンベヤについては、本出願人が既に特許取得に及んでいる特許第7082382号、特許第7164120号に詳細に記載されており、この記載を援用する。
【符号の説明】
【0056】
1 パストライザ
2 搬送装置
3 ノズル装置
4 処理水タンク
5 加温装置
6 冷却装置

20 搬送コンベヤ
21 リンク要素
21a 連結部
22 連結ピン
23 ターンスプロケット
24 駆動スプロケット

3A ノズル装置(第一予備加熱区間)
3B ノズル装置(第二予備加熱区間)
3C ノズル装置(加熱区間)
3D ノズル装置(第一殺菌区間)
3E ノズル装置(第二殺菌区間)
3F ノズル装置(第一徐冷区間)
3G ノズル装置(第二徐冷区間)
3H ノズル装置(冷却区間)

4A 処理水タンク(第一予備加熱区間)
4B 処理水タンク(第二予備加熱区間)
4C 処理水タンク(加熱区間)
4D 処理水タンク(第一殺菌区間)
4E 処理水タンク(第二殺菌区間)
4F 処理水タンク(第一徐冷区間)
4G 処理水タンク(第二徐冷区間)
4H 処理水タンク(冷却区間)

5A 加温装置(第一予備加熱区間)
5B 加温装置(第二予備加熱区間)
5C 加温装置(加熱区間)
5D 加温装置(第一殺菌区間)
5E 加温装置(第二殺菌区間)
5F 加温装置(第一徐冷区間)
5G 加温装置(第二徐冷区間)
5H 加温装置(冷却区間)

31 ノズルパイプ
31A ノズルパイプ(第一予備加熱区間)
31B ノズルパイプ(第二予備加熱区間)
31C ノズルパイプ(加熱区間)
31D ノズルパイプ(第一殺菌区間)
31E ノズルパイプ(第二殺菌区間)
31F ノズルパイプ(第一徐冷区間)
31G ノズルパイプ(第二徐冷区間)
31H ノズルパイプ(冷却区間)
33 浸漬槽
34 テンショナー
35 支持部材

6A 冷却装置(第一予備加熱区間)
6B 冷却装置(第二予備加熱区間)
6C 冷却装置(加熱区間)
6D 冷却装置(第一殺菌区間)
6E 冷却装置(第二殺菌区間)
6F 冷却装置(第一徐冷区間)
6G 冷却装置(第二徐冷区間)
6H 冷却装置(冷却区間)

T 処理対象物
W 処理水
P ポンプ
S 蒸気
R0 通常搬送経路(常高経路)
R1 浸漬経路
R11 浸漬導入傾斜路
R12 浸漬退出傾斜路

Z1 昇温ゾーン
Z11 第一予備加熱区間
Z12 第二予備加熱区間
Z13 加熱区間

Z2 殺菌ゾーン
Z21 第一殺菌区間
Z22 第二殺菌区間
Z2n 第n殺菌区間

Z3 冷却ゾーン
Z31 第一徐冷区間
Z32 第二徐冷区間
Z33 冷却区間
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を搬送コンベヤによって搬送しながら搬送方向に配設した複数の処理ゾーン毎に所定の処理温度の処理水を、処理対象物の上方に配置したノズル装置から散水し、処理対象物に所定の温度変化を与えるパストライザにおいて、
前記搬送コンベヤには、処理水を散水しながら、併せて処理対象物の底部を処理水中に浸漬する浸漬経路が設けられ、
当該浸漬経路は、散水が行われる通常搬送経路よりも低い位置を走行するように構成され、
且つ当該浸漬経路では、処理水に漬かる処理対象物と、処理水中を走行する搬送コンベヤとを安定沈下状態とする水中安定化構造を具えるものであり、
また前記搬送コンベヤは、複数のリンク要素における前後の連結部が、幅方向において交互に重なるように組み付けられ、交互に重なった連結部を幅方向に貫通する回動自在の連結ピンにより接続されて成り、
前記水中安定化構造は、前記リンク要素を樹脂製の素材で形成し、且つ前記連結ピンを金属製の素材で形成する構成であることを特徴とするパストライザ。
【請求項2】
前記処理対象物は、浸漬経路における搬送中、底部が処理水中に浸漬しながら、底部以外は、上方から散水される処理水を受け、底部も処理水からの伝熱を受ける伝熱面となることを特徴とする請求項1記載のパストライザ。
【請求項3】
前記搬送コンベヤは、通常搬送経路から浸漬経路に至る浸漬導入傾斜路が、進行方向に向かって下り傾斜状態に形成されるとともに、浸漬経路から通常搬送経路に至る浸漬退出傾斜路が、進行方向に向かって上り傾斜状態に形成されるものであり、
更に浸漬導入傾斜路と浸漬経路との間にテンショナーが設けられ、且つ浸漬経路と浸漬退出傾斜路との間にテンショナーが設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方のテンショナーを含んで構成されることを特徴とする請求項1または2記載のパストライザ。
【請求項4】
前記通常搬送経路と浸漬導入傾斜路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
且つ前記浸漬退出傾斜路と通常搬送経路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方の支持部材を含んで構成されることを特徴とする請求項3記載のパストライザ。
【手続補正書】
【提出日】2024-12-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば飲料などを充填・密封した容器を処理対象物とし、このものに加熱殺菌処理を行うパストライザに関するものであって、特に処理水による熱処理効率を向上させるべく、処理水を上方から処理対象物にシャワーリングする散水手法と、処理水を適宜貯留した貯留槽に処理対象物の底部を漬ける浸漬方式とを併用できるようにした新規なパストライザに係るものである。
【背景技術】
【0002】
一般にパストライザは、例えば飲料が充填・密封された缶や容器等を処理対象物とし、これを搬送しながら、その上方から処理ゾーン毎に適宜の温度の処理水を処理対象物に散水して、処理対象物を一定の時間・一定の高温雰囲気に保ち、加熱殺菌処理を行っている。具体的には、まず昇温ゾーンで処理水によって処理対象物を昇温させ、その後、殺菌ゾーンで処理水によって昇温した所定温度を一定時間維持するようにし、更にその後、冷却ゾーンで低温の処理水を散水して、処理対象物を適宜の温度まで冷却している。
【0003】
ところで、このようなパストライザにおいては、処理室内で処理対象物を移送する搬送コンベヤを、散水が行われる通常搬送経路(常高経路)よりも低い位置(高さ)に沈めて処理対象物の底部を処理水に漬け(浸漬させ)、散水と浸漬とにより効率的に殺菌処理するという思想はあった(例えば特許文献1参照)。
ここで、上記特許文献1で搬送コンベヤを通常搬送経路より低い位置に沈めるにあたっては、通常搬送経路から浸漬経路(散水・浸漬併用経路)に移送する際、通常は搬送コンベヤを進行方向に対し下り傾斜状態に構成し、浸漬ゾーンに移行させる構成が採用されている。
しかしながら、このような下り傾斜移送を実施する構成は、観念的には充分に理解できるものの、実際に実機として行う場合には、当然ながら、処理対象物が正立姿勢から傾斜姿勢になるため、下り傾斜移送の際、処理対象物の転倒(完全な倒れ込み)が懸念される。
【0004】
この転倒の原因は、処理対象物を移送している搬送コンベヤ自体が単に斜めになるというだけでなく、処理対象物の底部が、浸漬槽内に貯留された処理水中に漬かると、処理対象物自体に浮力が生じることが要因の一つと考えられる。また搬送コンベヤ自体も処理水中に沈降して走行することになるため、搬送コンベヤ自体も浮力を受け、少なくとも処理水に漬かっている搬送コンベヤ部分には、浮上するような付勢力が作用し、処理対象物の倒れ込み傾向をより助長することになる。
加えて、浸漬ゾーンは浸漬槽ではあるものの、上方からの処理水の散水(噴出)は継続されているから、浸漬槽の処理水表面は当然ながら静水状態(いわゆる静水面)とはならず、波立ち状態または幾らか揺れた状態になり、この波(波力)が搬送コンベヤや、この上に載置された処理対象物を揺らすように作用し(悪影響を及ぼし)、このような波力も処理対象物を転倒させる傾向を増長させるものであった。
そのため、処理対象物の底部を処理水に浸漬させるべく、搬送コンベヤを下り傾斜状態に設けることは、アイデアとしては案出されていても、実機としては実現されていなかった。
【0005】
また、このような下り傾斜移送に伴う処理対象物の倒れ込みを危惧したことから、搬送コンベヤを下方に沈めることなく、浸漬槽を形成するという思想も案出されている(例えば特許文献2参照)。
この特許文献2では、浸漬槽(散水・浸漬併用経路)を構成するにあたり、搬送コンベヤの両側部に堰の作用を担う側壁を立設し、この側壁によって搬送コンベヤ上から周囲に落下する処理水を一時的に食い止め、搬送コンベヤ上に浸漬槽を形成するというものである。
しかしながら、特許文献2では、搬送コンベヤの前後(搬送方向の前後)は、処理対象物を移送するために開口されているため、この前後の開口部から搬送コンベヤ上の処理水が勢い良く流れ落ちてしまう。従って、この特許文献2でも、浸漬・併用経路は、実質的には槽(浸漬槽)として機能せず、実機として実現することはできなかった。すなわち、特許文献2も、アイデアとしては案出されていても、実機として浸漬槽を形成することは極めて困難であった。
【0006】
なお、特許文献2は、特許文献1から十数年後の出願であることを考慮すると、搬送コンベヤを下方に沈めて浸漬槽を形成することが、当業者において極めて困難であることを裏付けるものと言える。もちろん、処理水を散水して処理対象物を熱処理することに加え、更に処理対象物の底部も処理水に浸漬して、散水・浸漬併用で殺菌処理する方が効率良く熱処理が行えることは明らかである。そのため本願発明では、どのようにしたら搬送コンベヤを確実に通常搬送経路よりも低い位置(高さ)に沈めて浸漬槽が実機として構成できるのかを案出したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭54-705号公報
【特許文献2】実開平2-31896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、処理対象物に処理水を散布する通常搬送経路から幾らか低い位置に搬送コンベヤを確実に沈めて浸漬槽を形成する構成を、シンプルな構成の下に、具体的に実機として実現できるようにした新規なパストライザの開発を技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち請求項1記載のパストライザは、
処理対象物を搬送コンベヤによって搬送しながら搬送方向に配設した複数の処理ゾーン毎に所定の処理温度の処理水を、処理対象物の上方に配置したノズル装置から散水し、処理対象物に所定の温度変化を与えるパストライザにおいて、
前記搬送コンベヤには、処理水を散水しながら、併せて処理対象物の底部を処理水中に浸漬する浸漬経路が設けられ、
当該浸漬経路は、散水が行われる通常搬送経路よりも低い位置を走行するように構成され、
且つ当該浸漬経路では、処理水に漬かる処理対象物と、処理水中を走行する搬送コンベヤとを安定沈下状態とする水中安定化構造を具えるものであり、
また前記搬送コンベヤは、複数のリンク要素における前後の連結部が、幅方向において交互に重なるように組み付けられ、交互に重なった連結部を幅方向に貫通する回動自在の連結ピンにより接続されて成り、
前記水中安定化構造は、前記リンク要素を樹脂製の素材で形成し、且つ前記連結ピンを金属製の素材で形成する構成であり、
前記処理対象物は、浸漬経路における搬送中、底部が処理水中に浸漬しながら、底部以外は、上方から散水される処理水を受け、底部も処理水からの伝熱を受ける伝熱面となることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項記載のパストライザは、前記請求項1記載の要件に加え、
前記搬送コンベヤは、通常搬送経路から浸漬経路に至る浸漬導入傾斜路が、進行方向に向かって下り傾斜状態に形成されるとともに、浸漬経路から通常搬送経路に至る浸漬退出傾斜路が、進行方向に向かって上り傾斜状態に形成されるものであり、
更に浸漬導入傾斜路と浸漬経路との間にテンショナーが設けられ、且つ浸漬経路と浸漬退出傾斜路との間にテンショナーが設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方のテンショナーを含んで構成されることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項記載のパストライザは、前記請求項記載の要件に加え、
前記通常搬送経路と浸漬導入傾斜路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
且つ前記浸漬退出傾斜路と通常搬送経路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方の支持部材を含んで構成されることを特徴として成るものである。
そして、これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0012】
まず請求項1記載の発明によれば、搬送経路の少なくとも一部に、通常搬送経路より低い位置となる浸漬経路が設けられ、この浸漬経路では、処理対象物に散水が行われることに加え、処理水に漬けた熱伝達も行われる。従って、処理対象物への熱処理は、処理対象物の側面だけでなく、処理水に漬かった底部も伝熱面として利用することができ、極めて効率よく、処理水の熱を処理対象物に伝達することができる。
また、浸漬経路では水中安定化構造を具えるため、例えば処理対象物が、浸漬経路を移送される間に幾らか傾いても、処理対象物が完全に倒れ込んでしまうまでには至らない。すなわち、水中安定化構造によって、搬送コンベヤを確実に処理水中に沈めた状態で走行させることができ、また処理槽において処理対象物の底部を確実に処理水に浸漬させることができるため、浸漬経路による搬送中、処理対象物が幾らか傾いても、完全に倒れ込ませることなく搬送することができる。
また本発明によれば、搬送コンベヤを構成する複数のリンク要素が樹脂製の部材で形成され、且つこのリンク要素を幅方向において接続する連結ピンが金属製の部材で形成され、当該構成を水中安定化構造として含むものである。すなわち、この種の連結ピンは、従来、樹脂製素材で形成されるのが一般的であったが、この連結ピンを金属製の素材で形成することにより、搬送コンベヤの重量を増加させ、処理水中を走行する搬送コンベヤを確実に水中に沈降させて走行できるようにしたものである。従って、本発明によれば、極めてシンプルな構成の下に水中安定化構造を実現することができる。
【0013】
また請求項記載の発明によれば、浸漬導入傾斜路と浸漬経路との間にテンショナーを設け、且つ浸漬経路と浸漬退出傾斜路との間にテンショナーを設けるため、これら双方のテンショナーによって浸漬槽において処理水中を走行する搬送コンベヤを確実に沈降状態で走行させることができ、走行中の例えば浮力による浮き上がりや、水面の波立ちによる揺れなどを抑制することができる。
【0014】
また請求項記載の発明によれば、浸漬経路の前後に設けられるテンショナーと対を成すように、浸漬導入傾斜路の前部と、浸漬退出傾斜路の後部とに搬送軌道を維持する支持部材が設けられるため、浸漬経路において処理水中を走行する搬送コンベヤの搬送軌道をより積極的に安定化させることができ、浸漬経路における処理対象物の倒れ込みをより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のパストライザを骨格的に示す側面図である。
図2】同上パストライザの全体構成を示す説明図である。
図3】処理対象物を載せて搬送する搬送コンベヤを示す側面図及び平面図(a)、並びにターンスプロケットを示す斜視図(b)である。
図4-1】浸漬アリの殺菌処理と、浸漬ナシの殺菌処理とにおいて品温データを比較して示すグラフである。
図4-2】浸漬アリと浸漬ナシとの比較を示す表(a)、並びに上記図4-1における第3槽を拡大して示すグラフ(b)である。
【0016】
本発明を実施するための形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法をも含むものである。
【0017】
本発明のパストライザ1は、処理対象物Tを載せて搬送する搬送装置2の少なくとも一部を、処理水Wが散水される通常の搬送経路(これを通常搬送経路または常高経路としR0の符号を付す)よりも低い位置に形成し(ここを浸漬経路R1とする)、この浸漬経路R1において浸漬槽33に貯留された処理水Wに、処理対象物Tの底部を漬けるようにしたものである。このため浸漬経路R1を通過する処理対象物Tは、上方から散水される処理水Wと、底部に漬かった処理水Wとによる熱処理、つまり散水と浸漬とによる双方の熱処理を受けるものである。また、そのため本発明のパストライザは、散水・浸漬併用のパストライザとも称されることがある。
以下、本発明のパストライザ1について説明するが、まずパストライザ1の一般的な基本構成から説明する。
【0018】
パストライザ1は、上述したように例えば飲料を充填・密封した缶やペットボトル等を処理対象物Tとし、このものに加熱処理ないしは冷却処理を施して、飲料の殺菌等の安定化処理を行う設備装置である。このパストライザ1は、幅1.0~2.3m、長さ数m~十数m程度の工場設備であり、一例として図1図2に示すように、大別してペットボトル等の処理対象物Tを搬送する搬送系の装置と、処理媒体となる処理水Wの供給系装置とを具え、処理水Wの供給系装置は、搬送系の装置(搬送経路)を上下から挟むように設けられている。
すなわち、パストライザ1は、処理水Wの供給系装置を構成するノズル装置3を、搬送系の装置を構成する搬送装置2の上方に配置するとともに、処理対象物Tに向けて噴出させた処理水Wを貯留・回収する処理水タンク4を、搬送装置2の下方に具えて成るものである。ここでノズル装置3に供給される処理水Wは、処理水タンク4に貯留された処理水Wが循環利用される。
なお、処理対象物Tとしては、上述した缶やペットボトルの他、ビンや紙パックなども適用し得る。また、充填物としても、必ずしも飲料に限定されるものではなく、調味料やスープ類(液状食品)などを充填する場合がある。
以下、搬送装置2、ノズル装置3、処理水タンク4について説明する。
【0019】
搬送装置2は、容器等の処理対象物Tを安定的に微速(例えば1分間に250mm~1000mm)で搬送すべく、平滑な搬送面を有する搬送コンベヤ20を具えるものである。
搬送コンベヤ20は、一例として図3に示すように、処理水Wの流下が許容できるように、樹脂製のリンク要素21を巻回状に組み合わせて構成され、全体として無端軌道を描くベルト状に形成される(いわゆるチェーン状)。
もちろん、搬送コンベヤ20は、上記のように適宜の幅寸法を有するように形成されるから、一例として上記図3(a)に示すように、リンク要素21の前後(搬送方向における前後)の連結部21aが、幅方向において交互に重なるように組み付けられ、重なった連結部21a同士を幅方向に貫通する回動自在の連結ピン22で接続して、全体的に通水可能なネットコンベヤ状に構成される。
また、搬送装置2は、装置架台に対して支持されるとともに、搬送方向上流側にターンスプロケット23を具えるとともに、下流側に駆動スプロケット24を具える。なお、ターンスプロケット23と駆動スプロケット24とは、搬送コンベヤ20の幅寸法に応じて、複数設けられており、側面から視て同じ幅方向位置に並ぶリンク要素21が同期して走行するように構成されている(図3(b)参照)。
【0020】
処理対象物Tは、搬送装置2による搬送を受けながら、その搬送位置に応じて受ける実質的な処理、つまりパストライザ1によって処理対象物Tが受ける処理温度が異なるものであり、以下、これについて説明する。
パストライザ1は、一例として上記図2に示すように、処理対象物Tの搬送方向に見て、直列状に三つの処理ゾーンに区画されて成り、これを搬送方向上流側から昇温ゾーンZ1、殺菌ゾーンZ2、冷却ゾーンZ3とする。
以下、各処理ゾーンについて説明する。
【0021】
昇温ゾーンZ1は、処理対象物Tの温度(製品温度)を、例えば常温状態から目的の殺菌温度まで徐々に上昇させて行く処理ゾーンであり、ここでは更に三つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から第一予備加熱区間Z11、第二予備加熱区間Z12、加熱区間Z13とする。なお、区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4とが設けられており、これらを区別して示す場合には、第一予備加熱区間Z11のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3A」、「4A」とする。また、第二予備加熱区間Z12のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3B」、「4B」とする。また、加熱区間Z13のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3C」、「4C」とする。
【0022】
殺菌ゾーンZ2は、昇温ゾーンZ1において目的の殺菌温度まで上昇させた処理対象物Tを、適宜の時間、当該温度に維持して、実質的な殺菌を行う処理ゾーンであり、ここでは二つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から第一殺菌区間Z21、第二殺菌区間Z22とする。ここでも区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4が設けられており、これらを区別して示す場合には、第一殺菌区間Z21のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3D」、「4D」とする。また、第二殺菌区間Z22のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3E」、「4E」とする。
なお、図中符号「(・・・)Z2n」で示した区間は、殺菌ゾーンZ2のn番目の区間である「第n殺菌区間」を示しており、これは殺菌ゾーンZ2を三つ以上の複数区間で構成し得ることを示している。
【0023】
冷却ゾーンZ3は、実質的な殺菌を終えた処理対象物Tを、常温程度まで徐々に冷まして行く処理ゾーンであり、ここでは三つの区間に分けられており、これを搬送方向上流側から、第一徐冷区間Z31、第二徐冷区間Z32、冷却区間Z33とする。ここでも区間ごとに、ノズル装置3と処理水タンク4が設けられており、これらを区別して示す場合には、第一徐冷区間Z31のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3F」、「4F」とする。また、第二徐冷区間Z32のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3G」、「4G」とする。また、冷却区間Z33のノズル装置3と処理水タンク4を各々「3H」、「4H」とする。
【0024】
各区間における処理水Wの作用温度は、一例として図中に示した通りであり、各ノズル装置3A~3Hの上方に示した数値が、各ノズル装置3A~3Hからスプレーされる処理水Wの温度の一例である。
なお、昇温ゾーンZ1及び殺菌ゾーンZ2においては、各ノズル装置3A~3Eから放出された処理水Wは、各処理水タンク4A~4Eに貯留・回収される時点では、処理対象物Tを加熱した分、数度低下し、各処理水タンク4A~4Eの上方に示した数値のようになるが、この数値はあくまでも一例である。
また、冷却ゾーンZ3においては、各ノズル装置3F~3Hから放出された処理水Wは、各処理水タンク4F~4Hに貯留・回収される時点では、処理対象物Tから熱を奪った分、数度上昇し、各処理水タンク4F~4Hの上方に示した数値のようになるが、この数値もあくまでも一例である。
【0025】
また、処理対象物Tは、このような区間を通過することに伴い、温度が刻々と変化するものであり、以下、この製品温度の変化の一例について説明しておく。
処理対象物Tは、例えば図2に併せ示すように、第一予備加熱区間Z11の搬送装置2の入口付近で5℃、第一予備加熱区間Z11の搬送終端部及び第二予備加熱区間Z12の搬送開始部で20℃、第二予備加熱区間Z12の搬送終端部及び加熱区間Z13の搬送開始部で35℃となる。
また、加熱区間Z13の搬送終端部で65℃となり、殺菌ゾーンZ2の搬送中、すなわち第一殺菌区間Z21、第二殺菌区間Z22の搬送中は、この65℃の温度で維持される。
なお、加熱区間Z13では、処理対象物Tの温度を65℃とするために、これよりも高温である72℃の処理水Wを吹き付けるようにしている。
そして、処理対象物Tは、冷却ゾーンZ3の搬送中に製品温度が下げられるものであり、例えば第一徐冷区間Z31の入口で65℃、第一徐冷区間Z31の搬送終端部及び第二徐冷区間Z32の搬送開始部で56℃、第二徐冷区間Z32の搬送終端部及び冷却区間Z33の搬送開始部で44℃となり、冷却区間Z33の搬送終端部つまり搬送装置2の出口付近で38℃となる。
【0026】
なお、パストライザ1(搬送装置2)の各処理ゾーンを構成する区間の数は、適宜、増減させることが可能である。具体的には、処理対象物Tのサイズや性状、あるいは殺菌温度・殺菌時間等によって適宜増減し得るものであり、例えば昇温ゾーンZ1を一つの予備加熱区間と加熱区間との二区間で構成することが考えられるし、あるいは殺菌ゾーンZ2を三つの殺菌区間で構成すること等も考えられる。
【0027】
次に、ノズル装置3について説明する。
ノズル装置3は、処理水タンク4からポンプPで汲み上げた処理水Wを、処理対象物Tにスプレー状に吹き付けるものであり、一例として上記図2に骨格的に示すように、全体として各区間において、搬送方向に視て数本から十数本程度のノズルパイプ31を、それぞれ搬送方向を横切るように垂下状態に配置して成る。
なお、このノズルパイプ31についても、区間ごとに区別する場合には、末尾符号A~Hを付して区別する。
【0028】
次に、処理水タンク4について説明する。
処理水タンク4は、各ノズル装置3A~3Hから放出された処理水Wを、搬送装置2の下方で受けて、貯留・回収するタンクであり、上述したように各区間にそれぞれ配置される。なお、各処理水タンク4に貯留・回収された処理水Wは、ポンプPで汲み上げられ、その温度に適した処理水Wとして各ノズル装置3に供給される(いわゆる循環利用)。
【0029】
また、このような循環利用にあたり、各処理水タンク4A~4Hに貯留・回収された処理水Wが、目的の温度よりも低いまたは高いことがあり得る。このため各処理水タンク4A~4Hには、貯留した処理水Wを目的の温度に加熱するための加温装置5と、目的の温度に低下させるための冷却装置6とが設けられる。なお、これら加温装置5と冷却装置6とを処理水タンク4A~4Hごとに区別する場合には、末尾符号A~Hを付して区別する。
【0030】
このような加温装置5(5A~5H)としては、例えば図示を省略するボイラーから供給される蒸気Sを、各処理水タンク4A~4H内に吹き込むことによって加温を図る手法が挙げられる。この場合、一例として前記処理水タンク4A~4H内に、蒸気Sの吹出し用の諸装置を配置して、蒸気Sの熱により処理水Wの加温を図る。
【0031】
一方、各処理水タンク4A~4Hに貯留された処理水Wを冷却する冷却装置6(6A~6H)としては、各処理水タンク4A~4Hに、図示を省略する冷却水源からの配管を接続する手法が挙げられる。この場合、処理水Wの温度を下げるには、例えば当該配管中に設けたポンプ(図示略)を稼働させて、冷却水源から冷却水を処理水タンク4に導入し、適宜の温度に調整する。なお、冷却水としては、例えば水道水(上水)が挙げられる。
【0032】
次に、上述した処理水タンク4からノズル装置3に処理水Wを供給する経路について説明する。各処理水タンク4A~4Hに貯留された処理水Wは、上述したように、その温度に応じてスプレーすべきノズル装置3の区間を選択してスプレーするように構成されており、これは言わば処理水Wを循環使用する形態である。
具体的には、本実施例では昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wが、約33℃となり、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32のノズルパイプ31Gに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。一方、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wが、約35℃となり、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11のノズルパイプ31Aに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。なお、このような異なる区間同士、つまり昇温ゾーンZ1の第一予備加熱区間Z11と、冷却ゾーンZ3の第二徐冷区間Z32との間で、処理水Wを循環利用する形態を相互循環と称する。
【0033】
また、本実施例では別の相互循環も構成されている。具体的には、昇温ゾーンZ1の第二予備加熱区間Z12と、冷却ゾーンZ3の第一徐冷区間Z31との相互循環である。より詳細には、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wが、約48℃となり、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31のノズルパイプ31Fに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。一方、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留された処理水Wが、約50℃となり、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12のノズルパイプ31Bに移送され、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けられる。
なお、相互循環における各区間の組み合わせは変更することもあり得、例えば昇温ゾーンZ1が、一つの予備加熱区間(第一予備加熱区間Z11)と、加熱区間Z13との二区間で構成された場合などが想定される。
【0034】
また、本実施例では、回収した処理水Wを同一区間内のノズル装置3に戻すように移送する循環利用も行っており、これを自己循環と称し、上記相互循環と区別している。
自己循環は、昇温ゾーンZ1の加熱区間Z13、殺菌ゾーンZ2の第一殺菌区間Z21及び第二殺菌区間Z22、冷却ゾーンZ3の冷却区間Z33について実施されている。すなわち、これらの区間では、同じ区間内の処理水タンク4(4C・4D・4E・4H)に貯留された処理水Wを、同区間内のノズルパイプ31(31C・31D・31E・31H)に戻し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けるようにしている。
なお、相互循環及び自己循環ともに、処理水タンク4から処理水Wを汲み上げる作用は、循環回路中に組み込まれたポンプPが担うものである。
【0035】
以下、本発明の特徴的構成である浸漬経路R1について説明する。
本実施例では、一例として図1図2に示すように、搬送経路の少なくとも一部を、散水が行われる通常搬送経路R0に対し、幾らか低い位置を走行するように形成し、ここで処理対象物Tの底部を処理水中に漬けるものである。なお、この経路を浸漬経路R1とするものであり、この浸漬経路R1では、上記のように搬送コンベヤ20が、浸漬槽33内に貯留された処理水中を走行するように形成される。そのため処理対象物Tが浸漬経路R1を通過する際には、処理対象物Tは上方から処理水Wが散水されることに加え、底部が浸漬槽33に貯留された処理水Wに漬かりながら搬送される。
また、このため本発明では、処理水中に漬かる処理対象物Tと搬送コンベヤ20とを処理水中に安定して沈下させた状態(これを安定沈下状態と称している)とする水中安定化構造を具える。
なお、浸漬経路R1の前後は、ともに傾斜状態に形成されるものであり、通常搬送経路R0から浸漬経路R1に至る傾斜経路を浸漬導入傾斜路R11とし、浸漬経路R1から通常搬送経路R0に至る傾斜経路を浸漬退出傾斜路R12とする。因みに、これら傾斜経路を通過する際には、処理対象物Tも傾斜面に応じて幾らか傾いた姿勢で搬送される。
【0036】
以下、前記水中安定化構造について更に説明する。
水中安定化構造は、処理水中に沈み込んで走行する搬送コンベヤ20と、底部が処理水Wに浸漬する処理対象物Tとを、安定沈下状態に維持する構造であり、端的にはこれらが処理水中に漬かるために生じる浮力や揺れ(あばれ)を抑制し、処理対象物Tの完全な倒れ込みを防止する構造を指す。換言すれば、水中安定化構造によって、処理水中を走行する搬送コンベヤ20と、処理水中に底部が沈む処理対象物Tとが、処理水Wの浮力や水面の波立ち(波力)を受けても、浮かび上がることなく、また揺れ動いてしまう(あばれる)ことなく、処理対象物Tを安定して水中搬送できるようにしたものである。
【0037】
次に、本発明において水中安定化構造を構成する各要素について更に具体的に説明する。
水中安定化構造を構成する一構成要素として、搬送コンベヤ20における構成部材の重量を増加させ、水中走行する搬送コンベヤ20の浮力を抑制する構成が挙げられる(構成部材の重量増加)。
ここで従来の搬送コンベヤ20は、構成部材であるリンク要素21や連結ピン22が樹脂製素材(プラスチック素材)で形成されるのが一般的であった。しかしながら、本発明では、多数のリンク要素21を幅方向に接続する連結ピン22をステンレス等の金属製部材で形成し、搬送コンベヤ20の重量を増加させるようにしたものである。
これにより搬送コンベヤ20が浸漬槽33内で受ける浮力を抑制することができる。すなわち搬送コンベヤ20が、浸漬槽33に貯留した処理水中に沈んで行った際、処理水Wによる浮力を受けるが、この浮力に乱されることなく、また処理水Wの表面に、散水に伴う波立ちがあってもこの波立ち(波力)に耐え、確実に搬送コンベヤ20を処理水中に沈み込ませ、処理水中を走行させることができるものである。そのため、浸漬導入傾斜路R11において、処理対象物Tが幾らか前方(搬送方向進行側)に傾くようになっても、完全に倒れ込むまでには至らないものである。
【0038】
因みに搬送コンベヤ20の素材が何であっても(例えば樹脂製または金属製であろうが)、搬送コンベヤ20が処理水中を沈降状態で走行する際には、水の抵抗を受け、これは一般的には水中での走行性を低下ないしは不安定化させるように作用する。しかしながら、金属製部材の方が樹脂製部材よりも重量が大きいため、水中走行にあたり水の抵抗を受けても、金属製の方が水中での走行がより安定するものと考えられる。これは同じ水流を受けた場合、軽量物よりも重量物の方が流され難いことと同様である。従って、このような意味合いからすれば、構成部材の重量を増加させるという水中安定化構造により、水の抵抗を抑制する作用も奏すると言える。
【0039】
また、水中安定化構造を構成する他の要素として、処理水中に没する浸漬経路R1、換言すれば浸漬導入傾斜路R11及び浸漬退出傾斜路R12を含む浸漬経路R1の搬送軌道を積極的に維持する構成が挙げられる。具体的には、例えば図1の拡大図に示すように、浸漬導入傾斜路R11と浸漬経路R1との間(屈曲部)にテンショナー34を設け、且つ浸漬経路R1と浸漬退出傾斜路R12との間(屈曲部)にテンショナー34を設けるものである。
更に、上記テンショナー34に加え、上記図1の拡大図に併せ示すように、通常搬送経路R0と浸漬導入傾斜路R11との間(屈曲部)に支持部材35を設け、且つ浸漬退出傾斜路R12と通常搬送経路R0との間(屈曲部)に支持部材35を設けることが好ましい。このように本実施例では、各経路の屈曲部にテンショナー34と支持部材35とを、対を成すように設けるものであり、これにより各経路の搬送軌道を積極的に維持している。すなわち各経路の屈曲部に設けたテンショナー34と支持部材35とにより、通常搬送経路R0から処理水中に没入するように下り傾斜状態に配される浸漬導入傾斜路R11、そしてこれに続く、処理水中を没入状態で走行する浸漬経路R1、更には処理水中から浮上するように上り傾斜状態に配される浸漬退出傾斜路R12を連続して構成する搬送コンベヤ20に適宜の張力を付与し、これらの搬送軌道をより積極的に維持するものである。
【0040】
更に、水中安定化構造を構成する更に他の要素として、浸漬経路R1の前後の傾斜角度、すなわち浸漬導入傾斜路R11及び浸漬退出傾斜路R12の傾斜角度をともに緩やかな角度に抑える構成が挙げられ、具体的には水平面に対し5度以下の傾斜角度が好ましい(図1の拡大図参照)。これは上記傾斜角度が小さいほど、搬送中の処理対象物Tの傾き角度が小さく抑えられ、処理対象物Tを転倒し難くさせるためである。
【0041】
更に、水中安定化構造を構成する更に他の要素として、浸漬経路R1において処理対象物Tの浸漬深度(浸漬比率)を抑える構成が挙げられる。具体的には処理対象物Tの全高さ寸法に対し、浸漬比率を底部から20%、好ましくは15%、より好ましくは13%の深度に抑える構成が挙げられる。これは処理対象物Tの浸漬比率が小さくなれば、処理水Wに漬かる処理対象物Tの浮力も抑制でき、処理対象物Tとしても転倒し難くなるためである。因みに、処理対象物Tが350ミリリットルの飲料缶である場合、全高寸法は約120mmとなり、浸漬深度は15mm程に設定され、このときの浸漬比率は、
15mm/120mm×100=12.5%(<13%)
と算出される。
なお、本実施例では浸漬経路R1(浸漬槽33)を、実質的な殺菌処理ゾーンZ2のみに設けるようにしたが、熱処理の目的等に応じて、搬送経路(搬送コンベヤ20)のほぼ全域にわたって設けるようにしても構わない。
【0042】
本発明のパストライザ1は、以上のような基本構造を有するものであって、以下、このようなパストライザ1を適用して処理対象物Tを加熱殺菌する際の基本的な処理態様について説明する。
処理対象物Tは、一例として図1図2に示すように、搬送装置2(搬送コンベヤ20)の搬送面上に正立姿勢で載置されながら、搬送方向上流の入口側から搬送方向下流の出口側に向けて搬送される。その搬送速度は、例えば250mm/min~1000mm/min程度のほぼ一定の速度であり、この搬送過程で処理対象物Tは、各区間で定められた温度の処理水Wが上方からスプレーされて(吹き付けられて)、目的の処理が成される。以下、処理ゾーンごとに説明する。
【0043】
(1)昇温ゾーン
処理対象物Tは、まず昇温ゾーンZ1で、殺菌に必要な温度まで徐々に加熱される。具体的には、例えば上記図2に示すように、第一予備加熱区間Z11で所定の時間、35℃の処理水Wによる予備加熱を受ける。次いで第二予備加熱区間Z12で所定の時間、50℃の処理水Wによる予備加熱を受ける。次いで加熱区間Z13で所定の時間、72℃の処理水Wによる加熱を受ける。なお、各区間の処理水タンク4A~4Cに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度よりも数度低下して回収され、例えば処理水タンク4Aでは33~34℃、処理水タンク4Bでは48~49℃、処理水タンク4Cでは70~71℃程度である。因みに、各処理水タンク4A~4Cに貯留された処理水Wの温度は、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5A~5Cによって適宜加温するものであり、処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも高い場合には、冷却装置6A~6Cによって適宜冷却するものであり、各ノズルパイプ31G・31F・31Cには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような昇温ゾーンZ1の搬送中に、処理対象物Tの製品温度は上昇するものであり、例えば第一予備加熱区間Z11の入口付近で5℃、第一予備加熱区間Z11の搬送終端部及び第二予備加熱区間Z12の搬送開始部で20℃、第二予備加熱区間Z12の搬送終端部及び加熱区間Z13の搬送開始部で35℃、加熱区間Z13の搬送終端部で65℃となる。
【0044】
(2)殺菌ゾーン
その後、処理対象物Tは、殺菌ゾーンZ2に搬送され、ここで適宜の時間・適宜の高温状態で保持され、所望の殺菌が実質的に施される。具体的には、第一殺菌区間Z21で所定の時間、65℃の処理水Wによる殺菌を受ける。次いで第二殺菌区間Z22で所定の時間、65℃の処理水Wによる殺菌を受ける。なお、殺菌ゾーンZ2における両区間の処理水タンク4D・4Eに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度より数度低下するものであり、例えばいずれの処理水タンク4D・4Eにおいても63~64℃程度となる。もちろん、ここでも各処理水タンク4D・4Eに貯留された処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5D・5Eによって適宜加温するものであり、各ノズルパイプ31D・31Eには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような殺菌ゾーンZ2の搬送中、具体的には第一殺菌区間Z21の搬送開始部から第二殺菌区間Z22の搬送終端部に至るまで、処理対象物Tは、製品温度が65℃に維持され、実質的な殺菌が施される。
【0045】
ここで本実施例では、上述したように処理対象物Tは、当該殺菌ゾーンZ2を通過する間、底部が浸漬槽33に漬かるように搬送され、結果、散水による熱処理(殺菌処理)のみならず、浸漬による熱処理も併せて施される。
これは処理対象物Tに施す熱処理を効率的に行うためである。すなわち、散水のみによる熱処理では、処理対象物Tにおいて底部を除く表面(主に側面)が伝熱面となる。つまり、散水では主に処理対象物Tの側面が伝熱面となって、ここに触れながら流れ落ちる処理水Wによって処理対象物Tの熱処理が行われる。
これに対し、散水・浸漬併用では、処理対象物Tの側面に、散水された処理水Wが触れることに加え、浸漬経路R1において処理水Wに漬かった処理対象物Tの底部からも処理水Wの熱が伝わるため、効率よく処理対象物Tに熱を伝えることができる。
【0046】
以下、散水・浸漬併用による熱処理(熱伝達)が良好であることを図4-1・図4-2に基づいて示す。
図4-1・図4-2は、飲料が充填された350ミリリットル缶を処理対象物Tとしたものであり、図中「浸漬アリ」が散水・浸漬併用による殺菌処理、図中「浸漬ナシ」が散水のみによる殺菌処理を示している。データとして示した温度は、飲料缶内の温度を測定した結果である。因みに、温度の測定は、安立計器株式会社 DATA COLLECTOR AM-7002 TYPE Kを用いて行った。
【0047】
また、処理対象物Tたる飲料缶は、第1槽から第7槽(第8槽)を通過する間に、一連の熱処理が行われ、実質的な殺菌処理は、第4槽と第5槽で実施され、ここが上記図2の殺菌ゾーンZ2に該当する。そして、これら第4槽及び第5槽の両区間において、飲料缶を65℃(これが殺菌温度)で10分保持する設定で、実質的な殺菌処理を行うものである。なお、処理対象物Tの浸漬は、ほぼ全ての処理区間、具体的には第1槽~第7槽で行われている。
また、飲料缶が第1槽に入る際の入口温度は6℃であり、一連の熱処理を終えて第7槽から出てくる(第8槽に入る)際の出口温度は40℃である。
【0048】
図4-1・図4-2中に示す品温(処理対象物T)のデータは、太い実線が浸漬アリ(散水・浸漬併用)を示しており、細い実線が浸漬ナシ(散水単独)を示している。
そして、このデータから浸漬アリの方が、殺菌温度到達時間つまり品温が65℃に達するまでのトータルの時間が短いことが確認でき、具体的には図4-2(a)に示すように、7分30秒-7分5秒=25秒の短縮であった。
また浸漬アリの方が、長い時間、殺菌温度である65℃を維持できることが確認でき、具体的には
12分50秒-11分25秒=1分25秒、長く維持することができた。
更に浸漬アリの方が、最高到達温度も高いことが分かり、具体的には
70.9℃-70.3℃=0.6℃高いものであった。ここで浸漬ナシの最高到達温度は、上記のように70.3℃であり、この温度に達する時間も浸漬アリの方が35秒早かった。具体的には図4-2(b)に示すように、
9分45秒-9分10秒=35秒の短縮であった。
更に、浸漬アリの方が、出口温度に到達するトータルの時間も短いことが確認でき、具体的には
24分45秒-24分35秒=10秒の短縮であった。
なお、図4-1・図4-2と図2とは、どちらも殺菌処理であるため、全体的な品温の温度推移としては同様の経過を辿るものであるが、処理対象物Tや条件が必ずしも同一ではないため、例えば槽内の温度等において、必ずしも一致しない点が存在する。
【0049】
(3)冷却ゾーン
その後、処理対象物Tは、一例として上記図2に示すように、冷却ゾーンZ3に搬送され、ここで殺菌直後の高温状態が、徐々に冷却されて行く。具体的には第一徐冷区間Z31で所定の時間、48℃の処理水Wによる徐冷を受ける。次いで第二徐冷区間Z32で所定の時間、33℃の処理水Wによる徐冷を受ける。次いで冷却区間Z33で所定の時間、28℃の処理水Wによる冷却を受ける。なお、各区間の処理水タンク4F~4Hに回収される処理水Wの温度は、いずれも上記温度よりも数度上昇し、例えば処理水タンク4Fでは49~50℃、処理水タンク4Gでは34~35℃、処理水タンク4Hでは29~30℃程度となる。もちろん、ここでも各処理水タンク4F~4Hに貯留された処理水Wの温度が、次のスプレーに供する温度よりも低い場合には、加温装置5F~5Hによって適宜加温するものであり、次のスプレーに供する温度よりも高い場合には、冷却装置6F~6Hによって適宜冷却するものであり、各ノズルパイプ31B・31A・31Hには、常に同じ温度の処理水Wが供給される。
また、このような冷却ゾーンZ3の搬送中に、処理対象物Tは、製品温度が徐々に下降して行くものであり、例えば第一徐冷区間Z31の搬送開始部で65℃、第一徐冷区間Z31の搬送終端部及び第二徐冷区間Z32の搬送開始部で56℃、第二徐冷区間Z32の搬送終端部及び冷却区間Z33の搬送開始部で44℃となり、冷却区間Z33の搬送終端部つまり出口付近で38℃まで冷却される。
【0050】
本実施例では、上述したように昇温ゾーンZ1と冷却ゾーンZ3との間で処理水Wを相互循環させている。具体的には、まず一つ目の相互循環として、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wを、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32のノズルパイプ31Gに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。一方、冷却ゾーンZ3における第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wを、昇温ゾーンZ1における第一予備加熱区間Z11のノズルパイプ31Aに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。
また、二つ目の相互循環として、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wを、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31のノズルパイプ31Fに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。一方、冷却ゾーンZ3における第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留した処理水Wを、昇温ゾーンZ1における第二予備加熱区間Z12のノズルパイプ31Bに移送し、ここから処理対象物Tに向けて吹き付けている。
【0051】
このような相互循環を行うのは、第一予備加熱区間Z11の処理水タンク4Aに貯留された処理水Wの温度が、第二徐冷区間Z32で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、また第二徐冷区間Z32の処理水タンク4Gに貯留された処理水Wの温度が、第一予備加熱区間Z11で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、処理水Wの温度として、互いに適しているためである。
また、第二予備加熱区間Z12の処理水タンク4Bに貯留された処理水Wの温度は、第一徐冷区間Z31で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、また第一徐冷区間Z31の処理水タンク4Fに貯留された処理水Wの温度は、第二予備加熱区間Z12で処理対象物Tに吹き付ける処理水Wの温度とほぼ同じであり、処理水Wの温度として、互いに適しているため、上記のような二組の相互循環が構成されている。
そして、このような相互循環を図ることにより、加温装置5によって行われる蒸気Sによる加熱や、冷却装置6によって行われる上水等による冷却を行って、処理水Wの温度を調整する場合でも、使用するエネルギーを節約することができる。なお、このような処理水Wの相互循環利用を交流と称することもある。
【0052】
〔他の実施例〕
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
まず上述した基本の実施例、特に図2に示す実施例では、殺菌ゾーンZ2のみに浸漬槽33を設ける構成例を示したが、浸漬槽33は冷却ゾーンZ3に設けることもできる。この場合、冷却ゾーンZ3の上方から処理水Wのシャワーリングが施され、下方の浸漬槽33では処理対象物Tの下部が処理水Wに漬かるため、処理対象物Tを効率的に冷却することができる。因みに図2に示す冷却ゾーンZ3、とりわけ第一徐冷区間Z31~第二徐冷区間Z32に、浸漬槽33を設ける際には、第一徐冷区間Z31と第二徐冷区間Z32とでは、処理水Wの温度差が比較的大きいことから、各区間ごとに別々の浸漬槽33を設ける構成や、どちらか一方の区間に浸漬槽33を設ける構成が採り得る。
【0053】
また、先に述べた基本の実施例では、昇温ゾーンZ1及び冷却ゾーンZ3を、ともに三つの区間で形成したが、本発明は、必ずしもこれに限定されるものではない。具体的には、例えば昇温ゾーンZ1及び冷却ゾーンZ3を四つ以上の区間で形成することも可能であるし、あるいは昇温ゾーンZ1を二つの区間で形成することも可能である。また、上述した基本の実施例では、相互循環を二組形成したが、特に上記区間数などに応じて、相互循環は一組だけ設けるようにしても構わない。
【0054】
また、先に述べた基本の実施例では、処理対象物Tを搬送する搬送コンベヤ20(搬送装置2)として、浸漬槽33の処理水中に没入させた際、浮力が生じる樹脂製のコンベヤ(ネットコンベヤ)を適用し、これを浸漬経路R1において安定沈下状態とする水中安定化構造について説明した。しかしながら、搬送コンベヤ20としては、円形断面のロッド本体を多数、搬送方向に並設状態で配設した回転ロッドコンベヤを適用することも可能であるが、これは本発明に関連する参考例である。なお、回転ロッドコンベヤを適用した場合、多数本のロッド本体の全てまたは一部をステンレス素材等の金属素材で構成し、水中安定化構造とすることもできる。因みに、上記回転ロッドコンベヤについては、本出願人が既に特許取得に及んでいる特許第7082382号、特許第7164120号に詳細に記載されており、この記載を援用する。
【符号の説明】
【0055】
1 パストライザ
2 搬送装置
3 ノズル装置
4 処理水タンク
5 加温装置
6 冷却装置

20 搬送コンベヤ
21 リンク要素
21a 連結部
22 連結ピン
23 ターンスプロケット
24 駆動スプロケット

3A ノズル装置(第一予備加熱区間)
3B ノズル装置(第二予備加熱区間)
3C ノズル装置(加熱区間)
3D ノズル装置(第一殺菌区間)
3E ノズル装置(第二殺菌区間)
3F ノズル装置(第一徐冷区間)
3G ノズル装置(第二徐冷区間)
3H ノズル装置(冷却区間)

4A 処理水タンク(第一予備加熱区間)
4B 処理水タンク(第二予備加熱区間)
4C 処理水タンク(加熱区間)
4D 処理水タンク(第一殺菌区間)
4E 処理水タンク(第二殺菌区間)
4F 処理水タンク(第一徐冷区間)
4G 処理水タンク(第二徐冷区間)
4H 処理水タンク(冷却区間)

5A 加温装置(第一予備加熱区間)
5B 加温装置(第二予備加熱区間)
5C 加温装置(加熱区間)
5D 加温装置(第一殺菌区間)
5E 加温装置(第二殺菌区間)
5F 加温装置(第一徐冷区間)
5G 加温装置(第二徐冷区間)
5H 加温装置(冷却区間)

31 ノズルパイプ
31A ノズルパイプ(第一予備加熱区間)
31B ノズルパイプ(第二予備加熱区間)
31C ノズルパイプ(加熱区間)
31D ノズルパイプ(第一殺菌区間)
31E ノズルパイプ(第二殺菌区間)
31F ノズルパイプ(第一徐冷区間)
31G ノズルパイプ(第二徐冷区間)
31H ノズルパイプ(冷却区間)
33 浸漬槽
34 テンショナー
35 支持部材

6A 冷却装置(第一予備加熱区間)
6B 冷却装置(第二予備加熱区間)
6C 冷却装置(加熱区間)
6D 冷却装置(第一殺菌区間)
6E 冷却装置(第二殺菌区間)
6F 冷却装置(第一徐冷区間)
6G 冷却装置(第二徐冷区間)
6H 冷却装置(冷却区間)

T 処理対象物
W 処理水
P ポンプ
S 蒸気
R0 通常搬送経路(常高経路)
R1 浸漬経路
R11 浸漬導入傾斜路
R12 浸漬退出傾斜路

Z1 昇温ゾーン
Z11 第一予備加熱区間
Z12 第二予備加熱区間
Z13 加熱区間

Z2 殺菌ゾーン
Z21 第一殺菌区間
Z22 第二殺菌区間
Z2n 第n殺菌区間

Z3 冷却ゾーン
Z31 第一徐冷区間
Z32 第二徐冷区間
Z33 冷却区間
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を搬送コンベヤによって搬送しながら搬送方向に配設した複数の処理ゾーン毎に所定の処理温度の処理水を、処理対象物の上方に配置したノズル装置から散水し、処理対象物に所定の温度変化を与えるパストライザにおいて、
前記搬送コンベヤには、処理水を散水しながら、併せて処理対象物の底部を処理水中に浸漬する浸漬経路が設けられ、
当該浸漬経路は、散水が行われる通常搬送経路よりも低い位置を走行するように構成され、
且つ当該浸漬経路では、処理水に漬かる処理対象物と、処理水中を走行する搬送コンベヤとを安定沈下状態とする水中安定化構造を具えるものであり、
また前記搬送コンベヤは、複数のリンク要素における前後の連結部が、幅方向において交互に重なるように組み付けられ、交互に重なった連結部を幅方向に貫通する回動自在の連結ピンにより接続されて成り、
前記水中安定化構造は、前記リンク要素を樹脂製の素材で形成し、且つ前記連結ピンを金属製の素材で形成する構成であり、
前記処理対象物は、浸漬経路における搬送中、底部が処理水中に浸漬しながら、底部以外は、上方から散水される処理水を受け、底部も処理水からの伝熱を受ける伝熱面となることを特徴とするパストライザ。
【請求項2】
前記搬送コンベヤは、通常搬送経路から浸漬経路に至る浸漬導入傾斜路が、進行方向に向かって下り傾斜状態に形成されるとともに、浸漬経路から通常搬送経路に至る浸漬退出傾斜路が、進行方向に向かって上り傾斜状態に形成されるものであり、
更に浸漬導入傾斜路と浸漬経路との間にテンショナーが設けられ、且つ浸漬経路と浸漬退出傾斜路との間にテンショナーが設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方のテンショナーを含んで構成されることを特徴とする請求項1記載のパストライザ。
【請求項3】
前記通常搬送経路と浸漬導入傾斜路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
且つ前記浸漬退出傾斜路と通常搬送経路との間に、搬送コンベヤの搬送軌道を維持する支持部材が設けられ、
前記水中安定化構造は、これら双方の支持部材を含んで構成されることを特徴とする請求項記載のパストライザ。