(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171552
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】フィルムの製造方法、フィルムの製造装置及びフィルムの製造システム
(51)【国際特許分類】
B29C 55/02 20060101AFI20241205BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241205BHJP
B29C 41/34 20060101ALI20241205BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20241205BHJP
B29C 55/20 20060101ALI20241205BHJP
B29C 41/28 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B29C55/02
G02B5/30
B29C41/34
B29C55/12
B29C55/20
B29C41/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088619
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関山 宏汰
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】南條 崇
【テーマコード(参考)】
2H149
4F205
4F210
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AA18
2H149CA02
2H149DA02
2H149DA12
2H149DB28
2H149FA02X
2H149FA02Y
2H149FB05
2H149FB06
2H149FD46
4F205AA01
4F205AC05
4F205AG01
4F205AR12
4F205GA07
4F205GB02
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4F210AA01
4F210AC03
4F210AH73
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC03
4F210QC06
4F210QD01
4F210QD04
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG18
4F210QL16
4F210QM15
4F210QW21
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、生産収率を向上させたフィルムの製造方法等を提供することである。
【解決手段】本発明のフィルムの製造方法は、フィルム製造用のドープが、アセチル基の置換度が2.3~3.0の範囲内であるアセチルセルロースを含有し、前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、流延工程、第1延伸工程、少なくとも前記第1及び第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分を残して、前記第1延伸工程において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする第1トリミング工程、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する第2延伸工程、及び第2トリミング工程、を有することを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のベルトを接合した広幅ベルトを用いるフィルムの製造方法であって、
フィルム製造用のドープが、アセチル基の置換度が2.3~3.0の範囲内であるアセチルセルロースを含有し、
前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、
下記工程を有する
ことを特徴とするフィルムの製造方法。
流延工程:前記広幅ベルトを用いて、前記ドープをフィルムに形成する。
第1延伸工程:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング工程:少なくとも前記第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分の一部を残して、前記第1延伸工程において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸工程:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング工程:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【請求項2】
広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の両端のそれぞれに、第2及び第3ベルトを、接合部で接合したベルトである
ことを特徴とする請求項1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記アセチル基の置換度が、2.4~2.6の範囲内である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第2延伸工程において、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、幅の半分以上を前記クリップで挟む
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項5】
第1非トリミング領域の幅手方向の端から、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分までの距離が、前記クリップの幅に対して、0.8倍以下である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項6】
複数のベルトを接合した広幅ベルトを有するフィルムの製造装置であって、
前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、
下記手段を有する
ことを特徴とするフィルムの製造装置。
流延手段:前記広幅ベルトを用いて、フィルム製造用のドープをフィルムに形成する。
第1延伸手段:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング手段:少なくとも前記第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分の一部を残して、前記第1延伸工程において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸手段:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング手段:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成されたフィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【請求項7】
複数のベルトを接合した広幅ベルトを有するフィルムの製造システムであって、
前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、
下記手段を有する
ことを特徴とするフィルムの製造システム。
流延手段:前記広幅ベルトを用いて、フィルム製造用のドープをフィルムに形成する。
第1延伸手段:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング手段:少なくとも前記第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分の一部を残して、前記第1延伸工程において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸手段:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング手段:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成されたフィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの製造方法、フィルムの製造装置及びフィルムの製造システムに関する。より詳しくは、生産収率を向上させたフィルムの製造方法、フィルムの製造装置及びフィルムの製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの大画面化により、広幅の光学フィルムの需要が高まっている。ディスプレイ用のフィルムとしては、アセチルセルロースを含有するフィルムが知られている。アセチルセルロースを含有するフィルムは、フィルム自体が比較的硬く、高倍率の延伸が難しい。そのため、広幅に設計した流延ベルトを使用して、流延工程により製造することが主流となっている。
【0003】
フィルムの品質を確保する観点では、広幅のベルトを導入することが好ましいが、広幅のベルトを新しく作り替えるには、非常にコストがかかってしまう。そこで、従来使用されているベルトを第1ベルトとし、その両端にベルトを接合して広幅のベルトを作製する方法が知られている。
【0004】
特許文献1では、第1金属製シートと第2金属製シートとを溶接してなる移動バンドに、ドープを流出し、製膜する技術が開示されている。また、特許文献2では、金属製の中央ウェブ及び溶接された側ウェブからなる移動バンドに、ドープを流出し、製膜する技術が開示されている。
【0005】
しかし、筐体の軽量化及び薄型化が進み、筐体の内部に組み込まれる光学フィルムについても、薄膜化の需要が高まっている。薄膜化には、厳しい条件下での延伸、具体的には、低温環境下での高倍率の延伸が必要である。加えて、アセチルセルロースを含有するフィルムは比較的硬いため、延伸工程において、クリップ部で十分に把持しづらい。そして、フィルムがクリップから抜けたり、破断したりしやすく、生産収率が低下しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-030601号公報
【特許文献2】特開2012-166537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、生産収率を向上させたフィルムの製造方法、フィルムの製造装置及びフィルムの製造システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、広幅ベルトを用いるフィルムの製造方法において、フィルム製造用のドープが、アセチルセルロースを含有し、広幅ベルトが接合したベルトであり、特定の条件で延伸及びトリミングする工程を有することにより、生産収率を向上できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.複数のベルトを接合した広幅ベルトを用いるフィルムの製造方法であって、
フィルム製造用のドープが、アセチル基の置換度が2.3~3.0の範囲内であるアセチルセルロースを含有し、
前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、
下記工程を有する
ことを特徴とするフィルムの製造方法。
流延工程:前記広幅ベルトを用いて、前記ドープをフィルムに形成する。
第1延伸工程:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング工程:少なくとも前記第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分の一部を残して、前記第1延伸工程において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸工程:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング工程:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【0010】
2.広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の両端のそれぞれに、第2及び第3ベルトを、接合部で接合したベルトである
ことを特徴とする第1項に記載のフィルムの製造方法。
【0011】
3.前記アセチル基の置換度が、2.4~2.6の範囲内である
ことを特徴とする第1項又は第2項に記載のフィルムの製造方法。
【0012】
4.前記第2延伸工程において、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、幅の半分以上を前記クリップで挟む
ことを特徴とする第1項又は第2項に記載のフィルムの製造方法。
【0013】
5.第1非トリミング領域の幅手方向の端から、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分までの距離が、前記クリップの幅に対して、0.8倍以下である
ことを特徴とする第1項又は第2項に記載のフィルムの製造方法。
【0014】
6.複数のベルトを接合した広幅ベルトを有するフィルムの製造装置であって、
前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、
下記手段を有する
ことを特徴とするフィルムの製造装置。
流延手段:前記広幅ベルトを用いて、フィルム製造用のドープをフィルムに形成する。
第1延伸手段:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング手段:少なくとも前記第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分の一部を残して、前記第1延伸工程において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸手段:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング手段:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成されたフィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【0015】
7.複数のベルトを接合した広幅ベルトを有するフィルムの製造システムであって、
前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、
下記手段を有する
ことを特徴とするフィルムの製造システム。
流延手段:前記広幅ベルトを用いて、フィルム製造用のドープをフィルムに形成する。
第1延伸手段:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング手段:少なくとも前記第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分の一部を残して、前記第1延伸工程において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸手段:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング手段:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成されたフィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、生産収率を向上させたフィルムの製造方法、フィルムの製造装置及びフィルムの製造システムを提供することができる。
【0017】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0018】
本発明に係る広幅ベルトは、第1ベルトの幅手方向の端部にベルトを接合して作製される。溶接等の加工によりベルトを接合するため、ベルトの接合部は、その他の部分と比較して、異なる物性を示しやすい。これと連動して、広幅ベルトにドープを流延し、形成されるフィルムにおいても、接合部上で形成されたフィルムの部分は、その他の部分と比較して異なる物性を示しやすい。接合部上で形成されたフィルムの部分について、物性を確認したところ、その他の部分と比較して、延伸工程において、クリップで把持しやすいことがわかった。
【0019】
また、前述のとおり、アセチルセルロースを含有するフィルムは、比較的硬く、延伸工程において、クリップで十分に把持しづらい。しかし、このようなフィルムの、接合部上で形成されるフィルムの部分は、比較的クリップで把持しやすく、延伸しやすい。これにより、フィルムがクリップから抜けたり、破断したりするのを抑制し、生産収率を向上できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1ベルト、第2ベルト及び第3ベルトを接合して作製された広幅ベルトを上から見た模式図
【
図2】広幅ベルト上で形成されるフィルムについての説明図
【
図3】広幅ベルトを用いて形成したフィルムを、延伸及びトリミングをする工程についての説明図
【
図4】広幅ベルトを用いて形成したフィルムを、延伸及びトリミングをする工程についての説明図
【
図5】第1トリミング工程におけるトリミング位置の説明図
【
図6】トリミング工程に用いられるスリッティング装置の一例の要部拡大斜視図
【
図7】第2延伸工程における、クリップを用いるテンター法での延伸の断面模式図
【
図9】本発明の実施例において用いられる用語及び記号の説明図
【
図10】本発明の実施例において用いられる用語及び記号の説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のフィルムの製造方法は、複数のベルトを接合した広幅ベルトを用いるフィルムの製造方法であって、フィルム製造用のドープが、アセチル基の置換度が2.3~3.0の範囲内であるアセチルセルロースを含有し、前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、下記工程を有することを特徴とする。
【0022】
流延工程:前記広幅ベルトを用いて、前記ドープをフィルムに形成する。
第1延伸工程:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング工程:少なくとも前記第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分の一部を残して、前記第1延伸工程において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸工程:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング工程:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0023】
本発明の実施形態としては、フィルムの幅手方向の両端部において、接合部上で形成されたフィルムの部分を、クリップで挟むことができる観点から、広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の両端のそれぞれに、第2及び第3ベルトを、接合部で接合したベルトであることが好ましい。
【0024】
本発明の実施形態としては、位相差発現性の観点から、前記アセチル基の置換度が、2.4~2.6の範囲内であることが好ましい。
【0025】
本発明の実施形態としては、フィルムをクリップでより挟みやすい観点から、前記第2延伸工程において、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、幅の半分以上を前記クリップで挟むことが好ましい。
【0026】
本発明の実施形態としては、接合部上で形成されたフィルムの部分をクリップで挟む観点から、第1非トリミング領域の幅手方向の端から、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分までの距離が、前記クリップの幅に対して、0.8倍以下であることが好ましい。
【0027】
本発明のフィルムの製造装置は、複数のベルトを接合した広幅ベルトを有するフィルムの製造装置であって、前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、下記手段を有することを特徴とする。
流延手段:前記広幅ベルトを用いて、フィルム製造用のドープをフィルムに形成する。
第1延伸手段:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング手段:少なくとも前記第1及び第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分を残して、前記第1延伸手段において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸手段:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング手段:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成されたフィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【0028】
本発明のフィルムの製造システムは、複数のベルトを接合した広幅ベルトを有するフィルムの製造システムであって、前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、下記手段を有することを特徴とする。
流延手段:前記広幅ベルトを用いて、フィルム製造用のドープをフィルムに形成する。
第1延伸手段:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング手段:少なくとも前記第1及び第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分を残して、前記第1延伸手段において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸手段:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング手段:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成されたフィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【0029】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0030】
1.フィルムの製造方法の概要
本発明のフィルムの製造方法は、複数のベルトを接合した広幅ベルトを用いるフィルムの製造方法であって、フィルム製造用のドープが、アセチル基の置換度が2.3~3.0の範囲内であるアセチルセルロースを含有し、前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、下記工程を有することを特徴とする。
【0031】
流延工程:前記広幅ベルトを用いて、前記ドープをフィルムに形成する。
第1延伸工程:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング工程:少なくとも前記第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分の一部を残して、前記第1延伸工程において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸工程:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング工程:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成された前記フィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【0032】
本発明において、「接合部」とは、ベルトの接合により、接合前と物性が変化し、接合に関与していない部分と物性が異なる部分のことをいう。「接合線」とは、接合部の幅手方向に対し垂直な中心線のことをいう。
ベルトにおける「端部」とは、幅手方向の端を含む部分のことをいう。端部の幅手方向における幅は、特に制限されない。また、端(末端)そのもののみも、端部に含まれる。フィルムにおける「端部」とは、幅手方向の端を含む部分のことをいい、端(末端)から、幅手方向の長さの10%以内の領域のことをいう。
【0033】
ベルトの接合方法は、特に制限されず、溶接、接着剤による接着等が挙げられる。
溶接によりベルトを接合する場合、「接合部」は、具体的には、接合前と後の、ベルトの熱伝導率、厚さ及び反射色相の変化量のいずれかが、下記条件a、b又はcを満たす部分(領域)のことをいう。
a)熱伝導率の変化量が、10%以上である。
b)厚さの変化量が、0.01μm以上である。
c)反射色相の変化量ΔL*が、5%以上である。
なお、熱伝導率は、熱伝導率測定器、例えば、「DTC300」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、測定できる。厚さは、赤外線による膜厚測定器、例えば、レーザー変位計やレーザー測定器(キーエンス社製)を用いて、測定できる。反射色相L*は、L*a*b*表色系におけるL*明度を表し、分光測色計、例えば、「CM-26dG」(コニカミノルタ社製)を用いて、測定できる。
【0034】
接合前と後のそれぞれの、ベルトの熱伝導率、厚さ及び反射色相を測定できる場合は、その測定値が、上記条件を満たす部分を、接合部とする。また、接合前の、ベルトの熱伝導率、厚さ及び反射色相を測定できず、接合後のみ測定する場合は、下記の方法で変化量を測定する。
【0035】
幅手方向に、例えば50mmの間隔を有する2点の測定位置で、熱伝導率、厚さ及び反射色相を測定する。なお、2点の測定位置の間隔は、50mmよりも狭くてもよく、必要に応じて調整することが好ましい。そして、2点間での測定値の差異において、上記条件a、b又はcをいずれか満たしている場合、2点のうちどちらか一方が、接合部内に存在し、もう一方が、接合に関与していない部分に存在すると判断できる。なお、2点間での測定値の差異において、上記条件a、b及びcをいずれも満たしていない場合は、2点とも接合部内に存在する、又は2点とも接合に関与していない部分に存在すると判断できる。2点の測定位置を、幅手方向に順にずらして測定していくことにより、接合部と、接合に関与していない部分との境界を判別できる。
【0036】
上記方法において、ベルトの幅手方向の端から接合部までの距離が50mm未満である場合、接合部の端部側の境界を正しく判別できない。この場合、2点の測定位置の間隔を50mmより狭くしてもよい。なお、接合部の端部側とは、接合部のうち、接合線から、ベルトの幅手方向の端側の部分のことをいう。また、接合部の中央側とは、接合部のうち、接合線から、ベルトの幅手方向の端と反対側の部分のことをいう。
【0037】
以下、本発明の実施形態として、第1ベルトの幅手方向の両端部に、第2及び第3ベルトを、それぞれ接合した広幅ベルトを用いる例を示す。ただし、本発明はこれに制限されず、広幅ベルトは、第1及び第2ベルトのみで構成されていてもよい。
【0038】
図1は、第1ベルト16、第2ベルト15及び第3ベルト17を接合して作製された広幅ベルト20を上から見た模式図である。第1ベルト16と第2ベルト15は、接合線13を介して、接合されている。接合線13は、接合部12を、幅手方向において2分割する線である。同様に、第1ベルト16と第3ベルト17は、接合線13を介して、接合されている。接合線13は、接合部12を、幅手方向において2分割する線である。接合部の端部側41は、接合線から、ベルトの幅手方向の端側の部分であり、接合部の中央側42は、接合線から、ベルトの幅手方向の端と反対側の部分である。
【0039】
図2は、広幅ベルト上で形成されるフィルムについての説明図である。広幅ベルト20は、第1ベルト16、第2ベルト15及び第3ベルト17を、接合線13を介して接合されている。広幅ベルト20上に形成されるフィルム19は、第1ベルト上で形成されたフィルムの部分5、第2ベルト上で形成されたフィルムの部分4、及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分6で構成される。また、フィルム19は、接合部上で形成されたフィルムの部分1を有する。これは、広幅ベルト20の接合部12(不図示)上で形成された部分に相当する。
【0040】
本発明では、広幅ベルトを用いて形成したフィルムを多段階延伸する。詳しくは、延伸工程及びトリミング工程を、それぞれ、少なくとも2回以上行う。
【0041】
図3及び
図4は、広幅ベルトを用いて形成したフィルムを、延伸及びトリミングする工程についての説明図である。
【0042】
図3の(a)は、広幅ベルトを用いて形成し、広幅ベルトから剥離したフィルムの、延伸及びトリミングをする前の状態(延伸前フィルム)を示す。接合部上で形成されたフィルムの部分1は、接合線上で形成されたフィルムの部分2を含む。接合線上で形成されたフィルムの部分2を境界として、第1ベルト上で形成されたフィルムの部分5、第2ベルト上で形成されたフィルムの部分4、第3ベルト上で形成されたフィルムの部分6、に分けられる。その後の延伸工程において、クリップ領域3をクリップで挟む。通常、接合される第2及び第3ベルトの幅は、延伸時に使用するクリップの幅よりもはるかに広く、接合部上で形成されたフィルムの部分1とクリップ領域3が重なり合うことはない。
【0043】
図3の(b)は、第1延伸工程時のフィルムの状態を示す。クリップは、クリップ領域3を挟んで、外側(矢印の向き)にフィルムを延伸する。これにより、第1~第3ベルト上で形成されたフィルムの部分全てが、それぞれ延伸する。接合部上で形成されたフィルムの部分1も延伸し、接合部上で形成されたフィルムの部分1の幅は広くなる。
【0044】
図3の(c)は、第1トリミング工程時のフィルムの状態を示す。トリミングにより、不要な第1トリミング領域8を取り除き、第1非トリミング領域7を残す。接合線上で形成されたフィルムの部分2は、第1非トリミング領域7に残される。これにより、第2及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分の一部が、第1非トリミング領域に残される。
【0045】
図4の(a)は、第1トリミング工程後、第2延伸工程前のフィルムの状態を示す。その後の延伸工程において、接合部上で形成されたフィルムの部分1の、少なくとも一部を、クリップで挟む。つまり、接合部上で形成されたフィルムの部分1のうち、クリップ領域3に含まれる領域9が存在する。
図3では、領域9は、接合線上で形成されたフィルムの部分2を含んでいないが、含んでいてもよい。
【0046】
図4の(b)は、第2延伸工程時のフィルムの状態を示す。クリップは、クリップ領域3を挟んで、外側(矢印の向き)にフィルムを延伸する。
【0047】
図4の(c)は、第2トリミング工程時のフィルムの状態を示す。トリミングにより、接合部上で形成されたフィルムの部分1を含む第2トリミング領域11を取り除き、第2非トリミング領域10を残す。残されたフィルムは、そのまま製品化してもよいし、さらに、延伸やその他の加工を行ってもよい。
【0048】
2.フィルムの製造方法の各工程
本発明のフィルムの製造方法は、下記工程を有する。
A)ベルト接合工程
B)流延工程
C)第1延伸工程
D)第1トリミング工程
E)巻き取り及び繰り出し工程
F)第2延伸工程
G)第2トリミング工程
【0049】
本発明において、第1延伸工程及び第2延伸工程は、どちらも、クリップを用いるテンター法による延伸工程である。つまり、本発明では、クリップを用いるテンター法により、少なくとも2回の延伸を行う。このうち、接合部上で形成されたフィルムの部分を、クリップで挟んで延伸する工程を、「第2延伸工程」とする。また、第2延伸工程の前段階の、接合部上で形成されたフィルムの部分以外の、幅手方向の端部をクリップで挟んで延伸する工程を、「第1延伸工程」とする。
【0050】
本発明において、第1延伸工程と第2延伸工程との間に行うトリミング工程を、「第1トリミング工程」とする。また、第2延伸工程後に行うトリミング工程を、「第2トリミング工程」とする。
【0051】
なお、延伸工程及びトリミング工程は、それぞれ2回以上行ってもよい。延伸工程及びトリミング工程を、第1工程の前に、更に行ってもよいし、第1工程と第2工程の間に更に行ってもよいし、第2工程の後に更に行ってもよい。
また、延伸工程やトリミング工程以外のフィルム加工を行ってもよい。
【0052】
以下、各工程について説明する。
【0053】
A)ベルト接合工程
ベルト接合工程では、二つ又は三つのベルトを接合し、広幅ベルトを作製する。
従来使用されているベルトを第1ベルトとし、その端部にベルトを接合することにより、低コストで広幅のベルトを作製できる。また、ベルトの幅が狭い方が、安定した品質のベルトを作製できる。そのため、直接広幅のベルトを作製するよりも、幅の狭いベルトを接合する方が、安定した品質の広幅のベルトを作製できる。
【0054】
第1ベルトの幅手方向の端部に、ベルトを接合し、広幅ベルトを作製する。接合は、片方の端部のみに行ってもよいし、両方の端部に行ってもよい。本発明において、片方の端部のみに接合する場合、接合するベルトのことを、「第2ベルト」と称する。また、両方の端部に接合する場合、接合する二つのベルトのことを、それぞれ、「第2ベルト」及び「第3ベルト」と称する。なお、二つのベルトのうち、どちらを第2ベルト又は第3ベルトと称してもよい。
本発明に係る広幅ベルトは、第1ベルト及び第2ベルトを接合して作製、又は第1ベルト、第2ベルト及び第3ベルトを接合して作製される。
【0055】
延伸する際、両端のクリップが、それぞれ、接合部上で形成されたフィルムの部分の、少なくとも一部を挟むことが好ましい。そのため、広幅ベルトは、第1ベルトの両方の端部に、それぞれ、第2ベルト及び第3ベルトを接合することが好ましい。
【0056】
本発明に係る広幅ベルトは、流延支持体として機能する。ベルトとしては、例えば、金属製のものが挙げられ、金属製のベルトを接合する方法としては溶接が挙げられる。
以下、一例として、溶接によりベルトを接合する方法について説明する。
【0057】
第1~第3ベルトは、いずれも金属製のシート材であることが好ましい。第1~第3ベルトは、同じ素材から形成されることが好ましく、互いに同一の原料及び形成工程を経て形成されることがより好ましい。例えば、第1~第3ベルトは、ステンレス鋼から形成されることが好ましい。
【0058】
本発明に係る広幅ベルトは、環状の無端のベルトであることが好ましい。金属製のシート材の、長手方向における一端と他端とを接着又は溶接することにより、環状の無端のベルトとすることができる。
【0059】
第1ベルトは、従来公知の流延支持体を用いることが好ましい。また、最終的に、接合部上で形成されたフィルムの部分はトリミングされる観点から、第1ベルトは、第2及び第3ベルトよりも幅が広いことが好ましい。第1ベルトの幅は、1500~2100mmの範囲内であることが好ましく、第2及び第3ベルトの幅は、50~500mmの範囲内であることが好ましい。
【0060】
溶接は、長手方向に行う。溶接装置としては、特に制限されず、例えば、レーザー溶接装置が挙げられる。レーザー溶接装置としては、CO2レーザー溶接装置、YAGレーザー溶接装置等が挙げられる。
【0061】
例えば、CO2レーザー溶接装置は、集光したレーザー光を射出して、照射対象としての第1~第3ベルトにレーザー光を照射する。これにより、第1~第3ベルトを溶融して接合する。溶接装置は、レーザー発振器と、このレーザー発振器から案内されてきたレーザー光を集光して射出する溶接装置本体を備える。また、レーザー光を照射するにあたりCO2ガスを供給するガス供給部を備える。CO2ガスは、第1~第3ベルトの酸化を防止する。
【0062】
レーザー溶接装置に代えて、TIG溶接(Tungsten Inert Gas welding)装置を用いてもよい。TIG溶接とは、周知のように、アークを熱源とするアーク溶接のひとつである。TIG溶接では、シールドガスとしてイナートガス(不活性ガス)を用い、電極にはタングステン又はタングステン合金を用いる。なお、TIG溶接とレーザー溶接とを組み合わせたハイブリッド溶接としてもよい。
【0063】
溶接により接合部が形成される。接合線及びその周辺を含む接合部の内部には、溶接により生じた、ひずみに起因する応力が残ることがある。接合部を、加熱することにより、内部に残る応力を除去できる。応力を除去することにより、長時間連続して溶液製膜方法でフィルムを製造しても、接合部の変形を抑えることができる。
【0064】
加熱による接合部の温度は、応力を除去できる温度であれば、特に制限されない。例えば、ベルトの材料がステンレス鋼である場合、接合部の温度は、100~200℃の範囲内であることが好ましく、120~180℃の範囲内であることがより好ましい。
【0065】
応力を除去した広幅ベルトは、巻取装置により、ロール状に巻き取られることが好ましい。巻取装置は、第1~第3ベルトの張力を制御する手段としても作用する。第1~第3ベルトの張力が一定に保持されるように、巻取装置のトルクを制御することが好ましい。
【0066】
広幅ベルトは、例えば、特開2012-030601号公報の段落0013~0073に記載の方法で作製できる。
【0067】
B)流延工程
流延工程では、広幅ベルトを用いて、フィルム製造用のドープをフィルムに形成する。
以下、フィルムの構成材料及び形成方法について説明する。
【0068】
(1)フィルムの構成材料
本発明に係るフィルムは、アセチル基の置換度が2.3~3.0の範囲内であるアセチルセルロースを含有する。本発明のフィルム製造方法では、アセチルセルロースを含有するフィルムでも、十分に延伸でき、生産収率を向上できる。
なお、その他の材料は、特に制限されない。必要に応じて、種々の添加剤を用いてもよい。
【0069】
(1.1)アセチルセルロース
セルロースは、β-グルコースが、β-1,4-グリコシド結合により直鎖状につながった高分子である。そして、セルロースエステルは、1グルコース単位中の2位、3位及び6位のヒドロキシ基(-OH)のうち一部又は全部の水素原子が、アシル基で置換されたセルロースである。アシル基が、アセチル基であるセルロースエステルを、「アセチルセルロース」という。
【0070】
本発明に係るアセチルセルロースのアセチル基の置換度は、2.3~3.0の範囲内である。置換度は、2.4~2.6の範囲内であることが好ましい。本発明では、上記範囲内の比較的延伸しづらいアセチルセルロースフィルムでも、十分に延伸できる。
【0071】
(アセチル基の置換度)
アセチル基の置換度は、1グルコース単位当たりのアセチル基の平均数を表す。つまり、1グルコース単位中の2位、3位及び6位のヒドロキシ基の水素原子のうち、いくつの水素原子がアセチル基に置換されているかを表す。
したがって、アセチル基の置換度の最大値は3.0であり、この場合、2位、3位及び6位のヒドロキシ基の水素原子全てが、アセチル基で置換されていることを意味する。
【0072】
アセチル基は、1グルコース単位中の2位、3位及び6位に平均的に置換していてもよいし、分布をもって置換していてもよい。
アセチル基の置換度は、ASTM-D817-96に規定の方法により求められる。
【0073】
所望の光学特性を得る観点から、置換度の異なるアセチルセルロースを混合して用いてもよい。置換度の異なるアセチルセルロースの混合比率は、特に制限されない。
【0074】
機械強度の観点から、アセチルセルロースの数平均分子量(Mn)は、2×104~3×105の範囲内であることが好ましく、2×104~1.2×105の範囲内であることがより好ましく、4×104~8×104の範囲内であることが更に好ましい。
【0075】
機械強度の観点から、アセチルセルロースの重量平均分子量(Mw)は、2×104~1×106の範囲内であることが好ましく、2×104~1.2×105の範囲内であることがより好ましく、4×104~8×104の範囲内であることが更に好ましい。
アセチルセルロースの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、下記の方法で測定できる。
【0076】
<ゲルパーミエーションクロマトグラフィー>
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(以上、昭和電工(株)製)を3本接続して使用
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0mL/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=500~2800000の範囲内の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0077】
アセチルセルロースは、公知の方法により合成できる。
【0078】
アセチルセルロースの原料セルロースとしては、特に制限されず、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等が挙げられる。原料セルロース、酢酸、無水酢酸及び触媒(硫酸等)を混合して、セルロースをエステル化する。なお、セルロースのトリエステルができるまで反応を進める。トリエステルにおいては、1グルコース単位中の3個のヒドロキシ基の水素原子は、全てアセチル基で置換されている。
【0079】
次いで、セルロースのトリエステルを加水分解することで、所望のアセチル置換度を有するアセチルセルロースが得られる。
その後、ろ過、沈殿、水洗、脱水、乾燥等の工程を経て、最終的にアセチルセルロースが得られる。具体的には、特開平10-45804号公報に記載の方法を参考にして合成できる。
【0080】
アセチルセルロースの市販品としては、「LM80、L20、L30、L40、L50」(以上、ダイセル社製)、「Ca398-3、Ca398-6、Ca398-10、Ca398-30、Ca394-60S」(以上、イーストマンケミカル社製)等が挙げられる。
【0081】
(1.2)その他の添加剤
その他の添加剤としては、例えば、公知の加水分解防止剤、位相差調整剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、微粒子等が挙げられる。
【0082】
(2)フィルムの形成方法
フィルムは、溶液流延法で形成しても溶融流延法で形成してもよい。
以下、一例として、溶液流延法による形成方法を説明するが、本発明はこれに制限されない。
【0083】
溶液流延法は、アセチルセルロース等の材料を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを広幅ベルト上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、及びウェブを広幅ベルトから剥離する工程、を有する。
なお、本発明において、「ドープ」とは、フィルムの材料を溶剤に溶解させたもののことをいう。「ウェブ」とは、ドープを広幅ベルト上に流延することにより形成される、広幅ベルト上の流延膜のことをいう。「フィルム」とは、広幅ベルトから剥離する直前、又は剥離した後の、残留溶媒量を調整したウェブのことをいう。
【0084】
(2.1)ドープの調製
ドープにおけるアセチルセルロースの含有量は、大きい方が、広幅ベルトに流延した後の乾燥負荷を低減できて好ましい。しかし、アセチルセルロースの含有量が、大き過ぎると、ドープの濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する観点から、アセチルセルロースの含有量は、ドープの全質量に対して、10~35質量%の範囲内であることが好ましく、15~25質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0085】
溶剤は、一種単独で含有していても、二種以上を含有していてもよい。生産効率の観点から、アセチルセルロースの良溶剤と貧溶剤は、混合して含有されることが好ましい。さらに、アセチルセルロースの溶解性の観点から、良溶剤の方が、貧溶剤よりも多く含有していることが好ましい。
【0086】
良溶剤と貧溶剤の混合比率は、良溶剤が70~98質量%の範囲内であることが好ましく、貧溶剤が2~30質量%の範囲内であることが好ましい。なお、ここでの「良溶剤」とは、アセチルセルロースを単独で溶解するもののことをいう。「貧溶剤」とは、アセチルセルロースを単独で膨潤する、又は溶解しないもののことをいう。
【0087】
良溶剤は、特に制限されず、例えば、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。中でも、メチレンクロライド又は酢酸メチルであることが好ましい。
【0088】
貧溶剤は、特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、n-ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が挙げられる。また、ドープ中には、水が、0.01~2質量%の範囲内で含有していることが好ましい。
【0089】
アセチルセルロースの溶解に用いられる溶剤は、後述するウェブの乾燥によりフィルムから除去された溶剤を回収し、これを再利用してもよい。回収溶剤中に、例えば可塑剤、紫外線吸収剤、ポリマー、モノマー成分などの添加剤が、微量含有されていることがある。回収溶剤は、これらの添加剤が含まれていても、好ましく再利用することができる。必要であれば、回収溶剤を精製してもよい。
【0090】
アセチルセルロースの溶解は、公知の方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると、常圧における沸点以上に溶剤を加熱できる。常圧下での溶剤の沸点温度より高い温度で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない温度で、溶剤を加熱しながら、アセチルセルロースを撹拌溶解する。これにより、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止できる。また、アセチルセルロースを貧溶剤と混合して湿潤又は膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解してもよい。
【0091】
加圧は、窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0092】
溶剤の加熱温度は、45~120℃の範囲内であることが好ましく、60~110℃の範囲内であることがより好ましく、70~105℃の範囲内であることが更に好ましい。
圧力は、設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
加熱温度が上記範囲内であることにより、加圧の程度を抑えつつ、アセチルセルロースを十分に溶解でき、生産性を向上できる。
【0093】
アセチルセルロースの溶解は、冷却溶解法を用いてもよい。冷却溶解法により、酢酸メチルなどの溶剤にアセチルセルロースを溶解できる。
【0094】
溶剤にアセチルセルロースを溶解したアセチルセルロース溶液を、濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材の絶対濾過精度は、0.008mm以下であることが好ましく、0.001~0.008mmの範囲内であることがより好ましく、0.003~0.006mmの範囲内であることが更に好ましい。絶対濾過精度が、0.008mm以下であることにより、不溶物等を十分除去できる。また、絶対濾過精度が、0.001mm以上であることにより、ろ過材の目詰まりを抑制できる。
【0095】
濾過材の材質は、特に制限されず、公知の濾材を使用することができる。繊維の脱落等がない観点から、例えば、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾過材や、ステンレススティール等の金属製の濾過材が挙げられる。
【0096】
濾過により、原料のアセチルセルロースに含まれる不純物、特に輝点異物を、除去又は低減することが好ましい。「輝点異物」とは、下記の操作により生じる異物のことをいう。詳しくは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間にアセチルセルロースフィルム等を置く。そして、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことをいう。径が、0.01mm以上である輝点数は、200個/cm2以下であることが好ましく、100個/cm2以下であることがより好ましく、50個/m2以下であることが更に好ましく、10個/cm2以下であることが特に好ましい。また、径が0.01mm以下の輝点も、数が少ない方が好ましい。
【0097】
ドープの濾過は、公知の方法を用いることができる。常圧下での溶剤の沸点温度より高い温度で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない温度で、ドープを加熱しながら濾過することが好ましい。これにより、濾過前後の濾圧の差(差圧)の上昇を小さくできる。
【0098】
ドープの加熱温度は、45~120℃の範囲内であることが好ましく、45~70℃の範囲内であることがより好ましく、45~55℃の範囲内であることが更に好ましい。濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は、1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0099】
(2.2)ドープの流延
調製したドープを、送液ポンプに通して加圧ダイに送液する。そして、広幅ベルト上の流延位置に、加圧ダイのスリットからドープを流延する。
【0100】
ダイは、ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすい観点から、加圧ダイであることが好ましい。加圧ダイとしては、例えば、コートハンガーダイ、Tダイ等が挙げられる。製膜速度を上げる観点から、加圧ダイを広幅ベルト上に2基以上設け、ドープ量を分割して積層してもよい。
【0101】
流延(キャスト)の幅は、ベルトの幅に応じて、例えば、1~4mの範囲内であることが好ましく、1.3~3mの範囲内であることがより好ましく、1.5~2.8mの範囲内であることが更に好ましい。
【0102】
流延工程における広幅ベルトの表面温度は、-50℃以上、溶剤の沸点未満の範囲内であることが好ましい。表面温度を高くすることにより、流延膜(ウェブ)の乾燥速度を速くできる。また、表面温度を高くしすぎないことにより、ウェブの発泡や平面性の劣化を抑制できる。
【0103】
広幅ベルトの表面温度は、0~55℃の範囲内であることが好ましく、25~50℃の範囲内であることがより好ましい。その他、広幅ベルトの表面を冷却することにより、ウェブをゲル化させ、残留溶媒を多く含んだ状態でウェブをドラムから剥離してもよい。
【0104】
広幅ベルトの温度を制御する方法は、特に制限されず、温風又は冷風を吹きかける方法や、温水を広幅ベルトの裏側に接触させる方法が挙げられる。温水を用いる方法は、熱の伝達が効率的に行われるため、広幅ベルトの温度が一定になるまでの時間が短く、好ましい。温風を用いる方法は、目的の広幅ベルトの温度よりも高い温度の風を用いる必要がある。
【0105】
(2.3)ウェブの乾燥
ウェブを広幅ベルト上で乾燥させ、溶媒を除去する。そして、剥離時の残留溶媒(溶剤)量を調整する。
【0106】
乾燥方法としては、ウェブ側から風を吹かせる方法、広幅ベルトの裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等が挙げられる。中でも、乾燥効率の観点から、広幅ベルトの裏面から液体により伝熱させる方法であることが好ましい。また、これらの乾燥方法を組み合わせてもよい。
【0107】
流延後のウェブを、30~100℃の範囲内の雰囲気下で、広幅ベルト上で乾燥させることが好ましい。30~100℃の範囲内の雰囲気下に維持するには、温風をウェブ上面に当てる、又は赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
【0108】
(2.4)フィルムの剥離
ウェブを乾燥させ、フィルムとし、剥離位置で剥離する。
【0109】
広幅ベルト上の剥離位置における剥離温度は、10~40℃の範囲内であることが好ましく、11~30℃の範囲内であることがより好ましい。広幅ベルトからフィルムを剥離する際の剥離張力は、例えば、196~245N/mの範囲内である。ただし、剥離の際に皺が入りやすい場合は、190N/m以下の剥離張力で剥離してもよい。また、剥離張力をかけることにより、フィルムを延伸してもよい。
【0110】
平面性の観点から、ウェブを広幅ベルトから剥離する際の、ウェブにおける残留溶媒(溶剤)量は、10~150質量%の範囲内であることが好ましく、20~40質量%の範囲内、又は60~130質量%の範囲内であることがより好ましく、20~30質量%の範囲内、又は70~120質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0111】
本発明において、残留溶媒量は下記式で定義される。
【0112】
残留溶媒量(質量%)={(M-N)/N}×100
なお、Mは、ウェブ又はフィルム試料の質量である。Nは、ウェブ又はフィルム試料を115℃で1時間、加熱した後の質量である。なお、ウェブ又はフィルム試料は、製造中又は製造後の任意の時点で採取できる。
【0113】
以下、広幅ベルトから剥離し、クリップを用いるテンター法での延伸を行う前のフィルムを、「延伸前フィルム」と称する。
【0114】
C)第1延伸工程
第1延伸工程では、フィルムを、広幅ベルトから剥離した後に、延伸する。上記延伸前フィルムは、第1延伸工程の前に、クリップを用いるテンター法での延伸以外のフィルム加工を行ってもよい。
【0115】
フィルム加工としては、特に制限されず、フィルムの乾燥等が挙げられる。その他、テンター法以外の方法による延伸を行ってもよい。この場合、延伸方向は、特に制限されず、幅手方向に延伸しても、長手方向に延伸してもよい。
【0116】
第1延伸工程直前の、延伸前フィルムの厚さは、10~200μmの範囲内であることが好ましく、20~100μmの範囲内であることがより好ましい。また、延伸前フィルムの長手方向(搬送方向)の厚さムラは、0.30μm以下であることが好ましく、0.25μm以下であることがより好ましく、0.20μm以下であることが更に好ましい。上記範囲内であることにより、最終的に得られるフィルムの、リターデーション、配向角等の光学特性のバラツキを抑制できる。
【0117】
第1延伸工程直前の、延伸前フィルムの幅は、特に制限されず、例えば、600~2500mmの範囲内であることが好ましく、800~2200mmの範囲内であることが好ましい。
【0118】
延伸時の温度における、延伸前フィルムの弾性率は、ヤング率で、0.01~5000MPaの範囲内であることが好ましく、0.1~500MPaの範囲内であることがより好ましい。弾性率が0.01MPa以上であることにより、延伸時及び延伸後において、ある程度の収縮率が得られ、皺が残りにくい。また、弾性率が5000MPa以下であることにより、延伸時にかかる張力が抑えられ、テンターに対する負荷を抑えることができる。
【0119】
延伸前フィルムとしては、無配向であってもよいし、あらかじめ縦方向又は横方向に配向を有していてもよい。また、必要に応じて、延伸前フィルムの、配向の幅手方向の分布が、弓なり状、いわゆるボウイングを成していてもよい。つまり、延伸前フィルムの配向状態を適宜調整することにより、最終的に得られるフィルムの配向状態を調整することができる。
【0120】
第1延伸工程直前の、延伸前フィルムの残留溶媒量は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。延伸前フィルムは、乾燥させて、残留溶媒量を調整できる。乾燥手段は、特に制限されず、例えば、温風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等が挙げられる。中でも、簡便さの観点から、温風であることが好ましい。乾燥温度は、40~200℃の範囲内であることが好ましく、段階的に高くしていくことが好ましい。
【0121】
また、フィルムの乾燥と同時に、テンター法以外の延伸を行ってもよい。例えば、上下に配置した多数のロールに、延伸前フィルムを交互に通し、乾燥させながら延伸する、ロール乾燥方式が挙げられる。
【0122】
第1延伸工程では、接合部上で形成されたフィルムの部分以外の、幅手方向の端部をクリップで挟んで延伸する。実際には、
図3の(a)で示すように、クリップの幅よりも、第2及び第3ベルトの幅が、はるかに大きい。そのため、第1延伸工程では、接合部上で形成されたフィルムの部分を、クリップで挟むことができず、その外側の、幅手方向の端部をクリップで挟むことになる。
【0123】
クリップを用いるテンター法では、まず、フィルムの幅手方向の両端を、クリップで固定する。そして、クリップの間隔を進行方向に広げて、縦方向に延伸する。同様に横方向に広げて横方向に延伸する。また、縦横同時に広げて縦横両方向に延伸してもよい。
【0124】
延伸時のクリップの駆動は、軸のない電気モーターを用いるリニアドライブ方式で行うことが好ましい。これにより、クリップが滑らかに動き、破断等の損失を低減できる。
【0125】
第1延伸工程では、フィルムの長手方向、及び長手方向とフィルム面内で直交する方向、即ち幅手方向に対して、逐次又は同時に、二軸延伸又は一軸延伸することが好ましい。
【0126】
ここで、第1延伸工程においてクリップで挟む領域は、特にクリップで把持しやすい特性を有していないため、延伸倍率は、第2延伸工程に比べて低く設定することが好ましい。互いに直交する二軸方向の延伸倍率は、長手方向において、0.8~1.5倍の範囲内であることが好ましく、0.8~1.0倍の範囲内であることがより好ましい。また、幅手方向において、1.1~2.5倍の範囲内であることが好ましく、1.1~2.0倍の範囲内であることがより好ましい。
【0127】
延伸温度は、120~200℃の範囲内であることが好ましく、150~200℃の範囲内であることがより好ましく、150℃超、190℃以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0128】
D)第1トリミング工程
第1トリミング工程では、少なくとも第2ベルト上で形成されたフィルムの部分の一部を残して、第1延伸工程において延伸されたフィルムの幅手方向の端部をトリミングする。広幅ベルトが第3ベルトを有する場合、第3ベルト上で形成されたフィルムの部分の一部も残すことが好ましい。
【0129】
図3の(c)で示すように、接合線2は、第1ベルト上で形成されたフィルムの部分と第2ベルト上で形成されたフィルムの部分の境界である。そして、第2ベルト上で形成されたフィルムの部分を残して、すなわち、接合線2の外側でトリミングする。また、このとき、第2延伸工程において、接合部上で形成されたフィルムの部分をクリップで挟めるよう、トリミング位置を調整することが好ましい。
【0130】
本発明において、「クリップの幅」とは、クリップが挟むことのできるフィルムの幅のことをいう。また、「第1非トリミング領域の幅手方向の端から、接合部上で形成されたフィルムの部分までの距離」とは、非トリミング領域の幅手方向の端から、接合部上で形成されたフィルムの部分までの最短距離のことをいう。なお、ここでの「端」とは、第1非トリミング領域の境界のことをいう。
【0131】
図5は、第1トリミング工程におけるトリミング位置の説明図である。第1トリミング工程により、トリミング領域8と、非トリミング領域7に分けるとする。クリップ21は、実質、クリップの幅22の領域を挟むことができるとする。
【0132】
(a)の場合、第1非トリミング領域7の幅手方向の端から、接合部上で形成されたフィルムの部分1までの距離23は、クリップの幅22の0.8倍である。このとき、第2延伸工程において、接合部上で形成されたフィルムの部分1の一部を、クリップで挟むことができる。
【0133】
(b)の場合、非トリミング領域7の幅手方向の端から、接合部上で形成されたフィルムの部分1までの距離23は、クリップの幅22の1倍超である。このとき、第2延伸工程において、接合部上で形成されたフィルムの部分1を、全くクリップで挟むことができない。
【0134】
(c)の場合、第1非トリミング領域7の幅手方向の端から、接合部上で形成されたフィルムの部分1までの距離23は、0.8倍未満である。また、非トリミング領域7の幅手方向の端から、接合線上で形成されたフィルムの部分2までの距離24は、クリップの幅22よりも小さい。このとき、第2延伸工程において、接合部上で形成されたフィルムの部分1の一部、及び接合線上で形成されたフィルムの部分2をクリップで挟むことができる。つまり、接合部上で形成されたフィルムの部分1の、幅の半分以上をクリップで挟むことができる。
【0135】
また、(d)の場合のように、接合部上で形成されたフィルムの部分1を一部トリミングしてもよい。
【0136】
以下、フィルムのトリミングの一例について説明するが、本発明は、これに制限されない。
【0137】
図6は、トリミング工程に用いられるスリッティング装置の一例の要部拡大斜視図である。スリッティング装置30は、フィルムの幅手方向の両端部で、それぞれフィルムの上側に配置される。スリッティング装置30には、第1スリッティング装置31と第2スリッティング装置32が、対になって備えられている。第1スリッティング装置31と第2スリッティング装置32は、フィルムの長手方向に1~20mの間隔(D)をあけて、互い違い状に配置されている。
【0138】
スリッティング装置30によりトリミングされた、幅手方向の両端部のフィルム耳切り部40は、一対の、第1引取りロール33、及び第2引取りロール34によって、それぞれ下方に引き取られて除去されることが好ましい。引き取られたフィルム耳切り部40は、フィルムの製造原料として再使用される。
【0139】
第1スリッティング装置31と第2スリッティング装置32が、フィルムの長手方向に、所定間隔(D)をあけて、互い違い状に配置されることが好ましい。これにより、フィルムの幅手方向の両端部をスリットする際、フィルムにかかる応力は、それぞれのスリッティング装置31及び32の反対側に逃げることができる。その結果、破断を抑制でき、かつ小さなシワや擦りキズの発生を抑制でき、光ムラの少ない高品質のフィルムを製造できる。
【0140】
詳しくは、フィルムのスリット時に小さなシワが入ると、このシワが原因でフィルムに微小なキズが発生する。フィルムの破断には至らない場合でも、シワが一度でも発生するとシワが残留し、搬送による擦りキズが発生する。そして、この擦りキズが原因で、光ムラが発生することがわかった。しかし、当該スリッティング装置を用いることにより、シワの発生を抑制できるため、光ムラの少ない高品質のフィルムを製造できる。
【0141】
そして、この傾向は、薄膜フィルムで特に顕著に表れる。極めて薄いフィルムや、破断強度の低いフィルムをトリミングする際、破断の危険性を低減できる。
【0142】
互い違い状に配置されたスリッティング装置31及び32は、それぞれフィルムの幅手方向に移動可能であることが好ましい。スリッティング装置31及び32の移動により、フィルムの幅手方向の両端部のスリット幅を変更でき、トリミング位置を調整できる。
【0143】
スリットされるフィルム耳切り部40の幅変更量が、フィルムの幅手方向の両端部の片側で、30~300mmとなされていることが好ましい。
【0144】
スリッティング装置31及び32の移動による、フィルムの幅手方向の両端部のスリット幅の変更速度が、スリッティング装置31及び32の片側で、10~100mm/minの範囲内であることが好ましい。
【0145】
スリット幅の変更量及び変更速度が上記範囲内であることにより、スリット時に、フィルムにかかる応力は、スリッティング装置31及び32のそれぞれの反対側に逃げることができる。その結果、小さなシワや擦りキズの発生を抑制でき、光ムラの少ない高品質のフィルムを製造できる。
【0146】
トリミング工程において、フィルムの走行速度は、10~200m/minの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であることにより、高品質のフィルムを製造でき、かつフィルムの生産速度の高速化にも対応できる。
【0147】
E)巻き取り及び繰り出し工程
必要に応じて、第1トリミング工程により得られる第1非トリミング領域のフィルムを、ロール状に巻き取り、第2延伸工程の際に繰り出すことが好ましい。なお、巻き取り及び繰り出し工程は、第1トリミング工程と第2延伸工程との間で行われればよい。
【0148】
例えば、第1トリミング工程により得られたフィルムをロール状に巻き取って保管しておく。そして、必要に応じて、フィルムを取り出し、ロールから繰り出して第2延伸工程を行う。これにより、少量多品種のフィルムの製造が可能である。
また、巻き取り及び繰り出し工程を行わず、引き続き、第2延伸工程を行ってもよい。
【0149】
F)第2延伸工程
第2延伸工程では、接合部上で形成されたフィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、フィルムを延伸する。
【0150】
前述のとおり、第1トリミング工程において、トリミング位置を調整する。これにより、接合部上で形成されたフィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟んで、フィルムを延伸することができる。
【0151】
図7は、第2延伸工程における、クリップを用いるテンター法での延伸の断面模式図である。第1非トリミング領域7で構成されるフィルムは、第1ベルト上で形成されたフィルムの部分5、第2ベルト上で形成されたフィルムの部分4、及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分6を有する。そして、フィルムの両端を、クリップ21で挟んで延伸する。なお、
図7においては、接合部上で形成されたフィルムの部分1の全てが、クリップ21で挟まれている。
【0152】
第2延伸工程において、接合部上で形成されたフィルムの部分の、幅の半分以上をクリップで挟むことが好ましい。すなわち、接合線上で形成されたフィルムの部分をクリップで挟むことが好ましい。
【0153】
接合部上で形成されたフィルムの部分は、その他の部分と比較して異なる物性を示しやすく、中でも、接合線上で形成されたフィルムの部分は最も顕著である。そして、接合線上で形成されたフィルムの部分は、クリップで把持しやすい。
【0154】
また、第1非トリミング領域の幅手方向の端から、接合部上で形成されたフィルムの部分までの距離が、クリップの幅に対して、0.8倍以下であることが好ましい。すなわち、クリップで挟む領域の20%以上が、接合部上で形成されたフィルムの部分であることが好ましい。これにより、フィルムを十分に把持できる。
【0155】
第2延伸工程は、延伸倍率及び延伸温度を除いて、第1延伸工程と同様の手順及び条件で行うことができる。
【0156】
第2延伸工程においてクリップで挟む領域は、クリップで把持しやすい特性を有しているため、延伸倍率は、第1延伸工程よりも高く設定できる。互いに直交する二軸方向の延伸倍率は、長手方向において、0.8~1.5倍の範囲内であることが好ましく、0.8~1.0倍の範囲内であることがより好ましい。また、幅手方向において、1.1~2.5倍の範囲内であることが好ましく、1.1~2.0倍の範囲内であることがより好ましい。
【0157】
延伸温度は、120~200℃の範囲内であることが好ましく、150~200℃の範囲内であることがより好ましく、150℃超、190℃以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0158】
G)第2トリミング工程
第2トリミング工程では、第2延伸工程において延伸されたフィルムの、接合部上で形成されたフィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。なお、接合部上で形成されたフィルムの部分は、全てトリミングされることが好ましい。第2トリミング工程により、第2トリミング領域と、第2非トリミング領域に分ける。第2非トリミング領域は、接合部上で形成されたフィルムの部分を有さず、第1ベルト上で形成されたフィルムの部分のみで構成される。この第2非トリミング領域のフィルムを回収し、製品フィルムとする。
【0159】
第2トリミング工程は、トリミング位置の条件を除いて、第1トリミング工程と同様の手順及び条件で行うことができる。
【0160】
3.フィルムの物性
(厚さ)
最終的に得られる製品フィルムの厚さは、10~200μmの範囲内であることが好ましく、10~100μmの範囲内であることがより好ましく、20~60μmの範囲内であることが更に好ましい。
【0161】
(幅)
製品フィルムの幅は、1~4mの範囲内であることが好ましく、1.4~4mの範囲内であることがより好ましく、1.6~3mの範囲内であることが更に好ましい。4m以下であることにより、フィルムの搬送が可能である。
【0162】
(配向角)
製品フィルムの遅相軸又は進相軸がフィルム面内に存在する場合、製膜方向(長手方向)とのなす角θ1とすると、θ1は、-1~1°の範囲内であることが好ましく、-0.5~0.5°の範囲内であることがより好ましく、-0.1~0.1°の範囲内であることが更に好ましい。
【0163】
このθ1は配向角として定義でき、θ1は、自動複屈折計「KOBRA(登録商標)-21ADH」(王子計測機器(株)製)を用いて測定できる。θ1が上記範囲内であることにより、表示画像において高い輝度が得られる。また、光漏れを抑制又は防止でき、表示装置においては、忠実に色を再現できる。
【0164】
(透湿度)
製品フィルムの透湿度は、40℃、90%RHで、300~1800g/m2・24hの範囲内であることが好ましく、400~1500g/m2・24hの範囲内であることがより好ましく、40~1300g/m2・24hの範囲内であることが更に好ましい。透湿度は、JIS Z 0208に記載の方法に準拠して測定できる。
【0165】
(破断伸度)
製品フィルムの破断伸度は、5~80%の範囲内であることが好ましく、10~50%の範囲内であることがより好ましい。
【0166】
(可視光透過率)
製品フィルムの可視光透過率は、90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。
【0167】
(位相差値)
製品フィルムは、液晶層を塗布することにより、更に広い範囲にわたるリターデーション値(位相差値)が得られる。
【0168】
製品フィルムの面内リターデーション値(Ro)及び厚さ方向のリターデーション値(Rt)は、偏光板保護フィルムとして、0≦Ro、かつRt≦70nm、を満たすことが好ましい。また、0≦Ro≦30nm、かつ0≦Rt≦50nm、を満たすことがより好ましく、0≦Ro≦10nm、かつ0≦Rt≦30nm、を満たすことが更に好ましい。
【0169】
製品フィルムは、位相差フィルムとして用いることが好ましい。その場合は、30≦Ro≦100nm、かつ70≦Rt≦400nm、を満たすことが好ましく、35≦Ro≦65nm、かつ90≦Rt≦180nm、を満たすことが好ましい。また、Rtの変動や分布の幅は±50%未満であることが好ましく、±30%未満であることが好ましく、±20%未満であることが好ましい。更に±15%未満であることが好ましく、±10%未満であることが好ましく、±5%未満であることが好ましく、特に±1%未満であることが好ましい。最も好ましくはRtの変動がないことである。
【0170】
リターデーション値Ro及びRtは、下記式により求められる。
【0171】
Ro=(nx-ny)×d
Rt=((nx+ny)/2-nz)×d
式中、dは、フィルムの厚さ[nm]を表す。nxは、フィルムの面内の最大の屈折率を表し、遅相軸方向の屈折率ともいう。nyは、フィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率を表す。nzは、厚さ方向におけるフィルムの屈折率を表す。
【0172】
リターデーション値Ro及びRtは、自動複屈折率計を用いて測定できる。例えば、「KOBRA(登録商標)-21ADH」(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下、波長590nmで測定できる。
【0173】
4.フィルムの用途
本発明に係る製品フィルムは、広幅であり、必要に応じて光学特性を付与できる観点から、表示装置に具備されることが好ましい。なお、「表示装置」とは、表示機構を有する装置のことをいう。
【0174】
表示装置としては、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、無機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、タッチパネル表示装置、電子放出表示装置(電場放出表示装置(FED等)、表面電界放出表示装置(SED))、電子ペーパー(電子インクや電気泳動素子を用いた表示装置)、プラズマ表示装置、投射型表示装置(グレーティングライトバルブ(GLV)表示装置、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を有する表示装置等)、圧電セラミックディスプレイ等が挙げられる。
【0175】
さらに、液晶表示装置としては、透過型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置、直視型液晶表示装置、投写型液晶表示装置等が挙げられる。
【0176】
これらの表示装置は、二次元画像を表示する表示装置であってもよいし、三次元画像を表示する立体表示装置であってもよい。中でも、表示装置としては、屈曲性、薄膜化の観点から、有機EL表示装置であることが好ましい。
【0177】
また、本発明の表示装置は、フレキシブルディスプレイであることが好ましい。「フレキシブル」とは、屈曲又は湾曲可能であることを意味し、屈曲又は湾曲可能であるとは、屈曲又は湾曲している状態も含むものとする。具体的には、屈曲又は湾曲可能な曲率半径が10mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。特に、曲率半径が3mm以下であれば、ディスプレイを折り畳んで使用することも可能である。
【0178】
5.フィルムの製造装置
本発明のフィルム製造装置は、複数のベルトを接合した広幅ベルトを有するフィルムの製造装置であって、前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、下記手段を有することを特徴とする。
【0179】
流延手段:前記広幅ベルトを用いて、フィルム製造用のドープをフィルムに形成する。
第1延伸手段:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング手段:少なくとも前記第1及び第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分を残して、前記第1延伸手段において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸手段:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング手段:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成されたフィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【0180】
図8は、フィルムの製造装置の一例の模式図である。フィルムの製造装置の一例について説明するが、本発明はこれに制限されない。
【0181】
フィルムの製造装置300は、広幅ベルト101、及びドープを広幅ベルト101上に流延するドープ流延ダイ102を備える。また、加熱乾燥装置103を備える。加熱乾燥装置103は、広幅ベルト101の、上下の移送経路の表裏両側に、それぞれ配置される。そして、広幅ベルト101上に流延されたドープを加熱乾燥してウェブを形成する。
【0182】
フィルム製造装置300は、ウェブを広幅ベルト101から剥離するウェブ剥離ローラー105、及び広幅ベルト101から剥離したウェブを乾燥させてフィルムFを得る乾燥装置106を備える。フィルム製造装置300は、得られたフィルムFの幅手方向の両端部を把持して、フィルムFを幅手方向に延伸するテンター装置107を備える。フィルム製造装置300は、テンター装置107により延伸したフィルムの端部を切り取るトリミング装置108、及び切り取られた耳切り部F1を排出する吸引ダクト109を備える。フィルム製造装置300は、トリミングしたフィルムFを巻き取るフィルム巻取装置110を備える。
【0183】
フィルム製造装置300では、テンター装置107及びトリミング装置108は、それぞれ一つとしているが、複数設置してもよい。また、第2延伸工程以降の工程は、別のテンター装置及びトリミング装置を用いてもよい。
【0184】
加熱乾燥装置103及び104としては、例えば、広幅ベルト101上のウェブを赤外線ヒータで加熱する方法、及び広幅ベルト101の裏面を赤外線ヒータで加熱する方法が挙げられる。また、広幅ベルト101上のウェブに加温風を吹き付けて加熱する方法、広幅ベルト101の裏面に加温風を吹き付けて加熱する方法等が挙げられる。必要に応じて適宜選択することが好ましい。
【0185】
広幅ベルト101による流延膜の搬送速度は、特に制限されない。生産性の観点等から、搬送速度は、例えば、50~200m/分の範囲内であることが好ましい。また、広幅ベルト101の走行速度に対する、流延膜の搬送速度の比(ドラフト比)は、0.8~5.0の範囲内であることが好ましい。ドラフト比が上記範囲内であることにより、安定して流延膜を形成できる。例えば、ドラフト比が大きすぎると、流延膜が幅手方向に縮小される、「ネックイン」という現象が生じやすい。しかし、ドラフト比を調整することにより、ネックインを抑制でき、広幅のフィルムを形成できる。
【0186】
剥離ローラー105により、乾燥されたフィルムが剥離される。広幅ベルト101からフィルムを剥離する際に、剥離張力及びその後の搬送張力によってフィルムは、フィルムの搬送方向(Machine Direction:MD方向)に延伸される。
【0187】
乾燥装置106は、例えば、温風吹き込み口161及び同排出口162を有するハウジング160内に、複数の搬送ローラー163が、千鳥配置状に設けられたものであってもよい。乾燥装置106において、フィルムはハウジング160内を搬送ローラー163に掛けられて搬送される。そして、その搬送中に、温風吹き込み口161から吹き込まれる乾燥温風により、フィルムは乾燥される。
【0188】
複数の乾燥装置106を設け、乾燥装置106間において、テンター(延伸)装置107が設けられていてもよい。また、テンター装置107に乾燥機能を持たせてもよい。
【0189】
乾燥装置106は、温風、赤外線等を単独で用いてもよいし、温風と赤外線とを併用してもよい。簡便さの観点から、温風を用いることが好ましい。乾燥温度は、フィルムの残留溶媒量により、好適温度が異なる。乾燥時間、収縮ムラ、伸縮量の安定性等を考慮し、30~180℃の範囲内で、適宜選択することが好ましい。また、一定の温度で乾燥してもよいし、2~4段階の温度に分けて乾燥してもよい。フィルムは、乾燥装置106内を搬送される間に、MD方向に延伸させてもよい。
【0190】
テンター装置107は、広幅ベルト101から剥離されたフィルムを、搬送方向と直交する方向(Transverse Direction:TD方向)に延伸する。具体的には、フィルムの搬送方向に垂直な方向の両端部をクリップで把持して、対向するクリップ間の距離を大きくすることによって、TD方向に延伸する。
【0191】
トリミング装置108は、テンター装置107と巻取装置110の間に設けられる。トリミング装置108は、例えば、周面の両端部に丸刃(トリムカッタ、図示略)が設けられたローラー180からなる。フィルム巻取装置110は、ハウジング100内に設けられた複数の搬送ローラー111及び1つの巻取コア112を備えていてもよい。そして、トリミングされたフィルムF2は、ハウジング100内を搬送ローラー111に掛けられて搬送され、巻取コア112に巻き取られる。
【0192】
トリミング装置108のトリムカッタは、フィルムの搬送方向に垂直な方向(幅手方向)の端部を切り取る。その際、切り取った端部は、耳切り部F1として処理される。
【0193】
吸引ダクト109は、耳切り部F1を吸引して、耳部回収部へと風送する。回収された耳切り部は、切断装置(不図示)などによって細かく切断されて細片として、貯留槽(不図示)などに搬送される。
【0194】
トリムカッタの構成は、フィルムの端部を切り取ることができれば、特に制限されない。トリムカッタは、フィルムの端部を適切に切り取るために、フィルムに対する切り込み深さが任意に調整できることが好ましい。例えば、上丸刃及び下丸刃からなる切断刃を備えた回転円板式、ナイフ式等が挙げられる。
【0195】
6.フィルムの製造システム
本発明のフィルムの製造システムは、複数のベルトを接合した広幅ベルトを有するフィルムの製造システムであって、前記広幅ベルトが、第1ベルトの幅手方向の端部に、少なくとも第2ベルトを、接合部で接合したベルトであり、下記手段を有することを特徴とする。
【0196】
流延手段:前記広幅ベルトを用いて、フィルム製造用のドープをフィルムに形成する。
第1延伸手段:前記フィルムを、前記広幅ベルトからはく離した後に、延伸する。
第1トリミング手段:少なくとも前記第1及び第2ベルト上で形成された前記フィルムの部分を残して、前記第1延伸手段において延伸された前記フィルムの幅手方向の端部をトリミングする。
第2延伸手段:前記接合部上で形成された前記フィルムの部分の、少なくとも一部を、クリップで挟み、前記フィルムを延伸する。
第2トリミング手段:前記第2延伸工程において延伸された前記フィルムの、前記接合部上で形成されたフィルムの部分を含む幅手方向の端部をトリミングする。
【0197】
本発明において、「フィルムの製造システム」とは、フィルムを製造する各工程で、必要な手段要素として用いられる、所定の機能を有する機器又は装置等の集合体のことをいう。そして、これら全体として、フィルムを製造する機能を果たす。各手段要素は、それぞれ離れた異なる場所に個別に配置してもよい。また、一つの装置として、一定の空間に集めて配置し、システム装置としてもよい。
【0198】
本発明のシステムは、各種情報を電子的データとして記録又は保存する手段、及び当該電子的データを無線通信する手段を備えてもよい。例えば、Bluetooth(登録商標)やWi-Fi(登録商標)等の無線通信により、情報処理手段とデータ送受信を行うための無線インターフェースを有する形態であることも好ましい。
【実施例0199】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
また、下記実施例において、特記しない限り操作は室温(25℃)で行われた。
【0200】
1.各用語及び記号の説明
図9及び
図10は、本発明の実施例において用いられる用語及び記号の説明図である。
図9において、A1~D1は、延伸前フィルムにおける、第1~第3ベルト又は接合部上で形成されたフィルムの各部分の幅を表す。
A2~D2は、第1延伸後フィルムにおける、第1~第3ベルト又は接合部上で形成されたフィルムの各部分の幅を表す。
【0201】
A3~D3は、第1トリミング後フィルムにおける、第1~第3ベルト又は接合部上で形成されたフィルムの各部分の幅を表す。
A4~D4は、第2延伸後フィルムにおける、第1~第3ベルト又は接合部上で形成されたフィルムの各部分の幅を表す。
A5は、製品フィルムの幅を表す。
【0202】
クリップの幅25は、クリップが挟むことのできる領域の幅である。
トリミングの幅26は、第1トリミング領域8の幅である。
接合部つかみ幅27は、クリップが挟むことのできる領域のうち、接合部上で形成されたフィルムの部分に相当する領域の幅である。
接合部距離28は、第1非トリミング領域7の幅手方向の端部から、接合部上で形成されたフィルムの部分までの最短距離である。
トリミングの幅29は、第2トリミング領域10の幅である。
A部つかみ幅(不図示)は、クリップが挟むことのできる領域のうち、第1ベルト上で形成されたフィルムの部分に相当する領域の幅である。
【0203】
2.製品フィルム1の作製
A)ベルト接合工程
SUS316製の第1ベルトの幅手方向の両端部に、SUS316製の第2ベルト及び第3ベルトを、それぞれ溶接し、幅2155mmの広幅ベルトを作製した。第1ベルトの幅は、1955mm、第2及び第3ベルトの幅は、それぞれ100mmであった。広幅ベルトにおける接合部の幅は、第1ベルトと第2ベルト間、第1ベルトと第3ベルト間共に、20mmであった。なお、接合部は、接合前と後のそれぞれの、ベルトの熱伝導率、厚さ及び反射色相を測定し、その測定値が、上記条件a、b又はcをいずれか満たす部分とした。
【0204】
B)流延工程
(1)ドープの調製
(1.1)ドープ1の調製
〈微粒子分散液〉
下記成分を、ディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散させ、微粒子分散液を得た。
微粒子「アエロジル(登録商標)R812」(日本アエロジル(株)製)
11質量部
エタノール 89質量部
【0205】
〈微粒子添加液〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに、置換度が2.45であるアセチルセルロースを添加し、加熱して完全に溶解させた。その後、この溶液を、「安積濾紙No.244」(安積濾紙(株)製)を使用して濾過した。濾過後のアセチルセルロース溶液を充分に攪拌しながら、ここに上記微粒子分散液をゆっくりと添加した。そして、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるように、アトライターにて混合液の分散を行った。得られた分散液を「ファインメットNF」(日本精線(株)製)で濾過し、微粒子添加液を調製した。
メチレンクロライド 99質量部
アセチルセルロース 4質量部
微粒子分散液 11質量部
【0206】
次いで、下記組成の主ドープ液を調製した。
【0207】
まず、加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクに、置換度が2.45であるアセチルセルロースを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解した。溶液に、更に添加剤2種を添加し、溶解させた。溶液を「安積濾紙No.244」(安積濾紙(株)製)を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
【0208】
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 300.0質量部
エタノール 30.0質量部
アセチルセルロース 100.0質量部
添加剤A 6.5質量部
添加剤B 6.0質量部
【0209】
添加剤A及びBの構造式を、下記に示す。なお、添加剤Aは、平均置換度が5.5の糖エステルであった。
【0210】
【0211】
主ドープ液100質量部に、微粒子添加液を2質量部加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機)「Hi-Mixer、SWJ」(東レエンジニアリング社製)で十分に混合し、ドープ1を調製した。
【0212】
(2)延伸前フィルム1の形成
次いで、ベルト流延装置を用い、上記で得られた広幅ベルトに、ドープ1を均一に流延した。流延膜(ウェブ)の厚さは、305μmであった。
【0213】
広幅ベルト上のウェブについて、残留溶媒量が110質量%になるまで溶媒を蒸発させ、広幅ベルトから剥離し、フィルムを得た。剥離の際に張力をかけて、縦(MD)延伸倍率が1.02倍となるように延伸した。フィルムを、搬送しながら乾燥し、延伸前フィルム1を得た。延伸前フィルム1の残留溶媒量は、10質量%であった。
【0214】
C)第1延伸工程
延伸前フィルム1の幅手方向の両端部をクリップで把持し、160℃に設定されたテンターで、幅手(TD)方向の延伸倍率が1.05倍となるように延伸した。クリップの幅は、30mmであった。
なお、延伸工程時のフィルムにおいて、クリップで把持された部分は延伸されず、クリップで把持されなかった部分が延伸する。
【0215】
延伸開始時の、フィルムの残留溶媒は10質量%であった。延伸後、その幅を維持したまま数秒間保持し、幅手方向の張力を緩和させた。幅の保持を解放し、さらに、125℃に設定された乾燥ゾーンで30分間搬送させて乾燥を行った。そして、第1延伸後フィルム1を得た。
【0216】
D)第1トリミング工程
第1延伸後フィルム1の幅手方向の端部を、前述の方法で、表IIIに記載の幅でトリミングした。そして、第1トリミング後フィルム1を得た。
【0217】
E)巻き取り及び繰り出し工程
第1トリミング後フィルム1を巻き取り、第2延伸工程前に繰り出した。
【0218】
F)第2延伸工程
第1トリミング後フィルム1の幅手方向の両端部をクリップで把持し、180℃に設定されたテンターで、表IVに記載の幅手(TD)方向の延伸倍率で延伸した。クリップの幅は、30mmであった。そして、第2延伸後フィルム1を得た。
【0219】
G)第2トリミング工程
第2延伸後フィルム1の幅手方向の端部を、前述の方法で、幅80mmでトリミングした。そして、これを巻き取り、製品フィルム1を得た。
なお、第1延伸工程~第1トリミング工程、及び第2延伸工程~第2トリミング工程における生産速度は、60m/minであった。
【0220】
3.製品フィルム2~7の作製
製品フィルム1において、表I~VIに記載の、アセチル基の置換度、流延工程でのウェブの厚さ、延伸倍率及びトリミングの幅に変更した。それ以外は、同様の手順で、製品フィルム2~7を得た。
【0221】
4.評価
製品フィルム1~7をそれぞれ100本ずつ作製した。そして、一連の工程において、フィルムが破断しなかったものを良品とした。良品の本数を、下記基準で評価した。なお、B以上(A又はB)を合格とした。
A:100本の製品フィルムのうち、良品が99本以上であった。
B:100本の製品フィルムのうち、良品が95~98本の範囲内であった。
C:100本の製品フィルムのうち、良品が94本以下であった。
【0222】
下記表I~VIに、各工程における条件、及びフィルムの各部分の幅を示す。
また、下記表VIに、製品フィルムの、幅、厚さ及び上記評価結果を示す。
【0223】
【0224】
表Iに記載のとおり、製品フィルム5のみ、流延工程におけるウェブの厚さを160μmに変更した。
表I内の、「A1+B1+C1」は、A1、B1及びC1の値の合計であり、フィルム全体の幅を表す。
【0225】
【0226】
第1ベルト上で形成されたフィルムの部分A1は、全て延伸倍率5%で延伸した。第2及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分のうち、クリップで把持されなかった部分のみが延伸した。
〔製品フィルム1~7〕
A2[mm]=A1×1.05
B2[mm]=(B1-クリップの幅)×1.05+クリップの幅
C2[mm]=(C1-クリップの幅)×1.05+クリップの幅
D2[mm]=D1×1.05
【0227】
【0228】
〔製品フィルム1~7〕
A3[mm]=A2
B3[mm]=B2-トリミングの幅
C3[mm]=C2-トリミングの幅
D3[mm]=D2
【0229】
【0230】
接合部距離[mm]は、B3又はC3から、D3の半分の値を差し引いた値である。
クリップの幅30.0mmから、接合部距離[mm]を差し引いた値が、21.0mm未満であれば、その値が、接合部つかみ幅[mm]である。クリップの幅30.0mmから、接合部距離[mm]を差し引いた値が、21.0mm以上であれば、接合部つかみ幅[mm]は、21.0mmである。
クリップの幅30.0mmから、B3又はC3の値を差し引いた値が、0超であれば、その値が、A部つかみ幅[mm]である。クリップの幅30.0mmから、B3又はC3の値を差し引いた値が、0以下であれば、A部つかみ幅[mm]は、0.0mmである。
【0231】
【0232】
〔製品フィルム1〕
第1ベルト上で形成されたフィルムの部分は、一部がクリップで把持されたため、一部のみ延伸した。第2及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分は、全てクリップで把持されたため、延伸されなかった。接合部上で形成されたフィルムの部分は、全てクリップで把持されたため、延伸されなかった。
A4[mm]=(A3-A部つかみ幅×2)×1.34+A部つかみ幅×2
B4[mm]=B3
C4[mm]=C3
D4[mm]=D3
【0233】
〔製品フィルム2〕
第1ベルト上で形成されたフィルムの部分は、一部がクリップで把持されたため、一部のみ延伸した。第2及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分は、全てクリップで把持されたため、延伸されなかった。接合部上で形成されたフィルムの部分は、全てクリップで把持されたため、延伸されなかった。
A4[mm]=(A3-A部つかみ幅×2)×1.34+A部つかみ幅×2
B4[mm]=B3
C4[mm]=C3
D4[mm]=D3
【0234】
〔製品フィルム3〕
第1ベルト上で形成されたフィルムの部分は、全て延伸した。第2及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分は、全てクリップで把持されたため、延伸されなかった。接合部上で形成されたフィルムの部分は、一部がクリップで把持されたため、一部のみ延伸した。
A4[mm]=A3×1.34
B4[mm]=B3
C4[mm]=C3
D4[mm]=(D3-接合部つかみ幅)×1.34+接合部つかみ幅
【0235】
〔製品フィルム4〕
第1ベルト上で形成されたフィルムの部分は、全て延伸した。第2及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分は、一部がクリップで把持されたため、一部のみ延伸した。接合部上で形成されたフィルムの部分は、クリップで把持されなかったため、全て延伸した。
A4[mm]=A3×1.34
B4[mm]=(B3-クリップの幅)×1.34+クリップの幅
C4[mm]=(C3-クリップの幅)×1.34+クリップの幅
D4[mm]=D3×1.34
【0236】
〔製品フィルム5〕
第1ベルト上で形成されたフィルムの部分は、一部がクリップで把持されたため、一部のみ延伸した。第2及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分は、全てクリップで把持されたため、延伸されなかった。接合部上で形成されたフィルムの部分は、全てクリップで把持されたため、延伸されなかった。
A4[mm]=(A3-A部つかみ幅×2)×1.40+A部つかみ幅×2
B4[mm]=B3
C4[mm]=C3
D4[mm]=D3
【0237】
〔製品フィルム6〕
第1ベルト上で形成されたフィルムの部分は、一部がクリップで把持されたため、一部のみ延伸した。第2及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分は、全てクリップで把持されたため、延伸されなかった。接合部上で形成されたフィルムの部分は、全てクリップで把持されたため、延伸されなかった。
A4[mm]=(A3-A部つかみ幅×2)×1.34+A部つかみ幅×2
B4[mm]=B3
C4[mm]=C3
D4[mm]=D3
【0238】
〔製品フィルム7〕
第1ベルト上で形成されたフィルムの部分は、全て延伸した。第2及び第3ベルト上で形成されたフィルムの部分は、一部がクリップで把持されたため、一部のみ延伸した。接合部上で形成されたフィルムの部分は、一部がクリップで把持されたため、一部のみ延伸した。
A4[mm]=A3×1.34
B4[mm]=(B3-クリップの幅)×1.34+クリップの幅
C4[mm]=(C3-クリップの幅)×1.34+クリップの幅
D4[mm]=(D3-接合部つかみ幅)×1.34+接合部つかみ幅
【0239】
【0240】
実施例と比較例から、本発明のフィルムの製造方法を用いることにより、フィルムの破断を抑制でき、生産収率が向上することがわかる。
【0241】
実施例1、2、3及び6の比較から、第2延伸工程において、接合部上で形成された前記フィルムの部分の、幅の半分以上をクリップで挟むことにより、生産収率が向上することがわかる。
【0242】
実施例1、2、3及び6の比較から、第1非トリミング領域の幅手方向の端から、接合部上で形成されたフィルムの部分までの距離が、クリップの幅に対して、0.8倍以下であることにより、生産収率が向上することがわかる。