(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171556
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ローラユニット
(51)【国際特許分類】
B65H 57/14 20060101AFI20241205BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20241205BHJP
B29C 70/32 20060101ALI20241205BHJP
B29C 70/54 20060101ALI20241205BHJP
B65H 63/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B65H57/14
B29C70/16
B29C70/32
B29C70/54
B65H63/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088625
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】谷川 元洋
(72)【発明者】
【氏名】五由出 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】松井 利裕
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】木野 義浩
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 秀弥
(72)【発明者】
【氏名】阪梨 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】清水辺 大
(72)【発明者】
【氏名】中村 大五郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 吉典
【テーマコード(参考)】
3F110
3F115
4F205
【Fターム(参考)】
3F110AA02
3F110BA05
3F110DA09
3F110DB01
3F110DB11
3F110DB12
3F115AA05
3F115CA05
3F115CC35
3F115CF11
3F115CF19
3F115CG01
4F205AD16
4F205AJ08
4F205HA02
4F205HA23
4F205HA37
4F205HB01
4F205HC02
4F205HF23
4F205HK23
4F205HL02
4F205HT22
(57)【要約】
【課題】繊維束が弛むことを抑制し、且つ、繊維束の保持及び解放を容易に行うことができるローラユニットを提供する。
【解決手段】ローラユニット70は、繊維束Fが掛けられるガイドローラ71と、ガイドローラ71の軸方向における先端部に取り付けられた第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83と、を含む。第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、互いに接触及び離間可能に構成され、繊維束Fを挟み込むことで保持可能である。第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83はガイドローラ71の先端部に、すなわち、ガイドローラ71のすぐ近くに取り付けられている。このため、ガイドローラ71と第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83との間で繊維束Fが張った状態を保つのが容易となる。さらに、繊維束Fは第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83に挟み込まれることで保持される。このため、オペレータが繊維束Fを結んだり解いたりする作業を行う必要がない。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束が掛けられるガイドローラと、
前記ガイドローラの軸方向における先端部に取り付けられた一対の糸保持部材と、
を備え、
前記一対の糸保持部材は、互いに接触及び離間可能に構成され、前記繊維束を挟み込むことで保持可能であることを特徴とするローラユニット。
【請求項2】
前記一対の糸保持部材は、第1糸保持部材と、前記第1糸保持部材に対して接触及び離間可能な第2糸保持部材とを有し、
前記第2糸保持部材を前記第1糸保持部材に向かって付勢する付勢部材をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のローラユニット。
【請求項3】
前記付勢部材の前記第2糸保持部材に対する付勢力を調整するための付勢力調整機構を備えることを特徴とする請求項2に記載のローラユニット。
【請求項4】
前記第2糸保持部材には、前記付勢部材によって付勢される方向と交差する方向に突出した凸部又は凹んだ凹部が形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のローラユニット。
【請求項5】
前記一対の糸保持部材は、所定方向において互いに対向する一対の対向面を有し、
一方の糸保持部材と対向する他方の糸保持部材の対向面、又は、前記他方の糸保持部材と対向する前記一方の糸保持部材の対向面のうちの少なくとも一方の対向面は、凹凸面を有することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のローラユニット。
【請求項6】
前記一対の糸保持部材は、自転不能に構成されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のローラユニット。
【請求項7】
前記一対の糸保持部材は、所定方向において互いに対向する一対の対向面を有し、
一方の糸保持部材と対向する他方の糸保持部材の対向面、又は、前記他方の糸保持部材と対向する前記一方の糸保持部材の対向面のうちの少なくとも一方の対向面は、凹凸面を有することを特徴とする請求項4に記載のローラユニット。
【請求項8】
前記一対の糸保持部材は、自転不能に構成されていることを特徴とする請求項7に記載のローラユニット。
【請求項9】
前記一対の糸保持部材は、自転不能に構成されていることを特徴とする請求項4に記載のローラユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントワインディング装置に設けられたローラユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のボビンから引き出された繊維束を筒状のライナーの周面に巻き付けるためのフィラメントワインディング装置が開示されている。フィラメントワインディング装置は、ライナーの軸方向と概ね直角な方向に繊維束を巻き付けるフープ巻きを施すためのフープ巻きユニットと、ライナーの軸方向に概ね平行な方向に繊維束を巻き付けるヘリカル巻きを施すためのヘリカル巻きユニットと、を有する。フープ巻きユニットやヘリカル巻きユニットには、ボビンから引き出された繊維束をライナーへ案内するための複数のガイドローラが配置されている。また、これらのユニット以外のユニットにも、ガイドローラが配置されうる。
【0003】
ボビンから引き出された繊維束は、オペレータによって各ガイドローラに掛けられる。より具体的には、繊維束は、弛まないようにオペレータによって引っ張られながら、繊維束の走行方向における上流側のガイドローラから順に掛けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、あるガイドローラに繊維束が掛けられた後、オペレータによっては、作業効率等の観点から、さらに下流側のガイドローラに繊維束を掛けるよりも前に、別の繊維束に対する作業を行う場合がある。このとき、当該作業に伴って、既にガイドローラに掛けられた繊維束が弛んでしまうと、当該ガイドローラから繊維束が外れてしまうおそれがある。或いは、上流側のガイドローラと下流側のガイドローラとが離れている場合、オペレータは、上流側のガイドローラに繊維束を掛けた後、下流側のガイドローラに繊維束を掛けやすい位置まで移動することがある。このとき、オペレータは、繊維束を弛まないように引っ張りながら移動することが難しい。
【0006】
そこで、上記のような作業中又はオペレータの移動中に繊維束が弛むことを抑制すべく、オペレータは、既にガイドローラに掛けられた繊維束の先端部を任意の箇所に一時的に保持させることがある。具体的に説明すると、例えば、繊維束を、テープや磁石などを用いて床や装置本体に固定したり、任意の部品に縛り付けたりする。その後、オペレータは、上記作業を終えた後又は移動し終えた後で、保持させた繊維束を解放し、さらに下流側のガイドローラに繊維束を掛ける。
【0007】
しかしながら、直前に繊維束を掛け終えたガイドローラと、繊維束を保持させる箇所との間の距離が大きいと、ガイドローラと繊維束を保持させている箇所との間で繊維束が張った状態を保つのが難しい。すなわち、ガイドローラと繊維束を保持させている箇所との間で繊維束が弛んでしまうおそれがあり、その結果、既に繊維束を掛け終えたガイドローラから繊維束が外れてしまう。また、ガイドローラから離れた位置に繊維束を持っていくことは、オペレータの作業の手間となる。
【0008】
繊維束をガイドローラに直接巻き付けることも考えられるが、この場合オペレータは、繊維束をガイドローラに結ぶ作業と、その後にガイドローラから繊維束を解く作業とを行う必要がある。このような作業は、オペレータにとって非常に手間となる上、繊維束を結んだり解いたりしている間に、繊維束が弛んでしまう可能性もある。
【0009】
以上の課題に鑑みて、本発明では、繊維束が弛むことを抑制し、且つ、繊維束の保持及び解放を容易に行うことができるローラユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のローラユニットは、繊維束が掛けられるガイドローラと、前記ガイドローラの軸方向における先端部に取り付けられた一対の糸保持部材と、を備え、前記一対の糸保持部材は、互いに接触及び離間可能に構成され、前記繊維束を挟み込むことで保持可能であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、一対の糸保持部材はガイドローラの先端部に取り付けられている。すなわち、ガイドローラのすぐ近くに繊維束を保持させる糸保持部材が存在しているため、ガイドローラと糸保持部材との間で繊維束が張った状態を保つのが容易となる。その結果、ガイドローラと糸保持部材との間で繊維束が弛んでしまうこと抑制できる。また、オペレータがガイドローラから離れた位置にわざわざ繊維束を持っていく必要がなく、オペレータの作業の手間を軽減できる。さらに、繊維束は一対の糸保持部材に挟み込まれることで保持される。このため、オペレータが繊維束を結んだり解いたりする作業を行う必要がない。よって、オペレータの作業の手間を軽減できる。以上から、本発明では、繊維束が弛むことを抑制し、且つ、繊維束の保持及び解放を容易に行うことができる。
【0012】
本発明のローラユニットにおいて、前記一対の糸保持部材は、第1糸保持部材と、前記第1糸保持部材に対して接触及び離間可能な第2糸保持部材とを有し、前記第2糸保持部材を前記第1糸保持部材に向かって付勢する付勢部材をさらに備えることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、オペレータが、付勢部材によって付勢される向きと反対向きに第2糸保持部材を引っ張ることで、第1糸保持部材と第2糸保持部材とを離間させることができる。また、引っ張った第2糸保持部材を放すことで、付勢力によって第2糸保持部材を第1糸保持部材に接近させることができる。よって、簡単な動作によって、第1糸保持部材と第2糸保持部材との間に繊維束を挟み込ませることができる。また、簡単な動作によって、第1糸保持部材と第2糸保持部材との間から繊維束を解放させることができる。
【0014】
本発明のローラユニットは、前記付勢部材の前記第2糸保持部材に対する付勢力を調整するための付勢力調整機構を備えることが好ましい。
【0015】
一対の糸保持部材によって繊維束を確実に保持させるためには、付勢部材の第2糸保持部材に対する付勢力をできるだけ強くしたい。一方で、オペレータの力具合によっては、付勢力が強すぎると第2糸保持部材を引っ張ることが難しい。本発明の構成であれば、付勢力をなるべく強くした上で、オペレータが容易に引っ張ることができる程度の付勢力に調整できる。
【0016】
本発明のローラユニットにおいて、前記第2糸保持部材には、前記付勢部材によって付勢される方向と交差する方向に突出した凸部又は凹んだ凹部が形成されていることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、凸部又は凹部に指を引っ掛けることで、付勢部材によって第2糸保持部材が付勢される方向と反対方向に第2糸保持部材を引っ張り易くなる。このため、繊維束を一対の糸保持部材に保持させる作業をよりスムーズに行える。
【0018】
本発明のローラユニットにおいて、前記一対の糸保持部材は、所定方向において互いに対向する一対の対向面を有し、一方の糸保持部材と対向する他方の糸保持部材の対向面、又は、前記他方の糸保持部材と対向する前記一方の糸保持部材の対向面のうちの少なくとも一方の対向面は、凹凸面を有することが好ましい。
【0019】
一対の対向面のうちの少なくとも一方の対向面が凹凸面を有しているため、一対の対向面に挟み込まれる繊維束と対向面との間に生じる摩擦力を大きくすることができる。これにより、繊維束が一対の対向面の間からずれにくくなり、糸保持部材によって繊維束をより確実に保持させることができる。
【0020】
本発明のローラユニットにおいて、前記一対の糸保持部材は、自転不能に構成されていることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、繊維束を糸保持部材に保持させているときに、ガイドローラが意図せずに回転してしまったとしても、糸保持部材に保持された繊維束が一緒に回転することはない。このため、繊維束が回転してしまうことに伴って繊維束が弛んでしまうことを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係るフィラメントワインディング装置を示す斜視図である。
【
図2】フィラメントワインディング装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】(a)、(b)は、ヘリカル巻ユニットの正面図である。
【
図4】本実施形態に係るローラユニットの斜視図である。
【
図5】本実施形態に係るローラユニットの断面図である。
【
図6】一対の糸保持部材を離間させたときのローラユニットの断面図である。
【
図7】変形例に係るローラユニットの断面図である。
【
図8】別の変形例に係るローラユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(フィラメントワインディング装置)
本発明のローラユニットが適用されるフィラメントワインディング装置について説明する。
図1は、本実施形態に係るフィラメントワインディング装置1を示す斜視図である。
図2は、フィラメントワインディング装置1の電気的構成を示すブロック図である。説明の便宜上、
図1に示す方向(前後方向及び左右方向)を定義する。前後方向及び左右方向は、水平方向と平行な方向である。前後方向と左右方向は互いに直交する。また、前後方向及び左右方向の両方と直交する方向を上下方向と定義する。上下方向は、重力が作用する鉛直方向である。
【0024】
フィラメントワインディング装置1は、ライナーLに複数の繊維束(
図1では図示省略)を同時に巻き付ける多給糸型のものである。フィラメントワインディング装置1は、巻付装置2と、複数のクリールスタンド3と、複数の前処理部4とを備える。フィラメントワインディング装置1は、全体として概ね左右対称に構成されている。巻付装置2は、円筒状のライナーLに繊維束を巻き付けるための装置である。繊維束は、例えば、炭素繊維などの繊維材料に熱硬化性又は熱可塑性の合成樹脂材が含浸されたものである。ライナーLの形状は、最終製品に応じて異なりうる。例えば最終製品が圧力タンクである場合、
図1に示すように、円筒部の両側にドーム部を有するライナーLが使用される。ライナーLの材料としては、高強度アルミニウム、金属、樹脂などが用いられる。ライナーLに繊維束を巻き付けた後、焼成などの熱硬化工程又は冷却工程を経ることにより、高強度の圧力タンクなどの最終製品を得ることができる。
【0025】
複数のクリールスタンド3は、例えば、巻付装置2の左右方向における両側に配置されている。複数のクリールスタンド3は、例えば、前後方向において巻付装置2の後端部の近傍に配置されている。各クリールスタンド3は、例えば、前後方向に延びる略直方体状のフレーム11を有する。フレーム11には、例えば、1以上のボビンホルダ群12が設けられている。ボビンホルダ群12は、例えば、後述するヘリカル巻ユニット50の複数のノズルユニット53の各々に対応して設けられている。各ボビンホルダ群12は、例えば前後方向に並んだ複数の(本実施形態では5つの)ボビンホルダ13を有する。各ボビンホルダ13は、例えば、左右方向に延びる軸を有する。各ボビンホルダ13は、繊維束が巻かれたボビン14を回転可能に支持する。本実施形態では、例えば9つのボビンホルダ群12が設けられ、その各々に5つのボビン14が装着されている(すなわち、計45個のボビン14が配置されている)。各ボビンホルダ群12に属する5つのボビン14から、5本の繊維束がまとめて供給される。クリールスタンド3から供給される複数の繊維束は、ヘリカル巻ユニット50によってライナーLに巻き付けられる。なお、
図1においては2つのクリールスタンド3が図示されているが、クリールスタンド3の数はこれに限られない。また、図面の煩雑化を避けるため、
図1においては、複数のボビンホルダ群12のうち1つのみが図示されている。
【0026】
複数の前処理部4は、複数の繊維束に所定の前処理(例えば張力付与等)を施すように構成されている。複数の前処理部4は、例えば、繊維束の走行方向において、対応するクリールスタンド3と、ヘリカル巻ユニット50(後述)との間に配置されている。
【0027】
(巻付装置)
巻付装置2のより具体的な構成について説明する。巻付装置2は、基台20と、支持ユニット30(第1支持ユニット31及び第2支持ユニット32)と、フープ巻ユニット40と、ヘリカル巻ユニット50と、を備える。
【0028】
基台20は、支持ユニット30、フープ巻ユニット40、及び、ヘリカル巻ユニット50を支持する。基台20の上面には、前後方向に延びる複数のレール21が設置されている。支持ユニット30及びフープ巻ユニット40は、レール21に沿って前後方向に移動可能である。一方、ヘリカル巻ユニット50は、例えば、基台20に対する位置が固定されている。第1支持ユニット31、フープ巻ユニット40、ヘリカル巻ユニット50、及び、第2支持ユニット32は、この順番で前側から後側に配置されている。
【0029】
支持ユニット30は、第1支持ユニット31及び第2支持ユニット32を有する。第1支持ユニット31は、フープ巻ユニット40よりも前側に配置されている。第2支持ユニット32は、ヘリカル巻ユニット50よりも後側に配置されている。支持ユニット30は、ライナーLの軸方向(前後方向)に延びる支持軸33を介して、ライナーLを軸周りに回転可能に支持する。支持ユニット30は、移動用モータ34及び回転用モータ35を有する(
図2参照)。移動用モータ34は、支持ユニット30(第1支持ユニット31及び第2支持ユニット32)をレール21に沿って前後方向に移動させる。回転用モータ35は、支持軸33を回転させることでライナーLを軸周りに回転させる。移動用モータ34及び回転用モータ35の動作は、制御装置5によって制御される。
【0030】
フープ巻ユニット40は、ライナーLの周面にフープ巻きを施す。フープ巻きとは、ライナーLの軸方向に概ね直角な方向に繊維束を巻き付ける巻き方のことである。フープ巻ユニット40は、例えば、本体部41と、回転部材42と、複数(本実施形態では5個)のボビンホルダ43と、を有する。本体部41は、レール21に沿って前後方向に移動可能である。回転部材42は、ライナーLが通過可能な通過穴44が形成された円環状の部材である。回転部材42は、ライナーLの軸周りに回転可能な状態で、本体部41に支持されている。複数のボビンホルダ43は、周方向に等間隔で回転部材42に取り付けられている。各ボビンホルダ43は、前後方向に延びる回転軸を有しており、繊維束が巻かれたボビン(図示省略)を回転可能に支持する。
【0031】
フープ巻ユニット40は、移動用モータ46及び回転用モータ47を有する(
図2参照)。移動用モータ46は、本体部41をレール21に沿って前後方向に移動させる。回転用モータ47は、回転部材42をライナーLの軸周りに回転させる。移動用モータ46及び回転用モータ47の動作は、制御装置5によって制御される。フープ巻きの実行時には、制御装置5は、本体部41をレール21に沿って往復移動させながら回転部材42を回転させる。これによって、ライナーLの周りで回転している各ボビンから繊維束が引き出され、複数の繊維束がライナーLの周面に同時にフープ巻きされる。
【0032】
ヘリカル巻ユニット50は、ライナーLの周面にヘリカル巻きを施す。ヘリカル巻きとは、ライナーLの軸方向に概ね平行な方向に繊維束を巻き付ける巻き方のことである。ヘリカル巻ユニット50は、例えば、本体部51と、フレーム部材52と、複数(本実施形態では9個)のノズルユニット53と、を有する。本体部51は、例えば基台20に固設されている。フレーム部材52は、ライナーLが通過可能な通過穴54が形成された円環状の部材である。フレーム部材52は、本体部51に支持されている。複数のノズルユニット53は、ライナーLの軸を中心に放射状に配置されている。各ノズルユニット53は、フレーム部材52に取り付けられている。
【0033】
図3(a)及び
図3(b)は、ヘリカル巻ユニット50の正面図である。詳細には、
図3(a)は、ライナーLの円筒部に繊維束Fを巻き付けている状態を図示したものである。
図3(b)は、ライナーLのドーム部に繊維束Fを巻き付けている状態を図示したものである。ノズルユニット53は、繊維束FをライナーLに案内するガイド体55を有する。ガイド体55は、ライナーLの径方向(以下、単に径方向と言う)に延びており、径方向に移動可能且つ径方向に延びる回転軸周りに回転可能に構成されている。各ノズルユニット53の径方向外側には、ガイドローラ56が配置されている。クリールスタンド3の各ボビンホルダ群12から引き出された5本の繊維束Fは、ガイドローラ56を経由して何れかのガイド体55に導入され、ガイド体55の先端からライナーLに供給される。
【0034】
ヘリカル巻ユニット50は、ガイド移動用モータ57及びガイド回転用モータ58を有する(
図2参照)。ガイド移動用モータ57は、各ガイド体55を一斉に径方向に移動させる。ガイド回転用モータ58は、各ガイド体55を一斉に回転軸周りに回転させる。ガイド移動用モータ57及びガイド回転用モータ58の動作は、制御装置5によって制御される。ヘリカル巻きの実行時には、制御装置5は、ライナーLを軸周りにゆっくり回転させながら通過穴54を通過させる。これとともに、制御装置5は、各ノズルユニット53のガイド体55を、径方向に適宜移動させつつ回転軸周りに適宜回転させる。これによって、各ノズルユニット53のガイド体55の先端から5本の繊維束Fが適切に引き出され、合計で45本の繊維束FがライナーLの周面に同時にヘリカル巻きされる。
【0035】
以上に述べたように、本実施形態のフィラメントワインディング装置1において、ヘリカル巻ユニット50には、繊維束Fが巻き付けられる複数のガイドローラ56が配置されている。また、図示はしていないが、フープ巻ユニット40やフィラメントワインディング装置1の他の箇所にも、繊維束Fが巻き付けられる複数のガイドローラが配置されうる。これらの各ガイドローラには、クリールスタンド3の各ボビンホルダ群12から引き出された5本の繊維束Fが掛けられる。より具体的には、繊維束Fは、弛まないようにオペレータによって引っ張られながら、繊維束の走行方向における上流側のガイドローラから順に掛けられる。
【0036】
ここで、あるガイドローラに繊維束Fが掛けられた後、オペレータによっては、作業効率等の観点から、さらに下流側のガイドローラに繊維束Fを掛けるよりも前に、別の繊維束Fに対する作業を行う場合がある。このとき、当該作業に伴って、既にガイドローラに掛けられた繊維束Fが弛んでしまうと、当該ガイドローラから繊維束Fが外れてしまうおそれがある。或いは、上流側のガイドローラと下流側のガイドローラとが離れている場合、オペレータは、上流側のガイドローラに繊維束Fを掛けた後、下流側のガイドローラに繊維束Fを掛けやすい位置まで移動することがある。なお、「繊維束Fを掛けやすい位置まで移動する」には、オペレータが足を動かして移動することと、オペレータが体勢を変えることの両方が含まれる。このとき、オペレータは、繊維束Fを弛まないように引っ張りながら移動することが難しい。
【0037】
上記のような作業中又はオペレータの移動中に繊維束Fが弛むことを抑制すべく、テープや磁石などを用いて、既にガイドローラに掛けられた繊維束Fの先端部を床や装置本体などの任意の箇所に一時的に保持させることも考えられる。しかし、直前に繊維束Fを掛け終えたガイドローラと繊維束Fを保持させる箇所との間の距離が大きいと、ガイドローラと繊維束Fを保持させている箇所との間で繊維束Fが弛んでしまい、既に繊維束Fを掛け終えたガイドローラから繊維束が外れてしまう。繊維束Fをガイドローラに直接巻き付けることも考えられる。しかし、この場合オペレータは、繊維束Fをガイドローラに結ぶ作業と、その後にガイドローラから繊維束Fを解く作業とを行う必要がある。このような作業は、オペレータにとって非常に手間となる上、繊維束Fを結んだり解いたりしている間に、繊維束Fが弛んでしまう可能性もある。
【0038】
そこで、本願発明者らは、繊維束Fが弛むことを抑制し、且つ、繊維束Fの保持及び解放を容易に行うことができるローラユニットを考案した。
【0039】
(ローラユニット)
以下、
図4~
図6を参照しつつ、本実施形態に係るローラユニット70について説明する。
図4は、ローラユニット70の斜視図である。
図5は、ローラユニット70の断面図である。
図6は、一対の糸保持部材を離間させたときのローラユニットの断面図である。ローラユニット70は、例えば、ヘリカル巻ユニット50の複数のガイドローラ56のうちの任意の一又は複数のガイドローラ56に替わって設置される。なお、ローラユニット70は、ヘリカル巻ユニット50のガイドローラ56に限らず、本実施形態のフィラメントワインディング装置1に設けられた任意のガイドローラに替わって設置されてもよい。
【0040】
図4及び
図5に示すように、ローラユニット70は、繊維束Fが掛けられるガイドローラ71と、糸保持機構81とを有する。ガイドローラ71は、円筒状の部材であって、ベアリング72を介してローラ支持軸73に回転可能に取り付けられている。ローラ支持軸73は、例えば、フープ巻ユニット40の本体部41やヘリカル巻ユニット50の本体部51、前処理部4などに固定される。
【0041】
糸保持機構81は、繊維束Fを挟み込むことで保持可能に構成されている。糸保持機構81は、ガイドローラ71の軸方向における先端部(
図5の紙面左端部)に取り付けられている。以下、本実施形態では、軸方向において、軸方向におけるガイドローラ71の中心を基準としたとき、ガイドローラ71の先端部側を軸方向の一方側、ガイドローラ71基端部側を軸方向の他方側と規定する(
図5及び
図6参照)。糸保持機構81は、第1糸保持部材82と、第2糸保持部材83と、支持部材84と、弾性部材85(本発明の付勢部材)と、ねじ86(本発明の付勢力調整機構)と、を有する。なお、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83が、本発明の一対の糸保持部材に相当する。
【0042】
第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、支持部材84に支持されている。第1糸保持部材82は、軸方向において第2糸保持部材83の他方側に配置されている。第1糸保持部材82は、支持部材84に固定されている。第2糸保持部材83は、軸方向に移動可能に支持部材84に支持されている。第2糸保持部材83は、軸方向に移動することによって、第1糸保持部材82に対して接触及び離間可能である。糸保持機構81は、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83との間に繊維束Fを挟み込ませることによって、繊維束Fを保持可能である。
【0043】
第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、軸方向において互いに対向する一対の対向面92及び93を有する(
図6参照)。より詳細には、
図6に示すように、第1糸保持部材82は、軸方向における一方側を向いた対向面92を有し、第2糸保持部材83は、軸方向における他方側を向いた対向面93を有する。対向面92と対向面93のうちの少なくとも一方は、凹凸面を有する。ここでいう凹凸面とは、例えば、シボ加工によって、皮革、梨地、木目、岩目、砂目、布目、絹目、幾何学模様などの模様が付けられた表面を指す。
【0044】
また、
図5及び
図6に示すように、第2糸保持部材83には、軸方向と交差する方向に突出した凸部83aが形成されている。より詳細には、凸部83aは、軸方向と直交する方向において第2糸保持部材83の外側に向かって突出している。本実施形態において、凸部83aは、先端にいくほど軸方向の幅が狭くなるようにテーパー加工されている。しかしながら、凸部83aの形状は、これに限られない。
【0045】
支持部材84は、ローラ支持軸73の先端に固定的に取り付けられている。このため、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、ローラ支持軸73に対して回転不能に支持されることとなる。言い換えれば、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、自転不能に構成されている。
【0046】
弾性部材85は、第2糸保持部材83を第1糸保持部材82に向かって軸方向に付勢する部材である。別の言い方をすると、弾性部材85は、軸方向の一方側から他方側に向かって第2糸保持部材83を付勢する部材である。弾性部材85は、例えばバネである。弾性部材85は、軸方向における一方側の端部がねじ86(後述)に取り付けられている。但し、弾性部材85の軸方向における一方側の端部がねじ86に物理的に取り付けられていなくてもよく、単に接触可能に配置されているだけでもよい。弾性部材85は、ねじ86を介して支持部材84に取り付けられている。
【0047】
ねじ86は、弾性部材85の第2糸保持部材83に対する付勢力を調整するための部材である。ねじ86は、例えば、円筒形状の外側面に螺旋状の溝が形成されたいわゆる雄ねじである。ねじ86は、溝が形成された部分よりも拡径した頭部を有する。ねじ86は、軸方向におけるローラユニット70の一方側の端部に取り付けられている。軸方向における一方側から他方側に向かってねじ86を締めることによって弾性部材85が圧縮され、弾性部材85の付勢力が大きくなる。また、軸方向における他方側から一方側に向かってねじ86を緩めることによって弾性部材85が伸長され、弾性部材85の付勢力が小さくなる。また、ねじ86は、第1糸保持部材82、第2糸保持部材83及び支持部材84のローラ支持軸73への取り付けを補強する役割も有している。
【0048】
(糸保持機構に繊維束を保持及び解放させる手順)
続いて、オペレータによって、本実施形態のローラユニット70の糸保持機構81に繊維束Fを保持させ、その後、解放させるまでの手順について、
図5及び
図6を参照しつつ以下に説明する。
【0049】
まずオペレータは、繊維束Fをローラユニット70のガイドローラ71に掛ける。続いて、オペレータは、凸部83aに指を引っ掛けて、第2糸保持部材83を軸方向の他方側から一方側に向かって引っ張る(
図5の実線矢印を参照)。言い換えれば、オペレータは、弾性部材85によって付勢される向きと反対向きに第2糸保持部材83を引っ張る。これにより、第1糸保持部材82から第2糸保持部材83が離間する。
【0050】
続いて、オペレータは、第2糸保持部材83を引っ張ったままの状態で、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83との間に繊維束Fを持っていく。その後、オペレータは、第2糸保持部材83を放すことで、弾性部材85による付勢力を受けて、第2糸保持部材83は第1糸保持部材82に接近する。これによって、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83との間に繊維束Fが挟み込まれることで、繊維束Fが糸保持機構81に保持される。
【0051】
オペレータは、繊維束Fを糸保持機構81に保持させた状態で、別の繊維束Fに対する作業を行ったり、下流側のガイドローラに繊維束Fを掛けやすい位置まで移動したりする。上記の作業や移動を終えた後、オペレータは、繊維束Fを糸保持機構81から解放させる。この際、オペレータは、糸保持機構81に繊維束Fを保持させるときと同様の手順をとる。
【0052】
具体的には、オペレータは、凸部83aに指を引っ掛けて、第2糸保持部材83を軸方向の他方側から一方側に向かって引っ張る(
図5の実線矢印を参照)。これにより、第1糸保持部材82から第2糸保持部材83が離間して、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83との間から繊維束Fを解放することが可能となる。繊維束Fを解放させた後、オペレータは第2糸保持部材83を放すことで、元の状態、すなわち第1糸保持部材82と第2糸保持部材83とが接触した状態に戻る。
【0053】
以上によって、糸保持機構81に繊維束Fを保持させ、その後、解放させるまでの手順が完了する。なお、以上に説明した手順では、次のような順番で各作業が行われる。すなわち(1)まず、繊維束Fをガイドローラ71に掛け、(2)次に、繊維束Fを糸保持機構81に保持させ、(3)続いて、オペレータが別の繊維束Fに対する作業を行ったり、下流側のガイドローラに繊維束Fを掛けやすい位置まで移動したりして、(4)最後に、繊維束Fを糸保持機構81から解放させる。しかしながら、このような順番に限られない。例えば次のような順番で各作業が行われてもよい。すなわち(1)まず、繊維束Fを糸保持機構81に保持させ、(2)次に、オペレータが上記の作業や移動を行い、(3)続いて、繊維束Fを糸保持機構81から解放させ、(4)最後に、繊維束Fをガイドローラ71に掛ける。
【0054】
(効果)
本実施形態のローラユニット70は、繊維束Fが掛けられるガイドローラ71と、ガイドローラ71の軸方向における先端部に取り付けられた第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83と、を含む。第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、互いに接触及び離間可能に構成され、繊維束Fを挟み込むことで保持可能である。本実施形態によれば、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83はガイドローラ71の先端部に取り付けられている。すなわち、ガイドローラ71のすぐ近くに繊維束Fを保持させる第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83が存在している。このため、ガイドローラ71と第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83との間で繊維束Fが張った状態を保つのが容易となる。その結果、ガイドローラ71と第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83との間で繊維束Fが弛んでしまうこと抑制できる。また、オペレータがガイドローラ71から離れた位置にわざわざ繊維束Fを持っていく必要がなく、オペレータの作業の手間を軽減できる。さらに、繊維束Fは第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83に挟み込まれることで保持される。このため、オペレータが繊維束Fを結んだり解いたりする作業を行う必要がない。よって、オペレータの作業の手間を軽減できる。以上から、本実施形態では、繊維束Fが弛むことを抑制し、且つ、繊維束Fの保持及び解放を容易に行うことができる。
【0055】
また、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83が、ガイドローラ71の先端部に取り付けられていることによって、次のような利点も得られる。繊維束Fはガイドローラ71を経由してライナーLに供給される。このため、軸方向と直交する方向から見たときに、軸方向においてガイドローラ71と重なる位置というのは、ライナーLに供給される繊維束Fの走行経路上になり得る。この点、ガイドローラ71の先端部に取り付けられている第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、ライナーLに供給される繊維束Fの走行経路上から外れた位置に配置されている。このため、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、繊維束FをライナーLに供給する際の邪魔にならない。
【0056】
また、本実施形態のローラユニット70は、第2糸保持部材83を第1糸保持部材82に向かって付勢する弾性部材85をさらに含む。これによれば、オペレータが、弾性部材85によって付勢される向きと反対向きに第2糸保持部材83を引っ張ることで、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83とを離間させることができる。また、引っ張った第2糸保持部材83を放すことで、付勢力によって第2糸保持部材83を第1糸保持部材82に接近させることができる。よって、簡単な動作によって、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83との間に繊維束Fを挟み込ませることができる。また、簡単な動作によって、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83との間から繊維束Fを解放させることができる。
【0057】
また、本実施形態のローラユニット70は、弾性部材85の第2糸保持部材83に対する付勢力を調整するためのねじ86を含む。第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83によって繊維束Fを確実に保持させるためには、弾性部材85の第2糸保持部材83に対する付勢力をできるだけ強くしたい。一方で、オペレータの力具合によっては、付勢力が強すぎると第2糸保持部材83を引っ張ることが難しい。本実施形態の構成であれば、付勢力をなるべく強くした上で、オペレータが容易に引っ張ることができる程度の付勢力に調整できる。
【0058】
また、本実施形態のローラユニット70では、第2糸保持部材83には、弾性部材85によって付勢される方向と交差する方向に突出した凸部83aが形成されている。これによれば、凸部83aに指を引っ掛けることで、弾性部材85によって第2糸保持部材83が付勢される方向と反対方向に第2糸保持部材83を引っ張り易くなる。このため、繊維束Fを第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83に保持させる作業をよりスムーズに行える。
【0059】
さらに、本実施形態のローラユニット70では、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、軸方向において互いに対向する一対の対向面92及び93を有する。対向面92と対向面93のうちの少なくとも一方の対向面は、凹凸面を有する。一対の対向面92及び93のうちの少なくとも一方の対向面が凹凸面を有しているため、一対の対向面92及び93に挟み込まれる繊維束Fと対向面92又は繊維束Fと対向面93との間に生じる摩擦力を大きくすることができる。これにより、繊維束Fが一対の対向面92及び93の間からずれにくくなり、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83によって繊維束Fをより確実に保持させることができる。
【0060】
また、本実施形態のローラユニット70では、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、自転不能に構成されている。これによれば、繊維束Fを第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83に保持させているときに、ガイドローラ71が意図せずに回転してしまったとしても、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83に保持された繊維束Fが一緒に回転することはない。このため、繊維束Fが回転してしまうことに伴って繊維束Fが弛んでしまうことを回避できる。
【0061】
(変形例)
以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0062】
上記実施形態では、第2糸保持部材83が軸方向に移動することによって、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83とが接触および離間可能となっている。しかしながら、第1糸保持部材82が軸方向に移動することによって、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83とが接触および離間可能となっていてもよい。または、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83の両方が軸方向に移動することによって、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83とが接触および離間可能となっていてもよい。
【0063】
上記実施形態では、弾性部材85が第2糸保持部材83を付勢する方向は、軸方向である。しかしながら、弾性部材85が第2糸保持部材83を付勢する方向は、軸方向と交差する方向であってもよい。
【0064】
上記実施形態では、弾性部材85として、例えばバネが挙げられている。しかしながら、弾性部材85は、例えば、弾性を有する樹脂などの部材であってもよい。また、上記実施形態では、第2糸保持部材83を第1糸保持部材82に向かって付勢する付勢部材として、弾性部材85が採用されている。しかしながら、付勢部材はこれに限られない。例えば、付勢部材として、磁石を用いてもよい。具体的には、第1糸保持部材82を鉄製の部材とし、第2糸保持部材83を磁石部材とする。これにより、第2糸保持部材83は、自身の磁力によって、第1糸保持部材82に向かって付勢される。すなわち、第2糸保持部材83が付勢部材としての役割を有する。なお、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83の両方を磁石としてもよい。この場合、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、磁力によって互いに引き合うように配置される。
【0065】
上記実施形態では、ねじ86が本発明の付勢力調整機構に相当し、ねじ86を締めたり緩めたりすることによって、弾性部材85の第2糸保持部材83に対する付勢力を調整している。しかしながら、本発明の付勢力調整機構はこれに限られない。例えば、上述のように付勢部材として磁石を用いる場合、付勢力調整機構は、磁石の磁力を調整する機構であってもよい。また、付勢力調整機構は設けられていなくてもよい。
【0066】
上記実施形態では、ローラユニット70は、第2糸保持部材83を第1糸保持部材82に向かって付勢する付勢部材(弾性部材85)を有する。しかしながら、ローラユニット70は、付勢部材を有していなくてもよい。この場合、例えば、以下のような構成が考えられる。第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83が、互いに噛み合うように構成された2つの爪部材である。このような第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83に繊維束Fを保持させる際は、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83との間に繊維束Fを挟み込ませた状態で、第1糸保持部材82の爪と第2糸保持部材83の爪とを噛み合わせる。そして、このような第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83から繊維束Fを解放する際は、第1糸保持部材82の爪と第2糸保持部材83の爪の噛み合いを解除させる。
【0067】
ローラユニット70が付勢部材を有していない場合に考えられる別の構成として、例えば、以下のような構成も考えられる。第1糸保持部材82には軸方向に延びた突起部分が形成され、第2糸保持部材83には突起部分が挿入可能な孔部分が形成されている。第1糸保持部材82の突起部分を第2糸保持部材83の孔部分に嵌り込ませることで、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83との接触状態が固定される。このような第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83に繊維束Fを保持させる際は、第1糸保持部材82と第2糸保持部材83との間に繊維束Fを挟み込ませた状態で、第1糸保持部材82の突起部分を第2糸保持部材83の孔部分に嵌り込ませる。そして、このような第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83から繊維束Fを解放する際は、第1糸保持部材82の突起部分を第2糸保持部材83の孔部分から抜き取る。
【0068】
上記実施形態では、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、軸方向において互いに対向する一対の対向面92及び93を有する。しかしながら、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、軸方向と交差する方向において互いに対向する一対の対向面92及び93を有していてもよい。また、上記実施形態では、対向面92と対向面93のうちの少なくとも一方の対向面は、凹凸面を有する。しかしながら、対向面92と対向面93の両方が、凹凸面を有していなくてもよい。
【0069】
上記実施形態では、第2糸保持部材83には、軸方向と交差する方向に突出した凸部83aが形成されている。しかしながら、第2糸保持部材83には、軸方向と交差する方向に凹んだ凹部が形成されていてもよい。例えば、
図7に示すように、第2糸保持部材83には、軸方向と直交する方向において第2糸保持部材83の内側に向かって凹んだ凹部183aが形成されている。凹部183aが形成されていることによって、オペレータが凹部183aに指を引っ掛けることで、弾性部材85によって第2糸保持部材83が付勢される方向と反対方向に第2糸保持部材83を引っ張り易くなる。このため、繊維束Fを第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83に保持させる作業をよりスムーズに行える。なお、凹部183aの形状は
図7に示した形状に限られない。
【0070】
上記実施形態では、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、自転不能に構成されている。しかしながら、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83は、自転可能に構成されていてもよい。具体的には、第1糸保持部材82及び第2糸保持部材83を支持する支持部材84が、ローラ支持軸73の先端に回転可能に取り付けられていてもよい。或いは、支持部材84が、ガイドローラ71の先端に直接取り付けられていてもよい。
【0071】
上記実施形態では、付勢力調整機構としてのねじ86が、軸方向におけるローラユニット70の一方側の端部に取り付けられている。しかしながら、ねじ86と支持部材84との間に、ナットが配置されていてもよい。例えば、
図8に示すように、軸方向におけるローラユニット70の一方側の端部に、ねじ86aとナット86bとが取り付けられている。ナット86bは、軸方向においてねじ86aの頭部と支持部材84との間に配置されている。ねじ86aを締めることに加えて、軸方向における一方側から他方側に向かってナット86bを締めることによって、弾性部材85がさらに圧縮されて、弾性部材85の第2糸保持部材83に対する付勢力がより大きくすることができる。また、弾性部材85の付勢力を小さくしたい場合は、軸方向における他方側から一方側に向かってナット86bを緩める。
【0072】
ナット86bを配置する構成を採用することによって、次のような効果が得られる。例えば、上記実施形態のようにねじ86のみを配置する構成では、ローラユニット70の連続的な使用によって、ねじ86が緩んできてしまう可能性がある。そうすると、第1糸保持部材82、第2糸保持部材83及び支持部材84のローラ支持軸73への取り付けを補強するねじ86の力が弱くなるおそれがある。この点、ナット86bを配置することによって、ねじ86aの緩みが抑制される。このため、ローラユニット70を連続的に使用したとしても、ねじ86aが緩みにくくなる。よって、第1糸保持部材82、第2糸保持部材83及び支持部材84のローラ支持軸73への取り付けを補強するねじ86の力が弱くなることを抑制できる。
【符号の説明】
【0073】
1 フィラメントワインディング装置
70 ローラユニット
71 ガイドローラ
73 ローラ支持軸
81 糸保持機構
82 第1糸保持部材
83 第2糸保持部材
83a 凸部
85 弾性部材
92 対向面
93 対向面
183a 凹部
F 繊維束