(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171576
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20241205BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20241205BHJP
B60W 40/068 20120101ALI20241205BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20241205BHJP
B60T 8/1764 20060101ALI20241205BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20241205BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60W30/02
B60W40/068
B60T8/1761
B60T8/1764
B60L7/24 D
B60L15/20 S
B60L15/20 Y
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088656
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 将太郎
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BB01
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3D246LA12Z
3D246LA15Z
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA05
5H125CA02
5H125CA15
5H125CB02
5H125CB07
5H125DD16
5H125EE63
(57)【要約】
【課題】回生制動による回収エネルギーの低下及び車両挙動の不安定化を抑制しながらスリップ状態の助長を抑制することができる車両制御システムを提供する。
【解決手段】車両制御システム10は、フロントモータ制御部25a及びリヤモータ制御部25bと、挙動制御部23と、統合制御部27とを備える。統合制御部27は、各モータ制御部25a,25bによる回生制動の実行時に、前輪Fr及び後輪Rrの少なくともいずれか1つのスリップ状態に応じて、仮想的に挙動制御部23による摩擦制動を相対的に回生制動よりも優先させる場合の前輪Fr及び後輪Rrに対する制動力配分を取得する。統合制御部27は、摩擦制動での制動力配分が回生制動での前輪Fr及び後輪Rrに対する制動力配分と所定範囲で同一である場合、回生制動を相対的に摩擦制動よりも優先させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車輪との間でトルクを授受する第1回転電機の動作を制御する第1制御部と、
第2車輪との間でトルクを授受する第2回転電機の動作を制御する第2制御部と、
前記第1車輪及び前記第2車輪の各々の摩擦制動を制御する摩擦制動制御部と、
前記第1制御部及び前記第2制御部による回生制動の実行時に、前記第1車輪及び前記第2車輪の少なくともいずれか1つのスリップ状態に応じて、仮想的に前記摩擦制動を相対的に前記回生制動よりも優先させる場合の前記摩擦制動制御部による前記第1車輪及び前記第2車輪に対する制動力配分を取得し、前記制動力配分が前記回生制動での前記第1車輪及び前記第2車輪に対する制動力配分と所定範囲で同一である場合、前記回生制動を相対的に前記摩擦制動よりも優先させる協調制御部と
を備える
車両制御システム。
【請求項2】
前記協調制御部は、
前記第1制御部及び前記第2制御部による回生制動の実行時に、前記第1車輪及び前記第2車輪の少なくともいずれか1つのスリップ状態に応じて、仮想的に前記摩擦制動を相対的に前記回生制動よりも優先させる場合に前記スリップ状態が助長されるか否かを判定し、前記スリップ状態が助長されると判定する場合、前記回生制動を相対的に前記摩擦制動よりも優先させる
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記協調制御部は、
前記第1制御部及び前記第2制御部による回生制動の実行時に、前記第1車輪及び前記第2車輪の少なくともいずれか1つのスリップ状態に応じて、走行路がスプリット摩擦路であるか否かを判定し、前記走行路がスプリット摩擦路であると判定する場合、前記摩擦制動を相対的に前記回生制動よりも優先させる
請求項1又は請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記協調制御部は、
前記第1制御部及び前記第2制御部による回生制動の実行時に、前記第1車輪及び前記第2車輪の少なくともいずれか1つのスリップ状態に応じて、仮想的に前記摩擦制動を相対的に前記回生制動よりも優先させる場合に、前記摩擦制動の前記制動力配分が前記回生制動の前記制動力配分と前記所定範囲で同一ではない及び前記スリップ状態が抑制されると判定する場合、前記摩擦制動を相対的に前記回生制動よりも優先させる
請求項1又は請求項2に記載の車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中でも高齢者や障がい者や子供といった脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現に向けて車両の挙動安定性に関する開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発に注力している。
従来、制動時の車輪のスリップを判定する車輪速閾値と、車輪のトラクション制御による制動力補正量の増大を判定する補正量閾値とによって、回生制動から摩擦制動への振り分け要否を判定する車両制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の挙動安定性においては、回生制動による減速時に車輪のスリップが発生した場合、回収エネルギーの低下及び車両挙動の不安定化を抑制しながらスリップ状態を解消することが課題である。
例えば上記した従来技術の車両制御装置は、2つの閾値(車輪速閾値と補正量閾値)を用いた判定処理によって回生制動から摩擦制動への振り分けを実行するので、制動力の振り分け処理又は路面状態によってはスリップを解消することができない又は車両挙動が不安定になるおそれがある。例えば各車輪の回生可能量が各モータ及びバッテリの状態によって変化すること、又は、例えばスプリット摩擦路での回生制動時に左右の車輪で回生制動力が偏ること等によって、制動力の振り分け処理が不適正となり、スリップの未解消及び車両挙動の不安定が生じるおそれがある。
【0005】
本願は上記課題の解決のため、回生制動による回収エネルギーの低下及び車両挙動の不安定化を抑制しながらスリップ状態の助長を抑制することの達成を目的としたものである。そして、延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は以下の態様を採用した。
(1):本発明の一態様に係る車両制御システム(例えば、実施形態での車両制御システム10)は、第1車輪(例えば、実施形態での前輪Fr)との間でトルクを授受する第1回転電機(例えば、実施形態でのフロント回転電機11a)の動作を制御する第1制御部(例えば、実施形態でのフロントモータ制御部25a)と、第2車輪(例えば、実施形態での後輪Rr)との間でトルクを授受する第2回転電機(例えば、実施形態でのリヤ回転電機11b)の動作を制御する第2制御部(例えば、実施形態でのリヤモータ制御部25b)と、前記第1車輪及び前記第2車輪の各々の摩擦制動を制御する摩擦制動制御部(例えば、実施形態での電動制動制御部21及び挙動制御部23)と、前記第1制御部及び前記第2制御部による回生制動の実行時に、前記第1車輪及び前記第2車輪の少なくともいずれか1つのスリップ状態に応じて、仮想的に前記摩擦制動を相対的に前記回生制動よりも優先させる場合の前記摩擦制動制御部による前記第1車輪及び前記第2車輪に対する制動力配分を取得し、前記制動力配分が前記回生制動での前記第1車輪及び前記第2車輪に対する制動力配分と所定範囲で同一である場合、前記回生制動を相対的に前記摩擦制動よりも優先させる協調制御部(例えば、実施形態での統合制御部27)とを備える。
【0007】
(2):上記(1)に記載の車両制御システムでは、前記協調制御部は、前記第1制御部及び前記第2制御部による回生制動の実行時に、前記第1車輪及び前記第2車輪の少なくともいずれか1つのスリップ状態に応じて、仮想的に前記摩擦制動を相対的に前記回生制動よりも優先させる場合に前記スリップ状態が助長されるか否かを判定し、前記スリップ状態が助長されると判定する場合、前記回生制動を相対的に前記摩擦制動よりも優先させてもよい。
【0008】
(3):上記(1)又は(2)に記載の車両制御システムでは、前記協調制御部は、前記第1制御部及び前記第2制御部による回生制動の実行時に、前記第1車輪及び前記第2車輪の少なくともいずれか1つのスリップ状態に応じて、走行路がスプリット摩擦路であるか否かを判定し、前記走行路がスプリット摩擦路であると判定する場合、前記摩擦制動を相対的に前記回生制動よりも優先させてもよい。
【0009】
(4):上記(1)又は(2)に記載の車両制御システムでは、前記協調制御部は、前記第1制御部及び前記第2制御部による回生制動の実行時に、前記第1車輪及び前記第2車輪の少なくともいずれか1つのスリップ状態に応じて、仮想的に前記摩擦制動を相対的に前記回生制動よりも優先させる場合に、前記摩擦制動の前記制動力配分が前記回生制動の前記制動力配分と前記所定範囲で同一ではない及び前記スリップ状態が抑制されると判定する場合、前記摩擦制動を相対的に前記回生制動よりも優先させてもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)によれば、回生制動及び摩擦制動の各制動力配分が同一の場合に回生制動を相対的に摩擦制動よりも優先させる協調制御部を備えることによって、車両挙動の不安定化及びスリップ状態の助長を抑制しながら、回生制動による回収エネルギーの低下を抑制することができる。
【0011】
上記(2)の場合、摩擦制動での制動力配分による車両挙動の不安定化及びスリップ状態の助長を、回生制動の優先によって抑制することができ、制動性能の低下を抑制することができる。
【0012】
上記(3)の場合、スプリット摩擦路で摩擦制動を相対的に回生制動よりも優先させることによって、スプリット摩擦路における回生制動の継続によって車両挙動の不安定化及びスリップ状態の助長が生じることを抑制し、制動性能の低下を抑制することができる。
【0013】
上記(4)の場合、回生制動の制動力配分によってスリップ状態の未解消を誘発している場合に摩擦制動を優先させることによって、スリップ状態を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態での車両制御システムの構成図。
【
図2】本発明の実施形態での車両制御システムの機能構成を示すブロック図。
【
図3】本発明の実施形態での車両制御システムの制動動作を示すフローチャート。
【
図4】本発明の実施形態の車両制御システムでの回生制動を相対的に摩擦制動よりも優先させる状態の例を示す図。
【
図5】本発明の実施形態の車両制御システムでの回生制動を相対的に摩擦制動よりも優先させる状態の他の例を示す図。
【
図6】本発明の実施形態の車両制御システムでの摩擦制動を相対的に回生制動よりも優先させる状態の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る車両制御システムについて、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態での車両制御システム10の構成図である。
図2は、実施形態での車両制御システム10の機能構成を示すブロック図である。
実施形態の車両制御システム10は、例えば、電気自動車、ハイブリッド車両及び燃料電池車両等の電動車両(車両)1に搭載されている。電気自動車は、バッテリを動力源として駆動する。ハイブリッド車両は、バッテリ及び内燃機関を動力源として駆動する。燃料電池車両は、燃料電池を動力源として駆動する。
【0016】
図1及び
図2に示すように、車両制御システム10を搭載する車両1は、例えば、フロント回転電機11a及びリヤ回転電機11bと、フロント差動装置13a及びリヤ差動装置13bと、第1フロントブレーキ機構15a及び第2フロントブレーキ機構15bと、第1リヤブレーキ機構15c及び第2リヤブレーキ機構15dと、処理装置17とを備える。
【0017】
フロント回転電機11aは、例えば、フロント差動装置13aを介して、左右の前輪Frとの間でトルクを授受する。リヤ回転電機11bは、例えば、リヤ差動装置13bを介して、左右の後輪Rrとの間でトルクを授受する。各回転電機11a,11bは、例えば3相交流のブラシレスDCモータ等である。各回転電機11a,11bは、電力変換装置等から供給される電力により力行動作することによって各車輪Fr,Rrに駆動トルクを発生させる。各回転電機11a,11bは、は、各前輪Fr及び各後輪Rr側から入力される回転動力により回生動作することによって発電電力と各前輪Fr及び各後輪Rrに制動トルクとを発生させる。
【0018】
フロント差動装置13aは、例えば、フロント回転電機11aと左右の前輪Frとを接続する。リヤ差動装置13bは、例えば、リヤ回転電機11bと左右の後輪Rrとを接続する。各差動装置13a,13bは、例えば傘歯車型の差動機構等であって、いわゆる差動制限機構を有していないオープンデフである。
第1フロントブレーキ機構15a及び第2フロントブレーキ機構15bは、例えば、左右の前輪Frの各々に設けられる摩擦制動機構である。第1リヤブレーキ機構15c及び第2リヤブレーキ機構15dは、例えば、左右の後輪Rrの各々に設けられる摩擦制動機構である。各ブレーキ機構15a,15b,15c,15dは、例えば油圧等の液圧のディスクブレーキ又はドラムブレーキ等を備える。各ブレーキ機構15a,15b,15c,15dは、例えば、操作者によるブレーキ操作子の操作等に応じて電動モータが発生させる液圧によって、各前輪Fr及び各後輪Rrの摩擦制動を行う。
【0019】
処理装置17は、例えば、電動制動制御部21と、挙動制御部23と、フロントモータ制御部25a及びリヤモータ制御部25bと、統合制御部27とを備える。
各制御部21,23,25a,25b,27は、例えばCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって所定のプログラムが実行されることにより機能するソフトウェア機能部である。ソフトウェア機能部は、CPUなどのプロセッサ、プログラムを格納するROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)及びタイマーなどの電子回路を備えるECUである。なお、各制御部21,23,25a,25b,27の少なくとも一部は、LSI(Large Scale Integration)などの集積回路であってもよい。
【0020】
実施形態の車両制御システム10は、例えば、処理装置17と、車両1に搭載される各種のセンサとを備える。
処理装置17は、車両1の各種のセンサから出力される検出値の信号を取得して、各回転電機11a,11bと各ブレーキ機構15a,15b,15c,15dとを統合的に制御する。各種のセンサは、例えば、ブレーキスイッチ31、回転センサ33、車速センサ35、車輪速センサ37、電流センサ39、電圧センサ41及び温度センサ43等である。
ブレーキスイッチ31は、操作者によるブレーキ操作子の操作有無を検出する。回転センサ33は、各回転電機11a,11bの回転角度を検出する。車速センサ35は、車両1の速度(車体速)を検出する。車輪速センサ37は、各前輪Fr及び各後輪Rr(各車輪)の回転速度(車輪速)を検出する。電流センサ39、電圧センサ41及び温度センサ43の各々は、例えば、各回転電機11a,11b及び各回転電機11a,11bとの間で電力を授受するバッテリ等の蓄電装置の電流、電圧及び温度の各々を検出する。
【0021】
電動制動制御部21は、例えば、各ブレーキ機構15a,15b,15c,15dに対して液圧を発生させる液圧シリンダ等の動力源である電動モータの動作を制御する。
挙動制御部23は、例えば、車両1の挙動の急激な変化を抑制して姿勢を安定化させるために、電動制動制御部21の制御によって発生する液圧に基づき、各ブレーキ機構15a,15b,15c,15dによる摩擦制動を制御する。挙動制御部23は、例えば、制動時の車輪ロックを防ぐアンチブレーキロック制御と、加速時及び減速時等の車輪スリップを防ぐトラクション制御と、旋回時の横すべり抑制制御となどを実行する。
【0022】
フロントモータ制御部25a及びリヤモータ制御部25bの各々は、例えば、車両1に搭載された蓄電装置等の電源に接続される電力変換装置を備える。各モータ制御部25a,25bは、例えば複数のスイッチング素子等によって構成される電力変換装置を介して、フロント回転電機11a及びリヤ回転電機11bの各々の電力授受を制御する。各モータ制御部25a,25bは、各回転電機11a,11bの力行動作時には、3相への通電を順次転流させることによって回転駆動力を発生させる。各モータ制御部25a,25bは、各回転電機11a,11bの回生動作時には、回転に同期がとられた各相のスイッチング動作によって、3相から入力される交流電力を直流電力に変換することによって回転制動力を発生させる。
【0023】
フロントモータ制御部25a及びリヤモータ制御部25bの各々は、例えば、各回転電機11a,11bの回生動作による制動時に、回生制動力によって車輪ロック(スリップ)を防ぐアンチスリップ制御を実行する。例えば、回生制動力によるアンチスリップ制御の制御周期は、挙動制御部23の摩擦制動によるアンチブレーキロック制御の制御周期よりも相対的に短く設定される。
統合制御部27は、電動制動制御部21、挙動制御部23及び各モータ制御部25a,25bを統合的に制御する。
【0024】
以下に、実施形態での車両制御システム10の動作例について説明する。
図3は、実施形態の車両制御システム10の制動動作を示すフローチャートである。
図4は、実施形態の車両制御システム10での回生制動を相対的に摩擦制動よりも優先させる状態の例を示す図である。
図5は、実施形態の車両制御システム10での回生制動を相対的に摩擦制動よりも優先させる状態の他の例を示す図である。
図6は、実施形態の車両制御システム10での摩擦制動を相対的に回生制動よりも優先させる状態の例を示す図である。
【0025】
図3に示すように、例えば、車両1の回生制動の実行時において、先ず、統合制御部27は、車両1の車体速と各車輪の車輪速とに基づき、いずれかの車輪にスリップが発生したか否かを判定する(ステップS01)。統合制御部27は、例えば、いずれかの車輪速が車体速に応じた所定の閾値未満となる状態が所定時間に亘って継続した場合に、いずれかの車輪にスリップが発生していると判定する。
この判定結果が「NO」の場合、統合制御部27は処理をエンドに進める。
一方、この判定結果が「YES」の場合、統合制御部27は処理をステップS02に進める。
次に、統合制御部27は、所定の車輪間、例えば前輪Frと後輪Rrとの間に対して、回生制動での制動力配分と、摩擦制動での制動力配分とは、所定範囲で同一であるか否かを判定する(ステップS02)。
この判定結果が「NO」の場合、統合制御部27は処理をステップS03に進める。
一方、この判定結果が「YES」の場合、統合制御部27は処理をステップS04に進める。
【0026】
なお、摩擦制動での制動力配分は、例えば、各ブレーキ機構15a,15b,15c,15dのサイズ及び摩擦材等によって、予め所定の配分に設定される。回生制動での制動力配分は、例えば、各回転電機11a,11bの温度等の状態並びに動力源の蓄電装置の温度及び蓄電量等の状態に応じて設定される。例えば、相対的にフロント回転電機11aがリヤ回転電機11bよりも発熱する場合等では、前輪Frの回生量は低減されるとともに後輪Rrの回生制動力の配分は増大させられる。
【0027】
次に、統合制御部27は、仮想的に摩擦制動を相対的に回生制動よりも優先させる場合、例えば実行中の回生制動を停止するとともに回生制動の代わりに摩擦制動を実行する場合、制動力配分によって車輪のスリップが不変又は助長されるか否かを判定する(ステップS03)。
この判定結果が「NO」の場合、統合制御部27は処理をステップS06に進める。
一方、この判定結果が「YES」の場合、統合制御部27は処理をステップS04に進める。
【0028】
次に、統合制御部27は、各車輪の車輪速に基づき、車両1の走行路はスプリット摩擦路であるか否かを判定する(ステップS04)。スプリット摩擦路は、左右の車輪の路面に対する摩擦係数が異なる走行路である。統合制御部27は、例えば、左右の組み合わせでの車輪速差(例えば、左右の前輪Frの車輪速差など)が所定閾値よりも大きい状態が所定時間に亘って継続した場合に、スプリット摩擦路であると判定する。
この判定結果が「NO」の場合、統合制御部27は処理をステップS05に進める。
一方、この判定結果が「YES」の場合、統合制御部27は処理をステップS06に進める。
次に、統合制御部27は、回生制動の実行を継続して(ステップS05)、処理をエンドに進める。
また、統合制御部27は、回生制動の実行から摩擦制動の実行に移行して(ステップS06)、処理をエンドに進める。
【0029】
例えば
図4に示すように、統合制御部27は、回生制動の実行時に前輪Frでの制動力BFが走行路のグリップ限界に対応する閾制動力BTよりも大きくなることで前輪Frのスリップが生じた際、仮想的に回生制動から摩擦制動に移行する場合の前輪Frと後輪Rrとの間での制動力配分を取得する。統合制御部27は、例えば、回生制動での制動力配分と摩擦制動での制動力配分とが同一であることによって、前輪Frのスリップが解消されない場合、摩擦制動への移行を実行せずに回生制動の実行を継続する。
図4に示す例では、回生制動から摩擦制動に移行した場合、回生制動及び摩擦制動の各々で前輪Frの制動力BF及び後輪Rrの制動力BRは不変であり、前輪Frのスリップは解消されない。
【0030】
例えば
図5に示すように、統合制御部27は、回生制動の実行時に前輪Frでの制動力BF1が走行路のグリップ限界に対応する閾制動力BTよりも大きくなることで前輪Frのスリップが生じた際、仮想的に回生制動から摩擦制動に移行する場合の前輪Frと後輪Rrとの間での制動力配分を取得する。統合制御部27は、例えば、回生制動での制動力配分と摩擦制動での制動力配分とが異なる場合であっても、後輪Rrから前輪Frへの制動力の配分が増大することに起因して前輪Frのスリップが助長される場合、摩擦制動への移行を実行せずに回生制動の実行を継続する。
図5に示す例では、回生制動から摩擦制動に移行した場合、回生制動での後輪Rrの制動力BR1が摩擦制動での後輪Rrの制動力BR2(<BR1)へと減少することに伴い、回生制動での前輪Frの制動力BF1が摩擦制動での前輪Frの制動力BF2(>BF1)へと増大し、前輪Frのスリップは助長される。
【0031】
例えば
図6に示すように、統合制御部27は、回生制動の実行時に前輪Frのスリップが生じた際、仮想的に回生制動から摩擦制動に移行する場合の前輪Frと後輪Rrとの間での制動力配分を取得する。統合制御部27は、例えば、回生制動での制動力配分と摩擦制動での制動力配分とが同一である場合であっても、左右の前輪Frの路面に対する摩擦係数が異なる走行路(スプリット摩擦路)である場合、回生制動の実行を継続せず、摩擦制動への移行を実行する。
図6に示す例では、スプリット摩擦路は、左側の前輪Frで摩擦係数が相対的に小さい低摩擦路であり、右側の前輪Frで摩擦係数が相対的に大きい高摩擦路である。回生制動の実行時には、フロント差動装置13aの動作によって低摩擦路の左側の前輪Frに回生制動力が偏ることに起因して、左側の前輪Frでスリップが助長されるとともに、高摩擦路の右側の前輪Frに伝達される回生制動力が低下する。さらに、回生制動でのアンチスリップ制御が実行される場合には、左右の前輪Frに対してフロント回転電機11aの回生動作が制御されるので、高摩擦路の右側の前輪Frに伝達される回生制動力が、より一層、低下する。
一方、回生制動から摩擦制動に移行することによって、各車輪で独立してアンチブレーキロック制御が実行されることにより、例えば、低摩擦路の左側の前輪Frでのアンチブレーキロック制御によってスリップが解消されるとともに、高摩擦路の右側の前輪Frで所望の摩擦制動力が確保される。
【0032】
上述したように、実施形態の車両制御システム10によれば、回生制動及び摩擦制動の各制動力配分が同一の場合に回生制動を相対的に摩擦制動よりも優先させる統合制御部27を備えることによって、車両挙動の不安定化及びスリップ状態の助長を抑制しながら、回生制動による回収エネルギーの低下を抑制することができる。摩擦制動での制動力配分による車両挙動の不安定化及びスリップ状態の助長を、回生制動の優先によって抑制することができ、制動性能の低下を抑制することができる。
燃費及び電費の低下を抑制することが出来るとともに、相対的に制御周期が短い回生制動力によるアンチスリップ制御によって、車両挙動を迅速に安定化させることができる。
【0033】
統合制御部27は、スプリット摩擦路で摩擦制動を相対的に回生制動よりも優先させることによって、スプリット摩擦路における回生制動の継続によって車両挙動の不安定化及びスリップ状態の助長が生じることを抑制し、制動性能の低下を抑制することができる。
統合制御部27は、回生制動の制動力配分によってスリップ状態の未解消を誘発している場合に摩擦制動を優先させることによって、スリップ状態を改善することができる。
【0034】
(変形例)
以下、実施形態の変形例について説明する。なお、上述した実施形態と同一部分については、同一符号を付して説明を省略又は簡略化する。
上述した実施形態では、ステップS03の判定処理でスリップ状態が不変又は助長されない場合に制動動作を回生制動から摩擦制動に振り分けるとしたが、これに限定されない。例えば、ステップS03の判定処理でスリップ状態が抑制される場合に制動動作を回生制動から摩擦制動に移行させてもよい。
【0035】
上述した実施形態では、車両1は、左右の前輪Frに接続されるフロント回転電機11aと、左右の後輪Rrに接続されるリヤ回転電機11bとを備えるとしたが、これに限定されない。例えば、各車輪に個別に回転電機を備えてもよいし、複数の車輪の適宜の組み合わせの各々に対して個別に回転電機を備えてもよい。
【0036】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0037】
1…車両、10…車両制御システム、11a…フロント回転電機(第1回転電機)、11b…リヤ回転電機(第2回転電機)、13a…フロント差動装置、13b…リヤ差動装置、15a…第1フロントブレーキ機構、15b…第2フロントブレーキ機構、15c…第1リヤブレーキ機構、15d…第2リヤブレーキ機構、17…処理装置、21…電動制動制御部(摩擦制動制御部)、23…挙動制御部(摩擦制動制御部)、25a…フロントモータ制御部(第1制御部)、25b…リヤモータ制御部(第2制御部)、27…統合制御部(協調制御部)、31…ブレーキスイッチ、33…回転センサ、35…車速センサ、37…車輪速センサ、39…電流センサ、41…電圧センサ、43…温度センサ、Fr…前輪(第1車輪)、Rr…後輪(第2車輪)。