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特開2024-171577防食塗料組成物、防食塗膜、防食塗膜付き基材および防食塗膜付き基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171577
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】防食塗料組成物、防食塗膜、防食塗膜付き基材および防食塗膜付き基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20241205BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20241205BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241205BHJP
   C09D 163/02 20060101ALI20241205BHJP
   C09D 163/04 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/08
C09D7/61
C09D163/02
C09D163/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088657
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西澤 政武
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB061
4J038DB071
4J038HA216
4J038HA506
4J038HA536
4J038JC32
4J038KA03
4J038MA14
4J038NA03
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】耐溶剤性および防食性に優れる防食塗膜を形成することができる防食塗料組成物を提供すること。
【解決手段】一分子中に4~6個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)、前記エポキシ化合物(A)以外のエポキシ樹脂(B)、シランカップリング剤(C)、顔料(D)、および、アミン系硬化剤(E)を含む、防食塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中に4~6個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)、
前記エポキシ化合物(A)以外のエポキシ樹脂(B)、
シランカップリング剤(C)、
顔料(D)、および、
アミン系硬化剤(E)
を含む、防食塗料組成物。
【請求項2】
前記エポキシ化合物(A)の含有量が、防食塗料組成物の不揮発分100質量%に対し、1~15質量%である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項3】
前記エポキシ化合物(A)のエポキシ当量が200以下である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量が200以下である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂(B)が、ビスフェノール型エポキシ樹脂およびノボラック型エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項6】
VOC含有量が200g/L以下である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項7】
顔料体積濃度(PVC)が10~40%である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項8】
前記エポキシ化合物(A)の含有量が、前記エポキシ樹脂(B)の含有量1質量部に対し、0.05~1.0質量部である、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の防食塗料組成物より形成された防食塗膜。
【請求項10】
請求項9に記載の防食塗膜と基材とを含む防食塗膜付き基材。
【請求項11】
下記工程[1]および[2]を含む、防食塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、請求項1~8の何れか1項に記載の防食塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された防食塗料組成物を乾燥させて防食塗膜を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食塗料組成物、防食塗膜、防食塗膜付き基材および防食塗膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学品等が収容されるプロダクトキャリアタンクや陸上タンクの内面等には、耐溶剤性および防食性に優れるタンクとするために、耐溶剤性および防食性に優れる防食塗膜が形成されている。
このような防食塗膜を形成する、従来の防食塗料組成物には、固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂や、固形のノボラック型エポキシ樹脂と、ジエチレントリアミンのエポキシアダクトなどのエポキシ変性物とが使用(配合)されている。
【0003】
このような防食塗料組成物は、得られる防食塗膜に前記効果を付与するため、比較的高分子量の樹脂を含有している。このため、該防食塗料組成物は、塗装作業性等の観点から揮発性有機成分(以下、VOC:Volatile Organic Compounds)を多量に含んでいる。そこで、よりVOCを削減可能な半固形のエポキシ樹脂を用いた防食塗料組成物も開発されているが、VOCの削減量は未だ十分ではない。
【0004】
例えば、特許文献1には、エポキシ当量が250~300であるビスフェノール型エポキシ樹脂を含む主剤成分と、キシリレンジアミンのエポキシアダクトおよびポリアミドのエポキシアダクトを含む硬化剤成分とを含有する、ハイソリッドタイプの防食塗料組成物が開示されている。
【0005】
一方、前記プロダクトキャリアタンクや陸上タンクなどの密閉された構造物の内面の塗装に用いる防食塗料組成物としては、タンク内にVOCが充満することや、塗装作業者が高濃度のVOCに曝されることを避けるため、より低VOC型の防食塗料組成物が求められている。さらに、これらの構造物への塗装では、スプレー塗装、特にエアレススプレーにて塗装することが作業効率の観点で望ましいため、塗料粘度が低い塗装作業性の良好な防食塗料組成物であることが要求されている。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に記載されているような従来の防食塗料組成物は、この点で課題があった。
一方、前記低VOC型の防食塗料組成物として、特許文献2には、耐溶剤性および防食性に優れる防食塗膜を形成できる低VOCの防食塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/102587号
【特許文献2】国際公開第2019/022218号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献2に記載の防食塗料組成物から得られた防食塗膜には、耐溶剤性の点で改良の余地があることが分かった。
本発明は、耐溶剤性および防食性に優れる防食塗膜を形成することができる防食塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者が、前記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、特定の防食塗料組成物によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0010】
<1> 一分子中に4~6個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)、
前記エポキシ化合物(A)以外のエポキシ樹脂(B)、
シランカップリング剤(C)、
顔料(D)、および、
アミン系硬化剤(E)
を含む、防食塗料組成物。
【0011】
<2> 前記エポキシ化合物(A)の含有量が、防食塗料組成物の不揮発分100質量%に対し、1~15質量%である、<1>に記載の防食塗料組成物。
<3> 前記エポキシ化合物(A)のエポキシ当量が200以下である、<1>または<2>に記載の防食塗料組成物。
【0012】
<4> 前記エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量が200以下である、<1>~<3>の何れかに記載の防食塗料組成物。
<5> 前記エポキシ樹脂(B)が、ビスフェノール型エポキシ樹脂およびノボラック型エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種である、<1>~<4>の何れかに記載の防食塗料組成物。
【0013】
<6> VOC含有量が200g/L以下である、<1>~<5>の何れかに記載の防食塗料組成物。
【0014】
<7> 顔料体積濃度(PVC)が10~40%である、<1>~<6>の何れかに記載の防食塗料組成物。
【0015】
<8> 前記エポキシ化合物(A)の含有量が、前記エポキシ樹脂(B)の含有量1質量部に対し、0.05~1.0質量部である、<1>~<7>の何れかに記載の防食塗料組成物。
【0016】
<9> <1>~<8>の何れかに記載の防食塗料組成物より形成された防食塗膜。
<10> <9>に記載の防食塗膜と基材とを含む防食塗膜付き基材。
【0017】
<11> 下記工程[1]および[2]を含む、防食塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、<1>~<8>の何れかに記載の防食塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された防食塗料組成物を乾燥させて防食塗膜を形成する工程
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐溶剤性および防食性に優れる防食塗膜を形成することができる防食塗料組成物、特に、低VOCの防食塗料組成物でありながら、極めて高い耐溶剤性を有する防食塗膜を形成することができる防食塗料組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、低VOCで乾燥性および塗装作業性、特にスプレー塗装作業性に優れる防食塗料組成物を得ることができ、各種の基材(例:各種タンク)に、前記優れた各種性能を有する防食塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例の防食性試験で用いた、切り込みを入れた試験板の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪防食塗料組成物≫
本発明の一実施形態に係る防食塗料組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、一分子中に4~6個のエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)、前記エポキシ化合物(A)以外のエポキシ樹脂(B)、シランカップリング剤(C)、顔料(D)、および、アミン系硬化剤(E)を含む。
【0021】
ここで、耐溶剤性に優れるとは、具体的には、メタノール、メチルエチルケトン、ジクロロエタン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の溶剤への耐性に優れることをいう。
これらの溶剤は、防食塗膜への影響が大きいため、これら溶剤に耐性を有する防食塗膜は、一般的な溶剤に対しても、耐性を有すると考えられる。なお、これらの溶剤は、前記特許文献2の実施例において耐溶剤性の評価に用いられたベンゼン、エタノールよりも防食塗膜への影響が大きい溶剤である。
【0022】
なお、基材の腐食を防止することが特に重要であるため、本組成物は、「防食塗料組成物」であるが、基材に防食性を付与するためだけに用いられる組成物に限定されるものではなく、基材に耐溶剤性などを付与するために用いられる組成物、および、基材と基材とを、または、基材と上塗り塗膜とを接着する接着剤も、本組成物の一態様に含まれる。
【0023】
本組成物は、低VOCの防食塗料組成物であることが好ましい。ここで、「低VOC」とは、本組成物中に溶剤などのVOCを全く含まないか、または、ほとんど含まず、具体的には、塗装に適した粘度に調整した際の本組成物中のVOC含有量が200g/L以下であることを意味する。
なお、本組成物中のVOC含有量は、好ましくは200g/L以下、より好ましくは170g/L以下、さらに好ましくは155g/L以下である。
【0024】
本組成物のVOC含有量は、下記塗料比重および質量NVの値を用い、下記式(1)から算出することができる。
VOC含有量(g/L)=塗料比重×1000×(100-質量NV)/100 ・・・(1)
【0025】
塗料比重(g/cm3):23℃の温度条件下で、本組成物(例:主剤成分と硬化剤成分とを混合した直後の組成物)を内容積100mLの比重カップに充満し、該組成物の質量を計量することで算出される値
【0026】
質量NV(質量%):本組成物(例:主剤成分と硬化剤成分とを混合した直後の組成物)1gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、23℃で24時間放置後、110℃で1時間乾燥させ、加熱残分(以下「不揮発分」ともいう。)および針金の質量を量ることで算出される質量百分率の値(本組成物中の加熱残分(質量NV)の含有率)
なお、前記不揮発分は、本組成物に用いる原料成分の不揮発分(溶媒以外の成分)の総量と同等の値である。
【0027】
本組成物は、1成分型の組成物であってもよいが、通常、エポキシ化合物(A)およびエポキシ樹脂(B)を含有する主剤成分と、アミン系硬化剤(E)を含有する硬化剤成分とからなる2成分型の組成物である。また、必要により、本組成物は、3成分型以上の組成物であってもよい。
これら主剤成分および硬化剤成分等は、通常、それぞれ別個の容器にて保存、貯蔵、運搬等され、使用直前に一緒に混合して用いられる。
【0028】
<エポキシ化合物(A)>
前記エポキシ化合物(A)は、一分子中に4~6個のエポキシ基を有する化合物であれば特に制限されないが、一分子中に4~5個のエポキシ基を有する化合物が好ましく、一分子中に4個のエポキシ基を有する化合物がより好ましい。
エポキシ化合物(A)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0029】
エポキシ化合物(A)の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、エリスリトールテトラグリシジルエーテル、キシリトールテトラグリシジルエーテル、キシリトールペンタグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールペンタグリシジルエーテル、ソルビトールヘキサグリシジルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラグリシジルエーテル、ジグリセリンテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテルが挙げられる。
【0030】
エポキシ化合物(A)のエポキシ当量は、低VOCで塗装作業性に優れる組成物を容易に得ることができ、耐溶剤性および防食性等に優れる防食塗膜を容易に形成することができる等の点から、好ましくは200以下、より好ましくは70~200、さらに好ましくは70~150、より好ましくは70~130、特に好ましくは70~110である。
なお、エポキシ当量は、JIS K 7236:2001に基づいて算出される。
【0031】
エポキシ化合物(A)のE型粘度計(TOKIMEC社製、FMD型)で測定した粘度(25℃)は、好ましくは1,500mPa・s未満であり、より好ましくは500mPa・s以下である。
【0032】
本組成物中のエポキシ化合物(A)の含有量は、耐溶剤性および防食性にバランスよく優れ、特に防食性に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%、さらに好ましくは3~7質量%である。
【0033】
本組成物中のエポキシ化合物(A)の含有量は、耐溶剤性および防食性等に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、エポキシ樹脂(B)の含有量1質量部に対し、好ましくは0.05~1.0質量部、より好ましくは0.08~0.8質量部、より好ましくは0.10~0.5質量部である。
【0034】
本組成物中のエポキシ化合物(A)の含有量は、基材との密着性、耐溶剤性および防食性等に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、シランカップリング剤(C)の含有量1質量部に対し、好ましくは0.1~1.0質量部、より好ましくは0.2~0.6質量部である。
【0035】
<エポキシ樹脂(B)>
前記エポキシ樹脂(B)は、前記エポキシ化合物(A)以外のエポキシ樹脂であれば特に制限されないが、例えば、2個以上のエポキシ基を含むポリマーまたはオリゴマー、および、そのエポキシ基の開環反応によって生成するポリマーまたはオリゴマーが挙げられる。
エポキシ樹脂(B)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0036】
エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量は、低VOCで塗装作業性に優れる組成物を容易に得ることができ、耐溶剤性および防食性等に優れる防食塗膜を容易に形成することができる等の点から、好ましくは200以下、より好ましくは100~200、さらに好ましくは100~190である。
なお、エポキシ当量は、JIS K 7236:2001に基づいて算出される。
エポキシ当量が200を超えるエポキシ樹脂は、分子量が過度に大きいため、このようなエポキシ樹脂を用いると、塗装適正粘度に調整するための溶剤が必要となる場合が多く、低VOCの防食塗料組成物を容易に得ることはできない傾向にある。
【0037】
エポキシ樹脂(B)としては、常温(25℃)で液状のエポキシ樹脂が好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂(B)は、耐溶剤性および防食性に優れる防食塗膜を容易に形成することができる等の点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましく、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0039】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0040】
エポキシ樹脂(B)は、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である「E-028」(大竹明新化学(株)製、エポキシ当量180~190、不揮発分100質量%)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂である「jER 807」(三菱化学(株)製、エポキシ当量160~175、不揮発分100質量%)、ノボラック型エポキシ樹脂である、「D.E.N. 425」(Olin Corporation製、エポキシ当量169~175、不揮発分100質量%)、「D.E.N. 431」(Olin Corporation製、エポキシ当量172~179、不揮発分100質量%)、「D.E.N. 438」(Olin Corporation製、エポキシ当量176~181、不揮発分100質量%)が挙げられる。
【0041】
エポキシ樹脂(B)のE型粘度計(TOKIMEC社製、FMD型)で測定した粘度(25℃)は、好ましくは1,500~120,000mPa・s、より好ましくは3,000~30,000mPa・s以下である。
【0042】
本組成物中のエポキシ樹脂(B)の含有量は、基材との密着性、耐溶剤性および防食性等に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~45質量%である。
【0043】
<シランカップリング剤(C)>
前記シランカップリング剤(C)を用いることで、低VOCで塗装作業性に優れる組成物を容易に得ることができ、得られる防食塗膜の基材への付着性をさらに向上させることができる。
シランカップリング剤(C)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0044】
シランカップリング剤(C)としては特に制限されず、従来公知の化合物を用いることができるが、同一分子内に少なくとも2つの官能基を有し、基材に対する付着性の向上、本組成物の粘度の低下等に寄与できる化合物であることが好ましい。例えば、下記式(2)で表される化合物であることがより好ましい。
X-SiMen3-n ・・・(2)
[nは0または1、Xは有機質との反応が可能な反応性基(例:アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン基、炭化水素基の一部がこれらの基で置換された基、または炭化水素基の一部がエーテル結合等で置換された基の一部がこれらの基で置換された基)を示し、Meはメチル基であり、Yは加水分解性基(例:メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基)を示す。]
【0045】
シランカップリング剤(C)としては、エポキシ基含有シランカップリング剤またはアミノ基含有シランカップリング剤が好ましく、エポキシ基含有シランカップリング剤がより好ましい。
エポキシ基含有シランカップリング剤を用いることは、基材への付着性、耐溶剤性および防食性にバランスよく優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から好ましく、アミノ基含有シランカップリング剤を用いることは、基材への付着性、防食性および耐熱性にバランスよく優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から好ましい。
【0046】
シランカップリング剤(C)として、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(例:信越化学工業(株)製の「KBM303」)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(例:信越化学工業(株)製の「KBM403」)、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(例:東レ・ダウコーニング(株)製の「AY43-026」)、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(例:信越化学工業(株)製の「KBE-402」)が挙げられる。
【0047】
本組成物中のシランカップリング剤(C)の含有量は、低VOCで塗装作業性に優れる組成物を容易に得ることができ、基材への付着性に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは5~20質量%、より好ましくは5~15質量%である。
【0048】
<顔料(D)>
前記顔料(D)は特に制限されないが、扁平状顔料、および、該扁平状顔料以外の顔料(例:体質顔料、着色顔料、防錆顔料)が挙げられ、有機系、無機系の何れであってもよい。
顔料(D)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0049】
本組成物は、防食性により優れ、内部応力緩和による基材との密着性に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、扁平状顔料を含有することが好ましい。
扁平状顔料は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0050】
扁平状顔料としては、より前記効果に優れる防食塗膜を形成することができる点から、メジアン径(D50)が好ましくは30~200μmであり、かつ、平均アスペクト比(メジアン径/平均厚さ)が、好ましくは10~150、より好ましくは20~100である、顔料が望ましい。
前記D50は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば、「SALD 2200」((株)島津製作所製)を用いて測定することができる。
前記平均厚さは、走査電子顕微鏡(SEM)、例えば、「XL-30」(フィリップス社製)を用い、扁平状顔料の主面に対して水平方向から観察し、数10~数100個の顔料粒子の厚さの平均値として算出できる。
【0051】
扁平状顔料としては、例えば、雲母(マイカ)、ガラスフレーク、アルミフレーク、鱗片状酸化鉄、ステンレスフレーク、プラスチックフレークが挙げられ、安価で入手容易性に優れ、より前記効果に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、雲母が好ましい。
前記雲母としては、例えば、「マイカパウダー 100メッシュ」((株)福岡タルク工業所製、D50:41μm、平均アスペクト比:35)が挙げられる。
【0052】
本組成物が扁平状顔料を含む場合、本組成物中の扁平状顔料の含有量は、前記効果により優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは1~40質量%、より好ましくは2~20質量%である。
【0053】
前記体質顔料としては、例えば、従来公知の、タルク、(沈降性)硫酸バリウム、(カリ)長石、カオリン、アルミナホワイト、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、ドロマイト、シリカが挙げられる。これらの中でも、特に、タルク、シリカ、(沈降性)硫酸バリウム、(カリ)長石が好ましい。
体質顔料は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0054】
このような体質顔料を本組成物に配合する場合、その配合量は、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは10~70質量%、より好ましくは10~50質量%である。
【0055】
前記着色顔料としては、例えば、従来公知の、カーボンブラック、二酸化チタン(チタン白)、酸化鉄(弁柄)、黄色酸化鉄、群青等の無機顔料、シアニンブルー、シアニングリーン等の有機顔料を用いることができる。これらの中でも、特に、チタン白、カーボンブラック、弁柄が好ましい。
着色顔料は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0056】
このような着色顔料を本組成物に配合する場合、その配合量は、本組成物の不揮発分100質量%に対して、好ましくは1~30質量%、より好ましくは1~10質量%である。
【0057】
本組成物中の顔料(D)の体積濃度(PVC)は、塗装作業性に優れる組成物を容易に得ることができ、応力緩和による基材との付着性、耐溶剤性および耐水性に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは10~40%、より好ましくは17~33%、特に好ましくは23~27%である。
PVCが前記範囲を下回ると、得られる防食塗膜の防食性の低下や応力緩和の効果が乏しくなる傾向にあり、また、前記範囲を超えると、得られる防食塗膜の耐水性が低下するとともに塗装作業性が低下する傾向にある。
前記PVCとは、本組成物中の不揮発分の体積に対する、顔料の合計の体積濃度のことをいう。PVCは、具体的には下記式(3)より求めることができる。
PVC[%]=本組成物中の全ての顔料の体積合計×100/本組成物中の不揮発分の体積 ・・・(3)
【0058】
前記本組成物中の不揮発分の体積は、本組成物の不揮発分の質量および真密度から算出することができる。前記不揮発分の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。
前記顔料の体積は、用いた顔料の質量および真密度から算出することができる。前記顔料の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。また、例えば、本組成物の不揮発分より顔料と他の成分とを分離し、分離された顔料の質量および真密度を測定することで算出することもできる。
【0059】
<アミン系硬化剤(E)>
前記アミン系硬化剤(E)としては特に制限されず、従来公知のアミン系硬化剤を用いることができ、具体的には、環状構造を有するアミン、脂肪族アミンが挙げられる。これらの中でも、耐溶剤性および防食性等に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、環状構造を有するアミンが好ましい。
アミン系硬化剤(E)は、低VOC型の化合物であることが好ましく、ポリアミンであることが好ましい。
アミン系硬化剤(E)は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0060】
前記環状構造を有するアミンとしては、例えば、脂環式、芳香族系、複素環系等のポリアミン;これらポリアミンの変性物;脂肪族ポリアミンとフェノール系化合物とを用いて得られたマンニッヒ化合物(例:フェナルカミン);脂肪族ポリアミンと芳香環構造を有するエポキシ化合物(例:ビスフェノールA型エポキシ化合物)とを用いて得られたアダクト;が挙げられる。
【0061】
前記脂環式ポリアミンとしては、具体的には、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン(特に、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン))、2,2'-ジメチル-4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4'-イソプロピリデンビス(シクロヘキシルアミン)、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン(MDA)、2,5-ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)シクロヘキシルアミン、4-(p-アミノベンジル)シクロヘキシルアミン、2,4’-ビス(4’’-アミノシクロヘキシル)-2’,4-メチレンジアニリン、4-[(4-アミノシクロヘキシル)メチル]-N-[4-[(4-アミノシクロヘキシル)メチル]シクロヘキシル]-シクロヘキシルアミン、2,4-ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリン、ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリンが挙げられる。
【0062】
前記芳香族系ポリアミンとしては、例えば、ビス(アミノアルキル)ベンゼン、ビス(アミノアルキル)ナフタレン、ベンゼン環に結合した2個以上の1級アミノ基を有する化合物が挙げられる。
この芳香族系ポリアミンとして、具体的には、例えば、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、p-キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルフェニルメタン、2,4'-ジアミノビフェニル、2,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ジアミノビフェニル、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレンが挙げられる。
【0063】
前記複素環系ポリアミンとしては、具体的には、例えば、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1,4-ジアザシクロヘプタン、1-(2'-アミノエチルピペラジン)、1-[2'-(2''-アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジン、1,11-ジアザシクロエイコサン、1,15-ジアザシクロオクタコサンが挙げられる。
【0064】
前記脂環式、芳香族系、複素環系等のポリアミンの変性物としては、例えば、該ポリアミンの、マンニッヒ変性物、エポキシアダクト、スチレン変性物または脂肪酸変性物が挙げられる。
【0065】
前記脂肪族アミンとしては、例えば、アルキレンポリアミン;ポリアルキレンポリアミン;アルキルアミノアルキルアミン;これらポリアミンの変性物(例:マンニッヒ変性物、エポキシアダクトまたは脂肪酸変性物)が挙げられる。
【0066】
前記アルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N-R1-NH2」(R1は、炭素数1~12の二価炭化水素基である。)で表される化合物が挙げられ、具体例としては、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、トリメチルヘキサメチレンジアミンが挙げられる。
【0067】
前記ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N-(Cm2mNH)nH」(mは1~10の整数である。nは2~10であり、好ましくは2~6の整数である。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、例えば、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ノナエチレンデカミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミンが挙げられる。
【0068】
前記アルキルアミノアルキルアミンとしては、例えば、式:「R2 2N-(CH2p-NH2」(R2は独立して、水素原子または炭素数1~8のアルキル基であり(但し、少なくとも1つのR2は炭素数1~8のアルキル基である。)、pは1~6の整数である。)で表される化合物が挙げられ、具体例としては、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノブチルアミンが挙げられる。
【0069】
これら以外の脂肪族ポリアミンとしては、例えば、テトラ(アミノメチル)メタン、テトラキス(2-アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3-ビス(2’-アミノエチルアミノ)プロパン、2,2’-[エチレンビス(イミノトリメチレンイミノ)]ビス(エタンアミン)、トリス(2-アミノエチル)アミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン(特に、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル)が挙げられる。
【0070】
これらのポリアミンの内、耐溶剤性などにより優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、脂環式ポリアミンおよびその変性物が好ましく、シクロヘキサン環を有するポリアミンがより好ましく、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、2,2'-ジメチル-4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリンまたはこれらの変性物を含むことがよりさらに好ましく、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリンまたはその変性物を含むことが特に好ましい。
【0071】
前記アミン系硬化剤(E)としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、脂環式ポリアミンである、「アンカミン2280」、「アンカミン2167」、「アンカミン2049」および「アンカミン2143」(以上、Air Products and Chemicals, Inc.製)、ポリオキシプロピレンジアミンである「Jeffamine D-230」(ハンツマン・ジャパン(株)製)、テトラエチレンペンタミンの脂肪酸変性物である「Ancamide 506」(Air Products and Chemicals, Inc.製)が挙げられる。
これらの中でも、特に、ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリンを主成分として含む、「アンカミン2280」、または4、4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)を主成分として含む、「アンカミン2167」を好適に用いることができる。
【0072】
本組成物中のアミン系硬化剤(E)の含有量は、耐溶剤性および防食性等に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~25質量%である。
【0073】
本組成物において、前記エポキシ化合物(A)およびエポキシ樹脂(B)(以下、これらを併せて「エポキシ成分」ともいう。)、ならびに、前記アミン系硬化剤(E)の合計含有量は、架橋密度が高く、耐溶剤性等に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは20~70質量%、より好ましくは30~65質量%である。
【0074】
本組成物中のアミン系硬化剤(E)の含有量は、乾燥性に優れる本組成物を容易に得ることができ、耐溶剤性および基材との付着性に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、下記式(4)で算出される反応比が、好ましくは0.5~1.3、より好ましくは0.6~1.0となる量である。
反応比=(アミン系硬化剤(E)の配合量/アミン系硬化剤(E)の活性水素当量+エポキシ成分に対して反応性を有する成分の配合量/エポキシ成分に対して反応性を有する成分の官能基当量)/(エポキシ成分の配合量/エポキシ成分のエポキシ当量+アミン系硬化剤(E)に対して反応性を有する成分の配合量/アミン系硬化剤(E)に対して反応性を有する成分の官能基当量) ・・・(4)
【0075】
ここで、前記式(4)における「アミン系硬化剤(E)に対して反応性を有する成分」としては、例えば、前記シランカップリング剤(C)等が挙げられ、また、「エポキシ成分に対して反応性を有する成分」としては、例えば、前記シランカップリング剤(C)等が挙げられる。
また、前記各成分の「官能基当量」とは、これらの成分1molの質量からその中に含まれる官能基のmol数を除して得られた1mol官能基あたりの質量(g)を意味する。
【0076】
<その他の成分>
本組成物には、前記(A)~(E)以外のその他の成分として、タレ止め剤(沈降防止剤)、繊維物質、界面活性剤(例:特開平2-298563号公報に記載の界面活性剤)、分散剤、レベリング剤、表面調整剤、有機溶剤などの各種の添加剤を適宜配合することができる。
これらその他の成分はそれぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0077】
[タレ止め剤(沈降防止剤)]
前記タレ止め剤(沈降防止剤)としては、Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの有機粘土系ワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス、水添ヒマシ油ワックスおよびアマイドワックスの混合物、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス等、従来公知のタレ止め剤を使用できる。これらの中でも、アマイドワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックスおよび有機粘土系ワックスが好ましい。
【0078】
このようなタレ止め剤(沈降防止剤)としては、楠本化成(株)製の「ディスパロン305」、「ディスパロン 4200-20」、「ディスパロン 6650」;伊藤製油(株)製の「ASAT-250F」;共栄社化学(株)製の「フローノンRCM-300」;Elementis Specialties, Inc.社製の「ベントンSD-2」等の商品が挙げられる。
【0079】
本組成物にタレ止め剤(沈降防止剤)を配合する場合は、主剤成分中に、例えば0.1~10質量%の量で配合すればよい。
【0080】
[有機溶剤]
前記有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、イソプロパノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤、ミネラルスピリット、n-ヘキサン、n-オクタン、2,2,2-トリメチルペンタン、イソオクタン、n-ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0081】
<本組成物の製造方法>
本組成物は、該組成物に配合する各原料を混合し混練することによって製造することができ、本組成物が前記2成分型の組成物である場合、予めそれぞれ個別に調製しておいた主剤成分と硬化剤成分とを、使用時に混合し混練することによって製造することが好ましい。
【0082】
前記主剤成分は、該主剤成分の原料を、撹拌、混練することにより調製することができる。その際には、例えば、SGミルまたはハイスピードディスパーを使用し、ミルベースの温度を55~60℃として30分程度保持しつつ、配合成分をできるだけ均一に分散させることが好ましい。
一方、前記硬化剤成分は、用いる原料にもよるが、2つ以上の原料を用いる場合、各原料を混合し、攪拌機で均一に分散すればよい。
【0083】
<本組成物の用途>
本組成物によれば、耐溶剤性および防食性等の各種の性能を有する防食塗膜(層)を形成することができ、本組成物は、特に、低VOCの防食塗料組成物でありながら、極めて高い耐溶剤性を有する防食塗膜(層)を形成することができる。該防食には、隙間腐食、異種金属接触腐食、応力腐食等も含まれる。
【0084】
本組成物は、これらの優れた性能の防食塗膜を形成できることから様々な用途に用いることができるが、化学物質を陸上輸送または海上輸送等で輸送するための貨物タンク(例:プロダクトキャリアやケミカルタンカー)や、同様に化学品を貯蔵するための陸上タンクの内面、化学物質に接するパイプライン等の内面、WBT(Water Ballast Tank)、COT(Crude Oil Tank)、FWT(Fresh Water Tank)、DWT(Drinking Water Tank)等のタンクの内面、船舶等の内外面に用いることが好ましく、また、この用途以外にも、海水淡水化装置、海洋構造物等のメンテナンスが困難な箇所、ダムや水門のゲート周り、海水・河川水や工業用水を冷却水として使用するプラントなどの配管、使用済み核燃料貯蔵用プール等への使用に適している。
【0085】
また、本組成物は、腐食を生じた防食塗膜付き基材の表面を補修塗装するために使用することもできる。すなわち、ステンレスなどの基材の溶接部や隙間がある箇所に本組成物を塗布して、基材の局部腐食を防止するとともに、さらにその防食塗膜表面にステンレス板を接着させるための接着剤としても作用することにより、局部腐食を長期間安定して抑制できる。
このように、基材を補修する際には、例えば、溶接部(溶接線)や隙間がある基材表面に本組成物を塗布し、未硬化の防食塗膜表面に別の基材を接着させる等の方法で行えばよく、さらに、該別の基材上に本組成物を塗布してもよい。
【0086】
≪防食塗膜、防食塗膜付き基材、防食塗膜付き基材の製造方法≫
本発明の一実施形態に係る防食塗膜(以下、「本塗膜」ともいう。)は、前記本組成物を用いて形成され、本組成物の一実施形態に係る防食塗膜付き基材は、本塗膜と被塗物(基材)とを含む積層体である。
前記基材の材質としては特に制限されず、鉄鋼(例:鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、マイルドスチール、合金鋼、ステンレス)、非鉄金属(例:亜鉛、アルミニウム)などが挙げられ、基材の表面がショッププライマー等で被覆されていてもよい。
また、前記基材として、例えば、マイルドスチール(例:SS400)を用いる場合、必要により、グリットブラスト等で表面を研磨するなど、素地調整(例:算術平均粗さ(Ra)が30~75μm程度になるよう調整)しておくことが望ましい。
【0087】
本塗膜の乾燥膜厚は特に限定されないが、十分な防食性等を有する防食塗膜を得る等の点から、通常50~500μm、好ましくは200~400μmである。
【0088】
本塗膜の形成方法としては、1回の塗装で所望の膜厚を形成(1回塗り)してもよいし、2回以上の塗装(2回以上塗り)で所望の膜厚の防食塗膜を形成してもよい。膜厚管理の観点、および、防食塗膜中の残留有機溶剤を考慮すると、2回以上の塗装で所望の乾燥膜厚となるように防食塗膜を形成することが好ましい。
【0089】
本発明の一実施形態に係る防食塗膜付き基材の製造方法(以下「本方法」ともいう。)は、下記工程[1]および[2]を含む。
工程[1]:本組成物を基材に塗装する工程
工程[2]:塗装された本組成物を乾燥させて防食塗膜を形成する工程
【0090】
<工程[1]>
前記工程[1]における塗装方法としては特に制限されず、例えば、エアレススプレー塗装、エアスプレー塗装、刷毛塗り、ローラー塗りなどの常法に従って、基材表面に塗装すればよいが、タンク等の大型構造物に塗装する場合には、大面積の基材を容易に塗装できる等の点から、スプレー塗装が好ましい。
なお、塗装作業の際には、本組成物をシンナー(有機溶剤)等で適宜希釈して用いてもよい。但し、このように希釈した場合であっても、本組成物中のVOC含有量は、200g/L以下であることが好ましい。
【0091】
前記スプレー塗装の条件は、形成したい乾燥膜厚に応じて適宜調整すればよいが、例えば、エアレススプレーの場合、1次(空気)圧:0.4~0.8MPa程度、2次(塗料)圧:15~36MPa程度、ガン移動速度50~120cm/秒程度が好ましい。
また、得られる防食塗膜の乾燥膜厚が前記範囲となるように塗装すればよい。
【0092】
スプレー塗装に適した本組成物の粘度は、E型粘度計(TOKIMEC社製、FMD型)を用いた、23℃の測定条件下での粘度が、好ましくは1,500~7,000mPa・s、より好ましくは1,500~4,000mPa・sである。
【0093】
<工程[2]>
前記工程[2]における乾燥条件としては特に制限されず、防食塗膜の形成方法、基材の種類、用途、塗装環境等に応じて、適宜設定すればよいが、例えば、5~35℃で、12~250時間乾燥する条件が挙げられる。また、所望により加熱、送風により強制乾燥し、硬化させてもよいが、通常は自然条件下で乾燥、硬化させる。
【0094】
なお、前記2回以上塗り、特に2回塗りで防食塗膜を形成する場合、工程[1]および[2]を行なった後、得られた塗膜上に、工程[1]および[2]の一連の工程を繰り返すことで防食塗膜を形成する。また、3回塗りで防食塗膜を形成する場合、2回塗りした塗膜に対し、さらに一連の工程を繰り返すことで防食塗膜を形成する。
【実施例0095】
以下、実施例に基づいて本発明の好適な態様をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0096】
[実施例1]
容器に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂「E-028」(注1)31質量部と、4官能エポキシ化合物「ショウフリー PETG」(注2)3質量部と、ベンジルアルコール2質量部と、カリ長石「Unispar PG-K10」(注9)23質量部と、タルク「Talc FC-1」(注6)14.5質量部と、チタン白「TITANE R-5N」(注7)7質量部と、硫酸バリウム「バリコ#300W」(注5)3.5質量部と、雲母「マイカパウダー100メッシュ」(注8)3質量部と、シランカップリング剤「KBM403」(注4)12質量部と、タレ止め剤「ディスパロン 6650」(注10)1質量部とを入れ、ハイスピードディスパーを用いて室温(23℃)で均一になるまで撹拌し、その後56~60℃で30分程度分散させた。その後、30℃以下まで冷却することで、主剤成分を調製した。
また、硬化剤成分として、脂環式アミン「アンカミン2280」(注11)25質量部を用いた。
これらの主剤成分と硬化剤成分とを、塗装前に混合することで防食塗料組成物を調製した。
【0097】
[実施例2~7および比較例1~2]
実施例1の主剤成分および硬化剤成分の原料の種類および配合量を、下記表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして各防食塗料組成物を調製した。表1中の主剤成分および硬化剤成分の各原料の欄の数値は、それぞれ質量部を示す。
表1に記載の各原料の説明を表2に示す。
【0098】
[試験板の作製]
寸法が150mm×70mm×2.3mm(厚)のSS400のサンドブラスト鋼板(算術平均粗さ(Ra):30~75μm)を用意した。この鋼板の表面に、エアレススプレーを用いて、前述のようにして調製した各防食塗料組成物をそれぞれ乾燥膜厚が300μmになるよう塗装した。その後、23℃で10日間乾燥させることで、防食塗膜付き鋼板(試験板)を作製した。得られた各試験板を、後述の各試験に供した。結果を表1に示す。
なお、得られた試験板における防食塗膜の鉛筆硬度は、いずれも「H」以上であった。本発明において、鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4に基づいて測定した。
【0099】
<防食性試験>
JIS K 5600-6-1(耐液体性の試験方法)に準拠して、得られた防食塗膜の防食性を試験した。
得られた各試験板の図1に示す位置に、防食塗膜側から鋼板に達する切り込み2を入れた。切り込み2を入れた試験板1を、切り込み2側が下になるように(図1に示す向きで)、3%塩水に40℃で90日間浸漬した。浸漬後、前記切り込み2を5mm間隔で等分するように、該切り込み2の左端から順に上方にカット3を11箇所入れ、各カット3の間の10箇所の測定部4において、鋼板と防食塗膜との剥離長さ(切り込み2からの長さ)を測定した。測定した剥離長さの10点の平均値を以下の基準で評価した。
(評価基準)
5:剥離長さが5mm未満
4:剥離長さが5mm以上10mm未満
3:剥離長さが10mm以上15mm未満
2:剥離長さが15mm以上
【0100】
<耐溶剤性試験>
JIS K 5600-6-1(耐液体性の試験方法)に準拠して、得られた防食塗膜の耐溶剤性を試験した。
得られた各試験板を、メタノール、メチルエチルケトン(MEK)、ジクロロエタンまたはプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)に常温で180日間浸漬した。浸漬後の試験板を以下の基準で評価した。
(評価基準)
5:鋼板に錆の発生がなく、防食塗膜にフクレの発生がなく、防食塗膜の鉛筆硬度がHB以上であった。
4:鋼板に錆の発生がなく、防食塗膜にフクレの発生がなく、防食塗膜の鉛筆硬度がB~4Bであった。
3:鋼板に錆の発生がなく、防食塗膜にフクレの発生がなく、防食塗膜の鉛筆硬度が5B以下であった。
2:鋼板に僅かな錆が発生しており、防食塗膜にフクレが発生していた。
1:鋼板に錆が発生しており、防食塗膜にフクレが発生していた。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【符号の説明】
【0103】
1:試験板
2:切り込み
3:カット
4:測定部
図1